(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカー
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20230807BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20230807BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
C12M1/34 F
C07K16/30 ZNA
G01N33/574 A
(21)【出願番号】P 2021115619
(22)【出願日】2021-07-13
(62)【分割の表示】P 2017555007の分割
【原出願日】2016-11-22
【審査請求日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2015242679
(32)【優先日】2015-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷内 恵介
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】Hum. Pathol.,2007年,Vol.38,pp.359-364
【文献】J. Am. Coll. Surg.,2013年,Vol. 216,pp.657-665
【文献】Oncol. Lett.,2013年,Vol. 5,pp.1819-1825
【文献】Br. J. Surg.,2011年,Vol. 98,pp.104-110
【文献】J. Am. Soc. Nephrol.,2009年,Vol. 20,pp.1669-1676
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポドカリキシン様タンパク質に対する抗体を含む、血液試料
を用いて膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍
を診断するためのキット。
【請求項2】
さらに、CA19-9に対する抗体を含む、請求項1記載のキット。
【請求項3】
血液試料が血清試料である、請求項1又は2記載のキット。
【請求項4】
膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍を評価することを補助するための方法であって、
ポドカリキシン様タンパク質の血液試料中の濃度を測定する工程を含み、
非膵がん患者の血液試料中の濃度と比較して、測定したポドカリキシン様タンパク質の濃度が高いことが、膵がん又は膵管内乳頭粘液性腫瘍を有することを示す、
前記方法。
【請求項5】
さらに、CA19-9の血液試料中の濃度を測定する工程を含み、
非膵がん患者の血液試料中の濃度と比較して、測定したCA19-9の濃度が高いことが、膵がん又は膵管内乳頭粘液性腫瘍を有することを示す、
請求項4記載の方法。
【請求項6】
血液試料が血清試料である、請求項4又は5記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍に対して高い感度と特異性を示すマーカー、当該マーカーを検出するための膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断キット、並びに、当該マーカーを利用して膵がん細胞の転移を評価するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「腫瘍」とは異常に増殖した細胞を指し、その異常増殖の原因が消失あるいは取り除かれても細胞の増殖が持続する状態をいう。腫瘍の中でも良性腫瘍は腫瘍の増殖が遅く、転移はしない。よって、一般的には切除すれば問題は無く、たとえ切除せずに放置しておいても命に別状はないといえる。一方、悪性腫瘍、即ちがんは、良性腫瘍とは異なり急速に増殖する上に、リンパ節や他の臓器に転移して増殖する。よって、例えば外科的手術により除去しても、僅かにでも残留したがん細胞や、既にリンパ節や他の臓器に転移していたがん細胞が再び増殖を開始することがある。よって、がんはいったん治療が終了した後の予後が悪く、各がんにおいては5年後生存率が調査されており、一般的に、治療により癌が消失したとされてから5年経過後までに再発がない場合がようやく治癒と見なされる。
【0003】
膵がんは、がんの中で最も予後が悪いといわれている。その原因としては、膵臓が後腹膜臓器であるために早期発見が困難であることに加え、膵がん細胞の運動性がきわめて高いため、例えば2cm以下の小さながんであっても、周囲の血管、消化管、神経などへすぐに浸潤し、また、近くのリンパ節に転移したり、肝臓などへ遠隔転移したりすることが挙げられる。よって、膵がんの進行を評価することは非常に重要である。
【0004】
がんを診断するには生体検査が正確であるが、生体検査は患者に苦痛を与える。そこで一般的には、予備的にがんマーカーを用いた検査が行われる。がんマーカーとは、がんにより生体内で特異的に産生される物質であり、その体液中量を測定することによりがんの進行を評価することができる。例えば膵がんマーカーとしては、約30年前からがん細胞で特異的に発現する異常糖鎖であるCA19-9が用いられており、未だCA19-9に勝る膵がんマーカーは実用化されていない。
【0005】
しかし、特に早期膵がんの診断ではCA19-9は感度が低く、有用性が低いという問題がある。そこで、より優れたがんマーカーの探索が行われている。例えば特許文献1には、特定のタンパク質からなる膵がんマーカーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、膵がんマーカーとしてはCA19-9が実際の臨床で用いられているが、CA19-9は特に早期膵がんに対する感度が低いため、CA19-9にとって代わる膵がんマーカーが求められている。
【0008】
また、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)という疾患がある。膵管内乳頭粘液性腫瘍は放置しておくと悪性腫瘍化するので、腺腫の段階で外科的に除去する必要があるが、膵管内乳頭粘液性腫瘍に対する血清診断マーカーはなく、CA19-9の血清濃度も上昇しないことが多い。このため、膵管内乳頭粘液性腫瘍に対する血清診断マーカーの開発も望まれている。
【0009】
そこで本発明は、膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍に対して高い感度と特異性を示すマーカーを提供することを目的とする。また、本発明は、当該マーカーを検出する膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断キット、並びに、当該マーカーを利用して膵がんの転移を評価するための方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、膵がん細胞の浸潤に必須である葉状仮足に集積するタンパク質として糖タンパク質であるセクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2とポドカリキシン様タンパク質を同定し、これら糖タンパク質が膵がん細胞から細胞外へ放出されることから膵がんのマーカーとして有用であり、また、膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカーとしても有用であることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
以下、本発明を示す。
【0012】
[1] セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2およびポドカリキシン様タンパク質からなる群より選択される1以上のタンパク質を含むことを特徴とする膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカー。
【0013】
[2] 上記セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2が、下記の(1)~(3)の何れかのアミノ酸配列を有する上記[1]に記載の膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカー。
【0014】
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1以上、5以下のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
【0015】
[3] 上記ポドカリキシン様タンパク質が、下記の(4)~(6)の何れかのアミノ酸配列を有する上記[1]または[2]に記載の膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカー。
【0016】
(4)配列番号2に記載のアミノ酸配列;
(5)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1以上、25以下のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列;
(6)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
【0017】
[4] さらに、CA19-9を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカー。
【0018】
[5] セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2およびポドカリキシン様タンパク質からなる群より選択される1以上のタンパク質に対する抗体を含むことを特徴とする膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断キット。
【0019】
[6] さらに、CA19-9に対する抗体を含む上記[5]に記載の膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断キット。
【0020】
[7] 膵がん細胞及び膵管内乳頭粘液性腫瘍細胞の転移を評価するための方法であって、
セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2およびポドカリキシン様タンパク質からなる群より選択される1以上のタンパク質の試料中の濃度を測定する工程を含むことを特徴とする方法。
【0021】
[8] 膵がん細胞及び膵管内乳頭粘液性腫瘍細胞を診断するための方法であって、
セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2およびポドカリキシン様タンパク質からなる群より選択される1以上のタンパク質の試料中の濃度を測定する工程を含むことを特徴とする方法。
【0022】
[9] 上記セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2が、下記の(1)~(3)の何れかのアミノ酸配列を有する上記[8]に記載の方法。
【0023】
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1以上、5以下のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
【0024】
[10] 上記ポドカリキシン様タンパク質が、下記の(4)~(6)の何れかのアミノ酸配列を有する上記[8]または[9]に記載の方法。
【0025】
(4)配列番号2に記載のアミノ酸配列;
(5)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1以上、25以下のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列;
(6)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
【0026】
[11] さらに、CA19-9の試料中の濃度を測定する工程を含む上記[8]~[10]のいずれかに記載の方法。
【0027】
[12] 膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカーとしての、セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2およびポドカリキシン様タンパク質からなる群より選択される1以上のタンパク質の使用。
【0028】
[13] 上記セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2が、下記の(1)~(3)の何れかのアミノ酸配列を有する上記[12]に記載の使用。
【0029】
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1以上、5以下のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
【0030】
[14] 上記ポドカリキシン様タンパク質が、下記の(4)~(6)の何れかのアミノ酸配列を有する上記[12]または[13]に記載の使用。
【0031】
(4)配列番号2に記載のアミノ酸配列;
(5)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1以上、25以下のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列;
(6)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
【0032】
[15] さらに、CA19-9を併用する上記[12]~[14]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカーは、膵がん細胞に特徴的な葉状仮足に集積する特定の糖タンパク質を含む。本発明者は、当該糖タンパク質が膵がん細胞の運動性や浸潤にも直接関与していることと、細胞外に分泌されることを実験的に見出している。膵がんは早期から浸潤・転移傾向が強いため、膵がん細胞の運動性や浸潤性に関与する本発明に係るタンパク質は、早期の膵がんも検出できる可能性がある。また、本発明者は、当該糖タンパク質が膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断にも有効であることを見出した。よって、本発明に係る膵がん及び膵管内乳頭粘液性腫瘍のマーカーは、高い感度と特異性をもって膵がんの進行や膵管内乳頭粘液性腫瘍の有無を評価できることから、CA19-9など従来の腫瘍マーカーにとって代わり得るものであるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、S2-013細胞のSCGB1D2、PODXLおよびアクチンを免疫染色した結果を示す写真である。
【
図2】
図2は、S2-013細胞の培養液とライセートにおけるSCGB1D2、PODXL、CD63およびGAPDHをウェスタンブロット法で検出した結果を示す電気泳動写真である。
【
図3】
図3は、膵がん患者群とコントロール群の血清試料中のSCGB1D2濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、膵がん患者群とコントロール群の血清試料中のPODXL濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)患者群および膵がんステージ別の血清試料中のSCGB1D2濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、IPMN患者群および膵がんステージ別の血清試料中のPODXL濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、膵がん患者群とコントロール群間でのSCGB1D2およびCA19-9の測定値の感度-特異度グラフである。
【
図8】
図8は、膵がん患者群とコントロール群間でのPODXLおよびCA19-9の測定値の感度-特異度グラフである。
【
図9】
図9は、膵がん患者群+IPMN患者群とコントロール群間でのSCGB1D2およびCA19-9の測定値の感度-特異度グラフである。
【
図10】
図10は、膵がん患者群+IPMN患者群とコントロール群間でのPODXLおよびCA19-9の測定値の感度-特異度グラフである。
【
図11】
図11は、膵がん患者群とコントロール群間でのSCGB1D2+PODXLおよびCA19-9単独の測定値の感度-特異度グラフである。
【
図12】
図12は、膵がん患者群とコントロール群間でのSCGB1D2+PODXL+CA19-9およびCA19-9単独の測定値の感度-特異度グラフである。
【
図13】
図13は、膵がん患者群+IPMN患者群とコントロール群間でのSCGB1D2+PODXLおよびCA19-9単独の測定値の感度-特異度グラフである。
【
図14】
図14は、膵がん患者群+IPMN患者群とコントロール群間でのSCGB1D2+PODXL+CA19-9およびCA19-9単独の測定値の感度-特異度グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
1. 膵がん及びIPMNのマーカー
本発明に係る膵がん及びIPMNのマーカーは、セクレトグロビン,ファミリー1D,メンバー2(secretoglobin,family 1D,member 2,以下、「SCGB1D2」と略記する)およびポドカリキシン様タンパク質(podocalyxin-like protein,以下、「PODXL」と略記する)からなる群より選択される1以上のタンパク質である。当該タンパク質を検出対象とすることにより、高い感度と特異性をもって膵がんの進行やIPMNの有無を評価することができる。
【0036】
本発明において上記「感度」とは、膵がん及びIPMNに対する感度であって、例えば、上記タンパク質を検出対象とした場合に膵がん患者およびIPMN患者が陰性と判断される確率が低いことをいう。また、本発明において上記「特異性」とは、膵がん及びIPMNに対する特異性であって、上記タンパク質の量と膵がん及びIPMNの有無との間に強い相関性がある一方で、上記タンパク質の量が、良性疾患や、膵がん及びIPMN以外のがんとの相関性が無いか或いは低いことをいう。
【0037】
本発明マーカーは膵がんを対象とする。膵がんのステージ分類には日本膵臓学会の膵癌取扱い規約と国際的なUICC分類といった2つの分類法がある。本発明では、日本で一般的に用いられている以下の膵癌取扱い規約による分類法を用いる。
【0038】
【表1】
本発明では、「膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)」も検出対象とする。IPMNは、膵管内乳頭腺腫ともいい、前がん病変であり、IPMNががん化した腫瘍は膵がんとは別のがんと定義されることもある。しかし、IPMNは放置しておくとがん化し、膵管外に浸潤した場合には5年後生存率は著しく低下することから、早期の発見と切除が必要である。一方、IPMNの検出は従来の膵がんマーカーであるCA19-9では非常に難しい。そこで本発明では、便宜上、IPMN、およびIPMNから進行した悪性腫瘍である膵管内乳頭腺がんも膵がんの定義に含め、検出対象とする。
【0039】
SCGB1D2は、ウテログロビンスーパーファミリーに含まれるリポフィリンサブファミリーに含まれるものであり、ラット前立腺由来の主要な分泌性糖タンパク質であるプロスタテインの相同分子種である。ヒトリポフィリンはプロスタテインと機能的に同等のものであることから、ステロイドホルモンにより転写制御されていると考えられる。
【0040】
PODXLは、CD34関連ファミリーに属し、血液細胞の発育や分化、細胞の接着や形態形成の他、がん化の制御に関与する糖タンパク質である。ポドカリキシンは乳がん細胞や前立腺がん細胞の悪性表現型を増加させるとの報告もあり、がんの進行性マーカーとして用い得るとの報告もあるが、本発明者が把握している限り、膵がん及びIPMNのマーカーとして有用であることが実験により証明されたことはない。
【0041】
膵がん細胞は運動性が高く転移し易いという特徴を有しており、葉状仮足(lamellipodia)という細胞の運動性に関与する突起部位を有する。本発明に係るSCGB1D2とPODXLは、膵がん細胞の葉状仮足に集積しているタンパク質である。また、SCGB1D2とPODXLは、膵がん細胞外へ放出されることが本発明者により見出されている。膵がん細胞は早期から運動性や浸潤性を示し、葉状仮足を有するため、本発明に係る膵がんマーカーは、進行膵がんのみならず、早期の膵がんや転移直後の膵がんなども高い感度と特異性をもって評価することが可能であり得る。
【0042】
本発明に係るSCGB1D2は配列番号1のアミノ酸配列を有し、PODXLは配列番号2のアミノ酸配列を有する。
【0043】
上記SCGB1D2とPODXLは、ヒトによっては一塩基多型といわれる変異を有する場合があり、かかる変異タンパク質も、膵がん及びIPMNのマーカーとして有用である。即ち、本発明範囲には、マーカーが以下のアミノ酸配列を有する場合が含まれるものとする。
【0044】
アミノ酸配列(1): 配列番号1に記載のアミノ酸配列;
アミノ酸配列(2): 配列番号1に記載のアミノ酸配列において1以上、5以下のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有し、且つ、膵がん患者およびIPMN患者の体液中に見出されるタンパク質のアミノ酸配列;
アミノ酸配列(3): 配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有し、且つ、膵がん患者およびIPMN患者の体液中に見出されるタンパク質のアミノ酸配列;
アミノ酸配列(4): 配列番号2に記載のアミノ酸配列;
アミノ酸配列(5): 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1以上、25以下のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有し、且つ、膵がん患者およびIPMN患者の体液中に見出されるタンパク質のアミノ酸配列;
アミノ酸配列(6): 配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有し、且つ、膵がん患者およびIPMN患者の体液中に見出されるタンパク質のアミノ酸配列。
【0045】
上記アミノ酸配列(2)において、欠失、置換および/または付加の数としては、4以下または3以下が好ましく、1または2がより好ましく、1がよりさらに好ましい。上記アミノ酸配列(5)において、欠失、置換および/または付加の数としては、20以下、15以下または10以下が好ましく、8以下、6以下、5以下または4以下がより好ましく、1または2がよりさらに好ましい。
【0046】
上記アミノ酸配列(3)における配列同一性としては、96%以上または97%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がよりさらに好ましい。上記アミノ酸配列(6)における配列同一性としては、96%以上または98%以上が好ましく、99.0%以上、99.2%以上または99.5%以上がより好ましく、99.6%以上または99.8以上がよりさらに好ましい。
【0047】
上記アミノ酸配列(2)、(3)、(5)および(6)において、欠失、置換および/または付加の有無や位置、並びに配列同一性は、配列の直接の比較によって解析することが可能であり、具体的には、市販の配列解析ソフトウェア等を用いて解析することができる。
【0048】
但し、膵がん細胞の葉状仮足に集積するタンパク質に関する研究例は少なく、これまで本発明に係るSCGB1D2とPODXLがそれぞれ配列番号1と配列番号2のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を有するとの報告は無いので、本発明に係るSCGB1D2とPODXLのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号1のアミノ酸配列と配列番号2のアミノ酸配列からなることが好ましい。
【0049】
本発明の膵がん及びIPMNのマーカーとしては、SCGB1D2とPODXLの両方を含むものが好ましい。これらタンパク質をマーカーとすることにより、各タンパク質をそれぞれ単独でマーカーとする場合に比べて、感度や特異性がより一層向上する。また、本発明の膵がん及びIPMNのマーカーとしては、SCGB1D2またはPODXLとCA19-9、さらに、SCGB1D2、PODXLおよびCA19-9を含むものがより好ましい。かかる併用により、感度や特異性がより一層向上する。
【0050】
2. 膵がん及びIPMNの診断方法
次に、上記膵がん及びIPMNのマーカーを検出対象とする膵がん及びIPMNの診断方法を、工程毎に説明する。なお、膵臓から転移した膵がん細胞は運動性や浸潤性に富み、かかる運動性や浸潤性に必須である葉状仮足を有し、SCGB1D2とPODXLを分泌すると考えられる。よって本発明に係る膵がんの診断方法は、膵がん細胞の転移を評価する方法としても有効である。例えば、膵がんを切除する外科的手術の後、既に転移している膵がん細胞を、たとえその組織が従来の膵がんマーカーでは検出できないほど小さなものであっても、本発明方法により検出できる可能性がある。
【0051】
(1) 試料の取得工程
本工程では、被験者から試料を取得する。ここでの試料とは、血液、リンパ液、尿など被験者の体液に加えて、血清や血漿など、採取した体液を処理したものをいう。
【0052】
本工程で用いる試料としては、血液試料が好ましい。血液試料は、上記の血液自体、血清または血漿をいう。
【0053】
(2) SCGB1D2および/またはPODXLの測定工程
本工程では、SCGB1D2およびPODXLからなる群より選択される1以上のタンパク質の試料中の濃度を測定する。
【0054】
測定する量としては、所定量の試料中におけるSCGB1D2および/またはPODXLの絶対量のみならず、試料中におけるSCGB1D2および/またはPODXLの濃度であってもよい。
【0055】
測定手段としては、試料中のSCGB1D2および/またはPODXLの量を測定できるものであれば特に制限されない。例えば、紫外吸収法、Bradford法、Lowry法、BCA法といった分光光度分析法も用い得る。しかし、これら分光光度分析法は、試料に含まれる他成分の影響を受けるおそれがあるため、SCGB1D2および/またはPODXLに特異的に結合する抗体を用いたELISA法を用いることが好ましい。
【0056】
(3) 判断工程
上記工程で得られた標的タンパク質量から、膵がん及びIPMNの有無を評価する。実際には、膵がん患者、IPMN患者および非膵がん患者、さらには様々な進行度の膵がん患者から試料を得、同一条件で試料に含まれるSCGB1D2および/またはPODXLの量を測定しておき、データを蓄積しておく。かかる蓄積データと測定結果を照らし合わせ、被験者における膵がん及びIPMNの有無、進行度、転移の有無などを判断する。
【0057】
なお、上記測定工程(2)においてCA19-9の試料中の量や濃度も合わせて測定し、その測定値も合わせて考慮することにより、膵がん及びIPMNの診断などの感度や特異性をより一層向上させることも可能である。
【0058】
3. 膵がん及びIPMNの診断キット
本発明に係る膵がん及びIPMNの診断キットは、SCGB1D2およびPODXLからなる群より選択される1以上のタンパク質に対する抗体を含む。当該キットは、ELISA法を用いた上記本発明方法で用いることができる。より詳しくは、例えば、抗SCGB1D2抗体および/または抗PODXL抗体を結合させたプレートに被験者から得た試料を添加し、洗浄することにより、試料中に含まれるSCGB1D2および/またはPODXLを特異的に結合させる。次いで、プレートに結合させたSCGB1D2および/またはPODXLを、標識基を結合させた二次抗体などで検出し、当該標識基に応じた発色の強度などでSCGB1D2および/またはPODXLの試料中の量を測定することができる。
【0059】
本発明に係る膵がん及びIPMNのキットは、さらに、CA19-9に対する抗体を含んでいてもよい。かかるキットは、SCGB1D2および/またはPODXLに加えてCA19-9の測定も可能になるため、より高感度で且つ高特異性の判断が可能になる。
【0060】
本願は、2015年12月11日に出願された日本国特許出願第2015-242679号に基づく優先権の利益を主張するものである。2015年12月11日に出願された日本国特許出願第2015-242679号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0062】
実施例1: 膵がんマーカーとして用い得る膵がん細胞タンパク質の同定
本発明者は、膵がん細胞の浸潤・転移機構の解明を目的とした研究を行っており、インスリン様成長因子2MRNA結合タンパク質3(IGF2BP3)が、特定のmRNAと結合することにより、細胞膜突起である葉状仮足(lamellipodia)におけるそれらmRNAの局所翻訳に関与していることを明らかにした(Oncotarget,5,pp.6832-45(2014)にて報告済み)。これらのmRNAの中に、SCGB1D2およびPODXLのmRNAも含まれていた(未発表)。そこで、SCGB1D2とPODXLの機能解析を行った。
【0063】
先ず、局所翻訳されてタンパク質になったSCGB1D2とPODXLが膵がん細胞の葉状仮足に局在しているかを検討するために、ヒト膵がん細胞株S2-013を用いて免疫細胞染色を行った。結果を
図1に示す。
図1のとおり、SCGB1D2とPODXLは、内部にアクチンが重合している葉状仮足に強く発現していた。
【0064】
これら2つのタンパク質は糖タンパク質であり、糖タンパク質は分泌タンパク質であるか、もしくは細胞膜に局在することが多い傾向がある。そこで、これらタンパク質が膵がん細胞株S2-013から培養液中に分泌されているか否か、WESTERN BLOT法により試験した。具体的には、S2-013細胞の培養上清を回収後、遠心分離により細胞成分を除去し、濃縮したサンプルから抗SCGB1D2抗体および抗PODXL抗体を使ったウェスタンブロットにより解析した。S2-013細胞ライセートも同様に解析した。また、分泌タンパク質であるCD63および分泌されない細胞内タンパク質であるGAPDHに対する抗体を用いたウェスタンブロットも行った。結果を
図2に示す。
図2のとおり、SCGB1D2とPODXLは、分泌タンパク質であるCD63と同様に細胞外に分泌されていることが確認された。また、GAPDHのバンドを培養上清中に認めなかったことからS2-013細胞の培養上清は正確に回収できたことを確認できた。
【0065】
これらの結果から、葉状仮足に集まったSCGB1D2とPODXLは、膵がん細胞から分泌されていることが明らかとなった。本発明者は、ヒト膵がん組織内の葉状仮足を有する膵がん細胞からSCGB1D2とPODXLが腫瘍組織の間質に放出され、腫瘍内血管に侵入している仮説をたてた。この仮説を証明するために、膵がん症例の血清を用いてSCGB1D2とPODXLの定量測定を行う臨床試験を実施した。
【0066】
実施例2: 診断試験
(1) 被験者の選定
高知大医学部付属病院消化器内科において診断された膵がん23症例(ステージI膵がん1例,ステージIII膵がん5例,ステージIV進行膵がん17例)と、良性腫瘍であるIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)症例11例を対象として実施した。IPMN症例は、がんの既往がなく手術の行われていない患者を対象とした。コントロールとしては、高知大医学部付属病院消化器内科に通院中の膵臓疾患のない慢性肝炎、大腸ポリープ、胃ポリープの計51症例とした。高知大学医学部治験審査委員会の承認を得た説明文書を用いて、本発明者とともに膵臓病診療を行っている日本消化器病学会指導医2名が説明を行い、患者本人から文書による同意を得てから症例登録を行った。各被験者から採血後、速やかに血清を分離し、0.2mLずつ1.5mL容器に分注し、専用の冷凍庫に-20℃で保存し、測定まで厳重に管理した。
【0067】
膵がん症例被験者の平均年齢は71.70歳、標準偏差は8.91であり、コントロール被験者の平均年齢は65.66歳、標準偏差は13.35であった。膵がんは高齢者に多いがんであり、今回の臨床試験においても膵がん症例の平均年齢は高い傾向はあったが、スチューデントのt検定でP=0.052で両群に有意差はなかった。また、膵がん症例被験者のうち女性は12名、男性は11名であり、コントロール被験者のうち女性は31名、男性は20名であった。性別につきχ2検定を行ったところ、P=0.24で両群に有意差はなかった。IPMN症例被験者の平均年齢は65.85歳、標準偏差は7.88であり、コントロール被験者と比較した場合、スチューデントのt検定でP=0.055で両群に有意差はなかった。また、IPMN症例被験者のうち女性は4名、男性は7名であり、コントロール被験者と比較した場合、χ2検定でP=0.158で両群に有意差はなかった。
【0068】
(2) 血清中のSCGB1D2とPODXLの濃度の測定
市販のサンドイッチELISAキット(CUSABIO社製「SCGB1D2 ELISA kit,CSB-ELO20814HU」およびCLOUD-CLONE社製「ELISA kit for PODXL,SEA768Hu」)を用い、被験者血清におけるSCGB1D2とPODXLの濃度を測定した。
【0069】
具体的には、SCGB1D2の場合、キットのマイクロタイタープレートの各ウェルに被験者の血清を100μLずつ加え、37℃で2時間反応させた後、各ウェルにビオチン付加抗体を100μLずつ加え、37℃で1時間反応させた。次いで、各ウェルをPBSで3回洗浄した。さらに、標識酵素としてHRP-アビジンを各ウェルに100μLずつ加え、37℃で1時間反応させた後、PBSで5回洗浄した。各ウェルに発色剤としてTMB溶液を90μLずつ加え、室温で15分間反応させた。反応停止溶液を50μLずつ加えて反応を停止させた後、450nmの吸光度を測定し、検量線と照合することにより血清中のSCGB1D2の濃度を求めた。
【0070】
PODXLの場合、キットのマイクロタイタープレートの各ウェルに被験者の血清を100μLずつ加え、37℃で2時間反応させた後、各ウェルにDetection Reagent Aを100μLずつ加え、37℃で1時間反応させた。次いで、各ウェルをPBSで3回洗浄した。さらに、標識酵素としてDetection Reagent Bを各ウェルに100μLずつ加え、37℃で30分間反応させた後、PBSで5回洗浄した。各ウェルに発色剤としてSubstrate solution溶液を90μLずつ加え、室温で15分間反応させた。反応停止溶液を50μLずつ加えて反応を停止させた後、450nmの吸光度を測定し、検量線と照合することにより血清中のPODXLの濃度を求めた。
【0071】
また、比較のために、従来の膵がんマーカーであるCA19-9の血清中濃度も、市販のELISAキット(DRG International社製「TM-CA 19-9 ELISA KIT,EIA5069」)を用いて同様に測定した。
【0072】
(3) 測定結果の考察
SCGB1D2の結果を
図3に、PODXLの結果を
図4に示す。膵がん被験者群血清におけるSCGB1D2濃度の中央値は238.872ng/mL(四分位範囲599.602)、コントロール被験者群血清の同値は71.091ng/mL(四分位範囲91.434)であり、また、膵がん被験者群血清におけるPODXL濃度の中央値は8.738ng/mL(四分位範囲6.284)、コントロール被験者群血清の同値は0.093ng/mL(四分位範囲0.705)であった。SCGB1D2とPODXLそれぞれの濃度について、膵がん被験者群とコントロール被験者群との間でマン・ホイットニU検定を行ったところ、共にP<0.001で有意差が認められた。
【0073】
膵がんステージ別およびIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)群の測定結果については、SCGB1D2の結果を
図5に、PODXLの結果を
図6に示す。SCGB1D2とPODXLは、膵がんステージI、III、IVのいずれにおいても、コントロール症例に比較して上昇傾向を認めた。また、IPMN群血清におけるSCGB1D2濃度の中央値は132.554ng/mL(四分位範囲199.544)、PODXL濃度の中央値は9.199ng/mL(四分位範囲4.872)であり、IPMN群血清におけるSCGB1D2およびPODXLは、コントロール被験者群血清の同値に比較して上昇傾向を認めた。
【0074】
SCGB1D2およびPODXLの測定値の感度-特異度グラフを、それぞれ
図7と
図8に示す。感度-特異度グラフにおいては、グラフが左上に位置するほど、即ちグラフの曲線下面積(AUC)が大きいほど、感度と特異度の両方に優れ、膵がんマーカーとして優秀であることを示される。そこで、各グラフの膵がん症例とコントロール間のAUCを求めたところ、SCGB1D2のAUC値は0.76(95%CI 0.609-0.91)、PODXLは0.973(95%CI 0.943-1)、CA19-9は0.802(95%CI 0.693-0.912)と、SCGB1D2のAUC値はCA19-9と同等であり、PODXLはCA19-9にP=0.00405で有意に勝っていた。従って、PODXLの膵がん診断能力はCA19-9に対して感度・特異度共に有意に高く、SCGB1D2はCA19-9と同等の診断能を有することが示された。
【0075】
上記結果により、SCGB1D2およびPODXLが膵がんとIPMNの両方の診断マーカーになり得ることが示されたので、膵がん症例とコントロール群間の比較に加えて、膵がん症例+IPMN症例とコントロール間の比較を行う必要がある。膵がん症例+IPMN症例とコントロール間の比較を行った場合の感度-特異度グラフを、それぞれ
図9と
図10に示す。各グラフの膵がん症例+IPMN症例とコントロール間のAUCを求めたところ、SCGB1D2のAUC値は0.748(95%CI 0.599-0.896)、PODXLは0.889(95%CI 0.823-0.956)、CA19-9は0.799(95%CI 0.689-0.909)と、SCGB1D2のAUC値はCA19-9と同等であり、PODXLはCA19-9にP=0.178で統計上有意差はなかったが、診断能がCA19-9より高い可能性があるとの結果が得られた。SCGB1D2とPODXLのカットオフ値をそれぞれ185.58、2.68と設定した場合、SCGB1D2の膵がん+IPMNの診断感度は65.2%、特異度は90.3%であり、PODXLの膵がん+IPMNの診断感度は100%、特異度は72.6%であった。従って、PODXLの膵がん+IPMNに対する診断能力はCA19-9より高い可能性があり、SCGB1D2はCA19-9と同等の診断能を有することが示された。
【0076】
さらに、SCGB1D2とCA19-9との組み合わせと、PODXLとCA19-9との組み合わせにつき、スピアマン順位相関係数検定により解析し、各組み合わせにおける関連性を検定した。その結果、SCGB1D2とCA19-9との組み合わせではr=0.212、P=0.319、PODXLとCA19-9との組み合わせではr=0.144,P=0.498と、SCGB1D2およびPODXLの血清中濃度はCA19-9の血清中濃度との間に関連性は認められなかった。このようにSCGB1D2とPODXLはCA19-9と関連性がないことから、CA19-9と組み合わせることにより、CA19-9単独の膵がん診断の感度・特異度を高める可能性がある。膵がん診断に対するSCGB1D2とPODXLの併用効果を、感度-特異度グラフのAUC値を求めることにより検討した。SCGB1D2とPODXLを組み合わせたAUCは0.982(95%CI 0.845-0.963)であり、CA19-9単独に比較して有意に感度・特異度ともに優れていた(P=0.0017,
図11)。PODXLは単独で用いても膵がんの診断能が非常に高いことは前述したが、SCGB1D2を組み合わせることにより、さらにAUCは増加した。さらに、SCGB1D2とPODXLにCA19-9を組み合わせたAUCは0.983(95%CI 0.962-1)であり、CA19-9単独に比較して有意に感度・特異度ともに優れていた(P=0.0013,
図12)。しかし、SCGB1D2とPODXLの組み合わせと比較すると、診断能の向上はほとんどなかったことから、PODXL単独もしくはPODXLとSCGB1D2の組み合わせが膵がんを診断するためには有用である。
【0077】
次に、膵がん+IPMN診断に対するSCGB1D2とPODXLの併用効果を、感度-特異度グラフのAUC値を求めることにより検討した。SCGB1D2とPODXLを組み合わせたAUCは0.910(95%CI 0.851-0.969)であり、CA19-9単独に比較して感度・特異度ともに優れた傾向があった(P=0.073,
図13)。PODXLは単独で用いても膵がん+IPMNの診断能が高いことは前述したが、SCGB1D2を組み合わせることにより、さらにAUCは増加した。さらに、SCGB1D2とPODXLにCA19-9を組み合わせたAUCは0.922(95%CI 0.868-0.976)であり、CA19-9単独に比較して有意に感度・特異度ともに優れていた(P=0.029,
図14)。従って、PODXLおよびSCGB1D2は、CA19-9と組み合わせることによって、膵がん+IPMNを高い感度・特異度で診断できる血清マーカーである。
【配列表】