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特許7324074水性樹脂組成物、コーティング剤及びそれを用いた感熱記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物、コーティング剤及びそれを用いた感熱記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20230802BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20230802BHJP
   C08G 18/83 20060101ALI20230802BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230802BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20230802BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20230802BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230802BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20230802BHJP
   B41M 5/44 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C08L29/04 D
C08L29/04 S
C08L75/04
C08G18/83 030
C09D5/02
C09D129/04
C09D175/04
B32B27/30 102
B32B27/40
B41M5/44 220
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019133537
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2021017488
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮宅 潤一
(72)【発明者】
【氏名】山本 辰弥
(72)【発明者】
【氏名】河西 将利
(72)【発明者】
【氏名】小原田 明信
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-055479(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091641(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/00-29/14
C08L 75/00-75/16
C08G 18/00-18/87
C09D 5/02
C09D 175/04
C09D 129/04
B41M 5/44
B32B 27/30-27/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、
カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)(ただし、アセトアセチル基を有するポリビニルアルコール樹脂は除く)
を含有し、
前記カルボニル基と反応し得る官能基が、ヒドラジノ基又はヒドラジド基である水性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1載の水性樹脂組成物からなるコーティング剤。
【請求項3】
感熱記録媒体の保護層形成用コーティング剤である請求項記載のコーティング剤。
【請求項4】
基材上に、少なくとも、感熱発色層(L1)と、該感熱発色層(L1)上に、請求項又はに記載のコーティング剤を用いて形成された保護層(L2)とを有する感熱記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物、コーティング剤及びそれを用いた感熱記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱記録媒体は、一般に紙やプラスチックフィルム等の基材上に、ロイコ染料等の発色性物質と、フェノール系化合物等の顕色剤と、ポリビニルアルコール等のバインダー樹脂等とを含む感熱発色層を有するものであって、前記発色性物質が、加熱溶融された顕色剤と反応することによって発色し、所望の文字や画像等を形成することができる。
【0003】
前記感熱記録媒体は、一般にコンパクトで、印字の際の騒音が少ない感熱プリンターを用いて印刷可能であることから、現在、例えば、ファクシミリ用紙、各種レシート、鉄道等の乗車券、食料品や弁当類の値札、ガスや水道料金等の検針表、宝くじ等の非常に広範な用途で使用されている。
【0004】
しかし、従来の感熱記録媒体は、外的な要因によって、感熱記録媒体上に印字された文字等の経時的な退色や消失等を引き起こすという実用上大きな問題を有していたため、その保存環境条件には十分に注意する必要があった。
【0005】
具体的には、感熱記録媒体に印字された文字等の発色部に水が接触した場合、文字などの退色等を引き起こす場合がある。
【0006】
前記問題を改善する方法は、従来から検討されており、例えば、感熱記録媒体の感熱発色層上に保護層を設ける方法が知られている。具体的には、メタアクリルアミド及びカルボキシル基を有するビニル単量体を重合して得られる共重合樹脂が、実質的に、ビニル単量体を重合して得られる樹脂粒子の表面に分布していることを特徴とする感熱記録材料用エマルションを前記保護層に使用する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-270251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者らが検討した結果、特許文献1に記載の前記保護層を備えた感熱記録媒体は、依然として水の影響により感熱発色した文字の退色を引き起こす場合があった。
このように、水の移行を防止し、感熱印字された文字の退色等を防止可能な耐水性を備えた保護層を形成可能な水性樹脂組成物の開発が求められているものの、未だ見出されていない。
【0009】
本発明は、前記課題を解決し、良好な耐水性が得られる水性樹脂組成物、コーティング剤及び該コーティング剤を用いて作製した感熱記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)とを併用することにより、良好な耐水性が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、
カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)と
を含有する水性樹脂組成物に関する。
【0011】
前記カルボニル基と反応し得る官能基が、アミノ基、ヒドラジノ基又はヒドラジド基であることが好ましく、ヒドラジド基であることがより好ましい。
【0012】
本発明はまた、前記水性樹脂組成物からなるコーティング剤に関する。
【0013】
前記コーティング剤は、感熱記録媒体の保護層形成用コーティング剤であることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、基材上に、少なくとも、感熱発色層(L1)と、該感熱発色層(L1)上に、前記コーティング剤を用いて形成された保護層(L2)とを有する感熱記録媒体に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水性樹脂組成物は、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)とを含有するため、該水性樹脂組成物及び該水性樹脂組成物からなるコーティング剤は、良好な耐水性が得られる。そして、該コーティング剤を用いて形成された保護層を有する感熱記録媒体は、良好な耐水性を備える。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の水性樹脂組成物は、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)とを含有する。これにより、良好な耐水性(低膨潤率、高不溶分率)が得られる。
【0017】
従来、水溶性高分子として、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)を使用する場合、架橋剤として、アジピン酸ジヒドラジド等の低分子量の架橋剤が併用され、この架橋剤を用いてポリビニルアルコール樹脂同士を架橋して高分子量化することにより、耐水性を付与する試みが行われていた。しかしながら、本発明者らの検討の結果、耐水性については改善の余地があることが判明した。
【0018】
一方、水溶性高分子として、感熱発色層との密着性の向上等を目的として、ウレタン樹脂を使用する試みも行われている。ウレタン樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂に比べて疎水性を呈するため、本発明者らは、水溶性高分子として、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に加えて、カルボニル基と反応し得る官能基を有さないウレタン樹脂を併用し、架橋剤として低分子量の架橋剤を使用する試みを行った。しかしながら、本発明者らの検討の結果、耐水性については改善の余地があることが判明した。これは、カルボニル基と反応し得る官能基を有さないウレタン樹脂は、架橋に関与しないためではないかとの仮説に想到した。
【0019】
この仮説に基づいて本発明者らが鋭意検討した結果、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)とを併用することにより、良好な耐水性が得られることが判明した。これは、前記ウレタン樹脂(A)が前記ポリビニルアルコール樹脂(B)と反応して、前記ウレタン樹脂(A)と前記ポリビニルアルコール樹脂(B)とが化学的に結合したポリマーネットワークが形成されることにより、良好な耐水性が発揮されるものと推測される。
【0020】
更には、感熱記録媒体に保護層を形成する際には、感熱記録媒体に存在する感熱発色層の発色を抑制するため温度を一定以下に保つ必要があることに起因して、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジド等の低分子量の架橋剤のみが使用された保護層においては、十分な耐水性が付与されるまでの時間(以下、十分な耐水性が付与されるまでの時間を単に「耐水性付与時間」といい、その速度を「耐水性付与速度」という場合がある。)を短縮することが困難であること、これに対して、前記ウレタン樹脂(A)を使用することにより、耐水性付与速度も高められることが判明した。これは、従来のアジピン酸ジヒドラジド等の低分子量の架橋剤のみを使用する場合は、ポリビニルアルコール樹脂同士を架橋して高分子量化することにより、耐水性を付与することとなり、元々ポリビニルアルコール樹脂自体の親水性が高いことから、耐水性付与速度は低くなるが、本発明では、前記ウレタン樹脂(A)が前記ポリビニルアルコール樹脂(B)と反応することにより、ポリビニルアルコール樹脂に比べて疎水性を呈するウレタン樹脂がポリビニルアルコール樹脂に化学的に結合するため、良好な耐水性付与速度が得られるものと推測される。よって、本発明の水性樹脂組成物及びコーティング剤を使用することにより、生産性良く感熱記録媒体を製造できる。
【0021】
また、本発明の水性樹脂組成物及びコーティング剤は、良好な耐水性と共に、感熱印字された文字等の経時的な退色を引き起こさないレベルの耐可塑剤性及び耐エタノール性も付与でき、更には、良好な引張強度、ヤング率も得られる。そのため、本発明の水性樹脂組成物及びコーティング剤を用いて形成された保護層を有する感熱記録媒体は、良好な耐水性を備えると共に、感熱印字された文字等の経時的な退色を引き起こさないレベルの耐可塑剤性及び耐エタノール性も備え、更には、保護層が良好な引張強度、ヤング率を有するため、物理的耐久性にも優れる。
【0022】
<水性樹脂組成物>
本発明の水性樹脂組成物は、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)とを含有する。
【0023】
(カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A))
まず、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)について説明する。前記ウレタン樹脂(A)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
カルボニル基と反応し得る官能基としては、カルボニル基と反応し得る基である限り特に限定されないが、例えば、アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラジド基等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ヒドラジノ基、ヒドラジド基が好ましく、ヒドラジド基がより好ましい。
【0025】
前記ウレタン樹脂(A)1分子が有する、カルボニル基と反応し得る官能基(好ましくはヒドラジド基)の数は、特に限定されないが、2個以上であることが好ましい。これにより、より良好な耐水性、耐水性付与速度が得られる傾向がある。
【0026】
前記ウレタン樹脂(A)1g中、カルボニル基と反応し得る官能基(好ましくはヒドラジド基)の含有量は、好ましくは0.01mmol以上、より好ましくは0.1mmol以上、更に好ましくは0.5mmol以上、特に好ましくは1mmol以上、一層好ましくは10mmol以上、より一層好ましくは50mmol以上であり、カルボニル基と反応し得る官能基量が多いほど、耐水性、耐水性付与速度が高くなる傾向があるため、上限は特に限定されないが、例えば5,000mmol以下、2,000mmol以下、1,000mmol以下、さらには500mmol以下であってもよい。前記範囲内であると、より良好な耐水性、耐水性付与速度が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、カルボニル基と反応し得る官能基の含有量は、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用したカルボニル基と反応し得る官能基を有する化合物の使用量に基づいて算出した理論値である。
【0027】
前記ウレタン樹脂(A)において、カルボニル基と反応し得る官能基が存在する位置は特に限定されない。例えば、ウレタン樹脂分子の分子末端に前記官能基を有する分子末端変性ウレタン樹脂、ウレタン樹脂分子の分子側鎖に前記官能基を有する分子側鎖変性ウレタン樹脂、ウレタン樹脂分子の分子末端及び分子側鎖に前記官能基を有する分子末端及び分子側鎖変性ウレタン樹脂、ウレタン樹脂分子に結合したグラフト鎖に前記官能基を有するグラフト鎖変性ウレタン樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、分子末端変性ウレタン樹脂が好ましく、ウレタン樹脂分子の両分子末端に前記官能基を有する分子両末端変性ウレタン樹脂がより好ましい。
【0028】
前記ウレタン樹脂(A)は、水性樹脂組成物中での分散性を良好なものとするために、親水性基を有していてもよい。前記親水性基としては、特に限定されないが、例えば、アニオン性基、カチオン性基、及び、ノニオン性基としてのポリオキシエチレン構造等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでもアニオン性基が好ましい。
【0029】
前記アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等が挙げられる。前記ウレタン樹脂(A)が前記アニオン性基を有する場合、前記水性樹脂組成物は、塩基性化合物を含んでいることが好ましく、前記アニオン性基の一部又は全部が塩基性化合物によって中和されていることが好ましく、前記アニオン性基と前記塩基性化合物とがカルボキシレート基やスルホネート基(好ましくはカルボキシレート基)を形成していてもよい。これにより、ウレタン樹脂(A)は、より良好な水分散性を有することとなり、前記ウレタン樹脂(A)と前記ポリビニルアルコール樹脂(B)とが化学的に結合したポリマーネットワークがより好適に形成され、より良好な耐水性が得られる傾向がある。
【0030】
また、前記カチオン性基としては、例えば、3級アミノ基、それを酸性化合物や4級化剤を用いて中和した官能基等が挙げられる。
【0031】
また、前記ノニオン性基としては、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)基、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基等が挙げられる。
【0032】
前記ウレタン樹脂(A)1g中、親水性基の含有量は、好ましくは0.01mmol以上、より好ましくは0.1mmol以上、更に好ましくは0.5mmol以上、特に好ましくは1mmol以上であり、親水性基の含有量が多いほど、水性樹脂組成物中での前記ウレタン樹脂(A)の分散性が良好となる傾向があるため、上限は特に限定されないが、好ましくは100mmol以下、より好ましくは80mmol以下、更に好ましくは50mmol以下である。前記範囲内であると、より良好な耐水性が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、親水性基の含有量は、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用した親水性基を有する化合物の使用量に基づいて算出した理論値である。
【0033】
前記ウレタン樹脂(A)の酸価は、好ましくは1~100mgKOH/g、より好ましくは5~70mgKOH/g、更に好ましくは10~40mgKOH/gである。前記範囲内であると、より良好な耐水性が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、酸価は、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用したカルボキシル基を有するポリオール等の酸基を有する化合物の使用量に基づいて算出した理論値である。
【0034】
前記ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは3,000以上であり、一層好ましくは5,000以上であり、好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下、更に好ましくは100,000以下である。前記範囲内であると、良好な耐水性、耐水性付与速度がより好適に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ法により、ポリスチレンを標準試料とした換算値として測定することができる。
【0035】
前記ウレタン樹脂(A)としては、例えば、ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)とを反応させることによって得たイソシアネート基を有するウレタン樹脂と、前記カルボニル基と反応し得る官能基及びイソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物(好ましくは、1級アミノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種)とを反応させることによって製造したものを使用することができる。
【0036】
前記ポリオール(a1)としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール等のポリマーポリオールを単独又は2以上を併用して使用することができる。なかでも、ポリエステルポリオールが好ましい。
【0037】
前記ポリオール(a1)に使用可能なポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるもの、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステル、これらの共重合ポリエステル等を使用することができる。
【0038】
前記低分子量のポリオールとしては、例えば、分子量が50~500程度である、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ポリオール;シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族環式構造を有するポリオール、ビスフェノールAやビスフェノールF等のビスフェノール化合物;及び、前記ビスフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物等の芳香族構造を有するポリオールを使用することができる。なかでも、脂肪族ポリオールが好ましい。
本発明において、前記低分子量ポリオールの分子量は、分子量が50~500程度の場合は、式量に基づいて算出することができ、分子量が500を超える場合は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ法により、ポリスチレンを標準試料とした換算値として測定することができる。
【0039】
また、前記ポリエステルポリオールの製造に使用可能な前記ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;及び、それらの無水物又はエステル化物を使用することができる。なかでも、芳香族ポリカルボン酸が好ましい。
【0040】
前記ポリエステルポリオールとしては、200~5,000の範囲の数平均分子量を有するものを使用することが好ましい。
【0041】
前記ポリエステルポリオールの含有率は、前記ウレタン樹脂(A)を製造する際に使用するポリオール(a1)全体において、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、一層好ましくは50質量%以上であり、好ましくは99.7質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。前記範囲内であると、より良好な耐水性が得られる傾向がある。
【0042】
また、前記ポリオール(a1)に使用可能なポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルとポリオールとを反応させて得られるもの、ホスゲンとビスフェノールA等とを反応させて得られるものを使用することができる。
【0043】
前記炭酸エステルとしては、例えば、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネート等を使用することできる。
【0044】
前記炭酸エステルと反応するポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の低分子量(例えば、分子量50以上500未満)ジオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリヘキサメチレンアジペート等(例えば、分子量500以上2,000以下)を使用することができる。前記炭酸エステルと反応するポリオールの分子量は、50~2,000であることが好ましい。
【0045】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、500~4,000の範囲の数平均分子量を有するものを使用することが好ましい。
【0046】
また、前記ポリオール(a1)に使用可能な前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、活性水素原子を2個以上有する化合物の1種又は2種以上を開始剤として、アルキレンオキサイドを付加重合させたものを使用することができる。
【0047】
前記開始剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ビスフェノールA、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等を使用することができる。
【0048】
前記アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン等を使用することができる。
【0049】
前記ポリオール(a1)に使用可能なポリエーテルポリオールとしては、具体的にはテトラヒドロフランが開環して形成されたポリオキシテトラメチレングリコールを使用することが好ましい。
【0050】
前記ポリエーテルポリオールとしては、数平均分子量500~3,000のものを使用することが好ましい。
【0051】
また、前記ポリオール(a1)に使用可能な前記ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、ポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリイソブテンポリオール、水素添加(水添)ポリブタジエンポリオール、水素添加(水添)ポリイソプレンポリオール、を使用することができる。
【0052】
前記ポリマーポリオールの数平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは510以上、さらに好ましくは800以上であり、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、さらに好ましくは3,000以下である。
【0053】
また、前記ポリオール(a1)としては、前記ウレタン樹脂(A)に良好な水分散安定性を付与する観点から、前記したものの他に、親水性基を有するポリオールを組み合わせ使用することができる。
【0054】
前記親水性基を有するポリオールとしては、例えば、前記したポリオール以外のアニオン性基(例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等)を有するポリオール、カチオン性基(例えば、3級アミノ基等)を有するポリオール、及び、ノニオン性基(例えば、ポリオキシエチレン基等)を有するポリオールを使用することができる。なかでも、アニオン性基を有するポリオール又はカチオン性基を有するポリオールを使用することが好ましく、アニオン性基を有するポリオールを使用することがより好ましい。
【0055】
前記アニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、カルボキシル基を有するポリオールや、スルホン酸基を有するポリオールを使用することができる。なかでも、カルボキシル基を有するポリオールが好ましい。
【0056】
前記カルボキシル基を有するポリオールとしては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等を使用することができ、なかでも2,2-ジメチロールプロピオン酸を使用することが好ましい。また、前記カルボキシル基を有するポリオールと各種ポリカルボン酸とを反応させて得られるカルボキシル基を有するポリエステルポリオールも使用することもできる。
【0057】
前記スルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホフタル酸、5[4-スルホフェノキシ]イソフタル酸等のジカルボン酸またそれらの塩と、前記芳香族構造を有するポリエステルポリオールの製造に使用可能なものとして例示した低分子量ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールを使用することができる。
【0058】
前記カルボキシル基を有するポリオールやスルホン酸基を有するポリオールは、前記ウレタン樹脂(A)の酸価が上述の好ましい数値範囲となる範囲で使用することが好ましい。
【0059】
前記親水性基を有するポリオールとして、アニオン性基を有するポリオールを用いる場合、前記水性樹脂組成物は、水分散性の観点から、塩基性化合物を含んでいることが好ましく、前記アニオン性基の一部又は全部が塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。
【0060】
前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の沸点が200℃以上の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の金属水酸化物を使用することができる。前記塩基性化合物は、得られるウレタン樹脂(A)の水分散安定性を向上させる観点から、塩基性化合物/アニオン性基=0.5~3(モル比)となる範囲で使用することが好ましく、0.9~2(モル比)となる範囲で使用することがより好ましい。前記範囲内であると、より良好な耐水性が得られる傾向がある。
【0061】
また、前記カチオン性基を有するポリオールとしては、例えば、3級アミノ基を有するポリオールを使用することができ、具体的にはN-メチル-ジエタノールアミン、1分子中にエポキシを2個有する化合物と2級アミンとを反応させて得られるポリオールなどを使用することができる。
【0062】
前記カチオン性基は、その一部又は全部が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酒石酸、アジピン酸等の酸性化合物で中和されたものであることが好ましい。
【0063】
また、前記カチオン性基としての3級アミノ基は、その一部又は全部が4級化されていることが好ましい。前記4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、メチルクロライド、エチルクロライド等を使用することができ、ジメチル硫酸を使用することが好ましい。
【0064】
また、前記ノニオン性基を有するポリオールとしては、ポリオキシエチレン構造を有するポリオール等を使用することができる。
【0065】
前記親水性基を有するポリオールは、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用するポリオール(a1)の全量中、0.1質量%~20質量%の範囲で使用することが好ましい。前記範囲内であると、より良好な耐水性が得られる傾向がある。
【0066】
また、前記ポリオール(a1)としては、前記したポリオールの他に、必要に応じてその他のポリオールを使用することができる。
【0067】
前記その他のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量のポリオールを使用することができる。
【0068】
前記ポリオール(a1)と反応するポリイソシアネート(a2)としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族環式構造を有するポリイソシアネートを使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、芳香族ポリイソシアネートが好ましい。
【0069】
前記カルボニル基と反応し得る官能基及びイソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物を用いることで、カルボニル基と反応し得る官能基を前記ウレタン樹脂(A)に付与することができる。該カルボニル基と反応し得る官能基及びイソシアネート基と反応し得る官能基とを有する化合物としては、例えば、1級アミノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記1級アミノ基を有する化合物としては、例えば、エタノールアミン等が挙げられる。前記ヒドラジド基を有する化合物としては、例えば、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、β-セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジヒドラジド、ヘキサデカンジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジカルボン酸ジヒドラジド;カルボヒドラジド;1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、ブタントリカルボヒドラジド、1,2,3-ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8,-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド、N-アミノポリアクリルアミド等の多官能ヒドラジン又は多官能ヒドラジド化合物;等を使用することができ、耐水性付与の観点から、ジカルボン酸ジヒドラジド、カルボヒドラジドが好ましく、ジカルボン酸ジヒドラジドがより好ましく、アジピン酸ジヒドラジドがさらに好ましい。
なお、前記カルボニル基と反応し得る官能基及びイソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、多官能ヒドラジン又は多官能ヒドラジド化合物には、これらの化合物にアセトン、メチルエチルケトン等の低沸点ケトン類を反応させた多官能ヒドラジン誘導体、多官能ヒドラジド誘導体等も含まれる。
【0070】
前記ヒドラジンとしては、ヒドラジンの一水和物である水加ヒドラジンを使用してもよい。前記カルボニル基と反応し得る官能基及びイソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物のなかでも、耐水性をより一層向上する観点から、ヒドラジンが好ましい。
【0071】
前記カルボニル基と反応し得る官能基及びイソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物(好ましくは、前記1級アミノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種)は、該化合物が有する前記官能基(好ましくは1級アミノ基、ヒドラジド基及びヒドラジン)が有する窒素原子の全量と、前記ポリオール(a1)及びポリイソシアネート(a2)を反応させて得られたウレタン樹脂が有するイソシアネート基との当量比が、1以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.3~1(当量比)の範囲で使用することがより好ましい。
【0072】
前記ウレタン樹脂(A)は、例えば、無溶剤下又は有機溶剤の存在下で、前記ポリオール(a1)と前記ポリイソシアネート(a2)とを反応させることによって、イソシアネート基を有するウレタン樹脂を製造し、次いで、前記ウレタン樹脂中に親水性基がある場合には、該親水性基の一部又は全部を必要に応じて中和したものを、水性媒体(C)中に混合し水性化する際に、前記カルボニル基と反応し得る官能基及びイソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物(好ましくは、前記1級アミノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種)と混合し、前記ウレタン樹脂が有するイソシアネート基と反応させることによって製造することができる。
【0073】
前記ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)との反応は、例えば、前記ポリオール(a1)が有する水酸基に対する、前記ポリイソシアネート(a2)が有するイソシアネート基の当量割合が、0.5~4.0の範囲で行うことが好ましく、0.7~2.5の範囲で行うことがより好ましい。
【0074】
また、前記ウレタン樹脂(A)を製造する際に使用可能な有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル;アセトニトリル等のニトリル;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミドを、単独で使用又は2種以上を使用することができる。
【0075】
これまでに説明した前記ウレタン樹脂(A)の製造方法は、主として、ウレタン樹脂分子の分子末端に存在するイソシアネート基と、前記カルボニル基と反応し得る官能基及びイソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物(好ましくは、1級アミノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種)とを反応させる、分子末端変性ウレタン樹脂の製造方法である。
【0076】
その他の変性ウレタン樹脂も当業者であれば、前記製造方法を参考に製造することが可能である。前記分子側鎖変性ウレタン樹脂は、例えば、アルデヒド基を有するポリオール及び/又はアルデヒド基を有するポリイソシアネートを使用してウレタン樹脂を合成し、分子側鎖に存在するアルデヒド基と、1級アミノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種とを反応させることにより製造できる。
【0077】
また、前記分子末端及び分子側鎖変性ウレタン樹脂は、例えば、分子末端変性ウレタン樹脂の製造方法、分子側鎖変性ウレタン樹脂の製造方法を組み合わせて製造できる。
【0078】
また、例えば、分子末端変性ウレタン樹脂、分子側鎖変性ウレタン樹脂、分子末端及び分子側鎖変性ウレタン樹脂等の変性ウレタン樹脂の分子末端に官能基を設けておき、該官能基をウレタン樹脂の主鎖に反応させることにより、変性ウレタン樹脂をグラフト鎖とする前記グラフト鎖変性ウレタン樹脂を製造できる。
【0079】
また、前記方法で製造したウレタン樹脂(A)の水性化は、例えば、次のような方法で行うことができる。
【0080】
〔方法1〕ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)とを反応させて得られたウレタン樹脂の親水性基の一部又は全てを中和又は4級化した後、水を投入して水分散させ、その後、前記1級アミノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて鎖伸長することによりウレタン樹脂(A)を水分散させる方法。
【0081】
〔方法2〕ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)とを反応させて得られたウレタン樹脂と、前記1級アミノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応容器中に一括又は分割して仕込み、鎖伸長反応させることでウレタン樹脂(A)を製造し、次いで得られたウレタン樹脂(A)中の親水基の一部又は全てを中和又は4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0082】
前記〔方法1〕~〔方法2〕では、必要に応じて乳化剤を使用してもよい。また、水溶解や水分散の際には、必要に応じてホモジナイザー等の機械を使用しても良い。
【0083】
前記乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン系乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系乳化剤が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、アニオン性又はノニオン性の乳化剤を使用することが好ましい。
【0084】
前記方法で得られたウレタン樹脂(A)が水性媒体(C)中に分散したウレタン樹脂(A)水分散体は、前記ウレタン樹脂(A)を、前記水分散体の全量中10質量%~50質量%の範囲で含むものであることが、本発明の水性樹脂組成物の製造のしやすさを向上するとともに、優れた耐水性を付与できる水性樹脂組成物を調製するうえで好ましい。
【0085】
前記ウレタン樹脂(A)水分散体は、組成の異なる2種以上のウレタン樹脂を混合したものであってもよい。具体的には、ウレタン樹脂の製造に使用するポリオール(a1)の組成が異なるウレタン樹脂を2種以上組み合わせ使用することができる。
【0086】
(カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B))
次に、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)について説明する。前記ポリビニルアルコール樹脂(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)は、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂であれば特に限定されない。ここで、ポリビニルアルコール樹脂は、一般的に、脂肪酸ビニルエステルを重合して得られた重合体を鹸化することにより製造される樹脂である。前記ポリビニルアルコール樹脂(B)は、例えば、カルボニル基を有するモノマーと脂肪酸ビニルエステルとを共重合して得られた重合体の鹸化物、あるいはポリビニルアルコール樹脂または変性ポリビニルアルコール系樹脂にカルボニル化合物を付加させたものが挙げられ、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の製造方法としては、例えば、特開2015-078324号公報や特開2016-113484号公報に記載の製造方法等が挙げられる。
【0088】
前記、脂肪酸ビニルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、酢酸ビニルが好ましい。
【0089】
カルボニル基を有するモノマーとしては、特に限定されないが、カルボニル基を有するビニルモノマーが好ましく、例えば、アルデヒド基を有するビニルモノマー、ケトン基を有するビニルモノマー、アセトアセトキシ基を有するビニルモノマー等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ケトン基を有するビニルモノマーが好ましい。
【0090】
アルデヒド基を有するビニルモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクロレイン、メタクリロレイン等が挙げられる。
【0091】
ケトン基を有するビニルモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタアクリレート、アセトアセトキシアクリルアミド、アセトアセトキシメタクリルアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジアセトンアクリルアミドが好ましい。
【0092】
また、アセトアセトキシ基を有するビニルモノマーとしては、特に限定されないが、例えばアセトアセトキシビニルエーテル等が挙げられる。
【0093】
前記カルボニル基としては、反応性カルボニル基が好ましく、例えば、アルデヒド基、ケトン基、アセトアセトキシ基等が挙げられる。なかでも、ケトン基が好ましい。ここで、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)は、同種のカルボニル基のみを有してもよく、複数種のカルボニル基を有してもよい。
【0094】
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の好適な態様としては、下記式(I)で表される重合体単位(ジアセトンアクリルアミド単位)を有する樹脂、より好ましくは下記式(I)で表される重合体単位(ジアセトンアクリルアミド単位)、下記式(II)で表される重合体単位(ビニルアルコール単位)、及び下記式(III)で表される重合体単位(酢酸ビニル単位)を有する樹脂である。
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)中の、下記式(I)で表される重合体単位、下記式(II)で表される重合体単位、及び下記式(III)で表される重合体単位の合計含有率は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、100モル%であってもよい。
【化1】
(式中、X,Y,Zは、各重合体単位の数を表し、0又は正の整数である。)
【0095】
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)は、脂肪酸ビニルエステル、カルボニル基を有するモノマーに加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で他の不飽和単量体、例えば、(メタ)アクリル酸;マレイン酸;無水マレイン酸;フマル酸;クロトン酸;イタコン酸;ウンデシレン酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体、マレイン酸モノメチル;イタコン酸モノメチル等の不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類、アクリルアミド;ジメチルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド;ジエチルアクリルアミド;ジメチルアミノプロピルアクリルアミド;イソプロピルアクリルアミド;N-メチロールアクリルアミド;N-ビニルアセトアミド等のアミド基含有不飽和単量体、塩化ビニル;フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類、アリルグリシジルエーテル;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基を有する不飽和単量体、N-ビニル-2-ピロリドン;N-ビニル-3-プロピル-2-ピロリドン;N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン;N-ビニル-5,5-ジメチル-2-ピロリドン;N-ビニル-3,5-ジメチル-2-ピロリドン;N-アリル-2-ピロリドン等の2-ピロリドン環含有不飽和単量体、メチルビニルエーテル;n-プロピルビニルエーテル;i-プロピルビニルエーテル;n-ブチルビニルエーテル;i-ブチルビニルエーテル;t-ブチルビニルエーテル;ラウリルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル;ステアリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、アクリロニトリル;メタアクリロニトリル等のニトリル類、アリルアルコール;ジメチルアリルアルコール;イソプロペニルアリルアルコール;ヒドロキシエチルビニルエーテル;ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有不飽和単量体、アリルアセテート;ジメチルアリルアセテート;イソプロペニルアリルアセテート等のアセチル基含有不飽和単量体、(メタ)アクリル酸メチル;(メタ)アクリル酸エチル;アクリル酸-2-エチルヘキシル;アクリル酸-n-ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、トリメトキシビニルシラン;トリブチルビニルシラン;ジフェニルメチルビニルシラン等のビニルシラン類、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート;ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド;ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類、ポリオキシエチレンビニルエーテル;ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル類、ポリオキシエチレンアリルエーテル;ポリオキシプロピレンアリルエーテル;ポリオキシエチレンビチルビニルエーテル;ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類、エチレン;プロピレン;n-ブテン;1-ヘキセン等のα-オレフィン類、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン;3,4-ジアシロキシ-1-ブテン;3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン;4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン;3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン等のブテン類、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン;4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン;4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン;4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン等のペンテン類、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン;5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等のヘキセン類、N,N-ジメチルアリルアミン;N-アリルプペラジン;3-ピペリジンアクリル酸エチルエステル;2-ビニルピリジン;4-ビニルピリジン;2-メチル-6-ビニルピリジン;5-エチル-2-ビニルピリジン;5-ブテニルピリジン;4-ペンテニルピリジン;2-(4-ピリジル)アリルアルコール等のアミン系不飽和単量体、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩;N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩;N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸4級塩等の第四アンモニウム化合物を有する不飽和単量体、スチレン等の芳香族系不飽和単量体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;2-アクリルアミド-1-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;ビニルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;アリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;メタアリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩等のスルホン酸基を含有する不飽和単量体、グリセリンモノアリルエーテル;2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン;2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン;3-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン;3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン;グリセリンモノビニルエーテル;グリセリンモノイソプロペニルエーテル;アクリロイルモルホリン;ビニルエチレンカーボネート等から選ばれる1種以上と共重合したものであってもよい。この他、得られた変性PVAを本発明の効果を阻害しない範囲でアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、アセトアセチル化、カチオン化等の反応によって後変性したものでもよい。
【0096】
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の鹸化度は、好ましくは80.0モル%以上、より好ましくは85.0モル%以上、更に好ましくは95.0モル%以上であり、上限は特に限定されない。
【0097】
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の20℃における4質量%水溶液粘度は、好ましくは2.0mPa.s以上、より好ましくは3.0mPa.s以上で、更に好ましくは5.0mPa.s以上、特に好ましくは10.0mPa.s以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは300mPa.s以下、より好ましくは200mPa.s以下、さらに好ましくは80mPa.s以下である。
【0098】
なお、本明細書において、鹸化度、4質量%水溶液粘度は、JIS K-6726(1994)に準じて測定した値である。
【0099】
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)は、カルボニル基を有するモノマーに基づく重合体単位を有することが好ましい。
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)中のカルボニル基を有するモノマーに基づく重合体単位(好ましくはジアセトンアクリルアミド単位)の含有率は、好ましくは1.0モル%以上、より好ましくは1.5モル%以上、更に好ましくは2.0モル%以上であり、好ましくは15.0モル%以下、より好ましくは12.0モル%以下、更に好ましくは10.0モル%以下である。
なお、本明細書において、カルボニル基を有するモノマーに基づく重合体単位の含有率は、DMSO-dを溶媒としてH-NMRを測定し、帰属したピークの積分値から算出できる。
【0100】
また、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)は、前記の通り、ポリビニルアルコール樹脂または変性ポリビニルアルコール系樹脂にカルボニル化合物を付加させて得られたポリビニルアルコール樹脂であってもよい。該ポリビニルアルコール樹脂の代表的なものとしてアセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール樹脂が挙げられ、例えば一般式(IV)で表せる構造単位を含む。
【化2】
【0101】
カルボニル化合物を付加させる方法としてはポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールとジケテンを反応させる方法やアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法等が挙げられ、なかでも、ジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましい。
【0102】
ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールとジケテンとの反応によるアセトアセチル基の導入にはガス状あるいは液状のジケテンを直接反応させてもよいし、酢酸などの有機酸をあらかじめポリビニルアルコールに吸着吸蔵させた後、不活性ガス雰囲気下でガス状または液状のジケテン噴霧、反応するか、またはポリビニルアルコールに有機酸と液状のジケテンの混合物を噴霧、反応する等の方法が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0103】
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)中のアセトアセチル基含有率は、好ましくは1.0モル%以上、より好ましくは1.5モル%以上、更に好ましくは2.0モル%以上であり、好ましくは15.0モル%以下、より好ましくは12.0モル%以下、更に好ましくは10.0モル%以下である。
【0104】
前記アセトアセチル基含有率は、鹸化度と同様の方法によってアセトアセチル化PVAの総エステル基量(アセト酢酸エステル基+酢酸エステル基)を求め、鹸化度測定で求めた原料ポリビニルアルコールの酢酸エステル基量との差からアセトアセチル化度(モル%)として求めることができる。
【0105】
(水性媒体(C))
本発明の水性樹脂組成物は、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)に加えて、水性媒体(C)を含有することが好ましい。
【0106】
水性媒体(C)としては、例えば、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-及びイソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0107】
本発明では、ウレタン樹脂(A)やポリビニルアルコール樹脂(B)を製造する過程で、溶媒として前記水性媒体(C)を使用した場合には、かかる水性媒体(C)を引き続き使用することができる。
【0108】
本発明の水性樹脂組成物は、例えば、前記ウレタン樹脂(A)の水分散体と、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の水溶液とを混合することによって製造することができる。
【0109】
前記ウレタン樹脂(A)の含有率は、水性樹脂組成物の不揮発分の全量中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、一層好ましくは10質量%以上、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは80質量%以下、一層好ましくは60質量%以下である。前記範囲内であると、より良好な耐水性、耐水性付与速度が得られる傾向がある。
【0110】
前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の含有率は、水性樹脂組成物の不揮発分の全量中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。前記範囲内であると、より良好な耐水性が得られる傾向がある。
【0111】
前記水性媒体(C)の含有率は、水性樹脂組成物の全量中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、好ましくは99質量%以下である。
【0112】
水性樹脂組成物中の前記ウレタン樹脂(A)の含有量と、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の含有量の比率(前記ウレタン樹脂(A)の含有量/前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の含有量)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上であり、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは1.0以下である。前記範囲内であると、より良好な耐水性、耐水性付与速度が得られる傾向がある。
【0113】
前記ウレタン樹脂(A)に含まれる前記カルボニル基と反応し得る官能基と、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に含まれるカルボニル基とのモル比(カルボニル基と反応し得る官能基/カルボニル基)は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.8以上であり、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0114】
また、本発明の水性樹脂組成物には、前記したものの他に必要に応じて、例えば、無機充填剤、架橋剤、滑剤、増粘剤、分散剤、成膜助剤、チキソトロピー付与剤、顔料等を、本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0115】
前記無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー(カオリン)、タルク、酸化チタン、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、ケイ酸アルミニウム、シリカ、水酸化アルミニウム等を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでもクレー、シリカ、水酸化アルミニウムを使用することが好ましく、特に、水性媒体(C)中に分散しやすいこと、感熱記録媒体を構成する感熱発色層の発色を阻害しないこと、及び可塑剤等の移行を防止し、感熱印字された文字等の退色防止性を更に向上させることから、クレーを使用することがより好ましい。
【0116】
前記無機充填剤は、前記ウレタン樹脂(A)及び前記ポリビニルアルコール樹脂(B)の全量(合計量)に対して質量部基準で0.1倍~9.0倍の範囲で使用することが好ましく、0.5倍~5.0倍の範囲で使用することがより好ましく、0.7倍~3.0倍の範囲で使用することが更に好ましい。前記範囲内であると、より良好な耐水性が得られる傾向がある。
【0117】
また、前記架橋剤としては、ヒドラジノ基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物(ヒドラジド化合物ともいう)であれば特に限定されず、例えば、カルボヒドラジド、蓚酸ジヒドラジド、蟻酸ヒドラジド、酢酸ヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2、7-ナフトエ酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、ビューレットリートリ(ヘキサメチレンセミカルバジド)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいし、機能を損なわない範囲で他の公知の架橋剤と組み合わせても良い。なかでも、ヒドラジド化合物が好ましい。但し、ヒドラジド化合物の中では耐水性・安全性の面でアジピン酸ジヒドラジドが望ましい。
【0118】
本発明では、前記ウレタン樹脂(A)が前記ポリビニルアルコール樹脂(B)と反応して、前記ウレタン樹脂(A)と前記ポリビニルアルコール樹脂(B)とが化学的に結合したポリマーネットワークが形成されることから、架橋剤を使用しなくてもよいが、前記架橋剤を使用する場合、前記架橋剤の含有量は、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上であり、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。前記範囲内であると、より良好な耐水性、耐水性付与速度が得られる傾向がある。
【0119】
前記滑剤としては、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム等ステアリン酸アミドエマルジョン等の高級脂肪酸金属塩を使用することが好ましい。
【0120】
前記増粘剤としては、例えば、アルカリ性に調整することによって増粘可能なアクリル重合体や合成ゴムラテックス、分子が会合することによって増粘可能なウレタン樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、水添加ヒマシ油、アマイドワックス、酸化ポリエチレン、金属石鹸、ジベンジリデンソルビトール等を使用することができる。
【0121】
前記分散剤としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、及びヘキサメタリン酸塩等の低分子型の界面活性剤;デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、及びスチレン-マレイン酸モノアルキルエステル共重合体のアンモニウム塩等のポリカルボン酸塩等の水溶性高分子等を使用することができる。
【0122】
前記成膜助剤としては、特に限定しないが、例えば、アニオン系界面活性剤(ジオクチルスルホコハク酸エステルソーダ塩など)、疎水性ノニオン系界面活性剤(ソルビタンモノオレエートなど)、ポリエーテル変性シロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0123】
前記チキソトロピー付与剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、パラフィン、樹脂酸、界面活性剤、ポリアクリル酸等で表面処理された前記充填剤、ポリ塩化ビニルパウダー、水添ヒマシ油、微粉末シリカ、有機ベントナイト、セピオライト等が挙げられる。
【0124】
前記顔料としては、公知慣用の無機顔料や有機顔料を使用することができる。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、アンチモンレッド、ベンガラ、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等を使用することができる。
【0125】
<コーティング剤>
本発明の水性樹脂組成物は、良好な耐水性が得られるため、各種基材の表面保護や、各種基材への意匠性付与を目的に使用するコーティング剤として使用することができる。
【0126】
本発明のコーティング剤は、本発明の水性樹脂組成物からなるコーティング剤であることが好ましいが、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分が配合されていてもよい。
【0127】
前記基材としては、特に限定されず、例えば、上質紙、中質紙、アート紙、コート紙等の紙;合成紙;布;木材;金属板;ガラス;石英;シリコン;ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリイミド等の各種プラスチックやそのフィルム又はシート;フィルムラミネート紙;織布シート等が挙げられる。なかでも、紙、合成紙、プラスチックフィルムが好ましい。
【0128】
本発明のコーティング剤は、前記基材上に塗工し、乾燥、硬化することによって、該基材表面に皮膜を形成することができる。
【0129】
コーティング剤の塗工方法としては、特に限定されず、例えば、スプレー法、カーテンコーター法、フローコーター法、ロールコーター法、刷毛塗り法、浸漬法等が挙げられる。
【0130】
前記乾燥は、常温下で自然乾燥でも良いが、加熱乾燥させることもできる。加熱乾燥は、通常、40~250℃で、1~600秒程度の時間で行うことが好ましい。
【0131】
また、本発明のコーティング剤を用いて形成される皮膜は、前記のとおり耐水性に優れることから、例えば、最終塗装物の最外層を形成することが好ましい。具体的には、塗装物の表面層や裏面層として、前記皮膜を使用することが好ましい。具体的には、前記コーティング剤は、各種基材の表面層形成用コーティング剤や裏面層形成用コーティング剤に使用することが好ましい。また、感熱記録媒体の保護層形成用コーティング剤に使用することが好ましい。
【0132】
<感熱記録媒体>
次に、本発明の感熱記録媒体について説明する。
本発明の感熱記録媒体は、基材上に、少なくとも、感熱発色層(L1)と、該感熱発色層(L1)上に、本発明のコーティング剤(本発明の水性樹脂組成物)を用いて形成された保護層(L2)とを有するものである。
【0133】
前記保護層(L2)は、本発明のコーティング剤(本発明の水性樹脂組成物)を前記感熱発色層(L1)上に塗布した後、該塗布層中に含まれる水性媒体(C)を揮発することによって形成されたものである。なお、前記感熱記録媒体は、必要に応じて、前記した感熱発色層(L1)及び保護層(L2)以外の層を有していてもよい。
【0134】
前記基材としては、例えば、コーティング剤の説明の際と同様のものが挙げられる。なかでも、紙、合成紙、プラスチックフィルムが好ましい。
【0135】
本発明の感熱記録媒体を構成する感熱発色層(L1)は、一般に、発色性物質と顕色剤とバインダー樹脂とを含有するものである。感熱発色層(L1)は、例えば、感熱プリンター等のサーマルヘッドによって加熱溶融された顕色剤と、発色性物質とが反応することで発色し、感熱記録媒体に所望の文字や絵柄等を形成する。
【0136】
前記発色性物質としては、例えば、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(クリスタルバイオレットラクトン)、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)フタリド、3-(p-ジメチルアミノフェニル)-3-(1,2-ジメチルインドール-3-イル)フタリド、3-(p-ジメチルアミノフェニル)-3-(2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(p-ジメチルアミノフェニル)-3-(2-フェニルインドール-3-イル)フタリド、3,3-ビス(1,2-ジメチルインドール-3-イル)-5-ジメチルアミノフタリド、3,3-ビス(1,2-ジメチルインドール-3-イル)-6-ジメチルアミノフタリド、3,3-ビス(9-エチルカルバゾール-3-イル)-5-ジメチルアミノフタリド、3,3-ビス(2-フェニルインドール-3-イル)-5-ジメチルアミノフタリド、及び3-p-ジメチルアミノフェニル-3-(1-メチルピロール-2-イル)-6-ジメチルアミノフタリド等のトリアリールメタン系化合物(1)、4,4’-ビス(ジメチルアミノフェニル)ベンズヒドリルベンジルエーテル、N-クロロフェニルロイコオーラミン、及びN-2,4,5-トリクロロフェニルロイコオーラミン等のジフェニルメタン系化合物(2)、ローダミンBアニリノラクタム、ローダミンB-p-クロロアニリノラクタム、3-ジエチルアミノ-7-ジベンジルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-オクチルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-フェニルフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-クロロフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-クロロ-7-メチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(3,4-ジクロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(2-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジペンチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-トリル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ピペリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-トリル)アミノ-6-メチル-7-フェネチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(4-ニトロアニリノ)フルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチル-N-プロピル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-イソアミル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチル-N-シクロヘキシル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、及び3-(N-エチル-N-テトラヒドロフルフリル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン等のキサンテン系化合物(3)、ベンゾイルロイコメチレンブルー、及びp-ニトロベンゾイルロイコメチレンブルー等のチアジン系化合物(4)、3-メチルスピロジナフトピラン、3-エチルスピロジナフトピラン、3,3’-ジクロロスピロジナフトピラン、3-ベンジルスピロジナフトピラン、3-メチルナフト-(3-メトキシベンゾ)スピロピラン、及び3-プロピルスピロベンゾピラン等のスピロ系化合物(5)を、単独で使用又は2種以上を併用することができる。
【0137】
また、前記顕色剤としては、例えば、4-フェニルフェノール、4-t-ブチルフェノール、4-ヒドロキシアセトフェノン、2,2’-ジヒドロキシジフェニル、2,2’-メチレンビス(4-クロロフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-エチレンビス(2-メチルフェノール)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-シクロヘキシリデンビス(2-イソプロピルフェノール)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、4-ヒドロキシフタル酸ジメチル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)酢酸エステル、没食子酸アルキルエステル、ノボラック型フェノール樹脂等のフェノール性化合物、フタル酸モノアニリドパラエトキシ安息香酸、パラベンジロキシ安息香酸、3-5-ジ-t-ブチルサリチル酸、3-5-ジ-α-メチルベンジルサリチル酸、3-メチル-5-t-ブチルサリチル酸、4-n-オクチルオキシカルボニルアミノサリチル酸、及び4-n-デシルオキシカルボニルアミノサリチル酸等の芳香族カルボン酸、及びこれらの多価金属塩等を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0138】
また、感熱発色層(L1)の前記バインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル酸アミド/アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド/アクリル酸エステル/メタクリル酸3元共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩、及びエチレン/無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩等の水溶性接着剤、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸エステル、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体、アクリル酸メチル/ブタジエン共重合体、及びエチレン/酢酸ビニル共重合体等のラテックス等を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0139】
また、前記感熱発色層(L1)は、発色感度を向上させることを目的として、増感剤を含んでいることが好ましい。
【0140】
前記増感剤としては、例えば、ステアリン酸アミド、N-ヒドロキシメチルステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、N-ヒドロキシメチルベヘン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、及びエチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド、N-ステアリル尿素等の尿素誘導体、2-ベンジルオキシナフタレン等のナフトール誘導体、m-ターフェニル、4-ベンジルビフェニル、及び4-アリルオキシビフェニル等のビフェニル誘導体、2,2’-ビス(4-メトキシフェノキシ)ジエチルエーテル、及びビス(4-メトキシフェニル)エーテル等のポリエーテル化合物、アジピン酸ジフェニル、蓚酸ジベンジル、蓚酸ジ(4-クロルベンジル)エステル、テレフタル酸ジメチル、及びテレフタル酸ジベンジル等のカルボン酸エステル、ベンゼンスルホン酸フェニルエステル等のスルホン酸エステル、ビス(4-アリルオキシフェニル)スルホン等のジフェニルスルホン、4-アセチルアセトフェノン等のジケトン、アセト酢酸アニリド、脂肪酸アニリド、及び1,2-ビス(3,4-ジメチルフェニル)エタン等を、単独で使用又は2種以上併用することができる。
【0141】
また、前記感熱発色層(L1)は、白色度を向上させるために、顔料を含んでいることが好ましい。
【0142】
前記顔料としては、例えば、クレー、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の無機顔料や、尿素-ホルマリン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、及びホルマリン樹脂等を用いた有機顔料等を使用することができる。
【0143】
前記感熱発色層(L1)を形成する際に使用可能な、前記発色性物質、顕色剤、バインダー樹脂、及びその他の各種添加剤を含有する感熱発色層形成用組成物は、例えば、ボールミルやサンドグラインダー等の分散機を用いて、水系媒体中に分散されていることが好ましい。その際には、発色を阻害しない範囲で、分散剤を使用してもよい。
【0144】
前記分散剤としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、及びヘキサメタリン酸塩等の低分子型の界面活性剤;デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、及びスチレン-マレイン酸モノアルキルエステル共重合体のアンモニウム塩等のポリカルボン酸塩等の水溶性高分子等を使用することができる。
【0145】
また、前記感熱発色層形成用組成物は、前記した成分以外の他の成分を含有していてもよい。前記他の成分としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の各種樹脂成分を使用することができる。
【0146】
本発明の感熱記録媒体は、各種基材上に、前記感熱発色層形成用組成物を塗布し、次いで乾燥することによって、基材上に感熱発色層(L1)を形成した後、更に本発明のコーティング剤(本発明の水性樹脂組成物)を、前記感熱発色層(L1)上に塗布、乾燥し、保護層(L2)を形成することによって製造することができる。
【0147】
前記感熱発色層形成用組成物及び本発明のコーティング剤(本発明の水性樹脂組成物)の塗布は、例えば、エアナイフコーターやブレードコーターやカーテンコーターやバーコーター等の塗布装置を用いて行うことができる。
【0148】
前記感熱発色層形成用組成物の塗布量は、基材上に、不揮発分で2g/m~12g/mの範囲であることが好ましい。また、本発明のコーティング剤(本発明の水性樹脂組成物)の塗布量は、感熱発色層(L1)上に、不揮発分で1g/m~10g/mの範囲であることが好ましい。
【0149】
前記感熱発色層形成用組成物及び本発明のコーティング剤(本発明の水性樹脂組成物)を前記方法で塗布した後、それらを乾燥する方法としては、例えば、乾燥機等を使用する方法がある。前記乾燥工程における温度は、本発明の感熱記録媒体を構成する感熱発色層の発色を防止する観点から、70℃以下であることが好ましい。感熱発色層の発色は、使用する発色性物質と顕色剤等に依存するため、感熱発色層が発色しない範囲であれば、できるだけ高温で乾燥することが、感熱記録媒体の製造効率を向上させる観点から好ましい。
【0150】
本発明の感熱記録媒体は、熱応答性や、基材と感熱発色層(L1)との密着性を向上させることを目的として、前記感熱発色層(L1)と前記基材との間に、必要に応じて、周知慣用のアンダーコート層を有していてもよい。
また、本発明の感熱記録媒体は、基材裏面からの可塑剤等の移行を防止すること、及び感熱記録媒体の湾曲を抑制することを目的として、感熱記録媒体の裏面に、周知慣用のバックコート層を有していてもよい。また、本発明の感熱記録媒体の裏面には、粘着層を有していてもよい。
【実施例
【0151】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0152】
(合成例1:ポリエステルポリオール(1)の合成)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌機を備えた反応容器中で窒素ガスを導入しながら、イソフタル酸30.9質量部、テレフタル酸30.9質量部、エチレングリコール14.2質量部、ネオペンチルグリコール23.9質量部及びジブチル錫オキサイド0.03質量部を仕込み180~230℃で酸価が1以下になるまで230℃で24時間重縮合反応を行い、ポリエステルポリオール(1)〔酸価0.3mgKOH/g、水酸基価86.0mgKOH/g、芳香環濃度4.3mol/Kg〕を得た。
【0153】
(合成例2:ウレタン樹脂(I-1)(前記ウレタン樹脂(A)に相当)の合成)
反応容器に合成例1のポリエステルポリオール(1)75質量部、酢酸エチル34.7質量部を加え、攪拌し均一に混合した。次に、トリレンジイソシアネート26.7質量部を加えて、80℃で2時間反応させた。次いで、2,2-ジメチロールプロピオン酸6.4質量部、酢酸エチル29.8質量部を加えて、75℃で8時間反応させ、ウレタン化工程を実施した。イソシアネート値が1.4%以下になったのを確認し、酢酸エチル8.6質量部を加え、50℃まで冷却し、ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
更に、トリエチルアミン4.8質量部を加えて中和し、ヒドラジン1.0質量部、水353質量部を加え十分に攪拌することにより、ウレタン樹脂の水分散体を得、次いでエージング・脱溶剤することによって、不揮発分23質量%のウレタン樹脂(I-1)(分子両末端変性ウレタン樹脂、前記ウレタン樹脂(A)に相当)を得た。
【0154】
(合成例3:ウレタン樹脂(II-1)の合成)
反応容器に合成例1のポリエステルポリオール(1)75質量部、メチルエチルケトン44.3質量部を加え、攪拌し均一に混合した。次に、トリレンジイソシアネート21.0質量部を加えて、80℃で2時間反応させた。次いで、2,2-ジメチロールプロピオン酸6.0質量部、メチルエチルケトン24.4質量部を加えて、75℃で12時間反応させ、ウレタン化工程を実施した。イソシアネート値が0.1%以下になったのを確認し、メタノール0.5質量部、メチルエチルケトン56.8質量部を加え、50℃まで冷却し、ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
更に、25質量%濃度のアンモニア水15.1質量部を加えて中和し、水368質量部を加え十分に攪拌することにより、ウレタン樹脂の水分散体を得、次いでエージング・脱溶剤することによって、不揮発分20質量%のウレタン樹脂(II-1)を得た。
【0155】
得られたウレタン樹脂(I-1)、ウレタン樹脂(II-1)について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で重量平均分子量を測定した。ウレタン樹脂(I-1)、ウレタン樹脂(II-1)の重量平均分子量は、それぞれ、30,000、50,000であった。
(測定条件)
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0156】
また、得られたウレタン樹脂(I-1)のヒドラジド基の含有量は、1.12mmol/g、親水性基の含有量は、0.87mmol/g、酸価は、24.4mgKOH/gであった。
【0157】
また、得られたウレタン樹脂(II-1)のヒドラジド基の含有量は、0mmol/g、親水性基の含有量は、0.87mmol/g、酸価は、24.3mgKOH/gであった。
【0158】
(合成例4:ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVA(前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に相当)の合成)
攪拌機、温度計、及び滴下ロ-ト還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、酢酸ビニル900質量部、ジアセトンアクリルアミド8質量部、及びメタノ-ル155質量部を仕込み、系内の窒素置換を行った後、内温を60℃まで昇温した。この系に2,2-アゾビスイソブチリロニトリル1質量部をメタノ-ル50質量部に溶解した溶液を添加し、重合を開始した。重合開始後、3時間かけて、ジアセトンアクリルアミド42質量部をメタノ-ル60質量部に溶解した溶液を一定速度で滴下し、4時間後に重合禁止剤としてm-ジニトロベンゼンを添加し、重合を停止した。重合収率は70%であった。得られた反応混合物にメタノ-ル蒸気を加えながら残存する酢酸ビニルを留出し、ジアセトンアクリルアミド共重合成分を含有する酢酸ビニル系重合体の40質量%メタノ-ル水溶液を得た。この混合物500質量部にメタノ-ル50質量部と水酸化ナトリウムの4質量%メタノ-ル溶液10質量部とを加えてよく混合し、40℃で鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、メタノ-ルでよく洗浄した後に乾燥して、ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVAを得た。この樹脂中のジアセトンアクリルアミド単位の含有率は3.9モル%、20℃における4質量%水溶液粘度は28.8mPa・s、鹸化度は98.4モル%であった。
【0159】
(水性樹脂組成物(保護層用塗工液)の調製)
下記に示す割合で混合し水性樹脂組成物A~Cを調製した。
【0160】
[実施例1]
水性樹脂組成物A
ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVA(前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に相当)5質量%水溶液 75質量部
ウレタン樹脂(I-1)(前記ウレタン樹脂(A)に相当)5質量%水溶液 25質量部
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液 3.75質量部
水性樹脂組成物A中の、PVA、ウレタン樹脂、ADHの固形分比率は、75質量部/25質量部/3.75質量部であった。
【0161】
[比較例1]
水性樹脂組成物B
ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVA(前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に相当)5質量%水溶液 75質量部
ウレタン樹脂(II-1)5質量%水溶液 25質量部
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液 3.75質量部
水性樹脂組成物B中の、PVA、ウレタン樹脂、ADHの固形分比率は、75質量部/25質量部/3.75質量部であった。
【0162】
[比較例2]
水性樹脂組成物C
ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVA(前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に相当)5質量%水溶液 100質量部
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液 5質量部
水性樹脂組成物C中の、PVA、ADHの固形分比率は、100質量部/5質量部であった。
【0163】
(フィルム耐水性評価(膨潤度、不溶分率))
水性樹脂組成物A~Cを温度20℃、湿度65%の条件下で2日間乾燥させて、厚さ70μmのフィルムを作製した。作製したフィルムを95℃の水に1.5時間浸漬させたときの膨潤度及び不溶分率を評価した。結果を表1に示す。
膨潤度が低いほど、耐水性に優れることを示し、不溶分率が高いほど、耐水性に優れることを示す。
【0164】
(フィルム物性評価)
水性樹脂組成物を温度20℃、湿度65%の条件下で2日間乾燥させて、厚さ70μmのフィルムを作製した。作製したフィルムの引張強度、ヤング率を評価した。結果を表1に示す。
引張強度、ヤング率が高いほど、物理的耐久性に優れることを示す。ここで、引張強度、ヤング率は以下の方法により測定した。
<引張強度・ヤング率>
長さ100mm×幅10mmの大きさに切り出したフィルムの試験片について、チャック間隔30mm、試験速度50mm/分で引張試験を行って引張強度・ヤング率を測定した。
【0165】
【表1】
【0166】
表1より、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)とを含有する水性樹脂組成物を用いて作製したフィルムは、膨潤度が低く、不溶分率が高いため、良好な耐水性を有することが分かった。
更に、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)とを含有する水性樹脂組成物を用いて作製したフィルムは、良好な引張強度、ヤング率を有し、物理的耐久性にも優れることが分かった。
【0167】
次に、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)を、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)と併用した場合、ADHなどの架橋剤を使用しなくても耐水性が得られることを明らかとするために、下記に示す割合で混合して水性樹脂組成物D、Eを調製し、以下の試験を行った。
【0168】
[実施例2]
水性樹脂組成物D
ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVA(前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に相当)5質量%水溶液 75質量部
ウレタン樹脂(I-1)(前記ウレタン樹脂(A)に相当)5質量%水溶液 25質量部
水性樹脂組成物D中の、PVA、ウレタン樹脂の固形分比率は、75質量部/25質量部であった。
【0169】
[比較例3]
水性樹脂組成物E
ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVA(前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に相当)5質量%水溶液 75質量部
ウレタン樹脂(II-1)5質量%水溶液 25質量部
水性樹脂組成物E中の、PVA、ウレタン樹脂の固形分比率は、75質量部/25質量部であった。
【0170】
水性樹脂組成物D、Eについて、前記フィルム耐水性評価と同様に、作製したフィルムを95℃の水に1.5時間浸漬させたときの不溶分率を評価した。結果を表2に示す。
【0171】
【表2】
【0172】
表2より、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)を、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)と併用した場合、ADHなどの架橋剤を使用しなくても耐水性が得られることが分かった。これは、前記ウレタン樹脂(A)と、前記ポリビニルアルコール樹脂(B)とが反応していることを示す。
実施例2の不溶分率は、ADHを使用した比較例2に比べて劣っている。これは、実施例2の水性樹脂組成物中に存在するウレタン樹脂(I-1)が有する前記官能基の数が、比較例2の水性樹脂組成物中に存在するADHが有する前記官能基の数に比べて大幅に少ないためである。すなわち、前記ウレタン樹脂(A)を使用した場合、水性樹脂組成物中に存在する前記官能基量が少ない場合であっても、耐水性を付与できる。そして、例えば、ウレタン樹脂(A)中の前記官能基量を増加させることにより、より良好な耐水性が得られることが強く示唆される。このことは、ADHなどの従来公知の架橋剤に比べて、前記ウレタン樹脂(A)の優位性を示す証拠である。
【0173】
(感熱記録媒体の調製)
次に、水性樹脂組成物を感熱記録媒体の保護層として使用した試験を行い、感熱記録媒体の耐水強度を評価した。まず、下記に示す割合で混合し水性樹脂組成物F、Gを調製した。
【0174】
水性樹脂組成物F
カオリンクレー(白石カルシウム社製のカオファイン)30質量%分散液 75質量部
ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVA(前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に相当)15質量%水溶液 120質量部
ウレタン樹脂(I-1)(前記ウレタン樹脂(A)に相当)15質量%水溶液 30質量部
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)10質量%水溶液 12.6質量部
水性樹脂組成物F中の、フィラー、PVA、ウレタン樹脂、ADHの固形分比率は、50質量部/40質量部/10質量部/2.8質量部であった。
【0175】
水性樹脂組成物G
カオリンクレー(白石カルシウム社製のカオファイン)30質量%分散液 75質量部
ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVA(前記ポリビニルアルコール樹脂(B)に相当)15質量%水溶液 150質量部
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)10質量%水溶液 15.75質量部
水性樹脂組成物G中の、フィラー、PVA、ADHの固形分比率は、50質量部/50質量部/3.5質量部であった。
【0176】
[実施例3]
保護層を有さない感熱紙(コクヨ社製のワープロ用感熱紙)の上に、水性樹脂組成物Fを2.3g/mの厚さで塗工した。そして、塗工した感熱紙を温度60℃の条件下で3分間乾燥することによって、表面に保護層が形成された感熱記録媒体(感熱紙)を得た。更に、得られた感熱紙を温度40℃、湿度55%の条件下で7日間エージングした。その際、1日目、2日目、3日目、7日目時の耐水性確認として、水30μlを感熱紙上に滴下し、ウェットラビング試験(30回)を行い、下記の5段階で評価した。結果を表3に示す。
5:表面にヌメリが全くない
4:表面にヌメリが多少ある。
3:表面にヌメリがある。
2:表面にヌメリがあり、剥がれている。
1:表面が溶け、下層(感熱層)が剥がれる。
【0177】
[比較例4]
実施例3において、水性樹脂組成物Fを水性樹脂組成物Gに変更した点以外は同様に試験を行った。結果を表3に示す。
【0178】
【表3】
【0179】
表3より、カルボニル基と反応し得る官能基を有するウレタン樹脂(A)と、カルボニル基を有するポリビニルアルコール樹脂(B)とを含有する水性樹脂組成物は、良好な耐水性(耐水強度)付与速度を有すること、良好な耐水性を有する保護層を形成でき、良好な耐水性を有する感熱記録媒体が得られることが分かった。このように、本発明の水性樹脂組成物及びコーティング剤を使用することにより、良好な耐水性を有する感熱記録媒体を生産性良く製造できることが分かった。