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  • 特許-窒素製造方法及び装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】窒素製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/04 20060101AFI20230726BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20230726BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20230726BHJP
   C01G 51/00 20060101ALN20230726BHJP
【FI】
C01B21/04 D
B01D53/047
B01D53/14 100
B01D53/14 311
C01G51/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019100341
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020193126
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 幸恵
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087119(JP,A)
【文献】特開2019-043833(JP,A)
【文献】特開2013-155076(JP,A)
【文献】特開平08-217422(JP,A)
【文献】特開平04-310509(JP,A)
【文献】特開2008-074655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/04
B01D 53/047
B01D 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を除去して窒素富化ガスを得る窒素富化工程と、該窒素富化工程で得た窒素富化ガスを酸素選択型の吸蔵剤に接触させて窒素富化ガス中に残留する酸素を吸蔵させることにより窒素ガスを精製する窒素精製工程とを含
前記窒素富化工程は、酸素及び二酸化炭素を吸着する吸着剤に前記原料空気を接触させ、
前記窒素富化工程は、相対的に高い圧力の前記原料空気を前記吸着剤に接触させて原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を前記吸着剤に吸着させる吸着段階と、相対的に低い圧力で前記吸着剤に吸着した酸素及び二酸化炭素を吸着剤から脱離させる再生段階とを交互に行い、
前記窒素精製工程は、前記酸素選択型の吸蔵剤とあらかじめ設定された圧力に加圧された状態の前記窒素富化ガスとをあらかじめ設定された温度に加熱した状態で接触させて酸素を酸素選択型の吸蔵剤に吸蔵させる吸蔵段階と、該吸蔵段階の温度より高いあらかじめ設定された温度に加熱して吸蔵した酸素を放出させる放出段階とを交互に行い、
前記酸素選択型の吸蔵剤は、酸素不定比性を有する金属酸化物であり、
前記再生段階における再生ガスを、前記放出段階において放出された酸素を同伴する排気ガスとして放出することを特徴とする窒素製造方法。
【請求項2】
前記窒素富化工程は、原料空気を加圧して前記吸着剤に接触させることを特徴とする請求項記載の窒素製造方法。
【請求項3】
前記窒素富化工程は、前記吸着剤を充填した複数の吸着筒を備えた窒素富化器を使用し、少なくとも一つの吸着筒で前記吸着段階を行っているときに、他の少なくとも一つの吸着筒で前記再生段階を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の窒素製造方法。
【請求項4】
前記窒素精製工程は、前記吸蔵剤を充填した複数の精製筒を備えた窒素精製器を使用し、少なくとも一つの精製筒で前記吸蔵段階を行っているときに、他の少なくとも一つの精製筒で前記放出段階を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の窒素製造方法。
【請求項5】
原料空気に含まれる中の酸素及び二酸化炭素を除去して窒素富化ガスを得る窒素富化器と、該窒素富化器で得た窒素富化ガスを酸素選択型の吸蔵剤に接触させて窒素富化ガス中に残留する酸素を吸蔵させることにより窒素ガスを精製する窒素精製器とを備え
前記窒素富化器は、酸素及び二酸化炭素を吸着する吸着剤に前記原料空気を接触させ、
前記窒素富化器は、相対的に高い圧力の前記原料空気と前記吸着剤と接触させて前記原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を前記吸着剤に吸着させる吸着段階と、相対的に低い圧力で前記吸着剤に吸着した酸素及び二酸化炭素を吸着剤から脱離させる再生段階とを
交互に行い、
前記窒素精製器は、あらかじめ設定された温度に加熱した状態で前記窒素富化ガスと前記酸素選択型の吸蔵剤とを接触させて酸素を酸素選択型の吸蔵剤に吸蔵させる吸蔵段階と、該吸蔵段階の温度より高いあらかじめ設定された温度に加熱して吸蔵した酸素を放出させる放出段階とを交互に行い、
前記酸素選択型の吸蔵剤は、酸素不定比性を有する金属酸化物であり、
前記再生段階における再生ガスを前記窒素精製器に導入し、前記放出段階において放出された酸素を同伴する排気ガスとして放出することを特徴とする窒素製造装置。
【請求項6】
前記窒素富化器は、前記原料空気を加圧する原料空気加圧器を備えていることを特徴とする請求項記載の窒素製造装置。
【請求項7】
前記窒素富化器は、前記吸着剤を充填した複数の吸着筒を備え、少なくとも一つの吸着筒で前記吸着段階を行っているときに、他の少なくとも一つの吸着筒で前記再生段階を行うことを特徴とする請求項5又は6記載の窒素製造装置。
【請求項8】
前記窒素精製器は、前記吸蔵剤を充填した複数の精製筒を備え、少なくとも一つの精製筒で前記吸蔵段階を行っているときに、他の少なくとも一つの精製筒で前記放出段階を行うことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項記載の窒素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素製造方法及び装置に関し、詳しくは、酸素吸蔵・脱離能力を有する酸素選択型の吸蔵剤を使用して高濃度窒素を製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種高濃度ガスを製造するための装置として、深冷分離装置、膜分離装置、PSA(圧力変動吸着分離)装置などが広く知られている。深冷分離装置は、大容量の高濃度ガスを製造する場合には適しているが、電力などの動力が嵩むことや、設備の設置面積が大きくなるといった問題があり、膜分離装置は、小容量の高濃度ガスを製造するのに適している。一方、PSA装置は、比較的大容量の高濃度窒素ガスを製造する場合に適しており、設備費が深冷分離装置に比べ安価で運転操作も容易であるという利点がある。
【0003】
しかし、吸着剤として分子篩炭素を使用し、原料空気に含まれる酸素を選択的に吸着するPSA装置の場合、比較的高濃度窒素を製造できるものの、窒素濃度が高くなるほど大量の分子篩炭素が必要となり、窒素の発生量も少なくなり、原料空気の圧縮動力が大きくなるという問題があった。このため、PSA装置にて99.9~99.99%程度に濃縮した窒素を取り出した後、Ni触媒で酸素を吸着することで、窒素中に残留するppmオーダーの酸素をppb以下になるまで除去し、高濃度窒素を製品ガスとして得る方法が知られている。
【0004】
Ni触媒を使用して酸素を吸着除去する方法では、酸素が吸着したNi触媒を水素を用いて再生することにより、Ni触媒を連続的に再利用することが可能ではあるが、再生用の水素を手配する煩雑さやコストがかかることが問題となっていた。また、Ni触媒は、窒素ガス中の酸素濃度が1000ppmを超えると、酸素の吸着熱によりNi触媒の温度が上昇し、吸着性能が低下するという問題もあった(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
そこで、室温以上の所定の温度環境下で酸素を選択して吸蔵する酸素選択型の吸蔵剤としてのペロブスカイト構造を有する酸化物を含む材料を用い、圧力変動法によって酸素と窒素とを分離する方法が提案されている(例えば、特許文献2,3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-217422号公報
【文献】特開2008-12439号公報
【文献】特開2010-12367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ペロブスカイト構造を有する酸化物の中には、空気中に存在する二酸化炭素によって酸素の吸蔵、放出が阻害されるものがあり、酸素選択型の吸蔵剤が有する酸素吸蔵脱離能力が十分に発揮されないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、酸素選択型の吸蔵剤を使用して空気から窒素を濃縮精製することにより、純度99.9999%以上(酸素濃度1ppm未満)の高濃度窒素を効率よく製造できる窒素製造方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の窒素製造方法は、原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を除去して窒素富化ガスを得る窒素富化工程と、該窒素富化工程で得た窒素富化ガスを酸素選択型の吸蔵剤に接触させて窒素富化ガス中に残留する酸素を吸蔵させることにより窒素ガスを精製する窒素精製工程とを含むことを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明の窒素製造方法は、前記窒素富化工程が、酸素及び二酸化炭素を吸着する吸着剤に前記原料空気を接触させること、特に、原料空気を加圧して前記吸着剤に接触させることを特徴とし、さらに、前記窒素富化工程は、相対的に高い圧力の前記原料空気を前記吸着剤に接触させて原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を前記吸着剤に吸着させる吸着段階と、相対的に低い圧力で前記吸着剤に吸着した酸素及び二酸化炭素を吸着剤から脱離させる再生段階とを交互に行うこと、特に、前記窒素富化工程は、前記吸着剤を充填した複数の吸着筒を備えた窒素富化器を使用し、少なくとも一つの吸着筒で前記吸着段階を行っているときに、他の少なくとも一つの吸着筒で前記再生段階を行うことを特徴としている。
【0011】
本発明方法における前記窒素精製工程は、前記酸素選択型の吸蔵剤とあらかじめ設定された圧力に加圧された状態の前記窒素富化ガスとをあらかじめ設定された温度に加熱した状態で接触させることを特徴とし、さらに、前記窒素精製工程は、前記酸素選択型の吸蔵剤とあらかじめ設定された圧力に加圧された状態の前記窒素富化ガスとをあらかじめ設定された温度に加熱した状態で接触させて酸素を酸素選択型の吸蔵剤に吸蔵させる吸蔵段階と、該吸蔵段階の温度より高いあらかじめ設定された温度に加熱して吸蔵した酸素を放出させる放出段階とを交互に行うことを特徴としており、特に、前記窒素精製工程は、前記吸蔵剤を充填した複数の精製筒を備えた窒素精製器を使用し、少なくとも一つの精製筒で前記吸蔵段階を行っているときに、他の少なくとも一つの精製筒で前記放出段階を行うことを特徴としている。また、酸素選択型の吸蔵剤は、酸素不定比性を有する金属酸化物であることを特徴としている。さらに、前記再生段階における再生ガスを、前記放出段階において放出された酸素を同伴する排気ガスとして放出することを特徴としている。
【0012】
一方、本発明の窒素製造装置は、原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を除去して窒素富化ガスを得る窒素富化器と、該窒素富化器で得た窒素富化ガスを酸素選択型の吸蔵剤に接触させて窒素富化ガス中に残留する酸素を吸蔵させることにより窒素ガスを精製する窒素精製器とを備えていることを特徴としている。
【0013】
さらに、本発明の窒素製造装置は、前記窒素富化器が、酸素及び二酸化炭素を吸着する吸着剤に前記原料空気を接触させること、特に、相対的に高い圧力の前記原料空気と前記吸着剤と接触させて前記原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を前記吸着剤に吸着させる吸着段階と、相対的に低い圧力で前記吸着剤に吸着した酸素及び二酸化炭素を吸着剤から脱離させる再生段階とを交互に行うこと、前記原料空気を加圧する原料空気加圧器を備えていることを特徴とし、さらに、前記窒素富化器は、前記吸着剤を充填した複数の吸着筒を備え、少なくとも一つの吸着筒で前記吸着段階を行っているときに、他の少なくとも一つの吸着筒で前記再生段階を行うことを特徴としている。
【0014】
本発明の窒素製造装置における前記窒素精製器は、あらかじめ設定された温度に加熱した状態で前記窒素富化ガスと前記酸素選択型の吸蔵剤とを接触させること、特に、あらかじめ設定された温度に加熱した状態で前記窒素富化ガスと前記酸素選択型の吸蔵剤とを接触させて酸素を酸素選択型の吸蔵剤に吸蔵させる吸蔵段階と、該吸蔵段階の温度より高いあらかじめ設定された温度に加熱して吸蔵した酸素を放出させる放出段階とを交互に行うことを特徴とし、前記窒素精製器は、前記吸蔵剤を充填した複数の精製筒を備え、少なくとも一つの精製筒で前記吸蔵段階を行っているときに、他の少なくとも一つの精製筒で前記放出段階を行うことを特徴としている。また、酸素選択型の吸蔵剤は、酸素不定比性を有する金属酸化物であることを特徴としている。さらに、前記再生段階における再生ガスを前記窒素精製器に導入し、前記放出段階において放出された酸素を同伴する排気ガスとして放出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前処理となる窒素富化工程で原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を除去し、酸素及び二酸化炭素の濃度が低減した窒素富化ガスを、酸素選択型の吸蔵剤を使用した窒素精製工程の原料ガスとして用いるので、酸素選択型の吸蔵剤が有する酸素吸蔵脱離能力を十分に発揮させることができ、酸素濃度を1ppm未満に除去した高濃度窒素を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の窒素製造方法を適用可能な窒素製造装置の一形態例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の窒素製造方法を適用可能な窒素製造装置の一形態例を示す系統図である。本形態例に示す窒素製造装置10は、原料空気に含まれる酸素及び二酸化炭素を除去する窒素富化工程を行う窒素富化器11と、酸素選択型の吸蔵剤を使用して窒素精製工程を行う窒素精製器21とを組み合わせたもので、窒素富化器11で発生させた窒素富化ガスを窒素精製器21で処理することにより、高濃度窒素を製造するようにしている。
【0018】
窒素富化器11は、吸着剤12をそれぞれ充填した二つの吸着筒13a,13bと、原料空気をあらかじめ設定された相対的に高い圧力に加圧するための原料空気加圧機14とを備えており、各吸着筒13a,13bの入口側(図において下側)には、原料空気入口弁15a,15b及び再生ガス導出弁16a,16bがそれぞれ設けられ、出口側(図において上側)には、窒素富化ガス導出弁17a,17b及び均圧弁18a,18bがそれぞれ設けられている。
【0019】
窒素精製器21は、酸素選択型の吸蔵剤22をそれぞれ充填した二つの精製筒23a,23bを備えるとともに、精製原料となる前記窒素富化ガスの入口側(図において下側)には、窒素富化ガス入口弁24a,24b及び放出ガス排気弁25a,25bが設けられ、出口側(図において上側)には、再生ガス導入弁26a,26bと、高濃度に精製した窒素を製品として採取する高濃度窒素採取弁27a,27bと、再生段階終了前に吸蔵剤22を吸蔵温度に冷却するとともに両精製筒23a,23bを昇圧する冷却昇圧弁28a,28bとが設けられており、各精製筒23a,23bには、吸蔵剤22を加熱するためのヒーター29a,29bがそれぞれ設けられている。
【0020】
この窒素製造装置10は、窒素富化器11の各弁及び窒素精製器21の各弁をあらかじめ設定された順序で開閉し、前記ヒーター29a,29bの設定温度を制御することにより、原料空気から高濃度窒素を連続的に製造することが可能となっている。
【0021】
例えば、窒素富化器11において、一方の吸着筒13aが吸着段階、他方の吸着筒13bが再生段階のとき、原料空気加圧機14であらかじめ設定された吸着圧力に加圧された原料空気G1は、原料空気入口弁15aを通って吸着筒13aに導入され、内部の吸着剤12に接触することにより、原料空気中に含まれている不純物成分、特に、酸素及び二酸化炭素が吸着剤12に吸着され、酸素濃度が1000ppm未満、二酸化炭素濃度が1ppm未満の窒素富化ガスG2となり、窒素富化ガス導出弁17aを通って窒素富化ガス経路31を経て窒素精製器21に原料ガスとして導入される。
【0022】
また、窒素精製器21において、一方の精製筒23aが吸蔵段階、他方の精製筒23bが放出段階のとき、窒素富化ガス経路31の窒素富化ガスG2は、相対的に高い圧力である吸着圧力の状態で、窒素富化ガス入口弁24aを通って精製筒23aに導入される。精製筒23aでは、ヒーター29aによって内部の酸素選択型の吸蔵剤22があらかじめ設定された吸蔵温度に加熱されており、前記窒素富化器11の吸着圧力に相当する圧力を有する窒素富化ガスが吸蔵温度に加熱された吸蔵剤22に接触することにより、窒素富化ガス中の酸素が選択的に吸蔵剤22に吸蔵され、酸素濃度が1ppm未満の高濃度窒素ガスG4となり、高濃度窒素採取弁27aを通って高濃度窒素導出経路32から採取される。
【0023】
一方、再生段階の吸着筒13bでは、最初に再生ガス導出弁16bが開き、筒内のガスを再生ガス導出弁16bから再生ガス経路33に排出して筒内圧力を吸着圧力に対して相対的に低い圧力に減圧する減圧操作が行われ、吸着剤12に吸着されていた酸素及び二酸化炭素が吸着剤12から脱離し、これらを含む再生ガスG3が再生ガス経路33を通って窒素精製器21に導入される。減圧操作によって筒内の圧力が低下した吸着筒13bには、均圧弁18a,18bを通って吸着筒13aからの窒素富化ガスの一部が導入され、筒内に残存する酸素及び二酸化炭素を排出する洗浄操作が行われる。
【0024】
洗浄操作後に、一方の吸着筒13aは原料空気入口弁15aと窒素富化ガス導出弁17aを閉じ、他方の吸着筒13bは再生ガス導出弁16bを閉じる。そして、均圧弁18a,18bを通って吸着筒13aから窒素富化ガスの一部が吸着筒13b内に導入され、均圧操作が行われる。
【0025】
均圧操作終了後、吸着筒13aが再生段階に、吸着筒13bが吸着段階に切り替えられる。以下、原料空気入口弁15a,15b、再生ガス導出弁16a,16b、窒素富化ガス導出弁17a,17b及び再生均圧弁18a,18bが、あらかじめ設定された時間経過によって開閉状態がそれぞれ切り替えられ、圧力変動法によって両吸着筒13a,13bが吸着段階と再生段階とを均圧操作を挟んで交互に繰り返すことにより、原料空気から酸素及び二酸化炭素を除去した窒素富化ガスを窒素精製器21に連続的に導入する。
【0026】
また、放出段階の精製筒23bでは、放出ガス排気弁25bが開いて筒内のガスが排気されて筒内の圧力を、吸蔵段階時の圧力に対して相対的に低い圧力に低下させるとともに、ヒーター29bによって内部の酸素選択型の吸蔵剤22を、あらかじめ設定された吸蔵温度に比べて高い温度である放出温度に加熱する。この圧力低下と温度上昇とによって吸蔵剤22から酸素が放出されるとともに、再生ガス経路33の再生ガスG3が再生ガス導入弁26bを通って導入され、吸蔵剤22から放出された酸素を同伴した再生ガスを放出ガス排気弁25bから排気ガスG5として排出する放出操作が行われる。
【0027】
放出操作終了後、再生ガス導入弁26bを閉じ、冷却昇圧弁28a,28bを通して精製筒23aで精製された高濃度窒素の一部が精製筒23bに導入されるとともに、ヒーター29bの設定温度が吸蔵温度になり、吸蔵剤22を吸蔵温度に低下させる冷却操作が行われる。冷却操作終了後、放出ガス排気弁25bを閉じ、精製筒23aで精製された高濃度窒素の一部によって精製筒23bが昇圧される。その後、精製筒23aが放出段階に、精製筒23bが精製段階に切り替えられる。
【0028】
窒素富化ガス入口弁24a,24b、放出ガス排気弁25a,25b、再生ガス導入弁26a,26b、高濃度窒素採取弁27a,27b及び冷却弁28a,28bは、あらかじめ設定された時間経過によって開閉状態がそれぞれ切り替えられるとともに、ヒーター29a,29bの設定温度が吸蔵温度と放出温度とに切り替えられ、温度変動法によって両精製筒23a,23bが精製段階と放出段階とを交互に繰り返すことにより、水素などの添加ガスを用いることなく、原料となる窒素富化ガスから酸素を除去した高濃度窒素を連続的に採取することができる。
【0029】
ここで、窒素富化器11の吸着筒13a,13bに充填する吸着剤12としては、酸素及び二酸化炭素を効果的に除去できる分子篩炭素を使用することが好ましい。各段階は常温で操作することができ、吸着段階における圧力は、例えば600kPa,再生段階における圧力は、例えば大気圧(100kPa)に設定することができる。
【0030】
窒素精製器21の精製筒23a,23bに充填する吸蔵剤22としては、酸素不定比性を有有する金属酸化物、特に、酸素不定比性かつペロブスカイト構造を有する金属酸化物を用いることが好ましい。このペロブスカイト構造とは、2種以上の金属で構成される金属酸化物の結晶構造を表すもので、本発明では、各種の金属の組み合わせからなるペロブスカイト構造の金属酸化物を用いることができ、具体的には、YBaCo7+δを挙げることができる。
【0031】
このYBaCo7+δを用いたとき、吸蔵段階における吸蔵剤22の温度は、50~300℃の範囲、好ましくは100~250℃の範囲、例えば200℃に設定することができ、放出段階では200~800℃の範囲、好ましくは300~500℃の範囲、より好ましくは400~450℃の範囲、例えば450℃に設定することができる。
【0032】
また、吸蔵段階の圧力は、窒素富化器11の吸着段階における圧力と同じ圧力、例えば600kPaに設定することができ、放出段階の圧力は大気圧(100kPa)に設定することができる。
【0033】
次に、前記窒素富化器11と前記窒素精製器21とを組み合わせた窒素製造装置10を使用し、空気を原料として酸素濃度1ppm未満の高濃度窒素を製造した実施例を説明する。
【0034】
窒素富化器11の吸着剤には分子篩炭素を使用し、吸着圧力は600kPa、再生圧力は100kPa(大気圧)、温度はいずれも室温として運転し、酸素濃度1000ppm未満、二酸化炭素濃度1ppm未満の窒素富化ガスを得た。
【0035】
一方、窒素精製器21の吸蔵剤22にはYBaCo7+δを使用し、吸蔵温度は200℃、放出温度は450℃に、吸蔵圧力は600kPa、放出圧力は100kPaにそれぞれ設定し、窒素富化器11からの窒素富化ガスを原料として運転した。
【0036】
この結果、酸素濃度1ppm未満、窒素濃度99.9999%以上の高濃度窒素を得ることができた。このときの製品回収率は30%であった。
【0037】
なお、窒素富化ガス経路31や再生ガス経路33にバッファタンクを設けることによってガスの流量変動や圧力変動を緩和することができ、ヒーター29a,29bに代えてガス加熱器を設けることもできる。
【符号の説明】
【0038】
10…窒素製造装置、11…窒素富化器、12…吸着剤、13a,13b…吸着筒、14…原料空気加圧機、15a,15b…原料空気入口弁、16a,16b…再生ガス導出弁、17a,17b…窒素富化ガス導出弁、18a,18b…均圧弁、21…窒素精製器、22…吸蔵剤、23a,23b…精製筒、24a,24b…窒素富化ガス入口弁、25a,25b…放出ガス排気弁、26a,26b…再生ガス導入弁、27a,27b…高濃度窒素採取弁、28a,28b…冷却昇圧弁、29a,29b…ヒーター、31…窒素富化ガス経路、32…高濃度窒素導出経路、33…再生ガス経路
図1