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特許7322379電線の製造方法およびケーブルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】電線の製造方法およびケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/14 20060101AFI20230801BHJP
   H01B 13/24 20060101ALI20230801BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230801BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20230801BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01B13/14 A
H01B13/24 Z
C08J3/20 Z
C08J3/24 Z CEW
C08L27/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018196050
(22)【出願日】2018-10-17
(65)【公開番号】P2020063373
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-03-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】関 育雄
(72)【発明者】
【氏名】青山 貴
(72)【発明者】
【氏名】阿部 富也
(72)【発明者】
【氏名】菊池 龍太郎
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-182913(JP,A)
【文献】特開2007-314639(JP,A)
【文献】特開2007-126631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08J 3/00- 7/18
H01B 13/00- 13/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)未架橋フッ素ゴムと、相溶化剤と、架橋促進剤とを含む混合物をフッ素樹脂およびポリオール架橋剤が存在しない状態で混練し、脱フッ化水素反応により前記未架橋フッ素ゴム中に二重結合を形成させる工程、
(b)前記(a)工程によって生成された第1生成物と、フッ素樹脂とを混練する工程、
(c)前記(b)工程によって生成された第2生成物と、ポリオール架橋剤とを混練し、前記第2生成物中の前記未架橋フッ素ゴムを動的架橋させる工程、
(d)導体の周囲を被覆するように、前記(c)工程によって生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物を押出して、絶縁層を形成する工程、
を含み、
前記(b)工程の温度は、前記(a)工程の温度よりも高い、
電線の製造方法。
【請求項2】
(a)未架橋フッ素ゴムと、相溶化剤と、架橋促進剤とを含む混合物をフッ素樹脂およびポリオール架橋剤が存在しない状態で混練し、脱フッ化水素反応により前記未架橋フッ素ゴム中に二重結合を形成させる工程、
(b)前記(a)工程によって生成された第1生成物と、フッ素樹脂とを混練する工程、
(c)前記(b)工程によって生成された第2生成物と、ポリオール架橋剤とを混練し、前記第2生成物中の前記未架橋フッ素ゴムを動的架橋させる工程、
(d)電線の周囲を介在により被覆し、その後、前記介在を被覆するように、前記(c)工程によって生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物を押出して、シースを形成する工程、
を含み、
前記(b)工程の温度は、前記(a)工程の温度よりも高い、
ケーブルの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電線の製造方法において、
前記フッ素樹脂は、パーフルオロアルコキシアルカンからなる、電線の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の電線の製造方法において、
前記(a)工程では、前記脱フッ化水素反応により、前記相溶化剤中にも二重結合を形成させ、
前記(c)工程では、前記第2生成物中の前記相溶化剤をも動的架橋させる、電線の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の電線の製造方法において、
前記混合物は、さらに受酸剤を含む、電線の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の電線の製造方法において、
前記相溶化剤は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン三元共重合体である、電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法、電線の製造方法およびケーブルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線は、導体と、前記導体の周囲に設けられる被覆材としての絶縁層とを有している。また、ケーブルは、前記電線と、前記電線の周囲に設けられる被覆材としてのシース(外被層)とを備えている。前記シースは、前記絶縁層の周囲に設けられる。
【0003】
前記電線の絶縁層や前記ケーブルのシースのような被覆材は、ゴムや樹脂を主原料とした電気絶縁性材料からなる。電気絶縁性材料の一例としては、熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Elastomer:TPE)がある。特に、耐熱性や耐薬品性に優れた熱可塑性エラストマーとして、例えば、熱可塑性フッ素樹脂組成物が挙げられる。
【0004】
熱可塑性フッ素樹脂組成物の一つであるフッ素ゴムは、優れた耐熱性および耐薬品性などの特性を有するため、工業分野、自動車分野および半導体分野などで多くの用途に用いられている。また、熱可塑性フッ素樹脂組成物の他の一つであるフッ素樹脂は、優れた摺動性、耐熱性および耐薬品性などの特性を有するため、工業分野、自動車分野および半導体分野などで多くの用途に用いられている。
【0005】
フッ素ゴムの耐熱性をさらに向上させるため、またはフッ素樹脂に柔軟性を付与するために、フッ素ゴムとフッ素樹脂とのポリマーアロイが研究されている。しかし、フッ素ゴムとフッ素樹脂との親和性が低いため、フッ素ゴムとフッ素樹脂とを単に溶融混練するのみでは分散不良が発生し、層間剥離や強度低下などの問題が生じる。
【0006】
そのため、例えば、特許文献1には、フッ素ゴムおよびフッ素樹脂に加え、相溶化剤として特定の相溶化剤をさらに加えることで、熱可塑性フッ素樹脂組成物を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2006/057332号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者の検討によれば、前記した熱可塑性フッ素樹脂組成物を構成するフッ素樹脂としてパーフルオロ(ペルフルオロ)アルコキシアルカン(Perfluoroalkoxy Alkane:PFA)を採用したところ、例えば前記ケーブルの外被層や前記電線の絶縁層のような被覆材として用いるには十分な機械特性および耐熱性が得られない場合があることを見出した。
【0009】
具体的には、フッ素樹脂としてパーフルオロアルコキシアルカンを採用した熱可塑性フッ素樹脂組成物では、引張破断強さが10MPaに満たず、伸びも300%に満たないことがわかった。そして、フッ素樹脂としてパーフルオロアルコキシアルカンを採用した熱可塑性フッ素樹脂組成物では、連続使用温度が200℃程度にまで低下することがわかった。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、機械特性および耐熱性に優れた熱可塑性フッ素樹脂組成物、ならびに、これを用いた電線およびケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0012】
[1]熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法は、(a)フッ素ゴムと、相溶化剤と、架橋促進剤とを含む混合物を混練し、脱フッ化水素反応により前記フッ素ゴム中に二重結合を形成させる工程を含む。そして、熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法は、(b)前記(a)工程によって生成された第1生成物と、フッ素樹脂とを混練する工程、(c)前記(b)工程によって生成された第2生成物と、ポリオール架橋剤とを混練し、前記第2生成物中の前記フッ素ゴムを動的架橋させる工程、を含む。
【0013】
[2][1]記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法において、前記フッ素樹脂は、パーフルオロアルコキシアルカンからなる。
【0014】
[3][1]記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法において、前記(a)工程では、前記脱フッ化水素反応により、前記相溶化剤中にも二重結合を形成させ、前記(c)工程では、前記第2生成物中の前記相溶化剤をも動的架橋させる。
【0015】
[4][1]記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法において、前記混合物は、さらに受酸剤を含む。
【0016】
[5][1]記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法において、前記相溶化剤は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン三元共重合体である。
【0017】
[6]電線の製造方法は、(a)フッ素ゴムと、相溶化剤と、架橋促進剤とを含む混合物を混練し、脱フッ化水素反応により前記フッ素ゴム中に二重結合を形成させる工程、(b)前記(a)工程によって生成された第1生成物と、フッ素樹脂とを混練する工程、(c)前記(b)工程によって生成された第2生成物と、ポリオール架橋剤とを混練し、前記第2生成物中の前記フッ素ゴムを動的架橋させる工程、を含む。そして、電線の製造方法は、(d)導体の周囲を被覆するように、前記(c)工程によって生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物を押出して、絶縁層を形成する工程、を含む。
【0018】
[7]ケーブルの製造方法は、(a)フッ素ゴムと、相溶化剤と、架橋促進剤とを含む混合物を混練し、脱フッ化水素反応により前記フッ素ゴム中に二重結合を形成させる工程、(b)前記(a)工程によって生成された第1生成物と、フッ素樹脂とを混練する工程、(c)前記(b)工程によって生成された第2生成物と、ポリオール架橋剤とを混練し、前記第2生成物中の前記フッ素ゴムを動的架橋させる工程、を含む。そして、ケーブルの製造方法は、(d)電線の周囲を介在により被覆し、その後、前記介在を被覆するように、前記(c)工程によって生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物を押出して、シースを形成する工程、を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、機械特性および耐熱性に優れた熱可塑性フッ素樹脂組成物、ならびに、これを用いた電線およびケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造工程を示すフローである。
図2】一実施の形態の電線の構造を示す横断面図である。
図3】一実施の形態のケーブルの構造を示す横断面図である。
図4】実施例1~実施例6のキャピロ押出しストランドサンプルの横断面の走査電子顕微鏡像である。
図5】実施例7のキャピロ押出しストランドサンプルの横断面の走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(検討事項)
まず、実施の形態を説明する前に、本発明者が検討した事項について説明する。
【0022】
フッ素樹脂の1つであるパーフルオロ(ペルフルオロ)アルコキシアルカン(Perfluoroalkoxy Alkane:PFA)は、他のフッ素樹脂と同様に高融点であり、かつ、溶融加工が可能なフッ素樹脂である。そのため、(A)フッ素ゴム、(B)フッ素樹脂および(C)相溶化剤からなる熱可塑性フッ素樹脂組成物において、前記フッ素樹脂にパーフルオロアルコキシアルカンを採用すると、引張特性等の機械特性および耐熱性に優れた熱可塑性フッ素樹脂組成物になるものと期待される。
【0023】
ただし、前述のように、本発明者は、前記フッ素樹脂にパーフルオロアルコキシアルカンを採用した前記熱可塑性フッ素樹脂組成物において、十分な引張特性および耐熱性が得られない場合があることを見出している。十分な引張特性および耐熱性が得られなかった熱可塑性フッ素樹脂組成物を解析したところ、この熱可塑性フッ素樹脂組成物は、(A)フッ素ゴムが連続相(海相、マトリックス)で、(B)フッ素樹脂が分散相(島相、ドメイン)である相構造を有しているか、(A)フッ素ゴムおよび(B)フッ素樹脂が共に連続相(海相)である相構造を有していることがわかった。
【0024】
従って、前記ケーブルの外被層や前記電線の絶縁層のような被覆材として用いるのに十分な引張特性および耐熱性を得るためには、熱可塑性フッ素樹脂組成物において、前述した場合と異なり、(A)フッ素ゴムが分散相(島相)であり、(B)フッ素樹脂が連続相(海相)である、いわゆる海島構造という相構造が形成されることが必要である。なぜならば、弾性体である(A)フッ素ゴムが分散相(島相)として組成物中に存在することにより、常温において組成物全体に弾性が得られるためである。また、熱可塑性の(B)フッ素樹脂が連続相(海相)として組成物中に存在することにより、高温において連続相(海相)が流動し塑性変形が可能となるためである。
【0025】
その結果、熱可塑性フッ素樹脂組成物は、ケーブルや電線の被覆材として十分な引張特性を有し、熱可塑性プラスチックと同様の成形加工機により、ケーブルや電線を容易に製造することができる。
【0026】
ここで、前述の海島構造、すなわち、(A)フッ素ゴムが分散相(島相)、(B)フッ素樹脂が連続相(海相)という相構造を得るためには、熱可塑性フッ素樹脂組成物内において、フッ素ゴム同士を動的架橋(動的加硫)することが必要である。動的架橋とは、各原料を混練しながら架橋反応を行う架橋法のことである。この動的架橋により、フッ素ゴムは架橋されて硬化し、かつ、架橋されたフッ素ゴムが分散相(島相)として、フッ素樹脂の連続相(海相)中に完全にかつ均一に分散される。
【0027】
一般的な熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法(以下、検討例1とする)は、(A)フッ素ゴム(未架橋フッ素ゴム)、(B)フッ素樹脂、(C)相溶化剤、(D)ポリオール架橋剤、(E)架橋促進剤、および、(F)架橋促進助剤(受酸剤)等を加圧ニーダー等で混練するものである。こうすることで、混練時に(A)フッ素ゴムの架橋が進行し、目的の熱可塑性フッ素樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
ここで、本発明者が検討例1について見出した課題について説明する。前述のように、動的架橋は、各原料を混練した状態で行うものであるため、少なくとも各原料の融点以上で行う必要がある。熱可塑性フッ素樹脂組成物の原料のうち、フッ素樹脂の融点が最も高い。後述するように、パーフルオロアルコキシアルカンのうち、一般的に用いられるものは、置換基がパーフルオロエチル基であり、その融点が305℃である。ここで、動的架橋を行う温度がフッ素樹脂の融点とほぼ同じである場合、各原料との混練が進行しないことがある。そのため、混練が十分に行われること、および、反応が十分に促進することを考慮すると、動的架橋に適した温度は、このフッ素樹脂の融点よりも20~40℃高い温度(すなわち325~345℃)である。しかし、一般に、フッ素ゴムが熱分解する温度は310~320℃である。そのため、検討例1の製造方法により、335℃で動的架橋を行うと、架橋反応が激しく進行し、フッ素ゴムが熱分解してしまい、押出時にツブを生じやすくなるという問題が発生した。フッ素ゴムが熱分解する理由を調べたところ、320℃以上の高温条件下では(E)架橋促進剤によるフッ素ゴムの脱フッ化水素反応が爆発的に起こってしまい、フッ素ゴムの結合が切断され架橋密度が低下するためであることがわかった。
【0029】
そこで、本発明者は、検討例1の製造方法において、(B)フッ素樹脂に、融点が290℃以下のパーフルオロアルコキシアルカンを採用した場合には、目的の熱可塑性フッ素樹脂組成物を得ることができることを見出した。具体的には、検討例1の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法として、例えば、融点が285℃の(B)フッ素樹脂を用いた場合、290~310℃の温度で混練することで、(A)フッ素ゴムの熱分解を抑えることができる。ただし、前述のように、検討例1では、(B)フッ素樹脂の融点が約300℃以上のパーフルオロアルコキシアルカンを採用することができないという問題がある。
【0030】
そのため、本発明者は、検討例1の製造方法を改良することによって、(B)フッ素樹脂の融点が約300℃以上のパーフルオロアルコキシアルカンを用いた熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法(以下、検討例2とする)を見出した。
【0031】
具体的には、検討例2の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法として、(a)(A)フッ素ゴムと、(B’)第1フッ素樹脂と、(C)相溶化剤と、(D)ポリオール架橋剤と、(E)架橋促進剤と、(F)架橋促進助剤(受酸剤)とを含む混合物を混練し、動的架橋させる工程、(b)前記(a)工程の生成物と、(B”)第2フッ素樹脂とを混合し、チューブ状に押し出す工程を有している。ここで、前記(B’)第1フッ素樹脂は、融点が275℃以下のフッ素樹脂からなる。そして、前記(B”)第2フッ素樹脂は、融点が300℃以上のフッ素樹脂からなる。
【0032】
このように、検討例2では、前記(a)工程において、目的物である熱可塑性フッ素樹脂組成物よりも前記(A)フッ素ゴムの配合率の高い生成物(のペレット)をあらかじめ生成しておき、その後、前記(b)工程において、前記(B”)第2フッ素樹脂を混合(ドライブレンド)している。こうすることで、前記(A)フッ素ゴムの熱分解を最小限に抑えることができ、かつ、架橋された前記(A)フッ素ゴムが分散相(島相)で、前記(B’)第1フッ素樹脂および前記(B”)第2フッ素樹脂が連続相(海相)となる熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成することができることを見出した。
【0033】
特に、検討例2では、前記(B”)第2フッ素樹脂に、通常のフッ素樹脂(融点:305℃)や、さらに高融点のフッ素樹脂(融点:313℃)を用いた場合であっても、架橋された前記(A)フッ素ゴムが分散相(島相)で、前記(B’)第1フッ素樹脂および前記(B”)第2フッ素樹脂が連続相(海相)となる熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成することができることを見出した。
【0034】
ここで、本発明者が検討例2について見出した課題について説明する。熱可塑性フッ素樹脂組成物を、例えば電線やケーブルの被覆材として用いる場合には、熱可塑性フッ素樹脂組成物の柔軟性や弾性を高めることが特に求められる。
【0035】
検討例2にあっては、(B)フッ素樹脂よりも(A)フッ素ゴムの方が柔軟性や弾性に優れることから、熱可塑性フッ素樹脂組成物の柔軟性を高めるためには、熱可塑性フッ素樹脂組成物中の(B)フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの質量比をできるだけ高くすることが望ましい。
【0036】
しかしながら、本発明者の検討によれば、検討例2において、熱可塑性フッ素樹脂組成物中の(B)フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの質量比を高くしてしまうと、架橋された前記(A)フッ素ゴムが分散相(島相)で、前記(B)フッ素樹脂が連続相(海相)となる熱可塑性フッ素樹脂組成物は生成することができないということがわかった。この理由として、次のようなことが考えられる。前記検討例2では(A)フッ素ゴムと(B’)第1フッ素樹脂とを混練し、(A)フッ素ゴムが架橋された後に、(B”)第2フッ素樹脂を加えて混練している。そのため、(B)フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの質量比を高くしようとすると、前記(a)工程の生成物中の(B’)第1フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの質量比が高すぎてしまう。その結果、前記(a)工程の生成物が、(A)フッ素ゴムが連続相(海相)で、前記(B’)第1フッ素樹脂が分散相(島相)という相構造になる。ここで、前記(a)工程の生成物においては、架橋された(A)フッ素ゴムのネットワークが強固に形成されているため、前記(b)工程において、前記(a)工程の生成物に後から(B”)第2フッ素樹脂を加えて混練したとしても、相構造を反転させることができないと考えられる。このことから、検討例2の製造方法において、熱可塑性フッ素樹脂組成物の柔軟性や耐熱性を高めることが難しいということがわかった。
【0037】
なお、前記(b)工程またはそれ以降の工程において、(A)フッ素ゴムを追加することも考えられるが、この場合は前記(a)工程において、動的架橋に必要な(D)ポリオール架橋剤および(E)架橋促進剤が完全に消費されており、追加した(A)フッ素ゴムを動的架橋することができないという問題がある。もし(A)フッ素ゴムに加え、(D)ポリオール架橋剤および(E)架橋促進剤を追加することとすると、検討例1の製造方法の架橋工程をもう一度行うことと同じであり、(A)フッ素ゴムが熱分解されるという同様の課題を有すると共に、工程が増えて製造コストが増大してしまう。
【0038】
以上より、パーフルオロアルコキシアルカンをフッ素樹脂として用いた熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法において、その工程を工夫することにより、機械特性や耐熱性に優れた熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成できることが望まれる。
【0039】
(実施の形態)
(1)熱可塑性フッ素樹脂組成物
本発明の一実施の形態に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、(A)フッ素ゴムと、(B)フッ素樹脂と、(C)相溶化剤とを含んでいる。そして、前記熱可塑性フッ素樹脂組成物内において、前記(A)フッ素ゴムが動的架橋により架橋されている。前記(B)フッ素樹脂は、パーフルオロアルコキシアルカンである。前記(C)相溶化剤は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン三元共重合体である。前記三元共重合体において、テトラフルオロエチレン単位:ヘキサフルオロプロピレン単位:フッ化ビニリデン単位のモル比が、30~70:15~40:10~50である。その結果、前記(C)相溶化剤の比重は約1.90以上である。前記(A)フッ素ゴムと前記(B)フッ素樹脂との質量比(%)は、20~60:80~40である。そして、前記(C)相溶化剤の配合量は、前記(A)フッ素ゴムおよび前記(B)フッ素樹脂の合計100重量部に対して1~30重量部である。
【0040】
(B)フッ素樹脂は単一のフッ素樹脂でもよいが、後述の実施例に示すように、2種類以上のフッ素樹脂を混合してもよい。
【0041】
なお、前記(A)フッ素ゴムと前記(B)フッ素樹脂との質量比において、前記(B)フッ素樹脂の質量比が40質量比(%)よりも小さいと、生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物において、架橋された前記(A)フッ素ゴムおよび前記(B)フッ素樹脂が共に連続相(海相)になるか、架橋された前記(A)フッ素ゴムが連続相(海相)になり前記(B)フッ素樹脂が分散相(島相)になる。その結果、生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物は、外観(押出し外観)が悪化するとともに、この熱可塑性フッ素樹脂組成物の引張強さおよび伸びが大きく低下する。また、この熱可塑性フッ素樹脂組成物の連続使用温度が、200℃程度にまで低下する。ここで、連続使用温度とは、例えば一定の温度の下で4万時間、大気中で暴露された場合に、伸びの絶対値が50%に低下する温度をいう。
【0042】
また、前記(A)フッ素ゴムと前記(B)フッ素樹脂との質量比において、前記(B)フッ素樹脂の質量比が80質量比(%)よりも大きいと、すなわち、前記(A)フッ素ゴムの質量比が20質量比(%)より小さいと、生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物の柔軟性(可撓性)が著しく低下する。
【0043】
以上より、引張特性、耐熱性および柔軟性等を総合して考えると、前記(A)フッ素ゴムと前記(B)フッ素樹脂との質量比(%)は、20~60:80~40とすることが好ましく、30~50:70~50とすることがより好ましい。
【0044】
また、前記(C)相溶化剤の配合量が、前記(A)フッ素ゴムおよび前記(B)フッ素樹脂の合計100重量部に対して1重量部より少ないと、架橋された前記(A)フッ素ゴムの分散径が大きくなり、生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物の押出し外観が悪化する。また、本実施の形態の前記(C)相溶化剤は、脱フッ化水素により、二重結合を形成する(すなわち架橋可能な)フッ化ビニリデン単位のモル比が少ないテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン三元共重合体である。そのため、前記(C)相溶化剤の配合量が、前記(A)フッ素ゴムおよび前記(B)フッ素樹脂の合計100重量部に対して30重量部より多いと、熱可塑性フッ素樹脂組成物の中で見かけの架橋密度が低下し、押出時に架橋された前記(A)フッ素ゴム同士が凝集しやすく、ツブが発生するという問題が発生する。そのため、前記(C)相溶化剤の配合量は、前記(A)フッ素ゴムおよび前記(B)フッ素樹脂の合計100重量部に対して、1~30重量部が好ましく、2~20重量部がより好ましい。
【0045】
また、本実施の形態において、生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物において、分散相(島相)を構成する架橋された前記(A)フッ素ゴムの平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。架橋された前記(A)フッ素ゴムの平均粒径を10μm以下とすることによって、熱可塑性フッ素樹脂組成物の引落し性、引張特性、耐熱性等をより優れたものとすることができる。
【0046】
<フッ素ゴム>
本実施の形態の(A)フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン系フッ素ゴム(FKM)である。より具体的には、前記(A)フッ素ゴムは、ヘキサフルオロプロピレン(Hexafluoropropylene:HFP)/フッ化ビニリデン(Vinylidene Fluoride:VdF)二元共重合体(デュポン社製のバイトンA、ダイキン社製のダイエルG-701等)が好ましい。または、前記フッ素ゴムは、テトラフルオロエチレン(Tetrafluoroethylene:THF)/ヘキサフルオロプロピレン(Hexafluoropropylene:HFP)/フッ化ビニリデン(Vinylidene Fluoride:VdF)三元共重合体(デュポン社製バイトン(登録商標)B、ダイキン社製のダイエル(登録商標)G-551等)でもよい。(A)フッ素ゴムとして分類される前記三元共重合体は、テトラフルオロエチレン単位:ヘキサフルオロプロピレン単位:フッ化ビニリデン単位のモル比(%)が、0.1~30:15~60:40~80(比重1.85~1.88)のものであり、このうち、フッ素ゴムとしての性質を有するフッ化ビニリデン単位のモル比が50%以上のものが好ましい。
【0047】
<フッ素樹脂>
本実施の形態の(B)フッ素樹脂は、パーフルオロアルコキシアルカン(化学式1)を含んでいる。
【0048】
【化1】
【0049】
パーフルオロアルコキシアルカンとは、パーフルオロアルキルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンとの共重合体である。ここで、パーフルオロ(ペルフルオロ)アルキル基とは、アルキル基の水素(H)が全てフッ素(F)に置換されたものをいう。
【0050】
より具体的には、(B)フッ素樹脂として、例えば、アルキル基(化学式1中のR)がパーフルオロエチル基であるパーフルオロアルコキシアルカン(融点:305℃)、具体的にはトリフルオロ(トリフルオロエトキシ)エチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体を用いることができる。
【0051】
また、(B)フッ素樹脂は、例えば、アルキル基(化学式1中のR)がパーフルオロメチル基とパーフルオロプロピル基との両方を含むパーフルオロアルコキシアルカン(融点:285℃)を用いることができる。具体的には、(B)フッ素樹脂は、トリフルオロ(トリフルオロメトキシ)エチレンおよび1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロ-3-[(トリフルオロエテニル)オキシ]プロパンと、テトラフルオロエチレンとの共重合体を用いることができる。
【0052】
また、(B)フッ素樹脂は、例えば、アルキル基(化学式1中のR)がパーフルオロメチル基であるパーフルオロアルコキシアルカン(融点:270℃)、具体的には、トリフルオロ(トリフルオロメトキシ)エチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体を用いることができる。
【0053】
<相溶化剤>
本実施の形態の(C)相溶化剤は、テトラフルオロエチレン(Tetrafluoroethylene:THF)/ヘキサフルオロプロピレン(Hexafluoropropylene:HFP)/フッ化ビニリデン(Vinylidene Fluoride:VdF)三元共重合体である。この三元共重合体において、テトラフルオロエチレン単位:ヘキサフルオロプロピレン単位:フッ化ビニリデン単位のモル比(%)が、30~70:15~40:10~50(住友3M社製THVフルオロプラスチック(登録商標)等)のもの(比重が約1.90以上)が好ましい。
【0054】
前記三元共重合体は、モノマー単位としてテトラフロロエチレンを含有する点で(B)フッ素樹脂と共通している。また、前記三元共重合体は、モノマー単位としてフッ化ビニリデンを含有するため、極性が(A)フッ素ゴムに近い。そのため、前記三元共重合体において、テトラフルオロエチレン単位のモル比が30%以上、かつ、フッ化ビニリデン単位のモル比が50%以下になると、この三元共重合体はフッ素ゴムとフッ素樹脂との中間的な性質を有する。この三元共重合体がフッ素樹脂としての性質を有することにより、(A)フッ素ゴムおよび(B)フッ素樹脂の(C)相溶化剤として作用する。そして、この三元共重合体は、結晶を持つため(C)相溶化剤として用いることにより、後述の架橋フッ素ゴムマスターバッチのように、熱可塑性フッ素樹脂組成物のペレット化が可能になる。
【0055】
<架橋剤>
本実施の形態の架橋剤は、(D)ポリオール架橋剤を用いる。ポリオール架橋の詳細については後述する。(D)ポリオール架橋剤としては、例えば、ビスフェノールAF、ビスフェノールA、p,p′-ビフェノール、4,4′-ジヒドロキシジフェニルメタン、ヒドロキノン、ジヒドロキシベンゾフェノン、および、それらのアルカリ金属塩等が挙げられる。本実施の形態においては、耐熱性の観点から、芳香族系のポリオール、特にビスフェノールAFを使用するのが好ましい。
【0056】
なお、ポリオール架橋反応においては、架橋剤だけでなく、以下に説明する架橋促進剤を併用することが好ましい。後述するように、ポリオール架橋反応を効率よく進行させるためには、ポリオール架橋反応の前に(A)フッ素ゴム中に二重結合を形成することが必要であり、そのためには、(A)フッ素ゴムの脱フッ化水素反応を架橋促進剤によって触媒する必要があるためである。
【0057】
さらに、架橋促進剤に加えて、架橋促進助剤を併用することがより好ましい。脱フッ化水素反応ではフッ化水素が発生するため、このフッ化水素を架橋促進助剤としての受酸剤により中和する必要があるためである。
【0058】
架橋剤および架橋促進(助)剤の量に特に制限はないが、意図する架橋の度合いおよび架橋促進(助)剤の種類等に応じて任意に決定することができる。ただし、架橋剤および架橋促進(助)剤の量が少なすぎる場合、架橋密度が低下し、前記(B)フッ素樹脂が連続相(海相)を形成しにくくなるとともに、押出時に架橋された前記(A)フッ素ゴムからなる分散相(島相)同士が凝集し、ツブを発生するという問題が生じる。一方、架橋剤および架橋促進(助)剤が多すぎる場合、前記(A)フッ素ゴムの架橋密度が上昇することに伴い、生成された熱可塑性フッ素樹脂組成物の粘度が高すぎて、押出時の引落し性が低下するという問題が生じる。そのため、前記(A)フッ素ゴム100重量部に対し、架橋剤、架橋促進剤および架橋促進助剤をそれぞれ1~10重量部添加することが好ましい。
【0059】
<架橋促進剤>
本実施の形態の架橋促進剤は、前述したように、(A)フッ素ゴムの脱フッ化水素反応を触媒する脱フッ化水素触媒であり、例えば、オニウム塩(アンモニウム塩またはフォスフォニウム塩)やアミン等が好ましい。具体的には、架橋促進剤として、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(Benzyl triphenyl phosphonium chloride:BTPPC)等の有機ホスホニウム塩、テトラブチルアンモニウム=クロリド等の第4級アンモニウム塩、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、ヘキサメチレンテトラミン等を用いることがより好ましい。
【0060】
<架橋促進助剤>
本実施の形態の架橋促進助剤は、前述したように、脱フッ化水素反応中に発生するフッ化水素を中和する受酸剤であり、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、酸化カルシウム(CaO)、酸化鉛(PbO)等の金属酸化物が好ましい。また、これらの受酸剤を複数併用してもよい。ポリオール架橋反応後の熱可塑性フッ素樹脂組成物の圧縮永久ひずみ率が良好であることから、受酸剤としては高活性の酸化マグネシウムを用いることがより好ましい。また、水酸化カルシウムは、脱フッ化水素反応における脱フッ化水素触媒にオニウム塩を用いた場合に、その共触媒としても作用することから、受酸剤としては水酸化カルシウムを用いることも好ましい。
【0061】
なお、酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムを架橋促進助剤として用いる場合には、前記(A)フッ素ゴム100重量部に対し、1~10重量部、特に2~8重量部の酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムを使用することが好ましい。
【0062】
<動的架橋>
前述のように、動的架橋とは、各原料を混練しながら架橋反応を行う架橋法のことである。具体的には、本実施の形態において、(A)フッ素ゴム、(B)フッ素樹脂、および、(C)相溶化剤の混合物を混練しながら、架橋反応を進行させる。これにより、生成物である熱可塑性フッ素樹脂組成物中において、(A)フッ素ゴムが架橋される。
【0063】
熱可塑性フッ素樹脂組成物中において、(A)フッ素ゴムが架橋されていると、(A)フッ素ゴムの分散径が小さくなり、(B)フッ素樹脂が連続相を形成しやすくなる。そのため、このような熱可塑性フッ素樹脂組成物は、押出時に(A)フッ素ゴムの凝集によるツブが発生しにくくなり、良好な引張特性および耐熱性を有する。
【0064】
本実施の形態では、動的架橋方法として、ポリオール架橋反応を用いている。ポリオール架橋反応は、(i)オニウム塩(アンモニウム塩やフォスフォニウム塩等)を触媒として、フッ素ゴム分子鎖からフッ化水素を脱離させる(脱フッ化水素反応)ことにより、二重結合を形成し、(ii)フッ素ゴム分子鎖に形成された2以上の二重結合に、ビスフェノール化合物を付加させることにより、フッ素ゴム分子鎖内を、またはフッ素ゴム分子鎖間を架橋する反応である。この際、オニウム塩と共触媒である水酸化カルシウムを加えることにより、水酸化カルシウムが脱フッ化水素反応の触媒として作用する。
【0065】
なお、動的架橋方法には、ポリオール架橋反応以外の方法も考えられる。しかし、一般的に使用される架橋剤のうち、ポリアミン架橋剤および過酸化物架橋剤は、(B)フッ素樹脂の融点よりも低い温度で行う必要があるため、(A)フッ素ゴム、(B)フッ素樹脂、および、(C)相溶化剤の混合物を混練することができず、本発明には適用できない。また、電子線を用いた電子線架橋は、そもそも混練下では使用できないため、本発明には適用できない。
【0066】
また、本発明者の検討によれば、ポリオール架橋反応によって、(A)フッ素ゴムを架橋させるだけでなく、(C)相溶化剤も架橋させることができる。すなわち、本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物においては、前記(C)相溶化剤も部分的に架橋されていてもよい。これにより、熱可塑性フッ素樹脂組成物を押出しする際のツブ発生を抑止することができるとともに、熱可塑性フッ素樹脂組成物の引張特性および耐熱性をさらに良好なものとすることができる。
【0067】
<熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法>
図1は、本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造工程を示すフローである。図1に示すように、本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法は、(S1)(A)フッ素ゴムと、(C)相溶化剤と、(E)架橋促進剤と、(F)架橋促進助剤(受酸剤)とを含む混合物を混練し、脱フッ化水素反応により(A)フッ素ゴム中に二重結合を形成する工程(二重結合形成工程)を含んでいる。そして、熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法は、(S2)前記(S1)工程の生成物(第1生成物)と、(B)フッ素樹脂とを混練する工程(フッ素樹脂混練工程)を含んでいる。そして、熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法は、(S3)前記(S2)工程の生成物(第2生成物)と、(D)ポリオール架橋剤とを混練し、前記(S2)工程の生成物中の(A)フッ素ゴムを動的架橋させる工程(動的架橋工程)を含んでいる。
【0068】
また、前記(S1)工程では、脱フッ化水素反応により(C)相溶化剤中にも二重結合が形成され、前記(S3)工程では、前記(S2)工程の生成物中の(C)相溶化剤をも動的架橋される。
【0069】
前記(S1)工程の温度は、脱フッ化水素反応が進行する温度以上であって、(A)フッ素ゴムが熱分解する温度よりも低い。前記(S2)工程の温度は、(B)フッ素樹脂の融点よりも15~40℃高い。その結果、前記(S2)工程の温度は、前記(S1)工程の温度よりも高い。
【0070】
前記(S1)工程では、(A)フッ素ゴムおよび(C)相溶化剤の脱フッ化水素反応が、(E)架橋促進剤によって促進されて進行し、(A)フッ素ゴム中および(C)相溶化剤中に二重結合が形成される。なお、前記(S1)工程では、脱フッ化水素反応によって発生するフッ化水素が(F)架橋促進助剤(受酸剤)によって中和され除去されるため、(F)架橋促進助剤も脱フッ化水素反応を促進させる。そのため、前記(S1)工程において、(F)架橋促進助剤(受酸剤)を添加することは必須ではないが、(F)架橋促進助剤(受酸剤)を添加することが好ましい。
【0071】
前記(S2)工程では、二重結合が形成された(A)フッ素ゴムおよび(C)相溶化剤と、(B)フッ素樹脂とが混練され、(B)フッ素樹脂中に、二重結合が形成された(A)フッ素ゴムおよび(C)相溶化剤が分散された状態になる。また、前記(S2)工程の温度は前記(S1)工程の温度よりも高いため、前記(S1)工程において反応しなかった(E)架橋促進剤が存在する場合には、前記(S2)工程において、完全に消費される。
【0072】
前記(S3)工程では、二重結合が形成された(A)フッ素ゴムおよび(C)相溶化剤の架橋反応が、(D)ポリオール架橋剤によって進行する。
【0073】
以上の前記(S1)工程~前記(S2)工程により、架橋された前記(A)フッ素ゴムが分散相(島相)で、前記(B)フッ素樹脂が連続相(海相)となる熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成することができる。
【0074】
本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物を製造するための混練装置は、例えば、バンバリーミキサーや加圧ニーダーなどのバッチ式混練機、二軸押出機などの連続式混練機等の公知の混練装置を採用することができる。
【0075】
本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法の具体例として、融点が305℃の(B)フッ素樹脂を用いる場合を例に説明する。まず、(S1)工程では、加圧ニーダーにより、200~240℃の温度で、(A)フッ素ゴム(未架橋フッ素ゴム)、(C)相溶化剤、(E)架橋促進剤、(F)架橋促進助剤(受酸剤)、着色剤等を3~5分混練し、ペレット(以下、フッ素ゴムマスターバッチと称する)を生成する。
【0076】
次に、(S2)工程では、二軸押出機により、320~345℃の温度で、前記(S1)工程で生成されたフッ素ゴムマスターバッチと、(B)フッ素樹脂とを、混練物がほぼ均一となるまで3~5分混練する。
【0077】
次に、(S3)工程では、前記(S2)工程で生成された混練物(生成物)と、(D)ポリオール架橋剤とを3~5分混練する。以上より、目的の熱可塑性フッ素樹脂組成物を得ることができる。
【0078】
なお、例えば、押出方向に沿って互いに離間する第1投入口および第2投入口が存在する二軸押出機などの連続式混練機の場合、前記第1投入口からフッ素ゴムマスターバッチと(B)フッ素樹脂とを投入し、前記第2投入口から(D)ポリオール架橋剤を投入することにより、前記(S2)工程と前記(S3)工程とを一つの混練装置で連続して行うことができる。
【0079】
<熱可塑性フッ素樹脂組成物の特徴と効果>
本発明の一実施の形態に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法の特徴の一つは、前記(S1)工程において、(B)フッ素樹脂および(D)ポリオール架橋剤が存在しない状態で、(A)フッ素ゴム中および(C)相溶化剤中に二重結合を形成することである。そして、前記(S2)工程において、(D)ポリオール架橋剤が存在しない状態で、二重結合が形成された(A)フッ素ゴムおよび(C)相溶化剤と(B)フッ素樹脂とを十分に混練している。そして、前記(S3)工程において、(A)フッ素ゴム、(B)フッ素樹脂、および、(C)相溶化剤の混練が十分なされてから、架橋反応を進行させている。
【0080】
本実施の形態では、このような工程を採用したことにより、パーフルオロアルコキシアルカンをフッ素樹脂として用いた熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法において、柔軟性や耐熱性に優れた熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成できる。以下、その理由について具体的に説明する。
【0081】
前述したように、動的架橋方法の一つであるポリオール架橋反応は、(i)二重結合形成工程および(ii)架橋工程の2つの工程を含んでいる。具体的には、(i)フッ素ゴム分子鎖からフッ化水素を脱離させる(脱フッ化水素反応)ことにより、二重結合を形成する工程と、(ii)フッ素ゴム分子鎖に形成された2以上の二重結合に、ビスフェノール化合物を付加させることにより、フッ素ゴム分子鎖内を、またはフッ素ゴム分子鎖間を架橋する工程とを含む。
【0082】
本実施の形態では、ポリオール架橋反応を、前記(i)二重結合形成工程に相当する前記(S1)工程と、前記(ii)架橋工程に相当する前記(S3)工程とに分けている。そして、前記(S1)工程では、(B)フッ素樹脂および(D)ポリオール架橋剤を加えていない。こうすることで、前記(S1)工程の反応温度を、前記検討例1のように(B)フッ素樹脂の融点に合わせて高温にする必要がない。
【0083】
具体的には、前記検討例1において、(B)フッ素樹脂に融点が300℃以上のパーフルオロアルコキシアルカンを用いると、検討例1では混練が十分に行われること等を考慮して、前記(i)工程の温度を325~345℃とする必要があった。しかし、前述したように、320℃以上の高温条件下では(E)架橋促進剤による(A)フッ素ゴムの脱フッ化水素反応が爆発的に起こり、フッ素ゴムの結合が切断され、フッ素ゴムが熱分解してしまう。
【0084】
一方、本実施の形態では、前記(S1)工程の温度を脱フッ化水素反応が十分に進行する180~220℃程度に抑えることができる。また、本実施の形態において、脱フッ化水素反応は、前記(S1)工程で完了する。そのため、後述の実施例で示すように、前記(S3)工程において、ポリオール架橋反応を行う温度を(B)フッ素樹脂の融点に合わせて325~345℃としても、(A)フッ素ゴムの熱分解はほとんど起こらない。以上より、本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂の製造方法では、融点が300℃以上のフッ素樹脂を用いた場合でも、フッ素ゴムの熱分解を抑制することができる。
【0085】
ただし、ポリオール架橋反応において、(A)フッ素ゴム、(B)フッ素樹脂、および、(C)相溶化剤の混合物の混練がなされぬまま架橋反応が進行すると、この混合物中において、(A)フッ素ゴムが十分に分散する前に、(A)フッ素ゴムの架橋が進行し、各成分の分散が不均一となることがある。従って、動的架橋を行う場合には、(A)フッ素ゴム、(B)フッ素樹脂、および、(C)相溶化剤の混合物の混練がある程度なされてから、架橋反応を進行させる必要がある。
【0086】
そのため、本実施の形態では、前記(S1)工程と前記(S3)工程との間に、前記(S2)工程を設け、前記(S2)工程において、(D)ポリオール架橋剤が存在しない状態で、二重結合が形成された(A)フッ素ゴムおよび(C)相溶化剤と(B)フッ素樹脂とを十分に混練しているため、各成分の分散を均一にすることができる。
【0087】
また、前述したように、前記検討例2では、前記(a)工程において動的架橋を行い、その後、前記(b)工程において架橋された生成物に(B”)第2フッ素樹脂を加え混練させていた。この場合には、(B’)第1フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの質量比を高くすると、架橋された(A)フッ素ゴムが分散相(島相)で、(B’)第1フッ素樹脂および(B”)第2フッ素樹脂が連続相(海相)となる熱可塑性フッ素樹脂組成物は生成することができなかった。前述したように、この理由としては、前記検討例2では(A)フッ素ゴムが架橋された後に(B)フッ素樹脂を加えて混練しているため、架橋された(A)フッ素ゴムのネットワークが強固であり、相構造を反転させることができないということが考えられる。
【0088】
一方、本実施の形態では、前記(S2)工程において(A)フッ素ゴムと(B)フッ素樹脂とを混練させる際には、(A)フッ素ゴムはまだ架橋されていない。そして、前記(S2)工程において、(A)フッ素ゴムと(B)フッ素樹脂とが十分に混練された後に、前記(S3)工程において、動的架橋を行っている。こうすることで、架橋された(A)フッ素ゴムが分散相(島相)で、(B)フッ素樹脂が連続相(海相)となる熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成することができると考えられる。
【0089】
また、(A)フッ素ゴムをポリオール架橋によって架橋する場合、最終生成物である熱可塑性フッ素樹脂組成物にベンジルトリフェニルホスホニウムクロリドのような(E)架橋促進剤の分解残渣が残存する可能性がある。このような場合には、熱可塑性フッ素樹脂組成物の体積抵抗率が大きく低下するという問題が生じる。この点、本実施の形態では、
前記(S1)工程において(E)架橋促進剤を反応させた後に、前記(S2)工程において(B)フッ素樹脂の融点に合わせて300℃以上に昇温させているため、(E)架橋促進剤の分解残渣はさらに熱分解されて、最終生成物である熱可塑性フッ素樹脂組成物にはほとんど残らない。そのため、本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物は、前記問題を解消することができる。
【0090】
また、本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物は、本来耐熱寿命が200℃と低い(A)フッ素ゴムを多く含むにもかかわらず250℃で連続使用が可能である。例えば、熱可塑性フッ素樹脂組成物を250℃で連続使用して、架橋された(A)フッ素ゴムが熱劣化し、最終的に消失したとしても、架橋された(A)フッ素ゴムが分散相であり、かつ、架橋された前記(A)フッ素ゴムの分散径が小さいため、消失した部分は微細な空隙となり、熱可塑性フッ素樹脂組成物全体としては、(B)フッ素樹脂の微細発泡体に変化すると考えられる。そのため、熱可塑性フッ素樹脂組成物の形状が保持され、機械特性や柔軟性がほとんど悪化しないからであると考えられる。
【0091】
以上より、本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂組成物の製造方法にあっては、パーフルオロアルコキシアルカンをフッ素樹脂として用いた場合に、機械特性や耐熱性に優れた熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成することができる。
【0092】
(2)電線
図2は、本発明の一実施の形態に係る電線(絶縁電線)を示す横断面図である。図2に示すように、本実施の形態に係る電線10は、導体1と、導体1の周囲に被覆される絶縁層2とを有している。絶縁層2は、前述の熱可塑性フッ素樹脂組成物からなる。
【0093】
導体1としては、通常用いられる金属線、例えば銅線、銅合金線のほか、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、導体1として、金属線の周囲に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。さらに、導体1として、金属線を撚り合わせた撚り導体を用いることもできる。
【0094】
本実施の形態の電線10は、例えば、以下のように製造される。まず、導体1として銅線を準備する。そして、押出機により、導体1の周囲を被覆するように、前述の熱可塑性フッ素樹脂組成物を押出して、所定厚さの絶縁層2を形成する。こうすることで、本実施の形態の電線10を製造することができる。
【0095】
本実施の形態において使用する熱可塑性フッ素樹脂組成物は、実施例で作製した電線に限らず、あらゆる用途およびサイズに適用可能であり、盤内配線用、車両用、自動車用、機器内配線用、電力用の各電線の絶縁層に使用することができる。
【0096】
特に、本実施の形態の電線10の絶縁層2を構成する熱可塑性フッ素樹脂組成物は、前述のように、良好な引張特性、柔軟性を備え、250℃の連続使用が可能という利点を有している。そのため、本実施の形態の電線10は、可撓性および耐熱性に優れたフッ素樹脂組成物被覆電線として使用することができる。
【0097】
(3)ケーブル
図3は、本発明の一実施の形態に係るケーブル11を示す横断面図である。図3に示すように、本実施の形態に係るケーブル11は、前述の電線10を2本撚り合わせた二芯撚り線と、前記二芯撚り線の周囲に設けられた介在3と、介在3の周囲に設けられたシース4とを備えている。シース4は、前述の熱可塑性フッ素樹脂組成物からなる。
【0098】
本実施の形態のケーブル11は、例えば、以下のように製造される。まず、前述した方法により、電線10を2本製造する。その後、電線10の周囲を介在3により被覆し、その後、介在3を被覆するように、前述の熱可塑性フッ素樹脂組成物を押出して、所定厚さのシース4を形成する。こうすることで、本実施の形態のケーブル11を製造することができる。
【0099】
本実施の形態のケーブル11のシース4を構成する熱可塑性フッ素樹脂組成物は、前述のように、良好な引張特性、柔軟性を備え、250℃の連続使用が可能という利点を有している。そのため、本実施の形態のケーブル11は、可撓性および耐熱性に優れたフッ素樹脂ケーブルとして使用することができる。
【0100】
本実施の形態のケーブル11は、芯線として電線10を2本撚り合わせた二芯撚り線を有する場合を例に説明したが、芯線は単芯(1本)でもよいし、二芯以外の多芯撚り線であってもよい。また、電線10とシース4との間に、他の絶縁層(シース)が形成された、多層シース構造を採用することもできる。
【0101】
また、本実施の形態のケーブル11は、前述の電線10を使用した場合を例に説明したが、これに限定されず、汎用の材料を用いた電線を使用することもできる。
【0102】
(実施例)
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0103】
[実施例1~実施例6および比較例1]
以下、実施例1~実施例6および比較例1について説明する。これらの実施例および比較例は、本実施の形態の製造方法によって製造された熱可塑性フッ素樹脂組成物に対応する。
【0104】
<実施例1~実施例6および比較例1の構成>
実施例1~実施例6および比較例1で用いた材料は次の通りである。
【0105】
(A)フッ素ゴム:DS246(ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン二元共重合体、中国製、比重1.86、ムーニ粘度75)
(B)フッ素樹脂:
(B1)F1540(トリフルオロ(トリフルオロメトキシ)エチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体、ソルベイ社製、MFR(メルトマスフローレート)8~18g/10min、融点270℃)
(B2)M640(トリフルオロ(トリフルオロメトキシ)エチレンおよび1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロ-3-[(トリフルオロエテニル)オキシ]プロパンと、テトラフルオロエチレンとの共重合体、ソルベイ社製、MFR10~17g/10min、融点285℃)
(B3)AP-210 パーフルオロアルキルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンとの共重合体、ダイキン工業社製、MFR14g/10min、融点305℃)
(B4)P120X パーフルオロアルキルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンとの共重合体、ソルベイ社製、MFR2.5~5g/10min、融点313℃)
(C)相溶化剤:THV-500GZ(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン三元共重合体、3M社製、MFR10g/10min、融点165℃)
(D)ポリオール架橋剤:キュラティブ30マスターバッチ(ジヒドロキシ芳香族化合物(ポリオール架橋剤)50%およびフッ素ゴム50%の混合物、デュポン社製)
(E)架橋促進剤:キュラティブ20マスターバッチ(ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(架橋促進剤)33%およびフッ素ゴム67%の混合物、デュポン社製)
(F)架橋促進助剤(受酸剤):酸化マグネシウム(MgO)
ここで、実施例で使用する(B)フッ素樹脂である(B1)F1540、(B2)M640、(B3)AP-210、および、(B4)P120Xの物性値の詳細は、表1にまとめた。
【0106】
【表1】
【0107】
表2にはフッ素ゴムマスターバッチ1(MB1)およびフッ素ゴムマスターバッチ101(MB101)の詳細をまとめた。
【0108】
【表2】
【0109】
表2に示すように、フッ素ゴムマスターバッチ1は、(A)フッ素ゴム、(C)相溶化剤、(E)架橋促進剤および(F)架橋促進助剤を混練し、(A)フッ素ゴム中および(C)相溶化剤中に二重結合を形成させた後にペレット化したものである。一方、フッ素ゴムマスターバッチ101は、(A)フッ素ゴム、(C)相溶化剤および(F)架橋促進助剤を混練し、ペレット化したものである。フッ素ゴムマスターバッチ101は、(E)架橋促進剤を含んでいないため、(A)フッ素ゴム中および(C)相溶化剤中に二重結合は形成されていない。後述するように、実施例1~実施例6および比較例1では、表2に示すフッ素ゴムマスターバッチ1およびフッ素ゴムマスターバッチ101のペレットを作製し、その後、フッ素樹脂等をドライブレンドすることにより熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成している。
【0110】
また、表3には、各材料の配合率を示している。実施例1~実施例6および比較例1では、合計体積が50mL程度となるような量にて使用した。
【0111】
【表3】
【0112】
表3に示すように、実施例1~実施例6は、フッ素ゴムマスターバッチ1を用いている点で共通する。そのため、(A)フッ素ゴム、(C)相溶化剤、(E)架橋促進剤および(F)架橋促進助剤の配合量は同じである。一方、実施例1~実施例6は、それぞれ融点の異なる(B)フッ素樹脂を、異なる比率で配合している点が相違点である。また、比較例1の(B)フッ素樹脂の配合率は、実施例3と同じであるが、フッ素ゴムマスターバッチ101を用いている点が、実施例3との相違点である。
【0113】
また、実施例6は、使用するフッ素樹脂の中で最も高融点の(B4)P120X(融点313℃)のみを(B)フッ素樹脂として用いている。また、実施例5は、使用するフッ素樹脂の中で2番目に高融点の(B3)AP-210(融点305℃)のみを(B)フッ素樹脂として用いている。
【0114】
また、実施例および実施例は、(B4)P120X(融点313℃)に加え、これよりも低融点の(B1)F1540(融点270℃)および(B2)M640(融点285℃)を配合している。また、実施例および実施例は、実施例および実施例と異なり、(B4)P120X(融点313℃)ではなく、(B3)AP-210(融点305℃)を用いている。すなわち、実施例および実施例は、(B3)AP-210(融点305℃)に加え、これよりも低融点の(B1)F1540(融点270℃)および(B2)M640(融点285℃)を配合している。
【0115】
また、実施例2は、実施例1よりも(B)フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの比率が高い。同様に、実施例4は、実施例3よりも(B)フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの比率が高い。(B)フッ素樹脂の種類を問わないのであれば、(B)フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの比率が最も高いのが実施例4であり、その次が実施例3、その次が実施例2、実施例5および実施例6であり、(B)フッ素樹脂に対する(A)フッ素ゴムの比率が最も低いのが実施例1である。
【0116】
なお、実施例1~実施例6においては、(D)ポリオール架橋剤の量は同じである。
【0117】
<実施例1~実施例6の製造方法>
実施例1~実施例6のサンプルは、以下の方法で作製した。各条件は一例である。
【0118】
(a)マスターバッチ作製工程(本実施の形態の二重結合形成工程(S1)に相当)
(A)フッ素ゴム、(C)相溶化剤、(E)架橋促進剤および(F)架橋促進助剤(受酸剤)を、160℃に設定した3Lの加圧ニーダーに投入し、ローター回転数35rpmで混練した。ここで、自己発熱によりコンパウンド温度が200℃に上昇するため、コンパウンド温度が200℃に到達した時点で、コンパウンド温度が200℃で保持されるようにローター回転数を調整し、その後10分間混練した。ここで、コンパウンド中の(A)フッ素ゴムおよび(C)相溶化剤中に二重結合が形成されるに従って、コンパウンドの色相が褐色を帯びるため、コンパウンドの色相に基づいて、二重結合形成反応の進行を確認した。
【0119】
その後、加圧ニーダーから生成物を取り出し、140℃に設定した8インチロールにかけ、厚さ2~3mmのシートを作製した。これを空冷した後に、ペレタイザーにより、作製したシートを2~3mm角に切断し、フッ素ゴムマスターバッチ1のペレットを作製した。
【0120】
(b)ドライブレンド工程(本実施の形態のフッ素樹脂混練工程(S2)に相当)
フッ素ゴムマスターバッチ1のペレットと(B)フッ素樹脂とを表3に示す比率でドライブレンドし、ハステロイ製の異方向20mm二軸押出機を用いて、溶融混練し、ストランド状に押し出し、水冷した。
【0121】
なお、二軸押出機において、スクリュー直径Dとスクリュー長さLとの比率L/Dを25と、スクリューの回転数を120rpmとした。また、実施例1~実施例5については、4つのシリンダーの温度を、ホッパー側から300℃、320℃、340℃、340℃とした。実施例6については、4つのシリンダーの温度は、ホッパー側から300℃、330℃、350℃、350℃とした。これは、実施例6は、使用するフッ素樹脂の中で最も高融点の(B4)P120X(融点313℃)のみを(B)フッ素樹脂として用いているためである。
【0122】
このように生成された押出しストランドは、ペレタイザーでカットし、80℃で24時間乾燥させ、未架橋のフッ素樹脂組成物のペレットを作製した。
【0123】
(c)架橋工程(本実施の形態の動的架橋工程(S3)に相当)
未架橋フッ素樹脂組成物のペレットと、(D)ポリオール架橋剤とを表3に示す比率でドライブレンドし、ハステロイ製の異方向20mm二軸押出機を用いて、溶融混練し、ストランド状に押し出し、水冷した。なお、二軸押出機のスクリューおよびシリンダーの温度等の条件は、前記(2)ドライブレンド工程と同じである。
【0124】
このように生成された押出しストランドは、ペレタイザーでカットし、230℃で2時間加熱乾燥させ、架橋されたフッ素樹脂組成物(熱可塑性フッ素樹脂組成物)のペレットを作製した。
【0125】
(d)押出し工程
架橋されたフッ素樹脂組成物(熱可塑性フッ素樹脂組成物)のペレットを、キャピログラフ(東洋精機株式会社製)を用い、設定温度320℃、外径2.095mmφ、ランド8mmのダイスを用い、せん断速度20sec-1で押出した。ここで得られたサンプルを「キャピロ押出しストランド」と称する。
【0126】
<比較例1の製造方法>
比較例1のサンプルは、以下の方法で作製した。比較例1は、(E)架橋促進剤を(1)マスターバッチ作製工程ではなく、(3)架橋工程で添加する点が、実施例1~実施例6との相違点である。
【0127】
(a)マスターバッチ作製工程
(A)フッ素ゴム、(C)相溶化剤および(F)架橋促進助剤(受酸剤)を、160℃に設定した3Lの加圧ニーダーに投入し、ローター回転数35rpmで混練した。実施例1~実施例6と異なり、(E)架橋促進剤は添加されていない。自己発熱によりコンパウンド温度が180℃に上昇した時点で混練を終了した。
【0128】
その後、加圧ニーダーから生成物を取り出し、140℃に設定した8インチロールにかけ、厚さ2~3mmのシートを作製した。これを空冷した後に、ペレタイザーにより、作製したシートを2~3mm角に切断し、フッ素ゴムマスターバッチ101のペレットを作製した。
【0129】
(b)ドライブレンド工程
フッ素ゴムマスターバッチ101のペレットと(B)フッ素樹脂とを表3に示す比率でドライブレンドし、ハステロイ製の異方向20mm二軸押出機を用いて、溶融混練し、ストランド状に押し出し、水冷した。
【0130】
なお、スクリュー直径Dとスクリュー長さLとの比率L/Dを25と、スクリューの回転数は120rpmとした。また、4つのシリンダーの温度は、ホッパー側から300℃、320℃、340℃、340℃とした。
【0131】
このように生成された押出しストランドは、ペレタイザーでカットし、80℃で24時間乾燥させ、未架橋かつ二重結合未形成のフッ素樹脂組成物のペレットを作製した。
【0132】
(c)架橋工程
架橋工程の前段である脱フッ化水素反応を進行させるため、未架橋かつ二重結合未形成のフッ素樹脂組成物のペレットと、(E)架橋促進剤とをドライブレンドし、ハステロイ製の異方向20mm二軸押出機を用いて、溶融混練した。なお、二軸押出機のスクリューおよびシリンダーの温度等の条件は、前記(2)ドライブレンド工程と同じである。
【0133】
しかし、溶融混練後に押し出そうとしたところ、激しい分解が起こり、ストランド状に成形できなかった。
【0134】
<実施例1~実施例6および比較例1の評価方法>
(1)外観
キャピロ押出しストランドサンプルの外観を目視等により評価した。具体的には、表面状態について、十分に平滑であるものを「○」、著しい表面荒れが発生しているものを「×」とした。このうち、「○」を“合格”とし、「×」を“不良”とした。
【0135】
(2)引落し性
キャピロ押出しストランドサンプルをさらに外径が約0.2mmφになるように引落し、外観と外径の安定性を調べた。外観および外径の安定性の両方において合格のものを「○」(合格)とし、いずれかが不良のものを「×」(不良)とした。
【0136】
(3)熱安定性
キャピロ押出しストランドサンプルをメルトインデクサー内のキャピロのシリンダー内で5分間保持した後、外径が約0.2mmφになるように引落し、外観と外径の安定性を調べた。外観および外径の安定性の両方において合格のものを「○」(合格)とし、いずれかが不良のものを「×」(不良)とした。
【0137】
(4)相構造
カミソリによって厚さ1mm程度の輪切り状にしたキャピロ押出しストランドサンプルを、走査電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)により、加速電圧15kV、真空度30Pa、拡大倍率1000倍の条件で観察した。
【0138】
(5)引張特性(未処理)
引落し前のキャピロ押出しストランドサンプルに対して、アイティー計測制御株式会社製の粘弾性測定装置(型式:DVA-200)により、つかみ幅20mm、周波数10Hz、歪0.5%、および、測定温度20℃の条件で、貯蔵弾性率を測定した。
【0139】
また、キャピロ押出しストランドサンプルに対して、市販の引張試験機を用いて引張速度200mm/minで引っ張り、引張強さ(最大応力)(表3中、TSで表す)、全伸び(破断伸び)(表3中、TEで表す)および100%モジュラス(表3中、100%Mで表す)を測定した。ここで、引張強さとは、試験中に加わった最大の力に対応する応力である。全伸びとは、破断後の永久伸びを元の長さに対して百分率で表した値である。100%モジュラスとは、試験片が100%伸長した時点での応力である。
【0140】
(6)引張特性(280℃にて30日加熱後):耐熱性
キャピロ押出しストランドサンプルを280℃にて30日加熱した後に、市販の引張試験機を用いて引張速度200mm/minで引っ張り、引張強さ(TS)、全伸び(TE)および100%モジュラス(100%M)を測定した。
【0141】
<実施例1~実施例6および比較例1の評価結果>
以上の測定結果を表3および図4にまとめた。図4は、実施例1~実施例6のキャピロ押出しストランドサンプルの横断面の走査電子顕微鏡像である。図4中、aは実施例1、bは実施例2、cは実施例3、dは実施例4、eは実施例5、fは実施例6に、それぞれ対応している。なお、表3中、フッ素ゴムを「FKM」と、フッ素樹脂を「PFA」と、それぞれ表している。
【0142】
表3に示すように、実施例1~実施例6において、(1)外観、(2)引落し性、(3)熱安定性、(4)相構造、(5)引張特性(未処理)および(6)引張特性(加熱後)はいずれも良好であった。
【0143】
図4に示すように、実施例1~実施例6(領域a~f)において、キャピロ押出しストランドサンプルの(4)相構造は、海島構造、すなわち、(B)フッ素樹脂が連続相であり、架橋された(A)フッ素ゴムが分散相であった。また、実施例3~実施例図3中領域c~h)において、架橋された(A)フッ素ゴムの分散径も約10μmと小さくなっている。
【0144】
一方、比較例1は、前述したように、前記(c)架橋工程において激しい分解が起こりストランド状に成形できなかった。その結果、(1)外観は不良であり、その他の評価はできなかった。
【0145】
[実施例7]
以下、実施例7について説明する。この実施例7は、図2に示す電線10に対応する。
【0146】
<実施例7の構成>
図2に示す導体1として、断面積が2mmのニッケルメッキ撚り導体を用いる。また、絶縁層2として、表4に示すように、前記実施例3(表3参照)と同じ組成の熱可塑性フッ素樹脂組成物を用いる。
【0147】
<実施例7の製造方法>
実施例7のサンプルは以下の方法で作製した。各条件は一例である。
【0148】
0mm単軸の押出機のダイスに、ニッケルメッキ撚り導体を挿通させ、その後、実施例3において作製した架橋されたフッ素樹脂組成物のペレットを、20mm単軸の単軸押出機のホッパーから投入し、熱可塑性フッ素樹脂組成物をチューブ状に押出し、かつ、真空に引きながら引落し、前記ニッケルメッキ撚り導体の周囲に厚さ0.3mmの絶縁層を形成することにより、電線を作製した。
【0149】
なお、スクリュー直径Dとスクリュー長さLとの比率L/Dを25とした。また、4つのシリンダーの温度は、ホッパー側から200℃、300℃、320℃、320℃とし、ヘッドの温度は320℃とした。また、スクリューの回転数を20rpmとした。ダイスは10mmφ×ランド5mm、ニップルは7mmφ×ランド10mmとした。
【0150】
<実施例7の評価方法>
実施例7の評価方法は、実施例1~実施例6および比較例1の評価方法と同じであるため、その説明を省略する。ただし、評価項目としては、(1)外観、(2)相構造、(3)引張特性(未処理)、(4)引張特性(280℃にて30日加熱後):耐熱性とした。そして、これらの評価項目は、作製した電線から導体を引き抜いて絶縁層のみの状態にしてから測定した。
【0151】
<実施例7の評価結果>
以上の測定結果を表4および図5にまとめた。図5は、実施例7のキャピロ押出しストランドサンプルの横断面の走査電子顕微鏡像である。なお、表4中、フッ素ゴムを「FKM」と、フッ素樹脂を「PFA」と、それぞれ表している。
【0152】
【表4】
【0153】
表4に示すように、実施例7において、(1)外観、(3)引張特性(未処理)および(4)引張特性(加熱後)はいずれも良好であった。また、図5に示すように、実施例7において、(2)相構造は、海島構造、すなわち、(B)フッ素樹脂が連続相であり、架橋された(A)フッ素ゴムが分散相であった。
【0154】
[実施例のまとめ]
実施例1~7に示すように、本実施の形態の熱可塑性フッ素樹脂の製造方法によれば、融点が300℃以上のフッ素樹脂を用いた場合でも、フッ素ゴムの熱分解はほとんど起きておらず、優れた機械特性および耐熱性を有する熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成することができる。特に、実施例6に示すように、融点が313℃のフッ素樹脂のみを用いて、二軸押出機のシリンダーの温度を最大340℃とした場合であっても、フッ素ゴムの熱分解はほとんど起きていない。
【0155】
また、実施例1~6に示すように、本実施の形態によれば、フッ素樹脂の種類や配合比率にかかわらず、機械特性に優れた熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成することができる。特に、実施例4に示すように、(A)フッ素ゴムと(B)フッ素樹脂とが等量で配合されている場合であっても、架橋された(A)フッ素ゴムが分散相(島相)で、(B)フッ素樹脂が連続相(海相)となる熱可塑性フッ素樹脂組成物を生成することができる。
【0156】
本発明は前記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0157】
1 導体
2 絶縁層
3 介在
4 シース
10 電線
11 ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5