IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許7319218徐放性フェロモン製剤及びこれを用いた害虫の防除方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】徐放性フェロモン製剤及びこれを用いた害虫の防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/02 20060101AFI20230725BHJP
   A01N 37/06 20060101ALI20230725BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20230725BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20230725BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20230725BHJP
【FI】
A01N37/02
A01N37/06
A01P19/00
A01N25/18 102A
A01M29/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020063121
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161058
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】左口 龍一
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-001346(JP,A)
【文献】特開2006-083088(JP,A)
【文献】特開2018-162244(JP,A)
【文献】特開2012-250957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量比0.5:99.5から99.5:0.5の範囲で、それぞれの総炭素数が等しい、炭素-炭素二重結合を一つ有する第1不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する第2不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を少なくとも含む混合物と、
前記混合物を封入する、下記繰り返し単位(I)
【化1】
(式中、m及びnは、それぞれ独立して1~8の整数である。)
から選ばれる1種以上を含む直鎖状脂肪族ポリエステルの膜を少なくとも一部に含む容器と
を備える徐放性フェロモン製剤であって、
前記第1及び第2不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の両方が性フェロモン物質である1種以上の害虫を対象とし、又は前記第1及び第2不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の一方のみが性フェロモン物質である少なくとも1種の害虫と他方のみ若しくは両方が性フェロモン物質である少なくとも1種の害虫とを対象とする、徐放性フェロモン製剤。
【請求項2】
前記直鎖状脂肪族ポリエステルが、ポリブチレンサクシネ-ト、ポリブチレンアジペ-ト及びポリブチレンアジペ-トサクシネ-トからなる群から選ばれる請求項1に記載の徐放性フェロモン製剤。
【請求項3】
前記それぞれの総炭素数が、14~20である請求項1又は請求項2に記載の徐放性フェロモン製剤。
【請求項4】
前記害虫が、1種又は2種の害虫である請求項1~3のいずれか一項に記載の徐放性フェロモン製剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の徐放性フェロモン製剤を圃場に設置し、前記徐放性フェロモン製剤中の前記性フェロモン物質を放出するステップを少なくとも含む害虫の防除方法。
【請求項6】
前記性フェロモン物質の放出期間において、前記第1及び第2不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の合計質量の残存率に対する前記第1不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量の残存率及び前記第2不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量の残存率の比が、それぞれ0.90~1.10の範囲である請求項5に記載の害虫の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性フェロモン製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
交信撹乱による害虫の防除は、対象害虫の性フェロモン物質を大気中に放散させ、雌雄間の交信を撹乱させて交尾率を下げ、次世代の誕生を抑制することにより行われる。この性フェロモン物質を放散させるための製剤は、害虫の発生期間中(2~6ヶ月間)、安定して性フェロモン物質を放散する性能が要求される。
【0003】
昆虫の性フェロモン物質は、種特異性を有している。昆虫によっては、複数化合物を性フェロモン物質として有する場合もある。中でも、不飽和脂肪族のアセテ-ト、アルコ-ル又はアルデヒドを性フェロモン物質として有する昆虫においては、性フェロモン物質の体内生合成過程において、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する化合物の両方を生産する害虫が知られている。
【0004】
性フェロモン物質として、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を一定の比率で含む天然組成を有する害虫の場合、交信撹乱による効果を得るためには、天然組成と同じ比率で炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を放散させる必要がある。そのため、合成性フェロモンの放出速度を制御するために、様々なタイプの徐放性製剤が開発されている。
【0005】
例えば、スジキリヨトウは、性フェロモン物質として、(Z)-9-テトラデセニルアセテ-ト及び(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-トを有することが知られており、特許文献1には、(Z)-9-ヘキサデセナ-ル、(Z)-11-ヘキサデセナ-ル、(Z)-11-ヘキサデセノ-ル、(Z)-9-テトラデセニルアセテ-ト及び(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-トの混合物をポリエチレン製のチュ-ブに充填したシバツトガとスジキリヨトウの配偶行動撹乱剤が報告されている。
【0006】
一方、性フェロモン物質を少なくとも2種以上含む混合液を放出することにより、複数の害虫を同時に防除することが求められる場合もある。例えば、特許文献2には、ヨ-ロピアングレ-プバインモス(Europeangrapevine moth,Lobesia Botrana)とヨ-ロピアングレ-プベリ-モス(European grape berry moth、Eupoecilia ambiguella)との同時防除が報告されている。また、特許文献2においては、ヨ-ロピアングレ-プバインモスの性フェロモン物質である(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテ-トと、ヨ-ロピアングレ-プベリ-モスの性フェロモン物質である(Z)-9-ドデセニルアセテ-トとをポリエチレン製の容器に充填したフェロモン製剤も報告されている。
【0007】
また、近年、更なる環境負荷低減のため、徐放性フェロモン製剤に使用される高分子の自然崩壊性、生分解性が強く要求されており、生分解性を有する高分子として、脂肪族ポリエステルが知られている。例えば、特許文献3には、不飽和脂肪族アセテ-ト化合物と前記不飽和脂肪族アセテ-ト化合物のアセチル基を水素原子に置き換えた構造を有する不飽和脂肪族アルコ-ル化合物とを10:90~99.5:0.5の質量比で含む混合液と、脂肪族ポリエステルを少なくとも一部に含む容器とを備えた徐放性フェロモン製剤が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-40809号公報
【文献】特開2011-1346号公報
【文献】特開2018-162244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
徐放性フェロモン製剤には、性フェロモン物質に対する安定性やその加工性から、容器中の性フェロモン物質の透過膜材料として、ポリオレフィンが用いられることが多い。
これまで、総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物は、物理化学的に性状が似ているため、ポリオレフィンに対して、同等の膜透過速度を有すると考えられていた。
しかし、特許文献1及び特許文献2で報告されているポリエチレン製の容器に充填した徐放性フェロモン製剤では、総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の実際の膜透過速度は、二重結合の数に起因する分子エネルギ-の違いにより、封入当初の混合比率とは大きく異なっていることが判明した。
また、特許文献3で報告されている脂肪族ポリエステルを少なくとも一部に含む容器は、特許文献3で報告されている不飽和脂肪族アセテ-ト化合物と、前記不飽和脂肪族アセテ-ト化合物のアセチル基を水素原子に置き換えた構造を有する不飽和脂肪族アルコ-ル化合物を含む混合液の組合せでは、封入当初の混合比率のまま一定に放出することを可能としていたが、総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する脂肪族アセテ-ト化合物を含む混合液を用いた場合には、実際の膜透過速度が封入当初の混合比率とは大きく異なることも判明した。
種特異性の高い性フェロモンを用いて効果的に害虫を防除するためには、害虫の発生期間を通じて、対象害虫が有する性フェロモン物質の混合比で圃場フェロモン濃度を保つことが重要であり、効果的な徐放性製剤の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する脂肪族アセテ-ト化合物を少なくとも含む混合物を、所定の繰り返し単位を含む直鎖状脂肪族ポリエステルの膜を少なくとも一部に含む容器中に封入した徐放性フェロモン製剤は、徐放性フェロモン製剤の有効作用期間を通じて、前記炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量の残存率及び前記炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量の残存率の両方が、両成分合計の質量の残存率とほとんど差がないことを見出し、本発明をなすに至った。なお、残存率(%)とは、最初の質量に対する残存質量の比率(%)である。
本発明の一つの態様では、質量比0.5:99.5から99.5:0.5の範囲で、それぞれの総炭素数が等しい、炭素-炭素二重結合を一つ有する第1不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する第2不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を少なくとも含む混合物と、
前記混合物を封入する、下記繰り返し単位(I)
【化1】
(式中、m及びnは、それぞれ独立して1~8の整数である。)
から選ばれる1種以上を含む直鎖状脂肪族ポリエステルの膜を少なくとも一部に含む容器と
を備える徐放性フェロモン製剤であって、前記第1及び第2不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の両方が性フェロモン物質である1種以上の害虫を対象とし、又は前記第1及び第2不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の一方のみが性フェロモン物質である少なくとも1種の害虫と他方のみ若しくは両方が性フェロモン物質である少なくとも1種の害虫とを対象とする、徐放性フェロモン製剤が提供される。
また、本発明の他の態様では、前記徐放性フェロモン製剤を圃場に設置し、前記徐放性フェロモン製剤中の前記フェロモン物質を放出するステップを少なくとも含む害虫の防除方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、性フェロモン物質として、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の混合物を含む徐放性フェロモン製剤において、性フェロモン物質を、それぞれの不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の残存組成比を一定に保ったまま放出することができ、長期にわたって効率よく害虫を防除することができる。
さらには、生活圏が類似しており、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を性フェロモン物質とする少なくとも1種の害虫と、炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を性フェロモン物質とする少なくとも1種の害虫の両種が混在する場合の防除にも用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
検討を重ねた結果、直鎖状の構造を有する脂肪族ポリエステルの膜を少なくとも一部に含む容器を使用した場合のみ、意外にも封入した炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する脂肪族アセテ-ト化合物を含む混合物の混合比率は、放出期間を通じて一定であることが判明した。さらに、前記直鎖状の構造を有する脂肪族ポリエステルとは、直鎖ジカルボン酸と直鎖ジオ-ル酸を構成単位とし、これらが縮合した構造を有する下記繰り返し単位(I)から選ばれる1種以上を含む直鎖状脂肪族ポリエステルであることを見出した。
【0013】
【化2】
【0014】
繰り返し単位(I)は、直鎖状ジカルボン酸と、直鎖状ジオ-ルの縮合により得られる。m及びnは、それぞれ独立して1~8、より好ましくは2~4の整数である。
【0015】
繰り返し単位(I)のジカルボン酸構成単位としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸等の直鎖状の化合物が挙げられる。性フェロモン物質の極性や、分子径と高分子膜の結晶性又は高分子膜中の高分子鎖の隙間構造が、膜透過の機構上重要である観点から、コハク酸、アジピン酸が好ましい。
一方、繰り返し単位(I)のジオ-ル構成単位としては、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、ブタンジオ-ル、ペンタンジオ-ル、ヘキサンジオ-ル、オクタンジオ-ル、デカンジオ-ル等の直鎖状の化合物が挙げられる。性フェロモン物質の極性や、分子径と高分子膜の結晶性又は高分子膜中の高分子鎖の隙間構造が、膜透過の機構上重要である観点から、ブタンジオ-ルが最も好ましい。
【0016】
繰り返し単位(I)から選ばれる1種の繰り返し単位からなる直鎖状脂肪族ポリエステルは、1種類のジカルボン酸と1種類のジオ-ルの縮重合体である直鎖状脂肪族ポリエステルとなる。ジカルボン酸構成単位としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸等の直鎖状の化合物が挙げられる。具体例としては、ポリエチレンサクシネ-ト、ポリエチレンアジペ-ト、ポリプロピレンサクシネ-ト、ポリプロピレンアジペ-ト、ポリブチレンサクシネ-ト、ポリブチレンアジペ-ト等が挙げられる。また、ジオ-ル構成単位としては、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、ブタンジオ-ル、ペンタンジオ-ル、ヘキサンジオ-ル、オクタンジオ-ル、デカンジオ-ル等の直鎖状の化合物が挙げられる。
【0017】
ジカルボン酸構成単位としてコハク酸、ジオ-ル構成単位としては、エチレングリコ-ルを用いて縮重合反応によってポリエチレンサクシネートが得られる。同様にアジピン酸とエチレングリコールの縮重合によりポリエチレンアジペートが得られる。このように直鎖状脂肪族ポリエステルとして、ポリエチレンマロネート、ポリエチレンペンタノエート、ポリエチレンオクタノエート、ポリエチエンブテノエート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンマロネート、ポリプロピレンアジペート、ポリプロピレンペンタノエート、ポリプロピレンオクタノエート、ポリプロピレンブテノエート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンマロネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンペンタノエート、ポリブチレンオクタノエート、ポリブチレンブテノエート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンマロネート、ポリプロピレンアジペート、ポリペンチレンペンタノエート、ポリペンチレンオクタノエート、ポリペンチレンブテノエート、ポリヘキシレンサクシネート、ポリヘキシレンマロネート、ポリヘキシレンアジペート、ポリヘキシレンペンタノエート、ポリヘキシレンオクタノエート、ポリプロピレンブテノエート、ポリオクチレンサクシネート、ポリオクチレンマロネート、ポリオクチレンアジペート、ポリオクチレンペンタノエート、ポリオクチレンオクタノエート、ポリプロピレンブテノエートが例示される。
成形物の可塑性の観点から、好ましくはポリブチレンサクシネ-ト、ポリブチレンアジペ-トであり、より好ましくはポリブチレンサクシネ-トである。
【0018】
繰り返し単位(I)から選ばれる2種の繰り返し単位からなる直鎖状脂肪族ポリエステルは、例えば、1種類のジカルボン酸と2種類のジオ-ルの縮重合体である直鎖状脂肪族ポリエステル、2種類のジカルボン酸と1種類のジオ-ルの縮重合体である直鎖状脂肪族ポリエステルが挙げられる。好ましくは、2種類のジカルボン酸と1種類のジオ-ルの縮重合体である直鎖状脂肪族ポリエステルであり、例えば、ポリエチレンアジペ-トサクシネ-ト、ポリプロピレンアジペ-トサクシネ-ト、ポリブチレンアジペ-トサクシネ-ト等が挙げられる。成形物の可塑性の観点から、ポリブチレンアジペ-トサクシネ-トが更に好ましい。
【0019】
直鎖状脂肪族ポリエステルは、全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(I)を好ましくは50質量%を超えて100質量%以下、より好ましくは80質量%を超えて100質量%以下、特に好ましくは100質量%含む。全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(I)を100質量%含む直鎖状脂肪族ポリエステルは、繰り返し単位として繰り返し単位(I)から選ばれる1種以上の繰り返し単位からなる直鎖状脂肪族ポリエステルである。
繰り返し単位(I)から選ばれる1種以上の繰り返し単位の配列は特に限定されず、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であってもよいが、好ましくは、ランダム共重合体である。
【0020】
例えば、ブチレンサクシネ-トとブチレンアジペ-トの共重合体であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-トの場合、共重合化反応の反応速度、高分子量化等の観点から、ブチレンサクシネ-トとブチレンアジペ-トのモル比が、好ましくは95:5から5:95、より好ましくは、90:10から70:30の範囲である共重合体等が例示される。
エチレンサクシネートとブチレンサクシネートの共重合体であるブチレン/エチレンブチレンサクシネート共重合体の場合は、ブチレンサクシネートとエチレンサクシネートのモル比が95:5から5:95、より好ましくは90:10から70:30の範囲である共重合体が例示される。
エチレンサクシネートとブチレンサクシネートの共重合体であるエチレンサクシネート/ブチレンサクシネート共重合体の場合は、エチレンサクシネートとブチレンサクシネートのモル比が95:5から5:95、より好ましくは10:90から30:70の範囲である共重合体が例示される。
エチレンアジペートとブチレンアジペートの共重合体であるエチレンアジペート/ブチレンアジペート共重合体の場合は、エチレンアジペートとブチレンアジペートのモル比が95:5から5:95、より好ましくは10:90から30:70の範囲である共重合体が例示される。
【0021】
徐放性フェロモン製剤は、性フェロモン物質として、質量比0.5:99.5から99.5:0.5の範囲で、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を少なくとも含む混合物を備える。混合物中の炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量比が0.5未満では、炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の放出が極端に小さくなる。一方、混合物中の炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量比が99.5を超えると、炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の放出が極端に少なくなる。圃場への放出の観点から、混合物中の性フェロモン物質は放出期間において液体であることが好ましく、混合物は放出期間において混合液であることがより好ましい。性フェロモン物質は、天然物であってもよいが、生産性の観点から合成することが好ましい。
【0022】
炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の具体例としては、
(E)-7-ドデセニルアセテ-ト、(Z)-7-ドデセニルアセテ-ト、(Z)-8-ドデセニルアセテ-ト、(E)-8-ドデセニルアセテ-ト、(E)-9-ドデセニルアセテ-ト、11-ドデセニルアセテ-ト、(Z)-4-トリデセニルアセテ-ト、(E)-6-トリデセニルアセテ-ト、(E)-8-トリデセニルアセテ-ト、(Z)-8-トリデセニルアセテ-ト、(Z)-7-テトラデセニルアセテ-ト、(E)-8-テトラデセニルアセテ-ト、(Z)-8-テトラデセニルアセテ-ト、(E)9-テトラデセニルアセテ-ト、(Z)-9-テトラデセニルアセテ-ト、(E)-10-テトラデセニルアセテ-ト、(Z)-10-テトラデセニルアセテ-ト、(E)-12-テトラデセニルアセテ-ト、(Z)-12-テトラデセニルアセテ-ト、(Z)-8-ペンタデセニルアセテ-ト、(E)-9-ペンタデセニルアセテ-ト、(Z)-3-ヘキサデセニルアセテ-ト、(Z)-5-ヘキサデセニルアセテ-ト、(E)-6-ヘキサデセニルアセテ-ト、(Z)-7-ヘキサデセニルアセテ-ト、(Z)-9-ヘキサデセニルアセテ-ト、(Z)-10-ヘキサデセニルアセテ-ト、(Z)-12-ヘキサデセニルアセテ-ト、(Z)-11-ヘプタデセニルアセテ-ト、(E)-2-オクタデセニルアセテ-ト、(Z)-13-オクタデセニルアセテ-ト、(E)-13-オクタデセニルアセテ-ト等のモノエニルアセテ-ト類が挙げられる。
【0023】
炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の具体例としては、(Z,E)-3,5-ドデカジエニルアセテ-ト、(E,Z)-3,5-ドデカジエニルアセテ-ト、(E,Z)-4,10-ドデカジエニルアセテ-ト、(Z,E)-5,7-ドデカジエニルアセテ-ト、(E,Z)-5,7-ドデカジエニルアセテ-ト、(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-ト、(E,Z)-4,7-トリデカジエニルアセテ-ト、11-メチル-(Z)9,12-トリデカジニルアセテ-ト、(E,E)-3,5-テトラデカジエニルアセテ-ト、(E,E)-8,10-テトラデカジエニルアセテ-ト、(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-ト、(Z,E)-9,11-テトラデカジエニルアセテ-ト、(E,Z)-10,12-テトラデカジエニルアセテ-ト、(E,E)-10,12-テトラデカジエニルアセテ-ト、(E)11,13-テトラデカジエニルアセテ-ト、(Z,Z)-8,10-ぺンタデカジエニルアセテ-ト、(Z,E)-8,10-ぺンタデカジエニルアセテ-ト、(Z,Z)-8,10-ヘキサデカジエニルアセテ-ト、(Z,E)-10,12-ヘキサデカジエニルアセテ-ト、(Z,Z)-11,13-ヘキサデカジエニルアセテ-ト、(Z,E)-11,13-ヘキサデカジエニルアセテ-ト、(E,Z)-11,13-ヘキサデカジエニルアセテ-ト、(Z,E)-11,14-ヘキサデカジエニルアセテ-ト、(E,Z)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-ト、(Z,Z)-3,13-オクタデカジエニルアセテ-ト、(E,Z)-3,13-オクタデカジエニルアセテ-ト等のジエニルアセテ-ト類等が挙げられる。
【0024】
不飽和脂肪族アセテ-ト化合物のそれぞれの総炭素数は特に制限されないが、容器の膜として用いる直鎖状脂肪族ポリエステルの有する高分子網目構造と不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の分子容の観点から、総炭素数が14~20の化合物であることが好ましい。
なお、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合の個数が異なる不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を組み合わせた混合物に関して、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を三つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の混合物、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を三つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の混合物では、本発明の効果は得られなかった。
【0025】
炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を含む混合物は、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、没食子酸イソアミル、没食子酸プロピル等の合成酸化防止剤、NDGA(ノルジヒドログアヤレチン酸)、グアヤク脂等の天然酸化防止剤等の抗酸化剤や、パラジメチルアミノ安息香酸オクチル等のパラアミノ安息香酸系、オキシベンゾン(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、メトキシ桂皮酸誘導体、サリチル酸誘導体等の紫外線吸収剤等の添加剤を含有しても良い。各添加剤の含有量は、好ましくは0.01~5質量%であり、その合計の含有量は、好ましくは0.02~10質量%である。
【0026】
徐放性フェロモン製剤は、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を性フェロモン物質として一定の比率で含む1種以上の害虫を対象としてもよい。また、前記炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を性フェロモン物質として含む少なくとも1種の害虫と、前記炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を性フェロモン物質として含む少なくとも1種の害虫を対象としてもよい。さらに、前記炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を性フェロモン物質として含む少なくとも1種の害虫又は前記炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を性フェロモン物質として含む少なくとも1種の害虫と、前記炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を性フェロモン物質として一定の比率で含む害虫とを対象としてもよい。
【0027】
性フェロモン物質として、炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の両方を含む害虫としては、例えば以下の害虫が挙げられる。
キンモンホソガ(Phylllonorycter ringoniell
(Z)-10-テトラデセニルアセテ-トと(E,Z)-4,10-テトラデカジエニルアセテ-トの質量比4:6の混合物(Journal of Chemical Ecology, Vol. 24, No. 12, 1998,1939-1947)
レパ-ドモス(Zeuzera pyrina
(E)-2-オクタデセニルアセテ-トと(E,E)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-トの質量比5:90の混合物、
コホソスジハマキ(Argyrotania angustilineata
(Z)-11-テトラデセニルアセテ-トと(Z,E)-9,12-テトラデセニルアセテ-トの質量比1:1の混合物、
ライトブラウンアップルモス(Epiphyas postvittana
(E)-11-テトラデセニルアセテ-トと(E,E)-9,11-テトラデカジエニルアセテ-トの質量比100:7の混合物、
マ-リッドオ-チャ-ドト-トリクス(Hedya nubiferana
(E)-8-ドデセニルアセテ-トと(Z)-8-ドデセニルアセテ-トと(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの質量比5:32:55の混合物、
アザミスソモンヒメハマキ(Eucosma cana
(E)-8-ドデセニルアセテ-トと(Z)-8-ドデセニルアセテ-トと(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの質量比10:30:44の混合物、
スグリコスカシバ(Synanthedon tipuliformis
(Z)-13-オクタデセニルアセテ-トと(E,Z)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-トの質量比7:93の混合物、
トロピカルウェアモス(Cadra cautella
(Z)-9-テトラデセニルアセテ-ト、(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-トの質量比1:2の混合物、
エジプシャンコットンリ-フワ-ム(Spodoptera littoralis
(Z)-9-テトラデセニルアセテ-トと(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-トの質量比1:16の混合物、
ブリストリ-カットワ-ムモス(Lacinipolia renigera
(Z)-9-テトラデセニルアセテ-トと(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-トの質量比7.8:0.3の混合物、
Pelochrista scinitillana randana
(E)-8-ドデセニルアセテ-トと(Z)-8-ドデセニルアセテ-トと(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの質量比1:40:2の混合物、
Pammene aurantiana
(E)-8-ドデセニルアセテ-トと(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの質量比100:7の混合物
【0028】
上記に示すように総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の両方を一定の比率で含む害虫は、数多く存在する。また、前記炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び前記炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物は、鱗翅目害虫の性フェロモンの物質の一部として知られている場合が多い。前記性フェロモン物質は、種特異的に作用するものであり、化合物のうちの一つが欠けたり、化合物の混合比率が違うだけでも生物活性は低下するので、徐放性フェロモン製剤の特性として製剤の作用期間中、残存液の両成分の混合比率を一定に保つことは重要である。
【0029】
また、総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の一方のみが性フェロモン物質である少なくとも1種の害虫と、他方のみ若しくは両方が性フェロモン物質である少なくとも1種の害虫とを対象とすることもできる。
例えば、生活圏が共通している、ヨ-ロピアングレ-プバインモスの性フェロモン物質である(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテ-トと、ヨ-ロピアングレ-プベリ-モスの性フェロモン物質である(Z)-9-ドデセニルアセテ-トとを容器に充填し防除する場合に有効である。
【0030】
徐放性フェロモン製剤に含まれる残存液の両成分の質量比が一定に保たれる一つの指標として、両成分の合計質量の残存率に対する炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量の残存率の比(a/c)と、両成分の合計質量の残存率に対する炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量の残存率の比(b/c)の両方が1であることが考えられ、これにより理想的放出が可能となる。本発明による徐放性フェロモン製剤は、両成分の合計質量の残存率に対する炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量の残存率の比(a/c)と、両成分の合計質量の残存率に対する炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の質量の残存率の比(b/c)の両方が、徐放性フェロモン製剤からの放出期間において0.90~1.10、好ましくは0.95~1.05、更に好ましくは0.97~1.03の範囲である。
【0031】
害虫防除に利用される徐放性フェロモン製剤は、実際は防除対象である害虫の存在する圃場で使用されるため、昼夜、季節による温度変化や風速変化を受け、変動する条件下で使用される。このような変動する条件下においても、徐放性フェロモン製剤からの混合物の放出は、不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の放出比を対象害虫が有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物の混合比率と同様の比率に、一定に保たれる必要がある。一定条件での放出と圃場条件での放出とでは、前述した種々の条件が明らかに異なるが、製剤のもつ本質的な性能は、一定条件で評価することが望ましい。一定条件下での評価と圃場での放出挙動の実際との相関は、経験的に十分にあると言え、先ず一定条件下で目的の性能が発揮されることを確認する必要がある。
【0032】
徐放性フェロモン製剤は、繰り返し単位(I)及び/又は(II)を含む直鎖状脂肪族ポリエステルの膜を少なくとも一部に含む容器を備える。そのような膜が容器の少なくとも一部に含まれることにより、その膜を通して性フェロモン物質が透過される。少なくとも一部であるから、容器全体がそのような膜によって形成される高分子製細管等も含まれる。
高分子製細管は、押し出し成形等の連続的な加工により得られるが、内径は、製剤の成形性又は管内に性フェロモン物質を充填する観点から、好ましくは0.4~2mm、より好ましくは0.6~1.6mmである。細管肉厚は、製剤の成形性又は性フェロモン物質の拡散速度の観点から、好ましくは0.15~1.2mm、より好ましくは0.25~0.8mmであり、長尺な高分子製細管が成形される。
【0033】
また、徐放性フェロモン製剤の容器の別の態様として、2枚のフィルムの4辺をシ-ルしてその中に性フェロモン物質を充填した袋状の製剤が挙げられる。この場合フィルムの膜厚は、袋の強度又は加工性の観点から、好ましくは0.15~0.6mm、より好ましくは0.15~0.5mmである。袋の大きさは、圃場に設置するときの作業性又は経済的観点から、一辺が好ましくは5~300mm、より好ましくは10~200mmである。
【0034】
徐放性フェロモン製剤の有効作用期間は、徐放性フェロモン製剤の容器に封入された、それぞれの総炭素数の等しい炭素-炭素二重結合を一つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物及び炭素-炭素二重結合を二つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物を0.5:99.5~99.5:0.5の質量比で含む混合物が、害虫に作用する期間であり、単に月数とか日数を意味するものでなく、徐放性フェロモン製剤の使用場面によって変わってくるものである。
【0035】
交信撹乱による害虫の防除は、例えば、対象害虫の性フェロモン物質を大気中に放散させ、雌雄間の交信を撹乱させて交尾率を下げ、次世代の誕生を抑制することにより行われる。この場合、徐放性フェロモン製剤は、害虫の成虫の発生期間中、安定して性フェロモン物質を放散する性能が要求される。害虫の成虫の発生期間は、成虫の発生が途切れることなく2~6ヶ月間継続する場合もあれば、1ヶ月間程度で消長が途切れるものの1年に2~5回発生することもある。例えば、成虫の発生が途切れることなく6ヶ月間継続する場合は、成虫の発生直前に設置して6ヵ月後に成虫の発生が終息するまで有効に作用する製剤が望ましいと考えられる。また、1ヶ月程度発生して消長が途切れて年3回発生する害虫の場合は、1回目の成虫の発生直前に設置して3回目の害虫の発生が終息するまで有効に作用する製剤が考えられる一方、1回目の成虫発生直前に設置して1回目の害虫の発生の終息まで作用する製剤を用意して、2回目発生直前に2回目の設置、同様に3回目発生の直前に設置するタイプの製剤も考えられる。本発明による徐放性フェロモン製剤は、性フェロモン物質が害虫に作用する期間、安定的に徐放性フェロモン製剤に含まれる混合物の混合比率が一定に保たれる放出を維持するものである。
【0036】
徐放性フェロモン製剤の有効作用期間は、別の言い方で表現すると、徐放性フェロモン製剤に含まれる混合物の質量の残存率が、理想的には100から0%まで変化する間ということもできる。徐放性フェロモン製剤に含まれる性フェロモン物質の混合物を無駄無く使用するためには、徐放性フェロモン製剤に含まれた性フェロモン物質が全て大気中に放散され切ることが理想だからである。しかし、徐放性フェロモン製剤に含まれる混合物の混合比率が一定に保たれる放出を維持することが求められるため、混合物の質量の残存率が100%から0%まで変化する理想的な製剤の実現は困難であり、例えば、残存率100%から残存率20%の間を有効作用期間と考えることもできる。さらには広義でとらえ、製剤に含まれる混合物の約半分が有効に使うことができればよいとするならば、残存率90%から残存率40%の間を有効作用期間と考えてもよい。
【実施例
【0037】
以下、本発明の実施例及び比較例を用いて説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
実施例1
ポリブチレンサクシネ-ト(BioPBS FZ91、三菱ケミカル社製)を内径1.40mm、膜厚0.40mmのチュ-ブ状に押し出し、これを長さ200mmに切断して高分子製細管を得た。この高分子製細管に、アザミスソモンヒメハマキの性フェロモン物質である(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-ト(「E8E10-12:Ac」とも記載する。)と(Z)-8-ドデセニルアセテ-ト(「Z8-12:Ac」とも記載する。)とを表1に示す割合で調製した混合液200mgを充填した。その後、高分子製のチュ-ブ状の容器の両端を熱シ-ルして、徐放性フェロモン製剤を製造した。
製造した徐放性フェロモン製剤15本を30℃、風速0.7m/秒の条件下に放置することにより、徐放性フェロモン製剤内部の混合液を放出させた。
14日後、42日後の各日数経過後に、徐放性フェロモン製剤を3本ずつ回収し、内部標準法/ガスクロマトグラム分析により、(Z)-8-ドデセニルアセテ-トの残存率(a)、(E, E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの残存率(b)並びに(Z)-8-ドデセニルアセテ-ト(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの合計重量の残存率(c)の3本における平均値を算出した。そして、(Z)-8-ドデセニルアセテ-トのZ-9-ドデセニルアセテ-ト及び(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(a/c)並びに(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの(Z)-9-ドデセニルアセテ-ト及び(E,E)-8,10-ドデカジエニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(b/c)を算出した。結果を表2に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0038】
実施例2
高分子製細管の材質をポリブチレンサクシネ-ト(BioPBS FZ91、三菱ケミカル社製)と、ブチレンアジペ-トとブチレンサクシネ-トとのモル組成比が26:74であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-ト(BioPBS FD92、三菱ケミカル社製)とを質量比1:1で混合した樹脂に変更し、徐放性フェロモン製剤の回収を4日後、7日後、14日後、25日後、42日変更した以外は、実施例1と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表2に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0039】
比較例1
高分子製細管の材質を高密度ポリエチレン(ニポロンハ-ド、東ソ-社製)に変更し、徐放性フェロモン製剤の回収を7日後、25日後、42日後に変更した以外は、実施例1と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表2に示す。高分子製細管に充填した混合比と異なった比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
実施例3
ポリブチレンサクシネ-ト(BioPBS FZ91、三菱ケミカル社製)を内径1.40mm、膜厚0.40mmのチュ-ブ状に押し出し、これを長さ200mmに切断して高分子製細管を得た。この高分子製細管に、ヨ-ロピアングレ-プバインモスの性フェロモン物質である(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテ-ト(「E7Z9-12:Ac」とも記載する。)とヨ-ロピアングレ-プベリ-モスの性フェロモン物質である(Z)-9-ドデセニルアセテ-ト(「Z9-12:Ac」とも記載する。)とを表3に示す割合で調製した混合液200mgを充填した後、高分子製細管の両端を熱シ-ルすることにより、徐放性フェロモン製剤を製造した。
製造した徐放性フェロモン製剤15本を30℃、風速0.7m/秒の条件下に放置することにより、徐放性フェロモン製剤内部の混合液を放出させた。
20日後、42日後、59日後の各日数経過後に、徐放性フェロモン製剤を3本ずつ回収し、内部標準法/ガスクロマトグラム分析により、Z-9-ドデセニルアセテ-トの残存率(a)、(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテ-トの残存率(b)、並びに(Z)-9-ドデセニルアセテ-ト及び(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテ-トの合計重量の残存率(c)の3本における平均値を算出した。そして、(Z)-9-ドデセニルアセテ-トの(Z)-9-ドデセニルアセテ-ト及び(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(a/c)並びに、(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテ-トの(Z)-9-ドデセニルアセテ-ト及び(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(b/c)を算出した。結果を表4に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0043】
実施例4
高分子製細管の材質をポリブチレンサクシネ-ト(BioPBS FZ91、三菱ケミカル社製)と、ブチレンアジペ-トとブチレンサクシネ-トとのモル組成比が26:74であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-ト(BioPBS FD92、三菱ケミカル社製)とを質量比50:50でブレンドすることにより調製したブチレンアジペ-ト単位とブチレンサクシネ-ト単位の組成比が13:87であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-トに変更した以外は、実施例2と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表4に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0044】
実施例5
高分子製細管の材質をブチレンアジペ-ト単位とブチレンサクシネ-ト単位のモル組成比が26:74であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-ト(BioPBS FD92、三菱ケミカル社製)に変更した以外は、実施例2と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表4に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0045】
実施例6~8
性フェロモン物質の混合比率を表3に示す割合に変更した以外は、実施例2と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表4に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0046】
比較例2~5
高分子製細管を高密度ポリエチレン(ニポロンハ-ド、東ソ-社製)に変更し、性フェロモン物質の混合比率を表3の割合に変更した以外は、実施例2と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表4に示す。高分子製細管に充填した混合比と異なった比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
実施例9
ブチレンアジペ-トとブチレンサクシネ-トのモル組成比が26:74であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-ト(BioPBS FD92、三菱ケミカル社製)を内径1.40mm、膜厚0.40mmのチュ-ブ状に押し出し、これを長さ200mmに切断して高分子製細管を得た。この高分子製細管に、スジマダラメイガ(Dried currant moth, Cadra Cautella)の性フェロモン物質である(Z)-9-テトラデセニルアセテ-ト(「Z9-14:Ac」とも記載する。)と(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-ト(「Z9E12-14:Ac」とも記載する。)とを表5の割合で調製した混合液200mgを充填した後、高分子製細管の両端を熱シ-ルすることにより、徐放性フェロモン製剤を製造した。
製造した徐放性フェロモン製剤15本を40℃、風速0.7m/秒の条件下に放置することにより、徐放性フェロモン製剤内部の混合液を放出させた。12日後、19日後、30日後、40日後、62日後の各日数経過後に、徐放性フェロモン製剤を3本ずつ回収し、内部標準法/ガスクロマトグラム分析により、(Z)-9-テトラデセニルアセテ-トの残存率(a)、(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-トの残存率(b)並びにZ-9-テトラデセニルアセテ-ト及び(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-トの合計重量の残存率(c)の3本における平均値を算出した。そして、(Z)-9-テトラデセニルアセテ-トの(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-ト及びZ-9-テトラデセニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(a/c)並びに(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-トの(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテ-ト及び(Z)-9-テトラデセニルアセテ-トの合計重量に対する残存率の合計重量に対する残存率(b/c)を算出した。結果を表6に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0050】
実施例10
高分子製細管の材質をポリブチレンサクシネ-ト(BioPBS FZ91、三菱ケミカル社製)とブチレンアジペ-トとブチレンサクシネ-トのモル組成比が26:74であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-ト(BioPBS FD92、三菱ケミカル社製)を質量比50:50でブレンドすることにより調製したブチレンアジペ-ト単位とブチレンサクシネ-ト単位の組成比が13:87であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-トに変更し、徐放性フェロモン製剤の回収を19日後、40日後、62日後に変更した以外は、実施例9と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表6に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0051】
比較例6
高分子製細管の材質を高密度ポリエチレン(ニポロンハ-ド、東ソ-社製)に変更した以外は、実施例9と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表6に示す。高分子製細管に充填した混合比と異なった比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。
【0052】
比較例7
高分子製細管の材質をポリブチレンサクシネ-トテレフタレ-ト(エコフレックス、BASF社製)に変更した以外は、実施例9と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表6に示す。高分子製細管に充填した混合比と異なった比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
実施例11
ブチレンアジペ-トとブチレンサクシネ-トのモル組成比が26:74であるポリブチレンアジペ-トサクシネ-ト(BioPBS FD92、三菱ケミカル社製)を内径1.40mm、膜厚0.40mmのチュ-ブ状に押し出し、これを長さ200mmに切断して高分子製細管を得た。この高分子製細管に、スグリコスカシバ(Currant clearwing moth、Synanthedon tipuliformis)の性フェロモン物質である(Z)-13-オクタデセニルアセテ-ト(「Z13-18:Ac」とも記載する。)と(E,Z)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-ト(「E2Z13-18:Ac」とも記載する。)とを表7の割合で調製した混合液200mgを充填した後、高分子製細管の両端を熱シ-ルすることにより、徐放性フェロモン製剤を製造した。
製造した徐放性フェロモン製剤15本を40℃、風速0.7m/秒の条件下に放置することにより、徐放性フェロモン製剤内部の混合液を放出させた。40日後、80日後、133日後、168日後の各日数経過後に、徐放性フェロモン製剤を3本ずつ回収し、内部標準法/ガスクロマトグラム分析により、(Z)-13-オクタデセニルアセテ-トの残存率(a)、(E,Z)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-トの残存率(b)並びに(Z)-13-オクタデセニルアセテ-ト及び(E,Z)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-トの合計重量の残存率(c)の3本における平均値を算出した。そして、(Z)-13-オクタデセニルアセテ-トの(Z)-13-オクタデセニルアセテ-ト及び(E,Z)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(a/c)並びに(E,Z)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-トの(Z)-13-オクタデセニルアセテ-ト及び(E,Z)-2,13-オクタデカジエニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(b/c)を算出した。結果を表8に示す。高分子製細管に充填した混合比とほぼ等しい比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。この条件下での放出挙動は、実際の圃場での放出挙動と相関があり、実際の圃場でも同様の放出挙動が認められる。
【0056】
比較例8
高分子細管の材質を高密度ポリエチレン(ニポロンハ-ド、東ソ-社製)に変更した以外は、実施例11と同様にして、徐放性フェロモン製剤を製造し、放出試験を行った。結果を表8に示す。高分子製細管に充填した混合比と異なった比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【0059】
比較例9
実施例3と同様の高分子製細管に、トマトキバガ(Tomato lea miner, Tuta absoluta)の性フェロモン物質である(E,Z)-3,8-テトラデカジエニルアセテ-ト(「E3Z8-14:Ac」とも記載する。)と、炭素-炭素二重結合を三つ有する不飽和脂肪族アセテ-ト化合物である(E,Z,Z)-3,8,11-テトラデカトリエニルアセテ-ト(「E3Z8Z11-14:Ac」とも記載する。)とを表9の割合で調製した混合液200mgを充填した後、高分子製細管の両端を熱シ-ルすることにより、徐放性フェロモン製剤を製造した。
製造した徐放性フェロモン製剤15本を40℃、風速0.7m/秒の条件下に放置することにより、徐放性フェロモン製剤内部の混合液を放出させた。7日後、18日後、38日後の各日数経過後に、徐放性フェロモン製剤を3本ずつ回収し、内部標準法/ガスクロマトグラム分析により、(E,Z)-3,8-テトラデカジニルアセテ-トの残存率(a)、(E,Z,Z)-3,8.11-テトラデカトリエニルアセテ-トの残存率(b)並びに(E,Z)-3,8-テトラデカジニルアセテ-ト及び(E,Z,Z)-3,8,11-テトラデカトリエニルアセテ-の合計重量の残存率(c)の3本における平均値を算出した。そして、(E,Z)-3,8-テトラデカジエニルアセテ-トの(E,Z,Z)-3,8,11-テトラデカトリエニルアセテ-ト及び(E,Z)-3,8-テトラデカジエニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(a/c)並びに(E,Z,Z)-3,8,11-テトラデカトリエニルアセテ-トの(E,Z,Z)-3,8,11-テトラデカトリエニルアセテ-ト及び(E,Z)-3,8-テトラデカジニルアセテ-トの合計重量に対する残存率(b/c)を算出した。結果を表10に示す。高分子製細管に充填した混合比と異なった比率で、それぞれのフェロモン物質が放出された。
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】