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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】メタクリル系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/00 20060101AFI20230808BHJP
   C08F 220/14 20060101ALI20230808BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C08F2/00 A
C08F220/14
C08F220/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018086164
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189786
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】関 優一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 一生
(72)【発明者】
【氏名】兼森 紘一
(72)【発明者】
【氏名】森田 裕介
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-285581(JP,A)
【文献】特開2016-008237(JP,A)
【文献】特開2012-214618(JP,A)
【文献】特開2015-098610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/10
C08F 220/14
C08F 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)~工程(3)を順次行うことを含む、メタクリル系樹脂の製造方法であって、下記工程(1)直後の重合転化率、及び下記工程(2)直後の重合転化率は、下記方法によってそれぞれ測定される値である、メタクリル系樹脂の製造方法。
工程(1):メタクリル酸メチルを80質量%以上含む単量体原料に、第一のラジカル重合開始剤を添加して得られた単量体組成物(A)を、工程(1)直後の重合転化率が40~60%の範囲となるように重合して、第一のシラップ(a)を得る。
工程(2):前記第一のシラップ(a)100質量部に、炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に有するアクリル酸エステル(M)を50質量%以上含む単量体組成物(B)1~10質量部を添加し、さらに第二のラジカル重合開始剤を添加し、工程(2)直後の重合転化率が50~80%の範囲となるように重合して、第二のシラップ(b)を得る。
工程(3):前記第二のシラップ(b)を脱揮して、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位80~99.8質量%と炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に有するアクリル酸エステル(M)由来の繰り返し単位0.2~20質量%とを含むメタクリル系樹脂を得る。
<前記工程(1)直後の重合転化率>
前記第一のシラップ(a)から残存単量体を揮発除去して得られたメタクリル系樹脂の量を測定して、これを、残存単量体を揮発除去する前の前記第一のシラップ(a)の量で除して得られた値を質量百分率で表したものを、前記工程(1)直後の重合転化率とする。
<前記工程(2)直後の重合転化率>
前記第二のシラップ(b)から残存単量体を揮発除去して得られたメタクリル系樹脂の量を測定して、これを、残存単量体を揮発除去する前の前記第二のシラップ(b)の量で除して得られた値を質量百分率で表したものを、前記工程(2)直後の重合転化率とする。
【請求項2】
前記工程(1)及び前記工程(2)を、溶液重合又は塊状重合により行う、請求項に記載のメタクリル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)及び前記工程(2)を、連続的に行う、請求項又はに記載のメタクリル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂の製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は、その優れた透明性や寸法安定性から、光学材料、照明用材料、建築用材料等、様々な分野で幅広く用いられている。最近では、車両ランプカバー等の車両の内外装材料等の車両用部材の用途で用いられつつある。
上記の用途では、透明性と耐熱性に優れたアクリル樹脂が要求されている。
さらに、押出成形法や射出成形法により、アクリル樹脂を成形加工するときに、アクリル樹脂の熱分解性に起因する発泡が成形品中に発生しないこと、即ち耐熱分解性に優れたアクリル樹脂が要求されている。
メタクリル系樹脂の工業的な生産手段としては、塊状重合法や懸濁重合法が知られている。特に、塊状重合法は、懸濁重合法のように分散剤等の添加剤を使用しないため、メタクリル系樹脂の透明性に優れている。アクリル樹脂を塊状重合法で製造する技術として、例えば、特許文献1には、槽型反応装置内で重合原料を重合して、重量平均分子量5万超の重合体を含むシラップを得たあと、得られたシラップに重合原料を追加し、重合して、成形性の優れたアクリル樹脂を製造する技術が開示されている。
【0003】
特許文献2には、完全混合型反応器で重合原料の重合を行い、得られたシラップに、所定の濃度範囲となるようにアルキル(メタ)アクリレートとラジカル重合開始剤を添加した後、プラグフロー型反応器等の管型反応器で重合して、アクリル樹脂を製造する技術が開示されている。
【0004】
特許文献3には、特定量のメルカプタン化合物および特定量・特定種のラジカル重合開始剤を含む単量体の混合物を連続的に重合することにより、耐熱分解性と耐熱性のバランスに優れたアクリル樹脂を製造する技術が開示されている。
【0005】
特許文献4には、メタクリル酸メチルを主成分とする単官能単量体を、所定範囲量の多官能単量体および連鎖移動剤の共存下で重合させることにより、流動性および耐溶剤性に優れたアクリル樹脂を製造する技術が開示されている。
特許文献5には、アルキルアクリレート、特定量の単量体、特定量の非重合性溶媒、及び、特定範囲の半減期を有する遊離基発生剤を用いて重合を行うことにより、耐熱分解性および光学特性に優れたアクリル樹脂を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-214618号公報
【文献】WO2012/093464号公報
【文献】特開2000-34303号公報
【文献】特開平06-306109号公報
【文献】特開2000-53708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~5のアクリル樹脂の耐熱分解性は十分とはいえなかった。また、アクリル樹脂の耐熱分解性をさらに向上する技術についての記載はなく、特に、第二段階目の工程でアルキルアクリレートを添加して、アクリル樹脂の耐熱分解性をさらに向上する技術についての記載もない。
【0008】
また、アクリル樹脂の生産速度を高くするため、重合時間を短くすると、一般的には、アクリル樹脂中のアルキルアクリレートの含有量が低下するので、得られるアクリル樹脂の耐熱分解性が低下する傾向がある。そこで、アクリル樹脂の耐熱分解性を向上するために、単にアルキルアクリレートの添加量を増量すると、逆に重合時間を長くする必要があるため生産性が低下したり、或いは、得られるアクリル樹脂のガラス転移温度が低くなる、即ち耐熱性が低下する傾向があった。
【0009】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明の目的は、透明性、耐熱性及び耐熱分解性に優れたメタクリル系樹脂、成形品、車両用部材を提供することにある。さらに、前記メタクリル系樹脂を高い生産性で提供するメタクリル系樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明の第1の要旨は、下記式(1)を用いて算出される、スパイラル成形後のメタクリル系樹脂中の単量体含有率とスパイラル成形前のメタクリル系樹脂中の単量体含有率の変化量Bが、下記式(2)を満たし、且つ、ガラス転移温度が114℃以上である、メタクリル系樹脂にある。
【数1】
[式(2)中、xはメタクリル系樹脂のガラス転移温度(単位:℃)]
本発明の第2の要旨は、前記メタクリル系樹脂を含む成形品にある。
本発明の第3の要旨は、前記成形品を含む車両用部材にある。
本発明の第4の要旨は、工程(1)~工程(3)を順次行うことを含む、メタクリル系樹脂の製造方法にある。
工程(1):メタクリル酸メチルを80質量%以上含む単量体原料に、第一のラジカル重合開始剤を添加して得られた単量体組成物(A)を、重合転化率40~60%の範囲となるように重合して、第一のシラップ(a)を得る。
工程(2):前記第一のシラップ(a)100質量部に、炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に有するアクリル酸エステル(M)を50質量%以上含む単量体組成物(B)1~10質量部を添加し、さらに第二のラジカル重合開始剤を添加し、重合転化率50~80%の範囲となるように重合して、第二のシラップ(b)を得る。
工程(3):前記第二のシラップ(b)を脱揮して、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位80~99.8質量%と炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に有するアクリル酸エステル(M)由来の繰り返し単位0.2~20質量%とを含むメタクリル系樹脂を得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、透明性、耐熱性及び耐熱分解性に優れたメタクリル系樹脂及び成形品を安定に提供することができる。さらに、前記メタクリル系樹脂を高い生産性で提供するメタクリル系樹脂の製造方法を提供することができる。
このような、メタクリル系樹脂及び成形品は、テールランプやヘッドランプ等の車両用部材の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のメタクリル系樹脂の製造方法に用いる重合体製造装置の一例を示す模式図である。
図2】本発明のメタクリル系樹脂の製造方法に用いる重合体製造装置の重合反応器の一例である槽型反応器の一例を示す模式図である。
図3】本発明の重合体の製造方法に用いる重合体製造装置の重合反応器の一例である管型反応器の一例を示す模式図である。
図4】本発明のメタクリル系樹脂の製造方法に用いる重合体製造装置の揮発性成分除去装置の一例である脱揮押出機の一例を示す模式図である。
図5】請求項1のスパイラル成形品(幅15mm、厚さ2mmの渦巻板)を成形するためのスパイラル金型を示す模式図である。図中の数字の単位は「mm」である。
図6】請求項1で規定するメタクリル系樹脂のガラス転移温度Xと変化量Bの関係式(実線)、及び、実施例1~3と比較例1~3のメタクリル系樹脂の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
本発明において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本明細書において、「メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位」のことを「MMA単位」という。「炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に含むアクリル酸エステル(M)」のことを「アクリル酸エステル(M)単位」という。「アクリル酸エステル(M)由来の繰り返し単位」のことを「アクリル酸エステル(M)単位」という。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる特定の成分の含有量を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
下に本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの態様のみに限定されるものではない。
【0014】
<メタクリル系樹脂>
本発明のメタクリル系樹脂は、下記式(1)を用いて算出される、スパイラル成形前のメタクリル系樹脂中の単量体含有率と、スパイラル成形後のメタクリル系樹脂中の単量体含有率の変化量B(以下、「変化量B」という。)が、下記式(2)を満たす。
本明書において、前記変化量Bは、スパイラル成形品中に、メタクリル系樹脂が熱分解して生成した単量体を定量しているので、メタクリル系樹脂の熱分解性の指標となる。変化量Bの値が小さいほどメタクリル系樹脂は耐熱分解性に優れている。
【数2】
[式(2)中、xはメタクリル系樹脂のガラス転移温度(単位:℃)]
【0015】
本明細書の実施例において、変化量Bは、射出成形機と図5に示す金型(深さ2.0mm、幅15mm)を用いて、成形温度290℃の条件で作成したスパイラル成形品を用いて測定した値とする。金型は、ゲート口(72)を中心としてスパイラル形状の流路を有しており、前記流路の先端部に圧抜き機構(71)を備えている。前記変化量Bの測定方法の詳細は後述する。
なお、変化量Bを測定するための金型は、図5に示す仕様の金型に限定されるものではない。変化量Bを測定するための金型に求められる仕様としては、メタクリル系樹脂の熱分解による発泡の有無を判断できるように金型内の流路の先端部に圧抜き機構を備えていること、及び、メタクリル系樹脂の熱分解と発泡の再現性を確保するために金型内の流路が直線部と真円の一部から形成され、流路の途中に隅角部を有さないこと、を満たしていれば良い。金型のゲート口から前記先端部に圧抜き機構までの長さは、特に制限されるものではなく、十分な長さを有していれば良い。通常は1300mm以上である。
尚、「隅角部を有さない」とは、流路内に対して内に折れている部分(入り隅)について、内側内壁の曲率半径が2mmR未満の部分を有さないことをいう。
【0016】
変化量Bの下限は、メタクリル系樹脂の耐熱性を良好に維持できることから、0.3以上である。0.18x-20.22以上がより好ましい。一方、変化量Bの上限は、メタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となり、メタクリル系樹脂を成形して得られた樹脂成形品に発泡が観察されないことから、0.35X-39.46以下が好ましく、0.29X-32.62以下がより好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。或いは又、変化量Bは、0.3以上0.35X-39.46以下が好ましく、0.18x-20.22以上0.29X-32.62以下がより好ましい。
【0017】
変化量Bを0.3以上0.35X-39.46以下とするには、後述するメタクリル系樹脂の製造方法において、工程(1)で得られた第一のシラップ(a)に、後述するアクリル酸エステル(M)を50質量%以上含む単量体組成物(B)を添加、重合して第二のシラップ(b)を得ること、及び、工程(1)の重合温度が110~180℃の範囲、工程(2)の重合温度が125~210℃の範囲に収まるようにして、且つ、アクリル酸エステル(M)の種類や配合量、ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤の種類や添加量を調整することで、制御できる。
【0018】
本発明のメタクリル系樹脂は、ガラス転移温度の下限は、メタクリル系樹脂の耐熱性に優れることから、114℃以上である。115℃以上がより好ましい。また、メタクリル系樹脂のガラス転移温度の上限は、特に制限されるものではないが、メタクリル系樹脂の耐熱分解性を良好に維持でき、成形加工時の流動性に優れることから、125℃以下が好ましい。117℃以下がより好ましい。尚、本明細書において、ガラス転移温度は、後述する測定方法に準拠して測定した値とする。
ガラス転移温度を114℃以上とするには、メタクリル系樹脂に含まれるMMA単位を80質量%以上99.8質量%以下、アクリル酸エステル(M)単位を0.2質量%以上20質量%以下とすれば良い。ガラス転移温度を125℃以下とするには、メタクリル系樹脂に含まれるMMA単位を80質量%以上、アクリル酸エステル(M)単位を20質量%以下とすれば良い。
【0019】
さらに、本発明のメタクリル系樹脂は、下記式(3)から算出される末端二重結合率が1%以上4%以下の範囲にあることが好ましい。
本明書において、末端二重結合率は、核磁気共鳴スペクトル法で測定した末端二重結合部(共鳴周波数5.5ppm及び6.1ppm)の積分強度とメタクリル酸メチル由来の構造単位中の主鎖のメトキシ基(共鳴周波数3.6ppm)の積分強度比、及び、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)を用いて下記式(3)から算出した値であり、ポリマー分子の総分子数に対する不均化停止末端を有する分子数の含有割合を表すものであり、メタクリル系樹脂の熱分解性の指標となる。末端二重結合率の値が小さいほどメタクリル系樹脂は耐熱分解性に優れている。末端二重結合率の測定方法は、後述する。
【数3】
末端二重結合率の下限は、重合温度が高くなり、得られる樹脂の耐熱性が低下するため、1.0%以上が好ましい。1.1%以上がより好ましく、1.2%以上がさらに好ましい。末端二重結合率の上限は、メタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となることから、4.0%以下である。3.0%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。或いは又、末端二重結合率は、1.0%以上4.0%以下が好ましく、1.1%以上3.0%以下がより好ましく、1.2%以上2.0%以下がさらに好ましい。
末端二重結合率を1.0%以上4.0%以下とするには、後述するメタクリル系樹脂の製造方法において、工程(1)で得られた第一のシラップ(a)に、後述するアクリル酸エステル(M)を50質量%以上含む単量体組成物(B)を添加、重合して第二のシラップ(b)を得ること、及び、工程(1)の重合温度が110~180℃の範囲、工程(2)の重合温度が125~210℃の範囲に収まるようにして、且つ、アクリル酸エステル(M)の種類や配合量、ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤の種類や添加量を調整することで、制御できる。
【0020】
本発明のメタクリル系樹脂は、核磁気共鳴スペクトル法で測定して下記式(4)から算出される立体規則性(S/H比)を1.10以上1.40以下とすることができる。
本明書において、立体規則性(S/H比)は、メタクリル系樹脂の耐熱性の指標となる。立体規則性の値が大きいほどメタクリル系樹脂は高い耐熱性を有している。立体規則性(S/H比)の測定方法は、後述する。
【0021】
立体規則性(S/H比)の下限は、特に制限されるものではなく、メタクリル系樹脂の耐熱性が良好となることから、1.1以上が好ましい。1.15以上がより好ましく、1.20以上がさらに好ましい。一方、立体規則性(S/H比)の上限は、特に制限されるものではなく、ラジカル重合時の重合温度を抑えることで、メタクリル系樹脂の耐熱分解性を良好に維持できることから、1.4以下が好ましい。1.35以下がより好ましく、1.30以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。或いは又、立体規則性(S/H比)は1.10以上1.40以下が好ましく、1.15以上1.35以下がより好ましく、1.20以上.30以下がさらに好ましい。
立体規則性(S/H比)を1.10以上1.40以下とするには、後述するメタクリル系樹脂の製造方法において、工程(1)の重合温度を110~180℃の範囲内、工程(2)の重合温度を125~210℃の範囲内で調整することで制御できる。
【0022】
本発明のメタクリル系樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)を60,000以上140,000以下とすることができる。
Mwの下限は、特に制限されるものではなく、メタクリル系樹脂の力学物性が良好となることから、60,000以上が好ましく、80,000以上がより好ましく、100,000以上がさらに好ましい。一方、Mwの上限は、特に制限されるものではなく、使用する連鎖移動剤の量が減り、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が低下するため、140,000以下が好ましく、130,000以下がより好ましく、120,000以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明のメタクリル系樹脂は、GPCで測定した重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)を1.6~2.2とすることができる。
Mw/Mnの下限は、特に制限されるものではなく、メタクリル系樹脂の耐熱性が良好となることから、1.6以上が好ましく、1.7以上がより好ましく、1.8以上がさらに好ましい。一方、Mw/Mnの上限は、特に制限されるものではなく、メタクリル系樹脂の成形性が良好となることから、2.2以下が好ましく、2.1以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
質量平均分子量(Mw)を60,000以上140,000以下、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)を1.6~2.2とするには、後述するメタクリル系樹脂の製造方法において、ラジカル重合開始剤の種類や添加量、連鎖移動剤の種類や添加量を調整し、且つ、工程(1)の重合温度を110~180℃の範囲内、工程(2)の重合温度を125~210℃の範囲内で調整することで制御できる。
なお、質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、標準試料として標準ポリスチレンを用いて測定した値とする。
【0024】
本発明のメタクリル系樹脂は、メタクリル系樹脂の総質量100質量%に対して、MMA単位を80質量%以上99.8質量%以下、及び、後述するアクリル酸エステル(M)単位を、0.2質量%以上20質量%以下含むことができる。
メタクリル系樹脂中のMMA単位の含有率の下限は、特に制限されるものではなく、メタクリル系樹脂の耐熱性が良好となることから、該メタクリル系樹脂の総質量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましい。一方、メタクリル系樹脂中のMMA単位の含有率の上限は、特に制限されるものではなく、メタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となることから、該メタクリル系樹脂の総質量に対して、99.8質量%以下が好ましく、99.5質量%以下がより好ましく、99.0質量%以下がより好ましい。
【0025】
メタクリル系樹脂中の、アクリル酸エステル(M)単位の含有率の下限は、特に制限されるものではなく、メタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となることから、該メタクリル系樹脂の総質量に対して、0.2質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。一方、メタクリル系樹脂中の、アクリル酸エステル(M)単位の含有率の上限は、特に制限されるものではなく、メタクリル系樹脂の耐熱性が良好となることから、該メタクリル系樹脂の総質量に対して、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましく、2.0質量%以下が特に好ましい。
【0026】
<アクリル酸エステル(M)>
アクリル酸エステル(M)は、本発明のメタクリル系樹脂の構成成分の一つである。
アクリル酸エステル(M)としては、炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に含み、MMAと共重合可能なアクリル酸エステルであれば、特に制限されるものではなく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸t-ブチル等のアクリル酸エステルが挙げられる。これらのアクリル酸エステル(M)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、MMAとの共重合性に優れ、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性及び耐熱分解性に優れることから、メチルアクリレート、エチルアクリレートがより好ましい。
【0027】
また、本発明のメタクリル系樹脂は、MMAとアクリル酸エステル(M)以外に、メタクリル系樹脂の性能を損なわない範囲で、以下のa)~h)の単量体(以下、「他の単量体」と略する。)に由来する繰り返し単位を含むことができる。
a)(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ナフチル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル等の炭素数6以上の炭化水素基を側鎖に含む(メタ)アクリル酸エステル化合物。
b)エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート等の炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に含むメタクリル酸エステル化合物。
c)アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を含有する化合物。
d)スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-メトキシスチレン、p-アセトキシスチレン、α-ビニルナフタレン、2-ビニルフルオレンなどの芳香族ビニル化合物。
e)アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-メトキシアクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどの不飽和ニトリル化合物。
f)メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテルなどのエチレン性不飽和エーテル化合物。
g)塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2-ジクロロエチレン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、1,2-ジブロモエチレンなどのハロゲン化ビニル化合物。
h)1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-ネオペンチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,2ジクロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、直鎖および側鎖共役ヘキサジエンなどの脂肪族共役ジエン系化合物。
【0028】
<メタクリル系樹脂の製造方法>
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法は、工程(1)~工程(3)を順次行うことを含む。
工程(1):メタクリル酸メチルを80質量%以上含む単量体原料に、第一のラジカル重合開始剤を添加して得られた単量体組成物(A)を、重合転化率40~60%の範囲となるように重合して、第一のシラップ(a)を得る工程。
工程(2):前記第一のシラップ(a)100質量部に、アクリル酸エステル(M)を50質量%以上含む単量体組成物(B)1~10質量部を添加し、さらに第二のラジカル重合開始剤を添加し、重合転化率50~80%の範囲となるように重合して、第二のシラップ(b)を得る工程。
工程(3):前記第二のシラップ(b)を脱揮して、MMA単位80~99.8質量%とアクリル酸エステル(M)単位0.2~20質量%とを含むメタクリル系樹脂を得る工程。
【0029】
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法を用いることで、上述したスパイラル成形前・後のメタクリル系樹脂中の単量体含有率の変化量Bが、下記式(2)を満たし、且つ、ガラス転移温度が114℃以上である、本発明のメタクリル系樹脂を得ることができる。
【数4】
[式(2)中、xはメタクリル系樹脂のガラス転移温度(単位:℃)]
【0030】
(工程(1))
工程(1)は、MMAを80質量%以上含む単量体原料に、第一のラジカル重合開始剤を添加して得られた単量体組成物(A)を、重合転化率40~60%の範囲となるように重合して、第一のシラップ(a)を得る工程である。
【0031】
「メタクリル酸メチルを80質量%以上含む単量体原料」とは、MMAの単独物、又は、MMA及び炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に含むアクリル酸エステル(M)を含む単量体混合物である。
上記の炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に含むアクリル酸エステル(M)としては、メタクリル系樹脂の項に記載したアクリル酸エステル(M)と同様の化合物を用いることができる。MMAとの共重合性に優れ、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性及び耐熱分解性に優れることから、メチルアクリレート、エチルアクリレートが好ましい。
【0032】
単量体原料中のMMAの含有率の下限は、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性が良好となることから、該単量体原料の総質量に対して、80.0質量%以上が好ましく、90.0質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98.0質量%以上が特に好ましい。一方、単量体原料中のMMAの含有率の上限は、特に制限されるものではなく、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となることから、該単量体原料の総質量に対して、99.8質量%以下が好ましく、99.5質量%以下がより好ましく、99.0質量%以下がさらに好ましい。MMA100質量%であっても良い。
【0033】
単量体原料中のアクリル酸エステル(M)の含有率の下限は、特に制限されるものではなく、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となることから、該単量体原料中の総質量に対して、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましい。一方、単量体原料中の、アクリル酸エステル(M)の含有率の上限は、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性が良好となることから、該単量体原料の総質量に対して、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましく、2.0質量%以下が特に好ましい。アクリル酸エステル(M)を不使用とすることもできる。
また、単量体原料には、MMAとアクリル酸エステル(M)以外に、得られるメタクリル系樹脂の性能を損なわない範囲で、メタクリル系樹脂の項に記載した他の単量体と同様の化合物を用いることができる。
即ち、前記単量体原料は、MMA80~100質量%及びアクリル酸エステル(M)0~20質量%を含むことが好ましく、MMA90~99.8質量%及びアクリル酸エステル(M)0.2~10質量%を含むことがより好ましく、MMA95.0~99.5質量%及びアクリル酸エステル(M)0.5~5.0質量%を含むことがさらに好ましく、MMA98.0~99.0質量%及びアクリル酸エステル(M)1.0~2.0質量%を含むことが特に好ましい。
【0034】
工程(1)における重合転化率は、40%~60%が好ましく、40%~50%がより好ましい。工程(1)における重合転化率が40%以上であると、工程(3)における脱揮の負荷を抑制することができる。また、工程(1)における重合転化率が60%以下であると、混合や伝熱を十分に行うことができ、重合安定性に優れる。
尚、本明細書において工程(1)における重合転化率は、「得られた第一のシラップ(a)の質量」に対する「得られた第一のシラップ(a)中の重合体の質量」の割合とする。
【0035】
工程(1)に使用される第一のラジカル重合開始剤は、特に制限されるものではなく、後述するラジカル重合開始剤を使用することができる。例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、1,1-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシエチルヘキサノエート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソノナエート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシ-イソノナエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩化合物;レドックス系重合開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの重合開始剤の中でも、保存安定性、MMAとの反応性に優れることから、アゾ化合物、有機過酸化物が好ましい。
【0036】
単量体組成物(A)中のラジカル重合開始剤の含有率は、単量体組成物(A)の総質量100質量%に対して、0.0001質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.001質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。ラジカル重合開始剤の含有率が0.0001質量%以上であると、原料単量体との反応性に優れる。また、ラジカル重合開始剤の含有率が1質量%以下であると、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となる。
【0037】
メタクリル系樹脂の質量平均分子量を調整するために、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、n-ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン化合物;α-メチルスチレンダイマー;テルピノレン等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの連鎖移動剤の中でも、MMAとの反応性に優れることから、メルカプタン化合物が好ましく、アルキルメルカプタン化合物がより好ましい。
【0038】
単量体組成物(A)中の連鎖移動剤の含有率は、単量体組成物(A)の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。連鎖移動剤の含有率が0.01質量%以上であると、メタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となる。また、連鎖移動剤の含有率が10質量%以下であると、得られるメタクリル系樹脂の機械特性が良好となる。
【0039】
工程(1)の重合方法は、本発明のメタクリル系樹脂の製造方法に適用できることから、塊状重合法、溶液重合法が好ましく、ゲル効果により少量の重合開始剤で重合転化率を上げることができることから、塊状重合法がより好ましい。
【0040】
重合方法を溶液重合法とした場合の溶媒としては、不活性溶媒であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でも、溶解性、反応性、分離性に優れることから、メタノール、トルエン、エチルベンゼン、酢酸ブチルが好ましい。
【0041】
重合方法を溶液重合法とした場合の溶媒の使用量は、単量体組成物(A)100質量部に対して、0.1質量部~200質量部が好ましく、1~150質量部がより好ましい。溶媒の使用量が0.1質量部以上であると、重合反応液の粘度が低く、取り扱い性に優れる。また、溶媒の使用量が200質量部以下であると、工程(3)における脱揮の負荷を抑制することができる。
【0042】
重合温度は、用いる単量体や重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよい。
工程(1)の重合温度は、110℃~180℃が好ましく、120℃~150℃がより好ましい。重合温度が110℃以上であると、ゲル効果による重合速度の加速が大きくなり、メタクリル系樹脂の生産性に優れる。また、重合温度が180℃以下であると、メタクリル系樹脂の分解を抑制することができ、メタクリル系樹脂の透明性、機械特性、耐熱性、耐熱分解性に優れる。
【0043】
工程(1)の重合開始剤の半減期は、採用する重合温度において5秒~60分となるように設定することが好ましく、10秒~30分がより好ましい。重合温度における重合開始剤の半減期が5秒以上であると、重合開始剤分解前に重合開始剤を重合反応系内に均一に拡散させることができる。また、重合温度における重合開始剤の半減期が60分以下であると、メタクリル系樹脂の生産性に優れる。
【0044】
工程(1)の重合時間は、重合方法等に応じ、また、所望の質量平均分子量のメタクリル系樹脂が得られるよう適宜設定すればよい。
重合時間は、15分~600分が好ましく、30分~480分がより好ましい。重合時間が15分以上であると、重合転化率を十分高くすることができる。また、重合時間が600分以下であると、メタクリル系樹脂の生産性に優れ、副生成物の生成を抑制することができる。
【0045】
メタクリル系樹脂の立体規則性は、重合温度を110℃~180℃に設定することで、1.1~1.4の範囲に制御することができる。
【0046】
(工程(2))
工程(2)は、前記第一のシラップ(a)100質量部に、炭素数1~5の炭化水素基を側鎖に有するアクリル酸エステル(M)を50質量%以上含む単量体組成物(B)1~10質量部を添加し、さらに第二のラジカル重合開始剤を添加し、重合転化率50~80%の範囲となるように重合して、第二のシラップ(b)を得る工程である。
工程(2)で、工程(1)で得られた第一のシラップ(a)に、アクリル酸エステル(M)を50質量%以上含む単量体組成物(B)を添加することで、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となる。
【0047】
さらに、一般的には、重合時間を短くするほど、メタクリル系樹脂中のアクリル酸エステル(M)の含有量は低下するので、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が低下する傾向がある。しかし、本発明においては、前記工程(2)でアクリル酸エステル(M)を添加することで、同じ重合時間であっても、メタクリル系樹脂中のアクリル酸エステル(M)単位の含有量を増加することができる。これは言い換えると、前記工程(2)でアクリル酸エステル(M)を添加することで、アクリル酸エステル(M)単位の含有量が同じメタクリル系樹脂中を、より短い重合時間で製造することができる、即ち高い生産性でメタクリル系樹脂を提供できることを意味する。
工程(2)に用いられる、アクリル酸エステル(M)としては、メタクリル系樹脂の項に記載したアクリル酸エステル(M)と同様の化合物を用いることができる。工程(1)に用いられるアクリル酸エステル(M)と同じ化合物を用いても良いし、異なる化合物を用いても良い。MMAとの共重合性に優れ、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性及び耐熱性に優れることから、メチルアクリレート、エチルアクリレートが好ましい。
【0048】
前記単量体組成物(B)中に含まれるアクリル酸エステル(M)の含有率の下限は、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となることから、該量体組成物(B)の総質量100質量%に対して、50質量%以上である。75質量%以上がより好ましい。アクリル酸エステル(M)の含有率が50質量%以上であると、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となる。アクリル酸エステル(M)の含有率の上限は、特に制限されるものではなく、耐熱分解性が良好となることから100質量%とすることもできる。
【0049】
また、単量体組成物(B)には、アクリル酸エステル(M)以外に、得られるメタクリル系樹脂の性能を損なわない範囲で、メタクリル系樹脂の項に記載した他の単量体と同様の化合物を用いることができる。工程(1)に用いられる他の単量体と同じ化合物を用いても良いし、異なる化合物を用いても良い。
【0050】
工程(2)において、前記第一のシラップ(a)に添加する単量体組成物(B)の量は、該第一のシラップ(a)100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~5質量部がより好ましい。単量体組成物(B)の添加量が1質量部以上であると、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となる。また、単量体組成物(B)の使用量が10質量部以下であると、メタクリル系樹脂の耐熱性を良好に維持できる。
【0051】
工程(2)における重合転化率は、50%~80%が好ましく、50%~75%がより好ましい。工程(2)における重合転化率が50%以上であると、工程(3)における脱揮の負荷を抑制することができる。また、工程(2)における重合転化率が80%以下であると、混合や伝熱を十分に行うことができ、重合安定性に優れる。
尚、本明細書において工程(2)における重合転化率は、「得られた第二のシラップ(b)の質量」に対する「得られた第二のシラップ(b)中の重合体の質量」の割合とする。
【0052】
工程(2)において、重合反応を効率よく進行させるために、単量体組成物(B)は、工程(1)と同様にラジカル重合開始剤を含んでも良い。ラジカル重合開始剤の種類や使用料は工程(1)と同様に設定すれば良い。工程(1)に用いられるラジカル重合開始剤と同じ化合物を用いても良いし、異なる化合物を用いても良い。ラジカル重合開始剤の中でも、保存安定性、MMAとの反応性に優れることから、アゾ化合物、有機過酸化物が好ましい。
【0053】
単量体組成物(B)中のラジカル重合開始剤の含有率は、単量体組成物(B)の総質量100質量%に対して、0.0001質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.001質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。ラジカル重合開始剤の含有率が0.0001質量%以上であると、原料単量体との反応性に優れる。また、ラジカル重合開始剤の含有率が1質量%以下であると、得られるメタクリル系樹脂の耐熱分解性が良好となる。
【0054】
工程(2)においては、単量体組成物(B)に前記重合開始剤を予め混合してから第一のシラップ(a)に添加してもよいし、また単量体組成物(B)と前記重合開始剤を第一のシラップ(a)に別々に添加してもよい。
【0055】
単量体組成物(B)は、メタクリル系樹脂の質量平均分子量を調整するために、工程(1)の項に記載した連鎖移動剤を含んでもよい。また、単量体組成物(B)中の連鎖移動剤の含有率も、工程(1)と同様に設定すれば良い。工程(1)に用いられる連鎖移動剤と同じ化合物を用いても良いし、異なる化合物を用いても良い。
【0056】
単量体組成物(B)は、工程(1)と同様に不活性溶媒を含んでも良い。不活性溶媒の種類や使用料は工程(1)と同様に設定すれば良い。工程(1)に用いられる不活性溶媒と同じ化合物を用いても良いし、異なる化合物を用いても良い。
【0057】
工程(2)の重合温度は、用いる単量体やラジカル重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよい。
工程(2)の重合温度は、125℃~210℃に収まるようにすることが好ましく、130℃~180℃に収まるようにすることがより好ましい。重合温度が125℃以上であると、ゲル効果による重合速度の加速が大きくなり、メタクリル系樹脂の生産性に優れる。また、重合温度が210℃以下であると、メタクリル系樹脂の分解を抑制することができ、メタクリル系樹脂の透明性、機械特性、耐熱性、耐熱分解性に優れる。
【0058】
工程(2)の重合開始剤の半減期は、採用する重合温度において5秒~60分となるように設定することが好ましく、10秒~30分がより好ましい。重合温度における重合開始剤の半減期が5秒以上であると、重合開始剤分解前に重合開始剤を重合反応系内に均一に拡散させることができる。また、重合温度における重合開始剤の半減期が60分以下であると、メタクリル系樹脂の生産性に優れる。
【0059】
工程(2)の重合時間は、重合方法等に応じ、また、所望の質量平均分子量のメタクリル系樹脂が得られるよう適宜設定すればよい。
重合時間は、15分~600分が好ましく、30分~480分がより好ましい。重合時間が15分以上であると、重合転化率を十分高くすることができる。また、重合時間が600分以下であると、メタクリル系樹脂の生産性に優れ、副生成物の生成を抑制することができる。
【0060】
メタクリル系樹脂の立体規則性は、重合温度を125℃~210℃の範囲に収まるように設定することで、1.1~1.4の範囲に制御することができる。
【0061】
(工程3)
工程(3)は、工程(2)で得られた第二のシラップ(b)に含まれる揮発性成分を脱揮し、メタクリル系樹脂を得る工程である。公知の単軸または二軸押出機、脱揮槽等を用いても良い。
揮発性成分は、得られたメタクリル系樹脂中に含まれる、重合体以外の揮発性の成分をいい、例えば、未反応の単量体、二量体、連鎖移動剤、溶媒等が挙げられる。
【0062】
脱揮温度は、用いる単量体や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。脱揮温度は、80℃~350℃が好ましく、100℃~300℃がより好ましい。脱揮温度が80℃以上であると、脱揮効率に優れ、メタクリル系樹脂の生産性に優れる。また、脱揮温度が350℃以下であると、メタクリル系樹脂の熱劣化を抑制することができ、メタクリル系樹脂の純度、光学特性に優れる。
【0063】
脱揮を効率よく進行させるために、脱揮の際に減圧してもよい。脱揮で減圧する際の圧力は、脱揮効率に優れ、メタクリル系樹脂の生産性に優れることから、90kPaA以下が好ましく、60kPaA以下がより好ましい。
【0064】
(重合体製造装置)
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法は、重合反応器及び揮発性成分除去装置を有する重合体製造装置を用いて行うことが好ましい。
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法における工程(1)及び工程(2)を重合反応器にて行い、本発明のメタクリル系樹脂の製造方法における工程(3)を揮発性成分除去装置にて行うことが好ましい。
【0065】
図1に重合体製造装置の一例を示す。図1に示す重合体製造装置10は、重合反応器20及び揮発性成分除去装置30が順次接続された装置である。重合反応器20は、槽型反応器40及び管型反応器50が順次接続されたものである。槽型反応器40と管型反応器50を接続する配管の途中には、単量体組成物(B)を供給するための単量体組成物(B)供給槽70が接続されている。揮発性成分除去装置30は、脱揮押出機60である。
【0066】
(重合反応器)
重合反応器としては、例えば、槽型反応器、管型反応器等が挙げられる。これらの重合反応器は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよく、同種のものを複数用いてもよい。これらの重合反応器の中でも、槽型反応器を用いることが好ましく、槽型反応器と管型反応器とを併用することが好ましく、槽型反応器及び管型反応器を順次接続した重合反応器がより好ましい。
【0067】
(槽型反応器)
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法において、工程(1)では、槽型反応器を用いることができる。槽型反応器は、重合反応液の均一性に優れることから、完全混合型の槽型反応器が好ましい。
完全混合型の槽型反応器とは、供給した原料を撹拌装置等により均一に混合した状態で反応させるための槽型の反応器をいう。
【0068】
図2に槽型反応器の一例を示す。図2に示す槽型反応器40は、上方に原料単量体供給ノズル41、下方にシラップ排出口42、中央に撹拌翼43及びシャフト44、外部上方にモーター45、外周にジャケット46を有する槽型反応器である。
【0069】
槽型反応器の容量は、0.05m~100mが好ましく、0.1m~50mがより好ましい。槽型反応器の容量が0.05m以上であると、メタクリル系樹脂の生産性に優れる。また、槽型反応器の容量が100m以下であると、重合反応液の混合性に優れる。
【0070】
槽型反応器で用いる撹拌翼の種類としては、例えば、ヘリカルリボン翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼、アンカー翼又はピッチドタービン翼、プロペラ翼、パドル翼等が挙げられる。これらの撹拌翼の中でも、重合反応液の混合性に優れることから、ヘリカルリボン翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼、アンカー翼、ピッチドタービン翼が好ましい。
【0071】
(管型反応器)
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法において、工程(2)では、管型反応器を用いることができる。管型反応器は、重合反応性に優れることから、プラグフロー型の管型反応器が好ましい。
プラグフロー型の管型反応器とは、管内で原料を流動させながら反応させるための管型の反応器をいう。
【0072】
図3に管型反応器の一例を示す。図3に示す管型反応器50は、上方に混合物供給口51、下方にシラップ排出口52、外周にジャケット53、内部にミキサー54を有する管型反応器である。
【0073】
管型反応器内で均一に重合させるために、ミキサーを用いることが好ましい。
管型反応器で用いるミキサーの種類としては、例えば、スタティックミキサー等が挙げられる。これらのミキサーの中でも、重合反応液の混合性、流動性に優れることから、スタティックミキサーが好ましい。
【0074】
(槽型反応器・管型反応器)
槽型反応器及び管型反応器を順次接続した重合反応器を用いた場合の、槽型反応器における第一のシラップ(a)の重合転化率は、40%~60%が好ましく、40%~50%がより好ましい。槽型反応器における重合転化率が40%以上であると、管型反応器での重合反応量を抑制することができる。また、槽型反応器における重合転化率が60%以下であると、混合や伝熱を十分に行うことができ、重合安定性に優れる。
【0075】
工程(1)において槽型反応器及び管型反応器を順次接続した重合反応器を用いた場合、槽型反応器及び管型反応器における重合反応を連続して行うことが好ましい。
工程(1)の槽型反応器と工程(2)の管型反応器を順次接続した重合反応器を用いた場合、槽型反応器と管型反応器との間で、単量体組成物(B)を供給するための単量体組成物(B)供給槽から単量体組成物(B)を添加することに特徴がある。単量体組成物(B)には、必要に応じて、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を添加してもよい。
管型反応器における第二のシラップ(b)の重合転化率は、50~80%が好ましく、50%~60%がより好ましい。槽型反応器における重合転化率が50%以上であると、工程(3)の揮発性成分除去装置での脱揮効率に優れる。また、管型反応器における重合転化率が80%以下であると、混合や伝熱を十分に行うことができ、重合安定性に優れる。
【0076】
工程(1)において槽型反応器及び管型反応器を順次接続した重合反応器を用いた場合、槽型反応器及び管型反応器それぞれにおいて、重合温度や重合時間等の重合条件が同一であってもよく異なってもよいが、重合時間を短縮するために重合反応液の温度や重合転化率に応じて最適な条件を選択する必要があることから、異なることが好ましい。
【0077】
(揮発性成分除去装置)
揮発性成分除去装置は、脱揮効率に優れることから、脱揮押出機が好ましい。図4に脱揮押出機の一例を示す。図4に示す脱揮押出機60は、上方に混合物供給口61、側方にメタクリル系樹脂排出口62、上方にベント63を有する脱揮押出機である。脱揮押出機の種類としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機等が挙げられる。これらの脱揮押出機の中でも、脱揮効率、混合性に優れることから、単軸押出機、二軸押出機が好ましい。揮発性成分の除去を効率的に行うために、脱揮押出機にベントを有することが好ましい。ベントは単数でも複数でもよいが、揮発性成分の脱揮効率に優れることから、複数が好ましい。
【0078】
(添加剤)
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法で得られたメタクリル系樹脂に、さらに、添加剤を添加してもよい。添加剤は、揮発性成分除去装置で添加してもよく、メタクリル系樹脂を得た後にメタクリル系樹脂と混合してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、着色剤、帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。添加剤の添加量は、メタクリル系樹脂の用途や添加剤の種類等により適宜調整することができる。
【0079】
(成形品)
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法で得られたメタクリル系樹脂を成形することで、成形品が得られる。成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、加圧成形等が挙げられる。また、得られた成形品を、さらに、圧空成形や真空成形等の二次成形をしてもよい。得られた成形品は、光学材料、車両用部品、照明用材料、建築用材料等に用いることができる。
【実施例
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない
<評価方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0081】
[耐熱分解性]
メタクリル系樹脂の耐熱分解性の指標として、下記の方法に従い、スパイラル成形前のメタクリル系樹脂とスパイラル成形後のメタクリル系樹脂に含まれる単量体含有率の変化量Bを測定した。
ここで、「メタクリル系樹脂に含まれる単量体」とは、メタクリル系樹脂中に含まれる、メタクリル酸メチル、アクリル酸エステル(M)の総量のことをいう。さらに、メタクリル系樹脂が、前記その他単量体を用いて製造された場合、メタクリル系樹脂中に含まれる、前記その他単量体をさらに含むものとする。
メタクリル系樹脂のペレットを、射出成形機(機種名「PS-60E」、日精樹脂(株)製)と、図5に示す寸法で深さ2mmに掘り込まれたスパイラル金型を用いて、成形温度290℃、金型温度60℃、成形サイクル60秒の条件で、スパイラル成形品(幅15mm、厚さ2mmの渦巻板)を得た。スパイラル流動長が100mm以下のものは不合格とした。
得られたスパイラル成形品について、金型のゲート口から100mmの位置よりメタクリル系樹脂0.3gを切り出して採取し、これを「スパイラル成形後のメタクリル系樹脂(サンプル2)」とした。また、メタクリル系樹脂のペレットを「スパイラル成形前のメタクリル系樹脂(サンプル1)」とした。
次いで、スパイラル成形前・後のメタクリル系樹脂(サンプル1、サンプル2)に含まれる単量体の含有率を、ガスクロマトグラフィー測定装置(GC装置)(を用いて測定した。
メタクリル系樹脂0.3gをアセトン15mlに溶解した後、内部標準として2%(v/v)サリチル酸メチルを少量添加し、これをGC測定用試料とした。下記の条件でGC測定を行い、内部標準法にてメタクリル系樹脂に含まれる単量体の含有率を算出し、得られた各単量体の含有率の和を、メタクリル系樹脂に含まれる単量体含有率とした。
(ガスクロマトグラフ測定条件)
GC測定装置:Agilent6850(アジレントテクノロジー社製)
カラム:DB-WAX(アジレントテクノロジー社製、カラムサイズ:外径0.32mm/内径0.25μm、長さ30m)
検出器:FID
チャージ量:1.0μl
昇温条件:35℃で5分間保持した後、昇温速度60℃/分で210℃まで昇温し、さらに210℃で5分間保持した。
注入口温度:220℃
キャリアガス:ヘリウム(流量2.0mL/分)
次いで、下記式(1)を用いて算出した、スパイラル成形前・後のメタクリル系樹脂中の単量体含有率の変化量を、変化量Bとした。前記変化量Bは、スパイラル成形品中に含まれる、メタクリル系樹脂が熱分解して生成した単量体を定量しているので、メタクリル系樹脂の熱分解性の指標となる。
【数5】
【0082】
[末端二重結合率、立体規則性(S/H比)]
メタクリル系樹脂の耐熱分解性の指標として末端二重結合率を、また、耐熱性の指標として立体規則性(S/H比)を、下記の方法に従って測定した。
メタクリル系樹脂のペレットをDMSO-dに80~100mg/mlの濃度となるように溶解して、これを核磁気共鳴スペクトル測定用の試料とした。得られた試料について、核磁気共鳴スペクトル測定装置(装置名:UNITY INOVA 500、Varian(株)製)を用いて、測定温度120℃、積算回数10000回で測定し、核磁気共鳴スペクトルを取得した。
次いで、核磁気共鳴スペクトルから得られた末端二重結合部(共鳴周波数5.5ppm及び6.1ppm)の積分強度、MMA単位中の主鎖のメトキシ基(共鳴周波数3.6ppm)の積分強度、及び、後述する方法を用いて測定したメタクリル系樹脂の数平均分子量(Mn)を用いて、下記式(3)から算出した値を、メタクリル系樹脂の末端二重結合率とした。
【数6】
また、核磁気共鳴スペクトルから得られた、α-CH基由来のSyndiotacticピークの積分強度と、α-CH基由来のHeterotacticピークの積分強度を用いて、下記式(4)から算出した値(S/H比)を、メタタクリル系樹脂の立体規則性を表す指標とした。
【数7】
【0083】
[質量平均分子量(Mw)、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)]
メタクリル系樹脂のペレットを、テトラヒドロフランに0.06g/25mlの濃度となるように溶解して、これをGPC測定用試料とした。前記試料10μlを、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置(装置名:HPLC-8220GPC、東ソー(株)製、カラム:TSK-GEL SUPER HM-H(排除限界分子量=4×10)、6.0mmφ×150mmを2本直列接続、検出器:RI(示差屈折計))に注入した。測定温度は40℃とし、分子量既知の標準ポリスチレンを内部標準物質として用いて、質量平均分子量(Mw)と重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)を測定した。
【0084】
[アクリル酸エステル(M)単位及びMMA単位の含有率]
メタクリル系樹脂中のアクリル酸エステル(M)単位の含有率を、下記の方法に従って測定した。
実施例、比較例で得られたメタクリル系樹脂5mgを、熱分解装置(商品名:ダブルショットパイロライザーPY-2020D、フロンティアラボ社製)を用いて、温度500℃の条件下で熱分解した。発生した分解ガスを。FID検出器付きのガスクロマトグラフィー測定装置(商品名:HP6890、Agilent Technologies社製)に取り付けた分離カラム(商品名:HP-WAX、内径:0.32mm、カラム長:30m、膜厚:0.25μm)に導入した。カラム測定温度プログラムは、50℃で5分保持した後に、昇温速度10℃/分で、200℃まで昇温した後、200℃で10分間保持した。キャリアガスにHe(1.2ml/分、線速度40cm/秒)を用いて、発生した分解ガス中のアクリル酸エステル(M)を分離した。予め作製したモデルポリマーを使用して得られた検量線からアクリル酸エステル(M)単位の含有量(単位:質量%)を算出した。
メタクリル系樹脂中のMMA単位の含有率(単位:質量%)を、下記の方法に従って測定した。
MMA単位の含有率(質量%)=100-アクリル酸エステル(M)単位の含有率(質量%)
【0085】
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査型熱量測定装置(DSC)(商品名:X-DSC7000、セイコーインスツルメンツ社製、)を用いて、以下の手順でガラス転移温度(Tg)を測定した。メタクリル系樹脂約10mgをサンプル容器に入れ、窒素ガスを30mL/minで流しながら、20℃で1分間保持した。次いで、20℃から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温して、200℃で5分間保持した。次いで、200℃から20℃まで冷却速度20℃/分で冷却して、20℃で5分間保持した。その後、20℃から200℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、この時のガラス転移温度(Tg)(単位:℃)を求めた。
【0086】
[重合転化率]
工程(1)直後の重合転化率、及び、工程(2)直後の重合転化率を、下記の方法で測定した。
槽型反応器から、一定時間の間、取り出した第一のシラップ(a)を脱揮押出機に供給し、残存単量体を揮発除去して得られたメタクリル系樹脂の量を測定して、これを、脱揮押出機に供給した第一のシラップ(a)の量で除して得られた値を質量百分率で表したものを、工程(1)直後の重合転化率とした。
第一の管型反応器から取り出した第二のシラップ(b)を脱揮押出機に供給し、残存単量体を揮発除去して得られたメタクリル系樹脂の量を測定して、これを、脱揮押出機に供給した第二のシラップ(b)の量で除して得られた値を質量百分率で表したものを、工程(2)直後の重合転化率とした。なお、表1中、工程(2)直後の重合転化率における単位[%]は、質量百分率[質量%]を省略して表したものである。
【0087】
[実施例1]
<工程(1)>
精製されたMMA99.2質量%とアクリル酸メチル0.8質量%とからなる単量体原料に、溶存酸素量が0.5ppm以下となるまで窒素を吹き込んだ。次いで、第一の重合開始剤としてt-ブチルパーオキシベンゾエートを0.009質量%及び連鎖移動剤としてn-オクチルメルカプタンを0.225質量%の含有量となるように添加、混合して、これを単量体組成物(A)とした。
得られた単量体組成物(A)を100L槽型反応器に25kg/Hrで連続的に供給し、撹拌混合しながら、重合温度135℃、平均滞在時間2.0時間として重合して第一のシラップ(a)を得た。
<工程(2)>
精製したアクリル酸メチル100質量%からなるモノマーに、溶存酸素量が0.5ppm以下となるまで窒素を吹き込み、これを単量体組成物(B)とした。
工程(1)の槽型反応器からギアポンプを用いて第一のシラップ(a)を連続的に抜出し、開始剤投入器(住友重機械工業(株)製SMXスルーザーミキサーを内装した配管)を用いて、第二の重合開始剤としてt-ブチルパーオキシベンゾエートを0.0015質量%の含有量となるように、第一のシラップ(a)に添加した。続いて、アクリレート投入器(住友重機械工業(株)製SMXスルーザーミキサーを内装した配管)を用いて、得られる第二のシラップ(b)100質量%中の単量体組成物(B)の含有割合が2.8質量%の含有量となるように、単量体組成物(B)を第一のシラップ(a)に添加した。
続いて、第一の管型反応器であるスタティックミキサー(ノリタケカンパニー(株)製)を内装した管型反応器(プラグフロー型反応器)に供給し、重合温度160℃、平均滞留時間20分として重合し、第二のシラップ(b)を得た。
<工程(3)>
次に、工程(2)で得られた第二のシラップ(b)を、温度195℃で、第一の管型反応器の出口から連続的に脱揮押出機(ベントエクストルーダ型押出機)に供給して、脱揮温度270℃で未反応モノマーを主成分とする揮発分を分離除去し、メタクリル系樹脂を得た。
また360時間の連続運転においても、重合の制御に問題は無く、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。得られたメタクリル系樹脂を評価した結果を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
工程(2)の単量体組成物(B)の組成を、精製したアクリル酸メチル75質量%およびMMA25質量%に変更し、得られる第二のシラップ(b)100質量%中の単量体組成物(B)の含有割合が3.2質量%となるように、単量体組成物(B)を第一のシラップ(a)に添加するように変更した。
また、第一の管型反応器と脱揮押出機の間に、第三の重合開始剤および第二の管型反応器を接続した。開始剤投入器(住友重機械工業(株)製SMXスルーザーミキサーを内装した配管)で、第三の重合開始剤としてジ-t-ヘキシルパーオキサイドを0.0015質量%の含有量となるように、第一のシラップ(a)に添加した。続いて、第二の管型反応器であるスタティックミキサー(ノリタケカンパニー(株)製)を内装した管型反応器(プラグフロー型反応器)に供給し、重合温度180℃、平均滞留時間20分として重合して、第二のシラップ(b)を得た。
上記以外は実施例1と同様の操作を行い、メタクリル系樹脂を得た。
360時間の連続運転においても、重合の制御に問題は無く、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。得られたメタクリル系樹脂を評価した結果を表1に示す。
【0089】
[比較例1]
工程(1)の単量体組成物(A)の組成を、精製されたMMA98.0質量%とアクリル酸メチル2.0質量%に変更した。工程(2)の単量体組成物(B)の組成を、精製したMMA100質量%に変更した。また、工程(2)で、得られる第二のシラップ(b)100質量%中の単量体組成物(B)の含有割合が2.4質量%となるように、単量体組成物(B)を第一のシラップ(a)に添加するように変更した。上記以外は実施例1と同様の操作を行って、メタクリル系樹脂を得た。得られたメタクリル系樹脂を評価した結果を表1に示す。
【0090】
[比較例2]
工程(1)の単量体組成物(A)の組成を、精製されたMMA98.8質量%とアクリル酸メチル1.2質量%に変更した。工程(2)の単量体組成物(B)の組成を、精製したMMA100質量%に変更した。また、工程(2)で、得られる第二のシラップ(b)100質量%中の単量体組成物(B)の含有割合が2.4質量%となるように、単量体組成物(B)を第一のシラップ(a)に添加するように変更した。上記以外は実施例1と同様の操作を行って、メタクリル系樹脂を得た。得られたメタクリル系樹脂を評価した結果を表1に示す。
[実施例3]
工程(1)の単量体組成物(A)の組成を、精製されたMMA99.6質量%とアクリル酸メチル0.4質量%に、重合温度を145℃に変更した。工程(2)の単量体組成物(B)の組成を、精製したMMA100質量%に変更した。また、工程(2)で、得られる第二のシラップ(b)100質量%中の単量体組成物(B)の含有割合が7.1質量%となるように、単量体組成物(B)を第一のシラップ(a)に添加するように変更した。上記以外は実施例1と同様の操作を行って、メタクリル系樹脂を得た。得られたメタクリル系樹脂を評価した結果を表1に示す。
[比較例3]
工程(1)の単量体組成物(A)の組成を、精製されたMMA95.6質量%とアクリル酸メチル4.4質量%に変更した。工程(2)の単量体組成物(B)の組成を、精製したMMA100質量%に変更した。また、工程(2)で、得られる第二のシラップ(b)100質量%中の単量体組成物(B)の含有割合が2.4質量%となるように、単量体組成物(B)を第一のシラップ(a)に添加するように変更した。上記以外は実施例1と同様の操作を行って、メタクリル系樹脂を得た。得られたメタクリル系樹脂を評価した結果を表1に示す。
【0091】
実施例1~3のメタクリル系樹脂は、透明性、耐熱性及び耐熱分解性が良好であった。また、いずれもスパイラル成形品に発泡は観察されなかった。
比較例1のメタクリル系樹脂は、変化量Bが大きく、耐熱分解性が不十分であった。また、スパイラル成形品に発泡が観察された。
比較例2のメタクリル系樹脂は、変化量が大きく、耐熱分解性が不十分であった。また、スパイラル成形品に発泡が観察された。
比較例3のメタクリル系樹脂は、変化量Bが高く耐熱分解性が不十分であった。また、ガラス転移温度が低く耐熱性が不十分であった。また、スパイラル成形品に発泡が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のメタクリル系樹脂は、透明性、耐熱性及び耐熱分解性に優れているので、光学材料、車両用部品、照明用材料、建築用材料の用途に用いることができる。特に、本発明のメタクリル系樹脂から得られた成形品は透明性、耐熱性及び耐熱分解性に優れているので、車両ランプカバー等の車両の内外装材料等の車両用部材の用途で好適に用いることができる。
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法は、本発明のメタクリル系樹脂を高い生産性で提供することができる。
【0093】
【表1】
【符号の説明】
【0094】
10 重合体製造装置
20 重合反応器
30 揮発性成分除去装置
40 槽型反応器
41 原料単量体供給ノズル
42 シラップ排出口
43 撹拌翼
44 シャフト
45 モーター
46 ジャケット
47 ギアポンプ
50 管型反応器
51 混合物供給口
52 シラップ排出口
53 ジャケット
54 ミキサー
55 開始剤混合器
56 アクリレート混合器
60 脱揮押出機
61 混合物供給口
62 メタクリル系樹脂排出口
63 ベント
70 単量体組成物(B)供給槽
71 圧抜き機構
72 ゲート口
図1
図2
図3
図4
図5
図6