(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】搬送装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/04 20060101AFI20230725BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
G01N35/04 G
B65G54/02
(21)【出願番号】P 2019109210
(22)【出願日】2019-06-12
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青山 康明
(72)【発明者】
【氏名】星 遼佑
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
(72)【発明者】
【氏名】玉腰 武司
(72)【発明者】
【氏名】神原 克宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 洋
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 邦昭
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-100161(JP,A)
【文献】特開昭55-068871(JP,A)
【文献】特開2017-077971(JP,A)
【文献】特開平06-016239(JP,A)
【文献】特開2011-199936(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0160299(US,A1)
【文献】国際公開第2019/058735(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/208658(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
B65G 54/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石または磁性体を有する被搬送体と、
磁性体からなるティースに巻線を巻いた電磁石部と、
を備えた搬送装置であって、
前記被搬送体と対向する前記ティースの面
は、前記被搬送体から近い第1対向面と、前記被搬送体から遠い第2対向面と、を有し、
前記第1対向面は、前記第2対向面よりも外径側にあることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
磁石または磁性体を有する被搬送体と、
磁性体からなるティースに巻線を巻いた電磁石部と、
を備えた搬送装置であって、
前記被搬送体と対向する前記ティースの面は、前記被搬送体から近い第1対向面と、前記被搬送体から遠い第2対向面と、を有し、
前記第2対向面よりも前記被搬送体から遠い場所において、前記ティースは円形の搬送方向断面を有し、
前記第2対向面が、中心から外径側へ複数延びる放射状に形成されていることを特徴とする搬送装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の搬送装置であって、
前記被搬送体と対向する前記ティースの面は、前記被搬送体からの距離が中間的である第3対向面、さらに有することを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
請求項
3記載の搬送装置であって、
前記第3対向面の前記被搬送体からの距離は、前記第1対向面から前記第2対向面まで徐々に変化することを特徴とする搬送装置。
【請求項5】
請求項1
または2記載の搬送装置を搭載した検体分析システムであって、
前記被搬送体は、検体容器を保持するホルダまたはラックであることを特徴とする検体分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検体分析システムでは、血液,血漿,血清,尿、その他の体液等の検体(サンプル)に対し、指示された分析項目を検査するため、複数の機能の装置をつなげて、自動的に各工程を処理している。つまり、検体分析システムでは、生化学や免疫など複数の分析分野の分析部を搬送ラインで接続し、1つの装置として運用がされている。そして、こうした検体分析システムの処理能力の向上のため、検体の高速搬送や大量同時搬送および複数方向への搬送が望まれている。
【0003】
このような検体の搬送装置に関し、例えば、下記特許文献1,2がある。特許文献1には、「いくつかの容器キャリアであって、各々が少なくとも1つの磁気的活性デバイス、好ましくは少なくとも1つの永久磁石を備え、試料容器を運ぶように適合された容器キャリアと、容器キャリアを運ぶように適合された搬送平面と、搬送平面の下方に静止して配置されたいくつかの電磁アクチュエータであって、容器キャリアに磁力を印加することによって搬送平面の上で容器キャリアを移動させるように適合された電磁アクチュエータ」が記載されている。また、特許文献2には、「複数の電磁アクチュエータを備え、各電磁アクチュエータが強磁性コアおよび励磁巻線を備える。各励磁巻線がその割り当てられる強磁性コアを越える」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-77971号公報
【文献】特開2017-102103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載の搬送装置では、容器キャリアと強磁性コアの吸引力によって、搬送面と容器キャリアの摩擦力が無視できないものとなっている。摩擦力が増加すると、搬送面が摩耗により劣化したり、摩擦力に抗する大きな電流を流す必要が生じたり、する可能性があった。
【0006】
本発明の目的は、搬送面の劣化を抑制して信頼性を高め、かつ、電流損失を抑制して搬送効率を高めた、搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、磁石または磁性体を有する被搬送体と、磁性体からなるティースに巻線を巻いた電磁石部と、を備えた搬送装置であって、前記被搬送体と対向する前記ティースの面に、凹部を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、搬送面の劣化を抑制して信頼性を高め、かつ、電流損失を抑制して搬送効率を高めた、搬送装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1の搬送装置の要部構成を示す図。
【
図2】
図1に示した搬送装置1をZ-X平面で切り取った断面の模式図。
【
図4】永久磁石からティース面までの距離を示す図。
【
図5】永久磁石に作用する各力(推力、吸引力、推力あたりの吸引力、面積あたりの推力)を示す図。
【
図6】本発明の実施例1の搬送装置の概略を示す図。
【
図7】本発明の実施例2におけるティース形状を示す図。
【
図8】本発明の実施例3におけるティース形状を示す図。
【
図9】本発明の実施例3におけるティースの第3対向面を示す図。
【
図10】本発明の実施例3におけるティースを25個設けた搬送装置を示す図。
【
図11】本発明の実施例4の検体分析装置の一例を示す図。
【
図12】本発明の実施例4の検体前処理装置の一例を示す図。
【
図13】検体前処理装置における第3搬送ラインの要部構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態を、
図1~
図13を参照して説明する。
【0011】
<実施例1>
以下に本発明の実施例1について説明する。
図1は、搬送装置1の要部構成を示したものである。搬送装置1は、磁性体または永久磁石10を有する被搬送体(図示しない)と、磁性体からなるティース25の周りに巻線21を巻いた電磁石部と、を備えており、被搬送体と、複数整列させた電磁石部と、が相対的に移動するものである。通常は、電磁石部が固定され、電磁石部上面に設けられた搬送面11の上面において、被搬送体が移動する。
【0012】
永久磁石10が設けられた被搬送物の一例として、検体容器を1本ずつ保持する検体ホルダや、検体容器を複数本保持する検体ラックがある。このような検体ホルダや検体ラックには、永久磁石10が一体となるように組み込まれており、永久磁石10が搬送されることで、検体容器およびホルダやラックが所望の位置まで搬送される。
【0013】
また、各ティース25は、永久磁石10と対向する側の面において、第1対向面22と第2対向面23が設けられている。さらに、各ティース25は、等間隔にヨーク30に固定されている。永久磁石10は、ネオジムやフェライトなどの永久磁石が好ましいが、その他の磁石および軟磁性体でも構成できる。また、永久磁石と軟磁性体を組み合わせても良い。複数のティース25に設けられた巻線21には、駆動回路(図示しない)が接続されており、駆動回路から電流が供給されると、電流によって生じた磁束がティース25を介して永久磁石10に作用し、X方向またはY方向またはXY方向に被搬送体を移動させる。
【0014】
例えば、ティース25aの直上(Z方向)に永久磁石10があった場合、永久磁石10をX方向に移動させるには、ティース25bの巻線21に電流を流し、その電流によってティース25bに生じる磁束と、永久磁石10の磁束が引き合うようにする。これを順次、永久磁石10の進ませたい方向のティース25および巻線21で行うことにより、任意の方向に永久磁石10を移動できる。
【0015】
一般に、永久磁石と対向する側のティース面積を大きくすると、永久磁石を横方向に移動させようとする力、つまり推力(X方向の力)を大きくすることができる。一方、永久磁石をティースに引きつけようとする力、つまり吸引力(-Z方向の力)も同時に大きくなる。この吸引力は、永久磁石と搬送面の間で摩擦力となり、搬送面の劣化や摩耗を引き起こす。さらに、この摩擦力が大きくなると、より大きな推力が必要となり、大きな推力を得るために大きな電流を流さなければならず、駆動回路において大きな電流容量が必要であったり、大きな電流による損失が生じたり、するなどの問題も引き起こす。
【0016】
図2は、
図1に示した搬送装置1をZ-X平面で切り取った断面の模式図である。ティース25の上面は、永久磁石10から近い面(第1対向面22)と、永久磁石10から遠い面(第2対向面23)の2つの面を有する。本実施例における第1対向面22および第2対向面23は、搬送面11と平行な平面あるが、非平行な平面であったり平面でなかったりしても構わない。
【0017】
図3は、
図2の変形例を示したものである。この
図3の構成も、永久磁石10から距離の異なる第1対向面22と第2対向面23を有する点では、
図2の構成と共通している。ただし、この
図3の構成は、
図2の構成と異なり、ティース25の上面も巻線21の内側に収まるように配置されている。なお、
図3では、巻線21の上面が搬送面11に接しているが、巻線21と搬送面11の間に空隙を設けて、巻線21からの熱が搬送面11に伝わらないようにすることも可能である。
図3の構成では、
図2の構成と比べて、永久磁石10と対向する側であるティース上面の面積が小さいので、推力および吸引力が小さくなるが、低コストで製造できる利点がある。
【0018】
図4は、永久磁石10からティース面までの距離について示したものである。なお、永久磁石10からティース面までの距離は、被搬送体からティース面までの距離と、実質的に同等とみなすことができる。本実施例では、永久磁石10と第1対向面22のZ方向の距離をL1、永久磁石10と第2対向面23のZ方向の距離をL2とすると、L1<L2となっている。ここで、永久磁石10の下面が平面でない場合や、永久磁石10の下面に別の磁性体が設けられている場合なども考えられる。その場合は、永久磁石10が平行に移動する面(例えば搬送面11)を基準として、その面からの距離をそれぞれL1,L2とすれば良い。
【0019】
図5は、
図1に示した搬送装置1において、永久磁石10に作用する、推力(X方向の力)、吸引力(-Z方向の力)、推力あたりの吸引力(吸引力/推力)および永久磁石10に近い第1対向面22の面積あたりの推力、の関係をそれぞれ示したものである。
図5における縦軸は、永久磁石10が移動する方向のティース25に巻かれた巻線21に一定電流を流した場合において、移動元ティースの直上から移動先ティースの直上に移動した際の各力の最大値を示している。
図5における横軸は、第2対向面23の直径(穴径)であり、前提として、第1対向面22の直径は18mmで共通となっている。穴径が0の時は、穴がない状態、つまり、距離の異なる対向面がない状態(従来例)を示す。
【0020】
図5に示す通り、各力の関係は、穴径によって変化する。永久磁石10に作用する力として、一般に、推力よりも吸引力の方が大きくなる。また、穴径が大きくなるにつれて、推力と吸引力は共に減少していく。しかし、推力の減少に対し、吸引力の減少の割合が大きいため、穴径が大きくなるにつれて、推力あたりの吸引力(吸引力/推力)は減少していく。つまり、推力に対して吸引力の小さな搬送装置1が構成できる。また、永久磁石10に近い第1対向面22の面積当たりの推力も、穴径が大きくなるにつれて、増加する。その結果、穴径を大きくすると、推力あたりの吸引力を低減できることになり、吸引力によって生じる永久磁石10と搬送面11の摩擦の抑制が可能となって、信頼性の高い搬送装置1を実現できる。
【0021】
また、
図5によれば、第2対向面23の直径が6mmを超えると、推力あたりの吸引力が急激に低下する一方、第1対向面22の面積当たりの推力が急激に増加することが分かる。したがって、第2対向面23の直径を、第1対向面22の直径の1/3以上にするのが良い。ただし、第2対向面23の直径が、第1対向面22の直径の1/2を超えると、第1対向面22の面積が小さくなって、推力自体が不足してしまう。このため、第2対向面23の直径は、第1対向面22の直径の1/3以上かつ1/2以下とするのが望ましい。
【0022】
ここで、ティース25の中心の真上に永久磁石10が位置するとき、永久磁石10に作用する吸引力が最大となる。しかし、本実施例のように、永久磁石10から遠い第2対向面23を、第1対向面22よりもティース25の中心に近い位置とすることで、吸引力の最大値を抑制する効果もある。なお、本実施例では、永久磁石10(被搬送体)と対向するティース面に凹部を形成する第2対向面23が円形となっており、この第2対向面23の外径側に位置する第1対向面22が環状でとなっているが、第2対向面23は円形でなくても良い。
【0023】
図6は、本実施例の搬送装置1の概略を示したものである。個々のティース25に配置された巻線21には駆動回路50が接続され、駆動回路50から電圧を印加することにより、巻線21に電流が流れ、推力が発生するようになっている。ここで、駆動回路50が巻線21に供給する電流は、位置検出部60によって得られた永久磁石10の位置情報を用いて、演算装置55が演算して決定する。
【0024】
<実施例2>
以下に本発明の実施例2について説明する。
図7は、永久磁石10に対して距離の異なる第1対向面22と第2対向面23を有する、ティース25の形状の様々な例を示したものである。本実施例は、ティース25の対向面の形状が実施例1と異なるのみで、搬送装置1としての構成は実施例1と同様である。本実施例で示す各形状の基本的な効果は、推力あたりの吸引力を低減できる点では共通しており、以下では各形状のそれ以外の効果に関して説明する。
【0025】
図7(a)に示した形状は、永久磁石10から近い第1対向面22と永久磁石10から遠い第2対向面23との間に、永久磁石10からの距離が中間的である第3対向面24を設けたものである。第3対向面24は、
図7(a)に示すように、永久磁石10側に対して徐々に距離が変化しても良いし、永久磁石10と平行に形成したり、曲面で形成したりしても構わない。このように、第1対向面22と第2対向面23の間に第3対向面24を設けることで、永久磁石10に作用する磁束の変化を緩和できる。このため、推力や吸引力の急な変化が低減され、局所的な搬送面11の劣化や永久磁石10の振動を防止でき、搬送装置1の騒音も抑制が可能となる。なお、第1対向面22と第2対向面23との間に形成される面は、第3対向面24だけでなく、それ以外にあっても良い。
【0026】
第3対向面24は、
図7(b)に示すように、第1対向面22から第2対向面23まで、永久磁石10からの距離が連続的に変化するように構成しても良い。
図7(b)の構成によれば、永久磁石10からの距離の大きく変化する場所がなくなり、搬送装置1の騒音がさらに低減する。また、
図7(b)の構成によれば、
図7(a)の構成と比べて、第2対向面23と永久磁石10との距離を近くできるので、推力や吸引力が得やすくなっている。
【0027】
図7(c)は、第2対向面23について、永久磁石10からの距離が徐々に変わるようにした例である。
図7(c)の構成は、他の構成と比べて、製造がし易い利点がある。なお、第1対向面22について、永久磁石10からの距離が徐々に変わるようにすることも可能である。
【0028】
また、
図7(a)乃至
図7(c)に示すように、第2対向面23の周りを第1対向面22が囲むように、第2対向面23を略円形に設けることで、ティース25に対してどの方向に対しても同一の特性を得ることができる。つまり、
図7(a)乃至
図7(c)の構成によれば、ティースを25上から見た場合、X方向、Y方向、XY方向などどの方向にも同様の効果が得られる利点がある。
【0029】
図7(d)は、円形または楕円形の第2対向面ではなく、Y方向に直線状の第2対向面23を設けたものである。このように構成することで、X方向への推力が大きく、一方でY方向への推力がX方向の推力に比べて小さくなる。例えば、永久磁石10の埋め込まれた被搬送体を主にX方向へ搬送する場合、Y方向への推力は小さくても構わない。
図7(d)の構成によれば、相対的に推力あたりの吸引力を低減できる。また、第1対向面22と第2対向面23の間に、第3対向面24をY方向に沿って平行に設けることにより、Y方向への移動を安定させることができる。また、第1対向面22から第2対向面23まで、永久磁石10との距離が連続的に変化する第3対向面24を設けることにより、X方向に移動する際の永久磁石10に作用する磁束の変化を緩和できる。このため、推力や吸引力の急な変化が低減され、局所的な搬送面11の劣化や永久磁石10の振動を防止でき、搬送装置1の騒音も抑制が可能となる。
【0030】
図7(e)は、第2対向面23を球面状に構成した例である。
図7の他の構成と同様に、永久磁石10と対向面の距離が徐々に変わることで、永久磁石10に作用する磁束の変化を緩和でき、推力や吸引力の急な変化を低減できる。このため、局所的な搬送面11の劣化や永久磁石10の振動を防止でき、搬送装置1の騒音も抑制が可能となる。
【0031】
<実施例3>
以下に本発明の実施例3について説明する。
図8は、永久磁石10に対して、距離の異なる第1対向面22と第2対向面23を有する、ティース25の形状のその他の例を示したものである。本実施例は、ティース25の対向面の形状が実施例1と異なるのみで、搬送装置1としての構成は
図1と同様である。本実施例では各ティースにおいて、第1対向面22と第2対向面23の形状を変えた場合の効果について説明する。本実施例で示す各形状の基本的な効果は、推力あたりの吸引力を低減できる点では共通しており、以下では各形状のそれ以外の効果に関して説明する。
【0032】
図8(a)は、外周側の第1対向面22に対し、内周側に第2対向面23を設けた構造である。この構成によれば、XY平面上の360°の方向にほぼ均等の推力特性を発生させることができる。
【0033】
図8(b)は、第2対向面23を十字状に設けた例であり、十字の溝の方向はそれぞれX方向とY方向を向いている。すなわち、第1対向面22がXY方向の位置に形成される。このため、永久磁石10がXY方向に移動した際に、永久磁石10と対向するティース面積の変化が緩やかとなり、永久磁石10に作用する磁束の変化が緩和できる。つまり、この構成によれば、斜め方向(XY方向)の推力を安定して得ることができる。
【0034】
図8(c)も、第2対向面23を十字状に設けた例であるが、十字の溝の方向はそれぞれ斜め方向(XY方向)を向いている。つまり、この構成によれば、第1対向面22がX方向とY方向に形成されるので、X方向およびY方向の推力を安定して得ることができる。
【0035】
図8(d)~(f)は、いずれも第1対向面22がX方向とY方向に形成されるものであり、(c)と同様に、X方向およびY方向の推力を安定して得ることができる。しかし、第1対向面22の形状については、(d)は三角形、(e)は花びら形状、(f)は円弧状となっている。
【0036】
本実施例における
図8(b)~(f)に示すティース構造では、いずれも第2対向面23が、中心から外径側へ複数延びる放射状に形成されており、特定の方向の推力を安定して得ることが可能となっている。このため、被搬送体が特定の方向しか移動しない搬送装置の場合、このような構造が適していると言える。
【0037】
図9(a)~(h)は、第1対向面22と第2対向面23の間に、第3対向面24を設けた構造例を示したものである。こうした構成によれば、永久磁石10に作用する磁束の変化がさらに緩和される。
【0038】
図10(a)は、円形の第2対向面23を有するティースを、25個(5×5個)設けた搬送装置1の例であり、個々のティースはヨーク30で結合されており、各ティースに巻線21が配置される。
【0039】
図10(b)は、十字状の第2対向面23をXY方向に形成したティースを、同様に25個設けた搬送装置1の例である。
【0040】
<実施例4>
本実施例は、上述の実施例1乃至実施例3で述べた搬送装置を、検体分析装置100および検体前処理装置150に適用したものである。最初に、検体分析装置100の全体構成について、
図11を用いて説明する。
図11は、検体分析装置100の全体構成を概略的に示す図である。
【0041】
図11において、検体分析装置100は、反応容器に検体と試薬を各々分注して反応させ、この反応させた液体を測定する装置であり、搬入部101、緊急ラック投入口113、第1搬送ライン102、バッファ104、分析部105、収納部103、表示部118、制御部120等を備える。
【0042】
搬入部101は、血液や尿などの生体試料を収容する検体容器122が複数収納された検体ラック111を設置する場所である。緊急ラック投入口113は、標準液を搭載した検体ラック(キャリブラック)や緊急で分析が必要な検体が収容された検体容器122を収納する検体ラック111を装置内に投入するための場所である。バッファ104は、検体ラック111中の検体の分注順序を変更可能なように、第1搬送ライン102によって搬送された複数の検体ラック111を保持する。分析部105は、バッファ104から第2搬送ライン106を経由して搬送された検体を分析するものであり、詳細は後述する。収納部103は、分析部105で分析が終了した検体を保持する検体容器122が収容された検体ラック111を収納する。表示部118は、血液や尿等の液体試料中の所定の成分の濃度の分析結果を表示するための表示機器である。制御部120は、コンピュータ等から構成され、検体分析装置100内の各機構の動作を制御するとともに、血液や尿等の検体中の所定の成分の濃度を求める演算処理を行う。
【0043】
ここで、第1搬送ライン102は、搬入部101に設置された検体ラック111を搬送するラインであり、上述の実施例1乃至実施例3で述べた搬送装置のいずれかと同等の構成である。本実施例では、磁性体、好適には永久磁石は、被搬送体である検体ラック111の裏面側に設けられている。
【0044】
また、分析部105は、第2搬送ライン106、反応ディスク108、検体分注ノズル107、試薬ディスク110、試薬分注ノズル109、洗浄機構112、試薬トレイ114、試薬IDリーダー115、試薬ローダ116、分光光度計121等により構成される。
【0045】
ここで、第2搬送ライン106は、バッファ104中の検体ラック111を分析部105に搬入するラインであり、上述の実施例1乃至実施例3で述べた搬送装置のいずれかと同等の構成である。
【0046】
また、反応ディスク108は、複数の反応容器を備えている。検体分注ノズル107は、回転駆動や上下駆動により検体容器122から反応ディスク108の反応容器に検体を分注する。試薬ディスク110は、複数の試薬を架設する。試薬分注ノズル109は、試薬ディスク110内の試薬ボトルから反応ディスク108の反応容器に試薬を分注する。洗浄機構112は、反応ディスク108の反応容器を洗浄する。分光光度計121は、光源(図示省略)から反応容器の反応液を介して得られる透過光を測定することにより、反応液の吸光度を測定する。試薬トレイ114は、検体分析装置100内への試薬登録を行う場合に、試薬を設置する部材である。試薬IDリーダー115は、試薬トレイ114に設置された試薬に付された試薬IDを読み取ることで試薬情報を取得するための機器である。試薬ローダ116は、試薬を試薬ディスク110へ搬入する機器である。
【0047】
上述のような検体分析装置100による検体の分析処理は、以下の順に従い実行される。
【0048】
まず、検体ラック111が搬入部101または緊急ラック投入口113に設置され、第1搬送ライン102によって、ランダムアクセスが可能なバッファ104に搬入される。
【0049】
検体分析装置100は、バッファ104に格納されたラックの中で、優先順位のルールに従い、最も優先順位の高い検体ラック111を第2搬送ライン106によって、分析部105に搬入する。
【0050】
分析部105に到着した検体ラック111は、さらに第2搬送ライン106によって反応ディスク108近くの検体分取位置まで移送され、検体分注ノズル107によって検体を反応ディスク108の反応容器に分取される。検体分注ノズル107により、当該検体に依頼された分析項目に応じて、必要回数だけ検体の分取を行う。
【0051】
検体分注ノズル107により、検体ラック111に搭載された全ての検体容器122に対して検体の分取を行う。全ての検体容器122に対する分取処理が終了した検体ラック111を、再びバッファ104に移送する。さらに、自動再検を含め、全ての検体分取処理が終了した検体ラック111を、第2搬送ライン106および第1搬送ライン102によって収納部103へと移送する。
【0052】
また、分析に使用する試薬を、試薬ディスク110上の試薬ボトルから試薬分注ノズル109により先に検体を分取した反応容器に対して分取する。続いて、撹拌機構(図示省略)で反応容器内の検体と試薬との混合液の撹拌を行う。
【0053】
その後、光源から発生させた光を撹拌後の混合液の入った反応容器を透過させ、透過光の光度を分光光度計121により測定する。分光光度計121により測定された光度を、A/Dコンバータおよびインターフェイスを介して制御部120に送信する。そして制御部120によって演算を行い、血液や尿等の液体試料中の所定の成分の濃度を求め、結果を表示部118等にて表示させたり、記憶部(図示省略)に記憶させたりする。
【0054】
なお、検体分析装置100は、上述したすべての構成を備えている必要はなく、前処理用のユニットを適宜追加したり、一部ユニットや一部構成を削除したりできる。この場合も、分析部105と搬入部101との間を第1搬送ライン102により接続し、搬入部101から検体ラック111を搬送する。
【0055】
次に、検体前処理装置150の全体構成について、
図12を用いて説明する。
図12は、検体前処理装置150の全体構成を概略的に示す図である。
【0056】
図12において、検体前処理装置150は、検体の分析に必要な各種前処理を実行する装置である。
図12の左側から右側に向けて、閉栓ユニット152、検体収納ユニット153、空きホルダスタッカー154、検体投入ユニット155、遠心分離ユニット156、液量測定ユニット157、開栓ユニット158、子検体容器準備ユニット159、分注ユニット165、移載ユニット161を基本要素とする複数のユニットと、これら複数のユニットの動作を制御する操作部PC163とから構成されている。また、検体前処理装置150で処理された検体の移送先として、検体の成分の定性・定量分析を行うための検体分析装置100が接続されている。
【0057】
検体投入ユニット155は、検体が収容された検体容器122を検体前処理装置150内に投入するためのユニットである。遠心分離ユニット156は、投入された検体容器122に対して遠心分離を行うためのユニットである。液量測定ユニット157は、検体容器122に収容された検体の液量測定を行うユニットである。開栓ユニット158は、投入された検体容器122の栓を開栓するユニットである。子検体容器準備ユニット159は、投入された検体容器122に収容された検体を次の分注ユニット165において分注するために必要な準備を行うユニットである。分注ユニット165は、遠心分離された検体を、検体分析システムなどで分析するために小分けを行うとともに、小分けされた検体容器(子検体容器)122にバーコード等を貼り付けるユニットである。移載ユニット161は、分注された子検体容器122の分類を行い、検体分析システムへの移送準備を行うユニットである。閉栓ユニット152は、検体容器122や子検体容器122に栓を閉栓するユニットである。検体収納ユニット153は、閉栓された検体容器122を収納するユニットである。
【0058】
ここで、検体前処理装置150においては、
図13に示すように、検体容器122を1つずつ保持する検体ホルダ166が、第3搬送ライン167によって各処理ユニット間で搬送されている。そして、移載ユニット161では、検体前処理装置150における第3搬送ライン167での検体容器122の搬送に用いる検体ホルダ166と、検体分析装置100における第1搬送ライン102での検体容器122の搬送に用いる検体ラック111(5つの検体容器122を搭載する)と、の間で検体容器122の移載が行われる。つまり、検体前処理装置150での前処理が終了した検体容器122は、移載ユニット161を介して、検体分析装置100における第1搬送ライン102に搬出される。
【0059】
なお、検体前処理装置150は、上述したすべての構成を備えている必要はなく、更にユニットを追加したり、一部ユニットや一部構成を削除したりすることができる。また、
図12に示すように、検体前処理装置150と検体分析装置100を組み合わせた検体分析システム200であってもよい。この場合は、各装置内だけではなく、装置と装置との間を上述した実施例1乃至実施例3で述べた搬送装置にて接続し、検体容器122を搬送できる。
【0060】
本実施例の検体分析装置100や検体前処理装置150、さらにはこれらを組み合わせたシステムでは、実施例1乃至実施例3のような搬送装置を備えているので、検体ラック111や検体ホルダ166と、搬送面との摩擦が少ない。その結果、検体容器122を搬送先まで電流損失を抑制しながら効率良く搬送でき、しかも搬送トラブルも少なく信頼性の高い装置あるいはシステムを提供できる。また、検体ラック111等の上下方向に作用する力が小さくなるので、検体ラック111等の脈動による検体容器122の振動を低減することも可能である。
【0061】
<その他>
なお、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上述の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0062】
例えば、実施例1乃至実施例4では、搬送装置で搬送する被搬送体が検体ラック111や検体ホルダ166である場合について説明したが、被搬送体は検体容器122を保持するラック、ホルダに限られず、大規模な搬送が求められる様々な物体を搬送対象にできる。
【符号の説明】
【0063】
1…搬送装置、10…永久磁石、11…搬送面、21…巻線、22…第1対向面、23…第2対向面、24…第3対向面、25,25a,25b…ティース、30…ヨーク、50…駆動回路、55…演算装置、60…位置検出部、100…検体分析装置、101…搬入部、102…第1搬送ライン、103…収納部、104…バッファ、105…分析部、106…第2搬送ライン、107…検体分注ノズル、108…反応ディスク、109…試薬分注ノズル、110…試薬ディスク、111…検体ラック(被搬送体)、112…洗浄機構、113…緊急ラック投入口、114…試薬トレイ、115…試薬IDリーダー、116…試薬ローダ、118…表示部、120…制御部、121…分光光度計、122…検体容器,子検体容器、150…検体前処理装置、152…閉栓ユニット、153…検体収納ユニット、154…ホルダスタッカー、155…検体投入ユニット、156…遠心分離ユニット、157…液量測定ユニット、158…開栓ユニット、159…子検体容器準備ユニット、161…移載ユニット、163…操作部PC、165…分注ユニット、166…検体ホルダ(被搬送体)、167…第3搬送ライン、200…検体分析システム