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特許7324387耐震性補強構造、耐震性補強方法及び耐震性補強建具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】耐震性補強構造、耐震性補強方法及び耐震性補強建具
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20230803BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20230803BHJP
   E06B 5/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04B1/26 F
E06B5/00 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019059331
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159046
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】517006946
【氏名又は名称】公益財団法人文化財建造物保存技術協会
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596029605
【氏名又は名称】株式会社アロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】腰原 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】安田 一男
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修治
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】星野 真志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武王
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 律
(72)【発明者】
【氏名】津和 佑子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 斉
(72)【発明者】
【氏名】角 智生
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 敦
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-129385(JP,A)
【文献】特開2016-048004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00-23/08
E04B 1/00- 1/36
E04B 2/56- 2/70
E04B 2/88- 2/96
E04C 2/42
E05C 1/06
E06B 3/54- 3/88
E06B 3/964
E06B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で設置される建具と、前記建具の前記敷居材上の摺動を阻止するストッパ手段とを含み、
前記ストッパ手段は、密着する柱材とは反対側の前記建具の少なくとも下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含み、
前記ストッパピンが、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入した状態において前記建具の摺動を阻止するよう構成される、
耐震性補強構造。
【請求項2】
前記建具を2枚含み、
前記建具が各々前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で設置される、請求項1に記載の耐震性補強構造。
【請求項3】
前記建具が、2枚の框フレーム板の間にプレートパネルを挟んだサンドイッチ構造を有する、請求項1又は2に記載の耐震性補強構造。
【請求項4】
前記建具が障子様構造を有し、横子及び竪子となる格子板に対してプレートパネルを張り付けた構造を有する、請求項1又は2に記載の耐震性補強構造。
【請求項5】
前記プレートパネルが、ポリカーボネート樹脂を芯材とし、当該ポリカーボネート樹脂をガラス板で挟んだ構造を有する、請求項3又は4に記載の耐震性補強構造。
【請求項6】
前記第1ガイド部材が、前記建具の側面に対して外側から当接する面と前記敷居材に沿って延在する面とを有するL字金具であり、
前記第2ガイド部材が前記敷居材を貫通するパイプであり、
前記ストッパピンの一方の端が前記第1ガイド部材に対して接続され、他方の端が前記第2ガイド部材の中に挿入される
請求項1~5のいずれか1項に記載の耐震性補強構造。
【請求項7】
前記建具の框部が建具の下角部に中空部を有し、
前記第1ガイド部材が、前記中空部に配置されるパイプであり、
前記第2ガイド部材が前記敷居材を貫通するパイプであり、
前記ストッパピンが、上方から前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入される、
請求項1~5のいずれか1項に記載の耐震性補強構造。
【請求項8】
前記建具が、剛性材料製の一体的格子を含む障子構造を有する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の耐震性補強構造。
【請求項9】
前記建具が、剛性材料製の中空材から構成される一体的格子を含む障子構造を有する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の耐震性補強構造。
【請求項10】
前記建具と前記鴨居材との間の間隙を埋める間隙調整材をさらに含む、
請求項1~9のいずれか1項に記載の耐震性補強構造。
【請求項11】
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本
の柱材のいずれか一方と密着する状態で建具を設置する工程と、
少なくとも密着する柱材とは反対側の前記建具の下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含むストッパ手段を用いて、前記ストッパピンを前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入することによって前記建具の前記敷居材上の摺動を阻止する工程と、
を含む耐震性補強方法。
【請求項12】
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で設置されるよう構成され、
少なくとも密着する柱材とは反対側の下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含むストッパ手段を用いて、前記ストッパピンを前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入することによって前記敷居材上の摺動が阻止されるよう構成された、
耐震性補強建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震性補強構造、耐震性補強方法及び耐震性補強建具に関する。特に、建造物の耐震性を補強するための耐震性補強構造、耐震性補強方法及び耐震性補強建具に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の建築物の耐震性を補強するための技術が開発されている。例えば、特許文献1には、2本の柱材の間にブレースとなるワイヤを渡して耐震性を補強する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-19584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以下の分析は、本発明の観点からなされたものである。なお、上記先行技術文献の開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。
【0005】
引用文献1に開示される技術は、柱材に対してワイヤをボルトで固定している。そのため、文化財建造物など、既存の柱材に対してボルト固定のための穴などを設けることができない建造物に対しては引用文献1に開示される技術を適用できない。
【0006】
そこで、本発明では、文化財建造物の耐震性を補強するための耐震性補強構造、耐震性補強方法及び耐震性補強建具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の視点によれば、
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で設置される建具と、前記建具の前記敷居上の摺動を阻止するストッパ手段とを含み、
前記ストッパ手段は、密着する柱材とは反対側の前記建具の少なくとも下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含み、
前記ストッパピンが、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入した状態において前記建具の摺動を阻止するよう構成される、
耐震性補強構造が提供される。
【0008】
本発明の第2の視点によれば、
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で建具を設置する工程と、
少なくとも密着する柱材とは反対側の前記建具の下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含むストッパ手段を用いて、前記ストッパピンを前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入することによって前記建具の前記敷居上の摺動を阻止する工程と、
を含む耐震性補強方法が提供される。
【0009】
本発明の第3の視点によれば、
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で設置されるよう構成され、
少なくとも密着する柱材とは反対側の下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含むストッパ手段を用いて、前記ストッパピンを前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入することによって前記敷居上の摺動が阻止されるよう構成された、
耐震性補強建具が提供される。
【0010】
本発明の第4の視点によれば、
剛性材料製の一体的格子を含む障子構造を有する耐震性補強構造が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の各視点によれば、文化財建造物の耐震性の補強に寄与する耐震性補強構造、耐震性補強方法及び耐震性補強建具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一概要を説明するための図である。
図2】本発明の一概要を説明するための図である。
図3】障子様構造を有する建具10a、bを示す図である。
図4】障子様構造を有する建具10a、bの分解図である。
図5】障子様構造を有する建具10a、bの分解図である。
図6】ストッパ手段20a、bの構造を示す図である。
図7】間隙調整材60の構造を示す図である。
図8】ストッパ手段20a、bの構造を示す図である。
図9】耐震性補強性能の試験モデルを示す図である。
図10A】耐震性補強性能の試験結果を示す図である。
図10B】耐震性補強性能の試験結果を示す図である。
図11】耐震性補強性能の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のとり得る好適な実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の記載に付記した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、本発明を図示の態様に限定することを意図するものではない。また、図面では主に各構成要素の位置関係を説明するために用いられ、各構成要素の当接関係、断面形状は正確に示していない。
【0014】
先ず、本発明の一概要として、文化財建造物における大広間の間仕切りに適用される耐震性補強構造について具体的一例を挙げて説明する。図1に示すように、耐震性補強構造は、建具10a、bとストッパ手段20a、bとを含む。建具10a、bは、例えば、襖、障子として例示され、敷居材30、鴨居材40及び2本の柱材50a、bによって画成される開口部に設置される。ここで、建具10aは左側の柱材50aと密着する状態で設置され、建具10bは右側の柱材50bと密着する状態で設置される。また、ストッパ手段20a、bは建具10a、bの敷居材30上の摺動を阻止する。なお、建具10a、bは左右対称に同一構造を有し、またストッパ手段20a、bも左右対称に同一構造を有する。
【0015】
ストッパ手段20aは、第1ガイド部材21と、第2ガイド部材22と、ストッパピン23とを含む。第1ガイド部材21は、密着する左側の柱材50aとは反対側の建具10aの下角部、言い換えると、建具10aの右下角部に設けられる。また、第2ガイド部材22は、敷居材30上で第1ガイド部材21に対応する位置、言い換えると柱材50a、bの間で柱材50a、bから離れた箇所に設けられる。ストッパピン23は、第1ガイド部材21及び第2ガイド部材22の中に両ガイド部材にわたって挿入される。ストッパピン23は、第1ガイド部材21及び第2ガイド部材22へ挿入した状態において建具10aの摺動を阻止するよう構成される。
【0016】
このような耐震性補強構造において、横揺れによって図2に示すように左側から右側へ(矢印方向)の水平力が印加されると、建具10aは左側の柱材50aからの押圧を受けるが、ストッパ部材20aによって右側への摺動が阻止されているため、ストッパ部材20aを中心として時計回りに回転して、建具10aの左上角部が鴨居材40に対して押し付けられる。その結果、建具10aは、図示のように左上角部と右下角部の間で圧縮力を受けることになる。この時に、建具10aは、圧縮筋交いとしての機能を発揮して、圧縮力に対する反力(抵抗力)に起因する耐震性を文化財建造物にもたらす。
【0017】
その一方で、建具10bは、建具10aと同様に時計回りに回転する。この時に、建具10bは、引張筋交いとしての機能を発揮しない。しかしながら、図2の場合とは逆に、右側から左側への水平力が生じると、建具10bは建具10aと同様にして圧縮筋交いとしての機能を発揮し、耐震性を文化財建造物にもたらす。
【0018】
このように、本発明の耐震性補強構造では、建具10a、bが圧縮筋交いとしての機能を発揮するようにしている。言い換えると、本発明の耐震性補強構造では、一般的な引張筋交い(ブレース)による引張応力や、一般的な耐力壁による剪断応力は期待していない。また、建具10a、bは、本設置形態においては各々一方向の水平力に対しては圧縮力に対する反力に起因する耐震性を文化財建造物にもたらすが、逆方向の水平力に対しては耐震性を発揮しない。このような耐震性補強構造は耐震性の補強という観点でのデメリットを有するものの、その一方で柱材50a、bに対して固着するためのボルト穴などを設ける必要が無いという点で、文化財ないし伝統的保存価値のある建物の柱を傷つけないという大いなるメリットを有する。
【0019】
以下では上記の一概要に基づく本発明のとり得る好適な実施形態について具体的な一例を挙げて説明する。以下の実施形態では、上記の一概要と同様に文化財建造物における大広間の間仕切りとして、図3に示す障子様構造を有する建具10a、bを適用した説明する。本願では、障子様構造の各部位を図示のように称する。すなわち、障子様構造は、大枠として上桟、中桟、下桟及び竪桟を含み、これらの部位を総称して框部とも称する。框部は内側へ張り出す付子(チリ)を有する。この付子は、本来、障子紙が張り付けられる張り出し部分である。框部の内側には、横子、竪子が渡されて格子形状を形成する。横子、竪子を総称して格子部(組子)とも称する。障子紙に相当する箇所を障子部と称する。なお、建具10a、bは、図3に示すような腰付障子のタイプのみならず、腰付が無い水腰障子のタイプであっても良い。また、腰付に格子部を配さずに、板状部材で構成しても良い。
【0020】
[実施形態1]
実施形態1では、層状部材ないしフレーム部材の組み合わせ構造(合板構造とも称する)を有する建具10a、bについて説明する。
【0021】
[建具10a、bの構造]
実施形態1の建具10a、bは、2枚の框フレーム板の間に2枚の格子板を挟み、更に2枚の格子板の間に障子板を挟んだ構造を有する。格子板は、図4Aに示すように、細長いステンレス板を溶接した框部となるフレームである。格子板は、図4Bに示すように、例えば格子窓をレーザ加工で切り出した1枚の剛性材料板(例えば、剛性金属、好ましくはステンレス板)である。なお、格子板は付子になる箇所を有するため、外枠の幅が格子板よりも広い。障子板は、図4Cに示すように框部となるフレームの内側に透明なプレートパネル(好ましくは、高耐力の樹脂プレート、例えば、ポリカーボネート樹脂を芯材とし、当該ポリカーボネート樹脂をガラス板で挟んだポリカーボネート樹脂プレート)を嵌め込んだ平板構造を有する。ポリカーボネート樹脂プレートの両面はガラス板で覆われる。なお、図4Cにおいて、ポリカーボネート樹脂プレートは窓部と区別するために着色して示されるが、実際には透明である。
【0022】
建具10a、bは、このような2枚の框フレーム板、2枚の格子板及び1枚の障子板を図5に示すように貼り合わせ、ボルトで接合して構成される。なお、格子板は、格子窓のレーザ加工の際に撓みが生じることがある。その場合には、撓み(凸面)が障子板へ向かうように(言い換えると内側へ向かうように)配置することが好ましい。
[ストッパ手段20a、bの構造]
実施形態1のストッパ手段20a、bは、図6に示すように、第1ガイド部材21としてのL字金具と、第2ガイド部材22としてのパイプと、ストッパピン23とを含む。第1ガイド部材21は、建具10a、bの側面に対して当接する面と、敷居材30に沿って延在する面とを有する。第2ガイド部材22は、敷居材30を貫通して土台の中にまで至る。ストッパピン23は、一方の端が第1ガイド部材21に対して、例えばねじ込み式に接続され、他方の端が第2ガイド部材22の中に挿入される。なお、第1ガイド部材21、第2ガイド部材22、ストッパピン23は、スレンレス、鋼、木材、繊維強化樹脂などによって作製されるが、圧縮力に対する反力の支点となるため、剛性を有する材質であることが好ましい。また、第1ガイド部材21と敷居材30の間に補強プレートを施設して、敷居材30を補強しても良い。
【0023】
[間隙調整材60の構造]
実施形態1では、建具10a、bと鴨居材40との間の間隙を埋める間隙調整材60が配される。間隙調整材60は例えばステンレス板であり、図7に示すように、柱材50a及び鴨居材40によって画成される上角部に鴨居材40に沿って配される。なお、間隙調整材60をL字状に成形して、一端を柱材50a、bに沿って下方に延在させてもよい。このようにすれば、鴨居材40に対する下方からの剪断圧力が緩和される。なお、間隙調整材60は、柱材50a及び/又は鴨居材40に対して固定することもできるが、固定する場合であっても例えば柱材50aに対してワイヤで括りつけるなど柱材50a及び鴨居材40を傷つけない様式であることが望ましい。
【0024】
なお、文化財建造物の景観を損ねないように、框フレーム板、格子板、障子材、第1ガイド部材21及び間隙調整材60を例えば化粧板などでカバーすることが好ましい。また、障子材は紙で覆っても良い。
【0025】
[文化財建造物の構造]
実施形態1において、建具10a、bは、上記の一概要と同様に敷居材30、鴨居材40及び2本の柱材50a、bによって画成される開口部に設置される。本発明では敷居材30に対してのみ第2ガイド部材22を備え付けるための穴が設けられ、鴨居材40及び2本の柱材50a、bに対しては何ら処理が施されない。なお、敷居材30は長年の使用によって摩耗、劣化する部材であるため、文化財建造物といえども適宜交換される部材である。そのため、敷居材30に対して穴を設けたとしても、文化財建造物の保存という観点での問題は生じない。
【0026】
[建具10a、bの設置方法]
建具10a、bは、一般的な障子と同様に、鴨居材40に設けられた溝に上辺を差し込み、次いで、敷居材30に設けられた溝に下辺を差し込むことによって設置される。この状態では建具10a、bは、一般的な障子と同様に、敷居材30の上を摺動可能である。
【0027】
次に、建具10a、bを柱材50a、bのいずれか一方と密着する状態になるように移動する、つまり建具10a、bを左右の端に寄せる。この時、柱材50a、b及び鴨居材40によって画成される上角部には間隙調整材60が配置されており、間隙調整材60は建具10a、bと鴨居材40との間に挟まり、建具10a、bと鴨居材40の間隙を埋める。
【0028】
そして、建具10a、bを左右の端に寄せた状態で、ストッパピン23を第2ガイド部材22の中に挿入する。この状態で、建具10a、bが敷居材30の上を摺動しようとしても、建具10a、bが第1ガイド部材21に対して当接するため、摺動が阻止される。
【0029】
なお、ストッパピン23を第2ガイド部材22から引き抜くことで、再び建具10a、bを摺動可能なすることもできる。
【0030】
[実施形態1の効果]
上記のように実施形態1の建具10a、bは、鴨居材40及び2本の柱材50a、bに対して何ら処理を施すことなく設置される。そのため、文化財建造物の保存という観点で有利である。
【0031】
また、実施形態1では、間隙調整材60を用いて建具10a、bと鴨居材40との間の間隙を埋めている。そのため、耐震性補強構造に対して水平力が印加されると直ぐに建具10a、bが圧縮筋交いとしての機能を発揮する。
【0032】
[実施形態2]
実施形態2では、角パイプによって作製される建具10a、bについて説明する。なお、以下では実施形態1と異なる点について説明する。
【0033】
[建具10a、bの構造]
実施形態2の建具10a、bにおいて、框部は例えばステンレス製の角パイプを溶接によって接合することで作製される。格子部は、例えば、SUS304 Φ12×t1.2のパイプをプレス成形によって角型形状にし、切り欠きを設けた上で嵌め合わせることで作製される。框部と格子部は溶接によって接合される。なお、格子部に対して外枠を設けることによって、付子となる箇所を設けることもできる。障子部は、框部の内側にプレートパネル(例えば、ポリカーボネート樹脂を芯材とし、当該ポリカーボネート樹脂をガラス板で挟んだポリカーボネート樹脂プレート)を嵌め込むことで設けられる。ここで、障子部と格子部とを接着することで障子部を固定しても良い。また、框部に火打ち板を設けて、火打ち板と格子部との間に障子部を挟むことで障子部を固定しても良い。
[ストッパ手段20a、bの構造]
実施形態2のストッパ手段20a、bは、第1ガイド部材21としての例えばステンレス製のパイプ部材と、第2ガイド部材22としてのパイプ部材と、ストッパピン23とを含む。第1ガイド部材21は、框部(角パイプ)の内空に配置され、框部に対して溶接される。第2ガイド部材22は、敷居材30を貫通して土台の中にまで至る。ストッパピン23は、軸方向の移動のための取っ手を有し、上方から第1ガイド部材21及び第2ガイド部材22の中に挿入される。ストッパピン23の取っ手は、建具10a、bの側面から突出しており、この取っ手を上下移動することでストッパピン23の抜き差しが行われる。建具10a、bの側面、すなわち框部の側面には取っ手が移動するための窓が設けられる。
【0034】
なお、ストッパピン23の抜き差しは、取っ手を用いた方法に限定されない。例えば、框部の一部を半割構造にして、ストッパピン23を直接的に抜き差しできるようにしても良い。その場合には、ストッパピン23の抜き差しを行った後で、カバープレートを装着する。
【0035】
[実施形態2の効果]
上記のように、実施形態2の建具10a、bの格子部は中空部材から形成されるため、実施形態1の建具10a、bよりも軽量化が望める。また、第1ガイド部材21が建具10a、bの内部に設けられるため、景観を損ねない。なお、格子部は、剛性金属(ステンレススチールなど)の他に、繊維強化樹脂(例えばカーボンファイバ強化樹脂)を用いることもできる。
【0036】
[実施形態3]
以下では、本発明の耐震性補強構造における種々の変化形態を実施形態3として記載する。
【0037】
建具10a、bは、障子様構造のみならず、襖様構造であっても良い。すなわち、建具10a、bに窓部を設けずに1枚の平板、合板状のパネルなどを耐力材として用いて構成することができる。平板、合板の材料は、ステンレス板、鋼板、木板、繊維強化樹脂などを含む。また、例えば、特開2013-19211に開示される耐震パネルを建具10a、bとして適用することもできる。
【0038】
障子様構造の建具10a、bは、プレートパネルを含まずに構成することもできる。すなわち、窓部が開いた状態の建具10a、bであっても良い。
【0039】
本発明の耐震性補強構造は、文化財建造物のみならず、様々な既存の建造物、特に木造建造物に対して適用することができる。また、本発明の建具10a、bを耐震壁として用いることもできる。すなわち、建具10a、bを左右の柱材で挟み込む状態で配置しても良い。
【0040】
間隙調整材60は、文化財建造物の保存という観点で許容可能であれば、例えば柱材50a及び/又は鴨居材40に対してビスで打ちつけても良い。
【0041】
ストッパ手段20a、bは、建具10a、bの摺動を阻止できるものであれば良い。例えばストッパピン23を用いずに、第1ガイド部材21を敷居材30に対して直接的に固定しても良い。また、ストッパ手段20a、bは、建具10a、bの下角部のみならず、建具10a、bの上角部に配置することもできる。
【0042】
[耐震性補強性能]
本発明の耐震性補強構造による耐震性補強性能は、図9に示すような耐震性能試験装置のモデルを用いて試験した。すなわち、十分な耐力を有する剛性の試験フレーム構造体の開口部に試験用建具10cをセットして試験を行う。建具としては、図10Aに示す障子様格子組み建具を用い、建具10cの下辺をストッパで横方向に摺動不能に固定した状態で、油圧ジャッキを用いて建具10cの上辺に対して水平力を印加して、荷重P(kN)に対する縮み変異δ(mm)を測定する。ここで耐震性補強構造による耐震性補強性能は、荷重P(kN)に対する縮み変異δ(mm)を示した荷重変形曲線として表わされる。以下では、上記のモデルを用いた試験の条件及び結果を実施例として記載する。
【0043】
[実施例1]
図10Aに示すように、障子様構造の建具10cを用いて耐震性補強性能を試験した。この建具10cは、2枚の框フレーム板の間に2枚の格子板を挟んだ構造を有し、プレートパネルを含まない。
【0044】
框フレーム板は、縦1940mm、横930mm、厚さ6mm、上桟及び下桟の縦幅38mm、中桟の縦幅31mm、竪桟の横幅38mm、上側窓部(縦*横)1495*868mm、下側窓部(縦*横)338*868mmのステンレス板である。
【0045】
格子板は、縦、横、厚さが框フレーム板と同一であり、上桟及び下桟の縦幅46mm、中桟の縦幅47mm、竪桟の横幅46mmのステンレス板である。上桟と中桟の間に縦11個*横4個(計44個)の窓部、中桟と下桟の間に縦3個*横4個(計12個)の窓部をレーザ加工で切り出すことによって設けた。上桟と中桟の間の窓部は、縦127.2mm*横207mmであり、各々8mmの幅の横子及び竪子によって隔てられる。中桟と下桟の間の窓部は、縦102mm*横207mmであり、各々8mmの幅の横子及び竪子によって隔てられる。
【0046】
2枚の框フレーム板と2枚の格子板は、51本のSUS30 Φ 六角ボルト M6で接合した。上桟には計9本の六角ボルトを、上辺から19mmの位置に、左辺から11.5mm、117mm、117.5mm、103.5mm、103.5mm、103.5mm、103.5mm、117.5mm、117mm、11.5mmの間隔をあけて配位した。中桟には計9本の六角ボルトを、中桟の縦の中央の位置に、上桟と同様の間隔をあけて配位した。下桟には計9本の六角ボルトを、下辺から19mmの位置に、上桟と同様の間隔をあけて配位した。左右の竪桟には各々15本(合計30本、その内6本は上桟、中桟、下桟のものと重複)の六角ボルトを、左右の片から19mmの位置に、上辺から19mm、158.2mm*11、133mm、102mm、133mmの間隔をあけて配位した。なお左右の竪桟における六角ボルトの配置は、上桟、中桟、下桟の縦幅の中央と、横子の縦幅の中央とに対応する。
【0047】
この建具10cに対して水平力を印加したところ、図10Bに示すように建具10cが変形した。この時の荷重変形曲線は図11に示すものである。すなわち、図示の建具10cは、文化庁の「重要文化財(建造物)耐震基礎診断実施要領」に規定される安全確保水準1/30に関して、8.47kNの耐力を有することが確認された。図11の結果から、本試験建具は、上記安全確保水準を十分余力をもって実現することができると判明した。
【0048】
実施例1では、建具10cの格子板としてスレンレス板を用いたが、この建具10cを基本構造として、更に材質、窓部の大きさ、ピッチなどを調節して所望の耐震性能を得ることができる。さらに材質としては、繊維強化樹脂も用いることができる。
【0049】
上記の実験結果から、剛性材料製の一体構造体を含む障子構造を有する耐震性補強構造の有利な耐震吸収効果が明らかとなった。この一体構造体を更に一般的な本組み建造物の耐震構造として用いることができる。さらに、プレートパネルを追加すればそれに応じて耐震性の範囲において上積みが得られる。この一体格子体は、例えば2本の柱の間に介製して用いることもできる。
【0050】
なお、本発明は以下の様にも記載される。
(付記1)
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で設置される建具と、前記建具の前記敷居上の摺動を阻止するストッパ手段とを含み、
前記ストッパ手段は、密着する柱材とは反対側の前記建具の少なくとも下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含み、
前記ストッパピンが、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入した状態において前記建具の摺動を阻止するよう構成される、
耐震性補強構造。
(付記2)
前記建具を2枚含み、
前記建具が各々前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で設置される、付記1に記載の耐震性補強構造。
(付記3)
前記建具が、2枚の框フレーム板の間にプレートパネルを挟んだサンドイッチ構造を有する、付記1又は2に記載の耐震性補強構造。
(付記4)
前記建具が障子様構造を有し、横子及び竪子となる格子板に対してプレートパネルを張り付けた構造を有する、付記1又は2に記載の耐震性補強構造。
(付記5)
前記プレートパネルが、ポリカーボネート樹脂を芯材とし、当該ポリカーボネート樹脂をガラス板で挟んだ構造を有する、付記3又は4に記載の耐震性補強構造。
(付記6)
前記第1ガイド部材が、前記建具の側面に対して外側から当接する面と前記敷居材に沿って延在する面とを有するL字金具であり、
前記第2ガイド部材が前記敷居材を貫通するパイプであり、
前記第1ガイド部材と前記第2ガイド部材とが前記ストッパピンを介して互いに摺動可能に固定される、
付記1~5のいずれか1つに記載の耐震性補強構造。
(付記7)
前記建具の框部が建具の下角部に中空部を有し、
前記第1ガイド部材が、前記中空部に配置されるパイプであり、
前記第2ガイド部材が前記敷居材を貫通するパイプであり、
前記ストッパピンが、上方から前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入される、
付記1~5のいずれか1つに記載の耐震性補強構造。
(付記8)
前記建具が、剛性材料製の一体的格子を含む障子構造を有する、
付記1~7のいずれか1つに記載の耐震性補強構造。
(付記9)
前記建具が、剛性材料製の中空材から構成される一体的格子を含む障子構造を有する、
付記1~7のいずれか1つに記載の耐震性補強構造。
(付記10)
前記建具と前記鴨居材との間の間隙を埋める間隙調整材をさらに含む、
付記1~9のいずれか1つに記載の耐震性補強構造。
(付記11)
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で建具を設置する工程と、
少なくとも密着する柱材とは反対側の前記建具の下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含むストッパ手段を用いて、前記ストッパピンを前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入することによって前記建具の前記敷居上の摺動を阻止する工程と、
を含む耐震性補強方法。
(付記12)
敷居材、鴨居材及び2本の柱材によって画成される開口部において少なくとも前記2本の柱材のいずれか一方と密着する状態で設置されるよう構成され、
少なくとも密着する柱材とは反対側の下角部に設けられる第1ガイド部材と、前記敷居材上で前記第1ガイド部材に対応する位置に設けられる第2ガイド部材と、前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材の中に挿入されるストッパピンとを含むストッパ手段を用いて、前記ストッパピンを前記第1ガイド部材及び前記第2ガイド部材へ挿入することによって前記敷居上の摺動が阻止されるよう構成された、
耐震性補強建具。
(付記13)
剛性材料製の一体的格子を含む障子構造を有する、
耐震性補強構造。
(付記14)
前記一体的格子が、中実又は中空の剛性金属材料から構成される、
付記13に記載の耐震性補強構造。
【0051】
なお、上記の特許文献の開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
10a、b、c 建具
20a、b ストッパ手段
21 第1ガイド部材
22 第2ガイド部材
23 ストッパピン
30 敷居材
40 鴨居材
50a、b 柱材
60 間隙調整材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11