(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】活物質複合体形成用組成物、活物質複合体、および活物質複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230725BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20230725BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20230725BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230725BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230725BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/02 Z
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/485
H01M4/50
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020553705
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2019039116
(87)【国際公開番号】W WO2020090343
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018206974
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】忰山 高大
(72)【発明者】
【氏名】畑中 辰也
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/053200(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/119287(WO,A1)
【文献】特開2015-156293(JP,A)
【文献】特開2007-311279(JP,A)
【文献】国際公開第2015/083262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/58
H01M 4/48
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/485
H01M 4/38
H01M 4/04
H01M 4/02
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質、導電性物質、分散剤、溶媒、ならびに架橋剤を含むことを特徴とする活物質複合体形成用組成物。
【請求項2】
上記活物質が、FeS
2、TiS
2、MoS
2、LiFePO
4、V
2O
6、V
6O
13、MnO
2、LiCoO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiMo
2O
4、LiV
3O
8、LiNiO
2、Li
zNi
yM
1-yO
2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦z≦1.10、0.5≦y≦1.0)、Li(Ni
aCo
bMn
c)O
2(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、Li
4Ti
5O
12、Si、SiO
x、AlO
x、SnO
x、SbO
x、BiO
x、GeO
x、AsO
x、PbO
x、ZnO
x、CdO
x、InO
x、TiO
xおよびGaO
x(ただし、0<x≦2)から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の活物質複合体形成用組成物。
【請求項3】
上記導電性物質が、導電性炭素である請求項1または2記載の活物質複合体形成用組成物。
【請求項4】
上記導電性炭素が、カーボンナノチューブである請求項3記載の活物質複合体形成用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の活物質複合体形成用組成物から得られる活物質複合体。
【請求項6】
金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質の粒子表面に、導電性物質、分散剤および架橋剤を含む熱硬化層を有する請求項5記載の活物質複合体。
【請求項7】
金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質、導電性物質、分散剤、ならびに架橋剤を含むことを特徴とする活物質複合体。
【請求項8】
上記活物質が、FeS
2、TiS
2、MoS
2、LiFePO
4、V
2O
6、V
6O
13、MnO
2、LiCoO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiMo
2O
4、LiV
3O
8、LiNiO
2、Li
zNi
yM
1-yO
2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦z≦1.10、0.5≦y≦1.0)、Li(Ni
aCo
bMn
c)O
2(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、Li
4Ti
5O
12、Si、SiO
x、AlO
x、SnO
x、SbO
x、BiO
x、GeO
x、AsO
x、PbO
x、ZnO
x、CdO
x、InO
x、TiO
xおよびGaO
x(ただし、0<x≦2)から選ばれる少なくとも1種である請求項7記載の活物質複合体。
【請求項9】
上記導電性物質が、導電性炭素である請求項7または8記載の活物質複合体。
【請求項10】
上記導電性炭素が、カーボンナノチューブである請求項9記載の活物質複合体。
【請求項11】
請求項5~10のいずれか1項記載の活物質複合体、導電助剤およびバインダーを含む電極形成用組成物。
【請求項12】
請求項11記載の電極形成用組成物からなる活物質層を有する電極。
【請求項13】
請求項12記載の電極を備える二次電池。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか1項記載の活物質複合体形成用組成物を製造する方法であって、活物質および溶媒を含む活物質分散液と、導電性物質、分散剤、架橋剤および溶媒を含む導電性物質分散液とをそれぞれ調製した後、これらを混合することを含む活物質複合体形成用組成物の製造方法。
【請求項15】
金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質、導電性物質、分散剤、溶媒、ならびに架橋剤を混合して活物質複合体形成用組成物を調製し、該組成物を炭化しない温度で熱処理することを含む活物質複合体の製造方法。
【請求項16】
120~220℃で熱処理することを含む請求項15記載の活物質複合体の製造方法。
【請求項17】
上記活物質複合体形成用組成物を調製した後、乾燥することを含む請求項15または16記載の活物質複合体の製造方法。
【請求項18】
上記乾燥を、スプレードライ法により行う請求項17記載の活物質複合体の製造方法。
【請求項19】
上記活物質が、FeS
2、TiS
2、MoS
2、LiFePO
4、V
2O
6、V
6O
13、MnO
2、LiCoO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiMo
2O
4、LiV
3O
8、LiNiO
2、Li
zNi
yM
1-yO
2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦z≦1.10、0.5≦y≦1.0)、Li(Ni
aCo
bMn
c)O
2(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、Li
4Ti
5O
12、Si、SiO
x、AlO
x、SnO
x、SbO
x、BiO
x、GeO
x、AsO
x、PbO
x、ZnO
x、CdO
x、InO
x、TiO
xおよびGaO
x(ただし、0<x≦2)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項15~18のいずれか1項記載の活物質複合体の製造方法。
【請求項20】
上記導電性物質が、導電性炭素である請求項15~19のいずれか1項記載の活物質複合体の製造方法。
【請求項21】
上記導電性炭素が、カーボンナノチューブである請求項20記載の活物質複合体の製造方法。
【請求項22】
上記活物質複合体形成用組成物を、活物質および溶媒を含む活物質分散液と、導電性物質、分散剤および架橋剤を含む導電性物質分散液とをそれぞれ調製した後、これらを混合することにより調製する請求項15~21のいずれか1項記載の活物質複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質複合体形成用組成物、該組成物から得られる活物質複合体、該活物質複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化および軽量化が進められ、その電源となる電池も小型化および軽量化が求められている。小型で軽量、かつ高容量の充放電可能な電池として、リチウムイオン電池等の非水電解質系の二次電池が実用化されており、小型ビデオカメラ、携帯電話、ノートパンコン等のポータブル電子機器や通信機器などに用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有し、他の電池に比べ容量や作動電圧が高い等の優れた長所を有している。しかし、そのエネルギー密度の高さから、使用状況によっては過熱する危険性や、発火などの事故につながるおそれがあり、高い安全性が求められている。特に、最近脚光を浴びているハイブリッド自動車では、より高いエネルギー密度と出力特性が求められるので、更に高い安全性が必要となる。
【0004】
一般的にリチウムイオン二次電池は、正極、負極および電解質で構成され、充電時には、正極活物質からリチウムイオンが電解質中に抜け出し、カーボン粒子等の負極活物質内に挿入される。放電時には、負極活物質からリチウムイオンが電解質中に抜け出し、正極活物質内に挿入されることで、外部回路に電流を取り出すことができる。このように、リチウムイオン二次電池の内部で、リチウムイオンが電解質を介して正極~負極間を行き来することで充放電が行われる。
【0005】
一方、ポータブル電子機器等の性能向上に伴い、より高容量の電池が求められており、負極活物質として、既存の炭素より単位重さ当たりの容量が遥かに高いSnやSi等が活発に研究されている。しかし、SiやSi合金を負極活物質として用いた場合、体積膨脹が大きくなり、サイクル特性が悪くなる問題がある。これを解決するために、黒鉛を混合するが、混合の際に黒鉛が不均一に分布した場合、サイクル特性(寿命)が低下することがある。
【0006】
また、近年、リチウムイオン二次電池の多用途化に伴い、更なるレート特性の向上が求められている。この二次電池は、特にプラグインハイブリッド自動車やハイブリッド自動車、電動工具等の高出力電源としての使用も検討されている。これらの高出力電源として用いられる電池には、充放電を高速で行えるようにすることが求められる。
【0007】
このような電池に使用される電極活物質、例えば、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する、リチウムリン酸塩化合物やリチウム含有金属酸化物を含む電極材料は、導電性が低いという問題がある。このため、大きな電流で充放電を行った場合に、抵抗過電圧や活性化過電圧が増大し、電池の電圧が低下し、十分な充放電容量が得られない場合がある。これに対し、電極材料の電子伝導性を高めるために、電極活物質の粒子表面を炭素源である有機化合物で覆い、その後、有機化合物を炭化することにより、電極活物質の表面に炭素質被膜を形成し、この炭素質被膜の炭素を電子伝導性物質として介在させた電極材料が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0008】
しかしながら、サイクル特性およびレート特性において更なる性能向上が求められており、また、上記炭化工程は、不活性ガス雰囲気下、500℃以上の高温で長時間の熱処理を必要とするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、リチウムイオン二次電池等の電極に使用でき、電池のサイクル特性およびレート特性を向上し得る活物質複合体を与える活物質複合体形成用組成物、該組成物から得られる活物質複合体、および該活物質複合体の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質、導電性物質、分散剤、溶媒、ならびに架橋剤を含む活物質複合体形成用組成物が、活物質の粒子表面に導電性物質等を含む熱硬化層を有し、良好な導電性と優れた耐久性とを有する活物質複合体を与えると共に、当該活物質複合体を使用して電池の電極を形成することにより、サイクル特性およびレート特性に優れる二次電池を与えることを見出した。また、上記活物質複合体形成用組成物を用いることにより、従来よりも低温での熱処理を実施することで上記熱硬化層を容易に形成でき、炭化工程を実施することなく上記活物質複合体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の活物質複合体形成用組成物、活物質複合体、および該活物質複合体の製造方法等を提供する。
1. 金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質、導電性物質、分散剤、溶媒、ならびに架橋剤を含むことを特徴とする活物質複合体形成用組成物。
2. 上記活物質が、FeS2、TiS2、MoS2、LiFePO4、V2O6、V6O13、MnO2、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiMo2O4、LiV3O8、LiNiO2、LizNiyM1-yO2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦z≦1.10、0.5≦y≦1.0)、Li(NiaCobMnc)O2(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、Li4Ti5O12、Si、SiOx、AlOx、SnOx、SbOx、BiOx、GeOx、AsOx、PbOx、ZnOx、CdOx、InOx、TiOxおよびGaOx(ただし、0<x≦2)から選ばれる少なくとも1種である1の活物質複合体形成用組成物。
3. 上記導電性物質が、導電性炭素である1または2の活物質複合体形成用組成物。
4. 上記導電性炭素が、カーボンナノチューブである3の活物質複合体形成用組成物。
5. 1~4のいずれかの活物質複合体形成用組成物から得られる活物質複合体。
6. 金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質の粒子表面に、導電性物質、分散剤および架橋剤を含む熱硬化層を有する5の活物質複合体。
7. 金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質、導電性物質、分散剤、ならびに架橋剤を含むことを特徴とする活物質複合体。
8. 上記活物質が、FeS2、TiS2、MoS2、LiFePO4、V2O6、V6O13、MnO2、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiMo2O4、LiV3O8、LiNiO2、LizNiyM1-yO2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦z≦1.10、0.5≦y≦1.0)、Li(NiaCobMnc)O2(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、Li4Ti5O12、Si、SiOx、AlOx、SnOx、SbOx、BiOx、GeOx、AsOx、PbOx、ZnOx、CdOx、InOx、TiOxおよびGaOx(ただし、0<x≦2)から選ばれる少なくとも1種である7の活物質複合体。
9. 上記導電性物質が、導電性炭素である7または8の活物質複合体。
10. 上記導電性炭素が、カーボンナノチューブである9の活物質複合体。
11. 5~10のいずれかの活物質複合体、導電助剤およびバインダーを含む電極形成用組成物。
12. 11の電極形成用組成物からなる活物質層を有する電極。
13. 12の電極を備える二次電池。
14. 1~4のいずれかの活物質複合体形成用組成物を製造する方法であって、活物質および溶媒を含む活物質分散液と、導電性物質、分散剤、架橋剤および溶媒を含む導電性物質分散液とをそれぞれ調製した後、これらを混合することを含む活物質複合体形成用組成物の製造方法。
15. 金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質、導電性物質、分散剤、溶媒、ならびに架橋剤を混合して活物質複合体形成用組成物を調製し、該組成物を炭化しない温度で熱処理することを含む活物質複合体の製造方法。
16. 120~220℃で熱処理することを含む15の活物質複合体の製造方法。
17. 上記活物質複合体形成用組成物を調製した後、乾燥することを含む15または16の活物質複合体の製造方法。
18. 上記乾燥を、スプレードライ法により行う17の活物質複合体の製造方法。
19. 上記活物質が、FeS2、TiS2、MoS2、LiFePO4、V2O6、V6O13、MnO2、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiMo2O4、LiV3O8、LiNiO2、LizNiyM1-yO2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦z≦1.10、0.5≦y≦1.0)、Li(NiaCobMnc)O2(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、Li4Ti5O12、Si、SiOx、AlOx、SnOx、SbOx、BiOx、GeOx、AsOx、PbOx、ZnOx、CdOx、InOx、TiOxおよびGaOx(ただし、0<x≦2)からなる群より選ばれる少なくとも1種である15~18のいずれかの活物質複合体の製造方法。
20. 上記導電性物質が、導電性炭素である15~19のいずれかの活物質複合体の製造方法。
21. 上記導電性炭素が、カーボンナノチューブである20の活物質複合体の製造方法。
22. 上記活物質複合体形成用組成物を、活物質および溶媒を含む活物質分散液と、導電性物質、分散剤および架橋剤を含む導電性物質分散液とをそれぞれ調製した後、これらを混合することにより調製する15~21のいずれかの活物質複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記活物質複合体形成用組成物を用いることにより、従来よりも低温での熱処理で、活物質の粒子表面が、導電性物質、分散剤および架橋剤を含む熱硬化層によって被覆された活物質複合体を得ることができる。そして、得られた活物質複合体を使用することにより、サイクル特性およびレート特性に優れる二次電池を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の活物質複合体形成用組成物は、金属、半金属、金属合金、金属酸化物、半金属酸化物、金属リン酸化物、金属硫化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種の活物質、導電性物質、分散剤、溶媒、ならびに架橋剤を含むものである。
【0015】
活物質としては、従来、エネルギー貯蔵デバイス用電極に用いられている各種活物質を用いることができ、具体例には、以下のものを挙げることができる。
金属の活物質としては、Al、SnおよびZn等が挙げられる。
半金属の活物質としては、Si、GeおよびAs等が挙げられる。
金属合金の活物質としては、Li-Al系合金、Li-Mg系合金、Li-Al-Ni系合金、Na-Hg系合金およびNa-Zn系合金等が挙げられる。
金属酸化物の活物質としては、AlOx、SnOx、SbOx、BiOx、PbOx、ZnOx、CdOx、InOx、TiOxおよびGaOx(ただし、0<x≦2)、V2O6、V6O13、MnO2、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiMo2O4、LiV3O8、LiNiO2、LizNiyM1-yO2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦z≦1.10、0.5≦y≦1.0)、三元系活物質(Li(NiaCobMnc)O2(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1))、スズケイ素酸化物(SnSiO3)、リチウム酸化ビスマス(Li3BiO4)、リチウム酸化亜鉛(Li2ZnO2)ならびにリチウム酸化チタン(Li4Ti5O12)等が挙げられる。
半金属酸化物の活物質としては、SiOx、GeOxおよびAsOx(ただし、0<x≦2)等が挙げられる。
金属リン酸化物の活物質としては、LiFePO4等が挙げられる。
金属硫化物の活物質としては、FeS2、TiS2、MoS2、Li2S、リチウム硫化鉄(LixFeS2(ただし、0<x≦3))およびリチウム硫化銅(LixCuS(ただし、0<x≦3))等が挙げられる。
金属窒化物の活物質としては、LixMyN(ただし、M=Co、Ni、Cu、0≦x≦3、0≦y≦0.5であり、xおよびyが同時に0になることはない)およびリチウム鉄窒化物(Li3FeN4)等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、これらの中でも、FeS2、TiS2、MoS2、LiFePO4、V2O6、V6O13、MnO2、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiMo2O4、LiV3O8、LiNiO2、LizNiyM1-yO2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦z≦1.10、0.5≦y≦1.0)、Li(NiaCobMnc)O2(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、Li4Ti5O12、Si、SiOx、AlOx、SnOx、SbOx、BiOx、GeOx、AsOx、PbOx、ZnOx、CdOx、InOx、TiOxおよびGaOx(ただし、0<x≦2)が好ましく、TiOx(ただし、0<x≦2)がより好ましい。
【0017】
さらに、Li(NiaCobMnc)O2については、1/3≦a<1、0<b≦1/3、0<c≦1/3、a+b+c=1を満たすものがより一層好ましい。
なお、上記のLi(NiaCobMnc)O2は、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、NCM111(Beijing Easping Material Technology製、a=1/3、b=1/3、c=1/3)、NCM523(Beijing Easping Material Technology製、a=0.5、b=0.2、c=0.3)、NCM622(Beijing Easping Material Technology製、a=0.6、b=0.2、c=0.2)、NCM811(Beijing Easping Material Technology製、a=0.8、b=0.1、c=0.1)等が挙げられる。
【0018】
活物質の平均粒径(一次粒子径)は、好ましくは10nm~15μm、より好ましくは20nm~8μmである。このように、平均一次粒子が小さい粒子にすることによって、活物質としての反応面積を増大させることが容易となる。上記平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定される値である。
【0019】
活物質の配合量は、要求される電気的、熱的特性、スラリーの粘度や製造コストなどにおいて変化するものであるが、組成物中0.1~80質量%とすることが好ましく、1~60質量%とすることがより好ましく、1~50質量%とすることがより一層好ましい。
【0020】
導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、天然黒鉛、人造黒鉛および炭素繊維等の導電性炭素、フッ化カーボン、およびポリフェニレン誘導体などが挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本発明では、上記導電性物質を活物質の粒子表面に被覆させる観点から、繊維状の炭素が好ましく、カーボンナノチューブがより好ましい。なお、本発明においては、シート状の炭素系導電性物質は除く。
【0021】
CNTは、一般的に、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、本発明に使用されるCNTはいずれの方法で得られたものでもよい。また、CNTには1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT(以下、SWCNTとも略記する)と、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT(以下、DWCNTとも略記する)と、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNT(以下、MWCNTとも略記する)とがあるが、本発明においては、SWCNT、DWCNT、MWCNTをそれぞれ単体で、または複数を組み合わせて使用できる。
なお、上記の方法でSWCNT、DWCNTまたはMWCNTを作製する際には、ニッケル、鉄、コバルト、イットリウム等の触媒金属が残存することがあるため、この不純物を除去するための精製を必要とする場合がある。不純物の除去には、硝酸や硫酸等による酸処理とともに超音波処理が有効である。しかし、硝酸や硫酸等による酸処理ではCNTを構成するπ共役系が破壊され、CNT本来の特性が損なわれてしまう可能性があるため、適切な条件で精製して使用することが望ましい。
【0022】
本発明で使用可能なCNTの具体例としては、スーパーグロース法CNT(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製)、eDIPS-CNT(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製)、SWNTシリーズ((株)名城ナノカーボン製:商品名)、VGCFシリーズ(昭和電工(株)製:商品名)、FloTubeシリーズ(CNano Technology社製:商品名)、AMC(宇部興産(株)製:商品名)、NANOCYL NC7000シリーズ(Nanocyl S.A.社製:商品名)、Baytubes(Bayer社製:商品名)、GRAPHISTRENGTH(アルケマ社製:商品名)、MWNT7(保土谷化学工業(株)製:商品名)、ハイペリオンCNT(Hypeprion Catalysis International社製:商品名)、TC-2010(戸田工業(株)製:商品名)等が挙げられる。
【0023】
導電性物質の配合量は、要求される電気的、熱的特性、スラリーの粘度や製造コストなどにおいて変化するものであり、また、CNTの場合は少なくともその一部が孤立分散する限りにおいて任意であるが、組成物中0.0001~50質量%とすることが好ましく、0.001~20質量%とすることがより好ましく、0.001~10質量%とすることがより一層好ましい。
【0024】
分散剤としては、公知の分散剤から適宜選択して用いることができ、本発明においては、界面活性剤、各種高分子材料等を使用することができる。分散剤を配合することにより、組成物の調製時における上記導電性物質等の分散能や分散安定化能等を向上させることができる。
【0025】
上記界面活性剤は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤に分けられるが、本発明ではいずれの界面活性剤も用いることができる。具体的には、以下のような界面活性剤が挙げられる。
【0026】
陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩および第四級アンモニウム塩、アルキルピリジウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。
両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤およびアミンオキサイド系界面活性剤等が挙げられる。
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキルジカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、多価硫酸エステル塩、アルキルナフタレン硫酸塩、アルキルベンゼン硫酸塩、アルキルナフタレン硫酸エステル塩、アルキルスルホンコハク酸塩、ナフテン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、アルファオレフィン硫酸塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキルエーテル硫酸塩、2次多価アルコールエトキシ硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリ硫酸塩、アルキルエーテル燐酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤およびカルボン酸系界面活性剤などが挙げられる。
これらの中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0027】
非イオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸ジエチル等の脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコール等のエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテルおよびポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤が挙げられる。上記において、アルキルとは炭素数1~20のアルキルであってよい。
これらの中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、非イオン性界面活性剤が好ましく、特に芳香族系非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0028】
一方、高分子材料としては、フッ素系アクリル酸重合体、シリコン系アクリル酸重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンのリノール誘導体、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリド脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、アルカノールアミド脂肪酸、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-アクリル系共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アルキルアミンオキシド、ホスファチジルコリン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、アクリル樹脂エマルジョン、水溶性アクリル系ポリマー、スチレンエマルジョン、シリコンエマルジョン、アクリルシリコンエマルジョン、フッ素樹脂エマルジョン、EVAエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、塩化ビニルエマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、およびキトサン等の糖類ポリマーなどが挙げられる。また、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロールおよびポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体も使用できる。本発明においては、トリアリールアミン系高分岐ポリマーや、国際公開第2015/029949号記載の側鎖にオキサゾリン基を有するビニル系ポリマーが好適である。
【0029】
上記トリアリールアミン系高分岐ポリマーとしては、具体的には、下記式(1)および(2)で示される、トリアリールアミン類とアルデヒド類および/またはケトン類とを酸性条件下で縮合重合することで得られる高分岐ポリマーを挙げることができる。
【0030】
【0031】
上記式(1)および(2)において、Ar1~Ar3は、それぞれ独立して、式(3)~(7)で表されるいずれかの二価の有機基を表すが、特に、式(3)で示される置換または非置換のフェニレン基が好ましい。
【0032】
【化2】
(式中、R
5~R
38は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基、またはそれらの塩を表す。)
【0033】
また、式(1)および(2)において、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または式(8)~(11)で表されるいずれかの一価の有機基を表す(ただし、Z1およびZ2が同時に上記アルキル基となることはない。)が、Z1およびZ2としては、それぞれ独立して、水素原子、2-または3-チエニル基、式(8)で示される基が好ましく、特に、Z1およびZ2のいずれか一方が水素原子で、他方が、水素原子、2-または3-チエニル基、式(8)で示される基、特にR41がフェニル基のもの、またはR41がメトキシ基のものがより好ましい。
なお、R41がフェニル基の場合、後述する酸性基導入法において、ポリマー製造後に酸性基を導入する手法を用いた場合、このフェニル基上に酸性基が導入される場合もある。
上記炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、上記で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0034】
【化3】
{式中、R
39~R
62は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、フェニル基、OR
63、COR
63、NR
63R
64、COOR
65(これらの式中、R
63およびR
64は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、またはフェニル基を表し、R
65は、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、またはフェニル基を表す。)、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基、またはそれらの塩を表す。}
【0035】
上記式(2)~(7)において、R1~R38は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基、またはカルボキシル基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基もしくはそれらの塩を表す。
【0036】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基等が挙げられる。
カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基の塩としては、ナトリウム,カリウム等のアルカリ金属塩;マグネシウム,カルシウム等の2族金属塩;アンモニウム塩;プロピルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等の脂肪族アミン塩;イミダゾリン、ピペラジン、モルホリン等の脂環式アミン塩;アニリン、ジフェニルアミン等の芳香族アミン塩;ピリジニウム塩などが挙げられる。
【0037】
上記式(8)~(11)において、R39~R62は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、フェニル基、OR63、COR63、NR63R64、COOR65(これらの式中、R63およびR64は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、またはフェニル基を表し、R65は、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、またはフェニル基を表す。)、またはカルボキシル基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基もしくはそれらの塩を表す。
【0038】
ここで、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基としては、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ブロモジフルオロメチル基、2-クロロエチル基、2-ブロモエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3-ブロモプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イル基、3-ブロモ-2-メチルプロピル基、4-ブロモブチル基、パーフルオロペンチル基等が挙げられる。
なお、ハロゲン原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、上記式(2)~(7)で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0039】
上記高分岐ポリマーの製造に用いられるアルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、カプロンアルデヒド、2-メチルブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、7-メトキシ-3,7-ジメチルオクチルアルデヒド、シクロヘキサンカルボキシアルデヒド、3-メチル-2-ブチルアルデヒド、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒド等の飽和脂肪族アルデヒド類;アクロレイン、メタクロレイン等の不飽和脂肪族アルデヒド類;フルフラール、ピリジンアルデヒド、チオフェンアルデヒド等のヘテロ環式アルデヒド類;ベンズアルデヒド、トリルアルデヒド、トリフルオロメチルベンズアルデヒド、フェニルベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、アセトキシベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド、アセチルベンズアルデヒド、ホルミル安息香酸、ホルミル安息香酸メチル、アミノベンズアルデヒド、N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド、N,N-ジフェニルアミノベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒド、アントリルアルデヒド、フェナントリルアルデヒド等の芳香族アルデヒド類、フェニルアセトアルデヒド、3-フェニルプロピオンアルデヒド等のアラルキルアルデヒド類などが挙げられるが、中でも、芳香族アルデヒド類を用いることが好ましい。
【0040】
また、上記高分岐ポリマーの製造に用いられるケトン化合物としては、アルキルアリールケトン、ジアリールケトン類であり、例えば、アセトフェノン、プロピオフェノン、ジフェニルケトン、フェニルナフチルケトン、ジナフチルケトン、フェニルトリルケトン、ジトリルケトン等が挙げられる。
【0041】
本発明に用いられる高分岐ポリマーは、下記スキーム1に示されるように、例えば、下記式(A)で示されるような、上述したトリアリールアミン骨格を与え得るトリアリールアミン化合物と、例えば下記式(B)で示されるようなアルデヒド化合物および/またはケトン化合物とを、酸触媒の存在下で縮合重合して得られる。
なお、アルデヒド化合物として、例えば、テレフタルアルデヒド等のフタルアルデヒド類のような、二官能化合物(C)を用いる場合、スキーム1で示される反応が生じるだけではなく、下記スキーム2で示される反応が生じ、2つの官能基が共に縮合反応に寄与した、架橋構造を有する高分岐ポリマーが得られる場合もある。
【0042】
【化4】
(式中、Ar
1~Ar
3、およびZ
1~Z
2は、上記と同じ意味を表す。)
【0043】
【化5】
(式中、Ar
1~Ar
3、およびR
1~R
4は、上記と同じ意味を表す。)
【0044】
上記縮合重合反応では、トリアリールアミン化合物のアリール基1当量に対して、アルデヒド化合物および/またはケトン化合物を0.1~10当量の割合で用いることができる。
上記酸触媒としては、例えば、硫酸、リン酸、過塩素酸などの鉱酸類;p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸一水和物などの有機スルホン酸類;ギ酸、シュウ酸などのカルボン酸類等を用いることができる。
酸触媒の使用量は、その種類によって種々選択されるが、通常、トリアリールアミン類100質量部に対して、0.001~10,000質量部、好ましくは、0.01~1,000質量部、より好ましくは0.1~100質量部である。
【0045】
上記の縮合反応は無溶媒でも行えるが、通常溶媒を用いて行われる。溶媒としては反応を阻害しないものであれば全て使用することができ、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド類;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類等が挙げられ、特に、環状エーテル類が好ましい。これらの溶媒は、それぞれ単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
また、使用する酸触媒が、例えば、ギ酸のような液状のものであるならば、酸触媒に溶媒としての役割を兼ねさせることもできる。
【0046】
縮合時の反応温度は、通常40~200℃である。反応時間は反応温度によって種々選択されるが、通常30分間から50時間程度である。
以上のようにして得られる重合体の重量平均分子量Mwは、通常1,000~2,000,000、好ましくは、2,000~1,000,000である。
【0047】
高分岐ポリマーに酸性基を導入する場合、ポリマー原料である、上記トリアリールアミン化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物の芳香環上に予め導入し、これを用いて高分岐ポリマーを製造する方法で導入しても、得られた高分岐ポリマーを、その芳香環上に酸性基を導入可能な試薬で処理する方法で導入してもよいが、製造の簡便さを考慮すると、後者の手法を用いることが好ましい。
後者の手法において、酸性基を芳香環上に導入する手法としては、特に制限はなく、酸性基の種類に応じて従来公知の各種方法から適宜選択すればよい。
例えば、スルホ基を導入する場合、過剰量の硫酸を用いてスルホン化する手法などを用いることができる。
【0048】
上記高分岐ポリマーの平均分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量が1,000~2,000,000が好ましく、2,000~1,000,000がより好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定値(ポリスチレン換算)である。
具体的な高分岐ポリマーとしては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
【0050】
一方、側鎖にオキサゾリン基を有するビニル系ポリマー(以下、オキサゾリンポリマーという)としては、下記式(12)に示されるような2位に重合性炭素-炭素二重結合含有基を有するオキサゾリンモノマーをラジカル重合して得られる、オキサゾリン環の2位でポリマー主鎖またはスペーサー基に結合した繰り返し単位を有するポリマーを挙げることができる。
【0051】
【0052】
上記Xは、重合性炭素-炭素二重結合含有基を表し、R100~R103は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素数6~20のアリール基、または炭素数7~20のアラルキル基を表す。
オキサゾリンモノマーが有する重合性炭素-炭素二重結合含有基としては、重合性炭素-炭素二重結合を含んでいれば特に限定されるものではないが、重合性炭素-炭素二重結合を含む鎖状炭化水素基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などの炭素数2~8のアルケニル基等が好ましい。
ハロゲン原子、炭素数1~5の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、上記と同様のものが挙げられる。
炭素数6~20のアリール基の具体例としては、フェニル基、キシリル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
炭素数7~20のアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0053】
式(12)で示される2位に重合性炭素-炭素二重結合含有基を有するオキサゾリンモノマーの具体例としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-エチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-プロピル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-ブチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-エチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-プロピル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-ブチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-エチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-プロピル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-ブチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-プロピル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-ブチル-2-オキサゾリン等が挙げられるが、入手容易性などの点から、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが好ましい。
【0054】
また、活物質複合体形成用組成物の調製において、後述する溶媒として水系溶媒を用いる場合は、上記オキサゾリンポリマーは水溶性であることが好ましい。
このような水溶性のオキサゾリンポリマーは、上記式(12)で表されるオキサゾリンモノマーのホモポリマーでもよいが、水への溶解性をより高めるため、上記オキサゾリンモノマーと親水性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとの少なくとも2種のモノマーをラジカル重合させて得られたものであることが好ましい。
【0055】
親水性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物、アクリル酸2-アミノエチルおよびその塩、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物、メタクリル酸2-アミノエチルおよびその塩、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウム、(メタ)アクリルニトリル、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物が好適である。
【0056】
また、オキサゾリンポリマーの導電性物質に対する分散能に悪影響を及ぼさない範囲で、上記オキサゾリンモノマーおよび親水性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマー以外のその他のモノマーを併用することができる。
その他のモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のα-オレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロオレフィン系モノマー;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル系モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマーなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
上記オキサゾリンポリマーの製造に用いられるモノマー成分において、オキサゾリンモノマーの含有率は、得られるオキサゾリンポリマーの導電性物質に対する分散能をより高めるという点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより一層好ましい。なお、モノマー成分におけるオキサゾリンモノマーの含有率の上限値は100質量%であり、この場合は、オキサゾリンモノマーのホモポリマーが得られる。
一方、得られるオキサゾリンポリマーの水溶性をより高めるという点から、モノマー成分における親水性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーの含有率は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより一層好ましい。
また、モノマー成分におけるその他の単量体の含有率は、上述のとおり、得られるオキサゾリンポリマーの導電性物質に対する分散能に影響を与えない範囲であり、また、その種類によって異なるため一概には決定できないが、5~95質量%、好ましくは10~90質量%の範囲で適宜設定すればよい。
【0058】
オキサゾリンポリマーの平均分子量は、特に限定されるものではないが、重量平均分子量が1,000~2,000,000が好ましく、2,000~1,000,000がより好ましい。
【0059】
本発明で使用可能なオキサゾリンポリマーは、上記モノマーを従来公知のラジカル重合にて合成することができるが、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、エポクロスWS-300((株)日本触媒製、固形分濃度10質量%、水溶液)、エポクロスWS-700((株)日本触媒製、固形分濃度25質量%、水溶液)、エポクロスWS-500((株)日本触媒製、固形分濃度39質量%、水/1-メトキシ-2-プロパノール溶液)、Poly(2-ethyl-2-oxazoline)(Aldrich)、Poly(2-ethyl-2-oxazoline)(AlfaAesar)、Poly(2-ethyl-2-oxazoline)(VWR International,LLC)等が挙げられる。
なお、溶液として市販されている場合、そのまま使用しても、目的とする溶媒に置換してから使用してもよい。
【0060】
本発明において、上記の各分散剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
分散剤の配合量は、導電性物質を溶媒に分散させ得る濃度であれば特に限定されるものではないが、組成物中0.001~30質量%とすることが好ましく、0.002~20質量%とすることがより好ましい。また、上記導電性物質と分散剤との混合比率は、質量比で1,000:1~1:100程度が好ましい。
【0062】
架橋剤としては、上記分散剤と架橋反応を起こす架橋剤や、自己架橋する架橋剤を使用することができる。また、これらの架橋剤は、使用する溶媒に溶解することが好ましい。
【0063】
上記分散剤と架橋反応を起こす架橋剤としては、例えば、以下のトリアリールアミン系高分岐ポリマーやオキサゾリンポリマーを挙げることができる。
【0064】
トリアリールアミン系高分岐ポリマーの架橋剤としては、例えば、メラミン系、置換尿素系、またはそれらのポリマー系架橋剤等が挙げられ、これら架橋剤は、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。なお、好ましくは、少なくとも2個の架橋形成置換基を有する架橋剤であり、CYMEL(登録商標)、メトキシメチル化グリコールウリル、ブトキシメチル化グリコールウリル、メチロール化グリコールウリル、メトキシメチル化メラミン、ブトキシメチル化メラミン、メチロール化メラミン、メトキシメチル化ベンゾグアナミン、ブトキシメチル化ベンゾグアナミン、メチロール化ベンゾグアナミン、メトキシメチル化尿素、ブトキシメチル化尿素、メチロール化尿素、メトキシメチル化チオ尿素、メトキシメチル化チオ尿素、メチロール化チオ尿素等の化合物、およびこれらの化合物の縮合体が例として挙げられる。
【0065】
オキサゾリンポリマーの架橋剤としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、チオール基、アミノ基、スルフィン酸基、エポキシ基等のオキサゾリン基との反応性を有する官能基を2個以上有する化合物であれば特に限定されるものではないが、カルボキシル基を2個以上有する化合物が好ましい。なお、薄膜形成時の加熱や、酸触媒の存在下で上記官能基が生じて架橋反応を起こす官能基、例えば、カルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩等を有する化合物も架橋剤として用いることができる。
【0066】
オキサゾリン基と架橋反応を起こす化合物の具体例としては、酸触媒の存在下で架橋反応性を発揮する、ポリアクリル酸やそのコポリマー等の合成高分子およびカルボキシメチルセルロースやアルギン酸といった天然高分子の金属塩、加熱により架橋反応性を発揮する、上記合成高分子および天然高分子のアンモニウム塩等が挙げられるが、特に、酸触媒の存在下や加熱条件下で架橋反応性を発揮するポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースリチウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム等が好ましい。
【0067】
このようなオキサゾリン基と架橋反応を起こす化合物は、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製、重合度2,700~7,500)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業(株)製)、アルギン酸ナトリウム(関東化学(株)製、鹿1級)、アロンA-30(ポリアクリル酸アンモニウム、東亞合成(株)製、固形分濃度32質量%、水溶液)、DN-800H(カルボキシメチルセルロースアンモニウム、ダイセルファインケム(株)製)アルギン酸アンモニウム((株)キミカ製)等が挙げられる。
【0068】
自己架橋する架橋剤としては、例えば、水酸基に対してアルデヒド基、エポキシ基、ビニル基、イソシアネート基、アルコキシ基、カルボキシル基に対してアルデヒド基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基に対してイソシアネート基、アルデヒド基等の、互いに反応する架橋性官能基を同一分子内に有している化合物や、同じ架橋性官能基同士で反応する水酸基(脱水縮合)、メルカプト基(ジスルフィド結合)、エステル基(クライゼン縮合)、シラノール基(脱水縮合)、ビニル基、アクリル基等を有している化合物などが挙げられる。
【0069】
自己架橋する架橋剤の具体例としては、酸触媒の存在下で架橋反応性を発揮する多官能アクリレート、テトラアルコキシシラン、ブロックイソシアネート基を有するモノマーおよび水酸基、カルボン酸、アミノ基の少なくとも1つを有するモノマーのブロックコポリマー等が挙げられる。
【0070】
このような自己架橋する架橋剤は、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、多官能アクリレートでは、A-9300(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、新中村化学工業(株)製)、A-GLY-9E(Ethoxylated glycerine triacrylate(EO9mol)、新中村化学工業(株)製)、A-TMMT(ペンタエリスリトールテトラアクリレート、新中村化学工業(株)製)、テトラアルコキシシランでは、テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製)、テトラエトキシシラン(東横化学(株)製)、ブロックイソシアネート基を有するポリマーでは、エラストロンシリーズE-37、H-3、H38、BAP、NEW BAP-15、C-52、F-29、W-11P、MF-9、MF-25K(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0071】
架橋剤の配合量は、目的とする活物質層の膜厚や、要求される機械的、電気的、熱的特性などにおいて変化するものであるが、架橋剤および分散剤の合計量に対して、好ましくは0.001~80質量%、より好ましくは0.01~50質量%、より一層好ましくは0.05~40質量%である。これら架橋剤は自己縮合による架橋反応を起こすこともあるが、分散剤と架橋反応を起こすものであり、分散剤中に架橋性置換基が存在する場合はそれらの架橋性置換基により架橋反応が促進される。
【0072】
本発明では、架橋反応を促進するための触媒として、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ピリジニウムp-トルエンスルホン酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、クエン酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、ナフタレンカルボン酸等の酸性化合物、および/または2,4,4,6-テトラブロモシクロヘキサジエノン、ベンゾイントシレート、2-ニトロベンジルトシレート、有機スルホン酸アルキルエステル等の熱酸発生剤を添加することができる。
【0073】
これら触媒の配合量は、触媒および分散剤の合計量に対して、好ましくは0.0001~20質量%、より好ましくは0.0005~10質量%、より一層好ましくは0.001~3質量%である。
【0074】
上記活物質複合体形成用組成物を調製する際に使用し得る溶媒(分散媒)としては、従来、CNT等の導電性物質を含む分散液の調製に用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、水;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール等のアルコール類;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類などの有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0075】
特に、導電性物質としてCNTを用いる場合、その孤立分散の割合を向上させ得るという点から、水、NMP、DMF、THF、メタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノンが好ましく、これらの溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
また、活物質複合体の製造において、後述するスプレードライ法を採用する場合は、溶媒を瞬時に揮発させる必要があるためメタノール、イソプロパノール等のアルコールまたは水が好ましく、製造時の安全性の観点からは水がより好ましい。
【0076】
また、上記活物質複合体形成用組成物は、必要に応じてマトリックス高分子を含んでいてもよい。
マトリックス高分子の具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔P(VDF-HFP)〕、フッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン共重合体〔P(VDF-CTFE)〕などのフッ素系樹脂、ポリビニルピロリドン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン-アクリル酸エチル共重合体)などのポリオレフィン系樹脂;PS(ポリスチレン)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、AS(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、MS(メタクリル酸メチル-スチレン共重合体)、スチレン-ブタジエンゴムなどのポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、PMMA(ポリメチルメタクリレート)などの(メタ)アクリル樹脂;PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、PLA(ポリ乳酸)、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートなどのポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニン等の熱可塑性樹脂や、ポリアニリンおよびその半酸化体であるエメラルジンベース;ポリチオフェン;ポリピロール;ポリフェニレンビニレン;ポリフェニレン;ポリアセチレン等の導電性高分子、更にはエポキシ樹脂;ウレタンアクリレート;フェノール樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などが挙げられるが、本発明の活物質複合体形成用組成物においては、溶媒として水を用いることが好適であることから、マトリックス高分子としても水溶性のもの、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、水溶性セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール等が好ましいが、特に、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が好適である。
【0077】
マトリックス高分子は、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、アロンA-10H(ポリアクリル酸、東亞合成(株)製、固形分濃度26質量%、水溶液)、アロンA-30(ポリアクリル酸アンモニウム、東亞合成(株)製、固形分濃度32質量%、水溶液)、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製、重合度2,700~7,500)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業(株)製)、アルギン酸ナトリウム(関東化学(株)製、鹿1級)、メトローズSHシリーズ(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)、メトローズSEシリーズ(ヒドロキシエチルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)、JC-25(完全ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、JM-17(中間ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、JP-03(部分ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、ポリスチレンスルホン酸(Aldrich社製、固形分濃度18質量%、水溶液)等が挙げられる。
【0078】
マトリックス高分子の配合量は、特に限定されるものではないが、組成物中0.0001~99質量%とすることが好ましく、0.001~90質量%とすることがより好ましい。
【0079】
上記活物質複合体形成用組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、上記各成分を所定の割合で混合すればよいが、本発明においては、活物質および溶媒を含む活物質分散液と、導電性物質、分散剤、架橋剤および溶媒を含む導電性物質分散液とそれぞれ調製した後、両分散液を混合することにより製造することが好ましい。これにより、分散した導電性物質が活物質の粒子表面を被覆した活物質複合体が得られる。なお、上記マトリックス高分子を用いる場合は、導電性物質分散液に配合すればよい。
このとき、活物質または導電性物質のどちらか一方を分散液としてではなく粉末状で混合する場合や、活物質と導電性物質を乾式混合する場合、この乾式混合物に分散媒を後から添加して分散液を調製する場合などでは、微粒子または導電性付与剤が分散せずに、微粒子凝集体に導電性付与剤が付着した構造を有する不均一な活物質複合体が得られたり、導電性付与剤凝集体と微粒子凝集体がそれぞれ局在化した構造を有する活物質複合体が得られたりする可能性がある。ゆえに本発明の活物質複合体を得るためには、活物質または導電性物質の分散液をそれぞれ調製し、その分散液を混合することが好ましい。
【0080】
上記活物質分散液の調製方法は、特に限定されるものではなく、上記活物質を所定の溶媒に投入して分散させればよい。また、必要に応じて、活物質を溶媒中に効率よく分散させるために後述する分散処理を行ってもよい。
【0081】
一方、上記導電性物質分散液の調製方法は、特に限定されるものではなく、CNT等の導電性物質、分散剤、架橋剤、必要に応じて溶媒(分散媒)およびマトリックス高分子を任意の順序で混合して調製すればよい。
この際、混合物を分散処理することが好ましく、この処理により、CNT等の導電性物質の分散割合をより向上させることができる。分散処理としては、機械的処理である、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いる湿式処理や、バス型やプローブ型のソニケータを用いる超音波処理が挙げられるが、特に、ジェットミルを用いた湿式処理や超音波処理が好適である。
分散処理の時間は任意であるが、1分間~10時間程度が好ましく、5分間~5時間程度がより好ましい。この際、必要に応じて加熱処理を施しても構わない。
なお、上記の架橋剤およびマトリックス高分子については、あらかじめ導電性物質、分散剤および溶媒を混合し、導電性物質を溶媒中に分散させて得られた混合物に後から加えてもよい。
【0082】
本発明の活物質複合体は、上記活物質複合体形成用組成物を乾燥した後、所定の温度で炭化させることなく熱処理することにより製造することができる。この時、得られる活物質複合体は、熱処理によって導電性物質、分散剤および架橋剤を含む被覆層が熱硬化し、活物質の粒子表面に、導電性物質、分散剤および架橋剤を含む熱硬化層を有するものとなる。本発明における上記熱処理は、後述するように、500℃以上で熱処理することを要する従来の炭化工程を実施する場合に比較して、低温で実施することができ、より容易に優れた特性を有する活物質複合体を得ることができる。
【0083】
上記活物質複合体形成用組成物の乾燥方法としては、公知の乾燥方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、自然乾燥の他、ホットプレートやオーブン等の加熱装置を用いて、大気中、窒素等の不活性ガス中、真空中等で加熱して乾燥させてもよいが、本発明においては、微細化された球状の粒子を得る観点から、スプレードライ(噴霧乾燥)法を好適に採用することができる。
【0084】
乾燥条件は、対象となる組成物の配合や量、使用する装置等によって適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、ホットプレートやオーブン等の加熱装置を用いて大気中で乾燥させる場合は、120~250℃で1分~2時間が好ましい。スプレードライ法については、以下で詳細に説明する。
【0085】
スプレードライ法は、液体を霧状にして、熱風で短時間に乾燥させて球状の粒子を得る方法である。スプレードライ法には、市販のスプレードライヤーを使用でき、ノズル式やディスク式(ロータリーアトマイザー方式)のいずれもが使用できるが、本発明では、流体噴霧式(流体ノズル噴霧式)のスプレードライ法が特に好適である。流体噴霧式乾燥法は、圧縮空気の噴射により流体を微細な霧状としつつ温風乾燥する方法で、ロータリーアトマイザー方式等の機械式造粒乾燥法に比べ、微細な二次粒子が得られる。噴射ノズルの本数により二流体式、四流体式等の方式があり、本発明においては、いずれの方式も用いることができる。スプレードライ法による粒子分散液の噴霧乾燥条件(一次粒子濃度、有機物濃度、分散液流量、乾燥ガス流量、乾燥温度など)は、スプレードライ装置の構造等に応じて、造粒粒子の平均粒径が所定の範囲内になるように適宜設定される。
【0086】
スプレードライ法による造粒を選択する場合、スラリーの固形分含量は1~50質量%の範囲が好ましく、生産性を考慮すると高い方が好ましいが、活物質粒子及び導電性炭素を十分に均一に分散することを考慮すると1~20質量%の範囲がより好ましい。
【0087】
上記スプレードライヤーとしては、例えば、二流体ノズルを用いた装置としては、ヤマト科学(株)製のスプレードライヤー「パルビスミニスプレーGB210-A」、大川原化工機(株)製のスプレードライヤー「RJ-10」、「RJ-25」、「RJ-50」、「TJ-100」、四流体ノズルを用いた装置としては、藤崎電機(株)製のスプレードライヤー「MDL-050B」、「MDL-050BM」、「MDL-015CM-H」、「MDL-015MGC」等を使用することができる。
【0088】
熱処理は、公知の加熱装置を用いて大気中、窒素等の不活性ガス中、真空中等で加熱すればよく、特に制限されるものではない。本発明では、例えば、乾燥機、真空乾燥機、オーブン、管状炉、マッフル炉等の加熱装置を使用することができる。上記熱処理において、処理温度および処理時間は、活物質の粒子表面に分散した導電性物質、分散剤および架橋剤が熱硬化するのに必要な条件とされるが、組成物に含まれる成分や配合量等によって適宜設定し得る。例えば、真空乾燥機やオーブンを使用する場合、処理温度は、組成物が炭化しない温度とされ、好ましくは60~500℃、より好ましくは120~300℃とすることができ、処理時間は、好ましくは1分間~24時間、より好ましくは5分間~2時間とすることができる。また、真空乾燥機を使用する際、気圧は特に限定されるものではないが、概ね0.1~20kPa程度まで減圧するとよい。なお、上記熱処理は、乾燥に使用する装置と同一の装置を加熱装置として使用する場合は、上記乾燥に続いて一体的に行ってもよい。
【0089】
このようにして得られる活物質複合体の平均粒径は、電極スラリーの分散性や充填性の観点から、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは1~10μmである。上記平均粒径は、走査型電子顕微鏡により測定される値である。
【0090】
上記活物質複合体形成用組成物を用いて得られる活物質複合体は、上述したように、活物質の粒子表面に、導電性物質、分散剤および架橋剤を含む被覆層が熱硬化した熱硬化層を有するものとなる。
この時、上記活物質の粒子表面は分散剤によって分散した導電性物質で被覆されている。導電性物質が凝集した状態で存在していると複合体中で電気抵抗の偏りが生じ、場合によっては複合体全体として導電性の低下を引き起こすことがある。一方、導電性物質が複合体中で分散した状態で存在し、活物質の粒子表面を被覆していれば、複合体中で電気抵抗の偏りは生じず、導電性が低下するような悪影響はない。ここでいう分散とは、カーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブが一本ずつほぐれている状態でも、何本かが集まってバンドルを組んだ状態でも、一本から様々な太さのバンドルが混ざっている状態でも、複合体中に均一に散らばっていれば、分散していると表現する。また、粒子表面が完全に被覆されている必要はなく、粒子間で導電パスを形成できる程度に被覆されていてればよい。たとえば、網目状に導電性付与剤で被覆されている程度でもよい。
【0091】
本発明の製造方法を用いて作製された活物質複合体は、活物質の粒子表面に導電性物質が分散剤とともに均一に分散した熱硬化層を有しているので、それ自体で電気伝導性を大きく向上させることができる。更に、導電性物質が均一に分散しているので、従来のような炭化処理をしなくても性能が向上するため、製造工程を簡略化することができる。
【0092】
また、本発明は、上記活物質複合体を用いた電極形成用組成物を提供する。当該電極形成用組成物は、活物質種の選択により正極および負極に使用できるものであり、上記活物質複合体、導電助剤およびバインダーを含むものである。
【0093】
上記導電助剤としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子等が挙げられる。上記導電助剤は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0094】
上記導電助剤の配合量は、特に限定されるものではないが、上記活物質複合体100質量部に対して、好ましくは1~20質量部、より好ましくは2~12質量部である。導電助剤の配合量を上記範囲内とすることにより、良好な電気伝導性を得ることができる。
【0095】
上記バインダーとしては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、特に限定されるものではないが、本発明で使用できるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(VDF-HFP))、フッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン共重合体(P(VDF-CTFE))、ポリビニルアルコール、ポリイミド、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアニリン、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレン等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0096】
上記バインダーの配合量は、特に限定されるものではないが、上記活物質複合体100質量部に対して、好ましくは1~20質量部、より好ましくは2~15質量部である。バインダーの配合量を上記範囲内とすることにより、容量を低下させることなく、集電基板との良好な密着性が得られる。
【0097】
バインダーは必要に応じて溶媒に溶解させて使用することができ、その場合、溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0098】
また、本発明の電極形成用組成物では、活物質層の導電性を更に向上させる観点から、上記活物質複合体を導電助剤およびバインダーと混合する過程で、上述した導電性物質を更に配合することができる。
導電性物質を更に配合する場合、その配合量は、上記活物質複合体100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0099】
本発明の電極は、集電体である基板上に上で説明した電極形成用組成物からなる活物質層(薄膜)を有するもの、または、当該電極形成用組成物を単独で薄膜化したものである。
上記活物質層を基板上に形成する場合、当該活物質層の形成方法としては、溶媒を使用せずに調製した電極形成用組成物を基板上に加圧成形する方法(乾式法)、あるいは、溶媒を使用して電極形成用組成物を調製し、それを集電体に塗工、乾燥する方法(湿式法)が挙げられる。これらの方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種方法を用いることができる。例えば、湿式法としては、上記活物質複合体を含む材料を有機溶媒に溶解または懸濁したワニスを用いたオフセット印刷、スクリーン印刷等の各種印刷法、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法、スリットコート法、インクジェット法等が挙げられる。
【0100】
上記電極に用いられる基板としては、例えば、白金、金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、リチウム等の金属基板、これらの金属の任意の組み合わせからなる合金基板、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板、またはグラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンフェルト等の炭素基板等が挙げられる。
【0101】
上記電極形成用組成物を単独で薄膜化する場合は、薄膜形成後に剥離が可能な基板上に、上述した湿式法および乾式法を適宜用いて薄膜を形成すればよく、また、当該基板上に、ガラス棒等を用いて電極形成用組成物を薄く延ばす方法を採用することもできる。当該基板としては、ガラス板等の薄膜に対して密着性を有しない基板を用いることができ、また、薄膜に対して密着性を有する基板であっても、その表面に薄膜の剥離を可能とするための処理(剥離紙の貼付や剥離層の形成等)が施された基板であれば用いることができる。
【0102】
上記活物質層(薄膜)の膜厚は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~1,000μm程度、より好ましくは1~100μm程度である。なお、薄膜を単独で電極とする場合は、その膜厚を10μm以上とすることが好ましい。
【0103】
また、上記電極に含まれる活物質の溶出を更に抑制するため、上記活物質層(薄膜)に更にポリアルキレンオキサイドおよびイオン伝導性塩を含ませてもよく、または電極を保護膜で被覆してもよい。上記保護膜は、ポリアルキレンオキサイドおよびイオン伝導性塩を含むことが好ましい。
ポリアルキレンオキサイドとしては、特に限定されないが、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等が好ましい。
上記ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量は、300,000~900,000が好ましく、500,000~700,000がより好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算測定値である。
【0104】
また、上記イオン伝導性塩としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムトリフルオロメタンスルホナート(LiCF3SO3)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等が挙げられる。イオン伝導性塩は、ポリアルキレンオキサイド100質量部に対し、5~50質量部含まれることが好ましい。
【0105】
上記保護膜は、例えば、上記活物質層(薄膜)を形成した基板上に、ディップ法等の方法でポリアルキレンオキサイド、イオン伝導性塩および溶媒を含む組成物を塗布し、40~60℃で30~120分間乾燥させて形成できる。
上記溶媒としては、アセトニトリル、ジクロロメタン等が好ましい。
上記保護膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは10~1,000μm程度、より好ましくは50~500μm程度である。
【0106】
本発明の二次電池は、上述した電極を備えたものであり、より具体的には、少なくとも一対の正負極と、これら各極間に介在するセパレータと、電解質とを備えて構成され、正負極の少なくとも一方が、上述した電極から構成される。その他の電池素子の構成部材は従来公知のものから適宜選択して用いればよい。
【0107】
上記セパレータに使用される材料としては、例えば、多孔質ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。
【0108】
上記電解質としては、実用上十分な性能を容易に発揮させ得る観点から、イオン伝導の本体である電解質塩と溶媒等とから構成される電解液を好適に使用し得る。
【0109】
上記電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiN(C2F5SO2)2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlF4、LiGaF4、LiInF4、LiClO4、LiN(CF3SO2)2、LiCF3SO3、LiSiF6、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)等のリチウム塩、LiI、NaI、KI、CsI、CaI2等の金属ヨウ化物、4級イミダゾリウム化合物のヨウ化物塩、テトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ化物塩および過塩素酸塩、LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2等の金属臭化物等が挙げられる。これらの電解質塩は、単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0110】
上記溶媒としては、電池を構成する物質に対して腐食や分解を生じさせて性能を劣化させるものでなく、上記電解質塩を溶解するものであれば特に限定されない。例えば、非水系の溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル類、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状エステル類等が用いられる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0111】
本発明の電極形成用組成物を用いて製造した電池は、一般的な二次電池と比較してサイクル特性およびレート特性に優れたものとなる。
【0112】
二次電池の形態や電解質の種類は特に限定されるものではなく、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、マンガン電池、空気電池等のいずれの形態を用いてもよいが、リチウムイオン電池が好適である。ラミネート方法や生産方法についても特に限定されるものではない。
【実施例】
【0113】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた各測定装置は以下のとおりである。
[プローブ型超音波照射装置]
装置:Hielscher Ultrasonics社製、UIP1000
[スプレードライヤー]
装置:ヤマト科学(株)製、スプレードライヤー パルビスミニスプレーGB210-A
[走査型電子顕微鏡]
装置:日本電子(株)製、電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7400F
倍率2,000倍で粒子を観察し、50個の粒子の径を計測し、個数平均粒径を求めた。
[自転・公転ミキサー]
装置:(株)シンキー製、あわとり錬太郎ARE-310
[ロールプレス機]
装置:有限会社タクミ技研製、加圧/加熱ロールプレス機SA-602
[コインセルかしめ機]
装置:宝泉(株)製、手動コインカシメ機CR2032
[マイクロメーター]
装置:(株)ミツトヨ製、IR54
[充放電測定装置]
装置:東洋システム(株)製、TOSCAT 3100
【0114】
(1)導電性物質分散液の調製
[実施例1-1]導電性物質分散液A2の調製
分散剤としてオキサゾリンポリマーを含む水溶液であるエポクロスWS-700((株)日本触媒製、固形分濃度25質量%、重量平均分子量4×104、オキサゾリン基量4.5mmol/g)2.0gと、蒸留水47.5gとを混合し、更にそこへ導電性物質としてMWCNT(TC-2010、戸田工業(株)製)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、沈降物がなくMWCNTが均一に分散した黒色の導電性物質分散液A1を得た。
得られた導電性物質分散液A1 50gに、架橋剤としてポリアクリル酸アンモニウム(PAA-NH4)を含む水溶液であるアロンA-30(東亞合成(株)、固形分濃度31.6質量%)0.7gと、蒸留水49.3gとを加えて撹拌し、導電性物質分散液A2(固形分濃度1.22質量%)を得た。
【0115】
[実施例1-2]導電性物質分散液A3の調製
MWCNTをNanocyl―7000(Nanocyl(株)製)に変更した以外は、実施例1-1と同じ方法で導電性物質分散液A3を得た。
【0116】
[比較例1-1]導電性物質分散液A4の調製
分散剤としてポリビニルアルコールJP-18(日本酢ビ・ポバール(株)製、部分ケン化型ポリビニルアルコール)0.36gを蒸留水49.39gに溶解させた溶液にMWCNT(TC-2010、戸田工業(株)製)0.25gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、沈降物がなくMWCNTが均一に分散した黒色の導電性物質分散液A4(固形分濃度1.22質量%)を得た。
【0117】
(2)活物質複合体の製造
[実施例2-1]活物質複合体P1の製造
アナターゼ型酸化チタン(品番637254、Sigma-Aldrich社製、一次粒子径25nm以下)10gに水490gを混合した。得られた混合物に対して、バス型超音波装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、白色の活物質分散液を得た。そこに、実施例1-1で作製した導電性物質分散液A2 105gと蒸留水499gを混合した。得られた混合物に対して、室温で30分間超音波処理を行い、黒色の分散液(活物質複合体形成用組成物)を得た。次いで、得られた分散液を、スプレードライヤーを用いて乾燥した。乾燥条件は、乾燥ガス:空気、入口温度210℃、アトマイジングエアー圧力0.1MPa、アスピレーター流量0.50m3/分、混合液の送液速度3.5g/分とした。このときの出口温度は85±3℃であった。分散液を乾燥することで灰色の固体を得た。得られた固体を更に乾燥機(150℃、2時間)を用いて熱処理することで活物質複合体P1を得た。
得られた活物質複合体P1の平均粒径は4.5μmであった。
【0118】
[実施例2-2]活物質複合体P2の製造
実施例1-1で調製された導電性物質分散液A2を用いる代わりに実施例1-2で調製されたA3を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で活物質複合体P2を製造した。
得られた活物質複合体P2の平均粒径は3.7μmであった。
【0119】
[比較例2-1]活物質複合体P3の製造
実施例1-1で調製された導電性物質分散液A2を用いる代わりに比較例1-1で調製されたA4を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で活物質複合体P3を製造した。
得られた活物質複合体P3の平均粒径は5.8μmであった。
【0120】
(3)電極およびリチウムイオン電池の製造
[実施例3-1]
上記実施例2-1で製造された活物質複合体P1 2.06g、導電助剤としてアセチレンブラック(AB、電気化学工業(株)製)0.048g、およびバインダーとしてPVdFのNMP溶液(固形分濃度12質量%、キシダ化学(株)製)2.88gを、86:2:12の質量比になるように混合し、更に固形分濃度が30質量%になるようにNMP3.49gを混合した。これを自転・公転ミキサー(2,000rpm、10分間を2回)にて混合し、電極形成用スラリー(負極スラリー)を製造した。これをアルミ箔(1085、(株)UACJ製、基材厚み15μm)上にドクターブレード法(ウェット膜厚100μm)により均一に展開後、80℃で30分間、次いで120℃で30分間乾燥して、活物質層を形成した。これをロールプレス機にて圧着して電極C1(膜厚40μm)を製造した。
得られた電極を、直径10mmの円盤状に打ち抜き、質量を測定した後、120℃で12時間真空乾燥し、アルゴンで満たされたグローブボックスに移した。
2032型のコインセル(宝泉(株)製)のワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、直径14mmに打ち抜いたリチウム箔(本荘ケミカル(株)製、厚み0.17mm)を6枚重ねたものを設置し、その上に、電解液(キシダ化学(株)製、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積比)、電解質であるリチウムヘキサフルオロホスフェートを1mol/L含む。)を24時間以上染み込ませた、直径16mmに打ち抜いたセパレータ(セルガード(株)製、2400)を一枚重ねた。更に上から、活物質を塗布した面を下にして電極C1を重ねた。電解液を1滴滴下したのち、ケースとガスケットを載せて、コインセルかしめ機で密封した。その後24時間静置し、試験用の二次電池とした。
【0121】
[実施例3-2]
上記実施例2-1で製造された活物質複合体P1を用いる代わりに実施例2-2で製造された複合体P2を用いた以外は、実施例3-1と同様の方法で電極C2を製造した。
得られた電極C2を用い、実施例3-1と同様に試験用の二次電池を製造した。
【0122】
[比較例3-1]
上記実施例2-1で製造された活物質複合体P1を用いる代わりに比較例2-1で製造された複合体P3を用いた以外は、実施例3-1と同様の方法で電極C3を製造した。
得られた電極C3を用い、実施例3-1と同様に試験用の二次電池を製造した。
【0123】
[比較例3-2]
上記実施例2-1で製造された活物質複合体P1を用いる代わりに複合体を形成していない酸化チタン粉末を活物質として用いた以外は、実施例3-1と同様の方法で電極C4を製造した。
得られた電極C4を用い、実施例3-1と同様に試験用の二次電池を製造した。
【0124】
実施例3-1、3-2および比較例3-1、3-2で製造したリチウムイオン二次電池について、充放電測定装置を用いて電極の物性を下記の条件で評価した。各二次電池の0.1C、0.5C、1C、2C、3C、5C放電時の各放電レートにおける放電容量(レート特性)を表1に示す。また、0.5C定電流放電での各サイクルにおける容量保持率(サイクル特性)を表2に示す。
[測定条件]
・レート特性:
電流:0.1C定電流充電、0.1C、0.5C、1C、2C、3C、5C定電流放電(TiO2の容量を336mAh/gとし、3サイクルごとの放電レートを上昇させたのち、最後に放電レートを0.5Cにした)
・サイクル特性:
電流:0.1C定電流充電、0.5C定電流放電(TiO2の容量を336mAh/gとした)
・カットオフ電圧:3.00V-1.00V
・温度:室温
【0125】
【0126】
【0127】
上記表1の結果より、実施例2-1、2-2の活物質複合体を負極活物質に用いた実施例3-1、3-2の二次電池は、比較例2-1の負極活物質や市販品の粒子を用いた比較例3-1、3-2の二次電池に比べ、高レート時の放電容量が優れていることが確認された。
【0128】
従って、活物質の粒子表面に導電性物質、分散剤および架橋剤を含む熱硬化層を有する活物質複合体を負極活物質に用いることにより、熱硬化層を有しない負極活物質に比べて電気伝導性を向上させることができ、これによって二次電池のサイクル特性およびレート特性が向上していることを確認した。