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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】燃料電池セル、燃料電池セル製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1286 20160101AFI20230802BHJP
   H01M 8/0271 20160101ALI20230802BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230802BHJP
【FI】
H01M8/1286
H01M8/0271
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021554487
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2019043590
(87)【国際公開番号】W WO2021090424
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 憲之
(72)【発明者】
【氏名】笹子 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】安齋 由美子
(72)【発明者】
【氏名】右高 園子
(72)【発明者】
【氏名】横山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】堤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 有俊
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 徹
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-288382(JP,A)
【文献】国際公開第2019/198372(WO,A1)
【文献】特開2001-236970(JP,A)
【文献】特開2004-206998(JP,A)
【文献】特開2013-033618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1開口部を有する支持基板、
前記第1開口部と連通した第2開口部を有し前記支持基板上に配置され、前記支持基板に対して引張り応力を有する第1絶縁膜、
前記第2開口部と連通した第3開口部を有し前記第1絶縁膜上に配置され、前記支持基板に対して圧縮応力を有する第2絶縁膜、
前記第2絶縁膜上に配置された第1電極、
前記第1電極上に配置された電解質膜、
前記電解質膜上に配置された第2電極、
を備え、
前記第1開口部の開口面積は、前記第2開口部の開口面積よりも大きく、
前記第3開口部の開口面積は、前記第2開口部の開口面積よりも大きい
ことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
前記第1電極は、前記第2開口部と前記第3開口部を覆う位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記第3開口部の前記支持基板側における開口面積は、前記第3開口部の前記第1電極側における開口面積よりも小さい
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記燃料電池セルはさらに、
前記第2絶縁膜と前記第1電極との間の境界面に配置されるとともに、前記第3開口部の側壁を覆う、第3絶縁膜を備える
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記第1絶縁膜は、前記第2開口部を複数有し、
前記複数の第2開口部の両端サイズは、前記第3開口部の開口サイズよりも小さい
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記第1絶縁膜は、前記第2開口部を複数有し、
前記複数の第2開口部の両端サイズは、前記第3開口部の一方の側壁を覆う前記第3絶縁膜の表面から他方の側壁を覆う前記第3絶縁膜の表面までのサイズよりも小さい
ことを特徴とする請求項4記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記燃料電池セルはさらに、
前記第2絶縁膜と前記第1電極との間の境界面に配置されるとともに、前記第3開口部を複数の区画に区分する、第3絶縁膜を備える
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項8】
前記第1絶縁膜は、前記第3開口部の区画ごとに前記第2開口部を有する
ことを特徴とする請求項7記載の燃料電池セル。
【請求項9】
前記第1絶縁膜は、前記第3開口部の区画ごとに2以上の前記第2開口部を有する
ことを特徴とする請求項7記載の燃料電池セル。
【請求項10】
前記燃料電池セルはさらに、前記第1電極と前記第2絶縁膜との間に配置され、前記第3開口部を覆う、応力調整層を備え、
前記応力調整層は、前記支持基板に対して引張り応力を有し、かつ粒界が膜厚方向に対して平行な方向に沿って延伸する柱状結晶構造を有する
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項11】
前記電解質膜は、コンタクト孔を有し、
前記燃料電池セルはさらに、前記コンタクト孔と嵌合することによって前記第1電極と接触した第3電極を備える
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項12】
前記支持基板から前記第3電極の最上面までの距離と、前記支持基板から前記第2電極の最上面までの距離は、前記燃料電池セルを蓋部材によって覆ったとき前記第2電極と前記蓋部材との間の空間が気密封止されるように構成されている
ことを特徴とする請求項11記載の燃料電池セル。
【請求項13】
前記燃料電池セルはさらに、前記第1電極と前記支持基板との間において、
前記支持基板に対して圧縮応力を有する層、
前記支持基板に対して引張り応力を有する層、
を有する
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項14】
前記第1絶縁膜は、引張り応力を有する
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項15】
燃料電池セルを製造する方法であって、
支持基板を形成する工程、
前記支持基板上に第1絶縁膜を形成する工程、
前記第1絶縁膜を貫通する第2開口部を形成する工程、
前記第1絶縁膜上に第2絶縁膜を形成する工程、
前記第2絶縁膜を平坦化する工程、
前記第2絶縁膜上に第1電極を形成する工程、
前記第1電極上に電解質膜を形成する工程、
前記電解質膜上に第2電極を形成する工程、
前記支持基板のうち前記第1絶縁膜と接していない側の面に前記第2開口部と連通する第1開口部を形成する工程、
前記第2絶縁膜内に前記第2開口部と連通する第3開口部を形成する工程、
を有し、
前記第1開口部の開口面積は、前記第2開口部の開口面積よりも大きく、
前記第3開口部の開口面積は、前記第2開口部の開口面積よりも大きい
ことを特徴とする燃料電池セル製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー変換が可能であり、かつ炭酸ガスや窒素酸化物などの汚染物質を排出しないクリーンエネルギー源として、燃料電池が注目されている。燃料電池のなかでも、固体電解質型燃料電池(以下、SOFC(Solid Oxide Fuel Cell)と略す)は、発電効率が高く、取り扱いが容易な水素、メタン、一酸化炭素などのガスを燃料にできるので、他の方式と比較して優位な点が多く、省エネ性・環境性に優れたコージェネレーションシステムとして期待されている。SOFCは、固体電解質を燃料極と空気極で挟む構造となっており、電解質を隔壁として燃料極側に水素などの燃料ガスを供給し、空気または酸素ガスを供給する。
【0003】
特許文献1には、単結晶シリコン基板に貫通窓を形成し、貫通窓に多孔質厚膜、燃料極、電解質膜、空気極の順に積層した基板に対して、燃料ガスの改質器から供給するマニホールド基板を連結している。同文献はこの構造により、低温動作(350~600℃)が可能なシリコン型SOFCを提供している。
【0004】
特許文献1に開示されるシリコン型SOFCは、貫通窓を設けた基板上に機械強度を有する厚膜多孔質構造体を介してアノードとカソードを含む1組の電極を有する。さらに、電極間に薄膜電解質を備えている。同文献における厚膜多孔質構造体にはガスの流路となる空孔が設けられているが、厚膜多孔質構造体上に形成する電極材料によって空孔内が塞がれないように、空孔を十分小さくすることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-532661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、厚膜多孔質に設けられた空孔よりも、シリコン基板に設けられた貫通窓は大きく、さらにマニホールド基板の空孔はシリコン基板の貫通窓より大きい。したがって、マニホールド基板の空孔から厚膜多孔質構造体上の電極に向かうにしたがって、燃料ガスの流路は狭くなっていき、発電に寄与する厚膜多孔質構造体の小さな空孔部の有効面積が狭くなり、基板当たりの発電量が減少するという課題がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、燃料電池セルの機械的強度を確保しつつ、発電に寄与する有効発電領域の面積を大きくすることにより、高発電出力の燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る燃料電池セルは、支持基板と第1電極との間に第1絶縁膜と第2絶縁膜を備え、前記支持基板は第1開口部を有し、前記第1絶縁膜は第2開口部を有し、前記第2絶縁膜は第3開口部を有し、前記第1開口部の開口面積は、前記第2開口部の開口面積よりも大きく、前記第3開口部の開口面積は、前記第2開口部の開口面積よりも大きい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る燃料電池セルによれば、燃料電池セルの機械的強度を確保しつつ、発電に寄与する有効発電領域の面積を大きくすることができる。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る燃料電池セル1の平面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】燃料電池セル1の製造工程における図1のA-A線の要部断面図である。
図4】燃料電池セル1の次の製造工程を示す。
図5】燃料電池セル1の次の製造工程を示す。
図6】燃料電池セル1の次の製造工程を示す。
図7】第3開口部10に対する第2開口部9の面積を変更して撓み量を評価した結果である。
図8】実施形態2に係る燃料電池セル1の断面図である。
図9】実施形態3に係る燃料電池セル1の平面図である。
図10図9のB-B断面図である。
図11】実施形態4に係る燃料電池セル1の平面図である。
図12図11のC-C線における断面図である。
図13】実施形態5に係る燃料電池セル1の断面図である。
図14】実施形態6に係る燃料電池セル1の平面図である。
図15図14のD-D断面図である。
図16】実施形態7に係る燃料電池システムの構成を説明する側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る燃料電池セル1の平面図である。図1に示すように、燃料電池セル1は、単結晶シリコン(Si)からなる半導体基板2上に形成された第1絶縁膜3と第2絶縁膜4上に、第1電極5が形成されている。第2絶縁膜4の上面は第1電極5によって覆われるとともに、第1電極5の一部を露出させるように電解質膜6で覆われている。第1電極5と電解質膜6の内側には第2電極7が形成されている。上面から見た平面図の場合、第1電極5および第2電極7に隠れて開口部は見られないが、下面(第1開口部8側)から見た平面図では、半導体基板2の第1開口部8内に第2開口部9を有する第1絶縁膜3が見られる。第1絶縁膜3は透過するので、第2開口部9より面積が大きい第3開口部10も観察することができる。第1電極5と第2電極7は、アノードまたはカソード電極となり、外部とそれぞれ接続されて燃料電池セル1が発電した電力を外部に供給する。
【0012】
図2は、図1のA-A断面図である。図2に示すように、半導体基板2は、内側が除去された第1開口部8を有しており、第1開口部8上に第1絶縁膜3として例えば引張り応力を有する窒化シリコン膜が露出した形状となっている。第1絶縁膜3内には、第1開口部8と連通するように第2開口部9が設けられている。第1絶縁膜3の上には、第2絶縁膜4として例えば圧縮応力を有する酸化シリコン膜が形成され、第2開口部9よりも大面積の第3開口部10が設けられている。第3開口部10は第2開口部9と連通している。
【0013】
第1開口部8は平面視で矩形状であり、1辺の長さは約0.2mm~5mmである。第2開口部9は、例えば円形であり直径が約0.5μm~50μmである。第3開口部10は、例えば円形で直径が約50μm~500μmである。開口部面積の関係は、第1開口部8>第3開口部10>第2開口部9である。
【0014】
第1絶縁膜3および第2絶縁膜4は半導体基板2上に積層され、第1電極5、電解質膜、第2電極7を支持する支持部として機能する。第2絶縁膜4上には第1電極5が少なくとも第1開口部8を覆うように形成されている。したがって、第1電極5は、第3開口部10において第1開口部8側に露出しており、燃料ガスまたは空気に接するような構造となっている。第1電極5上の電解質膜6は、第1開口部8を覆い、かつ第1電極5の一部が露出するように配置する。電解質膜6上の第2電極7は、第1開口部8を覆い、かつ第1電極5と接続しないように、電解質膜6を介して形成する。
【0015】
この構造により、動作温度の環境化における半導体基板2の熱膨張による応力は、第3開口部10の上下の膜(すなわち第1絶縁膜3と、第1電極5~第2電極7の積層膜)に分散して加わる。したがって、第3開口部10の空洞があっても破損することが無い。また第1開口部8全体としても、第1絶縁膜3と第2絶縁膜4、および第1電極5~第2電極7の積層膜となっているので、半導体基板2の熱膨張による応力を緩和することができる。なお、第1開口部8、第2開口部9、第3開口部10が同一面積の試料を作製したところ、半導体基板2に対して電解質膜6が圧縮応力を有しているので、開口部内の電解質膜6を含む積層膜に撓みが発生し、耐熱性に問題があることを確認している。
【0016】
図3は、燃料電池セル1の製造工程における図1のA-A線の要部断面図である。まず図3に示すように、単結晶SiでSi<100>の結晶方位からなる半導体基板2を用意し、第1絶縁膜3を形成する。半導体基板2は400μm以上の厚みを有している。第1絶縁膜3として、例えば、CVD法により引張り応力を有する窒化シリコン膜を約200nm形成する。CVD法の場合、半導体基板2裏側にも同じ膜厚の窒化シリコン膜が形成される。次に、ホトリソグラフィ技術を用いて、表側の第1絶縁膜3にパターニングを実施し、第1絶縁膜3の一部を除去する。除去する領域は、燃料ガスまたは空気の出入り口となる第2開口部9に相当する領域である。次に、第2絶縁膜4として、例えばCVD法を用いて酸化シリコン膜を第1絶縁膜3よりも厚く形成する。
【0017】
図4は、燃料電池セル1の次の製造工程を示す。図4に示すように、CMP(化学機械研磨)により、第1絶縁膜3の段差が低減するように平坦化し、第1絶縁膜3と第2絶縁膜4との積層膜を形成する。CMP後の第2絶縁膜4の膜厚は、例えば約200nmである。
【0018】
図5は、燃料電池セル1の次の製造工程を示す。図5に示すように、スパッタ法により金属膜、例えば白金膜(Pt)を約20nmの厚さで形成し、ホトリソグラフィ法を用いてパターニングを実施し、Ar(アルゴン)ガスによるドライエッチング法などを用いて第1電極5を形成する。このとき、Pt膜と第2絶縁膜4との間の接着力を向上させるため、Pt膜の形成前にArガスによるスパッタエッチングで下地となる第2絶縁膜4の表面を例えば約10~15nmエッチングして表面改質することも望ましい。あるいは接着を手助けするバリア金属膜としてチタン膜(Ti)を約2nm形成することも望ましい。次に、ホトリソグラフィ技術によりネガレジストのパターンを形成し、スパッタ法を用いて電解質膜6として例えばYSZ膜(イットリウムを含んだ酸化ジルコニウム膜)を500nm以下で形成する。本実施形態1では第2絶縁膜4の平坦性が良好であるので、第1電極5を介してもYSZ膜の結晶性が良好であり、例えば約100nmまで薄く形成しても電子リークが少ない膜が得られる。次に、スパッタ法により、例えばPt膜を約20nm形成し、ホトリソグラフィ法を用いてパターニングを実施し、Arガスによるドライエッチングにより、第2電極7を形成する。続いて、半導体基板2の裏面にある第1絶縁膜3にホトリソグラフィ技術と絶縁膜エッチング技術を用いて半導体基板2の裏面を露出させる。
【0019】
図6は、燃料電池セル1の次の製造工程を示す。図6に示すように、パターニングした半導体基板2裏面の第1絶縁膜3をマスクとして、半導体基板2のSi膜をKOH(水酸化カリウム)溶液またはTMAH(テトラメチルアミド)溶液によるウェットエッチング、または、フッ素系ガスを主成分としたドライエッチングにより除去し、第1開口部8を形成する。なお、第1絶縁膜3と第1電極5は、エッチング選択比が十分にあるので、半導体基板2のエッチング終了後も、エッチングストッパとして残る。
【0020】
次に、フッ素系のウェットエッチングにより、第2開口部9内部および第2開口部9上の第2絶縁膜4を除去して、燃料電池セル1が形成される。ウェットエッチングは等方性であるので、第2開口部9に接する面だけでなく、横方向にも進行し、液温と時間にしたがって第3開口部10の面積を制御することが可能である。また、第3開口部10上は第1電極5があり、第1電極5をフッ素系に対する耐薬品性がある金属膜とすることにより、電解質膜6が腐食することがない。
【0021】
第1電極5と第2電極7は、フッ素系の耐薬品性に優れ、抵抗率が低く、且つ融点が使用温度より高い(例えば600℃以上)膜であればよく、例えばPt膜以外にも、銀膜(Ag)、ニッケル膜(Ni)、クロム膜(Cr)、パラジウム膜(Pd)、ルテニウム膜(Ru)、ロジウム膜(Rh)などが挙げられる。
【0022】
第1絶縁膜3は、窒化シリコン膜に限られず、窒化アルミニウム膜などSi基板に対して引張り応力を有する膜であればよく、第2絶縁膜4は、ボロンやリンを含んだシリコン酸化膜や、低温で有機成分を含んだP-TEOS膜であってもよい。
【0023】
次に、発電領域となる第3開口部10に対する第2開口部9の関係について説明する。前述したとおり、第1開口部8、第2開口部9、第3開口部10が同一面積であれば、半導体基板2との膜応力の違いから、開口部の1辺が約300μmの場合、撓み(上に凸形状)が約6μm発生し、膜破損が起こりやすい。そのため、開口部の面積を大きくできず、基板あたりの発電出力を高められないという課題がある。したがって、電極で挟まれた電解質膜6の積層膜に撓みを生じさせないことが重要である。
【0024】
図7は、第3開口部10に対する第2開口部9の面積を変更して撓み量を評価した結果である。試料は、第1開口部8の1辺が約500μm、第3開口部10の直径は約300μmとし、第2開口部9を50μm、150μm、300μm(第3開口部10とほぼ同じ面積)に変化させて膜の撓み量を測定した。この図からわかるように、第3開口部10が同じであっても第2開口部9の面積が小さくなることにより、撓み量が減少することがわかる。また、試料を500℃以上で熱処理したところ、第2開口部9が小さいほど破損しにくいことも確認している。
【0025】
以上より、第3開口部10を有していても第2開口部9が小面積であれば、第1絶縁膜3と、電極を挟んだ電解質膜6の積層膜との間の膜応力のバランスが保たれ、耐熱性に優れたメンブレン構造ができ、発電領域となる第3の開口部の大面積化による高発電出力が図れる。
【0026】
<実施の形態2>
図8は、本発明の実施形態2に係る燃料電池セル1の断面図である。図8に示すように、第1絶縁膜3、第1電極5、電解質膜6、第2電極7は、実施形態1と同じである。実施形態1と異なる点は、第1絶縁膜3上に、第2絶縁膜4と第3絶縁膜12が積層されており、第3開口部10の側壁形状が第1絶縁膜3から第1電極5に向かうにしたがい広くなっていることである。
【0027】
図8の構造を製造する際は、第2絶縁膜4形成後、ウェットエッチングによりテーパ状に第2絶縁膜4を加工した後、第3絶縁膜12として例えば窒化シリコン膜を形成し、第3開口部10内に第2絶縁膜4が露出しないよう側壁を覆う。この後、図示しないが、酸化シリコン膜を段差以上に犠牲膜として形成し、CMPにより、第3絶縁膜12をストッパとして平坦化する。第1電極5、電解質膜6、第2電極7を形成する工程、および裏面の第1開口部8形成までは、実施形態1と同様である。
【0028】
第2絶縁膜4が第3開口部10内に露出しないようにすることにより、第1開口部8を形成した後のフッ素系ウェットエッチングの時間を長くしても、第3絶縁膜12でストップし、外側に広がらない。したがって第3開口部10をウエハ内、またはウエハ間で一定の面積で製造することができる。第3開口部10のばらつきを抑えることにより、発電出力のばらつきが低減できるので、燃料電池セル1を直列または並列につないで外部へ供給する際の調整の手間が省ける。また、第3絶縁膜12を設けたことにより第1開口部8内の膜強度向上が図れ、テーパを設けたことにより、第3開口部10をより広くできるので、発電出力の向上も見込める。
【0029】
本実施形態3においては、第3開口部10側壁にテーパを持たせた形状としたが、第2絶縁膜4をドライエッチングにより加工して85°以上のほぼ垂直な構造としても、第3絶縁膜12のカバレッジを良くすれば、同様の効果が得られる。第3絶縁膜12は、フッ素系のウェットエッチング耐性があり、かつ引張り応力を有していることが好ましく、窒化アルミニウム膜などでもよい。
【0030】
<実施の形態3>
図9は、本発明の実施形態3に係る燃料電池セル1の平面図である。図9に示されるように、上面からの平面視では、第1電極5、電解質膜6、第2電極7の形状は、実施形態1~2と同じである。ただし、下側から見た場合、第1開口部8内の第1絶縁膜3内に円径で小面積の第2開口部9が複数配置されており、第2開口部9内には第1電極5が露出して見える。
【0031】
第1開口部8は、平面視で矩形状であり1辺の長さは例えば約500μmである。第2開口部9は、例えば直径が約1μmの円形であり、隣り合う第2開口部9の間隔が約1μmでほぼ等しくなるよう配置されることが望ましい。第3開口部10の開口サイズは、複数並んだ第2開口部9のうち最外側両端よりも外側まで形成されている。第3開口部10の平面形状は、直線でなくてもよいが矩形に近く1辺の長さが約300μmである。開口部面積の関係は、第1開口部8>第3開口部10>第2開口部9であり、実施形態1~2と同じである。
【0032】
図10は、図9のB-B断面図である。図10において、燃料電池セル1は、実施形態2と比較すると第1絶縁膜3内に第2開口部9が複数並んで形成され、その上の第2絶縁膜4に形成された第3開口部10の開口サイズは、複数並んだ第2開口部9の最外側両端よりも大きい。第3開口部10の形成方法は、実施形態2と同じく、第1開口部8を形成した後の、フッ素系ウェットエッチングの際に、隣り合う第2開口部9部、および上面の図示していないが犠牲層となるシリコン酸化膜を除去してすることで形成する。したがって、第2開口部9の外側まで第3開口部10を大きくでき、かつ第3開口部10の側壁は第3絶縁膜12で止まり、第3開口部10面積を一定にできる。これにより発電出力のばらつきを低減できる。隣り合う第2開口部9の間隔を狭くすれば、エッチング時間を短縮でき、ガスの流入流出をより高めることができ、発電出力の安定化がより図れる。
【0033】
本実施形態3に係る燃料電池セルは、第2開口部9を複数配置することにより、燃料ガスの流入流出する実質的な開口面積を広くできるので、実施形態1~2に係る燃料電池セル1よりも第1開口部8側から第3開口部10内へのガスの流入流出が容易となり、安定した発電出力とすることができる。
【0034】
<実施の形態4>
図11は、本発明の実施形態4に係る燃料電池セル1の平面図である。図11に示すように、上面からの平面視では、第1電極5、電解質膜6、第2電極7の形状は、実施形態3と同じである。ただし、下側から見た場合、第1開口部8内の第1絶縁膜3内に円径で小面積の第2開口部9が複数配置されており、第2開口部9内には第1電極5が露出して見える。実施形態3と異なる点は、第3開口部10が複数あることである。
【0035】
第1開口部8は、平面視で矩形状であり1辺の長さは例えば約5mmである。第2開口部9は、例えば直径が約1μmの円形であり、隣り合う第2開口部9の間隔が約1μmでほぼ等しくなるよう配置されることが望ましい。第3開口部10は、矩形状で1辺の長さが約300μmであり、第3開口部10間の間隔は約100μmである。開口部面積の関係は、第1開口部8>第3開口部10>第2開口部9であり、実施形態1~2と同じである。
【0036】
図11においては、第3開口部10の形状を矩形にしたが、円形、または六角形など多角形の形状にすることにより、第1開口部8内に効率的に敷き詰めて発電領域の大面積化を図り、発電出力を高めることができる。
【0037】
図12は、図11のC-C線における断面図である。図12において、本実施形態4に係る燃料電池セル1は、実施形態3と比較すると、前述のように第1絶縁膜3に第2開口部9が複数並んだ第3開口部10が複数並んで形成されている。第3開口部10の側壁は、実施形態3と同様に第3絶縁膜12が配置され、第3開口部10の面積を一定にでき、発電出力のばらつきを低減できる。また、第1開口部8全体の応力を考慮しながら、第3開口部10の形状を六角形などに変え、間隔を狭くすることにより、さらに発電領域の面積を広くでき、高発電出力ができる。
【0038】
本実施形態4に係る燃料電池セルは、実施形態3における第3開口部10を第1開口部8内に複数設ける構造を有している。これにより、ガスと第1電極5が接触する面積を増やして、高い発電出力が得られる。
【0039】
<実施の形態5>
図13は、本発明の実施形態5に係る燃料電池セル1の断面図である。本実施形態5に係る燃料電池セルは、第3開口部10と第1電極5の間に応力調整膜15を有している。図13に示すように第3開口部10の形状は実施形態3と同じであるが、少なくとも第3開口部10を覆うように応力調整膜15が形成されている。応力調整膜15は、例えば窒化アルミニウムなどで形成されており、粒界が膜厚方向に沿って延伸する柱状晶構造を有し、膜厚が約50nmと薄膜で連続膜であるが燃料ガスや空気などを通す膜である。応力調整膜15は、半導体基板2に対して引張り応力を有し、かつフッ素系の耐薬品性に優れた膜であり、発電出力を維持したまま、圧縮応力を持つ電解質膜6との応力バランスが良好となり、耐熱性が向上する。
【0040】
<実施の形態6>
図14は、本発明の実施形態6に係る燃料電池セル1の平面図である。図14に示すように、実施形態6における燃料電池セル21の外部への出力端子を同じ高さに配置するために、第3電極20と第2電極7を電解質膜6上の同一層として分離して形成する。第3電極20は、電解質膜6内に形成したコンタクト孔19に嵌合するように配置されている。燃料電池セル21の下面(第1開口部8側)から見た場合、第1開口部8内に第2開口部9が複数配置され、第3開口部10を通して第1電極5が露出している。第3開口部10も複数配置され、実施形態4と同様である。
【0041】
図15は、図14のD-D断面図である。図15に示されるように、燃料電池セル1の断面構造は、半導体基板2に第1開口部8形成するとともに、その上に第1絶縁膜3と第4絶縁膜17と第5絶縁膜18を連続して形成し、第1絶縁膜3、第4絶縁膜17、第5絶縁膜18を貫通するように第2開口部9が設けられている。第4絶縁膜17は、例えば圧縮応力を有する酸化シリコン膜であり、第5絶縁膜18は、例えば引張り応力を有する窒化シリコン膜である。引張り応力を有する膜と圧縮応力を有する膜を積層することにより、第1開口部8上の全体の膜強度が向上する。さらに第3開口部10上の第1の電極、電解質膜6、第2電極7の積層膜との膜強度のバランスが良くなり、耐熱性が向上する。
【0042】
第1電極5を覆うように電解質膜6が形成され、外部出力のために一部だけコンタクト孔19を加工した後、第2電極7と同一層で第3電極20を形成する。なお、複数形成されたコンタクト孔19により第1電極5と第3電極20は接続され、第2電極7とは分離されている。
【0043】
次に、燃料電池セル1のモジュール取り付けについて説明する。燃料電池セル1の第1開口部8が設けられた裏面側に例えば水素ガスを供給する場合、ガスの流路を形成するため、セラミックまたは金属による下部の台座22を設け、接着またはシール材を用いて機密性を保つ。台座22には、ガスの流入流出のためのガス配管26が接続され、第1開口部8に繋がっている。燃料電池セル1の電極端子がある上側は空気の流路とするために、配線23と24を設けた上蓋基板25が載っている。上蓋基板25の材料もセラミックまたは金属である。配線23は第3電極20と接続され、配線24は第2電極7と接続されている。配線23と配線24は、図示しない発電をコントロールする装置などを介して燃料電池セル21からの電力を消費する装置に接続できるようになっている。当然ながら、上蓋基板25上では、配線23と24とは分離されており、電気的に繋がっていない。なお、上蓋基板25に第1開口部8と異なるガスを導入するための配管が接続されていても良い。
【0044】
半導体基板2から第3電極20の上面までの高さと、半導体基板2から第2電極7の上面までの高さは、略等しい。これにより、第3電極20と配線23との間の接触が良好になるとともに、第2電極7と配線24との間の接触が良好となり、発電損失を低減することができる。またこれらの高さが略等しいことにより、上蓋基板25によって空気流路を気密封止することができる。さらに、水素ガスと空気とが混合しないように、燃料電池セル1が隔壁の役割を果たすとともに、空気が供給される側に出力電極があることにより、電極(第1電極5または第2電極7)が腐蝕するおそれがなく、また水素ガスへの着火のおそれがない。
【0045】
上蓋基板25上に燃料電池セル21を接着し、その上に上蓋基板25を重ねていくことより、複数の燃料電池セル1をスタックして発電量を向上させることができる。この場合、上蓋基板25の上面(空気が供給される面とは対向する面)側には台座22と同様に水素ガスを供給するための流路が形成される。台座22と上蓋基板25は、機密性を保つために上下を冶具などにより外部から締め付ける必要がある。その際、第3電極20と第2電極7の高さが不均一の場合、燃料電池セル1に負荷が加わり破損する恐れがあるが、本実施形態6であれば回避できる。また、動作時の熱応力に関しても均等に加わるよう設計できる。また、燃料電池セル1と上蓋基板25の電極および、第1開口部8以外の半導体基板2に対して押し付け力が加えられた場合の応力を緩和するため、伸縮性があり耐熱性を有する緩衝材を配置してもよい。
【0046】
<実施の形態7>
図16は、本発明の実施形態7に係る燃料電池システムの構成を説明する側断面図である。燃料電池セル1は、実施形態1~6いずれかで説明したものである。燃料電池セル1をアレイ状に配置し、燃料電池セル1の上方に空気室を形成する。空気導入口を介して空気室へ空気を導入し、空気排気口から排出する。燃料電池セル1の下方に燃料室を形成する。燃料導入口を介して燃料室へ燃料ガスを導入し、燃料排出口から排出する。燃料電池セル1は接続部を介して外部負荷と接続される。
【0047】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0048】
以上の実施形態において、開口面積の関係は、第1開口部8>第3開口部10>第2開口部9であることを説明した。ここでいう開口面積とは、図2における下方から見たとき(すなわち第1開口部8から第3開口部10へ至る向きに見たとき)の開口面積であることを付言しておく。
【符号の説明】
【0049】
1:燃料電池セル
2:半導体基板
3:第1絶縁膜
4:第2絶縁膜
5:第1電極
6:電解質膜
7:第2電極
8:第1開口部
9:第2開口部
10:第3開口部
12:第3絶縁膜
15:応力調整膜
17:第4絶縁膜
18:第5絶縁膜
19:コンタクト孔
20:第3電極
22:台座
23:配線
24:配線
25:上蓋基板
26:ガス配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16