(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20230731BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230731BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20230731BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M10/36 Z
H01M4/58
H01M4/60
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2018030107
(22)【出願日】2018-02-22
【審査請求日】2021-02-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】518062886
【氏名又は名称】三谷電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】神崎 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】三谷 諭
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514897(JP,A)
【文献】特開2007-172986(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094689(WO,A1)
【文献】特開2017-174809(JP,A)
【文献】特開2017-183167(JP,A)
【文献】特開2016-192279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
H01M 10/04
H01M 4/58-4/62
H01G 11/48
H01G 11/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電助剤、結着剤、ゲル状の水系電解質、及び、正極活物質又は負極活物質を含む電極シートを備え、
正極が、リン酸鉄化合物を活物質として含み、
負極が、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する化合物(I)を活物質として含
む、
水系二次電池。
【請求項2】
導電助剤、結着剤、電解質吸着多孔質炭素、及び、正極活物質又は負極活物質を含む電極シートを備え、
正極が、リン酸鉄化合物を活物質として含み、
負極が、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する化合物(I)を活物質として含み、
電解質が、水系電解質である、水系二次電池。
【請求項3】
上記水系電解質が、ゲル状の水系電解質である、請求項2に記載の水系二次電池。
【請求項4】
上記化合物(I)が、下記式(1)、(2)若しくは(3)で表される化合物であるか、又は下記式(4)、(5)若しくは(6)で表される構造単位を有するオリゴマー若しくは重合体である、請求項1
から3のいずれか一項に記載の水系二次電池。
【化9】
(式(1)~(6)中、R
1~R
4、R
7~R
14、R
17、R
18,R
21~R
24、R
26~R
33、R
35,R
36は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基又は炭化水素基である。
R
5、R
6、R
15、R
16、R
19、R
20は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基又は炭化水素基で表されるいずれかの基である。
R
25、R
34、R
37は、単結合、アルキレン基、カルボニル基、エステル基、含窒素基、芳香族基、複素環基、フェニレン基、ジフェニルエーテル基、含酸素炭化水素鎖又は含窒素炭化水素鎖から誘導される基である。
R
1~R
36で表されるそれぞれの基は、置換基で置換されていてもよい。
l、m、nは、2以上の整数である。)
【請求項5】
上記化合物(I)が、上記式(4)から(6)のいずれかで表される構造単位を有するオリゴマーである、請求項
4に記載の水系二次電池。
【請求項6】
上記リン酸鉄化合物が、下記式(7)で表される、請求項1から
5のいずれか一項に記載の水系二次電池。
MFePO
4・・・(7)
(式(7)中、Mは、リチウム又はナトリウムである。)
【請求項7】
アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の塩を含有する水系電解質を備える、請求項1から
6のいずれか一項に記載の水系二次電池。
【請求項8】
上記水系電解質が、リチウム塩又はナトリウム塩を含有する、請求項
7に記載の水系二次電池。
【請求項9】
上記導電助剤が、多孔質炭素を含む、請求項
1から8のいずれか一項に記載の水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等のIT機器や電気自動車の電源に、二次電池、ハイブリッドキャパシタ等の蓄電デバイスが広く用いられている。蓄電デバイスとしては、特に起電力、エネルギー密度、充放電エネルギー効率等の電池特性が高く、自己放電が少ない等の観点から、リチウムイオン二次電池が広く用いられている。このリチウムイオン二次電池においては、高電圧の充放電を可能にするため、例えば電解液に有機溶媒を含む非水系電解液が用いられる。また、電極には正極及び負極のいずれかに、例えばリチウム遷移金属酸化物等が用いられる。
【0003】
電池特性を高めるため、リチウムイオン二次電池に用いる材料が日々研究されている。特許文献1には、コイン型のリチウムイオン二次電池の電極活物質として、ナフタレンジイミド構造を有する有機化合物を適用する技術が開示されている。リチウムイオン二次電池において、ナフタレンジイミド構造を有する有機化合物を電極活物質として用いることにより、エネルギー密度が大きく高出力で、充放電を繰り返しても容量低下が比較的少ない二次電池とすることができる。しかしながら、リチウムイオン二次電池に用いられる有機溶媒を含む電解液は可燃性であり、人体に対して有害である。また、その使用時に万が一破損して電解液が電池筐体より外部へ漏出してしまうと、使用者に危険が伴うという不都合があった。また、イミド系化合物を電極活物質として用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性は十分ではないという不都合もあった。
【0004】
上記不都合を解決するために、二次電池において、カルボニル化合物から選んだ少なくとも一種類の有機電極材料を含む第一の電極と、金属イオンを挿入して引き抜いたり、金属イオンを配位して外す能力のある第二の金属とを備えた水溶液系金属イオン電池が開発されている(特許文献2参照;特表2016-514897号)。また、ナフタレンジイミド構造又はペリレンジイミド構造を有する化合物を電極活物質として含み、かつ電解液として水系電解液を備えることで、安全性に優れると共に、充放電時の安定性を向上させることでき、サイクル特性にも優れる二次電池が開発されている(特許文献3参照;国際公開2017/170944号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2012/121145号
【文献】特表2016-514897号公報
【文献】国際公開2017/170944号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、イミド系化合物を電極活物質として用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性は十分ではないという不都合があった。また、水系二次電池の劣化要因として、有機活物質が電解液に溶出してしまう不都合もあった。
【0007】
そこで、本発明は、サイクル特性により優れる水系二次電池を提供すること、また、有機活物質の電解液への溶出が抑えられた水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、二次電池において、正極を、リン酸鉄化合物を活物質として含むものとし、負極を、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する特定の化合物を活物質として含むものとし、電解質を水系電解質とすることで、安全性に優れると共に、充放電時の安定性をより向上させることでき、サイクル特性にも優れる二次電池とすることができることを見出した。すなわち、上記課題を解決するための本発明の要旨は以下に示す通りである。
【0009】
[1]正極が、リン酸鉄化合物を活物質として含み、負極が、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する化合物(I)を活物質として含み、電解質が、水系電解質である、水系二次電池。
[2]上記化合物(I)が、下記式(1)、(2)若しくは(3)で表される化合物であるか、又は下記式(4)、(5)若しくは(6)で表される構造単位を有するオリゴマー若しくは重合体である、[1]に記載の水系二次電池。
【化1】
(式(1)~(6)中、R
1~R
4、R
7~R
14、R
17、R
18,R
21~R
24、R
26~R
33、R
35,R
36は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基又は炭化水素基である。
R
5、R
6、R
15、R
16、R
19、R
20は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基又は炭化水素基で表されるいずれかの基である。
R
25、R
34、R
37は、単結合、アルキレン基、カルボニル基、エステル基、含窒素基、芳香族基、複素環基、フェニレン基、ジフェニルエーテル基、含酸素炭化水素鎖又は含窒素炭化水素鎖から誘導される基である。
R
1~R
37で表されるそれぞれの基は、置換基で置換されていてもよい。
l、m、nは、2以上の整数である。)
[3]上記化合物(I)が、上記式(4)から(6)のいずれかで表される構造単位を有するオリゴマーである、[2]に記載の水系二次電池。
[4]上記リン酸鉄化合物が、下記式(7)で表される、[1]から[3]のいずれかに記載の水系二次電池。
MFePO
4・・・(7)
(式(7)中、Mは、リチウム又はナトリウムである。)
[5]アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の塩を含有する水系電解質を備える、[1]から[4]のいずれかに記載の水系二次電池。
[6]上記水系電解質が、リチウム塩又はナトリウム塩を含有する、[5]に記載の水系二次電池。
[7]上記水系電解質が、ゲル状の水系電解質である、[1]から[6]のいずれかに記載の水系二次電池。
[8]導電助剤、結着剤、ゲル状の水系電解質、及び、正極活物質又は負極活物質を含む電極シートを備える、[7]に記載の水系二次電池。
[9]導電助剤、結着剤、電解質吸着多孔質炭素、及び、正極活物質又は負極活物質を含む電極シートを備える、[1]から[7]のいずれかに記載の水系二次電池。
[10]導電助剤、結着剤、ゲル状の水系電解質、電解質吸着多孔質炭素、及び、正極活物質又は負極活物質を含む電極シートを備える、[7]に記載の水系二次電池。
[11]上記導電助剤が、多孔質炭素を含む、[8]から[10]のいずれかに記載の水系二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系二次電池は、正極をリン酸鉄化合物を活物質として含むものとし、負極をナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する特定の化合物を活物質として含むものとし、電解質を水系電解質とすることで、安全性に優れると共に、充放電時の安定性をより向上させることでき、サイクル特性にも優れる。そのため、本発明の水系二次電池は、定置用蓄電池の用途に特化し、また携帯電話、ノートパソコン等のIT機器や電気自動車等の電源として、広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態である水系二次電池の概略構造を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態である水系二次電池の概略構造を示す図である。
【
図3】試験例1のサイクリックボルタモグラムである。
【
図4】試験例2の充放電試験の結果を示す図である。
【
図5】試験例3の充放電試験の結果を示す図である。
【
図6】試験例4の充放電試験の結果を示す図である。
【
図7】試験例5の充放電試験の結果を示す図である。
【
図8】試験例6の充放電試験の結果を示す図である。
【
図9】試験例7のサイクリックボルタモグラムである。
【
図10】試験例8の充放電試験の結果を示す図である。
【
図11】試験例9の充放電試験の結果を示す図である。
【
図12】試験例10の充放電試験の結果を示す図である。
【
図13】試験例11の充放電試験の結果を示す図である。
【
図14】試験例12の充放電試験の結果を示す図である。
【
図15】試験例13の充放電試験の結果を示す図である。
【
図16】試験例14の充放電試験の結果を示す図である。
【
図17】試験例15の充放電試験の結果を示す図である。
【
図18】試験例16の充放電試験の結果を示す図である。
【
図19】試験例17の充放電試験の結果を示す図である。
【
図20】試験例18の充放電試験の結果を示す図である。
【
図21】試験例19の充放電試験の結果を示す図である。
【
図22】ナフタレンジイミド化合物の単分子とオリゴマー化した分子とのサイクル特性の比較(試験例20)を示す図である。
【
図23】試験例21の充放電試験の結果を示す図である。
【
図24】本発明の一実施形態である水系二次電池(正極LiFePO
4、負極NTCDI-Hex;CC 1.15V)の充放電試験の結果を示す図である。
【
図25】本発明の一実施形態である水系二次電池(正極LiFePO
4、負極NTCDI-Hex;CC 1.30V)の充放電試験の結果を示す図である。
【
図26】本発明の一実施形態である水系二次電池(正極LiFePO
4、負極NTCDI-Hex;CC/CV 1.15V)の充放電試験の結果を示す図である。
【
図27】本発明の一実施形態である水系二次電池(正極LiFePO
4、負極NTCDIオリゴマー)の充放電試験の結果を示す図である。
【
図28】本発明の一実施形態である水系二次電池(正極LiFePO
4、負極NTCDIオリゴマー)のサイクル特性を示す図である。
【
図29】本発明の一実施形態である水系二次電池(正極LiFePO
4、負極NTCDIオリゴマー)の充放電試験の結果を示す図である。
【
図30】本発明の一実施形態である水系二次電池(正極LiFePO
4、負極NTCDIオリゴマー)のサイクル特性を示す図である。
【
図31】本発明の一実施形態である水系二次電池(正極LiFePO
4、負極PTCDI-Pr)の充放電試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の水系二次電池について詳細に説明する。本発明の水系二次電池は、正極と、負極と、水系電解液とを備える。そして、正極がリン酸鉄化合物を活物質として含み、負極がナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する化合物(I)を活物質として含む。これらに加えて、上述した効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の構成を備えていてもよい。それぞれについて、以下に説明する。
【0013】
[水系二次電池の構造]
はじめに、本発明の水系二次電池の一実施形態の形状、構造について、
図1及び
図2を用いて説明する。
【0014】
本発明の一実施形態の円筒型の水系二次電池10(
図1)は、正極集電体11に正極活物質層12を形成した正極シート13と、負極集電体14の表面に負極活物質層17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす水系電解液20とを備えたものである。水系二次電池10は、上記正極活物質層はリン酸鉄化合物を電極活物質として含み、負極活物質層が、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する化合物(I)を電極活物質として含むことを特徴としている。この水系二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シート18に接続された負極端子26とを配設して形成されている。
【0015】
本発明の一実施形態のコイン型の水系二次電池40(
図2)は、正極側の集電体35に正極活物質層32を形成した正極シートと、負極側の集電体37に負極活物質層33を形成した負極シートと、正極シートと負極シートとの間に設けられたセパレータ34とを備えている。水系二次電池40は、正極シート及び負極シートに水系電解液を含浸させているか、又はゲル状の水系電解液を備えている。負極側の集電体37上にリングワッシャー30を載置すると共に、ガスケット36を周縁に配し、かしめ機等で負極ケース38を正極ケース39に固着して外装封止し、これによりコイン型の水系二次電池40が作製される。水系二次電池40は、上記正極活物質層32はリン酸鉄化合物を電極活物質として含み、負極活物質層33はナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する化合物(I)を電極活物質として含むことを特徴としている。
【0016】
(電極活物質)
本発明の水系二次電池は、正極がリン酸鉄化合物を活物質として含み、負極がナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する化合物(I)を活物質として含む。本発明においては、この正極と負極の電極活物質の組み合わせが重要であり、これによりサイクル特性により優れる二次電池を製造することが可能となる。
【0017】
(正極活物質)
本発明の水系二次電池の正極は、リン酸鉄化合物を活物質として含む。上記リン酸鉄化合物としては、リン酸鉄リチウム又はリン酸鉄ナトリウムであることが好ましく、MFePO4(式中、Mは、リチウム又はナトリウムである)で表される化合物であることがより好ましく、LiFePO4がさらに好ましい。
【0018】
(負極活物質)
化合物(I)は、下記式(1)、(2)若しくは(3)で表される化合物であるか、又は下記式(4)、(5)若しくは(6)で表される構造単位を有するオリゴマー若しくは重合体であることが好ましい。
【0019】
【0020】
上記式(1)~(6)中、R1~R4、R7~R14、R17、R18,R21~R24、R26~R33、R35,R36は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基又は炭化水素基である。
R5、R6、R15、R16、R19、R20は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基又は炭化水素基で表されるいずれかの基である。
R25、R34、R37は、単結合、アルキレン基、カルボニル基、エステル基、含窒素基、芳香族基、複素環基、フェニレン基、ジフェニルエーテル基、含酸素炭化水素鎖又は含窒素炭化水素鎖から誘導される基である。
R1~R37で表されるそれぞれの基は、置換基で置換されていてもよい。
l、m、nは、2以上の整数である。)
【0021】
上記式(1)~(6)中、R1~R4、R7~R14、R17、R18,R21~R24、R26~R33、R35、R36におけるハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ビニル基、ヘキセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。
【0022】
上記式(1)~(6)中、R1~R4、R7~R14、R17、R18,R21~R24、R26~R33、R35、R36としては、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子であることが好ましく、全てが水素原子であることがより好ましい。
【0023】
上記式(1)~(6)における、R5、R6、R15、R16、R19、R20のアルコキシ基、炭化水素基としては、上記R1~R4、R7~R14、R17、R18,R21~R24、R26~R33、R35、R36について挙げられたものと同様の原子及び基が挙げられる。
【0024】
上記式(1)~(6)におけるR5、R6、R15、R16、R19、R20としては、炭化水素基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、炭素数が6以下のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0025】
上記式(4)におけるR25、式(5)におけるR34、式(6)におけるR37のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。これらのうち、メチレン基、エチレン基が好ましい。上記芳香族基としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環等を含む基が挙げられる。上記複素環基としては、例えばピリジン環、ピリミジン環、フラン環、チオフェン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含む5~6員の芳香族複素環又は脂肪族複素環等を含む基が挙げられる。
【0026】
上記式(4)におけるR25、式(5)におけるR34、式(6)におけるR37としては、単結合、アルキレン基が好ましく、中でもアルキレン基がより好ましく、エチレン基がさらに好ましい。
【0027】
化合物(I)としては、下記式(8)~(10)で表される化合物が好ましい。
【0028】
【0029】
上記式(8)で表される化合物(I)は、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(NTCDI)構造に炭化水素基が付いている構造を有している化合物である。上記式中、mは10以下の自然数であることが好ましく、具体的な置換基としては特にメチル基(Me)、プロピル基(Pr)、ヘキシル基(Hex)、デシル基(Dec)等が好ましい。上記式で表される化合物(I)としては、NTCDI-Me(m=1)、NTCDI-Pr(m=3)、NTCDI-Hex(m=6)、NTCDI-Dec(m=10)等が好ましい化合物として挙げられる。
【0030】
【0031】
上記式(9)で表される化合物(I)は、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(PTCDI)構造に炭化水素基が付いている構造を有している化合物である。上記式中、mは10以下の自然数であることが好ましく、具体的な置換基としては特にメチル基(Me)、プロピル基(Pr)、ヘキシル基(Hex)、デシル基(Dec)等が好ましい。上記式で表される化合物(I)としては、
PTCDI-Me(m=1)、PTCDI-Pr(m=3)、PTCDI-Hex(m=6)、PTCDI-Dec(m=10)等が好ましい化合物として挙げられる。
【0032】
【0033】
上記式(10)で表される化合物(I)は、ベンゼンテトラカルボン酸ジイミド(PMDI)構造に炭化水素基が付いている構造を有している化合物である。上記式中、mは10以下の自然数であることが好ましく、具体的な置換基としては特にメチル基(Me)、プロピル基(Pr)、ヘキシル基(Hex)、デシル基(Dec)等が好ましい。上記式で表される化合物(I)としては、PMDI-Me(m=1)、PMDI-Pr(m=3)、PMDI-Hex(m=6)、PMDI-Dec(m=10)等が好ましい化合物として挙げられる。
【0034】
上記式(8)~(10)で示した化合物はオリゴマー化してもよい。オリゴマー構造として好ましいのは、上記式(8)におけるNTCDI構造、上記式(9)におけるPTCDI構造、又は上記式(10)におけるPMDI構造のいずれかに、アルキレン基若しくはジフェニルエーテル基が付いたものであり、下記式に示す。下記式中、x、y、zは、それぞれ独立して1~10の整数である。l、n、mは、それぞれ独立して2~100の整数である。
【0035】
【0036】
本発明の水系二次電池における、正極活物質、負極活物質の組み合わせとしては、(正極活物質、負極活物質)が、(LiFePO4、NTCDI-Me)、(LiFePO4、NTCDI-Pr)、(LiFePO4、NTCDI-Hex)、(LiFePO4、NTCDI-Dec)、(NaFePO4、NTCDI-Me)、(NaFePO4、NTCDI-Pr)、(NaFePO4、NTCDI-Hex)、(NaFePO4、NTCDI-Dec)、(LiFePO4、PTCDI-Me)、(LiFePO4、PTCDI-Pr)、(LiFePO4、PTCDI-Hex)、(LiFePO4、PTCDI-Dec)、(NaFePO4、PTCDI-Me)、(NaFePO4、PTCDI-Pr)、(NaFePO4、PTCDI-Hex)、(NaFePO4、PTCDI-Dec)、(LiFePO4、PMDI-Me)、(LiFePO4、PMDI-Pr)、(LiFePO4、PMDI-Hex)、(LiFePO4、PMDI-Dec)、(NaFePO4、PMDI-Me)、(NaFePO4、PMDI-Pr)、(NaFePO4、PMDI-Hex)、(NaFePO4、PMDI-Dec)である組合せが好ましく、これらのうち、(LiFePO4、NTCDI-Me)、(LiFePO4、NTCDI-Pr)、(LiFePO4、NTCDI-Hex)、(LiFePO4、NTCDI-Dec)、(LiFePO4、PTCDI-Me)、(LiFePO4、PTCDI-Pr)、(LiFePO4、PTCDI-Hex)、(LiFePO4、PTCDI-Dec)がより好ましく、(LiFePO4、NTCDI-Hex)、(LiFePO4、PTCDI-Pr)がさらに好ましい。
【0037】
本発明の水系二次電池における、正極活物質、負極活物質の組み合わせ(正極活物質、負極活物質)としては、負極活物質がオリゴマーである場合、(LiFePO4、NTCDI-オリゴマー)、(NaFePO4、NTCDI-オリゴマー)、(LiFePO4、PTCDI-オリゴマー)、(NaFePO4、PTCDI-オリゴマー)、(LiFePO4、PMDI-オリゴマー)、(NaFePO4、PMDI-オリゴマー)である組合せが好ましく、これらのうち、(LiFePO4、NTCDI-オリゴマー)、(LiFePO4、PTCDI-オリゴマー)がより好ましく、(LiFePO4、NTCDI-オリゴマー)がさらに好ましい。
【0038】
本発明の水系二次電池における正極又は負極は、上述の活物質に加え、導電助剤、結着剤等を含んでいてもよい。
【0039】
正極及び負極に含まれる導電助剤としては、炭素材料、導電性高分子、粉末金属、無機導電性酸化物等を使用することができる。炭素材料は、例えば、活性炭、活性炭素繊維、多孔質炭素、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェン等である。導電性高分子は、例えば、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフルオレン、ポリピロール、ポリチオフェン等である。粉末金属は、例えば、アルミニウム、金、白金等である。これらのうち、炭素材料が好ましく、中でも活性炭が好ましい。
【0040】
正極及び負極に含まれる結着材としては、使用する電位領域で分解しない、用途に適したものを選んで使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素系ゴム等である。
【0041】
正極及び負極に含まれる導電助剤及び結着剤は、それぞれ1種単独でも、2種以上を組合せて含んでいてもよい。
【0042】
負極における活物質層、及び正極における活物質層の各電極活物質層において、正極又は負極の電極活物質、導電助剤及び結着材の構成比率は、質量基準でそれぞれ、5~100質量%:0~100質量%:0~30質量%の範囲で適宜調整すればよい。導電助剤、結着剤は、付加されなくてもよい。また、負極活物質層及び正極活物質層の厚みは特に制限されない。
【0043】
(水系電解液)
本発明における水系電解液は、水と少なくとも1種の水溶性塩とを含有する。水溶性塩はアルカリ金属元素の塩及びアルカリ土類金属元素の塩からなる群より選択される少なくとも1種の塩であることが好ましく、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、カリウム塩、ベリリウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩であることがより好ましく、ナトリウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩、カリウム塩であることが更に好ましく、ナトリウム塩であることが特に好ましい。
【0044】
水溶性塩に含まれるアニオンの種類は特に制限されない。アニオンとしては例えば、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、テトラフルオロほう酸イオン等を挙げることができる。ハロゲン化物イオンは、具体的には、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等である。
【0045】
水溶性塩は25℃において中性塩、又はアルカリ性塩であることが好ましく、中性塩であることがより好ましい。中でも、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、テトラフルオロほう酸ナトリウム等からなる群から選ばれる少なくとも1種の中性のナトリウム塩;塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、テトラフルオロほう酸マグネシウム等からなる群から選択される少なくとも1種の中性のマグネシウム塩;塩化リチウム、臭化リチウム、テトラフルオロほう酸リチウム等からなる群から選択される少なくとも1種の中性のリチウム塩;塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、テトラフルオロほう酸カリウム等からなる群から選択される少なくとも1種の中性のカリウム塩がより好ましく、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム等が更に好ましく、塩化ナトリウムが特に好ましい。
【0046】
水系電解液における水溶性塩の濃度は、水溶性塩の種類等に応じて適宜選択される。水系電解液における水溶性塩の濃度は、温度や溶質により溶解度が異なるが、例えば、水系電解液が20℃であるとき、水溶性塩が塩化ナトリウムであれば、0.1モル/L~6.1モル/Lの範囲であることが好ましく、水溶性塩が塩化マグネシウムであれば、0.1モル/L~5.7モル/Lの範囲であることが好ましい。水系電解液における水溶性塩の濃度は、飽和溶解度以下であればよく、濃度が高い方が好ましい。
【0047】
水系電解液は、水溶性の有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤としては例えば、アセトニトリル、アセトン等が挙げられる。
【0048】
水系電解液が有機溶剤を含む場合、その含有率は水に対して0を超え50質量%以下であり、0を超え10質量%以下であることが好ましい。
【0049】
水系電解液は、必要に応じて各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては例えば、亜硫酸ナトリウム;カルボキシメチルセルロース等のゲル化剤が挙げられる。
【0050】
水系電解液は、その溶存酸素量が、7.3ppm以下であることが好ましい。溶存酸素量が7.3ppm以下であると二次電池のサイクル特性がより向上する傾向がある。より好ましい溶存酸素量は、5ppm以下であり、最も好ましい溶存酸素量は4ppm以下である。
【0051】
一般に水系電解液の常温(22℃~23℃)における飽和溶存酸素量は8.2~8.6ppmであり、一般的に用いられる操作により、溶存酸素量を7.3ppm以下にすることができる。たとえば、電池製造時に少なくとも1回以上脱気する、電池製造の際にパッキングを設けて酸素量の増加を抑制する構造を設ける等により、溶存酸素量を所望の範囲に維持することができる。脱気方法は通常用いられる方法から適宜選択され、例えば、減圧、加熱等をすることにより行うことができる。
【0052】
本発明の二次電池において、水系電解液は、ゲル化剤を用いてゲル状としたものも含む。本発明におけるゲル状の水系電解液は、液体状の水系電解液をゲル状としたものであり、液体の水系電解液にゲル化剤を添加して得ることができる。本発明において、ゲル状とは、分散系の一種で、ゾルのような液体分散媒のコロイドだが、分散質のネットワークにより高い粘性を持ち流動性を失い、系全体としては固体状、半固体状になったものをいう。また、水系電解液は、収納ケース内の内部空間に封入してもよいし、電極シート等に含浸させて使用してもよい。なお、ゲル状水系電解液は、例えば、液体状の電解液をスナップカップに入れ、適量のカルボキシメチルセルロールナトリウムを加えて、スパチュラでつぶし、ホモミキサーを用い室温で10,000rpm5分間程度攪拌する方法により作製することができる。また、電解液をスナップカップに入れ、80℃以上の高温にし、寒天(Agar)を加えて固形化ゲルが作製できる。あるいは、粒子系が150nm以下のシリカゲルを用いても固形化ゲルが作製できる。
【0053】
また、開放系の電池では、水系電解液内に挿入管を設け、常時窒素ガスのバブリングを行うことにより溶存酸素量を低下させることができる。
【0054】
(セパレータ)
水系二次電池は、セパレータを備えてもよい。セパレータは正極及び負極を隔てるように配置されるものであり、イオンを通し、かつ正負極間のショートを防止することが求められる。セパレータとしては、特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリオレフィン繊維性の不織布やポリオレフィン製の微多孔膜、ガラスフィルター、セラミックの多孔質材料などを用いることができる。また、イオン交換膜を用いてもよい。
【0055】
(集電体)
水系二次電池は、集電体(正極集電体及び負極集電体)を備えてもよい。正極集電体及び負極集電体の材料には、正極、負極それぞれの電位において副反応が発生しない材料が用いられる。より具体的には、正極集電体及び負極集電体には、正極及び負極の電位において溶解等の反応が発生しない耐食性を有する材料を用いればよい。正極集電体及び負極集電体の材料には、例えば、金属材料、合金、炭素材料、無機導電性酸化物材料等を用いることができる。金属材料は、例えば、銅、ニッケル、真鍮、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、タングステン、金、白金等である。合金は、例えばSUS等である。炭素材料は、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ガラス状炭素等である。
【0056】
[水系二次電池の製造方法]
本発明の水系二次電池は、負極及び正極と、電解液とを、円筒型ケース、コイン型ケースなどの収容ケースに封入して製造する。具体的な製造手順は、以下の実施例にて詳細に説明する。
【0057】
本発明の水系二次電池いずれの形状であってもよい。例えば、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型等が挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のもの等に適用してもよい。
【0058】
[蓄電デバイス]
正極を、リン酸鉄化合物を活物質として含むものとし、負極を、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する特定の化合物を活物質として含むものとし、電解質を水系電解質として備える蓄電デバイスも、本発明に含まれる。本発明の蓄電デバイスとしては、上記の電極の化学反応とその対極は導電助剤の電極界面でのイオンの電気二重層形成での吸脱着を利用してエネルギーを貯蔵、放出するデバイスある、ハイブリッドキャパシタなどが挙げられる。ハイブリッドキャパシタとした際に、導電助剤のみで形成されたキャパシタに比べ、高いエネルギー密度を実現できる。また、水系電解液を採用しているため、安全性にも優れる。なお、本発明の蓄電デバイスが備える電極及び水系電解液についての説明は、本発明の水系二次電池における説明を適用できる。
【実施例】
【0059】
次に実施例により本発明の具体的態様を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【0060】
<水系二次電池の作製>
(電極シートの作製;ゲル電解質練り込みシート-方法1)
各種活物質を適量乳鉢に置き、乳棒を用いてよく混練した。各種カーボン材料(カーボンブラック等)を適量加え、乳棒でさらによく混練し、別途作製した各種ゲル電解質を適量加えて混練し、各種バインダを適量加えて混練した。なお、ゲル電解質等の量が多い場合はバインダがなくてもシート状態になる場合がある。この混合物をローラープレスで圧延成形してシート化した。
【0061】
(電極シートの作製;活性炭練り込みシート-方法2)
各種活物質を適量乳鉢に置き、乳棒を用いてよく混練した。各種カーボン材料(カーボンブラック等)を適量加え、乳棒でさらによく混練し、別途電解質を吸着した活性炭を適量加えて混練し、さらに各種バインダを適量加え混練した。この混合物をローラープレスで圧延成形してシート化した。
【0062】
(電極シートの作製;ゲル電解質練り込み及び活性炭練り込みシート-方法3)
各種活物質を適量乳鉢に置き、乳棒を用いてよく混練した。各種カーボン材料(カーボンブラック等)を適量加え、乳棒でさらによく混練し、別途電解質を吸着した活性炭及び、別途作製した各種ゲル電解質を適量加えて混練し、各種バインダを適量加えて混練した。この混合物をローラープレスで圧延成形してシート化した。
【0063】
(電池の組み立て:ビーカーセル)
得られた正極及び負極は、円形に切断し、白金線を取り付けた白金メッシュに張り付けた。そして、ガラス製サンプル瓶セルに、上記電極を取り付けた。ガラス製サンプル瓶セルに電極が張り付いた白金メッシュを電解液に浸して、真空雰囲気下にして電極に電解液を含浸した。
【0064】
(電池の組み立て:コインセル)
得られた正極及び負極は、円形に切断し集電体の上に電極を置いた。正極と負極の間にはセパレータが置かれた。場合によっては電極を電解液中に浸し、真空雰囲気下にして電極に電解液を含浸した。
【0065】
(サイクリックボルタンメトリー用セルの組み立て)
上記方法1によって得られた電極シートは、白金線を取り付けた白金メッシュに張り付け、作用極とした。対極に活性炭とPTFEからなる電極を、白金線を取り付けた電極にプレス張り付けした。ガラス製サンプル瓶セルに電解液を加えた。サンプル瓶セルを蓋で密閉し、電極内に挿入管を設け、常時窒素ガスをバブリングさせた。
【0066】
[各活物質の電気化学的活性の確認]
各活物質について、電池の正極、負極それぞれの電極を独立に試験し、稼働するか否かを確認した。
【0067】
(1)LiFePO
4について
(試験例1:正極活物質LiFePO
4についてのサイクリックボルタンメトリー)
LiFePO
4:活性炭:電解液(3M LiCl aq.):KB(ケッチェンブラック):PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=1:2.5:3.3:0.5:0.5割合で混練し、電極シートを作製した。参照電極としてはAg/AgClを使用し、サイクリックボルタンメトリーに供した。サイクリックボルタンメトリーの結果を
図3に示す。
【0068】
(試験例2:正極活物質LiFePO
4についての片極測定)
LiFePO
4:KB(ケッチェンブラック):電解液(水10ml+LiCl 8g):PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=1:0.2:1.5:0.05割合で混練し、電極シートを作製した。充放電試験の結果を
図4に示す。
【0069】
(試験例3:正極活物質LiFePO
4についての片極測定)
LiFePO
4:KB(ケッチェンブラック):ゲル(水10ml+LiCl 8g+Agar 2g):PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=1:0.2:1.5:0.05の割合で混練し、正極活物質LiFePO
4にゲル電解質を練り込んだシートを作製した(上記方法1)。充放電試験の結果を
図5に示す。
【0070】
(試験例4:正極活物質LiFePO
4についての片極測定)
LiFePO
4:KB(ケッチェンブラック):Silica (粒子径7nm):1.5M LiSO
4 aq.:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=1:2:0.2:5:0.2の割合で混練し、正極活物質LiFePO
4にゲル電解質を練り込んだシートを作製した(上記方法1)。充放電試験の結果を
図6に示す。
【0071】
(試験例5:正極活物質LiFePO
4についての片極測定)
LiFePO
4:KB:ゲル(3M LiCl aq.10ml、Agar 1g):PTFE=1:1:3:0.1の割合で混練し、正極活物質LiFePO
4にゲル電解質を練り込んだシートを作製した(上記方法1)。充放電試験の結果を
図7に示す。
【0072】
(試験例6:正極活物質LiFePO
4をカーボンコートした試料についての片極測定)
KB(ケッチェンブラック)をコート材料にしてLiFePO
4がカーボンコートされたLiNaFePO
4/C=1/0.11を作製した。LiFePO
4/C:KB:LiCl 8g+Agar 2g):PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=1:0.09:1.5:0.05割合で混練し、正極活物質LiFePO
4にゲル電解質を練り込んだシートを作製した。充放電試験の結果を
図8に示す。
【0073】
(2)NaFePO
4について
(試験例7:正極活物質NaFePO
4をカーボンコートした試料についてのサイクリックボルタンメトリー)
KB(ケッチェンブラック)をコート材料にしてNaFePO
4がカーボンコートされたNaFePO
4/C=0.975/0.025を作製した。NaFePO
4/C:KB(ケッチェンブラック):活性炭:電解液(3M NaCl aq.):PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=2:1:1:6:0.05割合で混練し、電極シートを作製した。参照電極としてはAg/AgClを使用し、サイクリックボルタンメトリーに供した。サイクリックボルタンメトリーの結果を
図9に示す。
【0074】
(試験例8:正極活物質NaFePO
4をカーボンコートした試料についての片極測定)
KB(ケッチェンブラック)をコート材料にしてNaFePO
4がカーボンコートされたNaFePO
4/C=0.989/0.011を作製した。NaFePO
4/C:KB(ケッチェンブラック):ゲル(3M NaCl aq.10ml+Agar 1g):PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=1:0.189:3:0.05の割合で混練し正極活物質LiFePO
4にゲル電解質を練り込んだシートを作製した(上記方法1)。充放電試験の結果を
図10に示す。
【0075】
試験例1~8の結果、
図3~10に示すとおり、LiFePO
4及びNaFePO
4が、各種中性の水系電解液又はゲル電解質を使って、正極活物質として電気化学的に活性であることが確認できた。
【0076】
図4と
図5を比較するとゲル電解質を備えたシートの方が活物質の重さあたりの比容量が大きくなった。
【0077】
(3)ナフタレンジイミド骨格を有する化合物について
試験例9~12は活物質:KB:ゲル(CMC(カルボキシメチルセルロース)1g+5M NaCl aq. 6ml):PTFE=1:1:3:0.1の割合で混練し、負極活物質にゲル電解質を練り込んだシートを作製した(上記方法1)。なお、試験例13については、活性炭:3M LiCl aq.:活物質:KB:PTFE=0.25:1.5:1:0.2:0.05の割合で混練した。さらに各種バインダを適量加え混練し、負極活物質に活性炭を練り込んだシートを作製した(上記方法2)。各試験例の負極活物質は下記に示すとおりである。充放電試験の結果をそれぞれ
図11~15に示す。
【0078】
試験例9:負極活物質NTCDI-Meについての片極測定
試験例10:負極活物質NTCDI-Prについての片極測定
試験例11:負極活物質NTCDI-Hexについての片極測定
試験例12:負極活物質NTCDI-Decについての片極測定
試験例13:負極活物質NTCDI-Hexについての片極測定
【0079】
試験例9~13の結果、
図11~15に示すとおり、上記各負極活物質が各種中性の水系電解液又はゲル電解質を使って、電気化学的に活性であることが確認できた。
【0080】
(4)ペリレンジイミド骨格を有する化合物について
活性炭:3M LiCl aq.:活物質:KB:PTFE=0.25:1.5:1:0.2:0.05の割合で混練し、シートを作製した(上記方法2)。各試験例の負極活物質は下記に示すとおりである。充放電試験の結果をそれぞれ
図16~19に示す。
【0081】
試験例14:負極活物質PTCDI-Hについての片極測定
試験例15:負極活物質PTCDI-Meについての片極測定
試験例16:負極活物質PTCDI-Prについての片極測定
試験例17:負極活物質PTCDI-Hexについての片極測定
【0082】
(5)活物質のオリゴマー化の検討
(ナフタレンジイミドオリゴマー)
ナフタレンジイミド化合物のオリゴマーを調製した。負極活物質として用いる際に、単分子である場合と比較して、オリゴマー化することによりサイクル特性等がどのように変化するかを検討した。なお、常法に従い、ヘキサメチレンジアミンによりナフタレンジイミド化合物の重合を行い、下記オリゴマーを調製した。
【0083】
【0084】
オリゴマー化したナフタレンジイミド化合物を活物質に用いた電極シートについて、ゲルを加えない場合とゲルを使用した場合との比容量を比較した。ゲルを加えない電極シートは
図18でゲルを使用した場合の電極シートは
図18に示す。ゲルを加えない電極シートは活物質:KB:電解液(水10ml+LiCl 8g):PTFE=1:0.2:1.5:0.05、また、ゲルを使用する場合は活物質:KB:ゲル(水10ml+LiCl 8g+Agar 2g)):PTFE=1:0.2:1.5:0.05の割合で混練し作製した。
【0085】
試験例18:負極活物質としてオリゴマー化したナフタレンジイミド化合物を用いかつ電極シート内にゲル電解質を備えていない片極測定
試験例19:負極活物質としてオリゴマー化したナフタレンジイミド化合物を用いかつ電極シート内にゲル電解質を備えた片極測定
【0086】
上記試験例18及び19における充放電試験の結果を
図20及び21に示した。
図20と
図21を比較するとゲル電解質を備えたシートの方が活物質の重さあたりの比容量が大きくなった。
【0087】
ナフタレンジイミド化合物の単分子とオリゴマー化した分子のサイクル特性を比較した(試験例20)。サイクル特性の結果を
図22に示す。電極シートは活性炭:電解液(3M LiCl aq.):活物質:KB:PTFE=0.25:1.5:1:0.2:0.05の割合で混練し作製した。
【0088】
図22に示すとおり、負極活物質をオリゴマーとすることで、単分子の場合と比較して、サイクル特性が向上し、電極の劣化が抑えられた。なお、活物質が単分子であると、炭素材料への分散性がよく反応させやすいという利点はあるものの、電解液への溶出が起こりやすいという不都合があった。活物質をオリゴマーとすることで、このような不都合が解決されていると考えられた。
【0089】
(ベンゼンジイミドオリゴマー)
ベンゼンジイミド化合物のオリゴマーを調製し、充放電試験を行った(試験例21)。ベンゼンジイミドオリゴマー:KB:ゲル電解質(3M LiCl aq. 10ml+Agar 1g):KB:PTFE=0.25:1.5:1:0.2:0.05の割合で混練し、負極活物質としてのベンゼンジイミドオリゴマーにゲル電解質を練り込んだシートを作製した(上記方法3)。充放電試験の結果を
図23に示す。
【0090】
【0091】
図23に示すとおり、ベンゼンジイミド化合物のオリゴマーは、LiCl電解液を用いて充放電が可能であることを確認できた。ベンゼンジイミド化合物を負極活物質として用いた場合には、ナフタレンジイミド化合物、ペリレンジイミド化合物を負極活物質として用いる場合と比較して電池電圧(エネルギー密度)の向上が期待できる。
【0092】
[電池測定試験]
次に、上記片極測定において電気化学的な活性を確認した活物質を用いて水系二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0093】
(1)電池(LiFePO
4+NTCDI-Hex)の充放電の評価
正極については、活性炭:3M LiCl aq.:LiFePO4 :KB:PTFE=0.25:1.5:1:0.2:0.05の割合で混練し、シートを作製した(上記方法2)。また、負極については、活性炭:3M LiCl aq.:NTCDI-hex :KB:PTFE=0.25:1.5:1:0.2:0.05の割合で混練し、シートを作製した(上記方法2)。ポリアミド製のセパレータを用い、電池を組み立てた。充放電試験の結果を
図24~26に示す。
図24はCC 1.15V(試験例22)、
図25はCC 1.30V(試験例23)、
図26はCC/CV 1.15V(試験例24)での測定である。(CC:定電流法、CC/CV:定電流定電位法)
【0094】
図24~26に示すとおり、正極活物質としてLiFePO
4を、負極活物質としてNTCDI-Hexを用いた本発明の水系二次電池が十分機能することを確認した。
【0095】
(2)電池(LiFePO
4+NTCDIオリゴマー)の充放電の評価
正極については、活性炭:3M LiCl:LiFePO
4:KB:PTFE=0.2:1:1:0.1:0.03、負極については、活性炭:3M LiCl:NTCDIオリゴマー:KB:PTFE=0.2:1:1:0.1:0.03の割合で混練し、上記方法2により各電極シートを作製し、電池を組み立てた。充放電試験の結果を
図27に.サイクル特性の結果を
図28に示す(試験例25)。
【0096】
また、上記方法3の効果を検証するために、正極については、活性炭:5M LiCla.q.:ゲル電解質(水10ml+LiCl aq. 8g+Agar 2g):LiFePO
4:KB:PTFE=0.1:0.2:1:1:0.2:0.05、負極については、活性炭:5M LiCl aq.:ゲル電解質(水10ml+LiCl aq. 8g+Agar 2g):NTCDIオリゴマー:KB:PTFE=0.2:1:1:0.1:0.03の割合で混練し、上記方法3により各電極シートを作製し、電池を組み立てた。また、この充放電に関しては充電のレートは放電のレートより速くした。充放電試験の結果を
図29に、サイクル特性の結果を
図30に示す(試験例26)。
【0097】
図27、29に示すとおり、正極活物質としてLiFePO
4を、負極活物質としてNTCDIオリゴマーを用いた電池が十分機能することを確認した。
図28、30を比較すると
図28に示されたようにゲル電解質が入っていないシートでは、サイクルが進まないと最大容量が出現されなかったが、
図30に示されたようにゲル電解質が入っているシートは初期サイクルから最大容量が示された。
【0098】
(3)電池(LiFePO
4+PTCDI-Pr)の充放電の評価
正極については、活性炭:3M LiCl aq.:LiFePO4:KB:PTFE=0.25:1.5:1:0.2:0.05、負極については、活性炭:3M LiCl aq.:PTCDI-Pr:KB:PTFE=0.25:1.5:1:0.2:0.05の割合で混練し、上記方法3により各電極シートを作製し、電池を組み立てた。充放電試験の結果を
図31に示す(試験例27)。
【0099】
図31に示すとおり、正極活物質としてLiFePO
4を、負極活物質としてPTCDI-Prを用いた電池が十分機能することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の水系二次電池は、正極を、リン酸鉄化合物を活物質として含むものとし、負極をナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造又はベンゼンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する特定の化合物を活物質として含むものとし、電解質を水系電解質とすることで、安全性に優れると共に、充放電時の安定性をより向上させることでき、サイクル特性にも優れる。そのため、本発明の水系二次電池は、定置用蓄電池の用途に特化し、また携帯電話、ノートパソコン等のIT機器や電気自動車等の電源として、広く使用することができる。
【符号の説明】
【0101】
10 水系二次電池
11 正極集電体
12 正極活物質層
13 正極シート
14 負極集電体
17 負極活物質層
18 負極シート
19 セパレータ
20 水系電解液
22 円筒ケース
24 正極端子
26 負極端子
30 リングワッシャー
31 スペーサー
32 正極活物質層
33 負極活物質層
34 セパレータ
35 正極側の集電体
36 ガスケット
37 負極側の集電体
38 負極ケース
39 正極ケース
40 水系二次電池