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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】配管構造体及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 9/013 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
F28F9/013 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019153603
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021032488
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】安藤 達郎
(72)【発明者】
【氏名】篠澤 精一
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105822843(CN,A)
【文献】特開昭54-143953(JP,A)
【文献】実公昭50-011255(JP,Y1)
【文献】実開昭52-078166(JP,U)
【文献】特開昭55-097893(JP,A)
【文献】特開平09-178393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 9/00 - 9/26
F28D 1/00 - 13/00
B21D 53/02 - 53/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に貫通する孔部を有し、前記孔部の内壁に溝が形成された固定管板と、
前記孔部の内部に配置され、前記内壁に対向する第1外周面と、前記第1外周面とは反対側の第1内周面とを有し、前記第1外周面に形成された第1凸面と、前記第1内周面に形成され前記第1凸面とは反対側に位置する第1凹面と、前記第1凸面と前記第1凹面との間の第1肉厚部とにより形成された凸部が前記溝に係合しているスリーブと、
前記スリーブの内部に配置され、前記第1内周面に対向する第2外周面と、前記第2外周面とは反対側の第2内周面とを有し、前記第2外周面に形成された第2凸面と、前記第2内周面に形成され前記第2凸面とは反対側に位置する第2凹面と、前記第2凸面と前記第2凹面との間の第2肉厚部とにより形成された凸部が前記第1凹面に係合している伝熱管と
開口端と、前記開口端に連設されたリム部とを有する開口が設けられたライニング板と
を具備し、
前記ライニング板によって、前記固定管板の主面が覆われ、
前記孔部、前記伝熱管、及び前記スリーブのそれぞれが前記開口によって開放され、
前記スリーブ及び前記伝熱管のそれぞれが前記孔部を貫通するとともに、前記伝熱管及び前記スリーブのそれぞれの端部が前記開口端にまで到達し、
前記開口端と、前記伝熱管及び前記スリーブのそれぞれの前記端部とが溶接されている
配管構造体。
【請求項2】
請求項に記載された配管構造体であって、
前記溝は、前記孔部の中心軸の周りを周回し、環状に形成されている
配管構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載された配管構造体であって、
前記伝熱管、前記スリーブ、及び前記ライニング板が同じ材料で形成されている
配管構造体。
【請求項4】
厚み方向に貫通する孔部を有し、前記孔部の内壁に溝が形成された一対の固定管板と、
前記一対の固定管板のそれぞれの前記孔部の内部に配置され、前記内壁に対向する第1外周面と、前記第1外周面とは反対側の第1内周面とを有し、前記第1外周面に形成された第1凸面と、前記第1内周面に形成され前記第1凸面とは反対側に位置する第1凹面と、前記第1凸面と前記第1凹面との間の第1肉厚部とにより形成された凸部が前記溝に係合しているスリーブと、
前記一対の固定管板の一方の固定管板から他方の固定管板まで延在し、前記一対の固定管板のそれぞれに設けられた前記スリーブの内部に配置され、前記第1内周面に対向する第2外周面と、前記第2外周面とは反対側の第2内周面とを有し、前記第2外周面に形成された第2凸面と、前記第2内周面に形成され前記第2凸面とは反対側に位置する第2凹面と、前記第2凸面と前記第2凹面との間の第2肉厚部とにより形成された凸部が前記第1凹面に係合している伝熱管と、
開口端と、前記開口端に連設されたリム部とを有する開口が設けられたライニング板と、
前記一対の固定管板のそれぞれが両端に接続され、内部に前記伝熱管が挿入された管体と
を具備し、
前記ライニング板によって、前記固定管板の主面が覆われ、
前記孔部、前記伝熱管、及び前記スリーブのそれぞれが前記開口によって開放され、
前記スリーブ及び前記伝熱管のそれぞれが前記孔部を貫通するとともに、前記伝熱管及び前記スリーブのそれぞれの端部が前記開口端にまで到達し、
前記開口端と、前記伝熱管及び前記スリーブのそれぞれの前記端部とが溶接されている
熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管構造体及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器の代表的なものに、多管式熱交換器がある(例えば、特許文献1参照)。多管式熱交換器では、太い管体に細い伝熱管を複数貫通させ、例えば、伝熱管にプロセスを流通させ、管体に温調用の媒体を流通させる。これにより、プロセスが媒体から熱を奪うことによってプロセスが暖められたり、逆に、プロセスガスから熱が媒体に逃げることによりプロセスガスが冷やされたりする。
【0003】
ここで、伝熱管は、缶体の両端に取り付けられる固定管板を貫通し、固定管板に固定される。例えば、固定管板には、伝熱管を通す孔が設けられ、この孔に係止溝を形成しておく。次に、伝熱管が孔に差し込まれ、伝熱管の内径が拡管器によって拡張され、係止溝に伝熱管の一部が圧入することにより、伝熱管が固定管板に係止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/005333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、伝熱管を固定管板の係止溝に圧入すると、係止溝に圧入された伝熱管の表面に傷が発生する可能性がある。熱交換器の信頼性を損失させないためには、このような傷を極力抑えることが望ましい。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、より信頼性の高い配管構造体及び熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る配管構造体は、固定管板と、スリーブと、伝熱管とを具備する。
上記固定管板は、厚み方向に貫通する孔部を有し、上記孔部の内壁に溝が形成されている。
上記スリーブは、上記孔部の内部に配置され、上記内壁に対向する第1外周面と、上記第1外周面とは反対側の第1内周面とを有する。上記第1外周面に形成された第1凸面と、上記第1内周面に形成され上記第1凸面とは反対側に位置する第1凹面と、上記第1凸面と上記第1凹面との間の第1肉厚部とにより形成された凸部が上記溝に係合している。
上記伝熱管は、上記スリーブの内部に配置され、上記第1内周面に対向する第2外周面と、上記第2外周面とは反対側の第2内周面とを有する。上記第2外周面に形成された第2凸面と、上記第2内周面に形成され上記第2凸面とは反対側に位置する第2凹面と、上記第2凸面と上記第2凹面との間の第2肉厚部とにより形成された凸部が上記第1凹面に係合している。
【0008】
このような配管構造体であれば、溝付近の伝熱管には、傷、亀裂が生じにくくなり、配管構造体の信頼性が向上する。
【0009】
上記の配管構造体においては、開口端と、上記開口端に連設されたリム部とを有する開口が設けられたライニング板をさらに具備してもよい。
上記ライニング板によって、上記固定管板の主面が覆われ、上記孔部、上記伝熱管、及び上記スリーブのそれぞれが上記開口によって開放され、上記スリーブ及び上記伝熱管のそれぞれが上記孔部を貫通するとともに、上記伝熱管及び上記スリーブのそれぞれの端部が上記開口端にまで到達し、上記開口端と、上記伝熱管及び上記スリーブのそれぞれの上記端部とが溶接されてもよい。
【0010】
このような配管構造体であれば、開口端、伝熱管、及びスリーブが良好に固溶し、開口端、伝熱管、及びスリーブが良好に溶接される。
【0011】
上記の配管構造体においては、上記溝は、上記孔部の中心軸の周りを周回し、環状に形成されてもよい。
【0012】
このような配管構造体であれば、伝熱管が孔部に確実に固定される。
【0013】
上記の配管構造体においては、上記伝熱管、上記スリーブ、及び上記ライニング板が同じ材料で形成されてもよい。
【0014】
このような配管構造体であれば、開口端、伝熱管、及びスリーブが良好に固溶し、開口端、伝熱管、及びスリーブが良好に溶接される。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る熱交換器は、一対の固定管板と、スリーブと、伝熱管と、管体とを具備する。
上記一対の固定管板は、厚み方向に貫通する孔部を有し、上記孔部の内壁に溝が形成されている。
上記スリーブは、上記一対の固定管板のそれぞれの上記孔部の内部に配置され、上記内壁に対向する第1外周面と、上記第1外周面とは反対側の第1内周面とを有する。上記第1外周面に形成された第1凸面と、上記第1内周面に形成され上記第1凸面とは反対側に位置する第1凹面と、上記第1凸面と上記第1凹面との間の第1肉厚部とにより形成された凸部が上記溝に係合している。
上記伝熱管は、上記一対の固定管板の一方の固定管板から他方の固定管板まで延在し、上記一対の固定管板のそれぞれに設けられた上記スリーブの内部に配置され、上記第1内周面に対向する第2外周面と、上記第2外周面とは反対側の第2内周面とを有する。上記第2外周面に形成された第2凸面と、上記第2内周面に形成され上記第2凸面とは反対側に位置する第2凹面と、上記第2凸面と上記第2凹面との間の第2肉厚部とにより形成された凸部が上記第1凹面に係合している。
上記管体は、上記一対の固定管板のそれぞれが両端に接続され、内部に上記伝熱管が挿入されている。
【0016】
このような熱交換器であれば、溝付近の伝熱管には、傷、亀裂が生じにくくなり、熱交換器の信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明によれば、より信頼性の高い配管構造体及び熱交換器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の熱交換器の一例を示す模式的断面図である。
図2】図(a)は、図1に示す配管構造体の破線10Pで囲まれた領域の模式的断面図である。図(b)は、図(a)の配管構造体の破線10Qで囲まれた領域の模式的断面図である。
図3】配管構造体の製造する過程の一例を示す模式的断面図である。
図4】配管構造体の製造する過程の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0020】
図1は、本実施形態の熱交換器の一例を示す模式的断面図である。
【0021】
熱交換器1は、多管式熱交換器であって、配管構造体10と、管体20と、入口管体51と、出口管体52とを具備する。熱交換器1において、入口管体51、固定管板100A、管体20、固定管板100B、及び出口管体52は、Z軸方向に直列状に並ぶ。
【0022】
配管構造体10は、一対の固定管板100A、100Bと、複数の伝熱管110を具備する。一対の固定管板100A、100Bのそれぞれの外形は、例えば、円状である。複数の伝熱管110のそれぞれは、一方の固定管板100Aから管体20を通じて他方の固定管板100Bまで延在し、固定管板100A、100Bのそれぞれを貫通している。本実施形態では、伝熱管110が延在する方向をZ軸方向としている。Z軸方向は、熱交換器1の長手方向でもある。
【0023】
管体20は、筒状体の胴体であって、固定管板100A、100Bのそれぞれに接続されている。例えば、管体20の両端の一方に溶接等で固定管板100Aが接続され、両端の他方に溶接等で固定管板100Bが接続される。管体20の内部には、管体20よりも細管である伝熱管110が挿入されている。
【0024】
また、管体200には、入口部201と、出口部202とが設けられ、内部に複数の分散板203が設けられている。入口部201及び出口部202のそれぞれは、管体200の内部に連通する。複数の分散板203のそれぞれは、Z軸方向と直行するように設けられる。管体20の内部では、伝熱管110が分散板203を貫通する。
【0025】
入口管体51は、固定冶具によって固定管板100Aに固定される。出口管体52は、固定冶具によって固定管板100Bに固定される。固定冶具は、例えば、ネジ等である。これにより、入口管体51及び出口管体52のそれぞれは、伝熱管110と連通する。
【0026】
熱交換器1においては、例えば、破線矢印のように、管体20の入口部201から温調用媒体が流入すると、温調用媒体は、伝熱管110の外周に触れながら、分散板203と固定管板100Aとの間を流れ、管体20の内部で跳ね返る。その後、温調用媒体は、伝熱管110の外周に触れながら、Z軸方向に並ぶ分散板203の間を流れ、管体20の内部で再度跳ね返る。続いて、温調用媒体は、伝熱管110の外周に触れながら、分散板203と固定管板100Bとの間を流れ、出口部202から流出する。
【0027】
一方、実線矢印のように、入口管体51からプロセス用媒体(例えば、酸、アルカリ等の薬液、酸、アルカリ等のガス)が流入すると、プロセス用媒体は、複数の伝熱管110のそれぞれを経由して、出口管体52から流出する。この際、伝熱管110を流れるプロセス用媒体が伝熱管110外の温調用媒体から熱を奪えば、プロセス用媒体の温度が上昇する。逆に、伝熱管110を流れるプロセス用媒体から熱が伝熱管110外の温調用媒体に逃げれば、プロセス用媒体の温度が降下する。このように、プロセス用媒体と温調用媒体との間で熱交換が起きる。
【0028】
次に、伝熱管110が固定管板100A(または、固定管板100A)に固定された配管構造体10の構造を詳細に説明する。
【0029】
図2(a)は、図1に示す配管構造体の破線10Pで囲まれた領域の模式的断面図である。図2(b)は、図2(a)の配管構造体の破線10Qで囲まれた領域の模式的断面図である。破線10P、10Qで図示された構成は、固定管板100Aの側だけでなく、固定管板100Bの側にも設けられている。
【0030】
配管構造体10は、固定管板100Aと、伝熱管110と、スリーブ120と、ライニング板130と、クラッド板150(チタン板)とを有する。クラッド板150は、適宜取り除かれてもよく、クラッド板150が取り除かれた構造も配管構造体10に含まれる。
【0031】
固定管板100Aは、例えば、円形の板材であり、その厚み方向に孔部100hを有する。孔部100hは、固定管板100Aの主面間を貫通する。孔部100hの内壁100wには、少なくとも1つの溝100t(図では、Z軸方向に並ぶ2個の溝100tが例示)が形成されている。溝100tは、孔部100hの中心軸の周りを周回し、例えば、環状に形成されている。溝100tの断面形状は、例えば、矩形である。溝100tは、周方向に連続した溝であってもよく、周方向の途中で途切れた構成でもよい。
【0032】
スリーブ120は、例えば、断面が円形の管であり、孔部100hの内部に配置されている。スリーブ120は、孔部100hを貫通し、孔部100hに密に接している。スリーブ120は、外周面121(第1外周面)と、外周面121とは反対側の内周面122(第1内周面)とを有する(図2(b))。スリーブ120の外周面121は、内壁100wに対向し孔部100hに囲まれている。スリーブ120の長さは、固定管板100Aの肉厚よりも長く、伝熱管110よりも短い。スリーブ120は、例えば、孔部100hの中心軸と略同心状に配置される。
【0033】
スリーブ120においては、凸部125が形成されている。凸部125は、外周面121に形成された凸面121t(第1凸面)と、内周面122に形成され凸面121tとは反対側に位置する凹面122r(第1凹面)と、凸面121tと凹面122rとの間の肉厚部120p(第1肉厚部)とにより形成される。凸部125は、溝100tに突出し、溝100tに係合している。すなわち、凸部125は、溝100tに受容され、Z軸方向において溝100tに係止されている。
【0034】
これにより、スリーブ120は、孔部100hによって固定され、例えば、Z軸方向において、孔部100hから抜けにくくなっている。なお、スリーブ120は、一重の管に限らず、極薄管が幾重にも重なった管構造であってもよい。
【0035】
伝熱管110は、例えば、断面が円形の管であり、固定管板100Aに設けられたスリーブ120の内部に配置される。伝熱管110は、孔部100hを貫通するとともに、スリーブ120を貫通する。伝熱管110は、スリーブ120に密に接している。伝熱管110は、外周面111(第2外周面)と、外周面111とは反対側の内周面112(第2内周面)とを有する。外周面111は、スリーブ120の内周面122に対向し、この内周面122に囲まれている。伝熱管110は、孔部100hの中心軸と略同心状に配置される。
【0036】
伝熱管110においては、凸部115が形成されている。凸部115は、外周面111に形成された凸面111t(第2凸面)と、内周面112に形成され凸面111tとは反対側に位置する凹面112r(第2凹面)と、凸面111tと凹面112rとの間の110p(第2肉厚部)とにより形成される。凸部115は、凹面122rに突出し、凹面122rに係合している。すなわち、凸部115は、凹面122rに受容され、Z軸方向において凹面122rに係止されている。凹面122rは、伝熱管110にとっての係止溝として機能する。
【0037】
これにより、伝熱管110は、スリーブ120を介して孔部100hによって間接的に固定され、例えば、Z軸方向において、孔部100hから抜けにくくなっている。
【0038】
ライニング板130は、平面形状が円形の板材であり、伝熱管110及びスリーブ120が突き出た固定管板100Aの主面に対向する。ライニング板130は、固定管板100Aの主面を覆う。ライニング板130には、孔部100h、伝熱管110、及びスリーブ120を開放する開口131が設けられている(図2(a))。開口131は、開口端131eと、開口端131eに連設されたリム部131rとを有する。
【0039】
伝熱管110及びスリーブ120のそれぞれの端部110e、120eは、開口端131eにまで到達し、開口端131e、伝熱管110の端部110e、及びスリーブ120の端部120eとは互いに接している。例えば、開口端131eと、伝熱管110及びスリーブ120のそれぞれの端部110e、120eとは、互いに溶接されている。
【0040】
例えば、開口端131eと、伝熱管110及びスリーブ120のそれぞれの端部110e、120eとは、互いに固溶し、配管構造体10には溶接部140が形成されている。溶接部140が設けられることにより、開口端131eとスリーブ120の端部120eとの間、及びスリーブ120の端部120eと伝熱管110の端部110eとの間が封止されている。
【0041】
伝熱管110、スリーブ120、及びライニング板130は、例えば、同じ材料で形成されている。その材料は、高耐食性の金属で構成され、例えば、タンタル、ニオブ、または、タンタルまたはニオブを主成分とする合金である。固定管板100Aの材料は、ステンレス鋼、鉄等である。
【0042】
伝熱管110及びスリーブ120の肉厚は、0.4mm以上1mm以下である。伝熱管110及びスリーブ120の肉厚が1mmより大きくなると、伝熱管110及びスリーブ120のぞれぞれの剛性が増して拡管がしにくくなる。伝熱管110及びスリーブ120の肉厚が0.4mmより小さくなると、かえって剛性が弱まり、拡管で傷、亀裂が入りやすくなる。スリーブ120の板厚を伝熱管110の板厚よりも薄くしてもよい。これにより、溝100tへのスリーブ120の圧入が促進される。ライニング板130の板厚は、0.8mm以上2mm以下である。
【0043】
図3(a)~図4(b)は、配管構造体の製造する過程の一例を示す模式的断面図である。
【0044】
図3(a)に示すように、固定管板100Aが準備される。固定管板100Aには、予め、孔部100h及び溝100tが設けられる。また、固定管板100Aには、クラッド板150が付設されてもよい。次に、スリーブ120の端120eが孔部100hから突き出るように、孔部100hにスリーブ120が挿入される。
【0045】
次に、図3(b)に示すように、マンドレル等の拡管器を用いて、スリーブ120が孔部100hで拡管される。これにより、スリーブ120が内壁100wに密接するとともに、スリーブ120の一部が溝100tに圧入され、スリーブ120の一部に凸部125が形成される。これにより、スリーブ120が孔部100hに固定される。
【0046】
なお、この段階で、クラッド板150とスリーブ120との接触部を溶接して、溶接部141を形成してもよい。これにより、管体20からの孔部100hを通じた媒体の漏れが確実に抑制される。本実施形態での溶接は、例えば、ティグ溶接が利用される。
【0047】
次に、図4(a)に示すように、伝熱管110の端110eが孔部100hから突き出るように、スリーブ120の内部に伝熱管110が挿入される。
【0048】
次に、図4(b)に示すように、拡管器を用いて、伝熱管110がスリーブ120の内部で拡管される。この際、伝熱管110を介してスリーブ120も拡管器により拡管される。これにより、伝熱管110がスリーブ120に密接するとともに、伝熱管110の一部がスリーブ120の凹面122rに圧入され、伝熱管110の一部に凸部115が形成される。これにより、伝熱管110がスリーブ120に固定される。
【0049】
次に、必要に応じて、伝熱管110及びスリーブ120のそれぞれの端部110e、120eが溶接されて、溶接部140の一部である溶接部140aが形成される。
【0050】
この後、図2(a)に示すように、ライニング板130が伝熱管110及びスリーブ120が突き出た固定管板100Aの側に配置され、ライニング板130の開口端131eと、伝熱管110及びスリーブ120のそれぞれの端部110e、120eとが溶接される。これにより、溶接部140が形成される。この後、伝熱管110及びスリーブ120の最終的な拡管が行われ、図2(a)に示す配管構造体10が形成される。
【0051】
このような複数回における、スリーブ120、伝熱管110の拡管処理により、例えば、伝熱管110の拡管率が1.3~3.1%のときに、伝熱管110の固定管板110A、110Bに対する引抜強度として、ASME規格(ASME SectionVIII Division1)を参考にして試験した結果、10836.3~11277.6(N)、引抜応力として313.8~323.6(N/mm)が得られる。
【0052】
本実施形態によれば、伝熱管110が孔部100hで直接的に拡管されるのでなく、スリーブ120を介して孔部100hで拡管されることから、溝100t付近の伝熱管110には傷、亀裂が入りにくくなる。従って、伝熱管110を流れるプロセス用媒体が亀裂から漏れ出すことがなくなり、信頼性の高い熱交換器1(または、配管構造体10)が提供される。
【0053】
また、ライニング板130の肉厚に比べて伝熱管110の肉厚が薄くても、伝熱管110の周りにスリーブ120が配置されることにより、ライニング板130の肉厚と、伝熱管110とスリーブ120とを合わせた肉厚とが均衡する。これにより、熱容量差を起因とする溶接の不具合(ライニング板130の容積に比べて、伝熱管110の容積が小さいと、溶接時、ライニング板130に蓄積された熱により、ライニング板130と伝熱管110とが固溶せず、伝熱管110が溶融、変形する現象)が抑制され、溶接部140が安定して形成される。
【0054】
特に、タンタル、ニオブ等は、高価な金属のため、このような溶接の不具合が回避できることは、熱交換器1(または、配管構造体10)のコストダウンにつながる。
【0055】
また、仮に、溶接が失敗しても、伝熱管110と孔部100hとの間にスリーブ120が介設されていることから、配管構造体10では伝熱管110を孔部100hから引き抜きやすくなっている。すなわち、伝熱管110の1本の溶接が失敗しても、配管構造体10の全交換を要さず、溶接が失敗した伝熱管110の部分だけを補修すれば足りる。
【0056】
また、スリーブ120は、伝熱管110と孔部100hとの間のシール部材としても機能し、金属で構成されている。従って、フッ化樹脂製の一般的なシール部材に比べて、スリーブ120は、高い機械的強度、耐熱性を有し、作製時及び使用時における高温処理が可能になる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…熱交換器
10…配管構造体
20…管体
51…入口管体
52…出口管体
100A、100B…固定管板
100w…内壁
100t…溝
100h…孔部
110…伝熱管
110e、120e…端部
111、121…外周面
111t、121t…凸面
112、122…内周面
112r、122r…凹面
115、125…凸部
120…スリーブ
120p…肉厚部
130…ライニング板
131…開口
131e…開口端
131r…リム部
140、140a、141…溶接部
150…クラッド板
200…管体
201…入口部
202…出口部
203…分散板
210…伝熱管
図1
図2
図3
図4