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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】三層系電解液を含む電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20230731BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20230731BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20230731BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20230731BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M4/60
H01M8/02
H01M10/36 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019190284
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2020198289
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019100337
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】大平 昭博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 縁
(72)【発明者】
【氏名】野田 晃次
(72)【発明者】
【氏名】國武 雅司
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/186836(WO,A1)
【文献】特開2016-103386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0058205(US,A1)
【文献】NAVALPOTRO Paula,Exploring the Versatility of Membrane-Free Battery Concept Using Different Combinations of Immiscibl,ACS Appl. Mater. Interfaces,2018年,Vol.10,p.41246-41256
【文献】NAVALPOTRO Paula,A Membrane-Free Redox Flow Battery with Two Immiscible Redox Electrolytes,Angew. Chem. Int. Ed.,2017年,Vol.56,p.12460-12465
【文献】NAVALPOTRO Paula,Critical aspects of membrane-free aqueous battery based on two immiscible neutral electrolytes,Energy Storage Materials,2020年04月,Vol.26,p.400-407
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 4/60
H01M 8/02
H01M 10/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも一対の正極および負極と、
(b)正極電解液および負極電解液の一方を含む水性層と、
(c)前記正極電解液および負極電解液の他方を含む非水性層と、
(d)前記正極電解液および負極電解液の両方を含み、且つ前記水性層および前記非水性層の何れとも混和することなくそれらの間に介在するエマルション層と、
を含む電気化学デバイス。
【請求項2】
前記正極電解液が、金属イオン、有機金属化合物および/または有機化合物からなる正極活物質を含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記負極電解液が、前記正極活物質と同一または異なる金属イオン、有機金属化合物および/または有機化合物からなる負極活物質を含む、請求項2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記水性層が、主として水からなる水性溶媒と、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、過塩素酸、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つの支持電解質を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記非水性層が、ジクロロメタン、ベンゾトリフルオリド、2-ブタノン、炭酸プロピレンおよび1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR14TFSI)からなる群より選択される少なくとも1つの非水性溶媒と、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ホウフッ化リチウム、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリド、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムブロミド、1-エチル-1-メチルピロリジニウムブロミド、1-ブチルピリジニウムクロリド、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-3-メチルピリジニウムクロリド、1-ブチル-3-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムクロリド、1-エチルピリジニウムクロリド、1-エチルピリジニウムブロミド、1-エチル-2-メチルピリジニウムブロミド、1-エチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-プロピルピリジニウムクロリド、トリブチル-n-オクチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、およびトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリドからなる群より選択される少なくとも1つの支持電解質を含む、請求項1~4の何れか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
前記エマルション層が、主として水からなる水性溶媒、ジクロロメタン、ベンゾトリフルオリド、2-ブタノン、炭酸プロピレンおよび1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR 14 TFSI)からなる群より選択される少なくとも1つの非水性溶媒、界面活性剤および補助界面活性剤を含む両連続マイクロエマルション層である請求項1~5の何れか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
前記エマルション層が、液体または半固体である請求項1~6の何れか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
前記エマルション層が、前記水性層および前記非水性層に含まれるそれぞれの支持電解質を含む請求項1~7の何れか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
化還元反応によ充放電を可能とした二次電池である請求項1~8の何れか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
(a)少なくとも一対の正極および負極と、
(b)正極電解液および負極電解液の一方を含む水性層、前記正極電解液および負極電解液の他方を含む非水性層、並びに前記正極電解液および負極電解液の両方を含み、且つ前記水性層および前記非水性層の何れとも混和することなくそれらの間に介在するエマルション層を含む電池セルと、
(c)前記正極電解液および負極電解液のそれぞれを貯蔵する電解液タンクと、
(d)前記各電解液タンクと前記電池セルとを連結して前記正極電解液および負極電解液を循環させる電解液循環装置と、
を備えるレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスにかかる技術分野に関し、より詳細には、固体電解質膜を用いることなく、電解液が水性層、非水性層(油層)およびエマルション層の三層系からなる充放電可能な二次電池およびレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素等の温暖化ガスを発生しない、太陽光や風力などの自然エネルギーを利用した発電システムが、欧米を中心に我国でも積極的に導入されるようになってきている。このような再生可能エネルギーを有効かつ柔軟に使うためには、発電した電気を自由に出し入れできる蓄電池(二次電池)を用いた大容量の電力貯蔵システムが合わせて必要になる。大容量蓄電池としては、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、NAS電池(ナトリウム硫黄電池)、鉛蓄電池およびレドックスフロー電池が実用化されている。
【0003】
従来のレドックスフロー電池は、バナジウムや臭素のような無機系の酸化還元活物質を、硫酸などの強酸性下で使用している。このため、電解液自体の危険性や毒性が高く、さらにバナジウム化合物の地球上での存在量が限られているためコストの変動が激しいという問題がある。そこで最近の動きとして、無機系の電解液の代わりに、腐食性がなく安全で低コストの有機系の酸化還元分子を用いた報告が数多くなされている。例えば、キノン、フェノチアジン、ビオローゲン、ニトロオキシド、ピリジン、メトキシベンゼン、キノキサリンおよびフタルイミド誘導体などの有機化合物が、金属化合物の代わりに用いられる。ほとんどの有機分子は毒性がなく、環境にやさしく持続性がある。これら分子の酸化還元電位や溶解性などの電気化学的および物理化学的性質は、化学修飾によって改変することができる。いくつかの有機分子は複数の電子移動が可能で、これにより高い電荷貯蔵能力を有する。
【0004】
また、レドックスフロー電池は他の二次電池と異なり、容量と出力をそれぞれ独立に設計できるために設計の自由度が高く、大型化が容易である。容量部分は電解液の濃度と量で決まる。出力部分は目的に応じて、セルの電極面積と、集電板、電極面積、電解質膜を単セルとした場合の、単セルの積層数によって制御される。容量部分については、無機系だけでなく、有機系電解液も開発されており、エネルギー密度の向上が図られてきている。出力部分については、単セルを構成する材料の改良や、セル設計などによって出力密度の向上が図られる。単セルを構成する正・負極の電極は炭素材料であり、イオン輸送を担う電解質膜は一般的に高分子電解質膜やガラス電解質などが用いられる。カチオンまたはアニオン輸送能を有する固体電解質膜を用いることで、正・負極電解液の電荷が補償され、充放電が可能になる。また電解質膜は正・負極電解液中の活物質を、それぞれ反対側の電解液に移動させることなくイオンのみを移動させる選択透過性が要求される。このように電解液が多様化する中で、電解質膜の役割はより一層重要となっている。
【0005】
しかしながら、電解液の多様化に対して、高分子電解質膜やガラス電解質膜などの固体電解質膜の種類は限られており、適用性に限界がある。例えば、エネルギー密度の向上が期待できる、水系電解液と非水系電解液をそれぞれ正極あるいは負極に用いたレドックスフロー電池を実現するための実用的な固体電解質膜は現状見当たらない。
【0006】
このような状況の中、固体電解質膜を用いないレドックスフロー電池が提案されている。例えば、非水系電解液を正極および負極電解液とし(油層)、正・負極の油層の間に水層を配置した三層からなる電池システムである(特許文献1、非特許文献1参照)。この場合、固体電解質膜の役割を担うのは水層となる。油層と水層間でイオン輸送が行われ、正・負極それぞれの油層内の活物質の酸化還元反応が進行する。
【0007】
また水系電解液と非水系電解液のみから構成されるレドックスフロー電池が提案されている(特許文献2、非特許文献2および3参照)。水系電解液を水層、非水系電解液を油層とする二層から構成され、水層が正極、油層が負極となっている。この場合、電荷補償を行うイオン輸送は水層と油層の界面で行われ、それぞれの層で電解液中の活物質の酸化還元反応が進行し、充放電可能な二次電池として動作する。
【0008】
これら三層および二層の液体からなるレドックスフロー電池は、水層と油層を導入するだけで簡便かつ容易に充放電可能な電池セルを作製することができるために、固体電解質膜にかかる材料コストの低減、電池セルの製造コスト、さらにはメンテナンスコストなどの削減につながる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】P.Peljo,M.Bichon,H.H.Girault, Ion transfer battery:storing energy by transferring ions across liquid-liquid interfaces. Chem.Commun.,2016,52,9761-9764
【文献】P.Navalpotro,J.Palma,M.Anderson,R.Marcilla A Membrane-Free Redox Flow Battery with Two Immiscible Redox Electrolytes. Angew.Chem.Int.Ed.2017,56,12460-12465.
【文献】P.Navalpotro,N.Sierra,C.Trujillo,I.Montes,J.Palma,R.Marcilla Exploring the Versatility of Membrane-Free Battery Concept Using Different Combinations of Immiscible Redox Electrolytes. ACS Appl.Mater.Interfaces,2018,10,41246-41256.
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2017/186836A1
【文献】ES2633601A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された、油層を正・負極とする三層系では、水の電気分解の電圧以上の起電力を得ることができるという利点はあるものの、水溶性の活物質が使用できず、活物質の種類が限定される。また正・負極の油層の抵抗が大きくなってしまい、結果として電圧効率が低下するといった課題がある。二層系の場合も同様で、水層と油層の界面のみでイオン輸送を行うために、レドックスフロー電池が本来有している比較的高い出力特性が犠牲になってしまうこと、酸化還元した活物質の電子交換が容易に生じてしまい、充放電の安定性が低くなってしまうこと、などの問題があり、他の二次電池、例えばリチウムイオン電池に対する優位性を示すことができない。
【0012】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、水溶性および非水溶性の何れの活物質も使用することができ、且つ固体電解質膜を用いなくても、水層および油層間のイオン輸送を可能にする電気化学デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスは、(a)少なくとも一対の正極および負極と、(b)正極電解液および負極電解液の一方を含む水性層と、(c)前記正極電解液および負極電解液の他方を含む非水性層と、(d)前記正極電解液および負極電解液の両方を含み、且つ前記水性層および前記非水性層の何れとも混和することなくそれらの間に介在するエマルション層と、を含むことを特徴とする。
正極電解液が、金属イオン、有機金属化合物および/または有機化合物からなる正極活物質を含み、負極電解液が、正極活物質と同一または異なる金属イオン、有機金属化合物および/または有機化合物からなる負極活物質を含むことが好ましい。
水性層は、主として水からなる水性溶媒を含み、非水性層は、ジクロロメタン、ベンゾトリフルオリド、2-ブタノン、炭酸プロピレンおよび1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR14TFSI)からなる群より選択される少なくとも1つの非水性溶媒を含むことが好ましい。水性層および非水性層は、それぞれの溶媒に可溶な支持塩を含むことができる。
エマルション層が、水性溶媒、非水性溶媒、界面活性剤および補助界面活性剤を含む両連続マイクロエマルション層であることが好ましく、液体または半固体の形態でありうる。また、エマルション層は、水性層および非水性層に含まれるそれぞれの支持電解質を含むことができる。
電気化学デバイスの好ましい実施形態としては、正極活物質および負極活物質の酸化還元反応により、充放電を可能とした二次電池である。
【0014】
本発明の他の実施形態としてのレドックスフロー電池は、(a)少なくとも一対の正極および負極と、(b)正極電解液および負極電解液の一方を含む水性層、正極電解液および負極電解液の他方を含む非水性層、並びに正極電解液および負極電解液の両方を含み、且つ水性層および非水性層の何れとも混和することなくそれらの間に介在するエマルション層を含む電池セルと、(c)正極電解液および負極電解液のそれぞれを貯蔵する電解液タンクと、(d)各電解液タンクと電池セルとを連結して正極電解液および負極電解液を循環させる電解液循環装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水溶性および非水溶性の何れの活物質も使用することができ、且つ固体電解質膜を用いなくても、水層および油層間のイオン輸送を可能にする電気化学デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態の三層系電解液を含む小型試験セルの模式図である。
図2図2は、他の実施形態にかかるレドックスフロー電池の模式図である。
図3図3は、一実施形態に係る三層系電解液の調製工程を示すフロー図である。
図4図4は、1M塩化ナトリウム水溶液とジクロロメタンとを含む電解液において、三層系が形成される界面活性剤と補助界面活性剤の濃度範囲の一例を示す。
図5図5は、1M塩化ナトリウム水溶液と、0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウムを含むジクロロメタンとを含む電解液において、三層系が形成される界面活性剤と補助界面活性剤の濃度範囲の一例を示す。
図6図6は、実施例1において油層側を作用極として測定したサイクリックボルタンメトリーの結果である。
図7図7は、実施例1において水層側を作用極として測定したサイクリックボルタンメトリーの結果である。
図8図8は、比較例1において油層側を作用極として測定したサイクリックボルタンメトリーの結果である。
図9図9は、比較例1において水層側を作用極として測定したサイクリックボルタンメトリーの結果である。
図10図10は、実施例2において低濃度の正極活物質を含む三層系電解液による充放電実験の結果を示す。
図11図11は、実施例2において低濃度の正極活物質を含む三層系電解液による充放電実験のサイクル安定性の結果を示す。
図12図12は、実施例2において高濃度の正極活物質を含む三層系電解液による充放電実験の結果を示す。
図13図13は、比較例2において二層系電解液による充放電実験の結果を示す。
図14図14は、比較例2において二層系電解液による充放電実験のサイクル安定性の結果を示す。
図15図15は、三層系と二層系の充放電サイクル試験における、それぞれのサイクル毎の放電時の容量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本明細書において引用されるすべての特許文献および非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照として組み込まれる。
【0018】
<電気化学デバイス>
図1は、三層系電解液を含む小型試験セルの模式図である。図1において、小型試験セル1は、正極(カソード)10と接している正極電解液(水性層)13と、負極(アノード)11と接している負極電解液(非水性層)14と、これらの間に介在するエマルション層15とを有する。エマルション層15は、水性層13および非水性層14のいずれとも混和しないが、水性溶媒および非水性溶媒と共に界面活性剤および補助界面活性剤を含む。このため、水性溶媒および非水性溶媒の両方に可溶な支持電解質は、エマルション層を介して水性層および非水性層への物質移動が可能となる。正極10と負極11との間に電源装置16または負荷(抵抗回路)17を接続することにより充放電を行うことができる。
【0019】
エマルション層15には、銀-塩化銀参照電極12が配置され、電位差計に接続することで、充放電中の正極電解液および負極電解液に含まれるそれぞれの活物質の酸化還元状態を確認することができる。酸化還元反応の一例を挙げると、例えば、正極活物質としてヒドロキノンを含んだ水性溶媒を含む正極電解液と、負極活物質として2,3-ジメチルアントラキノン(2,3-DMAQ)を含んだ非水性溶媒を含む負極電解液を用いた場合、以下の充放電反応が起こると考えられる。
【0020】
【化1】
【0021】
なお、本実施形態では、正極電解液を水性層とし、負極電解液を非水性層としたが、それぞれの電解液に含まれる溶媒や活物質の種類を変えることで、逆に、正極電解液を非水性層とし、負極電解液を水性層とすることもできる。例えば、正極活物質としてフェロセンを含んだ、非水性溶媒を正極電解液として用い、負極活物質として2,7-アントラキノンジスルホン酸ナトリウムを含んだ水性溶媒を負極電解液として用いた場合は、以下の充放電反応が起こると考えられる。
【0022】
【化2】
【0023】
次に、他の実施形態を用いて本発明のさらに具体的な構成と作用について説明する。図2は、他の実施形態にかかるレドックスフロー電池の模式図である。
【0024】
<レドックスフロー電池>
レドックスフロー電池2は、典型的には、交流/直流変換器を介して、発電所(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)などの電源26と、電力系統や需要家などの負荷27とに接続され、発電所を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。上記充放電を行うにあたり、レドックスフロー電池2と、この電池2に電解液を循環させる循環機構(タンク、配管、ポンプ)とを備える以下の電池システムが構築される。
【0025】
レドックスフロー電池2は、正極20と接触している正極電解液23(水性層または非水性層)と、負極21と接触している負極電解液24(非水性層または水性層)と、両電解液23、24を分離すると共に、適宜イオンを透過する正極と負極電解液の双方の溶媒を含み、かつ混和しない二つの液層に挟まれたエマルション層25とを含む電池セルを備える。正極電解液23には、正極電解液用のタンク41が配管を介して接続される。負極電解液24には、負極電解液用のタンク42が配管を介して接続される。配管には、電解液を循環させるためのポンプ31、32を備える。レドックスフロー電池2は、配管、ポンプを利用して、電池セルにそれぞれタンク41の正極電解液、タンク42の負極電解液を循環供給して、各極の電解液中の金属、有機金属化合物、有機分子等の活物質の酸化還元反応に伴って充放電を行う。
【0026】
本実施形態においては、両連続マイクロエマルション層25が従来の固体電解質膜の機能を担うために、カチオン交換膜またはアニオン交換膜を使用する必要がないが、エマルション層を安定化させるための多孔質膜やサポート材を使用することができる。多孔質膜やサポート材としては、セラミックス膜やガラスフィルター等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
(正極電解液)
正極電解液は水系、非水系のいずれかであるが、負極電解液と異なる溶媒であり、例えば、正極電解液が水系(水層)であれば負極電解液は非水系(油層)を選択する。活物質として鉄、マンガン、バナジウム、セリウムなどの金属イオン、または前記金属を含み配位子が有機分子からなる有機金属化合物(フェロセン、マンガノセン、バナドセン、(フェロセニルメチル)トリメチルアンモニウムクロリド、1,1’-ビス[3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]フェロセンジクロリド)またはヒドロキノン、アシッドブルー、ビオルル酸、インディゴ、TEMPO、4OH-TEMPOまたは9-アミノアクリジン等の有機分子であり、特に好ましいのは、ヒドロキノン、フェロセン、(フェロセニルメチル)トリメチルアンモニウムクロリド、1,1’-ビス[3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]フェロセンジクロリドである。
【0028】
(負極電解液)
負極電解液は水系、非水系のいずれかであるが、正極電解液と異なる溶媒であり、活物質としてチタン、銅、亜鉛、コバルト、などの金属イオン、または前記金属を含み、配位子が有機分子からなる有機金属化合物(チタノセン、ニッケロセン、コバルトセン)、フタルイミド、フルオレノン、カンファ-キノン、アントラキノン、ナフトキノン、ベンゾキノン、アントラキノンモノスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、ナフトキノンモノスルホン酸、ナフトキノンジスルホン酸、メチルビオローゲン、アシッドブルー等の有機分子であり、特に好ましいのは、フタルイミド、フルオレノン、カンファ-キノン、アントラキノン、アントラキノンジスルホン酸、アシッドブルーである。
【0029】
(水性層)
本実施形態において、水性層は、主として水からなる水性溶媒を含む。水を含む溶媒中の好ましい水の含有量は、60~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%である。水は共存する支持塩の濃度を厳密に調製するためイオン交換水であることが好ましい。水性溶媒に含みうる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、およびエチレングリコールのいずれかまたはこれらの組み合わせであってもよい。
【0030】
また、水性層には、電解質として支持塩を含ませることができる。支持塩が含まれることで、電解液の電気伝導性が向上し、電池のエネルギー効率、エネルギー密度を向上させることができる。水性溶媒(水層)に添加しうる支持塩としては、例えばメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、過塩素酸、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。水性層は、正極および負極のいずれの電解液としても用いることができる。
【0031】
(非水性層)
本実施形態において、非水性層は水と混和しない非水性溶媒を含む。非水性溶媒は、支持塩として含まれる電解質の解離が可能で電気化学反応の場として機能するものであれば特に限定されないが、好ましくはジクロロメタン、ベンゾトリフルオリド、2-ブタノンおよび炭酸プロピレンの少なくとも1つを含む。また、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR14TFSI)のようなイオン液体であってもよい。
【0032】
また、非水性層(油層)に含まれる支持塩としては、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ホウフッ化リチウム、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリド、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムブロミド、1-エチル-1-メチルピロリジニウムブロミド、1-ブチルピリジニウムクロリド、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-3-メチルピリジニウムクロリド、1-ブチル-3-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムクロリド、1-エチルピリジニウムクロリド、1-エチルピリジニウムブロミド、1-エチル-2-メチルピリジニウムブロミド、1-エチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-プロピルピリジニウムクロリド、トリブチル-n-オクチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリド等が挙げられる。非水性層は、正極および負極のいずれの電解液としても用いることができる。
【0033】
(エマルション層)
エマルション層は上記水性溶媒および非水性溶媒を含んでおり、水性層と非水性層の中間に両連続マイクロエマルション層を形成させるために、界面活性剤および補助界面活性剤を含む。熱力学的平衡状態で水と油とがミクロに混在した溶液であるマイクロエマルションでは、適度な親水性親油性バランス(HLB)値を有する界面活性剤および/または補助界面活性剤を用いることによって、O/W相状態とW/O相状との中間に位置づけられる相状態であり、水相および油相が共に閉じていない状態(両連続相の状態)を形成させることができることが知られている(例えば、Kawano et al.“Construction of Continuous Porous Organogels, Hydrogels, and Bicontinuous Organo/Hydro Hybrid Gels from Bicontinuous Microemulsions.” Macromolecules 43,No.1(2010):473-479.参照)。
【0034】
界面活性剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系および両性界面活性剤など特に限定されないが、カチオン系界面活性剤としては、例えば、アミンや4級アンモニウム塩(例えばテトラメチルアンモニウムクロリド)、および4級アンモニウム塩を含む高分子等が挙げられる。また、アニオン系界面活性剤としては、スルホン酸(例えばドデシル硫酸ナトリウム)やカルボン酸、リン酸を有する高分子等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、ジグライムなどのエーテル含有化合物やエーテル(例えばポリエチレングリコールオクタデシルエーテル)を含む高分子等が挙げられる。さらに、双性(両性)イオン型界面活性剤としては、カルボン酸塩、アミノ酸塩、ベタイン構造を有する界面活性剤が挙げられる。
【0035】
補助界面活性剤は、界面活性剤の親水性親油性バランスを調整する作用を有し、脂肪族の一級あるいは二級アルコール等が用いられる。好ましくは、直鎖状または分子状の、C2~C6のモノアルコールである。アルコールの例は、エタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ペンタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよびそれらの任意の混合物である。これらは1種が単独で用いられてもよく、2種以上が任意の比率および組み合わせで用いられてもよい。特に好ましいのは、2-ブタノールおよびドデシル硫酸ナトリウムである。
【0036】
(三層系電解液の調製方法)
本実施形態における電解液の調製方法を図3に基づき説明する。図3は、一実施形態に係る三層系電解液の調製工程を示すフロー図である。ステップS1では、塩化ナトリウムをイオン交換水に溶かし、所定濃度の親水性活物質を加えて水性層を作製する。次にステップS2では、その電解液に過塩素酸テトラブチルアンモニウムを含むジクロロメタン溶液に所定濃度の親油性活物質を加えた油層を形成する第二の電解液を添加する。ステップS3では、所定量の界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムと補助界面活性剤である2-ブタノールを加える。ステップS4にて、これらを撹拌し、30分から1時間静置することで両連続エマルション層を含む三層系電解液が生成する。このとき、支持電解質である塩化ナトリウムや過塩素酸テトラブチルアンモニウムの有無にかかわらず、水とジクロロメタンをそれぞれ水性溶媒および非水性溶媒とする系において三層系が形成される。この三層系が形成される各構成成分の濃度範囲は、界面活性剤と補助界面活性剤の濃度によって制御することが可能である。
【0037】
三層系が形成される界面活性剤と補助界面活性剤の濃度範囲の一例を図4に示す。図4では、1M塩化ナトリウム水溶液4mLを水層とし、ジクロロメタン4mLを油層とした際の、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムと補助界面活性である2-ブタノールの濃度変化によるエマルション層の変化を示している。ドデシル硫酸ナトリウムの濃度範囲が0.35Mから0.5M、2-ブタノールの濃度範囲が1.4Mから2Mの範囲で三層系が形成される。図中〇は沈殿生成、□は水が油層に取り込まれたエマルション(WO:Water in Oil)、▲は両連続マイクロエマルション(BME)、◇は油が水層に取り込まれたエマルション(OW:Oil in Water)を示している。なお、ドデシル硫酸ナトリウムの濃度算出には水層の体積を、2-ブタノールの濃度算出には水層と添加した2-ブタノールの体積の和を基準としている。
【0038】
図5は、上記のジクロロメタンに、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを添加した場合の実験結果である。図5では、1M塩化ナトリウム水溶液を水層、0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウムを含むジクロロメタンを油層とした際の、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムと補助界面活性である2-ブタノールの濃度変化によるエマルション層の変化を示した図である。ドデシル硫酸ナトリウムの濃度範囲が0.22Mから0.52M、2-ブタノールの濃度範囲が1.3Mから1.6Mの範囲で三層系が形成される。図中〇は沈殿生成、□は水が油層に取り込まれたエマルション(WO)、▲は両連続マイクロエマルション(BME)、◇は油が水層に取り込まれたエマルション(OW)を示している。なお、ドデシル硫酸ナトリウムの濃度算出には水層の体積を、2-ブタノールの濃度算出には水層と添加した2-ブタノールの体積の和を基準としている。
【0039】
図4および図5の結果より、支持電解質の有無にかかわらず、水層とジクロロメタンを油層とする系において三層系が形成され、三層系が形成される範囲は界面活性剤と補助界面活性剤の濃度によって制御することが可能であることを示している。また、混合する水性溶媒と非水性溶媒の容量も1:1に限らず、ある程度自由に変化させることもできる。水層、油層およびエマルション層の容量と、用いる電池セルの容量および形状を適宜選択することで、水層と油層の間に形成されるエマルション層の厚みも自由に調整可能である。
【0040】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に制約されるものではない。
【実施例
【0041】
(実施例1)両連続マイクロエマルション層を含む正極および負極電解液の調製と三層系電池セルにおける電気化学測定(サイクリックボルタモグラム測定)
正極電解液として、10mMフェロセンを含んだ、0.3M過塩素酸テトラブチルアンモニウム-ジクロロメタン溶液を調製した。負極電解液として、10mMの2,7-アントラキノンジスルホン酸ナトリウムを含んだ0.3M塩化ナトリウム水溶液を調製した。4mLの正極電解液と、5.5mLの負極電解液と、0.6gドデシル硫酸ナトリウム、および2.25mLの2-ブタノールを混合し、続いて攪拌、静置したところ、水層および油層の間に両連続マイクロエマルション層を含んだ三層系の電解液が形成された。これを図1に示す小型試験セルに充填し、油層側を作用極として掃引速度1mV/sにてサイクリックボルタンメトリー測定を行った電流―電位曲線の結果を図6に示す。
【0042】
一方、上記と同じ三層系の電解液を充填した小型試験セルを用い、水層側を作用極として掃引速度1mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行った電流―電位曲線の結果を図7に示す。
図6において、酸化還元ピークが明瞭に観察された。酸化側のピークは0.55V付近に確認され、還元側のピークは0.23Vに確認される。図7においては、-0.46Vに酸化ピークが、-0.58Vに還元ピークが見られている。またこれらの酸化還元ピークはサイクルを繰り返しても同一の電位に現れており、活物質が安定に酸化還元反応を起こしていることを示している。
【0043】
(比較例1)正極および負極電解液の調製と二層系電池セルにおける電気化学測定(サイクリックボルタモグラム測定)
正極電解液として、10mMフェロセンを含んだ、0.3M過塩素酸テトラブチルアンモニウム-ジクロロメタン溶液を調製した。負極電解液として、10mMの2,7-アントラキノンジスルホン酸ナトリウムを含んだ0.3M塩化ナトリウム水溶液を調製した。4mLの正極電解液と、5.5mLの負極電解液とを混合して得られた二層系の電解液を図1に示す小型試験セル中に入れ、油層側を作用極として掃引速度1mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行った電流―電位曲線を図8に示す。
【0044】
一方、上記と同じ二層系の電解液を入れた小型試験セルを用い、水層側を作用極として掃引速度1mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行った電流―電位曲線の結果を図9に示す。
図6図8の油層のボルタモグラムを比較すると、図8の酸化側のピークが図6の三層系に比べると不明瞭となっている。このことは二層系の油層における反応抵抗が三層系の油層に比べて大きいことを示唆しており、充放電における過電圧の増大などの電圧効率の損失を引き起こす要因となりうる。
【0045】
(実施例2)両連続マイクロエマルション層を含む正極および負極電解液の調製と三層系電池セルにおける充放電およびサイクル試験
(低濃度活物質を用いた三層系サイクル試験)
正極電解液として、1mMフェロセンを含んだ、0.3M過塩素酸テトラブチルアンモニウム-ジクロロメタン溶液を調製した。負極電解液としては、1mMの2,7-アントラキノンジスルホン酸ナトリウムを含んだ0.3M塩化ナトリウム水溶液を調製した。4mLの正極電解液と、5.5mLの負極電解液と、1.2gドデシル硫酸ナトリウム、および2.25mLの2-ブタノールを混合し、続いて攪拌、静置したところ、水層および油層の間に両連続マイクロエマルション層を含んだ三層系の電解液が形成された。これを充填した小型試験セルを用いて行った、1mA/cmの定電流下における充放電実験の結果を図10に示す。図中縦軸はセル電圧、横軸は充放電時間を示している。Aは充電に要した時間、Bは通電していない(電流を流していない)休止時間、Cは放電に要した時間を示している。
【0046】
また、同一の三層系電解液を含む小型試験セルを用いて行った充放電実験のサイクル安定性の結果を図11に示す。図10より、休止時間を挟んで充放電が進行していることが認められる。休止時間30秒の間に2.1Vから1.6Vに低下している。放電開始直後に1.6Vから1.4Vに電圧が降下し、徐々に放電によって電圧降下が始まる。放電直後の0.2Vの低下は過電圧によるものである。図11は、図10と同様の条件で充放電サイクル安定性を示した図である。実線がセル電圧の変化、点線が負極電解液の電位変化(エマルション層に配置されたAg/AgCl基準)を示している。30サイクルの間のセル電圧変化、1サイクル内における充放電に要した時間、および負極電解液の電位変化が、サイクル間で違いが見られていないことから、電解液の分解などの副反応が生じず、充放電が安定に進行していることを示している。
【0047】
(高濃度活物質を用いた三層系サイクル試験)
正極電解液として、20mMフェロセンを含んだ、1.0M過塩素酸テトラブチルアンモニウム-ジクロロメタン溶液を調製した。負極電解液としては、10mMの2,7-アントラキノンジスルホン酸ナトリウムを含んだ0.3M塩化ナトリウム水溶液を調製した。4mLの正極電解液と、5.5mLの負極電解液と、0.65gドデシル硫酸ナトリウム、および1.25mLの2-ブタノールを混合し、続いて攪拌、静置したところ、水層および油層の間に両連続マイクロエマルション層を含んだ三層系の電解液が形成された。これを充填した小型試験セルを用いて行った充放電実験の結果を図12に示す。
【0048】
図12は、正極電解液の活物質濃度を20倍に、かつ負極電解液の活物質濃度を10倍にし、充放電サイクルを5回行った結果を示している。実線がセル電圧の変化、点線が負極電解液の電位変化(エマルション層に配置されたAg/AgCl基準)を示している。図11と同様に、5サイクルの間のセル電圧変化と1サイクル内の充放電に要した時間、および負極電解液の電位変化が、サイクル間で違いか見られていないことから、電解液の分解などの副反応が生じず、高濃度にしても充放電が安定に進行していることを示している。このことは活物質濃度を高めて、すなわちエネルギー密度を高くしても安定に充放電可能な電池が作製できることを示している。
【0049】
(比較例2)二層系電池セルにおける充放電およびサイクル試験
正極電解液として、20mMフェロセンを含んだ、1.0M過塩素酸テトラブチルアンモニウム-ジクロロメタン溶液を調製した。負極電解液としては、10mMの2,7-アントラキノンジスルホン酸ナトリウムを含んだ0.3M塩化ナトリウム水溶液を調製した。4mLの正極電解液と、5.5mLの負極電解液とを混合して得られた二層系の電解液を入れた小型試験セルを用いて行った充放電実験の結果を図13に示す。
【0050】
また、同一の二層系電解液を含む小型試験セルを用いて行った充放電実験のサイクル安定性の結果を図14に示す。
図13において、縦軸はセル電圧、横軸は充放電時間を示している。Aは充電に要した時間、Bは通電していない(電流を流していない)休止時間、Cは放電に要した時間を示している。図13より、休止時間を挟んで充放電が進行していることが分かる。休止時間60秒の間に2.1Vから1.36Vに低下している。放電開始直後に1.36Vから1.28Vに電圧が降下し、徐々に放電によって電圧降下が始まる。図10の結果と比べて放電が徐々に開始される電圧に大きな違いは見られていない。
【0051】
図14は充放電サイクルを5回行った結果を示している。実線がセル電圧の変化、点線が負極電解液の電位変化(水層に配置されたAg/AgCl基準)を示している。図11の三層系の場合と異なり、1サイクル内の充放電に要した時間が、サイクルを繰り返すことで徐々に減少していく傾向が見られている。このことは活物質の反応性が次第に低下していくことを示している。水層と油層のみから構成されるために、充放電を繰り返す間に活物質の相互移動による活物質濃度の低下や電子交換などによって、電池容量の低下を引き起こすことが考えられる。
【0052】
(実施例3)三層系と二層系電池セルにおけるサイクル特性の比較
(三層系電解液の調製と充放電サイクル試験)
正極電解液として、20mMフェロセンを含んだ、1.0M過塩素酸テトラブチルアンモニウム-ジクロロメタン溶液を調製した。負極電解液としては、10mMの2,7-アントラキノンジスルホン酸ナトリウムを含んだ0.6M塩化ナトリウム水溶液を調製した。4mLの正極電解液と、5.5mLの負極電解液と、0.65gドデシル硫酸ナトリウム、および1.25mLの2-ブタノールを混合し、続いて攪拌、静置したところ、水層および油層の間に両連続マイクロエマルション層を含んだ三層系の電解液が形成された。これを充填した小型試験セルを用いて、電流密度0.32mA/cm、充電時の上限電圧1.6V、放電時の下限電圧0Vで充放電サイクルを10回繰り返した。
【0053】
(二層系電解液の調製と充放電サイクル試験)
正極電解液として、20mMフェロセンを含んだ、1.0M過塩素酸テトラブチルアンモニウム-ジクロロメタン溶液を調製した。負極電解液としては、10mMの2,7-アントラキノンジスルホン酸ナトリウムを含んだ0.6M塩化ナトリウム水溶液を調製した。4mLの正極電解液と、5.5mLの負極電解液とを混合して得られた二層系の電解液を入れた小型試験セルを用いて、電流密度0.32mA/cm、充電時の上限電圧2.1V、放電時の下限電圧0.2Vで充放電サイクルを10回繰り返した。
【0054】
図15は、三層系と二層系の充放電サイクル試験における、それぞれのサイクル毎の放電時の容量の変化を示している。三層系と二層系の結果を比較すると、二層系はサイクル数が増えるにつれて、徐々に放電容量の低下が見られている。一方、三層系の方は、二層系に比べると放電容量が大きく、かつサイクルに伴う容量の低下が見られていない。このことは三層系の方が、正極および負極電解液中のそれぞれの活物質が各層に安定に存在し、酸化還元反応を繰り返すことで、電池としての容量が大きく、安定であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の電気化学デバイスは、固体電解質膜を使用せず、簡便かつ容易に二次電池を作製することができる。また水系電解液と非水系電解液の両方が使用でき、エネルギー効率、エネルギー密度に優れた電解液を用いたレドックスフロー電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 小型試験セル
2 レドックスフロー電池
10、20 正極
11、21 負極
12 銀-塩化銀参照電極
13、23 正極電解液
14、24 負極電解液
15、25 エマルション層
16、26 電源
17、27 負荷
31、32 ポンプ
41 正極用電解液タンク
42 負極用電解液タンク

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15