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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20230801BHJP
   H01B 7/282 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01B7/00 301
H01B7/282
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020051265
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021150245
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正浩
(72)【発明者】
【氏名】大橋 守
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-220117(JP,A)
【文献】特開2018-125122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/282
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線が絶縁性を有する被覆部材により被覆された複数の電線、及び前記複数の電線の外周に形成され長手方向の一部を覆うシースを有するケーブルと、
前記複数の電線を延出させた前記シースの端部、及び前記端部から延出された前記複数の電線を覆う第1の樹脂モールド部材と、
前記第1の樹脂モールド部材より高い耐熱性を有し、前記第1の樹脂モールド部材を覆うと共に、前記第1の樹脂モールド部材から延出する前記シース及び前記複数の電線の一部を覆う第2の樹脂モールド部材と、
を備え、
前記第1の樹脂モールド部材は、熱可塑性ポリウレタン及び酸変性ポリオレフィンのポリマアロイからなり、
前記第2の樹脂モールド部材は、ポリアミド又はポリエチレンテレフタレートからなる、ワイヤハーネス。
【請求項2】
前記第1の樹脂モールド部材は、ポリマアロイ合計100質量部のうち、熱可塑性ポリウレタンを30~70質量部、酸変性ポリオレフィンを70~30質量部含む、
請求項に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記複数の電線は、前記第1の樹脂モールド部材によって覆われる部分が直線状であり、前記第2の樹脂モールド部材から延出する部分の延出方向が異なる、
請求項1又は2に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
前記複数の電線は、信号線及び電源線を含む、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、少なくともABS(Anti-lock Braking System)センサ用ケーブル及びパーキングブレーキ用ケーブルをシース内部に収容するハーネスが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来のハーネスは、シースの端部においてABSセンサ用ケーブルとパーキングブレーキ用ケーブルとを分岐させて引き出し方向を固定すると共にシースの端部の止水を行う止水部と、ABSセンサ用ケーブル及びパーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位とは反対側においてブラケットを取り付けるブラケット取付部と、をポリウレタンにより一体成形してなる成形部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6213447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来のハーネスは、シースや絶縁体との密着性が高い材料で成形部を形成すると成形部の耐熱性が低くなる場合があり、耐熱性の高い材料で成形部を形成すると成形部とシース及び絶縁体との密着性が低くなって防水性が低下する場合がある。つまり、耐熱性と防水性の両立が難しい場合があるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、耐熱性と防水性を両立することができるワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体線が絶縁性を有する被覆部材により被覆された複数の電線、及び前記複数の電線の外周に形成され長手方向の一部を覆うシースを有するケーブルと、前記複数の電線を延出させた前記シースの端部、及び前記端部から延出された前記複数の電線の長手方向の一部を覆う第1の樹脂モールド部材と、前記第1の樹脂モールド部材より高い耐熱性を有し、前記第1の樹脂モールド部材を覆うと共に、前記第1の樹脂モールド部材から延出する前記シース及び前記複数の電線の一部を覆う第2の樹脂モールド部材と、を備えたワイヤハーネスを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性と防水性を両立することができるワイヤハーネスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係るワイヤハーネスが用いられた車両の構成の一例を示す図である。
図2図2は、実施の形態に係るワイヤハーネスの一例を示す図である。
図3図3は、実施の形態のワイヤハーネスの止水樹脂モールド部材及び保護樹脂モールド部材の一例について説明するための図である。
図4図4は、実施の形態に係るワイヤを図2のIV-IV線で切断した断面を矢印方向から見た断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の各実施の形態を添付図面にしたがって説明する。図1は、実施の形態に係るワイヤハーネスが用いられた車両の構成の一例を示す図である。なお以下に記載する実施の形態に係る各図において、図形間の比率や形状は、実際の比率や形状とは異なる場合がある。また数値範囲を示す「A~B」は、A以上B以下の意味で用いるものとする。
【0011】
車両9は、図1に示すように、車体90にタイヤハウス91~タイヤハウス94を有している。タイヤハウス91には、車両9の左側の前輪91aが配置され、タイヤハウス92には、右側の前輪92aが配置されている。タイヤハウス93には、左側の後輪93aが配置され、タイヤハウス94には、右側の後輪94aが配置されている。
【0012】
車両9には、エレクトリックパーキングブレーキ(EPB:Electric Parking Brake)が搭載されている。このエレクトリックパーキングブレーキは、EPB用モータ95と、車室内に配置されたEPBスイッチ901と、EPB制御部903と、を備えている。
【0013】
EPB用モータ95は、車両9の後輪93a及び後輪94aに配置されている。EPB用モータ95は、後輪93a及び後輪94aに配置された油圧式のブレーキ装置を駆動して制動力を発生させる。具体的には、EPB用モータ95は、油圧式のブレーキ装置のピストンを駆動することで、ブレーキロータにブレーキパッドを押し付けて制動力を発生させる。
【0014】
なお後輪93a及び後輪94aに配置されたブレーキ装置は、ドラム式のブレーキ装置であってもよい。ドラム式のブレーキ装置であった場合、EPB用モータ95は、ブレーキシューをドラムに押し付けようにワイヤに張力を与えて制動力を発生させる。またEPB用モータ95は、後輪93a及び後輪94aではなく、前輪91a及び前輪92aに配置されてもよいし、前輪91a~後輪94aに配置されてもよい。
【0015】
EPBスイッチ901は、レバーを引き上げることでオフ状態からオン状態へと切り替わるレバー式のスイッチである。EPBスイッチ901は、EPB制御部903に電気的に接続されている。
【0016】
EPB制御部903は、記憶されたプログラムに従って、取得したデータに演算、加工などを行うCPU(Central Processing Unit)、半導体メモリであるRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などから構成されるマイクロコンピュータである。EPB制御部903は、ECU(Electronic Control Unit)902に搭載されている。なお、EPB制御部903は、ECU902以外のコントロールユニットに搭載されていてもよく、専用のハードウェアユニットに搭載されていてもよい。
【0017】
EPB制御部903は、車両9の停止時に、EPBスイッチ901がオフ状態からオン状態に操作されたとき、所定時間(例えば1秒間)にわたってEPB用モータ95に駆動電流を出力することにより、後輪93a及び後輪94aに制動力を発生させるように構成されている。
【0018】
また、EPB制御部903は、EPBスイッチ901がオン状態からオフ状態に操作されたとき、あるいは、アクセルペダルが踏み込み操作されたとき、EPB用モータ95に駆動電流を出力し、後輪93a及び後輪94aへの制動力を解除するように構成されている。
【0019】
つまり、エレクトリックパーキングブレーキの作動状態は、EPBスイッチ901がオンされてから、EPBスイッチ901がオフされるかアクセルペダルが踏み込まれるまで維持されるように構成されている。なお、EPBスイッチ901は、レバー式に限定されず、ペダル式のスイッチであってもよい。
【0020】
また車両9には、アンチブレーキシステムが搭載されている。このアンチブレーキシステムは、前輪91a~後輪94aに配置されたABSセンサ96と、ABS制御部904と、を備えている。
【0021】
ABSセンサ96は、前輪91a~後輪94aに配置され、前輪91a~後輪94aの回転速度を検出する回転速度検出センサである。ABSセンサ96は、ABS制御部904と電気的に接続されている。
【0022】
ABS制御部904は、CPU、RAM及びROMなどから構成されるマイクロコンピュータである。ABS制御部904は、ECU902に搭載されている。ABS制御部904は、急停止時に前輪91a~後輪94aがロックされないように、ABSセンサ96の出力に基づいて前輪91a~後輪94aの制動力を制御するものである。なお、ABS制御部904は、ECU902以外のコントロールユニットに搭載されていてもよく、専用のハードウェアユニットに搭載されていてもよい。
【0023】
本実施の形態のワイヤハーネス1は、一方端部が車体90の外側にあるEPB用モータ95と電気的に接続されると共に、ABSセンサ96と電気的に接続されている。またワイヤハーネス1は、他方端部が車体90の内部にある後輪側の中継ボックス97b内において電線群99bに電気的に接続されると共に、ECU902と電気的に接続されている。
【0024】
前輪91a及び前輪92aに配置されたABSセンサ96は、前輪側の中継ボックス97a、及び電線群99aを介してECU902に電気的に接続されている。
【0025】
ECU902は、バッテリ900と電気的に接続されている。ECU902のEPB制御部903は、エレクトロニックパーキングブレーキを作動させるとき、バッテリ900からの電流に基づいて駆動電流を生成し、電線群99b、中継ボックス97b、及びワイヤハーネス1を介してEPB用モータ95に供給する。
【0026】
(ワイヤハーネス1の構成)
図2は、実施の形態に係るワイヤハーネスの一例を示す図である。図3は、実施の形態のワイヤハーネスの止水樹脂モールド部材及び保護樹脂モールド部材の一例について説明するための図である。図4は、実施の形態に係るワイヤを図2のIV-IV線で切断した断面を矢印方向から見た断面図の一例である。図2は、紙面の横方向の中心近傍(省略波線の中心)を境に左側が車内側であり、右側が車外側である。図3では、第1の樹脂モールド部材としての止水樹脂モールド部材7、第2の樹脂モールド部材としての保護樹脂モールド部材8、及び一対の第1電線20に隠れた内部シース33を点線で示している。
【0027】
ワイヤハーネス1は、図2及び図3に示すように、導体線が絶縁性を有する被覆部材により被覆された複数の電線、及び複数の電線の外周に形成され長手方向の一部を覆うシース6を有するケーブル10と、複数の電線を延出させたシース6の端部、及び端部から延出された複数の電線の長手方向の一部を覆う止水樹脂モールド部材7と、止水樹脂モールド部材7より高い耐熱性を有し、止水樹脂モールド部材7を覆うと共に、止水樹脂モールド部材7から延出するシース6及び複数の電線の一部を覆う保護樹脂モールド部材8と、を備えている。
【0028】
本実施の形態のワイヤハーネス1は、図4に示すように、複数の電線として一対の第1電線20、及び一対の第2電線30を有している。なおワイヤハーネス1は、複数の電線として一対の第1電線20及び一対の第2電線30を有するがこれに限定されず、さらに電線の数が多くてもよい。
【0029】
本実施の形態の一対の第1電線20はそれぞれ、EPB用モータ95に駆動電流を供給するための電源線である。一対の第1電線20はそれぞれ、EPB用モータ95と接続される車外側EPBコネクタ23が一方の端部に取り付けられ、車内の中継ボックス97bと接続される車内側EPBコネクタ24が他方の端部に取り付けられている。
【0030】
また本実施の形態の一対の第2電線30はそれぞれ、ABSセンサ96用の信号線である。一対の第2電線30はそれぞれ、ABSセンサ96と接続される車外側ABSコネクタ34が一方の端部に取り付けられ、車内の中継ボックス97bと接続される車内側ABSコネクタ35が他方の端部に取り付けられている。
【0031】
このように、ワイヤハーネス1のケーブル10は、複数の信号線及び電源線をシース6によって一体とした複合ケーブルである。またケーブル10は、止水樹脂モールド部材7及び保護樹脂モールド部材8からなる分岐部材11によって信号線及び電源線が異なる方向に分岐されている。止水樹脂モールド部材7及び保護樹脂モールド部材8は、モールド樹脂成形によって成形される。なお信号線及び電源線の数は、限定されない。
【0032】
本実施の形態のワイヤハーネス1は、図4に示すように、第1導体線21を被覆する第1絶縁体22と、複数の電線としての一対の第2電線30を一括して被覆する内部シース33と、を被覆部材として有している。第1電線20は、第1導体線21と、第1導体線21を被覆する第1絶縁体22と、から構成されている。また第2電線30は、第2導体線31と、第2導体線31を被覆する第2絶縁体32と、から構成されている。
【0033】
ケーブル10は、図4に示すように、一対の第1電線20及び一対の第2電線30を撚り合わせた際の形状を整えるための2つの介在4と、一対の第1電線20、一対の第2電線30及び介在4を撚り合わせてなる集合体の周囲に螺旋状に巻き付けられたテープ部材5と、を備えている。なお介在4やテープ部材5は、ワイヤハーネス1の取り扱い性を向上させるためや断面形状を円形に近づけるように適宜使用されるものである。
【0034】
(第1電線20及び第2電線30の構成)
第1電線20の第1導体線21は、例えば、銅や銅合金からなる複数の素線を撚り合わせて構成されている。また第2電線30の第2導体線31は、例えば、銅や銅合金からなる複数の素線を撚り合わせて構成されている。
【0035】
第1導体線21に用いる素線は、直径0.05mm以上0.30mm以下のものを用いることができる。直径0.05mm未満の素線を用いた場合は、十分な機械的強度が得られず耐屈曲性が低下する可能性がある。また直径0.30mmより大きい素線を用いた場合は、ワイヤハーネス1の可撓性が低下する可能性がある。
【0036】
第2導体線31に用いる素線は、第1導体線21と同様に、直径0.05mm以上0.30mm以下のものを用いることができる。
【0037】
一対の第2電線30は、内部シース33によって被覆されている。内部シース33は、筒形状を有し、内部に一対の第2電線30を収容する。内部シース33は、信号線である一対の第2電線30を保護すると共に、第2電線30よりも太い第1電線20と撚り合わせる際に形状を整え易くするために設けられている。
【0038】
第1絶縁体22及び第2絶縁体32は、例えば、架橋ポリエチレンを用いて形成される。また内部シース33は、例えば、ポリウレタンを用いて形成される。
【0039】
第1電線20の第1導体線21の断面積(導体断面積)、及び第1絶縁体22の厚さは、要求される駆動電流の大きさに応じて適宜設定すればよい。本実施の形態では、第1電線20が電源線として用いられ、第2電線30が信号線として用いられることから、第1導体線21は、第2導体線31よりも断面積(導体断面積)が大きく設定されている。つまり第1導体線21は、第2導体線31よりも太く形成されている。
【0040】
(介在4の構成)
介在4は、第1電線20及び第2電線30の間に詰められる詰めものであり、絶縁性を有する材料を用いてひも状に形成されている。介在4は、例えば、綿花を材料とする綿糸、紙ひも、又はポリプロピレンなどの合成繊維のひもである。
【0041】
(テープ部材5の構成)
テープ部材5は、第1電線20、第2電線30及び介在4の周囲に螺旋状に巻き付けられている。テープ部材5は、第1電線20、第2電線30及び介在4の集合体とシース6との間に介在し、屈曲時に当該集合体とシース6との間の摩擦を低減する役割を有している。すなわち、ワイヤハーネス1は、テープ部材5を設けることで、従来のようにタルク粉体などの潤滑剤を用いることなく、第1電線20、第2電線30とシース6との間の摩擦が低減されると共に、屈曲時に第1電線20、第2電線30にかかるストレスが低減され、耐屈曲性が向上する。
【0042】
テープ部材5は、張力を付与した状態で集合体の周囲に螺旋状に巻き付けられる。よって、テープ部材5としては、巻き付け時に付与される張力により破断しないものを用いる必要がある。他方、テープ部材5は、端末加工時にシース6と共に除去されるものである。そのため、テープ部材5としては、端末加工時に容易に除去できるものを用いることが望まれる。
【0043】
そこで、本実施の形態では、テープ部材5として、長手方向と幅方向とで引っ張り強さが異なり、幅方向の引っ張り強さが長手方向の引っ張り強さよりも小さいものを用いた。
【0044】
従ってテープ部材5としては、例えば、不織布、和紙などの紙、あるいは樹脂(樹脂フィルムなど)からなるものを用いることができる。
【0045】
(シース6の構成)
シース6は、筒形状を有し、その内部には、テープ部材5が巻き回された一対の第1電線20、内部シース33に覆われた一対の第2電線30、及び2つの介在4を収容し、これらを保護している。シース6は、例えば、テープ部材の外周にポリウレタン等の樹脂が押出成形されることにより形成される。
【0046】
(止水樹脂モールド部材7の構成)
止水樹脂モールド部材7は、図3に示すように、保護樹脂モールド部材8に覆われている。一対の第1電線20及び一対の第2電線30は、止水樹脂モールド部材7によって覆われる部分が直線状である。
【0047】
この止水樹脂モールド部材7によって覆われる直線状の部分は、図3に示す直線部75である。この直線部75は、一対の第1電線20及び一対の第2電線30が直線的にシース6から延出されている部分である。つまり一対の第1電線20及び一対の第2電線30は、止水樹脂モールド部材7により分岐されない。
【0048】
一対の第1電線20及び一対の第2電線30は、止水樹脂モールド部材7によって直線状に保持されるので、分岐する場合と比べて、一対の第1電線20及び一対の第2電線30に付加されるストレスが抑制され、より高い密着性が得られる。
【0049】
止水樹脂モールド部材7は、円柱形状に形成されている。止水樹脂モールド部材7は、円柱の底面に相当する端面70及び端面71の外形が円形状を有している。なお止水樹脂モールド部材7の形状は、円柱形状に限定されず、角柱形状であってもよい。
【0050】
止水樹脂モールド部材7は、端面70において自身と接触するケーブル10の最外殻のシース6、及び端面71において自身と接触する一対の第1電線20の第1絶縁体22と一対の第2電線30を収容する内部シース33とに密着する。これにより、止水樹脂モールド部材7は、端面70及び端面71側からの液体や融雪剤などの異物のシース6内への侵入を抑制している。つまり止水樹脂モールド部材7は、主に防水目的でワイヤハーネス1に設けられている。
【0051】
従って止水樹脂モールド部材7は、シース6、第1絶縁体22及び内部シース33と密着する材料を選択して形成されている。止水樹脂モールド部材7の材料については、後述する。
【0052】
(保護樹脂モールド部材8の構成)
保護樹脂モールド部材8は、図3に示すように、シース6の端部と、シース6が取り除かれて露出した一対の第1電線20の第1絶縁体22と、一対の第2電線30を覆う内部シース33と、止水樹脂モールド部材7と、を覆っている。
【0053】
保護樹脂モールド部材8は、一対の第1電線20及び一対の第2電線30を分岐させている。つまり一対の第1電線20及び一対の第2電線30は、保護樹脂モールド部材8から延出する部分の延出方向が異なっている。
【0054】
保護樹脂モールド部材8は、樹脂モールドによって円柱形状に形成されている。保護樹脂モールド部材8は、円柱の底面に相当する端面80及び端面81の外形が円形状を有している。なお保護樹脂モールド部材8の形状は、円柱形状に限定されず、角柱形状であってもよい。
【0055】
保護樹脂モールド部材8は、ケーブル10の最外殻のシース6が端面80に露出し、一対の第1電線20の第1絶縁体22が端面81から延出され、一対の第2電線30を収容する内部シース33が外周面82から延出されている。保護樹脂モールド部材8は、止水樹脂モールド部材7を保護すると共に、一対の第1電線20及び一対の第2電線30を異なる方向に延出させる目的でケーブル10に設けられている。
【0056】
ワイヤハーネス1は、保護樹脂モールド部材8によって複数の電線のうちの一部の電線の延出方向と、他の一部の電線の延出方向とを、耐熱性と防水性を備えつつ異なる方向とすることができるので、延出方向が同じ方向である場合と比べて、電線の取り回しの自由度を高めると共に電線に適した延出方向とすることで電線に付加されるストレスを低減することが可能である。
【0057】
(ブラケット12の構成)
ブラケット12は、例えば、アルミニウムなどの板状の金属からなる。ブラケット12は、図2に示すように、保護樹脂モールド部材8の外周面82に巻き締められた巻き締め部120、及び車両9側の固定対象に固定される固定部121を一体に有している。ブラケット12は、保護樹脂モールド部材8に取り付けられている。
【0058】
巻き締め部120は、保護樹脂モールド部材8を押圧する押圧部として機能する。巻き締め部120は、軸方向視において、保護樹脂モールド部材8の外周面82を半周以上にわたって囲っている。固定部121には、貫通孔122が板厚方向に貫通して形成されている。固定対象は、タイヤハウス93及びタイヤハウス94内にある部材である。
【0059】
(止水樹脂モールド部材7と保護樹脂モールド部材8の材料について)
一対の第1電線20及び一対の第2電線30は、シース6によって保護されている。しかし一対の第1電線20及び一対の第2電線30は、車両9の外のEPB用モータ95及びABSセンサ96と接続されるため、シース6から延出され、さらに分岐する。この分岐する部分は、保護する部材がないとシース6内に水などの液体が容易に侵入する。また分岐する部分は、ワイヤハーネス1が車両9に搭載されることから耐熱性も要求される。ワイヤハーネス1がEPBに使用される場合、要求される耐熱性は、一例として、およそ120~125℃以上である。
【0060】
耐熱性とは、物質が高温に晒された際に、物性を維持する性質を示している。従って耐熱性が高いとは、融点が高いことを意味している。なお樹脂モールド部材の材料が結晶性樹脂ではなく、非晶性樹脂であった場合、耐熱性としてガラス転移点が高いことが要求される。
【0061】
樹脂モールド部材によって分岐する部分を保護する場合、樹脂モールド部材と直接接触する部分、つまりシース6と、一対の第1電線20の最外殻である第1絶縁体22と、一対の第2電線30を被覆する内部シース33と、の高い密着性が要求される。その理由としては、一対の第1電線20及び一対の第2電線30が接続先と接続される際の取り回しによるストレスによって、樹脂モールド部材との間に隙間が生じ、その隙間から液体などが侵入する可能性があるからである。従って密着性とは、樹脂モールド部材とシース6、第1絶縁体22及び内部シース33などの被覆部材との間に隙間が生じ難い性質を示している。
【0062】
第1絶縁体22に使用される架橋ポリエチレンは、耐熱性と強度が高い樹脂モールド部材の材料として使用されるポリアミドやポリエチレンテレフタレートとの密着性が低い。
【0063】
そこでワイヤハーネス1は、止水樹脂モールド部材7によって密着性を確保し、保護樹脂モールド部材8によって耐熱性と強度を確保している。本実施の形態の止水樹脂モールド部材7及び保護樹脂モールド部材8は、以下に示す材料を用いて形成される。
【0064】
一対の第1電線20の第1絶縁体22に用いられる架橋ポリエチレンと密着する材料としては、酸変性ポリオレフィンが挙げられる。しかし酸変性ポリオレフィンは、単独では耐熱性が低く、またシース6及び内部シース33に用いられるポリウレタンとの密着性が低い。
【0065】
またシース6及び内部シース33に用いられるポリウレタンと密着する材料としては、熱可塑性ポリウレタンが挙げられる。しかし熱可塑性ポリウレタンは、耐熱性が高いものの架橋ポリエチレンとの密着性が低い。
【0066】
そこで止水樹脂モールド部材7は、熱可塑性ポリウレタン及び酸変性ポリオレフィンのポリマアロイを用いて形成されることで、耐熱性を高めると共に、架橋ポリエチレン及びポリウレタンとの密着性を高めることが可能となる。
【0067】
具体的には、止水樹脂モールド部材7は、ポリマアロイ合計100質量部のうち、熱可塑性ポリウレタンを30~70質量部、酸変性ポリオレフィンを70~30質量部含むように構成することが可能である。
【0068】
本実施の形態の分岐部材11は、密着性が重視される止水樹脂モールド部材7と、耐熱性と強度が重視される保護樹脂モールド部材8と、の二層構造となっている。従って止水樹脂モールド部材7は、酸変性ポリオレフィンと熱可塑性ポリウレタンとを混合した材料が成形に用いられることにより、酸変性ポリオレフィン単独よりも高い耐熱性と高い強度を有し、熱可塑性ポリウレタン単独よりも高い密着性を得ることが可能となる。
【0069】
そして止水樹脂モールド部材7は、保護樹脂モールド部材8に覆われることから酸変性ポリオレフィンを多く用いて密着性をより高くすることが可能となる。従って本実施の形態の止水樹脂モールド部材7は、一例として、熱可塑性ポリウレタンが30質量部、酸変性ポリオレフィンが70質量部である。
【0070】
分岐部材11は、保護樹脂モールド部材8によって止水樹脂モールド部材7を覆う構成であるので、密着性が高く、耐熱性が低い材料を止水樹脂モールド部材7の主成分とすることができる。
【0071】
なおワイヤハーネス1が内部シース33を備えない場合、一対の第2電線3の第2絶縁体32が最外殻となるが第1絶縁体22と同じ材料で形成された場合、第1絶縁体22と同様に止水樹脂モールド部材7との高い密着性が得られる。
【0072】
保護樹脂モールド部材8は、ポリアミド又はポリエチレンテレフタレートを用いて形成される。
【0073】
この保護樹脂モールド部材8に使用されるポリアミド又はポリエチレンテレフタレートは、止水樹脂モールド部材7と比べて、高い耐熱性と高い強度を有する。従って一体となった止水樹脂モールド部材7と保護樹脂モールド部材8、つまり分岐部材11は、高い防水性と高い耐熱性、そして高い強度を有する。
【0074】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るワイヤハーネス1は、分岐部材11が高い防水性を有する止水樹脂モールド部材7と、高い耐熱性と高い強度を有する保護樹脂モールド部材8により構成されている。従ってワイヤハーネス1は、耐熱性と強度を備えつつ、シース6が露出する側からの液体などの侵入、一対の第1電線20が延出される側からの液体などの侵入、及び一対の第2電線30が延出される側からの液体などの侵入を抑制することが可能となる。特に、ワイヤハーネス1は、車両9の外側となるタイヤハウス93及びタイヤハウス94に配置されるので、高温の環境下に曝されると共に水などの液体に曝される可能性がある。しかしワイヤハーネス1は、優れた耐熱性、強度及び防水性を有しているので、使用に適している。
【0075】
ワイヤハーネス1は、分岐部材11を目的別に止水樹脂モールド部材7と保護樹脂モールド部材8に分けているので、この構成を採用しない場合と比べて、材料や組成の選択の幅が広くなる。
【0076】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号などを援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号などは、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材などに限定するものではない。
【0077】
[1]導体線(21,31)が絶縁性を有する被覆部材(22,32,33)により被覆された複数の電線(20,30)、及び前記複数の電線(20,30)の外周に形成され長手方向の一部を覆うシース(6)を有するケーブル(10)と、前記複数の電線(20,30)を延出させた前記シース(6)の端部、及び前記端部から延出された前記複数の電線(20,30)の長手方向の一部を覆う第1の樹脂モールド部材(7)と、前記第1の樹脂モールド部材(7)より高い耐熱性を有し、前記第1の樹脂モールド部材(7)を覆うと共に、前記第1の樹脂モールド部材(7)から延出する前記シース(6)及び前記複数の電線(20,30)の一部を覆う第2の樹脂モールド部材(8)と、を備えたワイヤハーネス(1)。
【0078】
[2]前記第1の樹脂モールド部材(7)は、熱可塑性ポリウレタン及び酸変性ポリオレフィンのポリマアロイからなり、
前記第2の樹脂モールド部材(8)は、ポリアミド又はポリエチレンテレフタレートからなる、
[1]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0079】
[3]前記第1の樹脂モールド部材(7)は、ポリマアロイ合計100質量部のうち、熱可塑性ポリウレタンを30~70質量部、酸変性ポリオレフィンを70~30質量部含む、
[2]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0080】
[4]前記複数の電線(20,30)は、前記第1の樹脂モールド部材(7)によって覆われる部分が直線状であり、前記第2の樹脂モールド部材(8)から延出する部分の延出方向が異なる、
[1]乃至[3]のいずれか1項に記載のワイヤハーネス(1)。
【0081】
[5]前記複数の電線(20,30)は、信号線及び電源線を含む、
[1]乃至[4]のいずれか1項に記載のワイヤハーネス(1)。
【0082】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0083】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、止水樹脂モールド部材7及び保護樹脂モールド部材8が円柱形状であったが他の形状であってもよいし、それぞれが異なる形状であってもよい。
【0084】
また、例えば、上記実施の形態では、信号線である一対の第1電線20が保護樹脂モールド部材8の端面81から延出され、電源線である一対の第2電線30が外周面82から延出されたが逆であってもよい。
【0085】
また、例えば、上記実施の形態では、一対の第2電線30が内部シース33によって保護されていたが一対の第2電線30が内部シースによって保護されてもよいし、分岐部材11から延出する全ての電線に内部シースが設けられてもよい。
【0086】
また、例えば、上記実施の形態では、信号線としては、ABSセンサ96と接続される一対の第1電線20のみであったがタイヤの空気圧を検出するセンサなどと接続する複数の電線を保護樹脂モールド部材8から分岐させる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…ワイヤハーネス、6…シース、7…止水樹脂モールド部材、8…保護樹脂モールド部材、10…ケーブル、11…分岐部材、12…ブラケット、20…第1電線、30…第2電線、21…第1導体線、31…第2導体線、22…第1絶縁体、32…第2絶縁体、33…内部シース
図1
図2
図3
図4