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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20230804BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20230804BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20230804BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/28
C08L83/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019231199
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021098804
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】北沢 啓太
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 亘
(72)【発明者】
【氏名】山口 綾子
(72)【発明者】
【氏名】中西 浩二
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 亮
(72)【発明者】
【氏名】出口 昌孝
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226724(JP,A)
【文献】特開2015-090897(JP,A)
【文献】特開2002-188010(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016566(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173945(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/155948(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)下記(a)成分と(b)成分とからなるシリコーンゲル架橋物:組成物全体に対し0.5~2.5質量%となる量
(a)1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が10,000,000mm2/s以上であるオルガノポリシロキサン、
(b)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するSiH基の個数が1~3となる量、
(B)下記一般式(1)で表される加水分解性オルガノポリシロキサン化合物:組成物全体に対し12.5~19.5質量%となる量
【化1】
(式中、R1は、炭素数1~10の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない1価炭化水素基を表し、それぞれのR1は同一であっても異なっていてもよい。mは5~100の整数である。)、及び
(C)平均粒子径0.5μm以上1.5μm以下、かつレーザー回折型粒度分布で粒子中の10μm以上の粗粉の含有量が全体の1.0体積%以下である窒化アルミニウム粒子:組成物全体に対し80~85質量%となる量
を含有するものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記加水分解性オルガノポリシロキサン化合物が、前記一般式(1)におけるmが10~60の範囲のものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記窒化アルミニウム粒子の酸素量が1.0質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
25℃における絶対粘度が500Pa・s以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIやICチップ等の電子部品は、使用中の発熱及びそれによる性能の低下が広く知られており、これを解決するための手段として様々な放熱技術が用いられている。一般的な放熱技術としては、発熱部の付近に冷却部材を配置し、両者を密接させたうえで冷却部材から効率的に除熱することにより放熱を行う技術が挙げられる。
【0003】
その際、発熱部材と冷却部材との間に隙間があると、熱伝導性の悪い空気が介在することにより熱伝導率が低下し、発熱部材の温度が十分に下がらなくなってしまう。このような空気の介在を防ぎ、熱伝導率を向上させるため、熱伝導率がよく、部材の表面に追随性のある放熱材料、例えば放熱グリースや放熱シートが用いられている(特許文献1~11)。
【0004】
例えば、特許文献9には、特定構造を有するオルガノポリシロキサンと、特定の置換基を有するアルコキシシランと、熱伝導性充填剤とを含有してなる熱伝導性シリコーングリース組成物が開示されており、該組成物は熱伝導性が良好であり、かつ流動性が良好であり作業性に優れることが記載されている。また、特許文献10及び特許文献11には、粘着性と熱伝導性を有するシートが開示され、付加硬化型のシリコーンゴム組成物に、熱伝導性充填剤と脂肪族不飽和炭化水素基を有さないシリコーンレジンを配合した熱伝導性組成物が開示されている。特許文献10及び特許文献11には、薄膜状態で適度な粘着性と良好な熱伝導性を有する熱伝導性硬化物が提供できることが開示されている。
【0005】
実際にLSIやICチップ等の半導体パッケージの熱対策としては、薄く圧縮可能で低熱抵抗を達成できる放熱グリースが、放熱性能の観点から好適である。放熱グリースは所望の厚みに圧縮後に硬化させることができる「硬化型」と、硬化せずにグリース状を保つ「非硬化型」の2つに大別することができる。
【0006】
「硬化型」の放熱グリースは所望の厚みに圧縮後に硬化させることで、発熱部の発熱と冷却を反復する熱履歴による膨張・収縮に起因する放熱グリースの流れ出し(ポンピングアウト)を発生しづらくし、半導体パッケージの信頼性を高めることができるが、実用上不利な特徴も存在する。
【0007】
例えば、半導体パッケージの熱対策として付加硬化型の放熱グリースが過去に多く提案されている(例えば特許文献12)。しかしそれらのほとんどは室温での保存性に乏しく、冷凍もしくは冷蔵保存が必須であるため、製品管理が困難である場合がある。また硬化させる際には一定時間の加熱が必要であるため工程の煩雑化・長期化による生産効率の低下を招いてしまい、更に加熱工程による環境負荷の観点からも好ましいとは言えない。
【0008】
また、縮合硬化型の放熱グリースも「硬化型」のひとつとして挙げられる(例えば特許文献13)。縮合硬化型の放熱グリースは空気中の湿気によって増粘・硬化するため、湿気が遮断されていれば室温での輸送・保存が可能であり、製品管理は比較的容易である。縮合硬化型の放熱グリースは一定量の湿気が存在していれば加熱工程を要さずとも硬化反応を進行させることができるという利点を有するが、硬化反応の際に低沸点の脱離成分が生ずるため、臭気や脱離成分による電子部品の汚染といった点で大きな課題を残している。
【0009】
一方で、「非硬化型」の放熱グリースは一般に室温下で輸送・保存が可能であるなど、取扱いの容易さが特長であるが、先述のポンピングアウトが発生しやすいという課題がある。「非硬化型」の放熱グリースにおいてポンピングアウトを低減するための方策としてはグリースの粘度を高めることが効果的であるが、背反として塗布作業性の低下が課題となる。
【0010】
上述したように、半導体パッケージの信頼性を高めるためには「硬化型」の放熱グリースの使用が好ましいものの、厳密な温度管理や煩雑な硬化プロセスを要する、環境負荷を与えるといった観点で好ましいものとは言い難い。
【0011】
一方「非硬化型」の放熱グリースは取扱いが容易であり環境負荷も小さいもののポンピングアウトが発生しやすく、半導体パッケージの信頼性を担保するためには高粘度化が必要であり、その結果塗布作業性が犠牲になる課題があった。
【0012】
また、薄く圧縮して低熱抵抗を達成するためには、熱伝導性充填剤の粒度分布を精密に制御する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第2938428号公報
【文献】特許第2938429号公報
【文献】特許第3580366号公報
【文献】特許第3952184号公報
【文献】特許第4572243号公報
【文献】特許第4656340号公報
【文献】特許第4913874号公報
【文献】特許第4917380号公報
【文献】特許第4933094号公報
【文献】特開2008-260798号公報
【文献】特開2009-209165号公報
【文献】特開2014-080546号公報
【文献】特許第5365572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明では、熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)下記(a)成分と(b)成分とからなるシリコーンゲル架橋物:組成物全体に対し0.5~2.5質量%となる量
(a)1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が10,000,000mm2/s以上であるオルガノポリシロキサン、
(b)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するSiH基の個数が1~3となる量、
(B)下記一般式(1)で表される加水分解性オルガノポリシロキサン化合物:組成物全体に対し12.5~19.5質量%となる量
【化1】
(式中、R1は、炭素数1~10の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない1価炭化水素基を表し、それぞれのR1は同一であっても異なっていてもよい。mは5~100の整数である。)、及び
(C)平均粒子径0.5μm以上1.5μm以下、かつレーザー回折型粒度分布で粒子中の10μm以上の粗粉の含有量が全体の1.0体積%以下である窒化アルミニウム粒子:組成物全体に対し80~85質量%となる量
を含有する、熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0016】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物であれば、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能である。さらに、薄く圧縮可能で低熱抵抗を達成できるため、実装される電子部品の信頼性を向上することができる。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースであり得る。しかしながら、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、適切な粘度を保つため、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能な「非硬化型」の放熱グリースとなり得る。そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、室温下で輸送及び保存が可能であるため、取り扱いが容易である。
【0017】
この場合、前記加水分解性オルガノポリシロキサン化合物が、前記一般式(1)におけるmが10~60の範囲のものであることが好ましい。このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、より優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性が両立可能である。
【0018】
さらに本発明では、窒化アルミニウム粒子の酸素量が1.0質量%以下であることが好ましい。このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、確実に熱伝導性に優れたものとなる。
【0019】
そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、25℃における絶対粘度が500Pa・s以下であることが好ましい。このような熱伝導性シリコーン組成物は、より優れた塗布作業性を示すことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性が両立可能であり、薄く圧縮可能で低熱抵抗を達成できる。すなわち、本発明によれば、近年の半導体装置の発熱量増加や大型化、構造複雑化に対応可能な熱伝導性シリコーン組成物を提供可能である。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースと出来るが、適切な粘度を保つことで優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能な「非硬化型」の放熱グリースとなる。そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、室温下で輸送及び保存が可能であるため、取り扱いが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述のように、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースでありながらも適切な粘度を保つことで塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる熱伝導性シリコーン組成物の開発が求められていた。
【0022】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、特定の成分からなるシリコーンゲル架橋物と加水分解性オルガノシラン化合物とを特定の割合で配合し、そこに粒度分布が制御された窒化アルミニウム粒子を特定の割合で配合することで、適切な粘度を保つことにより塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる熱伝導性シリコーン組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
即ち、本発明は、熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)下記(a)成分と(b)成分とからなるシリコーンゲル架橋物:組成物全体に対し0.5~2.5質量%となる量
(a)1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が10,000,000mm2/s以上であるオルガノポリシロキサン、
(b)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するSiH基の個数が1~3となる量、
(B)下記一般式(1)で表される加水分解性オルガノポリシロキサン化合物:組成物全体に対し12.5~19.5質量%となる量
【化2】
(式中、R1は、炭素数1~10の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない1価炭化水素基を表し、それぞれのR1は同一であっても異なっていてもよい。mは5~100の整数である。)、及び
(C)平均粒子径0.5μm以上1.5μm以下、かつレーザー回折型粒度分布で粒子中の10μm以上の粗粉の含有量が全体の1.0体積%以下である窒化アルミニウム粒子:組成物全体に対し80~85質量%となる量
を含有する、熱伝導性シリコーン組成物である。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
[熱伝導性シリコーン組成物]
本発明は、熱伝導性充填剤を多量に含有しても適切な粘度を保ち、かつ信頼性が良好である熱伝導性シリコーン組成物に関する。本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、「非硬化型」の放熱グリースとすることが出来る。
【0026】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(A)シリコーンゲル架橋物、(B)加水分解性オルガノポリシロキサン化合物、及び、(C)窒化アルミニウム粒子を含有するものであることを特徴とする。すなわち、上記(A)~(C)成分は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の必須成分であるということができる。
【0027】
以下、上記(A)~(C)成分、及び、その他の任意成分について詳細に説明する。
【0028】
(A)成分
(A)成分はシリコーンゲル架橋物であり、下記(a)成分と(b)成分とのヒドロシリル化反応により得られる。
(a)1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が10,000,000mm2/s以上であるオルガノポリシロキサン、
(b)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するSiH基の個数が1~3となる量。
【0029】
(a)成分は、1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が10,000,000mm2/s以上であるオルガノポリシロキサンである。
その分子構造は特に限定されず、直鎖状構造、分岐鎖状構造、及び一部に分岐状構造又は環状構造を有する直鎖状構造等が挙げられる。特には、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状構造を有するのが好ましい。該直鎖状構造を有するオルガノポリシロキサンは、部分的に分岐状構造、又は環状構造を有していてもよい。
【0030】
(a)成分の動粘度は、25℃において10,000,000mm2/s以上であり、好ましくは15,000,000mm2/s以上である。10,000,000mm2/s未満では、発熱部の発熱と冷却を反復する熱履歴による膨張・収縮に起因してポンピングアウトを引き起こすおそれがある。(a)成分の動粘度の上限は特に限定されないが、例えば、25℃において50,000,000mm2/s以下である。
【0031】
本発明の(a)成分の動粘度η(25℃)を直接測定することは困難であるため、(a)成分の動粘度ηは下記のフローで導出したものである。
【0032】
[1](a)成分1.0g/100mLのトルエン溶液を調製し、下式の比粘度ηsp(25℃)を導出する。但しηは上記トルエン溶液の粘度、η0はトルエンの粘度である。
ηsp=(η/η0)-1
【0033】
[2]ηspを下式(Hugginsの関係式)に代入し、固有粘度〔η〕を導出する。但しK‘はHuggins定数である。
ηsp=〔η〕+K‘〔η〕
【0034】
[3]〔η〕を下式(A.Kolorlovの式)に代入し、分子量Mを導出する。
〔η〕=2.15×10-40.65
【0035】
[4]Mを下式(A.J.Barryの式)に代入し、(b)成分の動粘度ηを導出する。
logη=1.00+0.0123M0.5
【0036】
(b)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に2個以上、特に好ましくは3~100個、さらに好ましくは5~20個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子中のSiH基が、上述した(a)成分が有する脂肪族不飽和炭化水素基と例えば白金族金属触媒の存在下にヒドロシリル化反応し、架橋構造を形成できるものであればよい。
【0037】
前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、上記性質を有するものであればその分子構造は特に限定されず、直鎖状構造、分岐鎖状構造、環状構造、及び一部に分岐状構造又は環状構造を有する直鎖状構造等が挙げられる。好ましくは直鎖状構造、環状構造である。
【0038】
該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、25℃での動粘度が、好ましくは1~1,000mm2/s、より好ましくは10~100mm2/sである。前記動粘度が1mm2/s以上であれば、シリコーン組成物の物理的特性が低下するおそれがなく、1,000mm2/s以下であれば、シリコーン組成物の伸展性が乏しいものとなるおそれがない。
【0039】
該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b)成分中のSiH基の個数が1~3となる量、好ましくは1.5~2.5となる量である。(b)成分の量が上記下限値未満では付加反応が十分に進行せず、架橋が不十分となる。また、上記上限値超では、架橋構造が不均一となる場合がある。
【0041】
ヒドロシリル化反応の進行には、例えば従来公知の白金族金属触媒を使用することができる。例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系の触媒が挙げられるが、中でも比較的入手しやすい白金又は白金化合物が好ましい。例えば、白金の単体、白金黒、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。白金族金属触媒は1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
白金族金属触媒の配合量は触媒としての有効量、即ち、反応を促進して(A)成分のシリコーンゲル架橋物を得るのに必要な有効量であればよい。好ましくは、(a)成分及び(b)成分の合計質量に対し、白金族金属原子に換算した質量基準で0.1~500ppm、より好ましくは1~200ppmである。触媒の配合量が上記好ましい範囲内にあれば、触媒としての十分な効果を経済的に得ることができる。
【0043】
また、ヒドロシリル化反応により(A)成分のシリコーンゲル架橋物を得る際には、反応を均一に進めるための反応制御剤を添加してもよい。該反応制御剤は、従来公知の反応制御剤を使用することができる。これには、例えば、アセチレンアルコール類(例えば、エチニルメチルデシルカルビノール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール)等のアセチレン化合物、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の各種窒素化合物、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。
【0044】
反応制御剤を配合する場合の配合量は、(a)成分及び(b)成分の合計質量に対し、好ましくは0.05~5%、より好ましくは0.1~1%である。反応制御剤の配合量が上記好ましい範囲内にあれば、ヒドロシリル化反応をより均一に進めることができる。
【0045】
また反応制御剤は、シリコーン組成物への分散性を良くするために、オルガノ(ポリ)シロキサンやトルエン等で希釈して使用してもよい。
【0046】
(A)成分の配合量は、組成物全体に対し0.5~2.5質量%であり、1~2質量%が好ましい。前記配合量が0.5質量%未満であるか又は2.5質量%を超えると、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とを両立することができない。また、熱伝導性シリコーン組成物を適切な粘度範囲にすることが困難になる。
【0047】
(B)成分
(B)成分は、下記一般式(1)で表される加水分解性オルガノポリシロキサン化合物である。(B)成分の加水分解性オルガノポリシロキサン化合物は、後述する(C)成分、すなわち熱伝導性充填剤の表面を処理するために用いるものであり、充填剤の高充填化を補助する役割を担う。
【化3】
(式中、R1は、炭素数1~10の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない1価炭化水素基を表し、それぞれのR1は同一であっても異なっていてもよい。mは5~100の整数である。)
【0048】
上記式(1)中のR1は、炭素数1~10の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない1価炭化水素基であり、好ましくは置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基又は置換基を有してもよい1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基である。
【0049】
置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ブロモプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などの、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、さらに好ましくは炭素数1~6のものである。
【0050】
置換基を有してもよい1価芳香族炭化水素基として、具体的には、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基、α,α,α-トリフルオロトリル基、クロロベンジル基等のハロゲン置換アリール基などの、炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8、さらに好ましくは炭素数6のものである。
【0051】
1としては、これらの中でも、メチル基、エチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、フェニル基が好ましく、さらに好ましくはメチル基、エチル基、フェニル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0052】
mは5~100の整数であり、好ましくは5~80の整数、さらに好ましくは10~60の整数である。mの値が5より小さいと、シリコーン組成物由来のオイルブリードがひどくなり、耐ポンピングアウト性が低下するおそれがある。また、mの値が100より大きいと、充填剤との濡れ性が十分でなくなることで組成物の粘度が上昇し、塗布作業性が悪化するおそれがある。
【0053】
(B)成分の配合量は、組成物全体に対し12.5~19.5質量%であり、14~18質量%が好ましい。前記配合量が12.5質量%未満であるか又は19.5質量%を超えると、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とを両立することができない。また、熱伝導性シリコーン組成物を適切な粘度範囲にすることが困難になる。
【0054】
(C)成分
(C)成分は、平均粒子径0.5μm以上1.5μm以下、かつレーザー回折型粒度分布で粒子中の10μm以上の粗粉の含有量が全体の1.0体積%以下である窒化アルミニウム粒子であり、熱伝導性シリコーン組成物に熱伝導性を付与する熱伝導性充填剤として配合される。
【0055】
窒化アルミニウム粒子の平均粒子径が1.5μm超であると、熱伝導性シリコーン組成物の圧縮性が悪化し、熱伝導性が悪化する恐れがある。また、平均粒子径が0.5μmより小さいと、熱伝導性シリコーン組成物を適切な粘度範囲にすることが困難になる。
【0056】
(C)成分の窒化アルミニウムの酸素量を1.0質量%以下としたものを用いることで、得られる熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率を更に向上することができる。(C)成分の酸素量は1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0057】
また(C)成分の窒化アルミニウム中の粒径10μm以上の粗粉の含有量を1.0体積%以下としたものを用いることで、熱伝導性シリコーン組成物の圧縮性を向上させ、熱伝導性を高めることができる。
【0058】
なお、平均粒径は、例えば、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積基準の平均値(又はメジアン径)として求めることができる。
【0059】
(C)成分の配合量は、組成物全体に対し80~85質量%であり、82~83質量%が好ましい。85質量%より多いと、熱伝導性シリコーン組成物を適切な粘度範囲にすることが困難になるし、80質量%より少ないと熱伝導性に乏しいものとなる。
【0060】
その他の成分
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、組成物の劣化を防ぐために、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等の、従来公知の酸化防止剤を必要に応じて含有してもよい。さらに、染料、顔料、難燃剤、沈降防止剤、又はチクソ性向上剤等を、必要に応じて配合することができる。
【0061】
熱伝導性シリコーン組成物を作製する工程
本発明における熱伝導性シリコーン組成物の製造方法について説明する。本発明におけるシリコーン組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、上述の(A)~(C)成分を、例えば、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリーミキサー(いずれも(株)井上製作所製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0062】
また本発明の熱伝導性シリコーン組成物の成分は、加熱しながら混合してもよい。加熱条件は特に制限されるものでないが、温度は通常25~220℃、好ましくは40~200℃、特に好ましくは50~200℃であり、時間は通常3分~24時間、好ましくは5分~12時間、特に好ましくは10分~6時間である。また加熱時に脱気を行ってもよい。
【0063】
なお(A)成分のシリコーンゲル架橋物は、先述の(a)成分及び(b)成分をヒドロシリル化反応させてあらかじめ調製したものを使用しても良いし、熱伝導性シリコーン組成物を作成する加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製しても良い。
【0064】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、25℃にて測定される絶対粘度が、好ましくは500Pa・s以下、より好ましくは200~400Pa・sである。絶対粘度が500Pa・s以下であれば、塗布作業性が悪化するおそれはない。
【0065】
また本発明の熱伝導性シリコーン組成物は通常、1.5~2.5W/m・Kの熱伝導率を有することができる。
【0066】
なお、本発明において、熱伝導性シリコーン組成物の絶対粘度は、回転粘度計により測定した25℃における値であり、熱伝導率は、ホットディスク法により測定した値である。
【0067】
以上に説明した本発明の熱伝導性シリコーン組成物であれば、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能である。さらに、薄く圧縮可能で低熱抵抗を達成できるため、実装される電子部品の信頼性を向上することができる。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースと出来るが、適切な粘度を保つことで優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能な「非硬化型」の放熱グリースとなる。そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、室温下で輸送及び保存が可能であるため、取り扱いが容易である。
【実施例
【0068】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお(A)成分の動粘度は先述のフローで決定した値であり、その他成分の動粘度は、ウベローデ型オストワルド粘度計による25℃での値である。
【0069】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
初めに、本発明の熱伝導性シリコーン組成物を調製するため以下の各成分を用意した。
【0070】
(A)成分
A-1:下記成分(a-1)と(b-1)とからなるシリコーンゲル架橋物(後述の熱伝導性シリコーン組成物を調製する際の加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した)((a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数=2.5)
【0071】
a-1:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が15,000,000mm2/sのジメチルポリシロキサン
b-1:下記式(2)で示されるメチルハイドロジェンジメチルポリシロキサン(25℃における動粘度=12mm2/s)
【化4】
【0072】
A-2:上記成分(a-1)と下記成分(b-2)とからなるシリコーンゲル架橋物(後述の熱伝導性シリコーン組成物を調製する際の加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した)((a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-2)成分中のSiH基の個数=2.5)
【0073】
b-2:下記式(3)で示されるメチルハイドロジェンジメチルポリシロキサン
(25℃における動粘度=100mm2/s)
【化5】
【0074】
A-3:上記成分(a-1)と(b-1)とからなるシリコーンゲル架橋物(後述の熱伝導性シリコーン組成物を調製する際の加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した)((a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数=2.0)
【0075】
A-4:上記成分(a-1)と(b-1)とからなるシリコーンゲル架橋物(後述の熱伝導性シリコーン組成物を調製する際の加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した)((a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数=1.5)
【0076】
A-5:下記成分(a-2)と上記成分(b-1)とからなるシリコーンゲル架橋物(後述の熱伝導性シリコーン組成物を調製する際の加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した)((a-2)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数=2.5)
【0077】
a-2:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が10,000,000mm2/sのジメチルポリシロキサン
【0078】
A-6(比較用):上記成分(a-1)と上記成分(b-1)とからなるシリコーンゲル架橋物(後述の熱伝導性シリコーン組成物を調製する際の加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した)((a-2)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数=0.8)
【0079】
A-7(比較用):下記成分(a-3)と上記成分(b-1)とからなるシリコーンゲル架橋物(後述の熱伝導性シリコーン組成物を調製する際の加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した)((a-2)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数=2.0)
【0080】
a-3:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が100,000mm2/sのジメチルポリシロキサン
【0081】
A-8(比較用):上記成分(a-1)と上記成分(b-2)とからなるシリコーンゲル架橋物(後述の熱伝導性シリコーン組成物を調製する際の加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した)((a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-2)成分中のSiH基の個数=3.5)
【0082】
(B)成分
B-1:下記式(4)で示される片末端トリメトキシシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン
【化6】
【0083】
(C)成分
C-1:平均粒子径1.0μmで、10μm以上の粗粒が0.1体積%以下の窒化アルミニウム粒子
C-2:平均粒子径1.5μmで、10μm以上の粗粒が0.4体積%以上の窒化アルミニウム
C-3(比較用):平均粒子径1.5μmで、10μm以上の粗粒が5.0体積%以上の窒化アルミニウム
【0084】
その他成分
D-1:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖された、25℃における動粘度が600mm/sのオルガノポリシロキサンに溶解した溶液(白金原子含有量:白金原子として1質量%)
【0085】
E-1:エチニルシクロヘキサノール(下記式(5))
【化7】
【0086】
[実施例1~7、比較例1~6]
熱伝導性シリコーン組成物の調製
上記(A)~(E)成分を、下記表1~2に示す配合量で、下記に示す方法で配合して、熱伝導性シリコーン組成物を調製した。
【0087】
5リットルのプラネタリーミキサー((株)井上製作所製)に、(a-1)成分、(a-2)成分及び(a-3)成分の何れかと、(B)成分と、(C-1)成分、(C-2)成分及び(C-3)成分の何れかとを加えて減圧下170℃で1時間混合した。混合物を40℃以下になるまで冷却し、次にこの混合物に(b-1)成分又は(b-2)成分と、(D)成分と、(E)成分とを加えて170℃で1.5時間混合して、熱伝導性シリコーン組成物を調製した。
【0088】
上記方法で得られた各シリコーン組成物について、下記の方法に従い、粘度、熱伝導率を測定し、耐ポンピングアウト性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0089】
[粘度]
各シリコーン組成物の絶対粘度を、マルコム粘度計(タイプPC-1T)を用いて25℃で測定した(ロータAで10rpm、ズリ速度6[1/s])。
【0090】
[熱伝導率]
各シリコーン組成物をキッチンラップで包み、熱伝導率を京都電子工業(株)製TPS-2500Sで測定した。
【0091】
[耐ポンピングアウト性]
各組成物0.1mlをガラス板ではさみ、1.8kgf(17.65N)のクリップを二つ用いて15分間圧縮した。この時点での組成物の面積をαとする。これを-65℃/30分と150℃/30分とを反復する冷熱衝撃試験機に垂直置きし、500サイクル後に取り出した。この時点での面積をβとし、式β/αを定量した。また面積βのうち、組成物が存在しない領域の面積(=γ)を画像処理により定量し、式γ/βを定量した。すなわち、β/αの値及びγ/βの値が小さいほど耐ポンピングアウト性に優れると評価する。
【0092】
[圧縮性]
各シリコーン組成物を直径12.7mmのシリコンウエハに挟み、SHIMAZU製オートグラフAG-5KNZPLUSを用いて4.1MPaで2分間加圧した後の厚みを測定した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
表1~2の結果より、本発明の要件を満たす実施例1~7のシリコーン組成物では、適切な粘度を有しながらも、耐ポンピングアウト性の指標となるβ/αの値及びγ/βの値が小さく、熱履歴による膨張・収縮に起因するシリコーン組成物の流れ出し(ポンピングアウト)が発生しづらいことが明らかである。さらに、実施例1~7のシリコーン組成物は、薄く圧縮可能であり、それゆえに低熱抵抗の達成が期待できる。すなわち、本発明のシリコーン組成物では、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能であり、薄く圧縮可能で低熱抵抗を達成できる。
【0096】
一方、比較例1のシリコーン組成物の(A)成分において、(a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数が0.8であり、1未満であった。比較例1のシリコーン組成物では、(A)成分は架橋が十分に進行せず、それにより、比較例1のシリコーン組成物は、耐ポンピングアウト性の指標となるβ/αの値及びγ/βの値が大きかったと考えられる。
【0097】
また、比較例2のシリコーン組成物の(A)成分中の(a-3)成分の25℃における動粘度は、100,000mm2/sであり、10,000,000mm2/s未満であった。また、比較例2のシリコーン組成物中の(A)成分の配合量が2.5質量%よりも大きく、(B)成分の配合量が12.5質量%未満であった。そのため、比較例2のシリコーン組成物は、耐ポンピングアウト性の指標となるβ/αの値及びγ/βの値が大きかったと考えられる。
【0098】
比較例3のシリコーン組成物の(A)成分において、(a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数が3.5であり、3よりも大きかった。そのため、比較例3のシリコーン組成物は、架橋が不均一に進行し、ペースト状にならなかったと考えられる。
【0099】
比較例4のシリコーン組成物では、(A)成分の配合量が2.5質量%よりも大きかった。そのために、比較例4のシリコーン組成物は、ペースト状にならなかったと考えられる。
【0100】
比較例5のシリコーン組成物では、(B)成分の配合量が19.5質量%を超え、(C)成分の配合量が85質量%を超えていた。そのため、比較例5のシリコーン組成物は、十分な粘度を示すことができず、熱伝導率は実施例1~7の熱伝導率よりも低かった。また、比較例5のシリコーン組成物の耐ポンピング性も低かった。
【0101】
比較例6のシリコーン組成物で用いた(C-3)成分は、10μm以上の粗粒が5.0体積%以上であった。そのため、比較例6のシリコーン組成物の圧縮性は、実施例1~7よりも劣っていた。
【0102】
すなわち、比較例1~6のシリコーン組成物では、適切な粘度を有さない、若しくは、耐ポンピングアウト性の指標となるβ/αの値及びγ/βの値が大きい、または、薄く圧縮することができない、またはそれらを複合するものであり、優れた塗布作業性と、耐ポンピングアウト性と、薄く圧縮可能であることとの両立が不可能である。
【0103】
従って、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、適切な粘度を保つことで塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースと出来る。そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、適切な粘度を保つため、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能な「非硬化型」の放熱グリースとなる。すなわち、本発明によれば、近年の半導体装置の発熱量増加や大型化、構造複雑化に対応可能な熱伝導性シリコーン組成物を提供可能である。
【0104】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。