(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】プリプレグ、及びプリント配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20230731BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20230731BHJP
C03C 25/002 20180101ALI20230731BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230731BHJP
D03D 15/267 20210101ALI20230731BHJP
D06C 7/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
H05K1/03 610T
B29B11/16
C03C25/002
D03D1/00 A
D03D15/267
D06C7/00 Z
(21)【出願番号】P 2019189364
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2021-10-22
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】勝然 勇也
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-010694(JP,U)
【文献】特開2016-108162(JP,A)
【文献】特開2018-127747(JP,A)
【文献】特開2009-263824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C25/00-25/70
D03D1/00-27/18
D06B1/00-23/30
D06C3/00-29/00
D06G1/00-5/00
D06H1/00-7/24
D06J1/00-1/12
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるプリプレグであって、
前記加熱処理シリカガラスクロスが、SiO
2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる加熱処理シリカガラスクロスであって、
前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下であり、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下であり、
前記誘電正接は、誘電体共振器周波数9GHzで測定した、シリカガラスクロスを、シリカガラスと空気の複合体としてシリカガラスのみの誘電正接値を算出したものであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
前記加熱処理シリカガラスクロスが、平均フィラメント径が3μm~20μmのガラスフィラメントを10本~400本の本数で束ねたガラスストランドに対して、1m当たり4回~40回の撚りを掛けて、番手の大きさが0.5~40texとしたガラスヤーンを製織してなるものであることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプリプレグを備えるものであることを特徴とするプリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラスクロス、これを用いたプリプレグ、及び、該プリプレグを備えたプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、使用されるプリント配線板において、高密度化、極薄化とともに、低誘電化、低誘電正接化が著しく進行している。
【0003】
このプリント配線板の絶縁材料としては、ガラスクロスをエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)に含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。上記の高速通信基板に使用されるマトリックス樹脂の誘電率は3程度であるのに対し、一般的なEガラスクロスの誘電率は6.7程度であり、積層板時の高い誘電率の問題が顕在化してきている。なお、信号の伝送ロスは、Edward A. Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られており、特に上記の式より伝送損失に対しては誘電正接(tanδ)の寄与が大きいことが知られている。
【0004】
そのため、Eガラスとは異なるガラス組成のDガラス、NEガラス、Lガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスが提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0005】
しかしながら、今後の5G通信用途等において、これらの低誘電率ガラスクロスでは、十分な伝送速度性能を達成する観点から、なお改善の余地があった。ここで、ガラス組成中のSiO2配合量をほぼ100質量%とすることにより、更なる低誘電率化及び低誘電正接化を図ることも考えられる。既に特許文献4に記載されているようにSiO2配合量をほぼ100質量%としたガラスクロスの開発も行われている。
【0006】
しかしながら、特許文献4では低誘電率化に関する言及はあるものの、より伝送損失に寄与する、低誘電正接化については言及されておらず、低誘電正接化は難しい課題となっている。
【0007】
また、非特許文献1には、SiO2含有量がほぼ100.0質量%のシリカガラスを900℃以上の高温で加熱することにより、シリカガラス中のOH量が低下することが開示されているものの、シリカガラスの誘電特性(誘電率、誘電正接)については何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-170483号公報
【文献】特開2009-263569号公報
【文献】特開2009-19150号公報
【文献】特開2018-197411号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】熱処理に伴うシリカガラス中のOH基濃度変化 2011年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、誘電正接が低く、伝送損失が小さい基板(「基板」とは、プリプレグ、プリント配線板、又はこれらの積層板等を含む概念である)を作製することのできるシリカガラスクロス、前記シリカガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる加熱処理シリカガラスクロスであって、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHz以上で0.0015以下であり、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.7以下のものであることを特徴とする加熱処理シリカガラスクロスを提供する。
【0012】
このような加熱処理シリカガラスクロスであれば、誘電正接が低く、伝送損失が小さく、層間絶縁信頼性に優れた基板を作製することができる。
【0013】
この場合、前記加熱処理シリカガラスクロスは、前記非加熱処理シリカガラスクロスの450℃~1650℃、1分~72時間加熱処理体であることが好ましい。
【0014】
このような加熱処理シリカガラスクロスであれば、加熱処理シリカガラスクロスの誘電特性がより好ましいものとなる。
【0015】
また、本発明の加熱処理シリカガラスクロスは、平均フィラメント径が3μm~20μmのガラスフィラメントを10本~400本の本数で束ねたガラスストランドに対して、1m当たり4回~40回の撚りを掛けて、番手の大きさが0.5~40texとしたガラスヤーンを製織してなるものであることが好ましい。
【0016】
このような加熱処理シリカガラスクロスを用いると、薄くて、誘電正接が低く、伝送損失が小さいプリプレグを得ることができる。
【0017】
また、本発明では、上記加熱処理シリカガラスクロスと、上記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるプリプレグを提供する。
更に、本発明では、上記プリプレグを備えるプリント配線基板を提供する。
【0018】
上記加熱処理シリカガラスクロス用いたプリプレグ及びプリント配線基板であれば、誘電正接が低く、伝送損失が小さくなり、今後増えていく5G等の高速通信等での伝送損失を抑える基板として特に有用である。
【0019】
また、本発明は、加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であって、
SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、
前記非加熱処理シリカガラスクロスを450℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含み、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1を、周波数9GHz以上で0.0015以下とし、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.7以下とすることを特徴とする加熱処理シリカガラスクロスの製造方法を提供する。
【0020】
本発明の加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であれば、シリカガラスクロスを加熱するという平易な方法で、誘電正接を10分の1以下程度にし、伝送損失を抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、今後増えていく5G等の高速通信等での伝送損失を抑えるための方法として、基板に用いられるシリカガラスクロスを加熱するという平易な方法で、誘電正接を10分の1以下にし、伝送損失を抑え、層間絶縁信頼性に優れた基板を作製することができるという著大な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
既存のSiO2配合量を96.0~100.0質量%としたシリカガラスクロスであっても、誘電正接は周波数9GHz以上で0.002程度であり、伝送損失が小さく、層間絶縁信頼性に優れた基板用のシリカガラスクロスとするためには、より誘電正接を低くする必要がある。
【0023】
ここで、伝送損失に対して寄与が大きい誘電正接の低減に関しては、特許文献1のようにガラス中のOH量が低下すると誘電正接が低下することが知られている。
【0024】
一方で、非特許文献1には、SiO2含有量がほぼ100.0質量%のシリカガラスを900℃以上の高温で加熱することにより、シリカガラス中のOH量が低下することが開示されている。
【0025】
しかしながら、非特許文献1で検討しているシリカガラスはブロック若しくは管状のバルク体であり、本発明のようなシリカガラスフィラメント(シリカガラス繊維)からなるシリカガラスクロスとは物理的形状が著しく異なっている。その上、シリカガラス中のOH量の低下は、シリカガラス中の水分子の移動(拡散)や、シラノール基の脱水(2Si-OH→2Si-O+H2O)、水分子(OH基)の分布などの影響を受けるため、シリカガラスの形態(形状、長さ、太さ、表面積など)に強く依存する。このため、シリカガラスクロスの加熱処理で、仮にシリカガラス中のOH量が低下し得たとしても、シリカガラスクロス自体の誘電正接が低下するとまでは全く予測されていなかった。
【0026】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、SiO2配合量(組成量)を96.0~100.0質量%としたシリカガラスクロスを加熱処理することにより、シリカガラスクロスの誘電正接が周波数9GHz以上で0.0015以下であり、加熱処理したガラスクロスの誘電正接tanδ1と非加熱処理のシリカガラスクロスの誘電正接tanδ2との比tanδ1/tanδ2が0.7以下である加熱処理シリカガラスクロスとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
即ち、本発明は、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる加熱処理シリカガラスクロスであって、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHz以上で0.0015以下であり、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.7以下のものであることを特徴とする加熱処理シリカガラスクロスである。
【0028】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
なお、本明細書では、シリカガラスを引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維をシリカガラスフィラメント、シリカガラスフィラメントを束ねたものをシリカガラスストランド、シリカガラスフィラメントを束ねて更に撚りをかけたものをシリカガラスヤーンと定義する。
【0030】
[シリカガラスクロス]
本発明の加熱処理シリカガラスクロスは、SiO2が96.0~100.0質量%含まれるシリカガラスフィラメントからなる、非加熱処理シリカガラスクロスの加熱処理体である。前記加熱処理体を得るための加熱処理については特に限定されないが、前記非加熱処理シリカガラスクロスを450℃~1650℃、1分~72時間加熱処理することが好ましい。
【0031】
シリカガラスフィラメントのSiO2配合量(組成量)は96.0~100.0質量%であり、98.0~100.0質量%が好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましい。SiO2量が96.0質量%未満であると、目標とする誘電特性を満足することが困難になる。SiO2量が上記範囲である市販品を用いることもできる。なお、シリカガラス中のSiO2量は、加熱処理の前後でほとんど変化しない。
【0032】
SiO2配合量96.0~100.0質量%のシリカガラスの原料インゴットの製造方法としては、水晶を原料とした電気溶融法、火炎溶融法、又は四酸化ケイ素を原料とした直接合成法、プラズマ合成法、スート法、又はアルキルシリケートを原料としたゾルゲル法等が挙げられるが、SiO2配合量が96.0~100.0質量%であればこれらの製造方法に限定されるものではない。特に水晶を原料とした電気溶融法、四酸化ケイ素を原料としたプラズマ合成法、スート法、又はアルキルシリケートを原料としたゾルゲル法が不純物としてOHを含みにくいとされているため、好ましい。
【0033】
前記シリカガラスフィラメントの平均フィラメント径は3μm~20μmであることが好ましく、3.5μm~9μmがより好ましい。シリカガラスフィラメントの製造方法は特に制限はなく、公知の紡糸方法を用いることができる。例えば、電気溶融、酸水素火炎による延伸法等が挙げられるが、シリカガラスの平均フィラメント径は3μm~20μmであればこれらの製造方法に限定されるものではない。例えば、シリカガラスロッドの直径と、延伸されるシリカガラスロッドの送り速度とシリカガラスフィラメントの線引き速度の制御を行うことにより、所望のフィラメント径が得られる。
【0034】
前記シリカガラスフィラメントは10本~400本の本数で束ねてシリカガラスストランドにすることが好ましく、100本~200本であることがより好ましい。
【0035】
本発明におけるシリカガラスクロスはシリカガラスヤーンを製織して製造することができる。
シリカガラスヤーンとしては、上記シリカガラスフィラメントを束ねてシリカガラスストランドとし、前記シリカガラスストランドに対して、1m当たり4回~40回の撚りを掛けて、番手の大きさが0.5~40texとしたシリカガラスヤーンを用いることができる。
【0036】
シリカガラスフィラメントを所定本数束ねたシリカガラスストランドを、撚糸機を用いて撚糸し、シリカガラスヤーンとすることが好適である。
【0037】
本発明において、シリカガラスヤーンの撚り数は特に制限はないが、撚り数が少ないとガラスクロスとした後の開繊工程でクロスの厚さを薄くしやすく、かつ通気度を下げやすい。また、撚り数が多いとヤーンの収束性が高まり、破断や毛羽立ちは発生しづらい。この事から、撚り数の好ましい範囲は4回転/m~40回転/m、より好ましくは5回転/m~30回転/mである。
【0038】
また、撚糸に際しては撚糸の為の糸道に於いてヤーンガイド、トラベラー、スネールワイヤーとヤーンが直接、高速で接触するが、シリカガラスは非常に硬いためにこれら治具はヤーンとの接触により傷が発生しやすい。治具の傷はフィラメントの切断原因となるため、注意が必要である。特にトラベラーはプラスチック製なので傷つきやすく、撚糸を行う前には必ず表面状態をチェックして傷のない治具を使用する事が重要である。
【0039】
なお、本発明の加熱処理シリカガラスクロスに要求される誘電特性を満たしていれば、上記シリカガラスストランド、シリカガラスヤーンに限定されない。
【0040】
本発明の非加熱処理シリカガラスクロスの製造方法は特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
【0041】
シリカガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の総フィラメント数は特に制限はないが、290,000本/m2以上400,000本/m2以下であることが好ましい。該範囲とすることにより、製織工程、水洗工程、及び開繊工程での、ガラスフィラメントにかかる張力や加工圧に対しても、糸切れを生じにくくなり、毛羽立ちを抑制することが可能となる。また、経糸及び緯糸の総ガラスフィラメント数を400,000本/m2以下とすることにより、ガラスクロスの厚さを薄くすることができ、厚さの薄い基板を得ることができる。これにより、従来よりも、薄く、より一層誘電率が低い基板を作製できるガラスクロスを提供することができる。総ガラスフィラメント数は、打ち込み密度や、ガラスフィラメント数を調整することによって制御することができる。
【0042】
シリカガラスクロスの開口率は、シリカガラスクロス全体の面積に対する経糸も緯糸も分布しない部分の面積比率を表し、プリプレグ塗工時の樹脂の塗りムラを抑制する観点から、好ましくは20%以下であり、より好ましくは18%以下である。
ガラスクロスの開口率は、打込み密度、開繊度、ガラス糸の番手によって調整することができる。
【0043】
シリカガラスクロスの開口部の平均面積は、経糸も緯糸も分布しない部分単独の面積の平均値を表し、プリプレグ塗工時の樹脂の塗りムラを抑制する観点から、好ましくは20,000μm2/個以下であり、より好ましくは15,000μm2/個以下である。
ガラスクロスの開口部の平均面積は、打込み密度、開繊度、ガラス糸の番手によって調整することができる。
【0044】
シリカガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度は、各々独立して、好ましくは50~140本/inchであり、より好ましくは80~130本/inchである。
【0045】
シリカガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の番手(texともいう。)は、シリカガラスクロスを薄くする観点から、各々独立して、0.5g/1000m以上、40g/1000m以下であることが好ましい。
【0046】
シリカガラスクロスの布重量(目付け)は、好ましくは4~10g/m2であり、より好ましくは5~9g/m2であり、さらに好ましくは6~8g/m2である。
【0047】
シリカガラスクロスの織り構造については、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等の織り構造が挙げられ、平織り構造が好ましい。
【0048】
[加熱処理シリカガラスクロス]
本発明の加熱処理シリカガラスクロスは、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるシリカガラスフィラメントからなる。そして、周波数9GHz以上での加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接をtanδ1、加熱処理前の非加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接をtanδ2とした場合、tanδ1が0.0015以下であり、tanδ1/tanδ2が0.7以下である。tanδ1が0.0015を超えたり、tanδ1/tanδ2が0.7を超えたりすると、5G通信用途等において、伝送損失が大きく、十分な伝送速度性能を達成できない。
なお、誘電正接(tanδ)は公知の方法で測定すればよく、例えば、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて測定することができる。
【0049】
本発明では、上記シリカガラスクロス(非加熱処理シリカガラスクロス)を加熱処理することによって加熱処理シリカガラスクロスとする。
【0050】
[加熱処理]
非加熱処理シリカガラスクロスの加熱処理温度は、450℃~1650℃が好ましく、500℃~1100℃がより好ましく、700℃~1100℃がさらに好ましい。このような加熱処理温度であれば、加熱処理体の誘電特性を好ましいものとすることができる。加熱方法としては、炉による加熱として電気加熱炉、マッフル炉、管状加熱炉等による加熱方法が挙げられるが、加熱処理温度が450℃~1650℃であれば炉による加熱方法、電気加熱炉、マッフル炉等による加熱方法に限定されるものではない。但し、酸水素火炎による方法ではOHの起因となるH2Oが生成するため、好ましくない。
【0051】
前記非加熱処理シリカガラスクロスの加熱処理時間は、1分~72時間が好ましく、1時間~10時間がより好ましい。このような加熱処理時間であれば、加熱処理体の誘電特性を好ましいものとすることができる。
【0052】
非加熱処理シリカガラスクロスの加熱処理は、不純物が混入するのを避けるため、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム雰囲気で行うことができる。また、不活性ガス中の水分はできるだけ少ない方が好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。場合により、乾燥空気を用いることもできる。
【0053】
上記非加熱処理シリカガラスクロスは、SiO2が96.0~100.0質量%(組成量)含まれるシリカガラスフィラメントからなり、平均フィラメント径が3μm~20μmのシリカガラスフィラメントを10本~400本の本数で束ねてシリカガラスストランドとし、前記シリカガラスストランドに対して、1m当たり4回~40回の撚りを掛けて、番手の大きさが0.5~40texとしたシリカガラスヤーンを製織して製造されるものが好ましい。この非加熱処理シリカガラスクロスの加熱処理体である加熱処理シリカガラスクロスを用いると、薄くて、誘電正接が低く、伝送損失が小さく、層間絶縁信頼性に優れたプリプレグやプリント配線基板を得ることができる。
【0054】
[加熱処理シリカガラスクロスの製造方法]
本発明の加熱処理シリカガラスクロスの製造方法は、
SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、
前記非加熱処理シリカガラスクロスを450℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含み、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1を、周波数9GHz以上で0.0015以下とし、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.7以下とすることを特徴とする。
【0055】
まず、上述の非加熱処理シリカガラスクロスを準備する。次に、非加熱処理シリカガラスクロスを450℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る。非加熱処理シリカガラスクロスの加熱処理は、上述したように行えばよい。このような加熱処理条件(温度、時間)であれば、上記誘電特性を有する加熱処理シリカガラスクロスを好適に得ることができる。
【0056】
非加熱処理シリカガラスクロスの加熱処理体(加熱処理シリカガラスクロス)は、上記のような加熱処理により低誘電正接となる。特に、非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2が0.0015を超えている場合でも、加熱処理条件を調整することにより、加熱処理体の誘電正接tanδ1を0.0015以下とすること、及び、tanδ1/tanδ2を0.7以下、特には0.1以下とすることができる。このように、本発明によれば、基板に用いられるシリカガラスクロスを加熱するという平易な方法で、誘電正接を10分の1以下にし、伝送損失をおさえることができるという著大な効果を奏する。
【0057】
[プリプレグ]
本発明のプリプレグは、上記加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂(マトリックス樹脂)とからなる。これにより、薄くて、誘電率が低く、絶縁信頼性の向上が図られたプリプレグを提供することができる。
マトリックス樹脂としては、特に制限はなく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れも使用可能である。
【0058】
必要に応じて、シリカガラスヤーンやシリカガラスクロスは、シランカップリング剤等の公知の表面処理剤で表面処理されることが好適である。
【0059】
[プリント配線基板]
本発明のプリント配線板は、上記プリプレグを備える。これにより、誘電率が低く、絶縁信頼性の向上が図られたプリント配線板を提供することができる。本発明のプリント配線板におけるプリプレグは2層以上からなる積層体であってもよい。
【0060】
以上のように、本発明によれば、今後増えていく5G等の高速通信等での伝送損失を抑えるための方法として、基板に用いられるシリカガラスクロスを加熱するという平易な方法で、誘電正接を10分の1以下にし、伝送損失をおさえることができるという著大な効果を奏する。このため、高速通信分野における利用価値が非常に高い。
【実施例】
【0061】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。なお、以下では、「非加熱処理シリカガラスクロス」を、単に「シリカガラスクロス」ともいう。
【0062】
以下の実施例における測定、誘電正接値の算出は以下の方法で行った。
【0063】
1.誘電正接の測定
誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数9GHz(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて測定した。
【0064】
2.誘電正接値の算出
上記誘電体共振器の面積とシリカガラスクロス厚みから算出される体積から、シリカガラスクロスを、シリカガラス(A)と空気(B)の複合体として、下記式1を用いてシリカガラスのみの誘電正接値を算出した。
tanδ=VA×tanδA+VB×tanδB (式1)
(tanδ:複合体の誘電正接、VA:シリカガラス(A)の体積分率、tanδA:シリカガラス(A)の誘電正接、VB:空気(B)の体積分率、tanδB:空気(B)の誘電正接)
実施例、比較例の誘電正接は、すべて上記式1により求めた、シリカガラスクロス単体の誘電正接を示す。
【0065】
(実施例1)
SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、500℃で10分加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接(tanδ1)を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0014であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.66であり、良好な結果であった。
【0066】
(実施例2)
実施例1と同様に、SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、500℃で10時間加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0010であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.47であり、良好な結果であった。
【0067】
(実施例3)
実施例1と同様に、SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、700℃で5時間加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0006であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.28であり、実施例1より良好な結果であった。
【0068】
(実施例4)
実施例1と同様に、SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、700℃で10時間加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0002であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.10であり、実施例2より良好な結果であった。
【0069】
(実施例5)
実施例1と同様に、SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、1100℃で10時間加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0002であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.10であり、実施例4と同様の良好な結果であった。
【0070】
(比較例1)
SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、400℃で10時間加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接を測定し、値を算出したところtanδ1が0.00218であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=1.00であった。加熱エネルギー不足で加熱後のtanδ1が0.0015以下とならなかった。
【0071】
(比較例2)
SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、1700℃で10時間加熱行った。高温熱処理のため、クロス形状を維持できなかった。そのため誘電正接tanδ1は測定できなかった。
【0072】
参考例、実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【表1】
【0073】
500~1100℃、0.17~10時間でシリカガラスクロスを加熱処理した実施例1-5では、加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHz以上で0.0015以下であり、かつ、tanδ1/tanδ2が0.7以下となった。特に実施例4,5では、非加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ2が0.0015を超えているにも拘らず、tanδ1/tanδ2が1/10以下となり、誘電損失が大幅に低下した。一方、加熱エネルギーが不足した比較例1では、tanδ1が0.0015以下とならず、加熱エネルギーが過剰である比較例2では、クロス形状を維持できなかった。
【0074】
このように、本発明によれば、今後増えていく5G等の高速通信等での伝送損失を抑えるための方法として、基板に用いられるシリカガラスクロスを加熱するという平易な方法で、誘電正接を10分の1以下にし、伝送損失をおさえることができるという著大な効果を奏する。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。