(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】パラキシレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 1/12 20060101AFI20230728BHJP
C07C 15/08 20060101ALI20230728BHJP
C07C 1/04 20060101ALI20230728BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
C07C1/12
C07C15/08
C07C1/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021078065
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2022-01-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/化学品へのCO2利用技術開発/CO2を原料としたパラキシレン製造に関する技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】広畑 修
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正
(72)【発明者】
【氏名】正垣 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 有理愛
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-205969(JP,A)
【文献】特表2020-535966(JP,A)
【文献】特表2015-507612(JP,A)
【文献】特開平08-157399(JP,A)
【文献】特開昭58-035128(JP,A)
【文献】特開2009-120897(JP,A)
【文献】特開2015-189721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素または一酸化炭素またはその両方と水素との混合ガスを主原料としてパラキシレンを製造する方法であって、該混合ガスを含む原料混合ガスを高温高圧下で反応触媒に接触させることにより反応させてパラキシレンを含む生成ガス混合物を取得する反応工程と、該反応工程で得られた生成ガス混合物を冷却することにより高沸点成分を凝結させて水溶性成分を含む水相とキシレン混合物を含む油相と未反応ガスを含む気相とに分離する分離工程と、該分離工程で分離された気相の少なくとも一部を原料混合ガスに混合する循環工程とを含
み、前記循環工程において、循環ガスの一部をパージし、パージしたガスから分離回収した水素を原料混合ガスに混合することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反応工程で用いられる反応触媒が、クロム、亜鉛および銅から選択される少なくとも1種の金属の酸化物を含む触媒とケイ素を含む化合物で表面を被覆したZSM-5系ゼオライトを含む触媒との混合物を含む混合触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応工程において、原料混合ガスを反応温度250~600℃、反応圧力1~10MPaGで反応触媒に接触させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記分離工程において、生成ガス混合物を冷却して得られた気液混合物を、まず液相と気相とに分離し、次いで分離された液相を比重差を利用した分離法で油相と水相とに分離する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記循環工程において、パージ
したガスから水素を
分離回収する方法として、PSA(Pressure Swing Adsorption)または水素分離膜を用いる、請求項
1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記循環工程において
、パージ
したガス
の一部を燃料ガスとして有効利用する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記原料混合ガスと前記生成ガス混合物とを熱交換させた後、該原料混合ガスを反応工程に移送する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
火力発電所もしくは加熱炉の燃焼排ガスから分離された二酸化炭素、アンモニア製造装置、エチレングリコール製造装置もしくは水素製造装置において分離された二酸化炭素、石炭、バイオマスもしくはゴミのガス化炉の生成ガスから分離された二酸化炭素、製鉄所の高炉から分離された二酸化炭素、または大気中の空気から分離した二酸化炭素を、原料混合ガスを構成する二酸化炭素の少なくとも一部として用いる、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスまたは原子力により発生した電力を用いて水を電気分解することで生成された水素を、原料混合ガスを構成する水素の少なくとも一部として用いる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ガス化炉により生成された合成ガス、製鉄所の高炉から排出されるオフガス、水素製造装置において分離されたオフガス、水と二酸化炭素の共電解により生成された合成ガス、または水素と二酸化炭素の逆シフト反応により生成された合成ガスを、原料混合ガスの少なくとも一部として用いる、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素または一酸化炭素と水素との混合ガスを主原料としてパラキシレンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維やポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の原料として有用なパラキシレンは、従来、石油化学コンプレックスの中でナフサの改質反応により製造されているが、この方法は化石(石油)資源を必要とするうえ、製造過程において大量の二酸化炭素を排出する。
【0003】
一方、化石資源を用いずにパラキシレンを製造する方法としては、一酸化炭素と水素からなる所謂合成ガスを原料として用いる方法が既に提案されている(非特許文献1、特許文献1)。この方法は、合成ガスをZnCr2O4スピネル構造の触媒等によりメタノールに変換し、次いでメタノールをH-ZSM-5ゼオライト(プロトン型のZSM-5ゼオライト)の外表面をシリカライト-1で被覆した触媒等によりパラキシレンを含む芳香族化合物に変換するものである。そして、これらの触媒を混合して用いることで一酸化炭素と水素から一段の反応操作でパラキシレンを合成するものである。また、一酸化炭素の代わりに二酸化炭素を用い、これと水素とを原料としてパラキシレンを一段で合成する方法も提案されている(特許文献2)。特許文献2の方法は、メタノール合成触媒として酸化クロム触媒を用い、パラキシレン合成触媒としてH-ZSM-5ゼオライトにシリカライト-1を被覆したものを用いることでパラキシレンの生成効率を向上させるとともに、メタノール合成触媒とパラキシレン合成触媒を混合して用いることで二酸化炭素と水素から一段の反応操作でパラキシレンを合成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2020-535966号公報
【文献】特開2019-205969号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Peipei Zhang et al., Chemical Science, The Royal Society of Chemistry, 2017年10月, 第8巻、7941~7946項
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、実施例1で、酸化クロムを含む触媒とシリカライト-1で被覆したH-ZSM-5ゼオライトを含む触媒とを混合した触媒を用い、二酸化炭素と水素との混合ガスからパラキシレンを高収率で合成している。一方、比較例1では酸化クロムを含む触媒に代えてクロム亜鉛酸化物を含む触媒を用い、比較例2では更にシリカライト-1で被覆するH-ZSM-5の一部の酸点を亜鉛でドープ(イオン交換)したものを含む触媒を用いている。しかしながら、実施例1においても、パラキシレンの収率は7.61%であり、比較例1の3.42%や比較例2の5.06%に比べれば高いものの、CO2転化率が低い点では比較例と変わらない。従って、未反応ガスの再利用を含めたプロセス全体として、パラキシレンの収率向上や消費エネルギーの削減を図っていく必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、二酸化炭素または一酸化炭素またはその両方と水素との混合ガスを主原料としてパラキシレンを製造する方法であって、該混合ガスを含む原料混合ガスを高温高圧下で反応触媒に接触させることにより反応させてパラキシレンを含む生成ガス混合物を取得する反応工程と、該反応工程で得られた生成ガス混合物を冷却することにより高沸点成分を凝結させて水溶性成分を含む水相とキシレン混合物を含む油相と未反応ガスを含む気相とに分離する分離工程と、該分離工程で分離された気相の少なくとも一部を原料混合ガスに混合する循環工程とを含むことを特徴とする方法を提供し、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、反応工程においてケイ素を含む化合物(好ましくはシリカライト-1)で被覆したZSM-5系ゼオライトを触媒として用いるため、分離工程において生成ガス混合物から分離された油相中に含まれるパラキシレンの割合が大きくなり、精製工程(蒸留、吸着分離、異性化、不均化)に必要なエネルギーが少なくて済む。加えて、分離工程において分離された気相中に含まれるガス(の体積)の大半を占める未反応ガス(二酸化炭素と一酸化炭素と水素)が反応工程に戻されるため、プロセス全体としての収率が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の方法を実施するのに適した装置の一例(第1の形態)を示す。
【
図2】本発明の方法を実施するのに適した装置の第2の形態を示す。
【
図3】本発明の方法を実施するのに適した装置の第3の形態を示す。
【
図4】本発明の方法を実施するのに適した装置の第4の形態を示す。
【
図5】実施例1及び2のシミュレーションで想定したプロセスフローを示す。
【
図6】実施例3のシミュレーションで想定したプロセスフローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法は、二酸化炭素または一酸化炭素またはその両方と水素との混合ガスを主原料としてパラキシレンを製造する方法であって、該混合ガスを含む原料混合ガスを高温高圧下で反応触媒に接触させることにより反応させてパラキシレンを含む生成ガス混合物を取得する反応工程と、該反応工程で得られた生成ガス混合物を冷却することにより高沸点成分を凝結させて水溶性成分を含む水相とキシレン混合物を含む油相と未反応ガスを含む気相とに分離する分離工程と、該分離工程で分離された気相の少なくとも一部を原料混合ガスに混合する循環工程とを含む。
【0011】
<反応工程>
一酸化炭素と水素との混合物すなわち合成ガスからパラキシレンを含む生成物を製造する場合には、式(1)に示すように一酸化炭素の水素化によりメタノールやジメチルエーテルが生成し、こうして生成したメタノールやジメチルエーテルが式(2)に示すように低級オレフィンを経由して各種芳香族化合物の混合物を生成するとされている。
2CO+2H2 ⇒ 2CH3OH (⇔ CH3OCH3+H2O) (1)
CH3OCH3 ⇒ C2H4、C3H6等 ⇒ 各種芳香族化合物 (2)
【0012】
この場合、式(1)のメタノール合成反応を進行させるための触媒としては、亜鉛(または銅)とクロムの複合酸化物からなるスピネル構造の触媒を好適に用いることができ、式(2)の反応を進行させてパラキシレンを選択的に合成するための触媒としては、Zn/H-ZSM-5ゼオライトを好適に用いることができる。このとき、Zn/H-ZSM-5ゼオライトの外表面をケイ素を含む化合物(好ましくはシリカライト-1のようにZSM-5ゼオライトと同じ格子構造をもち酸点を有しないもの)で被覆すれば、生成混合物中のパラキシレンの割合を高めることができる。なお、これらの触媒を混合して用いれば、式(1)の反応と式(2)の反応が連続ないし並行して進行するため、1段の反応器でパラキシレンを含む生成物を製造できる。
【0013】
一方、二酸化炭素と水素との混合ガスを主原料としてパラキシレンを含む生成物を製造する場合には、メタノールを生成する反応が式(3)に示すように進行する。
CO2+3H2 ⇒ CH3OH+H2O (3)
すなわち、メタノールが生成される際に副生される水の量が多くなるため、特許文献2に記載されるように、式(3)の反応を進行させる触媒として上記亜鉛(または銅)とクロムの複合酸化物からなる触媒ではなく(亜鉛または銅を含まない)酸化クロムからなる触媒を用い、式(2)の反応を進行させる触媒として亜鉛ドープを行わないプロトン型のH-ZSM-5を用いる方がパラキシレンの収率を上げることができる。
【0014】
すなわち、本発明の反応工程においては、主原料として用いられる混合ガス(以下では「原料混合ガス」という)中の二酸化炭素と一酸化炭素の比率やそれ以外の成分の含有量に応じて、クロム、亜鉛および銅から適宜選択される少なくとも1種の金属の酸化物を含む触媒と、適宜亜鉛等でドープしたH-ZSM-5ゼオライトをシリカライト-1のようなケイ素を含む化合物で被覆したものを含む触媒とを組み合わせて混合して用いればよい。本明細書では、プロトン型あるいは各種イオンでドープ(イオン交換)したH-ZSM-5ゼオライトを、包括的にZSM-5系ゼオライトとよぶが、式(2)の反応においてパラキシレンを選択的に合成するためにはシリカライト-1のようなケイ素を含む化合物で被覆したZSM-5系ゼオライトを用いることが好ましい。なお、後述するように、本発明においては分離工程で分離された気相成分(未反応の二酸化炭素や一酸化炭素を含む)が反応工程に戻されるため、上に述べた二酸化炭素と一酸化炭素の比率やそれ以外の成分の含有量は反応器入口におけるものを考慮すべきである。
【0015】
本発明は、大気中の二酸化炭素濃度の削減に寄与することを目的の一つとしているのであるから、原料混合ガスを構成する二酸化炭素としては、火力発電所や各種加熱炉などの二酸化炭素を発生する燃料を燃焼させる装置からの排ガスから分離された二酸化炭素、アンモニア製造装置やエチレングリコール製造装置や水素製造装置において分離された二酸化炭素、石炭やバイオマスやゴミのガス化炉の生成ガスから分離された二酸化炭素、製鉄所の高炉から分離された二酸化炭素、大気中の空気から分離した二酸化炭素などを利用することが好ましい。
【0016】
また、原料混合ガスを構成する水素としては、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーや原子力により発生した電力を用いて水を電気分解することで生成される水素を用いることが好ましい。
【0017】
特に、原料混合ガスとしては、ガス化炉により生成された合成ガス、製鉄所の高炉から排出されるオフガス、水素製造装置において分離されたオフガス、水と二酸化炭素の共電解により生成された合成ガス、水素と二酸化炭素の逆シフト反応により生成された合成ガスなどを用いることが好ましい。
【0018】
反応器の形式は、原料混合ガス(気体)と反応触媒(固体)との気固接触操作が可能で所望の温度・圧力を維持できるもの(充填床、移動床、流動床など)であれば特に限定されないが、接触効率がよくチャネリングを生じにくく触媒粒子の機械的損傷も少ない点で充填床が好ましい。触媒充填量やガス流速は適宜設定できるが、充填床形式の場合、空間速度(SV)が空塔基準で100~10000/hr程度になるように触媒充填量及びガス流速を設定するのがよい。また、反応温度は250℃~600℃程度、反応圧力は1~10MPaG程度に設定することが好ましい。
【0019】
<分離工程>
反応工程で得られたパラキシレンを含むガス混合物は、これを後段の分離工程で冷却することにより、パラキシレンを含む高沸点成分を凝縮させる。液相はさらに反応で生成した水やアルコールなどの水溶性成分を含む水相と水と混和しない芳香族成分等(パラキシレンを含む)を含む油相とに分かれる。すなわち、気液分離器の底側から順に下層をなす水相と中層をなす油相と上層をなす気相とに分かれるため、各相の流体をそれぞれの層が形成されている位置から装置外部へ抜き出せばよい。あるいは、気液混合物をまず気相と液相とに分けた後、液相を遠心分離や沈降分離などの比重差を利用した分離法で油相と水相とに分離してもよい。
【0020】
<精製工程>
気液分離器から抜き出された油相は、目的化合物であるパラキシレン以外に、ベンゼン、トルエン、オルトキシレン、メタキシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどといった他の芳香族化合物も含むため、必要に応じてこれらを分離する。このため、油相に対しては先ず蒸留操作によりキシレン類(オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン、エチルベンゼン)より沸点が低いベンゼンやトルエンを低沸点分として、またキシレン類より沸点が高いトリメチルベンゼンを高沸点分として分離することが好ましい。一方、オルトキシレン、メタキシレン、エチルベンゼンの沸点はパラキシレンと近いので、蒸留操作のみでこれらを分離するのは非効率的である。そこで、キシレン留分はこれらの混合物として取得し、次いで、この混合物をゼオライトで吸着分離することが好ましい。
【0021】
ゼオライトはパラキシレンの分子サイズを有する細孔を有するため、パラキシレンをよく吸着するオルトキシレン、メタキシレン、エチルベンゼンは殆ど吸着せず、モレキュラーシーブとして機能する。すなわち、パラキシレン以外の成分(オルトキシレン及びメタキシレンとその他の不純物)はゼオライトに吸着されずに吸着塔を通過するため、ゼオライトを用いてこの混合物の吸着と脱着を繰り返すことにより、パラキシレンを濃縮精製することができる。具体的には、吸着剤(ゼオライト)を詰めた吸着塔にキシレン混合物を流しパラキシレンのみを吸着させ、そのパラキシレンを含む吸着剤に脱着剤を接触させてパラキシレンを脱着させ、脱着剤とパラキシレンの混合物を蒸留塔にて分離することで、高濃度のパラキシレンを得ることができる。
【0022】
<循環工程>
気液分離器から抜き出された気相は、未反応ガスである二酸化炭素、一酸化炭素および水素を含むため、これを反応器の前段である加熱器の入口側に戻して反応器に循環させる。しかしながら、気相にはこれらの未反応ガス以外に、副生物である炭素数1~4の低級アルカン(主にメタン)が含まれており、こうした低級アルカンは反応器内でのパラキシレン合成反応には殆ど与らないため、循環路内のガスにこれらの低級アルカンが次第に蓄積してくる。そこで、循環路内のガスの一部は外部にパージする必要がある。循環量全体の1~20体積%程度をパージすれば循環路中の低級アルカン濃度を40体積%未満に維持できる。
【0023】
<その他の付属的工程>
パラキシレンを増産するために、必要に応じて、異性化処理、不均化処理をすることが望ましい。精製工程で高純度パラキシレンを取得した後に残るオルトキシレンおよびメタキシレンは、異性化処理を行って一部をパラキシレンに変換した後、精製工程の入口側に戻すことができる。具体的には、パラキシレンを分離した後のオルトキシレンおよびメタキシレンの混合物を加熱し、ゼオライト触媒を詰めた反応器に通すことで異性化処理を行う。
【0024】
また、蒸留で分離されたトルエンやトリメチルベンゼンは、不均化処理を行って一部をパラキシレンを含むキシレン混合物に変換したのち、精製工程の入り口側に戻すことができる。具体的には、トルエンやトリメチルベンゼンを含む混合物を加熱し、ゼオライト触媒を詰めた反応器に通すことで不均化処理を行う。
【0025】
循環工程でパージされたガスは、未反応ガスである二酸化炭素のほかに、一酸化炭素および水素、ならびに低級アルカンを含むため、燃料用のガスとして用いることができる。ただし、原料ガスとして必要な水素量を減らすため、このパージガスに含まれる水素については、膜分離や吸着分離(Pressure Swing Adsorption等)などにより分離し、パージガスから水素のみを回収してリサイクルすることが好ましい。
【0026】
また、水素に加え、二酸化炭素や一酸化炭素をパージガスから回収してもよい。適切な膜を用いて膜分離を行えば、これらのガスをパージガスから分離回収することができる。
【0027】
反応器の入口側で行う原料混合ガスの加熱と、反応器の出口側で行う生成ガス混合物の冷却は、生成ガス混合物の冷却で回収された熱を原料混合ガスの加熱に用いるようにすれば、加熱や冷却に必要なエネルギーを節約することができるため好ましい。また、熱交換だけでは十分な生成ガス混合物の冷却が望めない場合には、熱交換操作である程度温度が低下した生成ガス混合物を更に冷却するようにしてもよい。
【実施例】
【0028】
<第1の形態>
図1は、本発明の方法を実施するのに適した装置の一例を示す。本発明の方法において原料混合ガスは、加熱器1で加熱された後、反応器2に導入される。反応器2内にはクロム、亜鉛および銅から選択される少なくとも1種の金属の酸化物を含む触媒とシリカライト-1で被覆したZSM-5系ゼオライトを含む触媒とが混合充填されて混合触媒層を形成しており、反応器に導入された原料ガス混合物は反応器内で250℃~600℃および1~10MPaGの高温高圧雰囲気下に混合触媒と接触することにより反応してパラキシレンを含む生成ガス混合物になる(反応工程)。
【0029】
得られた生成ガス混合物は、冷却器3で常温付近まで冷却されて気液分離器4に導入され、凝縮した高沸点成分は気液分離器内で水溶性成分を含む水相(下層)とパラキシレンを含む油相(中層)と未反応ガスを含む気相(上層)の3層に分離される(分離工程)。
【0030】
中層を形成する油相は、気液分離器4から抜き出された後、まず蒸留分離・吸着分離・異性化処理・不均化処理を組み合わせた精製工程5により、目的の高純度パラキシレンを取得することができるとともに、気液分離器4の出口よりもパラキシレンの量を増加させることができる(精製工程)。
【0031】
上層を形成する気相は、水素、二酸化炭素、一酸化炭素などの未反応ガスを含むため、気液分離器4から抜き出された後、循環ガスとして加熱器1の入口側の原料混合ガスの流れに混合され、再び加熱されて反応器2に戻されることになる。なお、循環ガスの一部は低級アルカンの蓄積を防止するために系外にパージされる(循環工程)。
【0032】
下層を形成する水相は、水溶性有機物などを除去するため排水処理装置6に送られて処理される。一方、循環ガスの一部が抜き出されたパージガスは、燃料ガスとして近くの加熱炉の熱源などに有効利用される。
【0033】
<第2の形態>
図2は、本発明の方法を実施するのに適した装置の別の例を示す。
図2の装置は、基本的な構成は
図1の装置と同じだが、パージガスから水素を分離して循環ガスに合流させる点が異なる。以下、
図2について説明するが、
図1と同一の構成については説明を省略する。
【0034】
パージガスには、未反応の二酸化炭素、一酸化炭素および水素に加えて、反応副生物である低級アルキル(メタン、エタン、プロパンなど)が少量含まれる。これらの低級アルキルは、反応器内でのパラキシレン合成反応に与らないため、循環ガス中に蓄積するのを防止するためにパージガスとして抜き出す必要がある。一方で、パージガス中に含まれる水素は、水素分離膜を用いた膜分離や吸着分離(Pressure Swing Adsorption等)などからなる水素分離器7により、回収できるため、パージガスから水素のみを回収して再び循環ガスに合流させて反応器に戻すことで原料として再利用できる。
【0035】
図2の装置では、パージガスの全量を燃料ガスとして用いる代わりに、そこに含まれる大部分の水素を原料ガスとして再利用するわけであるから、原料水素使用量を減少させることになる。
【0036】
<第3の形態>
図3は、本発明の方法を実施するのに適した装置の更に別の例を示す。
図3の装置は、基本的な構成は
図1の装置と同じだが、原料混合ガスの加熱(予熱)と生成ガス混合物の冷却を熱交換器8により行う点が異なる。以下、
図3について説明するが、
図1と同一の構成については説明を省略する。
【0037】
本発明は、二酸化炭素をパラキシレン製造の原料として用いることで、大気中の二酸化炭素濃度の低減を図ることを目的の一つとしている。従って、本発明のプロセスの中での二酸化炭素排出量およびそれにつながるエネルギー消費量は極力減らすべきである。
図3の装置は、原料混合ガスの加熱のために外部から投入しなければいけない熱源(スチーム、燃料ガスなど)の量を削減するものである。
【0038】
図3の装置では、反応器への原料混合ガスの導入流路と反応器からの生成ガス混合物の導出流路を熱交換器8を介して組合せ、生成ガス混合物の冷却で取得した熱量を原料混合ガスの加熱に用いるように構成している。熱交換器としては、通常のシェルアンドチューブ型熱交換器を用いればよい。
【0039】
<第4の形態>
図4は、本発明の方法を実施するのに適した装置のまた更に別の例を示す。
図4の装置は、基本的な構成は
図3の装置と同じだが、循環ガスからのパージガスを近くの加熱炉9などで燃焼させた後にCO
2回収装置10でCO
2のみを分離回収して、原料ガスの一部としてリサイクルする点が異なる。
【0040】
図4の形態では、パージガスを燃焼した後のCO
2も原料として回収することで、全体の二酸化炭素排出量の低減に大きく寄与することになる。
【0041】
<実施例1>
図5に示す構成のプロセスフローを想定して、二酸化炭素と水素からなる原料混合ガスを用いてパラキシレンを12500kg/h(10万トン/年)製造する場合のシミュレーションを行った。シミュレーションの結果を、
図5の1~7の各点における温度、圧力、流量及び組成として表1に示す。
【0042】
<実施例2>
図5に示す構成のプロセスフローを想定して、一酸化炭素と水素からなる原料混合ガスを用いてパラキシレンを12500kg/h(10万トン/年)製造する場合のシミュレーションを行った。シミュレーションの結果を、
図5の1~7の各点における温度、圧力、流量及び組成として表2に示す。
【0043】
<実施例3>
図6に示す構成のプロセスフローを想定して、二酸化炭素と水素からなる原料混合ガスを用いてパラキシレンを12500kg/h(10万トン/年)製造する場合のシミュレーションを行った。シミュレーションの結果を、
図6の1~8の各点における温度、圧力、流量及び組成として表3に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
【符号の説明】
【0047】
1 加熱器
2 反応器
3 冷却器
4 気液分離器
5 精製工程
6 排水処理装置
7 水素分離器
8 熱交換器
9 加熱炉
10 CO2回収装置