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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ビニルアルコール系重合体及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 18/08 20060101AFI20230801BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20230801BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230801BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20230801BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230801BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20230801BHJP
   C09D 201/06 20060101ALI20230801BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C08F18/08
B32B27/10
B32B27/30 102
C08F8/12
C09D5/02
C09D129/04
C09D201/06
C09J129/04
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2022542871
(86)(22)【出願日】2021-08-11
(86)【国際出願番号】 JP2021029678
(87)【国際公開番号】W WO2022034906
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020136515
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020136516
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020136517
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020136518
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020136519
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020136520
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020136521
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020136522
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021081302
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅己
(72)【発明者】
【氏名】田岡 悠太
(72)【発明者】
【氏名】今岡 依理子
(72)【発明者】
【氏名】山本 歩
(72)【発明者】
【氏名】田島 康宏
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0137820(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103191623(CN,A)
【文献】特表2015-524501(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069963(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/071513(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 18/08
B32B 27/10
B32B 27/30
C08F 8/12
C09D 5/02
C09D 129/04
C09D 201/06
C09J 129/04
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)であって、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0であり、
植物由来のビニルエステル単量体(A)が酢酸ビニルであり、石油由来のビニルエステル単量体(B)が酢酸ビニルであり、
けん化度が、60モル%以上であり、
粘度平均重合度が、150~5000であり、
さらに必要に応じてビニルエステル単量体と共重合可能な他の不飽和単量体(C)を含み、
他の不飽和単量体(C)が、α-オレフィン、アクリル酸及びその塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びその塩、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、メタクリルアミド誘導体、ビニルエーテル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、アリル化合物、不飽和ジカルボン酸類及びその塩又はそのモノ又はジアルキルエステル、ビニルシリル化合物、及び酢酸イソプロペニルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、ビニルアルコール系重合体(X)。
【請求項2】
ビニルエステル単量体と共重合可能な他の不飽和単量体(C)を含み、
ビニルエステル単量体と共重合可能な他の不飽和単量体(C)がエチレンであり、
PVA(X)の全構造単位におけるエチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満である、請求項1に記載のビニルアルコール系重合体(X)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含み、
けん化度が、99モル%以上であり、
粘度平均重合度が、1500以上4500以下である、
スラリー用添加剤。
【請求項4】
請求項3に記載のスラリー用添加剤を含有する、掘削泥水。
【請求項5】
さらに、水及びベントナイトを含有する、請求項4に記載の掘削泥水。
【請求項6】
請求項3に記載のスラリー用添加剤を含有する、セメントスラリー。
【請求項7】
さらに、液剤及び硬化性粉末を含有する、請求項6に記載のセメントスラリー。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含み、
(A)/(B)のモル比が5/95~90/10であり、
けん化度が、90モル%以上である、
地下処理用目止め剤。
【請求項9】
前記ビニルアルコール系重合体(X)が、ビニルエステル単量体と共重合可能な他の不飽和単量体(C)を含む、請求項8に記載の地下処理用目止め剤。
【請求項10】
さらに、可塑剤を含む、請求項8又は9に記載の地下処理用目止め剤。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含有する層(C)、及び、樹脂を含有する層(D)を有し、
前記樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)樹脂、スターチ及びセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であり、
けん化度が、80~99.99モル%である、多層構造体。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含有する水溶液を調製してコーティング剤を得る工程、及び該コーティング剤を、樹脂を含有する基材の表面に塗工する工程を有し、
前記樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)樹脂、スターチ及びセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であり、
けん化度が、80~99.99モル%である、請求項11に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の多層構造体を備える、包装材料。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含み、
けん化度が、90モル%以上である、紙コーティング剤。
【請求項15】
請求項14に記載の紙コーティング剤が紙に塗工されてなる、塗工紙。
【請求項16】
剥離紙原紙である、請求項15に記載の塗工紙。
【請求項17】
耐油紙である、請求項15に記載の塗工紙。
【請求項18】
請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含む、種子コーティング組成物。
【請求項19】
さらに、1種以上の疎水性農薬を含む、請求項18に記載の種子コーティング組成物。
【請求項20】
分散剤と分散質とを含む水性エマルジョンであって、
前記分散質が、エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)を含み、
前記分散剤が、請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含み、
けん化度が、80~99.99モル%である、水性エマルジョン。
【請求項21】
エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)が、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群より選択される少なくとも1種に由来する特定単位を有する重合体であり、該重合体の全単量体単位に対する前記単位の含有率が70質量%以上である、請求項20に記載の水性エマルジョン。
【請求項22】
さらに多価イソシアネート化合物を含有する、請求項20又は21に記載の水性エマルジョン。
【請求項23】
請求項20~22のいずれか1項に記載の水性エマルジョンを含有する、接着剤。
【請求項24】
請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含み、
けん化度が、65モル%以上99.5モル%以下である、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項25】
請求項24に記載の懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル系化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項26】
前記懸濁重合用分散安定剤とさらに分散安定助剤の存在下で、ビニル系化合物の懸濁重合を行う工程を含み、
前記分散安定助剤が、けん化度が65モル%未満のビニルアルコール系重合体(Y2)を含む、請求項25に記載のビニル系樹脂の製造方法。
【請求項27】
植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを、さらに必要に応じて連鎖移動剤を共存させて重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含み、
(A)/(B)のモル比が5/95~90/10であり、
植物由来のビニルエステル単量体(A)が酢酸ビニルであり、石油由来のビニルエステル単量体(B)が酢酸ビニルであり、
粘度平均重合度が、100~700であり、
前記連鎖移動剤が、アルデヒド、ケトン、メルカプタン、チオカルボン酸、及びハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記ビニルアルコール系重合体(X)のけん化度が、20モル%以上60モル%未満である、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定助剤。
【請求項28】
請求項27に記載の懸濁重合用分散安定助剤と懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル系化合物の懸濁重合を行う工程を含み、
前記懸濁重合用分散安定剤が、けん化度が65モル%以上、かつ粘度平均重合度が600以上のビニルアルコール系重合体(Y3)を含有する、ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項29】
前記分散安定剤と前記分散安定助剤の質量比(分散安定剤/分散安定助剤)が95/5~20/80である、請求項28に記載のビニル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスなどの植物由来原料から合成される酢酸ビニルを重合、けん化して得られるビニルアルコール系重合体、それを用いたスラリー用添加剤、掘削泥水、セメントスラリー、地下処理用目止め剤、酸素ガスバリア性に優れた多層構造体、その製造方法、及びそれを備える包装材料、紙コーティング剤、塗工紙、種子コーティング組成物、水性エマルジョン、接着剤、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤、並びにビニル系化合物の懸濁重合用分散安定助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニルを重合、けん化することで得られるビニルアルコール系重合体(以下ビニルアルコール系重合体をPVAと略記することがある)は数少ない結晶性の水溶性高分子として優れた界面特性及び強度特性を有することから、紙加工、繊維加工及びエマルジョン用の安定剤に利用されているほか、PVA系フィルム及びPVA系繊維等として重要な地位を占めている。
【0003】
酢酸ビニルの原料であるエチレンと酢酸は化石資源である石油又は天然ガスから生産されている。具体的には、エチレンはナフサを主とする炭化水素を水蒸気と混合して熱分解後、生成物を蒸留分離することで生産されている。また、酢酸は天然ガスの部分酸化で製造した一酸化炭素を水素と反応させて得られるメタノールのカルボニル化反応により製造されている。
【0004】
このような化石資源は枯渇の恐れがあり、また製造過程において二酸化炭素を排出して地球温暖化を加速することが懸念されている。
【0005】
ところで、石油、天然ガス等の埋蔵物を採収するための坑井等では、従来から掘削セメントスラリーに代表される土木建築用のスラリーが使用されている。
【0006】
掘削泥水は、例えば掘削された岩片、掘削屑等の運搬、ビット或いはドリルパイプの潤滑性向上、多孔質の地盤の穴の埋設、静水圧により生ずる貯留層圧力(岩盤からの圧力)の相殺等の役割を果たすものである。この掘削泥水は、通常、水及びベントナイトを主成分とし、さらにバライト、塩、クレー等を添加することによって目的の性能が達成される。このような掘削泥水には、温度安定性を有すること及び地盤中の電解質(例えばカルボン酸塩)の濃度変化に大きな影響を受けない等の適切な流動特性を有することが要求される。このような要求を満たすためには、掘削泥水の粘度を調整すること、及び掘削泥水に含まれる水分の散逸(以下「脱水」と称することもある)を抑制することが必要である。掘削泥水の粘度調製及び脱水抑制には、通常、ポリマー類、例えばデンプン、デンプンエーテル(カルボキシメチルデンプン等)、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースなどを添加する方法が採用される。
【0007】
しかしながら、これらのポリマー類の添加は、掘削泥水の粘度を極端に上昇させ、ポンプによる掘削泥水の注入を困難にする場合がある。また、デンプン及びその誘導体は約120℃を超える温度域での脱水の抑制が十分でなく、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースは140℃~150℃の温度域で脱水の抑制が十分でないという問題がある。
【0008】
一方、掘削セメントスラリーは、地層と抗井内に設置されたケーシングパイプとの間の管状空隙部分に注入及び硬化させることにより、ケーシングパイプの坑井内への固定、坑井内の内壁の保護等のために使用される。一般に、管状空隙部分への掘削セメントスラリーの注入は、ポンプを用いて行われる。そのため、掘削セメントスラリーは、ポンプによる注入が容易に行えるように極めて低い粘度を有し、かつ分離しないことが求められる。
【0009】
ところが、坑井のセメンチングにおいては、材料分離、坑井内の亀裂に水分が散逸するなどし、セメンチング部分に欠陥を生じることがある。そのため、掘削セメントスラリーには、クルミ殻、綿実、粘土鉱物、高分子化合物等の脱水減少剤を添加することが行われており、中でもビニルアルコール系重合体はよく知られた脱水減少剤である。
【0010】
このビニルアルコール系重合体の脱水減少剤については、例えば特許文献1にはけん化度が95モル%以上のPVAを使用する方法が開示されている。
【0011】
特許文献2にはけん化度92モル%以下のPVAを使用する方法が開示されている。
【0012】
特許文献3にはけん化度99モル%以上のPVAを使用する方法が開示されている。
【0013】
地下の天然資源層から石油あるいはその他の地下資源を回収するにあたり、それら資源の回収率が低いことが問題となっており、これを改善するためにさまざまな手法が用いられている。代表的な手法として、地下の油田層に流体を注入して置換させる方法があり、流体としては塩水、清水、高分子水溶液、蒸気などが用いられ、中でも高分子水溶液が有用である。
【0014】
一例として、地下の頁岩(シェール)層に蒸気を注入して亀裂を生じさせる方法が広く採用されている。この方法では、まず、ドリルで垂直に地下数千メートルの縦孔(垂直坑井)を掘削し、頁岩層に達したところで水平に直径十から数十センチメートルの横孔(水平坑井)を掘削する。次いで、垂直坑井と水平坑井内に高分子水溶液を圧入して坑井から亀裂(フラクチャ)を生成させ、その亀裂から流出する天然ガスや石油(シェールガス・オイル)等を回収する。
【0015】
この時、既に生成している亀裂をより大きく成長させたり、さらに多くの亀裂を生成させたりするために、既に生成している亀裂の一部を地下処理用の目止め剤(添加剤)を用いて一時的に塞ぐことがあり、その状態で坑井内に充填されたフラクチュアリング流体を加圧することにより、他の亀裂内に流体が浸入していき、既にある亀裂を大きく成長させ、また新たな亀裂を発生させることができる。
【0016】
地下処理用目止め剤(ダイバーティングエージェントとも称される)は、上記のように亀裂を一時的に閉塞するために用いられるものであるため、亀裂を閉塞する一定期間はその形状を維持でき、その後天然ガスや石油等を採取する際には加水分解して消失するもの又は溶解除去されるものなどが使用されることがある。
【0017】
例えば、地下処理用目止め剤としてPVAを用いる例があり、特許文献2では、PVAを含有するダイバーティングエージェントが開示されている。
【0018】
また、特許文献3では、特定の粒子径を有するPVAの樹脂粒子を含有するダイバーティングエージェントが開示されている。
【0019】
また、特許文献4では、温度80℃の水中に30分間浸漬した後の膨潤率が特定範囲であるPVAを含有する地下処理用目止め剤が開示されている。
【0020】
酸素ガスバリア性に優れた多層構造体は包装材料等として用いられている。アルミニウム箔は、完璧な酸素ガスバリア性を有するため、このような多層構造体の中間層として使用されている。しかしながら、アルミニウム箔を含む多層構造体を焼却すると残渣が生じるうえに、当該多層構造体を包装材料として用いた場合、内容物が見えず、内容物を金属探知機で検査することもできないという問題があった。
【0021】
ポリ塩化ビニリデン(以下「PVDC」と略記することがある)は吸湿しにくく、高湿度下でも良好な酸素ガスバリア性を有するため、ポリ塩化ビニリデンを種々の基材にコーティングしてなる多層構造体が包装材料等として用いられている。前記基材としては、二軸延伸ポリプロピレン(以下「OPP」と略記することがある)、二軸延伸ナイロン(以下「ON」と略記することがある)、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(以下「OPET」と略記することがある)、セロファンなどのフィルムが使用されている。しかしながら、PVDCを含む多層構造体の廃棄物を焼却すると塩化水素ガスが生じるという問題があった。
【0022】
例えば、特許文献5には、炭素数4以下のα-オレフィン単位を3~19モル%含有するPVAを含むフィルムが記載されている。そして、当該フィルムは耐水性に優れており、高湿度下においても優れた酸素ガスバリア性を有すると記載されている。
【0023】
また、特にPVAを紙塗工する事で紙力増強、耐水化、耐油化、ガスバリア性付与等が可能となることが知られており、広く使用されている。また、ビニルアルコール系重合体は、無機のバインダー又は分散安定剤として、紙への機能付与の助剤としても使用されている。例えば、紙コーティング剤にPVAを用いる例として、特許文献6では、紙コーティング剤としてPVAが使用された例が開示されている。
【0024】
種子処理とは、取り扱い性を向上させ、発芽前に種子を保護し、発芽プロセスを支援するために、種子に材料を適用することをいう。さらに、種子処理は、殺虫剤、殺菌剤及び線虫剤などの活性「殺虫剤」成分を組み込むことによって、種子又は結果として生じる植物に害虫耐性特性を付与する。種子の取り扱い特性を改善する植物成長調節剤もまた、種子コーティング配合物に添加され得る。種子処理は、葉面殺菌剤又は殺虫剤の伝統的なブロードキャストスプレーの必要性を排除するか、又は少なくとも減少させる。
【0025】
多くの公知の種子処理は、残念ながら、種子材料の貯蔵及び施用中に過剰な塵埃を生成することが知られており、バルク種子凝集をもたらし得、発芽効率を低下させ得る。
【0026】
例えば特許文献7~20には、種子の取り扱い、発芽、貯蔵及び成長特性を改善する種々の及び多数の種子コーティング組成物及び成分が開示されている。
【0027】
水性種子コーティング組成物は、典型的には、水性媒体、1つ以上の機能性添加剤、及び適用後の乾燥時に種々の機能性添加剤のためのマトリックスを形成するバインダー、ならびに種子を覆うための保護フィルムを含む。
【0028】
いくつかの種子処理は、予防的処理及び増強、例えば、1つ以上の植物誘導剤及び/又は接種剤と組み合わせた農薬(殺菌剤及び/又は殺虫剤など)を有する処理を組み込む。
【0029】
先に組み込まれた参考文献に開示されているように、多くの異なる材料が、水性種子コーティング組成物中のバインダーとして使用されている。
【0030】
例えば特許文献8~15に開示されるバインダー材料の中には、一般に、ポリビニルアルコールホモポリマー、コポリマー、及びそれらの機能的に変性された及び/又は架橋されたバージョンが含まれる。
【0031】
いくつかのポリビニルアルコールを含む、市販のポリマーバインダーのいくつかは、低い水溶性/双極子溶解性、低い被覆種子流動性、高レベルのダストオフ及び/又は乏しい植物性特性に悩まされている。
【0032】
例えば、ダストオフを低減するように最適化された種子コーティング添加剤は、不良な種子流動性をもたらし得る。これは、コーティングの粘着性を増加させるために添加される成分が、ダスティングの影響を受けにくく、通常、ダストオフを減少させる粘着性が流動性の問題を生じるため、許容不可能な流動性及び平坦性の特性を引き起こし得るという事実によって説明され得る。
【0033】
一方、コーティングの種子流動性を増加させる要因は、ダストオフ特性に負の影響を及ぼす。種子を機械的に植えるためには、種子が凝集しないことが必須である。疎水性が不十分なポリマーバインダーでコーティングされた種子は、特に貯蔵舎の夏季に遭遇するような温かく湿った空気に暴露された場合、互いに固着する。
【0034】
長期貯蔵安定性を改善し、種子の発芽及び種子取り扱い特性を維持又は改善さえしながら、低いダストオフ特性を提供する、水ベースの、生分解性の、及び費用効果の高い種子コーティングが必要とされている。
【0035】
PVAは繊維及びフィルム原料としての用途に加えて、水溶性という特性を活かして紙加工剤、繊維加工剤、無機物のバインダー、接着剤、乳化重合及び懸濁重合用の安定剤等として広く用いられている。特に、PVAは酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体の乳化重合用分散安定剤として知られており、PVAを乳化重合用分散安定剤として用い、乳化重合して得られるビニルエステル系水性エマルジョンは、木工用をはじめとする各種接着剤、塗料ベース、コーティング剤、含浸紙用及び不織製品等の各種バインダー、混和剤、打継ぎ材、紙加工、繊維加工等の分野で広く用いられている。
【0036】
例えば、特許文献21では、高速塗工性や初期接着性に優れた水性エマルジョンが開示されている。
【0037】
また、特許文献22では、エチレン単位を1~10モル%含有するPVAを用いることで、耐水接着性に優れた木工用接着剤が開示されている。
【0038】
PVAは塩化ビニルの懸濁重合用の分散剤として一般的に用いられている。懸濁重合では、水性媒体中に分散させたビニル系化合物を油溶性の触媒を用いて重合させることにより、粒子状のビニル重合体が得られる。その際、得られる重合体の品質向上を目的として、分散剤が水性媒体に添加される。ビニル系化合物を懸濁重合して得られるビニル重合体の品質を支配する因子には、重合率、水とビニル系化合物(単量体)との比、重合温度、油溶性触媒の種類及び量、重合容器の形式、重合容器における内容物の撹拌速度、ならびに分散剤の種類などがある。なかでも分散剤の種類が、ビニル重合体の粒度分布或いは可塑剤吸収性といった品質に大きな影響を与える。PVAは単独又は、PVA或いはメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体と組み合わされて、分散剤として使用されている。
【0039】
例えば、懸濁重合用分散安定剤としてPVAを用いる例があり、非特許文献1には、塩化ビニルの懸濁重合に用いる分散剤として、重合度が2000、けん化度が80モル%のPVAならびに重合度が700~800、けん化度が70モル%のPVAが開示されている。
【0040】
また、特許文献23には、平均重合度が500以上、重量平均重合度Pwと数平均重合度Pnとの比(Pw/Pn)が3.0以下であり、カルボニル基とこれに隣接するビニレン基とを含む構造[-CO-(CH=CH)]を有し、0.1%水溶液の波長280nm及び320nmでの吸光度が各々0.3以上及び0.15以上であり、かつ波長280nmでの吸光度(a)に対する波長320nmでの吸光度(b)の比(b)/(a)が0.30以上のPVAからなる分散剤が開示されている。
【0041】
従来より、ビニル系化合物(例えば、塩化ビニル)の懸濁重合用の分散剤として、部分けん化ビニルアルコール系重合体を用いることが知られている。しかしながら、通常の部分けん化PVAを用いた場合は、得られるビニル系樹脂に要求される性能、具体的には(1)少量の使用でも可塑剤の吸収性が高いこと、(2)フィッシュアイ等の異物がないこと、(3)残存するモノマー成分の除去が容易であること、(4)粗大粒子の形成が少ないこと等について、必ずしも満足すべき性能が得られているとは言いがたかった。
【0042】
上記の要求性能を満足させるべく、ビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤として例えば低重合度、低けん化度、かつ側鎖にオキシアルキレン基を有するPVAを用いる方法(特許文献24~30参照)、イオン性基を有するPVAを用いる方法(特許文献31参照)、末端にアルキル基を有するPVAを用い、あらかじめ水溶液を調製して重合槽に仕込む方法(特許文献32参照)等が提案されている。
【0043】
石油由来のみのビニルアルコール系重合体と比較して、同等又はそれ以上の性質を有し、かつ石油資源を節約し、かつ製造過程における二酸化炭素の排出を抑制できるビニルアルコール系重合体の提供は困難であった。そのため、石油資源の使用量を低減するために、用途に応じて、樹脂組成物の組成を変更することも検討され、例えば、樹脂組成物に、石油由来原料以外の生分解性樹脂を含有させた生分解性の樹脂組成物を含む包装袋が開発されていた(特許文献33参照)。しかしながら、このような場合、石油系樹脂のものと比較して、引張強度や、引き裂き強度、シール強度、腰等の加工適性が著しく劣ることによって生産性を向上させることが困難であるとともに、耐久性を向上させることも困難であった(例えば、特開2021-14311号の0004段落ご参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【文献】特開2000-119585号公報
【文献】国際公開第2019/031613号
【文献】国際公開第2019/131939号
【文献】国際公開第2019/131952号
【文献】特開2000-119585号公報
【文献】特開2017-43872号公報
【文献】米国特許出願公開第3698133号明細書
【文献】米国特許出願公開第3707807号明細書
【文献】米国特許出願公開第3947996号明細書
【文献】米国特許出願公開第4249343号明細書
【文献】米国特許出願公開第4272417号明細書
【文献】米国特許出願公開第5849320号明細書
【文献】米国特許出願公開第5876739号明細書
【文献】米国特許第90101131号明細書
【文献】国際公開第2017/187994号
【文献】米国特許出願公開第4729190号明細書
【文献】国際公開第90/11011号
【文献】国際公開第2005/062899号
【文献】国際公開第2008/037489号
【文献】国際公開第2013/166020号
【文献】特許第6647217号公報
【文献】特許第3466316号公報
【文献】特公平5-88251号公報
【文献】特開平9-100301号公報
【文献】特開平10-147604号公報
【文献】特開平10-259213号公報
【文献】特開平11-217413号公報
【文献】特開2001-040019号公報
【文献】特開2002-069105号公報
【文献】特開2007-063369号公報
【文献】特開平10-168128号公報
【文献】国際公開第2015/019614号
【文献】特開2009-155516号公報
【非特許文献】
【0045】
【文献】高分子刊行会1984年発行、「ポバール」、369~373頁及び411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0046】
石油由来のみのビニルアルコール系重合体と比較して同等又はそれ以上の性質を有し、石油資源を節約し、かつ製造過程における二酸化炭素の排出を抑制できるビニルアルコール系重合体は得られていなかった。
【0047】
本発明では、石油由来のみのビニルアルコール系重合体と比較して同等又はそれ以上の性質を有するビニルアルコール系重合体を提供することを目的とする。また、本発明では、石油由来のみのビニルアルコール系重合体と比較して同等又はそれ以上の性質を有するビニルアルコール系重合体を提供し、ビニルアルコール系重合体(PVA)を使用する際に、石油資源を節約し、かつ製造過程における二酸化炭素の排出を抑制することを目的とする。
【0048】
さらに、本発明では、スラリー用添加剤、掘削泥水、セメントスラリー、地下処理用目止め剤、酸素ガスバリア性に優れた多層構造体、その製造方法、及びそれを備える包装材料、紙コーティング剤、塗工紙、種子コーティング組成物、水性エマルジョン、接着剤、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤、並びにビニル系化合物の懸濁重合用分散安定助剤の各用途として、ビニルアルコール系重合体(PVA)を使用する際に、石油資源を節約し、かつ製造過程における二酸化炭素の排出を抑制することを他の目的とする。また、本発明では、外観不良を有しないビニルアルコール系重合体(PVA)を含む地下処理用目止め剤を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0049】
鋭意検討した結果、本発明者は、その一部に植物由来のビニルエステル単量体を用いて、ビニルエステル単量体を重合、けん化してなるビニルアルコール系重合体を用いることによって前記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0050】
すなわち、以下の発明を包含する。
[1]植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)であって、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0である、ビニルアルコール系重合体(X)。
[2]さらにエチレン単位を含み、エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満である、[1]に記載のビニルアルコール系重合体(X)。
[3][1]又は[2]に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含む、スラリー用添加剤。
[4][3]に記載のスラリー用添加剤を含有する、掘削泥水。
[5]さらに、水及びベントナイトを含有する、[4]に記載の掘削泥水。
[6][3]に記載のスラリー用添加剤を含有する、セメントスラリー。
[7]さらに、液剤及び硬化性粉末を含有する、[6]に記載のセメントスラリー。
[8][1]又は[2]に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含み、
(A)/(B)のモル比が5/95~90/10である、地下処理用目止め剤。
[9]前記ビニルアルコール系重合体(X)が、ビニルエステル単量体と共重合可能な他の不飽和単量体(C)を含む、[8]に記載の地下処理用目止め剤。
[10]さらに、可塑剤を含む、[8]又は[9]に記載の地下処理用目止め剤。
[11][1]又は[2]に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含有する層(C)、及び、樹脂を含有する層(D)を有し、
前記樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)樹脂、スターチ及びセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、多層構造体。
[12]前記ビニルアルコール系重合体(X)を含有する水溶液を調製してコーティング剤を得る工程、及び該コーティング剤を、樹脂を含有する基材の表面に塗工する工程を有し、
前記樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)樹脂、スターチ及びセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、[11]に記載の多層構造体の製造方法。
[13][11]に記載の多層構造体を備える、包装材料。
[14][1]又は[2]に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含む、紙コーティング剤。
[15][14]に記載の紙コーティング剤が紙に塗工されてなる、塗工紙。
[16]剥離紙原紙である、[15]に記載の塗工紙。
[17]耐油紙である、[15]に記載の塗工紙。
[18][1]又は[2]に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含む、種子コーティング組成物。
[19]さらに、1種以上の疎水性農薬を含む、[18]に記載の種子コーティング組成物。
[20]分散剤と分散質とを含む水性エマルジョンであって、
前記分散質が、エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)を含み、
前記分散剤が、[1]又は[2]に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含む、水性エマルジョン。
[21]エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)が、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群より選択される少なくとも1種に由来する特定単位を有する重合体であり、該重合体の全単量体単位に対する前記単位の含有率が70質量%以上である、[20]に記載の水性エマルジョン。
[22]さらに多価イソシアネート化合物を含有する、[20]又は[21]に記載の水性エマルジョン。
[23][20]~[22]のいずれかに記載の水性エマルジョンを含有する、接着剤。
[24][1]又は[2]に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含む、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
[25][24]に記載の懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル系化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法。
[26]前記懸濁重合用分散安定剤とさらに分散安定助剤の存在下で、ビニル系化合物の懸濁重合を行う工程を含み、
前記分散安定助剤が、けん化度が65モル%未満のビニルアルコール系重合体(Y2)を含む、[25]に記載のビニル系樹脂の製造方法。
[27][1]又は[2]に記載のビニルアルコール系重合体(X)を含み、
前記ビニルアルコール系重合体(X)のけん化度が、20モル%以上60モル%未満である、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定助剤。
[28][27]に記載の懸濁重合用分散安定助剤と懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル系化合物の懸濁重合を行う工程を含み、
前記懸濁重合用分散安定剤が、けん化度が65モル%以上、かつ粘度平均重合度が600以上のビニルアルコール系重合体(Y3)を含有する、ビニル系樹脂の製造方法。
[29]前記分散安定剤と前記分散安定助剤の質量比(分散安定剤/分散安定助剤)が95/5~20/80である、[28]に記載のビニル系樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、PVAの一部を植物由来のものとすることで、石油由来のみのビニルアルコール系重合体と比較して同等又はそれ以上の性質を有するビニルアルコール系重合体を提供することができる。そのため、本発明によれば、石油資源を節約することができ、かつ製造過程における二酸化炭素の排出量を減らし地球温暖化を抑制することができる。
【0052】
また、本発明によれば、スラリー用添加剤、掘削泥水、セメントスラリー、地下処理用目止め剤、酸素ガスバリア性に優れた多層構造体、その製造方法、及びそれを備える包装材料、紙コーティング剤、水性エマルジョン、接着剤、種子コーティング組成物、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤、並びにビニル系化合物の懸濁重合用分散安定助剤の各用途として用いられるPVAの一部を植物由来のものとすることで、石油資源を節約することができ、かつ製造過程における二酸化炭素の排出量を減らし地球温暖化を抑制することができる。
【0053】
また、本発明によれば、外観不良を有しないビニルアルコール系重合体(PVA)を含む地下処理用目止め剤を提供できる。また、本発明によれば、高湿度下において、ガスバリア性に優れる多層構造体及びそれを備える包装材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0055】
[ビニルアルコール系重合体(X)]
本発明のビニルアルコール系重合体(X)は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)(以下、PVA(X)と略記することがある)であって、(A)/(B)のモル比は5/95~100/0である。
【0056】
植物由来のビニルエステル単量体(A)(以下、単に「ビニルエステル単量体(A)」ともいう)とは、バイオマス(非化石原料)由来であることを指し、具体的にはサトウキビ、トウモロコシなどを植物原料として得られるエチレン(以下、バイオエチレンとも称する。)を、酢酸などの低級カルボン酸と反応させて得られるビニルエステル単量体(好適には、酢酸ビニル)のことをいう。バイオマスとしては単一の非化石原料でもよく、非化石原料の混合物でもよく、例えば、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、木材、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、おから、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油、ヒマシ油など)、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、籾殻、米ぬか、古米、キャッサバ、サゴヤシなど)、バガス、そば、大豆、精油(松根油、オレンジ油、ユーカリ油など)、パルプ黒液、植物油カスなどが挙げられる。またバイオマスはバイオ燃料収穫物に限定されず、農業残さ、都市廃棄物、産業廃棄物、製紙工業の沈積物、牧草地の廃棄物、木材や森林の廃棄物なども挙げられる。より具体的には、一例として、サトウキビ、トウモロコシから取り出した糖液を加熱濃縮して結晶化させた粗糖と廃糖蜜とを遠心分離機で分離し、廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して、酵母菌により発酵させてエタノール(バイオエタノール)を生成させ、このバイオエタノールを加熱して触媒存在下で分子内脱水反応によりエチレンを得る。別の例では、パルプ黒液を酸又は酵素などで処理をしてエタノール(バイオエタノール)を生成させ、同様にエチレンを得る。一方、石油由来のビニルエステル単量体(B)(以下、単に「ビニルエステル単量体(B)」ともいう)とは、通常得られるナフサ由来のエチレンを原料として得られるビニルエステル単量体のことである。
【0057】
PVA(X)は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合させて得られるビニルエステル重合体をけん化することにより合成される。
【0058】
ビニルエステル単量体の重合方法としては、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等が挙げられ、工業的観点から、溶液重合法、乳化重合法又は分散重合法が好ましい。ビニルエステル単量体の重合は、回分法、半回分法及び連続法のいずれの重合方式であってもよい。
【0059】
ビニルエステル単量体(ビニルエステル単量体(A)及びビニルエステル単量体(B))としては、例えば酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも、工業的観点から酢酸ビニルが好ましい。ビニルエステル単量体(A)とビニルエステル単量体(B)とは、同一化合物(例えば、酢酸ビニル)であってもよく、異なる化合物であってもよい。すなわち、PVA(X)は、1種類のビニルエステル単量体の単独重合体であってもよく、異なるビニルエステル単量体の共重合体であってもよい。
【0060】
重合に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系開始剤は、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。過酸化物系開始剤は、例えば、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジエトキシエチルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート系化合物;t-ブチルペルオキシネオデカネート、α-クミルペルオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシド;2,4,4-トリメチルペンチル-2-ペルオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を上記開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤或いは酸化剤(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等)と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L-アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合触媒により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて選択される。
【0061】
また、PVA(X)は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、ビニルエステル単量体(ビニルエステル単量体(A)及びビニルエステル単量体(B))と共重合可能な他の不飽和単量体とを共重合させたビニルエステル共重合体をけん化したものであってもよい。前記他の不飽和単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン等のα-オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸類及びその塩又はそのモノ又はジアルキルエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。このうち、1種又は2種以上を共重合させることもできる。このような共重合成分を有するPVAを「変性PVA」と呼ぶことがある。
【0062】
ビニルエステル単量体との共重合成分である他の不飽和単量体としては特にエチレンが好ましい場合がある。すなわち、PVA(X)は、さらにエチレン単位を含むことが好ましい場合がある。PVA(X)がさらにエチレン単位を含むとき、エチレン単位の含有率の下限値は、0モル%超であればよく、0.1モル%以上であってもよい。エチレン単位の含有量の含有率は1モル%以上20モル%未満が好ましい。エチレン単位の含有率は、より好適には1.5モル%以上であり、さらに好適には2モル%以上である。一方、エチレン単位の含有率は、好適には15モル%以下であり、より好適には10モル%以下であり、さらに好適には8.5モル%以下である。共重合成分としてエチレンを用いる場合、該エチレンは通常の石油由来の原料から製造されたものであっても、上記バイオエタノールを原料としたものであってもよく、また両者の混合物であってもよい。
【0063】
スラリー用添加剤、掘削泥水及びセメントスラリーの用途においては、特に、PVA(X)は、ビニルエステル単量体(A)及びビニルエステル単量体(B)に、エチレンを共重合させたものが好ましい。ビニルエステルにエチレンを共重合させることで、けん化後のPVA(X)の溶解性を低くすることができる。これにより、高温でのスラリーからの脱水及びスラリーの粘度上昇をより抑制できる。
【0064】
PVA(X)のエチレン単位の含有率としては、スラリー用添加剤、掘削泥水及びセメントスラリーの用途において石油由来のみのビニルアルコール系重合体と比較して同等又はそれ以上の性質を有する点から、PVA(X)の全構造単位のうちの10モル%未満が好ましく、9モル%未満がより好ましく、8モル%未満がさらに好ましい。PVA(X)がエチレン単位を構成単位に含む共重合体である場合、エチレン単位の含有率の下限値は、0モル%超であればよく、0.1モル%以上であってもよく、1モル%以上であってもよい。
【0065】
PVA(X)のエチレン単位の含有率は、PVAの(X)前駆体であるビニルエステル重合体のH-NMRから求めた値である。すなわち、前駆体であるビニルエステル重合体をn-ヘキサンとアセトンの混合溶液を用いて再沈精製を3回以上十分に行った後、80℃での減圧乾燥を3日間して分析用のビニルエステル重合体を作製する。このビニルエステル重合体をDMSO-dに溶解し、500MHzのH-NMR(JEOL GX-500)を用いて80℃で測定した。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(積分値P:4.7ppm~5.2ppm)とエチレン、ビニルエステル及び第3成分の主鎖メチレンに由来するピーク(積分値Q:0.8ppm~1.6ppm)を用いてエチレン単位の含有率を算出する。
エチレン単位の含有率(モル%)=100×((Q-2P)/4)/P
【0066】
上述のとおり、PVA(X)にはビニルエステル単量体と共重合可能な他の不飽和単量体を共重合させることができる。不飽和モノカルボン酸類、不飽和ジカルボン酸類あるいはそれらの塩、それらのモノ又はジアルキルエステル等の不飽和単量体と共重合して得られたPVA(X)は、カルボン酸を含有する構成単位を有するため、水溶性により優れ、地下処理用目止め剤、紙コーティング剤、種子コーティング組成物、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いた際により適度に溶解し環境負荷が小さい点で好ましい。
【0067】
地下処理用目止め剤、紙コーティング剤、種子コーティング組成物、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤の用途においては、PVA(X)が変性PVAである場合、かかる変性PVAの変性率、すなわち変性PVAを構成する全構造単位に対する「ビニルエステル系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体」に由来する構成単位の含有率は、0.5モル%以上10モル%以下が好ましく、0.7モル%以上8モル%以下がより好ましく、1.0モル%以上5モル%以下がさらに好ましい。
【0068】
なお、変性PVA中の変性率は、けん化度100モル%のPVA系樹脂のH-NMRスペクトル(溶媒:DMSO-d、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができる。具体的には、変性率は、変性基中の水酸基のプロトン、メチンプロトン、及びメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトン等に由来するピーク面積から算出することができる。
【0069】
紙コーティング剤、多層構造体及びそれを用いた包装材料、水性エマルジョン及びそれを用いた接着剤の用途におけるビニルエステル単量体との共重合成分である他の不飽和単量体としては特にエチレンが好ましい。エチレン単位を含有するPVA(X)中のエチレン単位の含有率は1モル%以上20モル%未満が好ましい。エチレン単位の含有率が1モル%以上の場合は、得られるPVA(X)のガスバリア性がより優れる。エチレン単位の含有率は、より好適には1.5モル%以上であり、さらに好適には2モル%以上である。一方、エチレン単位の含有率が20モル%未満の場合は、PVA(X)が適切な水溶性を有し、水溶液として調製しやすい。エチレン単位の含有率は、好適には15モル%以下であり、より好適には10モル%以下であり、さらに好適には8.5モル%以下である。共重合成分としてエチレンを用いる場合、該エチレンは通常の石油由来の原料から製造されたものであっても、上記バイオエタノールを原料としたものであってもよく、また両者の混合物であってもよい。PVA(X)がエチレン単位を構成単位に含む共重合体である場合、エチレン単位の含有率の下限値は、0モル%超であればよく、0.1モル%以上であってもよく、1モル%以上であってもよい。
【0070】
ビニルエステル単量体(A)とビニルエステル単量体(B)との重合に際しては、PVA(X)の重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を共存させてもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2-ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン;3-メルカプトプロピオン酸、チオ酢酸等のチオカルボン酸;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられ、中でもアルデヒド又はケトンが好ましい。連鎖移動剤の添加量は、この連鎖移動剤の連鎖移動定数、達成すべきPVAの重合度等に応じて決定すればよい。
【0071】
ビニルエステル重合体のけん化反応としては、公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又はp-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解ないし加水分解反応を適用できる。
【0072】
けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素などが挙げられ、これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。中でも、メタノール又はメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0073】
(けん化度)
スラリー用添加剤、掘削泥水及びセメントスラリーの用途においては、PVA(X)のけん化度は、好ましくは99モル%以上であり、より好ましくは99.5モル%以上である。PVAは、含有する水酸基の水素結合に起因する結晶部分を有する結晶性の重合体である。PVA(X)の結晶化度は、けん化度の増加に伴い向上し、結晶化度の向上はPVA(X)の水溶性を低下させる。特に、PVA(X)は、けん化度99.5モル%を境に、高温水への溶解性が大きく変化する。そのため、けん化度99.5モル%以上のPVA(X)は、その水素結合の強さにより耐水性が高く(溶解性が低く)、化学架橋を有するPVA(X)に匹敵する耐水性を有する場合がある。そのため、PVA(X)のけん化度が99.5モル%以上であることで、化学架橋を行っていないPVA(X)であっても、スラリーの脱水及び高粘度化を抑制することが可能となり、その結果、化学架橋を行う工程を省略できる分だけコスト的に有利である。特にセメントスラリー用添加剤として用いた場合、けん化度が低いと高温での脱水を十分抑制できないおそれがある。
【0074】
なお、PVA(X)のけん化度はJIS K 6726:1994に準じて測定した値である。
【0075】
地下処理用目止め剤、紙コーティング剤の用途においては、PVA(X)のけん化度は、好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上、特に好ましくは99.5モル%以上である。PVAは、含有する水酸基の水素結合に起因する結晶部分を有する結晶性の重合体である。PVA(X)の結晶化度は、けん化度の増加に伴い向上し、結晶化度の向上はPVA(X)の水溶性を低下させる。
【0076】
多層構造体及びそれを用いた包装材料の用途においては、PVA(X)のけん化度に特に制限はないが、好適には80~99.99モル%である。けん化度が80モル%以上の場合は、得られる多層構造体の酸素ガスバリア性がより優れる。けん化度は、より好適には85モル%以上であり、さらに好適には90モル%以上である。一方、けん化度が99.99モル%以下の場合は、PVA(X)を安定に製造できる。けん化度は、より好適には99.5モル%以下であり、さらに好適には99モル%以下であり、特に好適には98.5モル%以下である。
【0077】
種子コーティング組成物の用途においては、PVA(X)のけん化度は、好ましくは65モル%以上であり、より好ましくは67モル%以上、さらに好ましくは69モル%以上、特に好ましくは70モル%以上である。PVA(X)のけん化度が60モル%以上であると、PVA(X)の水溶性がより優れ、種子コーティング組成物の製造上より有利である。
【0078】
水性エマルジョン及びそれを用いた接着剤の用途においては、PVA(X)のけん化度に特に制限はないが、80~99.99モル%が好ましい。けん化度が80モル%以上であることで、水性エマルジョンの粒子が保管中に凝集するのをより抑制でき、安定性をより良好にできる場合がある。けん化度は、より好適には82モル%以上であり、さらに好適には85モル%以上である。一方、けん化度が99.99モル%以下であることで、水性エマルジョンの粒子をより安定化することができ、製造がより容易となる傾向がある。けん化度は、より好適には99.5モル%以下であり、さらに好適には99モル%以下であり、特に好適には98.5モル%以下である。
【0079】
ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤の用途においては、PVA(X)のけん化度は、好ましくは60モル%以上99.5モル%以下であり、より好ましくは65モル%以上99.2モル%以下であり、さらに好ましくは68モル%以上99.0モル%以下である。けん化度が60モル%以上の場合、PVA(X)が水溶性に優れ、分散安定剤水溶液を調製しやすい。一方けん化度が99.5モル%以下であると、得られる分散剤を用いて懸濁重合を行った場合に、多量の粗大粒子の形成をより抑制できる。また得られるビニル系重合体粒子のポロシティが高く、可塑剤吸収性に優れる場合がある。
【0080】
ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定助剤の用途においては、PVA(X)のけん化度は、20モル%以上60モル%未満であり、好ましくは25モル%以上58モル%以下、より好ましくは30モル%以上56モル%以下である。けん化度が20モル%以下ではPVA(X)の製造が困難である。一方けん化度が60モル%以上であると、ビニル系化合物の懸濁重合により得られるビニル系重合体粒子からモノマー成分を除去するのが困難になったり、得られるビニル系重合体粒子の可塑剤吸収性が低下する場合がある。
【0081】
(重合度)
スラリー用添加剤、掘削泥水及びセメントスラリーの用途においては、PVA(X)の重合度は、好ましくは1,500以上4,500以下であり、より好ましくは2,000以上3,800以下である。PVA(X)の重合度が4,500以下の場合、PVA(X)を当該セメントスラリー用添加剤として用いた場合、高温でも適切な粘度が得られる。一方、PVA(X)の重合度が1,500以上の場合、高温でも脱水を十分に抑制できる。
【0082】
地下処理用目止め剤、紙コーティング剤、種子コーティング組成物、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤の用途においては、PVA(X)の重合度は、好ましくは150以上5,000以下であり、より好ましくは300以上4,000以下であり、さらに好ましくは500以上3500以下である。PVA(X)の重合度が5,000以下の場合、PVA(X)の製造性の点から工業的に有利である。一方、地下処理用目止め剤の用途においては、PVA(X)の重合度が150以上であると、より適切な目止め効果が得られる。また、紙コーティング剤の用途においては、PVA(X)の重合度が150以上であると、塗工紙により適切な耐水強度を付与できる。種子コーティング組成物の用途においては、PVA(X)の重合度が150以上であると、コーティングによる効果により優れる。PVA(X)の重合度が150以上であると、PVA(X)の製造上より有利であり、懸濁重合用分散安定剤としての性能により優れる。
【0083】
多層構造体及びそれを用いた包装材料の用途においては、PVA(X)の重合度は、好適には150以上5,000以下であり、より好適には200以上5,000以下である。PVA(X)の重合度が150以上の場合は、多層構造体の製造上より有利である。重合度は、さらに好適には250以上であり、よりさらに好適には300以上であり、特に好適には400以上である。一方、PVA(X)の重合度が5,000以下の場合、水溶液の粘度が高くなりすぎず、取り扱い性をより良好にできる。PVA(X)の重合度は、さらに好適には4500以下であり、よりさらに好適には4000以下であり、特に好適には3500以下である。
【0084】
紙コーティング剤の用途においては、PVA(X)の重合度は、好ましくは150以上5,000以下であり、より好ましくは300以上4,000以下である。PVA(X)の重合度が5,000以下の場合、PVA(X)の製造上より有利である。一方、PVA(X)の重合度が150以上であると、塗工紙により適切な耐水強度を付与できる。
【0085】
水性エマルジョン及びそれを用いた接着剤の用途においては、PVA(X)の重合度は、好ましくは150以上5,000以下であり、より好ましくは200以上5,000以下である。PVA(X)の重合度が150以上の場合は、得られる水性エマルジョンの保管安定性をより良好にできる。重合度は、さらに好適には250以上であり、よりさらに好適には300以上であり、特に好適には400以上である。一方、PVA(X)の重合度が5,000以下の場合、水溶液の粘度が高くなりすぎず、取り扱い性をより良好にできる。PVA(X)の重合度は、さらに好適には4500以下であり、よりさらに好適には4000以下であり、特に好適には3500以下である。
【0086】
ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定助剤の用途においては、PVA(X)の重合度は、好ましくは100以上700以下であり、より好ましくは120以上650以下、さらに好ましくは150以上600以下である。PVA(X)の重合度が700以下であると、ビニル系化合物の懸濁重合により得られるビニル系重合体粒子からモノマー成分をより除去しやすくなったり、得られるビニル系重合体粒子の可塑剤吸収性が向上したり、高濃度の分散安定助剤水性溶液として提供する際に粘度が非常に高くなることを抑制でき、ハンドリング性に優れる。一方、PVA(X)の重合度が100以上であると、PVA(X)の製造上より有利である。
【0087】
PVA(X)の重合度(粘度平均重合度)は、JIS K 6726:1994に準じて測定した値である。すなわち、PVAの重合度は、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dL/g)から次式により求めることができる。
重合度=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
【0088】
本発明では、ビニルアルコール系重合体(X)中における、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とのモル比(A)/(B)は、所望の効果が得られ、工業的に有利である点から、5/95~100/0である。モル比(A)/(B)は任意に設定できるが、(A)の比率が(A)/(B)比で5/95以上であることで、石油由来のみのビニルアルコール系重合体と比較して同等又はそれ以上の性質を有し、植物由来の原料を十分に生かすことができ、環境負荷を抑制する効果がより大きくなる。上記観点から、植物由来のビニルエステル単量体(A)の比率の下限値としてはより好適にはモル比(A)/(B)で10/90であり、さらに好適には20/80であり、よりさらに好適には25/75である。また、植物由来のビニルエステル単量体(A)の比率の上限値としては、環境負荷と原料コストのバランスから、好適にはモル比(A)/(B)で90/10であり、より好適には80/20であり、さらに好適には70/30であり、特に好適には60/40であり、最も好適には50/50である。植物由来のビニルエステル単量体(A)の比率の上限値が上記値であると、得られるPVA(X)にひび割れが生じる等の外観不良を起こす等の問題がより生じにくく、製造面で有利となる。
【0089】
(バイオマス度)
本発明におけるバイオマス由来の炭素は、大気中に二酸化炭素として存在していた炭素が、植物中に取り込まれ、これを原料として合成された有機物に存在する炭素を示すものであり、放射性炭素(即ち、炭素14)を測定することによって同定できる。また、バイオマス由来成分の含有割合は、放射性炭素(炭素14)の測定を行うことによって特定することができる。即ち、石油等の化石原料中には炭素14原子がほとんど残っていないため、対象となる試料中における炭素14の濃度を測定し、大気中の炭素14の含有割合(107pMC(percent Modern Carbon))を指標として逆算することで、試料中に含まれる炭素のうちのバイオマス由来炭素の割合を求めることができる。
【0090】
このような放射性炭素の測定によるバイオマス由来炭素の存在割合は、例えば、試料(ビニルエステル)を必要により二酸化炭素又はグラファイトとした後、加速器質量分析法(AMS法;Accelerator Mass Spectrometry)によって、標準物質(例えば、米国NISTシュウ酸)に対する炭素14の含有量を比較測定することにより求めることができる。バイオマス由来炭素の含有割合(%)は、[(試料中のバイオマス由来の炭素量)/(試料中の全炭素量)×100]によって算出できる。
【0091】
ビニルエステル単量体の非化石原料と化石原料の比率は上記14C/Cを測定することで判別でき、石油由来のエチレンから得られたビニルエステル単量体と判別できる。
【0092】
ビニルエステル単量体の原料の一部としてバイオマス(非化石原料)由来のエチレンを使用する場合、ビニルエステル単量体の非化石原料の比率は、得られるビニルエステル単量体の14C(放射性炭素)/C(炭素)で特定できる。化石原料から得られるビニルエステル単量体では14C/Cが1.0×10-14未満であるのに対して、本発明で用いるビニルエステル単量体(A)は14C/Cが1.0×10-14以上であることが好ましく、1.0×10-13以上であることがより好ましく、1.0×10-12であることがさらに好ましい。例えば、米国国立標準・技術研究所により作製された標準物質であるシュウ酸中の炭素14(14C)の含有量を比較測定することにより求めることができる。かかる14C/C量の分析によって、ビニルエステル単量体中の非化石原料率が測定できる。
【0093】
天然には大気圏内の核実験で生成された人工起源の14Cが存在するため、14C濃度が標準レベルよりも若干高くなること、時にpMCが100数%となる場合があるが、適宜補正して非化石原料と化石原料の割合を求めればよい。また、14Cの半減期は5,730年であるが、一般的な化学製品、特に酢酸ビニル、並びにそれを重合してなる酢酸ビニル系樹脂及びそのけん化物の製造から市場に出回る期間を考えると、14C量の減少は無視できる。なお、本発明において、14C/Cが1.0×10-14である場合について、適宜pMC(現代炭素率)に置き換えて表記することができる。
【0094】
本発明のPVA(X)は、バイオマス度が5~90%である。このバイオマス度を測定することで、製品における炭素原料のトレーサビリティに役立てることもできる。
【0095】
なお、PVA(X)がエチレンなどの共重合成分を含む場合は、当該共重合成分を含むバイオマス度として表されるが、共重合成分の原料素性とその変性率から計算することで、ビニルエステル単量体としての非化石原料率は算出できる。
【0096】
[スラリー用添加剤]
本発明のスラリー用添加剤は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含み、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0である。また、本発明の掘削泥水は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含み、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0である。さらに、本発明のセメントスラリーは前記スラリー用添加剤を含有する。
【0097】
本発明のスラリー用添加剤は、掘削泥水スラリー用添加剤、セメントスラリー用添加剤として使用できる。当該スラリー用添加剤は、上記PVA(X)を含有する。このPVA(X)は、粉末状で当該スラリー用添加剤に含有される(以下、このような粉末状のPVA(X)を「PVA粉末」ともいう)。当該スラリー用添加剤は、PVA粉末のみを含有していても、PVA粉末に加えて任意成分を含有していてもよい。当該スラリー用添加剤におけるPVA粉末の含有率は、例えば50質量%以上100質量%以下であり、好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0098】
PVA粉末の粒子サイズは、公称目開き1.00mm(16メッシュ)の篩を通過する大きさであることが好ましい。このようなPVA粉末を掘削泥水、セメントスラリー等のスラリーに添加剤として含有させた場合、高温におけるスラリーからの脱水を抑制することが容易となる。一方、PVA粉末の粒子サイズの下限値は、溶解度が極端に大きくならない範囲であり、公称目開き45μm(325メッシュ)を通過しないサイズが好ましく、公称目開き53μm(280メッシュ)を通過しないサイズがより好ましい。
【0099】
[掘削泥水]
本発明の掘削泥水は、例えば掘削された岩片、掘削屑等の運搬、ビット、ドリルパイプを潤滑性向上、多孔質の地盤の穴を埋設、静水圧により生ずる貯留層圧力(岩盤からの圧力)を相殺する等の役割を果たすものである。この掘削泥水は、当該スラリー用添加剤を含有し、水及び泥質を主成分とする。当該掘削泥水は、本発明の効果を損なわない範囲で任意成分を含んでいてもよい。
【0100】
本発明の掘削泥水は、PVA(X)を含む。好適な実施形態としては、PVA(X)、水及び泥質を含む掘削泥水が挙げられる。このような掘削泥水は、泥質、水、前記スラリー用添加剤を混合することで製造される。具体的には、当該掘削泥水は、水に泥質を分散、懸濁させた水-粘土懸濁液をベースに、当該スラリー用添加剤、必要に応じて任意成分を加えることにより製造することができる。
【0101】
<掘削泥水スラリー用添加剤>
ある好適な実施形態としては、掘削泥水スラリー用添加剤を含有する、掘削泥水が挙げられる。当該掘削泥水スラリー用添加剤は、上述したPVA粉末を含有するものである。また、当該掘削泥水スラリー用添加剤は、PVA粉末のみを含有していてもよい。ある好適な実施形態では、PVA(X)、水及びベントナイトを含む掘削泥水が挙げられる。PVA(X)及びPVA粉末については、上述した通りであるため、ここでの重複説明は省略する。
【0102】
但し、当該掘削泥水においては、PVA粉末の粒子サイズとしては、公称目開き(JIS Z 8801-1:2019)1.00mm(16メッシュ)の篩を通過する大きさであることが好ましく、公称目開き500μm(32メッシュ)の篩を通過する大きさがより好ましい。PVA粉末の粒子サイズが公称目開き500μm(32メッシュ)の篩を通過する大きさであると、このような粒子サイズのPVA粉末を含有する掘削泥水は、高温における掘削泥水からの脱水をより抑制できる。なお、PVA粉末の粒子サイズの下限としては、溶解度が極端に大きくならない範囲であれば特に制限は無いが、公称目開き45μm(325メッシュ)を通過しないサイズが好ましく、公称目開き53μm(280メッシュ)を通過しないサイズがより好ましい。
【0103】
当該掘削泥水におけるPVA粉末の含有量としては、0.5kg/m以上40kg/m以下が好ましく、3kg/m以上30kg/m以下がより好ましい。
【0104】
<泥質>
泥質としては、例えばベントナイト、アタパルジャイト、セリナイト、含水マグネシウムケイ酸塩等が挙げられ、中でもベントナイトが好ましい。
【0105】
当該掘削泥水における泥質の配合割合としては、当該掘削泥水に用いる水1kgに対して、泥質5g~300gが好ましく、10g~200gがより好ましい。
【0106】
<任意成分>
任意成分としては、公知の添加剤を使用することができ、例えば、炭素数2~12のα-オレフィンと無水マレイン酸の共重合体もしくはその誘導体(例えば、マレイン酸アミド、マレイン酸イミド)、又はそのアルカリ中和物等の水溶液;分散剤、pH調整剤、消泡剤、増粘剤等が挙げられる。炭素数2~12のα-オレフィンと無水マレイン酸の共重合体もしくはその誘導体としては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン-1、イソブテン、ジイソブチレン等のα-オレフィンと無水マレイン酸の共重合体又はその誘導体(例えば、クラレ社の「イソバン」)が挙げられ、分散剤としては、例えばフミン酸系分散剤、リグニン系分散剤等が挙げられ、中でもスルホン酸塩を含有するリグニン系分散剤が好ましい。
【0107】
[セメントスラリー]
本発明のセメントスラリーは、例えば地層と抗井内に設置されたケーシングパイプとの間の管状空隙部分に注入、硬化させることにより、ケーシングパイプの坑井内への固定、坑井内の内壁の保護のために使用される。このセメントスラリーは、スラリー用添加剤、硬化性粉末及び液剤を含有する。当該セメントスラリーは、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意成分を含有してもよい。
【0108】
このようなセメントスラリーは、当該スラリー用添加剤、液剤及び硬化性粉末、必要に応じて任意成分を加えて撹拌機等を用いて混合することで製造される。
【0109】
<セメントスラリー用添加剤>
ある好適な実施形態としては、セメントスラリー用添加剤を含有する、セメントスラリーが挙げられる。当該セメントスラリー用添加剤は、上述したPVA粉末を含有するものである。当該セメントスラリー用添加剤は、PVA粉末のみを含有していてもよい。ある好適な実施形態では、PVA(X)、液剤及び硬化性粉末を含む掘削泥水が挙げられる。PVA及びPVA粉末については、上述した通りであるため、ここでの重複説明は省略する。
【0110】
但し、当該セメントスラリーにおいては、PVA粉末の粒子サイズは、公称目開き1.00mm(16メッシュ)の篩を通過する大きさであることが好ましく、公称目開き250μm(60メッシュ)の篩を通過する大きさがより好ましい。PVA粉末の粒子サイズが公称目開き250μm(60メッシュ)の篩を通過する大きさであると、このような粒子サイズのPVA粉末を含有するセメントスラリーは、高温におけるセメントスラリーからの脱水をより抑制できる。なお、PVA粉末の粒子サイズの下限としては、溶解度が極端に大きくならない範囲であれば特に制限は無いが、公称目開き45μm(325メッシュ)を通過しないサイズが好ましく、公称目開き53μm(280メッシュ)を通過しないサイズがより好ましい。
【0111】
当該セメントスラリーにおけるPVA粉末の含有量としては、0.1%(BWOC)以上2.0%(BWOC)以下が好ましく、0.2%(BWOC)以上1.0%(BWOC)以下がより好ましい。なお、BWOC(By Weight Of Cement)は、セメント質量基準であることを意味する。
【0112】
<硬化性粉末>
硬化性粉末としては、例えばポルトランドセメント、混合セメント、エコセメント、特殊セメント等が挙げられ、水と反応して固形化する水硬性セメントが好ましく、当該セメントスラリーを掘削用に使用する場合、地熱井セメント、油井セメントが好ましい。硬化性粉末は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
ポルトランドセメントとしては、JIS R5210:2019に規定のものが挙げられる。ポルトランドセメントとしては、具体的には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低アルカリ形ポルトランドセメントが挙げられる。
【0114】
混合セメントとしては、JIS R 5211:2019、JIS R 5212:2019、JIS R 5213:2019に規定のもの、具体的には、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントが挙げられる。
【0115】
特殊セメントとしては、ポルトランドセメントをベースにしたもの、ポルトランドセメントの成分又は粒度構成を変えたもの、及びポルトランドセメントとは異なる成分のものが含まれる。
【0116】
ポルトランドセメントをベースにした特殊セメントとしては、膨張性のセメント、2成分系の低発熱セメント、3成分系の低発熱セメントが挙げられる。
【0117】
ポルトランドセメントの成分、粒度構成を変えた特殊セメントとしては、白色ポルトランドセメント、セメント系固化材(ジオセメント)、超微粒子セメント、高ビーライト系セメントが挙げられる。
【0118】
ポルトランドセメントとは異なる成分の特殊セメントとしては、超速硬セメント、アルミナセメント、リン酸セメント、気硬性セメントが挙げられる。
【0119】
<液剤>
液剤としては、硬化性粉末の種類等に応じて選択され、例えば水、溶剤、これらの混合物が挙げられるが、一般に水が使用される。溶剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0120】
当該セメントスラリーにおける硬化性粉末と液剤との比率は、目的とするスラリーの比重又は硬化体の強度等に応じて適宜決定すればよい。例えば、当該セメントスラリーを水硬性セメントにより掘削セメントスラリーとして構成する場合、水とセメントとの比(W/C)としては、スラリーの比重、硬化体の強度の観点から、25質量%以上100質量%以下が好ましく、30質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0121】
<任意成分>
任意成分としては、分散剤、遅延剤、消泡剤を含有することができ、これら以外の添加剤を含んでいてもよい。任意成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
(分散剤)
分散剤としては、例えばナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリカルボン酸系ポリマー等のアニオン性高分子などが挙げられ、中でも、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物が好ましい。分散剤の含有量は、通常0.05%(BWOC)以上2%(BWOC)以下であり、好ましくは0.2%(BWOC)以上1%(BWOC)以下である。
【0123】
(遅延剤)
遅延剤としては、例えばオキシカルボン酸又はその塩、単糖、多糖等の糖類が挙げられ、中でも、糖類が好ましい。遅延剤の含有量は、通常0.005%(BWOC)以上1%(BWOC)以下であり、好ましくは0.02%(BWOC)以上0.3%(BWOC)以下である。
【0124】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えばアルコールアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルキレンオキシド付加物、ポリプロピレングリコール、脂肪酸石鹸、シリコン系化合物等が挙げられ、中でも、シリコン系化合物が好ましい。消泡剤の含有量は、通常0.0001%(BWOC)以上0.1%(BWOC)以下であり、好ましくは0.001%(BWOC)以上0.05%(BWOC)以下である。
【0125】
(添加剤)
当該セメントスラリーは、用途、組成等を考慮して、例えばセメント速硬剤、低比重添加材、高比重添加材、発泡剤、ひび割れ低減剤、気泡剤、AE剤、セメント膨張材、セメント強度安定材、珪石粉、シリカフューム、フライアッシュ、石灰石粉、砕砂等の細骨材、砕石等の粗骨材、中空バルーン等の添加剤を含有していてもよい。また、これらの添加剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0126】
[地下処理用目止め剤]
本発明の地下処理用目止め剤は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含み、(A)/(B)のモル比が5/95~90/10である。
【0127】
本発明の地下処理用目止め剤は、上記のPVA(X)を含む。PVA(X)の含有量は特に限定されないが、地下処理用目止め剤全体に対して50~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。PVA(X)の含有量が上記範囲であることで、目止め効果により優れる傾向がある。
【0128】
本発明の地下処理用目止め剤は、石油又はシェールガスなどの掘削において、形成される亀裂の中に入り、その亀裂を一時的に閉塞することにより、新たな亀裂を形成することができる。本発明の地下処理用目止め剤を用いた亀裂の閉塞方法としては、地下処理用目止め剤を坑井内の流体の流れに乗せて、閉塞したい亀裂に流入させてもよい。
【0129】
また、本発明の地下処理用目止め剤は地中の亀裂を一時的に閉塞するが、徐々に水に溶解し、石油、天然ガス等の地下資源の回収時あるいは回収後には除去されるため、長期間地中にとどまることがない。よって、本発明の地下処理用目止め剤は、環境への負荷も極めて小さい。
【0130】
地下処理用目止め剤に用いるPVA(X)の形状は特に限定されず、ペレット、粒状、粉末などの形状であってもよい。ペレット化は押出成形法など通常の方法が採用でき、その際に後述するポリエチレングリコールなどの可塑剤を適宜添加してもよい。
【0131】
地下処理用目止め剤に用いるPVA(X)として粉末状のものを用いる場合には、その平均粒子径は、好ましくは10~5000μm、より好ましくは50~4000μm、さらに好ましくは100~3500μm、特に好ましくは500~3000μmである。
【0132】
PVA(X)の平均粒子径が上記範囲であることにより、PVA系樹脂が飛散などせず取り扱いがより容易となり、また例えば該PVA(X)を後に変性させる場合などであっても、反応が均一となりより良好となる傾向がある。なお、かかる平均粒子径とは、レーザー回折で粒径別の体積分布を測定し、積算値(累積分布)が50%になる径である。レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0133】
本発明の地下処理用目止め剤は、さらに添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、フィラー、可塑剤、澱粉などが挙げられる。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0134】
フィラーは、PVA(X)と混合することで、機械的特性をより向上させ、また水溶性速度を調節できる場合がある。フィラーの添加量は目的に応じて適宜選択できるが、例えば、目止め剤全体の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0135】
地下処理用目止め剤の比重は地下処理の際に使用される流体の比重に近いことが好ましく、そうすることで例えばポンプ動力にてより均質に系内に行き渡らせることができる。地下処理用目止め剤の比重を調整する観点から、PVA(X)に増量剤を添加してもよい。増量剤を添加することでPVA(X)の比重を上げることが可能である。増量剤の例としては、天然鉱物、無機及び有機物の塩が挙げられ、例えば、カルシウム、マグネシウム、ケイ素、バリウム、銅、亜鉛、マンガンからなる群から選ばれる一種又は二種以上の金属イオンと、フッ化物、塩化物、臭化物、炭酸塩、水酸化物、ギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩からなる群から選ばれる一種又は二種以上の対イオンとの化合物であってもよい。中でも、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、酸化亜鉛などが好ましい。
【0136】
地下処理用目止め剤の流体特性を向上させるために、地下処理用目止め剤は、PVA(X)に加えて、可塑剤を含んでいてもよい。いいかえると、PVA(X)は可塑剤を添加、混合したものであってもよい。この際、PVA(X)に可塑剤を均質に添加するために、PVA(X)表面に可塑剤をスプレーしてコーティングする方法を用いることができる。可塑剤を添加することで、微粉の発生をより抑制することができる場合がある。可塑剤は公知の物が使用でき、好適な可塑剤としては、水、グリセロール、ポリグリセロール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールアセトアミド、エタノールフォルムアミド、酢酸トリエタノールアミン、グリセリン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。トリメチロールプロパンのように常温で固体又は結晶体のものは、水や他の液体に溶かすことでスプレーコーティングに利用できる。可塑剤の含有量は、PVA(X)の質量(100質量%)を元に、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0137】
ある好適な実施形態としては、PVA(X)と添加剤との組成物を含み、添加剤がフィラー及び可塑剤を含む、地下処理用目止め剤が挙げられる。当該地下処理用目止め剤における各成分の配合割合としては、PVA(X)が60~94質量%、フィラーが5~40質量%、可塑剤が1~15質量%であることが好ましい。
【0138】
また、本発明の地下処理用目止め剤において、PVA(X)に澱粉を混合させてもよい。澱粉の添加量はPVA(X)を100質量%としたときに、それに対し10~90質量%が好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。澱粉としては、例えば、天然物、合成物、物理的又は化学的に修飾した澱粉などが挙げられる。
【0139】
本発明の地下処理用目止め剤は、その他にも必要に応じて、キレート剤、pH調整剤、酸化剤、ロストサーキュレーション材料、スケール防止剤、防錆剤、粘土、鉄剤、還元剤、酸素除去剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0140】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含有する層(C)、及び、樹脂を含有する層(D)を有し、
前記樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)樹脂、スターチ及びセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である。
【0141】
[層(C)]
本発明の多層構造体を構成する層(C)は上記PVA(X)を含有する。
【0142】
層(C)中の前記PVA(X)の含有量は、好適には50質量%以上であり、より好適には80質量%以上であり、さらに好適には95質量%以上である。また、層(C)において、全重合体成分に対する、前記ビニルアルコール系重合体の質量比(ビニルアルコール系重合体/全重合体成分)は好適には0.9以上であり、より好適には層(C)に含まれる重合体成分が、実質的に前記PVA(X)のみを含む。実質的に前記PVA(X)のみを含む場合、PVA(X)以外の成分の含有率は好適には0.5質量%未満であり、より好適には0.1質量%未満であり、さらに好適には0.01質量%未満である。
【0143】
[層(D)]
層(D)は、樹脂を含有する基材である。樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)樹脂、スターチ及びセルロース等が挙げられる。樹脂は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。層(D)の厚み(延伸する場合には最終的な厚み)は、5~100μmが好ましい。
【0144】
ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等が挙げられる。中でも、ポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを総称する。「(メタ)アクリレート」等の表現も同様である。
【0145】
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記することがある)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0146】
ポリアミド樹脂としては、例えばポリカプロアミド(ナイロン-6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン-11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン-12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン-6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン-6,12)等の単独重合体;カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン-6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸重合体(ナイロン-6/11)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸重合体(ナイロン-6,9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン-6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン-6/6,6/6,12)、アジピン酸とメタキシリレンジアミンとの重合体、及びヘキサメチレンジアミンとm,p-フタル酸との重合体である芳香族系ナイロン等の共重合体が挙げられる。中でも、ポリカプロアミド(ナイロン-6)及びポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン-6,6)が好ましい。
【0147】
ポリ塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニルの単独重合体又は塩化ビニルと他の単量体との共重合体を用いることができる。他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン類;ブタジエン、イソプレンなどのジエン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート、フェニルメタクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド類、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル、ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を用いることができる。塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体は、塩化ビニルと塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体との合計100質量部に対して、0~50質量部の範囲にあることが好ましい。
【0148】
ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂としては、アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンを構造単位として含むものが挙げられ、例えば、難燃ABS樹脂、ガラス繊維等で強化された強化ABS樹脂、フェニルマレイミド系ABS樹脂等が挙げられる。さらに、ABS樹脂としては、スチレンをα-メチルスチレンに変更したα-メチルスチレン系ABS樹脂、ブタジエンをアクリルゴムに変更したASA(Acrylonitrile-Styrene-Acrylate resin)樹脂、ブタジエンを塩素化ポリエチレンに変更したACS(Chlorinated-polyethylene-Acrylonitrile-Styrene resin)樹脂、ブタジエンをEPDM(エチレンプロピレンジエン三元共重合体)に変更したAES(Acrylonitrile-Ethylene-Styrene resin)樹脂等が挙げられる。
【0149】
ポリ乳酸(PLA)樹脂としては、乳酸モノマーを主成分として重合したものであって、乳酸由来の構造単位を50モル%超含むものが挙げられる。ポリ乳酸樹脂としては、例えば、構造単位がL-乳酸であるポリ(L-乳酸)、構造単位がD-乳酸であるポリ(D-乳酸)、構造単位がL-乳酸及びD-乳酸であるポリ(DL-乳酸)、並びにこれらの混合体を主成分とする重合体等が挙げられる。
【0150】
ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂は、1,4-ブタンジオール及びコハク酸を構造単位に含むものであり、1,4-ブタンジオール及びコハク酸に加えて、3-アルコキシ-1,2-プロパンジオールを共重合させた共重合体を用いることもできる。前記共重合体に用いる3-アルコキシ-1,2-プロパンジオールおいて、アルコキシ基は、炭素数1~10が好ましく、1~8がより好ましい。PBS樹脂は、植物由来のPBS樹脂を使用してもよい。
【0151】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂としては、ポリ(3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシデカノエート)等が挙げられる。
【0152】
ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)樹脂は、3-ヒドロキシブチレートと、3-ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート重合体)である。前記共重合体において、3-ヒドロキシヘキサノエートの量は、全構造単位において、1~20モル%であってもよい。
【0153】
スターチとしては、ウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、コムギデンプン、キャッサバデンプン、サゴデンプン、タピオカデンプン、モロコシデンプン、コメデンプン、マメデンプン、クズデンプン、ワラビデンプン、ハスデンプン、ヒシデンプン等の生デンプン(自家変性デンプン):α-デンプン、分別アミロース、湿熱処理デンプン、熱化学変性デンプンなどの物理的変性デンプン:加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロースなどの酵素変性デンプン;酸処理デンプン、次亜塩素酸酸化デンプンなどの酸化デンプン、ジアルデヒドデンプンなどの化学分解変性デンプン;エステル化デンプン、エーテル化デンプン、カチオン化デンプン、架橋デンプンなどの化学変性デンプン誘導体、アルキルスターチ、ヒドロキシアルキルスターチ、ヒドロキシアルキルアルキルスターチ等が挙げられる。アルキルスターチとしては、メチルスターチ、エチルスターチ、プロピルスターチ等が挙げられる。ヒドロキシアルキルスターチとしては、ヒドロキシメチルスターチ、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。ヒドロキシアルキルアルキルスターチとしては、ヒドロキシメチルメチルスターチ、ヒドロキシエチルメチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルスターチ等が挙げられる。化学変性デンプン誘導体のうちエステル化デンプンとしては、例えば、酢酸エステル化デンプン、コハク酸エステル化デンプン、硝酸エステル化デンプン、リン酸エステル化デンプン、尿素リン酸エステル化デンプン、キサントゲン酸エステル化デンプン、アセト酢酸エステル化デンプン、カルバミン酸エステル化デンプンなどが挙げられる。エーテル化デンプンとしては、例えば、アリルエーテル化デンプン、メチルエーテル化デンプン、カルボキシエーテル化デンプン、カルボキシメチルエーテル化デンプン、ヒドロキシエチルエーテル化デンプン、ヒドロキシプロピルエーテル化デンプンなどが挙げられるカチオン化デンプンとしては、例えば、デンプンと2-ジエチルアミノエチルクロライドの反応物、デンプンと2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの反応物などが挙げられる。架橋デンプンとしては、例えば、ホルムアルデヒド架橋デンプン、エビクロルヒドリン架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、アクロレイン架橋デンプンなどが挙げられる。
【0154】
セルロースとしては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、酢酸セルロース等が挙げられる。アルキルセルロースとしては、メチルセルロース等が挙げられる。メチルセルロースにおけるメトキシ基の含有量は、好適には26.0~33.0質量%、より好適には27.5~31.5質量%である。メチルセルロースにおけるメトキシ基の含有量は、第十七改正日本薬局方のメチルセルロースに関する分析方法に準じて測定できる。ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。ヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシ基の含有量は、好適には53.4~80.5質量%、より好適には60.0~70.0質量%である。ヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシ基の含有量は、第十七改正日本薬局方のヒドロキシプロピルセルロースに関する分析方法に準じて測定できる。
【0155】
本発明の多層構造体の酸素透過量は、好適には150cc/m・day・atm以下であり、より好適には100cc/m・day・atm以下である。本発明において、多層構造体の酸素透過量は、実施例に記載された方法により求められる。
【0156】
本発明の多層構造体中の各層は、ガスバリア性の向上、強度の向上或いは取り扱い性の改善を目的に、無機層状化合物を含有してもよい。無機層状化合物としては、例えば、雲母類、タルク、モンモリロナイト、カオリナイト、バーミキュライトなどが挙げられ、これらは天然に産出されるものであってもよいし、合成されるものであってもよい。
【0157】
本発明の多層構造体中の各層は、耐水性を向上させる目的で架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、チタン系化合物、シリカ化合物、アルミニウム化合物、ジルコニウム化合物、硼素化合物などが挙げられる。中でも、コロイダルシリカ、アルキルシリケートなどのシリカ化合物が好ましい。
【0158】
本発明の多層構造体の製造方法は特に限定されないが、前記ビニルアルコール系重合体(X)を含有する水溶液(以下、PVA(X)水溶液と略記することがある)を調製してコーティング剤を得る工程、及び該コーティング剤を、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含有する基材の表面に塗工する工程を有する方法が好ましい。なお、後述の通り、本発明の好ましい一実施形態として層(C)と層(D)の間に接着性成分層等の層が存在する場合は、基材上に形成された接着性成分層等の層の上にコーティング剤を塗工して多層構造体を製造することができ、本開示においてはそのような場合であっても「コーティング剤を基材の表面に塗工する」と表現することがある。
【0159】
前記基材としては、前記樹脂からなるフィルムが挙げられる。ある好適な実施形態において、前記基材としては、ポリオレフィン樹脂からなるフィルム(以下、ポリオレフィンフィルムともいう。)、ポリエステル樹脂からなるフィルム(以下、ポリエステルフィルムともいう。)、ポリアミド樹脂からなるフィルム(以下、ポリアミドフィルムともいう。)が挙げられる。他の好適な実施形態において、前記基材としては、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂からなるフィルム(以下、ポリ塩化ビニルフィルムともいう。)、ABS樹脂からなるフィルム(以下、ABSフィルムともいう。)、ポリ乳酸(PLA)樹脂からなるフィルム(以下、ポリ乳酸フィルムともいう。)、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂からなるフィルム(以下、ポリブチレンサクシネートフィルムともいう。)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂からなるフィルム(以下、ポリヒドロキシアルカノエートフィルムともいう。)、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)樹脂からなるフィルム(以下、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエートフィルムともいう。)、スターチからなるフィルム(以下、スターチフィルムともいう。)及びセルロースからなるフィルム(以下、セルロースフィルムともいう。)が挙げられる。当該基材が層(D)を形成することになる。
【0160】
前記PVA(X)水溶液中の前記PVA(X)の含有量は特に制限はないが、5~50質量%が好ましい。上記範囲であると、乾燥負荷が軽減し、また水溶液粘度が適度であるため、塗工性がより良好となる。前記PVA(X)水溶液を含有するコーティング剤を前記基材表面に塗工した後に乾燥することにより、層(C)を形成させる。乾燥処理時の蒸発速度は、好適には2~2000g/m・minであり、より好適には50~500g/m・minである。
【0161】
前記PVA(X)水溶液及びコーティング剤は、界面活性剤、レベリング剤等を含有してもよい。また、塗工性の観点から、前記PVA(X)水溶液及びコーティング剤は、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコールを含有してもよい。この場合、前記PVA(X)水溶液に含まれる低級脂肪族アルコールの含有量は、水100質量部に対して、好適には100質量部以下であり、より好適には50質量部以下であり、さらに好適には20質量部以下である。作業環境の点からは、前記PVA(X)水溶液に含まれる液体媒体が水のみであることが好ましい。また、前記PVA(X)水溶液が、防黴剤、防腐剤などを含有していてもよい。前記PVA(X)水溶液の塗工時の温度は、20~80℃が好ましい。塗工方法は、グラビアロールコーティング法、リバースグラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、ワイヤーバーコーティング法が好適に用いられる。コーティング剤を塗工する前の基材、又は得られた多層構造体に対して、延伸処理或いは熱処理を行ってもよい。その場合、作業性を考慮すると、前記基材を一段延伸した後、当該基材にコーティング剤を塗布してから、さらに二段延伸を行い、その二段延伸中又は二段延伸後に熱処理をする方法が好ましい。
【0162】
前記熱処理は、空気中などで行われる。熱処理温度は前記基材の種類に応じて調整すればよく、通常、ポリオレフィンフィルムの場合には140℃~170℃である。ポリエステルフィルム及びポリアミドフィルムの場合には熱処理温度は140℃~240℃である。ポリ塩化ビニルフィルムの場合には熱処理温度は140℃~200℃である。ABSフィルムの場合には熱処理温度は140℃~170℃である。ポリ乳酸フィルムの場合には熱処理温度は140℃~240℃である。ポリブチレンサクシネートフィルムの場合には熱処理温度は140℃~240℃である。ポリヒドロキシアルカノエートフィルムの場合には熱処理温度は140℃~240℃である。ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエートフィルムの場合には熱処理温度は140℃~240℃である。スターチフィルムの場合には熱処理温度は140℃~240℃である。セルロースフィルムの場合には熱処理温度は140℃~240℃である。層(C)の熱処理を行う場合、通常、基材である層(D)の熱処理と同時に行われる。
【0163】
層(C)の厚み(延伸する場合には延伸後の最終的な厚み)は、好適には0.1~20μmであり、より好適には0.1~9μmである。また、多層構造体は、2層以上の層(C)を含むものであってもよい。2層以上の層(C)に含まれるPVA(X)は同一であってもよく、異なっていてもよい。多層構造体が2層以上の層(C)を含む場合、前記層(C)の厚みは、1層の層(C)の厚みを表す。
【0164】
前記多層構造体における、層(D)に対する層(C)の厚み比((C)/(D))は、好適には0.9以下であり、より好適には0.5以下である。多層構造体が2層以上の層(C)を含む場合、各層(C)に対する層(D)の厚み比を表す。
【0165】
層(C)と層(D)との間に、接着性を向上させる目的で、接着性成分層を形成してもよい。接着性成分としては、アンカーコート剤等が挙げられる。前記コーティング剤を塗工する前に、接着性成分を前記基材の表面に塗工する方法等により前記接着性成分層を形成することができる。
【0166】
本発明の多層構造体において、層(C)における、層(D)と接していない面に、さらにヒートシール樹脂層が形成されていてもよい。ヒートシール樹脂層は、通常押し出しラミネート法又はドライラミネート法により形成される。ヒートシール樹脂としては、HDPE、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体、アイオノマー樹脂などが使用できる。
【0167】
[包装材料]
本発明の多層構造体を備える包装材料も、本発明の好適な実施形態である。当該包装材料は、本発明の多層構造体を備えることで、酸素ガスバリア性に優れる。
【0168】
当該包装材料は、例えば食品;飲料物;農薬、医薬等の薬品;医療器材;機械部品、精密材料等の産業資材;衣料などを包装するために使用される。特に、当該包装材料は、酸素に対するバリア性が必要となる用途、及び包装材料の内部が各種の機能性ガスによって置換される用途に好適に使用される。
【0169】
当該包装材料の形態として、例えば縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、容器用蓋材等が挙げられる。
【0170】
[紙コーティング剤]
本発明の紙コーティング剤は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含み、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0である。
【0171】
本発明の紙コーティング剤を塗工する基材は特に制限されないが、例えば紙、樹脂を含む基材等が挙げられる。当該紙コーティング剤としては、本発明の紙コーティング剤をそのまま用いてもよく、さらに他の成分を添加して用いてもよい。
【0172】
上記他の成分としては、ビニルアルコール系重合体(X)及び水以外の他の成分として前述したものが挙げられる。また、上記他の成分としては、グリオキザール、尿素樹脂、メラミン樹脂、多価金属塩、水溶性ポリアミド樹脂等の耐水化剤;アンモニア、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、リン酸等のpH調節剤;離型剤;顔料等の着色剤;ビニルアルコール系重合体(X)に該当しない無変性PVA、カルボキシル変性PVA、スルホン酸基変性PVA、アクリルアミド変性PVA、カチオン基変性PVA、長鎖アルキル基変性PVA等の各種の変性PVA;カゼイン、生澱粉(小麦、コーン、米、馬鈴しょ、甘しょ、タピオカ、サゴ椰子)、生澱粉分解産物(デキストリン等)、澱粉誘導体(酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉等)、海藻多糖類(アルギン酸ソーダ、カラギーナン、寒天(アガロース、アガロペクチン)、ファーセルラン等)、水溶性セルロース誘導体(カルボキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等)等の水溶性高分子;スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、ポリアクリル酸エステルエマルジョン、酢酸ビニル-エチレン共重合体エマルジョン、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体エマルジョン等の合成樹脂エマルジョン;等も挙げられる。紙コーティング剤中のビニルアルコール系重合体(X)の濃度は、塗工量(塗工により生じた紙の乾燥質量の増加)、塗工に使用する装置、操作条件等に応じて任意に選択されるが、1.0~30質量%が好ましく、2.0~25.0質量%がより好ましい。
【0173】
本発明に係る紙コーティング剤を紙に塗工する方法としては、公知の方法、例えばサイズプレス、ゲートロールコーター、シムサイザー、バーコーター、カーテンコーター等の装置を用いて紙の片面又は両面に塗工する方法、又は紙用塗工液(紙コーティング剤)を紙に含浸させる方法が挙げられる。塗工した紙の乾燥は、公知の方法、例えば熱風、赤外線、加熱シリンダー又はこれらを組み合わせた方法により行うことができる。乾燥した塗工紙は、調湿及びカレンダー処理することにより、バリア性をさらに向上させることができる。カレンダー処理条件としては、ロール温度が常温~100℃、ロール線圧20~300kg/cmが好ましい。
【0174】
他の実施形態としては、本発明に係る紙コーティング剤が紙に塗工されてなる、塗工紙が挙げられる。本発明に係る紙コーティング剤を用いた塗工紙は、剥離紙原紙、耐油紙、ガスバリア紙、感熱紙、インクジェット用紙、感圧紙等として用いることができる。中でも、剥離紙原紙又は耐油紙であることが好ましい。すなわち、ある実施形態としては、剥離紙原紙又は耐油紙である上記塗工紙が挙げられる。
【0175】
剥離紙原紙は、基材(紙)の上に、紙用塗工液により形成される目止め層(バリア層)を有する。基材(紙)としては、マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙;一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷紙;等が挙げられる。剥離紙は、上記剥離紙原紙の目止め層の上に積層された剥離層を有する。剥離層はシリコーン樹脂から構成されることが好ましい。シリコーン樹脂としては、公知のシリコーン樹脂、例えば溶剤型シリコーン、無溶剤型シリコーン、エマルジョン型シリコーンが挙げられる。剥離紙原紙における塗工量(塗工により生じた紙の乾燥質量の増加)は特に制限されないが、例えば0.1~5.0g/mであり、好ましくは0.1~2.5g/mである。
【0176】
耐油紙は、基材(紙)の上に、紙用塗工液により形成される耐油層を有する。基材(紙)としては、マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙;一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷紙;クラフト紙、グラシン紙、パーチメント紙等が挙げられる。耐油紙における塗工量(塗工により生じた紙の乾燥質量の増加)は特に制限されないが、例えば0.1~20g/mである。
【0177】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、本発明に係る紙コーティング剤(紙コーティング液)は、PVA(X)及び水以外の他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、PVA(X)以外の樹脂、有機溶剤、可塑剤、架橋剤、界面活性剤、沈殿防止剤、増粘剤、流動性改良剤、防腐剤、密着性向上剤、酸化防止剤、浸透剤、消泡剤、充填剤、湿潤剤、着色剤、結合剤、保水剤、填料、澱粉及びその誘導体等の糖類、ラテックス等の添加剤が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明に係る紙コーティング剤における上記他の成分の含有量は、好適には10質量%以下であり、5質量%以下、2質量%以下、1質量%以下又は0.5質量%以下が好ましい場合もある。
【0178】
[種子コーティング組成物]
本発明の種子コーティング組成物は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)(以下、PVA(X)と略記することがある)を含み、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0である。
【0179】
(農薬)
種子コーティング組成物は、1種以上の疎水性農薬をさらに含んでいてもよい。本発明において、「農薬」は、広く、殺虫剤、殺菌剤、線虫剤、及び生きている生物からの種子への損傷を防止又は低減する同様の材料などの薬剤を指すために使用される。
【0180】
本発明の文脈において、「疎水性」農薬添加剤は、(例えば、界面活性剤を使用せずに)水中に溶解しないか、又は水中に安定に分散可能であるものである。
【0181】
このような疎水性農薬は、一般に当業者に周知であり、一般に市販されている。疎水性農薬の市販品としては、殺菌剤と殺虫剤の混合物であるAcceleronTMパッケージ(ピラクロストロビン、フルキサピロキサド、メタラキシル、及びイミダクロプリドを含む)等が挙げられる。
【0182】
好適な殺菌剤の例には、ピラクロストロビン、フルキサピロキサド、イプコナゾール、トリフロキシストロビン、メタラキシル(メタラキシル265 ST)、フルジオキソニル(フルジオキソニル4L ST)、チアベンダゾール(チアベンダゾール4L ST)、トリチコナゾール、テフルトリン及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0183】
好適な殺虫剤の例としては、クロシアニジン、イミダクロプリド、SENATOR(登録商標)600 ST (Nufarm US)、テフルトリン、テルブホス、シペルメトリン、チオジカルブ、リンダン、フラチオカルブ、アセフェート及びそれらの組合せが挙げられる。
【0184】
疎水性農薬は、典型的には、そのような農薬の製造業者によって推奨される用量に従って、少量(「有効量」で所望の農薬効果を達成するために使用される)で使用される。
【0185】
(水性コーティング組成物)
ある好適な実施形態では、種子コーティング組成物は、水性コーティング組成物である。水性コーティング組成物は、主なキャリア媒体として水を含む。
【0186】
コーティング組成物におけるPVA(X)の含有量の下限値は、コーティング組成物の総質量に基づいて、0.5質量%が好ましく、1.0質量%がより好ましく、2.0質量%がよりさらに好ましい。また、コーティング組成物におけるPVA(X)の含有量の上限値は、コーティング組成物の総質量に基づいて、10質量%が好ましく、8質量%がより好ましく、6質量%がよりさらに好ましい。
【0187】
以下に記載されるような任意成分に応じて、本発明による水性コーティング組成物の固形分の下限値は、水性コーティング組成物の総質量に基づいて、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。また、本発明による水性コーティング組成物の固形分の上限値は、水性コーティング組成物の総質量に基づいて、25質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。
【0188】
水性コーティング組成物はまた、種子に適用するために水で希釈することができる濃縮物として提供することができる。
【0189】
PVA(X)及び他の任意成分に応じて、水性コーティング組成物は、当業者によって理解されるように、溶液、分散液、エマルジョン又は懸濁液の形態であり得る。例えば、成分のいくつかは溶液中にあってもよく、一方、他のものは分散、乳化及び/又は懸濁されていてもよい。そのような場合、水性コーティング組成物の成分は、適用前に水性コーティング組成物中に実質的に均等に分布されていることが好ましい。したがって、水性コーティング組成物は、安定な溶液、エマルジョン及び/又は分散液、又は成分が、穏やかな加熱を伴う撹拌又は伴わない撹拌などの従来の手段を介して容易に均等に分布され得る溶液、エマルジョン、分散液及び/又は懸濁液であることが好ましい。
【0190】
(任意成分)
本発明に係る種子コーティング組成物は、PVA(X)に加えて、他の任意成分を含んでいてもよい。他の任意成分としては、PVA(X)以外の他のポリマー、可塑剤、タルク、ワックス、顔料及び脱粘着剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、PVA(X)以外の他のポリマーを、PVA(X)にブレンドして、コーティング特性を高めることができる。PVA(X)以外の他のポリマーとしては、例えば、ポリビニルピロリドン、デンプン及び高分子量ポリエチレングリコール等が挙げられる。また、可塑剤、タルク、ワックス、顔料及び脱粘着剤は、必要に応じて、種子コーティング溶液、エマルジョン又は懸濁液に添加されてもよい。
【0191】
(水性コーティング組成物の適用)
水性コーティング組成物を種子に適用するための方法は、当業者に周知である。従来の方法は、例えば、混合、噴霧又はそれらの組み合わせを含む。回転塗布機、ドラム塗布機、流動床などの各種塗布技術を駆使した各種塗布機が市販されている。種子は、バッチ又は連続コーティングプロセスを介してコーティングされてもよい。
【0192】
種子は、好ましくは、コーティング組成物のフィルムで実質的に均一にコーティングされる。
【0193】
(被覆種子)
本発明に係る種子コーティング組成物を用いて処理される種子としては、例えば、小麦、大麦、ライ麦、モロコシ、リンゴ、モモサクランボ、イチゴ、ブラックベリー、サトウダイコン、ビート、レンチル、エンドウ、ダイズ、カラシ、オリーブ、ヒマワリ、ヤシ油植物、ココア豆、ククンバーメロン、亜麻、麻、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、マンダリン、レタス、アスパラガス、キャベツ、ニンジン、タマネギ、トマト、パプリカ、アボカド、花、広葉樹トウモロコシ、ジャガイモ球根、米タバコ、ナッツ、コーヒー及びサトウキビ等が挙げられる。
【0194】
[水性エマルジョン]
本発明の水性エマルジョンは、分散剤と分散質とを含み、分散質が、エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)を含み、分散剤が、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含み、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0である。
【0195】
本発明の水性エマルジョンは、分散剤として上記のPVA(X)と、分散質としてエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)とを含む水性エマルジョンである。PVA(X)とエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)との比率に特に制限はないが、固形分基準での質量比((X)/(Y1))は好適には2/98~20/80であり、より好適には5/95~15/85である。質量比が上記範囲であることで、得られる水性エマルジョンの粘度安定性がより良好となり、また得られる皮膜の耐水性がより良好となる傾向がある。
【0196】
本発明の水性エマルジョンにおける固形分含有量に特に制限はないが、好適には30質量%以上60質量%以下であり、より好適には35質量%以上55質量%以下である。
【0197】
[エチレン性不飽和単量体単位]
エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)の材料となるエチレン性不飽和単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン系単量体;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル系単量体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、及びこれらの四級化物、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩等の(メタ)アクリルアミド系単量体;スチレン、α-メチルスチレン、p-スチレンスルホン酸及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系単量体;N-ビニルピロリドン等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併用できる。
【0198】
エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(Y1)としては、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体、及びジエン系単量体からなる群より選択される少なくとも1種に由来する特定単位を有する重合体が好ましい。上記特定単位の含有率としては、この重合体の全単量体単位に対して好適には70質量%以上であり、より好適には75質量%以上であり、さらに好適には80質量%以上であり、特に好適には90質量%以上である。特定単位の含有率が70質量%未満であると、水性エマルジョンの乳化重合安定性が不十分となる傾向がある。
【0199】
さらに、上記特定単位の中でも、ビニルエステル系単量体が特に好ましく、酢酸ビニルが最も好ましい。すなわち、該重合体の全単量体単位に対して、ビニルエステル系単量体単位の含有率を70質量%以上とすることが好ましく、酢酸ビニルに由来する単量体単位の含有率を70質量%以上とすることがより好ましく、酢酸ビニルに由来する単量体単位の含有率を90質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0200】
[水性エマルジョンの製造方法]
本発明の水性エマルジョンの製造方法としては、PVA(X)の存在下で、重合開始剤を用いて前記エチレン性不飽和単量体を乳化重合する方法が一例として挙げられる。このようにして得られた水性エマルジョンは、特に凝集物の生成がなく、耐水性にも優れる。
【0201】
上記乳化重合における分散媒は、水を主成分とする水性媒体であることが好ましい。水を主成分とする水性媒体には、水と任意の割合で可溶な水溶性の有機溶媒(アルコール類、ケトン類等)を含んでいてもよい。ここで、「水を主成分とする水性媒体」とは水を50質量%以上含有する分散媒のことである。コスト及び環境負荷の観点から、分散媒は、水を90質量%以上含有する水性媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。
【0202】
上記方法において、重合系内へ乳化重合用分散安定剤としてPVA(X)を仕込む場合、その仕込み方法や添加方法に特に制限はない。重合系内に乳化重合用分散安定剤を初期一括で添加する方法や、乳化重合中に連続的に添加する方法が挙げられる。中でも、PVA(X)のエチレン性不飽和単量体へのグラフト率を高める観点から、重合系内に乳化重合用分散安定剤を初期一括で添加する方法が好ましい。この際、冷水又は予め加温した温水にPVA(X)を添加し、PVA(X)を均一に分散させるため80~90℃に加温し撹拌する方法が好ましい。
【0203】
乳化重合時における、乳化重合用分散安定剤としてのPVA(X)の含有量は特に限定されないが、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、好適には0.2質量部以上40質量部以下であり、より好適には0.3質量部以上20質量部以下であり、さらに好適には0.5質量部以上15質量部以下である。PVA(X)の配合量が、0.2質量部未満の場合は、水性エマルジョンの分散質粒子が凝集したり、重合安定性が低下する傾向がある。一方、PVA(X)の配合量が、40質量部を超える場合は、重合系の粘度が高くなりすぎて、均一に乳化重合が進行しなかったり、重合熱の除熱が不十分となる傾向がある。
【0204】
上記乳化重合において、重合開始剤としては、乳化重合に通常用いられる水溶性の単独開始剤又は水溶性のレドックス系開始剤が使用できる。これらの開始剤は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。中でも、レドックス系開始剤が好ましい。
【0205】
水溶性の単独開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化水素、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)等の過酸化物等が挙げられる。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0206】
レドックス系開始剤としては、酸化剤と還元剤を組み合わせたものを使用できる。酸化剤としては、過酸化物が好ましい。還元剤としては、金属イオン、還元性化合物等が挙げられる。酸化剤と還元剤の組み合わせとしては、過酸化物と金属イオンとの組み合わせ、過酸化物と還元性化合物との組み合わせ、過酸化物と、金属イオン及び還元性化合物とを組み合わせたものが挙げられる。過酸化物としては、過酸化水素、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロキシペルオキシド、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)、過酢酸t-ブチル、過酸エステル(過安息香酸t-ブチル)等が挙げられる。金属イオンとしては、Fe2+、Cr2+、V2+、Co2+、Ti3+、Cu等の1電子移動を受けることのできる金属イオンが挙げられる。還元性化合物としては、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、フルクトース、デキストロース、ソルボース、イノシトール、ロンガリット、アスコルビン酸が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムからなる群から選ばれる1種以上の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上の還元剤との組み合わせが好ましく、過酸化水素と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上の還元剤との組み合わせがより好ましい。
【0207】
また、乳化重合に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、アルカリ金属化合物、界面活性剤、緩衝剤、重合度調節剤、可塑剤あるいは造膜助剤等を適宜使用してもよい。
【0208】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)を含む限り特に限定されず、アルカリ金属イオンそのものであってもよく、アルカリ金属を含む化合物であってもよい。
【0209】
アルカリ金属化合物の含有量(アルカリ金属換算)は、用いられるアルカリ金属化合物の種類に応じて適宜選択することができるが、アルカリ金属化合物の含有量(アルカリ金属換算)は、水性エマルジョン(固形換算)の全質量に対して、好適には100~15000ppmであり、より好適には120~12000ppmであり、さらに好適には150~8000ppmである。アルカリ金属化合物の含有量が100ppm未満の場合は、乳化重合安定性が低下する傾向があり、一方、15000ppmを超える場合は、得られる皮膜が着色する傾向となる。なお、アルカリ金属化合物の含有量は、ICP発光分析装置により測定できる。本明細書において、「ppm」は、「質量ppm」を意味する。
【0210】
アルカリ金属を含む化合物としては、具体的には、弱塩基性アルカリ金属塩(例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属ハロゲン化物塩、アルカリ金属硝酸塩)、強塩基性アルカリ金属化合物(例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド)等が挙げられる。これらのアルカリ金属化合物は、1種を単独で又は2種以上を併用できる。
【0211】
弱塩基性アルカリ金属塩としては、例えば、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム)、アルカリ金属重炭酸塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ金属リン酸塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等)、アルカリ金属カルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム等)、アルカリ金属硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム等)、アルカリ金属ハロゲン化物塩(塩化セシウム、ヨウ化セシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム等)、アルカリ金属硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム等)が挙げられる。これらのうち、エマルジョン内が塩基性を帯びる観点から、解離時に弱酸強塩基の塩として振舞えるアルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩が好ましく用いられ、アルカリ金属のカルボン酸塩がより好ましい。
【0212】
これらの弱塩基性アルカリ金属塩を用いることにより、乳化重合において弱塩基性アルカリ金属塩がpH緩衝剤として作用をすることで、乳化重合を安定に進めることができる。
【0213】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤のいずれを使用してもよい。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルアリール硫酸塩、アルキルスルフォネート、ヒドロキシアルカノールのサルフェート、スルホコハク酸エステル、アルキル又はアルキルアリールポリエトキシアルカノールのサルフェート及びホスフェート等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。界面活性剤の使用量は、耐水性、耐温水性及び耐煮沸性の観点から、エチレン性不飽和単量体(例えば、酢酸ビニル)の全量に対して好適には2質量%以下である。
【0214】
緩衝剤としては、酢酸、塩酸、硫酸等の酸;アンモニア、アミン、荷性ソーダ、荷性カリ、水酸化カルシウム等の塩基;又はアルカリ炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩等が挙げられる。重合度調節剤としては、メルカプタン類、アルコール類等が挙げられる。
【0215】
本発明の水性エマルジョンには、以下に示す従来公知の可塑剤あるいは造膜助剤を添加してもよい。可塑剤あるいは造膜助剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジアミルフタレート、ジブチルフタレート、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジイソブチル、セバチン酸ジブチル、ジメチルグリコールアジペート、ジメチルグリコールセバート、ジエチルグリコールセバート、ジメチルグリコールフタレート、ジエチルグリコールフタレート、ジブチルグリコールフタレート、トリクレシルホスフェート、ジオクチルフタレート、テキサノール、ポリエチレングリコールモノフェニエーテル、ポリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、ベンジルアルコール、ブチルカービトールアセテート、ブチルカービトール、3-メチル-3-メトキシブタノール、エチレングリコール、アセチレングリコールブチルセロソルブ、エチレンセロソルブ、ブチルセロソルブ、塩化ビフェニール、プロピレングリコール-モノ-2-エチルヘキサノエート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、などが挙げられる。可塑剤あるいは造膜助剤を添加する場合の添加量としては、エチレン性不飽和単量体を含む重合体100質量部に対して1~200質量部が好ましく、2~50質量部がより好ましい。
【0216】
本発明の水性エマルジョンには、乳化重合後に以下に示す従来公知の充填剤、フィラーあるいは顔料を添加してもよい。充填剤、フィラーあるいは顔料としては、炭酸カルシウム、カオリンクレー、ロウ石クレー、タルク、酸化チタン、酸化鉄、パルプ、各種樹脂粉末、マイカ、セリサイト、ベントナイト、アスベスト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、けいそう土、けい石、無水ケイ酸、含水ケイ酸、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、カーボンブラック等が挙げられる。充填剤、フィラーあるいは顔料を添加する場合の添加量としては、エチレン性不飽和単量体を含む重合体(Y1)100質量部に対して1~200質量部が好ましく、より好ましくは20~150質量部が挙げられる。
【0217】
上記の方法で得られる本発明の水性エマルジョンは、木工用、紙加工用等の接着用途をはじめ、塗料、繊維加工等に使用でき、中でも接着用途が好適である。当該水性エマルジョンは、そのままの状態で用いることができるが、必要であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョンや、通常使用される添加剤を併用し、エマルジョン組成物とすることができる。添加剤としては、例えば、有機溶剤(トルエン、キシレン等の芳香族化合物、アルコール、ケトン、エステル、含ハロゲン系溶剤等)、架橋剤、界面活性剤、可塑剤、沈殿防止剤、増粘剤、流動性改良剤、防腐剤、消泡剤、充填剤、湿潤剤、着色剤、結合剤、保水剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。架橋剤としては、例えば、多価イソシアネート化合物;ヒドラジン化合物;ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(PAE);塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等の水溶性アルミニウム塩;尿素-グリオキザール樹脂等のグリオキザール樹脂等が挙げられる。多価イソシアネート化合物は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。多価イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、水素化TDI、トリメチロールプロパン-TDIアダクト(例えばバイエル社の「Desmodur L」)、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(PMDI)、水素化MDI、重合MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が挙げられる。多価イソシアネート化合物としては、ポリオールに過剰のポリイソシアネートで予めポリマー化した末端基がイソシアネート基を持つプレポリマーを用いてもよい。架橋剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。架橋剤の含有量は、重合体(Y1)100質量部に対して1~50質量部であることが好ましい。架橋剤の含有量が1質量部以上であると、エマルジョン組成物の耐水性や耐熱性がより優れる。一方、架橋剤の含有量が50質量部以下であると、良好な皮膜が形成されやすく、耐水性や耐熱性がより優れる。
【0218】
上記の方法で得られる接着剤の被着体としては、紙、木材及びプラスチック等が適用できる。当該接着剤はこれらの材質のうち特に木材に好適であり、集成材、合板、化粧合板、繊維ボードなどの用途に適用することができる。
【0219】
その他、本発明の水性エマルジョンは、例えば、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等広範な用途に利用され得る。さらには、得られた水性エマルジョンを噴霧乾燥等により粉末化した、いわゆる粉末エマルジョンとしても有効に利用される。
【0220】
[懸濁重合用分散安定剤]
本発明のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含み、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0である。
【0221】
本発明のPVA(X)の好適な用途は、単量体として用いるビニル系化合物(以下、「ビニル系単量体」ともいう)の重合用分散安定剤であり、ビニル系単量体の懸濁重合に好適に用いられる。本発明のある好適な実施形態としては、前記懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル系化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法が挙げられる。
【0222】
ビニル系単量体としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル単量体;(メタ)アクリル酸これらのエステル及び塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステル及び無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらのうち、塩化ビニルを単独で、又は塩化ビニルと共重合することが可能な単量体と共に懸濁重合することが好適である。塩化ビニルと共重合することができる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα-オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0223】
前記懸濁重合に使用する媒体として水性媒体が好ましい。当該水性媒体としては、水、又は水及び有機溶剤を含有するものが挙げられる。前記水性媒体中の水の量は、90質量%以上が好ましい。
【0224】
前記懸濁重合における、前記分散剤の使用量は特に制限はないが、通常ビニル化合100質量部に対して1質量部以下であり、0.01~0.5質量部が好ましい。
【0225】
ビニル系化合物を懸濁重合する際の水性媒体とビニル系化合物の質量比について、水性媒体/ビニル系化合物(質量比)は通常0.9~1.2が好ましい。
【0226】
ビニル系単量体の懸濁重合には、従来から塩化ビニル単量体等の重合に使用されている、油溶性又は水溶性の重合開始剤を用いることができる。油溶性の重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジエトキシエチルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート化合物;t-ブチルペルオキシネオデカネート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、α-クミルペルオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-ペルオキシフェノキシアセテート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の過酸化物;アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。水溶性の重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、クメンハイドロペルオキシド等が挙げられる。これらの油溶性或いは水溶性の重合開始剤は1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0227】
ビニル系単量体の懸濁重合に際し、必要に応じて、重合反応系にその他の各種添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類などの重合度調節剤、フェノール化合物、イオウ化合物、N-オキシド化合物などの重合禁止剤などが挙げられる。また、pH調整剤、架橋剤なども任意に加えることができる。
【0228】
ビニル系単量体の懸濁重合に際し、重合温度には特に制限はなく、20℃程度の低い温度はもとより、90℃を超える高い温度に調整することもできる。また、重合反応系の除熱効率を高めるために、リフラックスコンデンサー付の重合器を用いることも好ましい実施形態の一つである。
【0229】
分散安定剤には、必要に応じて、懸濁重合に通常使用される防腐剤、防黴剤、ブロッキング防止剤、消泡剤等の添加剤を配合することができる。このような添加剤の含有量は通常、1.0質量%以下である。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0230】
本発明のPVA(X)を懸濁重合の分散安定剤として使用する場合、当該分散安定剤は単独で使用してもよいが、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル;ポリビニルアルコール、ゼラチンなどの水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシドプロピレンオキシドブロックコポリマーなどの油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウムなどの水溶性乳化剤等と共に使用することもできる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0231】
本発明のPVA(X)を懸濁重合用の分散安定剤として使用する場合は、水溶性又は水分散性の分散安定助剤を併用できる。分散安定助剤としては、ビニルアルコール系重合体(Y2)(以下、PVA(Y2)と略記することがある)を使用できる。分散安定助剤として用いるPVA(Y2)としては、例えば、けん化度が65モル%未満の部分けん化PVAが挙げられる。部分けん化PVAのけん化度は、20モル%以上60モル%未満が好ましく、25モル%以上58モル%以下がより好ましく、30モル%以上56モル%以下がさらに好ましい。また、他のPVA(Y2)の重合度としては、50以上750以下が好ましく、100以上700以下がより好ましく、120以上650以下がさらに好ましく、150以上600以下が特に好ましい。PVA(Y2)のけん化度及び重合度の測定方法は、PVA(X)と同様である。ある好適な実施形態では、PVA(Y2)が、けん化度が65モル%未満であり、かつ重合度が50以上750以下の部分けん化PVAである分散安定助剤が挙げられる。他の好適な実施形態では、PVA(Y2)が、けん化度が30モル%以上60モル%未満であり、かつ重合度が180以上650以下の部分けん化PVAである分散安定助剤が挙げられる。分散安定助剤に用いるPVA(Y2)は、通常の石油由来のビニルエステル単量体を重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体であってもよく、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体であってもよい。また、分散安定助剤は、カルボン酸又はスルホン酸のようなイオン性基などを導入することにより、自己乳化性が付与されたものであってもよい。
【0232】
分散安定助剤を併用する場合の分散安定剤と分散安定助剤の添加量の質量比(分散安定剤/分散安定助剤)は、用いられる分散安定剤の種類等によって変化するのでこれを一律に規定することはできないが、95/5~20/80の範囲が好ましく、90/10~30/70がより好ましい。分散安定剤と分散安定助剤は、重合の初期に一括して仕込んでもよいし、或いは重合の途中で分割して仕込んでもよい。
【0233】
[懸濁重合用分散安定助剤]
本発明で使用するビニルアルコール系重合体(PVA)は、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(X)を含み、(A)/(B)のモル比が5/95~100/0である。
【0234】
本発明のPVA(X)のある好適な用途は、単量体として用いるビニル系化合物の重合用分散安定助剤であり、ビニル系単量体の懸濁重合に好適に用いられる。ビニル系単量体としては、懸濁重合用分散安定剤に関して説明したものと同様のものが挙げられる。
【0235】
前記懸濁重合に使用する媒体として水性媒体が好ましい。当該水性媒体としては、水、又は水及び有機溶剤を含有するものが挙げられる。前記水性媒体中の水の量は、90質量%以上が好ましい。
【0236】
ビニル系単量体の懸濁重合には、従来から塩化ビニル単量体等の重合に使用されている、油溶性又は水溶性の重合開始剤を用いることができる。油溶性又は水溶性の重合開始剤としては、懸濁重合用分散安定剤に関して説明したものと同様のものが挙げられる。
【0237】
ビニル系単量体の懸濁重合に際し、必要に応じて、重合反応系にその他の各種添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類などの重合度調節剤、フェノール化合物、イオウ化合物、N-オキシド化合物などの重合禁止剤などが挙げられる。また、pH調整剤、架橋剤なども任意に加えることができる。
【0238】
ビニル系単量体の懸濁重合に際し、重合温度には特に制限はなく、20℃程度の低い温度はもとより、90℃を超える高い温度に調整することもできる。また、重合反応系の除熱効率を高めるために、リフラックスコンデンサー付の重合器を用いることも好ましい実施形態の一つである。
【0239】
分散安定助剤には、必要に応じて、懸濁重合に通常使用される防腐剤、防黴剤、ブロッキング防止剤、消泡剤等の添加剤を配合することができる。このような添加剤の含有量は通常、1.0質量%以下である。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0240】
本発明の分散安定助剤は、懸濁重合用分散安定剤を併用できる。本発明の他の好適な実施形態としては、前記分散安定助剤と懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル系化合物の懸濁重合を行う工程を含み、懸濁重合用分散安定剤が、けん化度が65モル%以上、かつ粘度平均重合度が600以上のビニルアルコール系重合体(Y3)(以下、PVA(Y3)と略記することがある)を含有する、ビニル系樹脂の製造方法が挙げられる。
【0241】
本発明のPVA(X)を懸濁重合の分散安定助剤として使用する場合は、PVA(Y3)を含む分散安定剤を併用できる。PVA(Y3)は、通常の石油由来のビニルエステル単量体を重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体であってもよく、植物由来のビニルエステル単量体(A)と、石油由来のビニルエステル単量体(B)とを重合し、けん化してなるビニルアルコール系重合体(Y3-1)であってもよい。
【0242】
PVA(Y3)の粘度平均重合度は、好ましくは150以上5,000以下であり、より好ましくは300以上4,000以下であり、さらに好ましくは600以上3500である。PVA(Y3)のけん化度は、好ましくは60モル%以上99.5モル%であり、より好ましくは65モル%以上99.2モル%以下であり、さらに好ましくは68モル%以上99.0モル%以下である。PVA(Y3)のけん化度及び重合度の測定方法は、PVA(X)と同様である。PVA(Y3)は、従来公知の方法を用いて製造することができる。ビニルアルコール系重合体(Y3-1)の製造方法は、PVA(X)と同様である。重合条件、けん化条件を適宜設定して、前記所望に範囲に設定できる。ある好適な実施形態では、PVA(Y3)は、けん化度が65モル%以上、かつ粘度平均重合度が600以上である。また、他のある好適な実施形態では、粘度平均重合度500以上5000以下であり、かつけん化度65モル%以上99モル%以下である。
【0243】
分散安定剤を併用する場合の分散安定剤と分散安定助剤の添加量の質量比(分散安定剤/分散安定助剤)は、用いられる分散安定剤の種類等によって変化するのでこれを一律に規定することはできないが、95/5~20/80の範囲が好ましく、90/10~30/70がより好ましい。分散安定剤と分散安定助剤は、重合の初期に一括して仕込んでもよいし、或いは重合の途中で分割して仕込んでもよい。
【0244】
前記懸濁重合用分散安定助剤は、ビニル系化合物を水性媒体中で懸濁重合する際に通常使用される、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル;ゼラチン等の水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシドプロピレンオキシドブロックコポリマー等の油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤等を併用してもよい。その添加量については特に制限は無いが、ビニル系化合物100質量部あたり0.01質量部以上1.0質量部以下が好ましい。
【0245】
ビニル系化合物の懸濁重合に際し、上記懸濁重合用分散安定助剤の重合槽への仕込み方としては特に制限はない。懸濁重合用分散安定助剤の水性溶液を調整し、仕込んでもよい。また、懸濁重合用分散安定助剤の、水とメタノール或いはエタノールの混合溶液を調整し仕込んでもよい。また、上記の懸濁重合用分散安定助剤と懸濁重合用分散安定剤を含有する水性溶液を混合して仕込んでもよい。また、懸濁重合用分散安定助剤水性溶液及び懸濁重合用分散安定剤水性溶液は別々に仕込んでもよい。
【0246】
ビニル系化合物の懸濁重合に際し、上記懸濁重合用分散安定助剤の重合槽への仕込み量は特に限定されないが、PVA(X)がビニル系化合物(例:塩化ビニル単量体)に対して、30ppm以上1000ppm以下となるように懸濁重合用分散安定助剤水性溶液を仕込むことが好ましく、50ppm以上800ppm以下がより好ましく、100ppm以上500ppm以下がさらに好ましい。
【0247】
上記の懸濁重合用分散安定助剤の存在下で、上述のような方法でビニル系化合物を懸濁重合することによって、可塑剤の吸収性が高くフィッシュアイ等の異物がなく、粗大粒子の形成が少なく、しかも残存するモノマー成分の除去が容易であるビニル系重合体粒子を得ることができる。得られたビニル系重合体粒子は、適宜可塑剤等を配合して、各種の成形品用途に用いることができる。
【実施例
【0248】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、特に断りのない限り、質量基準を意味する。
【0249】
(エチレン変性PVAのエチレン単位の含有率)
エチレン変性PVAのエチレン単位の含有率は、エチレン変性PVAの前駆体又は再酢化物であるエチレン変性ビニルエステル重合体のH-NMRから求めた。具体的には、合成例7-3及び7-5の試料のエチレン変性ビニルエステル重合体の再沈精製をn-ヘキサンとアセトンの混合溶液を用いて3回以上行った後、80℃で3日間減圧乾燥して分析用のエチレン変性ビニルエステル重合体を作製した。分析用のエチレン変性ビニルエステル重合体をDMSO-dに溶解し、80℃でH-NMR(500MHz)を測定した。酢酸ビニルの主鎖メチンプロトンに由来するピーク(積分値P:4.7~5.2ppm)とエチレン及び酢酸ビニルの主鎖メチレンプロトンに由来するピーク(積分値Q:1.0~1.6ppm)を用い次式によりエチレン単位の含有率を算出した。
エチレン単位の含有率(モル%)=100×((Q-2P)/4)/P
【0250】
(PVAの粘度平均重合度)
PVAの粘度平均重合度はJIS K 6726:1994に準じて測定した。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVA又はエチレン変性PVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](dL/g)を用いて下記式により粘度平均重合度を求めた。
粘度平均重合度=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
【0251】
(PVAのけん化度)
PVAのけん化度は、JIS K 6726:1994に準じて測定した。
【0252】
(合成例1-1)
シリカ球体担体に、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム水溶液及びテトラクロロ金酸四水和物水溶液を含む担体吸水量相当の水溶液を含浸し、メタケイ酸ナトリウム9水和物を含む水溶液に浸漬し、静置した。続いて、ヒドラジン水和物水溶液を添加し、室温で静置した後、水中に塩化物イオンが無くなるまで水洗し、乾燥した。パラジウム/金/担体組成物を酢酸水溶液に浸漬し静置した。次いで、水洗し乾燥した。その後、酢酸カリウムの担体吸水量相当の水溶液に含浸し、乾燥することで酢酸ビニル合成触媒が得られた。
【0253】
上記で得た触媒をガラスビーズで希釈してSUS製反応管に充填し、エチレン、酸素、水、酢酸、及び窒素の混合ガスを流通させ、反応を行った。エチレンはサトウキビ由来のバイオエチレン(Braskem S.A.製)を使用した。また、酢酸を気化させてから蒸気で反応系に導入した。反応出口ガスを分析することで酢酸ビニルの収量及び選択率を得た。得られた酢酸ビニルを前記方法で分析し14C/Cを測定したところ、5.0×10-13であった。
【0254】
(合成例1-2)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料として、以下の方法でPVAを合成した。
【0255】
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤添加口及びディレー溶液添加口を備えた250Lの反応槽に、上記酢酸ビニル127.5kg及びメタノール22.5kgを仕込んで60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングにより窒素置換した。次いで、反応槽の圧力が3.4Kg/cm2となるようにエチレンを導入した。開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/Lの反応開始溶液を調整し、この反応開始溶液を窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。この開始剤溶液45mLを60℃に調整した反応槽内に注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽の圧力を3.4kg/cmに維持すると共に重合温度を60℃に維持し、反応槽に開始剤溶液を143mL/hrで連続添加して重合を実施した。5時間後に重合率が50%となったところで反応槽を冷却して重合を停止した。さらに、反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで、減圧下で未反応の酢酸ビニル単量体を除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。このポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えてポリ酢酸ビニルの濃度が25質量%となるように調整した。さらに、このポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、23.3g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比で0.1)のアルカリ溶液(NaOHの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加から約1分後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて、室温で30分間放置した。濾別して得られた白色固体(PVA)にメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中100℃で3時間放置しPVA(PVA1-1)を得た。
【0256】
<PVAの特性分析>
PVA(PVA1-1)について、下記手法に従い、けん化度、平均重合度、及びエチレン単位の割合を分析した。
【0257】
(けん化度)
PVA(PVA1-1)のけん化度は、JIS K 6726:1994に準じて測定したところ、99.5モル%であった。
【0258】
(平均重合度)
合成例1-2における重合後未反応の酢酸ビニル単量体を除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を、アルカリモル比0.5でけん化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた。その後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。この精製PVAの平均重合度をJIS K 6726:1994に準じて測定したところ、2,450であった。
【0259】
(エチレン単位の割合)
合成例1-2における重合後未反応の酢酸ビニル単量体を除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を、n-ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。この精製ポリ酢酸ビニルをDMSO-dに溶解し、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX-500)を用いてエチレン単位の含有率を80℃で測定したところ、3.0モル%であった。
【0260】
(合成例1-3)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを30部、通常の石油由来の酢酸ビニルを70部、均一に混合したものを原料として、エチレンを導入しない以外は合成例1-2に準じた方法でPVA(PVA1-2)を合成した。PVA1-2のけん化度は99.5モル%、平均重合度は2,640、エチレン単位は0モル%であった。
【0261】
(合成例1-4)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例1-2と同様な方法でPVA(PVA1-3)を合成した。PVA1-3のけん化度は99.6モル%、平均重合度は2,480、エチレン単位は3.0モル%であった。
【0262】
(合成例1-5)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例1-3と同様な方法でPVA(PVA1-4)を合成した。PVA1-4のけん化度は99.6モル%、平均重合度は2,580、エチレン単位は0モル%であった。
【0263】
[実施例1-1]
<セメントスラリーの調製>
PVA(PVA1-1)を公称目開き250μm(60メッシュ)の篩にかけ、この篩を通過したPVAの粉末4gを、イオン交換水320g、坑井用クラスHセメント800g、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩(Dipersity Technologies社の「Daxad-19」)4g、及びリグニンスルホン酸ナトリウム塩(Lignotech USA社の「Keling 32L」)0.16gと共にジュースミキサーに投入し、撹拌混合してセメントスラリー(S-1)を調製した。なお、PVAの粉末の添加量は、セメントの質量基準(BWOC)で0.5%とした。PVAの粉末は、上記したとおり、篩分け法により、粒子径分布(体積基準)で250μm未満の粒子径を有する。
【0264】
[実施例1-2]
PVA(PVA1-2)を使用した以外は実施例1-1と同様にしてセメントスラリー(S-2)を調製した。
【0265】
[参考例1-1]
PVA(PVA1-3)を使用した以外は実施例1-1と同様にしてセメントスラリー(s-1)を調製した。
【0266】
[参考例1-2]
PVA(PVA1-4)を使用した以外は実施例1-2と同様にしてセメントスラリー(s-2)を調製した。
【0267】
[評価]
実施例1-1、1-2及び参考例1-1、1-2のセメントスラリー(S-1)、(S-2)及び(s-1)、(s-2)について、下記手法に従い粘性及び脱水量を評価した。評価結果は、表1に示した。併せて、これらのセメントスラリーの調製に使用したPVAの水に対する溶解度を表1に示した。
【0268】
<水に対する溶解度>
予め60℃の水100gを入れておいた300mL容のビーカーにPVA粉末4gを投入し、水が蒸発しないようにしながら3cm長のバーを備えたマグネチックスターラーを用いて、60℃の条件下で回転数280rpmで3時間撹拌した。次いで、公称目開き75μm(200メッシュ)の金網を用いて未溶解の粉末を分離した。未溶解のPVA粉末を105℃の加熱乾燥機で3時間乾燥後、その質量を測定した。未溶解のPVA粉末の質量と、ビーカーに投入したPVA粉末の質量(4g)から、PVA粉末の溶解度を算出した。
【0269】
<粘性>
粘性は、プラスチック粘性(PV)及びイールドバリュー(YV)として評価した。プラスチック粘性(PV)は、セメントスラリー中に含まれている固形分の機械的摩擦によって生じる流動抵抗値である。イールドバリュー(YV)は、流体が流動状態にあるとき、流動を続けるのに必要なせん断力であって、セメントスラリー中に含まれている固体粒子間のけん引力によって生じる流動抵抗である。
【0270】
プラスチック粘性(PV)及びイールドバリュー(YV)は、セメントスラリーを25℃又は90℃に調温し、「API10」(American Institute Specification 10)の「Appendix H」に記載の方法に従い測定した。なお、プラスチック粘性(PV)及びイールドバリュー(YV)は、次式によって算出した。
プラスチック粘性(PV)=(300rpmの読み-100rpmの読み)×1.5
イールドバリュー(YV)=(300rpmの読み-プラスチック粘性)
【0271】
<脱水量>
脱水量は、「API10」(American Institute Specification 10)の「Appendix H」に記載の方法に従い、90℃に調温したセメントスラリーが差圧1000psiの条件下で30分間に脱水される量として測定した。
【表1】
【0272】
表1の結果から明らかなように、実施例1-1及び1-2のセメントスラリー(S-1)及び(S-2)は、粘性に優れ、150℃での脱水量がそれぞれ25mL及び32mLであり高温での脱水が抑制されていた。そして、それらの値は、石油由来の酢酸ビニルのみから合成したPVAである参考例1-1及び1-2のセメントスラリー(s-1)及び(s-2)と遜色なく、セメントスラリーとして同等の性能を有していた。また、実施例1-1及び1-2のセメントスラリー(S-1)及び(S-2)は分離していないことが目視で確認された。このようなセメントスラリーは石油資源の節約及び地球温暖化の抑制に寄与できる。
【0273】
<掘削泥水>
(合成例1-6)PVA(PVA1-5)の調製
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料として、以下の方法でPVAを合成した。
【0274】
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤添加口及びディレー溶液添加口を備えた250Lの反応槽に、酢酸ビニル127.5kg及びメタノール22.5kgを仕込んで60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングにより窒素置換した。次いで、反応槽の圧力が4.9Kg/cmとなるようにエチレンを導入した。開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/Lの反応開始溶液を調整し、この反応開始溶液を窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。この開始剤溶液45mLを60℃に調整した反応槽内に注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽の圧力を4.9Kg/cmに維持すると共に重合温度を60℃に維持し、反応槽に開始剤溶液を143mL/hrで連続添加して重合を実施した。4時間後に重合率が40%となったところで反応槽を冷却して重合を停止した。さらに、反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで、減圧下で未反応の酢酸ビニル単量体を除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。このポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えてポリ酢酸ビニルの濃度が25質量%となるように調整した。さらに、このポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、23.3g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比で0.1)のアルカリ溶液(NaOHの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加から約1分後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて、室温で30分間放置した。濾別して得られた白色固体(PVA)にメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中100℃で3時間放置しPVA(PVA1-5)を得た。
【0275】
<PVAの特性分析>
PVA(PVA1-5)について、下記手法に従い、けん化度、平均重合度及びエチレン単位の割合を分析した。
【0276】
(けん化度)
PVA(PVA1-5)のけん化度は、JIS K6726:1994に準じて測定したところ、99.9モル%であった。
【0277】
(平均重合度)
合成例1-6における重合後未反応の酢酸ビニル単量体を除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を、アルカリモル比0.5でけん化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた。その後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。この精製PVAの平均重合度をJIS K6726:1994に準じて測定したところ、1,720であった。
【0278】
(エチレン単位の含有率)
合成例1-6における重合後未反応の酢酸ビニル単量体を除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を、n-ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。この精製ポリ酢酸ビニルをDMSO-dに溶解し、500MHzのH-NMR(JEOL GX-500)を用いてエチレン単位の割合を80℃で測定したところ、5.0モル%であった。
【0279】
(合成例1-7)PVA(PVA1-6)の調製
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを30部、通常の石油由来の酢酸ビニルを70部、均一に混合したものを原料として、エチレンを導入しない以外は合成例1-6に準じた方法でPVA(PVA1-6)を合成した。PVA1-6のけん化度は99.9モル%、平均重合度は2,520、エチレン単位は0モル%であった。
【0280】
(合成例1-8)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例1-6と同様な方法でPVA(PVA1-7)を合成した。PVA1-7のけん化度は99.9モル%、平均重合度は1,740、エチレン単位は5.0モル%であった。
【0281】
(合成例1-9)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例1-7と同様な方法でPVA(PVA1-8)を合成した。PVA1-8のけん化度は99.9モル%、平均重合度は2,480、エチレン単位は0モル%であった。
【0282】
[実施例1-3]
<掘削泥水の調製>
ハミルトンビーチミキサーのカップにイオン交換水300gを取り、ベントナイト(テルナイト社の「テルゲルE」)6gを加えて充分撹拌した後、ベントナイトを充分に膨潤させるために24時間放置した。一方、PVA(PVA1-5)を公称目開き1.00mm(16メッシュ)の篩にかけ、この篩を通過したPVA(PVA1-5)の粉末を1.5g採取し、この粉末をベントナイトの分散液に添加し掘削泥水(D-1)を得た。PVAの粉末は、上記したとおり、篩分け法により、粒子径分布(体積基準)で1.00mm未満の粒子径を有する。
【0283】
[実施例1-4]
PVA(PVA1-6)の粉末を用いた以外は実施例1-3と同様とし、掘削泥水(D-2)を調製した。
【0284】
[参考例1-3]
PVA(PVA1-7)の粉末を用いた以外は実施例1-3と同様とし、掘削泥水(d-1)を調製した。
【0285】
[参考例1-4]
PVA(PVA1-8)の粉末を用いた以外は実施例1-3と同様とし、掘削泥水(d-2)を調製した。
【0286】
[評価]
掘削泥水(D-1)、(D-2)及び(d-1)、(d-2)について、下記手法に従い粘度及び脱水量を評価した。併せて、これらの掘削泥水の調製に使用したPVA(PVA1-5)~(PVA1-8)について、下記手法に従い水に対する溶解度を評価した。評価結果は、表2に示した。
【0287】
<水に対する溶解度>
予め60℃の水100gを入れておいた300mL容のビーカーにPVA粉末4gを投入し、水が蒸発しないようにしながら3cm長のバーを備えたマグネチックスターラーを用いて、60℃の条件下で回転数280rpmで3時間撹拌した。次いで、公称目開き75μm(200メッシュ)の金網を用いて未溶解の粉末を分離した。未溶解のPVA粉末を105℃の加熱乾燥機で3時間乾燥後、その質量を測定した。未溶解のPVA粉末の質量と、ビーカーに投入したPVA粉末の質量(4g)から、PVA粉末の溶解度を算出した。
【0288】
<粘度>
掘削泥水の粘度は、B型粘度計を使用して25℃、30rpmで計測し、10秒後の値を採用した。
【0289】
<脱水量>
掘削泥水の脱水量の測定はFann Instrument社の「HPHT Filter Press Series387」を用い、温度150℃に調整したセル内部に掘削泥水を投入し3時間放置した後、セル上部及び下部から差圧が500psiとなるように加圧して行った。
【0290】
【表2】
【0291】
表2の結果から明らかなように、実施例1-3及び1-4の掘削泥水(D-1)及び(D-2)は、粘度が低く、また150℃での脱水量が25mL以下であり、高温での脱水が非常に少なく抑えられていた。そして、それらの値は、石油由来の酢酸ビニルのみから合成したPVAである参考例1-3及び1-4の掘削泥水(d-1)及び(d-2)と遜色なく、掘削泥水として同等の性能を有していた。このような掘削泥水は石油資源の節約及び地球温暖化の抑制に寄与できる。
【0292】
(合成例2-2)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料とし、さらにアクリル酸メチルを用いて、アクリル酸メチルを5モル%共重合させて常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVAを得た。このPVAの平均重合度は1,450であり、けん化度は99.5モル%であった。得られたPVAにポリエチレングリコールを1.5質量%添加して混練した。次いで、二軸押出成形機を用いて、成形圧力1259psiでシート状に押出成形した。これを造粒機に投入し、6/8メッシュ(ASTM E11規格)に造粒し、PVA樹脂ペレット(PVA2-1)を得た。なお、「6/8メッシュに造粒」とは、6メッシュを通過し、8メッシュを通過しない粒子サイズに造粒することを意味し、6/8メッシュに造粒した粒子の粒子径は2380μm以上3350μm以下である。
【0293】
(合成例2-3)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを30部、通常の石油由来の酢酸ビニルを70部、均一に混合したものを原料とし、アクリル酸メチルを共重合させない以外は、合成例2-2と同様の方法で、PVAを得た。このPVAの平均重合度は1、620、けん化度は99.5モル%であった。得られたPVAにポリエチレングリコールを1.5質量%添加して混練し、次いで、二軸押出成形機を用いて、成形圧力1250psiでシート状に押出成形した後、これを造粒機に投入し、6/8メッシュに造粒してPVA樹脂ペレット(PVA2-2)を得た。
【0294】
(合成例2-4)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例2-2と同様な方法でPVA樹脂ペレット(PVA2-3)を合成した。このPVAのけん化度は99.5モル%、平均重合度は1,480、アクリル酸メチルの含有量は5モル%であった。
【0295】
(合成例2-5)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例2-3と同様な方法でPVA樹脂ペレット(PVA2-4)を合成した。このPVAのけん化度は99.6モル%、平均重合度は1,580であった。
【0296】
[実施例2-1及び2-2、参考例2-1及び2-2]
<地下処理用目止め剤>
得られたPVA2-1~PVA2-4について、下記の方法で水による膨潤度(%)及び水に対する溶解度(%)を測定し、目止め効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0297】
<水による膨潤度>
PVA樹脂ペレット0.5gを内径18mmの試験管に入れ、試験管内のPVA樹脂ペレットが占める高さを測定した(高さA)。次いで、試験管内に蒸留水7mLを入れ、よく振り混ぜてPVA樹脂ペレットを分散させた。その後、40℃に設定したウォーターバスに試験管を浸し、試験管内の水温が40℃になってから30分間静置した後、試験管内のPVA樹脂ペレットが占める高さを測定した(高さB)。得られた高さA及び高さBの数値から、下記式に従い、水による膨潤度(%)を算出した。
水による膨潤度(%)=(高さB/高さA)×100
【0298】
<水に対する溶解度>
200mLの蓋付きガラス容器に100gの蒸留水を入れ、PVA樹脂ペレット6gを投入して、65℃の恒温槽にて5時間静置した。その後、ガラス容器の中味をナイロン製の120メッシュ(目開き125ミクロンの篩)に通し、篩上に残ったPVA樹脂ペレットを140℃で3時間乾燥し、乾燥後の質量を測定した(質量A)。一方で、同一の測定対象について、固形分率測定用に前記PVA樹脂ペレットとは別に採取したPVA樹脂ペレットを105℃で3時間乾燥させ、乾燥前の質量(質量B)と乾燥後の質量(質量C)を測定して、固形分率を算出した。該固形分率と質量Aを用いて下記式に従いPVA樹脂ペレットの水に対する溶解度(%)を算出した。
固形分率(%)=(質量C/質量B)×100
水に対する溶解度(%)={6-(質量A×100/固形分率)}/6×100
【0299】
<目止め効果確認試験>
内径10mmのステンレスカラム中に120メッシュのステンレス製篩を設置し、上流側にPVA樹脂ペレット5gを入れた。次に50℃に調整した温水をカラムに入れ、100psiの圧力を加えた。カラムを目視で観察し、15秒以内に温水の流出が止まった場合を「〇」、15秒以内に止まらなかった場合を「×」として目止め効果を評価した。
【0300】
【表3】
【0301】
実施例2-1及び2-2のPVA樹脂ペレットは溶解度、膨潤度の値がそれぞれ参考例2-1及び2-2と遜色なく、同程度の(熱)水溶性と膨潤性を有することが確認できた。また、目止め効果も十分に発揮する上、石油資源の節約、地球温暖化の抑制に寄与できる。このようなPVAを含む地下処理用目止め剤は、地中の亀裂を一時的に閉塞しながらも徐々に水に溶解し、石油、天然ガス等の地下資源の回収時あるいは回収後には除去されるため、長期間地中にとどまることがなく、環境への負荷を低減することが可能である。
【0302】
(合成例2-6)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを100部使用し、通常の石油由来の酢酸ビニルを全く加えずに原料とし、合成例2-3と同様の方法で、PVAを得た。このPVAの平均重合度は1、580、けん化度は99.6モル%であった。得られたPVAにポリエチレングリコールを1.5質量%添加して混練し、次いで、二軸押出成形機を用いて、成形圧力1250psiでシート状に押出成形した後、これを造粒機に投入し、6/8メッシュに造粒してPVA樹脂ペレット(PVA2-5)を得た。
【0303】
[比較例2-1]
得られたPVA2-5の外観にはひび割れが認められ、同様の方法で得られたPVA2-3の外観が滑らかであったのとは対照的であった。この理由は必ずしも明らかではないが、原料中の植物由来の酢酸ビニルを10モル%以上にすることで、PVAのひび割れを改善することができることを確認している。
【0304】
本発明では、植物由来のビニルエステル単量体(A)を単量体として用いて、石油由来のみのビニルアルコール系重合体と比較して同等の性質を有するビニルアルコール系重合体が得られた。PVAを製造した場合に生じる製造上の問題の発生を抑制できることが確認された。さらに、PVAを使用する際に、石油資源を節約し、かつ製造過程における二酸化炭素の排出を抑制できる。
【0305】
(合成例3-2)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料とし、重合温度及び重合時間等の重合条件を所望の範囲に調整し、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒使用量及びけん化時間等のけん化条件を所望の範囲を調整し、常法に従いアルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA3-1)を得た。このPVAの平均重合度は1,750であり、けん化度は88.5モル%であった。
【0306】
(合成例3-3)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを30部、通常の石油由来の酢酸ビニルを70部、均一に混合したものを原料とし、通常の石油由来のエチレンを共重合させた以外は、合成例3-2と同様の方法で、PVA(PVA3-2)を得た。このPVAの平均重合度は1、720、けん化度は97.5モル%、エチレン含有量は4.2モル%であった。
【0307】
(合成例3-4)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例3-2と同様な方法でPVA樹脂(PVA3-3)を合成した。このPVAのけん化度は88.7モル%、平均重合度は1,780であった。
【0308】
(合成例3-5)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例3-3と同様な方法でPVA樹脂(PVA3-4)を合成した。のPVAのけん化度は98.1モル%、平均重合度は1,680、エチレン含有量は4.1モル%であった。
【0309】
[実施例3-1]
得られたPVA3-1について、下記の方法で水性エマルジョンを調製し、凝集物の生成の有無、常態接着性能、及び塗布性を評価した。
【0310】
<水性エマルジョンの調製>
還流冷却器、滴下ロート、温度計、及び窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水275gを仕込み85℃に加温した。PVA-1を20.9g分散し、45分間撹拌して溶解した。さらに、酢酸ナトリウムを0.3g添加し、混合して溶解した。次に、このPVA-1が溶解した水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら、60℃に昇温した後、酒石酸の20質量%水溶液2.4g及び5質量%過酸化水素水3.2gをショット添加後、酢酸ビニル27gを仕込み重合を開始した。重合開始30分後に初期重合終了(酢酸ビニルの残存量が1%未満)を確認した。酒石酸の10質量%水溶液1g及び5質量%過酸化水素水3.2gをショット添加後、酢酸ビニル251gを2時間にわたって連続的に添加し、重合温度を80℃に維持して重合を完結させ、固形分濃度49.8質量%のポリ酢酸ビニル系エマルジョン(Em-1)を得た。
【0311】
<凝集物の生成量>
実施例及び参考例で得られた水性エマルジョン500gを60メッシュの金網にてろ過し、ろ過残分を秤量し以下の通り評価した。
A:ろ過残分が1.0質量%未満である
B:ろ過残分が1.0質量%以上2.5質量%未満である
C:ろ過残分が2.5質量%以上5.0質量%未満である
D:ろ過残分が5.0質量%以上であり、ろ過が困難
【0312】
<常態接着性>
JIS K 6852(1994年)に準拠し常態接着性を評価した。
(接着条件)
被着材:ツガ/ツガ
塗布量:150g/m(両面塗布)
圧締条件:20℃、24時間、圧力10kg/cm
(測定条件)
20℃、65%RHの環境下で7日間養生した試験片を圧縮せん断試験に供し、接着強度(単位:kgf/cm)を測定した。
【0313】
<塗布性>
幅25mm、長さ20cmのカバ材上に水性エマルジョン0.8gを滴下し、ゴムローラーで4回こすり、様子を観察した。以下の基準にしたがってA~Dの4段階で評価した。
A:カバ材上の全面に均一塗布され、凝集物の発生がない
B:カバ材の1/2以上の面積に均一塗布され、凝集物の発生及び塗布面の剥がれがない
C:カバ材の1/2以上の面積に塗布され、凝集物が発生する及び塗布面が剥がれる
D:カバ材の1/2未満の面積に塗布され、凝集物が発生する及び塗布面が剥がれる
【0314】
[実施例3-2、参考例3-1及び3-2]
実施例3-1の共重合体1に代えて、PVA-2、PVA-3及びPVA-4を用いたこと以外は実施例3-1と同様にして水性エマルジョンを調製した。得られた水性エマルジョン(Em-2~Em-4)の凝集物の生成量、常態接着性、塗布性を上述の方法に沿って評価した結果を表4にまとめて示す。
【0315】
【表4】
【0316】
実施例3-1及び3-2のPVAを乳化重合用分散安定剤として用いて得た水性エマルジョンは、凝集物の生成が無く、常態接着性がそれぞれ参考例3-1及び3-2と遜色なく、同程度の接着力を有することが確認できた。また、接着剤として用いる際に重要な指標となる塗布性も十分であり、石油資源の節約及び地球温暖化の抑制に寄与できる。
【0317】
(合成例4-2)
<ポリビニルアルコール系重合体>
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料とし、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA4-1)を得た。製造条件(重合条件、けん化条件)を所望の範囲で合成例3-2から変更して得られたこのPVAの平均重合度は1700であり、けん化度は98.5モル%であった。
【0318】
(合成例4-3)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを30部、通常の石油由来の酢酸ビニルを70部、均一に混合したものを原料とし、合成例4-2と同様の方法で、PVA(PVA4-2)を得た。このPVAの平均重合度は2400、けん化度は88.0モル%であった。
【0319】
(合成例4-4)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例4-2と同様な方法でPVA樹脂ペレット(PVA4-3)を合成した。このPVAのけん化度は98.5モル%、平均重合度は1700であった。
【0320】
(合成例4-5)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例4-3と同様な方法でPVA樹脂ペレット(PVA4-4)を合成した。このPVAのけん化度は88.0モル%、平均重合度は2400であった。
【0321】
[実施例4-1及び4-2、参考例4-1及び4-2]
得られたPVA4-1~PVA4-4について、下記の方法で塵埃除去手順、温発芽、発芽試験、促進老化試験、フロー流動性を測定し、コーティング剤としての評価を行った。結果を表に示す。
【0322】
(大豆種子の処理)
種子コーティング組成物は、表5に従って調製した。ダイズ種子は、AcceleronTMパッケージ(Monsanto Company、メタラキシル、ピラクロストロビン、イミダクロプリド及びフルキサピロキサドを含む)、Color Coat Red及び水のベースで処理され、AcceleronTMパッケージの5.8 fl. oz/cwtの速度を達成した。2400gの種子に、15.64mLのスラリーを塗布した。
【0323】
【表5】
【0324】
(塵埃除去手順)
乾燥し、処理したダイズ種子を、フィルターを設置した閉鎖系の容器に入れ、真空下で撹拌振動した。容器中に空気を導入しフィルターを通して排出させ、塵埃を濾過した。フィルター上の塵埃の量を測定した結果を以下の表6に示す。実施例4-1及び4-2の種子コーティング組成物は、生成される塵埃の量が低く、それぞれ参考例4-1及び4-2と遜色ないことが確認できた。
【0325】
【表6】
【0326】
温発芽)
この試験を用いて、処理された種子及び未処理の種子の最大発芽能力を決定した。100種子を4セット準備し、湿らせたクレープセルロース紙に植え付け、25℃に7日間置いた後、実生をAOSA規則(Association of Official Seed Analysts rules)に従って「正常」、「異常」又は「死」として評価し、「正常」発芽パーセントを、試験期間内に発芽した種子の平均数から、「異常」又は「死」種子を差し引いて、元の種子の総数で割った100倍として決定した。結果を下記の表7に示す。実施例4-1及び4-2の種子コーティング組成物は、理想的条件下で発芽率に有害な影響を及ぼさず、それぞれ参考例4-1及び4-2と遜色ないことが確認できた。
【0327】
【表7】
【0328】
(低温発芽試験)
この試験は、高い土壌水分、低い土壌温度及び微生物活性に関連する悪条件下で発芽する種子の能力を測定するように設計される。100種子を4セット準備し、湿らせたクレープセルロース紙に植え付け、砂で覆った。カバートレイを10℃で7日間置き、4日間25℃に移し、その後、活力を考慮してAOSA規則に従って苗を「正常」、「異常」又は「死」と評価した。「正常」発芽の割合は、試験期間内に発芽した種子の平均数から、「異常」又は「死」種子を差し引いて、元の種子の総数で割った100倍として決定した。結果を下記の表8に示してある。低温発芽試験の結果、実施例4-1及び4-2の種子コーティング組成物は、種子の正常な発芽率%は、それぞれ参考例4-1及び4-2と遜色ないことが確認できた。
【0329】
【表8】
【0330】
(促進老化試験)
種子を秤量し、水ジャケット付きチャンバーに入れ、43℃及び高湿度に72時間維持した。100種子を4セット準備し、湿らせたクレープセルロース紙に植え、砂で覆った。植え付けたカバートレイを25℃に7日間置き、その後、AOSA規則に従って正常な実生を評価した。「正常な」発芽パーセントは、試験期間内に発芽した種子の平均数から、任意の「異常な」又は「死んだ」種子を差し引いて、元の種子の総数で割った100倍として決定した。結果を下記の表9に示した。実施例4-1及び4-2の種子コーティング組成物は、発芽を減少させず、それぞれ参考例4-1及び4-2と遜色ないことが確認できた。
【0331】
【表9】
【0332】
(フロー流動性)
大豆の乾燥フローを、種子1200g(300gの4セット)が、56%相対湿度及び25℃で漏斗を通ってフローするのに要した時間として測定した。大豆へのコーティングの添加は、種子の流れをかなり遅くする傾向があり、これは所望の特性ではない。表9に示されるように、本発明に係る種子コーティング組成物の使用は、それぞれ参考例4-1及び4-2の種子と同程度に効果的に速く流れ、遜色ないことが確認できた。
【0333】
種子のブリッジングは、コーターから出た種子が貯蔵ホッパーに収集され、対向する種子によって圧縮されたときに起こる。これは、機器の遮断、労力及び時間の観点から、種子処理施設への課題を提示する。表10に示されるように、本発明に係る種子コーティング組成物の使用は、ブリッジングの傾向を示さず、それぞれ参考例4-1及び4-2と遜色ないことが確認できた。
【0334】
【表10】
【0335】
(合成例5-2)
<懸濁重合用分散安定剤>
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料とし、アセトアルデヒドを連鎖移動剤として用い、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA5-1)を得た。このPVAの平均重合度は750であり、けん化度は72.0モル%であった。
【0336】
(合成例5-3)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料とし、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA5-2)を得た。製造条件(重合条件、けん化条件)を所望の範囲で合成例3-2から変更して得られたこのPVAの平均重合度は2400であり、けん化度は80.0モル%であった。
【0337】
(合成例5-4)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例5-2と同様な方法でPVA(PVA5-3)を合成した。このPVAの平均重合度は750であり、けん化度は72.0モル%であった。
【0338】
(合成例5-5)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例5-3と同様な方法でPVA(PVA5-4)を合成した。このPVAの平均重合度は2400であり、けん化度は80.0モル%であった。
【0339】
【表11】
【0340】
[実施例5-1及び5-2、参考例5-1及び5-2]
得られたPVA5-1~PVA5-4について、下記の方法で塩化ビニルの懸濁重合を行った。ついで得られた塩化ビニル重合体粒子について、平均粒子径、粗大粒子量、及び可塑剤吸収性の評価を行った。評価結果を表12に示す。
【0341】
(塩化ビニルの懸濁重合)
上記で得られたビニルアルコール系共重合体を、塩化ビニルに対して800ppmに相当する量となるように脱イオン水に溶解させ、分散安定剤水溶液を調製した。このようにして得られた分散安定剤水溶液1150gを、容量5Lのオートクレーブに仕込んだ。次いでオートクレーブにジイソプロピルペルオキシジカーボネートの70%トルエン溶液1.5gを仕込んだ。オートクレーブ内の圧力が0.0067MPaになるまで脱気して酸素を除いた。その後、塩化ビニル1000gを仕込み、オートクレーブ内の内容物を57に昇温して、撹拌下に重合を開始した。重合開始時におけるオートクレーブ内の圧力は0.83MPaであった。重合を開始してから7時間が経過し、オートクレーブ内の圧力が0.44MPaとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニルを除去した。その後、重合スラリーを取り出し、65℃にて一晩乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。
【0342】
(塩化ビニル重合体粒子の評価)
(1)塩化ビニル重合体粒子の平均粒子径
タイラーメッシュ基準の金網を使用して、乾式篩分析により粒度分布を測定し、その結果をロジン・ラムラー(Rosin-Rammler)分布式にプロットして平均粒子径(dp50;メジアン径)を算出した。
【0343】
(2)塩化ビニル重合体粒子の粗大粒子量
JIS標準篩い42メッシュオンの含有量を質量%で表示した。数字が小さいほど粗大粒子が少なくて重合安定性に優れていることを示している。
【0344】
(3)可塑剤吸収性(CPA)
脱脂綿を0.02g詰めた容量5mLのシリンジの質量を量り(A(g)とする)、そこに塩化ビニル重合体粒子0.5gを入れ質量を量り(B(g)とする)、そこにジオクチルフタレート(DOP)1gを入れ15分静置後、3000rpm、40分遠心分離して質量を量った(C(g)とする)。そして、下記の計算式より可塑剤吸収性(%)を求めた。
可塑剤吸収性(%)=100×[{(C-A)/(B-A)}-1]
【0345】
【表12】
実施例5-1及び5-2のPVA樹脂は塩化ビニル重合体粒子の平均粒子径、粗大粒子量、可塑剤吸収性の値がそれぞれ参考例5-1及び5-2と遜色なく、同程度の懸濁重合用分散安定剤としての性能を有することが確認できた。また、石油資源の節約及び地球温暖化の抑制に寄与できる。
【0346】
(合成例6-2)
<懸濁重合用分散安定助剤>
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料として用い、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA6-1)を得た。製造条件(重合条件、けん化条件)を所望の範囲で合成例3-2から変更して得られたこのPVAの平均重合度は300であり、けん化度は55.0モル%であった。
【0347】
(合成例6-3)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料とし、3-メルカプトプロピオン酸(3-MPA)を連鎖移動剤として用い、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA6-2)を得た。このPVAの平均重合度は500であり、けん化度は40.0モル%であった。
【0348】
(合成例6-4)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例6-2と同様な方法でPVA樹脂(PVA6-3)を合成した。このPVAの平均重合度は300であり、けん化度は55.0モル%であった。
【0349】
(合成例6-5)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例6-3と同様な方法でPVA樹脂ペレット(PVA6-4)を合成した。このPVAの平均重合度は500であり、けん化度は40.0モル%であった。
【0350】
(合成例6-6)
<懸濁重合用分散安定剤>
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA6-5)を得た。このPVAの平均重合度は2000であり、けん化度は80モル%であった。
【0351】
【表13】
【0352】
[実施例6-1及び6-2、参考例6-1及び6-2]
得られたPVA6-1~PVA6-4について、下記の方法で塩化ビニルの懸濁重合を行った。ついで得られた塩化ビニル重合体粒子について、(1)平均粒子径、(2)可塑剤吸収性、(3)脱モノマー性、及び(4)フィッシュアイの評価を行った。評価結果を表14に示す。
【0353】
[懸濁重合用分散安定助剤水性溶液の調製例1]
表13に記載のPVA6-1或いはPVA6-3の濃度が40質量%、メタノールの濃度が5質量%となるように、PVA、メタノール、蒸留水を混合し、室温下マグネチックスターラーで2時間撹拌して懸濁重合用分散安定助剤水性溶液を得た。
【0354】
[懸濁重合用分散安定助剤水性溶液の調製例2]
表13に記載のPVA6-2及びPVA6-4の濃度が5質量%PVA、蒸留水を混合し、室温下マグネチックスターラーで2時間撹拌して懸濁重合用分散安定助剤水性溶液を得た。
【0355】
(塩化ビニルの懸濁重合)
容量5Lのオートクレーブに、粘度平均重合度2000及びけん化度80モル%の懸濁重合用分散安定剤(PVA6-5)を塩化ビニル単量体に対して1000ppmとなるように100部の脱イオン水溶液として仕込み、上記調製例1で得られた懸濁重合用分散安定助剤水性溶液を、該分散安定助剤水性溶液中のPVA6-1が塩化ビニル単量体に対して200ppmとなるように仕込み、仕込む脱イオン水の合計が1640部となるように脱イオン水を追加して仕込んだ。次いで、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートの70%トルエン溶液1.07部をオートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内の圧力が0.2MPaとなるように窒素を導入後、次いで導入した窒素をパージする、という作業を計5回行い、オートクレーブ内を十分に窒素置換して酸素を除いた後、塩化ビニル940部を仕込み、オートクレーブ内の内容物を65℃に昇温して撹拌下で塩化ビニル単量体の重合を開始した。重合開始時におけるオートクレーブ内の圧力は1.05MPaであった。重合を開始してから約3時間経過後、オートクレーブ内の圧力が0.70MPaとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を除去した後、重合反応物を取り出し、65℃にて16時間乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。
【0356】
(塩化ビニル重合体粒子の評価)
(1)塩化ビニル重合体粒子の平均粒子径
タイラーメッシュ基準の金網を使用して、乾式篩分析により粒度分布を測定し、その結果をロジン・ラムラー(Rosin-Rammler)分布式にプロットして平均粒子径(dp50;メジアン径)を算出した。
【0357】
(2)可塑剤吸収性
脱脂綿を0.02g詰めた容量5mLのシリンジの質量を量り(A(g)とする)、そこに塩化ビニル重合体粒子0.5gを入れ質量を量り(B(g)とする)、そこにジオクチルフタレート(DOP)1gを入れ15分静置後、3000rpm、40分遠心分離して質量を量った(C(g)とする)。そして、下記の計算式より可塑剤吸収性(%)を求めた。
可塑剤吸収性(%)=100×[{(C-A)/(B-A)}-1]
【0358】
(3)脱モノマー性(残留モノマー割合)
塩化ビニルの懸濁重合における重合反応物を取り出したのち、75℃に乾燥を1時間、及び3時間行い、それぞれの時点での残留モノマー量をヘッドスペースガスクロマトグラフィーにて測定し、以下の式で、残留モノマー割合を求めた。
残留モノマー割合 =(乾燥3時間の時点の残留モノマー量/乾燥1時間の時点の残留モノマー量)×100
この値が小さいほど1時間乾燥時から3時間乾燥時、すなわち2時間のうちに塩化ビニル重合体粒子に残存するモノマーが乾燥によって抜けた割合が多いということであり、この値が残存するモノマーの抜けの良さ、すなわち脱モノマー性を表す指標となる。
【0359】
(4)フィッシュアイの測定
得られた塩化ビニル重合体粒子100部、DOP(ジオクチルフタレート)35部、三塩基性硫酸鉛5部及びステアリン酸亜鉛1部を150℃で7分間ロール練り機を用いて混合して0.1mm厚のシートを作製し、該シートの100mm×100mm当たりのフィッシュアイの数を測定した。
【0360】
【表14】
【0361】
実施例6-1及び6-2のPVA樹脂は塩化ビニル重合体粒子の平均粒子径、可塑剤吸収性、脱モノマー性、フィッシュアイの値がそれぞれ参考例6-1及び6-2と遜色なく、同程度の懸濁重合用分散安定助剤としての性能を有することが確認できた。また、石油資源の節約及び地球温暖化の抑制に寄与できる。
【0362】
(合成例7-2)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料とし、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA7-1)を得た。製造条件(けん化条件)を所望の範囲で合成例3-2から変更して得られたこのPVAの平均重合度は1,750であり、けん化度は98.5モル%であった。
【0363】
(合成例7-3)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを30部、通常の石油由来の酢酸ビニルを70部、均一に混合したものを原料とし、通常の石油由来のエチレンを共重合させた以外は、合成例7-2と同様の方法で、PVA(PVA7-2)を得た。このPVAの平均重合度は1,720、けん化度は97.5モル%、エチレン単位の含有率は4.2モル%であった。
【0364】
(合成例7-4)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例7-2と同様な方法でPVA樹脂(PVA7-3)を合成した。このPVAのけん化度は98.7モル%、平均重合度は1,780であった。
【0365】
(合成例7-5)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例7-3と同様な方法でPVA樹脂(PVA7-4)を合成した。このPVAのけん化度は98.1モル%、平均重合度は1,680、エチレン含有率は4.1モル%であった。
【0366】
(酸素ガスバリア性)
実施例及び比較例で得た多層構造体を温度20℃、85%RHの状態で5日間調湿してから、酸素透過量測定装置(MOCON社製MOCON OX-TRAN2/21)を用いて酸素透過量(cc/m・day・atm)を測定した。
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
キャリアガス流量:10mL/分
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
【0367】
[実施例7-1]
(多層構造体の製造)
得られたPVA7-1について、下記の方法で多層構造体を製造し、酸素ガスバリア性(酸素透過量)を評価した。
得られたビニルアルコール系重合体100質量部を水に添加して、ビニルアルコール系重合体の濃度7質量%の水溶液(コーティング剤)を調製したのち、20℃、60%RH下で1時間静置した。厚み15μmの延伸ポリエチレンテレフタレート(OPET)フィルム(基材)の層(D)に、アンカーコート剤(接着剤)を塗工して、OPETフィルムの表面に接着性成分層を形成した。グラビアコーターを用いて、接着性成分層の表面に、上記で得られたコーティング剤を40℃で塗工してから、120℃で乾燥して層(C)を形成した。アンカーコート剤の反応を促進するため、前記フィルムをさらに160℃で120秒間の熱処理することにより、多層構造体を得た。層(C)の厚みは2μmであった。得られた多層構造体の酸素透過量を表15に示す。
【0368】
[実施例7-2、参考例7-1及び7-2]
PVA7-1に代えて、PVA7-2、PVA7-3及びPVA7-4を用いたこと以外は実施例7-1と同様にして多層構造体を製造した。得られた多層構造体の酸素透過量を上述の方法に沿って評価した結果を表15にまとめて示す。
【0369】
【表15】
【0370】
実施例7-1及び7-2のPVAを含有する多層構造体は、酸素ガスバリア性がそれぞれ参考例7-1及び7-2と遜色なく、同程度のバリア性を有することが確認できた。本発明の多層構造体、及びそれを備える包装材料は、優れた酸素ガスバリア性を有し、かつ石油資源の節約及び地球温暖化の抑制に寄与できる。
【0371】
(合成例8-2)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを50部、通常の石油由来の酢酸ビニルを50部、均一に混合したものを原料とし、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、アルカリ触媒でけん化反応を行い、乾燥してPVA(PVA8-1)を得た。製造条件(けん化条件)を所望の範囲で合成例3-2から変更して得られたこのPVAの平均重合度は1,750であり、けん化度は98.5モル%であった。
【0372】
(合成例8-3)
上記合成例1-1で得られた植物由来の酢酸ビニルを30部、通常の石油由来の酢酸ビニルを70部、均一に混合したものを原料とし、通常の石油由来のエチレンを共重合させた以外は、合成例8-2と同様の方法で、PVA(PVA8-2)を得た。このPVAの平均重合度は1,720、けん化度は97.5モル%、エチレン単位の含有率は4.2モル%であった。
【0373】
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例8-2と同様な方法でPVA樹脂(PVA8-3)を合成した。このPVAのけん化度は98.7モル%、平均重合度は1,780であった。
【0374】
(合成例8-5)
通常の石油由来の酢酸ビニルを100%原料として使用して、合成例8-3と同様な方法でPVA樹脂(PVA8-4)を合成した。このPVAのけん化度は98.1モル%、平均重合度は1,680、エチレン単位の含有率は4.1モル%であった。
【0375】
[実施例8-1及び8-2、参考例8-1及び8-2]
得られたPVA8-1~PVA8-4について、95℃の熱水中で2時間加熱溶解して、固形分濃度6%のコーティング剤を調液した。下記の方法でコーティング剤の評価を行った。結果を表16に示す。
【0376】
[コーティング剤を使用した塗工紙の作製試験]
ワイヤーバーを用いて、坪量64gsmのグラシン紙にコーティング剤を塗工液として20℃で手塗り塗工を実施した。次いでシリンダー型ロータリードライヤー乾燥機を用いて、105℃、1分間乾燥を行った。コーティング剤の固形分換算の塗工量は1.0gsm(片面)であった。得られた塗工紙を20℃、65%RHで72時間調湿後、塗工紙の物性を測定した。
【0377】
[塗工紙の耐水強度試験]
上記の方法で製造した塗工紙の表面(コーティング剤の塗工面)に、20℃のイオン交換水約0.1gを滴下した後、指先で擦り、コーティング剤の溶出状態を観察し、以下の基準で評価した。
〇-耐水強度が優れており、ヌメリ感がない。
△-コーティング剤の一部が乳化する。
×-コーティング剤が溶解する。
【0378】
[剥離紙用途向け評価:透気抵抗度測定]
塗工紙の透気抵抗度を、JIS P 8117:2009に準じ王研式滑度透気度試験機を用いて測定した。
【0379】
[剥離紙用途向け評価:トルエンバリアー性試験]
塗工紙の塗工面上に赤色食紅が溶解した着色トルエン(赤)を塗布(5×5cm)後、裏面(未塗工面)への裏抜け(小さな赤色の斑点ないし塗布面の全面着色)度合いを以下の基準により評価した。
5-裏面に斑点なし
4-斑点(1,2個)発生
3-斑点が多数発生(トルエン塗布面の約10-20%程度)
2-塗布面の約50%が着色
1-塗布面全体が着色
【0380】
[耐油紙用途向け評価:KIT試験、折り曲げKIT試験]
TAPPI No.T559cm-02に基づいて塗工面平面部と折り曲げ部のKIT試験を実施した。評価は目視により行った。なお、フッ素樹脂を用いた市販の耐油紙のKIT値は通常5級以上であり、一般的な使用において問題とならない耐油度は5級以上である。したがって、塗工紙の耐油度は5級以上であることが好ましく、より高い耐油性が求められる用途においては7級以上が好ましく、10級以上がさらに好ましい。
【0381】
折り曲げ部のKIT試験では、塗工面が外面となるようにして塗工紙を2つに折り曲げ、その折り曲げ部分の上から幅1.0mm、深さ0.7mm、圧力2.5kgf/cm・秒の条件で、押圧して完全に折り目を付け、その後、塗工紙を広げ、折り目部分の耐油度をTAPPI No.T559cm-02によって測定した。測定は目視によって行った。
【0382】
【表16】
【0383】
実施例8-1及び8-2のPVAを含有するコーティング剤は、塗工紙物性がそれぞれ参考例8-1及び8-2と遜色なく、同程度の性能を有することが確認できた。本発明の紙コーティング剤、及びそれを塗工した紙は、優れたバリア性、耐油性を有し、かつ石油資源の節約及び地球温暖化の抑制に寄与できる。