IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 雪印メグミルク株式会社の特許一覧

特許7325165油脂組成物及び該油脂組成物を含有する可塑性油脂組成物
<>
  • 特許-油脂組成物及び該油脂組成物を含有する可塑性油脂組成物 図1
  • 特許-油脂組成物及び該油脂組成物を含有する可塑性油脂組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】油脂組成物及び該油脂組成物を含有する可塑性油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
A23D7/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2016234630
(22)【出願日】2016-12-02
(65)【公開番号】P2018088863
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2019-11-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 詩織
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 真理子
(72)【発明者】
【氏名】石川 和男
(72)【発明者】
【氏名】塩田 誠
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】加藤 友也
【審判官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-161294(JP,A)
【文献】特開2007-282606(JP,A)
【文献】特開平9-241672(JP,A)
【文献】特開平9-241673(JP,A)
【文献】特開2007-177100(JP,A)
【文献】特開平4-234947(JP,A)
【文献】特開2011-55752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ベヘン酸残基を1つ以上含有するトリグリセリドと、さらに
(b)パルミチン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステル及び(c)ステアリン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステルの少なくとも一方と、を含み、
油脂組成物の全質量基準で、前記(a)成分の含有量が6.5質量%以上、前記(b)成分を含む場合の前記(b)成分の含有量が0.03質量%以上、前記(c)成分を含む場合の前記(c)成分の含有量が0.03質量%以上であることを特徴とする油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の油脂組成物を含むことを特徴とする可塑性油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルオフ低減作用を有する油脂組成物及びそれを含む可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パンに塗る、料理に使用する、等の用途で用いられる可塑性油脂組成物は通常冷蔵で保存されるが、購入時に店舗から持ち帰る際や、家庭での利用の際には、可塑性油脂組成物の原料として用いられる一部の油脂の融点よりも高い温度の雰囲気下に一定時間晒される。
【0003】
このような場合に固体状の可塑性油脂組成物の表面に目視可能な液状物が発生する現象であるオイルオフが生じることがある。このため、可塑性油脂組成物は、可塑性油脂組成物の原料として用いられる一部の油脂の融点よりも高い温度の雰囲気下においても、オイルオフが生じないことが品質上要求される。
【0004】
従来、可塑性油脂組成物には、動物性、又は植物性の油脂を水素添加処理して得られる部分水素添加油脂が利用されてきた。部分水素添加油脂は、油脂の不飽和脂肪酸残基の炭素間の二重結合に水素を付加することにより、二重結合を減らし、飽和脂肪酸残基の割合を高めることによって融点を上昇させた固体又は半固体状の油脂である。
【0005】
部分水素添加油脂の製造工程中で不飽和脂肪酸残基にトランス異性体(以下、トランス脂肪酸)が生成する。アメリカ食品医薬品局が「不飽和脂肪酸であって、トランス配位である非共役二重結合を1つ以上持つ物質」と定義しているトランス脂肪酸を脂肪酸残基として有する油脂は、一般にシス配位体を脂肪酸残基として有する油脂よりも融点が高く、β’型の結晶多形を維持することが知られている。
不飽和脂肪酸残基と上記した特性を持つトランス脂肪酸残基を含む部分水素添加油脂は、水素添加の程度により融点を自由に調節でき、また、高温や常温下における部分的な液状化の低減ができるため、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等に広く使用されている。
【0006】
一方で、近年、トランス脂肪酸残基を含む油脂の摂取による健康被害が懸念されている。トランス脂肪酸残基を含む油脂の過剰摂取は、心筋梗塞などの冠動脈心疾患の危険因子となることから、多くの国がトランス脂肪酸の表示規制とトランス脂肪酸残基を多く含む部分水素添加油脂の使用規制を設けている。
アメリカにおいては、アメリカ食品医薬品局が部分水素添加油脂を、一般に安全と認められる指標であるGRAS(Generally Recognized As Safe)対象から除外することを決定している(2015年6月)。
また、油脂中の飽和脂肪酸残基も、その過剰摂取により冠動脈心疾患のリスクを高めることが指摘されている。
【0007】
このように、部分水素添加油脂は可塑性油脂組成物に所望の物性を付与できる一方、健康被害への関与が指摘されていることから、部分水素添加油脂の代替原料を用いて、油脂中のトランス脂肪酸残基、あるいはトランス脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基を低減しつつ、可塑性油脂組成物に所望の物性を付与する取り組みがなされている。
【0008】
特許文献1には、高融点油脂の使用量を調整し、さらにポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するトランス脂肪酸を低減したマーガリン及びショートニングが開示されている。
特許文献2には、油脂原料としてトランス脂肪酸残基を実質的に有さない油脂のみを用い、ジエステル体を50質量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルを添加した可塑性油脂組成物が開示されている。
特許文献3には、異なる融点の油脂原料を用い、液状の高融点油脂原料に冷却した液状の低融点油脂原料を混合することで得られるトランス脂肪酸残基を含まない可塑性油脂組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-125358号公報
【文献】特開2007-89527号公報
【文献】特開2010-106170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1と2では、油脂中のトランス脂肪酸残基は低減されているが、飽和脂肪酸残基については考慮されていない。例えば、特許文献2のジエステル体を50質量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルを添加した可塑性油脂組成物は、使用する油脂の飽和脂肪酸含量が低い場合は常温保存下でオイルオフが発生する。
特許文献3ではトランス脂肪酸残基も飽和脂肪酸残基も低減化されているが、飽和脂肪酸残基はなお一定量含まれており、さらなる低減化の余地がある。
上記したように、トランス脂肪酸残基、及び飽和脂肪酸残基をともに低減した場合であってもオイルオフを生じない可塑性油脂組成物とその簡便な製造方法は開示されていなかった。
【0011】
以上より、可塑性油脂組成物の原材料として使用する油脂の飽和脂肪酸及びトランス脂肪酸の含有量を低減した場合であっても、可塑性油脂組成物のオイルオフの低減が可能な組成物、及びこの組成物を含む可塑性油脂組成物、並びにその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の内容に関する。
[1](a)ベヘン酸残基を1つ以上含有するトリグリセリドと、さらに(b)パルミチン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステル及び(c)ステアリン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステルの少なくとも一方と、を含み、油脂組成物の全質量基準で、(a)成分の含有量が0.1質量%以上、(b)成分を含む場合の(b)成分の含有量が0.03質量%以上、(c)成分を含む場合の(c)成分の含有量が0.03質量%以上である油脂組成物。
[2]油脂組成物は、オイルオフ値が2cm以下であり、かつ、ヒートショック耐性が0.5cm以上である[1]に記載の油脂組成物。
[3][1]又は[2]に記載の油脂組成物を含む可塑性油脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、可塑性油脂組成物の原材料として使用する油脂の飽和脂肪酸及びトランス脂肪酸の含有量を低減した場合であっても、可塑性油脂組成物のオイルオフを低減する油脂組成物、及び該油脂組成物を含む可塑性油脂組成物、並びに可塑性油脂組成物の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は最大荷重の測定結果を示す図である。
図2図2は固体脂含量(SFC)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、オイルオフ低減作用を有する油脂組成物とその油脂組成物を含む可塑性油脂組成物に関する。以下それらについて詳細に説明する。
(オイルオフ低減作用を有する油脂組成物)
上述の課題を解決するべく、可塑性油脂組成物中のトランス脂肪酸残基及び飽和脂肪酸残基をともに低減した場合にオイルオフが生じていた原因について、本発明者等が研究した結果、その理由は以下が一因と考えられた。すなわち、トランス脂肪酸残基、飽和脂肪酸残基が少ない油脂は、融点の低い不飽和脂肪酸残基を多く含む油脂の占める割合が高くなる。このような構成の油脂を原料とする可塑性油脂組成物は、製造時の冷却工程で飽和脂肪酸残基、トランス脂肪酸残基を含む油脂が優先的に結晶化され、不飽和脂肪酸残基の多い油脂が飽和脂肪酸残基、トランス脂肪酸残基を含む油脂に全て抱き込まれない状態で固化する。さらに、可塑性油脂組成物の冷却保存中に飽和脂肪酸残基、トランス脂肪酸残基を含む油脂の収斂が生じる。このような可塑性油脂組成物が、不飽和脂肪酸残基が多い油脂の融点よりも高い温度の雰囲気下に晒されると、抱き込まれなかった不飽和脂肪酸残基の多い油脂が液状化し、分離することでオイルオフが生じると考えられる。
【0016】
上記知見に基づいて更なる研究を続けた結果、本発明者等は油脂組成物の成分を特定することで、オイルオフ低減作用を有する油脂組成物が得られることを見出した。
オイルオフ低減作用を有する油脂組成物は、(a)ベヘン酸残基を1つ以上含有するトリグリセリドと、さらに(b)パルミチン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステル及び(c)ステアリン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステルの少なくとも一方を含む。
即ち、上述の油脂組成物には、(i)(a)、(b)を含むもの、(ii)(a)、(c)を含むもの、(iii)(a)、(b)、(c)を含むもの、の三態様が含まれる。
【0017】
オイルオフ低減作用を有する組成物は、上記以外に、任意成分として、不飽和蒸留モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質等の乳化剤、ソルビタン脂肪酸エステル等の結晶調整剤、ビタミンE、ビタミンC誘導体、茶抽出物等の抗酸化剤、カロテン、カラメル、紅麹色素等の着色料、及び香料等を配合することができる。
【0018】
オイルオフ低減作用を有する油脂組成物中における(a)の含量は、オイルオフ低減作用を有する油脂組成物の全質量基準で0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上50質量%以下がさらに好ましい。
オイルオフ低減作用を有する油脂組成物中における(b)の含量は、オイルオフ低減作用を有する油脂組成物の全質量基準で0.03質量%以上が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
オイルオフ低減作用を有する油脂組成物中における(c)の含量は、オイルオフ低減作用を有する油脂組成物の全質量基準で0.03質量%以上が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0019】
本発明のオイルオフ低減作用を有する油脂組成物は、上記したオイルオフ低減作用を有する組成物を構成する成分が全て粉末、あるいは顆粒状のものであれば固体のまま混合したものをそのまま用いることができる。液状のものを含む場合は、混合しペースト状としたものを用いることができる。
【0020】
オイルオフ低減作用を有する油脂組成物は、加温した油脂原料に、上述した成分を添加し攪拌するだけでよいため、特別な設備を要することなく、一般的な可塑性油脂組成物の製造設備で用いることができる。
【0021】
可塑性油脂組成物に対するオイルオフ低減作用を有する油脂組成物の添加量は、可塑性油脂組成物の全質量基準で、(a)が0.01質量%以上50質量%以下となるように適宜調整すればよく、(b)を用いる場合は、(b)が0.003質量%以上10質量%以下、(c)を用いる場合には(c)が0.003質量%以上10質量%以下となるように適宜調整すればよい。
【0022】
(可塑性油脂組成物)
可塑性組成物の原材料について説明する。
可塑性油脂組成物に用いる油脂は、得られる可塑性油脂組成物においてトランス脂肪酸と飽和脂肪酸が低減されるものであればどのようなものでもよい。この場合、トランス脂肪酸ではその含有量が可塑性油脂組成物100g中7g以下となるものが好ましく、3.5g以下となるものがさらに好ましい。飽和脂肪酸では可塑性油脂組成物の油脂の構成脂肪酸残基に占める飽和脂肪酸残基の割合が30質量%以下となるものが好ましく、15質量%以下となるものがさらに好ましい。
【0023】
油脂の例としては、大豆油、コーン油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、キャノーラ油、米ぬか油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、菜種油、菜種白絞油、菜種極度硬化油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、綿花油、綿実油、落花生油、しそ油、ゴマ油、エゴマ油、ベニバナ油、高オレイン酸ベニバナ油、ぶどう種子油、ピーナッツ油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、かぼちゃ種子油、亜麻仁油、クルミ油、椿油、茶実油、カラシ油、米油、小麦麦芽油、等、あるいはこれらの部分水素添加油、エステル交換油、分別油等を挙げることができ、これらから1種類以上が選択される。選択された油脂は可塑性油脂組成物の全質量基準で、油分が20質量%~85質量%となるように配合すればよく、20質量%~85質量%が好ましく、30質量%~85質量%がさらに好ましく、30質量%~70質量%が最も好ましい。
【0024】
さらに、必要に応じて、トランス脂肪酸含量の増加やオイルオフの発生に関与しないものであれば、可塑性油脂組成物に一般的に使用されている原材料を用いることが出来る。それらは、水、脱脂粉乳、食塩、塩化カリウム、酸味料、甘味料、pH調整剤、香料、色素、ビタミン剤等が例示される。
【0025】
(可塑性油脂組成物の製造方法)
次に可塑性油脂組成物の製造方法について説明する。
(イ)原材料の油脂をその融点以上、例えば40℃~85℃に加温し、ここにオイルオフ低減作用を有する油脂組成物を添加溶解して油相を調製する。必要に応じて、油相にグリセリン脂肪酸エステルやソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤や、βカロテン等の色素、油溶性ビタミンを添加することできる。
【0026】
(ロ)約40℃~60℃の温湯に食塩、脱脂粉乳等の乳製品を添加溶解して水相を調製する。
【0027】
(ハ)油相に水相を撹拌しながら一定速度で添加して乳化物を調製する。この時の油相の攪拌速度と水相の添加速度は可塑性油脂組成物の油分の量に応じて、均一な乳化物ができるよう適宜調整することができる。
【0028】
(ニ)この乳化物に、必要に応じて、香料を添加し、50℃に維持した乳化物をコンビネーター、パーフェクター等の密閉型連続式掻き取りチューブ式冷却機により10℃まで急冷捏和して結晶化する。結晶化した乳化物をピンマシン等で混練することにより可塑性油脂組成物が得られる。可塑性油脂組成物としてはマーガリン、スプレッド等が例示できる。
なお、(イ)、(ロ)工程については経時的制限はなく、どちらの工程を先に行ってもよく、また両工程を同時に行なってもよい。
【0029】
本明細書における本発明の評価基準を以下にまとめて記載する。
(オイルオフ評価試験)
試料を直径3cmのガラスリングに詰め、10分間氷冷後、5℃で72時間保存し、この試料に1cm×5cmのろ紙を1cm刺し、23℃で1時間静置した。
オイルオフは1時間静置後に、ろ紙に染み込んだ液状油の高さを計測することで評価した(n=2)。オイルオフが2.0cm以下の場合は「良好:○」、2.1cm以上の場合は「悪化:×」とした。
(ヒートショック耐性試験)
試料を10℃で2週間静置させた試料を直径2cm、高さ1cmのガラスリングで打ち抜いてシャーレに載せ、これを30℃で1時間保持した時の試料の高さを測定した。
試料の高さが0.5cm以上の場合はヒートショック耐性が「良好:○」、0.5cm未満の場合は「悪化:×」とした。
(最大荷重測定試験)
試料を直径3cm、高さ1cmのガラスリングに詰め、10分間氷冷後、5℃で静置保存し、72時間保存後にテクスチャーアナライザーを用いて最大荷重(g)を測定した(n=2)。
(固体脂含量(SFC)測定試験)
試料をSFC測定用ガラスチューブに高さ1cmになるように入れ、10℃でのSFC(%)を測定した(n=3)。
【0030】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0031】
表1に示す、油脂原料とオイルオフ抑制作用を有する組成物とを、全質量が100gとなるように混合し、その後50℃で攪拌した後、氷水で冷却することにより、実施例品1から実施例品5の油脂組成物を調製した。油脂原料としては、菜種白絞油、大豆油、コーン油、菜種極度硬化油、油脂Aを用いた。油脂Aは、ベヘン酸残基を1つ以上含むトリグリセリドを0.1%含む油脂とした。
オイルオフ抑制作用を有する組成物としては、(a)ベヘン酸残基を1つ以上含有するトリグリセリド、(b)パルミチン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステル、(c)ステアリン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステルを用いた。表1中、各成分の配合量を油脂組成物の全質量基準における質量比(%)で示す。同様にして比較例品1から比較例品3を調製した。
【0032】
表2から表4に示すとおり、全質量が100gとなるように、油相と水相を調製した。すなわち、油相は、油脂とオイルオフ低減作用を有する組成物とを混合し、50℃で攪拌することにより調製した。水相は、水と食塩とゼラチンとを混合し、50℃で攪拌することにより調製した。
140rpmで攪拌した50℃の油相に、20L/分で50℃の水相を添加することで油相と水相を乳化させ、得られた50℃の乳化物を、密閉型連続式掻き取りチューブ式冷却機にて10℃まで急冷捏和し、さらに10℃に保持したままピンマシンで混練した。
混練した乳化物160gをプラスチック容器に充填することで可塑性油脂組成物である実施例品6から実施例品10と比較例品4から比較例品6(表2)、実施例品11から実施例品13と比較例品7から比較例品9(表3)、実施例品14から実施例品16と比較例品10から比較例品11(表4)を得た。これらは10℃で保存した。
得られた実施例品に係る可塑性油脂組成物のトランス脂肪酸含量は、いずれも0.5g/100g以下であった。また実施例品に係る可塑性油脂組成物の油脂中の構成脂肪酸に占める飽和脂肪酸は、いずれも15質量%未満であった。
【0033】
(試験例1)
<オイルオフ評価試験>
実施例品1から実施例品12及び比較例品1から比較例品11(以下、試料ともいう。)を直径3cmのガラスリングに詰め、10分間氷冷後、5℃で静置保存した。
5℃で72時間保存した試料に1cm×5cmのろ紙を1cm刺し、23℃で1時間静置した。
オイルオフは1時間静置後にろ紙に染み込んだ液状油の高さを計測することで評価した(n=2)。各水準のオイルオフが2.0cm以下の場合は「良好:○」、2.1cm以上の場合は「悪化:×」とした。
【0034】
(試験例2)
<ヒートショック耐性試験>
試料を10℃で2週間静置させた。静置後の試料を直径2cm、高さ1cmのガラスリングで打ち抜いてシャーレに載せ、これを30℃で1時間保持した時の試料の高さを測定した。
試料の高さが0.5cm以上の場合はヒートショック耐性が「良好:○」、0.5cm未満の場合は「悪化:×」とした。
【0035】
表1に示すとおり、実施例品1から実施例品5はオイルオフ、ヒートショック耐性のいずれも良好であった。なお、オイルオフ、ヒートショック耐性とも実施例品1が最もよい成績であった。これに対して比較例品1から比較例品3はオイルオフ、ヒートショック耐性のいずれも良好でなかった。
【0036】
【表1】
【0037】
表2から表4に示すとおり、実施例品6から実施例品16は、油相と水相の比率にかかわらず、オイルオフ、ヒートショック耐性のいずれも良好であった。
これに対して比較例品4から比較例品12はオイルオフ、ヒートショック耐性のいずれも良好でなかった。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
このように、(a)ベヘン酸残基を1つ以上含有するトリグリセリドと、さらに(b)パルミチン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステル及び(c)ステアリン酸結合型モノグリセリド脂肪酸エステルの少なくとも一方を規定量含む場合は、飽和脂肪酸及びトランス脂肪酸の少ない油脂を使用したにも関わらず、オイルオフが低減され、ヒートショック耐性が付与された可塑性油脂組成物の調製が可能となることが明らかとなった。
【0042】
(試験例3)
<最大荷重測定試験>
実施例品1と実施例品6、及び比較例品3と比較例品4を直径3cm、高さ1cmのガラスリングに詰め、10分間氷冷後、5℃で静置保存し、72時間保存後にテクスチャーアナライザーを用いて最大荷重を測定した(n=2)。
【0043】
(試験例4)
<固体脂含量(SFC)測定試験>
実施例品1と実施例品6、及び比較例品3と比較例品4をSFC測定用ガラスチューブに高さ1cmになるように入れ、10℃でのSFCを測定した(n=3)。
【0044】
最大荷重の測定結果を図1に、SFCの測定結果を図2に示す。
実施例品1と6は、比較例品3と4よりも最大荷重値が高かった。また、実施例品1と実施例品6との間では、W/O乳化物である、すなわち可塑性油脂組成物である実施例品6で最大荷重値が増加した。このことは、実施例品6は使用感に優れた硬さを有し、硬さを有することから良好な油脂のネットワークが構築され、このネットワークによりオイルオフ耐性に優れた可塑性油脂組成物となっていることが確認された。
一方、SFCは実施例品で低く、比較例品で高かった。
上記した最大荷重とSFCの結果をあわせて評価すると、比較例品4はSFC(%)に対する最大荷重の測定値(g)の比が約50であるのに対し、実施例品6はSFC(%)に対する最大荷重の測定値(g)の比が約250であった。すなわち、実施例品は低いSFCで最大荷重が高く、比較例品は高いSFCで最大荷重が低くなっており、実施例品6は、より少ない飽和脂肪酸量でより硬さを付与した可塑性油脂組成物であることを示している。
図1
図2