(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ジャスモン酸内生促進剤及びジャスモン酸内生促進方法
(51)【国際特許分類】
A01N 37/34 20060101AFI20230804BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20230804BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
A01N37/34 106
A01P21/00 ZNA
A01G7/06 A
(21)【出願番号】P 2020563382
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050992
(87)【国際公開番号】W WO2020138228
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2018241785
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】朽津 和幸
(72)【発明者】
【氏名】北畑 信隆
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 優歩
(72)【発明者】
【氏名】倉持 幸司
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138607(JP,A)
【文献】特表2005-515234(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00951651(GB,A)
【文献】特表2002-540155(JP,A)
【文献】国際公開第1994/018833(WO,A1)
【文献】Environmental Pollution, 2019, Vol.252, p.706-714
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/
A01G 7/
C07C、C07D
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記
化合物E1~E4の少なくとも1種を有効成分として含有するジャスモン酸内生促進剤。
【化1】
【請求項2】
請求項
1に記載のジャスモン酸内生促進剤を植物に接触させることを含むジャスモン酸内生促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャスモン酸内生促進剤及びジャスモン酸内生促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サリチル酸及びジャスモン酸は、植物の成長や防御免疫応答等の役割を担う植物ホルモンとして知られている。従来、サリチル酸経路やジャスモン酸経路を活性化させる農薬成分が種々提案されている。
【0003】
例えば、植物におけるサリチル酸経路を活性化させる農薬成分としては、プロベナゾール(3-(2-プロペノキシ)-1,2-ベンゾチアゾール 1,1-ジオキシド)が開発されており、イネのいもち病の防除等の目的で広く使用されている。プロペナゾールは、植物におけるサリチル酸の内生を促進する作用を有し、それ自体はサリチル酸様作用を有しない。そのため、環境負荷が小さく、薬剤耐性菌出現のリスクが低いという特長を有する。
【0004】
一方、ジャスモン酸経路を活性化させる農薬成分としては、プロヒドロジャスモン等のジャスモン酸アナログが開発されており(例えば、特許文献1参照)、植物の成長調節等の目的で広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ジャスモン酸アナログは、それ自体がジャスモン酸様作用を有するため、環境負荷が大きく、また、過剰応答により植物の成長に悪影響を与えるリスクもある。そのため、植物におけるジャスモン酸の内生を促進する農薬成分の開発が望まれていたが、そのような農薬成分はこれまで知られていないのが現状であった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みて提案されたものであり、植物におけるジャスモン酸の内生を促進する新規なジャスモン酸内生促進剤及びジャスモン酸内生促進方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 下記式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有するジャスモン酸内生促進剤。
【化1】
[式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、1価の有機基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロキシ基、メルカプト基、シアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、スルホ基、スルファミノ基、スルフィノ基、スルファモイル基、ホスホ基、ホスホノ基、又はボロニル基を示し、n個のR
1は少なくともシアノ基又はハロゲン原子を含む。nは1~5の整数を示す。nが2以上である場合、n個のR
1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、隣接する炭素原子に結合するR
1同士で結合して環構造を形成していてもよい。mは0~5の整数を示す。mが2以上である場合、m個のR
2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、隣接する炭素原子に結合するR
2同士で結合して環構造を形成していてもよい。]
【0009】
<2> n個のR1が少なくともシアノ基を含む<1>に記載のジャスモン酸内生促進剤。
【0010】
<3> nが2以上である<1>又は<2>に記載のジャスモン酸内生促進剤。
【0011】
<4> n個のR1が少なくともシアノ基及びハロゲン原子を含む<3>に記載のジャスモン酸内生促進剤。
【0012】
<5> 前記式(1)で表される化合物又はその塩が、下記式(2)で表される化合物又はその塩である<4>に記載のジャスモン酸内生促進剤。
【化2】
[式中、R
3はハロゲン原子を示し、R
4は1価の有機基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロキシ基、メルカプト基、シアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、スルホ基、スルファミノ基、スルフィノ基、スルファモイル基、ホスホ基、ホスホノ基、又はボロニル基を示す。pは0~3の整数を示す。pが2以上である場合、p個のR
4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、隣接する炭素原子に結合するR
4同士で結合して環構造を形成していてもよい。R
2及びmは前記式(1)と同義である。]
【0013】
<6> 前記式(2)で表される化合物又はその塩が、下記式(3-1)若しくは(3-2)で表される化合物又はその塩である<5>に記載のジャスモン酸内生促進剤。
【化3】
[式中、R
2、R
3、R
4、m、及びpは前記式(2)と同義である。]
【0014】
<7> <1>~<6>のいずれか1項に記載のジャスモン酸内生促進剤を植物に接触させることを含むジャスモン酸内生促進方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、植物におけるジャスモン酸の内生を促進する新規なジャスモン酸内生促進剤及びジャスモン酸内生促進方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】化合物E1、E2、E3、比較化合物C1、C2の各化合物を接触させたシロイヌナズナにおけるジャスモン酸内生量を示す図である。
【
図2A】化合物E1を接触させたシロイヌナズナにおけるPDF1.2遺伝子の発現量を示す図である。
【
図2B】化合物E2を接触させたシロイヌナズナにおけるPDF1.2遺伝子の発現量を示す図である。
【
図3】化合物E1、E4、E5の各化合物を接触させたシロイヌナズナにおけるPDF1.2遺伝子の発現量を示す図である。
【
図4】化合物E1、E6の各化合物を接触させたシロイヌナズナにおけるPDF1.2遺伝子の発現量を示す図である。
【
図5】化合物E1又は抗癌剤イリノテカンの活性代謝物であるSN-38を添加したときのMRC-5細胞の生存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ジャスモン酸内生促進剤>
本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤は、下記式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する。
【0018】
【0019】
上記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、1価の有機基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロキシ基、メルカプト基、シアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、スルホ基、スルファミノ基、スルフィノ基、スルファモイル基、ホスホ基、ホスホノ基、又はボロニル基を示す。ただし、n個のR1は少なくともシアノ基又はハロゲン原子を含む。
【0020】
R1又はR2で示される1価の有機基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、非芳香族複素環基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、カルボキシ基、ホルミル基、ホルミルオキシ基、アセタール化ホルミル基、ホルムアミド基、イソシアネート基、カルバモイル基;-OR、-C(=O)R、-C(=O)OR、-OC(=O)R、-NHR、-NR2、-C(=NR)R、-C(=NR)NHR、-C(=NR)NR2、-SR、-C(=O)NHR、-C(=O)NR2、-C(=N-OR)R、-C(=NR)OR、-OC(=NR)R、-OC(=O)NHR、-OC(=O)NR2、-NHC(=O)R、-NRC(=O)R、-NHC(=O)OR、-NRC(=O)OR、-NHC(=O)NHR、-NRC(=O)NHR、-NHC(=O)NR2、-NRC(=O)NR2、-NHC(=NR)R、-NRC(=NR)R、-S(=O)2R、-S(=O)2OR、-OS(=O)2R、-NHS(=O)2R、-NRS(=O)2R、-NHC(=S)NR2、-NHC(=S)NR2、-NHC(=S)NHR、-NHC(=S)NHR、-S(=O)2NHR、-S(=O)2NR2、-P(=O)R2、-P(=O)(OR)2、-P(=O)(NR2)2、-P(=O)(NHR)2、又は-SiR3で表される基(式中、Rはそれぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、非芳香族複素環基、又はヘテロアリール基を示す。);等が挙げられる。
【0021】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状の基が挙げられる。
【0022】
シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチル基等の炭素数3~20、好ましくは炭素数3~10の基が挙げられる。
【0023】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、1,3-ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~10の直鎖状又は分岐鎖状の基が挙げられる。
【0024】
アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~10の直鎖状又は分岐鎖状の基が挙げられる。
【0025】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、フルオレニル基、インデニル基、アセナフチレニル、インダニル基、アセナフテニル基等の単環式又は2~4環の縮合多環式の基が挙げられる。
【0026】
非芳香族複素環基としては、アゼチジニル基、ピロリジニル基、ピロリニル基、ピペリジル基、テトラヒドロピリジル基、ホモピペリジニル基、オクタヒドロアゾシニル基、イミダゾリジニル基、イミダゾリニル基、ピラゾリジニル基、ピラゾリニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、2-ピペラジノニル基等の単環式の含窒素基;テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、ピラニル基等の単環式の含酸素基;モルホリニル基等の単環式の含窒素・酸素基;チオモルホリニル基等の単環式の含窒素・硫黄基;インドリニル基、イソインドリニル基、テトラヒドロキノリニル基、テトラヒドロイソキノリニル基、2,3-ジヒドロベンゾフラニル基、クロマニル基、クロメニル基、イソクロマニル基、1,3-ベンゾジオキソリル基、1,3-ベンゾジオキサニル基、1,4-ベンゾジオキサニル基等の2環式の含酸素基;2,3-ジヒドロベンゾチエニル基等の2環式の含硫黄基;ベンゾモルホリニル基、ジヒドロピラノピリジル基、ジヒドロジオキシノピリジル基、ジヒドロピリドオキサジニル基等の2環式の含窒素・酸素基;2-アザスピロ[3.3]オクチル基、2-オキサスピロ[3.3]オクチル基、6-アザ-2-オキサスピロ[3.3]オクチル基、1-アザスピロ[4.5]デシル基、1-オキサスピロ[4.5]デシル基等のヘテロ環式スピロ環基;などが挙げられる。
【0027】
ヘテロアリール基としては、ピロリル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基等の単環式の含窒素基;フラニル基等の単環式の含酸素基;チエニル等の単環式の含硫黄基;オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基等の単環式の含窒素・酸素基;チアゾリル基、イソチアゾリル基、チアジアゾリル基等の単環式の含窒素・硫黄基;インドリル基、イソインドリル基、ベンズイミダゾリル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、テトラヒドロキノリル基、キノリル基、テトラヒドロイソキノリル基、イソキノリル基、キノリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、ピロロピリジル基、イミダゾピリジル基、ピラゾロピリジル基、ピリドピラジル基、プリニル基、プテリジニル基等の2環式の含窒素基;ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基等の2環式の含酸素基;ベンゾチエニル基等の2環式の含硫黄基;ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基等の2環式の含窒素・酸素基;ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、チアゾロピリジル基等の2環式の含窒素・硫黄基;などが挙げられる。
【0028】
アリールアルキル基としては、ベンジル基、ジフェニルメチル基、トリチル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0029】
アセタール化ホルミル基としては、エチレンアセタール化ホルミル基、プロピレンアセタール化ホルミル基等が挙げられる。
【0030】
R1又はR2で示される1価の有機基は、上記で例示した1種以上の有機基が結合した基であってもよい。また、R1又はR2で示される1価の有機基は、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロキシ基、メルカプト基、シアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、スルホ基、スルファミノ基、スルフィノ基、スルファモイル基、ホスホ基、ホスホノ基、ボロニル基等の1種以上の基で適宜置換されていてもよい。
【0031】
R1又はR2で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0032】
上記式(1)中、nは1~5の整数を示す。nが2以上である場合、n個のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、隣接する炭素原子に結合するR1同士で結合して環構造を形成していてもよい。nは1~3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。nが1である場合、R1はシアノ基であることが好ましい。nが2以上である場合、n個のR1は少なくともシアノ基を含むことが好ましく、少なくともシアノ基及びハロゲン原子を含むことがより好ましい。このとき、ハロゲン原子としてはフッ素原子及び塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0033】
上記式(1)中、mは0~5の整数を示す。mが2以上である場合、m個のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、隣接する炭素原子に結合するR2同士で結合して環構造を形成していてもよい。mは0~2であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。m個のR2は、C1-C4アルコキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種の基を含むことが好ましい。
【0034】
上記式(1)で表される化合物の中でも、下記式(2)で表される化合物が好ましく、下記式(3-1)又は(3-2)で表される化合物がより好ましい。
【0035】
【0036】
【0037】
上記式中、R3はハロゲン原子を示し、R4は1価の有機基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロキシ基、メルカプト基、シアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、スルホ基、スルファミノ基、スルフィノ基、スルファモイル基、ホスホ基、ホスホノ基、又はボロニル基を示す。ハロゲン原子及び1価の有機基としては、R1及びR2について例示した基が挙げられる。
【0038】
上記式中、pは0~3の整数を示す。pが2以上である場合、p個のR4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、隣接する炭素原子に結合するR4同士で結合して環構造を形成していてもよい。pは0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0039】
上記式中、R2及びmは上記式(1)と同義である。mが1である場合、R2の置換位置は特に制限されないが、エーテル結合の酸素原子が結合している炭素原子を1位としたときに4位であることが好ましい。
【0040】
上記式(1)で表される化合物が酸性官能基又は塩基性官能基を有する場合、当該化合物は、農芸化学的に許容可能な塩の形態であってもよい。例えば、上記式(1)で表される化合物が酸性官能基を有する場合、当該化合物は、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩などの形態であってもよい。また、上記式(1)で表される化合物が塩基性官能基を有する場合、当該化合物は、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩の形態であってもよく、酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸との塩の形態であってもよい。
【0041】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば以下の化合物が挙げられる。ただし、上記式(1)で表される化合物がこれらの具体例に限定されるものではない。
【0042】
【0043】
上記式(1)で表される化合物又はその塩は、それ自体はジャスモン酸様作用を有しないものの、植物におけるジャスモン酸の内生を促進する作用を有する。
【0044】
ジャスモン酸は、植物の抵抗性誘導作用を有することが知られている。したがって、本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤は、植物の抵抗性誘導剤と言い換えることもできる。抵抗性誘導作用としては、病原菌感染耐性の強化、食虫害耐性の強化等が挙げられる。
【0045】
また、ジャスモン酸は、植物の成長調節作用を有することも知られている。したがって、本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤は、植物の成長調節剤と言い換えることもできる。成長調節作用としては、例えば、発根促進、発芽促進、着花促進、開花促進、生育促進、結実率向上、果実肥大、熟期促進、着色向上、糖度向上、果実落下防止等が挙げられる。
【0046】
なお、植物におけるジャスモン酸の内生が促進されたか否かは、ジャスモン酸の生成量を直接測定するほか、ジャスモン酸シグナルに応答する遺伝子(ジャスモン酸応答性遺伝子)の発現量を測定することによっても確認することができる。ジャスモン酸応答性遺伝子としては、PDF1.2遺伝子、PR-4遺伝子、PR-1b遺伝子、VSP2遺伝子等が挙げられる。
【0047】
本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤は、上記式(1)で表される化合物又はその塩に加えて、農芸化学的に許容可能な担体(固体担体、液体担体、又はガス担体)、界面活性剤、安定化剤、その他の製剤用補助剤等の他の成分を含有していてもよい。
【0048】
固体担体としては、カオリナイト、アタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、セリサイト、タルク、酸性白土、珪藻土等の鉱物;トウモロコシ穂軸粉、クルミ殻粉、小麦粉、大豆粉、木粉等の植物性有機物;クマロン樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂、ポリ塩化ビニル、ケトン樹脂等の合成高分子化合物;などが挙げられる。
【0049】
液体担体としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸アミル、エチレングリコールアセテート等のエステル類;ベンゼン、トルエン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、ケロシン、ホワイトオイル等の脂肪族炭化水素類;ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;大豆油、綿実油等の植物油類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の酸アミド類;アセトニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;などが挙げられる。
【0050】
ガス担体としては、LPG(液化石油ガス)、空気、窒素ガス、炭酸ガス、ジメチルエーテル等が挙げられる。
【0051】
界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、多価アルコールエステル類、リグニンスルホン酸塩類等が挙げられる。
【0052】
安定化剤としては、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、TCP(リン酸トリクレジル)等が挙げられる。
【0053】
製剤用補助剤としては、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ポリエチレングリコール、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0054】
本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤は、上記のほかに、植物ホルモン剤、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、肥料等をさらに含有していてもよい。
【0055】
本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤の剤形は特に制限されない。ジャスモン酸内生促進剤の剤形としては、粉剤、粒剤、粉粒剤、水和剤、錠剤、水溶剤、乳剤、懸濁剤、液剤、油剤、ペースト剤、エアゾール剤等が挙げられる。
【0056】
本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤は、希釈せずにそのまま用いてもよく、必要に応じて希釈して用いてもよい。
【0057】
<ジャスモン酸内生促進方法>
本実施形態に係るジャスモン酸内生促進方法は、上述した本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤を植物に接触させることを含む。本実施形態に係るジャスモン酸内生促進剤を植物に接触させることにより、植物におけるジャスモン酸の内生を促進することができる。
【0058】
上述したとおり、ジャスモン酸は、植物の抵抗性誘導作用や成長調節作用を有することが知られている。したがって、本実施形態に係るジャスモン酸内生促進方法は、植物の抵抗性誘導方法や植物の成長調節方法と言い換えることもできる。
【0059】
対象植物としては、例えば、穀類(稲、小麦等)、豆類(大豆、小豆等)、芋類(馬鈴薯、サツマイモ等)、果実類(リンゴ、ブドウ等)、葉菜類(キャベツ、ホウレンソウ等)、果菜類(トマト、ナス等)、根菜類(大根、ニンジン等)、花卉類(キク、バラ等)、特用作物(綿、麻等)などが挙げられる。
【0060】
植物への施用部位は特に制限されず、植物の種類、施用目的等に応じて適宜選択することができる。施用部位としては、例えば、種子、花芽、花(花房)、果実(果房)、茎葉、根等が挙げられる。
【0061】
植物への施用方法も特に制限されず、植物の種類、ジャスモン酸内生促進剤の剤形、施用目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、種子の浸漬又はコーティング;茎葉への噴霧又は散布;土壌への灌注又は散布;水耕液への添加;などが挙げられる。植物への施用は、一回だけ行ってもよく複数回行ってもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0063】
なお、以下の試験例1、2では、上記式(1)で表される化合物として、下記式で表される化合物E1、E2(いずれもMaybridge社)、及び化合物E3(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた。また、比較用の化合物として、下記式で表される比較化合物C1(東京化成工業株式会社)及び比較化合物C2(Sigma-Aldrich社)を用いた。
【0064】
【0065】
また、以下の試験例3~5では、上記式(1)で表される化合物として、合成例1~4で合成した化合物E1、E4~E6を用いた。
【0066】
【0067】
ナス型フラスコに、2,6-ジフルオロベンゾニトリル(995mg,7.16mmol)、4-メトキシフェノール(871mg,7.02mmol)、及び炭酸カリウム(1.401g,10.1mmol)を入れ、アルゴン封入をした。その後、ジメチルアセトアミド中、150℃で16時間撹拌を行った。反応溶液に酢酸エチルを加えて希釈し、水を加えて反応を終了させた。その後、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水とで1回ずつ洗浄した後、水で2回洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)により精製し、化合物E1(1.43g,84%)を得た。
1H NMR(CDCl3,400MHz) δ 7.46-7.40(m,1H),7.32(t,J=8.1Hz,1H),6.88(t,J=8.1Hz,1H),6.80(dd,J=8.1,2.4Hz,1H),6.69(t,J=8.1Hz,1H),6.66(t,J=8.1Hz,1H),3.81(s,3H).
【0068】
【0069】
ナス型フラスコに、2-クロロ-6-フルオロベンゾニトリル(100.4mg,0.6454mmol)、4-メトキシフェノール(79.9mg,0.644mmol)、及び炭酸カリウム(118g,0.853mmol)を入れ、アルゴン封入をした。その後、ジメチルアセトアミド中、150℃で16時間撹拌を行った。反応溶液に酢酸エチルを加えて希釈し、水を加えて反応を終了させた。その後、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水とで1回ずつ洗浄した後、水で2回洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)により精製し、化合物E4(165mg,99%)を得た。
1H NMR(CDCl3,400MHz) δ 7.37(t,J=8.4Hz,1H),7.13(d,J=8.4Hz,1H),7.02(d,J=8.6Hz,2H),6.92(d,J=8.6Hz,2H),6.66(d,J=8.4Hz,1H),3.82(s,3H).
【0070】
【0071】
ナス型フラスコに、2-ブロモ-6-フルオロベンゾニトリル(102mg,0.510mmol)、4-メトキシフェノール(63.4mg,0.511mmol)、及び炭酸カリウム(95.6mg,0.692mmol)を入れ、アルゴン封入をした。その後、ジメチルアセトアミド中、150℃で16時間撹拌を行った。反応溶液に酢酸エチルを加えて希釈し、水を加えて反応を終了させた。その後、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水とで1回ずつ洗浄した後、水で2回洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物を3回のカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1;2回、トルエン/ヘキサン/1/2;1回)により精製し、化合物E5(134mg)を得た。
1H NMR(CDCl3,400MHz) δ 7.31-7.28(m,2H),7.03(dd,J=6.5,2.3Hz,2H),6.93(dd,J=8.6Hz,2H),6.70(dd,J=8.6Hz,1H),6.69(t,J=8.1Hz,1H),3.82(s,3H).
【0072】
【0073】
ナス型フラスコに、2,6-ジフルオロベンゾニトリル(130mg,0.934mmol)、4-イソプロポキシフェノール(66.8mg,0.439mmol)、及び炭酸カリウム(163mg,1.182mmol)を入れ、アルゴン封入をした。その後、ジメチルアセトアミド中、90℃で16時間撹拌を行った。反応溶液に酢酸エチルを加えて希釈し、水を加えて反応を終了させた。その後、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水とで1回ずつ洗浄した後、水で2回洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物を2回のカラムクロマトグラフィー(トルエン/酢酸エチル=10/1;1回、ヘキサン/酢酸エチル=10/1;1回)により精製し、化合物E6(104mg,88%)を得た。
1H NMR(CDCl3,400MHz) δ 7.43-7.38(m,1H),7.02(d,J=8.6Hz,2H),6.92(d,J=8.6Hz,2H),6.84(t,J=8.4Hz,1H),6.56(d,J=8.4Hz,1H),4.49(quin,J=6.0Hz,1H),1.35(d,J=6.0,6H).
【0074】
【0075】
ナス型フラスコに、2,6-ジフルオロベンゾニトリル(101mg,0.727mmol)、4-エトキシフェノール(100mg,0.727mmol)、及び炭酸カリウム(175.7mg,1.2713mmol)を入れ、アルゴン封入をした。その後、ジメチルアセトアミド中、150℃で16時間撹拌を行った。反応溶液に酢酸エチルを加えて希釈し、水を加えて反応を終了させた。その後、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水とで1回ずつ洗浄した後、水で2回洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)により精製し、化合物E7(63.3mg,34%)を得た。
1H NMR(CDCl3,400MHz) δ 7.40-7.36(m,1H),7.03(d,J=8.6Hz,2H),6.92(d,J=8.6Hz,2H),6.84(t,J=8.4Hz,1H),6.53(d,J=8.4Hz,1H),4.04(q,J=7.0Hz,2H),1.44(t,J=7.0,3H).
【0076】
【0077】
ナス型フラスコに、2,6-ジフルオロベンゾニトリル(98.3mg,0.707mmol)、3-メトキシフェノール(44.6mg,0.359mmol)、及び炭酸カリウム(131mg,0.946mmol)を入れ、アルゴン封入をした。その後、ジメチルアセトアミド中、90℃で16時間撹拌を行った。反応溶液に酢酸エチルを加えて希釈し、水を加えて反応を終了させた。その後、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水とで1回ずつ洗浄した後、水で2回洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)により精製し、化合物E8(95.9mg,100%)を得た。
1H NMR(CDCl3,400MHz) δ 7.47-7.41(m,1H),7.32(t,J=8.4Hz,1H),6.88(t,J=8.4Hz,1H),6.80(ddd,J=0.8,2.4,8.4Hz,1H),6.69-6.65(m,3H),3.81(s,3H).
【0078】
【0079】
ナス型フラスコに、2-フルオロベンゾニトリル(100mg,0.826mmol)、4-メトキシフェノール(102.2mg,0.824mmol)、及び炭酸カリウム(151mg,1.09mmol)を入れ、アルゴン封入をした。その後、ジメチルアセトアミド中、100℃で16時間撹拌を行った。反応溶液に酢酸エチルを加えて希釈し、水を加えて反応を終了させた。その後、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水とで1回ずつ洗浄した後、水で2回洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物を2回のカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1;1回、ヘキサン/酢酸エチル=20/1;1回)により精製し、化合物E9(154mg,83%)を得た。
1H NMR(CDCl3,400MHz) δ 7.62(dd,J=7.7,1.6Hz,1H),7.46-7.41(m,1H),7.10-7.01(m,3H),6.97-6.90(m,2H),6.77(d,J=8.6Hz,1H),3.82(s,3H).
【0080】
【0081】
ナス型フラスコに、2-フルオロベンゾニトリル(103mg,0.853mmol)、フェノール(80.3mg,0.853mmol)、及び炭酸カリウム(158mg,1.14mmol)を入れ、アルゴン封入をした。その後、ジメチルアセトアミド中、100℃で16時間撹拌を行った。反応溶液に酢酸エチルを加えて希釈し、水を加えて反応を終了させた。その後、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水とで1回ずつ洗浄した後、水で2回洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物を2回のカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=20/1)により精製し、化合物E10(148mg)を得た。
1H NMR(CDCl3,400MHz) δ 7.65(dd,J=7.7,1.6Hz,1H),7.49-7.46(m,1H),7.45-7.38(m,2H),7.26-7.20(m,1H),7.15-7.07(m,3H),6.85(dd,J=8.5,0.6Hz,1H).
【0082】
<試験例1:ジャスモン酸内生量の測定>
(サンプル調製)
透明な96穴プレートにシロイヌナズナ(Col-0)の種子をまき、1/2MS培地(150μL)に浸した。冷暗所で2~3日間静置した後、長日処理条件下に9~10日間静置して生育した。その後、化合物E1、E2、E3、比較化合物C1、C2の各化合物(50μM)を含有する1/2MS培地(100μL)に置換し、10分間減圧処理をして、明所に24時間静置した。この植物体20~60mg程度(約3個体)と粉砕用ビーズ2個とをチューブに入れ、直ちに液体窒素で凍結させて-80℃で保存した。なお、ネガティブコントロールとしては、化合物E1、E2、E3、比較化合物C1、C2の各化合物の代わりにDMSOを添加した。
【0083】
(ジャスモン酸の抽出及び測定)
凍結したサンプルを、ビーズ式ホモジナイザー(Bead Smash 12;ワケンビーテック株式会社)を用いて3000rpm、60秒間の条件で破砕した後、70%メタノール+1%酢酸の水溶液1mLとd2-JA(内部標準物質)10ngとを添加して、ボルテックスによりよく混合した。この液を10000rpm、5分間の条件で遠心分離して、上清を回収した。内部標準物質は加えずに同じ工程をさらに2回繰り返し、合計で3mLの抽出液を回収した。
【0084】
次いで、Sep-Pak(登録商標) Vac 3cc(500mg) C18 Cartridge(Waters社)に下記1.~6.の順で溶液をアプライした。
1.アセトニトリル(1カラム分、約3mL)
2.100%メタノール(1カラム分)
3.蒸留水(1カラム分)
4.70%メタノール+1%酢酸の水溶液(2カラム分)
5.サンプル上清(全量)
6.70%メタノール+1%酢酸の水溶液(1カラム分)
そして、上記5.のアプライ直後から上記6.の流出完了までの溶液を回収(約6mL)し、回収液を窒素吹付方式により容量が30%以下になるまで濃縮した。
【0085】
次いで、Oasis(登録商標) MAX 3cc(60mg) Extraction Cartridge(Waters社)に下記1.~11.の順で溶液をアプライした。
1.アセトニトリル(1カラム分、約3mL)
2.100%メタノール(1カラム分)
3.1%酢酸水溶液(1カラム分)
4.濃縮サンプル(1カラム分)
5.50mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)(1カラム分)
6.蒸留水(1カラム分)
7.100%メタノール(1カラム分)
8.蒸留水(1カラム分)
9.1%酢酸水溶液(1カラム分)
10.30%メタノール+1%酢酸の水溶液(1カラム分)
11.70%メタノール+1%酢酸の水溶液(2カラム分)
そして、上記11.のアプライ直後から流出完了までの溶液を回収(約6mL)し、回収液を窒素吹付方式により容量が1mL以下になるまで濃縮し、測定サンプルとした。測定サンプルは、液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC-MS/MS)の測定用チューブに分注した後、測定まで-80℃で保存した。
【0086】
次いで、LC-MS/MSによりジャスモン酸(JA)の内生量を測定した。測定条件は以下のとおりである。また、検出条件を下記表1に示す。
移動層:アセトニトリル/水(0.1%酢酸を含む)=3/7
流速:0.2mL/min
保持時間:10.9~11.1min
インジェクション量:10μL
カラム:C8/2mm×100mm
【0087】
【0088】
化合物E1、E2、E3、比較化合物C1、C2の各化合物を接触させたシロイヌナズナにおけるジャスモン酸内生量を
図1に示す。
図1から分かるように、化合物E1、E2、E3をシロイヌナズナに接触させた場合には、ジャスモン酸の内生量が有意に増加した(
*p<0.05;
**p<0.01)。
【0089】
<試験例2:PDF1.2遺伝子の発現量の測定(1)>
(サンプル調製)
透明な96穴プレートにシロイヌナズナ(Col-0)の種子をまき、1/2MS培地(150μL)に浸した。冷暗所で2~3日間静置した後、長日処理条件下に9~10日間静置して生育した。その後、化合物E1(25μM)又は化合物E2(50μM)を含有する1/2MS培地(100μL)に置換し、10分間減圧処理をして、明所に24時間静置した。この植物体20~60mg程度(約3個体)と粉砕用ビーズ2個とをチューブに入れ、直ちに液体窒素で凍結させて-80℃で保存した。なお、ネガティブコントロールとしては、化合物E1、E2の各化合物の代わりにDMSOを添加した。
【0090】
(RNA抽出及び逆転写反応)
凍結したサンプルを、ビーズ式ホモジナイザー(Bead Smash 12;ワケンビーテック株式会社)を用いて3000rpm、60秒間の条件で破砕した後、NucleoSpin RNA Plus(タカラバイオ株式会社)を用いてRNA抽出を行った。
【0091】
次いで、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡株式会社)を用いて逆転写反応を行った。得られたtotal RNAの濃度測定を行い、total RNAをRNAse-free H2Oと混ぜて1/12μg/μL(0.5μgのtotal RNAに対して6μLのH2O)にし、PCRチューブに入れて、65℃で5分間インキュベートした後、氷上で急冷した。そこに4×DN Master Mix(2μL)を加え、タッピングした後、遠心分離し、37℃で5分間インキュベートした。インキュベート後、5×RT Master Mix II(2μL)を添加し、37℃で15分間、50℃で5分間、98℃で5分間の順でインキュベートし、得られたサンプルをcDNAサンプルとした。
【0092】
(リアルタイムPCR)
cDNAサンプルに滅菌水を加えて8~10倍に希釈した。希釈したサンプル(1μL)、蒸留水(3.4μL)、各種プライマー(10μM)(フォワードプライマー及びリバースプライマーのそれぞれについて0.3μL)、及びTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡株式会社)(5μL)を混合し、リアルタイムPCR用の96穴プレートの1ウェルに分注した。
【0093】
次いで、CFX Connect Real-Time PCR Detection System(Bio-Rad社)を用いてPDF1.2遺伝子の発現量を定量した。PCR条件は、[95℃、60秒間]×1サイクル、[95℃、15秒間→60℃、60秒間]×40サイクル、[95℃、15sec→60℃、30秒間→95℃、15秒間]×1サイクルとした。定量化にはΔΔCt法を用い、この値を相対的発現量とした。ΔΔCt法の参照遺伝子としてはEF1-α遺伝子を使用した。リアルタイムPCRに使用したプライマーの配列を下記表2に示す。
【0094】
【0095】
化合物E1、E2の各化合物を接触させたシロイヌナズナにおけるPDF1.2遺伝子の発現量を
図2A及び
図2Bに示す。
図2A及び
図2Bから分かるように、化合物E1、E2をシロイヌナズナに接触させた場合には、PDF1.2遺伝子の発現が顕著に亢進した。
【0096】
<試験例3:PDF1.2遺伝子の発現量の測定(2)>
透明な96穴プレートにシロイヌナズナ(Col-0)の種子をまき、1/2MS培地(150μL)に浸した。冷暗所で2~3日間静置した後、長日処理条件下に10日間静置して生育した。その後、化合物E1(50μM)、化合物E4(50μM)、又は化合物E5(50μM)を含有する1/2MS培地(100μL)に置換し、10分間減圧処理をして、明所に48時間静置した。8個体の植物体と粉砕用ビーズ2個とをチューブに入れ、直ちに液体窒素で凍結させて-80℃で保存した。なお、ネガティブコントロールとしては、化合物E1、E4、E5の各化合物の代わりにDMSOを添加した。そして、試験例2と同様に、凍結したサンプルからRNAを抽出し、逆転写リアルタイムPCRによりPDF1.2遺伝子の発現量を定量した。
【0097】
化合物E1、E4、E5の各化合物を接触させたシロイヌナズナにおけるPDF1.2遺伝子の発現量を
図3に示す。
図3から分かるように、化合物E1、E4、E5をシロイヌナズナに接触させた場合には、PDF1.2遺伝子の発現が顕著に亢進した。
【0098】
<試験例4:PDF1.2遺伝子の発現量の測定(3)>
透明な96穴プレートにシロイヌナズナ(Col-0)の種子をまき、1/2MS培地(150μL)に浸した。冷暗所で3~7日間静置した後、長日処理条件下に10日間静置して生育した。その後、化合物E1(50μM)又は化合物E6(50μM)を含有する1/2MS培地(100μL)に置換し、10分間減圧処理をして、明所に48時間静置した。8個体の植物体と粉砕用ビーズ2個とをチューブに入れ、直ちに液体窒素で凍結させて-80℃で保存した。なお、ネガティブコントロールとしては、化合物E1、E6の各化合物の代わりにDMSOを添加した。そして、試験例2と同様に、凍結したサンプルからRNAを抽出し、逆転写リアルタイムPCRによりPDF1.2遺伝子の発現量を定量した。
【0099】
化合物E1、E6の各化合物を接触させたシロイヌナズナにおけるPDF1.2遺伝子の発現量を
図4に示す。
図4から分かるように、化合物E1、E6をシロイヌナズナに接触させた場合には、PDF1.2遺伝子の発現が顕著に亢進した。
【0100】
<試験例5:化合物E1の細胞毒性の確認>
ヒト胎児肺由来の正常線維芽細胞MRC-5を96穴プレートに5000個/ウェルの細胞密度で播種し、37℃、5% CO2の条件下で1日間培養した。培養後、培地に各種濃度となるように化合物E1を添加し、さらに2日間培養した。その後、WST-8法により生細胞数を測定し、MRC-5細胞の生存率を算出した。なお、コントロールとしては、化合物E1の代わりに、抗癌剤イリノテカンの活性代謝物であるSN-38を添加した。
【0101】
MRC-5細胞の生存率を
図5に示す。
図5に示すとおり、50μMの化合物E1を添加した場合であってもMRC-5細胞の生存率は60%を超えており、細胞毒性は低かった。
【配列表】