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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20230728BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20230728BHJP
   B29K 33/00 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
C08J5/00 CEY
B29C43/34
B29K33:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020556004
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042562
(87)【国際公開番号】W WO2020100591
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018214794
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019002433
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「超薄膜化・強靭化「しなやかなタフポリマー」の実現」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板東 晃徳
(72)【発明者】
【氏名】角谷 英則
(72)【発明者】
【氏名】高木 康行
(72)【発明者】
【氏名】安富 陽一
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-275109(JP,A)
【文献】特開昭56-030809(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139459(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
B29C 43/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性樹脂を含む厚み方向の延伸倍率が1.5倍以上のプレス成形体であって、
前記非晶性樹脂は、重量平均分子量が40万以上であり、
前記非晶性樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位からなるメタクリル樹脂、又は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位と、メタクリル酸エステルと共重合可能な単量体であるアクリル酸エステル及び不飽和カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構成単位とからなるメタクリル樹脂であり、
前記非晶性樹脂は、重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を含有していない非晶性樹脂であり、
前記成形体は、下記式(1)で定義されるピーク位置変化率r(%)が1以上である、成形体。
ピーク位置変化率r(%)=100×(Q1-Q2)/Q2 (1)
[式(1)中、
Q1は、広角X線回折法により求められる前記成形体のピーク位置(nm-1)であり、Q2は、広角X線回折法により求められる参照成形体のピーク位置(nm-1)である。
参照成形体とは、前記非晶性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)とするとき、前記成形体を(Tg+30)℃で1時間加熱処理した成形体である。
ピーク位置とは、広角X線回折法によって測定される透過法での回折像から算出される、バックグラウンド補正及び透過率補正がなされた散乱ベクトルの大きさQ-強度のプロファイルにおいて、前記非晶性樹脂に由来するピークであって、Qが5nm-1~25nm-1の範囲にあるピークのうち、Qが最も小さいピークにおける該Qの値である。]
【請求項2】
前記成形体は、厚み方向の配向度の絶対値が0.02以上である、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記非晶性樹脂は、粘度換算平均分子量が100万以上である、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記非晶性樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位を95質量%以上又は100質量%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項5】
前記成形体は、広角X線回折法により求められるピーク位置Q1が9.55nm-1以上であり、
前記ピーク位置Q1(nm-1)は、広角X線回折法によって測定される透過法での回折像から算出される、バックグラウンド補正及び透過率補正がなされた散乱ベクトルの大きさQ-強度のプロファイルにおいて、前記(メタ)アクリル樹脂に由来するピークであって、Qが5nm-1~25nm-1の範囲にあるピークのうち、Qが最も小さいピークにおける該Qの値である、請求項1~4のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の成形体を製造するための方法であって、
第1熱可塑性樹脂で構成される第1層、非晶性樹脂であり、重量平均分子量が40万以上である第2熱可塑性樹脂で構成される第2層、及び、第3熱可塑性樹脂で構成される第3層をこの順に含む積層体を準備する工程と、
(Tg+10)℃〔Tgは、前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度である。〕以下の温度で前記積層体に対してプレス延伸処理を施す工程と、
前記第1層及び前記第3層を剥離除去する工程と、を含み、
前記第2熱可塑性樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位からなるメタクリル樹脂、又は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位と、メタクリル酸エステルと共重合可能な単量体であるアクリル酸エステル及び不飽和カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構成単位とからなるメタクリル樹脂であり、
前記第2熱可塑性樹脂は、重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を含有していない非晶性樹脂である、成形体の製造方法。
【請求項7】
前記プレス延伸処理を施す工程により得られた成形体を、プレス延伸温度よりも低い温度で保持する保持工程をさらに含む、請求項6に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶性樹脂を含む成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明性と機械的強度とが求められる用途に適用するため、剛性等の機械的強度に優れる透明な成形体の開発が行われている。
例えば、特開2004-051681号公報(特許文献1)には、シリカ粒子を、水素結合性官能基及び不飽和二重結合基を有する樹脂モノマーを用いて表面改質し、ついで表面改質したシリカ粒子を、メチルメタクリレート、重合開始剤、及び溶媒を含む混合溶液に配合し、そして表面改質したシリカ粒子の樹脂モノマーとメチルメタクリレートとを重合させることによって剛性の高いナノ複合樹脂組成物を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-051681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のナノ複合樹脂組成物から形成される成形体は剛性に優れるものの、耐衝撃性の点で満足できるものではなかった。
本発明の目的は、非晶性樹脂を含む成形体であって、剛性及び耐衝撃性が良好な成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す成形体及び成形体の製造方法を提供する。
[1] 非晶性樹脂を含む成形体であって、
前記成形体は、下記式(1)で定義されるピーク位置変化率r(%)が1以上である、成形体。
ピーク位置変化率r(%)=100×(Q1-Q2)/Q2 (1)
[式(1)中、
Q1は、広角X線回折法により求められる前記成形体のピーク位置(nm-1)であり、Q2は、広角X線回折法により求められる参照成形体のピーク位置(nm-1)である。
参照成形体とは、前記非晶性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)とするとき、前記成形体を(Tg+30)℃で1時間加熱処理した成形体である。
ピーク位置とは、広角X線回折法によって測定される透過法での回折像から算出される、バックグラウンド補正及び透過率補正がなされた散乱ベクトルの大きさQ-強度のプロファイルにおいて、前記非晶性樹脂に由来するピークであって、Qが5nm-1~25nm-1の範囲にあるピークのうち、Qが最も小さいピークにおける該Qの値である。]
[2] 前記成形体は、厚み方向の配向度の絶対値が0.02以上である、[1]に記載の成形体。
[3] 前記非晶性樹脂は、粘度換算平均分子量が100万以上である、[1]又は[2]に記載の成形体。
[4] 前記非晶性樹脂は、重量平均分子量が40万以上である、[1]又は[2]に記載の成形体。
[5] 前記非晶性樹脂は、(メタ)アクリル樹脂である、[1]~[4]のいずれかに記載の成形体。
[6] 前記(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位を含む、[5]に記載の成形体。
[7] 前記(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位をさらに含む、[6]に記載の成形体。
[8] 前記非晶性樹脂は、重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を含有していない、[1]~[7]のいずれかに記載の成形体。
[9] (メタ)アクリル樹脂を含む成形体であって、
前記成形体は、広角X線回折法により求められるピーク位置Q1が9.55nm-1以上であり、
前記ピーク位置Q1(nm-1)は、広角X線回折法によって測定される透過法での回折像から算出される、バックグラウンド補正及び透過率補正がなされた散乱ベクトルの大きさQ-強度のプロファイルにおいて、前記(メタ)アクリル樹脂に由来するピークであって、Qが5nm-1~25nm-1の範囲にあるピークのうち、Qが最も小さいピークにおける該Qの値である、成形体。
[10] 前記(メタ)アクリル樹脂は、重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を含有していない、[9]に記載の成形体。
[11] 第1熱可塑性樹脂で構成される第1層、非晶性樹脂である第2熱可塑性樹脂で構成される第2層、及び、第3熱可塑性樹脂で構成される第3層をこの順に含む積層体を準備する工程と、
(Tg+20)℃〔Tgは、前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度である。〕以下の温度で前記積層体に対してプレス延伸処理を施す工程と、
前記第1層及び前記第3層を剥離除去する工程と、
を含む、成形体の製造方法。
[12] 前記プレス延伸処理を施す工程により得られた成形体を、プレス延伸温度よりも低い温度であって、前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い温度で保持する保持工程をさらに含む、[11]に記載の成形体の製造方法。
[13] 前記第2熱可塑性樹脂は、(メタ)アクリル樹脂である、[11]又は[12]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
剛性及び耐衝撃性が良好な成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<成形体>
本発明に係る成形体(以下、単に「成形体」ともいう。)は、非晶性樹脂を含む成形体であって、下記式(1)で定義されるピーク位置変化率r(%)が1以上である成形体である。
ピーク位置変化率r(%)=100×(Q1-Q2)/Q2 (1)
式(1)中、Q1は、広角X線回折法により求められる成形体のピーク位置(nm-1)であり、Q2は、広角X線回折法により求められる参照成形体のピーク位置(nm-1)である。
式(1)については後で詳述する。
【0008】
(1)成形体を構成する非晶性樹脂
成形体を構成する非晶性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂;アクリロニトリル・スチレン系樹脂、ポリサルホン系樹脂、セルロースアセテート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂等が挙げられる。
成形体は、1種の非晶性樹脂を含んでいてもよいし、2種又はそれ以上の非晶性樹脂を含んでいてもよい。
非晶性樹脂は、常法に従って製造することができる。
【0009】
本明細書において「(メタ)アクリル樹脂」とは、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種を表す。その他の「(メタ)」を付した用語においても同様である。
本明細書において「アクリル樹脂」とは、重合性官能基としてアクリロイル基を有する単量体に由来する構成単位を含む樹脂をいい、該構成単位の含有量は、該樹脂を構成する全構成単位の含有量の合計を100質量%とするとき、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
本明細書において「メタクリル樹脂」とは、重合性官能基としてメタクリロイル基を有する単量体に由来する構成単位を含む樹脂をいい、該構成単位の含有量は、該樹脂を構成する全構成単位の含有量の合計を100質量%とするとき、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0010】
成形体は、成形体の透明性の観点から、非晶性樹脂のみからなることが好ましい。
成形体の透明性の観点から、非晶性樹脂は、好ましくは(メタ)アクリル樹脂を含み、より好ましくはメタクリル樹脂を含む。成形体の透明性の観点から、成形体における(メタ)アクリル樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。成形体における(メタ)アクリル樹脂の含有量は、100質量%未満、95質量%以下、又は90質量%以下であってもよい。
ある好ましい実施形態において、成形体の透明性の観点から、成形体は非晶性樹脂のみからなり、該非晶性樹脂は(メタ)アクリル樹脂、好ましくはメタクリル樹脂である。
【0011】
メタクリル樹脂は、成形体の透明性の観点から、好ましくはメタクリル酸エステルに由来する構成単位を含む。メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位と、メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体に由来する構成単位とを含んでいてもよい。
【0012】
メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等が挙げられる。炭素数が多すぎるとTgの低下を招くため、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレートが好ましく、メチルメタクリレートがより好ましい。
メタクリル酸エステルは、好ましくは、メチルメタクリレートであるか、又はメチルメタクリレートを含む。メタクリル酸エステルは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、メチルメタクリレートとメチルメタクリレート以外のメタクリル酸エステルとを併用してもよい。
【0013】
メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体は、一分子内にラジカル重合可能な二重結合を一つ有する単官能単量体であってもよいし、一分子内にラジカル重合可能な二重結合を2つ以上有する多官能単量体であってもよい。また、メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
単官能単量体としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸類;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物;フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニル化合物等が挙げられる。
【0015】
多官能不飽和単量体としては、例えばアリルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等が挙げられる。
【0016】
メタクリル樹脂が、メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体に由来する構成単位をさらに有する場合、メタクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは85質量%以上である。
メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体に由来する構成単位の含有量は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以下であり、10質量%以下であってもよい。ただし、メタクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量と、メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体に由来する構成単位との合計量を100質量%とする。
ある好ましい実施形態において、メタクリル樹脂におけるメタクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量は、90質量%以上、95質量%以上又は100質量%である。
また、他の一つの実施形態において、メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位と(メタ)アクリル酸に由来する構成単位とを含む共重合体である。該メタクリル樹脂は、成形体の耐熱性を向上させる観点から好ましい。該メタクリル樹脂における(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の含有量は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以下である。(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の含有量が大きすぎると、成形体の透明性及び耐湿熱性が低下し得る。成形体の耐熱性の観点から、該メタクリル樹脂における(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の含有量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。
メタクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量、及びメタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体に由来する構成単位の含有量は、例えば、H-NMR測定等を利用した分析によって求めることができる。
【0017】
メタクリル樹脂は、成形体の耐熱性を向上させる観点から、主鎖に環構造単位を含んでいてもよい。「主鎖」とは、2以上の単量体が重合することにより形成されたビニル基由来の炭素鎖である。「主鎖に環構造単位を含む」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの少なくとも2個が環構造を形成する原子群の一部となり、その結果、主鎖の中に環構造単位が組み込まれていることを意味する。
環構造単位は、2つの単量体が重合する際に又は重合した後に閉環して形成され得る環構造単位、又は、環を有している1つの単量体が重合することにより主鎖に環が組み込まれた環構造単位のいずれであっても構わない。
環構造単位は、重合体の主鎖の一部として組み入れられる環構造単位であれば特に限定されないが、特に、6員環の環構造単位又は5員環の環構造単位が好ましい。
環構造単位は、例えば、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位及びラクトン酸構造単位からなる群から選択される1以上である。
【0018】
メタクリル樹脂における環構造単位の含有量は、成形体の耐熱性を向上させる観点から、例えば、0.1mol%以上、30mol%以下であり、好ましくは0.1mol%以上、20mol%以下である。
環構造単位の含有量は、13C-NMR法によって各種環構造単位に応じたピーク範囲におけるピークの積分値を求めることによって算出される数値、又は、含まれる環の構造に応じて13C-NMR法と更に補助的にH-NMR法及び/若しくはIR法等も利用した分析によって求めることができる。
【0019】
本発明に係る成形体を構成する非晶性樹脂は、重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を含有しないことが好ましい。
上記重合性官能基としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、スチリル基、アリル基、メタクリロイル基、α-メチルスチリル基、イタコニル基、アルケニル基、クロトニル基等が挙げられ、典型的にはメタクリロイル基である。
【0020】
成形体を構成する非晶性樹脂が重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を含有しないことは、成形体の透明性と、例えば延伸処理のような成形処理を非晶性樹脂に施したときに得られる耐衝撃性向上効果とをより高めやすくなる点で有利である。
また、成形体を構成する非晶性樹脂が重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を含有しないことは、成形体の軽量化の観点からも有利である。
本発明によれば、重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を非晶性樹脂に含有させなくても、剛性及び耐衝撃性が良好な成形体を提供することができる。
また、本発明によれば、重合性官能基を有するシリカ粒子に由来する構成単位を非晶性樹脂に含有させなくても、面内方向の線膨張係数が低い成形体を提供し得る。
【0021】
成形体を構成する非晶性樹脂のガラス転移温度Tgは、非晶性樹脂の樹脂種に依存する。非晶性樹脂が例えばメタクリル樹脂である場合、そのガラス転移温度Tgは、例えば90℃以上、150℃以下であり、成形体の耐衝撃性の観点から、好ましくは100℃以上、140℃以下であり、130℃以下であってもよい。
非晶性樹脂のガラス転移温度Tgは、JIS K 7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)によって求められる中間点ガラス転移温度である。
【0022】
非晶性樹脂の粘度換算平均分子量は特に制限されないが、通常3万以上、500万以下である。剛性及び耐衝撃性に優れる成形体を製造しやすいことから、非晶性樹脂の粘度換算平均分子量は、比較的大きいことが好ましい。かかる観点から、非晶性樹脂の粘度換算平均分子量は、好ましくは50万以上であり、より好ましくは80万以上であり、さらに好ましくは100万以上であり、特に好ましくは110万以上である。
非晶性樹脂の粘度換算平均分子量は、後掲の[実施例]に記載される方法に従って求められる。
【0023】
非晶性樹脂の重量平均分子量は特に制限されないが、通常3万以上、500万以下である。剛性及び耐衝撃性に優れる成形体を製造しやすいことから、非晶性樹脂の重量平均分子量は、比較的大きいことが好ましい。かかる観点から、非晶性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは20万以上であり、より好ましくは40万以上であり、さらに好ましくは50万以上であり、特に好ましくは100万以上である。
非晶性樹脂の重量平均分子量は、後掲の[実施例]に記載される方法に従って求められる。
【0024】
(2)成形体のピーク位置変化率r及びピーク位置Q1
本発明に係る成形体(以下、単に「成形体」ともいう。)は、非晶性樹脂を含む成形体であって、下記式(1)で定義されるピーク位置変化率r(%)が1以上である。
ピーク位置変化率r(%)=100×(Q1-Q2)/Q2 (1)
【0025】
ピーク位置変化率rが1%以上であることは、剛性及び耐衝撃性が良好な成形体を得るうえで有利であり、とりわけ、良好な耐衝撃性を維持しながら、成形体の剛性を高めるうえで有利である。
ピーク位置変化率rは、成形体の剛性を高める観点から、好ましくは1.1%以上であり、より好ましくは1.5%以上であり、さらに好ましくは2.0%以上である。ピーク位置変化率rは、通常10%以下であり、より典型的には5%以下である。
【0026】
上記式(1)について説明する。
上記式(1)において、Q1は、広角X線回折法により求められる成形体のピーク位置(nm-1)であり、Q2は、広角X線回折法により求められる参照成形体のピーク位置(nm-1)である。
参照成形体とは、成形体を構成する非晶性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)とするとき、該成形体を(Tg+30)℃で1時間加熱処理した成形体である。
【0027】
成形体のピーク位置Q1とは、該成形体を測定サンプルとして広角X線回折法によって測定される透過法での回折像から算出される、バックグラウンド補正及び透過率補正がなされた散乱ベクトルの大きさQ-強度のプロファイルにおいて、前記非晶性樹脂に由来するピークであって、Qが5nm-1~25nm-1の範囲にあるピークのうち、Qが最も小さいピークにおける該Qの値である。
参照成形体のピーク位置Q2とは、参照成形体を測定サンプルとすること以外はピーク位置Q1と同様にして測定されるQ値をいう。
【0028】
ピーク位置Q1及びQ2は、より具体的には、X線回折装置を用いた広角X線回折法によって、後掲の[実施例]に記載される測定方法に従って求められる。
上記測定方法においては、X線回折装置を用いて回折像を取得し、この回折像から未補正セクター平均プロファイル(散乱ベクトルの大きさ(Q)-強度プロファイル)I(Q)を求める。この未補正セクター平均プロファイルに対して、バックグラウンド補正及び透過率補正を行うことにより補正後のセクター平均プロファイルI(Q)を得る。
補正後のセクター平均プロファイルI(Q)が十分なS/N比を有するよう、回折像を得る際の露光時間が長くとることが好ましい。また、ピーク位置Q1及びQ2をより明確にするために、得られた補正後のセクター平均プロファイルI(Q)に対して、一般的な範囲でガウシアンフィルタ等のスムージング処理を行ってもよい。Qのデータ間隔が大きすぎる場合には、十分なS/N比のデータに対してスプライン補間等のデータ補間処理を行ってもよい。十分なS/N比、十分なQのデータ間隔のデータにおいて、Qが最も小さいピークの近傍でI(Q)が最大となる散乱ベクトルの大きさQをQ1とする。Q2についても同様である。
【0029】
本発明者らの検討により、1)ピーク位置変化率r及びピーク位置Q1が、それぞれ、成形前後における非晶性樹脂の面内方向の主鎖間距離の変化率及び成形体における面内方向の主鎖間距離に関連付けられる指標となること、2)ピーク位置変化率r又はピーク位置Q1が所定値以上である、すなわち、上記面内方向の主鎖間距離の変化率又は上記面内方向の主鎖間距離が所定値以下であると、成形体の良好な耐衝撃性を維持しながらも、成形体の剛性を向上させることができること、を見出した。本発明は、これらの知見に基づき、さらなる研究及び検討を行って完成されたものである。
なお、面内方向の主鎖間距離とは、非晶性樹脂の成形手段が例えば延伸である場合、伸長方向における高分子の主鎖間距離を指す。
成形前の非晶性樹脂における高分子の状態(主鎖間距離等)は、成形によって得られた成形体をそのガラス転移温度より高い温度で加熱することによって再現することができる。すなわち、上記参照成形体のピーク位置Q2は、成形前の非晶性樹脂におけるピーク位置を意味しているといえる。
【0030】
例えば成形体を構成する非晶性樹脂が(メタ)アクリル樹脂、好ましくはメタクリル樹脂である場合、成形体のピーク位置Q1は、良好な耐衝撃性を維持しながら、成形体の剛性を高める観点から、好ましくは9.55nm-1以上であり、より好ましくは9.60nm-1以上であり、さらに好ましくは9.65nm-1以上である。成形体のピーク位置Q1は、通常10.50nm-1以下であり、10.00nm-1以下であってもよく、9.95nm-1以下であってもよい。
【0031】
(3)厚み方向の配向度の絶対値
成形体の厚み方向の配向度の絶対値は、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.05以上、0.5以下であり、より好ましくは0.1以上、0.4以下であり、さらに好ましくは0.2以上、0.35以下であり、特に好ましくは0.25以上、0.35以下である。成形体の厚み方向の配向度を上記範囲にすることにより、成形体に良好な耐衝撃性を付与することができる。
成形体の厚み方向の配向度の絶対値が大きいほど、非晶性樹脂の分子鎖が厚み方向に対してより垂直方向に配列するため、成形体の耐衝撃性を向上させることができる。
例えば延伸処理により、0.02以上の厚み方向の配向度の絶対値を成形体に付与することができる。
成形体の厚み方向の配向度は、後掲の[実施例]に記載される方法に従って求められる。
【0032】
成形体の厚み方向の配向度は、非晶性樹脂を延伸する際の延伸倍率、延伸温度、延伸速度、延伸後の冷却速度、非晶性樹脂の組成等を変更することにより、調整することができる。
例えば、延伸速度を大きくするほど、厚み方向の配向度の絶対値は大きくなる傾向があり、延伸温度を低くするほど厚み方向の配向度の絶対値は大きくなる傾向がある。また、プレス延伸法により成形体を製造する場合、厚み方向の延伸倍率を大きくするほど厚み方向の配向度の絶対値は大きくなる傾向があり、延伸後の冷却工程において、冷却速度が速いほど厚み方向の配向度の絶対値は大きくなる傾向がある。
本発明に係る成形体は、軸配向性を有していてもよく、好ましくは一軸配向性又は二軸配向性を有し、より好ましくは二軸配向性を有する。
【0033】
(4)成形体が含有し得る他の成分
本発明に係る成形体は、必要に応じて、上記非晶性樹脂以外の成分を含んでいてもよい。成形体は、例えば、離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料等の着色剤、無機充填剤、重合抑制剤、難燃化剤、補強剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0034】
離型剤としては、特に制限されないが、例えば、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩等が挙げられる。
離型剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
高級脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸オクチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、ベヘン酸メチル、ベヘン酸エチル、ベヘン酸プロピル、ベヘン酸ブチル、ベヘン酸オクチル等の飽和脂肪酸アルキルエステル;オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸オクチル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸プロピル、リノール酸ブチル、リノール酸オクチル等の不飽和脂肪酸アルキルエステル;ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、パルミチン酸ジグリセリド、パルミチン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ベヘン酸モノグリセリド、ベヘン酸ジグリセリド、ベヘン酸トリグリセリド等の飽和脂肪酸グリセリド;オレイン酸モノグリセリド、オレイン酸ジグリセリド、オレイン酸トリグリセリド、リノール酸モノグリセリド、リノール酸ジグリセリド、リノール酸トリグリセリド等の不飽和脂肪酸グリセリドが挙げられる。
これらの中でも、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド等が好ましい。
【0036】
高級脂肪族アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール等の飽和脂肪族アルコール;オレイルアルコール、リノリルアルコール等の不飽和脂肪族アルコールが挙げられる。
これらの中でも、ステアリルアルコールが好ましい。
【0037】
高級脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、12-ヒドロキシオクタデカン酸等の飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、セトレイン酸、エルカ酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0038】
高級脂肪酸アミドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、リノール酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、N-オレイルステアロアミド等のアミド類が挙げられる。
これらの中でも、ステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0039】
高級脂肪酸金属塩としては、例えば、上述した高級脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等が挙げられる。
【0040】
離型剤の含有量は、非晶性樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、1.0質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上、0.5質量部以下であることがより好ましい。
【0041】
熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、ヒンダードフェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤や有機ジスルフィド化合物等が挙げられる。
これらの中でも、有機ジスルフィド化合物が好ましい。
熱安定剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、例えば、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6〔1H,3H,5H〕-トリオン、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン等が挙げられる。
これらの中でも、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0043】
リン系熱安定剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]-N,N-ビス[2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]-エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
これらの中でも、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイトが好ましい。
【0044】
有機ジスルフィド化合物としては、例えば、ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジ-n-プロピルジスルフィド、ジ-n-ブチルジスルフィド、ジ-sec-ブチルジスルフィド、ジ-tert-ブチルジスルフィド、ジ-tert-アミルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、ジ-tert-オクチルジスルフィド、ジ-n-ドデシルジスルフィド、ジ-tert-ドデシルジスルフィド等が挙げられる。
これらの中でも、ジ-tert-アルキルジスルフィドが好ましく、より好ましくはジ-tert-ドデシルジスルフィドである。
【0045】
熱安定剤の含有量は、非晶性樹脂100質量部に対して、1質量ppm以上、2000質量ppm以下であることが好ましい。
【0046】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、オキサルアニリド系紫外線吸収剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、オキサルアニリド系紫外線吸収剤が好ましい。
【0047】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2-ヒドロキシ-4-オクチロキシベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンジロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0048】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸エチル、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0049】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、5-クロロ-2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ペンチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0050】
マロン酸エステル系紫外線吸収剤としては、通常、2-(1-アリールアルキリデン)マロン酸エステル類が用いられ、例えば、2-(パラメトキシベンジリデン)マロン酸ジメチル等が挙げられる。
【0051】
オキサルアニリド系紫外線吸収剤としては、通常、2-アルコキシ-2’-アルキルオキサルアニリド類が用いられ、例えば、2-エトキシ-2’-エチルオキサルアニリド等が挙げられる。
【0052】
紫外線吸収剤の含有量は、非晶性樹脂100質量部に対して、5質量ppm以上、1000質量ppm以下であることが好ましい。
【0053】
無機充填剤としては、例えば、シリカ粒子、酸化チタン粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化ニオブ粒子、酸化亜鉛粒子、酸化スズ粒子、酸化セリウム粒子、酸化マグネシウム粒子、炭酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、タルク粒子、カオリン粒子、硫酸カルシウム粒子等が挙げられる。
無機充填剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
無機充填剤の粒径は、成形体の透明性及び成形体への成形性の観点から、100nm以下であることが好ましい。
無機充填剤の含有量は、非晶性樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、30質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上、20質量部以下であることがより好ましい。
【0055】
(5)成形体の形状
本発明に係る成形体の形状は特に制限されず、例えば、板状、シート状、フィルム状、製品そのものの形状、製品に用いられる部品そのものの形状等が挙げられる。
本発明に係る成形体を加工して、所望する製品、部品(部材)を得てもよい。
【0056】
ある実施形態において、成形体は、板、シート又はフィルムである。板、シート又はフィルムの幅及び長さは特に制限されない。板、シート又はフィルムは、例えば、長尺物又はその巻回物である。板、シート又はフィルムの厚みは、例えば10μm以上、50mm以下であり、0.1mm以上、10mm以下又は0.5mm以上、4mm以下であってもよい。
本発明に係る成形体は、上記板、シート又はフィルムから裁断された板片、シート片又はフィルム片であってもよい。
【0057】
本発明に係る成形体を用いて、種々の樹脂製品又は樹脂部品を作製することができ、あるいは、本発明に係る成形体は、樹脂製品又は樹脂部品そのものであってもよい。
樹脂製品又は樹脂部品としては、例えば、自動車用材料、表示窓保護板、道路などに設置される透明遮音板、港に設置される津波や高潮から守る透明防潮壁等が挙げられる。本発明に係る成形体は、剛性及び耐衝撃性が良好であるため、自動車用材料、表示窓保護板、透明遮音板、透明防潮壁等に適している。
本発明に係る成形体は、高い剛性を示すことができ、例えば、後掲の[実施例]に記載される方法に従って求められる曲げ弾性率が、3500MPa以上、さらには3700MPa以上、なおさらには3800MPa以上であり得る。
また、本発明に係る成形体は、高い耐衝撃性を示すことができ、例えば、後掲の[実施例]に記載される方法に従って求められるシャルピー衝撃値が、70以上、さらには75以上であり得る。
また、本発明に係る成形体は、低い面内線膨張係数を示すことができ、例えば、後掲の[実施例]に記載される方法に従って求められる面内方向の線膨張係数が65以下、さらには60以下、なおさらには55以下であり得る。
【0058】
表示窓保護板とは、文字情報や画像情報等を表示するための窓(ディスプレイ)が存在する電子機器に使用するものであり、上記窓(ディスプレイ)を保護するものである。上記電子機器としては、携帯電話、スマートフォン、パソコン、タブレット、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯型ゲーム、ポータブルオーディオプレイヤー等が挙げられる。
自動車用材料としては、例えば、リアランプカバーや、ヘッドランプカバー、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフ等の自動車用窓等が挙げられる。
【0059】
自動車用材料、表示窓保護板等の樹脂製品又は樹脂部品は、例えば、本発明に係る成形体である上記板、シート又はフィルムを所望の形状及びサイズに裁断することによって、あるいはさらに加工(例えば、形状の調整等)を加えて作製することができる。
【0060】
<成形体の製造方法>
本発明に係る成形体は、非晶性樹脂を含む樹脂組成物、好ましくは非晶性樹脂を成形することによって製造することができる。
成形は、好ましくは延伸処理である。
【0061】
延伸処理の温度(延伸温度)は、上記式(1)を満たす成形体が得られやすいことから、非晶性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)とするとき、通常(Tg+20)℃以下であり、好ましくは(Tg+10)℃以下であり、より好ましくはTg℃以下であり、さらに好ましくは(Tg-10)℃以下である。延伸温度は、上記式(1)を満たす成形体を得るために、(Tg-20)℃以下又は(Tg-30)℃以下にする方が好ましいことがある。
延伸処理自体を可能するために、延伸温度は、(Tg-40)℃以上であることが好ましい。
延伸温度とは、延伸処理時における金型温度(ダイ温度)又は延伸槽の槽内温度をいう。
【0062】
非晶性樹脂の粘度換算平均分子量に応じて延伸温度を調整することが好ましいことがある。例えば、非晶性樹脂の粘度換算平均分子量が100万未満であるとき、延伸温度は、好ましくはTg℃以下であり、より好ましくは(Tg-10)℃以下である。
【0063】
延伸処理の方式としては、例えば、自由幅一軸延伸や定幅一軸延伸等の一軸延伸法、逐次二軸延伸や同時二軸延伸等の二軸延伸法、圧力を加えながら延伸するプレス延伸法(圧延法)等が挙げられる。中でも、非晶性樹脂を均一に延伸できる点で、二軸延伸法又はプレス延伸法が好ましく、プレス延伸法がより好ましい。
例えばプレス延伸法によって成形体を製造する場合、通常、二軸配向された成形体が得られる。
【0064】
上記式(1)を満たす成形体を得るためには、延伸倍率は大きい方が好ましい。
厚み方向の延伸倍率(延伸前の厚み/延伸後の厚み)は、1.1倍以上、10.0倍以下であることが好ましく、1.2倍以上、7倍以下であることがより好ましく、1.5倍以上、5.0倍以下であることがさらに好ましく、1.8倍以上、4.0倍以下であることが特に好ましい。
厚み方向の延伸倍率が大きいほど、上記式(1)を満たす成形体が得られやすくなり、剛性に優れる成形体が得られやすい傾向にある。また、厚み方向の延伸倍率が大きいほど、厚み方向の配向度の絶対値が高くなり、耐衝撃性に優れる成形体が得られやすい傾向にある。
厚み方向の延伸倍率が大きすぎると、得られる成形体の外観が悪くなるおそれがある。
厚み方向とは、延伸される対象の厚みを示す方向であり、通常、該対象の最も面積が広い面に対して垂直な方向である。例えば、プレス延伸法では、圧力を加える方向が厚み方向であり、一軸延伸法や二軸延伸法では、引張方向に垂直な方向が厚み方向である。
【0065】
延伸処理における延伸速度は、特に制限されないが、例えば、プレス延伸法の場合、非晶性樹脂を含む樹脂組成物の厚み、又は非晶性樹脂の厚みが0.01mm/秒以上、100mm/秒以下の速度で変化する速度が好ましい。延伸速度は、変化させても、一定でもあってもよい。延伸速度が過度に遅いと、延伸中に配向が緩和して、厚み方向の配向度の絶対値が十分に高くならないおそれがあるとともに、耐衝撃性に優れる成形体が得られにくくなるおそれがあり、延伸速度が速すぎると、成形体に割れが生じるおそれがある。
【0066】
延伸時の圧力は、特に制限されず、使用する装置又は延伸の対象となる非晶性樹脂を含む樹脂組成物又は非晶性樹脂の面積によって変わってくるが、例えば、プレス延伸法の場合、80mm×80mm角の非晶性樹脂を含む樹脂組成物又は非晶性樹脂に加える圧力としては、0.1MPa以上、1000MPa以下が好ましい。延伸時の圧力が小さすぎると所望の厚みまで延伸できないおそれがある。
【0067】
1つの実施形態において、成形体の製造方法は、
第1熱可塑性樹脂で構成される第1層、非晶性樹脂である第2熱可塑性樹脂で構成される第2層、及び、第3熱可塑性樹脂で構成される第3層をこの順に含む積層体を準備する工程と、
(Tg+20)℃〔Tgは、前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度である。〕以下の温度で前記積層体に対してプレス延伸処理を施す工程と、
前記第1層及び前記第3層を剥離除去する工程と、
を含む。
【0068】
プレス延伸処理の温度(プレス延伸温度)は、上記式(1)を満たす成形体が得られやすいことから、好ましくは(Tg+10)℃以下であり、より好ましくはTg℃以下であり、さらに好ましくは(Tg-10)℃以下である。プレス延伸温度は、上記式(1)を満たす成形体を得るために、(Tg-20)℃以下又は(Tg-30)℃以下にする方が好ましいことがある。
【0069】
第2層は、得られる成形体の透明性の観点から、非晶性樹脂のみからなることが好ましい。
成形体の透明性の観点から、第2層を構成する非晶性樹脂である第2熱可塑性樹脂は、好ましくは(メタ)アクリル樹脂を含み、より好ましくはメタクリル樹脂を含む。成形体の透明性の観点から、第2層における(メタ)アクリル樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。第2層における(メタ)アクリル樹脂の含有量は、100質量%未満、95質量%以下、又は90質量%以下であってもよい。
ある好ましい実施形態において、成形体の透明性の観点から、第2層は非晶性樹脂のみからなり、該非晶性樹脂は(メタ)アクリル樹脂、好ましくはメタクリル樹脂である。
メタクリル樹脂は、成形体の透明性の観点から、好ましくはメタクリル酸エステルに由来する構成単位を含む。メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位と、メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体に由来する構成単位とを含んでいてもよい。メタクリル酸エステル、及び、メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体の例は上述のとおりである。
一つの実施形態において、メタクリル樹脂におけるメタクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量は、90質量%以上、95質量%以上又は100質量%である。
また、他の一つの実施形態において、メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構成単位と(メタ)アクリル酸に由来する構成単位とを含む共重合体である。該メタクリル樹脂は、成形体の耐熱性を向上させる観点から好ましい。該メタクリル樹脂における(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の含有量は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以下である。(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の含有量が大きすぎると、成形体の透明性及び耐湿熱性が低下し得る。成形体の耐熱性の観点から、該メタクリル樹脂における(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の含有量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。
また、上述のように、メタクリル樹脂は、成形体の耐熱性を向上させる観点から、主鎖に環構造単位を含んでいてもよい。
【0070】
第1層を構成する第1熱可塑性樹脂及び第3層を構成する第3熱可塑性樹脂は、第1層及び第3層を剥離除去する工程を容易に実施できるよう、第2層を構成する第2熱可塑性樹脂に対して非接着性であることが好ましい。
第2熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル樹脂を含むか、又は(メタ)アクリル樹脂からなる場合、第1熱可塑性樹脂及び第3熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂が挙げられる。オレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂等が挙げられる。
【0071】
エチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、エチレンに由来する単量体単位の含有量が50質量%より多い共重合体が挙げられる。具体的には、エチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-デセン共重合体、エチレン-1-ブテン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-オクテン共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物等が挙げられる。
【0072】
プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンに由来する単量体単位の含有量が50質量%以上である共重合体である。プロピレンに由来する単量体単位の含有量が50質量%以上である共重合体としては、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン単独重合体成分とプロピレンと、エチレン及び/又は炭素数4以上のα-オレフィンからなる群より選ばれる1種以上のコモノマーとの共重合体成分とからなるプロピレン系ブロック共重合体が挙げられる。プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体としては、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体が挙げられる。プロピレン-エチレン-α-オレフィンランダム共重合体としては、プロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセンランダム共重合体が挙げられる。均一なプレス延伸性の観点からプロピレン系樹脂としては、プロピレン系ブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体が好ましい。
【0073】
第1熱可塑性樹脂及び第3熱可塑性樹脂に用いられるオレフィン系樹脂は、それぞれ、2種以上のエチレン系樹脂の混合物、2種以上のプロピレン系樹脂の混合物、又は、1種以上のエチレン系樹脂と1種以上のプロピレン系樹脂との混合物であってもよい。
【0074】
オレフィン系樹脂は、延伸処理の均一性を高める観点から、融点が100℃以上、170℃以下の範囲内であることが好ましい。
オレフィン系樹脂のメルトフローレート(温度230℃、荷重2.16kgf)は、延伸処理の均一性を高める観点から、好ましくは0.05g/10分以上、10g/10分以下であり、より好ましくは0.1g/10分以上、6g/10分以下である。
【0075】
成形体の製造方法は、延伸処理の前に、非晶性樹脂を含む樹脂組成物又は非晶性樹脂を、非晶性樹脂のガラス転移温度Tgより60℃低い温度(Tg-60℃)以上で加熱する工程をさらに含むことができる。
【0076】
成形体の製造方法は、延伸工程又は加熱工程の前に、非晶性樹脂を含む樹脂組成物又は非晶性樹脂を成形して未延伸成形体を製造する工程をさらに含むことができる。この場合、未延伸成形体が、延伸工程、又は加熱工程及び延伸工程に供される。
未延伸成形体を製造するための成形方法としては、例えば、押出成形法、射出成形法、熱板プレス成形法等が挙げられる。
未延伸成形体の形状は特に制限されないが、好ましくは板状、シート状又はフィルム状である。未延伸成形体の形状が板状、シート状又はフィルム状等である場合、未延伸成形体の面形状は、延伸処理の均一性を高める観点から、該成形体の重心位置から各頂点又は各辺までの最長の距離と最短の距離との比(最長距離/最短距離)が1.0~2.1の範囲であることが好ましい。面形状が例えば正方形の場合、前記最長距離/最短距離は1.4である。
【0077】
成形体の製造方法は、加熱工程の前に、若しくは加熱工程を実施しながら、又は未延伸成形体を製造する工程の前に、前述の添加剤等の他の配合成分と、非晶性樹脂とを混合又は混練する工程をさらに含むことができる。
【0078】
成形体の製造方法は、延伸により得られた成形体を延伸温度よりも低い温度であって、非晶性樹脂のガラス転移温度よりも高い温度で保持する保持工程をさらに含むことができる。
保持工程で保持される成形体には、圧力が印加されることが好ましく、この圧力は比較的小さいことがより好ましい。保持工程の圧力は、0.1MPa以上、延伸時の圧力以下であることが好ましい。保持工程の圧力が0.1MPa未満であると、成形体が収縮し始める可能性がある。保持工程の圧力が延伸時の圧力を超えると、成形体が変形又は破壊する可能性がある。
保持工程の時間は、例えば10分間以上、数時間以下であってよい。
保持工程は、具体的には、上記温度下において、延伸により得られた成形体を圧縮プレス機中又は冷却プレス機上等で保持する工程であることができる。
後述する冷却工程の後に、保持工程を実施してもよい。
【0079】
成形体の製造方法は、延伸により得られた成形体を非晶性樹脂のガラス転移温度Tgより60℃低い温度(Tg-60℃)未満に冷却する冷却工程をさらに含むことができる。冷却工程により延伸により配向を成形体に固定することができる。
冷却工程としては、圧縮プレス機中、あるいは冷却プレス機上等で冷却する方法が挙げられる。
【0080】
冷却工程における冷却速度が大きいほど、成形体に延伸による配向が残りやすく、厚み方向の配向度の絶対値が高くなりやすいとともに、耐衝撃性に優れる成形体が得られやすくなる。冷却後の成形体の温度は、成形体が収縮しない温度であれば特に制限されないが、温度が低いほど、成形体に延伸による配向が残りやすく、厚み方向の配向度の絶対値が高くなりやすいとともに、耐衝撃性に優れる成形体が得られやすくなる。
冷却方法は特に制限されないが、延伸時の負荷(圧力、張力等)を維持したままで冷却することが、外観の良く、所定の厚さの成形体を精度良く得られるという観点で好ましい。
【実施例
【0081】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合しうる範囲で適宜修正を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0082】
本明細書中で採用した測定方法及び評価方法は次のとおりである。
【0083】
1.成形体を構成する非晶性樹脂の粘度換算平均分子量
粘度換算平均分子量は、下記式に従って求めた。
lnM={ln[η]-ln(4.8×10-5)}/0.8
(式中、Mは粘度平均分子量を表し、[η]はJIS Z8803に準拠してウベローデ粘度計により測定した極限粘度を表す。)
【0084】
2.成形体を構成する非晶性樹脂の重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件で測定した。なお、前処理として、溶離液にて溶解後、0.45μmメンブランフィルターによってろ過したものを測定溶液とした。
カ ラ ム:TSKgel SuperHM-H×2
(6.0mm I.D.×150mm×2本)
溶 離 液:THF
流 量:0.3mL/min
検 出 器:RI検出器
カラム温度:40℃
注 入 量:20μL
分子量標準:標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)
【0085】
3.成形体を構成する非晶性樹脂のガラス転移温度Tg
成形体を構成する非晶性樹脂のガラス転移温度は、JIS K 7121に基づき、示差走査熱量測定装置(セイコーインスツル株式会社製 DSC7020)を用いて中間点ガラス転移温度を測定し、これをガラス転移温度Tgとした。
【0086】
4.ピーク位置Q1、ピーク位置Q2及びピーク位置変化率r
(1)ピーク位置Q1
ピーク位置Q1は、広角X線回折(WAXD:Wide Angle X-ray Diffraction)により求められる。厚み方向に平行な断面で成形体を切り出し、これを測定用試料とした。得られた測定用試料の断面に垂直な方向の寸法は1mmとした。また、断面の寸法は、厚み方向が3mm、厚み方向に垂直な方向が10mmとした。
X線回折装置を用い、得られた測定用試料の厚み方向を鉛直方向に設置し、断面に対して垂直な方向からX線を測定用試料の一方の断面に照射し、透過法での回折像の撮像及びダイレクトビームの透過光強度Aの測定を行った。
得られた回折像から、水平方向の未補正セクター平均プロファイル(散乱ベクトルの大きさ(Q)-強度プロファイル)I(Q)を算出した。水平方向の未補正セクター平均プロファイルは、方位角度φ=-20度~+20度とφ=160度~200度の範囲の平均強度を求めることにより得られた。ただし、方位角度φはX線源からみて水平右向き方向をφ=0度、鉛直上向き方向をφ=90度と定義する。未補正セクター平均プロファイルとは、バックグラウンド補正を実施する前のセクター平均プロファイルをいう。X線の光軸上から測定用試料を取り外したこと以外は同じ条件で測定を行い、バックグラウンドのセクター平均プロファイルI(Q)の算出及びダイレクトビームAの透過光強度の測定を行った。下記式(2)に基づいて透過率補正を行った上で、上記の未補正セクター平均プロファイルからバックグラウンドを除去して、バックグラウンド補正後のセクター平均プロファイルI(Q)を得た。
I(Q)=I(Q)/A-I(Q)/A (2)
非晶性樹脂に由来するI(Q)のピークであって、Q=5nm-1~25nm-1の範囲にあるピークのうち、Qが最も小さいピークにおける該Qの値をQ1とした。
なお、下記いずれの実施例及び比較例においても、得られた補正後のセクター平均プロファイルI(Q)のS/N比は100程度であった。下記いずれの実施例及び比較例においても、得られた補正後のセクター平均プロファイルI(Q)に対して、カーネルサイズ3のガウシアンフィルタを3回実行するスムージング処理を行った(使用ソフト:Igor Pro 6.2)。また、スムージング処理後のI(Q)に対して、3次スプライン補間を行い、データ間隔を0.003nm-1にした(使用ソフト:Igor Pro 6.2)。
実施例6及び比較例3については、成形体から測定用試料を3つ切り出し、これらそれぞれについて、上記に従ってピーク位置Q1を求めた(n=3)。得られた3つのピーク位置Q1の値は実質的に同一であり、n=1の測定で十分に信頼できる測定値が得られることが確認された。以下のピーク位置Q2及びピーク位置変化率rについても同様であった。
【0087】
(2)ピーク位置Q2
成形体を、大気圧下、(Tg+30)℃で1時間加熱処理して参照成形体を得た。Tgは、成形体を構成する非晶性樹脂のガラス転移温度(℃)である。この参照成形体について、上記(1)と同じ手順に従ってピーク位置を求め、これをピーク位置Q2とした。
【0088】
(3)ピーク位置変化率r
下記式(1):
ピーク位置変化率r(%)=100×(Q1-Q2)/Q2 (1)
に従って、ピーク位置変化率rを求めた。
【0089】
5.厚み方向の配向度
得られた成形体について、セナルモン法によるリタデーションの測定を行った。光源には赤色(波長632.8nm)のレーザー光を用いた。リタデーションの測定値から、鞠谷雄士、伊藤浩志、「プラスチック成形品の高次構造解析入門」、第72-74頁、プラスチック成形加工学会編、日刊工業新聞社(2006)に記載の方法に従って3つの主屈折率Nx、Ny、Nzを算出した。一つの主屈折率軸を中心に成形体を回転させ、2方向からリタデーションを測定することによりNx、Ny、Nzを算出し、下記式(3)を用いて厚み方向の配向度fzを算出した。下記式(3)中、Δnは成形体の固有複屈折である。成形体の固有複屈折Δn(ポリメタクリル酸メチルの固有複屈折)は、-0.004とした(王子計測機器株式会社 技術資料「42.複屈折と配向関数」,2012年8月,http://www.oji-keisoku.co.jp/products/kobra/reference.html より)。下記の表1には、厚み方向の配向度fzの絶対値を示している。
fz=[(Nz-Nx)+(Nz-Ny)]/(2Δn) (3)
【0090】
6.曲げ弾性率
得られた成形体から幅10mm、長さ80mm、厚さ3mmの試験片を作製した。得られた試験片についてJIS K7171に準拠して曲げ弾性率を測定した。この値が高いほど剛性に優れる。
【0091】
7.シャルピー衝撃値
得られた成形体から幅10mm、長さ80mm、厚さ3mmの試験片を作製した。得られた試験片についてJIS K 7111に準拠してフラットワイズ衝撃を加えた際のシャルピー衝撃値を測定した。シャルピー衝撃値が大きいほど、耐衝撃性に優れる。
【0092】
8.面内方向の線膨張係数
得られた成形体から幅5mm、長さ10mm、厚さ3mmの試験片を作製した。得られた試験片について以下の条件で面内方向の線膨張係数を測定した。線膨張係数の値が小さいほど、熱収縮性に優れる。
測定機器:TMA6100(セイコーインスツル株式会社製)
測定モード:圧縮
測定温度:25℃-80℃
測定荷重:50mN
昇温速度:5℃/分
測定雰囲気:窒素
試験片の断面積:試験片の上部、中部及び下部の各1点において、幅及び厚みをデジマチックインジケータで測定した。得られた3点の幅、3点の厚みを平均して求められる平均幅及び平均厚みから断面積を求めた。
なお、上記測定方法によって得られる線膨張係数は、収縮による線膨張係数の低下を考慮していない。
【0093】
9.収縮温度の測定
得られた成形体から幅5mm、長さ10mm、厚さ3mmの試験片を作製した。得られた試験片について以下の条件で面内方向の収縮温度を測定した。収縮温度が高いほど、耐熱性に優れる。得られたTMA曲線の最大値を示す温度を収縮温度と定義した。
測定機器:TMA6100(セイコーインスツル株式会社製)
測定モード:圧縮
測定温度:25℃-100℃
測定荷重:50mN
昇温速度:5℃/分
測定雰囲気:窒素
試験片の断面積:試験片の上部、中部及び下部の各1点において、幅及び厚みをデジマチックインジケータで測定した。得られた3点の幅、3点の厚みを平均して求められる平均幅及び平均厚みから断面積を求めた。
【0094】
<実施例1>
(1)メタクリル樹脂シートの製造
メチルメタクリレート(MMA)99.9質量部と、重合開始剤としてのAIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.1質量部とを混合して混合物を得た。次いで、2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が6mmのセルに、得られた混合物を流し込み、空気を熱媒とする重合槽中で、60℃にて7時間、次いで120℃にて40分加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:114℃、粘度換算平均分子量:120万、重量平均分子量:230万)を得た。
【0095】
(2)延伸による成形体の製造
厚み100μmのポリプロピレンシート(プロピレン系ブロック共重合体、メルトフローレート(温度230℃、荷重2.16kgf)=0.8g/10分。以下、「ポリプロピレンシートA」という。)を載せ、その上に上記(1)で得られたメタクリル樹脂シートを60mm×60mmのサイズに切り出したサンプルを設置した。さらにサンプルの上に厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、80℃の恒温槽で40分加熱した。次いで、ダイを80℃に加熱したプレス機(株式会社神藤金属工業所製 単動圧縮成形機 NSF-70型 締め圧力70トン)にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行った。また、延伸後ただちにプレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、延伸メタクリル樹脂シートからなり、二軸配向された成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
メタクリル樹脂シートを構成するメタクリル樹脂の粘度換算平均分子量及びガラス転移温度(Tg)、並びにメタクリル樹脂シートの延伸条件を併せて表1に示す(下記の実施例・比較例についても同様)。
【0096】
<実施例2>
2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が8mmのセルとし、得られた混合物を流し込み、空気を熱媒とする重合槽中で、50℃にて15時間、次いで120℃にて60分加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:114℃、粘度換算平均分子量:120万、重量平均分子量:230万)を得たこと以外は実施例1と同様にして、成形体を得た(3mmの厚みになるまでプレス延伸)。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0097】
<実施例3>
2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が10mmのセルとし、得られた混合物を流し込み、空気を熱媒とする重合槽中で、50℃にて18時間、次いで120℃にて60分加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:114℃、粘度換算平均分子量:120万、重量平均分子量:230万)を得たこと以外は実施例1と同様にして、成形体を得た(3mmの厚みになるまでプレス延伸)。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0098】
<実施例4>
100℃の恒温槽で40分加熱し、ダイを100℃に加熱したプレス機にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行ったこと以外は実施例2と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0099】
<実施例5>
100℃の恒温槽で40分加熱し、ダイを100℃に加熱したプレス機にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行ったこと以外は実施例3と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0100】
<実施例6>
ペレット状のメタクリル系樹脂(住友化学(株)製「スミペックスMH」)を加熱圧縮成形機を用いて成形温度210℃で、10mmの厚さを有する60mm角のメタクリル樹脂シート(Tg:110℃、粘度換算平均分子量:6万、重量平均分子量:13万)を作製したこと以外は実施例5と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0101】
<実施例7>
(1)メタクリル樹脂シートの製造
メチルメタクリレート(MMA)99.9質量部と、重合開始剤としてのAIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.1質量部とを混合して混合物を得た。次いで、2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が10mmのセルに、得られた混合物を流し込み、温水を熱媒とする重合槽中で、60℃にて5時間、次いで空気を熱媒とする重合層中で120℃にて5時間加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:119℃、粘度換算平均分子量:370万、重量平均分子量:400万)を得た。
【0102】
(2)延伸による成形体の製造
厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、その上に上記(1)で得られたメタクリル樹脂シートを八角形状(140mm×140mmの正方形状の四隅から、1辺が15mmの二等辺三角形を切出した形状)に切り出したサンプルを設置した。さらにサンプルの上に厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、120℃の恒温槽で40分加熱した。次いで、ダイを120℃に加熱したプレス機(三起精工株式会社製トライアウトプレスCFR-1812-300FG、締め圧力300トン)にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行った。また、延伸後ただちにプレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、延伸メタクリル樹脂シートからなり、二軸配向された成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は142MPaであった。
【0103】
<実施例8>
(1)メタクリル樹脂シートの製造
メチルメタクリレート(MMA)99.9質量部と、重合開始剤としてのAIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.1質量部とを混合して混合物を得た。次いで、2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が10mmのセルに、得られた混合物を流し込み、温水を熱媒とする重合槽中で、60℃にて5時間、次いで空気を熱媒とする重合層中で120℃にて5時間加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:119℃、粘度換算平均分子量:370万、重量平均分子量:400万)を得た。
【0104】
(2)延伸による成形体の製造
厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、その上に上記(1)で得られたメタクリル樹脂シートを60mm×60mmのサイズに切り出したサンプルを設置した。さらにサンプルの上に厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、100℃の恒温槽で40分加熱した。次いで、ダイを100℃に加熱したプレス機(株式会社神藤金属工業所製 単動圧縮成形機 NSF-70型 締め圧力70トン)にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行った。また、延伸後ただちにプレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、延伸メタクリル樹脂シートからなり、二軸配向された成形体を得た。
【0105】
(3)保持工程を含む成形体の製造
上記で得られたプレス延伸シートを100μmのポリプロピレンシートAで挟み、ダイを80℃に加熱したプレス機(株式会社東洋精機製作所製 試験用加硫プレス機 No.288 締め圧力30トン)に設置し、1MPaの負荷を30分間保持した(保持工程)。その後、プレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、保持工程を施した成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は130MPaであった。
【0106】
<実施例9>
(1)メタクリル樹脂シートの製造
メチルメタクリレート(MMA)84.9質量部、メタクリル酸(MAA)15質量部と、重合開始剤としてのAIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.05質量部及びtert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエイト0.05質量部とを混合して混合物を得た。次いで、2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が10mmのセルに、得られた混合物を流し込み、空気を熱媒とする重合槽中で、50℃にて15時間、次いで70℃にて1時間、次いで120℃にて2時間加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:136℃、重量平均分子量:55万)を得た。
【0107】
(2)延伸による成形体の製造
厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、その上に上記(1)で得られたメタクリル樹脂シートを60mm×60mmのサイズに切り出したサンプルを設置した。さらにサンプルの上に厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、120℃の恒温槽で40分加熱した。次いで、ダイを120℃に加熱したプレス機(株式会社神藤金属工業所製 単動圧縮成形機 NSF-70型 締め圧力70トン)にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行った。また、延伸後ただちにプレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、延伸メタクリル樹脂シートからなり、二軸配向された成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は148MPaであった。また得られた成形体の収縮温度は70℃であった。
【0108】
<実施例10>
140℃の恒温槽で40分加熱し、ダイを140℃に加熱したプレス機にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行ったこと以外は実施例9と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は150MPaであった。
【0109】
<実施例11>
(1)メタクリル樹脂シートの製造
メチルメタクリレート(MMA)84.9質量部、メタクリル酸(MAA)15質量部と、重合開始剤としてのAIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.05質量部及びtert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエイト0.05質量部とを混合して混合物を得た。次いで、2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が10mmのセルに、得られた混合物を流し込み、空気を熱媒とする重合槽中で、50℃にて15時間、次いで70℃にて1時間、次いで120℃にて2時間加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:136℃、重量平均分子量:55万)を得た。
【0110】
(2)延伸による成形体の製造
厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、その上に上記(1)で得られたメタクリル樹脂シートを60mm×60mmのサイズに切り出したサンプルを設置した。さらにサンプルの上に厚み100μmのポリプロピレンシートAを載せ、100℃の恒温槽で40分加熱した。次いで、ダイを100℃に加熱したプレス機(株式会社神藤金属工業所製 単動圧縮成形機 NSF-70型 締め圧力70トン)にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行った。また、延伸後ただちにプレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、延伸メタクリル樹脂シートからなり、二軸配向された成形体を得た。
【0111】
(3)保持工程を含む成形体の製造
上記で得られたプレス延伸シートを100μmのポリプロピレンシートAで挟み、ダイを80℃に加熱したプレス機(株式会社東洋精機製作所製 試験用加硫プレス機 No.288 締め圧力30トン)に設置し、1MPaの負荷を30分間保持した(保持工程)。その後、プレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、保持工程を施した成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は147MPaであった。
【0112】
<実施例12>
実施例9で得られたプレス延伸シートを100μmのポリプロピレンシートAで挟み、ダイを80℃に加熱したプレス機(株式会社東洋精機製作所製 試験用加硫プレス機 No.288 締め圧力30トン)に設置し、1MPaの負荷を30分間保持した(保持工程)。その後、プレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、保持工程を施した成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は149MPaであった。
【0113】
<実施例13>
保持工程においてダイの温度を100℃としたこと以外は実施例12と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は146MPaであった。また得られた成形体の収縮温度は99℃であった。
【0114】
<実施例14>
保持工程においてダイの温度を120℃としたこと以外は実施例12と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は135MPaであった。また得られた成形体の収縮温度は100℃以上であった。
【0115】
<実施例15>
実施例10で得られたプレス延伸シートを100μmのポリプロピレンシートAで挟み、ダイを80℃に加熱したプレス機(株式会社東洋精機製作所製 試験用加硫プレス機 No.288 締め圧力30トン)に設置し、1MPaの負荷を30分間保持した(保持工程)。その後、プレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、保持工程を施した成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は148MPaであった。
【0116】
<実施例16>
保持工程においてダイの温度を100℃としたこと以外は実施例15と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は149MPaであった。
【0117】
<実施例17>
保持工程においてダイの温度を120℃としたこと以外は実施例15と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は143MPaであった。
【0118】
<実施例18>
実施例7で得られたプレス延伸シートを100μmのポリプロピレンシートAで挟み、ダイを90℃に加熱したプレス機(株式会社東洋精機製作所製 試験用加硫プレス機 No.288 締め圧力30トン)に設置し、1MPaの負荷を120分間保持した(保持工程)。その後、プレス機のダイ内に通水し、ダイを冷却することで、プレス負荷をかけたままおよそ6分で50℃まで冷却した。50℃まで冷却したサンプルを取出し、2つのポリプロピレンシートAを剥離除去して、保持工程を施した成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は136MPaであった。また得られた成形体の収縮温度は86℃であった。
【0119】
<比較例1>
2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が4mmのセルとし、得られた混合物を流し込み、空気を熱媒とする重合槽中で、60℃にて6時間、次いで120℃にて40分加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:114℃、粘度換算平均分子量:120万、重量平均分子量:230万)を得たこと以外は実施例4と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0120】
<比較例2>
140℃の恒温槽で40分加熱し、ダイを140℃に加熱したプレス機にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0121】
<比較例3>
140℃の恒温槽で40分加熱し、ダイを140℃に加熱したプレス機にて3mmの厚さになるまでプレス延伸を行った以外は実施例2と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0122】
<比較例4>
メチルメタクリレート(MMA)99.9質量部と、重合開始剤としてのAIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.1質量部とを混合して混合物を得た。次いで、2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が3mmのセルに、得られた混合物を流し込み、空気を熱媒とする重合槽中で、60℃にて3時間、次いで120℃にて40分加熱して重合させ、メタクリル樹脂シート(Tg:114℃、粘度換算分子量120万、重量平均分子量:230万)を得た。
得られた成形体(無延伸のメタクリル樹脂シート)のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。
【0123】
プレス延伸を行わなかったこと以外は実施例9と同様にして、成形体を得た。
得られた成形体のピーク位置変化率r、ピーク位置Q1、厚み方向の配向度の絶対値、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び面内方向の線膨張係数を評価した。表1に結果を示す。また曲げ試験における曲げ強度は118MPaであった。また得られた成形体の収縮温度は100℃以上であった。
【0124】
【表1】
【0125】
表1において「>80」とは、試験サンプル5本中、割れなかったサンプルを除いた評価結果の平均が80kJ/mであり、本サンプルのシャルピー衝撃値が80kJ/mよりも大きいことを指す。
【0126】
実施例1~18の成形体は、比較例1~5の成形体とは異なり、良好な曲げ弾性率(剛性)と良好な耐衝撃性とを兼ね備えている。また、実施例1~18の成形体は、比較例1~5の成形体と比べて、面内方向の線膨張係数が小さい。