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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230801BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230801BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20230801BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
C08L101/00
C08L27/12
C08K3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018211387
(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2020076029
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
(72)【発明者】
【氏名】平野 孝明
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-184668(JP,A)
【文献】特開2014-028903(JP,A)
【文献】特開2015-105282(JP,A)
【文献】特開2007-106902(JP,A)
【文献】特開2018-129377(JP,A)
【文献】特開2004-269567(JP,A)
【文献】国際公開第2007/148729(WO,A1)
【文献】特開2003-100294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛及び樹脂を含む熱伝導シートであって、
前記黒鉛の吸油量が250ml/100g以下であり、
前記黒鉛が前記熱伝導シートの厚み方向に配向してなり、且つ、
前記熱伝導シート中における前記黒鉛の体積分率が40体積%以上51体積%以下であり、
前記熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が1.5W/m・K以上である、
熱伝導シート。
【請求項2】
前記黒鉛の体積平均粒子径が、40μm以上260μm以下である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記黒鉛が人造黒鉛である、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記黒鉛のBET比表面積が、1m/g以上30m/g以下である、請求項1~3の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記樹脂が、熱可塑性フッ素樹脂である、請求項1~4の何れかに記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体と放熱体との間に、熱伝導性を有するシート状の部材(即ち、熱伝導シート)を介在させ、発熱体と放熱体とを密着させることが、一般的に行われている。
【0004】
そして、特許文献1には、高い熱伝導性、及び高い強度を有する、熱伝導性感圧接着性シートが開示されている。より具体的には、特許文献1では、(メタ)アクリル酸エステル重合体を含んでなる樹脂と、膨張化黒鉛とを含む組成物をシート状に成形してなる熱伝導性感圧接着性シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-26531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年、熱伝導シートの用途の拡大に伴い、熱伝導シートには、種々の属性を一層高めることが求められている。より具体的には、熱伝導シートには、アウトガスを発生し難いこと、及び、適度な硬度を有しハンドリング性に優れることが求められている。
しかしながら、上記従来の熱伝導シートには、アウトガスを発生し難いことと、優れたハンドリング性を呈し得ることと、を両立するという点において、改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、アウトガスを発生し難く且つハンドリング性に優れる、熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、熱伝導シートに配合する黒鉛として、吸油量が比較的少ない黒鉛を採用することで、酸性ガス等のアウトガスの発生量が少なくなることを新たに見出した。熱伝導シートからのアウトガスの発生量が少なければ、電子機器等に熱伝導シートを実装した際に、電子機器の使用に伴い発生したアウトガスにより電子機器等に悪影響を与えることを抑制することができる。しかし、本発明者らが検討を進めた結果、熱伝導シートの形成にあたり、吸油量が比較的少ない黒鉛を採用した場合には、特に、黒鉛の配合量が少ない場合に、得られる熱伝導シートの硬度が低くなり易いということが明らかとなった。ここで、熱伝導シートの硬度が過度に低い、即ち、熱伝導シートが柔らかすぎる場合には、熱伝導シートが破れ易くなる、及び、熱伝導シートの運搬が困難になる、等の、ハンドリング上の問題が生じる虞がある。なお、熱伝導シートのハンドリング性は、熱伝導シートがべたつくことによっても劣化し得る。そこで、本発明者らは、吸油量が所定値以下の黒鉛を材料として熱伝導シートを形成するにあたり、熱伝導シート中における黒鉛の体積分率を40体積%以上とすることで、アウトガスを発生し難く且つハンドリング性に優れる熱伝導シートを提供可能であることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、黒鉛及び樹脂を含む熱伝導シートであって、前記黒鉛の吸油量が250ml/100g以下であり、前記黒鉛が前記熱伝導シートの厚み方向に配向してなり、且つ、前記熱伝導シート中における前記黒鉛の体積分率が40体積%以上である、ことを特徴とする。熱伝導シート中にて厚み方向に配向され、且つ、体積分率が40体積%以上となるような比率で含有される黒鉛の吸油量が、250ml/100g以下であれば、かかる熱伝導シートは、アウトガスを発生し難く且つハンドリング性に優れる。なお、黒鉛の吸油量及び熱伝導シート中における黒鉛の体積分率は、実施例に記載の方法により測定することができる。また、本明細書において、「シート」とは、表面及び裏面からなる主面が、厚み分の距離を隔てて配置されてなる形状を有する物体を意味する。
【0010】
また、本発明の熱伝導シートにおいて、前記黒鉛の体積平均粒子径が、40μm以上260μm以下であることが好ましい。熱伝導シートに含有される黒鉛の体積平均粒子径が、上記下限値以上であれば、熱伝導性を一層高めることができ、また、上記上限値以下であればえられる熱伝導シートがべたつくことを抑制して、シートのハンドリング性を一層高めることができる。なお、黒鉛の体積平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0011】
また、本発明の熱伝導シートにおいて、前記黒鉛が人造黒鉛であることが好ましい。熱伝導シートが黒鉛として人造黒鉛を含有していれば、アウトガスを一層発生し難い。
【0012】
また、本発明の熱伝導シートにおいて、前記黒鉛のBET比表面積が、1m/g以上30m/g以下であることが好ましい。熱伝導シートに含まれる黒鉛のBET比表面積が1m/g以上30m/g以下であれば、熱伝導シートの引張強度を高めることができる。なお、黒鉛のBET比表面積は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0013】
また、本発明の熱伝導シートにおいて、前記樹脂が、熱可塑性フッ素樹脂であることが好ましい。熱伝導シートに含まれる樹脂が熱可塑性フッ素樹脂であれば、熱伝導シートの耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アウトガスを発生し難く且つハンドリング性に優れる、熱伝導シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、熱伝導性を有するため、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、放熱部材として、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
【0016】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、黒鉛及び樹脂を含む熱伝導シートである。そして、本発明の熱伝導シートにおいて、黒鉛の吸油量が250ml/100g以下であり、黒鉛が熱伝導シートの厚み方向に配向してなり、且つ、熱伝導シート中における黒鉛の体積分率が40体積%以上であることを特徴とする。なお、本発明の熱伝導シートは、任意で、上記所定の含有成分以外のその他の成分を含んでいても良い。本発明の熱伝導シートは、黒鉛材料として、吸油量が250ml/100g以下の黒鉛を含有するため、アウトガスの発生が少ない。このため、本発明の熱伝導シートは、電子機器等に実装した際に、アウトガスによる影響を電子機器に対して与え難い。さらに、熱伝導シートを被着体に対して装着した状態で、加熱された熱伝導シートから、H2SO4ガス等の酸性ガスが、アウトガスとして発生すると、被着体及び熱伝導シートの周囲に配置されたその他の部品等を腐食させる虞がある。このように、熱伝導シートにおいて、アウトガスの発生が少ないことは様々な側面において重要である。そこで、本発明者らが種々検討した結果、黒鉛材料として、吸油量が250ml/100g以下の黒鉛を採用した場合に、アウトガスの発生が良好に抑制されうることが明らかとなった。しかし、本発明者らによる更なる検討の結果、吸油量が250ml/100g以下の黒鉛は、熱伝導シートの形成に用いた場合に、熱伝導シート中における含有比率が少なければ、熱伝導シートに充分な硬度を付与することができず、得られる熱伝導シートの硬度が不足してハンドリング性が劣ることが明らかとなった。そこで、本発明者らは、熱伝導シート中における吸油量が250ml/100g以下の黒鉛の体積分率を40体積%以上とすることで、熱伝導シートからのアウトガスの発生を抑制しつつ、熱伝導シートに適度な硬度を付与してハンドリング性も担保することに成功した。
【0017】
<黒鉛>
黒鉛は、本発明の熱伝導シート中において、シートの厚み方向に配向され、シートの厚み方向における熱伝導ネットワークを形成する。ここで、黒鉛が「シートの厚み方向に配向」した状態となっているか否かは、熱伝導シートの断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察することにより確認することができる。熱伝導シートの厚み方向に黒鉛が配向していれば、かかるシートは、少なくとも厚み方向に熱伝導性を呈する。
【0018】
<<黒鉛の吸油量>>
そして、本発明の熱伝導シートに含まれる黒鉛は、吸油量が250ml/100g以下であることを必要とする。熱伝導シートに含まれる黒鉛の吸油量が250ml/100g以下であれば、かかる熱伝導シートはアウトガスを発生し難いばかりではなく、シートに適度な柔軟性を付与することができる。その結果、熱伝導シートと、当該熱伝導シートを挟み込んでいる被着体(例えば、発熱体及び放熱体)との間の密着性を高めることができ、被着体と熱伝導シートとの界面における熱抵抗(即ち、界面抵抗)を低減することができる。なお、吸油量が250ml/100g超の黒鉛と、吸油量が250ml/100g以下の黒鉛とを、それぞれ用いて、熱伝導シート中における体積分率の値が同じ熱伝導シートを形成した場合、吸油量が250ml/100g超の黒鉛を用いて形成した熱伝導シートの硬度の方が、吸油量が250ml/100g以下の黒鉛を用いて形成した熱伝導シートの硬度よりも高くなる。さらに、熱伝導シート中における黒鉛の体積分率を高めた場合に、その差は顕著になる。よって、本発明に係る熱伝導シートは、黒鉛の体積分率が高い場合であっても熱伝導シートの硬度が過度に高くなることを抑制することができる。従って、本発明によれば、適切な柔軟性及び硬度を有する熱伝導シートを提供することができる。なお、黒鉛の吸油量は、実施例に記載したように、材料としての黒鉛について所定の方法に従って測定することができる。ある黒鉛についての吸油量の値は、熱伝導シートを製造するための各種工程において実質的に変化せず、一定でありうる。
【0019】
以下、本発明の熱伝導シートに含まれる、吸油量が250ml/100g以下の黒鉛を、「黒鉛A」とも称する。さらに、黒鉛Aの吸油量は、熱伝導シートのハンドリング性を一層高める観点から、50ml/100g以上であることが好ましく、80ml/100g以上であることがより好ましく、100ml/100g以上であることが更に好ましい。黒鉛Aの吸油量が50ml/100g以上であれば、熱伝導シート中における黒鉛Aと樹脂との間の親和性が適度に高く、熱伝導シートの硬度が過度に低くなることを抑制することができるからである。
【0020】
<<黒鉛Aの体積分率>>
熱伝導シート中における、吸油量が250ml/100g以下の黒鉛(黒鉛A)の体積分率は、40体積%以上である必要があり、80体積%以下であることが好ましく、60体積%以下であることがより好ましい。熱伝導シート中における、黒鉛Aの体積分率が40体積%以上であれば、アウトガスが充分に少ない熱伝導シートが、適度な硬度を有しており、ハンドリング性に優れる。また、熱伝導シート中における、黒鉛Aの体積分率が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの硬度が過度に高くなり、界面抵抗が高まることを抑制することができる。
【0021】
<<黒鉛Aの種類>>
吸油量が250ml/100g以下の黒鉛(黒鉛A)は、特に限定されることなく、人造黒鉛、並びに、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、及び膨張化黒鉛等の天然系黒鉛で有り得る。なお、吸油量が上記条件を満たす限りにおいて特に限定されることなく、黒鉛Aとして、これらの混合物を用いても良い。中でも、熱伝導シートのハンドリング性及び耐久性を一層良好に高める観点、及び、熱伝導シートの均質化の観点等から、熱伝導シートに含まれる黒鉛Aが、人造黒鉛からなることが好ましい。人造黒鉛は、例えば、石油又は石炭に由来するコークスを高温(例えば、1000℃以上)で熱処理することで得ることができる。
【0022】
<<黒鉛Aの体積平均粒子径>>
吸油量が250ml/100g以下の黒鉛(黒鉛A)の体積平均粒子径は、40μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、260μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましい。熱伝導シートに含有される黒鉛Aの体積平均粒子径が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの硬度を高めることにより熱伝導シートのハンドリング性を高めるとともに、得られる熱伝導シートの熱伝導率を高めることができる。また、黒鉛Aの体積平均粒子径が上記上限値以下であれば、得られる熱伝導シートがべたつくことを抑制して、シートのハンドリング性を一層高めることができる。さらに、黒鉛Aの体積平均粒子径が上記上限値以下であれば、熱伝導シート表面の平滑性を過度に悪化させることがなく、界面抵抗を低減することが出来る。なお、黒鉛の体積平均粒子径は、実施例に記載したように、材料としての黒鉛について所定の方法に従って測定することができる。吸油量が250ml/100g以下である、黒鉛Aについての体積平均粒子径の値は、熱伝導シートを製造するための各種工程において実質的に変化せず、一定でありうる。これは、吸油量が250ml/100g以下である黒鉛Aは、高い圧縮強度を有しており、熱伝導シートを製造するための一連の工程に供され撹拌及び圧縮等された場合であっても、粒子径が実質的に変化しないためであると推察される。
【0023】
<<黒鉛AのBET比表面積>>
黒鉛AのBET比表面積は、1m/g以上が好ましく、30m/g以下が好ましく、15m/g以下がより好ましく、5m/g以下が更に好ましい。黒鉛AのBET比表面積が上記範囲内であれば、熱伝導シートの引張強度を高めることができる。より具体的には、黒鉛AのBET比表面積が上記範囲内であれば、樹脂と黒鉛Aとが適度に相互作用することで親和性が高まり、熱伝導シートの延性を高めるように作用して、引張強度を高めることができる。なお、黒鉛AのBET比表面積は、実施例に記載したように、材料としての黒鉛について所定の方法に従って測定することができる。ある黒鉛AについてのBET比表面積の値は、熱伝導シートを製造するための各種工程において実質的に変化せず、一定でありうる。
【0024】
<<黒鉛Aのアスペクト比>>
黒鉛Aのアスペクト比は、10以下が好ましく、6以下がより好ましく、通常、1以上であり、好ましくは1.5以上である。黒鉛Aのアスペクト比が上記上限値以下であれば、黒鉛Aが補強効果を発揮しないため熱伝導シートの柔らかさを維持することが出来る。また、黒鉛Aのアスペクト比が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を高めるとともに、熱伝導シートの引張強度及び硬度を適度に高めることができる。なお、「アスペクト比」は、粒子状物質の長径の長さをかかる長径に直交する短径の長さで除して得られる値であり、具体的には、実施例に記載した方法により測定することができる。また、黒鉛Aのアスペクト比は、実施例に記載したように、材料としての黒鉛Aについて所定の方法に従って測定することができる。吸油量が250ml/100g以下である、黒鉛Aについてのアスペクト比の値は、熱伝導シートを製造するための各種工程において実質的に変化せず、一定でありうる。これは、吸油量が250ml/100g以下である黒鉛Aは、高い圧縮強度を有しており、熱伝導シートを製造するための一連の工程に供され撹拌及び圧縮等された場合であっても、形状が実質的に変化しないためであると推察される。
【0025】
<樹脂>
本発明の熱伝導シートに含有される樹脂は、熱伝導シートのマトリックス樹脂として機能するとともに、熱伝導シート中において黒鉛等を結着する結着材として機能する。より具体的には、熱伝導シート中に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂であり得る。熱伝導シートが熱可塑性樹脂を含有することにより、使用時(放熱時)の高温環境下で、熱伝導シートの柔軟性を向上させ、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを良好に密着させることができる。また、本発明の熱伝導シートの特性及び効果を失わないことを条件として、熱伝導シートに熱硬化性樹脂を併用することができる。なお、本明細書において、ゴム及びエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0026】
熱可塑性樹脂としては、「常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂」、「常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂」、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。被着体と熱伝導シートとの間の界面抵抗を低下させることができ、熱伝導シートの熱伝導性を一層向上させることができる点で、「常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂」を少なくとも用いることが好ましい。更に、かかる界面抵抗低下効果に加えて、熱伝導シートに硬度を付与してハンドリング性を高める観点から、「常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂」に併せて、「常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂」を用いることが好ましい。なお、本明細書において、「常温」とは、23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0027】
そして、常温常圧下で液体/固体の熱可塑性樹脂を併用する場合には、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂の含有割合が、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂及び常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂の合計含有量の、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、90質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂の含有割合が上記範囲内であれば、熱伝導シートの柔軟性を高めることにより熱伝導シートの熱伝導性を高めることができるからである。
【0028】
<<常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂>>
常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、及び耐薬品性を向上させる観点、及び熱伝導シートの耐久性を高める観点から、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂が好ましい。
【0029】
[常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂]
常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で液体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロペンテン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
また、市販されている、常温常圧下で液状の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、デュポン株式会社製のバイトン(登録商標)LM、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-101、スリーエム株式会社製のダイニオンFC2210、信越化学工業株式会社製のSIFELシリーズ、などが挙げられる。
【0030】
<<常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂>>
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸又はそのエステル、ポリアクリル酸又はそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、及び耐薬品性などを向上させる観点、及び熱伝導シートの耐久性を高める観点から、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂が好ましい。
【0031】
[常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂]
常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で固体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-プロピレン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系フッ素樹脂等、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物及びポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、加工性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、が好ましい。
【0032】
また、市販されている、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-912、G-700シリーズ、ダイエルG-550シリーズ/G-600シリーズ、ダイエルG-310;ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ;スリーエム社製のダイニオンFC2211、FPO3600ULV;などが挙げられる。
【0033】
<<熱硬化性樹脂>>
本発明の熱伝導シートの特性及び効果を失わないことを条件として、熱伝導シートに任意に使用し得る熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
【0034】
<その他の成分>
本発明の熱伝導シートは、本発明の熱伝導シートの特性及び効果を失わないことを条件として、上述した各種含有成分以外のその他の成分を含んでいても良い。かかるその他の成分としては、特に限定されることなく、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素材料;無機窒化物材料;赤りん系難燃剤及びりん酸エステル系難燃剤等の難燃剤;脂肪酸エステル系可塑剤等の可塑剤;ウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、及び酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤等の濡れ性向上剤;並びに、無機イオン交換体等のイオントラップ剤;などが挙げられる。
【0035】
<熱伝導シートの引張強度>
熱伝導シートの引張強度は、0.5MPa以上であることが好ましく、通常、1.5MPa以下であり得る。熱伝導シートの引張強度が0.5MPa以上であれば、熱伝導シートを被着体(例えば、発熱体及び放熱体)により挟んで使用する際に、熱伝導シートが破れやすくなることを抑制することができる。
【0036】
<熱伝導シートの熱伝導率>
また、上述したように、本発明の熱伝導シートでは、黒鉛Aが熱伝導シートの厚み方向に配向している。このため、本発明の熱伝導シートは、少なくとも熱伝導シートの厚み方向において、熱伝導性を呈する。熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率は、実施例に記載した方法に従って測定することができる。ここで、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率は、1.5W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が1.5W/m・K以上であれば、放熱部材として充分に実装可能である。
【0037】
<熱伝導シートの比重及び厚み>
熱伝導シートの比重は、特に限定されることなく、熱伝導シートに配合する樹脂の種類、黒鉛の配合量等に応じて、種々の値をとり得る。例えば、樹脂として熱可塑性フッ素樹脂を用いた場合には、得られる熱伝導シートの比重は、1.20g/cm以上2.00g/cm以下であり得る。熱伝導シートの比重がかかる範囲内であれば、種々の用途に好適に用いることができる。なお、熱伝導シートの比重は、実施例に記載の方法により測定することができる。また、熱伝導シートの厚みは、特に限定されることなく、50μm以上500μm以下でありうる。熱伝導シートの厚みが上記上限値以下であれば、発熱体及び放熱体の間に熱伝導シートを介在させる必要が生じた場合に、熱伝導シートを介した発熱体及び放熱体の間の熱移動を容易とすることができる。また、熱伝導シートの厚みが上記下限値以上であれば、熱伝導シートの強度を高めることができる。
【0038】
<熱伝導シートの形成方法>
本発明の熱伝導シートは、例えば、以下に詳述する、(i)プレ熱伝導シート成形工程、(ii)積層体形成工程、(iii)スライス工程、などを含む熱伝導シート形成方法により調製される。
【0039】
<<(i)プレ熱伝導シート成形工程>>
プレ熱伝導シート成形工程では、樹脂及び吸油量が250ml/100g以下である黒鉛Aを含み、任意の他の成分をさらに含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る。
【0040】
〔組成物〕
ここで、組成物は、樹脂と、黒鉛Aと、任意の他の成分とを混合して調製することができる。そして、樹脂、黒鉛A、及び任意の他の成分としては、上述した各種成分を好適に用いることができる。換言すると、プレ熱伝導シート成形工程にて用いる黒鉛Aが、体積平均粒子径が40μm以上260μm以下、BET比表面積が、1m/g以上30m/g以下の、人造黒鉛であることが好ましい。また、本工程にて用いる樹脂が熱可塑性フッ素樹脂であることが好ましい。
【0041】
なお、上述した成分の混合は、特に限定されることなく、ニーダー、ロール、ミキサー等の既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、有機溶剤等の溶媒の存在下で行ってもよい。そして、混合時間は、例えば5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば5℃以上150℃以下とすることができる。
【0042】
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡及び解砕した後に、加圧(一次加圧)してシート状に成形することができる。そして、組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導シートでは、黒鉛が主として面内方向に配列し、特に面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。なお、プレ熱伝導シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば0.05mm以上2mm以下とすることができる。
【0043】
なお、プレ熱伝導シートについて、実施例にて記載した方法で測定したアスカーC硬度(以下、単に「プレ熱伝導シートのアスカーC硬度」とも称する)が、20以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましく、75以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましく、60以下であることが更に好ましい。プレ熱伝導シートのアスカーC硬度が上記下限値以上であれば、得られる熱伝導シートが過度に柔らかすぎず、ハンドリング性に優れる。また、プレ熱伝導シートのアスカーC硬度が上記上限値以下であれば、熱伝導シートが適度な柔軟性を有し、熱伝導シートと被着体との間の密着性をより良好にすることができ、界面抵抗を低減することができる。
なお、プレ熱伝導シートの硬度は、材料として吸油量の高い黒鉛を用いた場合、及び、黒鉛を多く用いた場合等に、高くなる。
【0044】
<<(ii)積層体形成工程>>
積層体形成工程では、プレ熱伝導シート成形工程で得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳又は捲回して、積層体を得る。ここで、プレ熱伝導シートを積層させた積層体を積層方向に更に熱プレス(二次加圧)することが好ましい。二次加圧の条件としては、特に限定されず、積層方向への圧力0.05MPa以上0.5MPa以下、温度80℃以上170℃以下で10秒~30分間とすることができる。そして、プレ熱伝導シートを積層、折畳又は捲回して得られる積層体では、黒鉛が積層方向に略直交する方向に配列していると推察される。従って、かかる積層体においては、積層方向に略直交する方向の熱伝導性が、積層方向の熱伝導性よりも高いと推察される。
【0045】
<<(iii)スライス工程>>
スライス工程では、積層体形成工程で得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、例えば、積層体を積層方向に押圧して固定するための金属板等の固定具と、両刃の切断刃を有するスライス部材と、を備え、固定具により積層体を押圧状態としつつ切断刃を動かすことで積層体をスライスする、スライサーを用いることができる。
【0046】
なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。このようにして得られた、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートは、厚み方向にて熱伝導性を呈する。より具体的には、上記の各工程を経て得られた熱伝導シートは、樹脂及び黒鉛等を含む条片が熱伝導シートの厚み方向に対して略垂直な方向(厚み方向に対する角度が略90°の方向)並列接合されてなる構造を有する。かかる熱伝導シートでは、各条片内にて、黒鉛等が熱伝導シートの厚み方向に配向されてなるため、熱伝導性に優れる。
【実施例
【0047】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。実施例、比較例において、黒鉛の吸油量、黒鉛の体積平均粒子径、黒鉛の比表面積、黒鉛のアスペクト比、熱伝導シートにおける黒鉛の体積分率、熱伝導シートのアスカーC硬度、熱伝導シートの引張強度、熱伝導シートの比重、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率、及びアウトガス発生量は、それぞれ以下のようにして測定又は評価した。
【0048】
<黒鉛の吸油量>
実施例、比較例で用いた各種黒鉛の吸油量は、JIS K 5101-13-1:2004に準拠して測定した。
<黒鉛の体積平均粒子径>
実施例、比較例で用いた各種黒鉛の体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA-960」)を用いて、レーザー回折法を用いて測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となるときの粒子径(D50)として求めた。なお、黒鉛の体積平均粒子径は、材料としての黒鉛について測定した時の値と、熱伝導シートに含有された状態の黒鉛についての値とが、同じ値であった。
<黒鉛の比表面積>
実施例、比較例で用いた各種黒鉛に関して、120℃で8時間の真空脱気処理を施した後、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」(マイクロトラック・ベル社製)を用い、液体窒素温度(-196℃)条件で定容量法ガス吸着法により、窒素吸着等温測定を行った。得られた吸着等温線から、BETプロットを作成し、相対圧0.05から相対圧0.30の範囲内で最も相関係数が高くなる2点を選択し、BET比表面積(m2/g)を求めた。
<黒鉛のアスペクト比>
実施例、比較例で用いた各種自黒鉛について、アスペクト比を以下に従って算出した。SEMを用いて、ランダムに選択した50個の黒鉛について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の数平均値を算出した。なお、黒鉛のアスペクト比は、材料としての黒鉛について測定した時の値と、熱伝導シートに含有された状態の黒鉛についての値とが、同じ値であった。
【0049】
<熱伝導シートにおける黒鉛の体積分率>
熱伝導シートにおける黒鉛の体積分率は、黒鉛の添加量及び比重、並びに、各樹脂の添加量及び比重を用いて算出した。
【0050】
<プレ熱伝導シートのアスカーC硬度>
日本ゴム協会標準規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER CL-150LJ」を使用して、温度25℃の条件下で、プレ熱伝導シートのアスカーC硬度を測定した。
まず、実施例、比較例で得られたプレ熱伝導シートを、それぞれ、幅25mm×長さ50mm×厚さ0.5mmの大きさに切り取り、24枚重ね合わせることにより試験片を得た。得られた試験片を温度25℃に保たれた恒温室内に48時間以上静置することにより、試験体としてのプレ熱伝導シート積層体を得た。次に、指針が95~98となるようにダンパー高さを調整し、プレ熱伝導シート積層体とダンパーとを衝突させた。当該衝突から60秒後のプレ熱伝導シート積層体のアスカーC硬度を、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER CL-150LJ」)を用いて2回測定し、測定結果の平均値を算出した。アスカーC硬度が小さい程、プレ熱伝導シートが柔軟性及び可撓性に優れることを示し、アスカーC硬度が大きい程、プレ熱伝導シートが硬いことを示す。プレ熱伝導シートのアスカーC硬度が適度に高ければ、得られる熱伝導シートのハンドリング性に優れる。
【0051】
<熱伝導シートの引張強度>
実施例、比較例で得られた熱伝導シートを20mm×50mmのサイズで打ち抜いたものを試験片とした。打ち抜きに際して、試験片の長手方向が、下記のX方向に一致するようにした。得られた試験片について、小型卓上試験機(日本電産シンポ社製、「FGS-500TV」、デジタルフォースゲージとしてFGP-50を使用)を用いて、X方向に、引張速度を20mm/分とした引張試験を行った。なお、チャック間距離は30mmとした。引張試験時における最大強度(N)を試験体の厚み(mm)で除して、熱伝導シートのシート強度(N/mm)を算出した。なお、X方向は、熱伝導シートの主面にて、プレ熱伝導シートの積層体の積層方向に対して垂直な方向とした。かかるX方向は、概して、熱伝導シートの主面内にて、熱伝導率が最も高くなる方向に一致する方向でありうる。
【0052】
<熱伝導シートの比重>
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて、実施例、比較例で得られた熱伝導シートの比重(密度)(g/m)を測定した。
【0053】
<熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率>
実施例、比較例で得られた熱伝導シートについて、熱拡散率α(m/s)、及び定圧比熱Cp(J/g・K)を、ぞれぞれ、以下の方法で測定した。また、上記に従って測定した各シートの比重の値:ρ(g/m)も用いた。
[熱拡散率α(m/s)]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して熱拡散率を測定した。
[定圧比熱Cp(J/g・K)]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下における比熱を測定した。
そして、各測定値を、下記式(I):
λ=α×Cp×ρ・・・(I)
に代入し、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0054】
<アウトガス発生量>
実施例、比較例で得られた熱伝導シートから、それぞれ、1.5gずつ採取し、測定試料を得た。各測定試料について、空気(JIS W 0201:1990に従う標準大気)を流量100mL/minの条件で供給しながら、175℃で2時間加熱し、熱伝導シートから放出されたアウトガスを、濃度0.01%の過酸化水素水(20ml)に捕集して捕集液を得た。更に得られた捕集液を、イオンクロマトグラフィー(Dionex社製、DX-320)を用いて分析し、SO4 2-成分の定量を行い、シートの単位質量(g)当たりのSO4 2-成分量を算出し、下記の基準に従って評価した。尚、カラムとしてはIonPac AS4A-SC(サイズは直径4mm×長さ250mm)を用い、捕集液の注入量は0.5mlとした。
A:SO4 2-成分の量が3μg/g以下
B:SO4 2-成分の量が3μg/g超
【0055】
(実施例1)
<プレ熱伝導シート成形工程>
-組成物の調製
樹脂としての、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)70部と、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「ダイニオンFC2211」)30部と、吸油量が250ml/100g以下黒鉛(黒鉛A)としての人造黒鉛(オリエンタル産業株式会社製、商品名「AT-No.5」、吸油量:79ml/100g、体積平均粒子径:50μm、アスペクト比:5)90部とを、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、商品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕することにより、組成物を得た。
-プレ熱伝導シートの成形
次いで、得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.5mmのプレ熱伝導シートを得た。
<積層体形成工程>
続いて、得られたプレ熱伝導シートを縦50mm×横50mm×厚み0.5mmに裁断し、プレ熱伝導シートの厚み方向に110枚積層し高さ約55mmの積層体を得た。更に、温度80℃、圧力0.2MPaで1分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ約50mmの積層体を得た。
<スライス工程>
その後、スライスに必要な長さを残して、得られた積層体の上面の全体を金属板で押え、積層方向に(即ち、上から)0.1MPaの圧力をかけて、積層体を固定した。なお、積層体の側面、背面の固定は行わなかった。このとき、積層体の温度は25℃であった。
次いで、サーボプレス機(放電精密加工研究所製)のプレス部分に、切断刃(両刃、刃角2θ:20°、刃部の最大厚み:3.5mm、材質:超鋼、ロックウェル硬度:91.5、刃面のシリコン加工:なし、全長:200mm)を取り付け、スライス速度200mm/秒、スライス幅100μmの条件で積層体の積層方向(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線に一致する方向に)にスライスして、縦50mm×横50mm×厚み0.10mmの熱伝導シートを得た。かかる熱伝導シートは、樹脂及び黒鉛を含む条片(プレ熱伝導シート)が並列接合されて成る構造を有していた。また、本例に従って得られた熱伝導シートでは、黒鉛が熱伝導シートの厚み方向に配向されていたことをSEMによる観察により確認した。
そして、得られた熱伝導シートについて、上述の方法に従って、上述の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
人造黒鉛の添加量を180部とした以外は、実施例1と同様にして各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
黒鉛Aとして添加する人造黒鉛を、表1に示す各種属性を満たす人造黒鉛(オリエンタル産業株式会社製、「4010S」、吸油量:248ml/100g、体積平均粒子径:250μm、アスペクト比:2)に変更した。かかる点以外は、実施例1と同様にして各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例4)
人造黒鉛の添加量を160部とした以外は、実施例3と同様にして各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例5)
黒鉛Aとして添加する人造黒鉛を、表1に示す各種属性を満たす人造黒鉛(東洋炭素株式会社製、商品名「TEG-200」、吸油量:80ml/100g、体積平均粒子径:70μm、アスペクト比:1)に変更した。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0060】
(実施例6)
人造黒鉛の添加量を130部とした以外は、実施例5と同様にして、各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例7)
人造黒鉛の添加量を180部とした以外は、実施例5と同様にして、各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例1)
樹脂として下記のようにして調製したアクリル樹脂100部を用い、黒鉛Aに代えて、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-50」、吸油量:310ml/100g、体積平均粒子径:250μm、アスペクト比:2)355質量部を用いた。これらの点以外は実施例1と同様にして、各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
<アクリル樹脂の調製>
反応器に、アクリル酸2-エチルヘキシル94部とアクリル酸6部とからなる単量体混合物100部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.03部、及び酢酸エチル700部を入れて、均一に溶解し、器内の雰囲気を窒素置換した後、80℃で6時間重合反応を行った。なお、重合転化率は97%であった。そして、得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、粘性のある固体状のアクリル樹脂を得た。アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は270000であり、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は3.1であった。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0063】
(比較例2)
樹脂として、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を配合せずに、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の配合量を100部とした。また、黒鉛Aに代えて、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、吸油量:303ml/100g、体積平均粒子径:50μm、アスペクト比:2)50部を配合した。これらの点以外は、実施例1と同様にして、各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例3)
黒鉛Aに代えて、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、吸油量:303ml/100g、体積平均粒子径:50μm、アスペクト比:2)90部を配合した以外は、実施例1と同様にして、各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例4)
黒鉛Aに代えて、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、吸油量:303ml/100g、体積平均粒子径:50μm)30部を配合した以外は、実施例1と同様にして、各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例5)
組成物の調製に際して、熱伝導シート中における黒鉛の体積分率が28体積%となるように、人造黒鉛の配合量を少なくした以外は、実施例1と同様にして、各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例6)
黒鉛Aに代えて、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、吸油量:303ml/100g、体積平均粒子径:50μm、アスペクト比:2)15部を配合した以外は、実施例1と同様にして、各工程、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1より、吸油量が250ml/100g以下である黒鉛を40体積%以上含有する実施例1~7に従う熱伝導シートは、アウトガスが少なく、且つ、ハンドリング性も兼ね備えるものであったことが分かる。なお、実施例1~7に従う熱伝導シートに関する熱伝導率の測定結果より、これらのシートは、厚み方向に熱伝導性を呈するものであったことが分かる。
一方、吸油量が250ml/100g超の黒鉛を配合した比較例1~4、6に従う熱伝導シートは、ハンドリング性は備えている場合であっても、アウトガスが多く、アウトガスを発生し難く且つハンドリング性に優れる熱伝導シートとはならなかったことが分かる。また、所定の吸油量を満たす黒鉛の含有割合が40体積%未満である比較例5に従う熱伝導シートは、アウトガスは発生しないものの、ハンドリング性に劣るものであったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、アウトガスを発生し難く且つハンドリング性に優れる、熱伝導シートを提供することができる。