(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】焼き菓子の製造方法、焼き菓子用生地、及び焼き菓子
(51)【国際特許分類】
A21D 2/26 20060101AFI20230726BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20230726BHJP
A21D 2/34 20060101ALI20230726BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20230726BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20230726BHJP
A21D 13/40 20170101ALI20230726BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20230726BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20230726BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20230726BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D2/18
A21D2/34
A21D2/36
A21D13/00
A21D13/40
A23G3/34 102
A23L35/00
A23L5/10 E
(21)【出願番号】P 2019047777
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516119690
【氏名又は名称】昭和冷凍食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】長倉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
(72)【発明者】
【氏名】高橋 有子
(72)【発明者】
【氏名】稲月 良子
(72)【発明者】
【氏名】平山 千愛
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-000137(JP,A)
【文献】特開平09-224550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を含む原料粉、及び水を含む生地を焼成する焼き菓子の製造方法であって、 前記原料粉が、卵白粉、グルテン、及び大豆粉からなる群から選択される1種以上のたん白素材、並びにガム類、アルギン酸、セルロース誘導体、グルコマンナン、寒天、及びゼラチンからなる群から選択される1種以上のゲル化剤を含み、
前記たん白素材の含有量が、前記原料粉100質量部に対して、1~10質量部であり、 前記生地の粘度が、0.5~3.2Pa・sであることを特徴とする焼き菓子の製造方法。
【請求項2】
前記たん白素材が、卵白粉を含む請求項1に記載の焼き菓子の製造方法。
【請求項3】
前記ゲル化剤が、
ガム類及び/又はセルロース誘導体である請求項1又は2に記載の焼き菓子の製造方法。
【請求項4】
前記原料粉が、前記生地の総質量に基づいて、30質量%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の焼き菓子の製造方法に用いる生地であって、
小麦粉を含む原料粉、及び水を含み、
前記原料粉が、卵白粉、グルテン、及び大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種のたん白素材、並びにガム類、アルギン酸、セルロース誘導体、グルコマンナン、寒天、及びゼラチンからなる群から選択される少なくとも1種のゲル化剤を含み、
前記たん白素材の含有量が、前記原料粉100質量部に対して、1~10質量部であり、
粘度が、0.5~3.2Pa・sであることを特徴とする焼き菓子用生地。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の焼き菓子の製造方法によって製造された焼き菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子の製造方法に関し、特に水分が極めて多い液状生地を用い、保形性に優れ、ソフトでしっとりした食感を有し、且つ口溶けが良い焼き菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ビスケット、クッキー、パイ、バターケーキ、スポンジケーキ、パンケーキ等の焼き菓子は、小麦粉等の穀粉を主成分として、砂糖、卵、水、油脂等を混合した生地から、成形、焼成等の工程を経て製造される。通常、焼き菓子用の生地は、焼き菓子の種類に応じて、比較的水分が少ないドウ生地、及び比較的水分が多いバッター生地が調製され、それぞれの焼き菓子の形状や食感を特徴付ける。一般に、ドウ生地を用いる焼き菓子は、比較的硬く歯切れの良い食感を有し、バッター生地を用いる焼き菓子は、比較的ソフトでしっとりした食感を有する。
【0003】
近年、焼き菓子に対する要求が多様化しており、従来にない新規な食感の焼き菓子が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、従来の焼き菓子よりもソフトでしっとりした食感を有する焼き菓子を製造するためには、上述のようなバッター生地の水分をさらに多くして、たこ焼生地のような液状生地を用いることが考えられる。しかしながら、このような生地は固形分が少ないため、内部にタコ等の具材が存在しない場合は、焼成後の保形性が低く、形状が維持できずに凹んだ形状になり易いという問題がある。また、焼き型で焼成する場合、焼き型が生地のみで満たされるので、中心部の火抜けが悪く、食した際にくちゃつきが残り、口溶けのよい食感が得難いという問題もある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、水分が極めて多い液状生地を用いても、焼成時に火抜けが良く、保形性に優れ、ソフトでしっとりした食感を有し、且つ口溶けが良い焼き菓子を製造する方法、及びその製造方法に用いる焼き菓子用生地を提供することにある。なお、本発明において、「火抜けが良い」とは、生地の中心部まで火が通り、適度に水分が抜けている状態をいう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述のような焼き菓子の製造に用いる生地の物性や配合について種々検討した結果、所定の成分を含み、所定の粘度を有する生地を用いることで上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
すなわち、上記目的は、小麦粉を含む原料粉、及び水を含む生地を焼成する焼き菓子の製造方法であって、前記原料粉が、卵白粉、グルテン、及び大豆粉からなる群から選択される1種以上のたん白素材、並びにガム類、アルギン酸、セルロース誘導体、グルコマンナン、寒天、及びゼラチンからなる群から選択される1種以上のゲル化剤を含み、前記たん白素材の含有量が、前記原料粉100質量部に対して、1~10質量部であり、前記生地の粘度が、0.5~3.2Pa・sであることを特徴とする焼き菓子の製造方によって達成される。なお、本発明において、原料粉とは、生地を調製するための粉状又は粒状の原料のことを称する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、水分が極めて多い液状生地を用いても、焼成時に火抜けが良く、保形性に優れ、ソフトでしっとりした食感を有し、且つ口溶けが良い焼き菓子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の焼き菓子の製造方法は、小麦粉を含む原料粉、及び水を含む生地を焼成する焼き菓子の製造方法であって、前記原料粉が、卵白粉、グルテン、及び大豆粉からなる群から選択される1種以上のたん白素材、並びにガム類、アルギン酸、セルロース誘導体、グルコマンナン、寒天、及びゼラチンからなる群から選択される1種以上のゲル化剤を含み、前記生地の粘度が、0.5~3.2Pa・sであることを特徴とする。一般に、焼き菓子用のバッター生地の粘度は、5~10Pa・s程度であるが、本発明の焼き菓子の製造方法においては、上記のような極めて低い粘度の液状生地が用いられる。水分が極めて多い液状生地を焼成する場合、上述の通り、焼成後の保形性が低く、形状が維持できずに凹んだ形状になり易く、焼き型で焼成する場合、焼き型が生地のみで満たされるので、中心部の火抜けが悪く、食した際にくちゃつきが残り、口溶けのよい食感が得難い。本発明においては、生地に所定のたん白素材及び増粘剤を含有させ、所定の粘度に調製することで、焼き菓子の保形性を向上させるとともに、火抜けを向上させ、ソフトでしっとりした食感を有し、且つ口溶けが良い焼き菓子を製造することができる。この作用機作は明確ではないが、生地が前記たん白素材及び前記ゲル化剤を含むことにより、焼き菓子の内層に保水性の高い骨格を形成させることができ、且つ生地の粘度が極めて低いこと(固形分が相対的に少ないこと)により、蒸気の通り道が多く形成されるため、焼成時に水分が均一に除去され、前記骨格に水分を均一に含む内層が形成されるためと考えられる。
【0010】
後述する実施例に示す通り、生地が前記たん白素材、及び/又は前記ゲル化剤を含まない場合、良好な保形性及びソフトでしっとりした食感が得難い。また、生地の粘度が上記範囲より高い場合は、食感が極めて悪くなり、生地の粘度が上記範囲より低い場合は、良好な保形性が得難くなる。
【0011】
本発明において、前記たん白素材は、卵白粉、グルテン、及び大豆粉からなる群から選択される1種以上を含む。卵白粉は、卵白を乾燥して粉末状にしたものである。グルテンは、小麦粉等の穀類に含まれるグリアジンとグルテニンが絡み合って形成されるたん白素材であり、例えば、小麦粉に水を加えて混捏し、グルテンが形成された生地を調製した後、その生地を洗浄して澱粉等を除去し、必要に応じてpH調整、乾燥、粉砕等することにより粉状物として得られる。大豆粉は、大豆種子由来の粉状又は粒状物を意味し、全脂大豆粉、きな粉、脱脂大豆粉を含む。前記たん白素材は、1種で用いても、2種以上組み合わせて用いても良い。本発明において前記たん白素材は、市販のたん白素材を適宜選択して用いることができる。本発明において、前記たん白素材は、卵白粉を含むことが好ましい。
【0012】
本発明において、前記ゲル化剤は、ガム類、アルギン酸、セルロース誘導体、グルコマンナン、寒天、及びゼラチンからなる群から選択される1種以上を含む。ガム類は、アラビアガム、キサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンドガム等が挙げられる。アルギン酸は、ナトリウム塩等の塩類も含む。セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。前記ゲル化剤は、1種で用いても、2種以上組み合わせて用いても良い。本発明において前記ゲル化剤は、これらのゲル化剤を含む市販のゲル化剤製剤を適宜選択して用いることができる。本発明において、ゲル化剤は、ガム類としてアラビアガムを含むことが好ましい。
【0013】
本発明において、前記生地の粘度は、0.5~3.2Pa・sであり、0.8~2.5Pa・sが好ましく、1.0~2.2Pa・sがより好ましい。前記生地中の前記たん白素材及びゲル化剤の種類に応じて含有量を適宜調整し、前記生地の粘度を調製することができる。なお、前記生地の粘度は、B型粘度計を用いて、温度23±1℃で測定した粘度である。前記生地の粘度への寄与度に応じて異なるが、前記たん白素材の含有量は、前記原料粉100質量部に対して、1~10質量部であることが好ましく、前記ゲル化剤の含有量は、前記原料粉100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましい。
【0014】
本発明において、原料粉として、少なくとも小麦粉、前記たん白素材、及び前記ゲル化剤を含む。小麦粉としては、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等どのようなものでもよい。本発明において、前記原料粉は、通常焼き菓子に用いられるその他の材料を適宜含んでいてもよい。例えば、大麦粉、大豆粉、そば粉、ライ麦粉、米粉、トウモロコシ粉等の小麦粉以外の穀粉類;コーンスターチ、馬鈴薯でん粉、タピオカでん粉、これらのでん粉に物理的、化学的な加工を単独又は複数組み合わせて施した加工でん粉等のでん粉類;砂糖、デキストリン、オリゴ糖、ぶどう糖、粉末水あめ、糖アルコール等の糖質;粉末油脂;炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等の膨張剤;膨張剤を組み合わせて用いる酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤;脱脂粉乳、卵黄粉、全卵粉等の前記たん白素材以外のたん白素材; グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、その他、食塩、色素、香料、甘味料、種々の品質改良剤等が挙げられる。また、生地の着色や風味付けを目的に、野菜粉末、果物粉末、ココア粉末、コーヒー粉末、紅茶、ウーロン茶、ほうじ茶、抹茶等の茶粉末を用いてもよい。さらに、本発明において、水以外の液体材料を含んでいてもよい。例えば、大豆油、ひまわり油、なたね油等の食用油脂;液卵;水あめ;牛乳;豆乳;果汁や野菜ジュース;コーヒー、茶飲料等が挙げられる。本発明において、前記原料粉の含有量は、前記生地の粘度が所定の範囲になっていれば、特に制限はない。前記原料粉は、少な過ぎると焼き菓子の保形性が低下する場合があるので、前記生地の総質量に基づいて、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上が好ましい。
【0015】
本発明は、本発明の焼き菓子の製造方法に用いる生地であって、小麦粉を含む原料粉、及び水を含み、前記原料粉が、卵白粉、グルテン、及び大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種のたん白素材、並びにガム類、アルギン酸、セルロース誘導体、グルコマンナン、寒天、及びゼラチンからなる群から選択される少なくとも1種のゲル化剤を含み、粘度が、0.5~3.2Pa・sであることを特徴とする焼き菓子用生地にもある。本発明の焼き菓子用生地の好ましい態様は、本発明の焼き菓子の製造方法の場合と同様である。前記焼き菓子用生地を調製する工程は、特に制限はなく、従来公知の方法で行なうことができる。例えば、上記原料粉、水及びその他の液体材料を混合機に投入して撹拌して生地を調製する。各材料は、別々に投入してもよく、一部を予め混合したミックス製品を用いてもよい。前記生地の水の量は、前記粘度になるように適宜調整することができる。
【0016】
本発明はまた、本発明の製造方法によって得られた焼き菓子にもある。本発明の焼き菓子は、従来にない水分が極めて多い生地を焼成することで得られ、保形性に優れ、ソフトでしっとりした食感を有し、且つ口溶けが良い焼き菓子である。本発明において、焼き菓子を焼成する工程も、特に制限はなく、従来公知の方法で行なうことができる。本発明においては、生地の粘度が極めて低いため、たこ焼用、鯛焼き用、大判焼き用等の焼き型に流し入れて焼成する方法が好ましい。焼成時は、焼き型に前記生地のみを入れて焼成してもよく、焼き型に前記生地を入れ、さらにクリームや餡、ジャム等のフィリング;畜肉又は魚肉ソーセージやハム、チーズ、野沢菜などの漬物等の加工食品;野菜や果物を充填して焼成してもよい。本発明において、焼成温度、焼成時間は特に制限はなく、生地や焼き型の形状等に応じて適宜調整することができる。なお、本発明の焼き菓子は、製造方法によって物を特定するいわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレームであるが、上述のように、所定の成分を含み、所定の粘度を有する生地を焼成する工程を経て得られることが特徴であるため、焼成後の構造又は特性を特定することについて不可能・非実際的事情が存在する。本発明の焼き菓子は、焼成後冷凍して冷凍食品とすることもでき、この冷凍食品は、自然解凍、電子レンジ等によって解凍したり、冷凍のまま又は解凍後にフライ調理したり、トースターやオーブン等によって再加熱したりすることによって喫食することができる。なお、フライ調理する場合は、表面をカリッとさせる程度に軽く油ちょうするのが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.焼き菓子用生地の調製
表1及び表2に示した配合で各材料を混合機で混合し、各実施例及び各比較例の焼き菓子用生地を調製した。得られた焼き菓子用生地の粘度を以下の通り測定した。
(粘度の測定方法)
調製した生地200gを専用容器(約230ml容量)に入れ、B型粘度計:TVB-10M(東機産業株式会社製)(プランジャーNo.22(SPINDLE No.M3/CORD No.22)使用)を用いて、回転数12rpm、温度23±1℃で測定した。
2.焼き菓子の製造
130℃に加熱した複数の半球状の窪み(穴径:43mm、深さ:34mm)を有する焼き型にサラダ油を引き、各生地12gを流し入れた後、フィリング(モアロクリーム:ソントン食品工業株式会社)3gを加え10分間焼成し、釣鐘状の焼き菓子を製造した。
3.焼き菓子の評価
(1)形状
2.で得られた焼き菓子の形状を以下の評価基準で評価した。上記評価は専門パネル5名で評価し、パネル全員の合議にて決定した。
◎:十分に膨らんでおり非常に良好な形状である
○:焼成・冷却後に若干の縮みが認められるが、形状良好である
△:焼成・冷却後に縮みや潰れが生じて、形状やや不良であるが、製品としては許容範囲内である
×:潰れていて製品として不良である
(2)食感
2.で得られた焼き菓子の食感を、(i)ソフトさ、(ii)しっとり感、(iii)口溶けについて、以下の各評価基準で評価した。上記評価は、専門パネル5名で評価し、(i)及び(ii)の場合は、平均値を算出し、(iii)の場合はパネル全員の合議にて決定した。(i)~(iii)の評価結果から、以下の基準で(iv)合否判定を行なった。
(i)ソフトさ
5:非常にソフトな食感である
4:ソフトな食感である
3:どちらかといえばソフトさを感じる食感である
2:硬さを感じる食感である
1:硬い食感である
(ii)しっとり感
5:非常にしっとりとした食感である
4:しっとりとした食感である
3:どちらかといえばしっとりとした食感である
2:パサつきを感じる食感である
1:パサついた食感である
(iii)口溶け
○:口溶けが良い
×:口溶けが悪い
(iv)合否判定
◎:(i)及び(ii)の評価が4以上であり、且つ(iii)の評価が○である
○:(i)及び(ii)の評価が3以上、4未満であり、且つ(iii)の評価が○である
×:(i)又は(ii)の評価が3未満であるか、又は(iii)の評価が×である
【0018】
【0019】
【0020】
表1及び表2に示した通り、小麦粉を含む原料粉、及び水を含む生地であり、前記原料粉が、たん白素材として、卵白粉、グルテン、又は大豆粉を含み、さらにゲル化剤として、アラビアガム、キサンタンガム、グアガム、アルギン酸、HPMC、グルコマンナン、寒天、又はゼラチンを含み、前記生地の粘度が0.57~3.16Pa・sである生地を用いて製造した実施例1~21の焼き菓子は、形状が良好で、食感もソフトでしっとりとしており、口溶けが良好であった。一方、たん白素材及びゲル化剤を含まない比較例1では、しっとり感がなく、口溶けが悪かった。また、たん白素材を含むが、ゲル化剤を含まない比較例2ではしっとり感がなく、ゲル化剤を含むが、たん白素材を含まない比較例3では口溶けが悪かった。
【0021】
ゲル化剤については、実施例1~13に示した通り、ゲル化剤の種類に応じて、生地粘度に与える影響が異なるため、含有量を調整する必要があるが、いずれのゲル化剤でも上述の効果が認められた。ゲル化剤としては、実施例1~6に示した通り、生地粘度に与える影響が少なく、非常に良好な食感が得られるアラビアガムが好ましいことが示唆された。
【0022】
たん白素材としては、実施例1、及び実施例14~17に示した通り、含有量を調整する必要があるが、卵白粉、グルテン、及び大豆粉で上述の効果が認められた。一方、たん白素材であっても、カゼインナトリウムを用いた比較例4及び比較例5では、含有量を調整してもしっとり感や口溶けが悪かったり、形状が悪かったりして上述の効果は得られなかった。
【0023】
生地粘度については、水の量により生地粘度を調製した、実施例1、実施例18~21、及び比較例6に示した通り、0.57~3.16Pa・sの範囲で、上述の効果が得られたが、生地粘度が3.32Pa・sの比較例6では食感についてソフトさ及びしっとり感が悪かった。また、生地粘度が0.57Pa・sの実施例21より、生地粘度が1.32の実施例1の方が良好な評価であったことから、上記生地粘度は0.5Pa・s以上であることが必要であると示唆された。
【0024】
4.焼き菓子の冷凍・解凍の影響
[実施例22]
実施例1で得られた焼き菓子を、-35℃で急速凍結した後、-18℃の冷凍庫で2週間保存した。これを、以下の2種類の解凍方法により、解凍してから喫食し、実施例1と同様に食感評価を行った。その結果は、実施例1と同様であった。
(解凍方法1)室温に放置することによる自然解凍を行った。
(解凍方法2)冷凍品5個を皿に並べて、ラップで軽く覆いをしてから、500Wの電子レンジで1分間加熱して解凍した。
【0025】
5.フィリング添加無しの影響
[実施例23]
130℃に加熱した複数の半球状の窪み(穴径:43mm、深さ:34mm)を有する焼き型にサラダ油を引き、実施例1の生地13gを流し入れた後、10分間焼成し、釣鐘状の焼き菓子を製造した。これを実施例1と同様に、形状及び食感を評価した。その結果は、実施例1と同様であった。
【0026】
6.生地の着色・風味付け等の影響
[実施例24]
実施例1の生地配合に、抹茶粉末3質量部を加えた以外は、実施例23と同様に実施して、抹茶風味の釣鐘状の焼き菓子を製造した。これを実施例1と同様に、形状及び食感を評価した。その結果は、実施例1と同様であった。
[実施例25]
実施例1の生地配合のうち、水2質量部をリンゴ果汁2質量部に置き換えて、生地を調製し、フィリングにリンゴジャムを用いた以外は、実施例1と同様に実施して、釣鐘状の焼き菓子を製造した。これを実施例1と同様に、形状及び食感を評価した。その結果は、実施例1と同様であった。
【0027】
7.フライ調理による再加熱の影響
[実施例26]
130℃に加熱した複数の半球状の窪み(穴径:43mm、深さ:34mm)を有する焼き型にサラダ油を引き、実施例1の生地12gを流し入れた後、10mm角にカットした魚肉ソーセージを加え10分間焼成し、釣鐘状の焼き菓子を製造した。これを-35℃で急速凍結した後、-18℃の冷凍庫で2週間保存した。自然解凍後、170℃のサラダ油で1分間油ちょうした。これを喫食したところ、表面がカリッとした食感で美味であった。
【0028】
8.焼き型の影響
[実施例27]
焼き型に今川焼用焼成機(穴径60mm、深さ15mm)を用い、生地重量を15gとし、加熱条件を150℃で8分間とした以外は、実施例23と同様に実施し、円盤状の焼き菓子を製造した。これを実施例1と同様に、形状及び食感を評価した。その結果は、実施例1と同様であった。
【0029】
以上の結果から、小麦粉を含む原料粉、及び水を含む生地を焼成する焼き菓子の製造方法において、前記原料粉が、卵白粉、グルテン、及び大豆粉からなる群から選択される1種以上のたん白素材、並びにガム類、アルギン酸、セルロース誘導体、グルコマンナン、寒天、及びゼラチンからなる群から選択される1種以上のゲル化剤を含み、前記生地の粘度が、0.5~3.2Pa・sであることによって、水分が極めて多い液状生地を用いても、焼成時に火抜けが良く、保形性に優れ、ソフトでしっとりした食感を有し、且つ口溶けが良い焼き菓子を製造できることが示された。
【0030】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、水分が極めて多い液状生地を用いても、焼成時に火抜けが良く、保形性に優れ、ソフトでしっとりした食感を有し、且つ口溶けが良い焼き菓子を製造することができるので、従来にない新規な食感の焼き菓子を容易に提供することができる。