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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金および金属水素化物電池
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/00 20060101AFI20230801BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C22C19/00 F
H01M4/38 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019231413
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021098878
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 治通
(72)【発明者】
【氏名】小島 由継
(72)【発明者】
【氏名】山口 匡訓
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-126837(JP,A)
【文献】特表2016-528676(JP,A)
【文献】特開2002-080905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00-19/07
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AB5型の水素吸蔵合金であって
0℃における解離圧は、0.2MPa以上であり、かつ
シェラーの式により求められる結晶子サイズは、22nmから38nmであ
下記式(1):
La a Ce b Pr c Nd d Ni e Co f Mn g Al h (1)
により表される化学組成を有し、
上記式(1)中、
a、b、c、d、e、f、g、hは、各元素の原子比を示し、
aは、0.2から0.3であり、
bは、0.5から0.6であり、
cは、0から0.1であり、
dは、0.1から0.2であり、
eは、3.9から4.2であり、
fは、0.6から0.8であり、
gは、0から0.4であり、かつ
hは、0から0.1である、
水素吸蔵合金。
【請求項2】
請求項1に記載の水素吸蔵合金を含む、
金属水素化物電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素吸蔵合金および金属水素化物電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-204745号公報(特許文献1)は、1MPaの圧力下において、水素吸蔵合金を使用することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-204745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属水素化物電池が開発されている。金属水素化物電池においては、水素吸蔵合金が負極活物質とされる。水素吸蔵合金は水素(H)を吸蔵することにより、金属水素化物(MH)を形成する。例えば、ニッケル金属水素化物電池(Ni-MH)は、金属水素化物電池の代表例である。Ni-MHにおいては、水酸化ニッケルが正極活物質とされる。以下、金属水素化物電池が「電池」と略記され得る。
【0005】
水素吸蔵合金が負極活物質として使用される時、水素吸蔵合金の「解離圧」および「水素吸蔵量」が重要な特性となる。解離圧は、水素吸蔵合金が水素を放出する圧力を示す。例えば、市販のNi-MHにおいては、大気圧下で水素吸蔵合金が使用される。この場合、水素吸蔵合金の解離圧は、大気圧(≒0.1MPa)以下であることが求められる。水素吸蔵量は、電池の容量密度に影響する。水素吸蔵量が大きい程、電池の容量密度が高くなり得る。
【0006】
近年、高圧環境下で水素吸蔵合金を使用することも検討されている(例えば、特許文献1等)。AB5型の水素吸蔵合金の中に、高い解離圧を有する合金が見出されている。例えば、希土類元素を含むMmNi5系合金は、0.2MPa以上の解離圧を有し得る。以下、0.2MPa以上の解離圧を有する水素吸蔵合金が「高解離圧合金」とも記される。
【0007】
高解離圧合金が負極活物質として使用されることにより、電池の性能向上が期待される。例えば、ネルンスト(Nernst)の式から、水素吸蔵合金の解離圧が高くなる程、電池の放電電圧が高くなると考えられる。放電電圧が高くなることにより、電池出力の増大が期待される。さらに、高解離圧合金は、大きい水素吸蔵量を有する傾向がある。高解離圧合金の使用により、容量密度の向上も期待される。
【0008】
しかしながら、従来の高解離圧合金は、大きい電気抵抗を有する傾向がある。そのため、電池の放電電圧が低下する可能性がある。
【0009】
本開示の目的は、放電電圧が高く、かつ水素吸蔵量が大きい水素吸蔵合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし、本開示の作用メカニズムは、推定を含んでいる。作用メカニズムの正否は、特許請求の範囲を限定しない。
【0011】
〔1〕 水素吸蔵合金は、AB5型である。Aサイトは、Mmを含む。Bサイトは、Niを含む。20℃における解離圧は、0.2MPa以上である。シェラーの式により求められる結晶子サイズは、22nmから38nmである。
【0012】
本開示の新知見によると、シェラー(Scherrer)の式により求められる結晶子サイズと、放電電圧との間に相関関係がみられる。結晶子サイズが38nm以下であることにより、放電電圧の上昇が期待される。ただし、結晶子サイズは22nm以上である。結晶子サイズが22nm未満になると、無視できない程度に水素吸蔵量が減少する可能性がある。
【0013】
〔2〕 上記〔1〕に記載される水素吸蔵合金は、例えば、下記式(1):
LaaCebPrcNddNieCofMngAlh (1)
により表される化学組成を有していてもよい。
上記式(1)中、「a、b、c、d、e、f、g、h」は、各元素の原子比を示す。
「a」は、0.2から0.3である。
「b」は、0.5から0.6である。
「c」は、0から0.1である。
「d」は、0.1から0.2である。
「e」は、3.9から4.2である。
「f」は、0.6から0.8である。
「g」は、0から0.4である。
「h」は、0から0.1である。
【0014】
〔3〕 本開示における金属水素化物電池は、上記〔1〕または〔2〕に記載される水素吸蔵合金を含む。
【0015】
本開示における金属水素化物電池は、高出力および高容量密度を有することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、六方晶系の結晶格子を示す概念図である。
図2図2は、水素吸蔵合金の圧力-組成等温線図の一例である。
図3図3は、本実施形態における金属水素化物電池を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示における実施形態(以下「本実施形態」とも記される。)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0018】
本実施形態において、例えば「22nmから38nm」等の記載は、特に断りのない限り、境界値を含む範囲を示す。すなわち、例えば「22nmから38nm」の記載は、「22nm以上38nm以下」の範囲を示す。
【0019】
<水素吸蔵合金>
本実施形態における水素吸蔵合金は、任意の形態を有し得る。水素吸蔵合金は、例えば、粉末状であってもよい。
【0020】
図1は、六方晶系の結晶格子を示す概念図である。
本実施形態における水素吸蔵合金は、AB5型である。AB5型の水素吸蔵合金は、六方晶系CaCu5型の結晶構造を有する。
【0021】
《結晶子サイズ》
本実施形態における水素吸蔵合金は、22nmから38nmの結晶子サイズを有する。結晶子サイズは、シェラーの式「下記式(2)」により求められる。
【0022】
D=Kλ/(βcоsθ) (2)
「D」は、結晶子サイズを示す。
「K」は、形状因子を示す。本実施形態においては「K=0.9」とされる。
「λ」は、X線の波長を示す。
「β」は、回折線の半値全幅(full width at half maximum,FWHM)を示す。FWHMは、ラジアン単位を有する。
「θ」は、ブラッグ(Bragg)角である。
【0023】
「β」および「θ」は、X線回折(XRD)プロファイルから求められる。例えば、リガク社製のXRD装置「RINT-2500V」、またはこれと同等品により、XRD測定が実施されてもよい。ガラス試料板の表面に、水素吸蔵合金の粉末が配置される。測定時、水素吸蔵合金が空気に曝されないように、例えば、ポリイミドフィルム等により水素吸蔵合金が覆われる。XRD測定の条件は、例えば、下記のとおりである。
【0024】
測定温度 :20℃±5℃
カウンタ :高速1次元X線検出器「D/tex Ultra(リガク社製)」
X線源 :Cu-Kα線(波長 λ=0.154nm)(モノクロメータ)
管電圧 :40kV
管電流 :200mA
測定範囲 :2θ=5°~80°
スキャンスピード:20°/min
ステップ幅 :0.02°
【0025】
XRDプロファイルから、002回折線のFWHM(β)、および002回折線のブラッグ角(θ)が求められる。「λ」、「β」および「θ」の値が、上記式(2)に代入されることにより、結晶子サイズが求められる。
【0026】
本実施形態における結晶子サイズは、図1の結晶格子におけるc軸方向の厚さ(c0)に相当する。結晶子サイズと、放電電圧との間には、相関関係がみられる。結晶子サイズが38nm以下であることにより、放電電圧の上昇が期待される。ただし、結晶子サイズは22nm以上である。結晶子サイズが22nm未満になると、無視できない程度に水素吸蔵量が減少する可能性がある。
【0027】
結晶子サイズが小さい程、高い放電電圧が期待される。水素吸蔵合金は、例えば、34nm以下の結晶子サイズを有していてもよい。水素吸蔵合金は、例えば、31nm以下の結晶子サイズを有していてもよい。結晶子サイズが大きい程、大きい水素吸蔵量が期待される。水素吸蔵合金は、例えば、27nm以上の結晶子サイズを有していてもよい。水素吸蔵合金は、例えば、29nm以上の結晶子サイズを有していてもよい。結晶子サイズは、例えば、水素吸蔵合金の粉砕処理において調整され得る。
【0028】
《解離圧》
本実施形態における水素吸蔵合金は、高解離圧合金である。すなわち、水素吸蔵合金は、20℃において、0.2MPa以上の解離圧を有する。高解離圧合金は、高い放電電圧と、大きい水素吸蔵量とを有し得る。解離圧は、「平衡プラトー圧」等とも称される。解離圧は、圧力-組成等温線図から求められる。
【0029】
図2は、水素吸蔵合金の圧力-組成等温線図の一例である。
圧力-組成等温線図は、PCT(pressure-composition-temperature)線図と略記され得る。本実施形態におけるPCT線図に示される曲線は、放出線である。PCT線図の縦軸は、水素圧である。縦軸は、常用対数目盛を有する。横軸は、水素吸蔵量である。10点以上の測定点が結ばれることにより、放出線が形成される。例えば、20点以上の測定点が結ばれることにより、放出線が形成されてもよい。
【0030】
放出線は、「JIS H 7201」に準拠した方法により測定される。測定には、PCT特性測定装置が使用され得る。PCT特性測定装置は、「ジーベルツ装置」等とも称されている。放出線は、20℃において測定される。測定室(恒温槽)内に配置された温度計が、「20℃±1℃」を示す場合、20℃において放出線が測定されたとみなされる。
【0031】
PCT線図に、測定点がプロットされることにより、放出線が描かれる。放出線において、連続する3点を通る直線が描かれる。直線の傾きが求められる。3点が一つの直線に載らない場合は、最小二乗法により、直線の傾きが求められる。傾きが最も小さくなる3点の組み合わせが決定される。該3点の水素圧の算術平均が、本実施形態における「解離圧」とみなされる。
【0032】
水素吸蔵合金は、例えば、0.35MPa以上の解離圧を有していてもよい。水素吸蔵合金は、例えば、2MPa以上の解離圧を有していてもよい。本実施形態において、解離圧は、任意の上限を有する。水素吸蔵合金は、例えば、10MPa以下の解離圧を有していてもよい。
【0033】
《水素吸蔵量》
本実施形態における「水素吸蔵量」は、合金がすべて水素化された状態において、単位質量の合金あたりに含まれる、水素の質量比率を示す。水素吸蔵量は、PCT特性測定装置により測定され得る。本実施形態における水素吸蔵合金は、大きい水素吸蔵量を有し得る。水素吸蔵合金は、例えば、1.0質量%から1.4質量%の水素吸蔵量を有していてもよい。水素吸蔵合金は、例えば、1.1質量%以上の水素吸蔵量を有していてもよい。水素吸蔵合金は、例えば、1.2質量%以上の水素吸蔵量を有していてもよい。水素吸蔵合金は、例えば、1.3質量%以上の水素吸蔵量を有していてもよい。
【0034】
《化学組成》
本実施形態における水素吸蔵合金は、AB5型である。すなわち、水素吸蔵合金の化学組成は、「AB5」により表される。Aサイトは、水素との親和力が相対的に強い元素を含む傾向がある。Aサイトは、例えば、希土類元素等を含んでいてもよい。Bサイトは、水素との親和力が相対的に弱い元素を含む傾向がある。Bサイトは、例えば、遷移金属元素等を含んでいてもよい。
【0035】
本実施形態におけるAサイトは、Mm(ミッシュメタル)を含む。Mmは、希土類元素の混合物である。Mmは、例えば、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)およびNd(ネオジム)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Mmは、例えば、実質的にLa、Ce、PrおよびNdからなっていてもよい。Mmは、例えば、23.98質量%から25.67質量%のLaと、5.10質量%から5.77質量%のPrと、15.97質量%から16.50質量%のNdと、残部を占めるCeと、からなっていてもよい。
【0036】
本実施形態におけるBサイトは、Ni(ニッケル)を含む。Bサイトは、Niに加えて、その他の元素をさらに含んでいてもよい。Bサイトは、Niに加えて、例えばCo、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0037】
水素吸蔵合金の化学組成は、蛍光X線分析法およびICP(inductively coupled plasma)発光分析法により特定され得る。本実施形態における水素吸蔵合金は、下記式(3)により表される化学組成を有していてもよい。
【0038】
LaaCebPrcNddNieCofMngAlh (3)
「a、b、c、d、e、f、g、h」は、各元素の原子比を示す。
「a」は、0.2から0.3である。
「b」は、0.5から0.6である。
「c」は、0から0.1である。
「d」は、0.1から0.2である。
「e」は、3.9から4.2である。
「f」は、0.6から0.8である。
「g」は、0から0.4である。
「h」は、0から0.1である。
【0039】
上記式(3)中、「a、b、c、d」の合計は、例えば、0.90から1.1であってもよい。「e、f、g、h」の合計は、例えば、4.9から5.1であってもよい。
【0040】
例えば、下記3種の合金は、上記式(3)により表される。括弧内の圧力は、各水素吸蔵合金の解離圧を示す。本実施形態における水素吸蔵合金は、下記3種の合金からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0041】
La0.24Ce0.54Pr0.054Nd0.16Ni3.99Co0.60Mn0.36Al0.053(0.2MPa)
La0.26Ce0.53Pr0.051Nd0.16Ni4.19Co0.61Mn0.23Al0.055(0.35MPa)
La0.24Ce0.54Pr0.058Nd0.16Ni4.12Co0.79(2.0MPa)
【0042】
<金属水素化物電池>
以下、本実施形態における金属水素化物電池が説明される。金属水素化物電池は、前述の水素吸蔵合金を含む限り、任意の構成を含み得る。ここで説明される構成は、あくまで一例と解されるべきである。
【0043】
図3は、本実施形態における金属水素化物電池を示す概略図である。
電池100は、金属水素化物電池である。電池100は、例えば、Ni-MH等であってもよい。電池100は、筐体90を含む。筐体90は、円筒形のケースである。筐体90は、金属製である。ただし、筐体90は、任意の形態を有し得る。筐体90は、例えば、角形のケースであってもよい。筐体90は、例えば、アルミラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。筐体90は、例えば、樹脂製であってもよい。
【0044】
筐体90は、例えば、耐圧容器であってもよい。例えば、筐体90の内圧が、水素吸蔵合金の解離圧以上となるように、筐体90に水素ガスが充填されていてもよい。例えば、筐体90の内圧が0.2MPaから10MPaになるように、筐体90に水素ガスが充填されていてもよい。
【0045】
筐体90は、蓄電要素50と電解液とを収納している。蓄電要素50は、正極10、負極20、およびセパレータ30を含む。蓄電要素50は、巻回型である。蓄電要素50は、帯状の電極が渦巻状に巻回されることにより形成されている。蓄電要素50は、例えば、積層型であってもよい。蓄電要素50は、例えば、枚葉状の電極が積層されることにより形成されていてもよい。
【0046】
《負極》
負極20は、シート状である。負極20は、例えば、10μmから1mmの厚さを有していてもよい。負極20は、正極10に比して低い電位を有する。負極20は、負極活物質を含む。負極活物質は、前述の水素吸蔵合金を含む。負極20は、実質的に負極活物質のみからなっていてもよい。負極20は、負極活物質に加えて、集電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。集電材は、例えば、パンチングメタル、金属箔、多孔質金属シート等を含んでいてもよい。集電材は、例えば、Ni製であってもよい。
【0047】
例えば、集電材に、負極活物質およびバインダが塗着されることにより、負極20が形成され得る。バインダは、集電材と負極活物質とを結合する。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば0.1質量部から10質量部であってもよい。
【0048】
《正極》
正極10は、シート状である。正極10は、例えば、10μmから1mmの厚さを有していてもよい。正極10は、負極20に比して高い電位を有する。正極10は、正極活物質を含む。正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、水酸化ニッケル、二酸化マンガンおよび酸化銀からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0049】
正極10は、実質的に正極活物質のみからなっていてもよい。正極10は、正極活物質に加えて、集電材、導電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。集電材は、例えば、多孔質金属シート等を含んでいてもよい。集電材は、例えば、Ni製であってもよい。
【0050】
例えば、集電材に、正極活物質、導電材およびバインダが塗着されることにより、正極10が形成され得る。導電材は、電子伝導性を有する。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、Co、酸化コバルト等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1質量部から10質量部であってもよい。バインダは、集電材と正極活物質とを結合する。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1質量部から10質量部であってもよい。
【0051】
《セパレータ》
セパレータ30は、シート状である。セパレータ30は、正極10と負極20との間に配置されている。セパレータ30は、正極10と負極20とを物理的に分離している。セパレータ30は、例えば、50μmから500μmの厚さを有していてもよい。セパレータ30は、多孔質である。セパレータ30は、例えば、延伸多孔膜、不織布等を含んでいてもよい。セパレータ30は、電気絶縁性である。セパレータは、例えば、ポリオレフィン製、ポリアミド製等であってもよい。
【0052】
《電解液》
電解液は、例えば、アルカリ水溶液等を含んでいてもよい。アルカリ水溶液は、アルカリ金属水酸化物と、水とを含む。アルカリ金属水酸化物は、水に溶解している。アルカリ金属水酸化物は、例えば、1mоl/Lから20mоl/Lの濃度を有していてもよい。アルカリ金属水酸化物は、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)および水酸化リチウム(LiOH)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【実施例
【0053】
以下、本開示における実施例(以下「本実施例」とも記される。)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0054】
<試料の調製>
各種の金属粉末が準備された。各種の金属粉末が所定配合で混合されることにより、混合粉末が調製された。アルゴン雰囲気中、アーク溶解炉により、混合粉末が溶解された。これにより合金溶湯が調製された。合金溶湯が冷却されることにより、水素吸蔵合金の粉末が得られた。水素吸蔵合金の化学組成は、「La0.24Ce0.54Pr0.054Nd0.16Ni3.99Co0.60Mn0.36Al0.053」であった。
【0055】
遊星型ボールミル(フリッチュ社製)により、水素吸蔵合金の粉末が粉砕された。これにより、下記表1に示されるNo.1からNo.12の試料が調製された。各試料は、粉砕時間が互いに異なる。
【0056】
<評価>
《結晶子サイズ》
粉砕後、前述の方法により、各試料の結晶子サイズが求められた。結晶子サイズは、下記表1に示される。
【0057】
《解離圧》
PCT特性測定装置(鈴木商館社製)が準備された。前述の方法により、20℃における解離圧が測定された。解離圧は、0.2MPaであった。
【0058】
《水素吸蔵量》
PCT特性測定装置により、室温(20から25℃)で水素吸蔵・放出測定が繰り返された。15サイクル後、水素吸蔵・放出量が一定となった。そこで15サイクル後の測定結果から各試料の水素吸蔵量(水素圧:1MPaから0.001MPa)が求められた。一方、未粉砕合金は水素を吸蔵しなかった。そのため、未粉砕合金に対しては、活性化処理(200℃、水素1MPa、1時間処理後真空引き)が施された。その後、室温で未粉砕合金の水素吸蔵・放出測定が繰り返された。未粉砕合金については、3サイクル後の測定結果から水素吸蔵量が求められた。水素吸蔵量は、下記表1に示される。本実施例においては、水素吸蔵量が1.0質量%以上であれば、所期の水素吸蔵量が得られたとみなされる。
【0059】
《計算容量》
下記式(4)により、計算容量が求められた。計算容量は、容量密度(単位質量あたりの容量)を示している。計算容量は、下記表1に示される。
【0060】
calc=26800×W/100 (4)
「Ccalc」は、計算容量(mAh/g)を示す。
「W」は、水素吸蔵量(質量%)を示す。
【0061】
《放電電圧》
各試料(水素吸蔵合金)を含む負極が作製された。正極が準備された。正極活物質は、水酸化ニッケルであった。各電極は円板状であった。各電極の直径は、20mmであった。
【0062】
セパレータが準備された。セパレータは、ポリオレフィン製の不織布であった。正極、セパレータおよび負極が積層されることにより、蓄電要素が形成された。電解液が準備された。電解液は、KOH水溶液(6mоl/L)であった。
【0063】
耐圧容器が準備された。耐圧容器に、蓄電要素と電解液とが封入された。以上より、供試電池が製造された。本実施例における供試電池は、Ni-MHであった。供試電池は、約50mAhの放電容量を有するように設計されていた。
【0064】
16mA/cm2(1C相当)の電流により、供試電池が25℃で充放電された。充放電結果が二次元座標にプロットされた。二次元座標の横軸は、電池容量である。二次元座標の縦軸は、電池電圧である。放電曲線において、電池容量が50%である時の電池電圧が求められた。放電終止電圧は、0.8Vであった。本実施例においては、当該電池電圧が「V50%」と記される。「V50%」は、下記表1に示される。V50%は、水素吸蔵合金の電気抵抗の指標であると考えられる。V50%が高い程、電気抵抗が低いと考えられる。本実施例においては、V50%が1.2V以上であれば、所期の放電電圧が得られたとみなされる。
【0065】
【表1】
【0066】
<結果>
上記表1に示されるように、水素吸蔵量が大きい程、計算容量が大きい傾向がみられる。したがって、水素吸蔵量が大きい程、電池の容量密度が高くなることが期待される。
【0067】
No.1からNo.3においては、結晶子サイズが38nmを超えている。No.1からNo.3においては、V50%が1.2V未満である。
【0068】
No.11およびNo.12においては、結晶子サイズが22nm未満である。No.11およびNo.12においては、水素吸蔵量が1.0質量%未満である。
【0069】
No.4からNo.10においては、結晶子サイズが38nm以下である。No.4からNo.10においては、V50%が1.2V以上である。
【0070】
No.4からNo.10においては、結晶子サイズが22nm以上である。No.4からNo.10においては、水素吸蔵量が1.0質量%以上である。
【0071】
本実施形態および本実施例は、すべての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の意味におけるすべての変更を包含する。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の範囲内におけるすべての変更を包含する。
【符号の説明】
【0072】
10 正極、20 負極、30 セパレータ、50 蓄電要素、90 筐体、100 電池。
図1
図2
図3