(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】潜像印刷物、その作成方法及びその作成用ソフトウェア
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20230801BHJP
G07D 7/005 20160101ALN20230801BHJP
【FI】
B41M3/14
G07D7/005
(21)【出願番号】P 2022109399
(22)【出願日】2022-07-07
【審査請求日】2023-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】木内 正人
(72)【発明者】
【氏名】溝上 潤
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 一矢
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特許第6976527(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0225362(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0257977(US,A1)
【文献】特開2019-147245(JP,A)
【文献】特開2016-210146(JP,A)
【文献】特開2002-254790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00-3/18
G07D 7/00-7/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、
少なくとも2色の色成分を含むカラーの潜像模様を備えた印刷模様を有し、
前記潜像模様は、少なくとも第1の色成分模様と
前記第1の色成分とは異なる色の第2の色成分模様とを有し、
前記印刷模様には、前記第1の色成分模様に対応して形成された第1の潜像画線、前記第2の色成分模様に対応して形成された第2の潜像画線のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットが所定間隔で配置されており、
前記第1の潜像画線と前記第2の潜像画線は、前記ユニット内において面積率が等しく、かつ、配置される角度及び/又は形状が相互に異な
り、
前記潜像模様は、近見視力で観察した場合に不可視であり、読取装置を介すると、少なくとも前記第1の潜像画線と前記第2の潜像画線が異なる色で着色されて可視化されることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項2】
前記第1の潜像画線と前記第2の潜像画線とは同一色であることを特徴とする請求項1に記載の潜像印刷物。
【請求項3】
前記印刷模様にはさらに可視模様が形成され、
前記可視模様は、それぞれの前記ユニット内において、前記第1の潜像画線又は前記第2の潜像画線が形成されていない領域に、前記可視模様の階調濃度に対応した可視模様形成領域により形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の潜像印刷物。
【請求項4】
潜像印刷物の作成方法であって、
潜像模様の基模様を取得するステップと、
前記基模様を少なくとも第1の色成分と第2の色成分とに色分解を行い、第1の色成分模様データと第2の色成分模様データとを生成するステップと、
前記第1の色成分模様データと前記第2の色成分模様データとに誤差拡散ディザを行い、2階調化した第1の色成分階調模様データと第2の色成分階調模様データとを生成するステップと、
前記第1の色成分階調模様データを前記第1の色成分で着色し、前記第2の色成分階調模様データを前記第2の色成分で着色して合成し、疑似カラー模様データを生成するステップと、
前記疑似カラー模様データに対し、前記第1の色成分を第1の潜像画線に置き換え、前記第2の色成分を第2の潜像画線に置き換えて、潜像模様データを生成するステップと、
を備え、
前記第1の潜像画線、前記第2の潜像画線のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットが所定間隔で配置し、
前記第1の潜像画線と前記第2の潜像画線は、前記ユニット内において面積率が等しく、かつ、配置される角度及び/又は形状が相互に異なることを特徴とする潜像印刷物の作成方法。
【請求項5】
前記第1の潜像画線と前記第2の潜像画線とは同一色であることを特徴とする請求項4に記載の潜像印刷物の作成方法。
【請求項6】
前記第1の色成分模様データと前記第2の色成分模様データとを生成するステップでは、さらに、前記潜像模様の基模様を、前記第1の色成分、前記第2の色成分と異なり、前記潜像模様の背景部の色と同一の第3の色成分に色分解を行い、第3の色成分模様データを生成し、
前記第1の色成分階調模様データと前記第2の色成分階調模様データとを生成するステップでは、さらに、前記第3の色成分模様データに誤差拡散ディザを行い、2階調化した第3の色成分階調模様データを生成し、
前記疑似カラー模様データを生成するステップでは、さらに、前記第3の色成分階調模様データを前記第3の色成分で着色して前記第1の色成分階調模様データ、前記第2の色成分階調模様データと合成して前記疑似カラー模様データを生成し、
前記潜像模様データを生成するステップでは、さらに、前記疑似カラー模様データに対し、前記第3の色成分を第3の潜像画線に置き換えて前記潜像模様データを生成し、
前記第1の潜像画線、前記第2の潜像画線、前記第3の潜像画線のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットが所定間隔で配置し、
前記第1の潜像画線と前記第2の潜像画線と前記第3の潜像画線は、前記ユニット内において面積率が等しく、かつ、配置される角度又は形状が相互に異なることを特徴とする
請求項4に記載の潜像印刷物の作成方法。
【請求項7】
前記第1の潜像画線、前記第2の潜像画線及び前記第3の潜像画線は同一色であることを特徴とする請求項6に記載の潜像印刷物の作成方法。
【請求項8】
可視模様を形成するステップをさらに備え、
前記可視模様を形成するステップは、
前記可視模様の基模様を取得するステップと、
前記ユニット内において、前記第1の潜像画線又は前記第2の潜像画線が形成されていない部分に、前記可視模様の階調濃度に対応する濃度を有する可視模様形成領域を形成するステップと、
を備えることを特徴とする請求項5又は7に記載の潜像印刷物の作成方法。
【請求項9】
潜像印刷物の作成用ソフトウェアであって、
請求項4又は6に記載の潜像印刷物の作成方法をコンピュータに実行させることを特徴とする潜像印刷物の作成用ソフトウェア。
【請求項10】
潜像印刷物の作成用ソフトウェアであって、
請求項5又は7に記載の潜像印刷物の作成方法をコンピュータに実行させることを特徴とする潜像印刷物の作成用ソフトウェア。
【請求項11】
潜像印刷物の作成用ソフトウェアであって、
請求項8に記載の潜像印刷物の作成方法をコンピュータに実行させることを特徴とする潜像印刷物の作成用ソフトウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、パスポート、有価証券、証明書、重要書類等の偽造や変造の防止が求められるセキュリティ印刷物の分野において、あらゆる印刷機やプリンタによる出力が可能な潜像印刷物、その作成方法及びその作成用ソフトウェアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、有価証券、証明書、重要書類等のセキュリティ印刷物では、偽造や変造を防ぐことが重要である。これらの偽造防止策の一つに、網点や画線の配置、多層構造、特殊材料等によって印刷模様に手段と作用を加えることで、文字や図形等を目視では認識できないように潜像化させた印刷物(以下「潜像印刷物」という。)がある。その代表的なものとして、印刷物を複写機でコピーすると複写物上に潜像を発現させるコピー牽制画線を施した潜像印刷物がある。このような印刷物は、証明書や重要書類等において古くから採用されており、複写機で再現が容易な網点から成る潜像部と、複写機で再現が困難な網点から成る背景部で構成され、潜像部と背景部の濃度を一様とすることで、潜像を秘匿化している(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、本出願人も、連続階調の潜像を有するコピー牽制画線の潜像印刷物を出願している。これは、複写機によって再現される大きさの第1の要素を複数配置し、その面積率の大小で連続階調を形成する潜像部と、複写機によって再現されないハーフトーン濃度の第2の要素で形成する背景部を組み合わせ、単位面積当たりの第1の要素と第2の要素を合計した面積率が、印刷模様の全てにおいて同一となるように構成された潜像印刷物である(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
上述のようなコピー牽制効果を目的とした潜像印刷物は、いずれも、複写機でコピーした場合、複写物上に目視では認識できなかった潜像を発現させることを特徴としている。したがって、潜像部の網点や画線は、複写機で再現される形状や大きさで形成されており、背景部の網点や画線は、複写機で再現されない、もしくは再現が困難な形状や大きさで形成されている。すなわち、潜像部と背景部では網点や画線が異なっている。
【0005】
一方、印刷ではドットゲインという現象が発生する。非特許文献1によればドットゲインとは、原版又は刷版に形成された網点の直径よりも、印刷で紙に刷られたインキの網点の直径の方が大きくなる現象であり、刷版の網点部分に付着したインキが、刷版から紙あるいはブランケットへ転写される時にかかる圧力によって、圧し潰され広がることで起きるとされている。また、この現象は、インキの膜厚は網点の大きさに関係せず一定の厚みを持つため、印圧が同じであれば網点が広がる幅も同じになる。すなわち、網点が小さいほど、ドットゲインによって直径が大きくなる比率が高くなる傾向にある。
【0006】
例えば、特許文献1及び2に記載のような潜像印刷物で、潜像を秘匿化するために異なる大きさの網点同士を印刷物上で一様の濃度とするには、ドットゲインを考慮して、各々の網点の面積率を原版で変えておく必要がある。例えば、潜像部の網点(大)と背景部の網点(小)の印刷物上での面積率を20%に統一するならば、網点(大)の原版における面積率を18%、網点(小)の原版における面積率を15%といったように、印刷前の原版において印刷結果の面積率を見越した補正をしておくのが一般的な手法である。
【0007】
また、ドットゲインは印刷機に限られた現象ではなく、メカニズムは違うがプリンタによる原版の出力においても発生する。特にプリンタの場合は、プリンタの印刷方式や画質等の特性に応じて原版の設計値を補正する、いわゆるキャリブレーションと呼ばれる作業が必要となる。なお、本出願人は、このキャリブレーションの手法として、特許文献3に記載のような画線構成の潜像印刷物を対象に、潜像のテストチャート画像を予めプリンタにより出力し、その出力結果をフィードバックすることで、プリンタの特性に合わせたプロファイルを作成して適正な原版の設計値を導く方法と、その方法を利用した発給システムを出願している(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
その一方で証明書等は、近年の社会的な利便性向上のため、例えば、全国のコンビニエンスストアに設置されたマルチコピー機を利用する出力サービスが展開されている。このようなサービスの場合、上述のようにプリンタの特性に合わせたプロファイルを作成する方法は、全国で5万5千店舗(2009 年12月現在)を超えるコンビニエンスストアのマルチコピー機の全台を対象とするのは現実的とはいえない。そのため、あらゆる印刷機やプリンタによる出力において、その出力結果をフィードバックする必要がない潜像印刷物が求められていた。
【0009】
また、特許文献1、2及び3に記載のようなコピー牽制効果を目的とした潜像印刷物は、複写物上に潜像を発現させるものであるため、複写物の真偽判定、すなわちそれが原本ではないことを判定するのは容易である。しかしながら、原本に対する真偽判定として潜像を確認するには、複写機で潜像印刷物をコピーして、潜像を発現させる作業が必要となる。これは、市役所の窓口のように複写機が設置されている環境に依存する方法であり、駅や空港等の公共交通機関を利用した移動時や、施設等の入場時には、簡易的に潜像を確認できないという不便さがあった。
【0010】
本出願人は、前述した不便を解消するために、特許文献5に記載された印刷物の読取検査装置を出願している。これは、潜像印刷物を撮影して画像を取得し、その画像から潜像模様の特異点を抽出する処理を行うことで、潜像を可視化して画面表示するための読取検査装置である。
【0011】
さらに本出願人は、特許文献6に示す潜像印刷物を出願している。この潜像印刷物は、第1の画線を有する第1のユニットを複数配列した潜像部と、第2の画線を有する第2のユニットを複数配列した背景部とを備え、第1の画線、第2の画線とは同色であり、かつ、第1の画線と第2の画線とは形状及び大きさが同一で、配置される角度が90度の範囲内で異なるものである。このような構成によれば、印刷条件が変化した場合にも、網点や画線の面積率の増加量(ドットゲイン量)も連動して変化するため、印刷物に形成された潜像模様が目視により視認されるという顕像化を防ぐことができる。
【0012】
しかしながら、この潜像印刷物を構成する基材と異なる第1の画線及び第2の画線の色は同一色に限られており、その結果、読取検査装置に画面表示される潜像模様は、単色(モノクロ)に限定されていた。このため、顔画像や風景画をはじめとするフルカラーや階調変化を伴う様々な美麗な画像は表現することが困難であった。特に、フルカラーの顔画像等をパスポートや身分証明書に潜像模様として適用する場合、読取検査装置により潜像模様をカラーで可視化し、それによる高度な真偽判別や個人認証を行うことはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特公昭58-47708号公報
【文献】特許第5215654号公報
【文献】特開2019-031000号公報
【文献】特開2019-062453号公報
【文献】特許第6860151号公報
【文献】特許第6976527号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】印刷学会出版部「印刷用語ハンドブック・基本編」(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述したように、従来の潜像印刷物は、読取検査装置に画面表示される潜像模様が単色の模様に限定され、顔模様や風景画等の様々な美麗な模様の表現が困難であるとともに、パスポートや身分証明書の顔模様等による高度な真偽判別や個人認証ができないという課題があった。
【0016】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、印刷条件が変化した場合にも潜像模様の秘匿化が確保されるとともに、フルカラーの模様表現が可能であり、それによりパスポートや身分証明書の顔模様等による高度な真偽判別や個人認証も可能とする潜像印刷物、その作成方法及びその作成用ソフトウェアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に潜像模様を形成するための印刷領域を有し、潜像模様は、少なくとも第1の色成分模様と第2の色成分模様とを有し、印刷領域には、第1の色成分模様に対応して形成された第1の潜像画線、第2の色成分模様に対応して形成された第2の潜像画線のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットが所定間隔で配置されており、第1の潜像画線と第2の潜像画線は、ユニット内において面積率が等しく、かつ、配置される角度及び/又は形状が相互に異なることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の潜像印刷物は、第1の潜像画線像と第2の潜像画線とが同一色であってよい。
【0019】
また、本発明の潜像印刷物は、印刷領域にはさらに可視模様が形成され、可視模様は、それぞれのユニット内において、第1の潜像画線又は第2の潜像画線が形成されていない領域に設けられた可視模様形成領域に形成され、可視模様形成領域の濃度が可視模様の階調濃度に対応するものであってよい。
【0020】
本発明の潜像印刷物の作成方法は、潜像模様の基模様を取得するステップと、基模様を少なくとも第1の色成分と第2の色成分とに色分解を行い、第1の色成分模様データと第2の色成分模様データとを生成するステップと、第1の色成分模様データと第2の色成分模様データとに誤差拡散ディザを行い、2階調化した第1の色成分階調模様データと第2の色成分階調模様データとを生成するステップと、第1の色成分階調模様データを第1の色成分で着色し、第2の色成分階調模様データを前記第2の色成分で着色して合成し、疑似カラー模様データを生成するステップと、疑似カラー模様データに対し、第1の色成分を第1の潜像画線に置き換え、第2の色成分を第2の潜像画線に置き換えて、潜像模様データを生成するステップと、を備え、第1の潜像画線及び第2の潜像画線のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットが所定間隔で配置され、第1の潜像画線と第2の潜像画線は、ユニット内において面積率が等しく、かつ、配置される角度及び/又は形状が相互に異なることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の潜像印刷物の作成方法において、第1の潜像画線と第2の潜像画線とは同一色であってよい。
【0022】
また、本発明の潜像印刷物の作成方法において、第1の色成分模様データと第2の色成分模様データとを生成するステップでは、さらに、潜像模様の基模様を、第1の色成分、第2の色成分と異なり、潜像模様の背景部の色と同一の第3の色成分に色分解を行い、第3の色成分模様データを生成し、第1の色成分階調模様データと第2の色成分階調模様データとを生成するステップでは、さらに、第3の色成分模様データに誤差拡散ディザを行い、2階調化した第3の色成分階調模様データを生成し、疑似カラー模様データを生成するステップでは、さらに、第3の色成分階調模様データを第3の色成分で着色して第1の色成分階調模様データ、第2の色成分階調模様データと合成して疑似カラー模様データを生成し、潜像模様データを生成するステップでは、さらに、疑似カラー模様データに対し、第3の色成分を第3の潜像画線に置き換えて潜像模様データを生成し、第1の潜像画線、第2の潜像画線及び第3の潜像画線のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットが所定間隔で配置され、第1の潜像画線と第2の潜像画線と第3の潜像画線は、ユニット内において面積率が等しく、かつ、配置される角度及び/又は形状が相互に異なるものであってよい。
【0023】
また、本発明の潜像印刷物の作成方法は、可視模様を形成するステップをさらに備え、可視模様を形成するステップは、可視模様の基模様を取得するステップと、ユニット内において、第1の潜像画線又は第2の潜像画線が形成されていない部分に、可視模様の階調濃度に対応する濃度を有する可視模様形成領域を形成するステップと、を備えるものであってよい。
【0024】
本発明の潜像印刷物の作成用ソフトウェアは、前述したいずれかの潜像印刷物の作成方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の潜像印刷物、その作成方法及びその作成用ソフトウェアによれば、印刷条件が変化した場合にも潜像模様の秘匿化が確保されるとともに、フルカラーの模様を実現することで、美麗な模様表現が可能であり、それによりパスポートや身分証明書の顔模様等による高度な真偽判別や個人認証が可能である。
【0026】
また、本発明の潜像印刷物、その作成方法及びその作成用ソフトウェアによれば、可視模様を備えることで、更に潜像模様の秘匿化を向上させることができ、デザイン面においても違和感のない印刷模様が形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施の形態による潜像印刷物の外観及びその潜像画線を一部拡大したものを示す説明図。
【
図2】潜像読取装置を用いて、同潜像印刷物に形成された潜像模様を可視化した状態を示す斜視図。
【
図3】同潜像印刷物の潜像画線を含む第1、第2、第3のユニットの構成を示す説明図。
【
図4】同潜像印刷物における第1のユニットに含まれる潜像画線の例を示す説明図。
【
図5】同潜像印刷物における第1のユニット内に設けられた階調濃度を有する可視模様を形成する可視模様形成領域の濃度を示す説明図。
【
図6】同潜像印刷物における第2のユニット内に設けられた階調濃度を有する可視模様を形成する可視模様形成領域の濃度を示す説明図。
【
図7】同潜像印刷物における第3のユニット内に設けられた階調濃度を有する可視模様を形成する可視模様形成領域の濃度を示す説明図。
【
図8】同潜像印刷物における第1のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に均一に設けることを示した説明図。
【
図9】同潜像印刷物における第2のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に均一に設けることを示した説明図。
【
図10】同潜像印刷物における第3のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に均一に設けることを示した説明図。
【
図11】同潜像印刷物における第1のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に均一に設けることを示した説明図。
【
図12】同潜像印刷物における第2のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に均一に設けることを示した説明図。
【
図13】同潜像印刷物における第3のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に均一に設けることを示した説明図。
【
図14】同潜像印刷物における第1のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に設けた状態を画素単位で表示したことを示す説明図。
【
図15】同潜像印刷物における第2のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に設けた状態を画素単位で表示したことを示す説明図。
【
図16】同潜像印刷物における第3のユニット内において、可視模様の階調濃度に応じた濃度を可視模様の形成領域に設けた状態を画素単位で表示したことを示す説明図。
【
図17】同潜像印刷物におい潜像画線の寸法が異なる場合にそれぞれ近見視力で観察した状態を示す説明図。
【
図18】同潜像印刷物において第1、第2、第3のユニットの形状の例を示す説明図。
【
図19】同潜像印刷物において第1、第2、第3のユニットをマトリクス状に配列した例を示す説明図。
【
図20】同潜像印刷物において第1、第2、第3のユニットをレンガ状に配列した例を示す説明図。
【
図21】同潜像印刷物において第1、第2、第3のユニットをレンガ状に配列した他の例を示す説明図。
【
図22】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローと可視模様作成フローとを示すフローチャート。
【
図23】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ1において、基模様データを色分解する処理を示す説明図。
【
図24】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ2において、色分解された基模様データに含まれる橙色成分模様データ、黒色成分模様データを抽出し、画像解像度を60dpiに変換し、誤差拡散ディザで2階調化を行う処理を示す説明図。
【
図25】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ3において、橙色成分模様データ、黒色成分模様データにそれぞれ橙色、黒色を着色する処理を示す説明図。
【
図26】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ3において、橙色成分模様データと黒色成分模様データに対して画像解像度を600dpiに変換し、合成して疑似カラー模様データを得る処理を示す説明図。
【
図27】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ4における処理で用いる第1のユニット、第2のユニット、第3のユニットを示す説明図。
【
図28】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ4における処理で用いる第1のユニット、第2のユニット、第3のユニットの画素数を示す説明図。
【
図29】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ4における処理で用いる第1のユニット、第2のユニット、第3のユニットが、潜像模様を構成する潜像画線と可視模様を構成する可視模様形成領域とを有する構成を示す説明図。
【
図30】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ4における処理で、疑似カラー模様データにおける白色成分に第1のユニットを適用させた模様データ及びその一部を拡大して示す説明図。
【
図31】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ4における処理で、疑似カラー模様データにおける白色成分に第1のユニットを適用させ、黒色成分に第2のユニットを適用させた模様データ及びその一部を拡大して示す説明図。
【
図32】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ4における処理で、疑似カラー模様データにおける白色成分に第1のユニットを適用させ、黒色成分に第2のユニットを適用させ、橙色成分に第3のユニットを適用させた模様データ及びその一部を拡大して示す説明図。
【
図33】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ5において、潜像模様を構成する部分と可視模様を構成する部分とを有する臨界値配列模様を示す説明図。
【
図34】同潜像印刷物の作成方法における潜像模様作成フローのステップ5において、可視模様の階調濃度を適用した臨界値配列模様を示す説明図。
【
図35】同潜像印刷物は、家庭用、事務用、生産用の印刷機のいずれにおいても印刷が可能であることを示す説明図。
【
図36】同潜像印刷物は、臨界値配列模様がいかなる色であっても隠蔽性に優れた潜像模様の形成が可能であることを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明するが、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0029】
以下に、本発明の一実施の形態による潜像印刷物(1)について説明する。本実施の形態による潜像印刷物(1)は、目視で確認すると一見して単調な画線が一様に視認されるか、あるいは、一見すると可視模様が視認されるが、潜像模様を視認することはできず、スマートフォン等の潜像読取装置(21)で潜像印刷物(1)を読み取ると潜像模様(7)が出現するものである。
【0030】
(潜像印刷物)
図1に、本発明の一実施の形態による潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に潜像模様(7)を施した印刷模様(3)を有する。基材(2)は、印刷模様(3)を形成することができれば、紙、フィルム、紙をフィルムでコーティングした複合基材等が利用可能である。印刷模様(3)は、目視において模様として認識できるように、基材(2)とは異なる色を有している。
【0031】
また、
図1の拡大図に示すように、印刷模様(3)は後述にて説明する画線構成の最小単位である第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)が複数配列して形成される。本実施の形態は、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)の3つのユニットで構成している例で説明するが、ユニットの種類は3つに限定されず、2種類あるいは4種類以上のユニットで構成してもよい。
【0032】
図2に、本実施の形態による潜像印刷物(1)を、例えば、スマートフォンに潜像模様(7)を可視化するアプリケーションをインストールした潜像読取装置(21)を使用して、観察した状態を示す。
図2に示すように、印刷模様(3)は、潜像読取装置(21)のカメラ機能とアプリケーションによって潜像模様(7)として「鳳凰」が可視化されて、画面(22)に表示される。なお、潜像模様(7)は、記号、数字、イラスト、風景、顔模様等、階調の有無を含め、あらゆる模様を用いることができる。
【0033】
図3に、本実施の形態による潜像印刷物(1)における画線構成を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)の少なくとも一部に潜像模様(7)を備えた印刷模様(3)を有し、印刷模様(3)は、以下に示す複数のユニットが所定間隔で規則的に配置されて成る。
【0034】
(潜像画線)
本発明は、ユニットに潜像画線のみを有する構成であってよい。
図3(a)に示された第1のユニット(4)は、潜像模様の構成要素としての潜像画線(31、32、33))が左上から右下への斜め線で形成され、
図3(b)に示された第2のユニット(5)は、潜像画線(32)が右上から左下への斜め線で形成され、
図3(c)に示された第3のユニット(6)は、潜像画線(33)が左中央から右中央への横線で形成されている。
【0035】
各ユニット(4、5、6)内に配置されている潜像画線(31)は、ユニット内における面積率が全て等しい。
図3においては、
図3(a)と
図3(b)とは、二つともユニット(4、5)の一端から対角線の一端までの斜めの潜像画線(31、32)が配置されているため、長さ及び画線幅(V1、V2)はいずれも等しいことから、面積率は等しい。また、
図3(c)の第3の潜像画線(33)については、第3のユニット(6)の横(水平)方向に配置されているため、長さは第1のユニット(4)の第1の潜像画線(31)及び第2のユニット(5)の第2の潜像画線(32)よりも短い。ただし、画線幅(V3)については、第1の潜像画線(31)の画線幅(V1)及び第2の潜像画線(32)の画線幅(V2)よりも太くなっており、面積率は、第3の潜像画線(33)も第1の潜像画線(31)及び第2の潜像画線(32)と等しくなっている。したがって、各潜像画線の長さ及び画線幅とを調整することにより、全てのユニットにおける潜像画線の面積率を等しく形成することができる。
【0036】
潜像画線の面積率については、
図3では直線を対象として長さと画線幅による調整により、面積率を等しくする方法を説明したが、潜像画線は、直線のみに限定されるものではなく、後述するように、例えば「◎」、「〇」及び「×」のように形状を異ならせても良いため、大きさ及び画線幅を異ならせて面積率を等しくすることが可能である。
【0037】
図3においては、潜像画線の長さ及び画線幅が異なっていても面積率が等しい例で説明したが、全ての潜像画線を同じ形状及び大きさとし、配置角度のみ異ならせて各潜像画線(31、32、33)を形成すれば、面積率を全て等しくすることが可能である。
【0038】
このように各ユニット内における潜像画線の面積率を等しくすることで、印刷模様(3)は濃度が一定となるため、目視で確認すると一見して単調な画線模様が視認され、潜像読取装置(21)において潜像模様(7)が可視化される潜像印刷物(1)となる。
【0039】
本実施の形態においては、前述のとおり、3つのユニット(4、5、6)及び各ユニットに配置される3つの潜像画線(31、32、33)により潜像模様(7)が形成されている例で説明するが、本発明による潜像模様(7)は、後述する潜像読取装置(21)によって、カラー模様として確認可能とするため、少なくとも2色の色成分を有すればよいことから、異なる色成分にそれぞれ対応した2つの潜像画線を備えていればよい。
【0040】
この色成分に対応した潜像画線により形成される色成分模様は、あくまでも潜像模様(7)を形成する際の模様データ上及び潜像印刷物(1)から潜像模様(7)を読み取る際の潜像読取装置(21)内での模様データとしては存在するが、潜像印刷物(1)自体を目視で確認してもその存在を認識することはできない。
【0041】
以上のとおり、本発明における潜像模様(7)は、少なくとも2つの色成分模様(第1の色成分模様及び第2の色成分模様)を有しており、それぞれの色成分模様を構成するため、色成分模様に対応した少なくとも2つの潜像画線(第1の潜像画線及び第2の潜像画線)から成る。
【0042】
なお、本発明における「色成分模様に対応した潜像画線」とは、例えば、形成する潜像模様(7)を色分解して、橙色と黒色とした場合、橙色を表す第1の色成分模様を形成するための潜像画線を第1の潜像画線とし、黒色を表す第2の色成分模様を形成するための潜像画線を第2の潜像画線とするものである。
【0043】
カラー模様として潜像模様(7)を形成するための最低色数である2色を例に説明したが、3色以上の場合についても同様に、形成する潜像模様を色分解した色成分模様に対応した潜像画線により潜像模様(7)は形成することとなる。3色以上とした場合には、フルカラー模様として潜像模様(7)を形成することが可能となる。この色成分模様については、潜像印刷物の作成方法において詳細を後述する。
【0044】
また、本発明は、ユニットに潜像画線(31、32、33)に加えて、可視模様を形成する可視模様形成領域(41、42、43)を有していてもよい。
図3(d)に示された第1のユニット(4)は、さらに潜像画線(31)より下側に、可視模様を形成するための画線面積が広がる可視模様形成領域(41)を有し、
図3(e)に示された第2のユニット(5)は、さらに潜像画線(32)より下側に、可視模様を形成するための画線面積が広がる可視模様形成領域(42)を有し、
図3(f)に示された第3のユニット(6)は、さらに潜像画線(33)より下側に可視模様を形成するための画線面積が広がる可視模様形成領域(43)を有している。なお、可視模様は、可視模様形成領域(41、42、43)だけではなく、潜像画線(31、32、33)の少なくとも一部を異なる色に置換して、置換した色を有する可視模様を形成してもよく、さらには、一本の潜像画線(31、32、33)の中で、一部を異なる色に置換して、可視模様を形成したり、これらを組み合わせたりしてもよい。以下、一例として、可視模様を、可視模様形成領域(41、42、43)で形成する構成として説明する。
【0045】
第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)は、同一の形状と大きさを有し、縦横の寸法(u)は、0.18mmから0.50mmの範囲内にある。縦横の寸法(u)が0.50mmを超えると視認されやすく、潜像模様(7)の秘匿性が低くなり、0.18mmより小さいとプリンタ等による潜像画線の形成が困難となる。ただし、このユニットの寸法については、現状のプリンタの性能を考慮したものであり、将来に亘り、プリンタの性能が向上するに伴い、この範囲も適宜異なってくることは言うまでもなく、また、確認者の視力や視認角度による条件の差によっても異なるものではあるが、あくまでも例としての記載であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0046】
また、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)にそれぞれ設けられた潜像画線(31、32、33)の画線幅(V1、V2、V3)は、ユニットの寸法(u)の1/5~1/10の範囲内が望ましい。例えば、ユニットの寸法(u)が0.423mmの場合、潜像画線(31、32、33)の画線幅(V1、V2、V3)は、0.040~0.085mmとなる。潜像画線(31、32、33)の画線幅(V1、V2、V3)がユニットの寸法(u)の1/5より太い場合は、潜像模様(7)が視認されやすくなる。潜像画線(31、32、33)の画線幅(V1、V2、V3)がユニットの寸法(u)の1/10より細い場合は、潜像画線(31、32、33)を読み取って潜像模様(7)を再現することが困難となる。
【0047】
図4(a)に示された第1のユニット(4)の例では、潜像画線(31)の両端部分がユニット内の端まで形成されている。
図4(b)に示された第1のユニット(4)の例では、潜像画線(31)がユニット内の一方の端の途中から他方の端の途中まで配置されており、端までは形成されていない。このように、ユニット内において潜像画線がユニットの端まで形成されていてもよく、形成されていなくてもよい。
【0048】
(可視模様形成領域)
本発明における潜像印刷物(1)は、前述したように、目視で確認した際に視認できる可視模様を形成することができる。
図5(a)に、第1のユニット(4)内において、潜像画線(31)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(41)に、形成する可視模様の任意の階調濃度に対応した濃度を形成した状態を示す。
【0049】
例えば、
図5(b)は、可視模様形成領域(41)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(31)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視模様形成領域(41)は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)のみが形成される。なお、前述した可視模様形成領域(31)の濃度が0%であるとき、トーンカーブで変換される濃度10%の数値は、あくまで一例であり、ユニットに潜像画線(31)のみ形成可能であれば、これに限定されない。
【0050】
図5(c)に、可視模様形成領域(41)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)に加えて、14%に相当する可視要素が可視模様形成領域(41)に形成される。
【0051】
また、
図5(d)に、可視模様形成領域(41)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)に加えて、28%に相当する可視要素が可視模様形成領域(41)に形成される。
【0052】
なお、
図5(c)における可視模様形成領域(31)の濃度が50%であるときにトーンカーブで変換される濃度24%の数値、及び
図5(d)における可視模様形成領域(31)の濃度が100%であるときにトーンカーブで変換される濃度38%の数値は、あくまで一例であり、ユニットにおいて潜像画線(31)及び可視模様形成領域(41)に所望する濃度の可視模様を形成できればこれに限定されない。本発明における以降の説明についても同様である。
【0053】
前述と同様に、
図6(a)に、第2のユニット(5)内において、潜像画線(32)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(42)に、形成する可視模様の任意の階調濃度に対応した濃度を形成した状態を示す。
【0054】
図6(b)に、可視模様形成領域(42)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(32)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視模様形成領域(42)は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、10%に相当する潜像画線(32)のみが形成される。
【0055】
また、
図6(c)に、可視模様形成領域(42)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(32)に加えて、14%に相当する可視要素が可視模様形成領域(42)に形成される。
【0056】
次に、
図6(d)に、可視模様形成領域(42)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(32)に加えて、28%に相当する可視要素が可視模様形成領域(42)に形成される。
【0057】
さらに、
図7(a)に、第3のユニット(6)内において、潜像画線(33)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(43)に、形成する可視模様の任意の階調濃度に対応した濃度を形成した状態を示す。
【0058】
図7(b)に、可視模様形成領域(43)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(33)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視模様形成領域(43)は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、10%に相当する潜像画線33のみが形成される。
【0059】
また、
図7(c)に、可視模様形成領域(43)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(33)に加えて、14%に相当する可視要素が可視模様形成領域(43)に形成される。
【0060】
次に、
図7(d)に、可視模様形成領域(43)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(33)に加えて、28%に相当する可視要素が可視模様形成領域(43)に形成される。
【0061】
このように、例えば、第1のユニット(4)において、可視模様の階調濃度の増加に伴って、潜像画線(31)に隣接した可視模様形成領域(41)の画線面積率が増加し可視要素の面積が増加する。なお、前述した例では、潜像画線(31)の下側に可視模様形成領域(41)を設けている。しかし、可視模様形成領域(41)の位置には限定されず、ユニット内であれば、ユニット内における潜像画線が形成されていない領域や、さらには、前述したとおり、可視模様形成領域(41)だけではなく、複数配置した潜像画線(31)のうち、少なくとも一部を異なる色に置換して、置換した色を有する可視模様を形成してもよく、さらには、一本の潜像画線(31)中で、一部を異なる色に置換して、可視模様を形成したり、これらを組み合わせたりしてもよい。
【0062】
図5(a)、
図6(a)、
図7(a)を用いて前述した例では、可視模様形成領域(41、42、43)が潜像画線(31、32、33)を始点として徐々に拡大し、かつ、濃度が徐々に潜像画線(31、32、33)から離れるに従って低下するように階調性を伴って形成されている。これに対し、後述の例では、可視模様形成領域(41、42、43)が潜像画線(31、32、33)を境界として一方の領域又は両方の領域に、可視模様の階調濃度に応じて均一な画線面積率で形成されている。
【0063】
可視模様形成領域(41、42、43)が潜像画線(31、32、33)を境界として2つの領域のうち一方の領域に、可視模様の階調濃度に応じて均一な画線面積率で形成される例を説明する。
【0064】
図8(a)に、第1のユニット(4)内において、潜像画線(31)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(41)に、形成する可視模様の階調濃度に対応した濃度を形成することを示す。
【0065】
図8(b)に、可視模様形成領域(41)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(31)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視要素は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、均一な10%の濃度の潜像画線(31)のみが形成される。
【0066】
また、
図8(c)に、可視模様形成領域(41)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)に加えて、均一な14%の濃度の可視要素が可視模様形成領域(41)に形成される。
【0067】
次に、
図8(d)に、可視模様形成領域(41)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)に加えて、均一な28%の濃度の可視要素が可視模様形成領域(41)に形成される。
【0068】
図9(a)に、第2のユニット(5)内において、潜像画線(32)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(42)に、形成する可視模様の階調濃度に対応した濃度を形成することを示す。
【0069】
図9(b)に、可視模様形成領域(42)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(32)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視要素は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、均一な10%の濃度の潜像画線(32)のみが形成される。
【0070】
また、
図9(c)に、可視模様形成領域(42)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(32)に加えて、均一な14%の濃度の可視要素が可視模様形成領域(42)に形成される。
【0071】
次に、
図9(d)に、可視模様形成領域(42)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(32)に加えて、均一な28%の濃度の可視要素が可視模様形成領域(42)に形成される。
【0072】
図10(a)に、第3のユニット(6)内において、潜像画線(33)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(43)に、形成する可視模様の階調濃度に対応した濃度を形成することを示す。
【0073】
図10(b)に、可視模様形成領域(43)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(33)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視要素は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、均一な10%の濃度の潜像画線(33)のみが形成される。
【0074】
また、
図10(c)に、可視模様形成領域(43)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(33)に加えて、均一な14%の濃度の可視要素が可視模様形成領域(43)に形成される。
【0075】
次に、
図10(d)に、可視模様形成領域(43)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(33)に加えて、均一な28%の濃度の可視要素が可視模様形成領域(43)に形成される。
【0076】
次に、可視模様形成領域(41、42、43)が潜像画線(31、32、33)を境界とした二つの領域に、形成する可視模様の階調濃度に応じて均一な画線面積率で形成される例を説明する。
【0077】
図11(a)に、第1のユニット(4)内において、潜像画線(31)を境界とした二つの可視模様形成領域(41)に、形成する可視模様の階調濃度に対応した濃度を形成することを示す。
【0078】
図11(b)に、可視模様形成領域(41)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(31)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視要素は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、均一な10%の濃度の潜像画線(31)のみが形成される。
【0079】
また、
図11(c)に、可視模様形成領域(41)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)に加えて、均一な14%の濃度の可視要素が二つの可視模様形成領域(41)に形成される。
【0080】
次に、
図11(d)に、可視模様形成領域(41)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)に加えて、均一な28%の濃度の可視要素が二つの可視模様形成領域(41)に形成される。
【0081】
また、
図12(a)から(d)に示すように、第2のユニット(5)に潜像画線(32)を境界として、可視要素が二つの可視模様形成領域(42)に形成される場合及び
図13(a)から(d)に示すように、第3のユニット(6)に潜像画線(33)を境界として、可視要素が二つの可視模様形成領域(43)に形成される場合も同様である。
【0082】
(画素)
ここで、
図14(a)に、10画素×10画素で構成された第1のユニット(4)内において、潜像画線(31)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(41)に、形成する可視模様の階調濃度に対応した濃度を形成した状態を示す。
【0083】
図14(b)に、可視模様形成領域(41)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(31)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視要素は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)のみが形成される。
【0084】
また、
図14(c)に、可視模様形成領域(41)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)に加えて、14%に相当する可視要素が可視模様形成領域(41)に形成される。
【0085】
次に、
図14(d)に、可視模様形成領域(41)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(31)に加えて、28%に相当する可視要素が可視模様形成領域(41)に形成される。
【0086】
図15(a)に、10画素×10画素で構成された第2のユニット(5)内において、潜像画線(32)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(42)に、可視模様の階調濃度に対応した濃度を形成した状態を示す。
【0087】
図15(b)に、可視模様形成領域(42)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(32)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視要素は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、10%に相当する潜像画線(32)のみが形成される。
【0088】
また、
図15(c)に、可視模様形成領域(42)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(32)に加えて、14%に相当する可視要素が可視模様形成領域(42)に形成される。
【0089】
次に、
図15(d)に、可視模様形成領域(42)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(32)に加えて、28%に相当する可視要素が可視模様形成領域(42)に形成される。
【0090】
図16(a)に、10画素×10画素で構成された第3のユニット(6)内において、潜像画線(33)に隣接して可視模様を形成する可視模様形成領域(43)に、形成する可視模様の階調濃度に対応した濃度を形成した状態を示す。
【0091】
図16(b)に、可視模様形成領域(43)の濃度が0%であるときの状態を示す。この場合は、潜像画線(33)のみが形成されており、可視模様を形成するための可視要素は形成されない。具体的には、トーンカーブで濃度10%に変換され、10%に相当する潜像画線(33)のみが形成される。
【0092】
また、
図16(c)に、可視模様形成領域(43)の濃度が50%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度24%に変換され、10%に相当する潜像画線(33)に加えて、14%に相当する可視要素が可視模様形成領域(43)に形成される。
【0093】
次に、
図16(d)に、可視模様形成領域(43)の濃度が100%であるときの状態を示す。具体的には、トーンカーブで濃度38%に変換され、10%に相当する潜像画線(33)に加えて、28%に相当する可視要素が可視模様形成領域(43)に形成される。
【0094】
なお、ユニットを縦横ともに3画素以上で構成することが可能である。しかしながら、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)をプリンタにより出力する場合は、後述するように、プリンタの描画性能を考慮して縦横ともに5画素以上で構成するのが望ましい。この5画素を換算すると、出力解像度が600dpiのプリンタでは、寸法(u)は、約0.21mmとなり、出力解像度が720dpiのプリンタでは、寸法(u)は、約0.18mmとなる。
【0095】
また、同実施の形態による潜像印刷物(1)は、秘匿性の高い潜像模様(7)の形成を意図するものである。このため、人の近見視力において、潜像画線が1つ1つの画線として認識されないことが望ましい。例えば、
図17(a)に示すように、各々のユニットが小さければ、近見視力では潜像画線が認識されずに一様の濃度として観察されるが、
図17(b)に示すように、各々のユニットが大きいと、画線として観察されることとなる。潜像印刷物(1)の観察条件にもよるが、ユニットの縦横の寸法(u)が0.50mmを超えると、近見視力では画線として認識されやすい傾向にある。このことから、寸法(u)は、0.50mm以下であることが望ましい。
【0096】
(ユニット形状)
本実施の形態による潜像印刷物(1)では、ユニットの形状が正方形である場合を例にとり説明する。しかしながら、本発明におけるユニットの形状は、
図18(a)から(c)に示すような縦の寸法(u)と横の寸法(w)とが異なる長方形であってもよく、あるいは
図18(d)から(f)に示すような六角形であってもよい。なお、
図18(a)から(f)に示されたユニットでは、潜像画線(31、32、33)のみが形成され、可視模様形成領域は形成されていない場合を示している。また、ユニット内の潜像画線の端部は、前述したように、ユニットの端まで形成されていてもよく、形成されていなくてもよい。
【0097】
図19、
図20及び
図21のそれぞれに、印刷模様(3)における各々のユニットの配列の例を示す。
図19(a)に示すように、複数のユニットをマトリクス状に隙間なく配置してもよい。
図19(b)に、マトリクス状に配置されたユニットに潜像画線(31、32、33)を形成した状態を示す。また
図20(a)に示すように、複数のユニットを水平方向にレンガ状に隙間なく配置してもよい。この場合は、水平方向の配列に対して垂直方向の位相がずれた状態にある。
図20(b)に、レンガ状に配置されたユニットに潜像画線(31、32、33)を形成した状態を示す。さらに
図21(a)に示すように、複数のユニットを垂直方向にレンガ状に隙間なく配置してもよい。この場合は、垂直方向の配列に対して水平方向の位相がずれた状態にある。
図21(b)に、レンガ状に配置されたユニットに潜像画線(31、32、33)を形成した状態を示す。また、ユニットの形状が
図18(d)から(f)に示すような六角形である場合、複数のユニットをハニカム状に隙間なく配置することができる(図示せず)。
【0098】
(潜像模様作成フロー)
次に、本発明の一実施の形態による潜像印刷物(1)の作成方法について説明する。
図22に、本発明の一実施の形態による潜像印刷物(1)の作成方法における潜像模様作成フロー(ステップ1からステップ4)と、可視模様作成フロー(ステップ5)とを示す。
【0099】
まず、本実施の形態による潜像印刷物(1)の作成方法における潜像模様作成フローについて説明する。
図22及び
図23に示すように、ステップ1として、潜像模様(7)の基模様データ(51)を用意し、図示されないコンピュータ等の装置に入力された基模様データ(51)を色分解する。なお、潜像模様(7)では、フルカラーの階調模様とした。
【0100】
例えば、基模様データ(51)として、ICメモリ等の記憶装置に記憶されたフルカラーの階調模様である、顔模様の24bitRGB模様データ(51)を用意する。本実施の形態では、
図22及び
図23に示すように顔模様データを用いているが、顔模様には限定されず、記号、数字、イラスト、風景等、あらゆる模様を用いることができる。
【0101】
また、本実施の形態では、一例として、基模様データ(51)を特色分解により橙色成分模様データ(61)と黒色成分模様データ(62)とに分解している。しかしながら、特色分解には限定されず、RGB色分解やCMY色分解等、任意の複数の色に分解することができる。
【0102】
図22及び
図24に示すように、ステップ2として、ステップ1で得られた橙色成分模様データ(61)及び黒色成分模様データ(62)を、画像解像度60dpiに変換し、更に誤差拡散ディザにより2階調化した橙色成分階調模様データ(71)と黒色成分階調模様データ(72)とを生成する。これにより、橙色成分階調模様データ(71)と黒色成分階調模様データ(72)は、それぞれ8bitから1bitに変換される。なお、この画像解像度を60dpiに変換する理由は、ステップ4において後述する。また、変換する画像解像度については、比較的粗い解像度に変換できればよく、60dpiには限定されない。
【0103】
本実施の形態では、2階調化した橙色成分階調模様データ(71)と黒色成分階調模様データ(72)とを生成するために誤差拡散ディザを用いているが、これは、
図1又は
図2に示すように、印刷物上に形成されている一様な印刷模様(3)とするために望ましい手段として選択したものであり、色成分階調模様データを作成するための二値化処理が出来ればこれに限定はしない。
【0104】
この二値化の処理については、単純二値化とハーフトーニングがあり、更にハーフトーニングについては、ドット集中型ハーフトーニングとドット分散型ハーフトーニングがある。更にドット集中型ハーフトーニングについては、AMスクリーンや特殊形状のスクリーン等があり、またドット分散型ハーフトーニングについては、パターンディザや本発明で用いた誤差拡散ディザ等がある。なお、近年の技術進歩により、ドット集中型ハーフトーニングとドット分散型ハーフトーニングにおいては、ニューラルネットワーク(機械学習)を用いる方法も可能である。どの手段を用いるかは、作成者の用途により適宜選択すればよい。
【0105】
図22及び
図25に示すように、ステップ3として、橙色成分階調模様データ(71)を橙色に着色し、黒色成分階調模様データ(72)を黒色に着色して、橙着色模様データ(81)及び黒着色模様データ(82)を生成する。また、得られた橙着色模様データ(81)及び黒着色模様データ(82)の画像解像度を600dpiに変換する。また、600dpiに変換して得られた橙着色模様データ(81)及び黒着色模様データ(82)を合成して、
図22及び
図26に示す疑似カラー模様データ(91)を得る。
【0106】
ステップ3では、橙着色模様データ(81)及び黒着色模様データ(82)を600dpiに変換した後に2つのデータを合成しているが、2つのデータを合成した後に600dpiに変換してもよい。また、橙着色模様データ(81)及び黒着色模様データ(82)の画像解像度の変換については、600dpiには限定されず、ステップ2における解像度より細かい解像度であれば任意の解像度でよい。
【0107】
本発明の実施の形態において、ステップ2において画像解像度を一旦、60dpiに変換して2階調化を行い、ステップ3において再度、600dpiに変換する理由は、潜像模様(7)として、
図22及び
図23に示す写真のような滑らかな階調表現の模様から、画素の粗密が荒く、いわゆるモザイク状の多階調化された模様を得るためである。なお、本実施の形態では、疑似的にカラー模様を表現していることから疑似カラー模様データ(91)という。
【0108】
ステップ4として、疑似カラー模様データ(91)における白色成分模様データに第3のユニット(6)を適用する。ここで、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)は、前述したように、潜像画線(31、32、33)と可視模様形成領域(41、42、43)とを有し、臨界値配列模様の1つの単位に相当する。臨界値配列模様とは、印刷用の網点を創出する基本パターンであり、Adobe(登録商標)社のPostScript(登録商標)リファレンスマニュアルにて定義されている連続階調表現方法の一つである。
【0109】
図27に示す、本発明の本実施の形態において用いる3種類の第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)について説明する。
【0110】
本実施の形態では、一例として第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)のサイズをそれぞれ縦10画素×横10画素としているが、サイズや画素数は限定されない。しかしながら、
図28のユニット(4A)に示すように、後述する可視模様の階調を表現する上で、縦3画素×横3画素以上のサイズとすることが望ましく、さらにユニット(4B)に示すように、縦5画素×横5画素以上とすることがより望ましい。
【0111】
また、本実施の形態では、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)の形状は正方形として説明する。しかしながら、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)の形状は、長方形、六角形又はその他の多角形でもよい。例えば、四角形とした場合、縦横マトリックス状に隙間なく配置されてもよく、又はレンガ状に隙間なく配置されてもよい。あるいは、ユニットの形状が六角形である場合、ハニカム状に隙間なく配置されてもよい。
【0112】
図27に示すように、第3のユニット(6)は、潜像模様(7)の構成要素としての潜像画線(33)が左上から右下への斜め線で形成され、第2のユニット(5)は、潜像画線(32)が右上から左下への斜め線で形成され、第1のユニット(4)は、潜像画線(31)が左中央から右中央への横線で形成されている。
【0113】
さらに、第3のユニット(6)は、可視模様を構成する可視模様形成領域(43)として潜像画線(33)より下側に画線面積が広がる領域を有し、第2のユニット(5)は、可視模様形成領域(42)として潜像画線(32)より下側に画線面積が広がる領域を有し、第1のユニット(4)は、可視模様形成領域(41)として潜像画線(31)より下側に画線面積が広がる領域を有している。
【0114】
第3のユニット(6)の構成について、
図29を用いて説明する。第3のユニット(6)は、ユニット(6a)において示された潜像模様(7)の構成要素である潜像画線(33)と、ユニット(6b)において示された可視模様の構成要素である可視模様形成領域(43)とを備えている。
【0115】
そして、ユニット(6b)に示されたように、可視模様形成領域(43)は、潜像画線(33)を始点として下方に向けて徐々に濃度が低下していくような階調濃度を有する領域として形成されている。このように構成することで、各々のユニットにおいて、潜像画線(33)と可視模様形成領域(43)とを形成することができる。
【0116】
なお、この徐々に濃度が低下していく順番については、ユニットごとに予め定めておく。この時点では、徐々に濃度が低下していく階調濃度の領域を有しているが、着色はされてはいない。着色を行う際には、可視模様の階調濃度を表現するために可視模様の階調の濃淡の程度に応じて可視模様形成領域(43)に着色される。
【0117】
第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)を前述のように構成する目的は、二つ存在する。
【0118】
一つ目の目的は、階調濃度を有する可視模様を簡易に付与することを可能にすることである。詳細な手順については後述するが、前述したように、例えば、第1のユニット(4)において可視模様の構成要素として、潜像画線(31)を始点として下方に向けて徐々に濃度が低下していく可視模様形成領域(41)を形成する。これにより、潜像印刷物(1)の可視模様として表現したい可視模様データの階調濃度に応じて可視模様形成領域(41)に着色することで、可視模様の階調を簡易に表現することができる。
【0119】
二つ目の目的は、スマートフォン等の潜像読取装置(21)による読み取り効率を高めることにある。本発明により作成した潜像印刷物(1)を読み取り対象として、真偽判別や個人認証等のために潜像読取装置(21)のカメラにより印刷物を読み取ってその画面(22)に潜像模様を可視化させる際に、潜像画線(31、32、33)の抽出を容易、かつ、確実に行う必要がある。潜像画線(31、32、33)を前述のように読み取り易く構成することで、潜像読取装置(21)による読み取り効率を高めることができる。
【0120】
なお、本実施の形態では、ユニットの種類は、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)の3種類に限定されない。また、
図29の第2のユニット(5)として示したように、可視模様形成領域(42)を、潜像画線(32)を始点として上側に画線面積が広がるように形成し、同様に可視模様形成領域(41)を、潜像画線(31)を始点として上側に画線面積が広がるように形成してもよい。
【0121】
さらには、
図29の第1のユニット(4)及び第3のユニット(6)のように、可視模様形成領域(41、43)を潜像画線(31、33)と接触するように形成してもよく、又は
図29のユニット(6c)のように可視模様形成領域(43a、43b)を潜像画線(33)から離間して形成してもよく、同様にユニット(6a)のように可視模様形成領域(41a、41b、41c、41d)を潜像画線(31)から離間して形成してもよい。つまりは、潜像読取装置(21)による潜像画線(31、32、33)の抽出が容易、かつ、確実に行うことが可能であれば、潜像要素と可視模様の構成要素は、繋がって形成してもよく、又は離間して形成してもよい。
【0122】
また、本実施の形態では、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)において潜像画線(31、32、33)を斜め線、横線で形成している。しかしながら潜像画線(31、32、33)の形状は限定されず、例えば、縦線等、他の任意の線で構成してもよく、あるいは一本の線でなく二本線以上の線で構成してもよい。さらには、潜像画線(31、32、33)は線には限定されず、例えば「◎」、「〇」、「×」の記号等を用いて形成してもよい。この場合には、潜像読取装置(21)により、それぞれの記号が有する特徴、例えば「◎」は閉図形が2つ、「〇」は閉図形が1つ、「×」は交点を有するという特徴に基づいて読み取ることができる。
【0123】
疑似カラー模様データ(91)への第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)の適用について説明する。
図30に示すように、疑似カラー模様データ(91)に含まれる3色のうちの白色の画素領域に対して第3のユニット(6)を適用させて疑似カラー模様データ(92)を生成する。ここで、
図30に示された疑似カラー模様データ(92)及びその拡大図は、疑似カラー模様データ(91)に含まれる白色の画素領域を、潜像画線(33)、可視模様形成領域(43)を有する第3のユニット(6)に置き換えて、他の黒色の画素領域及び橙色の画素領域は、元の疑似カラー模様データ(91)に含まれたままの状態に相当する。
【0124】
図31に示すように、疑似カラー模様データ(92)に含まれる黒色の画素領域に対して第2のユニット(5)を適用させて疑似カラー模様データ(93)を生成する。ここで、
図31に示された疑似カラー模様データ(93)及びその拡大図は、
図30に示された疑似カラー模様データ(92)における黒色の画素領域を第2のユニット(5)に置き換えたものに相当する。
【0125】
図22及び
図32に示すように、疑似カラー模様データ(93)に含まれる橙色の画素領域に対して第1のユニット(4)を適用させて臨界値配列模様データ(101)を生成する。ここで、
図32に示された臨界値配列模様データ(101)及びその拡大図は、
図31に示された疑似カラー模様データ(93)における橙色の画素領域を第1のユニット(4)に置き換えたものに相当する。
【0126】
このように、白色、黒色及び橙色の画素領域を含む疑似カラー模様データ(91)に対し、各々の色の画素領域をそれぞれ対応する第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)に置き替えることで、
図22及び
図32に示すような臨界値配列模様データ(101)を生成する。
【0127】
なお、
図22におけるステップ4において示された臨界値配列模様(91a)は、疑似カラー模様データ(91)に含まれる白色の画素領域に第3のユニット(6)を適用した模様データであり、臨界値配列模様(91b)は、疑似カラー模様データに含まれる黒色の画素領域に第2のユニット(5)を適用した模様データであり、臨界値配列模様(91c)は、疑似カラー模様データに含まれる橙色の画素領域に第1のユニット(4)を適用した模様データに相当する。この
図30から
図32を用いて各疑似カラー模様データ(91、92、93)にそれぞれ適用する各ユニット(4、5、6)及び色を説明したが、適用する各色の順序は特に限定はなく、どの色から適用してもよい。本例は、白色から黒、更に橙色の順序で適用した。
【0128】
すなわち、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)は、疑似カラー模様データ(91)に含まれる3色のそれぞれに適用する模様であり、疑似カラー模様データ(91)の各色が第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)に置き換わった模様データ、言い換えれば、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)を合成した、フルカラーの模様データが合成臨界値配列模様データ(101)に相当する。
【0129】
生成された合成臨界値配列模様データ(101)を印刷した潜像印刷物(1)には、顔模様を基模様とする、フルカラーの潜像模様(7)が埋め込まれており、潜像印刷物(1)を目視で視認しても潜像模様(7)は視認されない。しかし、潜像読取装置(21)のカメラにより潜像印刷物(1)を撮影して潜像模様(7)を構成する構成要素に相当する第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)を抽出して着色することで、潜像読取装置(21)の画面(22)上、又はこの潜像読取装置(21)からデータを送信された他の端末の画面(22)上に、フルカラーの潜像模様(7)を可視化させることができる。これにより、潜像印刷物(1)の真偽判別や個人認証等を行うことができる。
【0130】
(可視模様形成フロー)
本実施の形態の潜像印刷物の作成方法における可視模様作成フローについて説明する。可視模様作成フローは、
図33に示すように、潜像模様(7)が形成された合成臨界値配列模様データ(101)に対して、可視模様データ(301)に示すような可視模様を付与する手順を示すものである。合成臨界値配列模様データ(101)は、前述したように、潜像画線(31)及び可視模様形成領域(41)を有する第1のユニット(4)、潜像画線(32)及び可視模様形成領域(42)を有する第2のユニット(5)、潜像画線(33)及び可視模様形成領域(43)を有する第3のユニット(6)を備えている。
【0131】
図22におけるステップ5として、
図34に示されたような可視模様を構成する可視模様テンプレートを用意する。例えば、可視模様の基模様データとして、ICメモリ等の記憶装置に格納された8bitRGB模様データを用意する。本実施の形態では、
図34に示すような階調濃度を有する鳳凰の可視模様データ(301)を用いる。しかしながら、基模様の模様データは特に限定されず、例えば文字、記号、数字、ロゴマーク、図形、イラスト、風景等の様々な模様を用いることができる。また、8bitRGB模様データに限らず、模様データの形式も限定されない。
【0132】
潜像模様(7)を表す合成臨界値配列模様データ(101)は、
図33に示されたように第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)により構成されている。そして
図34に示すように、可視模様の鳳凰を形成するために用いられる可視模様テンプレートの階調濃度に応じて、第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)における可視模様形成領域(41~43)が着色される。
【0133】
図34に示すように、例えば、可視模様テンプレートが、0%、25%、50%、75%及び100%の5種類の階調濃度によって構成されている場合、階調濃度に応じた濃度で第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)の可視模様形成領域(41~43)が着色される。
【0134】
例えば、
図34に示すように、可視模様テンプレートにおいて最も高い階調濃度100%に位置する第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)では、可視模様形成領域(41、42、43)において100%の網点面積率を有する画素又は画線が形成される。
【0135】
階調濃度が濃度50%に位置する第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)では、可視模様形成領域(41、42、43)において50%の網点面積率を有する画素又は画線が形成される。
【0136】
階調濃度が濃度0%に位置する第1のユニット(4)、第2のユニット(5)、第3のユニット(6)では、可視模様形成領域(41、42、43)において可視模様の画素又は画線等の構成要素は形成されない。
【0137】
このようにしてそれぞれの可視模様形成領域(41、42、43)に階調濃度に応じた網点面積率を有する画素又は、画線が形成された第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)により、
図34に示すような潜像模様及び可視模様が形成された模様データ(201)が生成される。模様データ(201)の拡大図からも確認されるように、潜像模様の構成要素と可視模様の構成要素とが形成されている。
【0138】
前述の可視模様形成フローによれば、可視模様テンプレートの階調濃度に応じて、簡易に可視模様の構成要素が適用された第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)を用いて、潜像模様及び可視模様を形成することができる
【0139】
それぞれの第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)においては、潜像画線(31、32、33)を始点として可視模様形成領域の階調濃度を形成することで、簡易に可視模様の構成要素が適用された第1のユニット(4)、第2のユニット(5)及び第3のユニット(6)を生成することができる。
【0140】
なお、本実施の形態では、可視模様テンプレートの階調濃度について、0%、25%、50%、75%及び100%の濃度を例として説明したが、階調濃度の数値、段階数は限定されず、所望の濃度値及び段階数に設定することができる。
【0141】
以上の手順により得られた潜像印刷物(1)は、
図35に示されたように、目視により、濃度階調を有する可視模様の鳳凰が視認され、潜像模様(7)としての顔模様は視認されない。
【0142】
そして潜像読取装置(21)のカメラで潜像印刷物を撮影し、潜像模様の構成要素を抽出して画面(22)上に潜像模様(7)を可視化させ、又は潜像読取装置(21)からデータを送信して、他の端末の画面(22)上に潜像模様(7)を可視化させることができ、潜像印刷物(1)の真偽判別や個人認証等を行うことができる。
【0143】
また、このようにして得られた模様データ(201)を用いることにより、容易、かつ、確実にカラー模様を印刷することができる。
図35に示されたように、例えば、安価な家庭用プリンタ(401)での潜像印刷物(501)の印刷出力、事務用プリンタ(402)での潜像印刷物(502)の印刷出力、また生産用の印刷機(403)での潜像印刷物(503)での印刷出力が安定、かつ、容易に可能である。
【0144】
また、本実施の形態によれば、模様データ(201)を用いて印刷する際に、印刷色の種類を問わず、いかなる色でも同じ効果を得ることができる。
図36に示すそれぞれの潜像印刷物(601、602、603)は、緑色、灰色、紫色のインキをそれぞれ1色ずつ用いて印刷されたものである。本実施の形態によれば、印刷に用いる色材が1色であっても、またその1色が一般的なプリンタで印刷可能な一般的な色材であっても、目視した際には不可視であるがスマートフォン等の簡易な潜像読取装置(21)で読み取ることにより潜像模様をカラーで再現することが可能である。さらに、色材の組み合わせによっては、フルカラーで潜像模様を再現することが可能となる。
【0145】
前述のような本発明の方法は、コンピュータにより実行されるソフトウェアで具現化され、コンピュータで読出し可能な形態で記録媒体(CD-ROM、RAM、ROM、フロッピーディスク、ハードディスク、光磁気ディスク等)に保存され得る。このような過程は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるため、これ以上の説明は省略する。
【0146】
本発明の潜像印刷物(1)は、画線の構成によって偽造防止効果をもたらすことが可能であることから、コストパフォーマンスに優れ、製版及び印刷方法も何ら限定されないため、印刷方式に自由度があるという効果を奏する。特に、本発明の潜像印刷物(1)の印刷出力は、プリンタが通常有する色のインクを用いて印刷することのみで対応可能であり、キャリブレーション等の調整作業を含めたテスト印刷が不要であることからプリンタの調整作業を不要とし、印刷条件が変化した場合にも潜像模様の秘匿が確保される。
【0147】
従来技術における潜像印刷物(1)は、潜像読取装置(21)で読み取った際に、潜像模様が単色で可視化されるのに対し、本発明は、カラー模様、さらにはフルカラー模様として可視化されることから、顔模様及び風景を始め、様々な美麗の表現が可能である。また、本発明の構成によれば、スマートフォン等という誰もが入手できる装置を用いて潜像模様(7)を容易、かつ、鮮明に発現するという効果を奏する。
【0148】
本発明の潜像読取装置(21)は、印刷物に形成された潜像模様(7)の特異点を抽出し、潜像模様(7)を容易、かつ、確実にカラーで出現させることができる。
【0149】
また、本発明の潜像印刷物(1)は、パスポートや身分証明書の顔模様等に用いることで、より高度な真偽判別や個人認証を行うことができる。
【0150】
本発明の一実施の形態について説明したが、この実施の形態は一例として提示したものであり、発明の技術的範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形は、発明の技術的範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0151】
例えば、前述の実施の形態では、橙色成分、黒色成分及び白色成分の3色に色分解しているが、分解する色成分の数は限定されず2色以上に分解したものであればよい。また、潜像模様を構成する少なくとも2つ以上の臨界値配列模様は全て同一色であることが潜像模様の秘匿性の観点から望ましいが、必ずしも同一色には限られない。
【符号の説明】
【0152】
1 潜像印刷物
2 基材
3 印刷模様
4 第1のユニット
5 第2のユニット
6 第3のユニット
7 潜像模様
21 潜像読取装置
22 画面
31、32、33 潜像画線
41、41a、41b、42、43、43a、43b、43c、43d 可視模様形成領域
51 基模様データ
61 橙色成分模様データ
62 黒色成分模様データ
71 橙色成分階調模様データ
72 黒色成分階調模様データ
81 橙着色模様データ
82 黒着色模様データ
91、92、93 疑似カラー模様データ
101 合成臨界値配列模様データ
201 模様データ
301 可視模様データ
401 家庭用プリンタ
402 事務用プリンタ
403 印刷機