(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】低脂肪乳の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/14 20060101AFI20230801BHJP
A23C 3/00 20060101ALI20230801BHJP
A23C 3/02 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
A23C9/14
A23C3/00
A23C3/02
(21)【出願番号】P 2019022517
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018023440
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 淳美
(72)【発明者】
【氏名】大森 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 瑞恵
(72)【発明者】
【氏名】武田 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】長田 尭
(72)【発明者】
【氏名】柏木 和典
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/115158(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/030162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行い、当該
溶存酸素濃度を低下させた原料乳に溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製した後に、
当該調製された低脂肪乳ベースの溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌する、異常風味を抑制した低脂肪乳の製造方法。
【請求項2】
搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理が溶存酸素濃度を5ppm以下にすることを特徴とする、請求項
1に記載の低脂肪乳の製造方法。
【請求項3】
前記低脂肪乳の乳脂肪分が2重量%以下である請求項
1または2に記載の低脂肪乳の製造方法。
【請求項4】
自発性酸化臭を抑制することにより異常風味を抑制する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の低脂肪乳の製造方法。
【請求項5】
ヘキサナールの生成及び/又は増加を抑制することにより異常風味を抑制する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の低脂肪乳の製造方法。
【請求項6】
加熱臭を抑制することにより異常風味を抑制する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の低脂肪乳の製造方法。
【請求項7】
サルファイド類の生成及び/又は増加を抑制することにより異常風味を抑制する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の低脂肪乳の製造方法。
【請求項8】
前記乳原料が凍結濃縮乳を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の低脂肪乳の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低脂肪乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低脂肪乳は牛乳と比較して乳脂肪分の少ない飲用乳であり、牛乳に起因するカロリー(エネルギー)を抑えつつもカルシウムや乳タンパク質を効果的に摂取できる、優れた飲料である。
【0003】
低脂肪乳は、上記の通り、乳脂肪分を減らす必要があることから、従来では、牛乳(生乳)に脱脂粉乳などの乳原料を配合して、乳脂肪分並びに無脂乳固形分を調整する方法がとられてきた。このとき、製造の自由度を確保するために、牛乳(生乳)を使用せずに、バターや脱脂粉乳などの還元原料のみで製造する方法もとられている。
【0004】
また、低脂肪乳の別の製造方法として、牛乳(生乳)から乳脂肪分を除去する方法も知られている。例えば、特許文献1では、加熱処理に伴って生じる栄養成分の酸化、変性、劣化などや、特に、風味の劣化や散逸を抑制できる乳飲料の製造方法として、乳飲料の原料に対して加熱処理した後に、遠心分離して、脱脂乳を分離し、当該分離した脱脂乳に対して成分調整処理する工程を備えている乳飲料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、従来の生乳に脱脂粉乳などを添加して成分を調整する製造方法により得られた低脂肪乳では、加熱還元された乳原料に由来する加熱風味(例えば、脂肪の酸化臭)により、牛乳の持ち味であるミルク感(フレッシュ感)を損なう問題があった。
【0007】
また、特許文献1の方法では、生乳を加熱処理した後に乳脂肪(クリーム)を改めて分離するという、製造工程上の煩雑さが発生するという問題があった。さらに、特許文献1の方法では、分離されたクリームの使用用途(例えば、バターに加工する)を計画的に考えなければならず、必然的に別の問題が発生することになる。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、例えば、生乳から改めてクリーム分離の工程を行うというような、製造工程上の煩雑さが発生せず、通常の乳原料を使用するにも関わらず、風味の良好な低脂肪乳の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討により、搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行い、当該原料乳に乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製した後に、溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌することにより、異常風味を抑制し、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。また、乳原料については溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない場合であっても、異常風味を抑制し、上記課題を解決できることを見出したものである。
【0010】
特に、本発明の低脂肪乳の製造方法は、溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない通常の乳原料(粉乳、濃縮乳等)を、溶存酸素濃度を低下させた原料乳に添加して低脂肪乳ベースを調製した場合であっても、その後に溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌することにより、風味の良好な低脂肪乳となったことは特筆すべきである。なぜならば、溶存酸素濃度を低下させずに還元処理を行った乳原料を使用することで、その分の風味が悪くなることが予測されたものの、実際に本発明の製造方法をとることで、当該予測に反して良好な風味の低脂肪乳となったからであり、このことは驚くべき現象である。
【0011】
また、本発明の低脂肪乳の製造方法では、特許文献1のように、原料乳を加熱処理した後にクリーム分離する工程を必要としない。すなわち、本発明の低脂肪乳の製造方法では、分離されたクリームの使用用途を考える必要が無く、通常の乳原料を在庫や需給に合わせて使用できるため、製造における煩雑さが解消される。
【0012】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行い、当該原料乳に乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製した後に、溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌する、異常風味を抑制した低脂肪乳の製造方法。
[2]搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行い、当該原料乳に溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製した後に、溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌する、異常風味を抑制した低脂肪乳の製造方法。
[3]搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理が溶存酸素濃度を5ppm以下にすることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の低脂肪乳の製造方法。
[4]前記低脂肪乳の乳脂肪分が2重量%以下である[1]~[3]のいずれか1に記載の低脂肪乳の製造方法。
[5]自発性酸化臭を抑制することにより異常風味を抑制する、[1]~[4]のいずれか1に記載の低脂肪乳の製造方法。
[6]ヘキサナールの生成及び/又は増加を抑制することにより異常風味を抑制する、[1]~[5]のいずれか1に記載の低脂肪乳の製造方法。
[7]加熱臭を抑制することにより異常風味を抑制する、[1]~[6]のいずれか1に記載の低脂肪乳の製造方法。
[8]サルファイド類の生成及び/又は増加を抑制することにより異常風味を抑制する、[1]~[7]のいずれか1に記載の低脂肪乳の製造方法。
[9]前記乳原料が凍結濃縮乳を含む、[1]~[8]のいずれか1に記載の低脂肪乳の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の低脂肪乳の製造方法によれば、異常風味が抑制され、新鮮なミルク感(フレッシュ感)が向上した風味の良好な低脂肪乳を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0015】
本発明の一実施態様は、
(A)搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行う工程(搾乳後の原料乳の溶存酸素濃度低減工程、以下、「工程(A)」という)と、
(B)当該原料乳に乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製する工程(低脂肪乳ベースを調製する工程、以下、「工程(B)」という)と、
(C)上記低脂肪乳ベースの溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌する工程(溶存酸素濃度低下処理後の加熱殺菌工程、以下「工程(C)」という)
により、異常風味を抑制した低脂肪乳の製造方法である。
【0016】
本発明の別の実施態様は、
(A)搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行う工程(搾乳後の原料乳の溶存酸素濃度低減工程)と、
(B)当該原料乳に溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製する工程(低脂肪乳ベースを調製する工程)と、
(C)上記低脂肪乳ベースの溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌する工程(溶存酸素濃度低下処理後の加熱殺菌工程)
により、異常風味を抑制した低脂肪乳の製造方法である。
【0017】
以下、各工程について詳しく説明する。
【0018】
[工程(A):搾乳後の原料乳の溶存酸素濃度低減工程]
工程(A)は、搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行う工程である。搾乳後の原料乳の溶存酸素濃度を低下させるには、当該原料乳に対して不活性ガス処理を行う。工程(A)は、不活性ガス処理の供給方法(例えば、比例混合装置を用いた処理)及び供給条件(例えば、原料乳の供給速度及び不活性ガスの供給量)を制御し、原料乳の貯留前及び/又は貯留中の時点で、原料乳に不活性ガス処理を行った後、上記原料乳を排出し、溶存酸素濃度を低減させた原料乳を得る第一の溶存酸素濃度低減工程である。
【0019】
本発明における原料乳は、未加熱の生乳等の加熱処理前の原料乳をいう。すなわち、搾乳後、かつ、加熱処理前の原料乳を意味する。このとき、本発明における原料乳は、不活性ガス処理を行うことができる液状の形態であればよく、例えば、牛、山羊、めん羊乳(ひつじ乳)等の獣乳(獣から搾乳した生乳)、獣乳の加工物(例えば、脱脂乳、部分脱脂乳、脱脂濃縮乳、部分脱脂濃縮乳、成分調整乳、クリーム、バターミルク等の液状の乳加工物、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、バター、発酵乳、チーズ等を液状に還元した乳加工物)、大豆乳、ココナッツミルク等の植物乳、植物乳の加工物(液状に還元した乳加工物)、人工乳(食用油脂、水、乳化剤等を混合し、水中油型乳化物とする、液状の乳加工物)等が挙げられる。また、本発明における原料乳は、乳以外の原料が含まれていてもよく、例えば、コーヒー、紅茶、緑茶、抹茶、マテ茶、果汁、野菜汁、甘味料、酸味料、ビタミン、ミネラル、機能性素材、ナノフィルトレーション膜透過水、膜透過水、水等を添加した液状の形態であればよい。
【0020】
上記不活性ガス処理に用いる不活性ガスには、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0021】
工程(A)の第一の溶存酸素濃度低減工程で得られた原料乳の溶存酸素濃度(上限値)は、好ましくは5ppm以下、より好ましくは4ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下である。工程(A)の搾乳後の原料乳の溶存酸素濃度低減工程で得られた原料乳の溶存酸素濃度が5ppm以下であれば、低脂肪乳において良好な風味を保てる点で好ましい。
【0022】
工程(A)における不活性ガス処理は、本発明の特徴である、溶存酸素濃度を低減させた、新鮮な風味を有する低脂肪乳を得ることができる方法であれば、特に限定されない。例えば、
(a)比例混合装置を用いた原料乳と不活性ガスとの混合、
(b)不活性ガスで満たした空間を有する装置内への原料乳の噴霧、
(c)遠心分離機を用いた原料乳と不活性ガスとの混合、
(d)ポンプを用いた原料乳と不活性ガスとの混合、
(e)装置内に収容した原料乳への不活性ガスの吹き込み、
の中から選ばれる一種又は二種以上の組み合わせによって行うことができる。また、工程(A)において、(a)~(e)の中から選ばれる一種の方法(例えば、(a)の方法)を、一回又は二回以上で行うことができる。
【0023】
上記(a)の原料乳と不活性ガスとを混合するための比例混合装置は、例えば、上記比例混合装置内に連続的に供給される原料乳に、不活性ガスを特定の比率(不活性ガスの供給量/原料乳の供給量)で連続的に供給することで、不活性ガス処理された原料乳において、不活性ガスの分布が均一になるように、原料乳と不活性ガスとをインラインで(配管内で連続的に)撹拌するように構成した装置(例えば、スタティックミキサー等の剪断装置)が挙げられる。また、上記比例混合装置は、必要に応じて、上記比例混合装置の供給部分(入口部分)において、不活性ガスの供給条件(原料乳の供給量及び/又は不活性ガスの供給量)を制御できる。さらに、上記比例混合装置の供給部分(入口部分)及び/又は排出部分(出口部分)において、原料乳と不活性ガスとの混合比率を検出し、この検出結果により、上記比例混合装置の供給部分において、原料乳と不活性ガスの供給条件(原料乳の供給量及び/又は不活性ガスの供給量)を制御することもできる。
【0024】
上記(b)の不活性ガスで満たした空間を有する装置内への原料乳を噴霧するための装置は、例えば、不活性ガスで内部を満たしたタンク内に、このタンクの上部等に位置する供給部分を通じて、原料乳を注入及び/又は噴霧するように構成した装置が挙げられる。ここで、原料乳の注入は、特に限定されず、例えば、公知の配管等を通して行うことができる。また、原料乳の噴霧は、特に限定されず、例えば、公知のスプレーノズルやシャワーボール等を通して行うことができる。なお、原料乳の注入の方向や原料乳の噴霧の方向は、特に限定されず、例えば、水平方向、上方向、下方向等が挙げられる。また、このタンクの上部等に位置する供給部分の配置は、1箇所又は2箇所以上である。
【0025】
上記(c)の原料乳と不活性ガスとを混合するための遠心分離機は、例えば、遠心力を利用して、微細なゴミ及び/又は乳牛等の動物に由来する成分(例えば、細胞質、白血球等)を分離除去することを目的とするクラリファイヤー、遠心力を利用して、微生物を分離除去することを目的とするバクトフュージ、原料乳から脱脂乳とクリームとを分離することを目的とするクリームセパレーター等の分離盤型の遠心分離機が挙げられる。また、上記の遠心分離機の内部に設置されている回転する収容容器内に向けて、原料乳と不活性ガスとを連続的に供給し、これらを混合することにより、不活性ガス処理することができる。一般的に、遠心分離機で処理する際に、原料乳にガス等の気泡が残存すると、原料乳の処理効率が低下することが知られている。すなわち、従来では、遠心分離機で処理する際に、原料乳にガス等の気泡を巻き込まない(残存させない)ように、遠心分離機を操作することが技術常識であった。一方、当該(c)の方法では、上記技術常識があるにも拘わらず、あえて、原料乳と不活性ガスとを連続的に供給し、上記と同様に処理しながら、これらを混合することにより、原料乳の溶存酸素濃度を効果的に低減させることができる。
【0026】
上記(c)の遠心分離機を用いた原料乳と不活性ガスとを混合するための方法は、例えば、不活性ガスの吹き込み等により、一部の溶存酸素を不活性ガスで置換した原料乳を、機器の内部が不活性ガスで満たされている遠心分離機に供給し、上記と同様に処理しながら、原料乳の溶存酸素濃度を低減させる方法、及び、溶存酸素を不活性ガスで置換していない原料乳を、機器の内部が不活性ガスで満たされている遠心分離機に供給し、上記と同様に処理しながら、原料乳の溶存酸素濃度を低減させる方法が挙げられる。
【0027】
上記(d)のポンプを用いた原料乳と不活性ガスとを混合するための方法は、例えば、原料乳と不活性ガスとを連続的に供給し、ポンプへ通液しながら、ポンプの内部で撹拌混合することにより、原料乳の溶存酸素濃度を低減させる方法が挙げられる。ここで、上記(d)の原料乳と不活性ガスとを混合するためのポンプは、例えば、渦巻ポンプ、斜流ポンプ、摩擦ポンプ等の非容積式のポンプが挙げられる。なお、上記(d)のポンプを用いた原料乳と不活性ガスとの混合するための具体的な方法は、例えば、渦巻ポンプのような静置したポンプの内部で回転する撹拌羽根(羽根車)により、原料乳と不活性ガスとを撹拌混合することにより、原料乳の溶存酸素濃度を低減させる方法が挙げられる。
【0028】
上記(e)の装置内に収容した原料乳への不活性ガスの吹き込みは、従来公知の方法で実施することができる。また、当該方法には公知の気泡分散装置を用いることができ、例えば、焼結金属エレメント、フィルター、スパージャー、狭流路ノズル等を用いることができる。
【0029】
[工程(B):低脂肪乳ベースを調製する工程]
工程(B)は、工程(A)で得られた当該原料乳に乳原料、あるいは溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製する工程である。
【0030】
低脂肪乳ベースを調製するにあたって添加される乳原料のうち、溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料とは、前記工程(A)のような溶存酸素濃度低減処理を改めて行っていないいかなる乳原料であってよく、いわゆる通常の乳原料のことである。
【0031】
本発明における乳原料は、例えば、牛、山羊、めん羊乳(ひつじ乳)等の獣乳(獣から搾乳した生乳)、獣乳の加工物(例えば、脱脂乳、部分脱脂乳、脱脂濃縮乳、部分脱脂濃縮乳、成分調整乳、クリーム、バターミルク等の固形状又は液状の乳加工物、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、バター、発酵乳、チーズ等を固形状又は液状に還元した乳加工物)、大豆乳、ココナッツミルク等の植物乳、植物乳の加工物(固形状又は液状に還元した乳加工物)、人工乳(固形状又は、食用油脂、水、乳化剤等を混合し、水中油型乳化物とする、液状の乳加工物)等が挙げられる。また、本発明における乳原料は、乳以外の原料が含まれていてもよく、例えば、コーヒー、紅茶、緑茶、抹茶、マテ茶、果汁、野菜汁、甘味料、酸味料、ビタミン、ミネラル、機能性素材、ナノフィルトレーション膜透過水、膜透過水、水等を添加した固形状又は液状の形態であればよい。
【0032】
特に、本発明における乳原料は、風味の良好な低脂肪乳を得るために、濃縮乳を用いることが好ましい。濃縮乳は、特に制限されないが、例えば、凍結濃縮装置を用いた氷点濃縮製法等により得られる凍結濃縮乳や、膜分離技術を利用した脱塩処理により得られる脱塩濃縮乳を用いることが好ましい。
【0033】
また、本発明においては、上記乳原料、あるいは溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料は、本発明の製造方法が低脂肪乳向けであることを鑑み、脂肪分の低い原料(脱脂乳、脱脂濃縮乳等)を使用することが好ましい。
【0034】
さらに、本発明における低脂肪乳ベースの乳脂肪分の上限値は、2重量%以下であることが好ましく、1.8重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以下であることがさらに好ましい。本発明における低脂肪乳ベースの乳脂肪分の下限値は、特に制限はないが、0.01重量%以上であることが好ましく、0.05重量%以上であることがより好ましく、0.1重量%以上であることがさらに好ましい。
【0035】
さらに、本発明における低脂肪乳ベースの無脂乳固形分の下限値は特に制限はないが、好ましくは5重量%以上、より好ましくは6重量%以上、さらに好ましくは7重量%以上、さらに好ましくは8重量%以上である。本発明における低脂肪乳ベースの無脂乳固形分の上限値は特に制限はないが、好ましくは15重量%以下、より好ましくは14重量%以下、さらに好ましくは13重量%以下、さらに好ましくは12重量%以下である。本発明における低脂肪乳ベースの無脂乳固形分が5重量%以上であれば、新鮮なミルク感(フレッシュ感)が感じられ好ましい。また、本発明における低脂肪乳ベースの無脂乳固形分が15重量%以下であれば、乳タンパク質の独自の雑味が感じられず好ましい。
【0036】
なお、本発明において、溶存酸素濃度を低下させる処理を行った原料乳に乳原料、あるいは溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製する方法は、特に制限はないが、添加・混合により低脂肪乳ベースの溶存酸素濃度が上昇しない方法であればより好ましい。
【0037】
[工程(C);溶存酸素濃度低下処理後の加熱殺菌工程]
工程(C)は、工程(B)で得られた低脂肪乳ベースを、溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌する加熱殺菌工程である。
工程(C)における第二の溶存酸素濃度低減工程において、溶存酸素濃度を低下させるために行う不活性ガス処理は、工程(A)と同様に、例えば、
(a)比例混合装置を用いた低脂肪乳ベースと不活性ガスとの混合、
(b)不活性ガスで満たした空間を有する装置内への低脂肪乳ベースの噴霧、
(c)遠心分離機を用いた低脂肪乳ベースと不活性ガスとの混合、
(d)ポンプを用いた低脂肪乳ベースと不活性ガスとの混合、
(e)装置内に収容した低脂肪乳ベースへの不活性ガスの吹き込み、
の中から選ばれる一種又は二種以上の組み合わせによって行うことができる。
【0038】
工程(C)における、加熱殺菌の方法では、牛乳の製造において通常で用いられる加熱殺菌の方法であれば、特に限定されず、例えば、61~65℃、30~60分間で処理する低温長時間殺菌法、70~75℃、15~60秒間で処理する高温短時間殺菌法、130~150℃、1~5秒間で処理する超高温滅菌法等が挙げられる。これら加熱殺菌の方法では、所定の衛生度が保たれ、低脂肪乳の品質が保持される限りにおいて、加熱殺菌の温度及び時間を適宜で調整することができる。
【0039】
このとき、工程(C)で得られた低脂肪乳の溶存酸素濃度は、低脂肪乳の新鮮な風味を保持する観点から、好ましくは2ppm以下、より好ましくは1ppm以下、さらに好ましくは0.8ppm以下、さらに好ましくは0.6ppm以下である。
【0040】
工程(C)の後に、必要に応じて、低脂肪乳をタンクに貯留する前のタンク(サージタンク、フィラータンク等)の内部空間を不活性ガスで置換すること、低脂肪乳をタンクに貯留した後のタンクの内部空間(ヘッドスペース)を不活性ガスで置換すること低脂肪乳をタンクに充填する前の容器の内部空間を不活性ガスで置換すること、低脂肪乳を容器に充填した後の容器の内部空間(ヘッドスペース)を不活性ガスで置換すること、タンク及び/又は容器の内面に、脱酸素剤を塗布すること等を行うことができる。
【0041】
本発明の製造方法で得られる低脂肪乳の乳脂肪分の上限値は、2重量%以下であることが好ましく、1.8重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以下であることがさらに好ましい。本発明の製造方法で得られる低脂肪乳の乳脂肪分の下限値は、特に制限はないが、0.01重量%以上であることが好ましく、0.05重量%以上であることがより好ましく、0.1重量%以上であることがさらに好ましい。
さらに、本発明の製造方法で得られる低脂肪乳の無脂乳固形分の下限値は特に制限はないが、好ましくは5重量%以上、より好ましくは6重量%以上、さらに好ましくは7重量%以上、さらに好ましくは8重量%以上である。本発明の製造方法で得られる低脂肪乳の無脂乳固形分の上限値は特に制限はないが、好ましくは15重量%以下、より好ましくは14重量%以下、さらに好ましくは13重量%以下、さらに好ましくは12重量%以下である。本発明の製造方法で得られる低脂肪乳の無脂乳固形分が5重量%以上であれば、新鮮なミルク感(フレッシュ感)が感じられ好ましい。また、本発明の製造方法で得られる低脂肪乳の無脂乳固形分が15重量%以下であれば、乳タンパク質の独自の雑味が感じられず好ましい。
【0042】
本発明において、低脂肪乳を容器に充填(収容)し、容器入りの低脂肪乳として冷蔵保存や常温保存することができる。本発明において、低脂肪乳の溶存酸素濃度が大きく低減されていることから、この保存に用いる容器として、酸素透過性が低い容器、例えば、ビン、スチールカン、アルミカン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ビニール、ナイロン等を素材とした容器が好ましい。
【0043】
本発明において、低脂肪乳に使用する原料乳の溶存酸素濃度を低減していることにより、例えば、酸素及び/又は加熱により風味が変化しやすい牛乳において発生する、加熱及び/又は保存に伴う異常風味の発生を低減できる。ここでいう、異常風味とは、例えば、豆臭と呼ばれる自発性酸化臭や加熱臭等である。自発性酸化臭の原因物質として、ヘキサナール等のカルボニル化合物が公知である。また、加熱臭の原因物質として、硫黄化合物が挙げられ、例えば、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド、ジメチルトリサルファイド等のサルファイド類が公知である。本発明の製造方法で得られる低脂肪乳は、低脂肪乳に使用する原料乳の溶存酸素濃度が低減されていることにより、自発性酸化臭及び/又は加熱臭の原因物質の発生を抑制できる。また、ヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加を抑制できる。また、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド、及びジメチルトリサルファイドからなる群から選択される少なくとも1のサルファイド類の生成及び/又は増加を抑制できる。
【実施例】
【0044】
以下、各実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
搾乳後の原料乳(生乳)に対して、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を低下させる処理を行い、溶存酸素濃度を5ppm以下に低下させた原料乳を得た。
溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料として、脱脂乳を、ナノフィルトレーション膜(以下、「NF膜」という)を用いて固形分濃度9重量%になるまで濃縮したナノフィルトレーション膜濃縮乳(以下、「NF膜濃縮乳」という)を調製した。
得られたNF膜濃縮乳、溶存酸素濃度を5ppm以下に低下させた原料乳と膜透過水を混合し、無脂乳固形分(以下、「SNF」という。)10重量%、脂肪(以下、「FAT」という)1重量%に組成を調整し低脂肪乳ベースを得たのち、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を2ppm以下に低下させた後、130℃2秒間の殺菌を行い実施例1の低脂肪乳を得た。
【0046】
[比較例1]
実施例1と同様の原料を用いて、搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない生乳を用いたこと以外は実施例1と同様に製造して、比較例1の低脂肪乳(対照品1)を得た。
すなわち、溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料として、脱脂乳を、ナノフィルトレーション膜(以下、「NF膜」という)を用いて固形分濃度9重量%になるまで濃縮したナノフィルトレーション膜濃縮乳(以下、「NF膜濃縮乳」という)を調製した。
得られたNF膜濃縮乳、溶存酸素濃度10ppmの原料乳と膜透過水を混合し、無脂乳固形分(以下、「SNF」という。)10重量%、脂肪(以下、「FAT」という)1重量%に組成を調整し低脂肪乳ベースを得たのち、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を2ppm以下に低下させた後、130℃2秒間の殺菌を行い比較例1の低脂肪乳を得た。
【0047】
[実施例2]
搾乳後の原料乳(生乳)に対して、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を低下させる処理を行い、溶存酸素濃度を5ppm以下に低下させた原料乳を得た。
溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料として、脱脂乳を、逆浸透膜(以下、「RO膜」という)を用いて固形分濃度が18重量%になるまで濃縮し、間接加熱方式で70℃まで予備加熱し、直接加熱方式で90℃15秒間の殺菌を行った。得られた固形分濃度が18重量%の濃縮乳を間接加熱方式で10℃以下まで冷却し、さらに凍結濃縮装置を用いて二次濃縮することで、固形分濃度を34重量%まで濃縮した凍結濃縮乳を得た。
得られた凍結濃縮乳、溶存酸素濃度を5ppm以下に低下させた原料乳と膜透過水を混合し、SNF10重量%、FAT1重量%に組成を調整し低脂肪乳ベースを得たのち、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を2ppm以下に低下させた後、130℃2秒間の殺菌を行い、実施例2の低脂肪乳を得た。
【0048】
[比較例2]
実施例2と同様の原料を用いて、搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない生乳を用いたこと以外は実施例2と同様に製造して、低脂肪乳(対照品2)を得た。
すなわち、溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料として、脱脂乳を、逆浸透膜(以下、「RO膜」という)を用いて固形分濃度が18重量%になるまで濃縮し、間接加熱方式で70℃まで予備加熱し、直接加熱方式で90℃15秒間の殺菌を行った。得られた固形分濃度が18重量%の濃縮乳を間接加熱方式で10℃以下まで冷却し、さらに凍結濃縮装置を用いて二次濃縮することで、固形分濃度を34重量%まで濃縮した凍結濃縮乳を得た。
得られた凍結濃縮乳、溶存酸素濃度10ppmの原料乳と膜透過水を混合し、SNF10重量%、FAT1重量%に組成を調整し低脂肪乳ベースを得たのち、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を2ppm以下に低下させた後、130℃2秒間の殺菌を行い、比較例2の低脂肪乳を得た。
【0049】
[実施例3]
搾乳後の原料乳(生乳)に対して、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を低下させる処理を行い、溶存酸素濃度を5ppm以下に低下させた原料乳を得た。
溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料として、脱脂乳を、逆浸透膜(以下、「RO膜」という)を用いて固形分濃度が18重量%になるまで濃縮し、間接加熱方式で70℃まで予備加熱し、直接加熱方式で90℃15秒間の殺菌を行った。得られた固形分濃度が18重量%の濃縮乳を間接加熱方式で10℃以下まで冷却し、さらに凍結濃縮装置を用いて二次濃縮することで、固形分濃度を34重量%まで濃縮した凍結濃縮乳を得た。
得られた凍結濃縮乳、溶存酸素濃度を5ppm以下に低下させた原料乳と膜透過水を混合し、SNF10重量%、FAT2重量%に組成を調整し低脂肪乳ベースを得たのち、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を2ppm以下に低下させた後、130℃2秒間の殺菌を行い、実施例3の低脂肪乳を得た。
【0050】
[比較例3]
実施例3と同様の原料を用いて、搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない生乳を用いたこと以外は実施例3と同様に製造して、低脂肪乳(対照品3)を得た。
すなわち、溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料として、脱脂乳を、逆浸透膜(以下、「RO膜」という)を用いて固形分濃度が18重量%になるまで濃縮し、間接加熱方式で70℃まで予備加熱し、直接加熱方式で90℃15秒間の殺菌を行った。得られた固形分濃度が18重量%の濃縮乳を間接加熱方式で10℃以下まで冷却し、さらに凍結濃縮装置を用いて二次濃縮することで、固形分濃度を34重量%まで濃縮した凍結濃縮乳を得た。
得られた凍結濃縮乳、溶存酸素濃度10ppmの原料乳と膜透過水を混合し、SNF10重量%、FAT2重量%に組成を調整し低脂肪乳ベースを得たのち、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を2ppm以下に低下させた後、130℃2秒間の殺菌を行い、比較例3の低脂肪乳を得た。
【0051】
[試験例1]
<香気成分分析>
1.ヘキサナール濃度の測定方法
ヘキサナール濃度は以下に示した、固相マイクロ抽出法(SPME法)により測定した。すなわち、(1)試料(容量10mL(ミリリットル))をバイアルビン(容量20mL)に採取し、内標準物質としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を添加し、密封した。(2)バイアルビンを温度60℃、保持時間40分で加温処理した。(3)バイアルビンのヘッドスペースに存在する「におい成分」を固相マイクロファイバー(85μm Stable Flex Carboxen/PDMS)により抽出した。(4)GC/MS(カラム:CP‐WAX)により分析した。(5)ヘキサナール濃度を定量するために、ヘキサナールの標準品を牛乳へ添加し、内標準物質で標準化した検量線を作成した。
【0052】
実施例1と比較例1
実施例1と比較例1のヘキサナールの濃度比は、0.6:1であった。
ヘキサナールは、脂質の酸化劣化により生じる成分であることが知られている。このことから、対照品に比べて、発明品で脂質の酸化劣化が抑制されたことが示された。
【0053】
実施例2と比較例2
実施例2と比較例2のヘキサナールの濃度比は、0.9:1であった。このことから、対照品に比べて、発明品で脂質の酸化劣化が抑制されたことが示された。
【0054】
実施例3と比較例3
実施例3と比較例3のヘキサナールの濃度比は、0.8:1であった。このことから、対照品に比べて、発明品で脂質の酸化劣化が抑制されたことが示された。
【0055】
2.ジメチルジサルファイド(DMDS)の測定
香気成分であるジメチルジサルファイド(DMDS)の測定を下記ガスクロマトグラフィー・質量分析法(GC/MS)により行い、発明品と対照品とで比較分析を行った。すなわち、(1)試料の10gを20mL容のバイアル瓶に分注し、25℃の条件下にて、乾燥窒素を40mL/分の条件で10分間連続的に吹き付け、ここで揮発した香気成分をTDUチューブ(GESTEL社製)に吸着させた。(2)試料からTDUチューブに香気成分を抽出し、香気成分をGC/MS(HP5975C(GC)、HP7890A(MS)、何れも、Agilent technologies社製)に導入して分析を行った。
ここで、分析用のGCカラムには、DB-WAX(30m×内径0.25mm、膜厚0.25μm、Agilent technologies社製)を用いた。そして、上記(1)で処理した試料では、TDUチューブを加熱処理(230℃)し、香気成分を脱着させ、冷却ユニットで-50℃まで冷却して香気成分を濃縮した後に、GC/MSに導入した。また、カラムの昇温では、40℃、2.5分間で保持した後に、5℃/分で240℃まで昇温し、240℃、10分間で保持する条件に設定した。MS法による分析対象の成分の検出では、トータルイオンクロマトグラムとマススペクトルの結果から、ライブラリに照合し、香気成分であるDMDSを測定した。そして、DMDSの主要なフラグメントイオンのピーク面積を検出量とした。
【0056】
実施例2と比較例1
ガスクロマトグラフィー・質量分析法(GC/MS)により得られた、DMDSの主要なフラグメントイオンのピーク面積値の比は、実施例2:比較例1=0.8:1であった。
ジメチルジサルファイド(DMDS)は、加熱臭の原因成分であることが知られている。このことから、対照品に比べて、発明品で加熱臭が抑制されたことが示された。
【0057】
実施例3と比較例1
ガスクロマトグラフィー・質量分析法(GC/MS)により得られた、DMDSの主要なフラグメントイオンのピーク面積値の比は、実施例3:比較例1=0.7:1であった。このことから、対照品に比べて、発明品で加熱臭が抑制されたことが示された。
【0058】
[試験例2]
<官能評価>
これらの試料について、25名の牛乳の風味の識別訓練を受けた専門パネルによる官能試験を行った。具体的には、一対比較法(7段階尺度)により、2試料間(発明品と対照品)で、風味に関する評価項目ごとに比較判断を行った。なお、専門パネルは、風味の評価項目ごとに、風味を1点上げるにはどの程度その風味が強くなればよいのかをパネル間で共通にする手順を設けた。
風味の評価項目のうち、「新鮮なミルクの香り」、「乳臭さの程度」、「濃厚感(コク)」、「乳脂肪感」、「えぐみの程度」、「スッキリ感」、及び「雑味の程度」の評価項目については、発明品の風味が対照品と比較して、とても弱い:-3、弱い:-2、やや弱い:-1、どちらでもない:0、やや強い:+1、強い:+2、とても強い:+3、の7段階で評価し、点数化して、その平均値を求めた。また、「口当たりの良さ」、「後味のよさ」、及び「総合評価」の評価項目については、発明品の風味が対照品と比較して、とても悪い:-3、悪い:-2、やや悪い:-1、どちらでもない:0、やや良い:+1、良い:+2、とても良い:+3、の7段階で評価し、点数化して、その平均値を求めた。
低脂肪乳の風味として好ましい評価項目である、「新鮮なミルクの香り」、「口当たりの良さ」、「濃厚感(コク)」、「乳脂肪感」、「スッキリ感」、「後味のよさ」、及び「総合評価」では、平均値が+(プラス)のスコアになった場合に、実施例において各評価項目の風味が改善したと判断した。また、低脂肪乳の風味として好ましくない評価項目である、「乳臭さの程度」、「えぐみの程度」、及び「雑味の程度」では、平均値が-(マイナス)のスコアになった場合に、実施例において各評価項目の風味が改善したと判断した。
【0059】
実施例1と比較例1
実施例1について、比較例1を対照品とし、上述した方法で官能評価を行った。その結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
官能評価の結果、対照品である比較例1に比べて、実施例1で、新鮮なミルクの香り、濃厚感(コク)、乳脂肪感、スッキリ感、後味のよさが良好で、えぐみの程度が少なく、総合評価としても、風味が良好で優れていることが示された。
【0062】
実施例2と比較例2
実施例2について、比較例2を対照品とし、上述した方法で官能評価を行った。その結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
官能評価の結果、比較例2に比べて、実施例2で、新鮮なミルクの香り、口当たりの良さ、乳脂肪感、スッキリ感、後味のよさが良好で、乳臭さの程度が少なく、総合評価としても、風味が良好で優れていることが示された。
【0065】
実施例2と比較例1
実施例2について、比較例1を対照品とし、上述した方法で官能評価を行った。その結果を表3に示す。
【0066】
【0067】
官能評価の結果、比較例1に比べて、実施例2で、新鮮なミルクの香り、口当たりの良さ、濃厚感(コク)、乳脂肪感、スッキリ感、及び後味のよさが良好で、乳臭さの程度、えぐみの程度、及び雑味の程度が少なく、総合評価としても風味が良好で優れていることが示された。なかでも、新鮮なミルクの香り、えぐみの程度、後味のよさ、及び総合評価で特に良好な結果が得られた。
【0068】
実施例3と比較例3
実施例3について、比較例3を対照品とし、上述した方法で官能評価を行った。その結果を表4に示す。
【0069】
【0070】
官能評価の結果、比較例3に比べて、実施例3で、新鮮なミルクの香り、口当たりの良さ、乳脂肪感、スッキリ感、及び後味のよさが良好で、乳臭さの程度、えぐみの程度、及び雑味の程度が少なく、総合評価としても風味が良好で優れていることが示された。なかでも、スッキリ感で特に良好な結果が得られた。
【0071】
実施例3と比較例1
実施例3について、比較例1を対照品とし、上述した方法で官能評価を行った。その結果を表5に示す。
【0072】
【0073】
官能評価の結果、比較例1に比べて、実施例3で、新鮮なミルクの香り、口当たりの良さ、濃厚感(コク)、乳脂肪感、スッキリ感、及び後味のよさが良好で、乳臭さの程度、えぐみの程度、及び雑味の程度が少なく、総合評価としても風味が良好で優れていることが示された。なかでも、新鮮なミルクの香り、濃厚感(コク)、えぐみの程度、雑味の程度、及び総合評価で特に良好な結果が得られた。
【0074】
以上の結果より、全ての評価項目において、対照品と比較して実施例の風味が改善したことが示された。したがって、本発明の低脂肪乳の製造方法で得られた低脂肪乳は、搾乳後の原料乳に対して溶存酸素濃度を低下させる処理を行い、当該原料乳に乳原料、特に溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない乳原料を添加して低脂肪乳ベースを調製した後に、溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌することで、異常風味を抑制し、風味が良好となり、嗜好性が向上することが示された。
【0075】
本発明の低脂肪乳の製造方法は、乳原料、特に溶存酸素濃度を低下させる処理を行わない通常の乳原料(粉乳、濃縮乳)を溶存酸素の低下させた原料乳に添加して低脂肪乳ベースを調製した場合であっても、その後に溶存酸素濃度を低下させてから加熱殺菌することにより、風味の良好な低脂肪乳となったことは特筆すべきである。