(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/54 20060101AFI20230725BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C23C14/54 E
C23C14/54 F
H01M4/04 Z
(21)【出願番号】P 2019082898
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】木本 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】横山 礼寛
(72)【発明者】
【氏名】江平 大
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-052475(JP,A)
【文献】特開2017-218674(JP,A)
【文献】特開平06-299334(JP,A)
【文献】特開2003-082452(JP,A)
【文献】特開2016-069684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を支持する基板支持機構と、
前記基板に金属膜を形成する成膜源と、
前記成膜源に対向する主ローラと、
前記基板に前記金属膜が形成される成膜中に、前記金属膜の状態を光学的に検知する検知機構と、
前記基板支持機構、前記成膜源、及び前記検知機構を収容する真空容器と
を具備し、
前記検知機構は、前記主ローラに巻回される前記基板に向けて白色光を放出する光源と、前記金属膜の色度を検知する色度計とを有し、
前記色度計は、前記主ローラに前記基板を介して対向し、前記光源により照射された前記金属膜の反射光を測色する成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記検知機構は、減圧雰囲気で前記金属膜の酸化が進行した状態を前記金属膜の色度により検知する
成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜装置であって、
前記検知機構によって検知された前記金属膜の前記色度に応じて、前記金属膜の成膜条件を制御する制御装置をさらに具備する
成膜装置。
【請求項4】
請求項3に記載の成膜装置であって、
前記制御装置は、L
*a
*b
*色空間における前記金属膜のb
*値が10以下なるように前記成膜条件を制御する
成膜装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成膜装置であって、
前記制御装置は、前記L
*a
*b
*色空間における前記金属膜のL
*値が90以上なるように前記成膜条件を制御する
成膜装置。
【請求項6】
基板支持機構に支持され、主ローラに巻回される基板に金属膜が形成される成膜中に、
前記主ローラに巻回される前記基板に向けた光源から白色光を放出し、前記光源によって照射された前記金属膜の反射光を前記主ローラに前記基板を介して対向させた色度計によって測色し、前記色度計によって前記金属膜の色度を検知する光学的手法を用い、
前記金属膜の状態を前記光学的手法で検知しながら、前記基板に前記金属膜を成膜する成膜方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の成膜方法であって、
減圧雰囲気で前記金属膜の酸化が進行した状態を前記金属膜の色度により検知する
成膜方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の成膜方法であって、
L
*a
*b
*色空間における前記金属膜のb
*値が10以下の成膜条件で前記基板に前記金属膜を成膜する
成膜方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の成膜方法であって、
前記L
*a
*b
*色空間における前記金属膜のL
*値が90以上の成膜条件で前記基板に前記金属膜を成膜する
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜装置の中に、例えば、蓄電デバイスに用いられる電池の負極を形成する装置がある。このような成膜装置では、成膜材料としてリチウム等のアルカリ金属を用い、基板にアルカリ金属膜を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リチウム等のアルカリ金属膜は、酸素、水等との反応性が高い。また、上記の成膜装置は、半導体製造装置等に比べると、その真空容器の容量が大きい。このため、真空容器に酸素、水等が微量に残存していると、アルカリ金属膜の一部が酸化して良質なアルカリ金属膜が得られなくなる場合がある。
【0005】
さらに、アルカリ金属膜は、真空容器から取り出した後に、空気、水蒸気と触れ合うと、その反応(被毒)が進む。このため、アルカリ金属膜においては、成膜中に既に被毒しているのか、真空容器から取り出した後に被毒したのかの判別が繁雑になっている。換言すれば、真空容器内で良質なアルカリ金属膜が形成されたとしても、アルカリ金属膜を真空容器から取り出した後に、アルカリ金属膜が被毒する場合もある。
【0006】
従って、アルカリ金属膜の成膜中にアルカリ金属膜が適性に形成されているか否かを確実、簡便に判断できる成膜装置及び成膜方法が求められている。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、より良質なアルカリ金属膜を形成したか否かを確実、簡便に判断することができる成膜装置及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、基板支持機構と、成膜源と、検知機構と、真空容器とを具備する。
上記基板支持機構は、基板を支持する。
上記成膜源は、上記基板に金属膜を形成する。
上記検知機構は、上記基板に上記金属膜が形成される成膜中に、上記金属膜の状態を光学的に検知する。
上記真空容器は、上記基板支持機構、上記成膜源、及び上記検知機構を収容する。
【0009】
このような成膜装置によれば、より良質なアルカリ金属膜を形成したか否かを確実、簡便に判断することができる。
【0010】
上記の成膜装置においては、上記検知機構は、減圧雰囲気で上記金属膜の状態を上記金属膜の色度により検知してもよい。
【0011】
このような成膜装置によれば、検知機構が減圧雰囲気で金属膜の状態を金属膜の色度により検知するので、より良質なアルカリ金属膜を形成したか否かを確実、簡便に判断することができる。
【0012】
上記の成膜装置においては、上記検知機構によって検知された上記金属膜の上記色度に応じて、上記金属膜の成膜条件を制御する制御装置をさらに具備してもよい。
【0013】
このような成膜装置によれば、検知機構によって検知された金属膜の色度に応じて、金属膜の成膜条件を制御する制御装置を具備するので、より良質なアルカリ金属膜を確実、簡便に形成することができる。
【0014】
上記の成膜装置においては、上記制御装置は、L*a*b*色空間における上記金属膜のb*値が10以下なるように上記成膜条件を制御してもよい。
【0015】
このような成膜装置によれば、制御装置は、L*a*b*色空間における金属膜のb*値が10以下なるように成膜条件を制御するので、より良質なアルカリ金属膜を確実、簡便に形成することができる。
【0016】
上記の成膜装置においては、上記制御装置は、上記L*a*b*色空間における上記金属膜のL*値が90以上なるように上記成膜条件を制御してもよい。
【0017】
このような成膜装置によれば、制御装置は、L*a*b*色空間における金属膜のL*値が90以上なるように成膜条件を制御するので、より良質なアルカリ金属膜を確実、簡便に形成することができる。
【0018】
上記の成膜装置においては、上記検知機構は、上記金属膜の状態を上記金属膜の反射率により検知してもよい。
【0019】
このような成膜装置によれば、検知機構は、金属膜の状態を金属膜の反射率により検知するので、より良質なアルカリ金属膜を形成したか否かを確実、簡便に判断することができる。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜方法は、基板支持機構に支持された基板に金属膜が形成される成膜中に、上記金属膜の状態を光学的手法で検知しながら、上記基板に上記金属膜を成膜する。
【0021】
このような成膜方法によれば、より良質なアルカリ金属膜を形成したか否かを確実、簡便に判断することができる。
【0022】
上記の成膜方法においては、減圧雰囲気で上記金属膜の状態を上記金属膜の色度により検知してもよい。
【0023】
このような成膜方法によれば、減圧雰囲気で金属膜の状態を金属膜の色度により検知するので、より良質なアルカリ金属膜を形成したか否かを確実、簡便に判断することができる。
【0024】
上記の成膜方法においては、L*a*b*色空間における上記金属膜のb*値が10以下の成膜条件で上記基板に上記金属膜を成膜してもよい。
【0025】
このような成膜方法によれば、L*a*b*色空間における金属膜のb*値が10以下の成膜条件で基板に金属膜を成膜するので、より良質なアルカリ金属膜を確実、簡便に形成することができる。
【0026】
上記の成膜方法においては、上記L*a*b*色空間における上記金属膜のL*値が90以上の成膜条件で上記基板に上記金属膜を成膜してもよい。
【0027】
このような成膜方法によれば、L*a*b*色空間における金属膜のL*値が90以上の成膜条件で基板に金属膜を成膜するので、より良質なアルカリ金属膜を確実、簡便に形成することができる。
【0028】
上記の成膜方法においては、上記金属膜の状態を上記金属膜の反射率により検知してもよい。
【0029】
このような成膜方法によれば、金属膜の状態を金属膜の反射率により検知するので、より良質なアルカリ金属膜を形成したか否かを確実、簡便に判断することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上述べたように、本発明によれば、より良質なアルカリ金属膜を形成したか否かを確実、簡便に判断することができる成膜装置及び成膜方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本実施形態に係る成膜装置の一例を示す模式的断面図である。
【
図2】図(a)は、比較例1に係るリチウム含有膜を蓄電池の負極材に適用したときの蓄電池における放電容量のサイクル試験結果である。図(b)は、比較例2に係るリチウム含有膜を蓄電池の負極材に適用したときの蓄電池における放電容量のサイクル試験結果である。
【
図3】本実施形態に係るリチウム含有膜を蓄電池の負極材に適用したときの蓄電池における放電容量のサイクル試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0033】
[成膜装置]
【0034】
図1は、本実施形態に係る成膜装置の一例を示す模式的断面図である。
【0035】
本実施形態に係る成膜装置の一例として、巻取式の成膜装置1が示される。本実施形態は、巻取式の成膜装置1に限らず、インライン式の成膜装置、バッチ式の成膜装置等にも適用される。
【0036】
成膜装置1では、真空容器70内でフィルム60が走行しながら、フィルム60の成膜面60dにアルカリ金属膜が形成される。成膜装置1は、例えば、主ローラ10と、成膜源20と、基板支持機構30と、防着板40と、検知機構50と、真空容器70とを具備する。アルカリ金属膜としては、例えば、リチウム金属膜が例示される。
【0037】
主ローラ10は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属製の筒状ローラである。主ローラ10は、中心軸C1を中心に回転する。主ローラ10は、フィルム60と、成膜源20との間に配置される。
【0038】
成膜装置1の外部には、主ローラ10を回転駆動させる回転駆動機構が設けられている。あるいは、主ローラ10が回転駆動機構を有してもよい。あるいは、主ローラ10は、回転駆動機構によって回転されず、中心軸10cを中心に自由に回転するローラであってもよい。主ローラ10においては、その外周面10sがローラ面となり、外周面10sがフィルム60の成膜面60dとは反対側のフィルム60の非成膜面60rに当接する。
【0039】
フィルム60が矢印Aの方向に走行しているとき、例えば、フィルム60に接する主ローラ10は、反時計回りに回転する。このとき、外周面10sが中心軸10cを中心に動く速度(接線速度)は、例えば、フィルム60の走行速度と同じ速度に設定される。
【0040】
本実施形態においては、主ローラ10の内部に、外周面10sの温度を調節する温調媒体循環系等の温調機構が設けられてもよい。温調機構は、例えば、温調媒体循環系等の温調機構である。
【0041】
成膜源20は、フィルム60の成膜面60dにリチウム金属膜を形成する。成膜源20は、溶融容器21(坩堝)を有する。成膜源20は、主ローラ10の外周面10sに対向する。溶融容器21には、蒸着材料25が収容される。蒸着材料25は、例えば、リチウム(Li)等の金属材である。蒸着材料25は、例えば、溶融容器21内において抵抗加熱、誘導加熱、電子ビーム加熱等の手法によって溶融される。
【0042】
基板支持機構30は、フィルム60を支持する支持機構と、フィルム60を走行させる走行機構とを兼ね備える。基板支持機構30は、巻出ローラ31と、巻取ローラ32と、ガイドローラ33a、33b、33c、33dとを有する。成膜装置1の外部には、巻出ローラ31及び巻取ローラ32を回転駆動させる回転駆動機構が設けられている。あるいは、巻出ローラ31及び巻取ローラ32のそれぞれが回転駆動機構を有してもよい。
【0043】
フィルム60は、予め巻出ローラ31に巻かれ、巻出ローラ31から繰り出される。この後、フィルム60には、成膜源20によって成膜処理が施され、フィルム60は、巻取ローラ32によって巻き取られる。
【0044】
例えば、巻出ローラ31から連続的に繰り出されたフィルム60は、走行中にガイドローラ33a、33bによって支持されつつ、ガイドローラ33a、33bのそれぞれによって走行方向が変えられ、主ローラ10に巻回される。
【0045】
主ローラ10に巻回されたフィルム60は、主ローラ10の外周面10sに接触しながら、主ローラ10によって支持されて、ガイドローラ33cに導かれる。
【0046】
主ローラ10の外周面10sから離れたフィルム60は、走行中にガイドローラ33c、33dに支持されつつ、ガイドローラ33c、33dのそれぞれによって走行方向が変えられ、巻取ローラ32に連続的に巻き取られる。
【0047】
防着板40は、成膜源20と主ローラ10との間に配置される。防着板40には、成膜源20を主ローラ10の外周面10sに向けて開口する開口41が設けられている。防着板40は、真空容器70に収容される真空部品の一例である。真空部品は、防着板40に限らず、例えば、リフレクタ、シャッタ、支持アーム、及び配管等でもよい。
【0048】
検知機構50は、フィルム60にリチウム金属膜が形成される成膜中に、減圧雰囲気のin-siteでリチウム金属膜の状態、一例として、金属膜の酸化の程度を光学的に検知する。検知機構50は、色度計51と、制御装置52と、光源53とを有する。例えば、検知機構50は、リチウム金属膜の酸化の程度をリチウム金属膜の色度により検知する。
【0049】
色度計51は、主ローラ10にフィルム60を介して対向する。色度計51としては、例えば、CIE L*a*b*表色系を利用して、色度を求める色度センサが適用される。色度計51は、光源53により照射されたリチウム金属膜の反射光を測色する。
【0050】
色度計51は、フィルム60を介して、ガイドローラ33c(または33d)に対向させてもよく、ガイドローラ33cと主ローラ10との間のフィルム60に対向させてもよく、フィルム60を介して、巻取ローラ32に対向させることが好ましい。さらに、色度計51は、真空容器70外に配置してもよい。この場合、真空容器70には、色度計51が真空容器内を覗く窓部が設けられる。
【0051】
主ローラ10と色度計51との間には、シャッタ56が設けられる。色度計51が測色をしない場合には、シャッタ56が閉じられ、色度計51がシャッタ56により遮蔽される。
【0052】
制御装置52は、フィルム60に形成されたリチウム金属膜の酸化の程度が適切か否かの判断を行う。制御装置52は、リチウム金属膜の色によって、フィルム60に堆積したリチウム金属膜の状態、例えば、その反応の程度を判断する。制御装置52は、リチウム金属膜の酸化の程度が目的値よりも進行した判断したならば、その合図をすることができる。
【0053】
例えば、白色光下で、Li膜は銀色、LiOHは白色、Li2O及びLi2CO3は黄色、オレンジ等のLi及びLiOHと異なる色味を帯びる。検知機構50は、リチウム金属膜の反応の程度が進行したことをリチウム金属膜の色度によって確実且つ簡便に判断する。
【0054】
例えば、リチウム金属膜の酸化が進行してリチウム含有膜となった膜を酸化の程度に応じて複数個用意する。そして、それぞれの膜の組成をXPS(X線光電子分光法)、FE-AES(電界放射型オージェ電子分光分析)等の表面分析法により求めておく。ここで、リチウム含有膜とは、リチウム金属とリチウム酸化物とが混在した膜を意味する。
【0055】
さらに、これらの組成と、リチウム含有膜のL*値、a*値、及びb*値のそれぞれとの対応付けを実験、シミュレーション等で行う。例えば、リチウム含有膜の各組成と、L*値、a*値、及びb*値のそれぞれの値とを対応させた検量線を制御装置52にデータベースとして格納しておく。
【0056】
検知機構50は、色度計51によって、リチウム含有膜の色度を検知し、検知した信号を制御装置52に送信する。制御装置52は、送信された色度が蓄電デバイスとして利用される酸化の程度になければ、その合図を示す。
【0057】
これにより、真空容器70内でフィルム60に形成されたリチウム金属膜が蓄電デバイスとして適性に利用できるか否かの判断が真空容器70からリチウム金属膜を取り出す前に確実且つ簡便に判断される。
【0058】
さらに、制御装置52は、検知機構50によって検知されたリチウム金属膜の色度に応じて、リチウム金属膜の成膜条件を制御してもよい。
【0059】
例えば、制御装置52は、L*a*b*色空間におけるリチウム金属膜のb*値が10以下なるように成膜条件を制御する。または、制御装置52は、リチウム金属膜のL*値が90以上なるように成膜条件を制御する。
【0060】
ここで、成膜条件とは、成膜中における真空容器70内の圧力(真空度)、堆積速度、フィルム60の走行速度等である。
【0061】
また、検知機構50は、リチウム金属膜の酸化の程度をリチウム金属膜の反射率により検知してもよい。例えば、波長が300nm以上800nm以下のレーザ光を利用して、リチウム金属膜の酸化の程度をリチウム金属膜の光反射率から判断してもよい。ここで、光反射率が50%以上のときに、フィルム60に良質なリチウム金属膜が形成されているとする。
【0062】
光源53は、例えば、白色光を放出する照明装置(ランプ)である。これにより、リチウム金属膜には、白色光が照らされる。光源53は、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、LED等のいずれかである。真空容器70内には、光源53に対向するようにシャッタ57が設けられ、シャッタ57が閉じることにより、光源53が遮蔽される。光源53は、必要に応じて真空容器70外に設置してよい。この場合、光源53は、真空容器70外から窓部(不図示)を介して真空容器70内の真空部品を照らすことになる。
【0063】
フィルム60は、成膜対象の基板である。フィルム60は、所謂webであり、所定幅に裁断された長尺のフィルムである。フィルム60は、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔、樹脂フィルムの少なくともいずれかを含む。
【0064】
真空容器70は、主ローラ10、成膜源20、基板支持機構30、防着板40、検知機構50の一部、及びフィルム60等を収容する。真空容器70は、減圧状態を維持することができ、例えば、真空ポンプ等の真空排気系(不図示)に接続された排気管71を通じている。これにより、真空容器70の内部が所定の真空度に維持される。
【0065】
真空容器70内には、ガス供給機構72によって、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、不活性ガス(Ar、He等)等のガスが供給される。
【0066】
また、本実施形態においては、リチウム以外に、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)等の少なくともいずれかが溶融容器21内に収容されてもよい。
【0067】
このように、本実施形態では、成膜装置1を用いて、基板支持機構30に支持されたフィルム60にリチウム金属膜が形成される成膜中に、リチウム金属膜の酸化の程度を検知しながら、フィルム60にリチウム金属膜が成膜される。
【0068】
ここで、減圧雰囲気でリチウム金属膜の酸化の程度がリチウム金属膜の色度により検知される。また、L*a*b*色空間におけるリチウム金属膜のb*値が10以下の成膜条件でフィルム60にリチウム金属膜が成膜される。さらにL*a*b*色空間におけるリチウム金属膜のL*値が90以上の成膜条件でフィルム60にリチウム金属膜が成膜される。なお、リチウム金属膜の酸化の程度は、リチウム金属膜の反射率により検知してもよい。
【0069】
本実施形態の試料と、比較例1、2の試料を準備して、それぞれの色(目視)、色度、サイクル試験を検討した。
【0070】
比較例1のリチウム含有膜は、目視で変色が認められた。比較例1のリチウム含有膜の色度を測定すると、L*値は、-69.93であり、a*値は、1.41であり、b*値は、-2.11であった。組成分析をすると、比較例1のリチウム含有膜では、純粋Liのほかに、Li2O組成またはLi2CO3組成が高くなっていることが分かった。
【0071】
比較例2のリチウム含有膜は、目視で黄色味を帯びていた。比較例2のリチウム含有膜の色度を測定すると、L*値は、94.06であり、a*値は、-0.08であり、b*値は、13.62であった。組成分析をすると、比較例2のリチウム含有膜では、深さ方向にLi2O組成またはLi2CO3組成が多く存在することが分かった。
【0072】
これに対し、本実施形態のリチウム含有膜は、目視で金属光沢(銀色)を帯びていた。本実施形態のリチウム金属膜の色度を測定すると、L*値は、95.85であり、a*値は、-0.46であり、b*値は、7.67であった。本実施形態のリチウム金属膜では、深さ方向にLi2O組成、Li2CO3組成が少なく、より浅い箇所にて純粋Liが存在することが分かった。
【0073】
図2(a)は、比較例1に係るリチウム含有膜を蓄電池の負極材に適用したときの蓄電池における放電容量のサイクル試験結果である。
図2(b)は、比較例2に係るリチウム含有膜を蓄電池の負極材に適用したときの蓄電池における放電容量のサイクル試験結果である。
図3は、本実施形態に係るリチウム含有膜を蓄電池の負極材に適用したときの蓄電池における放電容量のサイクル試験結果である。
【0074】
蓄電池は、コイン型の電池であり、正極材としてLiCoO
2が用いられ、セパレータとして、ポリプロピレン樹脂が用いられ、電解液としてLiPF
6系電解液が用いられている。また、
図2(a)、(b)、
図3のそれぞれでは、4個の蓄電池が評価されている。蓄電池の放電容量の初期値(理論容量)は、約140mAh/gとする。
【0075】
図2(a)に示す比較例1では、5サイクル程度で大きく劣化し、10サイクルで放電容量が得られなくなることが分かった。
【0076】
図2(b)に示す比較例2では、10サイクルを超えると、一部の蓄電池の放電容量が初期値から大きく減少することが分かった。また、別の一部の蓄電池においては、サイクル増加とともに、放電容量が連続的に減少せず、その値がばらつくものがあった。
【0077】
これに対し、
図3に示す本実施形態では、20サイクルを超えても、全ての蓄電池が初期値に近い値を示し、30サイクルを超えたあたりから、徐々に放電容量が減少することが分かった。但し、その減少量は、比較例1、2に比べて圧倒的に低くなることが分かった。
【0078】
このように、蓄電デバイス等のデバイスに適用できる良質なリチウム金属膜を得るには、L*a*b*色空間におけるリチウム金属膜のb*値が10以下であることが好ましく、L*a*b*色空間におけるリチウム金属膜のL*値が90以上であることが好ましいことが分かった。
【0079】
巻取式成膜のように、長尺のフィルム60に対して長時間にわたり成膜処理を行う場合、長い距離にわたり、フィルム60に粗悪なリチウム含有膜が成膜される場合がある。このような場合、この距離分のリチウム含有膜については、デバイスに適用することができなくなり、この距離分のリチウム含有膜を回収したり、または廃棄したりする場合がある。
【0080】
これに対して、本実施形態によれば、フィルム60にリチウム金属膜を成膜している際中に、リチウム金属膜がデバイスに適用し得るか否かを光学的な手法で、確実且つ簡便に判断することができる。さらに、光学的な情報を基に、デバイスに適用し得る良質なリチウム金属膜をフィルム60に確実に形成することができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…成膜装置
10…主ローラ
10s…外周面
10c…中心軸
20…成膜源
21…溶融容器
25…蒸着材料
30…基板支持機構
31…巻出ローラ
32…巻取ローラ
33a、33b、33c、33d…ガイドローラ
40…防着板
41…開口
50…検知機構
51…色度計
52…制御装置
53…光源
56、57…シャッタ
60…フィルム
60d…成膜面
60r…非成膜面
70…真空容器
71…排気管
72…ガス供給機構