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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】歪センサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019084233
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020180872
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】竹井 邦晴
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106595469(CN,A)
【文献】国際公開第2017/179716(WO,A1)
【文献】特開平07-185847(JP,A)
【文献】特開2014-38088(JP,A)
【文献】米国特許第5168759(US,A)
【文献】Alexandre F. Carvalho et al.,Laser-Induced Graphene Strain Sensors Produced by Ultraviolet Irradiation of Polyimide,Advanced Functional Materials,ドイツ,2018年11月12日,Vol. 28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01L 1/00-1/26
5/00-5/28
25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムと、前記ポリイミドフィルム上に積層されたグラフェン層とを含む積層フィルムを備え、
前記積層フィルムは、切れ目を有し、かつ、前記切れ目の形が変わるように前記積層フィルムが変形することにより前記積層フィルムが伸縮する伸縮構造を有することを特徴とする歪センサ。
【請求項2】
前記グラフェン層は、前記ポリイミドフィルムの炭化層である請求項1に記載の歪センサ。
【請求項3】
前記積層フィルムの厚さは、0.1μm以上500μm以下である請求項1又は2に記載の歪センサ。
【請求項4】
保護層をさらに備え、
前記保護層は、前記グラフェン層を覆うように設けられた請求項1~3のいずれか1つに記載の歪センサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の歪センサの製造方法であって、
ポリイミドフィルムにレーザー光を照射することにより前記ポリイミドフィルムの一部を炭化し前記グラフェン層を形成するレーザー照射工程を含む製造方法。
【請求項6】
前記レーザー照射工程において、ポリイミドフィルムにレーザー光を照射することにより前記切れ目を形成する請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の動き、構造物の動き、ロボットの動きなどをモニタリングする歪センサが注目されている。動きをモニタリングする歪センサには、人、構造物、ロボットなどの動きを阻害しないこと、人、構造物、ロボットなどが動くことによって歪センサが壊れないこと、センサ特性が安定していることなどが求められる。このため、モニタリング用の歪センサには伸縮性が求められる。
グラフェン層の電気抵抗の変化を利用した歪センサが知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
引用文献1は、レーザー照射によりポリイミドフィルムの表面に形成したグラフェン層を有する歪センサを開示している。引用文献2は、伸縮性のあるシリコーンゴムの表面上にグラフェン層を形成した歪センサを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Advanced Functional Materials, 2018, 28, 1805271
【文献】ACS Applied Materials & Interfaces, 2019, 11(8), pp 8527-8536
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリイミドフィルムの表面上にグラフェン層を形成した歪センサでは、ポリイミドフィルムが十分な伸縮性を有していないため、人、構造物、ロボットなどの動きをモニタリングする際に歪センサが人、構造物、ロボットなどの動きを阻害する場合がある。
シリコーンゴムの表面上にグラフェン層を形成した歪センサでは、ゴム弾性を有するシリコーンゴムが大きく伸びるとグラフェン層に過大な歪みが生じセンサ特性が不安定になる場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、人、構造物、ロボットなどの動きを阻害することなくモニタリングすることができ、かつ、センサ特性が不安定になることを抑制することができる歪センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリイミドフィルムと、前記ポリイミドフィルム上に積層されたグラフェン層とを含む積層フィルムを備え、前記積層フィルムは、切れ目を有し、かつ、前記切れ目の形が変わるように前記積層フィルムが変形することにより前記積層フィルムが伸縮する伸縮構造を有することを特徴とする歪センサを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の歪センサはポリイミドフィルム上に積層されたグラフェン層を含むため、グラフェン層の電気抵抗の変化に基づき歪みを検出することができる。
本発明の歪センサに含まれる積層フィルムは伸縮構造を有する。このため、人、構造物、ロボットなどの動きに合わせて歪センサを伸縮させることができ、グラフェン層の電気抵抗を変化させることができる。このため、人、構造物、ロボットなどの動きを阻害することなく人、構造物、ロボットなどの動きをモニタリングすることができる。
本発明の歪センサの伸縮構造は、切れ目の形が変わるように積層フィルムが変形することにより積層フィルムが伸縮する構造(切り紙構造)である。このため、伸張条件下において、過大な歪みがグラフェン層に生じることを抑制することができ、感度及び伸縮性を犠牲にすることなくセンサ特性の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)は本発明の一実施形態の歪センサの概略上面図であり、(b)は(a)の破線A-Aにおける歪センサの概略断面図である。
図2】(a)は本発明の一実施形態の歪センサの概略上面図であり、(b)は(a)の破線B-Bにおける歪センサの概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態の歪センサの概略上面図である。
図4】本発明の一実施形態の歪センサの概略上面図である。
図5】(a)(b)はそれぞれ本発明の一実施形態の歪センサの概略断面図である。
図6】(a)~(e)は本発明の一実施形態の歪センサの製造工程の説明図である。
図7】(a)はグラフェン層の上面の写真であり、(b)はグラフェン層の断面の写真である。
図8】グラフェン層のラマンスペクトルである。
図9】(a)(b)はそれぞれ作製した歪センサを伸縮させた際のグラフェン層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
図10】(a)(b)はそれぞれ作製した歪センサを伸縮させた際のグラフェン層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
図11】作製した歪センサの伸縮サイクル試験におけるグラフェン層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
図12】作製した歪センサを肘に装着して肘の曲げ伸ばしを行った時のグラフェン層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
図13】作製した歪センサを腹部に装着して呼吸を繰り返した時のグラフェン層の電気抵抗の変化及び呼吸周期の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の歪センサは、ポリイミドフィルムと、前記ポリイミドフィルム上に積層されたグラフェン層とを含む積層フィルムを備え、前記積層フィルムは、切れ目を有し、かつ、前記切れ目の形が変わるように前記積層フィルムが変形することにより前記積層フィルムが伸縮する伸縮構造を有することを特徴とする。
【0009】
前記グラフェン層は、ポリイミドフィルムの炭化層であることが好ましい。このことにより、ポリイミドフィルムを炭化することによりグラフェン層を形成することができ、歪センサの製造コストを低減することができる。
前記積層フィルムの厚さは、0.1μm以上500μm以下であることが好ましい。このことにより、人、構造物、ロボットなどの動きを阻害することなく人、構造物、ロボットなどの動きをモニタリングすることができる。
本発明の歪センサは保護層を備えることが好ましく、保護層はグラフェン層を覆うように設けられることが好ましい。このことにより、グラフェンがグラフェン層から剥離することを防止することができ、歪センサのセンサ特性を安定化することができる。
【0010】
本発明は、本発明の歪センサの製造方法であって、ポリイミドフィルムにレーザー光を照射することによりポリイミドフィルムの一部を炭化しグラフェン層を形成するレーザー照射工程を含む製造方法も提供する。
前記レーザー照射工程において、ポリイミドフィルムにレーザー光を照射することにより前記切れ目を形成することが好ましい。
【0011】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0012】
図1(a)は本実施形態の歪センサの概略上面図であり、図1(b)は図1(a)の破線A-Aにおける歪センサの概略断面図である。図2(a)は本実施形態の歪センサの概略上面図であり、図2(b)は図2(a)の破線B-Bにおける歪センサの概略断面図である。図3図4はそれぞれ本実施形態の歪センサの概略上面図である。図5(a)(b)はそれぞれ本実施形態の歪センサの概略断面図である。図6(a)~(e)は本実施形態の歪センサの製造工程の説明図である。
本実施形態の歪センサ20は、ポリイミドフィルム2と、ポリイミドフィルム2上に積層されたグラフェン層3とを含む積層フィルム4を備え、積層フィルム4は、切れ目5を有し、かつ、切れ目5の形が変わるように積層フィルム4が変形することにより積層フィルム4が伸縮する伸縮構造を有することを特徴とする。
また、本実施形態の歪センサ20は、保護層6、第1電極7又は第2電極8を備えてもよい。
【0013】
歪センサ20は、人の動き(例えば、関節の曲げ伸ばし、呼吸に伴う胸部や腹部の膨張・収縮、脈動に伴う血管の膨張・収縮など)、構造物の動き、ロボットの動きなどをモニタリングするための歪センサであり、歪センサ20を人、構造物、ロボットなどに装着して使用する。歪センサ20により人の動きを検出する場合、歪センサ20を皮膚上に取り付けてもよく、取り付け具で歪センサ20を人が装着してもよく、歪センサ20を衣類に取り付けてもよい。
歪センサ20は伸縮構造を有するため、人、構造物、ロボットなどの動きをモニタリングする際に歪センサ20が人、構造物、ロボットなどの動きを阻害することを抑制することができる。また、歪センサ20が人、構造物、ロボットなどの動きにより壊れることを抑制することができる。また、歪センサ20は、伸縮性歪センサであってもよい。
【0014】
ポリイミドフィルム2は、ポリイミド製のフィルムである。ポリイミドフィルム2の厚さは例えば1μm以上500μm以下である。ポリイミドフィルム2は、グラフェン層3と共に積層フィルム4を構成する。また、ポリイミドフィルム2は、グラフェン層3の基材となる。ポリイミドフィルム2はゴム弾性を有さないため、グラフェン層3に過度の歪が生じること抑制することができる。
【0015】
グラフェン層3は、多数のグラフェンを含む層であり、隣接する2つのグラフェンはファンデルワールス力により結合している。グラフェン層3に歪みが生じると、ピエゾ抵抗効果によりグラフェン層3の電気抵抗が変化する。このため、グラフェン層3の電気抵抗の変化からグラフェン層3に歪みが生じたことを検出することができる。グラフェン層3の厚みは、例えば、0.1μm以上300μm以下とすることができる。また、グラフェン層3は、ポリイミドフィルム2に接触するように設けることができる。また、グラフェン層3は、ポリイミドフィルム2の炭化層とすることができる。ポリイミドフィルム2とグラフェン層3とが積層した積層フィルム4の厚さは、例えば、10μm以上500μm以下とすることができる。
【0016】
グラフェン層3は、ポリイミドフィルム2にレーザー光を照射することによりポリイミドフィルム2の一部を焼成し炭化することにより形成することができる。例えば、図6(a)(b)に示した断面図のようにポリイミドフィルム2にレーザー光を走査させながら照射してグラフェン層3を形成することができる。このことにより、ポリイミドフィルム2の表面の所望の領域にグラフェン層3を形成することができる。グラフェン層3の形成に用いるレーザーは、例えば、CO2レーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザー、YVO4レーザーなどである。また、レーザー出力、走査速度などを調節することにより、グラフェン層3の厚み及びグラフェン層3の下部に残すポリイミドフィルム2の厚みを調節することができる。
【0017】
ポリイミドフィルム2とグラフェン層3とが積層された積層フィルム4は、積層フィルム4が伸縮するように設けられた切り紙構造(伸縮構造)を有する。この伸縮構造は、積層フィルム4の切れ目5の形が変わるように積層フィルム4が変形することにより積層フィルム4が伸縮する構造である。積層フィルム4が有する切れ目5の形状、数及び配置は、積層フィルム4が伸縮することができれば特に限定されない。積層フィルム4は、例えば、図1(a)(b)に示した歪センサ20のような複数の切れ目5を有することができる。この歪センサ20を伸ばすような荷重を歪センサ20に加えると、図2(a)(b)に示した歪センサ20のように、切れ目5の端に近接した部分において積層フィルム4が曲がり切れ目5の形状が変化して歪センサ20が伸びる。この際、積層フィルム4は弾性変形する。このため、歪センサ20に加えた荷重を弱めると、積層フィルム4は元の形に戻る。このように、積層フィルム4が切り紙構造を有することにより、歪センサ4が伸縮することができる。
【0018】
切れ目5の端に近接した部分において積層フィルム4が弾性変形すると、グラフェン層3に歪みが生じ、グラフェン層3の電気抵抗が変化する。この電気抵抗をモニタリングすることにより、歪センサ4の伸縮を検出することができる。
切れ目5は、例えば、図6(b)(c)のようにポリイミドフィルム2にレーザー光を照射することにより形成することができる。例えば、グラフェン層3を形成する部分にレーザー光を照射する場合、レーザー光の出力を小さくし又は走査速度を速くし、切れ目5を形成する部分にレーザー光を照射する場合、レーザー光の出力を大きくし又は走査速度を遅くすることができる。このようにして、グラフェン層3の形成と切れ目5の形成を同じ工程で行うことが可能になる。また、グラフェン層3の形成と切れ目5の形成を別々の工程で行ってもよい。また、切れ目5は、金型を用いる穴抜き加工により形成してもよい。
【0019】
第1電極7及び第2電極8は、グラフェン層3と配線とを接続する電極である。また、第1電極7及び第2電極8は、積層フィルム4の伸縮構造を構成するグラフェン層3の電気抵抗を測定することができるように設けられる。例えば、図1図2に示した歪センサ20のように、第1電極7と第2電極8との間に伸縮構造が位置するように第1電極7と第2電極8とを設けることができる。また、第1電極7又は第2電極8は、伸縮構造を横断するように設けることができる。このことにより、第1電極7の端子部と第2電極8の端子部を近接して配置することが可能になり、測定部(例えば、電源部、電流計など)と、第1電極7及び第2電極8との配線接続をシンプルにすることができる。例えば、図3に示した歪センサ20のように、第2電極8を設けることができる。測定部は、グラフェン層3の電気抵抗の変化をモニタリングできるように設けられる。
【0020】
伸縮構造に二列のグラフェン層3を設け、一方の端において二列のグラフェン層3を電気的に接続し、他方の端に第1電極7及び第2電極8を配置することができる。このことにより、第1電極7の端子部と第2電極8の端子部を近接して配置することが可能になり、測定部(例えば、電源部、電流計など)と、第1電極7及び第2電極8との配線接続をシンプルにすることができる。例えば、図4に示した歪センサ20のように、グラフェン層3、第1電極7及び第2電極8を設けることができる。
グラフェン層3の電気抵抗は、第1電極7及び第2電極8に接続した測定部を用いてモニタリングすることができる。
第1電極7及び第2電極8は、例えば、図6(d)のようにグラフェン層3の上に形成することができる。第1電極7及び第2電極8は、例えば、銀ペーストをグラフェン層3上に塗布又は印刷することにより形成することができる。
【0021】
保護層6は、グラフェン層3を保護する層である。保護層6は、グラフェン層3を覆うように設けることができる。グラフェン層3は、ファンデルワールス力により結合している多数のグラフェンを含むため、グラフェンがグラフェン層から剥がれ、グラフェン層3に含まれるグラフェンの量が減少する場合がある。保護層6を設けることにより、グラフェン層3からグラフェンが剥がれることを防止することができ、グラフェン層3の導電特性を安定化することができる。保護層6は、例えば、シリコーンゴム層などのゴム層とすることができる。このことにより、グラフェン層3を保護することができると共に、保護層6が積層フィルム4の伸縮を阻害することを抑制することができる。
【0022】
保護層6は、例えば、図5(a)(b)に示した歪センサ20のように、保護層6がグラフェン層3の表面を覆うように設けることができる。また、保護層6は、図5(a)のように切り目5を塞がないように設けてもよい。このことにより、歪センサ20が優れた伸縮性を有することができる。また、保護層6は、図5(b)のように切り目5を塞ぐように設けてもよい。このことにより、歪センサ20の表面を滑らかにすることができ、歪センサ20が直接肌に触れる用途などに有用である。
保護層6は、例えば、図6(e)のように液状シリコーンゴムでポリイミドフィルム2、グラフェン層3、第1電極7及び第2電極8をコーティングすることにより形成することができる。
【0023】
グラフェン層形成実験
ポリイミドフィルム(厚さ130μm)にCO2レーザー(レーザー出力:3W)を照射することによりグラフェン層を形成した。図7(a)は形成したグラフェン層の上面のSEM写真であり、図7(b)はグラフェン層の断面のSEM写真である。図8は、形成したグラフェン層のラマンスペクトルである。図7に示したSEM写真からグラフェン層は多孔質層となっていることがわかった。また、図8に示したラマンスペクトルからグラフェンが欠陥を有することが示唆された。
【0024】
歪センサ作製実験
図1図2に示したような歪センサA~Dを作製した。歪センサA、Cでは、25μm厚のポリイミドフィルムを用いて歪センサを作製し、歪センサB、Dでは、130μm厚のポリイミドフィルムを用いて歪センサを作製した。グラフェン層及び切れ目はCO2レーザー(レーザー出力:1.5W又は3W)を用いて形成し、第1電極及び第2電極は銀ペーストを印刷することにより形成した。また、歪センサA、Bは、図5(b)のように、液状シリコーンゴムを用いて切れ目を塞ぐように保護層を形成した。歪センサC、Dは、図5(a)のように、液状シリコーンゴムを用いて切れ目が塞がれないように保護層を形成した。
図9(a)は、歪センサAを3回伸縮させたときのグラフェン層の電気抵抗の変化率を示すグラフであり、図9(b)は、歪センサBを3回伸縮させたときのグラフェン層の電気抵抗の変化率を示すグラフである。図10(a)は、歪センサCを4回伸縮させたときのグラフェン層の電気抵抗の変化率を示すグラフであり、図10(b)は、歪センサDを4回伸縮させたときのグラフェン層の電気抵抗の変化率を示すグラフである。
【0025】
歪センサA~Dの何れのセンサでも歪センサの伸縮を再現性よく検出することができた。
また、歪センサBの電気抵抗の変化率は歪センサAよりも大きく、歪センサDの電気抵抗の変化率は歪センサCよりも大きかった。これは、歪センサの厚みが厚いとグラフェン層により大きな歪みが生じていることを示している。歪センサに切り紙構造を伸張させるような荷重が加わっている場合、ポリイミドフィルムは切れ目の端の近辺において曲がる。ポリイミドフィルムが曲がると、フィルムの厚さと曲げ半径に応じた歪みがグラフェン層に生じる。この歪みεは、ε≒ d /2R(dはポリイミドフィルムの厚さ、Rは曲げ半径)で算出することができる。このため、歪センサB、Dの電気抵抗の変化率が大きくなったと考えられる。
【0026】
歪センサCの電気抵抗変化率は歪センサAの電気抵抗変化率よりも小さく、歪センサDの電気抵抗変化率は歪センサBの電気抵抗変化率よりも小さかった。このことからグラフェン層で生じる歪みに保護層が影響を与えていることがわかった。
【0027】
図11は、歪センサA、Cを60000回以上伸縮サイクルを繰り返したときのグラフェン層の電気抵抗の変化率を示したグラフである。歪センサA、Cを用いると60000回以上伸縮を繰り返しても、安定して伸縮を検出することができることがわかった。
【0028】
動作検出実験
図3に示したような歪センサE、Fを作製した。歪センサEは25μm厚のポリイミドフィルムを用いて作製し、歪センサFは130μm厚のポリイミドフィルムを用いて作製した。グラフェン層及び切れ目はCO2レーザー(レーザー出力:1.5W又は3W)を用いて形成し、第1電極及び第2電極は銀ペーストを塗布することにより形成した。また、歪センサEでは、図5(a)に示した歪センサのように、液状シリコーンゴムを用いて切り目が塞がれないように保護層を形成した。歪センサFでは、図5(b)に示した歪センサのように、液状シリコーンゴムを用いて切り目が塞がれるように保護層を形成した。
【0029】
図12に示した写真のように歪センサEを肘に装着して肘の曲げ伸ばしを行い、歪センサEを伸縮させた。この際のグラフェン層の電気抵抗の測定を行った。肘の曲げ伸ばしでは歪センサが大きく伸縮するため、歪センサEは25μm厚のポリイミドフィルムを用いて作製し、切り目が塞がれないように保護層を形成した。
図12に示したグラフのように、肘の角度を0度~130度で変化させると、肘を大きく曲げるほど歪センサは伸張しグラフェン層の電気抵抗は大きくなった。また、肘の曲げ伸ばしを速く行うと、肘の曲げ伸ばしに応じてグラフェン層の電気抵抗は変化した。このように、歪センサEを用いて肘の動作を検出することができた。
【0030】
図13に示した写真のように歪センサFを腹部に装着し、呼吸に伴う腹部の膨張・収縮で歪センサFを伸縮させた。この際のグラフェン層の電気抵抗の測定を行った。
呼吸に伴う腹部の膨張・収縮は比較的小さい動きであるため、歪センサFは130μm厚のポリイミドフィルムを用いて作製し、切り目が塞がれるように保護層を形成した。
図13に示したグラフのように、呼吸に伴いグラフェン層の電気抵抗は上下動し、腹部の膨張及び収縮を2時間以上安定して検出することができた。また、電気抵抗値の変化のピーク間距離から呼吸周期を算出した。このことから歪センサFを用いると、呼吸周期を長期間安定してモニタリングすることができることがわかった。
【符号の説明】
【0031】
2:ポリイミドフィルム 3:グラフェン層 4:積層フィルム 5:切れ目 6:保護層 7:第1電極 8:第2電極 20:歪センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13