(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】積層造形物の欠陥予測方法および積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/80 20210101AFI20230725BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20230725BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230725BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20230725BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230725BHJP
C22C 19/05 20060101ALN20230725BHJP
B22F 9/08 20060101ALN20230725BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20230725BHJP
C22C 1/04 20230101ALN20230725BHJP
【FI】
B22F10/80
B22F10/38
B22F10/28
B33Y50/00
B33Y10/00
C22C19/05 Z
B22F9/08 A
B22F1/00 M
C22C1/04 B
(21)【出願番号】P 2022560793
(86)(22)【出願日】2021-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2021040429
(87)【国際公開番号】W WO2022097651
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2020184402
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】牛 晶
(72)【発明者】
【氏名】桑原 孝介
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/204981(WO,A1)
【文献】特開2013-127415(JP,A)
【文献】特開2002-228594(JP,A)
【文献】国際公開第2020/166049(WO,A1)
【文献】特開2017-090445(JP,A)
【文献】国際公開第2019/097222(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を溶融凝固させて製造される積層造形物の欠陥予測方法であって、
前記金属粉末が溶融凝固した際に形成された溶融池から発せられた光の輝度データを取得する輝度データ取得ステップと、
前記輝度データから
輝度平均値と輝度標準偏差とを含む評価用データを抽出する評価用データ抽出ステップと、
前記評価用データを用いて、
あらかじめ設定した輝度平均値範囲および輝度標準偏差範囲と比較することで前記積層造形物の欠陥の有無を推定する評価ステップとを有し、
前記輝度平均値は、層毎における、画像の各ピクセルの、一定時間毎に取得した輝度を積算したものの平均値であること
を特徴とする積層造形物の欠陥予測方法。
【請求項2】
前記評価用データ抽出ステップにおいて、
前記輝度平均値と前記輝度標準偏差とから変動係数CVを算出し、
前記評価ステップにおいて、
前記変動係数CVを用いて、
あらかじめ設定した変動係数CV範囲と比較することで前記積層造形物の欠陥の有無を推定する
ことを特徴とする請求項1 に記載の積層造形物の欠陥予測方法。
【請求項3】
前記変動係数CV範囲が0.135未満であることを特徴とする、請求項2に記載の積層造形物の欠陥予測方法。
【請求項4】
前記輝度平均値範囲、輝度標準偏差範囲および変動係数CV範囲が、
欠陥を有する積層造形物および欠陥を有さない積層造形物の輝度データをあらかじめ取得することで用意されること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の積層造形物の欠陥予測方法。
【請求項5】
前記金属粉末がNi基合金であることを特徴とする、請求項1に記載の積層造形物の欠陥予測方法。
【請求項6】
金属粉未を供給する粉未供給ステップと、
金属粉末に熱源を照射し、前記金属粉末を溶融および凝固させて積層造形物を造形する造形ステップと、前記金属粉末が溶融する際に形成された溶融池から発せられた光の輝度データを取得する輝度データ取得ステップと、を備えた積層造形工程と、
前記輝度データから
輝度平均値と輝度標準偏差とを含む評価用データを抽出する評価用データ抽出ステップと、前記評価用データを用いて
、あらかじめ設定した輝度平均値範囲および輝度標準偏差範囲と比較することで前記積層造形物の欠陥の有無を推定する評価ステップと、を備えた検査工程と、を有し、
前記輝度平均値は、層毎における、画像の各ピクセルの、一定時間毎に取得した輝度を積算したものの平均値であること
を特徴とする積層造形物の製造方法。
【請求項7】
前記評価用データ抽出ステップにおいて、前記輝度平均値と前記輝度標準偏差とから変動係数CVを算出し、
前記評価ステップにおいて、
変動係数CVを用いて
、予め用意した変動係数CV範囲と比較することで前記積層造形物の欠陥の有無を推定する
ことを特徴とする請求項
6に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項8】
前記変動係数CV範囲が0.135未満であることを特徴とする、請求項7に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項9】
前記検査工程において、
前記積層造形工程を継続するか否かを決定する選択ステップと、を
さらに備える
ことを特徴とする請求項
6~8のいずれか一項に記載の積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の欠陥予測方法および積層造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属積層造形法は、基板上の原料粉末にレーザビームや電子ビーム等の熱源を供給して原料粉末を溶融し凝固させて凝固層を形成し、これを繰り返して三次元形状の金属積層造形物を得る。この金属積層造形法によれば、ネットシェイプまたはニアネットシェイプで三次元形状の金属積層造形物を得ることができる。
【0003】
製造された部品に欠陥があるかどうかの判断方法は、例えば非破壊検査手段として、X線CTスキャン法による内部欠陥の検出や、アルキメデス法による密度測定がある。X線CTスキャン法は、計測に時間を要することに加えて、大型部品に対しては分解能に限界がある。また、アルキメデス法は、個別の欠陥を検出することはできず、少量の欠陥に対する検出精度が低かった。そこで例えば、特許文献1によれば、光ビームが照射される被照射スポットの外観性状をモニタリングし、それに基づき、より高精度な積層造形物を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、外観性状をモニタリングすることで、ヒュームやスパッターが発生したどうかを判別するにとどまっている。
【0006】
そこで本発明では、積層造形物の欠陥有無を推定することができる積層造形物の欠陥予測方法および積層造形物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層造形物の欠陥予測方法は、金属粉末を溶融凝固させて製造される積層造形物の欠陥予測方法であって、前記金属粉末が溶融凝固した際に形成された溶融池から発せられた光の輝度データを取得する輝度データ取得ステップと、前記輝度データから輝度平均値と輝度標準偏差とを含む評価用データを抽出する評価用データ抽出ステップと、前記評価用データを用いて、あらかじめ設定した輝度平均値範囲および輝度標準偏差範囲と比較することで前記積層造形物の欠陥の有無を推定する評価ステップとを有し、前記輝度平均値は、層毎における、画像の各ピクセルの、一定時間ごとに取得した輝度を積算したものの平均値であることを特徴とする積層造形物の欠陥予測方法である。
【0008】
また、前記評価用データ抽出ステップにおいて、前記輝度平均値と前記輝度標準偏差とから変動係数CVを算出し、前記評価ステップにおいて、前記変動係数CVを用いて、あらかじめ設定した変動係数CV範囲と比較することで前記積層造形物の欠陥の有無を推定することが好ましい。
また、前記変動係数CV範囲が0.135未満であることが好ましい。
また、前記輝度平均値範囲、輝度標準偏差範囲および変動係数CV範囲が、欠陥を有する積層造形物および欠陥を有さない積層造形物の輝度データをあらかじめ取得することで用意されることが好ましい。
また、前記金属粉末がNi基合金であることが好ましい。
【0009】
また本発明は、金属粉未を供給する粉未供給ステップと、金属粉末に熱源を照射し、前記金属粉末を溶融および凝固させて積層造形物を造形する造形ステップと、前記金属粉末が溶融する際に形成された溶融池から発せられた光の輝度データを取得する輝度データ取得ステップと、を備えた積層造形工程と、前記輝度データから輝度平均値と輝度標準偏差とを含む評価用データを抽出する評価用データ抽出ステップと、前記評価用データを用いて、あらかじめ設定した輝度平均値範囲および輝度標準偏差範囲と比較することで前記積層造形物の欠陥の有無を推定する評価ステップと、を備えた検査工程と、を有し、前記輝度平均値は、層毎における、画像の各ピクセルの、一定時間ごとに取得した輝度を積算したものの平均値であることを特徴とする積層造形物の製造方法である。
【0010】
また、前記評価用データ抽出ステップにおいて、前記輝度平均値と前記輝度標準偏差とから変動係数CVを算出し、前記評価ステップにおいて、変動係数CVを用いて、予め用意した変動係数CV範囲と比較することで前記積層造形物の欠陥の有無を推定することが好ましい。
また、前記変動係数CV範囲が0.135未満であることが好ましい。
【0011】
また、前記検査工程において、前記積層造形工程を継続するか否かを決定する選択ステップと、をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、積層造形物の欠陥の有無を推定することができる積層造形物の欠陥予測方法および積層造形物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】積層造形物の欠陥の有無を推定する欠陥予測方法の流れを示すフローチャートである。
【
図2】積層造形物の形状変化に伴う輝度変動を示す図である。
【
図4】変動係数の範囲を設定する方法を示す図である。
【
図5】パウダーベッド方式(SLM法)の積層造形装置の構成および積層造形方法の例を示す模式図である。
【
図6】積層造形物の製造方法の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、金属粉末を溶融凝固させて製造される積層造形物の欠陥予測方法であって、前記金属粉末が溶融凝固した際に形成された溶融池から発せられた光の輝度データを取得する輝度データ取得ステップと、前記輝度データから評価用データを抽出する評価用データ抽出ステップと、前記評価用データを用いて前記積層造形物の欠陥の有無を推定する評価ステップとを有し、前記評価用データが、輝度平均値と輝度標準偏差とを含むことを特徴の一つとする積層造形物の欠陥予測方法である。
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。まず、積層造形物の欠陥予測方法(欠陥の評価方法)について、
図1~4を用いて説明し、その次に、積層造形物の製造方法について、
図5~6を用いて説明する。
【0016】
<積層造形物の欠陥予測方法>
【0017】
[輝度データ取得ステップ(S101)]
まず、金属粉末に熱源等を照射し、金属粉末を溶融させることで溶融池が形成される際、溶融地から発せられる光の輝度(輝度データ)を取得する。熱源としては、レーザビームなどを用いることができる。
【0018】
本実施形態に用いる光は、例えば、レーザビームを照射した際の反射光や、溶融池や熱影響部の温度上昇により生じた光、金属が溶融されて生じた金属蒸気にレーザビームが照射されてプラズマ化したプラズマ光などを用いることができる。好ましくは、検出感度の高い輝度を検出することが良い。具体的には、溶融池およびその近傍から発せられる光、言い換えれば、波長が600nm以上、1100nm以下の範囲の光を検出するのがよい。
【0019】
光の輝度(輝度データ)の取得(検出)方法としては、例えば、sCMOSカメラを用いることができる。sCMOSカメラの仕様としては、例えば、画素数が5万ピクセル以上、撮影速度が1秒間当たり1フレーム程度であれば良い。より具体的には、EOSTATE Exposure OT(EOS社製)を用いることができる。EOSTATE Exposure OTは、鉛直上方からレーザ照射される造形エリアが発生する輝度を斜め上方に設置されたsCMOSカメラによって、溶融地周辺を撮影する。sCMOSカメラは、造形面に対して斜め上方に設置されているが、ソフト上で距離、角度を補正し、上からの観察像のように変換することができる。sCMOSカメラで取得する輝度(OT輝度)は、造形中の近赤外領域の輝度であれば良い。近赤外領域の輝度を取得するには、例えば、sCMOSカメラにバンドパスフィルターを設ければよい。
【0020】
[評価用データ抽出ステップ(S103)]
次に、輝度データ取得ステップ(S101)で得られた輝度データから、評価用データを抽出する。評価用データとは、輝度平均値と輝度標準偏差とを含む。
【0021】
輝度平均値とは、輝度の単位をGvで示し、ゼロの場合を青色、最大値4.5×104を赤色で段階的に色表示させ、造形中の100msec(撮影速度:100msec)ごとの輝度(色度合い)を積算したものの平均値である。すなわち、輝度平均値は、輝度画像の各ピクセル輝度値の平均値である(画像1pixel中に取得される輝度の平均値)。また、輝度標準偏差とは、層毎における画像各ピクセル輝度のバラつきの評価を示すものである。
【0022】
[評価ステップ(S105)]
そして、あらかじめ設定した輝度平均値範囲と輝度標準偏差範囲と、前記輝度平均値と前記標準偏差とを比較して、積層造形物の欠陥有無を推定する。具体的には、欠陥の有無の推定(評価)方法としては、抽出した輝度平均値と輝度標準偏差とを、あらかじめ設定しておいた輝度平均値範囲と輝度標準偏差範囲とで比較すればよい。例えば、あらかじめ設定しておいた輝度平均値範囲と輝度標準偏差範囲とに対して、抽出した輝度平均値と輝度標準偏差との値が範囲内である場合、積層造形物に欠陥が無いと判断することができる。
なお、本明細書中において、積層造形物の欠陥有無を推定することを、単に欠陥を評価する、と称する場合がある。
【0023】
輝度平均値範囲と輝度標準偏差範囲は、例えば、欠陥を有する積層造形物、もしくは欠陥を有さない積層造形物の輝度データをあらかじめ取得しておき、その輝度データから輝度平均値と輝度標準偏差とを抽出し、輝度平均値の最大値から最小値を引いた値(輝度平均値範囲)と、輝度標準偏差の最大値から最小値を引いた値(輝度標準偏差範囲)とすればよい。
【0024】
上記に説明した通り、輝度を平均した値(輝度平均値)を用いることで、局所的に発生した輝度信号異常に対する感度を低くでき、また、輝度標準偏差を用いることで、積層造形物の層毎における各造形点の輝度のバラつきのを評価することができるため、局所的な輝度信号異常に起因する欠陥や造形不良も検知することが可能となる。
【0025】
またさらに、評価用データ抽出ステップ(S103)において、輝度平均値と輝度標準偏差とから、変動係数CV(Coefficient of Variation)を算出し、算出した変動係数CVを用いて積層造形物の欠陥を評価することが好ましい。変動係数CVは、輝度平均値と輝度標準偏差の二つのパラメータを用いて算出した係数であり、具体的には、式(1)に示した算出式にて算出した値(輝度標準偏差を輝度平均値で割った無次元の値)である。なお、積層造形は、一般的に金属粉末を溶融・凝固して形成された凝固層上に繰り返し金属粉末を溶融・凝固させて積層していくものであり、式中の層とはその1層分の層を指す。
CV=σn/Xn・・・式(1)
CV:変動係数
Xn:n層時の輝度平均値(Gv)
σn:n層時の輝度標準偏差(Gv)
【0026】
変動係数CVを用いた欠陥の評価方法(変動係数CVを用いた評価ステップ)としては、算出した変動係数CVを、あらかじめ設定しておいた変動係数CV範囲と比較すればよい。例えば、あらかじめ設定した変動係数CV範囲に対して、算出した変動係数CVの値が範囲内である場合、積層造形物に欠陥が無いと判断できる。
【0027】
あらかじめ設定する変動係数CVの範囲(変動係数CV範囲)の設定方法としては、例えば、あらかじめ欠陥を有する、もしくは欠陥を有さない積層造形物の輝度データを取得し、その輝度データから変動係数CVを算出し、その変動係数CV値を基に変動係数CV範囲を設定すればよい。
【0028】
具体的には、
図4に示すように、あらかじめ設定した変動係数CV範囲に対して、算出した変動係数CVが範囲内の場合には、積層造形物が欠陥を有しないと評価(推定)することができる。一方、変動係数CVが範囲を超えた場合には、積層造形物が欠陥を有すると評価(推定)することができる。なお、変動係数CV範囲は、積層造形物の形状や造形条件ごとに適宜設定すればよい。
【0029】
変動係数CVを用いることで、輝度平均値と輝度標準偏差とが変動しやすい環境(条件)であっても、欠陥の評価精度が低下することを抑制できるので好ましい。
【0030】
輝度平均値と輝度標準偏差とが変動する環境(条件)としては、積層造形物の形状が挙げられる。これは、積層造形物の形状が変化することにより、レーザビームの照射面積に差が生じ、それに伴って熱拡散速度に差が生じることで発せられた光の輝度データに差が生じるためと考えられる。例えば、
図2(a)に示すような領域1(200)と領域2(300)とを有する積層造形物の積層造形する過程で取得された輝度平均値の推移を
図2(b)に示し、輝度標準偏差の推移を
図2(c)に示す。
図2(b)および(c)に示すように、輝度平均値は領域1(200)から領域2(300)に進むと低い値に変化し、輝度標準偏差は領域1から領域2に進むと高い値に変化することがわかる。
【0031】
また、積層造形体の造形位置(粉末床位置)が違う場合も、輝度平均値と輝度標準偏差とが変動しやすくなる場合がある。
図3(a)は、ベースプレート(103)を俯瞰したとき、粉末床位置1(220)と粉末床位置2(320)との位置関係を示している。また、
図3(b)には、粉末床位置1(220)で積層造形した試験片1(210)と粉末床位置2(320)で積層造形した試験片2(310)の輝度平均値の推移を示し、
図3(c)には、粉末床位置1(220)で積層造形した試験片1(210)と粉末床位置2(320)で積層造形した試験片2(310)の輝度標準偏差の推移を示す。なお、試験片1(210)と試験片2(310)とは同じ入熱(造形)条件としている。
図3(b)と(c)に示すように、粉末床位置2(320)で積層造形した試験片2(310)のようにフローガス(400)との接触頻度が高い位置で積層造形していると、試験片1(210)に比べて試験片2(310)の方が冷却されやすく、試験片2(310)を造形するときの方が輝度平均値と標準偏差数値とが低い値で推移する。また、上記で例示した冷却環境の他にも、造形条件が変わることで輝度平均値と輝度標準偏差とが変動しやすくなる場合がある。
【0032】
上記のように、積層造形体の形状が変化する場合や、造形位置や造形条件が異なる場合では、無次元の変動係数CVの方が、上記のような環境(条件)の違いを一次元的に評価することに適しており、上記のような環境(条件)の違いがあったとしても欠陥の評価精度が低下することを抑制できるのでより好ましい。
【0033】
<積層造形物の製造方法>
上記までに、積層造形物の欠陥予測方法を説明してきたが、本発明の欠陥予測方法であれば、積層造形中の積層造形物の欠陥を評価しながら積層造形物を製造することも可能である。
【0034】
積層造形物の製造方法の一実施形態としては、金属粉末を供給する粉末供給ステップと、金属粉末に熱源を照射し、前記金属粉末を溶融および凝固させて積層造形物を造形する造形ステップと、前記金属粉末が溶融する際に形成された溶融池から発せられた光の輝度データを取得する輝度データ取得ステップとを備えた積層造形工程と、前記輝度データから評価用データを抽出する評価用データ抽出ステップと、前記評価用データを用いて前記積層造形物の欠陥の有無を推定する評価ステップと、を備えた検査工程と、を有し、前記評価用データは、輝度平均値と輝度標準偏差とであることを特徴の一つとするものである。以下に各ステップを
図5と
図6を用いて詳細に説明する。
【0035】
図5は、積層造形物を製造する積層造形装置100の概要を示した図である。積層造形装置100は、ステージ102と、ベースプレート103と、金属粉末105をベースプレート103に供給するパウダー供給用コンテナ104と、ベースプレート103上に粉末床107を形成するためのリコータ106と、レーザ発振器108と、ガルバノメーターミラー110と、溶融されなかった金属粉末105を回収する未溶融粉末回収用コンテナ111と、レーザ発振器108から照射されたレーザビーム109によって金属粉末105が溶融・凝固して得られた凝固層112について、金属粉末105が溶融した際に形成した溶融池から発せられる光を検出するsCMOSカメラ113と、sCMOSカメラで検出した光を輝度データに変換し、評価用データを抽出する輝度データ取得装置および評価用データ抽出装置114とを備えている。また、
図6は積層造形物の製造方法のフローを示している。
【0036】
(積層造形工程)
[粉末供給ステップ:S201]
まず、積層造形しようとする積層造形物101の1層厚さ分だけ(例えば、約20~50μm)ステージ102を下降させる。次に、ステージ102の上面のベースプレート103に対し、パウダー供給用コンテナ104から金属(原料)粉末105を供給し、リコータ106により金属粉末105を平坦化して粉末床107(粉末層)を形成する。
【0037】
[造形ステップ:S203]
次に、造形しようとする積層造形物101の形状情報、例えば、3D-CADデータから変換された2Dスライスデータに基づいて、所望の形状に積層造形していく。具体的には、レーザ発振器108から照射された熱源、例えばレーザ発振器108から照射されたレーザビーム109をガルバノメーターミラー110に通して、ベースプレート103上に敷き詰められた未溶融の粉末床107上の金属粉末105へ照射することで、微小な溶融池が形成される。そして、レーザビーム109を照射しながら走査していくことで、金属粉末105を溶融・凝固させて、2Dスライス形状の凝固層112を形成する。なお、未溶融の金属粉末105は、未溶融粉末回収用コンテナ111に回収するなどしてよい。
【0038】
[輝度データ取得ステップ:S205]
上記造形ステップ(S203)にて、積層造形物のn+1層の粉末の溶融・凝固が進むと同時に、凝固層n層までの粉末溶融時の輝度データを、sCMOSカメラ113と輝度データ取得装置および評価用データ抽出装置114とを用いて取得する。ここで、sCMOSカメラ113の仕様としては、前述の通り、例えば、画素数が400万ピクセル以上、撮影速度が1秒間当たり10フレーム程度であれば良い。より具体的には、sCMOSカメラ113と輝度データ取得装置および評価用データ抽出装置114は、例えば、EOSTATE Exposure OT(EOS社製)を用いることができる。EOSTATE Exposure OTは、鉛直上方からレーザ照射される造形エリアが発生する輝度を斜め上方に設置されたsCMOSカメラによって、溶融地周辺を撮影する。sCMOSカメラは、造形面に対して斜め上方に設置されているが、ソフト上で距離、角度を補正し、上からの観察像のように変換することができる。sCMOSカメラで取得する輝度(OT輝度)は、造形中の近赤外領域の輝度であれば良い。近赤外領域の輝度を取得するには、例えば、sCMOSカメラにバンドパスフィルターを設ければよい。
【0039】
1層分の積層が完了すると、ステージ102を降下させ、新たな金属粉末105を凝固層112の上に供給して、新たな粉末床107を形成する。この新たに形成した粉末床107に対し、レーザビーム109を照射して溶融・凝固させることにより新たな凝固層を形成する。以後、粉末供給ステップ(S201)と造形ステップ(S203)とを繰り返し、凝固層112が積層されていくことにより、所望の積層造形物101を製造することができる。また、粉末供給ステップ(S201)と造形ステップ(S203)とを繰り返して造形後に検査工程を実行してもよいし、例えば評価用データ抽出ステップ(S207)まで含めて繰り返しても良い
【0040】
(検査工程)
[評価用データ抽出ステップ:S207]
輝度データ取得装置および評価用データ抽出装置114にて取得した輝度データから、評価用データ、すなわち輝度平均値と輝度標準偏差とを抽出(出力)する。このとき、輝度平均値の最大値と、輝度標準偏差の最大値から最小値を引いた値とをさらに算出しておくことが好ましい。
【0041】
[評価ステップ:S209]
次に、抽出した輝度平均値と輝度標準偏差とを用いて、欠陥を評価し、良好であれば、所望形状の積層造形物を得るまで各ステップ(S201~207)を繰り返す。欠陥の評価としては、例えば、抽出した輝度平均値と輝度標準偏差とを、あらかじめ設定しておいた輝度平均値範囲と輝度標準偏差範囲とで比較すればよい。例えば、あらかじめ設定しておいた輝度平均値範囲と輝度標準偏差範囲とに対して、抽出した輝度平均値と輝度標準偏差が範囲内である場合、積層造形物に欠陥が無いと判断できる。また、凝固層n層までの積層造形物に欠陥が無い場合には、各ステップ(S201~S207)を継続すればよい。
【0042】
なお、輝度平均値と輝度標準偏差とは、積層造形物の形状、および造形条件(出力、走査速度、走査ピッチ(走査間隔)、積層厚み)により変化するので、あらかじめ設定する輝度平均値範囲と輝度標準偏差範囲は、所望の積層造形物に応じて適宜変更すればよい。
【0043】
ここで、上記評価用データ抽出ステップ(S207)において、輝度平均値と輝度標準偏差を用いて変動係数CVを算出することが好ましい。
【0044】
またさらに、積層造形物毎、凝固層毎に、変動係数CV範囲をあらかじめ設定することが好ましい。あらかじめ決定した変動係数CV範囲と、算出された変動係数CVとを比較することによって、積層造形物の積層された部分の欠陥の有無を推定することができる。例えば、あらかじめ設定した変動係数CV範囲に対して、算出された変動係数CVがその設定した範囲内である場合、すなわち、造形n層までの積層造形物に欠陥が無い(評価が良好である)と推定される場合には、積層造形工程と検査工程(S201~S207)とを継続すればよい。
【0045】
また、変動係数CVが、あらかじめ設定した変動係数範囲を超える場合であっても、後の加工処理により対処できると判断した場合には、各ステップ(S201~S207)を継続すれば良い。またさらに、積層造形工程を一時的に中断し、造形条件やスライスデータの補正などを行い、n+1層からは、それら変更後の造形条件や補正後のスライスデータを反映して積層造形工程を再スタートし、各ステップ(S201~S207)を繰り返し行い、積層造形物を製造すればよい。上記の通り、例えば変動係数CVが変動係数範囲内または範囲外において、各ステップを継続するか否か判断するステップを選択ステップと称することができ、上記各ステップに選択ステップをさらに設けても良い。
【0046】
これにより、積層造形1バッチ(1プレート)の部品毎、層毎、すなわちインプロセス(リアルタイム)で欠陥の有無を推定できるため、積層造形物を検査しながら積層造形物を製造することが可能となる。
【0047】
上記ステップ完了時には、積層造形物のすべての凝固層(溶融・凝固した層)において、溶融・凝固する時に溶融池からの輝度信号強度を輝度平均値と標準偏差として記録・保存することで、積層造形物内部に生じた欠陥の有無を推定(評価)することが可能となる。
【0048】
積層造形物101は、ベースプレート103上に積層され、一体となって製作されるため、未溶融の金属粉末105に覆われた状態となっているので、取出し時には、金属粉末105と積層造形物101とを冷却後、未溶融の金属粉末105を回収し、積層造形物101とベースプレート103とを粉末積層造形装置100から取り出せばよい。その後、積層造形物101をベースプレート103から分離(切断等)することで積層造形物を得ることができる。
【0049】
なお、本実施形態の積層造形方式としては、粉末床方式(パウダーベッド方式)を用いることができる。粉末床方式(パウダーベッド方式)とは、金属粉末を敷き詰めて粉末床を準備し、熱エネルギーとなるレーザビームや電子ビームを照射して造形する部分のみを溶融・凝固または焼結する方法である。レーザビームを熱源とし粉末床の造形する部分を溶融・凝固する方法は、選択的レーザ溶融法(Selective Laser Melting:SLM法)と称され、粉末床の造形する部分を溶融まではせずに焼結させる方法は、選択的レーザ焼結法(Selective Laser Sintering:SLS法)と称される。レーザビームを熱源とする方法では、通常、窒素などの不活性雰囲気下で積層造形することができる。また、粉末床方式は電子ビームを熱源とすることもでき、選択的電子ビーム溶融法(Selective Electron Beam Melting:SEBM法)や電子ビーム溶融法(Electron Beam Melting:EBM法)と称される。電子ビームを熱源とする方法では、高真空下で積層造形することができる。
【0050】
以上、積層造形物の製造方法の一実施形態を説明してきたが、インプロセスで積層造形物の欠陥の有無を推定でき、かつその評価結果を活用することで、すぐさま新たな積層造形条件を適用して積層造形物を製造できるため、積層造形物の欠陥率を低減する効果も期待できる。また、例えば、非破壊検査X線CTによる欠陥の評価が無くなり、部品の製造コスト低減も期待できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例について説明する。
粉末積層造形装置(EOS社製EOS M290)およびモニタリング機器(EOSTATE Exposure OT(Optical Tomography))を用いて、積層造形物を製造し、その欠陥の有無を推定した。
【0052】
積層造形に使用した金属粉末は、表1に示すNi-Cr-Mo系合金である。
金属粉末は、表1の合金組成(単位:質量%)を有している。金属粉末の作製方法としては、原料となるNi、Cr、Mo、Taのそれぞれの原料を表1の合金組成となるよう調製し、真空ガスアトマイズ法により造粒粉末化し、その造粒粉末をふるいに分けして、粒径が10μm~53μm、平均粒径(d50)が約35μmの金属粉末を作製した。
【0053】
【0054】
図5に示すような積層造形物の製造方法のフローチャートの順番に沿って、丸棒形状の積層造形物(直径3.5mm×高さ5mm、軸方向が積層方向)を積層造形し、溶融凝固された層ごとに輝度データを取得した。なお、積層造形条件としては、積層厚み0.04mm、レーザ出力300Wと設定し、レーザ走査速度960mm/秒、走査ピッチ0.11mmとした。
【0055】
上記積層造形条件にて積層造形物(試料No.1~4)を作製(造形)した。試料No.2~4は、試料No.1の輝度平均値最大値以上に高い輝度が確認された積層造形物である。試料No.1~4を造形する際に取得した輝度データから、輝度平均値と輝度標準偏差とを抽出した。またさらに、抽出したそれら輝度平均値と輝度標準偏差とから、変動係数CVを算出した。
【0056】
(X線CTスキャンによる欠陥の評価)
試料No.1~4について、X線CTスキャンを用いて内部欠陥を評価した。X線CTスキャンには、マイクロフォーカスX線CTシステム(SHIMADZU,InspeXio SMX-225CT FPD HR)を用いて、測定条件を測定電圧220V、電流70μAとした。画像解析には、VGStudioMAX3.2(島津製作所社製)を用いた。X線CTスキャンの分解能は、0.018mmと設定した。
【0057】
表2に、試料No.1~4のそれぞれの輝度平均値と輝度標準偏差と、輝度平均値の最大値と輝度標準偏差範囲(輝度標準偏差の最大値から最小値を引いた値)と、変動係数CVと、X線CTによる欠陥確認の結果とを示す。
【0058】
【0059】
表2に示すように、輝度平均値の最大値輝度標準偏差範囲、変動係数CVがもっとも小さかった試料No.1は、X線CTを用いた評価でも欠陥は発見されなかった。一方、試料No.2~4では、輝度平均値最大値も輝度標準偏差範囲も試料No.1に比べて大きく、X線CTを用いた評価でも欠陥が発見された。
【0060】
以上から、例えば、本実施例で製造した造形形状および造形条件においては、積層造形物から得られた輝度平均値と輝度標準偏差とが、試料No.2の輝度平均値の最大値未満、輝度標準偏差範囲内であれば、積層造形物に欠陥がないと評価することできる。また、変動係数CVを用いた場合も同様にして、算出された変動係数CVが試料No.4の変動係数CV範囲内であれば、積層造形物に欠陥がないと評価することができる。
【0061】
なお、上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
100:積層造形装置
101:積層造形物
102:ステージ
103:ベースプレート
104:パウダー供給用コンテナ
105:金属粉末
106:リコータ
107:粉末床(粉末層)
108:レーザ発振器
109:レーザビーム
110:ガルバノメーターミラー
111:未溶融粉末回収用コンテナ
112:2Dスライス形状の凝固層
113:sCMOSカメラ
114:輝度データ取得装置および評価用データ抽出装置
200:領域1
210:試験片1
220:粉末床位置1
300:領域2
310:試験片2
320:粉末床位置2
400:フローガス