(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
C23C14/35 B
(21)【出願番号】P 2019110367
(22)【出願日】2019-06-13
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】大野 幸亮
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/002618(WO,A1)
【文献】特表2008-514810(JP,A)
【文献】特開平09-118980(JP,A)
【文献】特開2001-158961(JP,A)
【文献】特開2000-282234(JP,A)
【文献】特開2005-232554(JP,A)
【文献】特開2016-157820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に設置されるターゲットのスパッタ面と背向する側に配置され、ターゲット中心を回転中心として回転駆動される磁石ユニットを備え、
磁石ユニットが、
第1ヨークのターゲット側の面に夫々環状に配置される第1磁石
と第1間隔を存して第1磁石を囲う第2磁石とをターゲット側の極性を変えて有して、ターゲット中心からオフセットされた、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第1漏洩磁場をスパッタ面の前方に作用させるマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットにおいて、
磁石ユニットが、第1磁石
より内方に位置する第1ヨーク部分に形成される収容空間に配置される第2ヨークと、第2間隔を存して
第1磁石で囲まれるように第2ヨークのターゲット側の面に環状に配置される第3磁石をこの第1磁石とターゲット側の極性を変えて更に備え
て、第1漏洩磁場の内側で
且つ当該第1漏洩磁場より弱い無端状の第2漏洩磁場をスパッタ面の前方に作用させ
、真空雰囲気の真空チャンバにスパッタガスを導入した状態でターゲットに電力投入すると、無端状の第1プラズマと第2プラズマとが同心状に発生するように構成し、
第2ヨークを第1ヨーク磁石に対してターゲットのスパッタ面に近接離間する方向に相対移動させる第1移動手段を更に有して、ターゲットの侵食に伴って第2ヨークを近接方向に移動させて第2プラズマを安定させるように構成したことを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット。
【請求項2】
第1漏洩磁場がオフセットされた方向に沿って、第1磁石、第2磁石及び第3磁石を一体に且つスパッタ面に平行に往復動させる第2移動手段を更に備えることを特徴とする請求項
1記載のマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットに関し、より詳しくは、反応ガスをも導入して反応性スパッタリングにより酸化物膜や窒化物膜といった所定の薄膜を成膜するのに適したものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばアルミニウムや銅といった金属またはこれらを含む合金製のターゲットをスパッタリングして、±3%以下、より好ましくは±1%程度の良好な膜厚の面内均一性でシリコンウエハなどの基板表面に金属膜や合金膜を成膜するのに利用されるマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットは例えば特許文献1で知られている。このものは、基板に一致させた円形の輪郭を持つターゲットのスパッタ面と背向する側に配置され、ターゲット中心を回転中心として回転駆動される磁石ユニットを備える。磁石ユニットは、板状のヨークの主面(ターゲット側の面)に、例えば円形、円形を変形した楕円形やハート形の輪郭に沿って複数個の磁石片を隙間なく列設した第1磁石と、所定間隔を存して第1磁石を囲う、同磁化の複数個の磁石片を隙間なく列設した第2磁石とをターゲット側の極性を変えて有する。そして、ターゲット中心に対して径方向一方にオフセットされた、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる漏洩磁場がスパッタ面の前方に作用するようにしている。
【0003】
上記カソードユニットをスパッタリング装置の真空チャンバに取り付け、基板が存する真空雰囲気中の真空チャンバ内に、アルゴンガスなどの希ガス(スパッタガス)を所定流量で導入し、ターゲットに負の電位を持つ直流電力や所定周波数の交流電力を投入する。すると、基板とターゲットのスパッタ面との間のスパッタ面の前方に無端状のプラズマが発生する。そして、プラズマで電離されたスパッタガスのイオンでターゲットがスパッタリングされ、スパッタ面から所定の余弦則に従い飛散するスパッタ粒子が基板表面に付着、堆積して所定の薄膜が成膜される。このとき、ターゲットのスパッタ面はプラズマの形状が転写されるように侵食されるが、ターゲット中心を回転中心として磁石ユニットを所定の速度で回転駆動することで、良好な膜厚の面内均一性で基板表面に成膜しつつ、ターゲットをその略全面に亘って侵食できるようにしている。
【0004】
ここで、ターゲットを例えばITOターゲットとし、成膜時、スパッタガスとして希ガスと共に、反応ガスとしての酸素ガスをも所定流量で導入して反応性スパッタリングにより基板表面にITO膜を成膜すると、金属膜等を成膜する場合と同等の膜厚の面内均一性が得られる。然し、成膜された薄膜の膜質を例えば比抵抗値で評価すると、基板面内に比抵抗値が比較的高くなる、ターゲット中心を内側に含む環状の領域が発生して、良好な膜質の面内均一性を得ることができないことが判明した。そこで、本発明者は、鋭意研究を重ね、比抵抗値が高い領域が、第1磁石の内側の常時漏洩磁場が作用していない領域に対応し、この領域にてスパッタ粒子と酸素ガスとの反応性が局所的に低下していることを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、反応性スパッタリングにより基板表面に所定の薄膜を成膜する場合に、良好な膜厚分布の均一性を得つつ、良好な膜質の面内均一性をも得ることができるようにしたマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットは、真空チャンバ内に設置されるターゲットのスパッタ面と背向する側に配置され、ターゲット中心を回転中心として回転駆動される磁石ユニットを備え、磁石ユニットが、環状に配置される第1磁石と、第1間隔を存して第1磁石を囲う第2磁石とをターゲット側の極性を変えて有して、ターゲット中心からオフセットされた、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第1漏洩磁場をスパッタ面の前方に作用させ、第1磁石の内側に第2間隔を存して環状に配置される第3磁石をこの第1磁石とターゲット側の極性を変えて更に備えて第1漏洩磁場の内側でスパッタ面の前方に無端状の第2漏洩磁場を作用させるように構成したことを特徴とする。
【0008】
以上によれば、上記カソードユニットをスパッタリング装置の真空チャンバに取り付け、基板が存する真空雰囲気中の真空チャンバ内にスパッタガスを所定流量で導入し、ターゲットに負の電位を持つ直流電力や所定周波数の交流電力を投入する。すると、スパッタ面の前方に、上記従来例のものと同様、無端状のプラズマ(以下、「第1プラズマ」という)が発生すると共に、この第1プラズマの内側に無端状の他のプラズマ(以下、「第2プラズマ」という)が略同心状に発生する。そして、成膜時、酸素ガスなどの反応ガスをも所定流量で導入して反応性スパッタリングにより基板表面に成膜すると、第2プラズマによりスパッタ粒子と反応ガスとの反応性が向上することで、良好な膜質の面内均一性を得ることができる。
【0009】
また、第2プラズマの存在によりスパッタ面の侵食領域がターゲットの中心側へと拡がることで、ターゲットの使用効率を向上でき、更に、上記従来例のものでは、漏洩磁場が作用しない領域では、電子や二次電子が基板に作用していたが、第2漏洩磁場でも電子及び二次電子がトラップされるため、基板の熱ダメージを低減することができる。その上、第1プラズマ中の電子と第2プラズマ中の電子とが第1磁石、第2磁石及び第3磁石のターゲット側の極性に応じて互いに逆方向に運動しているので、第1プラズマと第2プラズマの安定性が向上する。なお、上記のように第1プラズマの内側に第2プラズマを略同心状に発生させると、ターゲットのスパッタ面から飛散するスパッタ粒子の飛散分布が変化し、これに伴って膜厚の面内均一性が損なわれる場合がある。このような場合には、例えば、ターゲットのスパッタ面と基板表面との間の距離(所謂TS間距離を例えば短くする)や、スパッタリング時のスパッタガスの分圧といったスパッタ条件を適宜設定すれば、膜厚の面内均一性を調整することができる。
【0010】
ところで、第1磁石、第2磁石及び第3磁石が、例えば、同磁化の磁石片の複数個を所定の輪郭に沿って隙間なく列設して構成されている場合、第1漏洩磁場より第2漏洩磁場の漏洩磁場が弱くなる。この状態でターゲットをスパッタリングすると、第1漏洩磁場が作用してプラズマ密度が比較的高くなる領域に対面するターゲットの部分が優先的に侵食されることになる。そして、ターゲットの侵食に伴って、ターゲットと第1磁石、第2磁石または第3磁石との間の距離(TM間距離)が長くなると、第2漏洩磁場が作用してプラズマ密度が比較的低い(言い換えると、プラズマインピーダンスが比較的高い)第2プラズマが不安定になる(即ち、プラズマが消弧する)虞がある。そこで、本発明においては、少なくとも第3磁石を第1磁石に対してターゲットのスパッタ面に近接離間する方向に相対移動させる第1移動手段を更に備える構成を採用することが好ましい。これによれば、ターゲットの侵食に伴って、例えば、第3磁石をターゲットのスパッタ面に近接させて(即ち、ターゲットと第3磁石との間のTM間距離を局所的に短くして)第2漏洩磁場の磁場強度を強くすることで、第2プラズマが不安定になることを防止できる。
【0011】
また、本発明においては、第1漏洩磁場がオフセットされた方向に沿って、第1磁石、第2磁石及び第3磁石を一体に且つスパッタ面に平行に往復動させる第2移動手段を更に備えることが好ましい。これによれば、前記第1磁石、第2磁石及び第3磁石を所定周期で移動させ、または、成膜中に、一定のストロークで往復動させることで、スパッタ面をその全面に亘って侵食領域とすることができてターゲットの使用効率をより一層向上でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態のカソードユニットを備えるスパッタリング装置の模式的断面図。
【
図2】カソードユニットをターゲット側からみた模式平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、ターゲットをITOターゲットとし、酸素ガスをも導入した反応性スパッタリングによりシリコンウエハなどの円形の輪郭を持つ基板Sw表面にITO膜を成膜できるマグネトロン方式のスパッタリング装置に適用した場合を例に本発明の実施形態のカソードユニットCUを説明する。以下において、上、下といった方向は
図1に示すスパッタリング装置の設置姿勢を基準とする。
【0014】
図1を参照して、Smは、本実施形態のカソードユニットを備えるマグネトロン方式のスパッタリング装置である。スパッタリング装置Smは真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1には排気口11が開設され、排気管21の一端が接続されている。排気管21の他端は、ロータリーポンプ、クライオポンプやターボ分子ポンプ等で構成される真空ポンプ2に接続され、真空チャンバ1内を所定圧力に真空排気できるようにしている。真空チャンバ1にはまた、ガス導入口12が開設され、ガス導入管31の一端が接続されている。ガス導入管31の他端は、マスフローコントローラなどで構成される流量調整弁32a,32bを介して図外のガス源に連通し、流量制御されたスパッタガスとしてのアルゴンガス(希ガス)と酸素ガス(反応ガス)が真空チャンバ1内に導入できるようにしている。
【0015】
真空チャンバ1の下部には、ステージ4が絶縁体41を介して配置され、このステージ4上に基板Swが設置されるようになっている。ステージ4は、特に図示して説明しないが、例えば筒状の輪郭を持つ金属製の基台と、この基台の上面に接着されるチャックプレートとで構成され、スパッタリングによる成膜中、基板Swを吸着保持できるようにしている。なお、静電チャックの構造については、単極型や双極型等の公知のものが利用できるため、これ以上の詳細な説明は省略する。また、基台には、冷媒循環用の通路やヒータを内蔵し、成膜中、基板Swを所定温度に制御することができるようにしてもよい。そして、ステージ4上に設置される基板Swに対向させて真空チャンバ1の上部には、本実施形態のカソードユニットCUが着脱自在に取付けられている。
【0016】
図2も参照して、カソードユニットCUは、ITO製のターゲット5と、このターゲット5の上方に配置される磁石ユニット6とで構成されている。ターゲット5は、公知の方法で基板Swの輪郭に応じて平面視円形に製作されたものである。ターゲット5は、バッキングプレート51に装着した状態で、そのスパッタ面52を下方にして絶縁体53を介して真空チャンバ1の上部に取り付けられている。また、ターゲット5には、公知の構造を持つスパッタ電源Psが接続され、スパッタリングによる成膜時、負の電位を持つ直流電力、パルス直流電力や高周波電力が投入できるようにしている。ターゲット5の上方に配置される磁石ユニット6は、ターゲット中心Tcに対して径方向一方にオフセットさせて、略ハート形の輪郭の環状に配置される第1磁石61aと、第1間隔D1を存して第1磁石61aを囲う第2磁石61bと、第1磁石61aの内側に第2間隔D2を存して環状に配置される第3磁石61cとをターゲット5側(それらの下面側)の極性を互いに変えて備える。なお、良好な膜厚分布の均一性が得られる第1磁石61aと第2磁石61bとの配置としては、公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0017】
第1磁石61aと第2磁石61bは、第2磁石61bの輪郭に略一致するハート形で板状の第1ヨーク62aの下面に配置される。即ち、第1ヨーク62aの下面(主面)に、同磁化の円柱状の磁石片63の複数個をハート形の輪郭に沿って隙間なく列設することで第1磁石61aと第2磁石61bとが構成されている。また、第1ヨーク62aの所定位置には、板厚方向に貫通する収容空間64が形成され(
図1参照)、収容空間64には、第1ヨーク62aに相似のハート形で板状の第2ヨーク62bが配置されている。この場合、第2ヨーク62bは、後述するように、第2回転軸が連結できると共に、これを上下動したときに第1ヨーク62aと干渉しないように略Z状の縦断面を持つようにしている。そして、第2ヨーク62bの下面(主面)に、上記と同磁化の円柱状の磁石片63の複数個をハート形の輪郭に沿って隙間なく列設することで第3磁石61cが構成されている。これにより、ターゲット中心Tcに対して径方向一方にオフセットされた、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第1漏洩磁場Mf1と、第1漏洩磁場Mf1の内側で磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第2漏洩磁場Mf2とがスパッタ面52の下方に作用する。この場合、第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cを構成する磁石片63の数は次第に少なくなるため、スパッタ面52に平行な同一平面内に第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cの下面を位置させた状態では、第1漏洩磁場Mf1より第2漏洩磁場Mf2の磁場強度は弱くなる。
【0018】
第1ヨーク62aは、これと同材料で構成される回転板71下面に取り付けられている。回転板71には、ターゲット中心Tcを通って上下方向にのびる仮想軸線上に一致させて配置される中空の第1回転軸72が連結されている。第1回転軸72には第1歯車72aが外挿され、この第1歯車72aには第2歯車72bが噛み合っている。そして、モータM1により第2歯車72bを回転駆動することで、第1回転軸72を介して回転板71が所定の速度で回転駆動されるようになっている。また、回転板71には、仮想軸線上に一致する孔軸を持つその板厚方向に貫通する中央開口(図示せず)が形成され、中央開口には、第1回転軸72内に同心状に配置される中実の第2回転軸73の下端が挿通して、第2ヨーク62bの上面に連結されている。
【0019】
第1回転軸72内に位置する第2回転軸73の部分はスプライン軸部(図示せず)として形成され、第1回転軸72内の所定位置に設けたボールスプラインナット74に係合している。これにより、第1回転軸72の回転に同期して第2回転軸73が回転され、ひいては、モータM1により、第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cがターゲット中心Tc回りに回転駆動される。また、第1回転軸72から上方に突出した第2回転軸73の部分はネジ部(図示せず)として形成され、ボールネジナット75が螺合している。そして、モータM2によりボールネジナット75を回転駆動することで、第2回転軸73が上下方向に所定のストロークで上下動し、ひいては、第3磁石61cを第1磁石61aに対して上下方向(ターゲットに近接離間する方向)に相対移動できるようになっている。本実施形態では、モータM2やボールネジナット75といった部品が第1移動手段を構成する。第3磁石61cの上下動のストロークは、未使用時のターゲット5の厚さに応じて適宜設定される。以下に、本実施形態のカソードユニットCUを備えるスパッタリング装置Smを用いたITO膜の成膜を説明する。
【0020】
ステージ4上に基板Swを配置した後、真空ポンプ2より真空チャンバ1内を所定圧力まで真空排気する。真空チャンバ1内が所定圧力に達すると、アルゴンガスと酸素ガスとを所定流量で導入し、スパッタ電源Psによりターゲット5に負の電位を持つ直流電力、パルス状の直流電力や高周波電力を投入する。すると、スパッタ面52の下方に、第1漏洩磁場Mf1により無端状の第1プラズマ(図示せず)が発生すると共に、第1プラズマの内側に無端状の第2プラズマ(図示せず)が略同心状に発生する。これに併せて、モータM1により、第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cをターゲット中心回りに所定の速度で回転駆動させる。これにより、第1、第2の両プラズマで電離されたスパッタガスのイオンでターゲット5がスパッタリングされ、スパッタ面52から所定の余弦則に従い飛散するスパッタ粒子が酸素ガスと反応しつつ基板Sw上面に付着、堆積してITO膜が成膜される。このとき、第2プラズマによりスパッタ面52から飛散するスパッタ粒子と反応ガスとの反応性が向上することで、良好な膜質の面内均一性を得ることができる。なお、上記のように第1プラズマの内側に第2プラズマを略同心状に発生させると、スパッタ面52から飛散するスパッタ粒子の飛散分布が変化し、これに伴って膜厚の面内均一性が損なわれる場合がある。このような場合には、例えば、ターゲット5のスパッタ面52と基板Sw上面との間のTS間距離や、スパッタリング時のスパッタガスの分圧といったスパッタ条件を適宜設定すれば、膜厚の面内均一性を調整することができる。
【0021】
ところで、上記磁石ユニット6では、第1漏洩磁場Mf1より第2漏洩磁場Mf2の漏洩磁場が弱いため、第1漏洩磁場Mf1が作用してプラズマ密度が比較的高くなる領域に対面するターゲット5のスパッタ面52の部分が優先的に侵食されることになる。そして、ターゲット5の侵食に伴って、スパッタ面52と、第1磁石61a、第2磁石61bまたは第3磁石61cとの間のTM間距離が長くなると、第2漏洩磁場Mf2が作用してプラズマ密度が比較的低い(言い換えると、プラズマインピーダンスが比較的高い)第2プラズマが不安定になる(即ち、プラズマが消弧する)虞がある。この場合には、モータM2によりボールネジナット75を回転駆動して第2回転軸73を介して、第3磁石61cを第1磁石61aに対してスパッタ面52に近接する方向に相対移動させて(即ち、第3磁石61cのTM間距離を短くして)第2漏洩磁場Mf2の磁場強度を強くすることで、第2プラズマが不安定になることを防止できる。
【0022】
以上によれば、本実施形態のカソードユニットCUを備えるスパッタリング装置SmによりITO膜を成膜すれば、良好な膜厚分布の均一性を得つつ、良好な膜質の面内均一性をも得ることが可能になる。また、第2プラズマの存在によりスパッタ面52の侵食領域をターゲット中心Tc側へと拡げることで、ターゲット5の使用効率を向上できる。この場合、回転板71に、第2移動手段としての直動モータM3を設けて、第1漏洩磁場Mf1がオフセットされた方向としての径方向(
図2中、左右方向)に、第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cを含むカソードユニットCU全体をスパッタ面52に平行に所定周期で移動させ、または、成膜中に、一定のストロークで往復動させてもよい。これにより、侵食領域をターゲット5の外周側へと拡げて、ターゲット52の使用効率をより一層向上できる。また、上記従来例のものでは、漏洩磁場が作用しない領域では、電子や二次電子が基板Swに作用していたが、第2漏洩磁場Mf2でも電子及び二次電子がトラップされるため、基板Swの熱ダメージを低減することができる。その上、第1プラズマ中の電子と第2プラズマ中の電子とが第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cのターゲット側の極性に応じて互いに逆方向に運動しているので、第1プラズマと第2プラズマの安定性が向上する。
【0023】
以上の効果を確認するため、次の実験を行った。即ち、カソードユニットCUのターゲット5をΦ400mmのITO製のものとし、また、磁石ユニット6として第1磁石61aと第2磁石61bとが第1間隔D1でハート形に同心配置され、アルミニウムや銅等の金属またはこれらを含む合金製のターゲットをスパッタリングして金属膜や合金膜を成膜すると、±3%以下の良好な膜厚の面内均一性で成膜できる既存のアルバック社製のもの(従来品)と、従来品のカソードユニットCUの第1磁石61aの内側に第2間隔D2で第3磁石61cをハート形に更に同心配置すると共に、第3磁石61cのTM距離を変化できるように構成したもの(発明品)とを準備し、これを上記スパッタリング装置Smに夫々取り付けて、Φ300mmのシリコンウエハSw表面にITO膜を成膜した。スパッタ条件としては、ターゲット5とシリコンウエハSwとの間の距離を95mm、スパッタ電源Psによる投入電力を4.0kW、スパッタ時間を25sec、磁石ユニット6の回転速度を30rpmに設定した。また、スパッタガスとしてアルゴンガスと酸素ガスを用い、アルゴン200sccm、酸素ガス1sccmの流量で真空チャンバ1内に導入し、スパッタリング中、スパッタガスの分圧を0.4Paとした。
【0024】
以上の実験によれば、従来品では、成膜後のITO膜の膜厚分布をみると、100nm±1.9%であり、金属膜や合金膜を成膜する場合と同等の膜厚分布が得られる。一方で、比抵抗値の分布をみると、220μΩm±10%であり、シリコンウエハSw中心とその外縁部との中間付近に、被抵抗値が比較的高くなる、径方向に所定幅を持つ環状の領域(即ち、反応性の低い領域)が形成されることが確認された。一方、発明品では、第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cをスパッタ面52に平行な同一平面内に位置する状態とした場合、成膜後のITO膜の比抵抗値の分布をみると、190μΩm±5%であり、比抵抗値の面内均一性を向上できることが確認された。このとき、成膜後のITO膜の膜厚分布をみると、100nm±1.4%であった。また、発明品において、複数枚の基板Swに対して成膜を連続して実施したところ、ターゲット5への積算電力が増加するのに伴い(即ち、ターゲット5のスパッタ面52の侵食が進行するのに伴い)、膜厚分布、比抵抗値分布が悪くなっていく傾向が見られた。そこで、第3磁石61cを第1磁石61aに対して所定ストロークで下方に相対移動させた(TM間距離を短くした)ところ、成膜後のITO膜の膜厚分布をみると、100nm±1.4%、比抵抗値分布をみると、190μΩm±5%であり膜厚分布、比抵抗値分布と共に面内均一性が損なわれないことが確認された。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、第1磁石61aに対して第3磁石61cを上下方向に相対移動させるものを例に説明したが、第3磁石61cに対して第1磁石61a及び第2磁石61bを上下方向に相対移動するように構成してもよく、また、第1磁石61aまたは第2磁石61bを単独で上下方向に相対移動できるように構成してもよい。
【0026】
上記実施形態では、第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cとして、ハート形の輪郭に沿って同磁化の磁石片63を隙間なく列設して構成したものを例に説明したが、金属膜や合金膜を成膜したときに所定の膜厚の面内均一性が得られるものであれば、これに限定されるものではなく、第1磁石61a、第2磁石61b及び第3磁石61cを一体の磁石で構成でき、また、その輪郭も円形、円形を変形した楕円形などとしてもよい。また、膜質分布の均一性や膜厚分布の均一性を考慮して、第3磁石61cの輪郭を、第1磁石61a及び第2磁石61bのものと異なるものとすることもできる。更に、第1磁石61aと第2磁石61bと第3磁石61cとで同一磁化の磁石片63を用いるものを例に説明しているが、これに限定されるものでなく、第3磁石61cの磁石片63として、第1磁石61a及び第2磁石61bのものと磁化の異なるものを使用し、第2漏洩磁場Mf2の漏洩磁場を適宜調整するようにしてもよい。
【0027】
また、上記実施形態では、ターゲット5をITOとし、酸素ガスを導入した反応性スパッタリングにより基板Sw表面にITO膜を成膜する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、IZO膜などの他の酸化物膜や、TiNやSiNなどの窒化物膜を反応性スパッタリングにより成膜する場合にも本発明は広く適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
CU…カソードユニット、D1…第1間隔、D2…第2間隔、M2…モータ(第1移動手段)、M3…直動モータ(第2移動手段)、Mf1…第1漏洩磁場、Mf2…第2漏洩磁場、Sm…スパッタリング装置、Tc…ターゲット中心、1…真空チャンバ、5…ターゲット、52…スパッタ面、6…磁石ユニット、61a…第1磁石、61b…第2磁石、61c…第3磁石、75…ボールネジナット(第1移動手段)。