IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特許-硬化性材料からの成形体の積層造形 図1
  • 特許-硬化性材料からの成形体の積層造形 図2
  • 特許-硬化性材料からの成形体の積層造形 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】硬化性材料からの成形体の積層造形
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
B28B1/30
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019531140
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2017083895
(87)【国際公開番号】W WO2018115166
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】16205853.1
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ ルーテンズ
(72)【発明者】
【氏名】アルミン ブリュービーラー
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル ブルカン
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502870(JP,A)
【文献】特開2004-231497(JP,A)
【文献】特開2009-178225(JP,A)
【文献】国際公開第2015/059956(WO,A1)
【文献】特開2002-340864(JP,A)
【文献】特開2017-185645(JP,A)
【文献】Timothy Wangler et al., Digital Concrete: Opportunities and Challenges, RILEM Technical Letters, 2016(1)67-75
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
B29C 67/00
B33Y 10/00,30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性材料から成形体を製作するための方法において、
前記硬化性材料を、少なくとも1つの空間方向に移動可能であるプリントヘッドによって、積層法で層状に適用し、かつ
少なくとも1つの単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の高さ、および前記高さを達成するために必要とされる前記硬化性材料の経時的強度発現を測定し、ここで、前記硬化性材料の前記経時的強度発現が、前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の圧縮強度であり、かつ
単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の高さおよび前記硬化性材料の経時的強度発現を互いに調整し、ここで、前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の前記測定した圧縮強度に応じて、単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の高さを設定するか、あるいは前記測定した単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の前記高さに応じて、前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の圧縮強度を設定し、かつ
前記プリントヘッドの移動速度を、前記プリントヘッドが前記硬化性材料の放出とともに前記成形体の現在の層で移動しなければならない距離の長さに応じて設定し、かつ
前記硬化性材料の前記経時的強度発現を、前記成形体の積層製作中に測定する
方法。
【請求項2】
前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の前記測定した圧縮強度に比例して、単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の高さを設定するか、あるいは前記測定した単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の前記高さに比例して、前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の圧縮強度を設定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
層数の増加に応じて、単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の前記高さを変更する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
待ち時間を、前記硬化性材料の2つの連続する層の施用の間で観測し、前記待ち時間を、前記硬化性材料の前記経時的強度発現に応じて選択する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プリントヘッドの前記移動速度が、前記硬化性材料の前記経時的強度発現に応じて設定される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プリントヘッドの前記移動速度が、前記プリントヘッドが前記硬化性材料の放出とともに前記成形体の現在の層で移動しなければならない距離の長さに比例して設定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後に、前記経時的強度発現が、少なくとも1回の前記硬化性材料の物理量の測定によって判定される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
温度、電気伝導率、所定の貫入深さによる指定された物体の貫入力、所定の貫入力による指定された物体の貫入深さ、および/または音波の反射が、前記硬化性材料上で物理量として測定される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記経時的強度発現が、貫入針法によって、かつ/または音響測定によって判定される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記硬化性材料が、前記硬化を促進する薬剤および/または前記硬化を抑制する薬剤で処理される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記プリントヘッドの領域における前記硬化性材料が、前記硬化を促進する物質および/または前記硬化を抑制する物質と混合される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記硬化性材料が、鉱物結合剤組成物を含むか、あるいはそれらから成る、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
硬化性材料から成形体を積層造形するための装置(1)において、前記硬化性材料を層状に適用することができる、少なくとも1つの空間方向に移動可能であるプリントヘッド(20)と、前記プリントヘッドを制御することができる制御ユニット(30)とを備え、
前記制御ユニット(30)が、前記硬化性材料の経時的強度発現を判定することができ、かつ
少なくとも1つの単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の高さ、および前記高さを達成するために必要とされる前記硬化性材料の経時的強度発現を測定し、ここで、前記硬化性材料の前記経時的強度発現が、前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の圧縮強度であり、かつ
単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の高さおよび前記硬化性材料の経時的強度発現を互いに調整し、ここで、前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の前記測定した圧縮強度に応じて、単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の高さを設定するか、あるいは前記測定した単位時間あたりに前記プリントヘッドから吐出される前記硬化性材料の前記高さに応じて、前記硬化性材料の混合後および/または前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の圧縮強度を設定し、かつ
前記プリントヘッドの移動速度を、前記プリントヘッドが前記硬化性材料の放出とともに前記成形体の現在の層で移動しなければならない距離の長さに応じて設定し、かつ
前記硬化性材料の前記経時的強度発現を、前記成形体の積層製作中に測定すること
ができるように構成されていることを特徴とする、
装置(1)。
【請求項14】
鉱物結合剤または鉱物結合剤組成物から成形体を製作するための、請求項13に記載の装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性材料から、特に、鉱物結合剤組成物から成形体を製作するための方法に関し、硬化性材料は、積層法、特に、積層自由空間法において、少なくとも1つの空間方向に移動可能であるプリントヘッドによって層状に重ねられる。本発明のさらなる態様は、硬化性材料からの成形体の積層造形のための装置に関し、かつ、鉱物結合剤または鉱物結合剤組成物、特に、コンクリートおよび/またはモルタル組成物から成形体を製作するためのそのような装置の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形法による成形体の製作は、技術のすべての分野においてますます重要になってきている。用語「積層造形法」または「積層造形」は、三次元物体または成形体を、材料の選択的な三次元堆積、施用、および/または固化によって製作する方法を指す。
【0003】
このプロセスにおいて、材料の堆積、施用、および/または固化は、特に、製作される物体のデータモデルに基づいて、特に、層またはシート内で行われる。積層造形法において、各物体は通常、1つまたは複数のシートから製作される。通常、物体は、特に、化学的および/または物理的プロセス(たとえば、溶融、重合、焼結、または硬化)を受ける、定形のない材料(たとえば、液体、粉末、顆粒など)、および/または、形状のはっきりしない材料(たとえば、バンド、ワイヤ)を使用して製造される。積層造形法も、「生成的製造法」、「積層造形」、または「3Dプリント」などの用語を使用して呼ばれることもある。
【0004】
たとえば、国際公開第2016/095888A1号パンフレット(Voxeljet AG)は、積層技術によって三次元モールド部品を製作するための方法を記載している。モールド部品は、特に、コンクリートまたはポリマー鋳造プロセスの間、たとえば、鋳型として、あるいは、彫刻品または内蔵型構成部品として、使用することができる。粒状造形材料は、塗布機を使用して指定の層厚さで造形場に重ねられ、結合剤流体は、プリントヘッドを介して造形材料に選択的に加えられ、結合剤流体は、粒子に加えられた活性剤によって重合する。次いで、造形場が1層分の厚さだけ下げられ、または、塗布機が1層分の厚さだけ上げられ、望ましいモールド部品が製作されるまで、さらなる層が同じ方法で製作される。このような粉体層ベースのプリント方法は、特定の用途には好適であるが、それらは多くの場合、比較的高価であり、特殊な材料に限定される。
【0005】
建設の分野において、たとえば、積層法によるコンクリート要素などの、幾何学的に複雑な構成要素を製作するための取り組みも、かなりの期間、行われている。これは実際に、ある程度は可能である。しかしながら、コンクリート混合物の物理的および化学的特性が、コンクリートからの成形体の積層造形を非常に難しくしている。特に、硬化プロセス中の動力学およびコンクリート組成物のチキソトロープ性のために、積層造形法を使用するコンクリート要素の製作速度は、厳しく制限される。
【0006】
したがって、可能な限り上記欠点を克服する、新しく改善された解決方法の継続的な必要性が存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、成形体の選択的な製作のための改善された方法を提供することである。特に、これらの方法は、硬化性材料、特に、鉱物結合剤組成物からの成形体の、効率的で、信頼性が高く、できるだけ迅速である製作を可能とするように意図される。可能な限り、これは、成形体の品質または強度に悪影響を与えることなく、実施されなければならない。さらに、これらの目的を効果的に実現することができる対応する装置が、提供されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、その方法に関して、本発明の目的は、請求項1に記載される、硬化性材料から成形体を製作するための方法によって実現できることが見出された。
【0009】
したがって、解決方法は、硬化性材料から、特に、鉱物結合剤組成物から成形体を製作するための方法からなり、硬化性材料は、積層法、特に、積層自由空間法において、少なくとも1つの空間方向に移動可能であるプリントヘッドによって層状に重ねられ、硬化性材料の施用量および硬化性材料の経時的強度発現は互いに調整される。
【0010】
本発明による方法によって、信頼性が高く、最小限の期間で硬化性材料から成形体を製造することが可能であることが見出された。さらに、方法は汎用的に適用可能であり、必要に応じて、さまざまな硬化性材料、たとえば、デュロプラスチックまたは鉱物結合剤組成物によって実施できる。
【0011】
驚くべきことに、本発明による方法によって、製作する成形体の品質を、多くの場合、改善できることも見出された。これは、理論に縛られることなく、硬化性材料の施用量および経時的強度発現の、本発明による調整に起因すると考えられる。特に、これにより、成形体の強度および品質を全体として改善させることができる。
【0012】
本発明による調整、または施用量および経時的強度発現の同期により、成形体で可能な最も迅速な製作も可能になる。これは、連続層の適用により、必要以上に長い待ち時間を省くことができるためである。従来のシステムにおいて、待ち時間は通常、次の層が加えられる前の各層の後に計画される、または、施用量の減少を選択しなければならない。この場合、待ち時間または施用量の減少を考慮しなければならず、環境状態に依存する硬化性材料の経時的強度発現は考慮されないので、十分な安全マージンをその中に含めなければならない。その他の場合には、特に、成形体のより低い層がその上方に重ねられた層の荷重の下で変形するというリスクが存在する。これは、一方では、本方法を減速させる無駄時間へとつながり、他方では、成形体の強度または品質を低下させるというリスクを増加させる。対照的に、従来の方法と関連する無駄時間は、本発明による調整によって、層が変形するリスク、または、隣接する層の間の接着力に悪影響を与えるリスクを冒すことなく、排除することができる。
【0013】
本発明のさらなる態様は、さらなる独立請求項の主題である。本発明の特に好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0014】
第1の態様において、本発明は、硬化性材料から、特に、鉱物結合剤組成物から成形体を製作するための方法に関し、硬化性材料は、積層法、特に、積層自由空間法において、少なくとも1つの空間方向に移動可能であるプリントヘッドによって層状に重ねられ、硬化性材料の施用量および硬化性材料の経時的強度発現は互いに調整される。
【0015】
特に、積層法では、個々の層は、硬化性材料の選択的な堆積、配置、または施用によって作り上げられ、その後、次の層が、同じ方法で、このように製作された層に重ねられる。このプロセスは、成形体の構築が完了するまで繰り返される。
【0016】
用語「施用量」は、本明細書においては、単位時間あたりに加えられる硬化性材料の高さを参照しながら理解されるべきである。高さは通常、個々の層によって形成される平面と略直角である方向に測定される。特に、高さは、垂直方向に測定される。
【0017】
個々の層の高さは、特に0.1~10cm、好ましくは0.5~5cmまたは1~2cmである。成形体の全高、または、まとめられた成形体のすべての個々の層の厚さは、たとえば1cm~1000cm、好ましくは10cm~500cm、特に、50cm~300cmまたは100cm~200cmである。これは、特に、硬化性材料は、鉱物結合剤組成物、特にモルタルまたはコンクリート組成物を備える、または、それらからなるときにあてはまる。
【0018】
「硬化性材料の経時的強度発現」は、本明細書においては、特に本方法において使用される、特に現在の環境条件の下での硬化性材料の強度発現を参照しながら理解されるべきである。硬化性材料の経時的強度発現は、硬化性材料のプリントヘッドからの吐出後、特に、0.1~1000分、好ましくは0.1~100分、特に好ましくは0.1~10分の間に判定される。このプロセスで判定される強度値は、硬化性材料の混合後かつ/または硬化性材料のプリントヘッドからの吐出後の指定時点における、硬化性材料の強度、特に圧縮強度に特に対応する。指定時点は、硬化性材料の混合後かつ/または硬化性材料のプリントヘッドからの吐出後の、特に0.1~1000分、好ましくは0.1~100分、特に好ましくは0.1~10分の範囲にある。
【0019】
「硬化性材料」は、通常、流動可能または液化可能である材料を示し、混合後、たとえば、混合水の追加、構成要素への混合、または加熱によって、固体に硬化する化学反応を起こすことができる。たとえば、硬化性材料は、反応樹脂、鉱物結合剤、鉱物結合剤組成物、またはそれらの混合物とすることができる。
【0020】
反応樹脂は、特に、重合または重付加によってデュロマ-に硬化する液体または液化可能な合成樹脂である。たとえば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および/またはシリコーン樹脂を使用することができる。
【0021】
用語「鉱物結合剤」は、特に、固体水和物または水和相を形成するために水の存在下で水和反応を起こす結合剤を参照しながら理解されるべきである。これは、たとえば、水硬性結合剤(たとえば、セメントまたは水硬石灰)、潜在水硬性結合剤(たとえば、スラグ)、ポゾラン結合剤(たとえば、フライアッシュ)、または非水硬性結合剤(たとえば、石膏または生石灰)とすることができる。
【0022】
よって、「鉱物結合剤組成物」は、少なくとも1つの鉱物結合剤を備える組成物である。本事例において、これは、特に、結合剤と、骨材と、任意選択的に1つまたは複数の混和剤とを備える。好適な骨材の例は、岩石粒子、砂利、(天然のおよび/または処理された(たとえば、粉砕された)形態の)砂、および/または充填剤を含む。鉱物結合剤組成物は、特に、混合水と混合された液体の結合剤組成物の形態である。
【0023】
「セメント系結合剤」または「セメント系結合剤組成物」は、本明細書では、少なくとも5重量%、特に、少なくとも20重量%、好ましくは、少なくとも35重量%、特に、少なくとも65重量%のセメントクリンカを含有する結合剤または結合剤組成物を特に表すと理解される。セメントクリンカは、好ましくは、ポルトランドセメントクリンカおよび/またはカルシウムサルホアルミネートセメントクリンカであり、特に、ポルトランドセメントクリンカである。本明細書において、セメントクリンカは、特に、粉砕されたセメントクリンカを指す。
【0024】
特に、鉱物結合剤または結合剤組成物は、水硬性結合剤、好ましくはセメントを備える。35重量%以上のセメントクリンカを含有するセメント、特に、タイプCEM I、II、III、IV、またはVのセメント、好ましくは、タイプCEM I(規格EN197-1による)のセメントが特に好ましい。鉱物結合剤における水硬性結合剤の含有率は、有利なことには、全体として少なくとも5重量%、特に、少なくとも20重量%、好ましくは、少なくとも35重量%、特に、少なくとも65重量%である。さらなる好適な実施形態によると、鉱物結合剤は、少なくとも95重量%の水硬性結合剤、特に、セメントクリンカに一致する。
【0025】
しかしながら、結合剤組成物が水硬性結合剤に加えてまたはその代わりに他の結合剤を含有する場合、それも有利である可能性がある。これらは、特に、潜在水硬性結合剤および/またはポゾラン結合剤である。好適な潜在水硬性および/またはポゾラン結合剤は、たとえば、スラグ、鋳物砂、フライアッシュ、および/またはシリカフュームである。結合剤組成物は、たとえば、重質炭酸カルシウム、石英粉末、および/または顔料などの不活性物質も備えることができる。好適な実施形態において、鉱物結合剤は、5~95重量%、特に5~65重量%、特に15~35重量%の潜在水硬性および/またはポゾラン結合剤を備える。
【0026】
本発明による方法によって製作される成形体は、実質的に任意の望ましい形態とすることができ、たとえば、それは、構造、たとえば、建物、組積構造、および/または橋のための完成部品でもよい。
【0027】
プリントヘッドの有利な実施形態、および本発明による方法に特に適切である装置に関係するさらなる特徴が、本発明の第2の態様に関連して以下に記載される。
【0028】
特に、本発明による方法は、積層自由空間法である。これは、成形体が層内で形成される、具体的には、成形体が形成される場所にのみ硬化性材料が重ねられることを意味する。突出部分および/または中空空間の場合、支持構造体は、任意選択的に設けることができる。これとは対照的に、たとえば、粉体層法または液相法では、通常、造形空間はすべて満たされ、次いで、材料の固化は、望ましい場所で選択的に実施される。
【0029】
本事例において、自由空間法が、硬化性材料からの成形体の製作に関して特に有利であることが見出された。
【0030】
好ましい実施形態によると、硬化性材料の施用量は、硬化性材料の混合後、かつ/または、硬化性材料のプリントヘッドからの吐出後の指定時点における硬化性材料の強度に応じて、特に、それに比例して設定される。これは、施用量が、指定時点において実現可能である硬化性材料の強度と直接、調整されることを意味する。硬化性材料の経時的強度発現は変化しないままである可能性がある。指定時点における硬化性材料の強度が大きいほど、選択できる施用量は多くなり、成形体をより迅速に製作できる。
【0031】
しかしながら、指定時点における硬化性材料の強度については、所定の施用量に応じて、特に、それに比例して設定されることが好ましい可能性もある。この場合、施用量は変化しない、または一定のままである可能性がある。この場合、望ましい施用量が多いほど、硬化性材料の経時的強度発現は、より速く設定されなければならない。
【0032】
同時に、指定時点における硬化性材料の強度および施用量が設定されて、互いに調整される場合、それも有利である可能性がある。
【0033】
さらなる好適な実施形態によると、層数が増加するとき、たとえば、増加したとき、特に、層数に比例して、硬化性材料の施用量を変えることができる。より高い位置にある層は、硬化中、それより下にある層より支える重量が小さいので、より高い位置で必要とされる強度はより小さくなる。よって、特定の場合に、施用量を増加させることによって、成形体の製作速度をさらに増加させることが可能である。
【0034】
しかしながら、原則として、層数とは無関係に施用量を設定することも可能である。
【0035】
さらに好ましくは、待ち時間は、硬化性材料の2つの連続する層の施用の間で観測され、待ち時間は、硬化性材料の経時的強度発現に応じて選択される。待ち時間は、特に0.1分~10分、特に1分~10分、特に10分~20分である。
【0036】
待ち時間の観測により、造形速度を硬化性材料の経時的強度発現に適合させて、同時に、プリントヘッドの移動速度を一定に維持し、または、特に、造形速度とは無関係に、硬化性材料の最も好適な施用に対して前記速度を使用可能に設定することが可能になる。
【0037】
特に、待ち時間は、すでに重ねられた層に対する、重ねられる層の位置に依存して選択される。好ましくは、待ち時間は、製作される成形体の形状を考慮して決定される。たとえば、待ち時間は、層数が増加すると、特に層数に比例して、減少する可能性がある。たとえば、成形体の壁が垂直に伸長する場合、これは有利である可能性がある。
【0038】
プリントヘッドの移動速度が硬化性材料の経時的強度発現に応じて設定される場合、それは有利である可能性もある。これにより、たとえば、硬化性材料の実質的に連続した施用を可能にする速度でプリントヘッドを移動することが可能になる。必要に応じて、これにより、隣接する層の施用の間の待ち時間を低減、または完全に排除することを可能にすることができる。これは、たとえば、プリントヘッドからの硬化性材料で可能なほとんど一定の体積流量を実現するために有利である可能性があり、それは、場合によっては、隣接する層の間の接着力および/または製作された成形体の全体的な品質に対する好ましい効果を有する。
【0039】
好ましい実施形態において、プリントヘッドの移動速度は、プリントヘッドが硬化性材料の放出とともに成形体の現在の層で移動しなければならない距離の長さに応じて、特に、それに比例して設定される。たとえば、隣接する層が異なる長さの距離を備える場合、それにより、一定の施用量を効果的に実現することができる。この場合、移動する距離が短い層は、ゆっくりと移動するプリントヘッドによって重ねられ、一方、移動する距離が長い層は、より速く移動するプリントヘッドを使用して製作される。しかしながら、個々の層の製作に必要な時間は、たとえば、一定に維持することができる。
【0040】
しかしながら、原則として、プリントヘッドは、プリントヘッドが硬化性材料の放出とともに成形体の現在の層で移動しなければならない距離の長さとは無関係に移動することもできる。これは、たとえば、プリントヘッドからの硬化性材料の出力時に可能なほとんどの一定の体積流量を実現することが望ましい場合、有利である可能性がある。
【0041】
好適な実施形態において、移動速度は、すでに重ねられた層に対する、重ねられる層の位置に依存するように選択される。好ましくは、移動速度は、製作される成形体の形状を考慮して決定される。たとえば、移動速度は、層数が増加すると、特に、層数に比例して、速くすることができる。たとえば、成形体の壁が垂直に伸長する場合、これは有利である可能性がある。
【0042】
プリントヘッドを出る硬化性材料の体積流量は、プリントヘッドの移動速度に応じて、特に、それに比例して特に選択される。
【0043】
特に、硬化性材料の経時的強度発現は、具体的に使用された硬化性材料に基づいて、成形体の積層造形前かつ/またはその間に判定される。
【0044】
硬化性材料の経時的強度発現は、特に、成形体の積層造形中、特に、何度か、かつ/または一定の間隔で測定される。これはたとえば、施用中、硬化性材料の施用量および/または経時的強度発現を適合させることを可能にする。たとえば、これは、硬化性材料の組成の変動およびそれに関連する経時的強度発現の変化の、修正または補正を可能とする。
【0045】
たとえば、硬化性材料の経時的強度発現は、層の追加が実施された後、かつ/または、次の層の追加前に測定することができる。
【0046】
経時的強度発現は、少なくとも1回、特に、複数回の硬化性材料の物理量の測定によって特に判定される。硬化性材料の物理量の測定は、たとえば、少なくとも1つの指定時点で、有利なことには、複数の指定時点で、硬化性材料の混合後、かつ/または、硬化性材料のプリントヘッドからの吐出後に行われる。
【0047】
強度発現を判定するために、測定された物理量は、たとえば、事前の校正によって強度値に変換することができる。
【0048】
特に、物理量の測定によって、たとえば、所定の設定値にそれぞれの物理量が到達した設定時点を決定することができる。
【0049】
次いで、プリントヘッドの移動速度、待ち時間、および/または施用量は、設定時点の関数として設定することができる。たとえば、これは、以下のように実施することができる。
a)移動速度は設定時点に反比例して設定される、かつ/または、
b)待ち時間は設定時点に比例して設定される、かつ/または、
c)施用量は設定時点に反比例して設定される。
【0050】
比例定数は、自体公知の方法で、校正によってあらかじめ決定することができる。
【0051】
これにより、硬化性材料の特定の強度発現に対する信頼性の高い適応を実施することができる。
【0052】
しかしながら、たとえば、所定の参照時点における物理量を測定することによって、測定物理量の実測値を決定することも可能である。
【0053】
次いで、プリントヘッドの移動速度、待ち時間、および/または施用量は、測定物理量の実測値の関数として設定することができる。たとえば、これは、以下のように実施することができる。
a)移動速度は測定物理量の実測値に比例して設定される、かつ/または、
b)待ち時間は測定物理量の実測値に反比例して設定される、かつ/または、
c)施用量は測定物理量の実測値に比例して設定される。
【0054】
しかしながら、原則として、設定時点および/または測定物理量の実測値と、プリントヘッドの移動速度、待ち時間、および/または施用量との間の他の依存性も提供することができる。
【0055】
本事例においては、物理量として、温度、電気伝導率、所定の貫入深さによる特定の物体の貫入力、所定の貫入力による特定の物体の貫入深さ、および/または、音波、特に超音波の反射が、硬化性材料上で測定されるとき、それは特に有利である。
【0056】
上記量に基づいて、信頼性の高い結論を、硬化性材料の強度発現に関して導くことができる。しかしながら、原則として、強度発現と関連する他の量も判定することができる。
【0057】
所定の貫入深さによる特定の物体の貫入力、または、所定の貫入力による特定の物体の貫入深さは、好ましくは、針が通常、特定の物体として使用される貫入針法によって判定される。このような方法は、当業者にはそれ自体公知である。これについての詳細情報は、Oblak et al.による出版物「Kontinuierliche Messung der Festigkeitsentwicklung von Spritzbeton」[「Continuous measurement of the strength development of shotcrete」],Shotcrete Conference 2012(発行者:Prof. Wolfgang Kusterle)の第1章でも確認できる。
【0058】
超音波測定の測定原理は、物質における音伝播の理論、およびその機械的性質との相関関係に基づく。横波が粘弾性材料と衝突すると、その振幅は大きく減衰し、波の一部は反射する。この反射は、測定センサによって検出される。材料の硬化を増加させることで、振幅低減はますます顕著になる。そして、振幅の相対的減少から、剪断弾性率を決定することができ、それは同様に、硬化性材料の強度の程度である。
【0059】
超音波測定のために、0.1~10MHzの範囲で超音波パルスを生成する測定センサが好ましくは使用される。圧縮弾性率または剪断弾性率が測定されるかどうかに応じて、縦波または横波が放出される。特に、超音波信号は、所定の導波路によってサンプルとのインタフェースに導かれ、それによって、超音波信号は再び部分的に反射され、次いで、元の波の第2の部分が、サンプルと空気との間のインタフェースでさらに反射される。次いで、これにより、導波路とサンプルとの間のインタフェースで発生する第1の反射の検出まで、波発生の振幅および/または持続時間の測定および評価をすることができる。この振幅および持続時間は、サンプルの機械的性質に依存する。導波路を通る波の伝播速度は導波路の温度に強く依存するので、温度は好ましくは測定されて、評価において考慮される。超音波測定についてのさらなる詳細は、Oblak et al.による出版物「Kontinuierliche Messung der Festigkeitsentwicklung von Spritz-beton」[「Continuous measurement of the strength development of shotcrete」],Shotcrete Conference 2012(発行者:Prof. Wolfgang Kusterle)の第3章でも確認できる。これらの相互関係は、吹付けコンクリートの分野では、当業者にそれ自体公知である。しかしながら、驚くべきことに、それらも積層造形に関連して使用できることが見出された。
【0060】
特に好ましくは、硬化性材料の強度発現は、本事例においては、貫入針プロセスによって、かつ/または、音響測定、特に超音波測定によって判定される。
【0061】
硬化を促進する薬剤および/または硬化を抑制する薬剤で処理することは、硬化性材料にさらに有利である。特に、促進物質(「硬化促進剤」)および/または抑制物質(「硬化抑制剤」)が、硬化性材料と混合される。これは有利なことには、プリントヘッドの領域で、特に、可能な限りプリントヘッドからの硬化性材料の吐出直前に実施される。
【0062】
これにより、硬化性材料の経時的強度発現を選択的に設定することが可能となる。特に、硬化促進剤を加えることによって、成形体の製作プロセスを、全体として急激に加速させることができる。これにより、他の方法パラメータを変更することなく、経時的強度発現を適応させることができる。
【0063】
当業者に知られている多数の物質を、硬化促進剤として使用することができる。
【0064】
特に、硬化性材料が鉱物結合剤または鉱物結合剤組成物である場合、硬化促進剤は好ましくは、1つまたは複数の以下の代表的な物質を備える。
a)1つまたは複数のアミノアルコールおよび/またはその塩類
b)1つまたは複数のアルカリおよび/またはアルカリ土類硝酸塩
c)1つまたは複数のアルカリおよび/またはアルカリ土類亜硝酸塩
d)1つまたは複数のアルカリおよび/またはアルカリ土類チオシアン酸塩
e)1つまたは複数のアルカリおよび/またはアルカリ土類ハライド
f)1つまたは複数のアルカリおよび/またはアルカリ土類炭酸塩
g)グリセリンおよび/またはグリセリン誘導体
h)1つまたは複数のグリコールおよび/またはグリコール誘導体
i)1つまたは複数のアルミニウム塩および/または水酸化アルミニウム
j)1つまたは複数のアルカリおよび/またはアルカリ土類水酸化物
k)1つまたは複数のアルカリおよび/またはアルカリ土類ケイ酸塩
l)1つまたは複数のアルカリまたはアルカリ土類酸化物
m)結晶化種子、特に、微粒子状のケイ酸カルシウム含水化合物。
【0065】
これにより、たとえば、さまざまな施用に対する柔軟な適応を実施することが可能になる。
【0066】
硬化抑制剤は、たとえば、ヒドロキシカルボン酸、サッカロース、および/またはリン酸塩を含むリストから選択される。これは特に、硬化性材料が鉱物結合剤または鉱物結合剤組成物である場合に、適用される。
【0067】
特に、硬化性材料は、鉱物結合剤組成物、特に、水硬性結合剤組成物、好ましくは、モルタルまたはコンクリート組成物を備える、あるいは、それらから成る。特に、鉱物結合剤組成物は上記のように構成される。
【0068】
鉱物結合剤組成物は、少なくとも1つの混和剤、たとえば、コンクリート混和剤および/またはモルタル混和剤および/またはプロセス化学物質を任意選択的に備えることができる。少なくとも1つの混和剤は、特に、消泡剤、色素、防腐剤、可塑剤、抑制剤、促進剤、空気連行剤、レオロジー助剤、収縮低減剤、および/または腐食抑制剤、あるいはそれらの組合せを備える。
【0069】
鉱物結合剤組成物は、有利なことには、可塑剤または液化剤とともに使用される、あるいは、可塑剤または液化剤を備える。好適な可塑剤の例は、リグノスルホン酸塩、スルホン化ナフタレンホルムアルデヒド縮合物、スルホン化メラミンホルムアルデヒド縮合物、スルホン化ビニル共重合体、ホスホン酸基を有するポリアルキレングリコール、リン酸基を有するポリアルキレングリコール、ポリカルボン酸塩、ならびに、ポリマー主鎖にポリアルキレンオキシド側鎖およびアニオン性基を有する櫛型ポリマーを含み、アニオン性基は特に、カルボキシラート基、スルホン酸基、ホスホン酸基、またはリン酸基、あるいは、上記の可塑剤の混合物から選択される。
【0070】
可塑剤は、特に、ポリカルボン酸塩、特に、ポリカルボン酸塩エーテルを備える。特に、可塑剤は、ポリアルキレンオキシド側鎖、特に、ポリエチレンオキシド側鎖を有するポリカルボキシレート主鎖を備える櫛型ポリマーである。側鎖は、特に、エステル、エーテル、イミド、および/またはアミド基を介してポリカルボキシレート主鎖に結合される。
【0071】
有利な可塑剤は、たとえば、(メタ)アクリル酸および/またはマレイン酸モノマー、ならびに、ポリアルキレングリコールビニルエーテル(VPEG)、ポリアルキレングリコールアリルエーテル(APEG)、ポリアルキレングリコールメタリルエーテル(HPEG)、または、ポリアルキレングリコールイソプレニルエーテル(TPEGまたはIPEG)から選択されるマクロモノマーの共重合体である。たとえば、マレイン酸またはその誘導体、アリルエーテル、特に、ポリエチレングリコールアリルエーテル、および酢酸ビニルの共重合体は、特に好適である。対応する共重合体およびその製作は、たとえば、欧州特許出願公開第2468696A1号明細書(Sika Technology AG)に記載されている。たとえば、欧州特許出願公開第2468696A1号明細書の段落0058~0061および表1に記載の共重合体P-1~P-4は特に好適である。
【0072】
たとえば、マレイン酸またはその誘導体、アリルエーテル、特に、ポリエチレングリコールアリルエーテル、および(メタ)アクリル酸の共重合体も好適である。このような共重合体およびその製作は、欧州特許出願公開第2522680A1号明細書(Sika Technology AG)に記載されている。たとえば、欧州特許出願公開第2522680A1号明細書の段落0063~0070および表1に記載の共重合体P-1~P-6は有利である。
【0073】
さらにまた、好適なポリカルボン酸塩エーテルおよび製造方法は、たとえば、欧州特許第1138697B1号明細書の7ページ20行目~8ページ50行目およびその例、または、欧州特許第1061089B1号明細書の4ページ54行目~5ページ38行目およびその例に開示されている。その特別な実施形態において、欧州特許出願公開第1348729A1号明細書の3ページ~5ページおよびその例に記載されているように、櫛型ポリマーは、固形骨材状態で生成することができる。
【0074】
可塑剤に関連して言及される特許の開示は、特に参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0075】
対応する櫛型ポリマーはまた、商標名ViscoCrete(登録商標)シリーズとしてSika Schweiz AGによって商業的に流通されている。
【0076】
本発明の第2の態様は、硬化性材料から成形体を積層造形するための、特に、上記の方法を実施するための装置に関する。本装置は、硬化性材料を所定の場所で層状に重ねることができる、少なくとも1つの空間方向に移動可能であるプリントヘッドと、プリントヘッドを制御することができる制御ユニットとを備える。制御ユニットは、経時的強度発現を判定することができ、硬化性材料の施用量および硬化性材料の経時的強度発現を互いに調整することができるように構成される。
【0077】
制御ユニットにおける経時的強度発現の判定は、手動で、たとえば、対応する値を手動で入力することによって、または、自動で、たとえば、好適な測定装置を読み出すことによって、特に実施することができる。
【0078】
経時的強度発現が硬化性材料の物理量の測定に基づいて行われる場合、制御ユニットにおける経時的強度発現の判定は、物理量の経時的強度発現への変換を含むこともできる。たとえば、これは、事前に決定された校正データ、特に、制御ユニットのメモリ領域に記憶された校正データを使用した変換によって実施することができる。
【0079】
制御ユニットには、特に、1つまたは複数の判定された経時的強度発現値および/または校正データを記憶させることができるメモリユニットが設けられる。特に、制御ユニットには、すなわち、判定された強度発現値に基づいてプリントヘッドのための制御信号を生成するように構成される計算および出力ユニットも設けられる。
【0080】
特に好ましい実施形態において、本発明による装置は、硬化性材料の経時的強度発現および/または物理量を測定することができる測定ユニットも備える。物理量は、本方法に関連して上記のように定義される。
【0081】
測定ユニットは特に、硬化性材料のサンプルを、プリントヘッドを介して測定ユニットに配置することができ、次いで、物理量および/または強度の時間依存測定を実施できるように構成される。
【0082】
特に、測定ユニットは、硬化性材料上の温度、電気伝導率、所定の貫入深さによる特定の物体の貫入力、所定の貫入力による特定の物体の貫入深さ、および/または、音波、特に超音波の反射を測定するための測定ユニットである。特に、それは、貫入針測定プロセスおよび/または超音波測定セルを実施するための針入度計である。
【0083】
超音波測定セルは、特に、本方法に関連して上で記載される、または、Oblak et al.による出版物「Kontinuierliche Messung der Festigkeitsentwicklung von Spritzbeton」[「Continuous measurement of the strength development of shotcrete」],Shotcrete Conference 2012(発行者:Prof. Wolfgang Kusterle)の第3章に記載されるように構成される。特に、超音波測定セルは、0.1~10MHzの範囲で超音波パルスを発生させることができる測定センサ、導波路、および/または温度センサを備える。
【0084】
さらに、本発明による装置は特に、硬化性材料を、ラインを介してプリントヘッドに搬送することができる搬送装置、特に、ポンプを備える。制御ユニットは有利なことには、搬送装置の配送速度を制御できるように構成される。
【0085】
少なくとも1つの流量測定装置を有することは、本発明による装置にとってさらに有利である可能性があり、それによって、プリントヘッドを通して搬送される体積流れの速度を測定することができる。ここで、制御ユニットは、特に、測定された体積流量を判定し、硬化性材料のためにプリントヘッドおよび/または搬送装置を制御する際に考慮することができるように構成される。
【0086】
好適な実施形態において、プリントヘッドは、プリントヘッドの出口開口を開閉できる弁を有する。特に、これは連続的に行うことができる。弁は有利なことには、制御ユニットによって制御可能である。これにより、プリントヘッドによって重ねられる、硬化性材料の体積流量の微細な調量が可能となる。
【0087】
プリントヘッドが、少なくとも1つの添加剤を硬化性材料と混合するために、出口の領域に、少なくとも1つの調量装置、特に、2つの調量装置を備える場合、それはさらに有利である可能性がある。好ましくは、プリントヘッドは混合装置をさらに備え、それによって、添加剤および硬化性材料はプリントヘッドを出る前に混合することができる。
【0088】
少なくとも1つの添加剤は、たとえば、1つまたは複数のさらなる搬送装置、たとえば、さらなるポンプ、および計量装置への搬送ラインを介して搬送することができる。さらなる搬送装置は、特に、互いに独立して、制御ユニットを介して特に制御可能である。
【0089】
プリントヘッドには、硬化性材料を吐出することができる少なくとも1つの出口ノズルが特に備えられる。好ましい変形例において、プリントヘッドは、1つ、2つ、または3つの空間方向に移動可能である。3つの空間方向に移動可能であるプリントヘッドは特に好ましい。これにより、特に、簡単な方法で、実質的に任意の望ましい形態の成形体を製作することが可能となる。
【0090】
プリントヘッドの移動は、たとえば、プリントヘッドが1つ、2つ、または3つの空間方向に移動可能である従来のロボットアーム上に取り付けられるように実装することができる。
【0091】
造形空間領域の対応する移動によって1つ、2つ、または、3つの空間方向への移動を実装することも可能である。ここで、造形空間領域は、成形体が作り上げられる領域、たとえば表面である。
【0092】
2つの空間方向に移動可能であるプリントヘッドの場合、第3の空間方向への場合によっては望ましい移動は、たとえば、上げ下げできる造形空間領域によって実装することができる。
【0093】
ロボットアームおよび/または造形空間面積は、特に、制御ユニットを介して制御することができる。
【0094】
さらなる態様において、本発明は、鉱物結合剤または鉱物結合剤組成物、特に、コンクリートおよび/またはモルタル組成物から成形体を製作するための第2の態様において上で記載したような装置の使用に関する。これらは、特に、構造、たとえば、建物、組積構造、および/または橋のための完成部品である。以下の例示的な実施形態により、本発明はさらに明確になる。
【0095】
例示的な実施形態を示すために使用される図を以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1】硬化性材料から成形体を積層造形するための装置の概略図である。
図2】さまざまな施用量で成形体を製作するための必要な経時的強度発現値(破線)、および、硬化促進剤を混合した場合と混合していない場合の、鉱物結合剤組成物の測定された経時的強度発現値(実線)の図である。
図3】右側が本発明による方法で製作された成形体、左側が経時的強度発現を考慮せずに従来の方法で製作された成形体である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
図1は、製造プロセス中の、硬化性材料23から成形体10を製作するための本発明による装置1の概略図を示す。
【0098】
硬化性材料23、この場合、従来のセメント系モルタル組成物が、示されていないロボットアームによって3つすべての空間方向に移動可能であるプリントヘッド20によって吐出されている。図1に示される状況において、プリントヘッド20は左へ移動しており、それはプリントヘッド20上の矢印で示されている。図1において、互いの頂部の上にある3つの完全な層11、12、13は、プリントヘッド20を使用してすでに作り上げられている。第4の層14は、図1では、まだ構築中である。
【0099】
プリントヘッド20には、ポンプ25および供給ラインを介して硬化性材料23が供給され、それはプリントヘッド20の端部側のノズル開口24を通して吐出される。調量装置21も、さらなるポンプ22および付随するラインを介して供給される硬化促進剤のために、プリントヘッド上に配置される。硬化促進剤は、原則として、セメント系モルタル組成物に好適な任意の望ましい物質とすることができる。
【0100】
プリントヘッド20および2台のポンプ22、25は、データ線51、52、53を介して制御ユニット30に接続される。制御ユニット30は、プリントヘッド20の移動および2台のポンプ22、25の供給源速度を制御するために、計算および出力ユニット32を介して、電気信号を送信することができる。
【0101】
図1の本発明による装置1は、右側に3つの測定セル40、41、42をさらに備える。これらは、Oblak et al.による出版物「Kontinuierliche Messung der Festigkeitsentwicklung von Spritzbeton」[「Continuous measurement of the strength development of shotcrete」],Shotcrete Conference 2012(発行者:Prof. Wolfgang Kusterle)の第3章に記載される超音波測定セルとして構成される。
【0102】
プリントヘッド20は、硬化性材料23の強度発現を判定するために、製作プロセス中、硬化性材料23の材料サンプルを測定セル40、41、42に放出することができる。このプロセスで判定されたデータまたは反射特性は、データ線50を介して制御ユニット30に伝えられ、それらはメモリ領域31に記憶させることができる。
【0103】
制御ユニット30は、判定されたデータまたは経時的強度発現値によって、装置1の動作パラメータを適応させることができるように構成され、そのため、たとえば、硬化性材料23のあらかじめ選択された施用量を維持することができる。対応するパラメータは、メモリユニット31に記憶させることができる(以下の図2の説明も参照)。
【0104】
特に、硬化性材料の一定の搬送量での動作の間、たとえば、経時的強度発現によってプリントヘッド20の移動速度を調整することができる。プリントヘッドは、たとえば、右から左への移動時には硬化性材料を吐出し、左から右への移動時には吐出を中断するように制御することができる。これにより、プリントヘッド20は、平面のそれぞれの新しい層を同じ始点から作り上げることができる。このプロセスにおいて、たとえば、左から右への移動速度を低下させることができ、または、硬化性材料の必要な強度を保証するために、さらなる層が加えられる前に、待ち時間をさらなる層の製作のための始点で観察することができる。
【0105】
たとえば、硬化性材料23の経時的強度発現は、測定セル40において、第1の層11の追加前に行うことができる。指定の施用量を実現しなければならない場合、制御ユニット30は、強度発現、ならびに、メモリユニット31に記憶された任意の必要な校正データ、たとえば、プリントヘッド20の移動速度および搬送される硬化性材料の量の関数として、好適なパラメータを自動的に設定する。
【0106】
第1の層11の追加後、硬化性材料23の経時的強度発現は、たとえば測定セル41において再び判定することができる。逸脱が発生している場合、これらは補正することができる。
【0107】
図2は、指定の施用量に必要とされる硬化性材料23の経時的強度発現値101、102、103を示す。「S」は硬化性材料の圧縮強度を示し、一方、「t」はプリントヘッド20を出た後の時間に対応する。経時的強度発現値101、102、103は、図1の制御ユニット30のメモリ領域31に記憶させることができる。第1の経時的強度発現101は、5分あたり1mの施用量に対応する。第2の経時的強度発現102は、2.5分あたり1mの施用量に対応し、第3の経時的強度発現103は、1分あたり1mの施用量に対応する。施用量は、単位時間あたりに構築される成形体10の高さに等しい。
【0108】
曲線110は、プリントヘッド20を出た後に超音波測定セル40で測定された硬化性材料の経時的強度発現を表す。経時的強度発現は、2.5分あたり1mの施用量のために必要な経時的強度発現101より上のままであることが分かる。これにより、このような施用量を問題なく実装することができる。
【0109】
比較試験において、硬化促進剤は加えられなかった。この場合、5分あたり1mの施用量(必要な強度発現101)でさえ、成形体の品質を損なうことなく実現される可能性はないことが分かる。
【0110】
図3の右側に、本発明による方法によってモルタル組成物から製作された高さ約1mの成形体の断面が示されている。各層が約1.5cmの高さを有するすべての層が一定の厚さおよび均一な形状を示していることが明らかに分かる。
【0111】
対照的に、経時的強度発現を考慮することなく製作された、左側に示される成形体は、個々のシートの相当の変形および不均等な厚さを示している。これは、非常に大きい施用量または非常に遅い強度発現のケースであった。
【0112】
しかしながら、上記の実施形態は、単に、本発明の文脈内で要望通り変更することができる例示的な実施例として、理解されなければならない。
【0113】
たとえば、超音波測定セル40、41、42の代わりに、自動化された貫入針プロセスを実施する他の測定セルを設けることができる。3つより少ないまたは3つより多い測定セルを設けることもできる。
【0114】
さらに、たとえば、抑制物質を硬化促進剤の代わりにまたはそれに加えてプリントヘッド20に混合できる、さらなる調量装置を設けることができる。
【0115】
調量装置21に加えてまたはそれの代わりに、ポンプ25の領域で硬化促進剤を直接加えるための装置を、プリントヘッド上に設けることもできる。次いで、加えられる硬化促進剤の量は、たとえば、流量センサを使用して測定することができる。
【0116】
さらに、原則として、たとえば、有機結合剤を備える別の硬化性材料を使用することができる。
本明細書に開示される発明は以下の態様を含む:
[1]硬化性材料から、特に、鉱物結合剤組成物から成形体を製作するための方法において、
前記硬化性材料が、積層法、特に、積層自由空間法において、少なくとも1つの空間方向に移動可能であるプリントヘッドによって層状に重ねられ、
前記硬化性材料の施用量および前記硬化性材料の経時的強度発現が互いに調整される、
方法。
[2]前記硬化性材料の前記施用量が、前記硬化性材料の混合後、かつ/または、前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後の指定時点における前記硬化性材料の強度に応じて、特に、それに比例して設定される、あるいは、逆もまた同じである、
上記[1]に記載の方法。
[3]層数が増加すると、前記硬化性材料の前記施用量が変えられる、
上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]待ち時間が、前記硬化性材料の2つの連続する層の施用の間で観測され、
前記待ち時間が、前記硬化性材料の前記経時的強度発現に応じて選択される、
上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記プリントヘッドの移動速度が、前記硬化性材料の前記経時的強度発現に応じて設定される、
上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6]前記プリントヘッドの前記移動速度が、前記プリントヘッドが前記硬化性材料の放出とともに前記成形体の現在の層で移動しなければならない距離の長さに応じて、特に、それに比例して設定される、
上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の方法。
[7]前記硬化性材料の前記経時的強度発現が、前記成形体の積層製作中、特に、何度かおよび/または一定の間隔で測定される、
上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8]前記経時的強度発現が、少なくとも1回、特に、複数回の前記硬化性材料の物理量の測定によって判定され、
好ましくは、前記硬化性材料の前記物理量の測定が、少なくとも1つの指定時点で、有利なことには、複数の指定時点で、前記硬化性材料の混合後、かつ/または、前記硬化性材料の前記プリントヘッドからの吐出後に行われる、
上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9]物理量として、温度、電気伝導率、所定の貫入深さによる特定の物体の貫入力、所定の貫入力による特定の物体の貫入深さ、および/または、音波、特に超音波の反射が、前記硬化性材料上で測定される、
上記[8]に記載の方法。
[10]前記経時的強度発現が、貫入針法によって、かつ/または、音響測定、特に超音波測定によって判定される、
上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の方法。
[11]前記硬化性材料が、前記硬化を促進する薬剤および/または前記硬化を抑制する薬剤で処理される、
上記[1]~[10]のいずれか一つに記載の方法。
[12]前記プリントヘッドの領域における前記硬化性材料が、前記硬化を促進する物質および/または前記硬化を抑制する物質と混合される、
上記[11]に記載の方法。
[13]前記硬化性材料が、鉱物結合剤組成物、特に、水硬性結合剤組成物、好ましくは、モルタルまたはコンクリート組成物を備える、あるいは、それらから成る、
上記[1]~[12]のいずれか一つに記載の方法。
[14]硬化性材料から成形体を積層造形するための、特に、上記[1]~[13]のいずれか一つに記載の方法を実施するための装置(1)において、
前記硬化性材料を層状に重ねることができる、少なくとも1つの空間方向に移動可能であるプリントヘッド(20)と、
前記プリントヘッドを制御することができる制御ユニット(30)と
を備え、
前記制御ユニット(30)が、前記硬化性材料の経時的強度発現を判定することができ、前記硬化性材料の施用量および前記硬化性材料の前記経時的強度発現を互いに調整することができるように構成される
ことを特徴とする、
装置(1)。
[15]鉱物結合剤または鉱物結合剤組成物、特に、コンクリートおよび/またはモルタル組成物から成形体を製作するための、
上記[14]に記載の装置の使用。
図1
図2
図3