(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】搬送装置、および分析システム
(51)【国際特許分類】
H02P 25/064 20160101AFI20230801BHJP
G01N 35/04 20060101ALI20230801BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H02P25/064
G01N35/04 G
B65G54/02
(21)【出願番号】P 2019181674
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉腰 武司
(72)【発明者】
【氏名】青山 康明
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
(72)【発明者】
【氏名】星 遼佑
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 洋
(72)【発明者】
【氏名】神原 克宏
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 邦昭
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特許第6072052(JP,B2)
【文献】特開2009-131133(JP,A)
【文献】特開2016-171669(JP,A)
【文献】特開2009-238966(JP,A)
【文献】特開2008-46144(JP,A)
【文献】特表2017-527815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/064
G01N 35/04
B65G 54/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石または磁性体を含む搬送容器を搬送経路に沿って目標位置に搬送する搬送装置であって、
コアとコイルを含む磁極を複数個配置して構成され、搬送経路を有する搬送面と、
前記コイルに電流を供給する駆動部と、
前記搬送容器の位置を推定する処理を実行する位置検出部と、を備え、
前記位置検出部は、
前記搬送容器の位置を検出するために選択された第1磁極を励磁すると共に、前記第1磁極から所定範囲にある周辺の磁極であって前記第1磁極とは異なる少なくとも1つの第2磁極に対して前記第1磁極の励磁電流とは逆極性となる向きに電圧を印加する処理と、
前記第1磁極の電流値に基づいて、前記搬送容器の位置を推定する処理と、を実行する搬送装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記位置検出部は、前記逆極性となる向きに直流電圧あるいはパルス電圧を前記第2磁極に印加する、搬送装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記搬送面には、配置可能な個数よりも少ない個数の磁極が配置されている、搬送装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記複数個の磁極は、前記搬送面において、格子状に配列されている、搬送装置。
【請求項5】
複数の分析装置と、当該複数の分析装置の間に配置された複数の搬送装置と、前記分析装置および前記搬送装置の動作を制御する制御用コンピュータと、を備え、
前記複数の搬送装置のそれぞれは、磁石または磁性体を含む搬送容器を搬送経路に沿って目標位置に搬送する搬送装置であって、
コアとコイルを含む磁極を複数個配置して構成され、搬送経路を有する搬送面と、
前記コイルに電流を供給する駆動部と、
前記搬送容器の位置を検出する処理を実行し、位置検出の結果に基づく情報を前記制御用コンピュータに通知するプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、選択された磁極に励磁電流を流したときの電流変化値に基づいて、前記搬送容器が前記選択された磁極から逸脱したか否か判断して、
当該判断結果を前記制御用コンピュータ
に通知する、分析システム。
【請求項6】
請求項5において、
前記プロセッサは、前記搬送容器が前記選択された磁極から逸脱した場合、当該選択された磁極周辺の搬送容器を別の磁極の位置に移動させるように前記駆動部を制御する、分析システム。
【請求項7】
請求項5において、
前記プロセッサは、前記搬送容器が前記選択された磁極から逸脱した場合、当該選択された磁極周辺の搬送容器を別の搬送装置に移動させるように前記駆動部を制御する、分析システム。
【請求項8】
請求項5において、
前記搬送装置の前記プロセッサは、前記搬送容器の位置を検出するために選択された第1磁極を励磁すると共に、前記第1磁極から所定範囲にある周辺の磁極であって前記第1磁極とは異なる少なくとも1つの第2磁極に対して前記第1磁極の励磁電流とは逆極性となる向きに電圧を印加することにより、前記磁極が配置されていない位置における前記搬送容器の有無を判断し、判断結果を前記制御用コンピュータに通知し、
前記制御用コンピュータは、前記搬送装置からの前記判断結果に基づいて、前記分析システムにおける処理中断、処理再開、処理継続を判断する、分析システム。
【請求項9】
請求項8において、
前記プロセッサは、前記磁極が配置されていない位置における前記搬送容器の存在を確認した場合、当該搬送容器を前記搬送経路に引き込むように前記駆動部を制御する、分析システム。
【請求項10】
請求項9において、
前記プロセッサは、前記搬送容器の前記搬送経路への引き込み処理の結果を前記制御用コンピュータに通知する、分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送装置、および分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査のための検体分析システムでは、血液、血漿、血清、尿、その他の体液などの検体(サンプル)に対して、指示される分析項目の検査を実行する。この検体分析システムは、複数の機能を有する装置を接続して、自動的に各工程の処理を実行する。つまり、検査室の業務合理化のため、生化学や免疫などの複数の分析を実行する分析部(分析工程)やこの分析に必要な複数の前処理を実行する前処理部(前処理工程)などを、搬送ラインで接続して、1つの検体分析システムとして使用する。
【0003】
近年、医療の高度化及び患者の高齢化によって、検体分析の重要性が高まっている。そこで、検体分析システムの分析処理能力を向上させるため、検体の高速搬送、大量搬送、同時搬送、及び、複数方向への搬送が要望されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、高い搬送性能を有する研究室試料配送システムについて開示している。具体的に、特許文献1には、「研究室試料配送システム(100)は、いくつかの容器キャリア(1)であって、各々が少なくとも1つの磁気活性デバイス、好ましくは少なくとも1つの永久磁石を備え、試料容器(3)を運ぶように適合された容器キャリアと、前記容器キャリアを運ぶように適合された搬送平面(4)と、前記搬送平面の下方に静止して配置された複数の電磁アクチュエータであって、前記容器キャリアに磁力を印加することによって前記搬送平面の上で容器キャリアを移動させるように適合された電磁アクチュエータとを備える」と記載されている(要約参照)。
【0005】
また、特許文献1は、「システムは、搬送平面上に位置する容器キャリアの存在および位置を検知するように適合された容器キャリア検知デバイスをさらに備えることができる。この容器キャリア検知デバイスは、搬送平面の上に配設された容器キャリアの最適化された追跡を提供する」と記述している(段落[0034]参照)。
【0006】
さらに、特許文献1は、「電磁アクチュエータ5は、行と列、たとえば16行と16列の形で配置され、この行および列は第1の格子寸法g1または第2の格子寸法g2のどちらかを有し、ここでg2=2×g1である。隣接する行は異なる格子寸法を有し、隣接する列は異なる格子寸法を有する。搬送平面上のある位置またはフィールドが、目的の宛先としてアクセス可能でなければならない場合、その目的の宛先の下に、対応する電磁アクチュエータが設けられる。特定のフィールドまたは領域がアクセス可能である必要がない場合、その位置における電磁アクチュエータは省略されてもよい」と述べている(段落[0053]参照)。なお、ここで電磁アクチュエータとは、磁極(磁性体コアとコイルの組)を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1によると、検体分析システムでは検体搬送キャリアに設けられた磁気活性デバイスの位置を検出する容器キャリア検出デバイスが複数必要となる。また、これらの容器キャリア検出デバイスは移送面側に配置する必要があるため、専用のプリント回路基板が必要となる。従って、装置の複雑化とコスト増加につながるという課題がある。
【0009】
また、特許文献1では、特定のフィールドまたは領域がアクセス可能とする必要性がない場合、その位置における電磁アクチュエータは省略される場合がある。これは装置の簡略化とコスト低減の観点から望ましいが、容器キャリアがその場所に逸脱したり、何らかの原因で固着してしまった場合、その位置を検知する手段について考慮されていないので、このような事態が発生したときにシステムをスムーズに動作させることができない。
本開示はこのような状況に鑑み、容器キャリア検出デバイスを用いずに各アクチュエータ(磁極)の位置を感度よく検出する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本開示は、磁石または磁性体を含む搬送容器を搬送経路に沿って目標位置に搬送する搬送装置であって、コアとコイルを含む磁極を複数個配置して構成され、搬送経路を有する搬送面と、コイルに電流を供給する駆動部と、搬送容器の位置を推定する処理を実行する位置検出部と、を備え、位置検出部は、搬送容器の位置を検出するために選択された第1磁極を励磁すると共に、第1磁極から所定範囲にある周辺の磁極であって第1磁極とは異なる少なくとも1つの第2磁極に対して第1磁極の励磁電流とは逆極性となる向きに電圧を印加する処理と、第1磁極の電流値に基づいて、搬送容器の位置を推定する処理と、を実行する搬送装置を提案する。
【0011】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではないことを理解する必要がある。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、低コストで信頼性が高く、検出感度の高い搬送装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】基本原理に係る搬送装置1の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す搬送装置1の部分的断面構成例を示す模式図である。
【
図3】基本原理によって搬送装置1が搬送容器20の位置を検出するためにコイルに印加する電圧波形とそれに対応する電流波形とを説明するための図である。
【
図4】電流検出のための具体的構成例を示す模式図である。
【
図5】搬送装置1の磁極25が配置された搬送平面の概略構成例を示す上面図である。
【
図6】選択した磁極25(最寄の磁極25)からの距離を横軸、電流変化量を縦軸にしたグラフである。
【
図7】改良案による搬送装置1における磁極の配置(1)を説明する説明図である。
【
図8】改良案による搬送装置1における磁極の配置(2)を説明する説明図である。
【
図9】改良案による搬送装置1における磁極の配置(3)を説明する説明図である。
【
図10】選択したコイル21の励磁電流とは逆特性の電圧特性の例を示す図である。
【
図11】磁極と搬送容器の距離と、パルス電圧を印加したときの、コイルの電流変化量の関係を示す説明図である。
【
図12】改良案による搬送装置1において、磁極25を励磁したときの磁路を模式的に示す図である。
【
図13】本実施形態による分析システム100の概略構成例を示す図である。
【
図14】分析システム100の搬送経路を構成する、個々の搬送装置1の制御回路構成例を示すブロック図である。
【
図15】分析システム100で実行される位置検出処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態は、例えば、血液、血漿、血清、尿、その他の体液などの生体試料(以下「検体」と呼称する)の分析を実行する検体分析装置やこの分析に必要な前処理を実行する検体前処理装置などの検体分析システムに使用する搬送装置に関するものである。
【0015】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0016】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0017】
更に、本開示の実施形態は、後述されるように、汎用コンピュータ上で稼動するソフトウェアで実装しても良いし専用ハードウェア又はソフトウェアとハードウェアの組み合わせで実装しても良い。
【0018】
(1)基本原理
<搬送装置の概略構成>
(i)部分構成例
図1は、本実施形態による搬送装置1の概略構成を示す図である。
図1は、2つの隣り合う磁極25と永久磁石10が相対的に動作する搬送装置の概略を模式的に示している。
【0019】
搬送装置1は、永久磁石(磁性体)10を具備する搬送容器20(搬送容器(検体ホルダ)20と同義である:
図2参照)をその上方で搬送する搬送平面(
図5など参照)と、搬送平面の下方に配置され、磁性体であるコア22とその外周側に巻回される巻線であるコイル21とを具備する磁極25と、磁極25のコイル21に電圧を印加する駆動部(搬送容器を駆動する駆動装置)50と、コイル21に流れる電流を検出する電流検出部30と、検出した電流値に基づき駆動部50を制御する演算部(駆動装置を制御する制御装置)40と、を備える。
【0020】
永久磁石10は、搬送容器20に配置される。永久磁石10には、例えば、ネオジムやフェライトなどの永久磁石10が使用される。なお、本実施形態1では、永久磁石10を使用して説明するが、永久磁石10の代わりに、その他の磁石や軟磁性体を使用してもよい。また、永久磁石10の代わりに、永久磁石10と軟磁性体とを組み合わせて、使用してもよい。
【0021】
なお、ここで「磁性体」とは、永久磁石10、その他の磁石や軟磁性体、又は、永久磁石10と軟磁性体との組み合わせなどを、意味することとする。ここでは、磁性体の一例(代表例)として、永久磁石10を使用して基本原理について説明する。
【0022】
(ii)部分的断面構成例
図2は、
図1に示す搬送装置1の部分的断面構成例を示す模式図である。検体ホルダなどの搬送容器20は、検体(容器)の保持部と永久磁石10とが一体となるように構成される。搬送容器20は、搬送平面を介して、磁極25と対向して配置される。
【0023】
搬送装置1は、磁極25のコイル21に電流を流すことにより、コア22に電磁力を発生させ、搬送容器20に配置する永久磁石10が、複数の磁極25間(磁極25と磁極25との間)の上方で、かつ搬送平面上を滑るようにして、相対的に移動するように制御し、搬送容器20を所望の位置まで搬送する。
【0024】
搬送装置1では、永久磁石10と磁極25との相対的な位置情報が必要となる。これは、磁極25のコイル21に電流を流すことによりコア22に発生させた電磁力を効率よく永久磁石10に作用させるためであり、また、永久磁石10を目的の方向に移動させるためである。例えば、永久磁石10が、2つの磁極25の一方の上方(直上)にある場合を想定する。永久磁石10の直下にある磁極25a(コイル21a)に電圧を印加しても、永久磁石10には、搬送方向への力(推力)が発生しない。一方、永久磁石10が上方(直上)にない(永久磁石10の直下にない)磁極25b(コイル21b)に電圧を印加すると、永久磁石10をその磁極25bに引き寄せる力が発生し、搬送方向への力(推力)が発生する。つまり、所望の磁極25(コイル21)に電圧を印加することによって、永久磁石10に効率よく搬送方向への力を発生させることができる。そして、電圧を印加する磁極25(コイル21)を選択することによって、搬送方向への力の向き(方向)を制御することができる。
【0025】
<搬送容器の位置検出の原理>
搬送経路上の搬送容器20の位置検出について説明する。
図1の手前側の磁極25の上に永久磁石10があった場合、永久磁石10が作る磁場が磁極25に作用する。ここで、永久磁石10に近い側の磁極25と、遠い側の磁極25とでは、作用する磁場の大きさが異なる。つまり、永久磁石10と磁極25の相対位置によって磁極25に作用する磁場の大きさが変わることになる。
【0026】
コア22は磁性体で構成されており、コア22を通る磁束は、磁束が大きくなると通りにくくなる、という性質がある。ここで、コイル(巻線)21に電圧を印加して電流を流すと、その電流によって生じた磁束(磁場)がコア22に発生する。したがって、コア22には、永久磁石10による磁束(磁場)と、コイル(巻線)21に流した電流によって生じる磁束(磁場)と、が発生する。一般的に、コイル(巻線)21に電流を流すと、その周りに磁場が発生し、生じる磁束は流した電流値に比例する。この比例定数はインダクタンスとよばれる。しかし、コア22などの磁性体を有した回路では、コア22の飽和特性により、インダクタンスが変化する。
【0027】
コア22の飽和が発生すると、コア22に生じる磁束の大きさによってインダクタンスが変わる。つまり、永久磁石10の磁束の大きさによってコイル(巻線)21のインダクタンスが変化する。これは、永久磁石10の位置によってコイル(巻線)21のインダクタンスが変化することを意味する。つまり、永久磁石10からの磁場があるとコイル(巻線)21に磁気飽和が起こって透磁率が小さくなるため、コイル(巻線)21に流れる電流に変化が生じることになる。
【0028】
従って、コイル(巻線)21に電圧を印加した場合、コイル(巻線)21に流れる電流とその流れ方を検出することにより、インダクタンスLを演算で求めることができる。つまり、永久磁石10の位置によって変化するコイル(巻線)21のインダクタンスLを検出すれば、そのインダクタンスに影響を与える永久磁石10の位置が求められることになる。そのため、磁極25のうちコイル(巻線)21に駆動部50を接続するとともに、コイル(巻線)21に流れる電流値を検出する電流検出部30(例えば、抵抗を配置)を設ける。そして、駆動部50によりコイル(巻線)21に電圧を印加し、その電圧によって生じる電流値を電流検出部30で検出し、その値を演算部40で読み取る。
【0029】
<コイルへの印加電圧波形と検出される電流波形>
搬送装置1における、搬送容器の位置を検出するためにコイルに印加する電圧波形と対応する電流波形について説明する。
図3は、基本原理によって搬送装置1が搬送容器20の位置を検出するためにコイルに印加する電圧波形とそれに対応する電流波形とを説明するための図である。
【0030】
電圧パルス60の大きさ(V)やパルス幅(T)は、磁極25に、どの程度の電圧を印加するかによって決定される。そして、搬送容器20の永久磁石10が磁極25に接近すると、磁極25の磁気飽和によって、電流波形70aから電流波形70bに変化する。
【0031】
搬送装置1は、電流を検出する電流検出部30を有し、この電流検出部30にて検出され、演算部40によって測定された電流値に基づいて、搬送容器20の位置を検出することができる。つまり、電流検出部30が検出する電流の変化量(位置検出パルスの立上り/立下りの電流の変化量)を検出することによって、搬送容器20の位置を検出する。
図3Aに示されるように、磁極25が搬送容器20の永久磁石10による影響を受けない場合は、電流変化量はI1となる。一方、
図3Bに示されるように、磁極25が搬送容器20の永久磁石10による影響を受ける場合(例えば、磁極25の真上や近傍に永久磁石10がある場合)は、電流変化量はI1より大きいI2となる。
【0032】
なお、電流検出部30は、直列抵抗や、たとえば、カレントトランスによるもの、ホール電流センサを用いたものなどが考えられるが、これらに限定するものではない。
【0033】
<電流検出のための構成例>
図4は、電流検出のための具体的構成例を示す模式図である。
図4に示すように、2つの磁極25と永久磁石10が相対的に動作する搬送装置1Aでは、磁極25は、円柱状のコア22とコアの外周側にまかれたコイル(巻線)21で構成される。また、円柱状のコア22に対向するように永久磁石10が配置される。コイル(巻線)21には、駆動部50が接続されている。
さらに、コイル(巻線)21と駆動部50の間には、コイル(巻線)21に流れる電流を検出するための抵抗31が設けられている。
搬送装置1は、複数行および複数列に磁極が配置され、搬送経路を形成する。
【0034】
<搬送平面の構成例>
図5は、搬送装置1の磁極25が配置された搬送平面の概略構成例を示す上面図である。
図5には、5行5列の磁極25が格子状に配列され、搬送経路を形成している。搬送経路は、この格子状に配置された磁極25の上を進むように設定される。
【0035】
搬送装置1は、目標とする搬送経路に基づいて、磁極25を励磁する(磁極25(コイル21)に電圧を印加する)ことによって、永久磁石10を具備する搬送容器20を、任意の目的の方向(搬送方向)に搬送することができる。
【0036】
1つの磁極を励磁すると、その磁極の上下左右に隣接する磁極上の搬送容器が引き寄せされるため、搬送経路は1列飛びおよび1行飛びの格子状になっている方が望ましい(磁極25を密に敷き詰めると複数載置された搬送容器20同士が衝突しやすくなる)。このため、搬送経路外の領域では磁極25を省略することができ、部品コストを削減したり、軽量化したりすることができる。
【0037】
磁極25間の距離(磁極25の中心間の距離)をdとすると、搬送平面上での搬送容器20と磁極25との距離は、最大でdとなる(搬送容器が搬送経路から外れているときの最大距離)。一方、搬送経路上では、搬送容器20と磁極25との距離は、最大でd/2となる。
【0038】
何らかの異常が発生した場合に、容器キャリアが搬送経路外の、磁極25が配置されていない場所に逸脱し、その場所に何らかの原因で固着してしまった場合には、搬送容器の有無を検出する方法が特許文献1には開示されていない。特許文献1では、例えば、搬送平面上で磁極25が配置されていない位置には、搬送容器20の位置検出用の専用デバイスを配置するなどが考えられるが、専用デバイスの制御回路が必要となり、コスト増加につながる。
【0039】
本実施形態(基本原理および後述の改良案)によれば、搬送装置1は、搬送平面上で磁極25が配置されていない位置での搬送容器20の有無を検出するために、最寄の磁極25の中からまず1つを選択する。なお、最寄の磁極25として、例えば、搬送容器20の搬送経路上での搬送履歴情報(現時点まで通過した経路、移動速度(平均値でもよい)、現時点までの移動時間)に基づいて、現時点で予定される搬送位置周辺の複数の磁極25の中から選択することができる。
図5は、最寄の磁極25の候補例を示している。搬送装置1の平面格子点上の縁部や角部の位置の検体ホルダの有無を検出する場合には、例外的に、最寄の磁極は3つ、あるいは2つとなる。
【0040】
そして、その選択された最寄の磁極25の両隣の磁極25上には搬送容器20が無いことを前述の位置検出方法(電流変化量を確認する方法:電流変化量と位置との関係を示すテーブル(例えば、
図6参照)に基づいて、検知した電流変化量に対応する相対位置を求める)によって確認することができる。その両隣の磁極25上に搬送容器20がある場合には、搬送容器20の前述の駆動方法によって搬送経路上の別の場所に移動させることができる。
【0041】
また、選択した磁極25に所定のパルス電圧を印加し、前述の搬送容器20の位置検出方法と同様に、電流変化量から、選択した磁極25から距離xだけ離れた位置の搬送容器20の有無を検出することができる。
【0042】
<選択した磁極からの距離と電流変化量との関係>
図6は、選択した磁極25(最寄の磁極25)からの距離を横軸、電流変化量を縦軸にしたグラフである。これにより、電流変化量に対応する、選択した磁極25からの距離を知ることができる。
【0043】
このとき、前述の搬送経路上の搬送容器20の有無の検出とは異なり、磁極25から距離d/2以上の距離を離れた位置での搬送容器20を検出するため、搬送中とは異なる閾値、あるいは磁極から距離d/2以上の距離を離れた位置での電流変化量を基準とした閾値によって、搬送経路上から逸脱した場所での搬送容器20の有無を判定するようにしてもよい。搬送容器20が距離d/2以上の位置に存在すると判定された場合、選択した磁極25の両隣にある磁極25上には搬送容器20が無いことを確認しているため、選択した磁極25の両隣の磁極25が配置されていない位置の、両方あるいは少なくともどちらかに搬送容器(検体ホルダ)20が存在することが分かる。
【0044】
以上によって、コイル電流(あるいはシャント抵抗を流れる電流)を用いて搬送容器20の位置検出(位置推定)を行う検体搬送装置1であって、搬送容器20が搬送面上の磁極25の配置されていない搬送経路外の位置に逸脱したり、何らかの原因で固着してしまったりする場合でも、専用の位置検出デバイスを用いることなく、搬送容器(検体ホルダ)20の有無を検出することができる。
【0045】
(2)基本原理の改良案
改良案に係る搬送装置1について、
図7から
図12を用いて説明する。改良案は、基本原理で説明した磁極25の位置検出方法に改善を加えるものであり、コイル21から距離d/2以上離れた位置の搬送容器(検体ホルダ)20の有無を検出するために、周辺のコイル211の全てあるいは少なくとも1つを利用して検出感度を向上させることができる。つまり、基本原理による方法では、対象の搬送容器20が磁極25上にあるか否かについては感度よく判断することができるが、磁極25(搬送経路)から外れた場合に、対象の搬送容器20が搬送面であって磁極25は配置されていない位置に存在するか否かを感度よく検出することはできない。そこで、本開示は、基本原理を改良して、より感度よく搬送容器20の位置を検出することができるようにした改良案を提案する。
【0046】
<周辺のコイルの概念>
周辺のコイル211とは、選択されたコイル21(最寄のコイル21:基本原理で述べた方法に従って最寄のコイルを選択することができる)からの距離がd、d√2、あるいは2dなどに含まれる複数のコイル211(最寄のコイル以外のコイル)を意味し、その個数はそれぞれ2個(
図7に示す搬送平面構成例の場合)、6個(
図8に示す搬送平面構成例の場合)、10個(
図9に示す搬送平面構成例の場合)などとなる。
【0047】
<周辺のコイルに対する電圧印加>
当該改良案では、搬送容器(検体ホルダ)20の検出感度を高くするため、周辺のコイル211に対して、選択したコイル(最寄のコイル)21の励磁電流とは逆極性になる向きに電圧(任意の電圧値)を印加する。この電圧は直流であっても、パルス電圧であっても構わない。コイル電流は直流でなくても構わないが、平均値が概略一定とすることができる。
図10は、選択したコイル21の励磁電流とは逆特性の電圧特性の例を示す図である。励磁電流とは逆特性の電圧をパルス電圧とする場合、流す電流値に応じて任意のデューティ比を採用することができる。
【0048】
なお、周辺のコイル211の上やその隣には搬送容器(検体ホルダ)20は無い方が望ましい。搬送容器(検体ホルダ)20が周辺コイル211上あるいは近傍にあるか否かは、上述の基本原理による位置検出方法を用いることによって確認することができる。周辺のコイル211上に搬送容器(検体ホルダ)20があると判断した場合、搬送装置1は、搬送容器(検体ホルダ)20を、通常の駆動方法によって別の場所に移動させることができる。
【0049】
<検出感度向上>
当該改良案によれば、選択したコイル(最寄のコイル)21の周辺のコイル211を、選択したコイル21への励磁電流とは逆極性で励磁した状態で、上述の基本原理と同様に、選択したコイル21に所定のパルス電圧を印加する。そして、通常の搬送容器(検体ホルダ)20の位置検出方法と同様に、電流変化量に基づいてコイル21から距離dだけ離れた位置の搬送容器(検体ホルダ)20の有無を検出する。
【0050】
このとき周辺のコイルを逆極性で励磁した結果、選択したコイルの鉄心が磁気飽和を起こしやすい状態となり、選択したコイル直上はもちろん、距離d離れた位置に検体ホルダがあるときと無いときの電流変化量の差異が大きくなり、検体ホルダ有無の検出感度が向上する。
図11は、磁極と搬送容器の距離と、パルス電圧を印加したときの、コイルの電流変化量の関係を示す説明図である。
図11からも分かるように、選択したコイル21への励磁電流とは逆極性で励磁した状態で、選択したコイル21に所定のパルス電圧を印加すると、搬送容器20の位置検出感度が向上している。
【0051】
次に、磁気飽和による検出感度向上の原理について説明する。
図12は、当該改良案による搬送装置1において、磁極25を励磁したときの磁路を模式的に示す図である。磁極25は、コイル21とコア(鉄心)22とによって構成される。搬送容器(検体ホルダ)20の位置検出に利用する電流変化量は、コイル21のインダクタンスに反比例する。また、コイル21のインダクタンスは、コア(鉄心)22の比透磁率に概略比例する。コイル21の近くに搬送容器(検体ホルダ)20内の磁石10(あるいは磁性体)があるときと無いときでは、その磁石10(あるいは磁性体)からでる磁場がコア(鉄心)22を通るため、コア(鉄心)22内の磁場が変化する(
図12B)。このとき、コア(鉄心)22の比透磁率も対応して変化するため、コイル21のインダクタンスが変化し、電流変化量も変化する。このような原理によって、コイル21の近くの搬送容器(検体ホルダ)20の有無によって電流変化量が変化する。
【0052】
そして、選択したコイル21の周辺のコイル211を逆極性で励磁すると、選択したコイル21には同極性の磁束が増える。これによって、コア(鉄心)22が磁気飽和を起こしやすい状態に変化し、搬送容器(検体ホルダ)20の有無による電流変化量の変化が大きくなる(
図12C)。
【0053】
以上によって、コイル電流(あるいはシャント抵抗を流れる電流)を用いて搬送容器の位置検出を行う検体搬送装置において、搬送容器が、搬送面上の磁極の配置されていない搬送経路外の位置に、搬送容器20が逸脱したり、何らかの原因で固着してしまったりした場合でも、基本原理と同様に、専用の用意器キャリア検知デバイス(位置検出デバイス)を用いることなく、搬送容器(検体ホルダ)20の有無を検出することができるようになる。なお、基本原理の場合と比較して、励磁するコイル数は増えるが、検出感度を向上することができる。
【0054】
(3)分析システム(搬送システム)
本実施形態による分析システム(後述の分析システム100)は、搬送面上の磁極の配置されていない搬送経路外の位置に、搬送容器20が逸脱したり、何らかの原因で固着してしまったと推測される場合に、上述の基本原理あるいは改良案で説明した、各搬送装置1の搬送面上の個々の場所で搬送容器20を検出する処理を行う。
【0055】
<システム構成例>
図13は、本実施形態による分析システム100の概略構成例を示す図である。分析システム100は、制御用コンピュータ101と、複数の分析装置102と、分析装置102間で搬送容器(検体ホルダ)20を搬送する、複数の搬送装置1と、を備える。分析装置102の個数、搬送装置1の個数は、分析対象の検体の種類や分析内容によって変わるものである。制御用コンピュータ101は、搬送容器(検体ホルダ)10を搬送する搬送経路の指定や分析の順序など、システム全体の制御を行う。また、制御用コンピュータ101は、オペレータからの指示入力に応答して、指定された動作を行う。
【0056】
図14は、分析システム100の搬送経路を構成する、個々の搬送装置1の制御回路構成例を示すブロック図である。搬送装置1の制御回路は、CPUやMPUなどで構成されるプロセッサ201と、各種データや動作パラメータなどを格納するメモリ202と、搬送容器20の位置検出の演算を行う位置検出部203と、コイル端子204に電圧を印加してコイル21を駆動するコイル駆動部205と、シリアル通信やパラレル通信などの入出力ポート、キーボート、マウス、タッチパネルなどで構成される入力装置206と、ディスプレイやプリンタなどで構成される出力装置207とを備え、それらがバス208で互いに接続されている。
図1に示す搬送装置1との対応関係を示すと、位置検出部203の機能は演算部40に含まれ、コイル駆動部205は前出の駆動部50に相当する。なお、位置検出部203の一部の機能をソフトウェアプログラムで実現してプロセッサ201がそれを実行するようにしてもよい。
【0057】
<位置検出処理(位置確認処理)の内容>
図15は、分析システム100で実行される位置検出処理の詳細を説明するためのフローチャートである。以下では、動作主体として、位置検出部203およびプロセッサ201が各処理を実行するように説明するが、位置検出部203の機能をソフトウェアプログラムで実現するので、プロセッサ201のみを動作主体として説明してもよい。
【0058】
(i)ステップ1501
位置検出部203は、磁極25が敷かれた搬送経路上における搬送容器20の有無の確認を、上述の基本原理で説明した方法で実行する。つまり、位置検出部203は、経路を構成する各磁極25のコイル21に電圧を印加したときの電流変化量を検出し、その電流変化量をテーブル(
図6)に適用することによって、経路上に搬送容器20が存在するか判断する。
【0059】
(ii)ステップ1502
位置検出部203は、ステップ1501の結果に基づいて、搬送容器20が搬送経路の磁極25上から逸脱しているか判断する。例えば、制御指令で指定したコイル位置付近、あるいは経過時間に基づいて演算される搬送経路上の想定位置(搬送速度と経過時間でおおよその位置を算出)付近に対象の搬送容器20が検出されない場合は、搬送容器20が搬送経路から逸脱したと判定することができる。逸脱していると判断された場合(ステップ1502でYesの場合)、処理はステップ1502に移行する。逸脱していないと判断された場合(ステップ1502でNoの場合)、処理はステップ1503に移行する。
【0060】
(iii)ステップ1503
位置検出部203は、搬送容器20の搬送動作が正常に行われていると判断し、位置検出処理を終了する。
【0061】
(iv)ステップ1504
位置検出部203は、搬送容器20が搬送経路の磁極25上から逸脱したことをプロセッサ201に通知する。そして、当該通知を受けたプロセッサ201は、制御用コンピュータ(外部サーバ)101に通知する。
【0062】
(v)ステップ1505
位置検出部203は、逸脱していると判断した対象の搬送容器20の周辺に別の搬送容器20が存在するか判断し、存在する場合にはそれを退避させる。別の搬送容器20の有無は、上記基本原理と同様の方法によって判断することができる。また、対象の搬送容器20の周辺に他の搬送容器20が密集している場合には、プロセッサ201は、隣接する搬送装置1のプロセッサ201から隣接する搬送経路上の搬送容器20の位置情報を受信し、当該他の搬送容器20を隣接する搬送装置1に移動させるようにコイル駆動部205を制御し、対象の搬送容器20が搬送経路上を移動できる空間を確保する。
【0063】
(vi)ステップ1506
位置検出部203は、前述の改良案で説明した方法で、磁極25が配置されていない位置における搬送容器20の有無を確認する(改良案によれば、磁極25(コイル21)が配置されていない場所に搬送容器20が逸脱しても搬送容器20の有無を検出可能)。
【0064】
(vii)ステップ1507
位置検出部203は、ステップ1506の結果に基づいて、磁極25が配置されていない位置に対象の搬送容器20があるか確認する。磁極25が配置されていない位置に対象の搬送容器20があると判断された場合(ステップ1507でYesの場合)、処理はステップ1508に移行する。磁極25が配置される位置に対象の搬送容器20があると判断された場合(ステップ1507でNoの場合)、処理はステップ1511に移行する。
【0065】
(viii)ステップ1508
位置検出部203は、隣接するコイルを励磁して搬送容器を引き込む前に、同時に2つの搬送容器20を同じ場所に引き込まないようにしなければならないため、選択した磁極25(対象の搬送容器20の最寄のコイル21)に隣接する磁極25上に他の搬送容器20が無いことを先に確認する必要がある。
【0066】
プロセッサ201は、位置検出部203からの通知(対象の搬送容器20が磁極25に配置されていない位置にあり、かつ他の搬送容器20が隣接する磁極25に無いこと)を受け、対象の搬送容器20に隣接する磁極25のコイル21を励磁し、対象の搬送容器20を搬送経路上に引き込むようにコイル駆動部205を制御する。
【0067】
(ix)ステップ1509
プロセッサ201は、引き込みが成功したか判断する。引き込みが成功した場合(ステップ1508でYesの場合)、処理はステップ1510に移行する。引き込みが失敗した場合(ステップ1509でNoの場合)、処理はステップ1512に移行する。
【0068】
(x)ステップ1510
プロセッサ201は、搬送容器20を搬送経路へ引き込みが成功したことを分析システム100の制御用コンピュータ(外部サーバ)101に通知する。そして、この通知を受け、制御用コンピュータ101は、分析システム100の動作を再開あるいは継続する。
【0069】
(xi)ステップ1511
位置検出部203は、対象の搬送容器20が搬送面(磁極25が配置された箇所および配置されていない箇所)上で確認できないことをプロセッサ201に通知する。当該通知を受けたプロセッサ201は、対象の搬送容器20が確認できないことを制御用コンピュータ(外部サーバ)101に通知する。なお、「搬送面上で確認できない」には、例えば、予め決められた領域、あるいは対象お搬送容器20が本来あるべき場所およびその周辺で確認できないことを意味すると定義することもできる。
【0070】
(xii)ステップ1512
搬送面上の搬送経路外の磁極25が無い位置に対象の搬送容器20がある場合で、隣接するコイルを励磁して搬送容器(検体ホルダ)20を引き込めない場合には、何らかの理由でその場所に搬送容器(検体ホルダ)20が固着している可能性がある。このようなときには、位置検出部203は、対象の搬送容器20が搬送経路外に逸脱して、移動させることができない状態であることを、プロセッサ201に通知する。プロセッサ201は、この通知を受けて、対象の搬送容器20を搬送経路上に移動させることができないことを制御用コンピュータ(外部サーバ)101に通知する。これによってシステム運用者は、異常の起きた箇所を的確に確認することができる。
【0071】
(xiii)ステップ1513
制御用コンピュータ101は、異常が発生していると判断して、分析システム100の動作を中断する。なお、制御用コンピュータ101は、異常が発生している箇所を避けて、残りの搬送容器(検体ホルダ)20の搬送処理を再開あるいは継続するようにしてもよい。
【0072】
<搬送システムの技術的効果>
複数の搬送装置1によって構成される搬送経路上で、搬送容器20を移動させられる空間が十分にあれば、以上の方法によって、搬送表面上の搬送容器20の有無を確認し、搬送経路上に引き込んだり、システム管理者にメッセージを表示するなどした上で、搬送処理の継続や再開を行うことができる。
【0073】
以上のように、コイル電流(あるいはシャント抵抗を流れる電流)を用いて搬送容器20の位置検出を行うことができる搬送装置1を複数連結して構成される分析システム100において、ある搬送容器20が、搬送面上の磁極の配置されていない搬送経路外の位置に逸脱したり、何らかの原因で固着してしまった場合でも、専用の用意器キャリア検知デバイス(位置検出デバイス)を用いることなく、対象の搬送容器(検体ホルダ)20の有無を検出し、それを搬送経路上に引き込んだり、システム管理者にメッセージを表示するなどした上で、搬送処理の継続や再開を行うことができるようになる。
【0074】
(4)まとめ
(i)本実施形態による搬送装置1では、搬送容器20の位置を検出するために選択された磁極(第1磁極)を励磁すると共に、第1磁極から所定範囲にある周辺の磁極(
図7から
図9を参照)であって第1磁極とは異なる少なくとも1つの第2磁極に対して第1磁極の励磁電流とは逆極性となる向きに電圧を印加し、第1磁極の電流値に基づいて、搬送容器の位置を検出(推定)するようにしている。これにより、搬送経路上のみならず、磁極が配置されていない箇所における搬送容器20の有無の検出感度を向上させることが可能となる。なお、周辺の磁極に印加する電圧は、逆極性となる向きの直流電圧あるいはパルス電圧とすることができる。
【0075】
また、搬送装置1の搬送面には、配置可能な個数よりも少ない個数の磁極が配置されている。例えば、格子状に複数の磁極25を配列するようにして搬送面を構成することができる。
【0076】
(ii)本実施形態による分析システム(搬送システムと称してもよい)100は、
図13に示されるように、複数の分析装置102と、複数の分析装置の間に配置された複数の搬送装置1と、分析装置102および搬送装置1の動作を制御する制御用コンピュータ101と、を備える。このような分析システム100では、
図15のフローチャートに従って、位置検出処理を含むシステムの制御動作が実行される。
【0077】
分析システム100では、まず、各搬送装置1のプロセッサは、上述の基本原理に従って、選択された磁極に励磁電流を流したときの電流変化値に基づいて、搬送容器20が選択された磁極から逸脱したか(搬送経路から逸脱したか)否か判断して、当該判断結果を制御用コンピュータ101に判断結果(逸脱していない場合:システム動作は正常と判断される;逸脱している場合:次の動作に移行)を通知する。これにより、専用の容器キャリア検出デバイスを用いずに搬送容器20が搬送経路上にあるか否かを感度よく判断することができる。
【0078】
また、当該分析システム100では、搬送容器20が選択された磁極(搬送経路)から逸脱したと判断された場合、当該選択された磁極周辺の搬送容器20を別の磁極の位置に移動させるように駆動部50(コイル駆動部205)を制御する。あるいは、搬送容器20が選択された磁極から逸脱した場合、当該選択された磁極周辺の搬送容器を別の搬送装置1に移動させるように駆動部50を制御してもよい。これにより、対象の搬送容器20が搬送経路上に移動できる空間を確保することが可能となる。
【0079】
さらに、分析システム100では、搬送容器20の位置を検出するために選択された第1磁極を励磁すると共に、第1磁極から所定範囲にある周辺の磁極であって第1磁極とは異なる少なくとも1つの第2磁極に対して前記第1磁極の励磁電流とは逆極性となる向きに電圧を印加する。これにより、磁極が配置されていない位置(搬送経路外)における搬送容器20の有無を判断することが可能となる。そして、制御用コンピュータ101は、当該判断結果に基づいて、分析システム100における処理中断、処理再開、処理継続を判断する。
【0080】
(iii)なお、本開示は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を、他の実施形態の構成の一部に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の一部を、追加、削除、置換をすることも可能である。
【0081】
また、本開示は、実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本開示を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0082】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0083】
さらに、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することにより、それをシステム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納し、使用時にそのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしても良い。
【0084】
また、上述の実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていても良い。
【符号の説明】
【0085】
1、1A 搬送装置
10 永久磁石
21、21a、21b コイル
22 コア
25、25a、25b 磁極
30 電流検出部
40 演算部
50 駆動部
100 分析システム
101 制御用コンピュータ
102 分析装置
201 プロセッサ
202 メモリ
203 位置検出部
204 コイル端子
205 コイル駆動部
206 入力装置
207 出力装置
208 バス
211 周辺のコイル