(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】カットフィルムの製造方法及びカットフィルム
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20230725BHJP
B23K 26/40 20140101ALI20230725BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B23K26/38 Z
B23K26/40
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2020538313
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2019031464
(87)【国際公開番号】W WO2020039970
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018154161
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 聖
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-057403(JP,A)
【文献】特開2018-052082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B23K 26/40
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層を含むカット前フィルムを、波長400nm以上850nm以下のレーザー光で切断して、カットフィルムを得ることを含み、前記カット前フィルムは、前記レーザー光の波長における吸光度が0.10以下である、カットフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光が、YAGレーザー装置の第2高調波である、請求項1に記載のカットフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光が、パルス幅が1μs未満のパルス光である、請求項1又は2に記載のカットフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂層が、脂環式構造含有樹脂の層である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカットフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記カット前フィルムの厚みが、200μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のカットフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記カット前フィルムが、更に偏光子層を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のカットフィルムの製造方法。
【請求項7】
レーザー光で切断されたカットフィルムであって、
前記カットフィルムは樹脂層を含み、
前記レーザー光の波長が、400nm以上850nm以下であり、
前記カットフィルムは、前記レーザー光の波長における吸光度が0.10以下である、カットフィルム。
【請求項8】
更に偏光子層を含む、請求項7に記載のカットフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カットフィルムの製造方法、カットフィルム、及びカットフィルム用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂層を含むフィルム(以下、樹脂フィルムともいう。)は、画像表示装置などに備えられる光学フィルムなどとして用いられている。近年、樹脂フィルムを、例えば最終製品の形態に応じて精密に加工する必要が高まっている。樹脂フィルムの加工方法として、ナイフ等による機械的な切断と比較して精密な加工が可能であることから、レーザー光による加工方法が用いられている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-052082号公報
【文献】特開2006-108165号公報
【文献】特開2016-057403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂フィルムをレーザー光によって切断すると、通常はその切断面の周囲に、レーザー処理影響部が形成される。ここで、レーザー処理影響部とは、レーザー光によって切断された樹脂フィルムに含まれる樹脂層が切断時に発生した熱によって変形した部分をいい、前記の樹脂層の変形には、樹脂層の厚みが大きくなること、及び、樹脂層の厚みが小さくなることの両方が含まれる。また、切断には、穿孔も含まれる。このようなレーザー処理影響部の幅が大きいと、樹脂フィルムの端部の盛り上がり、寸法の変化、及び、シワの発生の原因となりうる。そのため、レーザー光を用いたフィルムの切断方法として、レーザー処理影響部の幅を小さくしながらフィルムを切断できる方法の開発が求められている。
【0005】
すなわち、樹脂層を含むカット前フィルムを、レーザー光で切断して、レーザー処理影響部の幅の小さいカットフィルムを製造する方法;レーザー処理影響部の幅の小さいカットフィルム;及び、レーザー処理影響部の幅の小さいカットフィルムを得るための、カットフィルム用フィルムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、所定の波長範囲のレーザー光を用い、所定の範囲の吸光度を有するフィルムを切断することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1] 樹脂層を含むカット前フィルムを、波長400nm以上850nm以下のレーザー光で切断して、カットフィルムを得ることを含み、前記カット前フィルムは、前記レーザー光の波長における吸光度が0.10以下である、カットフィルムの製造方法。
[2] 前記レーザー光が、YAGレーザー装置の第2高調波である、[1]に記載のカットフィルムの製造方法。
[3] 前記レーザー光が、パルス幅が1μs未満のパルス光である、[1]又は[2]に記載のカットフィルムの製造方法。
[4] 前記樹脂層が、脂環式構造含有樹脂の層である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のカットフィルムの製造方法。
[5] 前記カット前フィルムの厚みが、200μm以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のカットフィルムの製造方法。
[6] 前記カット前フィルムが、更に偏光子層を含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載のカットフィルムの製造方法。
[7] レーザー光で切断されたカットフィルムであって、
前記カットフィルムは樹脂層を含み、
前記レーザー光の波長が、400nm以上850nm以下であり、
前記カットフィルムは、前記レーザー光の波長における吸光度が0.10以下である、カットフィルム。
[8] 更に偏光子層を含む、[7]に記載のカットフィルム。
[9] 波長400nm以上850nm以下のレーザー光で切断してカットフィルムを得るための、カットフィルム用フィルムであって、
前記カットフィルム用フィルムは、樹脂層を含み、
前記カットフィルム用フィルムは、前記レーザー光の波長における吸光度が0.10以下である、カットフィルム用フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂層を含むカット前フィルムを、レーザー光で切断して、レーザー処理影響部の幅の小さいカットフィルムを製造する方法;レーザー処理影響部の幅の小さいカットフィルム;及び、レーザー処理影響部の幅の小さいカットフィルムを得るための、カットフィルム用フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、樹脂層を含むカット前フィルムから製造されたカットフィルムを模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、樹脂層及び偏光子層を含むカット前フィルムから製造されたカットフィルムを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0011】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0012】
下記においては、カット前フィルムを水平に載置し、これに対し垂直方向からレーザー光を照射する例を参照して説明を行う。したがって、別に断らない限り「水平方向」とは、カット前フィルムの面に平行な方向を意味する。
【0013】
[1.カットフィルムの製造方法の概要]
本実施形態のカットフィルムの製造方法は、樹脂層を含むカット前フィルムを、波長400nm以上850nm以下のレーザー光で切断して、カットフィルムを得ることを含む。本実施形態のカットフィルムの製造方法によれば、カットフィルムにおけるレーザー処理影響部の幅を小さくすることができる。
【0014】
[1.1.切断に用いるレーザー光]
切断に用いるレーザー光の波長は、通常400nm以上850nm以下である。レーザー光の波長は、好ましくは450nm以上、より好ましくは500nm以上であり、好ましくは800nm以下、より好ましくは600nm以下である。
レーザー光の波長が、前記範囲に収まることにより、カット前フィルムの吸光度が低い場合であっても、カットフィルムにおけるレーザー処理影響部の幅を小さくしうる。
レーザー光の波長は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)レーザー装置の第2高調波が有する波長であることが特に好ましい。YAGレーザー装置の第2高調波は、通常、532nm前後であり、好ましくは532nmである。
【0015】
また、前記レーザー光の波長範囲は、可視光領域にあるため、切断加工の際、レーザー光の軌跡を装置操作者が認識できる。そのため、切断加工を正確に行いうる。
【0016】
更に、レーザー装置から出射されるレーザー光を遮断するために、レーザー装置にカバーを取り付けることがある。また、切断対象ではない物体をレーザー光から保護すべく、カバーを取り付けることがある。その際のカバーとして、可視光領域の光を吸収する、汎用される有色の素材を用いることができるので、安価にカットフィルムを製造しうる。
【0017】
レーザー光は、好ましくはパルス幅が1μs未満のパルス光である。かかるパルス光は、高いピーク出力を有しているので、連続波レーザー光及び1μs以上のパルス幅を有するレーザー光と比較して、アブレーション現象が生じやすく、相対的に切断面における熱の影響を少なくしうる。その結果、カットフィルムにおけるレーザー処理影響部の幅を効果的に小さくしうる。
レーザー光のパルス幅は、より好ましくは100ns以下、更に好ましくは50ns以下であり、特に好ましくは1ns以下であり、通常0sより大きい。
【0018】
レーザー光の平均出力(強度)は、好ましくは0.01W以上、より好ましくは0.1W以上、更に好ましくは1W以上であり、好ましくは1kW以下、より好ましくは100W以下、更に好ましくは50W以下である。レーザー光の平均出力(強度)を前記範囲の下限値以上にすることにより、カット前フィルムを速やかに切断できる。また、上限値以下にすることにより、効果的にカットフィルムにおけるレーザー処理影響部の幅を小さくできる。
【0019】
[1.2.カット前フィルム]
カット前フィルムは、本実施形態の製造方法により切断される対象である。カット前フィルムは、樹脂層を含む。
【0020】
(カット前フィルム)
カット前フィルムは、カット前フィルムを切断するレーザー光の波長における吸光度が、0.10以下である。
従来、切断するレーザー光の波長における吸光度が低いフィルムを切断する場合は、レーザー光の強度を非常に大きくする必要があり、そのため切断面が熱による影響を強く受けるため、精度よくフィルムを切断することは困難であると考えられていた。
【0021】
本実施形態では、所定の波長範囲のレーザー光を用い、レーザー光の波長における吸光度が0.10以下であるカット前フィルムを切断することで、意外にも、カットフィルムにおけるレーザー処理影響部の幅を小さくしうる。
【0022】
カット前フィルムの、用いられるレーザー光の波長における吸光度は、好ましくは0.08以下、より好ましくは0.06以下であり、通常0以上であり、0より大きくてもよく、0.01以上であってもよい。カット前フィルムの吸光度が、前記範囲に収まることにより、効果的にカットフィルムにおけるレーザー処理影響部の幅を小さくしうる。
【0023】
カット前フィルムの吸光度は、カット前フィルムの一方の面から他方の面へ透過する光の吸収を示したものである。
レーザー光の波長における吸光度は、従前公知の方法で測定することができ、例えば紫外可視分光光度計(例、島津製作所製「UV-1800」)により測定しうる。
【0024】
カット前フィルムは、長尺のフィルムであってもよいし、枚葉のフィルムであってもよく、好ましくは長尺のフィルムである。
また、カット前フィルムは、1層のみを備える単層構造のフィルムであってもよく、2以上の層を備える複層構造のフィルムであってもよい。
【0025】
例えば、カット前フィルムは、任意の層として、樹脂層に更に偏光子層を含むフィルムであってもよい。
偏光子層としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の適切なビニルアルコール系重合体のフィルムに、ヨウ素及び二色性染料等の二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適切な処理を適切な順序及び方式で施したフィルムが挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール樹脂フィルムからなる偏光子層が好ましい。このような偏光子層は、自然光を入射させると直線偏光を透過させうるものであり、特に、光透過率及び偏光度に優れるものが好ましい。偏光子層の厚さは、5μm~80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0026】
カット前フィルムは、偏光子層以外にも、接着剤層などの任意の層を備えていてもよい。
【0027】
カット前フィルムが複層構造である場合、最も外側に樹脂層が配置されていることが好ましい。また、レーザー光源側に樹脂層が向くようにカット前フィルムを設置して、レーザー光により切断することが好ましい。これにより、カットフィルムのレーザー処理影響部の幅を効果的に小さくすることができる。
【0028】
カット前フィルムの厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、特に好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。カット前フィルムの厚みを前記範囲の下限値以上にすることにより、カット前フィルム及びカットフィルムのハンドリングが容易になる。また、上限値以下にすることにより、レーザー光での切断が容易になる。
【0029】
(樹脂層)
樹脂層は、樹脂により形成された層である。樹脂は、通常重合体を含む。樹脂に含まれうる重合体は、1種単独であっても、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
樹脂層を形成する樹脂に含まれうる重合体としては、例えば、後述する脂環式構造含有重合体、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、及びポリカーボネートが挙げられる。樹脂層を形成する樹脂に含まれうる重合体は、好ましくは、厚み50μmのフィルムとした場合の、用いられるレーザー光の波長における吸光度が、好ましくは0.10以下、より好ましくは0.08以下、更に好ましくは0.06以下であり、通常0以上であり、0.01以上であってもよい。
【0030】
また樹脂は、重合体以外に、更に任意の成分を含みうる。任意の成分としては、顔料、染料等の着色剤;蛍光増白剤;分散剤;可塑剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;酸化防止剤;微粒子;界面活性剤等の添加剤が挙げられる。
また、本実施形態に係る製造方法の効果を阻害しない範囲において、樹脂層を形成する樹脂は、用いられるレーザー光を吸収しうる、光吸収剤を含んでいてもよい。
樹脂中に含まれうる光吸収剤の含有率は、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下、更に好ましくは10重量%以下であり、通常0重量%以上であり、0.01重量%以上であってもよい。
【0031】
樹脂層は、好ましくは脂環式構造含有樹脂により形成された層である。脂環式構造含有樹脂は、通常、脂環式構造含有重合体を含む。脂環式構造含有重合体とは、重合体の構造単位が脂環式構造を有する重合体である。
脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、通常、透明性、寸法安定性、位相差発現性、及び低温での延伸性等の特性に優れる。
【0032】
脂環式構造含有重合体は、主鎖に脂環式構造を有する重合体、側鎖に脂環式構造を有する重合体、主鎖及び側鎖に脂環式構造を有する重合体、並びに、これらの2以上の任意の比率の混合物としうる。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、主鎖に脂環式構造を有する重合体が好ましい。
【0033】
脂環式構造の例としては、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、及び不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造が挙げられる。中でも、機械強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0034】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲であると、脂環式構造含有樹脂の機械強度、耐熱性及び成形性が高度にバランスされる。
【0035】
脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を有する構造単位の割合は、カットフィルムの使用目的に応じて選択しうる。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは55重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、脂環式構造含有樹脂の透明性及び耐熱性が良好となる。
【0036】
脂環式構造含有重合体の中でも、シクロオレフィン重合体が好ましい。シクロオレフィン重合体とは、シクロオレフィン単量体を重合して得られる構造を有する重合体である。また、シクロオレフィン単量体は、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物である。重合性の炭素-炭素二重結合の例としては、開環重合等の重合が可能な炭素-炭素二重結合が挙げられる。また、シクロオレフィン単量体の環構造の例としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらを組み合わせた多環等が挙げられる。中でも、得られる重合体の誘電特性及び耐熱性等の特性を高度にバランスさせる観点から、多環のシクロオレフィン単量体が好ましい。
【0037】
前記のシクロオレフィン重合体の中でも好ましいものとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体は、成形性が良好なため、特に好適である。
【0038】
ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体との開環共重合体が挙げられる。更に、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。
【0039】
脂環式構造含有樹脂は、脂環式構造含有重合体に加えて、脂環式構造含有重合体以外の任意の重合体を含みうる。脂環式構造含有重合体以外の任意の重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
脂環式構造含有樹脂における脂環式構造含有重合体の割合は、理想的には100重量%であり、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。脂環式構造含有重合体の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、ヘイズの小さい脂環式構造含有樹脂を得ることができる。
【0041】
樹脂層は、好ましくは切断に用いられるレーザー光の波長における吸光度が、好ましくは0.10以下、より好ましくは0.08以下、更に好ましくは0.06以下であり、通常0以上、好ましくは0より大きく、0.01以上としてもよい。樹脂層の吸光度が、前記範囲に収まることにより、効果的にカットフィルムにおけるレーザー処理影響部の幅を小さくしうる。
【0042】
樹脂層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、特に好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。樹脂層の厚みを前記範囲の下限値以上にすることにより、カット前フィルム及びカットフィルムのハンドリングが容易になる。また、上限値以下にすることにより、レーザー光での切断が容易になる。
【0043】
[2.カットフィルム]
本実施形態の製造方法によれば、レーザー光で切断されたカットフィルムであって、前記カットフィルムは樹脂層を含み、前記レーザー光の波長が、400nm以上850nm以下であり、前記カットフィルムは、前記レーザー光の波長における吸光度が0.10以下である、カットフィルムが製造できる。
【0044】
本実施形態の製造方法により製造されたカットフィルムは、カット前フィルムを切断して得られるフィルムであるので、カットフィルムが含む樹脂層の例及び好ましい例、並びにカットフィルムの物性の好ましい範囲も、カット前フィルムが含む樹脂層の例及び好ましい例、並びにカット前フィルムの物性の好ましい範囲と同様である。また、カット前フィルムが、樹脂層に加えて接着層、偏光子層などの任意の層を含む場合、カットフィルムも樹脂層に加えてかかる任意の層を含む。
【0045】
本実施形態の製造方法により製造されたカットフィルムは、樹脂層におけるレーザー処理影響部の幅が小さい。カットフィルムの樹脂層における、レーザー処理影響部の幅は、好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは40μm以下であり、理想的には0μmであるが、1μm以上であってもよい。
【0046】
レーザー処理影響部の幅は、下記方法により測定しうる。
カットフィルムを、ミクロトームを用いて切断する。この際、ミクロトームを用いた切断は、レーザー光がカット前フィルムの表面を走査した線に垂直な断面が得られるように行なう。その後、ミクロトームで切った断面を光学顕微鏡で観察することで、レーザー処理影響部の幅Lを測定しうる。
【0047】
カットフィルムにおけるレーザー処理影響部の幅Lについて図を用いて更に詳細に説明する。
図1は、樹脂層を含むカット前フィルムから製造されたカットフィルムを模式的に示す断面図である。
【0048】
カットフィルム100に含まれる樹脂層110には、切断時に発生した熱によって変形した部分として、レーザー処理影響部111が形成されている。通常、樹脂層110のレーザー処理影響部111は、樹脂層110の切断面112と、樹脂層110の切断面112に隣接する領域において樹脂層110の厚みが切断前よりも厚くなった部分113とを含む。樹脂層110において、この樹脂層110の厚みが切断前よりも厚くなった部分113は、レーザー処理影響部111以外の部分114よりも盛り上がった部分として観察されることが多い。
【0049】
レーザー処理影響部の幅Lとは、カットフィルム100中の樹脂層110における、レーザー処理により影響を受けた部分の水平方向の幅であって、切断箇所の中心Xに最も近い部分の位置から、切断箇所の中心Xから最も遠い、レーザー処理により影響を受けた部分の位置までの距離である。具体的には、レーザー処理影響部111の幅Lは、樹脂層110の切断面112の、切断箇所の中心Xに最も近い部分の位置から、樹脂層110の厚みDが切断前よりも厚くなった部分113の切断面112とは反対側の端までの長さである。
【0050】
図2は、樹脂層及び偏光子層を含むカット前フィルムから製造されたカットフィルムを模式的に示す断面図である。
樹脂層210及び偏光子層220を含むカットフィルム200においても、
図1に示すカットフィルム100と同様に、レーザー処理影響部211の幅Lを決定しうる。
具体的には、レーザー処理影響部211の幅Lは、カットフィルム200の切断面212の、切断箇所の中心Xに最も近い部分の位置から、カットフィルム200の厚みDが切断前よりも厚くなった部分213の切断面212とは反対側の端までの長さである。
【0051】
こうして得られたカットフィルムには、必要に応じて、任意の処理を施してもよい。このような任意の処理としては、例えば、延伸処理、表面処理、他のフィルムとの貼り合わせ処理等が挙げられる。
【0052】
前記のカットフィルムは、任意の用途に用いうる。例えば、カットフィルムを光学フィルムとして用いてもよい。また、カットフィルムは、それ単独で用いてもよく、他の任意の部材と組み合わせて用いてもよい。例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置等の表示装置に組み込んで用いてもよい。更に、カットフィルムは、偏光子の保護フィルムとして用いてもよい。
【0053】
[3.カットフィルム用フィルム]
前記のカット前フィルムは、波長400nm以上850nm以下のレーザー光で切断して、レーザー処理影響部の幅の小さなカットフィルムを得るために有用である。したがって、本発明により、波長400nm以上850nm以下のレーザー光で切断してカットフィルムを得るための、カットフィルム用フィルムが提供される。前記カットフィルム用フィルムは、樹脂層を含み、前記カットフィルム用フィルムを波長400nm以上850nm以下のレーザー光で切断してカットフィルムが得られ、前記カットフィルム用フィルムは、前記レーザー光の波長における吸光度が0.10以下である。
【0054】
カットフィルム用フィルムにおける、樹脂層の例及び好ましい例、並びにカットフィルム用フィルムの物性の好ましい範囲は、前記カット前フィルムにおける樹脂層の例及び好ましい例、カット前フィルムの物性の好ましい範囲と同様としうる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0056】
[評価方法]
(吸光度)
比較例2を除く、実施例及び比較例においては、下記の方法により吸光度を測定した。
カット前フィルムを20×20mmの大きさに切断した。紫外可視分光光度計(島津製作所製「UV-1800」)を用いてフィルムの厚み方向における吸光度を、波長200nm~800nmの範囲で測定した。その後、加工に用いるレーザー光の波長における吸光度を読み取った。
【0057】
比較例2においては、下記の方法により吸光度を測定した。
カット前フィルムを20×20mmの大きさに切断し、フーリエ変換赤外分光分析装置(Perkin Elmer社製「Spectrum Two(商標)」)を用いて厚み方向における吸光度を、波数800cm-1~2000cm-1の範囲で測定した。
その後、波数1065cm-1(波長9.4×103nm)での吸光度を読み取った。
【0058】
(レーザー処理影響部の幅の測定方法)
切断面を有する試料フィルムを、ミクロトームを用いて切断した。この際、ミクロトームを用いた切断は、レーザー光が走査した線に垂直な断面が得られるように行った。この断面を光学顕微鏡で観察し、レーザー処理影響部の幅Lを測定した。
【0059】
[実施例1]
(樹脂層を含むカット前フィルムを準備する工程)
ノルボルネン系重合体を含む脂環式構造含有樹脂(日本ゼオン社製「ゼオノア」)を用意した。この脂環式構造含有樹脂を、Tダイ式のフィルム溶融押出成形機を使用して、フィルム状に成形し、脂環式構造含有樹脂の層(L1)のみからなるカット前フィルムを得た。成形時の条件は、ダイリップ800μm、Tダイの幅300mm、溶融樹脂温度260℃、キャストロール温度115℃であった。カット前フィルムの厚み、すなわち樹脂層の厚みは、50μmであった。
カット前フィルムの吸光度を、前記の方法により測定した。
【0060】
(切断工程)
レーザー発振器として、第2高調波のレーザー光を照射しうる、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー装置(スペクトロニクス社製「LVE-G1000」)を用意した。このレーザー発振器から前記のカット前フィルムに、波長532nm、平均出力(強度)10W、パルス幅15nsのパルスレーザー光を照射した。この際、前記レーザー光は、カット前フィルムの表面を直線状に走査させるように照射した。カット前フィルムは、照射されたレーザー光が走査した部分で切断された。これにより、切断面を有するカットフィルムが得られた。
カットフィルムが含む樹脂層のレーザー処理影響部の幅Lを、前記の方法により測定した。
【0061】
[実施例2]
下記事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、カット前フィルムを切断した。
・レーザー発振器を、第2高調波のレーザー光を照射しうる、YAGレーザー装置(スペクトロニクス社製「LDH-1000」)へ変更した。
・レーザー光のパルス幅を50psへ変更した。
【0062】
[実施例3]
下記事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、カット前フィルムを切断した。
・カット前フィルム(樹脂層)として、厚み50μmである、トリアセチルセルロースフィルムを使用した。
【0063】
[実施例4]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして、カット前フィルムを切断した。
・実施例1のカット前フィルムを、下記工程により得られるカット前フィルムに変更した。
偏光子層(P1)を用意した。偏光子層(P1)は、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向しており、厚さが15μmであるフィルムである。偏光子層(P1)の一方の面に、実施例1で準備された、樹脂層としての脂環式構造含有樹脂の層(L1)を、接着剤を用いて貼り合わせた。接着剤としては、ポリビニルアルコール及び水溶性エポキシ樹脂を含む水溶液を使用した。これにより、脂環式構造含有樹脂の層(L1)、接着剤の層及び偏光子層(P1)をこの順に備える、カット前フィルムを得た。
【0064】
・カット前フィルムの脂環式構造含有樹脂の層(L1)が、レーザー光源側に向くようにしてレーザー装置に設置して、カット前フィルムを切断した。レーザー光の平均出力(強度)を、15Wに変更した。
【0065】
[比較例1]
下記事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、カット前フィルムを切断した。
・カット前フィルム(樹脂層)として、厚み50μmである、ポリイミドフィルムを使用した。
【0066】
[比較例2]
下記事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、カット前フィルムを切断した。
・レーザー発振器をCOHERENT社製「DIAMOND E-250i」へ変更した。
・レーザー光の波長を9400nm、平均出力(強度)を70W、パルス幅を100nsに変更した。
【0067】
[比較例3]
下記事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、カット前フィルムを切断した。
・レーザー発振器をCOHERENT社「AVIA 266-3」へ変更した。
・レーザー光の波長を266nm、平均出力(強度)を3Wに変更した。
【0068】
[比較例4]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして、カット前フィルムを切断した。
・実施例1のカット前フィルムを、下記工程により得られるカット前フィルムに変更した。
実施例4で用意した偏光子層(P1)の一方の面に、厚み50μmの樹脂層としてのポリイミドフィルムを、接着剤を用いて貼り合わせた。接着剤としては、ポリビニルアルコール及び水溶性エポキシ樹脂を含む水溶液を使用した。これにより、ポリイミドの層、接着剤の層及び偏光子層(P1)をこの順に備える、カット前フィルムを得た。
・カット前フィルムのポリイミドの層が、レーザー光源側に向くようにしてレーザー装置に設置して、カット前フィルムを切断した。レーザー光の平均出力(強度)を、15Wに変更した。
【0069】
実施例及び比較例の結果を下記表に示す。
表中の略語は、下記の意味を表す。
COP:脂環式構造含有樹脂の層
TAC:トリアセチルセルロースフィルム
COP/PVA:脂環式構造含有樹脂の層(L1)及び偏光子層(P1)を含む積層フィルム
PI:ポリイミドフィルム
PI/PVA:ポリイミドフィルム及び偏光子層(P1)を含む積層フィルム
また、表中のフィルム厚みの項は、フィルムが樹脂層及び偏光子層(P1)を含む積層フィルムである場合は、「樹脂層の厚み/偏光子層(P1)の厚み」として示した。
【0070】
【0071】
【0072】
以上の結果から、以下が分かる。
実施例1~4に係る製造方法では、得られたカットフィルムのレーザー処理影響部の幅Lが55μm以下であって小さい。
一方、レーザー光波長におけるカット前フィルムの吸光度が0.10より大きい比較例1、比較例3、及び比較例4に係る製造方法は、得られたカットフィルムのレーザー処理影響部の幅Lが大きい。
更に、用いるレーザー光の波長が、400nmに満たない比較例3、及び850nmを超える比較例2に係る製造方法では、得られたカットフィルムのレーザー処理部の幅Lが大きい。
【符号の説明】
【0073】
100 カットフィルム
110 樹脂層
111 レーザー処理影響部
112 切断面
113 部分
200 カットフィルム
210 樹脂層
211 レーザー処理影響部
212 切断面
213 部分
220 偏光子層
L レーザー処理影響部の幅
X 切断箇所の中心