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特許7318831硬化性樹脂、硬化性樹脂組成物、及び、硬化物
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  • 特許-硬化性樹脂、硬化性樹脂組成物、及び、硬化物 図1
  • 特許-硬化性樹脂、硬化性樹脂組成物、及び、硬化物 図2
  • 特許-硬化性樹脂、硬化性樹脂組成物、及び、硬化物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】硬化性樹脂、硬化性樹脂組成物、及び、硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/20 20060101AFI20230725BHJP
   C08F 16/12 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08F20/20
C08F16/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022571970
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2021042358
(87)【国際公開番号】W WO2022137915
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020212622
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】松岡 龍一
(72)【発明者】
【氏名】楊 立宸
(72)【発明者】
【氏名】神成 広義
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525568(JP,A)
【文献】特表2013-525569(JP,A)
【文献】特表2011-513581(JP,A)
【文献】特開2015-189925(JP,A)
【文献】特開2015-030776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/20
C08F 16/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、水酸基濃度が、0.005~3800mmol/kgであることを特徴とする硬化性樹脂。
【化1】

(式(1)中、Zは、下記一般式(3-1)~(3-6)で表される炭化水素、又は、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基のいずれか1つを含む脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素とが組み合わされた化合物であり、
【化2】
前記一般式(3-1)中、kは0~5の整数を表し、前記一般式(3-1)、(3-2)、(3-4)~(3-6)中のRcは水素原子又はメチル基を表し、Yは、下記一般式(2)で表される置換基であり、nは、3又は4の整数を示し、
【化3】

式(2)中、Ra及びRbは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は、シクロアルキル基で表され、mは、0~3の整数を示し、Xは、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルベンジルエーテル基、又は、アリルエーテル基を表す。)
【請求項2】
前記水酸基濃度が、0.01~1500mmol/kgであることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂。
【請求項3】
前記Xが、メタクリロイルオキシ基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬化性樹脂。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の硬化性樹脂を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化反応させて得られることを特徴とする硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定構造を有する硬化性樹脂、前記硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物、及び、前記硬化性樹脂組成物により得られる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信量の増加に伴い、高周波数帯域での情報通信が盛んに行われるようになり、より優れた電気特性、なかでも高周波数帯域での伝送損失を低減させるため、低誘電率と低誘電正接を有する電気絶縁材料が求められてきている。
【0003】
さらにそれら電気絶縁材料が使われているプリント基板あるいは電子部品は、実装時に高温のハンダリフローに曝されるため、耐熱性に優れた高いガラス転移温度を示す材料が求められ、特に最近は、環境問題の観点から、融点の高い鉛フリーのハンダが使われるため、より耐熱性の高い電気絶縁材料の要求が高まってきている。
【0004】
これらの要求に対し、従来から、種々の化学構造を持つビニル基含有の硬化性樹脂が提案されている。このような硬化性樹脂としては、例えば、ビスフェノールのジビニルベンジルエーテル、あるいはノボラックのポリビニルベンジルエーテルなどの硬化性樹脂が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、これらのビニルベンジルエーテルは、誘電特性が十分に小さい硬化物を与えることができず、得られる硬化物は高周波数帯域で安定して使用するには問題があり、さらにビスフェノールのジビニルベンジルエーテルは、耐熱性においても十分に高いとはいえないものであった。
【0005】
上記特性を向上させたビニルベンジルエーテルに対して、誘電特性等の向上を図るため、特定構造のポリビニルベンジルエーテルがいくつか提案されている(例えば、特許文献3~9参照)。しかし、誘電正接を抑える試みや、耐熱性を向上させる試みがなされているが、これらの特性の向上は、未だ十分とは言えず、さらなる特性改善が望まれている。
【0006】
このように、従来のポリビニルベンジルエーテルを含むビニル基含有の硬化性樹脂は、電気絶縁材料用途、特に高周波数対応の電気絶縁材料用途として必要な低い誘電正接と、鉛フリーのハンダ加工に耐えうる耐熱性とを兼備する硬化物を与えるものではなかった。
【0007】
また、上記ビニル基含有の硬化性樹脂は、保存中にビニル基が反応し、保存安定性に劣るという欠点もあり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭63-68537号公報
【文献】特開昭64-65110号公報
【文献】特表平1-503238号公報
【文献】特開平5-43623号公報
【文献】特開平9-31006号公報
【文献】特開2005-281618号公報
【文献】特開2005-314556号公報
【文献】特開2015-030776号公報
【文献】特開2015-189925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明が解決しようとする課題は、保存安定性に優れ、耐熱性(高ガラス転移温度)、及び、誘電特性(低誘電特性)に寄与できる硬化性樹脂、及び、前記硬化性樹脂を用いることで、耐熱性(高ガラス転移温度)、及び、誘電特性(低誘電特性)に優れた硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、保存安定性に優れ、耐熱性、及び、低誘電特性に寄与できる硬化性樹脂、及び、前記硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物より得られる硬化物が、耐熱性、及び、低誘電特性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表され、水酸基濃度が、0.005~3800mmol/kgであることを特徴とする硬化性樹脂に関する。
【化1】


(式(1)中、Zは、炭素数2~15の炭化水素であり、Yは、下記一般式(2)で表される置換基であり、nは、3~5の整数を示し、
【化2】


式(2)中、Ra及びRbは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は、シクロアルキル基で表され、mは、0~3の整数を示し、Xは、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルベンジルエーテル基、又は、アリルエーテル基を表す。)
【0012】
本発明の硬化性樹脂は、前記水酸基濃度が、0.01~1500mmol/kgであることが好ましい。
【0013】
本発明の硬化性樹脂は、前記Xが、メタクリロイルオキシ基であることが好ましい。
【0014】
本発明の硬化性樹脂は、前記Zが、脂肪族炭化水素であることが好ましい。
【0015】
本発明は、前記硬化性樹脂を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物に関する。
【0016】
本発明は、前記硬化性樹脂組成物を硬化反応させて得られることを特徴とする硬化物に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の硬化性樹脂は、特定構造を有し、保存安定性に優れたものであり、耐熱性、及び、低誘電特性に寄与できるため、前記硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物により得られる硬化物が、耐熱性、及び、低誘電特性に優れ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られた硬化性樹脂の1H-NMRスペクトルである。
図2】実施例9で得られた硬化性樹脂の1H-NMRスペクトルである。
図3】実施例10で得られた硬化性樹脂の1H-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
<硬化性樹脂>
本発明は、下記一般式(1)で表され、水酸基濃度が、0.005~3800mmol/kgであることを特徴とする硬化性樹脂に関する。
【化3】

【0021】
上記一般式(1)中、Zは、炭素数2~15の炭化水素であり、Yは、下記一般式(2)で表される置換基であり、nは、3~5の整数を示す。
【化4】

【0022】
また、上記一般式(2)中、Ra及びRbは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は、シクロアルキル基で表され、mは0~3の整数を示し、Xは、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルベンジルエーテル基、又は、アリルエーテル基を表す。
【0023】
前記硬化性樹脂は、架橋基として機能できるX(架橋基(X))を複数含むため、前記硬化性樹脂を架橋し、得られる硬化物は架橋密度が高くなり、耐熱性に優れる。また、前記架橋基は極性基でもあるが、前記架橋基に隣接する置換基(特にRa)の存在により、前記架橋基の分子運動性が低く抑えられ、得られる硬化物が低誘電特性(特に低誘電正接)を満足することができ、好ましい。
前記架橋基として機能できるXは、(メタ)アクリロイルオキシ基などの不飽和二重結合を含むビニル基など、架橋反応(自己架橋)や重合反応に直接寄与する官能基を意味する。なお、前記Xに含まれる水酸基は、本発明において重合禁止剤として機能するが、エポキシ樹脂等との反応にも寄与できるため、ここでは、前記架橋基に水酸基を含めて記載する。
【0024】
上記一般式(1)中、Zは炭素数2~15の炭化水素であり、好ましくは、炭素数2~10の炭化水素であり、より好ましくは、炭素数2~6の炭化水素である。前記炭素数が前記範囲内にあることにより、前記硬化性樹脂は、低分子量体となり、高分子量体の場合に比べて、架橋密度が高くなり、得られる硬化物のガラス転移温度が高くなり、耐熱性に優れ、好ましい態様となる。なお、前記炭素数が2未満であると、得られる硬化性樹脂が低分子量体になりすぎ、前記硬化物の架橋密度が高くなりすぎ、硬化物自体が脆くなり、フィルムなどを形成できなくなったり、ハンドリング性、可撓性、柔軟性、及び、耐脆性に劣る傾向となり、また、前記炭素数が15を超えると、得られる硬化性樹脂が高分子量体となり、前記硬化性樹脂中の架橋基(X)の占める割合が低くなり、これに伴い、架橋密度が低下し、得られる硬化物の耐熱性に劣り、好ましくない。
【0025】
前記炭化水素としては、炭素数2~15の炭化水素であれば特に制限されないが、例えば、アルカン、アルケン、アルキン等の脂肪族炭化水素であることが好ましく、アリール基等を含む芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素と芳香族炭化水とが組み合わせられた化合物等を挙げることができる。
【0026】
前記脂肪族炭化水素の中で、前記アルカンとしては、例えば、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
前記アルケンとしては、例えば、ビニル基、1-メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ペンテニル基等を含むものが挙げられる。
前記アルキンとしては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、へキシニル基等を含むものが挙げられる。
前記芳香族炭化水素としては、例えば、アリール基として、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を含むものが挙げられる。
前記脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素とが組み合わせられた化合物としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、トリルメチル基、トリルエチル基、トリルプロピル基、キシリルメチル基、キシリルエチル基、キシリルプロピル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基等を含むものが挙げられる。
【0027】
前記炭化水素の中でも、極性が低く、低誘電特性(低誘電率及び低誘電正接)を有する硬化物が得られる点から、炭素原子および水素原子のみからなる脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素、脂環式炭化水素であることが好ましく、中でも、極性が非常に小さく、工業的に採用できる下記一般式(3-1)~(3-6)のような炭化水素が好ましく、下記一般式(3-1)の脂肪族炭化水素が低誘電特性に優れるため、より好ましい。なお、下記一般式(3-1)中、kは0~5の整数を表し、好ましくは、0~3であり、下記一般式(3-1)、(3-2)、及び、(3-4)~(3-6)中のRcは、水素原子又はメチル基で表されることが好ましい。
【化5】
【0028】
上記一般式(1)中、Z(中心構造)の数平均分子量としては、20~200であることが好ましい。数平均分子量が20未満の場合、架橋密度が高すぎて脆くなる傾向にあり、200を超える場合、架橋密度が低く、耐熱性が弱くなる傾向にある。
【0029】
上記一般式(2)中、Ra及びRbは、それぞれ独立に炭素数1~12のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は、シクロアルキル基を表し、好ましくは、炭素数1~4のアルキル基、アリール基、又は、シクロアルキル基である。前記炭素数1~12のアルキル基等であることで、ベンゼン環の近傍の平面性が低下し、結晶性低下により、溶剤溶解性が向上するとともに、融点が低くなり、好ましい態様となる。また、前記Ra及びRb(特に架橋基であるXに隣接するRa)を有することで、立体障害となり、前記架橋基(X)の分子運動性が更に低くなることが推測され、より低誘電特性(特に低誘電正接)の硬化物を得られるため、好ましい。但し、tert-ブチル基の場合は、加熱時に熱分解してしまい、イソブテンガスが発生しやすいため、好ましくない。
【0030】
上記一般式(2)中、mは0~3の整数を表し、好ましくは、mが0又は1であり、より好ましくは、1である。mが前記範囲内にあることにより、置換基であるRbが立体障害となり、前記架橋基(X)の分子運動性が低くなり、低誘電特性に優れ、好ましい態様となる。なお、mが0の場合は、Rbは水素原子を表す。
【0031】
上記一般式(1)中、nは置換基数であり、3~5の整数を示し、好ましくは、3又は4であり、より好ましくは、4である。前記nが前記範囲内であることで、前記硬化性樹脂は、低分子量体となり、高分子量体の場合に比べて、架橋密度が高くなり、得られる硬化物のガラス転移温度が高くなり、耐熱性に優れ、好ましい態様となる。なお、前記nが2の場合、架橋基(X)が少なくなり、得られる硬化物の架橋密度が低く、十分な耐熱性が得られない。一方、前記nが6又はそれ以上の場合、前記硬化物の架橋密度が高くなりすぎ、硬化物自体が脆くなり、フィルムなどを形成できなくなったり、ハンドリング性、可撓性、柔軟性、及び、耐脆性に劣る傾向になり、好ましくない。
【0032】
上記一般式(2)中、Xは、架橋基となる水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルベンジルエーテル基、又は、アリルエーテル基であり、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基であり、より好ましくは、メタクリロイルオキシ基である。前記硬化性樹脂中に、前記架橋基を有することで、低い誘電正接を有する硬化物が得られ、好ましい態様となる。
なお、前記メタクリロイルオキシ基は、その他の架橋基(例えば、ビニルベンジルエーテル基やアリルエーテル基などの極性基であるエーテル基)と比べて、前記硬化性樹脂の構造中にメチル基を含むため、立体障害が大きくなり、分子運動性が更に低くなることが推測され、より低誘電正接の硬化物を得られるため、好ましい。また、架橋基が複数の場合、架橋密度が上がり、耐熱性が向上するため、好ましい。
前記架橋基であるXは、極性基でもあるが、置換基であるRaやRb(特にRa)が隣接することにより、立体障害となり、Xの分子運動性が抑制され、得られる硬化物の誘電正接が低くなり、好ましい態様となる。
また、前記Xが水酸基の場合、前記硬化性樹脂の保存中に、光や熱、空気などによって発生したラジカルが、前記水酸基のフェノール性水素を引き抜くことで、安定ラジカルとなり、ラジカル重合が防がれ、重合禁止剤として機能し、前記硬化性樹脂の保存安定性を向上させることができ、有用である。
【0033】
本発明の硬化性樹脂とは、構造中に含まれる架橋基や置換基などが種々の組合せにより構成される硬化性樹脂の混合物であり、例えば、架橋基(X)として、水酸基を有する硬化性樹脂や、(メタ)アクリロイル基など直接架橋反応などに寄与する官能基を有する硬化性樹脂、また、水酸基と(メタ)アクリロイル基の両方を有する硬化性樹脂などを含むことを意味する。
なお、本発明の硬化性樹脂は、特定範囲の水酸基濃度を有するため、前記混合物である硬化性樹脂には、少なくとも、架橋基(X)として水酸基を有する硬化性樹脂を含むことになる。なお、前記水酸基は、本発明において、重合禁止剤として機能するが、前記硬化性樹脂を用いた硬化時において、エポキシ樹脂等を配合する場合には、前記水酸基価が架橋基として機能することができる。
【0034】
また、本発明の硬化性樹脂は、上記一般式(1)が、下記一般式(1A)で表されることが好ましい。上記一般式(1)が、下記一般式(1A)の構造に特定されることにより、つまり上記一般式(1A)に記載の構造式は、上記一般式(1)に記載の構造式と比べて、Ra及びXに対して、Zの位置が固定(限定)されている。そして、このような上記一般式(1A)で示される構造を有する硬化性樹脂は、架橋基の反応性が高くなり、上記一般式(1)で示される構造を有する硬化性樹脂と比べて、緻密な架橋体の形成となり、耐熱分解性の点でより優れており、好ましい態様となる。
【化6】

【0035】
本発明の硬化性樹脂は、上記nが、4であることが好ましい。上記一般式(1A)中のnが4であることにより、前記硬化性樹脂は、架橋密度が高くなり、また架橋基が多くなり過ぎないため、十分な耐熱性が得られと共に、ハンドリング性、可撓性、柔軟性、及び、耐脆性に優れ、より好ましい態様となる。
【0036】
本発明の硬化性樹脂は、上記Xが、メタクリロイルオキシ基であることが好ましい。上記一般式(1A)中のXが、メタクリロイルオキシ基であることにより、前記硬化性樹脂中に、前記架橋基を有することで、低い誘電正接を有する硬化物が得られ、好ましい態様となる。なお、前記メタクリロイルオキシ基は、その他の架橋基(例えば、ビニルベンジルエーテル基やアリルエーテル基などの極性基であるエーテル基)と比べて、前記硬化性樹脂の構造中にメチル基を含むため、立体障害が大きくなり、分子運動性が更に低くなることが推測され、より低誘電正接の硬化物を得られるため、より好ましい。また、架橋基が複数の場合、架橋密度が上がり、耐熱性が向上するため、より好ましい。なお、本発明の硬化性樹脂は、特定範囲の水酸基濃度を有するため、前記架橋基(X)として水酸基を有する硬化性樹脂を含むことは、上記式(2)と同様である。
【0037】
本発明の硬化性樹脂は、上記Zが、脂肪族炭化水素であることが好ましい。上記一般式(1A)中のZが脂肪族炭化水素であることにより、極性が低くなり、低誘電特性(低誘電率、低誘電正接)となり、より好ましい態様となる。
【0038】
また、上記一般式(1A)中、Zは炭素数2~15の脂肪族炭化水素であることが好ましく、より好ましくは、炭素数2~10の脂肪族炭化水素である。前記炭素数が2未満になると、架橋密度が高すぎて、脆くなり、耐脆性に劣り、前記炭素数が15を超えると、架橋密度が低くなり、耐熱性に劣り好ましくない。なお、前記脂肪族炭化水素としては、上記一般式(1)中の炭化水素の例示の中の脂肪族炭化水素と共通する。
【0039】
上記一般式(1A)中、Ra、Rb、m、及び、nは、上記一般式(1)及び(2)中のRa、Rb、m、及び、nと共通する。
【0040】
なお、上記一般式(1)には、上記一般式(1A)だけでなく、下記一般式(1B)も含まれるが、上記一般式(1A)の方が、架橋基であるXが反応しやすい位置にあるため、硬化反応が進行しやすく、好ましい。一方、下記一般式(1B)で表せられる硬化性樹脂が、硬化反応時に未硬化として残留しやすく、熱分解温度が低くなる恐れがある。
【化7】

【0041】
本発明の硬化性樹脂は、前記水酸基濃度が、0.005~3800mmol/kgであり、0.008~3500mmol/kgであることが好ましく、0.01~3000mmol/kgであることがより好ましく、0.01~1500mmol/kgであることが特に好ましい。前記水酸基濃度が前記範囲内にあることにより、前記硬化性樹脂や、前記硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物の保存中に、発生したラジカルがフェノール性水素と反応することで安定ラジカルとなり、水酸基以外の架橋基の反応が抑制され、前記硬化性樹脂自体や、前記硬化性樹脂組成物の保存安定性に優れ、好ましい態様となる。なお、前記水酸基濃度が0.005mmol/kg未満であると、保存安定性が不十分となり、前記水酸基濃度が3800mmol/kgを超えると、水酸基以外の架橋基に基づく架橋密度が不十分になったり、水酸基に基づく極性が高くなることで、誘電正接や誘電率が悪化(上昇)し、好ましくない。なお、前記水酸基濃度は、水酸基価測定(JIS K 1557-1に準拠した方法)に基づき、算出した値である。
【0042】
また、前記硬化性樹脂自体や、前記硬化性樹脂組成物の保存安定性の観点から、別途、重合禁止剤を使用することが考えられるが、本発明の硬化性樹脂は、架橋基数(nが3~5)が多く、多官能であるため、重合禁止剤を使用しても、保存安定性の効果が十分得ることが難しく、また、重合禁止剤の配合量を多くすると、保存安定性は向上するが、誘電率や誘電正接が上昇するため、好ましくない。
【0043】
<中間体フェノール化合物の製造方法>
前記硬化性樹脂の製造方法として、まずは、前記硬化性樹脂の原料(前駆体)である中間体フェノール化合物の製造方法を以下に説明する。
【0044】
前記中間体フェノール化合物の製造方法としては、下記一般式(4)~(9)で示されるアルデヒド化合物またはケトン化合物と、下記一般式(10)~(16)で示されるフェノール又はその誘導体とを混合し、酸触媒存在下に反応させることにより、前記中間体フェノール化合物を得ることができる。なお、下記一般式(4)~(16)中のk、Ra、及び、Rbは、上記一般式(2)及び(3-1)中のk、Ra、及び、Rbと共通する。
【化8】

【化9】
【0045】
前記アルデヒド化合物またはケトン化合物(以下、「化合物(a)」という場合がある。)の具体例としては、前記アルデヒド化合物が、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ピバルアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナール、トリオキサン、シクロヘキシルアルデヒド、ジフェニルアセトアルデヒド、エチルブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキシル酸、5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、サリチルアルデヒド、ナフトアルデヒド、グリオキサール、マロンジアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、クロトンアルデヒド、フタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が挙げられる。前記アルデヒド化合物の中でも、工業的に入手が容易であることから、グリオキサール、グルタルアルデヒド、クロトンアルデヒド、フタルアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが好ましい。また、前記ケトン化合物としては、シクロヘキサンジオン、ジアセチルベンゼンが好ましく、中でもシクロヘキサンジオンが、工業的に入手が容易である点でより好ましい。前記化合物(a)は、その使用にあたっては、1種類のみに限定されるものではなく、2種以上の併用も可能である。
【0046】
また、前記フェノール又はその誘導体(以下、「化合物(b)」という場合がある。)としては、特に限定されないが、具体的には、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等のクレゾール;フェノール;2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール(2,6-ジメチルフェノール)、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール、3,6-キシレノール等のキシレノール;o-エチルフェノール(2-エチルフェノール)、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール等のエチルフェノール;イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-t-ブチルフェノール等のブチルフェノール;p-ペンチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール;o-フェニルフェノール(2-フェニルフェノール)、p-フェニルフェノール、2-シクロヘキシルフェノール、2-ベンジルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-イソプロピル-5-メチルフェノール、2-メチル-5-イソプロピルフェノール、2,6-t-ブチルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,6-ジシクロヘキシルフェノール、2,6-ジイソプロピルフェノール、3-ベンジルビフェニル-2-オール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジフェニルフェノール、2-t-ブチル-4-メチルフェノール等が挙げられる。これらフェノール又はその誘導体は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。中でも、例えば、2,6-キシレノールや2,4-キシレノールといったフェノール性水酸基に対してオルト位、パラ位のうち2つがアルキル置換された化合物を使用することが、より好ましい態様となる。但し、立体障害が大きすぎると、中間体フェノール化合物の合成時における反応性を阻害する場合も懸念されるため、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、または、ベンジル基を有する化合物(b)を使用することが好ましい。
【0047】
本発明に用いる中間体フェノール化合物の製造方法においては、前記化合物(a)と前記化合物(b)を、前記化合物(a)に対する前記化合物(b)のモル比(化合物(b)/化合物(a))を、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.2~8で仕込み、酸触媒存在下で反応させることにより、前記中間体フェノール化合物を得ることができる。
【0048】
前記反応に用いる酸触媒には、例えば、リン酸、塩酸、硫酸のような無機酸、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロメタンスルホン酸等の有機酸、活性白土、酸性白土、シリカアルミナ、ゼオライト、強酸性イオン交換樹脂のような固体酸、ヘテロポリ酸塩等を挙げることができるが、反応後、塩基による中和と水による洗浄で簡便に除去できる均一系触媒である無機酸、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロメタンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0049】
前記酸触媒の配合量は、最初に仕込む原料の前記化合物(a)、及び、前記化合物(b)の総量100質量部に対して、酸触媒を0.001~40質量部の範囲で配合されるが、ハンドリング性と経済性の点から、0.001~25質量部が好ましい。
【0050】
前記反応温度は、通常30~150℃の範囲であればよいが、異性体構造の生成を抑制し、熱分解等の副反応を避け、高純度の中間体フェノール化合物を得るためには、60~120℃が好ましい。
【0051】
前記反応時間としては、短時間では反応が完全に進行せず、また長時間にすると生成物の熱分解反応等の副反応が起こることから、前記反応温度条件下で、通常は、のべ0.5~24時間の範囲であるが、好ましくは、のべ0.5~15時間の範囲である。
【0052】
前記中間体フェノール化合物の製造方法においては、フェノール又はその誘導体が溶剤を兼ねるため、必ずしも他の溶剤は用いなくても良いが、溶剤を用いることも可能である。
【0053】
前記中間体フェノール化合物を合成するために使用される有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、2-エトキシエタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、スルホラン等の非プロトン性溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等が挙げられ、またこれらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0054】
前記中間体フェノール化合物の水酸基当量(フェノール当量)としては、耐熱性の観点から、好ましくは、80~500g/eqであり、より好ましくは、100~300g/eqである。なお、中間体フェノール化合物の水酸基当量(フェノール当量)は、滴定法により算出したものであり、JIS K0070に準拠した中和滴定法を指す。
【0055】
<硬化性樹脂の製造方法>
前記硬化性樹脂の製造方法(中間体フェノール化合物への(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルベンジルエーテル基、または、アリルエーテル基の導入)について、以下に説明する。
【0056】
前記硬化性樹脂は、塩基性、又は、酸性触媒存在下で、前記中間体フェノール化合物に、無水(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸クロリド、クロロメチルスチレン、クロロスチレン、塩化アリル、臭化アリル等(以下、「無水(メタ)アクリル酸等」という場合がある)との反応といった公知の方法によって得ることができる。これらを反応させることにより、中間体フェノール化合物中に架橋基(X)を導入することができ、また、低誘電率、低誘電正接な熱硬化性となり、好ましい態様となる。
【0057】
前記無水(メタ)アクリル酸としては、例えば、無水アクリル酸と無水メタクリル酸が挙げられる。前記(メタ)アクリル酸クロリドとしては、例えば、メタクリル酸クロリドとアクリル酸クロリドが挙げられる。また、クロロメチルスチレンとしては、例えば、p-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレンが挙げられ、前記クロロスチレンとしては、例えば、p-クロロスチレン、m-クロロスチレンが挙げられ、前記塩化アリルとしては、例えば、3-クロロ-1-プロペンが挙げられ、前記臭化アリルとしては、例えば、3-ブロモ-1-プロペンが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても混合して用いてもよい。中でも、より低誘電正接の硬化物が得られる無水メタクリル酸や、メタクリル酸クロリドを用いることが好ましい。
【0058】
前記塩基性触媒としては、具体的には、ジメチルアミノピリジン、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、及び、アルカリ金属水酸化物等が挙げられる。前記酸性触媒としては、具体的には、硫酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。特にジメチルアミノピリジンが触媒活性の点から優れている。
【0059】
前記中間体フェノール化合物と前記無水(メタ)アクリル酸等との反応としては、前記中間体フェノール化合物に含まれる水酸基1モルに対し、前記無水(メタ)アクリル酸等を1~10モルを添加し、0.01~0.2モルの塩基性触媒を一括添加、又は、徐々に添加しながら、30~150℃の温度で、1~40時間反応させる方法が挙げられる。
【0060】
また、前記無水(メタ)アクリル酸等との反応(架橋基の導入)時に、有機溶媒を併用することにより、前記硬化性樹脂の合成における反応速度を高めることができる。このような有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、1、3-ジオキサン、ジエトキシエタン等のエーテル類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒、トルエン等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいし、また、極性を調製するために、適宜2種以上を併用してもよい。
【0061】
上述の無水(メタ)アクリル酸等との反応(架橋基の導入)の終了後は、反応生成物を貧溶媒に再沈した後、析出物を貧溶媒で20~100℃の温度で、0.1~5時間攪拌し、減圧濾過した後、析出物を40~80℃の温度で、1~10時間乾燥することで、目的の前記硬化性樹脂を得ることができる。貧溶媒としてはヘキサンなどが挙げられる。
【0062】
前記硬化性樹脂の軟化点としては、150℃以下であることが好ましく、20~140℃であることがより好ましい。前記硬化性樹脂の軟化点が前記範囲内であると、加工性に優れるため好ましい。
【0063】
<硬化性樹脂組成物>
本発明は、前記硬化性樹脂を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物に関する。前記硬化性樹脂は、耐熱性、及び、低誘電特性(特に低誘電正接)に寄与できるため、前記硬化性樹脂を含む硬化性樹脂組成物を用いて得られる硬化物は、耐熱性、及び、低誘電特性に優れ、好ましい態様となる。
【0064】
〔その他樹脂等〕
本発明の硬化性樹脂組成物には、前記硬化性樹脂に加えて、その他樹脂、硬化剤、硬化促進剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で特に限定なく使用できる。前記硬化性樹脂は、後述するが、硬化剤を配合することなく、加熱等により硬化物を得ることができるが、例えば、その他樹脂等を併せて配合する際には、硬化剤や硬化促進剤などを配合して、使用することができる。
なお、本発明の硬化性樹脂組成物には、前記硬化性樹脂を含むが、前記硬化性樹脂の中で、Xがアリルエーテル基の場合、Xが、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルベンジルエーテル基とは異なり、単独重合(架橋)することができない(単独では硬化物を得ることができない)ため、前記Xがアリルエーテル基の場合は、硬化剤や硬化促進剤などを使用することが必要となる。
【0065】
〔その他樹脂〕
前記その他樹脂としては、例えば、アルケニル基含有化合物、例えば、ビスマレイミド類、アリルエーテル系化合物、アリルアミン系化合物、トリアリルシアヌレート、アルケニルフェノール系化合物、ビニル基含有ポリオレフィン化合物等を添加することもできる。また、その他の熱硬化性樹脂、例えば、熱硬化性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、活性エステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂等も目的に応じて適宜配合することも可能である。
【0066】
〔硬化剤〕
前記硬化剤としては、例えば、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ-ル系化合物、シアネートエステル化合物などが挙げられる。これらの硬化剤は、単独でも2種類以上の併用でも構わない。
【0067】
〔硬化促進剤〕
前記硬化促進剤としては、種々のものが使用できるが、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール類、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。特に半導体封止材料用途として使用する場合には、硬化性、耐熱性、電気特性、耐湿信頼性等に優れる点から、トリフェニルフォスフィン等のリン系化合物、又は、イミダゾール類が好ましい。これらの硬化促進剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0068】
〔難燃剤〕
本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、難燃性を発揮させるために、難燃剤を配合することができ、中でも、実質的にハロゲン原子を含有しない非ハロゲン系難燃剤を配合することが好ましい。前記非ハロゲン系難燃剤として、例えば、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、有機金属塩系難燃剤等が挙げられ、これらの難燃剤は、単独でも2種類以上の併用でも構わない。
【0069】
〔充填剤〕
本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、無機質充填剤を配合することができる。前記無機質充填剤として、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミ等が挙げられる。前記無機充填剤の配合量を特に大きくする場合は溶融シリカを用いることが好ましい。前記溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め、かつ、成形材料の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いる方が好ましい。更に球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。また、前記硬化性樹脂組成物を以下に詳述する導電ペーストなどの用途に使用する場合は、銀粉や銅粉等の導電性充填剤を用いることができる。
【0070】
〔その他配合剤〕
本発明の硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤等の種々の配合剤を添加することができる。対処
【0071】
<硬化物>
本発明は、前記硬化性樹脂組成物を硬化反応させて得られることを特徴とする硬化物に関する。前記硬化性樹脂組成物は、前記硬化性樹脂単独、もしくは、前記硬化性樹脂に加えて、上述した硬化剤などの各成分を均一に混合することにより得られ、従来知られている方法と同様の方法で容易に硬化物とすることができる。前記硬化物としては、積層物、注型物、接着層、塗膜、フィルム等の成形硬化物が挙げられる。
【0072】
前記硬化反応としては、熱硬化や紫外線硬化反応などが挙げられ、中でも熱硬化反応としては、無触媒下でも容易に行われるが、さらに速く反応させたい場合には、有機過酸化物、アゾ化合物のような重合開始剤やホスフィン系化合物、第3級アミンの様な塩基性触媒の添加が効果的である。例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、トリフェニルフォスフィン、トリエチルアミン、イミダゾール類等が挙げられる。
【0073】
<用途>
本発明の硬化性樹脂組成物により得られる硬化物が、耐熱性、及び、誘電特性に優れることから、耐熱部材や電子部材に好適に使用可能である。特に、プリプレグ、回路基板、半導体封止材、半導体装置、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板、接着剤やレジスト材料などに好適に使用できる。また、繊維強化樹脂のマトリクス樹脂にも好適に使用でき、高耐熱性のプリプレグとして特に適している。また、前記硬化性樹脂組成物に含まれる前記硬化性樹脂は、各種溶剤への優れた溶解性を示すことから塗料化が可能である。こうして得られる耐熱部材や電子部材は、各種用途に好適に使用可能であり、例えば、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品、宇宙・航空関連部品、電子・電気部品、建築材料、容器・包装部材、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材等が挙げられるが、これらに限定される物ではない。
【実施例
【0074】
以下に、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、「部」及び「%」は特に断わりのない限り、質量基準である。なお、以下に示す条件で、硬化性樹脂、及び、前記硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物を用いて得られる硬化物を合成し、更に得られた硬化物について、以下の条件にて測定・評価を行った。
【0075】
<1H-NMR測定>
1H-NMR:JEOL RESONANCE製「JNM-ECA600」
磁場強度:600MHZ
積算回数:32回
溶媒:CDCl3
試料濃度:1質量%
上記1H-NMR測定により、以下の製造方法により得られた硬化性樹脂の合成をアルデヒドのピークの消失により、確認した(実施例1の図1、実施例9の図2、実施例10の図3参照)。なお、実施例1、9及び10以外についても、同様に、上記1H-NMR測定により、硬化性樹脂の合成確認を行った(図示せず)。
【0076】
<水酸基濃度の測定>
JIS K 1557-1に準拠した方法で水酸基価を測定し、1000×水酸基価/56.11の計算式に基づき、水酸基濃度(mmol/kg)を算出した。
【0077】
(実施例1)
冷却管を設置した200mlの三口フラスコに、2,6-キシレノール67.19g(0.55mol)、96%硫酸56.19g、を仕込み、窒素フローしながらメタノール30mlに溶解させた。70℃のオイルバス中で昇温し、攪拌しながら50%グルタルアルデヒド水溶液25.03g(0.125mol)を6時間添加した後、12時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、得られた反応混合物を室温まで冷却し、反応液にトルエン200mlを加えて、ついでに水200mLで洗った。その後有機層をヘキサン500mLに注ぎ込み、析出した固体を濾別し、真空乾燥させて、中間体フェノール化合物21.56g(0.039mol)を得た。
温度計、冷却管、攪拌機を取り付けた200mLフラスコに、トルエン20g及び前記中間体フェノール化合物32.17g(0.039mol)を混合して110℃に加熱した。ジメチルアミノピリジン1.95g(0.016mol)を添加した。固体がすべて溶解した時点で、無水メタクリル酸24.02g(0.1558mol)を徐々に添加した。得られた溶液を連続混合しながら110℃に20時間維持した。次に、溶液を室温に冷却して、1Lのビーカー中マグネチックスターラーで激しく撹拌したヘキサン360g中に30分かけて滴下した。得られた沈殿物を減圧濾過後、乾燥し、硬化性樹脂32.18g(0.039mol)を得た。
1H-NMR測定(図1参照)と水酸基価測定から、下記構造式を主成分(下記構造式中のメタクリロイル基は、一部水酸基が無水メタクリル酸と反応せずに、水酸基のままの場合も含む)とする、水酸基濃度が0.01mmol/kgの構造と判断した。
【化10】
【0078】
(実施例2)
実施例1における無水メタクリル酸を、23.98g(0.1555mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が0.1mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0079】
(実施例3)
実施例1における無水メタクリル酸を、23.93g(0.1552mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が1mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0080】
(実施例4)
実施例1における無水メタクリル酸を、23.81g(0.1544mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が10mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0081】
(実施例5)
実施例1における無水メタクリル酸を、23.57g(0.1529mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が110mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0082】
(実施例6)
実施例1における無水メタクリル酸を、19.24g(0.1248mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が1000mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0083】
(実施例7)
実施例1における無水メタクリル酸を、17.07g(0.1108mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が1510mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0084】
(実施例8)
実施例1における無水メタクリル酸を、12.02g(0.0780mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が2950mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0085】
(実施例9)
冷却管を設置した200mlの三口フラスコに、2,6-キシレノール67.19g(0.55mol)、96%硫酸56.19g、を仕込み、窒素フローしながらメタノール30mlに溶解させた。70℃のオイルバス中で昇温し、攪拌しながら50%グルタルアルデヒド水溶液25.03g(0.125mol)を6時間添加した後、12時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、得られた反応混合物を室温まで冷却し、反応液にトルエン200mlを加えて、ついでに水200mLで洗った。その後有機層をヘキサン500mLに注ぎ込み、析出した固体を濾別し、真空乾燥させて、中間体フェノール化合物21.56g(0.039mol)を得た。
温度計、冷却管、攪拌機を取り付けた300mLフラスコに、得られた中間体フェノール化合物21.56g(0.039mol)、2,4-ジニトロフェノール(2,4-DNP)0.046g(0.00025mol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)5.9g(0.018mol)、クロロメチルスチレン23.56g(0.1544mol)、及び、メチルエチルケトン100gを加え攪拌しながら75℃に昇温した。
次いで、75℃に保った反応容器に48%-NaOHaqを20分かけて滴下した。滴下終了後、さらに75℃で20h攪拌を継続した。20h後、室温まで冷却し、トルエン100gを加え、さらに10%HClを加えて中和した。その後、水相を分液することにより分離し、さらに水300mで3回分液洗浄した。得られた有機相を蒸留することにより濃縮し、メタノールを加えて生成物を再沈殿した。沈殿を濾過・乾燥し、硬化性樹脂39.68g(0.039mol)を得た。
1H-NMR測定(図2参照)と水酸基価測定から、下記構造式を主成分(下記構造式中のビニルベンジルエーテル基は、一部水酸基がクロロメチルスチレンと反応せずに、水酸基のままの場合も含む)とする、水酸基濃度が9mmol/kgの構造と判断した。
【化11】

【0086】
(実施例10)
冷却管を設置した200mlの三口フラスコに、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノール104.66g(0.55mol)、96%硫酸56.19g、を仕込み、窒素フローしながらメタノール30mlに溶解させた。70℃のオイルバス中で昇温し、攪拌しながら50%グルタルアルデヒド水溶液25.03g(0.125mol)を6時間添加した後、12時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、得られた反応混合物を室温まで冷却し、反応液にトルエン200mlを加えて、ついでに水200mLで洗った。その後有機層をヘキサン500mLに注ぎ込み、析出した固体を濾別し、真空乾燥させて、中間体フェノール化合物32.18g(0.039mol)を得た。
温度計、冷却管、攪拌機を取り付けた200mLフラスコに、トルエン20g、及び、得られた中間体フェノール化合物32.18g(0.039mol)を混合して、110℃に加熱した。
次いで、ジメチルアミノピリジン1.95g(0.016mol)を添加した。固体がすべて溶解した時点で、無水メタクリル酸23.81g(0.1544mol)を徐々に添加した。得られた溶液を連続混合しながら、110℃に20時間維持した。
次に、得られた溶液を室温まで冷却して、1Lのビーカー中で、マグネチックスターラーで、激しく撹拌したヘキサン360g中に、30分かけて滴下し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を減圧濾過後、乾燥し、硬化性樹脂42.80g(0.039mol)を得た。
1H-NMR測定(図3参照)と水酸基価測定から、下記構造式を主成分(下記構造式中のメタクリロイル基は、一部水酸基が無水メタクリル酸と反応せずに、水酸基のままの場合も含む)水酸基濃度が11mmol/kgの構造と判断した。
【化12】
【0087】
(比較例1)
実施例1における無水メタクリル酸を、30.6g(0.25mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が0mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0088】
(比較例2)
実施例1における無水メタクリル酸を、8.42g(0.0546mol)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法で合成を実施し、実施例1と同様の構造を主成分とする、水酸基濃度が4040mmol/kgの硬化性樹脂を得た。
【0089】
(比較例3)
比較例1で得られた硬化性樹脂10質量部と、4-メトキシフェノール0.0013質量部を混和することで、水酸基濃度が10mmol/kgの硬化性樹脂(混合物)を得た。
【0090】
<保存安定性の評価>
硬化性樹脂をトルエンで溶解し、固形分濃度が80%の樹脂溶液を調製した。東機産業社製 RE100L型粘度計を用いて、初期の粘度と、60℃で1ヵ月保存したあとの粘度を、25℃で測定した。保存安定性は、粘度変化率(%)(100×(60℃で1ヵ月後の粘度-保存前の粘度)/保存前の粘度)で評価した。なお、前記保存安定性は、○、又は、△(粘度変化率が20%未満)であれば、実用上問題ないものと判断した。
(評価基準)
○:粘度変化率が10%未満のもの
△:粘度変化率が10~20%未満のもの
×:粘度変化率が20%以上のもの
【0091】
<樹脂フィルム(硬化物)の作成>
実施例、及び、比較例で得られた硬化性樹脂と、前記硬化性樹脂100質量部に対して、ラジカル重合開始剤であるα,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンを5質量部混和した硬化性樹脂組成物を5cm角の正方形の型枠に入れ、ステンレス板で挟み、真空プレスにセットした。常圧常温下で1.5MPaまで加圧した。次に10torrまで減圧後、100℃まで30分かけて加温し、1時間静置した。その後、220℃まで30分かけて加温し、2時間静置した。その後、室温まで徐冷した。平均膜厚が100μmの均一な樹脂フィルム(硬化物)を作製した。
【0092】
<耐熱性の評価(ガラス転移温度)>
得られた樹脂フィルム(硬化物)について、パーキンエルマー製DSC装置(Pyris Diamond)を用い、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される発熱ピーク温度(熱硬化温度)の観測後、それより50℃高い温度で30分間保持した。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、さらに、再度20℃/分の昇温条件で昇温し、樹脂フィルム(硬化物)のガラス転移点温度(Tg)(℃)を測定した。なお、ガラス転移点温度(Tg)としては、100℃以上であれば、実用上問題がなく、好ましくは、150℃以上である。
【0093】
<誘電特性の評価>
得られた樹脂フィルム(硬化物)の面内方向の誘電特性について、キーサイト・テクノロジー社のネットワークアナライザーN5247Aを用いて、スプリットポスト誘電体共振器法により、周波数10GHzについて誘電率、及び、誘電正接を測定した。なお、前記誘電正接としては、10.0×10-3以下であれば、実用上問題がなく、好ましくは、3.0×10-3以下であり、より好ましくは2.5×10-3以下である。また、前記誘電率としては、3.0以下であれば、実用上問題がなく、好ましくは、2.7以下であることが好ましく、より好ましくは、2.5以下である。
【0094】
【表1】
【0095】
上記表1の評価結果より、実施例においては、硬化性樹脂の溶液が保存安定性に優れ、前記硬化性樹脂を使用することで得られる硬化物は、耐熱性、及び、低誘電特性の両立を図ることができ、実用上問題のないベルであることが確認できた。
【0096】
一方、上記表1の評価結果より、比較例1においては、使用した硬化性樹脂の水酸基濃度が所望の範囲を下回ったため、硬化性樹脂自体の反応性が上がり、前記硬化性樹脂をトルエンに溶解した樹脂溶液における保存安定性に劣ることが確認された。比較例2においては、使用した硬化性樹脂の水酸基濃度が所望の範囲を上回ったため、
硬化性樹脂中の水酸基以外の架橋基の割合が低くなることで、前記硬化性樹脂を使用して得られる硬化物の架橋密度が低くなり、ガラス転移温度が低く、耐熱性に劣り、また、誘電特性も実施例と比較して高くなることが確認された。また、比較例3においては、水酸基濃度が所望の範囲を下回る硬化性樹脂と共に、4-メトキシフェノールを混和した硬化性樹脂の混合物は、混合物全体での水酸基濃度は、所望の範囲に含まれるものであったが、混合物溶液として評価を行ったところ、水酸基濃度が所望の範囲を下回る硬化性樹脂により、その硬化性樹脂自体の反応性が上がり、混合物溶液全体での保存安定性に劣り、硬化性樹脂の水酸基濃度を所望の範囲に調製することが重要であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の硬化制樹脂は保存安定性に優れ、前記硬化性樹脂を使用し得られる硬化物は、耐熱性、及び、誘電特性に優れることから、耐熱部材や電子部材に好適に使用可能であり、特に、プリプレグ、半導体封止材、回路基板、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板等や、接着剤やレジスト材料に好適に使用可能である。また、繊維強化樹脂のマトリクス樹脂にも好適に使用可能であり、高耐熱性のプリプレグとして適している。
図1
図2
図3