(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】訓練用具
(51)【国際特許分類】
A63B 21/012 20060101AFI20230725BHJP
A63B 23/12 20060101ALI20230725BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20230725BHJP
A41G 1/00 20060101ALN20230725BHJP
【FI】
A63B21/012
A63B23/12
A61H1/02 K
A41G1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019202396
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】519116517
【氏名又は名称】有限会社プアラニリミテッドカンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】望月 寛子
(72)【発明者】
【氏名】塚田 祐一
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特許第5943132(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0074728(US,A1)
【文献】米国特許第5733612(US,A)
【文献】特開2017-188377(JP,A)
【文献】特開2009-268636(JP,A)
【文献】登録実用新案第3014941(JP,U)
【文献】登録実用新案第3082957(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0106043(US,A1)
【文献】米国特許第8011846(US,B1)
【文献】国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構;農研機構,“花を利用した認知リハビリテーション - SFAプログラムの手引き”,SFAプログラムの手引き,農研機構,2017年05月24日,p.1-28,インターネット <URL:https://flsa.jp/images/maff/28-rehabilitation.pdf>
【文献】一般社団法人 フラワーライフスタイリスト協会,“調査研究資料 平成28年度事業”,調査研究資料,2014 フラワーライフスタイリスト協会, 一般社団法人フラワーライフスタイリスト協会 > 調査研究資料 > 28年度,2019年05月24日,p.1-21,インターネット <URL:https://flsa.jp/maff/year-28/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 21/012
A63B 23/12
A61H 1/02
A41G 1/00
A01G 5/00
A47G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在部を備える被操作体を、前記延在部の先端側から土台に突き挿すことで訓練対象者の上肢機能を訓練するための訓練用具であって、
前記延在部には、前記土台に対する前記延在部の挿し易さに関わる物理的特徴が前記延在部の延在方向において変わる部分が設けられており、
前記物理的特徴は、前記延在部の硬さ、及び表面摩擦係数の大きさのうちの少なくとも一つであることを特徴とする訓練用具。
【請求項2】
前記延在部における前記物理的特徴が変わる部分では、前記先端に近い部分の方が前記先端から遠い部分よりも前記土台に挿し易くなるように前記物理的特徴が変わる、請求項1に記載の訓練用具。
【請求項3】
それぞれが延在部を備える複数種類の被操作体の中の少なくとも一つを、前記延在部の先端側から土台に突き挿すことで訓練対象者の上肢機能を訓練するための訓練用具であって、
前記土台に対する前記延在部の挿し易さに関わる物理的特徴が前記被操作体の種類間で異なることを特徴とする訓練用具。
【請求項4】
前記物理的特徴は、前記延在部の硬さ、太さ、先端形状、及び表面摩擦係数の大きさのうちの少なくとも一つである、請求項3に記載の訓練用具。
【請求項5】
前記被操作体が複数備えられており、
前記訓練対象者が訓練を実施する際、複数の前記被操作体が同一の前記土台において互いに異なる箇所に挿される、請求項1~4のいずれか一項に記載の訓練用具。
【請求項6】
前記被操作体は、加飾体であり、前記延在部が前記土台に突き挿されることで前記土台に支持される、請求項5に記載の訓練用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、訓練用具に係り、特に、土台に対して被操作体をその先端側から突き挿すことで操作者の上肢機能を訓練するための訓練用具に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者等のように筋力が低下した者を対象とするリハビリ用の器具の中には、軟質な土台に棒等の剛体をその先端側から突き挿すことで訓練対象者の上肢機能を訓練するための訓練用具がある。そのような訓練器具の一例としては、特許文献1に記載のリハビリ用キットが挙げられる。
【0003】
特許文献1のリハビリ用キットは、フラワーアレンジメントに用いられる保持ブロック及び花材によって構成され、保持ブロックに設けられた位置マークに花材を挿し込んでいくことで訓練対象者の身体機能を訓練するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたリハビリ用キットのような訓練用具を用いて上肢機能を訓練する場合には、リハビリの進行度合い等に応じて負荷が変えられる方が望ましい。例えば、訓練対象者がリハビリを始めた当初には負荷を小さくし、訓練対象者がリハビリに慣れ出した頃に負荷を上げれば、その者の上肢機能を計画的且つ段階的に向上させることができ、訓練対象者にとって無理なく且つ効果的な訓練が実現され得る。
この点に関して、特許文献1には、花材が挿される保持ブロックの高さを徐々に変えることが記載されている。これは、保持ブロックの高さが変わることで、訓練対象者に掛かる負荷が変わることを期待したものである。しかしながら、保持ブロックの高さを変えることによる負荷の調整効果は、比較的小さい。そのため、負荷の調整範囲をより広げ、且つ、その調整を段階的に行える訓練用具を開発し、その器具によって訓練対象者の上肢機能を計画的に且つ段階的に向上させることが求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、前述した従来技術が抱える問題点を解決すべく、訓練対象者の上肢機能を計画的且つ段階的に向上させることが可能な訓練用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の第一の訓練用具は、延在部を備える被操作体を、延在部の先端側から土台に突き挿すことで訓練対象者の上肢機能を訓練するための訓練用具であって、延在部には、土台に対する延在部の挿し易さに関わる物理的特徴が延在部の延在方向において変わる部分が設けられていることを特徴とする。
【0008】
上記のように構成された本発明の第一の訓練用具によれば、被操作体の延在部の中途位置で、土台に対する延在部の挿し易さが変わる。これにより、訓練対象者が被操作体を土台に挿し込む際に、挿し込み量等を調整して被操作体の挿し易さを変えることができるので、上肢機能の訓練を計画的に且つ段階的に進めることが可能となる。
【0009】
なお、上述した訓練用具において、延在部における物理的特徴が変わる部分では、先端に近い部分の方が先端から遠い部分よりも土台に挿し易くなるように物理的特徴が変わるとよい。
【0010】
また、本発明の第二の訓練用具は、それぞれが延在部を備える複数種類の被操作体の中の少なくとも一つを、延在部の先端側から土台に突き挿すことで訓練対象者の上肢機能を訓練するための訓練用具であって、土台に対する延在部の挿し易さに関わる物理的特徴が被操作体の種類間で異なることを特徴とする。
【0011】
上記のように構成された本発明の第二の訓練用具によれば、土台に対する延在部の挿し易さが被操作体の種類間で変わる。これにより、訓練対象者が被操作体を土台に挿し込む際に、使用する被操作体の種類を切り替えて被操作体の挿し易さを変えることができるので、上肢機能の訓練を計画的に且つ段階的に進めることが可能となる。
【0012】
また、以上までに説明してきた本発明の訓練用具に関して、より好ましい構成を述べると、上述の物理的特徴は、延在部の硬さ、太さ、先端形状、及び表面摩擦係数の大きさのうちの少なくとも一つであるとよい。これらの物理特徴のうちの少なくとも一つを変えることにより、土台に対する延在部の挿し易さを比較的容易に調整することができる。
【0013】
また、被操作体が複数備えられており、訓練対象者が訓練を実施する際には、複数の被操作体が同一の土台において互いに異なる箇所に挿されるとよい。この場合、訓練対象者は、上肢機能を鍛えることができるとともに、土台中の挿し込み箇所を認識しながら複数の被操作体を土台に挿し込むことで、注意力及び視空間認知能力などの認知機能を維持及び改善することができる。
【0014】
また、被操作体は、加飾体であり、延在部が土台に突き挿されることで土台に支持されるとよい。この場合には、被操作体を土台に挿す作業(訓練)にレクリエーション性が加わるので、訓練に対する訓練対象者の意欲を喚起させ易くなる。
上記の構成において、被操作体をなす加飾体は、人工植物であると好適である。この場合には、延在部が人工植物の茎部であり、上述した物理的特徴が茎部の硬さ、太さ、先端形状、及び表面摩擦係数の大きさのうちの少なくとも一つであるとよい。この場合には、被操作体を土台に挿す作業(訓練)を、フラワーアレンジメントの作業として実施することができる。
【0015】
また、上記の構成において、茎部のうちの少なくとも一部分は、当該一部分の軸をなす芯材と、テープからなり芯材に巻き付けられた巻き付け部と、粘土材料からなり巻き付き部を被覆した被覆部とを有してもよい。
上記の構成であれば、茎部のうち、粘土材料からなる被覆部によって構成された部分を指で摘むことにより、被操作体が持ち易くなる。
【0016】
また、被操作体は、延在部のうち、先端を含む部分(先端部分)の外表面を覆うコート層を有してもよい。この場合、コート層は、水溶性のニトロセルロース、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、酢酸エチル及び酢酸ブチルのうちの少なくとも一つによって構成されていると、好適である。この場合には、コート層によって覆われた延在部の先端部分が土台に保持され易くなるので、被操作体が土台に挿された状態で安定する。また、延在部の先端部分の外表面がコート層によって覆われることで、被操作体の再利用等のために土台に挿さった状態の被操作体を土台から取り外す際、その取り外し作業がより容易になる。
【0017】
また、土台は、フェノール樹脂製のフォーム材によって構成されてもよい。この場合には、土台が軽量化され、また、被操作体を突き挿し易いものとなる。なお、フェノール樹脂製のフォーム材からなる土台を用いる場合には、被操作体の先端部分の外表面がコート層に覆われている構成が、特に有効となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の訓練用具によれば、訓練対象者の上肢機能を計画的且つ段階的に向上させることができ、医療現場及び介護施設等におけるリハビリ用に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る訓練用具を示す図である。
【
図2】本発明の第一実施形態で用いられる被操作体を示す図である。
【
図4B】被操作体の先端部分のバリエーションを示す図である(その1)。
【
図4C】被操作体の先端部分のバリエーションを示す図である(その2)。
【
図4D】被操作体の先端部分のバリエーションを示す図である(その3)。
【
図5】被操作体の変形例を示す図である(その1)。
【
図6】被操作体の変形例を示す図である(その2)。
【
図7】被操作体である加飾体の他の例を示す図である。
【
図8】本発明の第二実施形態に係る訓練用具を示す図である。
【
図9】被操作体の太さ及び先端形状と土台への挿し易さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の訓練用具について好適な構成例(以下、第一実施形態及び第二実施形態と言う。)を挙げ、それぞれの構成例を、添付の図面を参照しながら詳細に説明することとする。
【0021】
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするために挙げた一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下に説明する実施形態から変更又は改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれる。
【0022】
また、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0023】
<<第一実施形態>>
第一実施形態に係る訓練用具(以下、訓練用具10と言う。)は、訓練対象者の上肢機能を訓練するために用いられる。訓練用具10は、
図1に示すように、訓練対象者によって操作される被操作体11、13、15、及び各操作体が挿し込まれる土台20を有する。訓練用具10を用いた訓練では、訓練対象者が被操作体11、13、15を手に持ち、各被操作体11、13、15をその先端側(
図1では下側)から土台20に突き挿す。これにより、訓練対象者の上肢機能(特に、筋力及び協調運動機能)が改善される。
【0024】
被操作体11、13、15は、
図1から明らかなように、延在部を有する加飾体であり、詳しくは人工植物によって構成されている。「加飾体」は、土台に挿し込まれることで飾られて装飾美を発揮するものであり、人工植物は、加飾体の一例に相当する。「人工植物」は、人工的な加工成型過程を経て製造される植物であり、造花、プリザーブドフラワー及びドライフラワーが該当し、以下では、花材と称する。花材には、花冠を有するものに限定されず、花冠を有しないもの(例えば、花冠の代わりに葉又は穂を備えるもの)も含まれる。
【0025】
以上のように、第一実施形態に係る訓練用具10は、花材からなる被操作体11、13、15が土台20に挿し込まれるように構成されたキットであり、言わばフラワーアレンジメント用のキットである。このような訓練用具10によれば、被操作体11、13、15を土台20に挿し込む作業(訓練)を通じて、訓練対象者の上肢機能を鍛えることができる。また、上記の訓練をフラワーアレンジメントという装飾作業とすることで、作業のレクリエーション性を高めることができ、訓練に対する訓練対象者の意欲をより容易に喚起させることができる。
【0026】
また、フラワーアレンジメントのように同じ土台20において互いに異なる箇所に複数の花材(被操作体11、13、15)を挿し込む作業を実施することで、注意力及び視空間認知能力などの認知機能を維持及び改善する効果が得られる。これは、上記の作業は、記憶力、注意力、及び視空間認知能力を要し、上肢の協調運動となって訓練対象者の脳機能改善に貢献し得ることに因る。
【0027】
また、造花等の人工植物を用いた訓練であるため、生花を用いる場合と比較して、管理等の手間を要さず、またコストも割安となる。さらに、人工植物からなる花材であれば、生花と比較して個体差(ばらつき)がより小さくなるので、より形状が安定している花材を用いて訓練を行うことができる。
【0028】
なお、
図1には、図示の都合上、三種類の被操作体11、13、15が1本ずつ描かれているが、被操作体の種類の数、及び各種類の個数(本数)については、任意の数に設定することができ、訓練用具10には、少なくとも一つ以上の被操作体が備わっていればよい。
【0029】
訓練用具10を構成する土台20と被操作体11、13、15について、それぞれ説明すると、土台20は、表面に孔を穿つことが可能な軟質な部材によって構成される。土台20は、例えば、合成樹脂製のフォーム材(スポンジ体)からなり、合成樹脂としては、フェノール樹脂、ウレタン樹脂及びポリスチレン等が好ましく、フェノール樹脂が特に好ましい。
【0030】
なお、土台20の材質については、上述した合成樹脂製のフォーム材に限定されず、それ以外の材質、例えば粘土材又はジェル材等であってもよい。
【0031】
土台20の形状については、特に制限されないが、好ましくはフラワーアレンジメント用の土台として好適な形状、例えば立方体又は直方体の形状、若しくは、
図1に示すように立方体又は直方体における複数の角部分が面取りされた形状であってもよい。
【0032】
また、土台20の表面において被操作体11、13、15が差し込まれる箇所には、その目印として挿し込み位置マーク22が設けられているとよい。挿し込み位置マーク22の形状は、任意に設定してもよく、例えば、円型、バツ印、星印、三角形、四角形、及びその他の多角形型等が挙げられる。また、挿し込み位置マーク22を形成する方法については、特に制限されないが、例えば、土台20の表面に窪みを設ける加工方法、マークの外枠に溝を設ける方法、マークを印刷する方法、及び、マークをペン等で描く方法等が挙げられる。
【0033】
被操作体11、13、15は、前述したように花材(人工植物)からなり、
図1及び2に示すように、それぞれ茎部12、14、16を有する。茎部12、14、16は、被操作体11、13、15の先端から延びた延在部に相当し、各被操作体11、13、15は、その茎部12、14、16の先端側から土台20に突き挿されることで土台20に支持される。
【0034】
また、被操作体11、13、15は、再利用可能であり、一回の訓練において土台20に挿し込まれた後に土台20から取り外され、その後の訓練において再利用される。
【0035】
第一実施形態に係る茎部12、14、16の構成について、以下に詳しく説明する。なお、茎部12、14、16の基本的な構成は、被操作体11、13、15の種類間で共通するため、以下の説明では、被操作体11の茎部12についてのみ説明することとする。
【0036】
茎部12は、その断面を示す
図3から分かるように、茎部12の軸をなす芯材17を有する。芯材17は、ワイヤ等の金属線からなり、例えば、茎部12の先端から後端(先端とは反対側の端)まで延びている。また、茎部12のうち、後端から若干延びた部分(以下、根元部12Sと言う。)では、芯材17がポリ塩化ビニル又はナイロン等の合成樹脂材料によって被覆されている。
【0037】
他方、茎部12のうち、先端からある程度の位置まで延びた部分(以下、加工茎部12Pと言う。)では、
図3に示すように、芯材17の周囲に巻き付け部18が設けられ、巻き付け部17の外側に被覆部19がさらに設けられている。巻き付け部18は、紙テープ等のテープからなり、芯材17に巻き付けられている。被覆部19は、粘土材料からなり、巻き付け部18を被覆している。
【0038】
以上のように加工茎部12Pは、その外周部分である巻き付け部18が粘土材料によって構成されていることから、外周部分がポリ塩化ビニル又はナイロン等によって構成された根元部12Sよりも滑り難く把持し易くなっている。
また、芯材17と被覆部19との間には、紙テープからなる巻き付け部18が介在している。これにより、芯材17を被覆部19で直に被覆する構成に比べて、被覆部19をなす粘土材料を保持させ易くなる(換言すると、被覆部19が脱落し難くなる)。
なお、加工茎部12Pの構成は、芯材17に紙テープ等を巻き付けて粘土材料によって被覆するものには限定されず、例えば、芯材17をシリコン樹脂によって被覆した構成であってもよい。
【0039】
さらに、第一実施形態では、茎部12のうちの加工茎部12Pには、
図2に示すように、土台20に対する茎部12の挿し易さに関わる物理的特徴が茎部12の延在方向において変わる部分(以下、挿し易さ変更部分30と言う。)が設けられている。具体的に説明すると、挿し易さ変更部分30では、茎部12の先端に近い部分の方が先端から遠い部分よりも土台20に挿し易くなるように茎部12の太さ(外径)が変わっている。
【0040】
挿し易さ変更部30は、例えば、
図2に示すように茎部12の先端部分に設けられており、
図4Aに示すように、先端に向かって細くなる形状となっている。なお、
図4Aのケースでは、挿し易さ変更部30が先端に向かって漸次的に縮径しており、先端が平坦面をなしている。ただし、挿し易さ変更部30は、上記の構成に限定されず、
図4Bに示すように先端が尖ったものであってもよく、あるいは、
図4Cに示すように先端が丸まったものであってもよい。
【0041】
また、
図4Dに示すように、茎部12の太さが先端に向かって不連続に(ステップ状に)小さくなってもよく、この場合には、太さが変化することで形成される段差部分が挿し易さ変更部30に相当する。
【0042】
なお、
図3に示すケースでは、挿し易さ変更部30が茎部12の先端部分に設けられているが、これに限定されず、茎部12の途中部分、例えば
図5に示すように茎部12の略中間部分において挿し易さ変形部30が設けられてもよい(すなわち、茎部12の途中位置で太さが変形してもよい)。
【0043】
以上のように、第一実施形態に係る被操作体11では、茎部12(厳密には、加工茎部12P)に挿し易さ変更部30が設けられており、茎部12の太さが茎部12の中途位置で変化している。茎部12の太さは、茎部12を土台20に挿し込む際の挿し込み易さ(換言すると、土台20に挿し込む際の抵抗)に関与し、細くなるほど挿し易く、太くなるほど挿し難くなる。
【0044】
そして、上記の被操作体11を土台20に挿す作業を訓練として行うことで、訓練対象者の上肢機能を計画的且つ段階的に鍛えることができる。具体的に説明すると、訓練の開始時には、被操作体11の茎部12のうち、比較的挿し易い先端側の部分を土台20に挿し込み、作業への慣れ度合いに応じて、より後端側まで挿し込むようにする。このようにすれば、訓練の進み具合に応じて被操作体11の挿し易さを変えることができ、つまり、被操作体11を土台20に挿し込む際に訓練対象者の手に掛かる負荷を変えることができる。この結果、訓練の進み具合を踏まえて訓練対象者の筋力を段階的に且つ計画的に改善することができる。
【0045】
なお、被操作体11を土台20に挿し込む際に訓練対象者の手に掛かる負荷を変える上で、茎部12の太さを、50~300%の範囲で変更するのが好ましい。
ちなみに、最も持ち易く、且つ土台20に最も挿し易い被操作体11の太さは、直径4mm程度であり、その太さから訓練の慣れ度合いに応じて徐々に太くしていき、最終的に被操作体11の太さを直径12mm程度まで変化させるとよい。
【0046】
また、前述したように、第一実施形態では、訓練作業がフラワーアレンジメントの作業であることから、訓練を通じてフラワーアレンジメントの作品を完成することができ、さらに、フラワーアレンジメントによる認知機能の改善効果を得ることができる。
なお、訓練実施後、土台20に挿した被操作体11を土台20から取り外して次回以降の訓練で再利用すれば、訓練に要する経費を抑えることができる。
【0047】
以上に挙げた利点を踏まえると、第一実施形態に係る訓練用具10は、上肢機能を鍛えるリハビリ用キットとして有用であり、取り扱い易く、且つ安価であるため、医療現場及び介護施設等において利用することが可能である。
【0048】
ところで、上肢機能を鍛えるリハビリ用キットの中には、ボードに形成された孔等の凹部に棒状のペグ(木釘)を嵌め込むように構成された器具、所謂ペグボードが存在する。また、ペグボードの中には、太さが異なる複数種類のペグを、それぞれ対応する凹部に嵌め込むように構成されたものが存在する。
【0049】
しかし、ペグボードを用いる訓練(リハビリ)は、ペグを単に凹部に嵌め込む作業であるため、訓練用具10を用いた訓練と比較して、ペグを嵌め込む際の抵抗が殆どなく、訓練対象者の手に掛かる負荷も僅かである。それ故に、ペグボードを用いる訓練では、例えペグの太さを変えたとしても、本発明の訓練用具10のように負荷を段階的に変えることが難しい。
これに対して、訓練用具10によれば、ペグボードでは困難な負荷の段階的な変更が可能であるので、ペグボードに比較して、訓練対象者の上肢機能をより計画的に鍛えることができる。
【0050】
また、茎部12のうち、訓練対象者が指で摘んで持つ部分の太さは、被操作体11の持ち易さに影響を及ぼし、より太くなるほど、被操作体11が持ち易くなる。ここで、茎部12において訓練対象者によって持たれる部分が茎部12の先端に近くなるほど、茎部12を摘んだ状態の訓練対象者の指に掛かる負荷がより大きくなる。このことを考慮し、茎部12において太さが変わる部分(すなわち、挿し易さ変更部30)を好適な位置に配置するのが好ましい。
【0051】
以上までに説明してきた実施形態では、土台20に対する茎部12の挿し易さに関わる物理的特徴が茎部12の太さであり、挿し易さ変更部30にて茎部12の太さ(外径)が変化する。ただし、挿し易さに関わる物理的特徴は、他にも挙げられ、例えば、茎部12の硬さであってもよい。
ここで、硬さとは、茎部12の曲げ難さを示す指標であり、ヤング率(弾性係数)、剛性率、圧縮強度、引張強度若しくはせん断強度等の物性値によって定量化することができる。これらの数値は、茎部12の芯材17の太さ、芯材17を構成する芯線の本数、及び芯材17の強度等に応じて決まる。なお、茎部12を部分的に軟らかくする場合には、例えば、その部分から芯材17を抜いたりゴム製の芯材17を使用してもよい。
【0052】
そして、挿し易さ変更部30にて茎部12の硬さが変わることで、当該茎部12を含む被操作体11の挿し易さが変化し、この結果、訓練対象者の上肢機能を計画的且つ段階的に鍛えることができる。
具体的に説明すると、茎部12は、硬いほど土台20に挿し易く、柔らかい(曲がり易い)ほど力が伝わり難くなるために土台20に挿し難くなる。したがって、茎部12の硬さが変わる位置まで被操作体11が土台20に挿し込まれると、被操作体11の挿し易さが変化するため、挿し込み力の調整が必要となる結果、訓練対象者の上肢機能を段階的に改善することが可能となる。
【0053】
なお、被操作体11を土台20に挿し込む際に訓練対象者の手に掛かる負荷を変える上で、茎部12の硬さ、より詳しくは芯材17の太さを、30~100%の範囲で変更するのが好ましい。
ちなみに、一般的なフラワーアレンジメント用に用いられる被操作体11の場合、芯材17を構成するワイヤの太さは、番手で表され、18番、20番、22番、24番、26番、28番、30番の順に細くなり、芯材17が細くなるほど曲がり易くなる(すなわち、被操作体11が挿し難くなる)。そこで、例えば、訓練の当初には、芯材17が18番(直径1.21mm)のワイヤからなる被操作体11を用い、訓練に慣れた頃には、芯材17が28番(直径0.37mm)のワイヤからなる被操作体11を用いるとよい。
【0054】
土台20に対する茎部12の挿し易さに関わる物理的特徴は、他にも考えられる。例えば、土台20と茎部12との間に生じる摩擦力が挙げられる。この摩擦力を変える方法としては、茎部12の表面摩擦係数を変えることが挙げられる。表面摩擦係数を変える手段としては、例えば、
図6に示すように、茎部12が有する加工茎部12Pのうち、その延在方向において先端を含む所定の部分の外表面をコート層32によって覆うことが挙げられる。
【0055】
コート層32について説明すると、コート層32の材料である水溶性のニトロセルロース、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、酢酸エチル及び酢酸ブチルのうちの少なくとも一つを水等に溶かして溶液化し、その溶液を加工茎部12Pの先端部分に噴霧又は塗布等することでコート層32が形成される。加工茎部12Pの外表面のうち、コート層32によって覆われた領域では、表面の凹凸度合い(表面粗さ)がより小さくなるので、コート層32がなく露出した領域よりも表面摩擦係数が小さくなる。
なお、コート層32は、表面摩擦係数をより小さくするものに限定されず、逆に表面摩擦係数をより大きくするものであってもよい。
【0056】
そして、茎部12においてコート層32が途切れる箇所(すなわち、コート層32の後端が位置する箇所)が挿し易さ変更部30に相当する。挿し易さ変更部30にて茎部12の表面摩擦係数が変わることで、当該茎部12を含む被操作体11の挿し易さが変化し、この結果、訓練対象者の上肢機能を計画的且つ段階的に鍛えることができる。
なお、コート層32の厚さは、挿し易さに実質的に影響を与えない程度に薄くするのが好ましい。
【0057】
茎部12(厳密には、加工茎部12P)のうち、外表面がコート層32で覆われている部分は、その表面摩擦係数がより小さいために土台20に挿し易く、外表面がコート層32で覆われていない部分は、その表面摩擦係数が大きいために土台20に挿し難くなる。したがって、コート層32が途切れる位置まで被操作体11が土台20に挿し込まれると、被操作体11の挿し易さが変化するため、挿し込み力の調整が必要となる結果、訓練対象者の上肢機能を段階的に改善することが可能となる。
【0058】
上記のコート層32により、加工茎部12Pの耐久性を向上させることができる。また、茎部12の先端部分の外表面がコート層32によって覆われることで、土台20に挿した状態の被操作体11を土台20から容易に取り外すことができるので、被操作体11を再利用し易くなる。さらに、茎部12の先端部分の外表面がコート層32によって覆われていることで、被操作体11を土台20に突き挿す際に土台20からの微粉の発生を生じ難くすることができる。かかる効果は、微粉が発生し易いフェノール樹脂製のフォーム材によって土台20が構成されている場合には、特に有効である。
【0059】
また、
図6に示す被操作体11において、加工茎部12Pの先端部分では、先端に向かって太さが漸次的に細くなるように挿し易さ変更部30が設けられているとともに、加工茎部12Pの略中間位置までコート層32が形成されており、コート層32が途切れる位置に、別途、挿し易さ変更部30が設けられている。このように一つの被操作体11の茎部12(延在部)において、土台20への挿し易さが変わる箇所が複数設けられてもよい。その場合には、挿し易さを変える物理的特徴の種類が同一であってもよく、若しくは異なっていてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態では、花材によって構成された被操作体11、13、15を用いたが、これに限定されるものではなく、花材以外の加飾体、例えば
図7に示すような棒体62の後端に球状の装飾部63が取り付けられた加飾体を被操作体61として利用してもよい。また、被操作体は、必ずしも加飾体には限られず、土台20に挿し込むことが可能な部材であればよく、単純な棒体であってもよい。
【0061】
<<第二実施形態>>
第二実施形態に係る訓練用具(以下、訓練用具40と言う。)の用途及び基本的な構成については、第一実施形態に係る訓練用具10と略同様である。すなわち、訓練用具40は、
図8に示すように、複数種類の被操作体41、43、45、47と、土台20とを有する。土台20は、第一実施形態において用いられる土台と同じであり、例えばフェノール樹脂製のフォーム材からなる。
【0062】
被操作体41、43、45、47は、第一実施形態と同様、加飾体によって構成され、具体的には花材(人工植物)によって構成されており、それぞれ、
図8に示すように延在部としての茎部42、44、46、48を有する。各茎部42、44、46、48において後端側に位置する根元部42S、44S、46S、48Sでは、芯材17がポリ塩化ビニル又はナイロン等の合成樹脂材料によって被覆されている。
【0063】
他方、各被操作体の茎部42、44、46、48において先端側に位置する加工茎部42P、44P、46P、48Pでは、芯材17に巻き付けられたテープ(巻き付け部18)が粘土材料の被覆部19によって被覆されている。
【0064】
以上のように構成された訓練用具40を用いた訓練では、訓練対象者が複数種類の被操作体41、43、45、47のうちの少なくとも一つを、フラワーアレンジメントの要領で茎部42、44、46、48の先端側から土台20に突き挿す。このような作業を通じて訓練対象者の上肢機能が改善される。
【0065】
そして、第二実施形態では、土台20に対する茎部42、44、46、48の挿し易さに関わる物理的特徴が被操作体41、43、45、47の種類間で異なっている。具体的に説明すると、加工茎部42P、44P、46P、48Pの太さ(外径)が被操作体41、43、45、47の種類毎に異なっており、加工茎部46Pの太さが最も太く、42P、44P、48Pの順で細くなっている。
【0066】
以上のように、第二実施形態では、茎部の太さが被操作体の種類間で異なっている。そして、訓練の当初には、外径が細くて比較的挿し易い被操作体47を土台20に挿し込み、作業への慣れ度合いに応じて、より太い被操作体43、41、45に切り替えて土台20に挿し込む。このようにすれば、訓練の進み具合に応じて被操作体を徐々に挿し難くして、訓練対象者の手に掛かる負荷を計画的に増やすことができる。
【0067】
以上の結果、第二実施形態でも、第一実施形態と同様に、訓練の進み具合を踏まえて訓練対象者の上肢機能を段階的に且つ計画的に改善することができる。それ以外の効果についても、第一実施形態と第二実施形態との間で同じように発揮される。
【0068】
なお、被操作体11を土台20に挿し込む際に訓練対象者の手に掛かる負荷を変える上で、被操作体の種類間における太さの変化率を50~300%の範囲内で設定するのが好ましい。
【0069】
また、
図8に示すケースでは、各被操作体41、43、45、47の先端部分に、前述の挿し込み易さ変更部30が設けられているため、それぞれの被操作体41、43、45、47においても土台20への挿し易さが変化する。ただし、これに限定されるものではなく、それぞれの被操作体41、43、45、47では太さ(外径)が均一であり土台20への挿し易さが揃っていてもよい。
【0070】
また、土台20への挿し易さを被操作体の種類間で変える構成としては、被操作体における茎部の太さ(外径)が種類間で相違するものに限定されず、例えば、茎部の硬さを種類間で変えることが考えられる。具体的に説明すると、被操作体41、43、45、47の間で、茎部42、44、46、48を構成する芯材17の太さ、芯材17を構成する芯線の本数、及び芯材17の強度等を変えることにより、茎部42、44、46、48の硬さを相違させてもよい。この結果、土台20への挿し易さが被操作体の種類毎に変化するので、土台20に挿す被操作体の種類を切り替えることで、訓練対象者の上肢機能を計画的且つ段階的に改善することができる。
【0071】
また、土台20への挿し易さは、被操作体が備える茎部の先端形状に依存する。そこで、挿し易さを被操作体の種類間で異ならせるために、茎部の先端形状を被操作体の種類間で変えてもよい。
なお、被操作体の太さ及び先端形状と、土台20への挿し易さとの関係は、
図9に示す通りであり、同図に示す被操作体101~109のうち、最も左側に位置する被操作体101が土台20に最も挿し易く、右側に向かうにつれて挿し難くなり、被操作体109が土台20に最も挿し難い。
【0072】
さらに、被操作体41、43、45、47の茎部42、44、46、48に設けられた加工茎部42P、44P、46P、48Pの先端部分が前述のコート層32によって覆われていることで、各被操作体41、43、45、47の先端部分を土台20に挿し易くすることができる。そこで、土台20への挿し易さを被操作体の種類間で変えるために、コート層32の有無、コート層32に用いられる材料、及び、コート層32の表面における凹凸度合い(表面粗さ)等を被操作体の種類に応じて設定してもよい。
【0073】
なお、第二実施形態において加工茎部42P、44P、46P、48Pの先端部分にコート層32を設けることで、前述したように、加工茎部42P、44P、46P、48Pの耐久性を向上させることができる。また、コート層32を設けることで、土台20に挿した状態の被操作体41、43、45、47を土台20から取り外し易くなる。さらに、先端部分の外表面がコート層32に覆われた被操作体41、43、45、47を土台20に突き挿す場合には、土台20からの微粉の発生を抑えることができる。
【符号の説明】
【0074】
10 訓練用具
11,13,15 被操作体
12,14,16 茎部
12S 根元部
12P 加工茎部
17 芯材
18 巻き付け部
19 被覆部
20 土台
22 挿し込み位置マーク
30 挿し易さ変更部
32 コート層
40 訓練用具
41,43,45,47 被操作体
42,44,46,48 茎部
42S,44S,46S,48S 根元部
42P,44P,46P,48P 加工茎部
61 被操作体
62 棒体
63 装飾部
101~109 被操作体