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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】搬送装置、および、真空処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/677 20060101AFI20230807BHJP
   B65G 49/06 20060101ALI20230807BHJP
   B65G 54/02 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H01L21/68 A
B65G49/06 Z
B65G54/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019207993
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021082683
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】永田 純一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 傑之
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103633(JP,A)
【文献】特開平06-276618(JP,A)
【文献】特開2002-104656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
B65G 49/06
B65G 54/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置可能なトレイを磁気浮上させながら前後方向に搬送する搬送部と、
左右方向における前記トレイの位置であるトレイ位置を測定する測定部と、
前記トレイ位置の変位を電磁石の制動力によって抑制する抑制部と、
前記トレイ位置を目標位置に配置するための制動力指令値を算出し、前記制動力指令値を前記電磁石の電流指令値に変換する駆動装置と、を備え、
前記駆動装置は、
前記トレイ位置を前記目標位置に近づけるためのオフセット値を前記トレイ位置の測定値から算出可能に構成されたオフセットデータを備え、
前記制動力指令値の算出では、前記トレイ位置の測定値をフィードバック値として算出される制動力に、前記測定値を前記オフセットデータに適用して算出したオフセット値を加算して前記制動力指令値とする
搬送装置。
【請求項2】
前記オフセットデータは、前記トレイと前記電磁石との間の距離が長いほど前記制動力として大きい吸引力が作用するように前記トレイ位置に大きいオフセット値を対応付けたテーブルを含み、
前記測定値を前記オフセットデータに適用する際に、前記テーブルに含まれる前記距離を補間して前記測定値に対応する前記オフセット値を算出する
請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記オフセットデータは、前記トレイ位置と前記電磁石との距離が所定値以下であるときのオフセット値に一定値を対応付けたテーブルを含む
請求項1または2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記駆動装置は、
前記トレイ位置と前記制動力指令値とから前記電流指令値を算出可能に構成された電流データを備え、
前記電流指令値の算出では、前記測定値と前記制動力指令値とを前記電流データに適用して前記電流指令値を算出する
請求項1から3のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項5】
真空チャンバーと、
基板を載置可能なトレイと、
前記真空チャンバーのなかで前記トレイを搬送する搬送装置と、を備え、
前記搬送装置は、請求項1から4のいずれか一項に記載の搬送装置である
真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を載置可能に構成されたトレイを非接触方式で搬送する搬送装置、および、当該搬送装置を備えた真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トレイに載置された基板に成膜処理などを施す真空処理装置は、フラットパネルディスプレイや太陽電池などの製造に用いられる。真空処理装置が備える搬送装置は、トレイを搬送するための摺動部材から粉塵などが発生することを抑制するために、トレイを磁気浮上させながら搬送する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-103633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した搬送装置のように、磁石の同極を相互に向かい合わせてトレイを浮上させると、トレイを左右方向に押す力であるサイドフォースがトレイに作用する。このサイドフォースは、トレイの位置が目標位置から離れるほど増大する。サイドフォースによる変位を抑えるために、トレイの右面と対向する電磁石、および、トレイの左面と対向する電磁石を搬送装置は備える。そして、トレイを電磁石に引き付ける吸引力を、2つの電磁石が作用させる。2つの電磁石がトレイに作用させる吸引力は、磁気浮上したトレイの位置が右側に偏ること、および、トレイの位置が左側に偏ることを抑制する。
【0005】
一方、トレイ位置が右側に向けて変わりはじめると、トレイ位置が右側に変位する分だけ、浮上用磁石に起因するサイドフォースが大きくなる。この際、左側の電磁石に供給する電流値を吸引力のフィードバック制御に基づいて変えるとしても、サイドフォースに勝る反力をフィードバックの演算結果として得られていない。結果として、上述した搬送装置では、こうしたトレイ位置と目標位置との間のずれを抑えること、ひいては、トレイの変位を抑えることに時間を要している。
【0006】
本発明の目的は、トレイの変位を抑えることに要する時間を短縮可能にした搬送装置、および、真空処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための搬送装置は、基板を載置可能なトレイを磁気浮上させながら前後方向に搬送する搬送部と、左右方向における前記トレイの位置であるトレイ位置を測定する測定部と、前記トレイ位置の変位を電磁石の制動力によって抑制する抑制部と、前記トレイ位置を目標位置に配置するための制動力指令値を算出し、前記制動力指令値を前記電磁石の電流指令値に変換する駆動装置と、を備える。前記駆動装置は、前記トレイ位置を前記目標位置に近づけるためのオフセット値を前記トレイ位置の測定値から算出可能に構成されたオフセットデータを備え、前記制動力指令値の算出では、前記トレイ位置の測定値をフィードバック値として算出される制動力に、前記測定値を前記オフセットデータに適用して算出したオフセット値を加算して前記制動力指令値とする。
【0008】
上記各構成によれば、電流指令値を生成するための制動力指令値が、制動力とオフセット値との加算値である。制動力指令値を算出するための制動力は、トレイ位置をフィードバック値とする制御によって算出される。制動力指令値を算出するためのオフセット値は、オフセットデータにトレイ位置の測定値を適用することによって算出される。これらにより、電磁石に供給される電流値は、オフセット値の分だけ、トレイ位置を目標位置に近づける大きさとなる。結果として、サイドフォースに勝るような反力となる制動力をオフセット値の分だけ加えて、サイドフォースに勝るような反力が得られないことによるトレイ位置と目標位置との間のずれ、ひいては、トレイの変位を抑えることに要する時間を短縮できる。
【0009】
上記搬送装置において、前記オフセットデータは、前記トレイと前記電磁石との間の距離が長いほど前記制動力として大きい吸引力が作用するように前記トレイ位置に大きいオフセット値を対応付けたテーブルを含み、前記測定値を前記オフセットデータに適用する際に、前記テーブルに含まれる前記距離を補間して前記測定値に対応する前記オフセット値を算出してもよい。
【0010】
トレイ位置と電磁石との間の距離が長いほど、電磁石による制動力はトレイに作用しにくい。この点、上記構成によれば、トレイと電磁石との間の距離が長いほど、オフセット値を大きくすること、ひいては、制動力である吸引力を高めることが可能となる。結果として、トレイの変位を抑えることに要する時間を短縮できる効果を得ることの実効性を高めることが可能となる。
【0011】
上記搬送装置において、前記オフセットデータは、前記トレイ位置と前記電磁石との距離が所定値以下であるときのオフセット値に一定値を対応付けたテーブルを含んでもよい。
【0012】
上記構成によれば、トレイ位置が電磁石に近いほど、電磁石による制動力はトレイに作用しやすい。この点、上記構成によれば、トレイ位置の測定値と電磁石との距離が所定値以下であるときに、オフセット値が一定値であるため、トレイに作用する実際の制動力が過大となることが抑制可能となる。
【0013】
上記搬送装置において、前記駆動装置は、前記トレイ位置と前記制動力指令値とから前記電流指令値を算出可能に構成された電流データを備え、前記電流指令値の算出では、前記測定値と前記制動力指令値とを前記電流データに適用して前記電流指令値を算出してもよい。
【0014】
ここで、相互に等しい制動力指令値が算出された場合であっても、トレイ位置が相互に異なれば、トレイに作用する実際の制動力も相互に異なってしまう。例えば、相互に等しい制動力指令値が算出された場合であっても、トレイ位置が電磁石に近ければ、実際に作用する制動力は大きくなってしまう。そして、トレイに作用する実際の制動力と、制動力指令値とのずれは、揺動のような不安定な挙動をトレイに生じさせてしまう。
【0015】
この点、上記構成によれば、制動力指令値とトレイ位置の測定値とを電流データに適用し、それによって、電流指令値が算出される。これにより、電磁石に供給される電流値は、トレイ位置の差異が反映された値、すなわち、電磁石とトレイとの間の作用距離が反映された値となる。結果として、相互に等しい制動力指令値が算出された場合であっても、制動力を作用させるための空間的な差異が反映された、相互に異なる電流値を供給することが可能となる。そして、左右方向における揺動のような不安定な挙動がトレイに生じることが抑制可能となる。
【0016】
上記課題を解決するための真空処理装置は、真空チャンバーと、基板を載置可能なトレイと、前記真空チャンバーのなかで前記トレイを搬送する搬送装置と、を備え、前記搬送装置は、上述した搬送装置である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】真空処理装置の一実施形態における内部構造を上方から見た平面図。
図2】搬送装置の側面構造を示す側面図。
図3図2のIII-III線断面図。
図4図3のIV-IV線断面図。
図5】搬送装置の構成を機能的に示すブロック図。
図6】オフセットデータの一例を示す構成図。
図7】電流データの一例を示す構成図。
図8】搬送装置の制御部が備える構成を機能的に示す制御ブロック図。
図9】(a)~(d)搬送装置が実行する搬送処理の作用を示す作用図。
図10】搬送装置が実行する制動処理の作用を示す作用図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、搬送装置、および、真空処理装置の一実施形態について説明する。
[真空処理装置]
図1が示すように、真空処理装置は、複数の真空チャンバー1、および、複数のゲートバルブ1GVを備える。複数の真空チャンバー1は、一方向に配列されている。真空処理装置は、例えば、インライン式の成膜装置である。
【0019】
各真空チャンバー1は、真空ポンプ1TPを搭載する。真空ポンプ1TPは、真空チャンバー1の内部を減圧する。各真空チャンバー1は、他の真空チャンバー1と搬送装置2を共有する。搬送装置2は、各真空チャンバー1へのトレイTの搬入、および、各真空チャンバー1からのトレイTの搬出を行う。各真空チャンバー1は、トレイTに載置された基板Sに対し、表面処理、成膜処理、加熱処理などの各種の処理を行う。
【0020】
各ゲートバルブ1GVは、1つの真空チャンバー1と、当該真空チャンバー1と隣り合う他の真空チャンバー1とに接続されている。各ゲートバルブ1GVは、相互に隣り合う2つの真空チャンバー1の間を、連通と非連通とに切り換える。各ゲートバルブ1GVは、相互に隣り合う2つの真空チャンバー1の間で、トレイTを搬送を可能にする。
【0021】
図2が示すように、搬送装置2は、搬送部10と案内部20とを備える。搬送部10は、真空チャンバー1の底部に位置する。案内部20は、真空チャンバー1の天部に位置する。搬送部10と案内部20とは、これらの協同によって、基板Sを立てた状態で、前後方向にトレイTを搬送する。
【0022】
以下、トレイTが搬送される前後方向のなかでトレイTが進行する方向をトレイTの進行方向Xとも言う。また、進行方向Xと鉛直方向Zとに直交する方向を左右方向Yとも言う。複数の真空チャンバー1は、進行方向Xに配列されている。搬送部10と案内部20とは、前後方向に延在している。搬送部10と案内部20とは、基板Sをほぼ鉛直方向Zに沿って立てる。
【0023】
[トレイ]
図2が示すように、トレイTは、トレイ上部T1を備える。トレイ上部T1は、基板Sを囲う四角枠状を有する。トレイ上部T1は、複数のクランプなどを用いて、基板Sをトレイ上部T1に固定する。トレイ上部T1の上端部は、被案内部材21Aを備える。被案内部材21Aは、進行方向Xに延在する永久磁石である。被案内部材21Aは、案内部20の一部と鉛直方向Zで対向している。
【0024】
図3が示すように、トレイTは、トレイ下部T2を備える。トレイ下部T2は、左右で一対の被浮上磁石11Aを備える。また、トレイ下部T2は、左右で一対の被制動部12Aを備える。
【0025】
トレイ下部T2は、左右方向Yと鉛直方向Zとを含む断面において、下端部を左右方向に分岐させた逆U字状を有する。トレイ下部T2は、逆U字状を有した断面を前後方向に連続させている。トレイ下部T2は、左右で一対の可動鉛直壁FTと、一対の可動鉛直壁FTに架設された可動水平壁FBとを有する。トレイ下部T2は、基板Sが載置されたトレイ上部T1を支持する。
【0026】
可動水平壁FBは、トレイ上部T1の下端に接合されている。2つの可動鉛直壁FTは、可動水平壁FBにおける左右方向の両端から下方に向けて延在している。各可動鉛直壁FTは、左右方向YにおけるトレイTの位置であるトレイ位置の検知に用いられる。左右方向Yにおける右側の可動鉛直壁FTの位置、および、左右方向Yにおける左側の可動鉛直壁FTの位置は、それぞれトレイ位置である。
【0027】
右側の被浮上磁石11Aは、右側の可動鉛直壁FTにおける下端部に位置する。左側の被浮上磁石11Aは、左側の可動鉛直壁FTにおける下端部に位置する。各被浮上磁石11Aは、永久磁石である。各被浮上磁石11Aは、トレイ下部T2における進行方向Xの全体にわたり、進行方向Xに延在している。
【0028】
右側の被制動部12Aは、右側の可動鉛直壁FTにおける右外側面に位置する。左側の被制動部12Aは、左側の可動鉛直壁FTにおける左外側面に位置する。各被制動部12Aは、強磁性体である。各被制動部12Aは、トレイ下部T2における進行方向Xの全体にわたり、進行方向Xに延在している。
【0029】
トレイ下部T2は、1つのスケール16Aと、1つの可動子13Aを備える。可動子13Aは、リニアモーター13を構成する可動子として機能する。可動子13Aは、ヨーク13A1、および、左右で一対の被搬送磁石13A2を備える。
【0030】
ヨーク13A1は、左右方向Yと鉛直方向Zとを含む断面において逆U字状を有する。ヨーク13A1は、前後方向に沿って間欠的に存在している。各ヨーク13A1は、左右で一対のヨーク鉛直壁と、一対の鉛直壁に架設されたヨーク水平壁とを有する。ヨーク水平壁は、可動水平壁FBの下面に接合されている。
【0031】
スケール16Aは、例えば、前後方向に延在するインクリメンタルリニアスケールである。スケール16Aは、ローカル座標系でのトレイTの位置であるローカル座標の検知に用いられる。ローカル座標系は、前後方向に延在した一次元座標系であって、スケール16Aを読み取る検知部ごとの相対座標系である。スケール16Aは、進行方向XにおけるトレイTの全体にわたり、複数の被読取パターンを有する。複数の被読取パターンは、進行方向Xに等間隔を空けて並ぶ。
【0032】
右側の被搬送磁石13A2は、右側のヨーク鉛直壁における右内側面に位置する。左側の被搬送磁石13A2は、左側のヨーク鉛直壁における左内側面に位置する。複数の被搬送磁石13A2は、トレイ下部T2における前後方向のほぼ全体にわたり、前後方向に並んでいる。前後方向に並ぶ被搬送磁石13A2は、前後方向に沿って磁極を交互に反転させて並ぶ、永久磁石である。
【0033】
[搬送装置]
図2に戻り、案内部20は、前後方向に延在する柱状を有する。案内部20は、案内部材21Bを備える。案内部材21Bは、前後方向に延在する永久磁石である。案内部材21Bは、被案内部材21Aと鉛直方向Zで対向している。
【0034】
案内部材21Bと被案内部材21Aとは、相互に異なる磁極を対向させる。案内部材21Bは、永久磁石である。案内部材21Bは、トレイTを案内部20に引き付けるように、被案内部材21Aに吸引力を作用させる。案内部材21Bが作用させる吸引力は、トレイTの上部が左右方向Yに変位することを抑制する。
【0035】
図3が示すように、搬送部10は、左右で一対の制動レール10Aを備える。各制動レール10Aは、搬送部10における前後方向の全体にわたり、前後方向に延在している。
搬送部10は、複数の固定子10Bを備える。複数の固定子10Bは、前後方向に沿って間隔を空けて並んでいる。図4が示すように、前後方向において相互に隣り合う固定子10Bの間の距離は、前後方向におけるトレイTの長さ以下である。すなわち、1つ以上の固定子10Bが1つの可動子13Aと対向するように、複数の固定子10Bは、前後方向に配列されている。各固定子10Bは、左右方向Yにおいて、2つの制動レール10Aに挟まれている。
【0036】
右側の制動レール10Aと各固定子10Bとの間の左右方向Yでの隙間は、右側の可動鉛直壁FTを収容できるように構成されている。左側の制動レール10Aと各固定子10Bとの間の左右方向Yでの隙間もまた、左側の可動鉛直壁FTを収容できるように構成されている。各固定子10Bは、ヨーク13A1が備えるヨーク鉛直壁に挟まれるように構成されている。
【0037】
搬送部10は、左右で一対の浮上用磁石11Bを備える。右側の浮上用磁石11Bは、右側の制動レール10Aと固定子10Bとの隙間に位置する。左側の浮上用磁石11Bは、左側の制動レール10Aと固定子10Bとの隙間に位置する。各浮上用磁石11Bは、永久磁石である。各浮上用磁石11Bは、搬送部10における前後方向の全体にわたり、前後方向に延在している。
【0038】
右側の浮上用磁石11B、および、右側の被浮上磁石11Aは、相互に同一の磁極を対向させる。左側の浮上用磁石11B、および、左側の被浮上磁石11Aもまた、相互に同一の磁極を対向させる。各浮上用磁石11Bは、別々の被浮上磁石11Aと鉛直方向Zで対向して、浮上用磁石11BからトレイTを遠ざけるように、被浮上磁石11Aに斥力を作用させる。各浮上用磁石11Bが作用させる斥力は、トレイTを磁力によって浮上させる。
【0039】
図2に戻り、搬送部10は、複数の制動用磁石12Bを備える。複数の制動用磁石12Bは、前後方向に沿って間隔を空けて並んでいる。前後方向において相互に隣り合う制動用磁石12Bの間の距離は、前後方向におけるトレイTの長さ以下である。すなわち、1つ以上の制動用磁石12BがトレイTと対向するように、複数の制動用磁石12Bは、前後方向に配列されている。
【0040】
図3が示すように、複数の制動用磁石12Bは、右側の制動レール10Aにおける左内側面、および、左側の制動レール10Aにおける右側内側面に位置する。右側の制動用磁石12Bは、トレイ下部T2が備える右側の可動鉛直壁FTと対向するように、また、トレイTが浮上した状態では、右側の被制動部12Aと対向するように位置する。左側の制動用磁石12Bは、トレイ下部T2が備える左側の可動鉛直壁FTと対向するように、また、トレイTが浮上した状態では、左側の被制動部12Aと対向するように位置する。
【0041】
各制動用磁石12Bは、駆動装置30によって駆動を制御される電磁石である。各制動用磁石12Bは、当該制動用磁石12BにトレイTを引き付けるように、被制動部12Aに吸引力を作用させる。各制動用磁石12Bに流れる電流値が変わると、当該制動用磁石12Bが作用させる吸引力が変わる。各制動用磁石12Bが作用させる吸引力は、トレイTの下部が左右方向Yに変位することを抑制する。
【0042】
各固定子10Bは、搬送用磁石13B1を備える。各搬送用磁石13B1は、ヨーク13A1が備える各ヨーク鉛直壁と対向するように、また、トレイTが浮上した状態では、各被搬送磁石13A2と対向するように位置する。前後方向において相互に隣り合う搬送用磁石13B1の間の距離は、前後方向におけるトレイTの長さ以下である。すなわち、1つ以上の搬送用磁石13B1が2つの被搬送磁石13A2に挟まれるように、複数の搬送用磁石13B1は、前後方向に配列されている。
【0043】
各搬送用磁石13B1は、駆動装置30によって駆動を制御される電磁石である。複数の搬送用磁石13B1は、搬送用磁石13B1に流れる電流の向き、および、大きさが変わることによって、リニアモーターを構成する固定子として機能する。各搬送用磁石13B1と被搬送磁石13A2とは、別々のリニアモーターを構成する。
【0044】
搬送部10は、複数のトレイ距離検知部15を備える。複数のトレイ距離検知部15は、制動用磁石12Bと同じく、右側の制動レール10Aの左内側面、および、左側の制動レール10Aの右内側面に位置する。複数のトレイ距離検知部15は、前後方向に沿って間隔を空けて並んでいる。右側の制動レール10Aに位置するトレイ距離検知部15は、右側の可動鉛直壁FTにおける右外側面と対向する。左側の制動レール10Aに位置するトレイ距離検知部15は、左側の可動鉛直壁FTにおける左外側面と対向する。
【0045】
右側の制動レール10Aに位置する各トレイ距離検知部15は、例えば、右側の制動レール10Aに位置する制動用磁石12Bに1つずつ対応づけられている。左側の制動レール10Aに位置する各トレイ距離検知部15は、例えば、左側の制動レール10Aに位置する制動用磁石12Bに1つずつ対応づけられている。
【0046】
各トレイ距離検知部15は、当該トレイ距離検知部15とそれと対向する可動鉛直壁FTとの間の、左右方向における距離を測定する。各トレイ距離検知部15は、可動鉛直壁FTとの間の距離を非接触方式で測定する。各トレイ距離検知部15は、例えば、光学式の距離センサー、渦電流式の距離センサー、超音波式の距離センサー、および、静電容量式の距離センサーのいずれか一種である。トレイ位置は、各トレイ距離検知部15とそれと対向する可動鉛直壁FTとの間の左右方向における距離であるトレイ距離を検知することによって把握される。
【0047】
各トレイ距離検知部15は、駆動装置30に測定値を出力する。駆動装置30は、各制動用磁石12Bの駆動を、当該制動用磁石12Bと可動鉛直壁FTとの間の左右方向における距離に基づいて制御する。
【0048】
なお、制動用磁石12Bと可動鉛直壁FTとの間の左右方向における距離は、当該制動用磁石12Bに対応づけられたトレイ距離検知部15の測定値に基づいて算出されてもよいし、当該制動用磁石12Bに対応づけられたトレイ距離検知部15の測定値に擬制されてもよい。あるいは、制動用磁石12Bと可動鉛直壁FTとの間の左右方向における距離は、当該制動用磁石12Bに対応づけられたトレイ距離検知部15と他のトレイ距離検知部15との測定値に基づいて算出されてもよい。すなわち、制動用磁石12Bの駆動の制御に用いられる距離は、トレイ距離検知部15の測定値であってもよいし、複数のトレイ距離検知部15の測定値から得られる推定値であってもよい。
【0049】
搬送部10は、複数の在荷センサー13Kを備える。在荷センサー13Kは、例えば、左側の制動レール10Aの左内側面において前後方向に沿って間隔を空けて並んでいる。在荷センサー13Kは、当該在荷センサー13Kの検知範囲にトレイTが到達したか否かを検知する。各在荷センサー13Kは、例えば、当該在荷センサー13Kが位置する固定子10Bの上方を検知範囲として備え、検知範囲のなかのトレイTの存否を検知するフォトセンサである。
【0050】
各在荷センサー13Kは、駆動装置30に検知結果を出力する。駆動装置30は、各在荷センサー13Kの検知結果に基づいて各制動用磁石12Bの駆動を制御する。駆動装置30は、各在荷センサー13Kに対応づけられた制動用磁石12Bの駆動の開始を、当該在荷センサー13Kの検知結果に基づいて開始する。駆動装置30は、各在荷センサー13Kに対応づけられた制動用磁石12Bの駆動の停止を、当該在荷センサー13Kの検知結果に基づいて行う。
【0051】
図4が示すように、搬送部10は、複数の存否検知部13B2を備える。存否検知部13B2は、各固定子10Bの下端部に位置する。搬送用磁石13B1は、各存否検知部13B2に1つずつ対応づけられている。
【0052】
各存否検知部13B2は、当該存否検知部13B2の検知範囲にトレイTが到達したか否かを検知する。各存否検知部13B2は、例えば、当該存否検知部13B2が位置する固定子10Bの上方を検知範囲として備え、検知範囲のなかのトレイTの存否を検知するフォトセンサである。
【0053】
各存否検知部13B2は、駆動装置30に検知結果を出力する。駆動装置30は、各存否検知部13B2の検知結果に基づいて各ゲートバルブ1GVの駆動を制御する。駆動装置30は、各存否検知部13B2に対応づけられた搬送用磁石13B1の駆動の開始を、当該存否検知部13B2の検知結果に基づいて開始する。
【0054】
搬送部10は、複数の読取部16Bを備える。各読取部16Bは、制動レール10Aの内側面における上端部に位置する。前後方向において相互に隣り合う読取部16Bの間の距離は、前後方向におけるトレイTの長さ以下である。1つ以上の読取部16Bがスケール16Aと対向するように、複数の読取部16Bは、前後方向に配列されている。1つ以上の読取部16Bがスケール16Aと対向するように、複数の読取部16Bは、前後方向に配列されている。読取部16Bは、各存否検知部13B2に1つずつ、すなわち、各搬送用磁石13B1に1つずつ対応づけられている。
【0055】
各読取部16Bは、当該読取部16Bの直上にスケール16Aが位置するとき、当該スケール16Aから被読取パターンを読み取る。各読取部16Bは、1つの被読取パターンを読み取るごとに、駆動装置30にカウントアップ信号を出力する。
【0056】
スケール16Aと各読取部16Bとは、当該読取部16Bに対するトレイTの相対位置を検知する。スケール16Aと各読取部16Bとは、ローカル座標系におけるトレイTの位置を検知する、インクリメンタルエンコーダーとして機能する。言い換えれば、搬送装置2とトレイTとは、ローカル座標系におけるトレイTの位置を検知するための複数のインクリメンタルエンコーダーを備え、複数のインクリメンタルエンコーダーは、前後方向に間隔を空けて並んでいる。
【0057】
駆動装置30は、各読取部16Bが出力したカウントアップ信号を、読取部16Bごとのカウント値として計測する。読取部16Bは、当該読取部16Bに対応づけられた搬送用磁石13B1が駆動されはじめたときに、スケール16Aの読み取りをはじめる。駆動装置30は、読取部16Bのカウント値に基づいて、当該読取部16Bに対応づけられた搬送用磁石13B1の駆動を制御する。
【0058】
[駆動装置]
図5が示すように、駆動装置30は、制御部31、記憶部32、および、駆動部33を備える。制御部31は、例えば、CPU、RAM、ROMなどのコンピュータに用いられるハードウェア要素、および、ソフトウェアによって構成される。制御部31は、各種の処理を全てソフトウェアで処理するものに限らない。
【0059】
例えば、制御部31は、各種の処理のうちの少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアである特定用途向け集積回路(ASIC)を備えてもよい。制御部31は、ASICなどの1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラムであるソフトウェアに従って動作する1つ以上のプロセッサであるマイクロコンピュータ、あるいは、これらの組み合わせ、を含む回路として構成してもよい。
【0060】
記憶部32は、搬送プログラムを含む各種のプログラムを記憶する。記憶部32は、電流データ32A、および、オフセットデータ32Bを含む各種のデータを記憶する。制御部31は、記憶部32が記憶する搬送プログラム、および、データを読み出し、搬送プログラムを実行することによって、搬送処理などの各種処理を、駆動部33に実行させる。記憶部32が記憶するデータは、各存否検知部13B2、各搬送用磁石13B1、各読取部16B、および、各制動用磁石12Bのグローバル座標系における座標値を含む。
【0061】
[データ]
図6が示すように、オフセットデータ32Bは、オフセット値Kiの算出に用いられる。オフセットデータ32Bは、トレイ位置Ym(mは1以上の整数)にオフセット値Ki(i=m)を対応づけたテーブルである。オフセット値Kiは、吸引力目標値に加えられる補償値である。オフセット値Kiは、トレイ位置Ymに依存した外乱に対するフィードフォワード比例ゲインのようなフィードフォワード要素として作用する。オフセット値Kiは、予め実施される試験などに基づいて定められた値であってもよいし、各種のパラメータを用いて算出された値であってもよい。
【0062】
吸引力目標値は、トレイ位置の測定値をフィードバック値として、トレイ位置を目標位置にするようなフィードバック制御によって算出される。吸引力目標値は、例えば、トレイ位置を目標位置にするための速度と、トレイTの左右方向における速度の測定値と、の偏差から算出される。オフセット値は、吸引力目標値よりも吸引力指令値を高めるための値である。
【0063】
上述した構成においてトレイ位置が変位すると、トレイ位置を目標位置から逸脱させるような外力がトレイTの変位量に応じて指数関数的に増大する。これは、主に、被浮上磁石11Aや浮上用磁石11Bが永久磁石であるからであり、上述した構成のなかに内包された、トレイTの搬送を不安定にさせる要因である。
【0064】
例えば、磁石の同極を相互に向かい合わせてトレイTを浮上させると、トレイTを左右方向に押す力であるサイドフォースが必ずトレイTに作用し、トレイ位置が目標位置から離れるほど、このサイドフォースが増大する。サイドフォースが加味されていない吸引力目標値を吸引力として作用させるような制御では、サイドフォースに抗した吸引力でトレイTを動かすまでに、トレイ位置の測定と吸引力目標値の算出とを何度も繰り返すことになってしまい、トレイ位置を目標位置に到達させるまでに多大な時間を要してしまう。
【0065】
こうした不安定な要因を低減させてトレイTの搬送を安定的に制御するためのフィードフォワード補償を上述した駆動装置30が行う。すなわち、トレイ位置によって変動するオフセット値Kiをフィードフォワード比例ゲインとして用いるフィードフォワード補償を駆動装置30は行う。駆動装置30は、外乱を推定するオブザーバーにトレイ位置を用い、例えば、サイドフォースによる外乱の補償のように、トレイTの変位量に依存した外乱のフィードフォワード補償を、適切、かつ、即応性が高い補償とする。
【0066】
オフセットデータ32Bは、例えば、トレイ位置Y1にオフセット値K1を対応づけ、トレイ位置Y2にオフセット値K2を対応づけ、トレイ位置Y3にオフセット値K3を対応づける。また、オフセットデータ32Bは、例えば、トレイ位置Y4にオフセット値K4を対応づけ、トレイ位置Y5にオフセット値K5を対応づける。
【0067】
オフセットデータ32Bは、例えば、トレイ位置が制動用磁石12Bから離れるほど、トレイ位置に大きいオフセット値を対応づけている。また、オフセットデータ32Bは、例えば、トレイ位置と制動用磁石12Bとの左右方向Yにおける距離が所定以下であるときに、オフセット値として一定値を対応づけている。
【0068】
例えば、トレイ位置Ymと制動用磁石12Bとの距離が、トレイ位置Y3,Y4,Y5の順に大きいとき、オフセット値Kiは、オフセット値K3,K4,K5の順に大きい。また、トレイ位置Y1,Y2と制動用磁石12Bとの距離が、所定値以下であって、トレイ位置Y3,Y4,Y5と制動用磁石12Bとの距離が、その所定値よりも大きいとき、オフセット値K3よりも小さい一定値が、オフセット値K1,K2に対応づけられる。
【0069】
図7が示すように、電流データ32Aは、電流指令値の算出に用いられる。電流指令値は、制動用磁石12Bに流す電流値の指令値であって、トレイ位置を目標位置に配置するための電流値である。目標位置は、例えば、基板Sの主面がほぼ鉛直方向Zに沿って立てられた状態における、右側の可動鉛直壁FTの左右方向での位置、および、左側の可動鉛直壁FTの左右方向での位置である。
【0070】
電流データ32Aは、トレイ位置と吸引力指令値とに電流指令値を対応づけたテーブルである。吸引力指令値は、各制動用磁石12Bに作用させる吸引力の指令値である。吸引力指令値は、トレイ位置を目標位置に配置するための吸引力である。吸引力指令値は、吸引力目標値、および、オフセット値から算出される。
【0071】
電流データ32Aは、トレイ位置Ymと、吸引力指令値Fn(nは1以上の整数)とに、電流指令値Cinm(n,mは1以上の整数)を対応づけている。電流データ32Aは、吸引力指令値Fnが大きいほど、吸引力指令値Fnに大きい電流指令値Cinmを対応づけている。また、電流データ32Aは、トレイ位置Ymと目標位置とのずれが大きいほど、トレイ位置Ymに大きい電流指令値Cinmを対応づけている。
【0072】
例えば、吸引力の大きさが吸引力指令値F1,F2,F3の順に大きくなるとき、電流値Cinmの大きさは、電流指令値Ci11,Ci21,Ci31の順に大きくなるように設定される。また、トレイ位置と目標位置とのずれがトレイ位置Y1,Y2,Y3の順に大きくなるとき、電流値の大きさは、電流指令値Ci11,Ci12,Ci13の順に大きくなるように設定される。
【0073】
[制御部]
制御部31は、複数の存否検知部13B2の検知結果を入力し、存否検知部13B2に対応づけられた搬送用磁石13B1の駆動を、当該存否検知部13B2の検知結果に基づいて制御する。制御部31は、複数の在荷センサー13Kの検知結果を入力し、在荷センサー13Kの検知範囲に対応づけられた制動用磁石12Bの駆動を、当該在荷センサー13Kの検知結果に基づいて制御する。制御部31は、複数の存否検知部13B2の検知結果を入力し、存否検知部13B2に対応づけられた読取部16Bの駆動を、当該存否検知部13B2の検知結果に基づいて制御する。制御部31は、複数の読取部16Bのカウントアップ信号を読取部16Bごとに入力し、読取部16Bに対応づけられた搬送用磁石13B1の駆動を、当該読取部16Bのカウント値に基づいて制御する。
【0074】
制御部31は、例えば、存否検知部13B2がトレイTの到達を検知したとき、当該存否検知部13B2に対応づけられた搬送用磁石13B1に電流の供給を開始する。また、駆動装置30は、存否検知部13B2がトレイTの到達を検知したとき、当該存否検知部13B2以外に対応づけられた搬送用磁石13B1に対して電流の供給を停止する。これにより、駆動装置30は、複数の搬送用磁石13B1を進行方向Xでの並びの順に従って駆動する。
【0075】
制御部31は、例えば、読取部16Bが出力したカウントアップ信号をカウントし、グローバル座標系におけるトレイTの位置、すなわち、搬送位置を算出する。読取部16Bのカウント値は、当該読取部16Bを基準位置としたローカル座標系におけるトレイTの位置を示す。グローバル座標系は、各ローカル座標系の基準位置を、読取部16Bの並びの順に、前後方向に配置した座標系である。すなわち、グローバル座標系は、前後方向に沿う一次元の座標系であって、例えば、搬送が開始される位置を基準位置とする。
【0076】
制御部31は、ローカル座標系におけるトレイTの位置を、グローバル座標系におけるトレイTの位置に変換する。制御部31は、グローバル座標系におけるトレイTの位置に基づいて、各搬送用磁石13B1に流す電流の向き、および、大きさを制御する。すなわち、制御部31は、トレイTの搬送位置に基づいて、各搬送用磁石13B1と被搬送磁石13A2とをリニアモーターとして機能させる。制御部31は、グローバル座標系におけるトレイTの位置に基づいて、各制動用磁石12Bに流す電流の向き、および、大きさを制御する。
【0077】
図8が示すように、制御部31は、入力部41、位置制御部42、速度制御部43、吸引力判定部44、電流指令値算出部45、速度カウンター46、オフセット値算出部47、加減算器41A,42A、および、加算器44Aを備える。
【0078】
なお、制御部31は、左側の制動用磁石12Bに適用する電流指令値の算出において、左側でのトレイ位置の測定値と、左側でのトレイ位置の目標位置とを用いる。制御部31は、右側の制動用磁石12Bに適用する電流指令値の算出において、右側でのトレイ位置の測定値と、右側でのトレイ位置の目標位置とを用いる。すなわち、制御部31は、左側での電流指令値の算出と、右側での電流指令値の算出との間において、算出に用いるトレイ位置の測定値と目標位置とを相互に異ならせる。以下では、右側での電流指令値の算出を詳細に説明し、左側での電流指令値の算出に関しては、重複する構成の説明を割愛する。
【0079】
入力部41は、右側でのトレイ位置の目標位置を入力する。加減算器41Aは、右側でのトレイ位置の測定値をフィードバック値として、右側でのトレイ位置の測定値と、右側での目標位置とのずれを算出する。加減算器41Aは、算出されたずれを、右側での位置偏差として出力する。
【0080】
位置制御部42は、加減算器41Aが出力した右側での位置偏差をゼロにするためのトレイTの速度を算出する。位置制御部42は、算出されたトレイTの速度を、右側でのトレイ速度の目標値として出力する。
【0081】
速度カウンター46は、右側のトレイ位置の測定値をフィードバック値として、今回のトレイ位置の測定値と、前回のトレイ位置の測定値とを用いて、今回のトレイ速度の測定値を算出する。加減算器42Aは、位置制御部42が出力した右側でのトレイ速度の目標値と、今回のトレイ速度の測定値とのずれを、右側での速度偏差として出力する。
【0082】
速度制御部43は、加減算器42Aが出力した右側での速度偏差をゼロにするための吸引力を算出する。速度制御部43は、算出された吸引力を、右側での吸引力目標値として出力する。
【0083】
吸引力判定部44は、吸引力目標値がゼロより小さいか否かを判定する。吸引力判定部44は、吸引力目標値がゼロ以上であると判定した場合に、吸引力目標値を加算器44Aに出力する。吸引力判定部44は、吸引力目標値がゼロよりも小さいと判定した場合に、吸引力目標値をゼロとして加算器44Aに出力する。すなわち、吸引力判定部44は、吸引力目標値に相当する力が、吸引力であるか、あるいは、斥力であるかを判定し、吸引力であると判定した場合には、吸引力目標値を加算器44Aに出力する一方で、斥力であると判定した場合には、吸引力目標値をゼロとして加算器44Aに出力する。
【0084】
オフセット値算出部47は、トレイ位置の測定値と、オフセットデータ32Bとを用いて、トレイ位置の測定値に基づくオフセット値を出力する。この際、オフセット値算出部47は、オフセットデータ32Bを用いた補間処理を行い、それによって、トレイ位置の測定値に基づくオフセット値Kiを出力する。オフセット値算出部47が行う補間処理の一例は、オフセットデータ32Bに含まれるトレイ位置Ymの間において、直線補間などの線形補間、多項式補間、あるいは、スプライン補間を行い、それによって、離散的ではない連続的なオフセット値を出力する。加算器44Aは、右側での吸引力目標値と、オフセット値算出部47が出力したオフセット値との加算値を、吸引力指令値Fnとして出力する。
【0085】
電流指令値算出部45は、加算器44Aが出力した吸引力指令値Fnと、トレイ位置の測定値と、電流データ32Aとを用いて、吸引力指令値Fnと測定値とに基づく電流指令値を算出する。この際、電流指令値算出部45は、吸引力指令値Fnとトレイ位置の測定値とを用いた二次元補間処理を行い、それによって、吸引力指令値Fnとトレイ位置の測定値とに基づく電流指令値Cinmを算出する。電流指令値算出部45が行う二次元補間処理の一例は、電流データ32Aに含まれるトレイ位置Ymの間、および、吸引力指令値Fnの間において、直線補間などの線形補間、多項式補間、あるいは、スプライン補間を行い、これによって、離散的ではない連続的な電流指令値を出力する。なお、搬送装置の性能として応応性を重視する場合は、電流指令値算出部45での計算ステップ数が少ない線形補間が最良である。電流指令値算出部45は、算出された電流指令値を駆動部33に出力する。駆動部33は、右側の制動用磁石12Bに供給された電流値を検知し、当該電流値が電流指令値となるように、右側の制動用磁石12Bに供給される電流値をフィードバック制御する。
【0086】
[作用1:搬送処理]
次に、駆動装置30が実行する搬送処理の一例について図9を参照して説明する。以下では、3つの読取部16Bが進行方向Xに並ぶ1つの経路上に、2つのトレイTを連続して搬送する例を説明する。なお、図9では、相互に隣り合う存否検知部13B2、搬送用磁石13B1、読取部16Bの間隔が、トレイTの前後方向の長さよりも若干短い例を示す。
【0087】
図9(a)から図9(d)は、読取部16Bの位置、および、各トレイTの位置を、進行方向Xに延在する一次元のグローバル座標系で示す。また、座標軸の上側に、各ローカル座標系におけるトレイTの座標値を示す。また、座標軸の下側に、グローバル座標系における搬送位置の座標値を示す。以下、ローカル座標系における座標値をローカル座標、グローバル座標系における座標値をグローバル座標とも言う。
【0088】
図9が示すように、3つの読取部16Bのクローバル座標は、進行方向Xの上流から下流に向けて、座標値YB1,YB2,YB3である。座標値YB1,YB2,YB3に位置する読取部16Bを、それぞれ第1読取部16B1、第2読取部16B2、第3読取部16B3とも言う。
【0089】
なお、制御部31において、座標値YB1,YB2,YB3に対応づけられた存否検知部13B2を、それぞれ第1存否検知部、第2存否検知部、第3存否検知部とも言う。各存否検知部13B2に対応づけられた搬送用磁石13B1を、第1搬送用磁石、第2搬送用磁石、第3搬送用磁石とも言う。
【0090】
図9(a)が示すように、トレイTにおける進行方向Xの先端部が、座標値YB1に到達すると、第1存否検知部は、トレイTの到達を検知する。駆動装置30は、第1存否検知部の検知結果に基づいて、第1搬送用磁石に電流の供給をはじめる。次いで、トレイTにおける進行方向Xの先端部が、座標値YB1を通過しはじめると、制御部31は、第1読取部16B1のカウント値を「0」から順にカウントアップする。これら一連の制御にて被搬送磁石13A2の駆動と、搬送用磁石13B1の駆動とは、トレイTの到達に応じて同期し、それによって、トレイTの搬送処理が継続される。
【0091】
この間、駆動装置30は、第1読取部16B1のカウント値をトレイTのグローバル座標として用い、第1読取部16B1のカウント値に基づいて、第1搬送用磁石に供給される電流の向き、および、大きさを変える。これにより、駆動装置30は、トレイTを進行方向Xに搬送する。また、駆動装置30は、複数の制動用磁石12BのなかでトレイTと対向する制動用磁石12Bを在荷センサー13Kの検知結果に基づいて特定し、特定された制動用磁石12Bに対する電流の供給を制御する。
【0092】
すなわち、制御部31は、トレイTの搬送位置を逐次算出し、トレイTが所定の位置に所定の搬送速度で到達するように、算出された搬送位置に基づいて第1搬送用磁石の駆動を制御する。また、制御部31は、在荷センサー13Kの検知結果に基づいて制動用磁石12Bの駆動を制御する。なお、第1読取部16B1のカウント値は、第1エンコーダーのローカル座標の一例である。第1読取部16B1のカウント値をトレイTのグローバル座標として用いることは、第1エンコーダーのローカル座標に対する変換の一例である。
【0093】
図9(b)が示すように、トレイTにおける進行方向Xの先端部が、座標値YB2に到達すると、第2存否検知部が、トレイTの到達を検知する。そして、駆動装置30は、第2存否検知部の検知結果に基づいて、トレイTに付随する被搬送磁石13A2との同期を保つように第2搬送用磁石に電流の供給をはじめると共に、第1搬送用磁石に電流の供給を停止する。また、制御部31は、第2読取部16B2のカウント値を「0」から順にカウントアップすると共に、第2読取部16B2のカウント値が「0」であるときのグローバル座標である「1000」を補償値とする。つまり、補償値は、第2読取部16B2のカウント値が「0」であるときの、読取部16B1のカウント値と同値となり、受け渡される。すなわち、ローカル座標の切換事象が発生する。
【0094】
この間、駆動装置30は、第2読取部16B2のカウント値に、補償値である「1000」を加算した値を、トレイTのグローバル座標として用いる。そして、駆動装置30は、トレイTのグローバル座標に基づいて、第2搬送用磁石に供給される電流の向き、および、大きさを変える。これにより、駆動装置30は、トレイTをさらに進行方向Xに搬送する。また、駆動装置30は、複数の制動用磁石12BのなかでトレイTと対向する制動用磁石12BをトレイTのグローバル座標に基づいて特定し、特定された制動用磁石12Bの駆動を制御する。そして、制御部31は、第2読取部16B2のカウント値をグローバル座標に変換しはじめると、第1読取部16B1のカウント値を「0」に戻す。
【0095】
すなわち、制御部31は、可動子13Aに対する作用対象を第1搬送用磁石から第2搬送用磁石に切り換えるときに、グローバル座標の変換元を、第1読取部16B1によるローカル座標から、第2読取部16B2によるローカル座標に切り換える。この際、制御部31は、第2読取部16B2によるローカル座標の変換では、第2読取部16B2によるローカル座標に補償値を加算する。そして、制御部31が、グローバル座標の変換対象を、第2読取部16B2によるローカル座標に切り換えると、第1読取部16B1は、次のトレイTについてローカル座標をインクリメントできる。なお、第2読取部16B2のカウント値は、第2エンコーダーのローカル座標の一例である。
【0096】
図9(c)が示すように、駆動装置30は、トレイTが座標値YB2を通過している間も、第2読取部16B2のカウント値をトレイTのグローバル座標に変換する。第2読取部16B2のカウント値の変換では、第2読取部16B2のカウント値に、補償値である「1000」が加算されて、加算された結果がトレイTのグローバル座標として用いられる。そして、駆動装置30は、第2読取部16B2のカウント値の変換結果に基づいて、第2搬送用磁石に供給される電流の向き、および、大きさを変える。これにより、駆動装置30は、トレイTを進行方向Xに搬送する。また、駆動装置30は、複数の制動用磁石12BのなかでトレイTと対向する制動用磁石12Bを、第2読取部16B2のカウント値の変換結果に基づいて特定し、特定された制動用磁石12Bの駆動を制御する。
【0097】
例えば、第2読取部16B2のカウント値が「500」であれば、第2読取部16B2のカウント値である「500」に、補償値である「1000」が加算されて、加算された結果である「1500」がトレイTのグローバル座標として用いられる。そして、駆動装置30は、トレイTのグローバル座標が「1500」であることに基づいて、第2搬送用磁石に供給される電流の向き、および、大きさを変える。また、駆動装置30は、トレイTのグローバル座標が「1500」であることに基づいて、制動用磁石12Bに供給される電流の大きさを変える。
【0098】
図9(d)が示すように、駆動装置30は、トレイTにおける進行方向Xの先端部が、座標値YB3に到達すると、第3存否検知部が、トレイTの到達を検知する。そして、駆動装置30は、第3存否検知部の検知結果に基づいて、トレイTに付随する被搬送磁石13A2との同期を保つように第3搬送用磁石に電流の供給をはじめると共に、第2搬送用磁石に電流の供給を停止する。また、制御部31は、第3読取部16B3のカウント値を「0」から順にカウントアップすると共に、第3読取部16B3のカウント値が「0」であるときのグローバル座標である「2000」を補償値とする。つまり補償値は、第3読取部16B3のカウント値が「0」であるときの、読取部16B2のカウント値に直前の補償値を加算した値と同値となり、受け渡される。すなわち、ローカル座標の切換事象が発生する。
【0099】
この間、駆動装置30は、第3読取部16B3のカウント値に、補償値である「2000」を加算した値を、トレイTのグローバル座標として用いる。そして、駆動装置30は、トレイTのグローバル座標に基づいて、第3搬送用磁石に供給される電流の向き、および、大きさを変える。また、駆動装置30は、複数の制動用磁石12BのなかでトレイTと対向する制動用磁石12BをトレイTのグローバル座標に基づいて特定し、特定された制動用磁石12Bの駆動を制御する。これにより、駆動装置30は、トレイTをさらに進行方向Xに搬送する。制御部31は、第3読取部16B3のカウント値をグローバル座標に変換しはじめると、第2読取部16B2のカウント値を「0」に戻す。
【0100】
すなわち、制御部31は、可動子13Aに対する作用対象を第2搬送用磁石から第3搬送用磁石に切り換えるときに、グローバル座標の変換元を、第2読取部16B2によるローカル座標から、第3読取部16B3によるローカル座標に切り換える。この際、制御部31は、第3読取部16B3によるローカル座標の変換では、第3読取部16B3によるローカル座標に補償値を加算する。そして、制御部31が、グローバル座標の変換対象を、第3読取部16B3によるローカル座標に切り換えると、第2読取部16B2は、次のトレイTについてローカル座標をインクリメントできる。
【0101】
なお、後続するトレイTにおける進行方向Xの先端部が、座標値YB1に到達すると、第1存否検知部は、再び、トレイTに付随する被搬送磁石13A2との同期を保つようにトレイTの到達を検知する。駆動装置30は、第1存否検知部の検知結果に基づいて、再び、第1搬送用磁石に電流の供給をはじめる。また、後続するトレイTにおける進行方向Xの先端部が、座標値YB1を通過しはじめると、制御部31は、第1読取部16B1のカウント値を「0」から順に、再び、カウントアップする。そして、制御部31は、各読取部16B、各搬送用磁石13B1、および、各制動用磁石12Bの駆動の制御を、先行するトレイTと同様に繰り返す。
【0102】
[作用2:制動処理]
制御部31は、右側の制動用磁石12Bの駆動を制御することに際して、右側のトレイ距離検知部15が出力する測定値を入力し、当該トレイ距離検知部15に対応づけられた右側の制動用磁石12Bにおける駆動を、当該トレイ距離検知部15の測定値に基づいて制御する。制御部31は、左側の制動用磁石12Bの駆動を制御することに際しても同様に、左側のトレイ距離検知部15が出力する測定値を入力し、左側の制動用磁石12Bにおける駆動を、左側のトレイ距離検知部15の測定値に基づいて制御する。
【0103】
すなわち、制御部31は、右側でのトレイ位置の測定値をフィードバック値として、右側でのトレイ位置の位置偏差、および、右側でのトレイTの速度偏差から、右側での吸引力目標値を算出する。同様に、制御部31は、左側でのトレイ位置の測定値をフィードバック値として、左側でのトレイ位置の位置偏差、および、左側でのトレイTの速度偏差から、左側での吸引力目標値を算出する。
【0104】
次いで、制御部31は、右側のトレイ距離検知部15による測定値と、オフセットデータ32Bとを用いて、当該測定値に基づくオフセット値Kiを、右側の制動用磁石12Bに適用するオフセット値として算出する。そして、制御部31は、右側での吸引力目標値と、右側でのオフセット値との加算値を、右側での吸引力指令値として算出する。また、制御部31は、左側のトレイ距離検知部15による測定値と、オフセットデータ32Bとを用いて、当該測定値に基づくオフセット値Kiを、左側の制動用磁石12Bに適用するオフセット値として算出する。そして、制御部31は、左側での吸引力目標値と、左側でのオフセット値との加算値を、左側での吸引力指令値として算出する。
【0105】
次いで、制御部31は、右側の制動用磁石12Bに適用する電流指令値と、左側の制動用磁石12Bに適用する電流指令値とを、共通する電流データ32Aを用いて算出する。すなわち、制御部31は、右側のトレイ距離検知部15による測定値、右側の吸引力指令値、および、電流データ32Aを用いて、右側のトレイ距離検知部15による測定値と、右側の吸引力指令値とに基づく電流指令値を算出する。また、制御部31は、左側のトレイ距離検知部15による測定値、左側の吸引力指令値、および、電流データ32Aを用いて、左側のトレイ距離検知部15による測定値と、左側の吸引力指令値とに基づく電流指令値を算出する。
【0106】
このように、駆動装置30が算出する吸引力指令値Fnは、トレイ位置Ymを用いたフィードバック制御によって算出される。駆動装置30が算出する電流指令値Cinmは、算出された吸引力指令値Fn、トレイ位置の測定値、および、電流データ32Aを用いて算出される。これにより、図10が示すように、制動用磁石12Bに供給される電流値は、トレイ距離検知部15とトレイTとの距離、すなわち、制動用磁石12BとトレイTとの間の作用距離Wが反映された値となる。
【0107】
また、電流指令値Cinmを生成するための吸引力指令値Fnが、吸引力目標値とオフセット値Kiとの加算値である。吸引力指令値Fnを算出するためのオフセット値Kiは、オフセットデータ32Bと、トレイ位置の測定値とを用いて算出される。これらにより、制動用磁石12Bに供給される電流値は、オフセット値Kiの分だけ、トレイ位置Ymを目標位置に近づける大きさとなる。
【0108】
以上、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることが可能である。
(1)トレイ位置によって変動するオフセット値Kiがフィードフォワード比例ゲインとして用いられる。そのため、サイドフォースなどのようなトレイ位置を目標位置から逸脱させるような外乱に対する補償を、適切、かつ、高い即応性のもとで行うことが可能となる。
【0109】
(2)トレイTと制動用磁石12Bとの間の距離が長いほど、オフセット値Kiを大きくすること、ひいては、吸引力を高めることが可能となるから、上記(1)に準じた効果を得ることの実効性を高めることが可能となる。
【0110】
(3)また、トレイ位置の測定値と制動用磁石12Bとの距離が所定値以下であるときに、オフセット値Kiを一定値にすることが可能となるから、トレイTに作用する実際の吸引力が過大となることが抑制可能となる。
【0111】
(4)制動用磁石12Bに近いトレイ位置で吸引力指令値Fnが算出される場合と、制動用磁石12Bから遠いトレイ位置で吸引力指令値Fnが算出される場合との間では、制動用磁石12BがトレイTに作用させる吸引力の作用距離が相互に異なる。吸引力を作用させるためのこうした空間的な差異は、トレイ位置Ymに対応づけられた電流指令値Cinmを算出することによって低減可能となる。これにより、左右方向における揺動のような不安定な挙動がトレイに生じることが抑制可能となる。
【0112】
(5)トレイ位置の測定値と吸引力指令値Fnとに対応付けられたテーブルから算出した電流指令値Cinmを初期値として計算するため、計算ステップ数の減少によって算出時間(制御応答時間)の短縮をもたらし、上記(4)に準じた効果を得ることの実行性を高めることが可能ともなる。
【0113】
(6)また、制動用磁石12BがトレイTに作用させる実際の吸引力は、トレイTと制動用磁石12Bとの間の距離が長いほど小さい。そのため、トレイTと制動用磁石12Bとの間の距離が長いほどトレイ位置Ymに大きい電流指令値Cinmを対応づけた電流データ32Aであれば、上記(4)に準じた効果を得ることの実行性をさらに高めることが可能ともなる。
【0114】
(7)トレイTのグローバル座標は、搬送部10が備える各読取部16Bのローカル座標から変換されるため、エンコーダーの出力を伝送するための信号ケーブルを、トレイTではなく、トレイTを搬送するための装置に接続することが可能となる。そのため、相互に隣り合う真空チャンバー1の間で信号ケーブルを移動させがたい真空処理装置などにも、搬送装置2が適用可能となる。
【0115】
(8)また、第1読取部16B1のローカル座標から第2読取部16B2のローカル座標に変換対象が切り換わった後は、第1読取部16B1は、次のトレイTについてローカル座標をインクリメントできる。そのため、複数のトレイTを連続的に搬送することが求められる量産機においても、こうした搬送装置2を適用することが可能となる。
【0116】
(9)変換対象を、第1読取部16B1のローカル座標から、第2読取部16B2のローカル座標に切り換えることが、第1搬送用磁石の駆動から、第2搬送用磁石の駆動に切り換えること、すなわち、可動子13Aに対する作用対象の切り換えと共に行われる。これにより、変換対象の切り換えと、作用対象の切り換えと、の整合を図ることが可能である。これにより、例えば、第1読取部16B1による読み取りが不能であるにも関わらず変換対象の切り換えがなされないこと、あるいは、第2読取部16B2による読み取りが不能であるにも関わらず変換対象が切り換えられることを生じることが抑えられる。すなわち、変換対象の切り換えと、作用対象の切り換えと、の不整合に起因してグローバル座標に誤差を生じることが抑制可能ともなる。
【0117】
(10)また、変換対象を、第1読取部16B1のローカル座標から、第2読取部16B2のローカル座標に、より円滑に切り換え可能ともなる。
(11)変換対象の切り換え時におけるグローバル座標と、第2読取部16B2が出力したローカル座標との加算という簡便な演算によって、第2読取部16B2のローカル座標を変換することが可能ともなる。
【0118】
(12)変換対象を、第1読取部16B1のローカル座標から、第2読取部16B2のローカル座標に切り換えることが、第2存否検知部によるトレイTの存否の検知に基づいて行われる。これにより、トレイTの実際の存否に基づいて変換対象の切り換えが行われるため、例えば、第1読取部16B1による読み取りが不能であるにも関わらず変換対象の切り換えがなされないこと、あるいは、第2読取部16B2による読み取りが不能であるにも関わらず変換対象の切り換えが行われることが抑制可能ともなる。すなわち、変換対象の切り換えと、読取部の切り換えと、の不整合に起因してグローバル座標に誤差を生じることが抑制可能ともなる。
【0119】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[電流データ]
・電流データ32Aは、各種の演算式に変更可能である。演算式は、トレイ位置Ymと吸引力指令値Fnとから電流指令値Cinmを算出可能とする、言わば、トレイ位置Ym、および、吸引力指令値Fnと、電流指令値Cinmとの関係式である。要は、電流データ32Aは、制動力が作用する距離の差異という空間的な差異を補償する電流指令値を、トレイ位置と吸引力指令値とから算出可能な構成であればよい。
【0120】
・電流データ32Aの一部は、トレイ位置Ymと吸引力指令値Fnとの複数の組み合わせについて、相互に等しい電流指令値Cinmを対応づけてもよい。例えば、トレイ位置Ymが目標位置の近辺であるトレイ位置Ymの範囲について、複数のトレイ位置Ymに一定値の電流指令値Cinmが対応づけられてもよい。
【0121】
[オフセットデータ]
・オフセットデータ32Bは、各種の演算式に変更可能である。演算式は、トレイ位置Ymからオフセット値Kiを算出可能とする、トレイ位置Ymとオフセット値Kiとの関係式である。要は、オフセットデータ32Bは、トレイ位置Ymを目標位置に近づけるためのオフセット値Kiをトレイ位置の測定値から算出可能な構成であればよい。
【0122】
・オフセットデータ32Bを構成するオフセット値Kiの全ては、トレイ位置Ymが制動用磁石12Bから離れるほど大きい値に変更可能である。
・オフセットデータ32Bを構成するオフセット値Kiは、吸引力目標値よりも吸引力指令値を高める値に限らない。例えば、実際の吸引力よりも大きい吸引力目標値が常に算出されるように、位置制御部42や速度制御部43が構成されている場合には、吸引力目標値よりも吸引力指令値を低めるようなオフセット値Kiによってオフセットデータ32Bは構成される。
【0123】
・あるいは、位置制御部42や速度制御部43は、実際の吸引力よりも大きい吸引力目標値が常に算出される第1範囲、および、実際の吸引力よりも小さい吸引力目標値が常に算出される第2範囲を、トレイ位置の範囲として特定可能に構成されてもよい。この場合、オフセットデータ32Bは、第1範囲には、吸引力目標値よりも吸引力指令値を低めるようなオフセット値Kiを備え、第2範囲には、吸引力目標値よりも吸引力指令値を高めるようなオフセット値Kiを備える。
【0124】
要は、オフセット値Kiは、吸引力目標値に加えられる補償値であって、トレイ位置を目標位置から逸脱させるような外乱をトレイ位置Ymに基づいて補償する値であればよい。
【0125】
・オフセットデータ32Bは、トレイ位置Ymと制動用磁石12Bとの左右方向Yにおける距離が所定値以上である範囲に、オフセット値Kiとして一定値が対応づけられる、という構成に変更可能である。
【0126】
[エンコーダー]
・スケール16Aは、インクリメンタルリニアスケールに限らず、インクリメンタルロータリースケールに変更可能である。この際、固定子10Bは、例えば、左右方向に回転軸を有する回転体であって、相互に異なる磁極が周方向に沿って交互に繰り返された外周面を備える。そして、固定子10Bは、回転体の回転に追従させて可動子13Aを進行方向Xに進めるように構成される。スケール16Aは、固定子10Bの回転に追従させて被読取パターンが回転するように、固定子10Bに取り付けられる。
【0127】
すなわち、スケール16Aは、トレイTではなく、固定子10Bに備えられてもよい。この構成であれば、トレイTからスケール16Aを割愛することが可能であって、トレイTが備える構成の簡素化を図ることが可能ともなる。
【0128】
[制動力]
・上記実施形態では、トレイ位置を目標位置に配置するための制動力が、トレイTを制動用磁石12Bに向けて吸引する吸引力である例を説明した。これに限らず、トレイ位置を目標位置に配置するための制動力は、トレイTを制動用磁石12Bから遠ざける斥力であってもよい。この場合、被制動部12Aは永久磁石である。
・被制動部12Aが永久磁石である場合、制動用磁石12Bに流す電流の向きが変わると、被制動部12Aに作用する磁力もまた、引力から斥力、あるいは、斥力から引力に変わる。そのため、被制動部12Aと制動用磁石12Bとの組みは、トレイTの左右方向における右側と左側とのいずれか一方にのみ位置する構成であってもよい。
・上記実施形態では、トレイ距離検知部15が1つの制動用磁石12Bに対して1つずつ対応づけられる例を説明した。これを変更して、進行方向Xにおいて、相互に隣り合うトレイ距離検知部15の間隔と、相互に隣り合う制動用磁石12Bの間隔とは、相互に異なってもよい。
【0129】
例えば、制動用磁石12Bは、1つのトレイ距離検知部15に対して2つ以上ずつ対応づけられてもよい。この際、駆動装置30は、例えば、クローバル座標系における各制動用磁石12Bの座標値を有する。また、駆動装置30は、トレイTの搬送位置と制動用磁石12Bとの間の距離が所定値以下である制動用磁石12Bを特定する。そして、駆動装置30は、トレイTにおける左右方向での変位を抑えるように、特定された制動用磁石12Bの駆動を制御する。
【0130】
例えば、トレイ距離検知部15は、1つの制動用磁石12Bに対して2つ以上ずつ対応づけられてもよい。この際、駆動装置30は、例えば、クローバル座標系における各制動用磁石12Bの座標値を有する。また、駆動装置30は、トレイTの搬送位置と制動用磁石12Bとの間の距離が所定値以下である制動用磁石12Bを特定する。そして、駆動装置30は、各トレイ距離検知部15の測定値からトレイTの姿勢を特定し、トレイTにおける左右方向での変位を抑えるように、特定された制動用磁石12Bの駆動を制御する。
【0131】
・トレイ距離検知部15は、トレイTを挟む左右両側のうち一方にのみ位置する構成であってもよい。左右方向における制動用磁石12Bの間の距離と、左右方向におけるトレイTの幅とは、予め把握することは可能であるから、トレイTを挟む左右両側のうち一方側の距離を検知すれば、他方側の距離を算出することは可能である。
【0132】
[その他]
・被案内部材21Aは、案内部20に引き付けられる磁性体であってもよい。要は、被案内部材21Aは、案内部20が作用させる磁力を受けて鉛直方向Zの上側に変位する構成であればよい。
【0133】
・案内部材21Bは、トレイTを引き付ける磁性体であってもよい。要は、案内部材21Bは、被案内部材21Aが作用させる磁力を受けて、被案内部材21Aを鉛直方向Zの上側に変位させる構成であればよい。
【0134】
・被制動部12Aは、制動用磁石12Bに引き付けられる磁性体であってもよい。要は、被制動部12Aは、制動用磁石12Bが作用させる磁力を受けて、被制動部12Aを左右方向に変位させる構成であればよい。
【0135】
・駆動装置30は、存否検知部13B2を割愛された構成であってもよい。この際、駆動装置30は、例えば、各搬送用磁石13B1のクローバル座標を有する。そして、駆動装置30は、トレイTの搬送位置と搬送用磁石13B1との距離が所定値以下である搬送用磁石13B1を搬送位置に基づいて特定し、トレイTが進行方向Xに搬送されるように、特定された各搬送用磁石13B1の駆動を制御してもよい。
【0136】
・駆動装置30は、在荷センサー13Kを割愛された構成であってもよい。この際、駆動装置30は、複数の制動用磁石12BのなかでトレイTと対向する制動用磁石12Bを第1読取部16B1のカウント値に基づいて特定し、特定された制動用磁石12Bの駆動を制御する。
【0137】
・トレイTに搭載される可動子13Aが電磁石であって、搬送用磁石13B1が前後方向に延在する永久磁石であってもよい。この際、駆動装置30は、可動子13Aの駆動を制御することによって、トレイTを進行方向Xに搬送する。この構成であっても、上記(1)から(6)に準じた効果を得ることは可能である。
【0138】
・制御部31は、電流データ32Aを用いた電流指令値Cinmの算出、すなわち、トレイ位置の測定値と吸引力指令値Fnとに対応づけられた電流指令値Cinmの算出を割愛し、単に、吸引力指令値Fnから電流指令値を算出する構成に変更可能である。この構成であっても、上記(1)から(3)、および、上記(7)から(12)に準じた効果を得ることは可能である。
【0139】
・搬送装置は、基板Sを水平面に沿って倒した状態でトレイを搬送してもよい。
【符号の説明】
【0140】
Ci11,Ci12,Ci13,Ci21,Ci31,Cinm…電流指令値、K1,K2,K3,K4,K5,Ki…オフセット値、S…基板、T…トレイ、Y1,Y2,Y3,Y4,Y5,Ym…トレイ位置、1…真空チャンバー、2…搬送装置、10…搬送部、30…駆動装置、32A…電流データ、32B…オフセットデータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10