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  • 特許-低温焼成用の銀インク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】低温焼成用の銀インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/52 20140101AFI20230727BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20230727BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20230727BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20230727BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C09D11/52
B22F9/00
H01B1/22
H05K1/09
H05K3/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020539344
(86)(22)【出願日】2019-08-15
(86)【国際出願番号】 JP2019032068
(87)【国際公開番号】W WO2020045111
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018162008
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 優輔
(72)【発明者】
【氏名】牧田 勇一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘規
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀章
(72)【発明者】
【氏名】越路 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】春日 政人
(72)【発明者】
【氏名】久保 仁志
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-048601(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024630(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/115300(WO,A1)
【文献】特開2006-169613(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033911(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B22F 1/00
B22F 9/00
B82Y 30/00
H01B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子と、少なくとも1種のアミン化合物を含む保護剤とを分散媒に分散してなる銀インクにおいて、
前記分散媒は、20℃における蒸気圧が40mmHg以下であり、且つ、70℃における蒸気圧が0.09mmHg以上である主溶媒を、分散媒全体に対して質量基準で80%以上含んでなり、
前記保護剤に含まれるアミン化合物の質量平均分子量が115以下であり、
前記保護剤に含まれるアミン化合物の合計量が、銀粒子100重量部に対して1.43重量部以上14重量部以下であり、
更に、水分含有量が、銀インク全体に対して質量基準で500ppm以上50000ppm以下であることを特徴とする銀インク。
【請求項2】
少なくとも1種のアルコールと少なくとも1種のアルカンとからなり、質量基準でアルコール:アルカン=1:8~3:1で混合した混合溶媒を主溶媒とする請求項1記載の銀インク。
【請求項3】
保護剤に含まれるアミン化合物の合計量が、銀粒子100重量部に対して3重量部以上14重量部以下である請求項2記載の銀インク。
【請求項4】
保護剤として炭素数4以上26以下の脂肪酸を含み、前記脂肪酸の含有量は、銀粒子の質量基準で0.01mmol/g以上0.06mmol/g以下である請求項2又は請求項3に記載の銀インク。
【請求項5】
銀粒子の質量基準でモル換算されたアミン化合物の合計含有量と脂肪酸の含有量との比率(アミン化合物の含有量(mmol/g)/脂肪酸の含有量(mmol/g))が、5.0以上120.0以下である請求項4記載の銀インク。
【請求項6】
少なくとも1種の分子量150以上250以下のアルコールからなる溶媒を主溶媒とする請求項1記載の銀インク。
【請求項7】
保護剤に含まれるアミン化合物の合計量が、銀粒子100重量部に対して1.43重量部以上10重量部以下である請求項6記載の銀インク。
【請求項8】
添加剤として、セルロース類を、銀インク全体に対する質量基準で1.0%以上5.0%以下含む請求項6又は請求項7記載の銀インク。
【請求項9】
銀粒子の平均粒径は、10nm以上300nm以下である請求項1~請求項8のいずれかに記載の銀インク。
【請求項10】
銀粒子の含有量は、銀インク全体の質量に対して20質量%以上85質量%以下である請求項1~請求項9のいずれかに記載の銀インク。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれかに記載の銀インクであって
バーコート印刷又はスクリーン印刷により前記銀インクを塗布した後、70℃で30分以上180以下焼成したときに形成される導電体の体積抵抗が5μΩcm以上20μΩcm以下となることを特徴とする銀インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護剤及び銀粒子を分散媒に分散させた銀インクに関する。特に、70℃以下の低温で焼成可能であり、低抵抗の金属膜を形成することができる銀インクに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子デバイスの回路基板やタッチパネル・ディスプレイ等の透明配線基板へ電極・配線・導電膜を形成するため、金属インクの使用が注目されている。金属インクは、導電性金属の微粒子が分散媒に分散したものであり、適宜の基板に塗布することで所望の形状・パターンで電極等となる金属膜を形成する機能材料である。金属インクによる金属膜の形成プロセスは、スパッタリング等の従来の薄膜形成プロセスに対して、真空雰囲気とする必要がなく、装置コストも抑えることができるという利点がある。
【0003】
金属インクとしては、例えば、特許文献1記載の銀粒子を含む金属インク(銀インク)がある。この銀インクに適用される銀粒子は、銀化合物とアミンとを反応させて銀アミン錯体を生成し、これを熱分解することで得られる。この方法により製造される銀粒子は、アミンによって保護(被覆)された状態で、微細且つ均一な粒径となっている。このような保護剤及び銀粒子を含む金属インクは、比較的低温で銀粒子を焼結させて金属膜を形成することができる。
【0004】
低温焼結性を有する金属インクは、基板の選択肢を広げることができ、金属・ガラス基板に加えて、プラスチック、PET等の樹脂基板やポリイミド等の有機材料基板に対して好適に電極・配線を形成することができる。本願出願人は、低温焼結性を有する銀インクに関し、多くの検討実績を有する。例えば、特許文献2~特許文献4には、銀粒子の粒径、保護剤であるアミン化合物の構成等を調整しつつ、低温焼結性に優れた銀インクが開示されている。
【0005】
また、銀インク等の金属インクにおいて、低温焼結性を含む各種特性を左右するのは銀粒子の構成によるところが大きいと考えられる。本願出願人は、金属インクに好適な銀粒子の製造プロセスについても検討しており、様々粒径範囲の銀粒子の製造方法を公開している(例えば、特許文献5~特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-40630号公報
【文献】特許第5795096号明細書
【文献】特許第6068406号明細書
【文献】国際公開WO2017/033911号
【文献】特許第5732520号明細書
【文献】特許第6189740号明細書
【文献】特許第6270831号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した銀インクによる金属膜の形成においては、基板等の対象物に対して全面的又は部分的に銀インクを塗布後、加熱することで分散媒及び保護剤が蒸発し、銀粒子の焼結が進行して金属膜が焼成される。低温焼結性を謳う従来の銀インクにおいては、実用的な範囲の金属膜を形成するための加熱温度として100℃~200℃の間で設定されることが多い(特許文献2~特許文献4)。
【0008】
近年、ディスプレイ等の各種デバイスにおいて、有機エレクトロニクスの適用が進行している。有機エレクトロニクス材料には、これまで使用されてきた半導体・電子材料より、高温への耐性が更に低い材料も多い。銀インク等の金属インクを有機エレクトロニクスへ応用するためには、更なる低温焼結性が要求される。
【0009】
具体的には、70℃程度で焼成可能であり、導電体として機能し得る低抵抗な金属膜を形成できる金属インクが必要である。しかしながら、上記従来技術を含むこれまで知られている銀インクは、この要求に超えることができない。従来技術の銀インクにおける課題として、例えば、それらの銀インクは、100℃未満の温度で焼結そのものは生じるが、金属膜の形成には数十時間~数日間の加熱時間が要求される点が挙げられる。また、従来の銀インクでは、焼結しても電気抵抗値(体積抵抗値)が高くなることがある。
【0010】
本発明は上記のような背景のもとになされたものであり、銀粒子を含む銀インクであって、70℃以下の低温での焼成によっても実用的な金属膜を形成可能なものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のとおり、銀インクの焼成とは、保護剤の蒸発脱離と、それと同時に素地面を現した銀粒子同士の近接と焼結による結合である。よって、銀インクの焼成温度の低温化は、銀粒子及びそれに結合する保護剤の構成に大きく依存するというのが従来の発想である。本発明者等も、この観点によりアミン化合物を主体とする保護剤の構成により、上記課題解決の検討を行った。その結果として、保護剤として1種以上のアミン化合物を使用しつつ、その分子量を限定すべきであることを見出した。
【0012】
但し、本発明者等は、保護剤の厳密な規定のみでは、要求される低温焼結を完全に達成することができないことも確認した。そこで、更なる検討を行うこととし、その方向性として銀インク全体の構成の検討を行うこととした。その結果、銀粒子及び保護剤を分散させる分散媒についても一定の制限が必要であるとした。そして、これに加え、銀インク中の水分含有量が低温焼結性に影響を及ぼすことを見出した。本発明者等は、以上の保護剤、分散媒、水分量のそれぞれの要素における好適範囲を検討して本発明に想到した。
【0013】
即ち、本発明は、銀粒子と、少なくとも1種のアミン化合物を含む保護剤とを分散媒に分散してなる銀インクにおいて、前記分散媒は、20℃における蒸気圧が40mmHg以下であり、且つ、70℃における蒸気圧が0.09mmHg以上である主溶媒を、分散媒全体に対して質量基準で80%以上含んでなり、前記保護剤に含まれるアミン化合物の質量平均分子量が115以下であり、前記保護剤に含まれるアミン化合物の合計量が、銀粒子100重量部に対して1重量部以上14重量部以下であり、更に、水分含有量が、銀インク全体に対して質量基準で500ppm以上50000ppm以下であることを特徴とする銀インクである。
【0014】
以上のとおり、本発明に係る銀インクは、銀粒子及び保護剤を分散媒に分散させて構成され、更に、銀インク全体に対する水分含有量を制御してなる。以下、これらの各構成について詳細に説明する。
【0015】
尚、上記した特許文献1~3からも分かるように、本発明の対象である銀インクは、銀粒子の含有量や添加剤によっては銀ペーストと称されることがある。本発明においては、銀インクとは、銀粒子及び保護剤を分散媒に分散させた分散液(銀分散液)の意義である。本発明の銀インクの技術的範囲は、銀ペースト、銀スラリー等の称呼によって制限されることはない。
【0016】
(I)銀粒子
本発明に係る銀インクにおいて分散する銀粒子は、上記した従来の銀インク、銀ペーストと同様のものが適用される。銀粒子は、平均粒径が5nm以上300nm以下のものが好ましい。銀粒子の平均粒径は、より好ましくは7nm150nmとし、更に好ましくは、10nm以上100nm以下とする。
【0017】
尚、銀粒子の粒径とは、銀インク中で分散している個々の粒子の粒径であって、保護剤部分を含まない銀粒子の粒径である。具体的には、SEMやTEM等の電子顕微鏡で観察される金属粒子のみの大きさを粒子径とする。このとき、粒子同士が接しているものでも粒界が明瞭に観察されている場合には、それぞれの粒子を個別の粒子として判定する。尚、金属粒子の平均粒径の測定に際しては、TEM等の電子顕微鏡像を基に、任意の粒子を1000個以上(好ましくは3000個程度)選定し、個々の粒子の長径及び短径を測定して二軸法にて粒径を算出し、選定した粒子の平均値を算出するのが好ましい。
【0018】
銀インク中の銀粒子の含有量は、銀インク全体の質量に対する金属質量で20質量%以上85質量%以下の範囲で設定できる。銀粒子の含有量が20%未満の場合は、十分な導電性を確保するための均一な膜厚の金属膜を形成できず金属膜の抵抗値が高くなる。銀粒子の含有量が85%を超える場合は、銀粒子の凝集が生じ易くなり、塗布・印刷の作業性を損なう可能性がある。銀粒子の含有量は、より好ましくは30質量%以上75質量%以下とする。尚、本発明における「銀粒子100重量部」とは、上記のように金属質量で規定された銀粒子の含有量を100重量部とすることを意味する。
【0019】
(II)分散媒
銀インクにおいて分散媒は、銀粒子の分散状態を維持すると共に、銀インク塗布の際に銀粒子を塗り広げる作用を有する重要な構成である。本発明においては、分散媒について一定の制限を要求する。具体的には、20℃における蒸気圧が40mmHg以下であり、且つ、70℃における蒸気圧が0.09mmHg以上の溶媒を主溶媒とすることを要する。
【0020】
上述の蒸気圧特性を有する溶媒を主溶媒とするのは、銀インクの取扱い性確保に加えて、低温焼結性と金属膜の特性とのバランスを最適化するためである。即ち、銀インクの塗布・印刷は常温下でなされるのが一般的である。20℃における蒸気圧を40mmHg以下とするのは、その際にインク状態を維持するためである。一方、焼結の際には焼結温度における蒸気圧が高く速やかに揮発する溶媒が好ましい。但し、銀インクの焼結過程においては、銀粒子同士の近接や保護剤の脱離を経て焼結が進行する。そのため、蒸気圧の高い溶媒を単純に選択して適用することは好ましくとは言い難い。更に、本発明においては、ここに後述する水分による焼結促進の影響もある。本発明は、これらを考慮して、70℃における蒸気圧を0.09mmHg以上とした。0.09mmHg未満の溶媒を分散媒とする銀インクでは、如何に水分量等を適切にしても70℃以下の低温焼結は生じ難くなるからである。
【0021】
主溶媒の具体例としては、上記の蒸気圧特性を有するアルコール又はアルコールを含む混合溶媒である。アルコールは、1分子中にOH基を1つ含む一価アルコールの他、2以上のOH基を含む多価アルコール(ジオール等)が対象となる。主溶媒の更なる具体的構成は、銀インク中の銀粒子の含有量・粘度・保護剤の構成等との関連に基づき適正化される。具体的な主溶媒についての詳細な説明は、後述する銀インクの具体的組成の説明において示す。
【0022】
本発明に係る銀インクの分散媒は、上記した蒸気圧特性を有する主溶媒を、分散媒全体に対して質量基準で80%以上含んでなる。上記主溶媒の含有量が80%未満の分散媒では、低温焼成に寄与することが困難となる。上記主溶媒の含有量は、分散媒全体に対して100%であっても良い。また、上記主溶媒の含有量が80%以上であれば、上記した蒸気圧特性を示さない溶媒を含むことができる。例えば、20℃における蒸気圧が40mmHgを超える溶媒であっても、分散媒全体に対して20%未満であれば分散媒に混合することができる。本発明における分散媒の具体的な構成については、後述する銀インクの具体的組成の説明において示す。
【0023】
尚、分散媒の蒸気圧の測定方法には特に制限はなく、20℃及び70℃における蒸気圧を測定できるものであれば公知の測定方法が採用できる。例えば、静止法、沸点法、アイソテニスコープ法、気体流通法、示差熱量測定(DSC)法、絶対法などが適用できる。また、分散媒の種類によっては、その各温度における蒸気圧が各種の物性データベースに掲載されていることがあり、これを参照することもできる。
【0024】
(III)保護剤
本発明は、銀インクの低温焼結の達成のため、保護剤の構成を規定する。本発明の銀インクの保護剤は、アミン化合物を必須的に含む。そして、保護剤に含まれるアミン化合物の質量平均分子量が115以下であることを要する。アミン化合物の質量平均分子量を制限するのは、質量平均分子量が115を超えるアミン化合物を保護剤とする銀インクは、焼成によって金属膜を一応は形成するものの、目的とする低抵抗値を達成することが困難である。即ち、高分子量のアミン化合物は、低温焼結性の障害となる。
【0025】
本発明の保護剤中のアミン化合物を質量平均分子量で規定したのは、銀インクにおいては、複数種のアミン化合物を保護剤として使用することが許容されることを考慮したからである。一般的な傾向として、高分子量のアミン化合物は、銀粒子の凝集抑制に有用であり、銀インクの分散性を高める効果がある。一方、低分子量のアミン化合物は、適度に銀粒子の凝集抑制を果たしつつ、焼成時に速やかに揮発・蒸発し金属膜への残留が少ない。そのため、銀インクにおける銀粒子の含有量や要求特性に応じて複数のアミン化合物が適用されることが多い。本発明では、そのような複数種のアミン化合物を適用することを考慮して、質量平均分子量で保護剤を規定した。尚、質量平均分子量は、保護剤として銀インクに含まれる1以上のアミン化合物について、それらの分子量を質量分率で案分して算出される分子量である。
【0026】
ここで保護剤となるアミン化合物について、具体的に説明する。アミン化合物中のアミノ基の数としては、アミノ基が1つである(モノ)アミンや、アミノ基を2つ有するジアミンを適用できる。また、アミノ基に結合する炭化水素基の数は、1つ又は2つが好ましく、すなわち、1級アミン(RNH)、又は2級アミン(RNH)が好ましい。そして、保護剤としてジアミンを適用する場合、少なくとも1以上のアミノ基が1級アミン又は2級アミンのものが好ましい。アミノ基に結合する炭化水素基は、直鎖構造又は分枝構造を有する鎖式炭化水素の他、環状構造の炭化水素基であっても良い。また、一部に酸素を含んでいても良い。
【0027】
そして、本発明においては、質量平均分子量115以下という条件のもと、上記したアミン化合物であるモノアミン、ジアミンを単独又は複数組み合わせて使用する。本発明の保護剤のアミン化合物として好適な具体例としては、炭素数が4~6のアミン化合物である。より具体的には、炭素数4のブチルアミン(分子量73.14)、1,4-ジアミノブタン(分子量88.15)、3-メトキシプロピルアミン(分子量89.14)、炭素数5のペンチルアミン(分子量87.17)、2,2-ジメチルプロピルアミン(分子量87.17)、3-エトキシプロピルアミン(分子量103.17)、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(分子量102.18)、炭素数6のヘキシルアミン(分子量101.19)等が挙げられる。本発明の場合、これらのアミン化合物を主体として、質量平均分子量115以下の保護剤を適用するのが好ましい。
【0028】
また、上記のような分子量が比較的低いアミン化合物の他、分子量が比較的高いアミン化合物も使用することができる。このようなアミン化合物としては、炭素数7のヘプチルアミン、ベンジルアミン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、炭素数8のオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、炭素数9のノニルアミン、炭素数10のデシルアミン、ジアミノデカン、炭素数11のウンデシルアミン、炭素数12のドデシルアミン、ジアミノドデカン等が挙げられる。これらの比較的高分子量のアミン化合物も、分子量115以下のものであれば単独で使用可能である。また、質量平均分子量115以下とすることを条件に、分子量が低いアミン化合物(分子量115以下のアミン化合物)と、分子量の高いアミン化合物(分子量116以上のアミン化合物)とを組み合わせて使用することが許容される。
【0029】
そして、本発明の銀インクは、保護剤に含まれる上記したアミン化合物の合計量が、銀粒子100重量部に対して1重量部以上14重量部以下であることも要求する。上記のような質量平均分子量を制限したアミン化合物であっても、銀粒子100重量部に対して14重量部を超える量であると、銀粒子表面からの脱離が進行し難く、焼結の妨げとなり、低温焼成できないからである。また、銀粒子100重量部に対して1重量部未満のアミン化合物は、保護剤として機能し難く、銀インクの銀粒子の凝集・沈殿が生じる可能性がある。
【0030】
上述した質量平均分子量や重量部を算出するための、アミン化合物の含有量の測定方法としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC-MS、TG-MS等が適用できる。複数種のアミン化合物を使用する場合も、これらの分析手段を適宜に組み合わせることで含有量を測定できる。
【0031】
尚、本発明ではアミン化合物以外の保護剤も使用可能である。具体的には、炭素数4以上26以下の脂肪酸が挙げられる。具体的には、ブタン酸(炭素数4)、ペンタン酸(炭素数5)、ヘキサン酸(炭素数6)、ヘプタン酸(炭素数7)、オクタン酸(炭素数8)、ノナン酸(炭素数9)、デカン酸(別名:カプリン酸、炭素数10)、ウンデカン酸(別名:ウンデシル酸、炭素数11)、ドデカンサン酸(別名:ラウリン酸、炭素数12)、トリデカン酸(別名:トリデシル酸、炭素数13)、テトラデカン酸(別名:ミリスチン酸、炭素数14)、ペンタデカン酸(別名:ペンタデシル酸、炭素数15)、ヘキサデカン酸(別名:パルミチン酸、炭素数16)、ヘプタデカン酸(別名:マルガリン酸、炭素数17)、オクタデカン酸(別名:ステアリン酸、炭素数18)、ノナデカン酸(別名:ノナデシル酸、炭素数19)、エイコサン酸(別名:アラキジン酸、炭素数20)、ベヘン酸(別名:ドコサン酸、炭素数22)、トリコサン酸(炭素数23)、リグノセリン酸(別名:テトラコサン酸、炭素数24)、ペンタコサン酸(炭素数25)、セロチン酸(別名:ヘキサコサン酸、炭素数26)等の飽和脂肪酸が挙げられる。また、不飽和脂肪酸として、パルミトレイン酸(炭素数16)、オレイン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)、リノレン酸(炭素数18)、アラキドン酸(炭素数20)、エルカ酸(炭素数22)、ネルボン酸(別名:cis-15-テトラコセン酸、炭素数24)等が挙げられる。
【0032】
保護剤の種類や含有量等に関するより具体的な構成は、銀粒子の含有量と分散媒の構成によって適正化される。この点に関しては、後述する銀インクの具体的組成の説明において説明する。
【0033】
(IV)水分含有量
銀インク中の水分含有量を規定することは、本発明の顕著な特徴の一つである。というのも、従来、金属インクにおいて、水(水分)は忌避されるべき成分である。一般的に、金属インクの分散媒は、有機溶媒が適用されることが多い。本発明でもアルコール、アルカン等の有機溶媒が使用されている。金属インクの分散媒として有機溶媒が使用されるのは、インク中の金属粒子の分散状態を維持するためである。即ち、金属インクの保護剤にアミン化合物(アルキルアミン)等を適用すると、金属粒子表面が疎水性の側鎖で覆われることになる。金属粒子の含有量を高くしつつ分散状態の良好な金属インクにするためには、金属粒子表面の極性に応じた分散媒とする必要がある。そのため、金属インクの分散媒として有機溶媒が使用されることが多い。そして、水のように極性の高い溶媒を単独で又は混合して分散媒とすると、金属粒子の分散を阻害すると考えられている。よって、通常は、分散媒にとって水は不可避であるが不純物として忌避されてきた。
【0034】
本発明者等は、上記のように忌避されてきた水分の存在は、銀インクの低温焼成においては、微量添加によって有効なものであることを見出した。僅かな水分によって低温焼成が可能となる理由については明確ではない。本発明者等は、水分子が保護剤であるアミン化合物の脱離を誘発し、銀粒子の焼結の進行を促進させたためと考察している。そして、この水分子の作用は、上記した分散媒及び保護剤の構成によって顕著になったと考えている。更に、水分の含有量は微量であれば、銀インク中の銀粒子の分散状態に問題が生じることがないことも確認した。
【0035】
本発明者等の検討から、銀インク中の水分含有量は、銀インク全体に対する質量基準で500ppm以上50000ppm以下とする。500ppm未満では、低温焼成抑制効果が低く、金属膜の抵抗値が高くなる傾向がある。一方、50000ppmを超えると、銀粒子表面への吸着水が過剰になり、この吸着水を起点とする銀粒子の凝集が起こるため、均一な分散状態を維持できなくなる。水分含有量は、好ましくは700ppm以上50000ppm以下であり、より好ましくは1000ppm以上50000ppm以下である。この水分量の規定に関しては、銀粒子の物性、分散媒の構成、及び保護剤の種類・含有量に依らず常に要求される必須要件である。
【0036】
尚、銀インク中の水分は、分散媒中に水として溶解又は分散した状態の他、銀粒子等の固体成分に吸着した水分子等を含む。銀インク中の水分含有量の測定方法としては、カールフィッシャー滴定法等による定量分析が好ましい。また、この銀インク中の水分は、上記含有量となるように銀インクに意図的に添加される水に由来する他、銀粒子の製造過程や後述する洗浄工程で混入する水にも由来する。
【0037】
(V)銀インクの具体的な構成
本発明に係る銀インクは、ここまで説明した銀粒子、分散媒、保護剤によって構成される。ここで、本発明における好適な銀インクの具体的な構成について、より詳細に説明する。本発明の銀インクは、当該銀インクの用途(粘度)や銀粒子の含有量を考慮しつつ設定できる分散媒の構成によって分類することができる。
【0038】
上記のとおり、分散媒の構成に関しては、上述した蒸気圧特性を有するアルコールとアルコール含有溶媒が挙げられる。ここで、本発明に係る銀インクは、(A)銀粒子含有量が比較的低く、アルコール含有溶媒(アルコールとアルカンとの混合溶媒)を主溶媒とする銀インク(以下、この銀インクを第1の銀インクと称するときがある)と、(B)銀粒子含有量が比較的高く、アルコール(分子量150以上250以下のアルコール)を主溶媒とする銀インク(以下、この銀インクを第2の銀インクと称するときがある)、の2種類の銀インクに対応することができる。以下、これらの2種類の具体的な銀インクについて、好適な構成を説明する。
【0039】
(A)第1の銀インク
(A-1)第1の銀インクの銀粒子含有量
第1の銀インクの銀粒子含有量は比較的低く、銀インク全体に対して質量基準で60%未満とするのが好ましい。より好ましくは、55%以下とする。第1の銀インクは、この銀粒子含有量と後述の分散媒の性状から、粘度が比較的低い銀インクとなる。
【0040】
(A-2)第1の銀インクの分散媒の構成
第1の銀インクの分散媒について、その80%以上を占める主溶媒は、アルコールとアルカンとの混合溶媒を適用するのが好ましい。上述した蒸気圧特性を示すことができ、低温焼成に寄与することができるからである。ここで、アルコール及びアルカンは、いずれも少なくとも1種が混合される。アルコールとしては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール等の少なくともいずれかを混合するのが好ましい。より好ましくは、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、シクロヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル―2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、tert-アミルアルコール、2,2ジメチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tart-ブチルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、1-プロパノール等である。上記したアルコールについて、例えば、1-ブタノールは20℃における蒸気圧は4.5mmHgであり基準値となる40mmHg以下である。また、70℃における蒸気圧は0.9mmHgを十分に超える蒸気圧を有する。
【0041】
一方、アルカンは、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン等の少なくともいずれかを混合するのが好ましい。より好ましくは、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカンである。上記したアルカンに関し、例えば、ヘプタンの20℃における蒸気圧は34mmHgであり基準値となる40mmHg以下である。また、ヘプタンの70℃における蒸気圧は0.9mmHgを十分に超える蒸気圧を有する。
【0042】
アルコールとアルカンとの混合比については、質量基準でアルコール:アルカン = 1:8~3:1とするのが好ましい。アミン化合物を保護剤とした場合、アルコールとアルカンとをこの比率で混合した溶媒が適している。前記の比率の範囲外による混合溶媒を適用するとき、粒子凝集や沈殿が生じる可能性があり、粒子の均一分散が困難となる。アルコールとアルカンとの混合比については、アルコール:アルカン = 1:7~3:2とするのがより好ましい。
【0043】
本発明に係る銀インクの分散媒は、上記したアルコールとアルカンとの混合溶媒を分散媒全体の重量に対し質量基準で80%以上含有する。この条件を満たす限り、第1の銀インクの分散媒は、上述の蒸気圧特性(20℃における蒸気圧40mmHg以下、且つ、70℃における蒸気圧0.09mmHg以上)を具備しない溶媒を含むことができる。第1の銀インクの分散媒中に含まれることが許容される溶媒としては、例えば、メタノール(20℃における蒸気圧95mmHg)、エタノール(20℃における蒸気圧44mmHg)、イソプロピルアルコール(20℃における蒸気圧45mmHg)、アセトン(20℃における蒸気圧182mmHg)、酢酸エチル(20℃における蒸気圧を94mmHg)、ヘキサン(20℃における蒸気圧155mmHg)等が挙げられる。
【0044】
(A-3)第1の銀インクの保護剤(アミン化合物)
第1の銀インクにおいて、保護剤は基本的には、質量平均分子量を115以下であれば、上記したアミン化合物の1種以上を適用できる。但し、より好ましくは、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、n-ペンチルアミン、3-メチルブチルアミン、2-メチルブチルアミン、n-ヘキシルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、等が適用される。また、上記した制限を具備していれば、比較的高分子量のアミン化合物も使用できる。例えば、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、等を使用できる。
【0045】
第1の銀インクのアミン化合物の合計含有量は、当然に銀粒子100重量部に対して1重量部以上14重量部以下とする。但し、主溶媒及び後述する他の保護剤との関連から、第1の銀インクのアミン化合物の合計含有量は、銀粒子100重量部に対して3重量部以上14重量部以下とするのが好ましい。
【0046】
(A-4)第1の銀インクにおけるアミン化合物以外の保護剤
上記のとおり、本発明の銀インクは、アミン化合物以外の保護剤も使用可能である。特に、第1の銀インクにおいては、補助的な保護剤として脂肪酸を添加することが好ましい。脂肪酸は、アミン化合物と共に銀粒子の分散性に寄与し、また、銀インクを塗布する際の作業性向上の効果もある。脂肪酸は上記した炭素数4以上26以下の各種の脂肪酸が適用できる。特に好ましくは、オレイン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、ネルボン酸が適用される。
【0047】
補助的な保護剤である脂肪酸の含有量は、銀粒子の質量基準(銀粒子1gに対するモル数)で0.01mmol/g以上0.06mmol/g以下とするのが好ましい。0.01mmol/g未満では、保護剤としての効果がない。0.06mmol/gを超えると、形成される金属膜の電気抵抗が高くなるおそれがある。
【0048】
保護剤としてアミン化合物と脂肪酸の双方を含む場合、銀粒子の質量基準でモル換算されたアミン化合物の合計含有量(銀粒子1gに対するアミン化合物の合計モル数)と、上記した脂肪酸の含有量との比率(アミン化合物の含有量(mmol/g)/脂肪酸の含有量(mmol/g))が、5.0以上であることが好ましい。この比率が5.0未満、即ち、脂肪酸の比率が高くなると、抵抗値の高い金属膜が形成されるおそれがある。この比率は、10.0以上がより好ましい。また、この比率の上限は、特に限定する必要はない。適度にアミンリッチな保護剤にすることで、好適な金属膜が形成できる。但し、脂肪酸に対して過剰のアミン化合物があると脂肪酸の効果が薄くなるので、前記比率は120.0以下とするのが好ましい。
【0049】
(B)第2の銀インク
(B-1)第2の銀インクの銀粒子含有量
第2の銀インクの銀粒子含有量は比較的高く、銀インク全体に対して質量基準で60%以上とするのが好ましい。この第2の銀インクは、銀粒子含有量と後述の分散媒の性状から、粘度が比較的高い銀インクとなる。この銀インクは、銀粒子含有量を高くし高粘度とすることで、膜厚の厚い金属膜の形成用途に好適である。
【0050】
(B-2)第2の銀インクの分散媒の構成
第2の銀インクの分散媒について、その80%以上を占める主溶媒は、分子量が150以上250以下のアルコール溶媒を適用するのが好ましい。銀粒子含有量が比較的大きい第2の銀インクにおいて、銀粒子を均一に分散させると共に塗布及び焼結の際に低温で好適な金属膜を形成する為である。このような分子量の範囲のアルコールを選定する理由として、厚膜を形成する為にインクの粘度を高くする事と、低温焼結性を確保する事の両立が可能だからである。この分子量の範囲のアルコールは、70℃での蒸気圧が0.09mmHg以上となり低温焼結インクの主溶媒として十分な揮発性を示すこと出来るようになる。
【0051】
第2の銀インクの主溶媒として好適なアルコールの具体例としては、ターピネオール(分子量216.32)、ジヒドロターピネオール(分子量156.27)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(分子量216.32、製品名:日香NG-120)等が挙げられる。より好ましくは、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートである。例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートの20℃における蒸気圧は0.01mmHgであり、基準値である40mmHgを大きく下回る。また、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートの70℃における蒸気圧は0.11mmHgの蒸気圧であるので基準値である0.09mmHg以上を満たしている。第2の銀インクの主溶媒は、これらのアルコールの少なくとも一つからなるものが好ましい。
【0052】
第2の銀インクの分散媒は、上記したアルコールを主溶媒として銀インク全体の質量基準で80%以上含有する。この条件を満たす限り、第2の銀インクの分散媒は、上記分子量の範囲外のアルコールを含むことができる。また、上述の蒸気圧特性(20℃における蒸気圧を40mmHg以下、且つ、70℃における蒸気圧を0.09mmHg以上)を具備しない溶媒を含むこともできる。例えば、上記アルコールよりも低分子量のアルコール類としてメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等を含むことができる。更に、第1の銀インクの主溶媒で使用されるアルカンを含むこともできる。例えば、アルカンとして、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンを含むことができる。分子量が150以上250以下のアルコール以外に分散媒を構成する溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、へキサノール、オクタン、デカンが好ましい。尚、第2の銀インクにおいては、分子量が150以上250以下のアルコールからなる主溶媒の含有量を、銀インクの質量基準で90%以上100%以下とすることがより好ましい。
【0053】
(B-3)第2の銀インクの保護剤(アミン化合物)
第2の銀インクにおいて、保護剤は、基本的には質量平均分子量が115以下でとなっていれば、上記したアミン化合物の1種以上を適用できる。より好ましくは、3-メトキシプロピルアミン(分子量89.14)、3-エトキシプロピルアミン(分子量103.17)、n-ヘキシルアミン(分子量101.19)、2,2-ジメチルプロピルアミン(分子量87.17)等の低分子量のアミン化合物が適用される。また、上記した質量平均分子量の制限(115以下)を具備していれば、分子量116以上の比較的高分子量のアミン化合物も使用できる。例えば、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等を使用できる。
【0054】
ここでも、アミン化合物の合計含有量は、当然に銀粒子100重量部に対して1重量部以上14重量部以下である。但し、主溶媒の構成及び好適なアミン化合物の構成を考慮して、第2の銀インクのアミン化合物の合計含有量は、1重量部以上10重量部以下とするのがより好ましい。
【0055】
(B-3)第2の銀インクの添加剤
第2の銀インクに関しては、銀粒子、保護剤、分散媒以外の添加剤が添加されることがある。具体的には、上記した粘度の高い主溶媒、保護剤を使用する金属インクについて、粘度調整及び塗布性(印刷性)を向上するための添加剤である。具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース等のセルロース類が添加される。
【0056】
特に、数平均分子量が40000~90000の高分子量エチルセルロースが好ましい。また、高分子量エチルセルロースと数平均分子量が5000~30000の低分子量エチルセルロースを添加しても良い。
以上のセルロース類の添加量は、銀インク全体に対する質量基準で1.0%以上5.0%以下とするのが好ましい。
【0057】
(VI)本発明に係る銀インクによる金属膜の電気的特性
以上説明した本発明に係る銀インクは、70℃以下の低温焼成が可能な銀インクである。ここで、低温焼成可能とは、70℃で加熱して金属膜ができればよしとする安易な定義を採用しない。低温焼成可能とは、70℃以下の温度で3時間以内に加熱して金属膜が形成可能であり、当該金属膜の体積抵抗が20μΩcm以下とすることができることを意図する。尚、焼成温度の下限値は、特に設定する必要はないが、本発明に係る銀インクは、分散媒及び保護剤を適切にすることで、常温でも焼結可能である。
【0058】
より具体的な指標として、本発明の銀インクはバーコート法又はスクリーン印刷法により、PET基板上に形成したインク塗布膜を70℃で30分以上180分以下焼成したときに形成される導電体の体積抵抗が5μΩcm以上20μΩcm以下となるものが好ましい。
【0059】
(VII)本発明に係る銀インクの製造方法
次に、本発明に係る銀インクの製造方法について説明する。本発明に係る銀インクは、保護剤が結合した銀粒子を上記した分散媒に分散させることで製造することができる。ここで、銀粒子の製造方法としては、銀アミン錯体を前駆体とする銀アミン錯体法を採用するのが好ましい。この銀粒子製造法では、シュウ酸銀等の熱分解性の銀化合物を出発原料とし、これに保護剤となるアミン化合物を反応させて銀アミン錯体を形成する。そして、この銀アミン錯体を前駆体として加熱して銀粒子を得る方法である。かかる銀アミン錯体法は、微細で粒径の揃った銀粒子の製造が可能である。
【0060】
銀粒子の詳細な製造方法について説明すると、まず、出発原料となる銀化合物としては、シュウ酸銀、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、安息香酸銀、シアン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀等が好ましい。これら銀化合物のうち、特に好ましいのは、シュウ酸銀(Ag)又は炭酸銀(AgCO)である。シュウ酸銀や炭酸銀は、還元剤がなくても比較的低温で分解して銀粒子を生成することができる。
【0061】
尚、シュウ酸銀は、乾燥状態において爆発性があることから、水又は有機溶媒(アルコール、アルカン、アルケン、アルキン、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、脂肪酸、芳香族、アミン、アミド、ニトリル等)を混合し、湿潤状態にして取り扱い性が確保されたものを利用するのが好ましい。また、炭酸銀に関しては、シュウ酸銀と異なり爆発の可能性は低いが、予め湿潤状態にすることで、保護剤であるアミン化合物、脂肪酸と混合しやすくなるので、水又は有機溶媒を混合することが好ましい。シュウ酸銀、炭酸銀を湿潤状態にするとき、銀化合物100重量部に対して、5~200重量部の水又は有機溶媒を混合するのが好ましい。
【0062】
銀粒子の前駆体となる銀-アミン錯体は、上記の銀化合物とアミン化合物とを混合・反応させて生成する。このアミン化合物が銀インクにおける保護剤としても作用する。よって、ここで使用するアミン化合物は、上記した質量平均分子量115以下となるように調整されたアミン化合物が適用される。
【0063】
尚、アミン化合物と共に脂肪酸を保護剤とする銀インクでは、アミン化合物を添加してその後に脂肪酸を添加するか、アミン化合物と脂肪酸とを同時に添加することが好ましい。
【0064】
銀化合物とアミン化合物との反応により銀-アミン錯体が生成し、銀粒子製造のための反応系が形成される。その後、この反応系を加熱することで銀粒子は生成する。このときの加熱温度は、生成した銀-アミン錯体の分解温度以上とするのが好ましい。銀-アミン錯体の分解温度は、銀化合物に配位するアミンの種類によって相違するが、本発明で適用されるアミン化合物の銀錯体の場合、具体的な分解温度は、90~130℃となる。
【0065】
この加熱工程を経て、保護剤が結合した銀粒子が析出する。この銀粒子は、反応液を固液分離して回収することができる。銀粒子を回収した後、洗浄を行うことで銀インクの原料となる銀粒子とする。この洗浄工程は、銀粒子に吸着する保護剤の量を調整する作用もある。
【0066】
本発明の水分量が制御された銀インクにおいては、この洗浄工程の内容が比較的重要となる。上記した銀粒子の製造工程では、洗浄液として使用される溶媒や反応雰囲気等により銀粒子に水分が吸着する場合がある。従来の銀インクでは、水分を忌避していたため、洗浄工程は銀粒子から水を除去する機会でもあった。
【0067】
銀粒子の洗浄工程で使用される溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、オクタンが使用される。従来の銀インクの洗浄のためには、これらの溶媒に関しても水分量が低いものが好ましいと考えられていた。かかる溶媒を使用することで、銀粒子の水分を吸収させるためである。
【0068】
一方、本発明の銀インクでは、従来とは逆に水分量を僅かながら添加するようになっている。よって、この制限された水分量の範囲内であれば、洗浄工程で銀粒子から水分を除去する必要はなく、むしろ添加しても良い。
【0069】
例えば、本発明の銀インク製造の際の洗浄工程においては、大気開放された微量の水分を含む溶媒で洗浄を行うことで、銀インク中にある程度の水分を含有させることができる。この溶媒中の水分によって、本発明で規定された水分量に達する場合もある。
【0070】
但し、洗浄工程で意図的に水分を添加することは必須ではない。その後の工程でも水分を添加し調整する機会があるからである。従って、管理保管された水分量の低い溶媒を使用して洗浄工程を実施しても良いし、脱水した溶媒で洗浄しても良い。
【0071】
また、洗浄工程の条件は、従来の銀粒子の洗浄工程と同様とする。具体的には、溶媒量は、銀重量の1~10倍量が好ましい。そして、洗浄回数は1回から5回とするのが好ましい。尚、洗浄操作は、銀粒子と溶媒とを混合し攪拌した後、濾過や遠心分離等で固液分離するのが好ましく、この操作を洗浄回数1回として複数回行うのが好ましい。
【0072】
そして、上記のようにして洗浄された銀粒子を分散媒に分散させることで、本発明係る銀インクを製造することができる。この段階で水分を適宜に添加して水分量を調整することができる。
【発明の効果】
【0073】
本発明に係る銀インクによれば、70℃以下の低温での焼成によっても抵抗値の低い実用的な金属膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】第1実施形態で製造した銀インクの焼成後の体積抵抗を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0075】
第1実施形態:以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、保護剤となるアミン化合物としてヘキシルアミン(分子量101.2)を主体とした銀粒子を、アルコール(ヘキサノール)とアルカン(デカン)との混合溶媒(主溶媒)に分散させた銀インク(第1の銀インクに相当する)を製造した。このとき、銀インク中の水分含有量を調整して複数種の銀インク中を製造し、その低温焼結性を評価した。
【0076】
[銀インクの製造]
本実施形態では、熱分解法により銀粒子を製造し、これを溶媒に分散させ金属インクを製造した。銀粒子の製造では、まず、出発原料であるシュウ酸銀25g(銀:17.75g)にメタノール10gを添加し湿らせた。そして、このシュウ酸銀に、保護剤となるアミン化合物を添加した。具体的には、前記シュウ酸銀に、最初にN,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン(16.82g(164.61mmol))を加えて暫く混練した後、主たる保護剤となるヘキシルアミン(19.02g(187.86mmol))と、ドデシルアミン(2.90g(15.63mmol))を加え、更に補助的保護剤である脂肪酸としてエルカ酸(0.70g(2.08mmol))を加えて混練した。その後110℃で加熱攪拌した。この加熱攪拌中、クリーム色の銀錯体が徐々に褐色になりさらに黒色に変化した。この加熱・攪拌操作は、反応系からの気泡発生が出なくなるまで行った。
【0077】
反応終了後、反応系を放冷し室温にした後、溶媒(洗浄液)としてメタノール(40ml)を加えて十分に攪拌し、遠心分離(2000rpm、60秒)を行った。上澄を除去して固液分離し、再びメタノール(40ml)を添加し撹拌後、遠心分離して上澄を除去した。最後に、もう一度メタノールを添加し同様の洗浄操作を行った。このように、溶媒による洗浄操作を3回数繰り返すことで過剰の保護剤を除去して銀粒子を精製した。
【0078】
そして、製造した銀微粒子に、分散媒(主溶媒)であるデカンとヘキサノールとの混合溶媒(デカン:ヘキサノール=4:3(質量比)、静置法による蒸気圧:15.0mmHg(at20℃)、25.0mmHg(at70℃))を添加して銀インクとした。以上の工程で製造した金属インクは、銀濃度が50質量%である。
【0079】
以上の工程を経て製造した銀インクについて、組成分析を実施して保護剤であるアミン化合物の含有量を測定した。組成分析はGC-MSにて行った。GC-MS分析装置は、GC部分にアジレント・テクノロジー株式会社社製 7890Bを、MS部分に四重極形質量分析計である日本電子株式会社製 JMS-Q1500GCを用いた。イオン化法としては光イオン化を用いた。また、GC試料導入部分にはフロンティア・ラボ株式会社製パイロラーザーを設置し使用した。分析に際しては、金属インクを体積で12.5倍に希釈した後、5μLを分析に供した。その他の測定条件は下記のとおりとした。
【0080】
〈GC条件〉
カラム:UA-530M-0.25F(フロンティア・ラボ社製)
カラム流量:1.0ml/min.He
スプリット比:30
オーブン温度設定:40℃,6min.→昇温(10℃/min.)→360℃,2min.
注入口温度:250℃
〈MS条件〉
Q-pole温度:70℃
イオン源温度:200℃
モード:Scan(m/z=10~350)
光イオン化エネルギー:10.18eV以上
【0081】
更に、この銀インク中の水分含有量をカールフィッシャー滴定法で測定した。銀インクを150℃で焼成し、水分を乾燥・気化させカールフィッシャー水分計(MKC-610 京都電子工業株式会社製)により定量した。これらの分析による銀インクの組成は下記表1のとおりであった。
【0082】
【表1】
【0083】
上記のとおり、この銀インクは、保護剤としてアミン化合物(ヘキシルアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、ドデシルアミン)と脂肪酸(エルカ酸)を含む。アミン化合物全体の質量平均分子量は110.98と算出された。また、銀粒子100重量部にして4.84重量部のアミン化合物を含む。そして、銀インク全体に対する水分含有量は、質量基準で200ppmであった。以下の評価試験において、このベースとなる銀インクをNo.B1と称する。
【0084】
本実施形態では、上記で製造した銀インクに水分を添加し、銀インク全体に対する質量基準の水分含有量が、500ppm、1000ppm、5000ppm、10000ppm、50000ppmとなる銀インクを製造した。水分含有量の調整は、銀インクを少量採取して秤量し、計測されたインクの質量から目標値に不足する水を添加し、攪拌することで実施した。
【0085】
以上の工程を経て製造した銀インク(水分含有量:500ppm(No.A1)、1000ppm(No.A2)、5000ppm(No.A3)、10000ppm(No.A4)、50000ppm(No.A5))について、低温焼結の可否を検討した。低温焼結性の評価試験は、PET基板に全自動フィルムアプリケーター(TQC製)を用いて塗布して行った。インクを75μLフィルム上に垂らし、ギャップを50μmに設定したアプリケーターにより、10mm/secの速度で掃引し印刷し、寸法100×150mmの銀インク膜を作製した。これを空気中70℃で焼成して金属膜を形成した。この銀インクの塗布・焼成条件のもと、5分間、10分間、30分間、60分間、120分間、180分間焼成して製造した金属膜の電気抵抗の値を測定した。体積抵抗(μΩm)は抵抗率計(ロレスタ-GP MCP-T610 三菱ケミカルアナリティック社製)を用いて測定した。また、得られたフィルムの断面をSEM観察し膜厚を計測した。得られた電気抵抗値と膜厚から体積抵抗値を算出した。
【0086】
上記評価試験の結果を図1に示す。いずれの銀インクにおいても、焼成時間の増大に伴い体積抵抗値が低下する傾向がある。焼成時間の経過と共に銀粒子の焼結が進行し、金属膜の緻密化と導電性向上が生じているからである。但し、低温焼結の指標として「体積抵抗値20μΩcm以下」の条件を加味したとき、銀インク中の水分含有量が低い(200ppm、水分添加なし)の銀インク(No.B1)では、基準をクリアできないことが確認された。そして、銀インク中の水分含有量を調整し500ppm以上とした銀インク(No.A1~No.A5)による金属膜は、体積抵抗値20μΩcm以下となっている。即ち、これらの水分含有量を調整した銀インクは、低温焼結性に優れることが確認された。
【0087】
第2実施形態:本実施形態では、分散媒の構成、保護剤(アミン化合物)の種類、銀粒子含有量等を変更した複数種の銀インクを製造した。
【0088】
具体的には、本願発明の第2の銀インクに相当する、主溶媒として2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(日香NG-120、静置法による蒸気圧:0.01mmHg(at20℃)、0.18mmHg(at70℃))を適用し、銀含有量を70質量%とする銀インクを製造した(No.A6)。この銀インクは、メトキシプロピルアミンを保護剤として製造された銀粒子を適用していた。銀粒子の製造方法は、基本的に第1実施形態の方法と同様である。この銀インクの組成分析(GC-MS、カールフィッシャー滴定法)の結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
この銀インクは、保護剤としてアミン化合物であるメトキシプロピルアミンのみを含み、アミン化合物全体の平均分子量は89.14である。また、銀粒子100重量部にして1.43重量部のアミン化合物を含む。尚、この銀インクも製造後の水分含有量は、質量基準で400ppmと下限値(500ppm)に満たないので、評価試験前に水分を添加して700ppmに調整した。
【0091】
上記の銀インクの他、保護剤となるアミン化合物を第1実施形態同様にヘキシルアミンとしつつ、主溶媒としてブタノールとオクタンとの混合溶媒(ブタノール:オクタン=3:7(重量比)、静置法による蒸気圧:8.0mmHg(at20℃)、121.0mmHg(at70℃))する銀インクを製造した(No.A7)。更に、比較例としてオクチルアミン(分子量129.24)を使用しアミン化合物の質量平均分子量が115を超えるものを適用した銀インク(No.B4)と、水分含有量等の各構成において本発明の設定範囲外となる銀インク(No.B5)を複数製造した。
【0092】
そして、各種銀インクについて、低温焼結性の評価試験を行った。本実施形態では、No.A6以外の銀インクについては、第1実施形態と同様の塗布方法及び焼成条件で金属膜を製造し、測定された体積抵抗値の中で最も低い値を記録した。
【0093】
また、No.A6の銀インクは、粘度が高く(100000mPa・S)アプリケーターによる均一な塗布が困難であったので、スクリーン印刷機(ニューロング精密工業株式会社製LS-150)による塗布を行った。塗布条件として、クリアランス1.5mm、印刷速度100mm/secとして、40×40mmの銀インク膜を作製した。これを同様に空気中70℃で焼成しての金属膜を形成した。体積抵抗の測定方法は、第1実施形態と同様の方法で行った。
【0094】
本実施形態における検討結果を表3に示す。尚、表3には、第1実施形態の銀インク(No.A1~No.A5、No.B1)の結果も併せて示している。
【0095】
【表3】
【0096】
本実施形態における検討結果から、保護剤であるアミン化合物について、その含有量と質量平均分子量の双方を規定することの必要性が確認できる。即ち、アミン化合物の含有量に関してみると、銀粒子100重量部に対するアミン含有量が14を超える銀インク(No.B2、B3)は、焼成後の金属膜の体積抵抗値が20μΩcmを超えることとなり、低温焼結性を有するとはいえない。また、保護剤でアミン化合物の質量平均分子量に関しても、その値が115を超える場合(No.B4)、体積抵抗値が20μΩcmを超えることになり、これも適切な銀インクとはならないことが分かる。
【0097】
水分量に関しては、過剰の水分を添加する銀インクに関しては、水分添加後に沈殿が生じ、銀インクとしての評価ができなかった(No.B5)。また、保護剤であるアミン化合物が少なすぎたときも沈殿が生じた(No.B6)。保護剤は、銀粒子の凝集を抑制し分散性を確保するための添加剤であり、その量が過小であると銀インクとして機能しない。
【0098】
上記の比較例に対して、本実施形態で追加的に検討したNo.A6~A8の銀インクは、良好な低温焼結性を示すことが確認された。これらの銀インクは、アミン化合物及び水分含有量に関し、適切な範囲に設定されているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本発明に係る銀インクは、保護剤となるアミン化合物に関する構成を最適化すると共に、従来は含有されるべきではないと考えられていた水分を僅かに含有させている。これらにより本発明に係る銀インクは低温焼結性を有し、70℃以下の焼成温度でも抵抗値が低い好適な導電膜を形成することができる。本発明は、各種電子デバイスの回路基板や、タッチパネル等の透明基板等の電極・配線・金属膜の形成に有用である。
図1