(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20230807BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
G01N35/00 E
G01N35/00 A
G01N35/00 F
G01N35/10 F
(21)【出願番号】P 2020038513
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小松 卓人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 佳明
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-074885(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138285(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象の検体と分析に必要な試薬を保持する保持部と、
前記検体と前記試薬を混合・反応させる反応部と、
前記保持部から前記反応部へ前記検体または前記試薬を分注する分注部と、
前記検体と該検体の分析項目の情報に係る分析項目情報の入力を受け付ける入力部と、
前記分析項目情報から決定される分析順番に基づき、装置機構を制御する制御部と、
前記分析順番に基づき、前記保持部が保持する全ての検体の分析が終了する全分析終了予定時間を算出する算出部と、
前記算出部が算出した前記全分析終了予定時間を出力する出力部と、を備え、
前記算出部は、前記分析項目に係る検体を分析開始したことに伴い、前記全分析終了予定時間を更新し、
前記出力部は、前記算出部が更新済みの前記全分析終了予定時間を出力する、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置であって、
前記保持部は、同一ディスク内に前記検体と前記試薬を保持する、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
分析対象の検体と分析に必要な試薬をそれぞれ複数保持する保持部と、
第1分析項目群に係る前記検体及び前記試薬を第1容器に分注する第1分注部と、
第2分析項目群に係る前記検体及び前記試薬を第2容器に分注する第2分注部と、
前記第1容器、前記第2容器のそれぞれに収容される検体と試薬を混合・反応させる反応部と、
前記第1分注部、及び前記第2分注部を制御する制御部と、
各分析項目群を構成する項目の分析終了予定時間を算出する算出部と、を備える、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項
3記載の自動分析装置であって、
前記第1分析項目群は第1分析原理を用いて分析される項目群であり、
前記第2分析項目群は前記第1分析原理とは異なる第2分析原理を用いて分析される項目群であり、
前記算出部は、前記第1分析項目群の分析にかかる時間と前記第2分析項目群の分析にかかる時間のうち長い方の時間に基づき、前記保持部が保持する全ての検体が分析終了するまでの全分析終了時間を算出する、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項
4記載の自動分析装置であって、
前記算出部は、前記制御部による分析開始の遅延に基づいて、前記全分析終了時間を算出する、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項
3に記載の自動分析装置であって、
前記保持部は、同一ディスク内に前記検体と前記試薬を保持する、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項
5記載の自動分析装置であって、
前記制御部は、前記第1分注部及び前記第2分注部に分注される前記検体と前記試薬がキャリーオーバしないよう洗浄動作を実行するよう制御する、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の自動分析装置であって、
前記算出部は、前記洗浄動作の挿入に伴い、前記全分析終了時間を更新する、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の自動分析装置であって、
前記算出部が更新した前記全分析終了時間を出力する出力部を備える、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項10】
請求項
8に記載の自動分析装置であって、
前記検体の分析中に、該検体又は前記試薬が不足した場合、前記全分析終了時間を更新する、
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項11】
請求項
3記載の自動分析装置であって、
前記第1分析項目群とは、生化学に係る分析項目を示し、
前記第2分析項目群とは、免疫に係る分析項目を示す、
ことを特徴とする自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、実際に供給された分析対象の検体の分析終了予定時刻を告知することが可能な自動分析装置が開示されている。また、特許文献2には、分析所要時間、分析開始時間及び分析終了時間の算出を所定のタイミングで繰り返し行なうことにより、正確な予定分析終了時間を出力しうる自動分析装置、多ユニット自動分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-145210号公報
【文献】特開2010-217114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
追加検体を投入可能な自動分析装置において、ユーザが新規検体を装置に投入する際に既に分析中の検体群の進捗情報は意識せずに検体投入が可能であった。しかしながら追加検体の投入が不可能な自動分析装置において、ユーザは分析中の検体群に割り当てられた全ての分析項目が終了するまで新規検体の分析を開始することができないため、ユーザは検体群の分析終了時刻を予測する必要があった。
【0005】
一方、例えば生化学測定と免疫測定のような検出原理の異なる分析測定を並行して実行可能な複合型自動分析装置において、検体は検出原理の異なる分析項目を同時に依頼・測定される。分析時間の最適化や項目間の分析優先度によって1検体に依頼された分析項目はそれぞれ不規則なタイミングで開始されるため、1検体に依頼された全分析項目が分析終了するタイミングは検体が初めて分析開始されるタイミングから予測が困難である。
【0006】
更に、例えば検体や試薬不足、検体間・試薬間のキャリーオーバを回避するための洗浄動作、異常発生時の新規分析中断は分析終了時刻に影響を与えるが、分析開始前に予測することは困難である。そのため分析中に前記影響を受けた際分析終了時刻を更新する必要がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、分析中に検体を追加できない装置であっても、分析開始前に検体群に依頼された全ての分析項目が終了する時間を算出可能な自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明においては、分析対象の検体と分析に必要な試薬を保持する保持部と、検体と試薬を混合・反応させる反応部と、保持部から反応部へ検体又は試薬を分注する分注部と、検体と該検体の分析項目の情報である分析項目情報の入力を受け付ける入力部と、分析項目情報から決定される分析順番に基づき、装置機構を制御する制御部と、分析順番に基づき、保持部が保持する全ての検体の分析が終了する全分析終了予定時間を算出する算出部と、前記算出部が算出した前記全分析終了予定時間を出力する出力部と、を備え、前記算出部は、前記分析項目に係る検体を分析開始したことに伴い、前記全分析終了予定時間を更新し、前記出力部は、前記算出部が更新済みの前記全分析終了予定時間を出力する、自動分析装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分析中に検体を追加できない装置であっても、分析開始前に検体群に依頼された全ての分析項目が終了する時間を算出可能な自動分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】予定分析終了時間を算出するためのアクティビティ図。
【
図3A】自動分析装置の分析終了時間情報の一構成を示す図。
【
図3B】
図3Aの分析終了時間情報を洗浄動作の計画により更新した結果を示す図。
【
図4】
図1に示される出力部によってユーザへ全分析終了時刻を通知するモニタ出力画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
実施例1は、分析対象の検体と分析に必要な試薬を保持する保持部と、検体と試薬を混合・反応させる反応部と、保持部から反応部へ検体または試薬を分注する分注部と、検体と該検体の分析項目の情報に係る分析項目情報の入力を受け付ける入力部と、分析項目情報から決定される分析順番に基づき、装置機構を制御する制御部と、分析順番に基づき、保持部が保持する全ての検体の分析が終了する全分析終了予定時間を算出する算出部と、を備える自動分析装置の実施例である。また、分析対象の検体と分析に必要な試薬をそれぞれ複数保持する保持部と、第1分析項目群に係る検体及び試薬を第1容器に分注する第1分注部と、第2分析項目群に係る検体及び試薬を第2容器に分注する第2分注部と、第1容器、第2容器のそれぞれに収容される検体と試薬を混合・反応させる反応部と、第1分注部、及び第2分注部を制御する制御部と、各分析項目群を構成する項目の分析終了予定時間を算出する算出部と、を備える自動分析装置の実施例である。
【0013】
図1は、自動分析装置10の平面図と、その制御機構11のブロック図を簡略的に示した図である。自動分析装置10は、検体容器1011や試薬容器1012を同一ディスクの円周上に格納する検体・試薬保持部(以後、保持部と略す)101と、保持部101から検体または試薬を吸引吐出する分注部102(第1分注部102a、第2分注部102b)と、分注部102によって検体または試薬を分注される反応容器1031と、検体と試薬を混合した反応液が分注された反応容器1031を円周上に保持する反応部(インキュベータ)103と、反応容器1031内の反応容器から分析項目毎の反応情報を取得する検出部104(第1検出部104a、第2検出部104b)を備える。検体容器1011、試薬容器1012、反応容器103は図の簡略化のため円周上に配置された一部のみを示している。
【0014】
第1分注部102a、第2分注部102b、及び第1検出部104a、第2検出部104bは、例えば生化学測定のために検体及び試薬を分注する分注部と検出部と、免疫測定のために検体及び試薬を分注する分注部と検出部である。それぞれの測定に用いる試薬は保持部101に格納することが可能である。反応部103も生化学測定及び免疫測定で共用できる。
【0015】
保持部101は、ユーザによって検体容器1011または試薬容器1012を架設される。保持部101は中心を軸に回転することが可能であり、架設された任意の検体容器1011または試薬容器1012を分注部102がアクセス可能な位置まで移動する。本構成の自動分析装置10は、分析を開始すると検体の分注が必要になる度に保持部101が回転するため、ユーザは分析が終了するまで新規検体容器を保持部101へ架設することができない。
【0016】
制御機構11が備える入力部111は、分析実行に必要な検体識別情報、試薬識別情報、分析項目情報を取得する。制御機構11が備える計画部112は、入力部111で取得した情報を元に分析順番情報を作成する。分析順番情報とは自動分析装置10によって自動分析される検体毎の分析項目を項目単位で順番付けした情報である。制御部114は、作成された分析順番情報で定義された順番で分析を行うよう自動分析装置10に搭載された分注部102等を制御する。
【0017】
自動分析装置10において、生化学測定と免疫測定を並行して実行する場合、分析順番情報はそれぞれの測定に対して作成される。よって、例えば1つの検体に対する生化学測定を行うために第1分注部102aが検体または試薬を吸引し始めるタイミングと、同一検体に対し免疫測定を行うために第2分注部102bが検体または試薬を吸引し始めるタイミングは必ずしも連続せず、計画部112によってそれぞれ決定される。
【0018】
制御機能11の算出部115は、計画部112で作成され記憶部113に格納されている分析順番情報を元に全分析終了予定時間を算出する。全分析終了予定時間とは、保持部101に架設された検体毎の分析項目について全ての結果が出力され、ユーザが新たな検体を保持部101へ架設可能となる予定時刻を意味する。本実施例の全分析終了予定時間は、計画部112によって作成された分析順番情報を元に計算されるため、ユーザが自動分析装置10へ分析開始を指示する前に算出することが可能である。算出した全分析終了予定時間は出力部116によってユーザへ通知される。
【0019】
次に
図2の自動分析装置のアクティビティフローの各ステップ21u~27により、自動分析装置を利用するユーザが、全分析終了予定時間を得るまでの流れを説明する。この説明では、既に一般的な自動分析装置におけるキャリブレーション測定やQC測定などを終え一般検体測定を開始する状況を前提とする。また制御機能11の実現は、例えば自動分析装置10に備えるCPUによるプログラム実行でもよいし、自動分析装置10に接続され、CUPやHDDを備えたパーソナルコンピュータ(PC)によっても良い。言い換えるなら、各ステップ21u~27の動作主体はユーザの行為を除き、
図1の自動分析装置や外部PCである。尚、「u」を表記しているステップは、ユーザの動作が含まれることを意味する。
【0020】
初めにユーザは、検体・試薬の架設ステップ21uにおいて分析を行う検体と必要な試薬を保持部101へ架設する。この際架設される検体に対する分析項目依頼が全て分析されるまでの時間が自動分析装置10によって算出される全分析終了予定時間となる。架設された検体の検体識別情報は、検体識別情報取得ステップ22uによって入力部111へ入力する。検体識別情報は検体毎にユニークに採番される情報を備え、例えば検体容器1011の側面にバーコードとして貼付される。この情報は例えば保持部101にバーコードリーダを搭載し架設された検体容器1011から読み取ることで取得できる。検体容器1011にバーコード情報等の検体識別情報が貼付されていない場合でも、例えば保持部101の特定位置に物理的に架設されていることをセンサによって取得することで架設位置を検体識別情報として利用可能である。
【0021】
試薬識別情報取得ステップ23uにおいては、架設された試薬の試薬識別情報を入力部111へ入力する。試薬識別情報は試薬毎にユニークに採番される情報を備え、例えば試薬容器1012の側面に無線識別子(RFID)として貼付される。この試薬識別情報は例えば、保持部101にRFIDリーダを搭載し架設された試薬容器1012から読み取ることで取得できる。試薬容器1012にRFID情報等の試薬識別情報が貼付されていない場合でも、例えば保持部101の特定位置に物理的に架設されていることをセンサによって取得することで、例えばユーザが自動分析装置に備えられたキーボードまたはモニタ画面の操作によって特定位置に架設された試薬の試薬識別情報を指定してもよい。検体識別情報取得ステップ22u及び2試薬識別情報取得ステップ23uの実行優先度はなく、同時に実施してもよい。
【0022】
分析依頼情報取得ステップ24uにおいては、ユーザが保持部101に架設された検体に対する分析項目情報を入力部111へ入力する。分析項目情報は検体に依頼された複数の分析項目を備え、検体識別情報や試薬識別情報と紐づく。その他にも、例えば臨床検査情報システム(LIS)に対して検体識別情報をキーとして問い合わせ、分析項目情報を入力部111へ入力することが可能である。その場合、例えば検体識別情報取得ステップ22uにて検体識別情報を取得したことをトリガとする。
【0023】
分析項目情報の入力が終了した後、計画部112にて分析順番情報作成ステップ25が実行される。作成のトリガは入力後随時実施してもよいし、ユーザが分析を開始するために、例えば自動分析装置が備えるモニタ画面を操作した直後でもよい。ラックに検体容器を乗せて自動分析装置内に搬入するシステムの場合、搬入される検体の順番は搬入されるラックの順番に依存し、その順番は搬入されるまで不明であるため分析順番を決定することは困難である。またディスク形状の保持部101に検体を架設する自動分析装置においても、分析中に新規検体を追加できるシステムにおいては分析順番の確定が困難である。本実施例の自動分析装置においては、上記の分析中に新規検体を追加できるという条件には当てはまらないため、この時点で分析順番を確定することができる。
【0024】
分析順番情報作成ステップ25で作成される分析順番のルールは、例えば検体毎、項目毎でもよいし、試薬特性上キャリーオーバの影響を回避する順番や、測定感度特性上クロスコンタミネーションの影響を回避する順番でもよい。例えば生化学測定と免疫測定など複数の分析原理を並行して分析可能な複合型自動分析装置の場合、分析原理毎に分析順番情報を作成する。作成された分析順番情報は例えば自動分析装置10や接続されたPCが備えるメモリやHDDなどの記憶部113に格納される。
【0025】
ステップ25で分析順番情報が決定した後、全分析終了予定時間算出ステップ26で全分析終了予定時間を算出する。算出のトリガはステップ25直後でもよいし、ユーザが分析開始するために制御機構11の出力部116に備えるモニタ画面を操作した直後でもよい。全分析終了予定時間を算出するためには、分析順番情報の他に分析所要時間が必要となる。分析所要時間とは1検体に依頼された1分析項目毎に検体または試薬を分注し始めてから分析結果が出力されるまでの時間を意味する。分析所要時間は例えば、分析項目毎に規定されている検体と試薬の反応時間を使用する。全分析終了予定時間の算出方法については後述する。
【0026】
ステップ26で算出された全分析終了予定時間は、全分析終了予定時間通知ステップ27にて出力部116によりユーザへ通知される。通知されるトリガとしては、例えばステップ26直後でもよいし、ユーザが分析開始するためにモニタ画面を操作した直後でもよい。通知方法は、例えばモニタ画面上に表示する。
【0027】
ステップ26における全分析終了予定時間の算出方法についてその一例を記載する。他の方法で全分析終了予定時間を算出し利用してもよい。全分析終了予定時間(以後TEと略す)は、下式に示すように、分析開始時刻(以後TSと略す)に、分析前処理時間(以後Dpreと略す)と分析終了時間(以後Deと略す)の最大値(以後Dprocと略す)と、分析後処理時間(以後Dpostと略す)を加算したものである。
TE = TS + Dpre + Dproc + Dpost
【0028】
分析前処理とは、自動分析装置が分析実行する前に行う動作の総称であり例えば自動分析装置が備える機構を初期位置に戻す動作や、検出部の検出感度チェックなどである。またユーザによる操作を除く検体識別情報取得ステップ22u、または試薬識別情報取得ステップ23u、上位システムから分析依頼情報取得ステップ24uを再度行い、分析順番情報を再作成してもよい。いずれの動作もその動作が完了するまでにかかる時間は固定であるため、Dpreは分析開始前から既知の固定時間となる。もし分析前処理を行わない場合、Dpreは0とする。
【0029】
Deとは、分析前処理終了後を始点(0)とし、分析順番情報で定義された順番で分析を開始した場合の分析項目毎に結果が出力されるまでの時間を意味する。Deは、項目毎の分析開始時間(以後Dsと略す)と、分析所要時間(以後Drと略す)を加算することで算出できる(De = Ds + Dr)。Dsは下式で示すように、自動分析装置が分析順番情報で定義された順番で分析項目を測定開始する間隔時間(以後Diと略す)と分析順番(以後idxと略す)の乗算で求める。
Ds = Di × (idx - 1)
ここでは分析前処理終了後、1番目の分析項目開始時間が0とするため、Di に (idx - 1)を乗算する。
【0030】
上記D
eの算出例を
図3Aのテーブル31で示す。該テーブル31は、例えば記憶部113に格納される。
図3Aのテーブル31中の分析順番、検体、分析項目の情報は上述した分析順番情報を備えている。例えばD
iが20秒としてD
eを算出すると分析順番の2番目、検体Aの分析項目bがD
procとなり自動分析装置が最後に分析結果を出力する。
【0031】
テーブル31を作成する際、分析装置が分析可能な分析原理毎にDsが一定でない場合がある。Dsが一定にならない要因の一つに検体を分注する機構の数が挙げられる。検体分注を行う機構が複数ある場合、それぞれの機構が動作可能なタイミングで分注が行われるため、Dsも複数存在することになる。自動分析装置10においては、第1分注部102a及び第2分注部102bのそれぞれのタイミングで検体分注を行うため、Dsが2つ存在する。
【0032】
この場合、生化学のDsと免疫のDsが存在するため、それぞれのテーブルを作成した後、それぞれのDeを算出し、生化学のDeと免疫のDeのうち大きい方のDeをDprocとする。Deが3つ以上ある場合は、それらのうちの最大値をDprocとする。複数テーブルを作成する理由は、上記Dsが異なる分析項目群を扱うため単純計算によってDeが計算できない場合や、後述する分析スタート後に分析原理毎にDsを加減算しDeを再計算する場合があり、1つのテーブルにまとめるより計算コストが軽減されるからである。
【0033】
分析後処理とは、自動分析装置が依頼された全ての分析を終了してからユーザが保持部101を使用できるようになるまでに実行される動作の総称であり、例えば自動分析装置が備える機構を初期位置に戻す動作や、分注部の洗浄動作などが挙げられる。いずれの動作もその動作が完了する前でかかる時間が固定であるため、Dpostは分析開始前から既知の固定時間となる。もし分析後処理を行わない場合、Dpostは0とする。
【0034】
以上の通りT
Eの算出(T
E = T
S + D
pre + D
proc + D
post)における、D
pre、D
proc、D
postは分析順番情報が確定していることで自動分析装置が分析開始する前に算出が可能である。T
Sにおいては例えばユーザが分析開始するためにモニタ画面の操作した直後の現在時刻を利用してもよいし、T
E算出時の現在時刻を利用してもよい。いずれの時刻を利用してもユーザに対しては自動分析装置が分析開始する前にT
Eを算出できる。後述の
図4の例では、T
Sは2020/1/1の08:30、T
Eは2020/1/1の08:45となる。
【0035】
次に
図4を用いて出力部116による全分析終了予定時間の表示方法について説明する。算出された全分析終了予定時間は、例えば自動分析装置10が備えるモニタ画面4に表示することでユーザに通知する。本例は全分析終了予定時間の通知方法の一例であり、その他にも音声による通知や通信ネットワークを用いて別端末へ送信する通知方法などが考えられる。
【0036】
モニタ画面4は、現在時刻表示部41と全分析終了予定時間表示部42などを備える。現在時刻表示部41は例えば西暦年、月、日、時、分で構成された現在時刻を表示する。全分析終了予定時間表示部42は例えば西暦年、月、日、時、分で構成され、算出部115によって算出された全分析終了予定時間を表示する。算出部115によって全分析終了予定時間が計算されていない場合、または分析終了後は全分析終了予定時間表示部42の時刻表示を例えば非表示にしてユーザが誤解することを防ぐ。
図4の現在時刻表示部41、全分析終了予定時間表示部42は時刻情報のみを表示しているが、ユーザが区別できるよう例えば文字情報や配色によって差別化を図ってもよい。また、例えば、「08:45の5分後」のように、時間を表示してもよい。
【0037】
算出部115では全分析終了予定時間を算出する過程で得られた情報から、検体毎に依頼された分析項目の分析終了時刻(以後Titemと略す)は、(TS + Dpre + De)で算出できる。また検体毎のTitmeの内、最大値がその検体の分析終了時刻(以後Tsmpと略す)となる。TsmpやTitemを例えば、モニタ表示4が備える自動分析装置が分析依頼を受けている検体名を列挙する検体名表示部43にTsmpを表示し、またはモニタ表示4が備える検体毎に依頼された分析項目名を列挙する項目名表示部44に対応付けられた分析項目終了予定時刻表示部45にTitemを表示できる。
【0038】
本実施例によれば、分析終了予定時間表示部42または、検体名表示部43、分析項目終了予定時間表示部45に表示されたそれぞれの時刻情報を元に、ユーザは分析中の自動分析装置へ新規検体を架設し分析開始できる時刻を知ることができる。
【実施例2】
【0039】
実施例2は分析開始後の全分析終了予定時間更新方法に関する。全分析終了予定時間が分析開始前にユーザへ通知されるのは、制御部114から算出部115へ送られる定期通信のためである。定期通信は分析開始以降、D
iよりも短い間隔で行われる。定期通信の間に、分析順番情報に則り分析を開始した場合、例えばその検体名と分析項目名と分析順番を備えた更新情報を制御部114は算出部115へ通知する。定期通信を受け取った算出部115は、更新情報を元に記憶部113に格納されている
図3Aのテーブル31で示すような分析終了予定時間情報を更新する。
【0040】
算出部115は定期通信を受けた際、Dsが0以下の分析終了予定時間情報を対象に更新処理を実行する。更新はDsからDiを減算しDeを再計算することで実施する。この時、既にDeが0である場合は減算・再計算を実施しない。Deを再計算した結果が負の値になった場合はDsに-Drの値を設定しDeを0とする。定期通信に更新情報が付加されている場合、受け取った更新情報の検体と項目で特定される分析終了予定時間情報を検索する。該当した分析終了予定時間情報は、DsからDiを減算しDeを再算出する。次に分析順番が該当した分析終了予定時間情報より遅いものに関して同様にDsからDiを減算しDeを再計算する。この時、既にDeが0である場合は減算・再計算を実施しない。Deを再計算した結果が負の値になった場合はDsに-Drの値を設定し、Deを0とする。上記処理は更新情報で指定された検体と項目が含まれる分析終了予定時間情報のみに行い、分析終了予定時間情報が複数ある場合、例えば生化学測定項目の更新情報を受けた場合、免疫測定項目の分析終了予定時間情報は更新しない。
【0041】
算出部115はDeの再計算が終了した後、再計算前と同様の方法でDprocを算出し全分析終了予定時間を算出する。この時、TSは現在時刻を利用する。上記処理を分析開始後から定期通信をトリガに実施することで全分析終了予定時間を更新することができる。更新後の全分析終了予定時間は、そのまま出力部116によってユーザに通知してもよいし、出力部116は定期的に全分析終了予定時間を参照して表示してもよい。
【0042】
上述の方法によって全分析終了予定時間を更新する場合、分析実行中に何の問題も起こらなかった場合は分析開始前に算出した全分析終了予定時間とほぼ同様の結果を得ることができる。一方、分析実行中は例えば、検体・試薬不足やキャリーオーバ回避のための洗浄動作、必須消耗品不足で新規項目測定の中断が発生する場合がある。
【0043】
検体が不足した場合、例えば不足が起こった分析項目と、その検体に依頼され、まだ開始していない分析項目は分析中断される自動分析装置とする。制御部114は算出部115に対して不足した検体情報を通知する。算出部115は、検体と分析開始前に作成した分析終了予定時間情報のテーブルから、同検体でかつDsが0より大きい分析項目を検索する。該当する分析項目をもつ分析終了予定時間情報は、Dsに-Drの値を設定し、Deを再計算する(De=0になる)。例えば生化学測定と免疫測定を並行して実行する場合、生化学測定中に検体不足が発生した場合は、免疫測定側の分析終了予定時間情報からも不足した検体が該当する分析終了予定時間を検索する。該当する分析終了予定時間が見つかり、かつDsが0より大きい場合、Dsに-Drの値を設定し、Deを再計算する。免疫測定中に検体不足が発生した場合も同様である。
【0044】
上記検体不足が発生した分析項目の処理が終わった後、Dsが0の分析終了予定時間情報を基準にDsの再設定を行う。再設定は設定前のDsが0以上である場合、前記基準の分析項目を分析順番1としたときの分析順番idxから、Ds = Di × (idx - 1)で求める。最後に再計算前と同様の方法でDProcを算出し全分析終了予定時間を算出・通知する。
【0045】
試薬が不足した場合、例えば不足が起こった分析項目のうち、まだ開始していない同様の分析項目は分析中断される自動分析装置とする。制御部114は算出部115に対して試薬不足情報を通知する。算出部115は、試薬を使用する分析項目を分析終了予定時間情報のテーブルから検索する。同分析項目かつDsが0より大きい分析終了予定時間情報はDsに-Drの値を設定しDeを再計算する(De=0になる)。その後、上記検体不足発生した場合と同様にDsの再設定を行った後、DProcを算出し全分析終了予定時間を算出・通知する。
【0046】
異なる試薬または検体を同一の分注部にて分注することで測定結果に影響を与える恐れがある場合、例えば、直前に吸引吐出した試薬または検体が、次に吸引吐出する試薬または検体にキャリーオーバし測定結果に影響を与えることが事前に装置に入力されている場合、制御部114は上記影響を与える吸引吐出と影響を受ける吸引吐出との動作の間に洗浄動作を計画・実行する自動分析装置とする。洗浄動作とは例えば分注部が検体または試薬を吸引吐出するプローブ部分の先端及び内部を水または洗剤で洗浄する動作である。洗浄動作を行う間、新たに分析を開始することができない。
【0047】
上記のようなキャリーオーバの関係が分析順番から成り立ち、かつそれら動作の間に洗浄動作を実行する時間がない場合、自動分析装置は影響を受ける側の分析の実施を変更し洗浄動作を計画する。この場合影響を受ける側の分析が分析開始できるのは、初めに分析順番情報を作成した際のD
sから遅延する。例えば洗浄動作にD
iだけかかる場合、1回洗浄動作を行うと以降の分析のD
sはD
iだけ遅延する。例えば
図3Aのテーブル31中の分析終了予定時間情報のうち分析順番3と4の間で洗浄動作が計画される場合、制御部114から算出部115へ通知される定期通信に更新情報が付加されない、または洗浄動作を実行した情報が付加されてもよい。その場合、算出部115は
図3Bのテーブル32に示すように分析終了予定時間情報の分析順番3と4の間に洗浄動作を挿入し分析順番を更新し、その後、全分析終了時間を更新する。
【0048】
即ち、制御部114は、第1分注部及び第2分注部に分注される検体と試薬が測定結果に影響を与えないように、第1分析項目群、第2分析項目群の分析順を変更し、算出部115は、制御部114による分析順の変更に伴う分析の遅延に基づいて、全分析終了時間を算出する。特に制御部114は、第1分注部及び第2分注部に分注される検体と試薬がキャリーオーバしないよう洗浄動作を実行するよう制御し、算出部115は、洗浄動作の挿入に伴い、全分析終了時間を更新し、出力部116は更新した全分析終了時間を出力する。好適には、算出部115は、第1分析項目群の分析にかかる時間と第2分析項目群の分析にかかる時間のうち長い方の時間に基づき、保持部101が保持する全ての検体が分析終了するまでの全分析終了時間を算出する。
【0049】
なお、必須消耗品不足が発生した場合、例えば全分析で必ず使用する反応容器が分析中に不足した場合、新規項目測定を中断し現在測定中の項目が終了するまで分析を続ける自動分析装置とする。中断が発生したことは制御部114から算出部115に通知される。通知を受けた算出部はDsが0より大きい分析終了予定時間情報に対し、Dsに-Drの値を設定しDeを0とする。その後、再計算前と同様の方法でDprocを算出し全分析終了予定時間を更新する。
【0050】
次に、ハイプライオリティテストについて説明する。ハイプライオリティテストとは、その分析項目の測定感度が非常に高く、他の分析項目による検体吸引によって分注部に付着した成分が次の分析の検体とコンタミネーションすることで結果に影響を受ける分析項目である。この分析項目が検体に依頼されている場合、1番初めにハイプライオリティテストが実施され、分析結果が出るまで他の分析項目を開始しない。分析開始しない理由は、ハイプライオリティテストの結果が異常値だった場合に再検を行う場合があり、その判断が終わるまで検体をコンタミネーションから守るためである。その際のハイプライオリティテストの終了まで分析を待機している項目に関する分析終了時間の更新方法は、キャリーオーバ時と同じく制御部114からの更新情報によって計算する。
【0051】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0052】
更に、上述した各構成、機能、制御部等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成する例を中心に説明したが、それらの一部又は全部を例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いことは言うまでもない。即ち、制御部の全部または一部の機能は、プログラムに代え、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路などにより実現してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 自動分析装置
11 制御機構
101 検体・試薬保持部
102a 第1分注部
102b 第2分注部
103 反応部
104a 第1検出部
104b 第2検出部
111 入力部
112 計画部
113 記憶部
114 制御部
115 算出部
116 出力部
31、32 テーブル
4 モニタ画面
41 現在時刻表示部
42 全分析終了予定時間表示部。