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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】ゴム組成物および電極
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20230725BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230725BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230725BHJP
   H01M 4/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/04
C08K3/08
H01M4/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021575789
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2021003602
(87)【国際公開番号】W WO2021157537
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020019965
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】武山 慶久
(72)【発明者】
【氏名】周藤 茂
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-100206(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136275(WO,A1)
【文献】特開2018-103586(JP,A)
【文献】特開2018-135492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムと、導電性フィラーと、を含むゴム組成物を架橋したゴム架橋物であって、
前記導電性フィラーは、前記ゴム組成物における含有量が0.5~5体積%であり、
前記導電性フィラーは、長さが5μm超である多層カーボンナノチューブを含み、
前記ゴム架橋物を超小角X線散乱法で測定して得られた散乱曲線を、Beaucageモデルで解析して得られた回転半径が40~300nmである、ゴム架橋物。
【請求項2】
前記シリコーンゴムは、25℃における粘度が0.1~1000mPa・sである液状シリコーンゴムである、請求項1に記載のゴム架橋物。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示す、請求項1または2に記載のゴム架橋物。
【請求項4】
前記導電性フィラーは、単層カーボンナノチューブをさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載のゴム架橋物。
【請求項5】
前記導電性フィラーは、さらに金属系導電材料を含有する、請求項1~4のいずれかに記載のゴム架橋物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のゴム架橋物を用いて形成された電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物および電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンゴムに、導電性フィラーとしてのカーボンナノチューブ(以下、適宜、「CNT」と称する)を添加することにより、柔軟性(低硬度)と導電性(低体積抵抗率)とを高いレベルで両立する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/136275号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す技術では、柔軟性と導電性とを高いレベルで両立できるものの、例えば、当該組成物をシート状に成形して成形体を得、この成形体に対して屈曲試験等の変形を施した際に、その体積抵抗率が上昇してしまう場合があり、更なる改善が求められていた。
【0005】
本発明の目的は、柔軟性および導電性にそれぞれ優れた上で、かつ、当該ゴム組成物からなる成形体を例えば屈曲等して変形させたとしても、その導電性を十分に維持できるゴム組成物、および、かかるゴム組成物を用いて形成される電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討したところ、シリコーンゴムに、所定のCNTを含有する導電性フィラーを適量配合し、かつ、当該ゴム組成物に対して、超小角X線散乱法より求めた回転半径が所定範囲であることにより、柔軟性および導電性に優れるとともに、当該ゴム組成物からなる成形体を変形させたとしても導電性を十分に維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明のゴム組成物は、シリコーンゴムと、導電性フィラーと、を含むゴム組成物であって、前記導電性フィラーは、前記ゴム組成物における含有量が0.5~5体積%であり、前記導電性フィラーは、長さが5μm超であるカーボンナノチューブを含み、前記ゴム組成物を超小角X線散乱法で測定して得られた散乱曲線を、Beaucageモデルで解析して得られた回転半径が40~300nmである。本発明によれば、柔軟性および導電性にそれぞれ優れた上で、その成形体を変形させてもその導電性を十分に維持できる。
【0008】
本発明において、前記シリコーンゴムは、25℃における粘度が0.1~1000mPa・sである液状シリコーンゴムであることが好ましい。このような構成によれば、柔軟性と導電性のバランスを高いレベルで達成できる。
【0009】
前記カーボンナノチューブは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。また、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。このような構成によれば、導電性フィラーの添加量を比較的少なくできるため、柔軟性と導電性のバランスをさらに高いレベルで達成できる。
【0010】
前記導電性フィラーは、CNTに加えてさらに、例えば金属粒子等の金属系導電材料を含有してもよい。このような構成により、導電性の調整が比較的容易となる。
【0011】
ここで、本発明のゴム組成物は、架橋する前の未架橋ゴム組成物であってもよいし、架橋後のゴム架橋物であってもよい。なお、未架橋ゴム組成物およびゴム架橋物のいずれであっても、上述した各構成要件を備える。すなわち、以下の発明(1),(2)を挙げることができる。
【0012】
(1)本発明の未架橋ゴム組成物は、シリコーンゴムと、導電性フィラーと、を含むゴム組成物であって、前記導電性フィラーは、前記ゴム組成物における含有量が0.5~5体積%であり、前記導電性フィラーは、長さが5μm超であるカーボンナノチューブを含み、前記ゴム組成物を超小角X線散乱法で測定して得られた散乱曲線を、Beaucageモデルで解析して得られた回転半径が40~300nmである。
【0013】
(2)本発明のゴム架橋物は、シリコーンゴムと、導電性フィラーと、を含むゴム組成物であって、前記導電性フィラーは、前記ゴム組成物における含有量が0.5~5体積%であり、前記導電性フィラーは、長さが5μm超であるカーボンナノチューブを含み、前記ゴム組成物を超小角X線散乱法で測定して得られた散乱曲線を、Beaucageモデルで解析して得られた回転半径が40~300nmである。
【0014】
前記ゴム架橋物を電極として用いることが好ましい。この際、電極は、人体等の体に当接し、体からの電気信号等の信号を検出する電極として用いることが好ましい。本発明の電極は、柔軟性と導電性に優れ、変形時の導電性変化率が小さいため、体への追従性に優れた上で導電性を十分に維持できることから、体からの信号を高感度で検出できて有用である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、柔軟性および導電性にそれぞれ優れた上で、成形体に外力を加えて屈曲等の変形をさせたとしても、その導電性を十分に維持できるゴム組成物及び電極を提供することができる。このように、ゴム組成物等が、変形後でも十分な導電性を維持できることにより、例えば、型等に配置し、人体等に当接する電極(ウェアラブルデバイスの電極としての用途)として使用する場合であっても、型の凹凸への追従性に優れ、かつ人体からの電気信号を感度よく検出できる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明のゴム組成物は、シリコーンゴムと、導電性フィラーと、を含み、前記導電性フィラーは、当該ゴム組成物における含有量が0.5~5体積%であり、前記導電性フィラーは、長さが5μm超であるカーボンナノチューブを含み、当該ゴム組成物を超小角X線散乱法で測定して得られた散乱曲線を、Beaucageモデルで解析して得られた回転半径が40~300nmである。
【0017】
<シリコーンゴム>
シリコーンゴムとしては、特に限定されることなく、オルガノポリシロキサンとして通常広く知られている、ジメチルシロキサン等のアルキルシロキサン単位を主成分とするポリマーなどの既知のシリコーンゴムを用いることができる。なお、シリコーンゴムは、アルキルシロキサン単位以外に少量の他の構造単位を有していてもよく、さらには、少量の官能基を含有していてもよい。また、シリコーンゴムは、所望により補強性充填剤や潤滑剤などの既知の添加剤を配合したものであってもよく、補強性充填剤としては、例えば、補強性シリカ、石英粉、酸化鉄、アルミナ、ビニル基含有シリコーンレジンなどを使用できる。具体的には、シリコーンゴムとしては、例えばミラブル型シリコーンゴムや液状シリコーンゴムを用いることができる。中でも、シリコーンゴムとしては、液状シリコーンゴムを用いることが好ましい。ここで、ミラブル型シリコーンゴムとは、粘度が高く、25℃において自己流動性がない非液状(固体状またはペースト状)であるシリコーンゴムである。また、液状シリコーンゴムとは、25℃、回転数6rpmにおける粘度が0.1~7000mPa・sのものであり、自己流動性があるものである。
【0018】
オルガノポリシロキサンは、有機基を有する。有機基は、1価の置換または非置換の炭化水素基である。非置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、β-フェニルエチル基、β-フェニルプロピル基などのアラルキル基などが挙げられる。置換の炭化水素基としては、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などが挙げられる。オルガノポリシロキサンとしては、一般的には、有機基としてメチル基を有するものが、合成のしやすさ等から多用される。オルガノポリシロキサンは、直鎖状のものが好ましいが、分岐状もしくは環状のものであっても良い。
【0019】
オルガノポリシロキサンは、その架橋機構(硬化機構)に応じて、所定の反応性基(官能基)を有する。反応性基としては、アルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基など)やシラノール基などが挙げられる。アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、有機過酸化物を架橋剤とする過酸化物架橋反応や、ヒドロシリル基を有するオルガノシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)を架橋剤とする付加反応により架橋される。付加反応には、ヒドロシリル化触媒を組み合わせて用いることができる。シラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、縮合反応により架橋される。縮合反応には、縮合用架橋剤を組み合わせて用いることができる。
【0020】
アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。また、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有することが好ましい。また、シラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のシラノール基を有することが好ましい。
【0021】
有機過酸化物としては、ベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、p-メチルベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルペルオキシド、クミル-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらのうちでは、特に低い圧縮永久歪みを与えることから、ジクミルペルオキシド、クミル-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシドが好ましい。
【0022】
有機過酸化物の添加量は、特に限定されるものではないが、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~10質量部の範囲とされる。
【0023】
ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)として、具体的には、両末端トリメチルシロキシ基を有するメチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基を有するジメリルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基を有するメチルハイドロジェンシロキサン・フェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基を有するメチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位から成る共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とから成る共重合体などが挙げられる。
【0024】
ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンの配合量は、特に限定されるものではないが、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~40質量部の範囲とされる。
【0025】
ヒドロシリル化触媒としては、白金系触媒が挙げられる。白金系触媒としては、微粒子白金、白金黒、白金担持活性炭、白金担持シリカ、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体などが挙げられる。
【0026】
ヒドロシリル化触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、白金系金属の金属量に換算して、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して1ppm~2質量部の範囲とされる。
【0027】
縮合用架橋剤としては、加水分解性の基を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上有するシラン、あるいはその部分加水分解縮合物が使用される。この場合、その加水分解性の基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基などのケトオキシム基、アセトキシ基などのアシルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基などのアルケニルオキシ基、N-ブチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基などのアミノ基、N-メチルアセトアミド基などのアミド基等が挙げられる。
【0028】
縮合用架橋剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常、シラノール基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して1~50質量部の範囲とされる。
【0029】
<導電性フィラー>
導電性フィラーは、シリコーンゴムに添加することにより、シリコーンゴムに導電性を付与し得るフィラーである。本発明のゴム組成物における導電性フィラーの添加量は、シリコーンゴム及び導電性フィラーの合計体積を基準として、0.5体積%以上であることを必須とし、その中でも、0.6体積%以上であることが好ましく、0.7体積%以上であることがより好ましく、また、1体積%以上としてもよい。また、本発明のゴム組成物における導電性フィラーの添加量は、5体積%以下であることを必須とし、その中でも、3体積%以下であることが好ましく、2.5体積%以下であることがより好ましく、また、2体積%以下としてもよい。導電性フィラーの添加量を上記範囲とすることにより、柔軟性および導電性をより一層高いレベルで両立できる。
【0030】
導電性フィラーとしては、カーボンナノチューブ(CNT)を必須の材料として含み、CNT以外のものとして、例えば、炭素系導電材料や、金属系導電材料を挙げることができる。
【0031】
炭素系導電材料としては、粒子状炭素材料や、繊維状炭素材料などを用いることができる。粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブ以外であれば、特に限定されることなく、例えば、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
金属系導電材料としては、特に形状(粒子状や繊維状)や寸法等は限定されないが、金属粒子であることが好ましい。金属系導電材料を構成する金属としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、タングステン、ニッケル、タンタル、ビスマス、鉛、インジウム、錫、亜鉛及びチタンからなる群より選択される少なくとも一種を含有することができ、この中でも、金、銀、銅及び白金からなる群より選択される少なくとも一種を含有することが好ましく、導電性とコストとのバランスに優れることから、銀を含有することがより好ましい。なお、金属系導電材料は、CNTに比べて導電性に優れるため、CNTのみを用いる場合に比べて、ゴム組成物において高いレベルでの導電性の調整が比較的容易である。一方で、未架橋ゴム組成物を架橋する際に、架橋剤の種類によっては、当該金属系導電材料が架橋阻害を起こすことがあり、そのような観点では金属系導電材料を添加しない(もしくは相当微量にする)ことが好ましい。
【0034】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブ(CNT)としては、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)、多層カーボンナノチューブ(多層CNT)、および、単層CNTと多層CNTの混合物を用いることができる。ここで、前記カーボンナノチューブにおいて、単層CNTの含有割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0035】
また、CNTは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。中でも、CNTの開口処理が施されておらず、かつt-プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。このような構成によれば、本発明のゴム組成物を架橋したゴム架橋物における柔軟性を向上できる。
【0036】
t-プロットは、窒素ガス吸着法により測定された吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得られる。即ち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、CNTのt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0037】
ここで、表面に細孔を有する試料では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0038】
上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有するCNTは、CNTの全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、CNTに多数の開口が形成されていることを示しており、その結果として、CNTは凝集しにくくなる。
【0039】
なお、CNTのt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0を満たす範囲にあることが更に好ましい。t-プロットの屈曲点の位置が上記範囲内にあると、CNTの特性が更に向上する。ここで、「屈曲点の位置」とは、t-プロットにおける、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0040】
さらに、CNTは、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が、0.05以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.08以上であることが更に好ましく、0.30以下であることが好ましい。S2/S1が0.05以上0.30以下であれば、CNTの特性を一層高めることができる。
【0041】
因みに、CNTの吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル社製)を用いて行うことができる。
【0042】
ここで、CNTとしては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.80未満のCNTを用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超のCNTを用いることがより好ましく、3σ/Avが0.40超のCNTを用いることが更に好ましく、3σ/Avが0.50超のCNTを用いることが特に好ましい。3σ/Avが0.20超0.80未満のCNTを使用することにより、ゴム組成物における柔軟性と導電性のバランスをより高いレベルで両立できる。
【0043】
なお、「CNTの平均直径(Av)」および「CNTの直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定して求めることができる。CNTの平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0044】
CNTは、BET比表面積が200m/g以上であることが好ましく、600m/g以上であることがより好ましく、800m/g以上であることが更に好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1500m/g以下であることがより好ましい。CNTのBET比表面積が上記範囲であることにより、シリコーンゴムに対してCNTの分散性が向上し、ゴム組成物における柔軟性と導電性のバランスをより高いレベルで両立できる。CNTのBET比表面積は、例えば、JIS Z8830に準拠した、BET比表面積測定装置((株)マウンテック製、HM model-1210)を用いて測定できる。
【0045】
CNTの平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、2nm以上であることが更に好ましく、また、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることが更に好ましい。CNTの平均直径(Av)が上記範囲であることにより、柔軟性と導電性のバランスをより一層高めることができる。
【0046】
また、CNTは、合成時におけるCNTの長さ(平均長さ)が5μm超であることが必要であり、その中でも、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることがさらに好ましい。また、合成時のCNTの長さが長いほど、分散時にCNTに破断や切断等の損傷が発生し易いので、合成時のCNTの平均長さは、5000μm以下であることが好ましく、シリコーンゴムへの分散性を高める観点から、CNTの合成時の平均長さは、1000μm以下であることがより好ましい。なお、CNTの平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて無作為に選択したCNT100本の長さを測定して求めることができる。
【0047】
CNTのアスペクト比(長さ/直径)は、10を超えることが好ましい。なお、CNTのアスペクト比は、前述の通りに測定した直径および長さを用いて、これらの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0048】
CNTは、G/D比が0.8以上15.0以下であることが好ましく、2.0以上10.0以下であることがより好ましく、2.5以上4.5以下であることが更に好ましい。G/D比が上記範囲であればシリコーンゴムへの分散性をより一層高めることができる。なお、本発明において、「G/D比」とは、ラマンスペクトルにおいて、1340cm-1近傍で観察されるDバンドピーク強度に対する、1590cm-1近傍で観察されるGバンドピーク強度の比を指し、例えば、顕微レーザラマン分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製Nicolet Almega XR)を用いて測定できる。
【0049】
上述した性状を有するCNTは、例えば、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行うことで、効率的に製造できる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0050】
前記導電性フィラー中のカーボンナノチューブの含有割合は、導電性フィラーの全質量を100%として、1%以上であることが好ましく、1.5%以上であることがより好ましい。導電性フィラーの全てがカーボンナノチューブであってもよい。
【0051】
<その他の添加剤>
本発明のゴム組成物は、前記導電性フィラーの他に、その他の添加剤を添加できる。その他の添加剤としては、例えば、架橋剤や、酸化防止剤、シリコーンオイル等の硬度調整剤などを用いることができる。その他の添加剤は、本発明の効果を損なわない限り、任意の量を添加できる。前記架橋剤としては、例えば、パーオキサイド系架橋剤、ポリオール系架橋剤、チオシアナート系架橋剤、白金化合物系架橋剤などを挙げることができる。また、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを挙げることができる。
【0052】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、超小角X線散乱法で測定して得られた散乱曲線を、Beaucageモデルで解析して得られた回転半径が40~300nmであることを必要とする。超小角X線散乱法の測定および解析法に関しては後述する。
【0053】
<ゴム架橋物>
未架橋物であるゴム組成物に前述した架橋剤を添加して架橋することにより、ゴム架橋物を得ることができる。なお、架橋は、一次架橋のみの1段階で行ってもよく、一次架橋および二次架橋の2段階で行ってもよく、3段階以上で行ってもよい。このようなゴム架橋物は、後述する回転半径が40~300nmである。また、ゴム架橋物は、後述する回転半径が40~300nmである未架橋物としてのゴム組成物に架橋剤を添加し、これを架橋して得てもよい。
【0054】
<ゴム架橋物の物性>
ゴム架橋物は、柔軟性を示す指標としての硬度が60以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましい。また、ゴム架橋物は、導電性を示す指標としての体積抵抗率が5×10Ω・cm以下であることが好ましく、1×10Ω・cm以下であることがより好ましく、5×10Ω・cm以下であることがさらに好ましい。さらに、ゴム架橋物は、下記屈曲試験の実施前後における体積抵抗率の変化率が1.6以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましい。これらの物性をすべて満たすことにより、柔軟性と導電性を十分に有し、かつ外力を加えても十分な導電性を維持できる。
【0055】
<ゴム架橋物の用途>
本発明のゴム組成物からなる架橋物の用途は、特に限定されないが、例えば、ウェアラブルデバイスにおいて、人体に当接して、人体からの電気信号を検出する電極として用いることができる。
【実施例
【0056】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0057】
実施例及び比較例において、シート状に成形したゴム架橋物であるシート状架橋物中の回転半径(含まれるCNTバンドル半径に相当)、シート状架橋物の硬度、体積抵抗率、および180°屈曲時の体積抵抗率変化率は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0058】
<回転半径>
調製したシリコーンゴム組成物を金型に投入し、加硫成形して2mm厚のシート状の架橋物(幅150mm、長さ150mm)を作製した。なお、加硫条件は100℃で15分間とした。作製した架橋物について、下記条件で小角X線散乱(SAXS)測定を行った。
【0059】
<<小角X線散乱測定条件>>
ビームライン:兵庫県ビームラインBL08B2
エネルギー:8.27 keV
成形体試料から検出器までの距離:16 m
X線照射時間:60 秒
q(波数)範囲:0.005 nm-1~0.3 nm-1
検出器:PILATUS-1M
【0060】
<<小角X線散乱測定により得られたデータのデータ処理>>
上記に従って小角X線散乱測定して得た散乱像について、-180~180°の円環平均を行い一次元化し、散乱プロファイルを得た。解析ソフトウェアとしてIgor Pro7(WaveMetrics社製)を用い、波数範囲を0.006nm-1~0.15nm-1として得られた散乱プロファイルについて、Beaucageモデル式(式1)を用いてフィッティングを行い、回転半径Rg,i(nm)を求めた。
【数1】
ここで、I(q)は散乱強度、qは波数(nm-1)、Pは各階層に関連するフラクタル次元、Nは階層数を示し、N=2とした。また、実測の散乱プロファイルと計算値の誤差を示すχが100以下となるようフィッティングを行った。χが100以下の場合、良好にフィッティングできたと言える。回転半径Rg,i(nm)は、CNTバンドル半径を表しており、Rg,iが小さい程、CNTが解繊されていることを意味する。
【0061】
<硬度>
調製したシリコーンゴム組成物を金型に投入し、加硫成形して2mm厚のシート状のゴム架橋物(幅150mm、長さ150mm)を作製した。なお、加硫条件は100℃で15分間とした。作製した架橋物について、JIS K6253-3に準拠し、タイプAデュロメータを用いて硬度を測定し、測定した硬度の平均値を求めて架橋物の硬度とした。
ここで、柔軟性を示す硬度は、60以下であることが求められる。
【0062】
<体積抵抗率>
調製したシリコーンゴム組成物を金型に投入し、加硫成形して2mm厚のシート状のゴム架橋物(幅150mm、長さ150mm)を作製した。なお、加硫条件は100℃で15分間とした。次に、作製したシート状架橋物から、寸法50mm×50mmの正方形の試験片を切り出し、測定サンプルとした。低抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、製品名「ロレスタ(登録商標)MCP-T610」)用い、JIS K7194に準拠した方法で測定サンプルの体積抵抗率を測定した。具体的には、測定サンプルを絶縁ボードの上に固定し、最大90Vの電圧をかけて各測定サンプルの任意の箇所の体積抵抗率を9点測定した。そして、測定値の平均値を求めてシート状架橋物の体積抵抗率(ρV1)とした。なお、低抵抗率計の四端針プローブには、LSPプローブを選択した。
ここで、導電性を示す体積抵抗率は、5×10Ω・cm以下であることが求められる。
【0063】
<180°屈曲した時の体積抵抗率変化率>
体積抵抗率測定において作成した測定サンプルと同じ、寸法50mm×50mmの正方形の試験片を作成し、この試験片を測定サンプルとした。この試験片を1~2秒かけて180°折り曲げ、180°折り曲がった湾曲箇所に低抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、製品名「ロレスタ(登録商標)MCP-T610」)の四端針プローブ(PSPプローブ)を当て、180°屈曲した時の体積抵抗率を測定した。最大90Vの電圧をかけて各測定サンプルの任意の箇所の体積抵抗率を9点測定した。そして、測定値の平均値を求めて180°屈曲した時の体積抵抗率(ρV2)とした。
180°屈曲した時の体積抵抗率変化率(Δρ、%)は、以下の式より求めた。
Δρ=ρV2/ρV1×100
ここで、導電性を示す体積抵抗率は、1.6以下であることが求められる。
【0064】
(実施例1)
溶媒としてのメチルエチルケトン(9960g)に、単層CNTを含むカーボンナノチューブとしてのSGCNT(ゼオンナノテクノロジー社、製品名「ZEONANO SG101」、平均直径(D):4nm、BET比表面積:1315m/g、長さ:300μm、t-プロットは上に凸)(40g)を加え、撹拌機(PRIMIX製、ラボ・リューション(登録商標))を用いて15分間撹拌した。さらに、湿式ジェットミル(吉田機械興業社製、商品名「L-ES007」を用いて、SGCNTを含有する溶液を100MPaで処理して、メチルエチルケトンとSGCNTとを含む分散処理溶液を得た。
【0065】
次に、得られたメチルエチルケトンとSGCNTとを含む分散処理溶液の500gに、液状シリコーンゴムA液(信越化学工業社製、製品名「KE-109E-A」、粘度(条件:25℃、回転数6rpm):1000mPa・s)100gを加え、15分間撹拌し、液状シリコーンゴムA液およびSGCNTを含む分散液を得た。その後、得られた分散液から静置乾燥によって溶媒を除去した後、更に60℃で12時間減圧乾燥し、液状シリコーンゴムA液とSGCNTとの混合物1Aを得た。
【0066】
同様に、メチルエチルケトンとSGCNTとを含む分散処理溶液の500gに、液状シリコーンゴムB液(信越化学工業社製、製品名「KE-109E-B」)100gを加え、15分間撹拌し、液状シリコーンゴムB液およびSGCNTを含む分散液を得た。その後、得られた分散液から静置乾燥によって溶媒を除去した後、更に60℃で12時間減圧乾燥し、液状シリコーンゴムB液とSGCNTとの混合物1Bを得た。
【0067】
次いで、液状シリコーンゴムA液とSGCNTとの混合物1Aを100gと、液状シリコーンゴムB液とSGCNTとの混合物1Bを100gとを混合し、得られた混合物を厚さ2mm×幅150mm×長さ150mmの金型に投入し、100℃で15分間加熱することで、シート状の架橋物を得た。得られたシート状架橋物を用いて、架橋物中の回転半径(CNTバンドル半径に相当)、架橋物の硬度、体積抵抗率、180°屈曲した時の体積抵抗率変化率を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
混合物を調製する際に、液状シリコーンゴム100質量部に対するSGCNT添加量が1質量部となるよう、液状シリコーンゴムA液およびB液100g、それぞれメチルエチルケトンとSGCNTとを含む分散処理溶液250gを加えた以外は実施例1と同様にして、シート状架橋物を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
混合物を調製する際に、液状シリコーンゴム100質量部に対するSGCNT添加量が0.5質量部となるよう、液状シリコーンゴムA液およびB液100g、それぞれメチルエチルケトンとSGCNTとを含む分散処理溶液125gを加え、更に金属粒子としての銀粒子(三井金属鉱業社製、製品名「SPH02J」)20gを加えた以外は実施例1と同様にして、シート状架橋物を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
混合物を調製する際に、液状シリコーンゴム100質量部に対する、SGCNTの添加量が1質量部、およびMWCNT(Kumho Petrochemical社製、製品名「K-nanos 100P」、平均直径(D):12nm、BET比表面積:259m/g、G/D比:0.9、長さ:35μm)の添加量が1質量部となるよう、液状シリコーンゴムA液およびB液100g、それぞれメチルエチルケトンとカーボンナノチューブとを含む分散処理液250gを加えた以外は実施例1と同様にして、シート状架橋物を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例5)
混合物を調製する際に、液状シリコーンゴム100質量部に対するカーボンナノチューブとしてのMWCNT(Kumho Petrochemical社製、製品名「K-nanos 100P」、平均直径(D):12nm、BET比表面積:259m/g、G/D比:0.9、長さ:35μm)の添加量が2質量部となるよう、液状シリコーンゴムA液およびB液100g、それぞれメチルエチルケトンとSGCNTとを含む分散処理溶液250gを加えた以外は実施例1と同様にして、シート状架橋物を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
シクロヘキサン9800gにミラブル型シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング社製、製品名「SH831U」)190gを加え、48時間撹拌して溶解させた。得られたシリコーンゴム溶液に対し、SGCNTを10g加えた後、撹拌機(PRIMIX製、ラボ・リューション(登録商標))を用いて、15分間撹拌した。更に、湿式ジェットミル(吉田機械興業社製、商品名「L-ES007」を用いて、SGCNTを加えた溶液を、100MPaで処理した。その後、得られたミラブル型シリコーンゴムとSGCNTとを含む分散処理溶液を、10000gの2-プロパノールと40000gのメタノールとの混合液に滴下し黒色固体を得た。そして、得られた黒色固体を60℃で48時間減圧乾燥し、ミラブル型シリコーンゴムとSGCNTの混合物を得た。
【0073】
次いで、得られたミラブル型シリコーンゴムとSGCNTの混合物126gに対して、ミラブル型シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング社製、製品名「SH831U」)80g、架橋剤(東レダウコーニング社製、パーオキサイド系架橋剤(製品名「RC-4(50P)」)1.5gを、6インチオープンロールを用いて混練りし、ミラブル型シリコーンゴムとSGCNTとの組成物を得た。
【0074】
次いで、得られた組成物を厚さ2mm×幅150mm×長さ150mmの金型に投入し、160℃、圧力10MPaで15分間架橋し一次加硫シートを得た。更に、200℃のギヤ―オーブンに4時間静置し、二次加硫させたシート状架橋物を得た。得られたシート状架橋物を用いて、架橋物の硬度、体積抵抗率、180°屈曲した時の体積抵抗率変化率を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)
混合物を調製する際に、液状シリコーンゴム100質量部に対するSGCNT添加量が8質量部となるよう、液状シリコーンゴムA液およびB液100g、それぞれメチルエチルケトンとSGCNTとを含む分散処理溶液2000gを加えた以外は実施例1と同様にして、シート状架橋物を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例3)
混合物を調製する際に、液状シリコーンゴム100質量部に対するSGCNT添加量が0.1質量部となるよう、液状シリコーンゴムA液およびB液100g、それぞれメチルエチルケトンとSGCNTとを含む分散処理溶液25gを加えた以外は実施例1と同様にして、シート状架橋物を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例4)
SGCNTに替えてケッチェンブラック(ライオン社製、製品名「EC300JD」)を用い、混合物を調製する際に、液状シリコーンゴム100質量部に対するケッチェンブラック添加量が3質量部となるよう、液状シリコーンゴムA液およびB液100gに、それぞれメチルエチルケトンとケッチェンブラックとを含む分散処理溶液375gを加えた以外は実施例1と同様にして、シート状架橋物を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例5)
単層CNTを含むSGCNTに替えて、多層CNT(ナノシル社製、製品名「NC7000」、長さ2μm)を用いた以外は実施例1と同様にして、シート状架橋物を作製した。そして、実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1の実施例1~5に示すように、長さが5μm超のCNTを含有する導電性フィラーを0.5~5体積%の範囲で添加するとともに、ゴム組成物中における回転半径の測定結果が40~300nmの範囲であることにより、硬度が60以下、体積抵抗率が5.0×10(Ω・cm)以下、体積抵抗率変化率が1.6以下となり、柔軟性と導電性のバランスに優れ、かつ、外力を加えたとしても導電性が十分に維持できていることがわかる。
【0081】
表1の比較例1に示すように、回転半径が40nmを下回ることにより、硬度が低く柔軟性に優れるとともに、体積抵抗率が低くて十分な導電性を有するものの、積抵抗率変化率の点で劣ることがわかる。
【0082】
表1の比較例2に示すように、導電性フィラーの量が5体積%を上回ることにより、体積抵抗率や体積抵抗率変化率の点では優れるものの、硬度が高く柔軟性の点で劣ることがわかる。
【0083】
表1の比較例3に示すように、導電性フィラーの量が0.5体積%を下回ることにより、硬度が低く柔軟性に優れるとともに、体積抵抗率が低く導電性に優れるものの、体積抵抗率変化率の点で劣ることがわかる。
【0084】
表1の比較例4に示すように、導電性フィラーがCNTを含まないことにより、硬度が低く柔軟性に優れるものの、体積抵抗率と体積抵抗率変化率がいずれも劣ることがわかる。
【0085】
表1の比較例5に示すように、導電性フィラーに含まれるCNTの長さが5μm以下であるとともに、回転半径が40nmを下回ることにより、硬度が低く柔軟性に優れるものの、体積抵抗率と体積抵抗率変化率がいずれも劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のゴム組成物によれば、柔軟性および導電性にそれぞれ優れた上で、当該ゴム組成物の成形体を形成し、その成形体を例えば屈曲等により変形させたとしても、十分な導電性を維持できる。
また、本発明のゴム組成物によれば、柔軟性と導電性に優れ、屈曲等により変形させたとしても、十分な導電性を維持できる電極を提供することができる。