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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】濃縮調味料組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20230731BHJP
【FI】
A23L27/00 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019067130
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162499
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】川波 克明
(72)【発明者】
【氏名】柴田 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】戚 丹
(72)【発明者】
【氏名】森下 由佳子
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-252758(JP,A)
【文献】特開2016-096799(JP,A)
【文献】特開2010-130982(JP,A)
【文献】特開2008-237059(JP,A)
【文献】特開2015-112064(JP,A)
【文献】特開2018-171036(JP,A)
【文献】国際公開第2008/111676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉質原料を5~40質量%油脂を10質量%以上、及び乳化剤を0.05質量%以上含む、炒めもの料理用の濃縮調味料組成物であって、記澱粉質原料が、加工澱粉及びそれ以外の澱粉質原料を含み、前記加工澱粉の配合量が、前記濃縮調味料組成物の全質量に対して0.05質量%以上である、濃縮調味料組成物。
【請求項2】
前記加工澱粉が、α化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、リン酸架橋澱粉、多孔質化澱粉、油脂処理澱粉、及び、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の濃縮調味料組成物。
【請求項3】
前記乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン酸脂肪酸エステル、及び、プロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の濃縮調味料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃縮調味料組成物に関し、特に、所定の量の澱粉質原料及び油脂を含む濃縮調味料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の調味料を予め配合し、炒め物などの目的の惣菜を調理するために使用される合わせ調味料(メニュー用調味料)は、種々の惣菜を簡便に調理することを可能とするものであり、家庭で広く利用されている。例えば、特許文献1には、炒め物を調理する際に流出する水分の量を少なくすることができ、その結果、見栄えが良く水っぽくない炒め物を火力の弱いコンロでも作ることができる炒め物用調味料組成物が記載されている。また、カレー、シチュー、及びハヤシライスソースなどのソースを調理するための調理材料としてルウが用いられているが、その基材を利用したメニュー用調味料の開発も行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3469819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルウの基材を利用したメニュー用調味料を使用すると、最終的な調理品における油分が水分と比較して多くなるため、従来は、当該調理品において油浮きが生じることがあり、外観上好ましくなかった。そこで、本発明は、油浮きが抑制された調理品を作製するためのメニュー用調味料として使用できる濃縮調味料組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、加工澱粉及び乳化剤を組み合わせて濃縮調味料組成物に配合すると、当該濃縮調味料組成物を用いて作製された調理品において油浮きが抑制されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す濃縮調味料組成物を提供するものである。
〔1〕澱粉質原料を5~40質量%及び油脂を10質量%以上含む、濃縮調味料組成物であって、乳化剤をさらに含み、前記澱粉質原料が、加工澱粉を含むことを特徴とする、濃縮調味料組成物。
〔2〕前記加工澱粉が、α化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、リン酸架橋澱粉、多孔質化澱粉、油脂処理澱粉、及び、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔1〕に記載の濃縮調味料組成物。
〔3〕前記加工澱粉の配合量が、前記濃縮調味料組成物の全質量に対して0.05質量%以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の濃縮調味料組成物。
〔4〕前記乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン酸脂肪酸エステル、及び、プロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の濃縮調味料組成物。
〔5〕前記乳化剤の配合量が、0.05質量%以上である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の濃縮調味料組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、加工澱粉及び乳化剤を組み合わせて濃縮調味料組成物に配合することにより、当該濃縮調味料組成物を用いて作製された調理品において油浮きを抑制することができる。したがって、油浮きが抑制されて良好な外観を有する調理品を作製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の濃縮調味料組成物は、澱粉質原料及び油脂を含み、乳化剤をさらに含む。本明細書に記載の「澱粉質原料」とは、澱粉を主成分とする食品原料のことをいう。前記濃縮調味料組成物においては、前記澱粉質原料は、加工澱粉を含むが、それ以外の澱粉質原料をさらに含んでもよい。そのような澱粉質原料としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、小麦澱粉、コーンスターチ、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、及び、くず澱粉などの澱粉、並びに、小麦粉、コーンフラワー、米粉、ライ麦粉、蕎麦粉、あわ粉、きび粉、はと麦粉、及びひえ粉などの穀粉などからなる群から選択される少なくとも1種を使用してもよい。前記澱粉質原料の配合量は、前記濃縮調味料組成物の全質量に対して、約5~約40質量%であり、好ましくは約15~約35質量%であり、さらに好ましくは約17~約30質量%である。
【0008】
本明細書に記載の「加工澱粉」とは、化学的処理、物理的処理、又は酵素的処理などの加工を施された澱粉のことをいい、これは未加工の澱粉と比較して、膨潤性、粘度付与特性、及び/又は、溶解性などが向上している。前記加工澱粉としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記加工澱粉は、油脂処理澱粉及びオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムなどの乳化性加工澱粉(親水性部分と疎水性部分とを併せ持つように加工された、乳化作用を有する澱粉)であってもいいし、それ以外の加工澱粉、例えば、α化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、リン酸架橋澱粉、又は、多孔質化澱粉などであってもよい。前記加工澱粉の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記濃縮調味料組成物の全質量に対して、約0.05質量%以上であってもよく、好ましくは約0.08~約10質量%であり、さらに好ましくは約0.1~約5質量%である。
【0009】
本明細書に記載の「油脂」とは、食用に供される天然油脂又は加工油脂などの油脂のことをいう。前記油脂としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記油脂は、バター、牛脂、及び豚脂などの動物油脂、マーガリン、パーム油、綿実油、及びコーン油などの植物油脂、これらの硬化油脂、並びにこれらの混合油脂などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記油脂の融点は、特に制限されず、目的の形状のルウを製造するために適宜選択され得る。例えば、固体状のルウを製造するためには融点35℃以上の油脂が好ましい。前記油脂の配合量は、前記濃縮調味料組成物の全質量に対して、約10質量%以上であり、好ましくは約20~約40質量%であり、さらに好ましくは約25~約37質量%である。
本発明の濃縮調味料組成物は、水分量が約10質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは約6質量%以下である。
【0010】
本明細書に記載の「乳化剤」とは、本来混ざり合わない水と油を混合して均一な状態にすることができる物質のことをいい、これは食品添加物として広く利用されている。前記乳化剤は、前記油脂と他の原料中の水分との乳化のために機能しつつ、前記加工澱粉と協同的に作用し、調理品における油浮きを抑制する。前記乳化剤としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン酸脂肪酸エステル、及び、プロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよく、好ましくは前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む。前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、特に限定されないが、例えば、エルカ酸又はベヘニン酸を含んでもよい。ある態様では、本発明の濃縮調味料組成物は、目的に応じて、2種以上の乳化剤を含み得る。また、前記乳化剤の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記濃縮調味料組成物の全質量に対して、約0.05質量%以上であってもよく、好ましくは約0.1~約2質量%であり、さらに好ましくは約0.2~約1.5質量%である。
【0011】
特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の濃縮調味料組成物を使用すれば、前記乳化剤が、前記濃縮調味料組成物中の前記油脂及び食材に由来する油分と、前記濃縮調味料組成物を使用して作製された調理品中の水分とを混和する一方、前記加工澱粉が、その混和物を吸収して膨潤したり、当該混和物に適切な粘度を付与したり、及び/又は、当該混和物に速やかに溶解したりすることによって、油分及び水分の混和状態を良好に維持することができ、その結果、前記調理品における油浮きを効果的に抑制することができると考えられる。なお、本明細書に記載の「油浮き」とは、前記油脂及び/又は前記油分が、前記調理品から分離してソースの表面に浮いた状態のことをいう。この油浮きは、加熱して作製した調理品を皿に移した後の様子を、目視で観察することによって評価することができる。
【0012】
本発明の濃縮調味料組成物は、増粘剤をさらに含んでもよい。前記増粘剤は、調理品に対して適度な粘度を付与し、特に、油分と水分が混和した乳化状態の維持に寄与し得る。また、皿の上に盛り付けられた調理品において、箸やスプーンなどに付着した唾液中のアミラーゼの働きで澱粉成分に由来する調理品の粘度が低下するような場合であっても、その粘度低下を補完することができる。前記増粘剤としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記増粘剤は、キサンタンガム、ウェランガム、グアガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、カラギーナン、及び、ローカストビーンガムからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記増粘剤の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記濃縮調味料組成物の全質量に対して、約0.02質量%以上であってもよく、好ましくは約0.03~約3質量%であり、さらに好ましくは約0.05質量~約1質量%である。前記増粘剤がこのような範囲の量で配合されていると、調理品の風味を害さずに適度な粘度を付与することができる。
【0013】
本発明の濃縮調味料組成物は、肉野菜炒め及び回鍋肉などの炒めもの料理や、煮物料理などの種々の調理品を作製するためのメニュー用調味料として使用することができる。前記濃縮調味料組成物は、対象とする調理品に応じて、1種以上の調味料及び/又は香辛料を含むことができる。前記調味料及び前記香辛料としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記調味料は、グルタミン酸などのアミノ酸、味噌、醤油、砂糖、塩、みりん、料理酒、酢、ケチャップ、マヨネーズ、中濃ソース、及びオイスターソースからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、前記香辛料は、唐辛子、黒胡椒、ジンジャー、及び、ガーリックからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0014】
本発明の濃縮調味料組成物は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤をさらに含んでもいいし、調理品の油浮きを抑制するのに有効な他の添加剤をさらに含んでもよい。また、前記濃縮調味料組成物は、当技術分野で通常使用される任意の方法により製造することができる。前記濃縮調味料組成物の形状は、特に限定されないが、例えば、ブロック状、フレーク状、及び顆粒状などの固体状、ペースト状、又は、液体状であってもよい。製品の荷姿を箱にして積み重ねて運送しやすいという流通上の利点や、手にルウが付着しにくいなどの調理時の使い易さの点から、固体状が好ましい。
【0015】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0016】
1.濃縮調味料組成物の調製
表1に記載の量の牛脂豚脂混合油(融点35℃以上)及び小麦粉を使用して、常法により小麦粉ルウを調製した。そして、これら以外の原料を表1に記載の量で前記小麦粉ルウと適宜混合し、100℃になるまで加熱撹拌した。その後、60℃になるまで冷却し、これを容器に充填して冷却固化することによって、実施例1~6並びに比較例1及び2の濃縮調味料組成物(ブロック状の固形ルウ;水分量約3質量%)を調製した。
【0017】
2.調理及び評価
豚肉、キャベツ、及びピーマンをフライパンで炒めて、水を100mL添加し、そこへ実施例1~6並びに比較例1及び2の濃縮調味料組成物のいずれかを70g混合してとろみが出るまで加熱し、肉野菜炒めを作製した。作製した肉野菜炒めを皿に移し、その皿の底のソースの表面に浮いた油(油浮き)の様子、及び、作製した肉野菜炒めの風味を、5人のパネルが以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
(油浮き)
◎◎:油浮きがほとんどない(実施例6)
◎:「◎◎」ほどではないが油浮きが大きく抑えられている
○:油浮きが抑えられている
×:従来品(比較例1)と同等の油浮きが発生している
(風味)
◎:従来品(比較例1)と同等の良好な風味を有する
○:「◎」ほどではないが良好な風味を有する
×:風味が悪い
【0018】
【表1】
*1構成脂肪酸:ベヘニン酸
*2ショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸及びエステル化度(ショ糖の8個の水酸基のうちエステル化されている部分の割合):オレイン酸/約40%、パルミチン酸/約30%、ステアリン酸/約30%
【0019】
乳化剤を含むが加工澱粉を含まない比較例1の濃縮調味料組成物を使用して作製した肉野菜炒めにおいては、その皿の底のソースの表面に油浮きが生じており、比較例2のように乳化剤の量を増やしても、その油浮きは抑制されなかった。一方、加工澱粉及び乳化剤を組み合わせて含む実施例1~6の濃縮調味料組成物を使用して作製した肉野菜炒めにおいては、そのような油浮きは抑制されており、好ましい外観を有していた。特に、加工澱粉としてオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムを含み、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを含む濃縮調味料組成物(実施例6)を使用した場合には、油浮きがほとんどなく、かつ良好な風味を維持していた。
【0020】
以上より、加工澱粉及び乳化剤を組み合わせて濃縮調味料組成物に配合することにより、当該濃縮調味料組成物を用いて作製された調理品において油浮きを抑制することができることが分かった。したがって、油浮きが抑制されて良好な外観を有する調理品を作製することが可能となる。