(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料及びその製造方法と用途
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20230807BHJP
C01G 23/04 20060101ALI20230807BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20230807BHJP
C01G 39/02 20060101ALI20230807BHJP
C01G 49/02 20060101ALI20230807BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H01M4/48
C01G23/04 Z
C01G33/00 A
C01G39/02
C01G49/02 Z
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2021575511
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 CN2020097181
(87)【国際公開番号】W WO2020253843
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】201910541802.6
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010023063.4
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510087966
【氏名又は名称】中国科学院上海硅酸塩研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】507232478
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District, Beijing 100871, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 富強
(72)【発明者】
【氏名】董 武杰
(72)【発明者】
【氏名】劉 子超
(72)【発明者】
【氏名】車 相立
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-075848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
C01G 33/00
C01G 39/02
C01G 23/04
C01G 49/02
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料であって、少なくとも階層的多孔質構造を持つ主体金属酸化物を含み、そのうち、前記主体金属酸化物は、原子結晶格子が秩序正しく配列している単結晶、準結晶、又は双晶構造であり、結晶内に酸素空孔欠陥が多くあり、一般的な構造式がM
xO
y-zであり、そのうちMがニオブ、モリブデン、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、タングステン、タンタル、及びジルコニウムのうち1つ又は複数の組合せから選択されるものであり、且つxが1≦x≦2であり、yが1≦y≦5であり、zが0.1≦z≦0.9で
ある、多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料。
【請求項2】
前記階層的多孔質構造は、細孔径が2nm未満のマイクロ孔と細孔径分布が2-50nmのメソ細孔により構成される、請求項1に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料。
【請求項3】
前記主体金属酸化物は、単結晶、準結晶又は双晶構造であり、5組以下の電子回折斑点を有し、明らかな電子回折環がな
い、請求項1に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料。
【請求項4】
Mの前記主体金属酸化物での原子価は二つ以上が
ある、請求項1に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料。
【請求項5】
前記金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は、前記主体金属酸化物の階層的多孔質構造内及び表面に領域限定で堆積するヘテロ金属酸化物A
eO
fを更に含み、そのうち、Aは鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、スズのうち少なくとも一つから選択されるものであり、eは1≦e≦3であり、fは1≦f≦4で
ある、請求項1に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料。
【請求項6】
主体金属酸化物の金属元素Mとヘテロ金属酸化物の金属元素Aとの総量に対する前記ヘテロ金属酸化物の金属元素Aの原子比率は0.1-20at%で
ある、請求項5に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料。
【請求項7】
前記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料はサイズが10nm-50μmで
ある、請求項6に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料。
【請求項8】
(1)高温固相反応法、ゾルゲル法、水熱合成法、又は共沈法を利用して多成分系金属酸化物B
aM
bO
c前駆体を製造し、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタン、アルミニウムのうち少なくとも一つであり、aは1≦a≦2であり、bは1≦b≦8であり、cは3≦c≦17である工程と、
(2)工程(1)で得られた多成分系金属酸化物B
aM
bO
cを酸性溶液と混合させ、多段法を利用してエッチング反応を行うことでB元素を除去して、固体が得られる工程と、
(3)工程(2)で得られた固体を不活性雰囲気又は真空中に高温でアニールして、前記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料が得られる工程と、を含む請求項1に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料の製造方法。
【請求項9】
(1)高温固相反応法、ゾルゲル法、水熱合成法、又は共沈法を利用して多成分系金属酸化物B
aM
bO
c前駆体を製造する工程と、
(2)得られた多成分系金属酸化物前駆体B
aM
bO
cをA金属イオンを含有する酸性溶液に加え混合させて、混合溶液が得られ、そのうち、B元素はアルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタン、アルミニウムのうち少なくとも一つであり、aは1≦a≦2であり、bは1≦b≦8、であり、cは3≦c≦17である工程と、
(3)得られた混合溶液を常圧、50-90℃で1時間~7日間を保温し、濾過して粒子1が得られる工程と、
(4)得られた粒子1をAイオンを含有する酸性溶液に加え混合させ、そして反応装置に入れて100-140℃で1時間~7日間保温し、濾過して粒子2が得られる工程と、
(5)得られた粒子2をAイオンを含有する酸性溶液に加え混合させ、そして反応装置に入れて150-220℃で1時間~7日間保温し、濾過して中間生成物が得られる工程と、
(6)得られた中間生成物を保護雰囲気中、400-1000℃で1~24時間か焼し、前記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料が得られる工程と、を含む請求項5に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料の製造方法。
【請求項10】
請求項
1に記載の多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料の電気化学エネルギー貯蔵装置電極材料としての用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学エネルギー貯蔵材料及びその製造方法に関し、具体的には、階層的マイクロ・メソ細孔構造を持つ多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料及びボトムアップのマイクロエッチ製造方法とリチウムイオン電池用電極材料での用途に関し、当該多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は、新たな材料構造タイプであり、斬新で制御可能な階層的マイクロ・メソ細孔構造及び電気化学的活性が高く欠陥が多い単結晶構造を有し、且つ高い電気伝導率と高速なリチウムイオン輸送特性を有し、その階層的多孔質構造におけるダングリングボンドと多くの面欠陥を介して容量型急速充放電を実現し、このタイプの材料の理論上のエネルギー貯蔵限界を突破することができ、重要な新型リチウムイオン電池電極材料であり、材料分野に属する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー危機は世界を席巻し、従来の化石エネルギーの汚染性と再生不可能性は世界中で広く認識され、重要視されてきた。このような背景の下、電気化学エネルギー貯蔵技術は産業界や学界から広く注目を集め、長足の発展を遂げてきた。リチウムイオン電池とスーパーキャパシタは電気化学エネルギー分野での最新技術であり、1989年に日本SONY株式会社は、初めてLiCoO2をLi源正極とし、石油コークスを負極とし、LiPF6を炭酸プロピレンと炭酸エチレンに溶解して電解液とすることを提案し、新型リチウムイオン電池を開発し、1991年に商品化に成功した。従来の二次電池と比較すると、リチウムイオン電池は開回路電圧が高く、エネルギー密度が大きく、作動寿命が長いという利点等があり、携帯電話、カメラ、ラップトップ等の携帯用電子機器、軍事機器及び医療機器等の分野に適用することができる。現在、リチウムイオン電池は電気自動車、大規模エネルギー貯蔵等の新分野に進出しているが、その安定性、安全性、エネルギー密度、電力密度は実用化の要件を満たしていないため、高性能な新型エネルギー貯蔵材料を開発し、その応用市場を更に拡大する必要がある。
【0003】
負極材料は、リチウムイオン電池の重要な構成要素として広く注目され、現在、市販のリチウムイオン電池の負極材料は、主により安定した性能を持つ人造黒鉛(天然変性黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ)と、シリコンカーボン複合材料と、チタン酸リチウムとを含む。そのうち、六角形層状構造を持つ黒鉛材料及びシリコンカーボン複合負極材料は、低電池レートの場合に材料の最大理論容量に近く、サイクル寿命が500回以上に達することができ、基本的に携帯用電子機器の電池に対する要求を満たすことができ、しかし、電気自動車等の新型分野には、黒鉛又はシリコンカーボン負極は、負極表面に安定したSEIを形成できないため、クーロン効率を低下させる。高レートの動作条件下で長時間サイクルすると、電極材料の粉末化、脱落により電池は完全に不活性化され、低導電率、体積効果等の問題により電池の容量は減衰される。チタン酸リチウムは、「零応力ひずみ」でリチウムが脱出・嵌入する構造、長サイクル寿命、高安全性という利点を有する。チタン酸リチウム結晶の三次元孔穴構造は、リチウムイオンの拡散のためにチャンネルを提供するとともに、リチウム脱出・嵌入の過程で構造の安定を維持することができ、その1.55V付近の作動電位はSEI膜の形成を抑制し、且つチタン酸リチウムのリチウム脱出・嵌入前後の体積変化は1%未満であることはめったになく、長寿命と高安定性のメリットを実現できる(Ultrathin Li4Ti5O12 Nanosheet Based Hierarchical Microspheres for HighRate and Long-Cycle Life Li+ Ion Batteries.Advanced Energy Materials,2017, 7(21): 1700950.)。しかし、チタン(IV)の約60%しか還元できないことによる低い理論容量(175 mAhg-1)はチタン酸リチウム電池の用途を制限している。よって、高レート充放電安定性と大容量を兼ね備える新型電極材料の開発が急務となっている。
【0004】
金属酸化物は負極材料として使用でき、例えば、TiO2、Nb2O5、V2O5、MoO2、WO2、Fe2O3、FeO、Co3O4、CuO、ZnO等(Metal oxides and oxysalts as anode materials for Li ion batteries. Chemical reviews,2013, 113(7): 5364-5457.)があり,そのリチウムを貯蔵する反応機構により三種類に分類でき、その一つは嵌入式機構であり、当該機構を有する酸化物は、リチウム嵌入とリチウム脱出の過程で破壊することなく比較的に安定した結晶構造を維持し、比較的に限られた体積変化を発生することができ、例えばTiO2、Nb2O5、V2O5、MoO2、WO2、Li4Ti5O12等の前周期遷移金属の酸化物は、高レート、高安定性のメリットを有するが、そのエネルギー貯蔵容量は比較的に低い。他の二つの機構は、転換式機構と合金式機構とを含み、前者は酸化リチウムと遷移金属元素を形成し、後者は遷移金属とリチウムの合金を形成することで、それぞれエネルギーを貯蔵し、リチウムを貯蔵する容量が大きいという利点を有するが、体積変化が非常に大きいため、電極の安定性とレート性が劣っている。
【0005】
一般的に、遷移金属酸化物は大量の添加剤と精巧で複雑な構造設計によってのみ、例えばグラフェン、炭素繊維複合酸化ニオブを使用する、又はナノシート、ナノワイヤー、階層的構造等の特殊なナノ構造にすることによって、高いリチウム貯蔵容量を実現でき、例えば、トレメラ状のMoO2ナノシートを負極とし、その大きな表面積により実際の有効電流密度を小さくし、構造変化をより緩やかにし、シート状のMoO2はイオン拡散速度が加速し、構造がより均一になる進化を実現し、600mAhg-1の安定的な容量が得られる。また、例えば、Sunらによって製造された多孔質グラフェン複合Nb2O5は、100Cの作動レートでも(充/放電時間は36秒未満)電極は正常に作動し90mAhg-1の容量を維持することができる(Three-dimensional holey-graphene/niobia composite architectures for ultrahigh-rate energy storage.Science,2017, 356(6338): 599-604.)。上記方法は、電極材料性能を向上できることが広く証明されたが、この最適化方法は、産業用グレードの製造条件下で制御が難しく、時間と手間がかかり、その産業用途を実現する可能性が大幅に制限される。
【0006】
よって、金属酸化物は高性能電極を製造する可能性があるが、まだ下記の問題がある。(1)材料の充放電可逆比容量が小さい。(2)充放電サイクル中に固体電解質界面(SEI)は不安定でリチウム源が消費され電池が崩壊することになる。(3)充放電中の材料性能が不安定である。(4)材料の電子導電性とイオン導電性は高レートの作動性能を実現できない。(5)製造プロセスが複雑で、コストが高く、汚染される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】"Metal oxides and oxysalts as anode materials for Li ion batteries. Chemical reviews",2013, 113(7): 5364-5457.
【文献】"Three-dimensional holey-graphene/niobia composite architectures for ultrahigh-rate energy storage."Science,2017, 356(6338): 599-604.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属酸化物をエネルギー貯蔵材料とするときにある問題(例えば、現在、市販の電池は高レート作動条件下でパフォーマンスが低下する現状)に基づいて、本発明の目的は、高容量、高レート性、高安定性を有し、欠陥が多い単結晶構造、制御可能なマイクロ・メソ細孔の微細構造特徴を有する多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料、及び欠陥が多い単結晶構造、制御可能なマイクロ・メソ細孔の微細構造を有する多孔質マルチメタル複合酸化物材料及びその製造方法と用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一方、本発明は、多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料を提供しており、前記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は、新たな材料構造タイプであり、少なくとも制御可能なマイクロ・メソ細孔構造(階層的多孔質構造)を持つ主体金属酸化物を含み、そのうち、前記主体金属酸化物は、原子結晶格子が秩序正しい単結晶、準結晶、又は双晶構造であり、結晶内に多くの酸素空孔欠陥が含まれている。その一般的な構造式はM
xO
y-zであり、そのうち、Mはニオブ、モリブデン、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、タングステン、タンタル、及びジルコニウムのうち1つまたは複数から選択されるものであり、且つxは1≦x≦2であり、yは1≦y≦5であり、zは0.1≦z≦0.9であり、好ましくは、Nb
2O
5-zである。より好ましくは、金属酸化物は混合原子価の金属元素を有する。例えば、Nb
5+/Nb
4+が(
図5bに示すように)好ましい。
【0010】
本公開では、多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は新たな材料構造タイプであり、斬新で制御可能な階層的マイクロ・メソ細孔構造及び電気化学的活性が高く欠陥が多い単結晶構造を有し、且つ高い電気伝導率と高速なリチウムイオン輸送特性を有し、その階層的多孔質構造におけるダングリングボンドと多くの面欠陥を介して容量型急速充放電を実現し、このタイプの材料の理論上のエネルギー貯蔵限界を突破することができ、重要な新型リチウムイオン電池電極材料である。
【0011】
本公開では、得られた多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は階層的多孔質構造(即ち、マイクロ・メソ細孔構造)を有し、無秩序孔のサイズは主に20nm以下に分布するとともに5nm以下に集中し、粒子は1グラムあたり数十から数百平方メートルの比表面積を有する。前記金属酸化物ベースの材料は、多孔質単結晶構造を基に、原子尺度開放構造、原子尺度欠陥構造、及びマイクロ・メソ細孔の低次元限域限定構造を構築してエネルギー貯蔵を協同で最適化する。具体的には、MxOy-zにおける階層的多孔質構造は、孔径が2nm未満のマイクロ孔、孔径分布が2-50nmのメソ細孔、及び無秩序欠陥から構成される。好ましくは、マイクロ孔の孔径は1nm以下且つ<2nmであり、前記メソ細孔の孔径は3-40nmであり、前記無秩序欠陥のサイズは1nm未満である。そのうち、マイクロ孔及びサイズが小さい部分のメソ細孔(1~10nm)は結晶粒子内部に分布し、サイズが大きいメソ細孔(10~50nm)は結晶粒子の間に分布し、且つすべての孔のサイズと分布は製造中に調整可能なものである。
【0012】
本発明は、カステル地形の形成のメカニズムを参考にして、上から下に前記金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料を製造する方法を開示しており、低酸性、低圧力下で、アルカリ(土類)金属と遷移金属複合酸化物をmicro-etchingマイクロエッチする方法を開発した。多成分系金属酸化物BaMbOcを前駆体、酸性溶液をエッチング剤として、多段法を使用し、前駆体におけるすべてのBサイトのイオン及び一部のMサイトのイオンを選択的にエッチングして溶解し、不溶性部分に対して単位胞レベルで構造を再配列し、単位胞の変化による大量の応力蓄積を利用して、結晶内に反応性の高い欠陥と孔穴が多い金属酸化物MxOy-zを製造した。生成物の化学組成、具体的な形態及び結晶構造は前駆体の構造、Bサイトにある元素種類及び具体的な反応条件に依存する。下記の工程を含む。
【0013】
(1)高温固相反応法、ゾルゲル法、水熱合成法、共沈法を利用して多成分系金属酸化物前駆体(BaMbOc、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属又はランタン、アルミニウム等の元素のうち一つ又は複数であり、Mはニオブ、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛等の元素のうち一つ又は二つ以上の組合せである)を製造する。
【0014】
(2)工程(1)で得られた多成分系金属酸化物BaMbOcを酸性溶液(酸性溶液は塩酸、硝酸、酢酸、ギ酸、エチレンジアミン四酢酸、塩化第二鉄、塩化第二銅等の酸のうち一つ又は複数である。溶媒は水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロパノール、アセトン等の溶媒のうち一つ又は複数である)と混合させ、モル比が1-50倍の酸性溶質を使用し多段法によるエッチング反応を実行する。まずは、混合体系を50-90℃、常圧環境に置いて1時間~7日間保温し、多成分系金属酸化物表面層及び浅表面層のイオンに対してエッチングを実行し、表面層付近のイオンをゆっくりと溶出するとともに構造と形態の安定を維持する。次に、混合体系を高温高圧反応容器に移動し、温度を110-140℃までに上げて1時間~7日間保温し、エッチング反応の動力学を促進する。最後、混合体系の反応温度を150-220oCまで上げて1時間~7日間保温し、反応の動力学を更に向上するとともに結晶構造の秩序化を高温で促進する。
【0015】
(3)工程(2)で得られた固体粒子を不活性雰囲気炉又は真空管状炉に入れて加熱アニール処理し、アニール温度は400~1000℃であり、アニール時間は1~24時間である。そうすると混合原子価の金属原子を有する金属酸化物MxOy-zが得られる。金属酸化物MxOy-zの化学エネルギー貯蔵性能とは、二次電池やスーパーキャパシタ等エネルギー貯蔵装置の電極材料として、優れた高レート、高安定性等の特徴を備える。
【0016】
一方、好ましくは、本発明は、欠陥が多い単結晶構造、制御可能なマイクロ・メソ細孔を有する多孔質単結晶金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵新型材料を提供しており、その一般的な構造式はAeOf@MxOy-zであり、複数の金属酸化物が含まれているため「マルチメタル複合酸化物材料」とも呼ばれる。前記MxOy-zは、秩序正しい単結晶、準単結晶、又は双晶構造であり、欠陥が多い単結晶構造、制御可能なマイクロ・メソ細孔構造を有し、且つヘテロ金属酸化物AeOfがM xOy-zの階層的多孔質構造内及び表面に領域限定で堆積して複合構造を形成し、xは1≦x≦2であり、yは1≦y≦5であり、zは0.1≦z≦0.9であり、eは1≦e≦3であり、fは1≦f≦4である。
【0017】
そのうち、Aは鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、スズのうち少なくとも一つから選択されるものであり、Mはニオブ、モリブデン、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、タングステン、タンタル、及びジルコニウムのうち少なくとも一つから選択されるものであり、好ましくは、Mはチタン及び/又はニオブであり、Aは鉄である。
【0018】
本発明において、マルチメタル複合酸化物材料は秩序正しい結晶構造を有し、材料の電気化学的プロセスの安定性を向上することに有利であり、多結晶によって引き起こされる大量の結晶粒界による電気抵抗を減少させた。且つ、マルチメタル複合酸化物材料の結晶内にある無秩序欠陥、マイクロ孔は、大量の高反応性のダングリングボンドを提供し、材料のエネルギー貯蔵容量を向上し、孔径が2nm未満のマイクロ孔及び孔径が≧2nm且つ≦50nmのメソ細孔は、材料の電気化学的プロセスでの体積変化にバッファーを提供し、材料の安定性を向上し、電解質拡散にチャンネルを提供し、材料の高レート作動性能を向上する。更に、領域限定で成長し、転換式又は合金式でリチウムを貯蔵する属元素酸化物(AeOf)は、サイズ効果のため非常に高い反応性を有し、且つその低導電率及びリチウム嵌入・リチウム脱出による体積変化も、その周囲に嵌入式金属酸化物で被覆することで大幅に緩和される。混合原子価金属元素(MxOy-zの中には二つ以上の原子価を持つM元素があり、Ti3+/Ti4+とNb5+/Nb4+が好ましい)の存在は、材料の導電性を向上し、電気化学反応がより均一且つスムーズに進行できるようになる。
【0019】
好ましくは、前記MxOy-zの多孔質構造は、孔径が≧2nm且つ≦50nmのメソ細孔、及び孔径が<2nmのマイクロ孔を含み、好ましくは、前記メソ細孔の孔径は30~40nmであり、前記マイクロ孔の孔径は≧1nm且つ<2nmである。
【0020】
好ましくは、前記Aの原子比率は0.1~20at%であり、原子比率はA/(A+M)によって算出される。
【0021】
好ましくは、前記マルチメタル複合酸化物材料のサイズは10nm~50μmであり、好ましくは、サイズは50nmである。
【0022】
好ましくは、前記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は高い電気伝導率を有し、好ましくは、Nb
2O
5-zの導電率はNb
2O
5より10000倍10000x近く高い(
図5aを参照)。
【0023】
好ましくは、前記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は、多孔構造における細孔壁でのダングリングボンドと表面欠陥構造を介して静電容量型エネルギー貯蔵を実現することができ、静電容量型容量は80%以上を占めることができる。
【0024】
好ましくは、前記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料の実際容量は従来の材料の理論容量を突破することができ、好ましくは、Nb2O5-zは0.5Cで容量が253mAhg-1に達することができ、鉄酸化物@Nb2O5-zは0.5Cで容量が347mAhg-1に達することができ、Nb2O5の理論容量は200mAhg-1である。
【0025】
好ましくは、前記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は優れたレート性能を有し、好ましくは、Nb2O5-zは100Cで容量が130mAhg-1に達することができ、鉄酸化物@Nb2O5-zは100Cで容量が248mAhg-1に達することができる。
【0026】
一方、本発明は、上記マルチメタル複合酸化物材料の製造方法を更に提供しており、
【0027】
(1)多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcをAイオンを含有する酸性溶液に加え混合させて、混合溶液が得られ、そのうちB元素はアルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタン、アルミニウムのうち少なく一つであり、aは1≦a≦2であり、bは1≦b≦8であり、cは3≦c≦17である工程と、
【0028】
(2)得られた混合溶液を常圧、50~90℃下で1時間~7日間保温し、濾過して粒子1が得られる工程と、
【0029】
(3)得られた粒子1をAイオンを含有する酸性溶液に加え混合させ、そして反応装置に入れて100~140℃下で1時間~7日間保温し、濾過して粒子2が得られる工程と、
【0030】
(4)得られた粒子2をAイオンを含有する酸性溶液に加え混合させ、そして反応装置に入れて150~220℃下で1時間~7日間保温し、濾過して中間生成物が得られる工程と、
【0031】
(5)得られた中間生成物を保護雰囲気、400~1000℃下で1~24時間か焼し、前記の欠陥が多い単結晶構造、制御可能なマイクロ・メソ細孔構造を備えるマルチメタル複合酸化物材料が得られる工程と、を含む。
【0032】
本公開では、多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcをAイオンを含有する酸性溶液に加え混合させて、混合体系1が得られる。そして、混合体系1を50~90℃、常圧環境で1時間~7日間保温することで、Aイオンを含有する酸性溶液は多成分系金属酸化物の表面層及び浅表面層のイオンに対してエッチングを行い、表面層付近のイオンをゆっくりと溶出するとともに、構造と形態の安定を維持する。次に、濾過してAイオンを含有する酸性溶液に加えることで、混合体系2が得られる。混合体系2を高温高圧反応容器に移動し、温度を100~140℃まで上げて1時間~7日間保温し、エッチング反応の動力学を促進する。最後、濾過しAイオンを含有する酸性溶液に再度加えることで、混合体系3が得られる。混合体系3の反応温度を150~220oCまで上げて1時間~7日間保温し、N元素を前駆体から完全に溶出させ、同時に、高温により溶液中のA元素を析出させ、非常に小さいサイズで酸化物表面及び孔穴の中に堆積し、酸化物結晶構造の秩序化を促進し、中間生成物(固体粒子)が得られる。最後、得られた固体粒子を不活性雰囲気炉又は真空管状炉に入れて加熱アニール処理し、アニール温度は400~1000℃であり、アニール時間は1~24時間であり、最後に混合原子価の金属原子を有するマルチ金属酸化物AeOf@MxOy-zが得られる。
【0033】
好ましくは、前記のAイオンを含有する酸性溶液における酸は塩酸、硝酸、酢酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、ギ酸、エチレンジアミン四酢酸のうち少なくとも一つであり、前記Aイオンの前駆体はA元素の塩化物、A元素の臭化物、A元素のヨウ化物、A元素のシュウ酸塩、A元素の硝酸塩、A元素の硝酸塩のうち少なくとも一つである。
【0034】
好ましくは、工程(1)において、前記のAイオンを含有する酸性溶液におけるAイオンのモル含有量は多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcの1~100倍であり、好ましくは、2~10倍であり、前記のAイオンを含有する酸性溶液における酸のモル含有量は多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcの1~50倍であり、好ましくは、1~3倍であり、前記のAイオンを含有する酸性溶液におけるAイオンの濃度は0.1~6mol/Lである。即ち、前記多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcとAイオンとのモル比は1:(1~100)であり、好ましくは1:(2~10)であり、前記多成分系金属酸化物前駆体Ba MbOcとAイオンを含有する酸性溶液における酸とのモル比は1:(1~50)であり、好ましくは1:(1~3)である。
【0035】
好ましくは、工程(3)において、前記のAイオンを含有する酸性溶液において、Aイオンのモル含有量は多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcの1~100倍でり、好ましくは2~10倍であり、酸のモル含有量は多成分系金属酸化物前駆体BaMbO cの1~50倍であり、好ましくは1~3倍であり、前記のAイオンを含有する酸性溶液においてAイオンの濃度は0.1~6mol/Lである。そのうち、好ましくは、工程(3)においてAイオンを含有する酸性溶液の濃度と加入量は工程(1)と同じである。
【0036】
好ましくは、前記のAイオンを含有する酸性溶液において、Aイオンのモル含有量は多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcの1~100倍であり、好ましくは、2~10倍であり、酸のモル含有量は多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcの1~50倍であり、好ましくは、1~3倍であり、前記のAイオンを含有する酸性溶液においてAイオンの濃度は0.1~6mol/Lである。そのうち、好ましくは、工程(4)においてAイオンを含有する酸性溶液の濃度と加入量は工程(1)と同じである。
【0037】
好ましくは、工程(5)において、前記保護雰囲気は真空雰囲気、不活性雰囲気、又は窒素雰囲気であり、前記不活性雰囲気はヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素のうち少なくとも一つである。
【0038】
一方、本発明は、上記多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料の電気化学エネルギー貯蔵装置の電極材料としての用途を提供している。
【発明の効果】
【0039】
本発明において、金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は下記の有益な効果を有する。比較的に秩序正しい結晶構造は、材料の電気化学的プロセスの安定性を向上し、多結晶によって引き起こされる大量の結晶粒界による電気抵抗を低減させることに有利である。結晶内におけるサイズが1nm未満の欠陥、マイクロ孔は、大量の高反応性のダングリングボンドを提供し、材料のエネルギー貯蔵容量を向上し、孔径が2nm未満のマイクロ孔及び孔径が2nmより大きいメソ細孔は、材料の電気化学的プロセスでの体積変化にバッファーを提供し、材料の安定性を向上し、電解質拡散にチャンネルを提供し、材料の高レート作動性能を向上する。金属酸化物において混合原子価金属元素の存在は、材料の導電率を向上し、電気化学反応がより均一、スムーズに進行できるようになる。このように、このタイプの材料は高レート性能とサイクル安定性の両方を備えた電極材料として使用でき、高性能リチウムイオン電池に対する市場の要件を満たすことができる。
【0040】
更に、好ましくは、提供されるマルチメタル複合酸化物材料の特殊組成と微細構造は、嵌入式機構及び転換式機構それぞれのメリットを結び付けて、その可逆的なリチウム貯蔵容量を大幅に増加するとともに、電極作動時のレートと安定性を確保する。このように、このタイプの材料は、高リチウム貯蔵容量、高レート性能及びサイクル安定性を備えた電極材料として使用でき、高性能リチウムイオン電池に対する市場の要件を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の方法によって製造されたHNbO
3、700℃及び800℃でアニールされたNb
2O
5-z、及び原料のSrCa
1/3Nb
2/3O
3の走査型電子顕微鏡画像を示している。
【
図2】本発明の方法によって製造されたニオブ酸HNbO
3と五酸化ニオブNb
2O
5-zの透過型電子顕微鏡画像を示している。
【
図3】本発明の方法によって製造されたニオブ酸HNbO
3、五酸化ニオブNb
2O
5-z及び原料のSrCa
1/3Nb
2/3O
3の粉末X線回折パターンを示している。
【
図4】aは前駆体SrCa
1/3Nb
2/3O
3と最終生成物Nb
2O
5-zの2~200nmサイズ範囲内での細孔容積分布を示し、bは本発明の方法によって製造されたニオブ酸HNbO
3、異なる温度でアニールされて得られたNb
2O
5-z、及び原料のSrCa
1/3Nb
2/3O
3の比表面積と細孔容積の大きさを示し、比表面積と細孔容積はサンプルの等温吸湿脱湿曲線から算出される。
【
図5a】本発明の方法によって製造された灰色の五酸化ニオブNb
2O
5-zとゾルゲル法で直接製造された白色の五酸化ニオブNb
2O
5の導電率の比較を示している。
【
図5b】本発明の方法によって製造された灰色の五酸化ニオブNb
2O
5-zのX線光電子スエネルギースペクトルを示している。
【
図6】本発明の方法によって製造された五酸化ニオブNb
2O
5-zのリチウムイオン電池レート性能(a)とゾルゲル法で直接合成された五酸化ニオブNb
2O
5のレート性能(b)の比較を示している。
【
図7】本発明の方法によって製造された五酸化ニオブNb
2O
5-zと市販の黒鉛電極、チタン酸リチウム電極の異なる充放電速度での容量の比較を示している。
【
図8】aは本発明の方法によって製造されたアナターゼ二酸化チタンTiO
2-zの異なる充放電速度での充放電曲線を示し、bはその異なる速度での長時間充放電サイクルによる電極容量の変化を示している。
【
図9】本発明の方法によって製造された特殊な微細構造を持つ金属酸化物の構造模式図を示している。単結晶、準単結晶、双晶構造、並びに多孔質構造を同時に有する特徴を示した。
【
図10】実施例11で製造された鉄酸化物担持ニオブ酸Fe@HNbO
3(a)と鉄酸化物担持五酸化ニオブ(b)の透過型電子顕微鏡画像である。
【
図11】実施例11で製造された前駆体LiNbO
3、中間生成物の鉄酸化物担持ニオブ酸Fe@HNbO
3、及び鉄酸化物担持黒色の五酸化ニオブ(鉄酸化物@Nb
2O
5-z)の粉末X線回折パターンである。
【
図12】実施例11で製造された鉄酸化物担持黒色の五酸化ニオブの直線走査ボルタンメトリー曲線(a)と、直線走査ボルタンメトリーに基づいて計算された白色の五酸化ニオブNb
2O
5と鉄酸化物担持黒色の五酸化ニオブとの導電率の比較(b)である。
【
図13】実施例11で製造された鉄酸化物担持五酸化ニオブのリチウムイオン電池レート性能とゾルゲル法で直接合成された五酸化ニオブNb
2O
5のレート性能との比較である。
【
図14】本発明で製造された鉄酸化物担持五酸化ニオブ(サンプル6)、クロム酸化物担持五酸化ニオブ(サンプル5)、市販の黒鉛電極(サンプル1)、シリコンカーボン電極(サンプル2)、チタン酸リチウム電極(サンプル3)及び黒色の無担持五酸化ニオブNb
2O
5-z(サンプル4)の異なる充放電速度での容量の比較である。
【
図15】実施例11で製造された鉄酸化物担持五酸化ニオブの3~7mVs
-1の異なる電圧掃引速度でのサイクリックボルタンメトリー曲線(a)、及び、5mVs
-1の掃引速度下で鉄担持五酸化ニオブ鉄酸化物@Nb
2O
5-zのサイクリックボルタンメトリー曲線(外円曲線)(b)と、(a)によってシミュレーション計算されて得られた静電容量特性を有するサイクリックボルタンメトリー曲線(内円曲線)であり、曲線を積分すると、鉄担持五酸化ニオブ鉄酸化物@Nb
2O
5-zのリチウム貯蔵容量の静電容量寄与は89.1%に達することが分かり、そのうち、(a)では矢印の方向に応じて掃引速度が順次に増加する。
【
図16】実施例11で製造された鉄酸化物担持五酸化ニオブ(鉄酸化物@Nb
2O
5-z)の、空気中、800℃で完全に酸化された後の質量変化曲線であり、
図7から、増加した質量を測定することでその化学式におけるzはz=0.375である。
【
図17】実施例11で製造された鉄酸化物担持五酸化ニオブ(鉄酸化物@Nb
2O
5-z)の、LAND電池テストシステムで測定された電池容量と製造反応で加入されたFe
3+イオン濃度との関係(a)、及び走査型電子顕微鏡を利用して元素定量分析を行うことで得られたFe元素の原子比率と製造反応におけるFe
3+イオン濃度との関係(b)である。
【
図18】比較例1での製造における溶液反応後の中間生成物の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図19】比較例1の黄色の鉄酸化物担持直方五酸化ニオブ材料のリチウムイオン電池レート性能図である。
【
図20】実施例11で得られた鉄酸化物@Nb
2O
5-zの孔径分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下は下記の実施形態を結びつけて、本発明を更に説明する。下記の実施形態は本発明を説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。
【0043】
発明の目的は、現在の市販の電池は高レート作動条件下でパフォーマンスが低下する現状に対して、高レート、高安定性の嵌入式リチウム貯蔵材料と高容量の転換式リチウム貯蔵材料の利点を組み合わせすることにより、高容量、高レート性、高安定性を備える金属酸化物材料及び製造方法を提供することにある。
【0044】
本公開では、電気化学エネルギー貯蔵に使用され、特殊な微細構造を持つ多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は、その粒子が単結晶、準単結晶又は双晶構造であるととともに、結晶内に欠陥、多孔質構造があり、混合原子価金属元素の金属酸化物を含む。その一般的な構造式はMxOy-zであり、そのうち、Mはニオブ、モリブデン、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛等の金属元素のうち一つ又は二つ以上の組合せから選択されるものであり、且つ、xは1≦x≦2であり、yは1≦y≦5であり、zは0.1≦z≦0.9である。電気化学エネルギー貯蔵負極材料の高レート作動条件下での性能不足の課題を解決するために使用することができる。一方、混合原子価金属元素、酸素空孔の存在により材料の電気伝導率を大幅に向上する。一方、大量の欠陥及び多孔質の存在により、材料のイオン輸送性及び電気化学的活性を向上し、表面層及び浅表面層により多くのリチウム貯蔵サイトが発生し、且つ作動中の電極体積変化にバッファーを提供することができる。特殊な微細構造により材料の高電力密度、高安定性を確保する。本発明に記載されている金属酸化物を負極とするリチウムイオン電池を電気自動車等の高電力密度と高安定性を必要とする分野に使用することができる。
【0045】
本公開では、マルチメタル複合酸化物材料は特殊な微細構造を有する。当該特殊な微細構造は、階層的多孔質構造を持つ金属酸化物(MxOy-z、1≦x≦2、1≦y≦5、0.1≦z≦0.9)をベース(担体とも呼ばれる)とし、その他の金属酸化物(AeO f、1≦e≦3、1≦f≦4)はベースのマイクロ孔及びメソ細孔の中及び表面に吸着又は直接成長し、領域限定のため非常に小さいサイズを有する。又は、当該多孔質金属酸化物ベースの電気化学エネルギー貯蔵材料は、二つ又は複数の金属酸化物の組み合わせを更に含み、その構造は特定の多孔質単結晶金属酸化物を主体構造とし、一つ又は複数の別の金属酸化物は領域限定で前記主体構造の金属酸化物の低次元マイクロ・メソ細孔の中に堆積する。そのうち主体構造の金属酸化物は主体金属酸化物(Major metal oxides)であり、対応する金属元素はチタン及びニオブ等であり、主体構造でない金属酸化物はヘテロ金属酸化物(Heterogeneous metal oxides)であり、対応する金属元素は鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、スズのうち少なくとも一つである。好ましくは、主体構造の金属酸化物の対応する金属元素はニオブであり、好ましくは、主体構造でない金属酸化物の対応する金属元素は鉄である。そのうち、ベースの粒子サイズは数十nm~数十μm(例えば10nm~50μm)であり、その結晶構造は秩序正しい単結晶、準単結晶、又は双晶構造であり、その粒子は5組以下の電子回折斑点を有し、明らかな電子回折環がない。且つ、ベース結晶内には無秩序欠陥及び孔穴構造があり、欠陥と孔穴のサイズは主に孔径が≧2nm且つ≦50nmのメソ細孔及び孔径が<2nmのマイクロ孔に分布する。ベースの粒子サイズは基本的にマルチメタル複合酸化物材料と同じである。得られたマルチメタル複合酸化物材料は1グラムあたり数十から数百平方メートルの比表面積を有し、20~500m2/gまで達することもある。
【0046】
本発明において、マルチメタル複合酸化物材料は混合原子価の金属元素を有する。その一般的な構造式はAeOf@MxOy-zであり、そのうち、Aはマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、スズ、亜鉛等、転換式又は合金式リチウム貯蔵機構を有する金属元素のうち一つ又は二つ以上の組合せから選択されるものである。そのうち、Mはニオブ、モリブデン、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、タンタル等、嵌入式リチウム貯蔵機構を有する金属元素のうち一つ又は二つ以上の組合せから選択されるものである。そのうち、Aの原子比率は0.1~20at%(Aの(A+M)に対する原子比率)でも良い。
【0047】
本発明において、カステル地形の形成のメカニズムを参考し、前記金属酸化物材料を製造する方法を開示しており、低酸性、低圧力下で、アルカリ(土類)金属と遷移金属複合酸化物をmicro-etchingマイクロエッチする方法を開発した。具体的に、多成分系金属酸化物NnMxOyを前駆体、他の金属元素Aが溶解している酸性溶液をエッチング剤とし、多段法を利用して、前駆体におけるすべてのNイオン及び一部のMイオンをエッチングして溶解させ、結晶の構造秩序化を維持するとともに大量の欠陥と孔穴を発生させ、且つ、高温反応環境を利用しその場で酸性溶液におけるA元素を酸化物の表面及び孔穴の中に堆積させ、エッチング反応終了後、高温アニール(か焼)を継続し、欠陥と孔が多いA元素酸化物担持金属酸化物AeOf@MxOy-zを製造した。且つ、得られた生成物の化学組成、具体的な形態及び結晶構造は、酸性溶液のA元素の種類及び濃度、並びに前駆体の原子組成、構造及び具体的な反応条件に依存する。このタイプの材料の製造方法は過度の微調整や大量の添加剤がなく、工業的な大量生産の可能性と価値を持っている。
【0048】
以下、マルチメタル複合酸化物材料の製造方法を例示する。
【0049】
多成分系金属酸化物前駆体BaMbOcを製造し、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタン、アルミニウム等の元素のうち一つ又は複数であり、Mはニオブ、チタン、バナジウム、タンタル、モリブデン、タングステン、ジルコニウム等の元素の1つ又は二つ以上の組合せである。そのうち、aは1≦a≦2であり、b1≦b≦8であり、cは3≦c≦17である。その製造方法には高温固相反応法、ゾルゲル法、水熱合成法、共沈法等が含まれているが、これらに限定されない。
【0050】
BaMbOcとAイオンを含有する酸性溶液とを混合させ、混合溶液が得られる。そのうち、Aはマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、スズ、クロム、亜鉛等の金属元素のうち一つ又は複数である。Aイオンの前駆体は塩化物、臭化物、ヨウ化物、シュウ酸塩、硝酸塩、硝酸塩等の可溶性塩のうち一つ又は複数であってもよく、好ましくは、Aの塩化物である。当該Aイオンを含有する酸性溶液における酸は塩酸、硝酸、酢酸、ギ酸、エチレンジアミン四酢酸等の酸のうち一つ又は複数であってもよく、好ましくは、塩酸である。そのうち、Aイオンを含有する酸性溶液の溶媒は、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロパノール、アセトン等の溶媒のうち一つ又は複数であってもよく、好ましくは、水である。当該Aイオンを含有する酸性溶液は、モル比が前駆体の1~50倍の酸の濃度と、モル比が前駆体の1~100倍のAイオンの濃度を有する。換言すれば、多成分系金属酸化物BaMbOcとAイオンとのモル比は1:1~1:100であってもよく、より好ましくは、1:10である。多成分系金属酸化物と酸とのモル比は1:1~1:50の間にあり、好ましくは1:2である。そのうち、Aイオンを含有する酸性溶液におけるAイオンの濃度は0.1~6mol/Lであっても良い。
【0051】
混合溶液に対して多段法で溶解反応及び堆積反応を同時に実行し、当該マルチメタル複合酸化物材料を製造する。
【0052】
まずは、混合溶液を常圧下で50~90℃まで昇温させて1時間~7日間保持し、多成分系金属酸化物表面層及び浅表面層のイオンをエッチングし、当該溶液の酸性により表面層付近のBイオンをゆっくりと溶出するとともに、構造と形態の安定を維持する。濾過して粒子1が得られ、その主相は依然として前駆体であるが、結晶性は低下する。そのうち、80℃まで加熱して2日間保持することが好ましい。
【0053】
次に、粒子1をAイオンを含有する酸性溶液に加え混合させて、混合溶液2が得られ、これは、混合溶液1が長時間保温により濃度が低下し、高濃度の元溶液に交換すると反応しやすくなるためである。そのうち、Aイオンを含有する酸性溶液は、モル比が前駆体の1~50倍の酸の濃度と、モル比が前駆体の1~100倍のAイオンの濃度を有する。Aイオンを含有する酸性溶液におけるAイオンの濃度は0.1~6mol/Lであっても良い。混合溶液2を高温高圧反応容器に移動し、保温温度を100~140℃まで上げて1時間~7日間保温し、エッチング反応の動力学を促進する。反応終了後、濾過して粒子2が得られ、この時、粒子2には少量のエッチング反応の生成物が発生し、前駆体とエッチング生成物とは共存している。好ましくは、130℃まで昇温させて3日間保持する。
【0054】
第三に、粒子2をAイオンを含有する酸性溶液に加え混合させて、混合溶液3が得られ、元溶液に再度加えるのは、長時間の保温反応において混合溶液2の酸の濃度が低下したためである。そのうち、Aイオンを含有する酸性溶液にはモル比が前駆体の1~50倍の酸の濃度と、モル比が前駆体の1~100倍のAイオンの濃度を有する。Aイオンを含有する酸性溶液におけるAイオンの濃度は0.1~6mol/Lであっても良い。最後に、混合溶液3の反応温度を150~220℃まで上げ続けて1時間~7日間保温し、反応動力学を更に促進し、すべてのB元素を溶出し、酸化物表面及び本体に孔穴が形成され、同時に、高温により、溶液におけるA元素が析出し酸化物の表面及び孔穴の内部に堆積するように促進し、固体粒子が得られる。好ましくは、160℃~200℃まで昇温させて3日間保温する。
【0055】
固体粒子を不活性雰囲気、窒素雰囲気、又は真空等の保護雰囲気に置いて高温アニール処理し、マルチメタル複合酸化物材料が得られる。そのうち、不活性雰囲気はHe、Ne、Arのうち一つ又は二つ以上の組合せである。アニール温度は400~1000℃であり、アニール時間は1~24時間であり、好ましくは、アニール温度は600℃であり、アニール時間は8時間である。
【0056】
本発明において、得られた特殊な微細構造を持つマルチメタル複合酸化物材料は、嵌入式機構の電極材料の高レート及び高安定特性と、合金式/転換式機構の電極材料の高容量特性を兼ね備え、電気化学エネルギー貯蔵装置の電極材料として使用でき、電気化学エネルギー貯蔵負極材料の高レート作動条件下での性能不足の課題を解決するために使用できる。一方、混合原子価金属元素M、酸素空孔の存在により電気伝導率を大幅に向上する。第二、大量の欠陥及び多孔質の存在により、材料のイオン輸送性及び電気化学的活性を向上し、表面層及び浅表面層にはより多くのリチウム貯蔵サイトが発生し、且つ作動中の電極体積変化にバッファーを提供することができ、同時に、高容量金属酸化物材料は高レート、高安定性の金属酸化物に担持され、2種類の材料の利点を兼ね備える。特殊な微細構造により材料の高電力密度、高安定性を確保する。
【0057】
[サンプル特徴付け]
【0058】
走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を利用してサンプルの形態及び超微細構造の情報を収集し、X線回折装置を利用してサンプルの構造情報を収集し、比表面積測定装置を利用してサンプルの細孔構造情報を収集し、総合物性測定システムを利用してサンプルの導電率を測定し、LAND電池テストシステムを利用してサンプルの電極性能を特徴付ける。
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。下記の実施例は本発明に対する更なる説明に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではなく、当業者が本発明の上記内容に基づいてなされる非本質的な改良と変更は共に本発明の保護範囲に属する。下記の例における具体的な工程変量なども適合範囲内の一例に過ぎず、即ち、当業者が本発明の説明に基づいて適当な範囲内で選択できるものであり、下記例の具体的な数値に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
ゾルゲル法で合成されたSrCa1/3Nb2/3O3前駆体をモル比が10倍の塩酸水溶液に加え、攪拌しながら80℃で2日間保温し、粒子を濾過してモル比が10倍の塩酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて130℃で3日間反応させ、粒子を濾過し、最後に、モル比が10倍の塩酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて180℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのストロンチウムイオン、カルシウムイオンと一部のニオブイオンは塩酸溶液により溶出され、塩酸溶液における水素イオンは結晶構造に取り込まれ、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた白色の中間生成物はニオブ酸粒子HNbO3である。得られたニオブ酸粒子をアルゴン雰囲気下、それぞれ700℃及び800℃で4時間か焼する。灰色の直方五酸化ニオブ材料Nb2O5-zが得られる。
【0061】
図1から、本発明に記載の方法によって製造された粒子は、サイズ及び形状が明らかに変化していないことが分かり、反応は、溶解と再結晶のプロセルでなく、酸エッチングの仮定に従って進行したことを証明した。
図2に示すように、ニオブ酸と五酸化ニオブ結晶内には大量の欠陥、孔穴があり、最終生成物Nb
2O
5-z粒子のサイズは約50nmであり、構造は秩序正しい単結晶であり、且つ、結晶内部には大量の無秩序欠陥と孔穴がある。
図3の粉末X線回折パターンを対応する物質のXRD標準カードと比較することで、前駆体SrCa
1/3Nb
2/3O
3、エッチング反応によって得られたHNbO
3及び最終生成物の直方Nb
2O
5-zが分かった。
図4aから、最終生成物Nb
2O
5-zは前駆体SrCa
1/3Nb
2/3O
3と比較すると、2~7nm範囲での細孔容積が明らかに増加したことが分かり、生成物には7nm以下の孔穴が大量形成されたことを示している。
図4bから、エッチング反応で得られたニオブ酸の比表面積と細孔容積が最も大きいことが分かり、エッチング反応においてサンプルの粒子には多くの孔穴が形成されたことを示している。アニールした後、比表面積と細孔容積が減少し、アニール温度が高いほど、減少幅が大きくなり、アニールプロセスで粒子が焼結されて比表面積と細孔容積が減少することを示している。
図5bに示すように、X線光電子スエネルギースペクトル測定により、アニールされたサンプルNb
2O
5-xはNbがNb
4+/Nb
5+の二つの原子価を持つことが分かった。
図5aに示すように、導電率試験により、本発明の方法によって製造されたNb
2O
5-zの導電率はゾルゲル法で製造されたNb
2O
5よりも約1万倍10,000x向上したことが分かり、導電率の向上は、優れた電気化学エネルギー貯蔵能力を発揮することに非常に有利である。本発明に記載の方法で製造された五酸化ニオブのレート性能が大幅に向上し、(0.5C: 253mAhg
-1、25C: 187mAhg
-1、100C: 130mAhg
-1)まで達し、リチウムイオン電池用の高出力負極材料のリーダーとなる。
【0062】
[実施例2]
ゾルゲル法で合成されたLiNbO3をモル比が3倍の塩酸水溶液に加え、80℃で攪拌しながら2日間保温し、粒子を濾過してモル比が3倍の塩酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて110℃で3日間反応させ、粒子を濾過し、最後に、モル比が3倍の塩酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて150℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのリチウムイオンと一部のニオブイオンは塩酸溶液により溶出され、塩酸溶液における水素イオンは結晶構造に取り込まれ、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた白色の中間生成物はニオブ酸粒子HNbO3である。得られたニオブ酸粒子をアルゴン雰囲気下、800℃で4時間か焼する。単斜晶相五酸化ニオブ材料Nb2O5-zが得られる。
【0063】
[実施例3]
【0064】
ゾルゲル法で合成されたSrMoO4をモル比が3倍の塩酸水溶液に加え、80℃で攪拌しながら2日間保温し、粒子を濾過してモル比が3倍の塩酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて110℃で3日間反応させ、粒子を濾過し、最後に、モル比が3倍の塩酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて200℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのストロンチウムイオンと一部のモリブデンイオンは塩酸溶液により溶出され、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた白色の中間生成物は無定形構造のモリブデン酸化物粒子である。得られた粒子を真空中、600℃で4時間か焼する。三酸化モリブデン材料MoO3-zが得られる。
【0065】
[実施例4]
高温固相反応法で合成されたK2TiO3をモル比が5倍の塩酸水溶液に加え、90℃で攪拌しながら3日間保温し、粒子を濾過してモル比が5倍の硝酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて140℃で3日間反応させ、粒子を濾過し、最後に、モル比が5倍の硝酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて200℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのカリウムイオンと一部のチタンイオンは硝酸溶液により溶出され、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた白色の中間生成物は無定形構造のチタン酸化物粒子である。得られた粒子を真空中、600℃で4時間か焼する。二酸化チタン材料TiO2-zが得られる。
【0066】
[実施例5]
高温固相反応法で合成されたLaFeO3をモル比が3倍のギ酸水溶液に加え、80oCで攪拌しながら3日間保温し、粒子を濾過してモル比が3倍のギ酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて130oCで3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのランタンイオンと一部の鉄イオンはギ酸溶液により溶出され、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた暗赤色の中間生成物は酸化鉄粒子である。得られた粒子をアルゴン雰囲気中、600℃で4時間か焼する。三酸化鉄材料Fe2O3-zが得られる。
【0067】
[実施例6]
高温固相反応法で合成されたSrTiO3をモル比が5倍の塩酸エタノール溶液に加え、60℃で攪拌しながら3日間保温し、粒子を濾過してモル比が5倍の硝酸エタノール溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて120℃で3日間反応させ、粒子を濾過し、最後に、モル比が5倍の硝酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて150℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのストロンチウムイオンは酸性溶液により溶出され、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた白色の中間生成物はルチル相チタン酸化物粒子である。得られた粒子をアルゴン中、700℃で4時間か焼する。二酸化チタン材料TiO2-zが得られる。
【0068】
[実施例7]
高温固相反応法で合成されたK2Ti8O17をモル比が5倍のギ酸水溶液に加え、60℃で攪拌しながら3日間保温し、粒子を濾過してモル比が5倍のギ酸水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて130℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるカリウムイオンは酸性溶液により溶出され、反応終了後、減圧し濾過しその中の沈殿物を分離し、得られた白色の中間生成物はアナターゼチタン酸化物粒子である。得られた粒子をアルゴン中、500℃で4時間か焼する。二酸化チタン材料TiO2-zが得られる。
【0069】
[実施例8]
本実施例8では、実施例1で得られた直方五酸化ニオブ材料を使用してリチウムイオン電池を製造し、電気化学性能試験を実施する。
【0070】
実施例1で得られた五酸化ニオブ材料、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデンを質量比8:1:1でスラリーを調製し、スラリーを均一に銅箔に塗布し乾燥させ、円形の電極シートを切り出して正極とし、金属リチウムシートを負極とし、濃度が1molL-1のLiPF6溶液(溶媒は質量比が1:1:1の炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルからなる混合溶媒である)を電解液とし、Whatman多孔質ポリプロピレン膜を薄膜とし、CR2016電池ケースを使用して、ボタン型リチウムイオン電池を組み立てる。
【0071】
実施例1の五酸化ニオブ材料を正極として製造されたボタン型リチウムイオン電池に対して、充放電電圧の範囲は1~3V、温度が20±5℃の条件下で、充放電レート性能試験、及び長時間サイクル性能試験を実施する。性能試験の結果を
図6に示す。
【0072】
そのレート性能は0.5C: 253mAhg-1、25C: 187mAhg-1、100C: 130mAhg-1であり、高速充放電下で容量維持率に優れていることが分かった。同時に、長時間サイクル安定性に優れており、25Cの高レートで4000回サイクルした後も、93%の電池容量を維持することができ、ほとんどの市販の負極材料よりも優れている。
【0073】
[実施例9]
本実施例9では、実施例2で得られた単斜晶相五酸化ニオブ材料を使用してリチウムイオン電池を製造し、電気化学性能試験を実施する。
【0074】
実施例7で得られた二酸化チタン材料、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデンを質量比8:1:1でスラリーを調製し、スラリーを均一に銅箔に塗布し乾燥させ、円形の電極シートを切り出して正極とし、金属リチウムシートを負極とし、濃度が1molL-1のLiPF6溶液(溶媒は質量比が1:1:1の炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルからなる混合溶媒である)を電解液とし、Whatman多孔質ポリプロピレン膜を薄膜とし、CR2016電池ケースを使用して、ボタン型リチウムイオン電池を組み立てる。
【0075】
リチウムイオン電池の比容量は245mAh/gまで高く、Nb
4+/Nb
+5の理論上の限界値200mAhg
-1とLi
4Ti
5O
12の175mAhg
-1よりも遥かに優れている。50Cの条件で4000回サイクルをした後の容量は170mAhg
-1となり(即ち50C@170mAhg
-1)、100C@152mAhg
-1、150C@116mAhg
-1、200C@88mAhg
-1、容量及びレート性能は共にLi
4Ti
5O
12よりも遥かに優れている。性能試験の結果及び一般的な負極材料との性能比較を
図7に示す。
【0076】
[実施例10]:
実施例10では、実施例7で得られた二酸化チタン材料を使用してリチウムイオン電池を製造し、電気化学性能試験を実施する。
【0077】
実施例7で得られた二酸化チタン材料、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデンを質量比8:1:1でスラリーを調製し、スラリーを均一に銅箔に塗布し乾燥させ、円形の電極シートを切り出して正極とし、金属リチウムシートを負極とし、濃度が1molL-1のLiPF6溶液(溶媒は質量比が1:1:1の炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルからなる混合溶媒である)を電解液とし、Whatman多孔質ポリプロピレン膜を薄膜とし、CR2016電池ケースを使用して、ボタン型リチウムイオン電池を組み立てる。
【0078】
実施例7の二酸化チタン材料を正極として製造されたボタン型リチウムイオン電池に対して、充放電電圧の範囲が0.01~3V、温度が20±5℃の条件下で、充放電レート性能試験、及び長時間サイクル性能試験を実施する。リチウム電池の可逆容量は355mAhg
-1まで高く、120Cの充放電レートで105mAhg
-1となる。サイクル安定性に優れており、30Cレートで3000回サイクルした後も144mAhg
-1を維持し、60Cの充放電レートで3000回サイクルした後も109mAhg
-1を維持する。性能試験の結果を
図8に示す。
【0079】
[実施例11]
ゾルゲル法で合成されたLiNbO
3前駆体をモル比が10倍のFeCl
3、モル比が2倍のHClが溶解している水溶液に加え、90℃で攪拌しながら2日間保温する。粒子1を濾過して、上記のモル比が10倍のFeCl
3(1.6mol/L)、モル比が2倍のHClが溶解している水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて130℃で3日間反応させる。粒子2を濾過し、最後に、モル比が10倍のFeCl
3、モル比が2倍のHClが溶解している水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて160℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料における全てのリチウムイオンと一部のニオブイオンは塩酸溶液により溶出され、塩酸溶液における水素イオンは結晶構造に取り込まれ、溶液における鉄イオンは析出し結晶の表面及び孔穴の中に堆積し、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られる黄色の中間生成物は鉄酸化物担持ニオブ酸粒子Fe@HNbO
3である。得られたニオブ酸粒子をアルゴン雰囲気下、700℃で4時間か焼し、黒色の鉄酸化物(鉄は主に3価であり、Fe原子総量の約1%-5%を占める少量のFeは2価に還元される)担持単斜晶相五酸化ニオブ材料、即ち鉄酸化物@Nb
2O
5-zが得られ、zはz=0.375である。鉄酸化物@Nb
2O
5-zにおけるFeの原子比率は10at%である。得られた鉄酸化物@Nb
2O
5-zの比表面積は約61.2m
2/gである。
図17のbを参照すると、FeCl
3の濃度はそれぞれ0.16mol/L、0.5mol/L、0.8mol/Lである場合、得られた鉄酸化物@Nb
2O
5-zにおけるFeの原子比率はそれぞれ0.1at%、2.7at%及び4.1at%である。且つ、FeCl3の濃度が高くなると、そのFe原子比率は次第に増加し、得られたリチウムイオン電池の容量は次第に大きくなり、
図17のaを参照する。本実施例11で得られた鉄酸化物@Nb2O5-zの性能データについて、特に断りのない限り、一般的に、Fe原子比率が10at%の鉄酸化物をベースとする@Nb
2O
5-z生成物。
【0080】
図10から、本発明に記載されるFe@HNbO
3と鉄酸化物@Nb
2O
5-zは結晶内に大量の欠陥、孔穴があり、最終生成物の鉄酸化物@Nb
2O
5-zは、粒子サイズが約50nmであり、構造が秩序正しい単結晶であり、且つ結晶内部には無秩序欠陥と孔穴があり、孔径分布の分析は、
図20に示すように、多くの孔径は2nm以下及び20~30nmに集中する。
図11のX線回折パターンを対応物質のXRD標準カードと比較することで、前駆体LiNbO
3、エッチング反応によって得られたFe@HNbO
3及び最終生成物の鉄酸化物@Nb
2O
5-zが分かった。
図12のaは、鉄酸化物@Nb
2O
5-zの直線走査ボルタンメトリー曲線を示し、この方法に基づいて鉄酸化物@Nb
2O
5-z及び比較サンプルのNb
2O
5の導電率を計算し、
図12のb では、両方の導電率の比較があり、本発明の方法で製造された鉄酸化物@Nb
2O
5-zの導電率はゾルゲル法で製造されたNb
2O
5よりも数百倍400x高いことが見出され、導電率の向上は、優れた電気化学エネルギー貯蔵能力を発揮することに非常に有利である。
図13では、本発明に記載の方法によって製造された鉄酸化物担持五酸化ニオブはレート性能は大幅に向上し、(0.5C: 347mAhg
-1、25C: 307mAhg
-1、100 C: 248mAhg
-1)に達することが分かり、リチウムイオン電池高出力負極材料のリーダーとなる。
【0081】
[実施例12]
ゾルゲル法で合成されたLiNbO3をモル比が5倍のCr3+、モル比が3倍の塩酸が溶解している水溶液に加え、80℃で攪拌しながら2日間保温する。粒子1を濾過して、モル比が5倍のCr3+(0.8mol/L)、モル比が3倍のHClが溶解している水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて110℃で3日間反応させる。粒子2を濾過し、最後に、上記のモル比が5倍のCr3+、モル比が3倍のHClが溶解している水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて150℃で5日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのリチウムイオンと一部のニオブイオンは溶液により溶出され、溶液における水素イオンは結晶構造に取り込まれ、溶液におけるクロムイオンは析出し酸化物粒子に堆積し、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた緑色の中間生成物はクロム担持ニオブ酸粒子Cr@HNbO3である。製造されたニオブ酸粒子をアルゴン雰囲気下、800℃で4時間か焼する。得られたクロム酸化物(Cr2O3)担持単斜晶相五酸化ニオブ材料、即ちCr酸化物@Nb2O5-zが得られ、そのうち、zはz=0.45である。Cr酸化物@Nb2O5-zにおけるCrの原子比率は4.8at%である。得られたCr酸化物@Nb2O5-zの比表面積は約42.5m2/gである。
【0082】
[実施例13]
ゾルゲル法で合成されたSrMoO4をモル比が5倍のFe3+、モル比が1倍のHClが溶解している水溶液に加え、80℃で攪拌しながら2日間保温する。粒子を濾過して、上記のモル比が5倍のFe3+(0.5mol/L)、モル比が1倍のHClが溶解している水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて110℃で3日間反応させる。粒子を濾過し、最後に、上記のモル比が5倍のFe3+、モル比が1倍のHClが溶解している水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて200℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのストロンチウムイオンと一部のモリブデンイオンは塩酸溶液により溶出され、溶液における鉄イオンは析出し酸化物粒子に堆積し、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた黄色の中間生成物は無定形構造のモリブデン酸化物粒子である。製造された粒子を真空中、600℃で4時間か焼する。鉄酸化物(Feは主に3価であり、約1-5%の少量のFeは2価に還元される)@MoO3-zが得られる。鉄酸化物@MoO3-zにおけるFeの原子比率は7.1at%である。得られた鉄酸化物@MoO3-zの比表面積は約48.2m2/gである。
【0083】
[実施例14]
高温固相反応法で合成されたK2TiO3をモル比が5倍のFe3+、モル比が1倍のHNO3が溶解している水溶液に加え、90℃で攪拌しながら3日間保温する。粒子1を濾過して、上記のモル比が5倍のFe3+(0.7mol/L)、モル比が1倍のHNO3が溶解している水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて140℃で3日間反応させる。粒子2を濾過し、最後に、上記のモル比が5倍のFe3+、モル比が1倍のHNO3が溶解している水溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて200℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるすべてのカリウムイオンと一部のチタンイオンは硝酸溶液により溶出され、溶液における鉄イオンは析出し酸化物粒子に堆積し、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた黄色の中間生成物は無定形構造のチタン酸化物粒子である。製造された粒子を真空中、600℃で4時間か焼する。鉄酸化物(Fは主に3価であり、約1-5%の少量のFeは2価に還元される)担持二酸化チタン材料、即ち鉄酸化物@TiO2-zが得られる。鉄酸化物@TiO2-zにおけるFeの原子比率は3.2at%。得られた鉄酸化物@TiO2-zの比表面積は約80.5m2/gである。
【0084】
[実施例15]
高温固相反応法で合成されたSrTiO3をモル比が5倍のCoCl2、モル比が2倍のHClが溶解しているエタノール溶液に加え、60℃で攪拌しながら3日間保温する。粒子1を濾過して、上記のモル比が5倍のCoCl2(0.6mol/L)、モル比が2倍のHClが溶解しているエタノール溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて120℃で3日間反応させる。粒子2を濾過し、最後に、上記のモル比が5倍のモル比CoCl2、モル比が2倍のHClが溶解しているエタノール溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて150℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるストロンチウムイオンは溶液により溶出され、溶液におけるコバルトイオンは析出し酸化物粒子に堆積し、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られたピンク色の中間生成物はルチル相チタン酸化物粒子である。製造された粒子をアルゴン中、700℃で4時間か焼すする。コバルト酸化物担持二酸化チタン材料、即ちCo酸化物@TiO2-zが得られ、zはz=0.61である。Co酸化物@TiO2-zにおけるCoの原子比率は2.8at%である。得られたCo酸化物@TiO2-zの比表面積は約46.7m2/gである。
【0085】
[実施例16]
高温固相反応法で合成されたK2Ti8O17をモル比が2倍のNiCl2、モル比が2倍のHClが溶解しているエタノール溶液に加え、60℃で攪拌しながら3日間保温する。粒子1を濾過して、モル比が5倍のNiCl2(0.16mol/L)、モル比が2倍のHClが溶解しているエタノール溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて130℃で3日間反応させる。濾過して粒子2が得られる。最後に、粒子2を上記のモル比が5倍のNiCl2、モル比が2倍のHClが溶解しているエタノール溶液に再度加え、混合体系を高温高圧反応容器に入れて180℃で3日間反応させると、中間生成物が得られる。反応中、原料におけるカリウムイオンは溶液に溶出され、溶液におけるニッケルイオンは析出し酸化物粒子に堆積し、反応終了後、減圧し濾過してその中の沈殿物を分離し、得られた緑色の中間生成物はアナターゼチタン酸化物粒子である。製造された固体粒子をアルゴン中、500℃で4時間か焼する。Ni酸化物@TiO2-zが得られ、zはz=0.52である。Ni酸化物(NiO)@TiO2-zにおけるNiの原子比率は4at%である。得られたNi酸化物@TiO2-zの比表面積は約80.7m2/gである。
【0086】
[実施例17]:
本実施例17では、実施例11で製造された鉄担持五酸化ニオブ材料を使用してリチウムイオン電池を製造し、電気化学性能試験を実施する。
【0087】
実施例11で製造された鉄酸化物担持五酸化ニオブ材料、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデンを質量比8:1:1でスラリーを調製し、スラリーを均一に銅箔に塗布して乾燥させ、円形の電極シートを切り出して正極とし、金属リチウムシートを負極とし、濃度が1molL-1のLiPF6溶液(溶媒は質量比が1:1:1の炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルからなる混合溶媒である)を電解液とし、Whatman多孔質ポリプロピレン膜を薄膜とし、CR2016電池ケースを使用して、ボタン型リチウムイオン電池を組み立てる。
【0088】
実施例11の鉄酸化物担持五酸化ニオブ材料を正極として製造されたボタン型リチウムイオン電池に対し、充放電電圧の範囲が1~3V、温度が20±5℃の条件下で、充放電レート性能試験、及び長時間サイクル性能試験を実施する。性能試験の結果及び比較サンプルとの比較結果は
図13に示されている。そのレート性能は0.5C: 347mAhg
-1、25C: 307mAhg
-1、100C: 248mAhg
-1であり、高速充放電下で容量維持率に優れていることが分かった。高レート性能はほとんどの負極材料よりも優れている。
【0089】
[実施例18]:
本実施例18では、実施例12で製造されたクロム酸化物担持五酸化ニオブ材料を使用してリチウムイオン電池を製造し、電気化学性能試験を実施する。
【0090】
実施例12で製造されたクロム酸化物担持五酸化ニオブ材料、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデンを質量比8:1:1でスラリーを調製し、スラリーを均一に銅箔に塗布して乾燥させ、円形の電極シートを切り出して正極とし、金属リチウムシートを負極とし、濃度が1molL-1のLiPF6溶液(溶媒は質量比が1:1:1の炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルからなる混合溶媒である)を電解液とし、Whatman多孔質ポリプロピレン膜を薄膜とし、CR2016電池ケースを使用して、ボタン型リチウムイオン電池を組み立てる。
【0091】
リチウム電池の比容量は331mAh/gまで高く、Nb
4+/Nb
5+の理論上の限界値200mAhg
-1とLi
4Ti
5O
12の175mAhg
-1よりも遥かに優れている。208mAhg
-1@100C、136mAhg
-1@250Cで、容量とレート性能は共に無担持Nb
2O
5-z及び一般的なレート式電極材料Li
4Ti
5O
12よりも遥かに優れている。5C、10Cでのレート性能と一般的な負極材料との比較は
図14に示されている。
【0092】
[比較例1]
本比較例1では、ゾルゲル法で合成されたLiNbO
3前駆体をモル比が10倍のFeCl
3(1.6mol/L)、モル比が2倍のHClが溶解している水溶液に加え、攪拌しながら90℃で2日間保温し、そして、高温高圧反応容器に入れて130℃で3日間反応させ、160℃まで昇温させて3日間反応させると、中間生成物が得られる。この時、中間生成物には実施例11に示される多孔質単結晶構造、サイズが約30~50nmの単斜晶相五酸化ニオブが含まれず、規則正しい六角形の形態を持つ直方五酸化ニオブが生成され、形態は
図17に示されている。これは、特殊な反応機構によるものである。具体的に、実施例11では、3段階の溶液反応の開始時に高濃度の溶液に加え、高い酸濃度により、前駆体におけるLiイオンが3段階反応において結晶表面層から内部まで連速的に溶出されることを確保し、最後に多孔質単結晶の構造が得られる。比較例1では、最初の溶液反応の開始時のみに高濃度の溶液に加え、溶液の酸性度は反応時間とともに低下し、前駆体におけるLiの連続溶出を妨げ、最終的に第3段階の高温反応時にLi溶出の反応動力学は好ましくなく、前駆体の溶解―再結晶プロセスとなる。形態が大きく変化しサイズが百倍以上(約10μm)大きくなる直方五酸化ニオブ結晶が形成され、多孔質構造がなく、鉄イオンがその表面に堆積する。最後に、製造された固体粒子をアルゴン雰囲気下、700℃で4時間か焼し、黄色の鉄酸化物担持直方五酸化ニオブ材料、即ち鉄酸化物@Nb
2O
5(酸素欠乏酸化ニオブでない)が得られ、比表面積が15.1m2/gである。各工程の反応が終了した後、新たなAイオンを含有する酸性溶液に再度加えないため、得られた材料は、溶解―再結晶プロセスによる生成物であり、孔穴がなく規則正しい形態を持つ五酸化ニオブ結晶であり、鉄酸化物は孔穴内でなくその表面に単純に担持され、性能に劣り、
図19に示されている。本比較例1のリチウムイオン電池の製造プロセスについて実施例17を参照する。