IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許-樹脂接合体及びその接合方法 図1
  • 特許-樹脂接合体及びその接合方法 図2
  • 特許-樹脂接合体及びその接合方法 図3
  • 特許-樹脂接合体及びその接合方法 図4
  • 特許-樹脂接合体及びその接合方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】樹脂接合体及びその接合方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/02 20060101AFI20230728BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20230728BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20230728BHJP
   B32B 27/08 20060101ALI20230728BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
B29C65/02 ZNM
B29C59/02 Z
B32B3/30
B32B27/08
B29L9:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019019656
(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公開番号】P2020124884
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-11-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「In-vitro安全性試験・薬物動態試験の高度化を実現するorgan/multi-organs-on-a-chipの開発とその製造技術基盤の確立」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一真
(72)【発明者】
【氏名】穂苅 遼平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 琢
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 慎治
(72)【発明者】
【氏名】金森 敏幸
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-315313(JP,A)
【文献】特開2017-052127(JP,A)
【文献】特開平08-216260(JP,A)
【文献】特開2016-175389(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141381(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体を製造する方法であって、
(a)高分子熱可塑性樹脂材料1からなり、以下の(b)、(c)工程により高分子熱可塑性樹脂材料2からなる樹脂部品2と接合させる面にナノ数値範囲のナノ凹部を複数有し、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さない、k個の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とを準備する準備工程、
(b)前記樹脂部品1と前記樹脂部品2とが交互に積層された状態となるように両者の接合面をほぼ当接させる当接工程、及び、
(c)前記樹脂部品1と前記樹脂部品2の接合面を前記樹脂部品2のガラス転移温度及び/又は軟化温度以上であって、前記樹脂部品1のガラス転移温度及び/又は軟化温度未満の温度に加熱しながら、前記樹脂部品1と前記樹脂部品2とを接触圧が生じるように加圧する加熱・加圧工程を含み、
前記加熱・加圧工程では、前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記熱可塑性樹脂材料2で充填される、樹脂接合体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂材料1と前記熱可塑性樹脂材料2に含まれる高分子は、それらの繰り返し単位の50モル%以上が共通するものである、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記高分子は、それらの繰り返し単位の60~100モル%が共通するものである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記高分子熱可塑性樹脂材料1及び/又は2は、ポリスチレン系樹脂、又はシクロオレフィン系樹脂から選択されるものである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記樹脂部品1の前記接合面は、径100~2000nm、深さ200~2000nmのナノ凹部を、1μmあたり平均20~50個有し、高さ30nm以上に突出する突起を有さない、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記樹脂部品1の内部に、ミクロン数値以上の中空構造物を有し、前記(c)工程後の樹脂接合体においても当該構造物が維持される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記樹脂部品1の前記樹脂部品2との接合面に、ミクロン数値以上の凹構造を有し、前記(c)工程後の樹脂接合体において中空構造物が作製される、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の樹脂部品を接合することにより、流路チップ、光導波素子、光学素子など、樹脂内部に中空構造が存在するものを含む各種の樹脂接合体を製造する方法、及びその結果物としての樹脂接合体に係る。特に、異種樹脂材料を含む接着剤を用いることなく、熱可塑性樹脂を含む複数の樹脂部品を接合し、比較的強度の高い樹脂接合体を作製するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の熱可塑性樹脂部品を相互に接合する技術としては、従来から、接着剤や接着テープを用い接着する方法や、加熱具や超音波手段、プラズマ処理等を用いて、樹脂部品の少なくとも接合面の樹脂を溶融させ、接合する方法が採用されている(特許文献1)。
【0003】
こられの接合方法は、樹脂部品の接合面を相互に接合して、流路チップなどのような中空構造を有する成形品や、射出成形などでは1回で成形できないような複雑な成形品を作製するために用いられている(特許文献2)。
これら接合体の作製では、高精度の接合と接合強度の確保とが重要である。高精度の接合とするためには、接合工程時に樹脂部品や樹脂接合体の変形等を少なくする事などが求められる。
【0004】
また、近年、接合される樹脂部品相互間に、両表面に凹凸部や凹部を備えた金属薄板を介在させた、複数の前記樹脂部品から構成される樹脂接合体を形成し、アンカー効果によって異種材料を接合する技術などが開発され特許出願もなされている(特許文献3)。凹凸部や凹部によるアンカー効果を用いる事によって金属と樹脂部品の接合強度向上などが検討されており、表面を陽極酸化させて多数のナノホールを形成したアルミニウムシートや、レーザー加工で表面に凹凸部や凹部を形成した金属シートの接合面に、樹脂を流し接合を行う方法などが報告されている(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-172789号公報
【文献】特開2009-095800号公報
【文献】特開2007-008077号公報
【文献】特開2010-167475号公報
【文献】特開2017-052127号公報
【文献】特許5317141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接着剤や接着テープを用いて接合する方法では、接着剤や接着テープとして、接合する樹脂部品とは異種の樹脂材料を用いる必要があり、単一樹脂からなる接合体を作成することが出来ない。さらにまた、液体接着剤を用いた場合には、接合界面部分に中空部が形成された樹脂部品を接合する際には、当該中空部内部へも樹脂が回ることで、中空部の形状を高精度に保った、一体構造の樹脂接合体を作製することが出来ない。
【0007】
また、熱溶着や超音波接合は、同一の樹脂材料からなる樹脂部品の接合に適した手法である。
しかしながら、熱溶着法は、複数の樹脂部品が、厚みが違っていたり、複雑な構造体である場合には、樹脂部品の少なくとも一部が溶融変形し、精密な形状精度を保って接合する事が出来ないという問題がある。
また、超音波接合法は、超音波照射により生じる接合用界面の摩擦熱により、樹脂界面を発熱溶融させ熱溶着する手法である。このような超音波を用いた熱溶着法では、複雑な樹脂部品の場合にも樹脂部品の変形なく接合できる利点がある一方、超音波の共鳴などにより面内均一に接合する事が出来ない。そのため、超音波接合法の場合には、特に流路構造のように、接合界面部分に微細な、精密な中空構造体が形成される樹脂接合体の接合に使用した場合には、当該中空構造体の端部近傍の接合が不十分となることが有り得、このような場合、接合体を精密に接合する事が困難である。
【0008】
また、上述の、接合界面に凹凸部や凹部を形成し、アンカー効果によって異種材料を接合する技術においては、陽極酸化は金属材料に限定され、樹脂部品の接合界面に凹凸部や凹部を施すことは出来ないとされている。また、一方の樹脂部品の接合界面に凹凸部や凹部を施すためにレーザー加工を用いた場合には、金属に比べ低コスト生産が求められる樹脂部品に対し製造工数が多くなり、適正な価格に見合わない問題がある。
【0009】
これにつき、本発明者らが先に開発したナノ構造体用成形型(特許文献6)を用いれば、ナノ構造の微細な凹凸面を樹脂部品表面に形成することができる。しかしながら、本発明者らが得た知見によれば、接合界面に凹凸部や凹部を有する樹脂部品を用い、これまで公知となった技術情報のみを利用し、樹脂部品と樹脂部品との接合を行った場合には、熱溶着の時に、凹凸部や凹部の変形が起こり、結果として適正な接合強度が得られなかったり、樹脂接合体の変形が大きく、最終製品である樹脂接合体に求められる機能に対応した形状が得られない。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術における問題点の解決を目指し、複数の樹脂部品を熱溶着により接合し、樹脂接合体を製造する方法において、精密な形状精度を保って樹脂部品を接合させることができ、これにより、単一の樹脂のみからなる樹脂接合体を形成させることもでき、また、樹脂接合体内部に例えば微細な中空構造などを精密に形成させることもできる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を続けた結果、次の(A)~(F)の知見を得た。
(A)同一の高分子を含む熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂部品を熱溶着により接合する場合、複数の樹脂部品として、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が互いに異なる樹脂部品を用いると、樹脂部品同士の接合は、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料の温度から開始され、接合開始温度を低くできる。また、ガラス転移温度及び/又は軟化温度の高い方の樹脂部品は、接合時に変形しない。
(B)同一の高分子を含み、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が互いに異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂部品を熱溶着により接合する際に、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が高い方の樹脂部品の表面にナノ数値範囲の大きさをもつ凹凸構造を形成し、接合すると、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂部品の樹脂材料のみ溶融変形され、ガラス転移温度及び/又は軟化温度の高い方の樹脂部品は、接合時に変形せず凹凸構造が残るので、結果として、当該溶融変形されたガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料が、当該凹凸構造体内に充填されることで、単一樹脂同士でアンカー効果と溶融拡散による樹脂の接合作用が発生し、強固に接合できる。また、接合は、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料の温度から開始されるため、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が高い樹脂部品は変形されず、これにより、接合により形成される樹脂接合体の変形を抑えることが出来る。
(C)上記(B)の接合は、上記複数の樹脂部品のガラス転移温度及び/又は軟化温度の温度差が5℃以上あれば、実現出来る。この場合の最良のガラス転移温度及び/又は軟化温度の温度差は、10℃~25℃である。
(D)上記(B)の接合において、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が高い樹脂部品の他の樹脂部品との接合界面に凹構造を形成し、接合した場合、接合界面は全体として平坦な平面であり、その中にホール状の凹構造体が散在することとなるため、接合時には、当該平坦な平面が他の樹脂部品と最初に接触し、接合界面全体に均一に圧力がかかるので、構造体にかかる圧力が緩和され、構造体の破壊を防ぐ事ができる。一方、平坦な平面に凸構造体が散在する場合には、接合時に、凸構造体の先端が他の樹脂部品と最初に接触するため、凸構造体の先端に大きな圧力がかかり、凸構造の先端が破壊されるため、アンカー効果による接合力は弱い。
(E)上記(B)の接合においては、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料が変形溶融され、当該樹脂材料と同一の高分子を含む樹脂材料により構成される凹凸構造体内に充填されるので、界面反射が極めて少ない、透明な樹脂接合体が実現出来る。
(F)上記(A)~(E)の知見は、同一の高分子を含み、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が互いに異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂部品を熱溶着させる実験を行うことにより得られたものであるが、同一の高分子を含むものではなくても、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が互いに異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂部品であれば、樹脂部品同士の接合を、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料の温度から開始することにより、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂部品の樹脂材料のみ溶融変形され、ガラス転移温度及び/又は軟化温度の高い方の樹脂部品は、接合時に変形せず凹凸構造が残り、結果として、当該溶融変形されたガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料が、当該凹凸構造体内に充填されることで、少なくとも樹脂同士でアンカー効果による樹脂の接合作用が発生し、強固に接合できること、また、接合は、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料の温度から開始されるため、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が高い樹脂部品は変形されず、これにより、接合により形成される樹脂接合体の変形を抑えることが出来ることが合理的に予測できる。
【0012】
本発明は、本発明者らによる、上述の知見に基づくものであり、本出願は、具体的には、以下の発明を提供するものである。
<1>高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体であって、前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、また、前記樹脂接合体において、前記ナノ凹部の少なくとも一部は、その凹部体積の90体積%以上が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている、樹脂接合体。
<2>前記高分子熱可塑性樹脂材料1と前記高分子熱可塑性樹脂材料2に含まれる高分子は、それらの繰り返し単位の50モル%以上が共通するものである、<1>に記載の樹脂接合体。
<3>前記高分子は、それらの繰り返し単位の60~100モル%が共通するものである、<2>に記載の樹脂接合体。
<4>前記高分子熱可塑性樹脂材料1及び/又は2は、ポリスチレン系樹脂、又はシクロオレフィン系樹脂から選択されるものである、<1>に記載の樹脂接合体。
<5>前記樹脂部品1の前記接合面は、径100~2000nm、深さ200~2000nmのナノ凹部を、1μm2あたり平均20~50個有し、高さ30nm以上に突出する突起を有さない、<1>に記載の樹脂接合体。
<6>前記樹脂部品1の内部、もしくはその前記樹脂部品2との接合面に、ミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物を有する、<1>に記載の樹脂接合体。
<7>高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体を製造する方法であって、
(a)高分子熱可塑性樹脂材料1からなり、以下の(b)、(c)工程により高分子熱可塑性樹脂材料2からなる樹脂部品2と接合させる面にナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さない、k個の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とを準備する準備工程、
(b)前記樹脂部品1と前記樹脂部品2とが交互に積層された状態となるように両者の接合面をほぼ当接させる当接工程、及び、
(c)前記樹脂部品1と前記樹脂部品2の接合面を前記樹脂部品2のガラス転移温度及び/又は軟化温度以上であって、前記樹脂部品1のガラス転移温度及び/又は軟化温度未満の温度に加熱しながら、前記樹脂部品1と前記樹脂部品2とを接触圧が生じるように加圧する加熱・加圧工程
を含み、
前記加熱・加圧工程では、前記ナノ凹部の少なくとも一部は、その凹部体積の90体積%以上が前記熱可塑性樹脂材料2で充填される、樹脂接合体の製造方法。
<8>前記熱可塑性樹脂材料1と前記熱可塑性樹脂材料2に含まれる高分子は、それらの繰り返し単位の50モル%以上が共通するものである、<7>に記載の方法。
<9>前記高分子は、それらの繰り返し単位の60~100モル%が共通するものである、<8>に記載の方法。
<10>前記高分子熱可塑性樹脂材料1及び/又は2は、ポリスチレン系樹脂、又はシクロオレフィン系樹脂から選択されるものである、<7>に記載の方法。
<11>前記樹脂部品1の前記接合面は、径100~2000nm、深さ200~2000nmのナノ凹部を、1μm2あたり平均20~50個有し、高さ30nm以上に突出する突起を有さない、<7>に記載の方法。
<12>前記樹脂部品1の内部、もしくはその前記樹脂部品2との接合面に、ミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物を有し、前記(c)工程後の樹脂接合体においても当該構造物が維持される、<7>に記載の方法。
【0013】
本発明は、さらに、次のような実施態様を含むことができる。
<13>前記nは2以上10以下の自然数である、<7>に記載の方法。
<14>前記加熱・加圧工程において、前記ナノ凹部の少なくとも50数量%以上が、その凹部体積合計の90体積%以上となるように前記熱可塑性樹脂材料2で充填される、<7>~<13>のいずれか1項に記載の樹脂接合体の製造方法。
<15>前記加熱・加圧工程において、前記ナノ凹部の少なくとも80%体積以上が、その凹部体積合計の90体積%以上となるように前記熱可塑性樹脂材料2で充填される、<14>に記載の樹脂接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が互いに相違する複数の高分子熱可塑性樹脂材料からなる樹脂部品を積層し、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂部品のガラス転移温度及び/又は軟化温度より高く、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が高い樹脂部品のガラス転移温度及び/又は軟化温度より低い温度で熱溶着させることで、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が高い樹脂部品に設けたナノ凹部に、当該温度が低い樹脂部品が溶融変形し、充填されることにより、樹脂部品同士の精密かつ強固な接合を実現することができる。
本発明によれば、一方の樹脂部品のみが溶融変形する温度で熱接合をすることができるため、従来熱溶着では接合する事の出来なかった、厚みが異なる樹脂部品同士の接合が実現できる。
また、本発明によれば、熱接合による熱変形が抑えられるため、接合前の樹脂部品がミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物(たとえば流路)などを有する場合、熱接合に際し、当該流路構造などの変形が抑えられ、精密に接合する事ができ、接合後の樹脂接合体においても、当該流路構造などを保持することができる。
また、本発明の製造方法に用いられる、表面にナノ数値範囲の大きさをもつ凹凸が形成された樹脂部品は、射出成形などの成形工程のみで作製する事ができ、さらに、本発明の製造方法によれば、表面にナノ数値範囲の大きさをもつ凹凸が形成された樹脂部品と当該樹脂部品よりもガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂部品とを組み合わせるだけで、従来の熱溶着法と大きな工程変化なく作製できるため、低コストでかつ、量産性にすぐれ、かつ機能性が向上した樹脂接合体を提供することができる。
また、本発明は、接着剤や金属製のアンカー等を介在させることなく、樹脂部品同士を直接接合させることができるので、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が互いに相違する複数の高分子熱可塑性樹脂材料として、同様の光学特性を有する樹脂材料、例えば同一の高分子を含むものなど、を用いることにより、凹凸構造内に同じ光学特性を有する樹脂が完全充填される事によって、光学的に透明な一体構造を有する樹脂接合体を作製する事ができる。
さらには、同一樹脂の接合が実現されることによって、防水性や気密性の高い一体成形品を作製できる。
これにより、医療・バイオ・創薬のみならず光通信やレンズなどの光学部材産業などに、一体接合した成形物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】接合面にナノ数値範囲のナノ凹部を複数有する樹脂部品1と、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が該樹脂部品1よりも5℃以上低く、接合面が平坦な樹脂部品2とを用い、両者の接合面を当接、熱溶着し、樹脂部品1の前記ナノ凹部の90体積%以上を樹脂部品2の樹脂で充填して、樹脂接合体を製造する工程を示す模式図。
図2】接合面に複数のナノ数値範囲のナノ凹部とミクロン数値以上の大凹部を有する樹脂部品1と、該樹脂部品1と異なる高分子、または同一の高分子を含み、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低く、接合面が平坦な樹脂部品2とを用い、両接合面を当接、熱溶着し、樹脂部品1の前記ナノ凹部の90体積%以上を樹脂部品2の樹脂で充填して、樹脂部品1の前記大凹部に由来する中空構造を有する樹脂接合体を製造する工程を示す模式図。
図3】(a)パターン1:ガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上異なる2種類の樹脂部品1及び2を熱溶着して、樹脂接合体を製造する工程を示す模式図。(b)パターン2:接合面にナノ数値範囲のナノ凹部を複数有する複数の樹脂部品1と、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が該樹脂部品1よりも5℃以上低く、接合面が平坦な樹脂部品2とを用い、複数の樹脂部品1間に樹脂部品2を介在させ、両接合面を当接、熱溶着し、複数の樹脂部品1の前記ナノ凹部の90体積%以上を樹脂部品2の樹脂で充填して、複数の樹脂部品1を接合し、樹脂接合体を製造する工程を示す模式図。(c)パターン3:接合面にナノ数値範囲のナノ凹部を複数有する複数の樹脂部品1と、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が該樹脂部品1よりも5℃以上低く、接合面が平坦な2以上の樹脂部品2とを用い、複数の樹脂部品1間に該2以上の樹脂部品2を相互に間隔を置いて介在させ、両接合面を当接、熱溶着し、複数の樹脂部品1の前記複数のナノ凹部の少なくとも1個以上のナノ凹部の90体積%以上を樹脂部品2の樹脂で充填して、複数の樹脂部品1を接合し、その内部に一部のナノ凹部が残存する樹脂接合体を製造する工程を示す模式図。
図4】軟化温度が138℃であるCOP樹脂690Rからなる樹脂部品とガラス転移温度が110℃であるCOP樹脂1020Rからなる樹脂部品を熱溶着させる際に、COP690Rからなる樹脂部品の接合面にナノ凹部を有することが、各接合温度における樹脂部品同士の接合強度に与える影響を示すグラフ(COP690Rからなる樹脂部品の接合面にナノ凹部を有さない場合との対比)。
図5】軟化温度が120℃であるPS樹脂TF4000からなる2つの樹脂部品間にガラス転移温度がおよそ90℃であるPSフィルムからなる樹脂部品を介在させて熱溶着させる際に、PS樹脂TF4000からなる樹脂部品の接合面にナノ凹部を有することが、各接合温度における樹脂部品同士の接合強度に与える影響を示すグラフ(PS樹脂TF4000からなる樹脂部品の接合面にナノ凹部を有さない場合との対比)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の樹脂接合体及びその製造方法について、実施形態と実施例に基づいて説明する。重複説明は適宜省略する。なお、ふたつの数値の間に「~」を記載して数値範囲を表す場合には、これらのふたつの数値も数値範囲に含まれるものとする。
【0017】
本発明は、複数の樹脂部品を熱溶着により接合し、樹脂接合体を製造する方法において、精密な形状精度を保って樹脂部品を接合させることができ、これにより、単一の樹脂のみからなる樹脂接合体を形成させることもでき、また、樹脂接合体内部に例えば微細な中空構造などを精密に形成させることもできる方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明では、ガラス転移温度や軟化温度が異なった、2種類以上の樹脂材料を準備し、これらの樹脂材料を用いて、射出成形、プレス成形やインプリント成形などにより、2つ以上のガラス転移温度及び/又は軟化温度が異なる成形品(樹脂部品)を成形する。
ここで、接合する一方の成形品(樹脂部品)は、図1のa)で示すように、表面にナノレベルの凸構造が形成された金型を用いて成形を行う事で、成形工程だけで樹脂部品の接合部界面にナノレベルの凹構造を形成させる。ここで、当該凹構造は、上記2種類以上の樹脂部品のうち、ガラス転移温度及び/又は軟化温度の高い方の樹脂材料を用いて成形される樹脂部品に形成させる。一方、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い方の樹脂部品には、接合界面に凹凸構造を形成させない。
次に、図1のd)に示すように、このようにして得られたガラス転移温度及び/又は軟化温度の異なる樹脂部品の接合部を合わせて、熱溶着を行う。
この時、熱溶着の加熱温度を、凹構造が形成された樹脂部品に使用される樹脂材料のガラス転移温度及び/又は軟化温度未満で、かつ、凹凸構造が形成されていない樹脂部品に使用される樹脂材料のガラス転移温度及び/又は軟化温度以上の温度とすることで、凹構造が形成された樹脂部品の熱変形が低減され、一方、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料で成形された樹脂部品の接合界面が溶融し、図1のe)に示すように、当該凹構造内に溶融した樹脂を充填させることで、アンカー効果によって両樹脂部品を熱溶着させることができる。この際、両樹脂部品を、接触圧が生じるように、例えば樹脂部品の大きさが40mm×120mmのときは、0.1Mpa~0.4Mpa程度以上、加圧することが望ましい。
このように、本発明では、樹脂材料によるガラス転移温度や軟化温度の違いを利用し、熱溶融の際の温度を適切に制御することで、熱変形を発生させる樹脂部品と、発生させない樹脂部品の制御を行い、熱変形を発生させる樹脂部品の熱溶融によって、熱変形を発生させない樹脂部品のナノ凹凸構造内に熱変形を発生させる樹脂材料を充填させることで、アンカー効果によって樹脂部品同士を接合させるものである。
【0018】
上記熱溶着を行う方式は、上記樹脂材料のガラス転移温度及び/又は軟化温度の違いに対応する適切な温度で溶着を行えるように、溶着される箇所に精密に熱を与える事ができる方式であれば良く、特に限定されるものではないが、一般的には、熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着などを用いる事で実現できる。
レーザー溶着を用いた場合には、樹脂材料の軟化温度の違いだけでなく、レーザー光の発振波長に対する樹脂材料の吸収率の違いによる発熱差を利用し、同様に、凹構造内に樹脂を充填させ、アンカー効果によって熱溶着を行うことができる。
【0019】
本発明に効果的なナノ凹構造の大きさは、2μm~100nm程度の直径を有し、アスペクト比は0.5以上の構造体が望ましく、成形性や密着性を考慮すると、凹構造の大きさは、2μm~100nm程度の直径を有し、2μm~200nm程度の深さを有する、アスペクト比は1以上2以下であることが最良である。本発明においては、このような凹構造を、接合面1μm2あたり平均20~50個有することが望ましい。
また、当該ナノ凹構造は、その分布がガウシャン分布などの正規分布を持つ、さまざまな大きさの構造体からなることで、アンカー効果による密着性を発揮させる上で、より強固な密着が可能である。具体的には、凹構造の直径が均一な場合には、ある一定の深さまで樹脂が充填されないと十分な密着力が発揮できないが、凹構造の構造体の大きさがガウシャン分布を持つことによって、樹脂充填深さが、構造体に対して構造体の高さアスペクト比0.2~0.5程度の不十分な領域の場合には、小さい構造体や構造体の間隔が短い領域がもっとも強固なアンカー効果を発揮させる事ができる。一方で、樹脂充填深さが、構造体に対して構造体の高さアスペクト比1~2程度の樹脂が十分充填された状態の場合には、凹凸構造の構造体の直径や間隔が大きい領域で最も効果的なアンカー効果を得られる。これによって、成形品を強固に接着することが可能になる。
【0020】
本発明は、樹脂材料によるガラス転移温度や軟化温度の違いを利用し、熱変形を発生させる樹脂部品と、発生させない樹脂部品を制御する熱溶着であるため、熱変形を発生させない樹脂部品に流路などの空洞がある場合には、その流路が熱溶着の時に、熱変形せず接合できるため、図2に示すように中空構造を保った樹脂接合体が作製できる。図2に示すように、上記中空構造が、熱変形を発生させない樹脂部品の接合面に設けた大きい凹構造に由来するものである場合は、当該凹構造は、同じ接合面に設けたナノ凹構造よりも十分大きい、ミクロン数値以上の大きさのものである必要がある。
また、中空構造を持たない樹脂部品を同様に処理した場合には、中空構造の無い一体成形品の樹脂接合体を作製することができる。
【0021】
本発明において、樹脂材料によるガラス転移温度及び/又は軟化温度の違いは、ガラス転移温度、軟化温度の少なくとも一方以上が5℃以上であれば良く、10℃以上であれば、より好ましい。
本発明を実現するために用いる熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではなく、具体的には、ポリスチレン(PS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、中密度ポリエチレン(MDPE)、高線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの樹脂を利用できる。また、熱可塑性樹脂に、CFRPフィラー、ガラスフィラーなどのフィラーや、セルロースナノファイバー、金属やセラミックなどの無機材料やその合成材料でできた添加粉や粒子を含んだ樹脂でも利用できる。
【0022】
本発明の目的の一つは、流路チップや、光通信用の光導波素子やカップラー、レンズや偏光板、フィルターなどの光学素子等、樹脂内部に中空構造が存在し、透明性を有する、単一樹脂の熱可塑性樹脂接合成形品を提供する事である。
ここで、単一の熱可塑性樹脂とは、同一素材や同一樹脂の熱可塑性樹脂の事を指し、同一素材や同一樹脂の区分は、JIS K 6899-12000(ISO 1043-11997)などのJIS規格で定められている樹脂記号での区分に準ずる。
上記課題を解決するために、本発明では、同一高分子を含み、ガラス転移温度や軟化温度が異なった、2種類以上の樹脂材料を準備し、これらの樹脂材料を用いて、上述のとおり、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が異なる2種類以上の樹脂部品を作成し、これらの樹脂部品を上述のとおり熱溶着させて、樹脂接合体を作製する。
樹脂材料のガラス転移温度や軟化温度は、樹脂材料に含まれる高分子の種類や、添加物の種類、配合量などにより変化する。同一の高分子を含む樹脂材料であっても、樹脂材料のグレードにより添加剤の配合が違うため、グレードの異なるそれぞれの樹脂材料は、それぞれ異なった熱物性を持っており、ガラス転移温度や軟化温度は異なる。
本発明において、樹脂材料として、同一の高分子を含む複数の樹脂材料を用いる場合には、これらの樹脂材料のSP(Solubility Parameter)値が極めて近く、接合界面の分子の拡散による絡み合いが発現するため、異種の高分子を含む樹脂材料を用いた場合に比べ、溶着部の強度を高くできる利点がある。
同一素材の樹脂材料を接合することにより、接合界面の反射や散乱が押さえられるため、透明な樹脂接合体が実現でき、光学部材等に用いることができる。さらには、同一樹脂の接合が実現されることによって、防水性や気密性の高い一体成形品が作製できる。
【0023】
図3に、本発明の樹脂接合体の具体的パターンをいくつか示す。パターン1では、樹脂部品1と樹脂部品2とが接合されている。パターン2では、2枚の樹脂部品1の間に樹脂部品2が挟まれ、樹脂部品2を介して、2枚の樹脂部品1が接合されている。さらに、パターン3では、挟み込む樹脂部品2に模様等がカッティングされており、これにより、2枚の樹脂部品の間に接合部と非接合部(空洞部)を形成する事ができる。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0025】
以下の実施例1及び2において、樹脂接合体の接合強度等の評価を行った、本発明による樹脂接合体評価サンプルに用いた樹脂材料の詳細は以下のとおりである。
(1)ポリスチレン樹脂材料
約300 nmを中心にガウシャン分布の平均直径を持ち、高さ350nmの円錐形の構造を持つ駒金型を用いて、射出成形法で35mmx35mmの試験片を成形した。試験片表面には駒金型の表面構造の逆パターンが形成されており、ガウシャン分布を持つ円錐穴が形成されている。試験片は、耐熱ポリスチレン樹脂(東洋スチレン製 グレード TF4000)を用いて作製した。使用したポリスチレン樹脂の軟化温度は120℃である。また、軟化温度の低い、変形用のポリスチレン樹脂として、PSジャパン株式会社製 グレード 679を用いた。ガラス転移温度は、96℃である。また、フィルムを用いた場合には、変形用のポリスチレンフィルムとして、大石産業株式会社 スチロファン グレード:SPHを用いた。ガラス転移温度は、およそ90℃である。また、他の変形用のフィルムとして、旭化成株式会社のOSPフィルムを用いた。ガラス転移温度は、およそ100℃である。
【0026】
(2)シクロオレフィン樹脂材料
一方、シクロオレフィンポリマー樹脂(COP)の場合には、ポリスチレン樹脂と同様に、約300 nmを中心にガウシャン分布の平均直径を持ち、高さ350nmの円錐形の構造を持つ駒金型を用いて、射出成形法で35mmx35mmの試験片を成形した。試験片表面には駒金型の表面構造の逆パターンが形成されており、ガウシャン分布を持つ円錐穴が形成されている。試験片は、シクロオレフィンポリマー樹脂(日本ゼオン製 グレード 690R)を用いて作製した。使用したシクロオレフィンポリマー樹脂の軟化温度は138℃である。また、軟化温度の低い、変形用のシクロオレフィンポリマー樹脂として、日本ゼオン製 グレード 1020Rを用いた。ガラス転移温度は、110℃である。
【0027】
<実施例1> サンプル形態1(接合面にナノ凹部を有する樹脂部品1と接合面が平面である樹脂部品2との接合)の接合強度試験
耐熱性樹脂成形品として、シクロオレフィンポリマー樹脂(日本ゼオン製 グレード 690R シクロオレフィンの炭素数3~20)を用いて、表面にナノ凹凸構造が形成された成形品を用いた。また、表面変形用樹脂成形品として、シクロオレフィンポリマー樹脂として、日本ゼオン製 グレード 1020Rを用いて、表面が光学平面である成形品を用いた。これら2種の成形品を熱溶着で接合した。この時の熱溶着の温度は、表面変形用樹脂成形品の軟化温度から、耐熱性樹脂成形品の軟化温度の範囲の温度で行った。具体的には、110℃~138℃の間の熱溶着の温度で接合を行った。また、熱溶着後の接合力評価は、凹構造に対して、垂直方向と水平方向の接合強度について行った。接合力評価装置は、引張・厚縮万能材料試験機「テンシロンシリーズ」を用いた。構造体に対して水平方向の評価の時の接合面積は44mmx20mmであり、構造体に対して垂直方向の接合評価の時の接合面積は20mm×20mmで行った。また、熱溶着温度による成形品の変形の評価は成形品のエッジの変形に基づき行った。
【0028】
比較例として、耐熱性樹脂成形品として、2種成形品ともシクロオレフィンポリマー樹脂 日本ゼオン製 グレード 690Rを用い、表面が光学平面である成形品を用いて熱溶着を行った。また、耐熱性樹脂成形品として、シクロオレフィンポリマー樹脂 日本ゼオン製 グレード 690Rを用い、表面変形用樹脂成形品として、シクロオレフィンポリマー樹脂 日本ゼオン製 グレード 1020Rを用い、両成形品表面とも接合面は光学平面である成形品を用いて、熱溶着を行い、両者の接合評価を行った。
【0029】
上記サンプル形態1について得られた結果を、表1に示す。
一般的に公知であるシクロオレフィンポリマー(以下、「COP」ということがある。) グレード690R部品1とCOP グレード690R部品2を相互に熱溶着して接合成形品を製造しようとする場合には、樹脂部品1、2の軟化温度(この場合138℃)以上で接合を行わないと、樹脂は溶融軟化しないため、それらの当接界面で樹脂の分子接合が出来ない。この場合、両接合面の温度を140℃以上にしないと接合出来ないことが示された。
一方本発明で説明しているように、COPでも、グレードによって樹脂の軟化温度が違い、この軟化温度の違いを利用する熱接合の場合には、軟化温度の低いCOP(この場合には、COP 1020R 軟化温度 110℃)の軟化温度において、軟化温度の低い樹脂が溶融されるため、従来より低い温度で接合でき、軟化温度の低い樹脂の軟化温度(またはガラス転移温度)以上の熱接合温度で接合できる事が分かった。さらに、樹脂の軟化温度が高いCOP(この場合COP 690R)の表面にナノ凹部が成形された樹脂部品を用いた場合、アンカー効果が働き、さらに強固な接合が得られ、1.5倍~3倍接合強度が向上できることが分かった(図4)。また、本発明の接合方法を用いる事によって、樹脂の軟化温度が高いCOP(この場合COP 690R)の樹脂接合品の溶融温度以下で接合できるため、樹脂接合品の変形が抑制された接合が出来る事が判明した。
【0030】
【表1】
【0031】
<実施例2> サンプル形態2(接合面に複数の凹部を有する樹脂部品1-表面変形用平板状フィルム接合片(樹脂部品2)-接合面に複数の凹部を有する樹脂部品1の接合)の接合強度試験
上記サンプル形態2について、接合強度試験を実施した結果を、表2に示す。
一般的に公知である熱溶着技術を用いた場合には、実施例1と同様に、ポリスチレン樹脂(PS TF4000)部品とポリスチレン樹脂(PS TF4000)部品の熱溶着の場合には、樹脂の軟化温度(この場合120℃)以上で接合を行わないと、樹脂が溶融軟化しないため、接合界面で対面する樹脂の分子接合が出来ない(接合には通常、軟化温度超の125℃以上の加熱が必要)。
一方、本明細書で説明しているように、ポリスチレン樹脂でも、グレードによって樹脂の軟化温度が違い、この軟化温度の違いを利用する熱接合の場合には、軟化温度の低いポリスチレン樹脂フィルム (この場合には、PS樹脂フィルム 軟化温度 90℃-100℃)の軟化温度において、軟化温度の低い樹脂が溶融されるため、従来より低い温度で接合でき、低軟化温度の樹脂部品の低軟化温度(又はガラス転移温度)以上の熱接合温度で接合できる。
さらに、樹脂の軟化温度が高いポリスチレン樹脂部品1(この場合、例えばPS TF4000の接合面に複数のナノ凹部が成形された樹脂部品など)と、低軟化温度のポリスチレン樹脂部品2とを該低軟化温度以上、前記高軟化温度未満の接合温度で接合した場合、低軟化温度の樹脂部品の接合面などで溶融変形が起こり、他方の樹脂部品2の接合面凹部中に低軟化温度樹脂が充填され、アンカー効果により、より強固な接合強度が得られる。特に、高軟化温度樹脂部品の接合面に複数のナノ凹部を形成した場合には、低軟化温度樹脂部品の該低軟化温度以上、前記高軟化温度未満で接合することによって、急激に接合強度を向上できる(図5)。
また、本発明の接合方法を用いると、高軟化温度のポリスチレン樹脂部品 (PS TF4000樹脂部品)の高軟化温度未満で接合できるため、樹脂接合体の変形が抑制された接合が出来る。
さらに、複数の凹部中に同じポリスチレン樹脂が完全充填される場合には、同じ樹脂で界面が一体化し、軟化温度の差異による樹脂部品1、2の屈折率差も極めて小さいため、界面での光学的な散乱や反射等の発生が抑えられ、透過率の向上した樹脂接合品が得られる事が分かった。
【0032】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、流路チップや、光通信用の光導波素子やカップラー、レンズや偏光板、フィルターなど光学素子などの、複雑な構造を有し、透明性を要する部品などの作製に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5