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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20230725BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20230725BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C23C14/24 U
H01L21/203 Z
H01L21/285 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019154381
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031739
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】中尾 裕利
(72)【発明者】
【氏名】関根 元気
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-077519(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0115502(US,A1)
【文献】米国特許第05968587(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/203
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を収容する蒸発容器を有し、前記蒸発容器から対象物に向けて前記蒸着材料を噴出する成膜源と、
前記成膜源から噴出する前記蒸着材料の蒸着速度を検知する検知センサと、
前記蒸発容器に収容された前記蒸着材料を加熱する加熱装置と、
前記蒸発容器の構造、前記蒸着材料の種類及び量、及び前記蒸着材料の蒸着経過時間に応じた、前記蒸着速度と前記加熱装置の加熱電力との関係が格納された記憶装置と、
前記蒸着材料の前記対象物への蒸着を進行させる際、蒸着開始から蒸着終了までフィードフォワード制御によって前記加熱電力を制御し、
前記フィードフォワード制御においては、前記記憶装置から前記関係を取得し、前記関係から、蒸着時間を複数に分割し、前記蒸着時間が分割された複数の分割点のそれぞれにおける前記加熱電力を互いに直線状に結んだデータに基づき、前記蒸着経過時間に応じて、前記蒸着速度の目的値に対応した加熱電力で前記加熱装置を作動する制御を行い、
前記蒸着経過時間において、前記目的値と前記検知センサが検知した蒸着速度とに偏差が生じた場合には帰還制御を利用し
前記帰還制御においては、前記偏差を零に漸近させる補償演算結果を前記目的値に対応した前記加熱電力の15%以内で前記加熱電力に加算して前記加熱装置を制御する制御装置と
を具備する成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載された成膜装置であって、
前記制御装置は、
前記蒸着経過時間において定期的に前記帰還制御で用いられる伝達関数の設定値を変更して、前記加熱装置を制御する
成膜装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された成膜装置であって、
前記制御装置は、
前記蒸着材料を前記対象物に形成する際に、定期的に前記帰還制御を停止して前記加熱装置を制御する
成膜装置。
【請求項4】
蒸着材料を蒸発容器に収容し、前記蒸着材料を加熱装置により加熱し、前記蒸発容器から対象物に向けて前記蒸着材料を噴出させて前記対象物に前記蒸着材料を堆積する成膜方法において、
前記蒸着材料の前記対象物への蒸着を進行させる際、蒸着開始から蒸着終了までフィードフォワード制御によって前記加熱電力を制御し、
前記フィードフォワード制御においては、蒸発容器の構造、蒸着材料の種類及び量、及び前記蒸着材料の蒸着経過時間に応じた、前記蒸着材料の蒸着速度と加熱装置の加熱電力との関係を取得し、前記関係から、蒸着時間を複数に分割し、前記蒸着時間が分割された複数の分割点のそれぞれにおける前記加熱電力を互いに直線状に結んだデータに基づき、前記蒸着経過時間に応じて、前記蒸着速度の目的値に対応した加熱電力で前記加熱装置を作動する制御を行い、
前記蒸着経過時間において、前記目的値と検知センサが検知した蒸着速度とに偏差が生じた場合には帰還制御を利用し
前記帰還制御においては、前記偏差を零に漸近させる補償演算結果を前記目的値に対応した前記加熱電力の15%以内で前記加熱電力に加算して前記加熱装置を制御する
を具備する成膜方法。
【請求項5】
請求項に記載された成膜方法であって、
前記関係を前記蒸着材料を前記対象物に蒸着する際に即時的に取得する
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中で基板に形成される膜の蒸着速度を制御する方法の1つに、膜厚モニタを使用する方法がある。例えば、真空容器内で基板の近傍に水晶振動子型の膜厚モニタを設置し、膜厚モニタで検知した値から帰還制御を行って所望の蒸着速度を得る方法である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-111974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、成膜装置に帰還制御を乱す急峻な外的要因が発生した場合、帰還制御が外的要因に追従できず、安定した蒸着速度が得られなくなる場合がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、蒸着速度をより安定して制御できる、成膜速度及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、成膜源と、検知センサと、加熱装置と、記憶装置と、制御装置とを具備する。
上記成膜源は、蒸着材料を収容する蒸発容器を有し、上記蒸発容器から対象物に向けて上記蒸着材料を噴出する。
上記検知センサは、上記成膜源から噴出する上記蒸着材料の蒸着速度を検知する。
上記加熱装置は、上記蒸発容器に収容された上記蒸着材料を加熱する。
上記記憶装置は、上記蒸発容器の構造、上記蒸着材料の種類及び量、及び上記蒸着材料の蒸着経過時間に応じた、上記蒸着速度と上記加熱装置の加熱電力との関係を格納する。
上記制御装置は、上記蒸着材料の上記対象物への蒸着を進行させる際、上記記憶装置から上記関係を取得し、上記蒸着経過時間に応じて、上記蒸着速度の目的値に対応した加熱電力で上記加熱装置を作動する制御を行い、上記目的値と上記検知センサが検知した蒸着速度とに偏差が生じた場合、上記偏差を零に漸近させる補償演算結果を上記加熱電力に加算して上記加熱装置を制御する。
【0007】
このような成膜装置によれば、成膜装置に急峻な外的要因が発生したとしても、蒸着速度の目的値に対応した加熱電力で加熱装置が作動され、その制御が補償演算によって補正されるため、蒸着速度が安定して制御される。
【0008】
上記の成膜装置においては、上記制御装置は、上記蒸着材料の蒸着時間を複数に分割し、上記蒸着時間が分割された複数の分割点のそれぞれにおける上記加熱電力を互いに直線状に結んだデータに基づいて上記加熱装置を制御してもよい。
【0009】
このような成膜装置によれば、上記直線状に結んだデータに基づいて加熱装置を制御されるため、蒸着速度が安定して制御される。
【0010】
上記の成膜装置においては、上記制御装置は、上記蒸着経過時間において定期的に上記帰還制御で用いられる伝達関数の設定値を変更して、上記加熱装置を制御してもよい。
【0011】
このような成膜装置によれば、蒸着中、定期的に帰還制御で用いられる伝達関数の設定値を変更されるため、蒸着速度が安定して制御される。
【0012】
上記の成膜装置においては、上記制御装置は、上記蒸着材料を上記対象物に形成する際に、定期的に上記帰還制御を停止して上記加熱装置を制御してもよい。
成膜装置。
【0013】
このような成膜装置によれば、蒸着中、定期的に帰還制御を停止されて加熱装置が制御されるため、蒸着速度が安定して制御される。
【0014】
本発明の一形態に係る成膜装置は、蒸着材料を蒸発容器に収容し、上記蒸着材料を加熱装置により加熱し、上記蒸発容器から対象物に向けて上記蒸着材料を噴出させて上記対象物に上記蒸着材料を堆積する成膜方法である。
上記の成膜方法では、蒸発容器の構造、蒸着材料の種類及び量、及び上記蒸着材料の蒸着経過時間に応じた、上記蒸着材料の蒸着速度と加熱装置の加熱電力との関係が取得される。
上記蒸着材料の上記対象物への蒸着を進行させる際、上記蒸着経過時間に応じて、上記蒸着速度の目的値に対応した加熱電力で上記加熱装置を作動する制御を行い、上記目的値と検知センサが検知した蒸着速度とに偏差が生じた場合、上記偏差を零に漸近させる補償演算結果を上記加熱電力に加算して上記加熱装置が制御される。
【0015】
このような成膜方法によれば、成膜装置に急峻な外的要因が発生したとしても、蒸着速度の目的値に対応した加熱電力で加熱装置が作動され、その制御が補償演算によって補正されるため、蒸着速度が安定して制御される。
【0016】
上記の成膜方法においては、上記関係を上記蒸着材料を上記対象物に蒸着する際に即時的に取得してもよい。
【0017】
このような成膜方法によれば、上記の関係が蒸着材料を対象物に蒸着する際に即時的に取得されるために、生産性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明によれば、蒸着速度をより安定して制御できる、成膜速度及び成膜方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】図(a)及び図(b)は、本実施形態に係る成膜装置の概略的断面図である。図(c)は、本実施形態に係る成膜装置に設置された膜厚センサの概略的斜視図である。
図2】図(a)は、本実施形態に係る成膜装置のブロック図である。図(b)は、本実施形態に係るフィードフォワード制御の一例を示すグラフ図である。
図3】図(a)は、比較例に係る蒸着経過時間と蒸着速度との関係を示すグラフ図である。図(b)は、本実施形態に係る蒸着経過時間と蒸着速度との関係を示すグラフ図である。
図4】制御方法の変形例に係るブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0021】
図1(a)及び図1(b)は、本実施形態に係る成膜装置の概略的断面図である。図1(c)は、本実施形態に係る成膜装置に設置された膜厚センサの概略的斜視図である。図1(a)が正面図とした場合、図1(b)は、側面図に相当する。
【0022】
成膜装置1は、真空容器10と、成膜源20と、加熱装置30と、検知センサ40と、温度センサ50と、制御装置60と、記憶装置61と、基板搬送機構92とを具備する。
【0023】
真空容器10は、減圧状態が維持することが可能な容器である。真空容器10には、真空容器10内のガスを排気する排気系が設けられる。また、真空容器10には、真空容器10外から真空容器10内にガスを供給することが可能なガス供給機構が設けられてもよい。真空容器10をX-Y平面で切断したときの形状は、例えば、矩形状である。
【0024】
成膜源20は、真空容器10内に設けられている。成膜源20は、例えば、真空容器10内の底部または底部近傍に設けられている。成膜源20は、複数の蒸発容器20sを有する。複数の蒸発容器20sのそれぞれは、基板90が移動する方向に対して交差する方向(例えば、直交する方向)に並ぶ。成膜源20は、いわゆるリニアソース型の蒸着源である。複数の蒸発容器20sのそれぞれは、蒸着材料20mを収容する。蒸発容器20sからは、蒸着の対象物である基板90に向けて蒸着材料20mが噴出する。
【0025】
基板搬送機構92は、成膜源20上に設けられる。基板搬送機構92は、基板90が基板ホルダ91によって保持された状態で、基板90及び基板ホルダ91を真空容器10内で搬送する。基板搬送機構92には、基板90側に図示しないロール機構が設けられる。例えば、基板搬送機構92は、基板90及び基板ホルダ91を複数の蒸発容器20sのそれぞれが並ぶ方向に対して直交する方向に搬送する。
【0026】
基板搬送機構92の設置により、成膜装置1では、X軸方向における基板90と成膜源20との相対位置が変化しながら、基板90に蒸着材料20mが蒸着される。例えば、真空容器10内で固定された成膜源20の上方をX軸方向に基板90が移動しながら基板90に蒸着材料20mが蒸着される。
【0027】
加熱装置30は、複数の蒸発容器20sの周りに設けられる。加熱装置30は、蒸発容器20sに収容された蒸着材料20mを蒸発容器20sを介して加熱する。加熱装置30は、例えば、誘導加熱式または抵抗加熱式の加熱装置である。複数の蒸発容器20sのそれぞれが加熱されると、複数の蒸発容器20sのそれぞれから、基板90に向けて蒸着材料20mが蒸発する。
【0028】
複数の蒸発容器20sのそれぞれから蒸着材料20mが蒸発すると、成膜対象面90dに蒸発した蒸着材料20mが付着して、基板90に所望の厚みの薄膜が形成される。また、基板90を一定速度で移動しながら、成膜対象面90dへの蒸着を行うことにより、成膜対象面90dには均一な厚みの薄膜が形成される。
【0029】
蒸着材料20mは、一例として、有機EL素子の発光層、キャリア輸送層を構成する有機材料である。蒸着材料20mは、有機材料とは限らず、無機材料、金属等でもよい。
【0030】
検知センサ40は、いわゆる膜厚センサである。検知センサ40は、蒸着材料20mが基板90に到達するのを妨げないように配置される。検知センサ40は、成膜源20から噴出する蒸着材料20mの蒸着速度(nm/s)を検知する。検知センサ40は、基板90の近傍に配置され、基板90に形成される膜の厚み、蒸着速度を間接的に測定する。検知センサ40が検知した値は、制御装置60に出力される。
【0031】
検知センサ40の詳細の一例を説明する。
【0032】
図1(c)に、検知センサ40の一例を示す。検知センサ40は、本体41bと、複数の水晶振動子41cと、回転式のシャッタ41sを有する。検知センサ40は、例えば、12個の水晶振動子41cを含むマルチセンサである。水晶振動子41cに蒸着材料20mが体積すると、水晶振動子41cの共振周波数fが変化する。
【0033】
この変化分を時間で微分することにより、水晶振動子41cに堆積する蒸着材料20mの蒸着速度が測定される。また、水晶振動子41cのツーリング係数(T Factor)は、適宜調整され、水晶振動子41cが検知する蒸着速度をもって、基板90に堆積する蒸着材料20mの蒸着速度が間接的に求められる。
【0034】
シャッタ41sには、複数の水晶振動子41cのいずれかが露出する開口41hが設けられている。シャッタ41sの回転により、検知センサ40から任意の水晶振動子41cが露出、選択される。検知センサ40では、選択された任意の水晶振動子41cによって、それぞれの水晶振動子41cに形成される蒸着材料20mの蒸着速度が検知可能になっている。
【0035】
温度センサ50は、複数の蒸発容器20sのそれぞれに設置されている。温度センサ50としては、典型的には、熱電対が用いられる。温度センサ50は、制御装置60に接続されている。
【0036】
制御装置60は、フィードフォワード制御、または、検知センサ40の測定結果に基づくフィードバック制御によって、加熱装置30に供給される加熱電力(例えば、交流電圧)を調整する。これにより、成膜源20が所望の温度に調整され、蒸着材料20mの蒸発量が所望の蒸発量に制御される。
【0037】
記憶装置61には、蒸発容器20sの構造、蒸着材料20mの種類及び量、及び蒸着材料20mの蒸着経過時間に応じた、蒸着材料20mの蒸着速度と、加熱装置30の加熱電力との関係が格納されている。記憶装置61は、制御装置60から独立させず、制御装置60内に組み込まれてもよい。蒸着材料20mの基板90への蒸着を進行させる際、制御装置60は、記憶装置61に格納された上記の関係を利用する。
【0038】
成膜装置1の動作を説明する。
【0039】
図2(a)は、本実施形態に係る成膜装置のブロック図である。図2(b)は、本実施形態に係るフィードフォワード制御の一例を示すグラフ図である。
【0040】
ここで、図2(a)中のSV rateは、蒸着速度の目的値(設定値)であり、MV rateは、蒸着速度の制御値であり、PV rateは、蒸着速度の測定値である。P1~P3は、これら値の合流点または分岐点を示す。図2(b)において、横軸は、蒸着経過時間(h)であり、左縦軸は、加熱装置30の加熱電力(W)であり、右縦軸は、蒸着速度の目的値(nm/s)である。
【0041】
制御装置60は、蒸着経過時間に応じて、フィードフォワード制御により、蒸着速度の目的値に対応した加熱電力で加熱装置30を制御する。
【0042】
例えば、図2(a)に示すように、蒸着速度の設定値(SV rate)が制御装置60に入力されると、蒸着中には、設定値(SV rate)に対応した加熱電力(MV rate)で加熱装置30が加熱される。例えば、設定値(SV rate)は、点P1からPID制御を迂回し、目的値に対応した加熱電力(MV rate)に変換され、この目的値に対応した加熱電力(MV rate)が点P2に行き着いて、逐次、この加熱電力で加熱装置30が加熱される。
【0043】
次に、フィードフォワード制御の中身について説明する。図2(b)には、制御装置60が行うフィードフォワード制御の具体例が示されている。
【0044】
例えば、蒸着中、常時、目的とする蒸着速度(図2(b)破線)を得るには、蒸着経過時間とともに、加熱電力を徐々に上昇させる必要がある。これは、蒸着経過時間とともに蒸着材料20mの蒸発面が徐々に下がり、加熱装置30から蒸着材料20mの蒸発面に到達する熱伝動パスが蒸着経過時間とともに長くなることに起因する。
【0045】
但し、蒸着材料20mの種類毎に蒸着時間内の連続した時刻における加熱電力の適性値(目的値に対応した加熱電力)を記憶装置61に格納しておくことは、データ容量の膨大化をもたらす。特に、蒸着材料20mの種類に限らず、蒸着材料20mの量、蒸発容器20sの構成等のファクタをも考慮すると、そのデータ量はさらに膨大になる。
【0046】
そこで、本実施形態では、制御装置60が蒸着時間を複数に分割し、蒸着時間が分割された複数の分割点のそれぞれにおける加熱電力の適性値を記憶装置61から取得する。複数の分割点のそれぞれにおける加熱電力の適性値は、既に記憶装置61に格納されている。そして、制御装置60は、これらの加熱電力を互いに直線状に結び、この折線状に結んだ折線データに基づいて加熱装置30を制御する(折線変換近似)。なお、各分割点は、蒸着時間の時刻にも対応している。
【0047】
例えば、図2(b)では、一例として、蒸着経過時間が8分割されている。そして、8分割された複数の分割点t~tのそれぞれにおける加熱電力の適性値が互いに直線で結ばれている。例えば、各分割点における加熱電力は、蒸着経過が進むにつれ増加し、隣り合う分割点の加熱電力が直線で結ばれている。
【0048】
複数の分割点t~tのそれぞれを結ぶ折線は、蒸着開始直後では緩やかに上昇し、蒸着の途中では、蒸着開始直後よりもやや急激に上昇し、蒸着終了間際においては、上昇が飽和する3次関数のような近似線になっている。例えば、隣り合う分割点を結ぶ線の勾配は、最初の分割点tから、分割点t~tの中間点であるtまでは、徐々に増加し、中間点から最終点であるtまでは、徐々に減少している。
【0049】
なお、複数の分割点t~tのそれぞれを結ぶ折線は、蒸着材料20mの種類及び量、蒸発容器20sの構造等によっては、3次関数のような軌跡とならず、1次関数のように増加する場合もあり、2次関数のように増加する場合がある。また、分割点の数は、9点に限らず、10点以上でもよく、8点以下でもよい。これらは、蒸着材料20mの種類及び量、蒸発容器20sの構造等によって適宜変更される。
【0050】
制御装置60は、この連続した折線データに則り、蒸着進行中にフィードフォワード制御で加熱装置30を作動する。例えば、制御装置60は、t~tの間は、t~tの間に示されたリニアに増加する加熱電力(MV rate)、t~tの間は、t~tの間に示されたリニアに増加する加熱電力(MV rate)、t~tの間は、t~tの間に示されたリニアに増加する加熱電力(MV rate)、・・・・、t~tの間は、t~tの間に示されたリニアに増加する加熱電力(MV rate)で加熱装置30を制御する。
【0051】
このような制御によれば、成膜装置1の制御を乱す急峻な外的要因が発生し、蒸着中、検知センサ40にFake信号が重畳したとしても(点P3)、急峻な外的要因の影響に先立って、上記折線データに基づくフィードフォワード制御で加熱装置30が制御されるため、蒸着速度の制御値(MV rate)が急峻な外的要因の影響を受けにくく、蒸着中、安定した蒸着速度の制御値で加熱装置30が加熱される。これにより、蒸着中には、安定した蒸発量で蒸着材料20mが蒸発することになる。なお、急峻な外的要因とは、典型的には電気的ノイズがあげられる。
【0052】
但し、折線変換近似による線と、近似された3次関数とには、若干の誤差があり、目的値と、検知センサ40が検知した蒸着速度とに微小な偏差が生じる場合がある。また、蒸発容器20sの噴出口には、時間経過とともに予期せぬ蒸着材料20mの付着が起きる可能性がある。
【0053】
このような場合、制御装置60は、フィードバック制御によって、この偏差を零に漸近させる補償演算を行い、補償演算結果をフィードフォワード制御で行う加熱電力に加算して加熱装置30を制御する。
【0054】
例えば、図2(a)に示すように、検知センサ40が検知した蒸着速度と蒸着速度の目的値とに偏差が生じた場合、制御装置60は、例えば、PID(Proportional Integral Differential)制御によって、偏差を零に漸近させる制御を行う。この場合、フィードフォワード制御をPID制御よりも優先させるため、制御装置60においては、PID制御により補正される加熱電力値(W)がフィードフォワード制御による加熱電力値の15%以内に設定されている。そして、制御装置60は、折線データから得た加熱電力に補償演算結果を加算した加熱電力を加熱装置30に与える真の制御値とする。図2(a)では、それらの加算点が点P2で示されている。
【0055】
このような成膜装置1によれば、フィードフォワード制御で生じる蒸着速度の誤差がPID制御で補正されて、蒸着中の蒸着速度がさらに安定する。なお、PID制御に代えて、P制御またはPI制御にすることもできる。
【0056】
図3(a)は、比較例に係る蒸着経過時間と蒸着速度との関係を示すグラフ図である。図3(b)は、本実施形態に係る蒸着経過時間と蒸着速度との関係を示すグラフ図である。横軸は、成膜装置1を駆動した時間(秒)であり、縦軸は、蒸着速度の規格値(n.u.)である。蒸着開始からの横軸の時間が蒸着経過時間に対応している。蒸着開始前の時間は、成膜装置のアイドル時間に相当する。蒸着速度の目的値は、縦軸の「1」に設定している。
【0057】
図3(a)に示す比較例では、図2(a)に示すフィードフォワード制御が略されている。すなわち、比較例では、フィードバック制御のみにより蒸着速度を制御している。このような場合、Fake信号が検知センサ40に重畳して、PID制御がFake信号に追従できなくなると、Fake信号が発する時間帯では蒸着速度の制御値が「1」から逸れ、乱れが生じている。これにより、加熱電力に乱れが生じる。
【0058】
一方、図3(b)に示す本実施形態では、図2(a)に示すフィードフォワード制御とフィードバック制御とを合わせて蒸着速度を制御している。これにより、Fake信号が検知センサ40に重畳したしても、蒸着時間内では、常時、蒸着速度の制御値が「1」と略重なり、加熱電力が安定する。これにより、常時、蒸発容器20sから蒸発する蒸着材料20mの蒸発量が安定する。
【0059】
(変形例1)
【0060】
図4は、制御方法の変形例に係るブロック図である。
【0061】
制御装置60は、蒸着経過時間内で定期的に帰還制御に用いられる伝達関数の設定値を変更することもできる。例えば、図4に示すように、蒸着経過時間及び蒸着材料20mの種類は、フィードフォワード制御の折線変換に反映されることに加え、蒸着経過時間のステップ数、ステップ時間にも反映される(ステップ時間制御)。
【0062】
例えば、蒸着経過時間は、蒸着経過時間及び蒸着材料20mの種類に応じて、適宜、複数の時間に分割される。そして、蒸着中には、ステップ時間毎に、帰還制御で用いられる伝達関数の設定値が適宜変更される。例えば、PID制御の伝達関数Cにおける、比例ゲイン(K)、積分ゲイン(K)、及び微分ゲイン(K)の少なくともいずれかがステップ時間毎に適宜変更される。
【0063】
また、ステップ時間は、複数の分割点t~tに対応させてもよく、複数の分割点t~tのいずれかで帰還制御で用いられる伝達関数の設定値が適宜変更されてもよい。
【0064】
このような方法によれば、フィードフォワード制御がPID制御により、さらに精度よく補正されて、蒸着中の蒸着速度がさらに安定する。
【0065】
(変形例2)
【0066】
制御装置60は、蒸着材料20mを基板90に形成する際に、定期的に帰還制御を停止して加熱装置30を制御することもできる。例えば、検知センサ40において、シャッタ41sが回転する際には、水晶振動子41cがシャッタ41sにより遮蔽される。この際、検知センサ40が検知する蒸着速度が「0」となると、PID制御が過剰に反応し、制御値に急峻なオーバーシュートを引き起こす可能性がある。変形例2では、PID制御の過剰な反応を抑制するために、蒸着中、定期的に帰還制御が停止される。
【0067】
(変形例3)
【0068】
記憶装置61に格納された関係は、蒸着材料20mが基板90に蒸着される際に即時的に取得してもよい。例えば、新規の蒸着材料20mを基板90に蒸着する際、新規の蒸着材料20mに特性が近似する記憶装置61に情報が格納された蒸着材料20mのデータを基本とし、検知センサ40が検知した蒸着速度と蒸着速度の目的値とに偏差が生じた場合には、PID制御によって補正された折線データが新規の蒸着材料20mにおけるフィードフォアード制御のデータとして記憶装置61に格納される。
【0069】
このような方法によれば、新規の蒸着材料20mにおける加熱電力の適性値を事前に取得する実験、シミュレーション等を行う手間が省け、生産性が向上する。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。本実施形態では、成膜装置1のみならず、成膜装置1を用いた成膜方法も提供される。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…成膜装置
10…真空容器
20…成膜源
20s…蒸発容器
20m…蒸着材料
30…加熱装置
40…検知センサ
41b…本体
41c…水晶振動子
41s…シャッタ
41h…開口
50…温度センサ
60…制御装置
61…記憶装置
90…基板
90d…成膜対象面
91…基板ホルダ
92…基板搬送機構
図1
図2
図3
図4