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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】廃ポリスチレン製品のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/12 20060101AFI20230725BHJP
   C08F 12/08 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08J11/12 ZAB
C08F12/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022522191
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018165
(87)【国際公開番号】W WO2021230312
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020086056
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】藤平 衛
(72)【発明者】
【氏名】水口 良
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-002519(JP,A)
【文献】特開2003-335710(JP,A)
【文献】特開2013-091717(JP,A)
【文献】特開2005-220179(JP,A)
【文献】特開2010-195895(JP,A)
【文献】特開2008-156457(JP,A)
【文献】特開平09-324068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00
B29B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解装置を用いて、無着色のポリスチレン製品と有色のポリスチレン製品とを含む廃ポリスチレン製品を熱分解処理して、廃ポリスチレンからリサイクルスチレンモノマーを得る工程、
前記熱分解により生じたスラリー成分に対し、分離装置を用いて、前記スラリー成分から固形物を除去する工程、及び
前記固形物が除去された清澄スラリーに対し、前記熱分解装置を用いて、熱分解する工程、
を含むことを特徴とする廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
【請求項2】
前記廃ポリスチレン製品を粉砕し、廃ポリスチレン製品の粉砕物を得て、前記粉砕物を熱分解処理する、請求項に記載の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
【請求項3】
前記リサイクルスチレンモノマーを得る工程が、
熱分解装置を用いて、廃ポリスチレン製品を熱分解する工程、
前記熱分解により発生した蒸気を凝縮器に供することにより、リサイクルスチレンモノーを含む油成分とガスフレア成分とが混合された熱分解生成物から、ガスフレア成分を除去し、リサイクルスチレンモノマーを含む油成分を得る工程、及び
前記リサイクルスチレンモノマーを含む油成分に対し、蒸留塔を用いて、リサイクルスチレンモノマーを純度を向上させるために蒸留精製する工程、
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
【請求項4】
前記熱分解装置が、マイクロ波を用いた熱分解装置である、請求項に記載の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
【請求項5】
前記リサイクルスチレンモノマーは、スチレンモノマー以外に、無機物、芳香族化合物、シクロヘキサジエン系化合物、及びシクロヘキセン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項に記載の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
【請求項6】
無着色のポリスチレン製品と有色のポリスチレン製品とを含む廃ポリスチレン製品を回収する工程、
回収された廃ポリスチレン製品を熱分解処理し、廃ポリスチレンからリサイクルスチレンモノマーを得る工程、
前記リサイクルスチレンモノマーを重合し、リサイクルポリスチレンを得る工程、
前記熱分解により生じたスラリー成分に対し、分離装置を用いて、前記スラリー成分から固形物を除去する工程、及び
前記固形物が除去された清澄スラリーに対し、前記熱分解装置を用いて、熱分解する工程、及び
前記リサイクルポリスチレンからなるリサイクルされたポリスチレン製品を得る工程、
を含むことを特徴とする廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃ポリスチレン製品のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や家庭から排出されるプラスチック類には種々のプラスチックが存在するが、中で
もポリスチレンは、食品包装用トレイ、電化製品や情報機器のケース、断熱材、緩衝材な
ど多くの分野に利用されており、廃プラスチックに占める割合も多い。そのため大量に排
出される廃ポリスチレンを資源としてリサイクルすることは重要な技術的課題であり、そ
のため種々のリサイクル方法が提案されている。
【0003】
廃ポリスチレンのリサイクル方法としてマテリアルリサイクルがある。マテリアルリサ
イクルでは、廃ポリスチレンを回収し、洗浄/粉砕/ペレット化の各工程を経て、再びポ
リスチレン製品を製造する。廃ポリスチレンのマテリアルリサイクルについて各種提案が
なされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-7424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、再溶融法によりポリスチレン製品を製造するマテリアルリサイクルは、ポリス
チレンの溶融を繰り返すことでポリスチレンが低分子化するため、ポリスチレンの強度が
下がるという問題がある。ナフサ由来のスチレンモノマーを重合して形成されるポリスチ
レン(以下、ナフサ由来のポリスチレンともいう)と同等の強度を得るためには、例えば
、マテリアルリサイクルで製造されるポリスチレンに対して、ナフサ由来のポリスチレン
を加えて補強する必要がある。
【0006】
そこで、使用済みのポリスチレン製品、いわゆる廃ポリスチレン製品をリサイクルして
得られるポリスチレン(以下、リサイクルポリスチレンともいう)が、ナフサ由来のポリ
スチレンと同等の強度を示すポリスチレンとなるようなリサイクルポリスチレンを製造で
きる、廃ポリスチレン製品の新しいリサイクル方法が望まれている。
【0007】
本発明は、マテリアルリサイクルで製造されるポリスチレンと比べて強度が向上したリ
サイクルポリスチレンを製造できる、廃ポリスチレン製品のリサイクル方法を提供するこ
とを目的とする。また、廃ポリスチレン製品をマテリアルリサイクルすることで樹脂焼け
によるポリスチレンの色相悪化が生じるため、ポリスチレンの色相悪化を抑制できるリサ
イクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、回収した廃ポリスチレ
ンから熱分解することにより、スチレンモノマーを再生するケミカルリサイクルを利用す
ることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]廃ポリスチレン製品を熱分解処理して、廃ポリスチレンからリサイクルスチレンモノ
マーを得る工程、
を含むことを特徴とする廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
[2]前記廃ポリスチレン製品が、無着色のポリスチレン製品と有色のポリスチレン製品と
を含む、[1]に記載の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
[3]前記廃ポリスチレン製品を粉砕し、廃ポリスチレン製品の粉砕物を得て、前記粉砕物
を熱分解処理する、[1]又は[2]に記載の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
[4]前記リサイクルスチレンモノマーを得る工程が、
熱分解装置を用いて、廃ポリスチレン製品を熱分解する工程、
前記熱分解により発生した蒸気を凝縮器に供することにより、リサイクルスチレンモノ
マーを含む油成分とガスフレア成分とが混合された熱分解生成物から、ガスフレア成分を
除去し、リサイクルスチレンモノマーを含む油成分を得る工程、及び
前記リサイクルスチレンモノマーを含む油成分に対し、蒸留塔を用いて、リサイクルス
チレンモノマーを純度を向上させるために蒸留精製する工程、
を含む、[1]から[3]のいずれかに記載の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
[5]前記熱分解により生じたスラリー成分に対し、分離装置を用いて、前記スラリー成分
から固形物を除去する工程、及び
前記固形物が除去された清澄スラリーに対し、前記熱分解装置を用いて、熱分解する工
程、
をさらに含む、[4]に記載の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
[6]前記熱分解装置が、マイクロ波を用いた熱分解装置である、[4]又は[5]に記載の廃
ポリスチレン製品のリサイクル方法。
[7]前記リサイクルスチレンモノマーは、スチレンモノマー以外に、無機物、芳香族化合
物、シクロヘキサジエン系化合物、及びシクロヘキセン系化合物からなる群から選択され
る少なくとも1種を含有する、[1]から[6]のいずれかに記載の廃ポリスチレン製品のリ
サイクル方法。
[8]廃ポリスチレン製品を回収する工程、
回収された廃ポリスチレン製品を熱分解処理し、廃ポリスチレンからリサイクルスチレ
ンモノマーを得る工程、
前記リサイクルスチレンモノマーを重合し、リサイクルポリスチレンを得る工程、及び
前記リサイクルポリスチレンからなるリサイクルされたポリスチレン製品を得る工程、
を含むことを特徴とする廃ポリスチレン製品のリサイクル方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、マテリアルリサイクルで製造されるポリスチレンと比べて強度が向上し
たリサイクルポリスチレンが製造できる、廃ポリスチレン製品のリサイクル方法を提供す
ることができる。
また、廃ポリスチレン製品をマテリアルリサイクルすることで生じる樹脂焼けが本発明
では起きないことから、本発明により、樹脂の色相の悪化が抑制されたリサイクルポリス
チレンを製造できる、廃ポリスチレン製品のリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法の一態様を示す概略図である。
図2】本発明の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法におけるリサイクルスチレンモノマーの製造工程の一態様を示す概略図である。
図3】本発明の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法におけるリサイクルスチレンモノマーの製造工程の他の態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法について詳細に説明するが、以下
に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に
特定されるものではない。
【0013】
(本発明の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法)
本発明の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法は、廃ポリスチレン製品を熱分解処理し
て、廃ポリスチレンからリサイクルスチレンモノマーを得る工程を含む。
本発明のリサイクル方法は、廃ポリスチレン製品から、ポリスチレン製品の原料である
スチレンモノマーを製造するケミカルリサイクル方法である。
廃ポリスチレンは、本発明のリサイクルスチレンモノマー、または石油由来のスチレン
モノマーからなるポリスチレン製品、または、マテリアルリサイクルにより得られたポリ
スチレン製品の廃棄物である。
さらに、本発明の廃ポリスチレン製品のリサイクル方法の好ましい実施態様として、以
下の1)~4)の工程を含む廃ポリスチレン製品のリサイクル方法が挙げられる。
1)廃ポリスチレン製品を回収する工程(以下、回収工程ともいう)
2)回収された廃ポリスチレン製品を熱分解処理し、廃ポリスチレンからリサイクルス
チレンモノマーを得る工程(以下、リサイクルスチレンモノマーの製造工程ともいう)
3)リサイクルスチレンモノマーを重合し、リサイクルポリスチレンを得る工程(以下
、リサイクルポリスチレンの製造工程ともいう)
4)リサイクルポリスチレンからなるリサイクルされたポリスチレン製品を得る工程(
以下、ポリスチレン製品の製造工程ともいう)
本発明において、リサイクルスチレンモノマーとは、リサイクルされたスチレンモノマ
ー、つまり廃ポリスチレンからリサイクル工程を経て得られたスチレンモノマーをいう。
また、本発明において、リサイクルポリスチレンとは、リサイクルされたポリスチレン
、つまりリサイクルスチレンモノマーを重合して得られたポリスチレンまたは、マテリア
ルリサイクルにより得られたポリスチレンをいう。
【0014】
上記4)の工程で得られたリサイクルされたポリスチレン製品(以下、リサイクルポリ
スチレン製品ともいう)は、市場に供給される。その後、不要となったリサイクルポリス
チレン製品、及び使用済みリサイクルポリスチレン製品等の廃リサイクルポリスチレン製
品は、再び回収される。
再び回収された廃リサイクルポリスチレン製品は、2)の工程の熱分解処理に供される
。これにより、再びリサイクルスチレンモノマーを製造することができる。
このように、1)~4)の工程を経て製造されたリサイクルポリスチレン製品は、再び
1)~4)の工程に供され、リサイクルポリスチレン製品を製造することができる。
本発明により、廃ポリスチレン製品をリサイクルポリスチレン製品へ繰り返し製造する
ことができ、廃ポリスチレン製品の循環型リサイクルシステムの確立が可能となる。
【0015】
図1により、本発明のリサイクル方法の概要を説明する。
廃ポリスチレン製品1は回収される(回収工程A)。
回収された廃ポリスチレン製品は、熱分解処理工程、油成分取得工程、及び蒸留精製工
程等の各工程が施され、リサイクルモノマー2が製造される(リサイクルスチレンモノマ
ーの製造工程B)。
製造されたリサイクルスチレンモノマー2は重合され、リサイクルポリスチレン3が製
造される(リサイクルポリスチレンの製造工程C)。
製造されたリサイクルポリスチレン3を利用して、各種ポリスチレン製品4が製造され
る(ポリスチレン製品の製造工程D)。
製造されたポリスチレン製品4は、不要となった場合、廃ポリスチレン製品1として、
回収工程Aに供することができる。
廃ポリスチレン製品1は、本発明から得られたポリスチレン製品4、石油由来のスチレ
ンモノマーを含むポリスチレン製品、または、マテリアルリサイクルにより得られたポリ
スチレン製品の廃棄物である。
図1で示されるように、本発明のリサイクル方法によれば、廃ポリスチレン製品の循環
型リサイクルシステムの確立が可能となる。
以下、上記1)~4)の各工程について、詳しく説明する。
【0016】
<回収工程A>
廃ポリスチレン製品を回収する。
ここで、廃ポリスチレン製品とは、不要となったポリスチレン製品や使用済みポリスチ
レン製品等の廃棄されるポリスチレン製品をいう。
回収された廃ポリスチレン製品は、上記2)の工程の熱分解処理に供される。上記2)
の工程に供される廃ポリスチレン製品は、回収後特に選別される必要はなく、回収された
全ての廃ポリスチレン製品を上記2)の工程の熱分解処理に供することができる。
例えば、ポリスチレンの製品には、着色されている製品もあるが、マテリアルリサイク
ルにおいて何の制限もなく使用できるのは、無着色のポリスチレン製品だけである。着色
されたポリスチレン製品(例えば、黒色のポリスチレン製品)は、ハンガー等特定の用途
の製品にしかリサイクルできない。
本発明のリサイクル方法によれば、着色されたポリスチレン製品(例えば、黒色のポリ
スチレン製品)と無着色のポリスチレン製品を分別することなく、着色されたポリスチレ
ン製品(例えば、黒色のポリスチレン製品)と無着色のポリスチレン製品とを含む廃ポリ
スチレン製品から、無着色のリサイクルポリスチレン製品を製造することができる。
本発明のリサイクル方法によれば、無着色のポリスチレン製品も、着色された(有色の
)ポリスチレン製品も両方混在した状態で、上記2)の工程の熱分解処理に供することが
できる。
ここで、着色された(有色の)ポリスチレン製品とは、有色に着色するために顔料等の
着色剤が組み合わされているポリスチレン製品をいう。組合せの態様は、例えば、ポリス
チレン基材への添加、着色されたラミネートフィルムの貼付などが挙げられる。
本発明によれば、回収後、製品を色別に分別する作業を行う必要はなく、無着色のポリ
スチレン製品だけでなく、有色のポリスチレン製品もリサイクル対象とすることができる
。本発明により、回収後の分別作業に係る労力を削減することができる。また廃ポリスチ
レン製品のリサイクル利用率を向上させることができ、廃ポリスチレン製品のスチレンを
100%リサイクルすることも期待できる。
【0017】
<<粉砕工程>>
回収した廃ポリスチレン製品を熱分解処理工程に供する前に、適宜必要に応じて、廃ポ
リスチレン製品を粉砕し、廃ポリスチレンの粉砕物を得る工程をさらに設けてもよい。
つまり、廃ポリスチレン製品を粉砕し、廃ポリスチレン製品の粉砕物を得て、該粉砕物
を上記2)の工程の熱分解処理に供してもよい。
【0018】
<リサイクルスチレンモノマーの製造工程B>
本発明では、ポリスチレンを熱分解することにより生じた熱分解生成物から、スチレン
モノマーを含む凝縮性オイル(本発明では、モノマー油成分ともいう)を得て、該凝縮性
オイルを精製することにより、リサイクルスチレンモノマーを得る。リサイクルスチレン
モノマーの精製方法によりリサイクルスチレンモノマー中のスチレンの純度は、異なる。
本発明において、モノマー油成分とは、スチレンモノマーを含む油成分をいう。
【0019】
リサイクルスチレンモノマー製造工程Bの好ましい実施態様としては、以下のとおりで
ある。
廃ポリスチレン製品を熱分解処理する。これにより、モノマー油成分とガスフレア成分
とが混合された熱分解生成物が蒸気として発生する。その蒸気を凝縮分離することにより
、ガスフレア成分を除去し、モノマー油成分を得る。該モノマー油成分を蒸留精製するこ
とにより、スチレンモノマーを得る。このようにして、廃ポリスチレンからスチレンモノ
マーが製造できる。
つまり、リサイクルスチレンモノマー製造工程Bの好ましい実施態様としては、熱分解
処理工程と、油成分取得工程と、蒸留精製工程とを含む製造工程が挙げられる。
さらに、本発明では、熱分解処理工程の後に、分離工程を含む製造工程であるとより好
ましい。
以下、リサイクルスチレンモノマー製造工程Bを構成する各工程について、図2を参照
しつつ、詳しく説明する。
【0020】
<<熱分解処理工程>>
回収された廃ポリスチレン製品1を熱分解処理する。
図2で示すように、廃ポリスチレン製品1を熱分解装置aを用いて、熱分解処理すると
、蒸気(分解ガス)10が発生する。蒸気として得られるこの熱分解生成物には、モノマ
ー油成分14とガスフレア成分15とが含まれている。
ここで、ガスフレア成分とは、ガス成分やコークス成分をいう。
熱分解装置の種類としては、ポリスチレンから上述したようにモノマー油成分14とガ
スフレア成分15とを含む熱分解生成物を得ることができれば、特に制限はないが、例え
ば、マイクロ波を用いた熱分解装置であることが好ましい。
【0021】
<<<マイクロ波を用いた熱分解装置>>>
マイクロ波を用いた熱分解装置を用いてポリスチレンを熱分解する方法について、以下
説明する。
「マイクロ波」という用語は、波長が1メートルから1ミリメートルの電磁波、または
周波数が300MHz(0.3GHz)~300GHzの電磁波を意味する。
好ましくは、本発明での使用に適したマイクロ波は、約915MHz~約2450MH
zの周波数の電磁波である。
マイクロ波源としては、例えば、マグネトロン管が挙げられる。
【0022】
熱分解処理に供する廃ポリスチレン製品には、該廃ポリスチレン製品のマイクロ波熱分
解を開始するため、触媒を添加させることが好ましい。
係る触媒としては、マイクロ波を吸収し、熱を廃ポリスチレン製品に伝達し、廃ポリス
チレン製品の熱分解反応に寄与すれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択すること
ができるが、例えば、マイクロ波の周波数で高い誘電損失を有する化合物を含む触媒であ
ることが好ましい。
あるいは、触媒としては、以前に行われた熱分解反応からの炭素質残留物、マイクロ波
吸収添加剤を含むセラミックビーズ、マイクロ波吸収添加剤を含むペレット、又はそれら
の組み合わせからなる触媒であってもよい。この場合、マイクロ波吸収添加剤としては、
例えば、炭化ケイ素、窒化硼素などが挙げられる。
あるいは、触媒としては、約80質量%~約90質量%の炭素を含む炭素化合物からな
る触媒であってもよく、例えば、グラファイトが挙げられる。
触媒は、触媒と廃ポリスチレン製品とを合わせた熱分解処理に供する原料中、0.5質
量%~50質量%含まれていることが好ましく、0.5質量%~5質量%含まれているこ
とがより好ましく、0.5質量%~2.5質量%含まれていることがさらに好ましい。
【0023】
熱分解処理は、酸素が添加されない状況下で行われることが好ましい。
ここで、「酸素を添加しない」とは、分子状酸素(O)ガスを添加しないことを意味
する。
本発明の熱分解反応では、分子状酸素(O)ガスを添加させず、熱分解装置内の酸素
含有量が、熱分解を進行させるのに適した残量であるときに、熱分解処理が開始されるこ
とが好ましい。
ここで、熱分解装置内に残留している酸素の所望の含有量としては、約10体積%以下
であることが好ましく、約5体積%以下であることがより好ましい。
【0024】
熱分解装置には、該熱分解装置をパージする嫌気性手段が設けられていてもよい。
嫌気性手段としては、例えば、上述した不活性ガス、流体等が挙げられる。
流体としては、水であってもよい。
不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、又は蒸気等が挙げられる。
また、嫌気性手段として、真空ポンプやベンチュリー管等の真空源も挙げられる。
嫌気性手段として、上述した不活性ガス、流体、真空源、またはそれらの組み合わせで
あってもよい。
【0025】
本発明において、製品に存在する初期の水の蒸発により生成される蒸気が、熱分解装置
内の雰囲気をパージして無酸素熱分解を可能にする。
したがって、本発明では、蒸気パージ下で熱分解処理が行われることが好ましい。
あるいは、水の蒸発による空気の適切なパージを確実にするために、所定量の水を廃ポ
リスチレン製品に添加してもよい。
分子状酸素(O)ガスは、熱分解装置内に加えられないが、廃棄物には大量の酸素が
含まれる場合がある。本発明において、熱分解反応の開始前に水分が蒸発するようにし、
温度が上昇すると熱分解装置内の生成された蒸気によりそこに存在する空気が排出される
ため、空気ではなく蒸気環境で熱分解反応が起こるようにしてもよい。空気が追い出され
、適切な温度および内部圧力に到達すると、熱分解装置は密閉される。本発明では、通常
嫌気性手段として行われる、窒素またはアルゴン雰囲気で行われる完全に酸素を含まない
熱分解ではなく、追加の酸素が導入されない蒸気熱分解で行われてもよい。
【0026】
熱の発生を可能にするのに十分な時間のマイクロ波、及び触媒を使用して、熱分解装置
の内壁でのマイクロ波の吸収及び触媒のマイクロ波の吸収により、熱分解装置内で廃ポリ
スチレン製品が加熱され、ポリスチレンが分解される。
廃ポリスチレンの熱分解処理温度は、約300℃~約650℃であることが好ましく、
約300℃~約450℃であることがより好ましい。
【0027】
図2で示すように、マイクロ波を用いた熱分解装置aを用いて廃ポリスチレン製品を熱
分解すると、上述した蒸気(モノマー油成分とガスフレア成分との混合物)10が発生す
る。尚、装置内には、スラリー成分が残留する。蒸気10は、凝縮器cを用いて、凝縮分
離されることで、モノマー油成分14とガスフレア成分15に分離される。
尚、熱分解装置aを用いて廃ポリスチレン製品を熱分解する際、図3で示すように、熱
分解装置による熱分解処理を複数回行ってもよい。熱分解処理工程を複数回設けることで
図3では2回行っている)、蒸気10を得るようにしてもよい。
【0028】
マイクロ波を用いた熱分解を行うことで、通常の外部ヒーターを用いた熱分解炉に比べ
、熱分解装置中のポリスチレンに内部から均一に熱を効率的に加えることが可能となり、
熱分解速度が速く、また、モノマー油成分中のスチレンモノマー純度を高くすることが可
能となる。
【0029】
<<分離工程>>
本発明では、熱分解処理工程により生じたスラリー成分11に対して、分離工程を行う
ことが好ましい。
つまり、熱分解により生じたスラリー成分に対し、分離装置を用いて、スラリー成分か
らスチレンモノマー、スチレンオリゴマー、エチルベンゼン、ベンゼンなどの軽液と、炭
化物(チャー)や無機物などを分離し、固形物を除去し、固形物が除去された清澄スラリ
ーに対し、再度熱分解装置を用いて、熱分解処理することが好ましい。
例えば、図2で示すように、熱分解装置aを用いてポリスチレンを熱分解した際、装置
内に生じるスラリー成分11を、分離装置bを用いて処理する。分離装置bにより、清澄
スラリー12と固形物(チャー/無機物)13とに分離し、次に清澄スラリー12を、熱
分離装置aに再投入する。
ここで、チャーとは、熱分解により発生した炭素質の副生成物をいう。
尚、スラリー成分11から清澄スラリー12を得て、該清澄スラリー12を熱分離装置
aに投入する工程は、繰り返し行うことができる。
分離装置bにより、廃ポリスチレン製品に含まれるリサイクルに不要な夾雑物を取り除
くことができる。夾雑物としては、例えば、廃ポリスチレン製品で使用されていたポリス
チレン製品を着色するための顔料や、製品を作製するための成形用成分等が挙げられる。
これら夾雑物を取り除く分離工程を取り入れることにより、例えば、有色のポリスチレン
製品をリサイクル対象としても、良好な色相と質のリサイクルスチレンモノマーを製造す
ることができる。無着色のポリスチレン製品だけでなく、有色のポリスチレン製品もリサ
イクル対象とする本発明のリサイクル方法においては、分離工程は有効である。
分離工程を加えることで、良好な品質のリサイクルスチレンモノマーを収率高く製造す
ることができる。さらに、熱分解装置中に、固形物13の堆積を抑制することができ、熱
分解炉の洗浄回数を減らすことができ、連続してモノマー油を生産することが可能となる
【0030】
<<油成分取得工程>>
廃ポリスチレンを熱分解処理することにより生成された熱分解生成物に対して、沸点の
違いを利用して凝縮分離を行い、モノマー油成分14とガスフレア成分15とに分離する
。そして、モノマー油成分14を、次工程の蒸留精製工程へ供する。
例えば、図2で示すように、熱分解処理により発生した蒸気10を凝縮器cへ供する。
凝縮器cは、冷却水が流通する冷却管を備え、熱分解装置aから排出した蒸気(分解ガ
ス)を冷却して高沸点成分を凝縮分離するものである。凝縮器cにおいて、分離された高
沸点成分であるモノマー油成分14は、第1の蒸留塔dに供給され、凝縮しない低沸点成
分のガスフレア成分15は、凝縮器の容器外に排出される。
【0031】
ガスフレア成分15を除いたモノマー油成分14に対して、蒸留精製工程へ供する前に
、再度、熱分解装置に供する工程を入れても構わない。
例えば、モノマー油成分14の中から、凝縮器を用いて、二量体成分を分離し、該二量
体成分に対して、熱分解装置を用いて熱分解処理を施すことにより得られたモノマー油成
分を、先に得られたモノマー油成分14から二量体成分を除いた残りのモノマー油成分に
加えることにより、合計されたモノマー油成分を第1の蒸留塔dに供することができる。
これにより、リサイクルスチレンモノマーの収率を上げることができる。
尚、本発明において、二量体成分には、二量体の他、三量体などのオリゴマーが含まれ
ていてもよい。
【0032】
<<蒸留精製工程>>
モノマー油成分14を蒸留塔を使用して蒸留精製を行うことにより、スチレンモノマー
と、それ以外の成分とに分離する。
例えば、図2で示すように、蒸留塔を2つ使用する。そして、第1の蒸留塔dにおいて
、モノマー油14から主にベンゼン/トルエン/エチルベンゼン成分16を分離し、残り
の成分を第2の蒸留塔eに供する。次に、第2の蒸留塔eにおいて、二量体成分/その他
(α-メチルスチレン等)の成分17を分離し、スチレンモノマー(いわゆるリサイクル
スチレンモノマー2)を得る。
ここで、二量体成分には、上述したように、二量体の他、三量体などのオリゴマーが含
まれていてもよい。
このようにして得られた本発明に係るリサイクルスチレンモノマーは、品質が良好なス
チレンモノマーである。したがって、本発明で得られたリサイクルスチレンモノマーを用
いて製造されたリサイクルポリスチレンは、ナフサ由来のポリスチレンと同等の強度、色
相を示す良好なリサイクルポリスチレンとなる。
【0033】
また、本発明では、第2の蒸留塔eにおいて、スチレンモノマーから分離された二量体
成分/その他(α-メチルスチレン等)の成分17を、再度、熱分解装置に供する工程を
入れても構わない。
例えば、図2で示すように、第2の蒸留塔eから、二量体成分/その他(α-メチルス
チレン等)の成分17が分離される。
分離された二量体成分/その他(α-メチルスチレン等)の成分17を、再度、熱分解
装置aに供する。このように、二量体成分/その他(α-メチルスチレン等)の成分17
について、再度、熱分解処理を施すことにより、追加でリサイクルスチレンモノマーが得
られる。追加で得られたリサイクルスチレンモノマーと、すでに得られている図2で示す
リサイクルスチレンモノマー2とを合計すると、リサイクルスチレンモノマーの収率をさ
らに上げることができる。
【0034】
上述した、熱分解処理工程、油成分取得工程、及び蒸留精製工程を経てリサイクルスチ
レンモノマーを製造する、リサイクルスチレンモノマーの製造工程Bは、COの排出量
が抑えられた製造方法である。
したがって、本発明のポリスチレン製品のリサイクル方法は、ライフサイクルアセスメ
ント(LCA)評価の高い製造方法であるといえる。
【0035】
<<リサイクルスチレンモノマーの特性>>
本発明で得られたリサイクルスチレンモノマーは、質の良いものではあるが、実用上悪
影響のない範囲で、わずかに不純物が含まれている。
不純物としては、トルエン、ベンゼン、クメン、二量体、三量体、エチルベンゼン、α
-メチルスチレン、n-プロピルベンゼン、フェニルアセチレン等の芳香族化合物が除去
しきれずわずかにリサイクルスチレンモノマーに含まれている場合がある。
また、不純物として、ケイ素、銅、鉄、チタン、カーボンなどの無機物が含まれている
場合もある。
また、不純物として、1,3-シクロヘキサジエン、2-エチル-1,3-シクロヘキ
サジエン、2-ビニル-1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-シクロヘキ
サジエン、1,4-シクロヘキサジエン、2-エチル-1,4-シクロヘキサジエン、2
-ビニル-1,4-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,4-シクロヘキサジエン等の
シクロヘキサジエン系化合物や、シクロヘキセン、シクロヘキセンヘキサン等のシクロヘ
キセン系化合物などの化合物がわずかに含まれている場合もある。
リサイクルスチレンモノマーにおける上記不純物の含有量としては、上限が、通常10
質量%以下であり、5質量%以下でもよく、3質量%以下でもよく、1質量%以下でもよ
く、また、下限は特に限定されないが、通常0質量%より多い。これらの上限と下限はい
かなる組合せでもよい。リサイクルスチレンモノマーにおける不純物の含有量は、通常0
質量%より多く10質量%以下であり、0質量%より多く5質量%以下でもよく、0質量
%より多く3質量%以下でもよく、0質量%より多く1質量%以下でもよい。
中でも、リサイクルスチレンモノマーにおける無機成分の含有量としては、上限は通常
0.1質量%以下であり、0.01質量%以下でもよく、0.001質量%以下でもよい
、また、下限は特に限定されないが、通常0質量%より多い。これらの上限と下限はいか
なる組合せでもよい。リサイクルスチレンモノマーにおける無機成分の含有量は、通常0
質量%より多く0.1質量%以下、0質量%より多く0.01質量%以下でもよく、0質
量%より多く0.001質量%以下でもよく、0質量%より多く1質量%以下でもよい。
【0036】
<リサイクルポリスチレンの製造工程C>
得られたリサイクルスチレンモノマーを重合し、リサイクルポリスチレンを得る。
得られたリサイクルポリスチレンは、上述したように、マテリアルリサイクルで製造さ
れるポリスチレンと比べて強度が向上したリサイクルポリスチレンとなる。
得られたリサイクルポリスチレンは、樹脂焼けによる色相の悪化が抑制されたポリスチ
レンとなる。
スチレンモノマーの重合法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、及び気相
重合法などがあり、いずれの方法も採用することができる。
溶液重合法は、例えば、スチレンモノマーに沸点130℃~200℃のエチルベンゼン
、トルエンなどの溶媒を5~20%混合して重合する方法であり、塊状重合法は、例えば
、スチレンモノマーに触媒などを添加し加熱して重合する方法であり、懸濁重合法は、例
えば、大量の水に分散剤を用いてスチレンモノマーを粒子として分散させ、パーオキサイ
ドのような触媒を用いて重合する方法である。
【0037】
リサイクルスチレンモノマーを重合して得られるリサイクルポリスチレンの態様として
は、スチレン単独の重合体(スチレンホモポリマー)だけでなく、スチレンモノマーとス
チレン以外のモノマーとの共重合体(コポリマー)も含み得る。また、ブタジエンゴム等
の存在下でグラフト重合させたゴム変性ポリスチレンも含み得る。
【0038】
得られたリサイクルポリスチレンは、以下測定方法により強度を評価した場合に、優れ
た強度を示す。ナフサ由来のポリスチレンの強度を100とした場合、マテリアルリサイ
クルで得られるポリスチレンの強度は90程度である。ナフサ由来のポリスチレンの強度
を100とした場合、本発明におけるリサイクルポリスチレンの強度は、下限が通常90
よりも高く、好ましくは95以上、より好ましくは97以上、さらに好ましくは99以上
であり、また、上限は特に限定されないが、通常100以下である。これらの上限と下限
はいかなる組合せでもよい。ナフサ由来のポリスチレンの強度を100とした場合、リサ
イクルポリスチレンの強度は100以上でもよい。ナフサ由来のポリスチレンの強度を1
00とした場合、本発明により得られたリサイクルポリスチレンの強度は、通常90より
大きく100以下、好ましくは95以上100以下、より好ましくは97以上100以下
、さらに好ましくは99以上100以下である。
【0039】
[ポリスチレン強度の測定方法]
ポリスチレンの強度は、例えばJIS K 7161-1,2に従って、引張破壊応力
で評価したり、JIS K 7171に従って、曲げ強さで評価することができる。また
、ゴム変性ポリスチレンの場合は、JIS K 7111-1に従ってシャルピー衝撃強
さで評価することもできる。
【0040】
得られたリサイクルポリスチレンは、以下測定方法により色相を評価した場合に、黄色
度が抑制されるという良好な色相を示す。具体的には、黄色度(YI値)等で色相を評価
する。YI値はプラス側に大きくなるほど黄色が強く、マイナス側に大きくなるほど青色
が強いことを示す。本発明で得られるリサイクルポリスチレンのYI値は、マテリアルリ
サイクルで得られるポリスチレンのYI値より低く、YI値の差は通常0.1以上、好ま
しくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.0以上である。Y
I値の差は特に上限はない。
【0041】
[ポリスチレンの色相の測定方法]
ポリスチレンの色相は、例えば、JIS K 7373に従って測定することができる
【0042】
<ポリスチレン製品の製造工程D>
リサイクルポリスチレンからリサイクルポリスチレン製品を得る。
得られたリサイクルポリスチレン製品は、上述したように、ナフサ由来のポリスチレン
と同等の強度、色相を示す良好なリサイクルポリスチレン製品となる。
【0043】
ポリスチレン製品の形態としては、リサイクルポリスチレンを利用したものであれば、
特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、ポリスチレンの他、必要に応じて、着色剤、水、有機溶剤などのその他の成分
を含有した組成物を作製することにより、例えば、コーティング剤、インキ、接着剤とし
て使用するポリスチレン製品を製造することができる。
あるいは、リサイクルポリスチレンを含有する組成物をシート状に成形することにより
、延伸シートや発泡シート等のポリスチレン製品を製造することもできる。また、ポリス
チレンシートを成形することにより、食品包装容器(例えば、食品トレー)などのポリス
チレン製品を製造することもできる。
さらには、リサイクルポリスチレンを含有する組成物を射出成形あるいはインジェクシ
ョンブロー成形することにより、カップやボトル等の食品容器用ポリスチレン製品を製造
することもできる。
【0044】
また、一般的にマテリアルリサイクルされたプラスチックは、食品包装容器に用いる際
、内容物のマイグレーションなどが懸念され、直接食品に接触させることができないため
、用途が限定される。しかし、本発明により得られたリサイクルプラスチックは、廃ポリ
プラスチックをモノマーに分解、精製し、重合することで得られるため、直接食品に接触
することが可能となり、用途の限定がない。
【0045】
尚、上記実施態様では、廃ポリスチレンとしてホモポリマーを使用する場合について説
明したが、本発明はホモポリマーに限らず、コポリマー、すなわち廃スチレン共重合体に
も同様に適用できる。そのような廃スチレン共重合体としては、廃ゴム変性ポリスチレン
(廃HIPS)、廃スチレン-アクリル共重合体(廃AS樹脂)、廃スチレン-ブタジエ
ン-アクリル共重合体(廃ABS樹脂)などがある。本発明で廃ポリスチレンとは、これ
ら共重合体を含めることができる。
【実施例
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定
されるものではない。
【0047】
(実施例1)
使用済みのポリスチレン製品を回収し、その後、粉砕しペレット化した。廃ポリスチレ
ンのペレット化物1tをマイクロ波を用いた熱分解装置に投入した。
熱分解装置内の反応温度を350℃にし、触媒として廃ポリスチレンに対して2質量%
の炭化ケイ素を使用し、蒸気パージ下で、熱分解処理を行った。
その結果、600kgの粗リサイクルスチレンモノマーが得られた(収率60%)。精
製後のリサイクルスチレンモノマーaの純度は95%弱であった。
【0048】
(実施例2)
実施例1において、ガスフレア成分を除いたモノマー油成分に対して、蒸留精製工程へ
供する前に、再度、熱分解装置に供する工程を加えた以外は、実施例1と同様にして、粗
リサイクルスチレンモノマーを得た。
その結果、840kgの粗リサイクルスチレンモノマーが得られた(収率84%)。精
製後のリサイクルスチレンモノマーbの純度は99.8%強であった。
【0049】
(実施例3)
実施例1において、第2の蒸留塔において、粗リサイクルスチレンモノマーから分離さ
れた二量体成分/その他(α-メチルスチレン等)の成分を、再度、熱分解装置に供する
工程を加えた以外は、実施例1と同様にして、リサイクルスチレンモノマーcを得た。
その結果、実施例1で分離された二量体成分/その他(α-メチルスチレン等)の成分
から、さらに240kgの粗リサイクルスチレンモノマーが得られた。実施例1で得られ
たリサイクルスチレンモノマーaと合わせると、実施例1及び実施例3から、合計840
kgの粗リサイクルスチレンモノマーが得られた(収率84%)。精製後のリサイクルス
チレンモノマーcの純度は95%弱であった。
【0050】
(実施例4)
実施例1~3で得られたリサイクルスチレンモノマーa~cをそれぞれ用い、スチレン
95部、トルエン5部からなる混合溶液を調整し、更に、有機過酸化物としてスチレンに
対し400ppmのt-ブチルパーオキシベンゾエートを加え、120~160℃の連結
した管状反応器に供給して連続塊状重合を行った。重合させて得られた混合溶液を熱交換
器で220℃まで加熱し、50mmHgの減圧下で揮発性成分を除去した後、ペレット化
してリサイクルポリスチレンA~Cを得た。
得られたそれぞれのリサイクルポリスチレンA~Cに対して、下記に記載の方法により
、強度及び色相を評価した。
【0051】
(比較例1)
使用済みスチレン系樹脂組成物100質量部を、二軸混練押出成形機を用い、シリンダ
ー温度220℃で溶融混練し、ストランドを水冷却後ペレタイズし、ポリスチレンDを得
た。
マテリアルリサイクルで得られたポリスチレンDに対して、下記に記載の方法により、
強度及び色相を評価した。
【0052】
比較の結果、リサイクルポリスチレンA~Cは、マテリアルリサイクルで得られたポリ
スチレンDと比較して優れた強度、及び色相を示すことが確認できた。マテリアルリサイ
クルで得られたポリスチレンDの強度の測定値が45MPaであったのに対してリサイク
ルポリスチレンA~Cの強度の測定値は全て50MPaを示した。マテリアルリサイクル
で得られたポリスチレンDのYI値が1.0であったのに対してリサイクルポリスチレン
A~Cは0.4を示した。
【0053】
[ポリスチレン強度の測定方法]
得られたペレットを用いて、射出成形機(成形温度220℃)にて評価用のダンベル成
形品を作製した。このダンベル成形品を用いて、引張試験を実施し、引張破壊応力を測定
した。
【0054】
[ポリスチレンの色相の測定方法]
得られたペレットを用いて、射出成形機(成形温度220℃)にて評価用のプレート成
形品を作製した。このプレート成形品を用いて、透過測定法によりYI値を測定した。
【0055】
本発明のリサイクル方法を用いて、廃ポリスチレンからリサイクルスチレンモノマーを
製造した場合、高収率かつ高純度でリサイクルスチレンモノマーを製造することができる
ことがわかった。
本発明のリサイクル方法によると、廃ポリスチレンから、高品質なスチレンモノマーが
製造でき、そのリサイクルスチレンモノマーを重合して得られたリサイクルポリスチレン
は、強度及び色相に優れたものであることがわかった。
本発明により、廃ポリスチレン製品のスチレンを100%リサイクルすることが期待で
きる、100%循環型ポリスチレンのリサイクルシステムが確立できる。
【符号の説明】
【0056】
1 廃ポリスチレン製品
2 リサイクルスチレンモノマー
3 リサイクルポリスチレン
4 ポリスチレン製品
10 蒸気
11 スラリー
12 清澄スラリー
13 固形物(チャー/無機物)
14 モノマー油
15 ガスフレア
16 ベンゼン/トルエン/エチルベンゼン
17 二量体/その他(α-メチルスチレン)
A 回収工程
B リサイクルスチレンモノマーの製造方法
C リサイクルポリスチレンの製造方法
D ポリスチレン製品の製造方法
a 熱分解装置
b 分離装置
c 凝縮器
d 第一の蒸留塔
e 第二の蒸留塔
図1
図2
図3