(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれよりなるフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20230808BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20230808BHJP
C08F 10/02 20060101ALI20230808BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230808BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08L23/04
C08F10/02
C08J5/18 CES
C08J5/18 CEX
B32B27/28 102
(21)【出願番号】P 2019080780
(22)【出願日】2019-04-22
【審査請求日】2022-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】濱 晋平
(72)【発明者】
【氏名】茂呂 義幸
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043922(JP,A)
【文献】特開2011-202147(JP,A)
【文献】特開2018-165360(JP,A)
【文献】特開2015-074744(JP,A)
【文献】特開2015-042557(JP,A)
【文献】国際公開第03/072653(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012538(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 10/00-10/14
C08J 5/18
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(以下、「(A)」とも略記する)45~9
5重量部、および下記特性(a)~(d)を満足するエチレン系重合体(B)(以下、「
(B)」とも略記する)5~55重量部((A)及び(B)の合計は100重量部)を含
む
フィルム用樹脂組成物。
(a)JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した密度が930~960
kg/m
3である。
(b)JIS K 6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したメル
トマスフローレート(以下、MFRという)が0.1~15g/10分である。
(c)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCという)による分子
量測定において2つのピークを示し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の
比(Mw/Mn)が3.0~7.0の範囲である。
(d)分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐
を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有する。
【請求項2】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が50~90重量部、前記エチレン系重
合体(B)が10~50重量部である請求項
1に記載の
フィルム用樹脂組成物。
【請求項3】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が60~85重量部、前記エチレン系重
合体(B)が15~40重量部である請求項1に記載の
フィルム用樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン系重合体(B)のMw/Mnが3.0~6.0の範囲であり、Mnが15,
000以上である前記請求項1乃至3のいずれかに記載の
フィルム用樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン系重合体(B)の分子量分別した際のMnが10万以上である成分の割合が
エチレン系重合体(B)全体の40%未満である前記請求項1乃至4のいずれかに記載の
フィルム用樹脂組成物。
【請求項6】
前記請求項1~5のいずれかに記載の
フィルム用樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項7】
前記請求項6に記載のフィルムをガスバリア層に用いたフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびそれよりなるフィルムに関する。さらに詳しくは、輸液や食品包装に用いられる医療用フィルムないし部材および食品用フィルムないし部材に好適な樹脂組成物及びそれよりなるフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬液、血液等を包装する医療用フィルムないし部材および食品を包装する食品用フィルムには、異物の有無を目視確認するための透明性、また内溶液ないし内容物を適切に包装し保管するための機械物性、さらに内容液ないし内容物中の有効成分の劣化防止のためのガスバリア性などが要求される。
【0003】
従来、良好な機械物性および高度のガスバリア性の性能を満たすために、エチレン-ビニルアルコール共重合体またはポリアミドからなるガスバリア層と、良好な機械物性を有するポリオレフィン系樹脂からなる樹脂層とを有する積層体が医療用フィルムないし食品用フィルムとして使用されている。しかしながら、積層体であるフィルムの積層数が多くなると当該積層数に対応可能な成形機の導入や選定等の制限および煩雑さが生じる点ないし成形機の導入のためのコストの点で課題がある。そこで、エチレン-ビニルアルコール共重合体のガスバリア性をポリオレフィン系樹脂の成形性、延伸性等の特性を活かすべく、エチレン-ビニルアルコール共重合体とポリオレフィン樹脂との樹脂組成物の検討がなされてきた(例えば、特許文献1参照。)。また、近年ではガスバリア性と機械物性とのバランスに優れる成形品を与えるために、三次元網目構造を形成するエチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリオレフィン系樹脂および変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物についても検討されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、エチレン-ビニルアルコール共重合体に対してポリオレフィン系樹脂をブレンドすると、良好な機械物性および高度なガスバリア性を有する成形品を得られるものの、異物の有無を目視確認するための透明性が低下するという問題が生じていた。そのため、エチレン-ビニルアルコール共重合体とポリオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物の透明性に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-255554号公報
【文献】国際公開第2018/012538号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高度なガスバリア性を有しつつ、透明性に優れた成形品を与える樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、多層フィルムのガスバリア層に求められる酸素ガスバリア性を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体及びエチレン系重合体からなる樹脂組成物、当該樹脂組成物からなるフィルム、および、当該樹脂組成物を多層フィルムのガスバリア層に用いたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討を行なった結果、エチレン-ビニルアルコール共重合体に特定の物性を有するポリエチレン系樹脂を特定量配合した樹脂組成物を用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]及至[7]に存する。
[1]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(以下、「(A)」とも略記する)45~95重量部、および下記特性(a)~(d)を満足するエチレン系重合体(B)(以下、「(B)」とも略記する)5~55重量部((A)及び(B)の合計は100重量部)を含む樹脂組成物。
(a)JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した密度が930~960kg/m3である。
(b)JIS K 6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したメルトマスフローレート(以下、MFRという)が0.1~15g/10分である。
(c)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCという)による分子量測定において2つのピークを示し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.0~7.0の範囲である。
(d)分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有する。
[2]前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が50~90重量部、前記エチレン系重合体(B)が10~50重量部である前記[1]記載の樹脂組成物。
[3]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が60~85重量部、前記エチレン系重合体(B)が15~40重量部である上記[1]に記載の樹脂組成物。
[4]前記エチレン系重合体(B)のMw/Mnが3.0~6.0の範囲であり、Mnが15,000以上である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記エチレン系重合体(B)の分子量分別した際のMnが10万以上である成分の割合がエチレン系重合体(B)全体の40%未満である前記[1]乃至[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物からなるフィルム。
[7]前記[6]に記載のフィルムをガスバリア層に用いたフィルム。
【0010】
以下に、本発明に関わるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、エチレン系重合体(B)、樹脂組成物、それよりなるフィルムについて説明する。
[1]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は、エチレン単位とビニルアルコール単位とを有する共重合体である。エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は、例えば、エチレンと酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等のビニルエステルとの共重合体を、アルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレンとビニルエステル以外の他の単量体由来の構造単位を有していてもよい。前記他の単量体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0011】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、下記式(I)で表される構造単位(I)又は下記式(II)で表される構造単位(II)を有してもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)がこのような構造単位を有することで、得られる成形体及び多層構造体の耐屈曲性等をより高めることができる。
【0012】
【0013】
【0014】
前記式(I)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R1、R2及びR3のうちの任意の2つが結合していてもよい。また、前記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基が有する水素原子、炭素数3~10の脂環式炭化水素基が有する水素原子及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、カルボキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0015】
前記式(II)中、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。R4とR5、又はR6とR7は、結合していてもよい。また、前記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基が有する水素原子、炭素数3~10の脂環式炭化水素基が有する水素原子及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0016】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が前記構造単位(I)又は(II)を有する場合、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の全構造単位に対する前記構造単位(I)又は(II)の含有量の下限は0.5モル%が好ましく、1.0モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方、前記構造単位(I)又は(II)の含有量の上限は30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が前記(I)又は(II)に示す構造単位を前記範囲の割合で有することによって、樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上する結果、得られる成形体及び多層構造体の延伸性及び熱成形性等を向上させることができる。
【0017】
前記構造単位(I)又は(II)において、前記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3~10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6~10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
【0018】
前記構造単位(I)において、得られる成形体及び多層構造体の延伸性及び熱成形性をさらに向上させる観点から、前記R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基及びヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立して水素原子、メチル基、水酸基及びヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。
【0019】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)中に前記構造単位(I)を含有させる方法については、例えば、前記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導されるモノマーを共重合させる方法等が挙げられる。この構造単位(I)に誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-ヒドロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-ヒドロキシ-1-ペンテン、5-ヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-ヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5-ヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、4-ヒドロキシ-1-ヘキセン、5-ヒドロキシ-1-ヘキセン、6-ヒドロキシ-1-ヘキセン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等の水酸基又はエステル基を有するアルケンが挙げられる。中でも、共重合反応性、及び得られる成形体及び多層構造体のガスバリア性の観点からは、プロピレン、3-アセトキシ-1-プロペン、3-アセトキシ-1-ブテン、4-アセトキシ-1-ブテン及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましい。エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、前記構造単位(I)に誘導される。
【0020】
前記構造単位(II)において、R4及びR5は共に水素原子であることが好ましい。特
に、R4及びR5が共に水素原子であり、前記R6及びR7のうちの一方が炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。この脂肪族炭化水素基は、アルキル基及びアルケニル基が好ましい。得られる成形体及び多層構造体のガスバリア性を特に重視する観点からは、R6及びR7のうちの一方がメチル基又はエチル基、他方が水素原子であることが特に好ましい。また、前記R6及びR7のうちの一方が(CH2)hOHで表される置換基(但し、hは1~8の整数)、他方が水素原子であることも特に好ましい。この(CH2)hOHで表される置換基において、hは、1~4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0021】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)中に前記構造単位(II)を含有させる方法については、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法等が用いられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(III)~(IX)で示される化合物が好適に用いられる。
【0022】
【0023】
前記式(III)~(IX)中、R8、R9、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基等)、炭素数3~10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基等)又は炭素数6~10の脂肪族炭化水素基(フェニル基等)を表す。また、i、j、k、p及びqは、それぞれ独立して、1~8の整数を表す。
【0024】
前記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、3-メチル-1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、3-メチル-1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、2,3-エポキシヘキサン、3,4-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘプタン、4-メチル-1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、2,3-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、2,3-エポキシノナン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1-フェニル-1,2-プロパン、3-フェニル-1,2-エポキシプロパン等が挙げられる。
【0025】
前記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキルグリシジルエーテル等が挙げられる。前記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテルが挙げられる。前記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルケニルグリシジルエーテルが挙げられる。前記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、グリシドール等の各種エポキシアルカノールが挙げられる。前記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルカンが挙げられる。前記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルケンが挙げられる。
【0026】
前記一価エポキシ化合物の中でも炭素数が2~8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ及び反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数としては、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。また、一価エポキシ化合物は前記式のうち式(III)で表される化合物及び(IV)で表される化合物が特に好ましい。具体的には、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)との反応性及び得られる成形体及び多層構造体のガスバリア性等の観点からは、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。
【0027】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量の下限は20モル%が好ましく、25モル%がより好ましく、27モル%がさらに好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量の上限は60モル%が好ましく、55モル%がより好ましく、50モル%がさらに好ましい。エチレン含有量が前記下限未満では、樹脂組成物の溶融成形性が低下する傾向となる。逆に、エチレン含有量が前記上限を超えると、樹脂組成物のガスバリア性が低下する傾向となる。
【0028】
また、樹脂組成物のガスバリア性を維持する観点からエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度の下限は90モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。なお、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
[2]エチレン系重合体(B)
本発明に用いるエチレン系重合体(B)は、例えばエチレン単独重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体等のポリマーである。
【0029】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、JIS K6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したMFRが0.1~15g/10分、好ましくは0.5~10.0g/10分、より好ましくは1.0~5.0g/10分である。MFRが0.1g/10分未満だと、成形加工時の押出負荷が大きくなると共に、成形時に表面荒れが発生するため好ましくない。また、MFRが15g/10分を超える場合、溶融張力が小さくなり、成形時の加工安定性が低下するため好ましくない。
【0030】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、JIS K6922-1に準拠した密度が930~960kg/m3の範囲であり、好ましくは935~955kg/m3、特に好ましくは940~950kg/m3の範囲である。密度が930kg/m3未満だと耐熱性が不足し、960kg/m3を超える場合は透明性が低下するため好ましくない。
【0031】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、GPCによる分子量測定において2つのピークを示す。ピークトップ分子量(Mp)はGPC測定によって得られた分子量分布曲線を後述の方法で2個のピークに分割し、高分子量側のピークと低分子量側のピークのトップ分子量を評価し、その差が100,000以上である場合を2つのMpを有するとした。100,000未満である場合は、実測された分子量分布曲線のトップ分子量を1つのMpとした。
【0032】
分子量分布曲線の分割方法は以下のとおりに行った。GPC測定によって得られた、分子量の対数であるLogMに対して重量割合がプロットされた分子量分布曲線のLogMに対して、標準偏差が0.30であり、任意の平均値(ピークトップ位置の分子量)を有する2つの対数分布曲線を任意の割合で足し合わせることによって、合成曲線を作成する。さらに、実測された分子量分布曲線と合成曲線との同一分子量(M)値に対する重量割合の偏差平方和が最小値になるように、平均値と割合を求める。偏差平方和の最小値は、各ピークの割合がすべて0の場合の偏差平方和に対して0.5%以下にした。偏差平方和の最小値を与える平均値と割合が得られた時に、2つの対数正規分布曲線に分割して得られるそれぞれの対数分布曲線のピークトップの分子量をMpとした。
【0033】
GPCによる分子量測定においてピークが1つのエチレン系重合体は、本発明のポリエチレン樹脂組成物を得るための一成分に使用しても、2つのピークを有するエチレン系重合体(B)を配合した場合のように透明性が高いフィルムが得られない。
【0034】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.0~7.0、好ましくは3.0~6.5、さらに好ましくは3.0~6.0である。Mw/Mnが3.0未満の場合は、成形加工時の押出負荷が大きいばかりでなく、得られたフィルムの外観(表面肌)が悪化するため好ましくない。
Mw/Mnが7.0を超えると得られた容器または部材の強度が低下するばかりか、フィルムとして使用した際に、充填した液中の微粒子が増加する恐れがある。
【0035】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)が15,000以上であることが好ましく、さらに好ましくは15,000~100,000、特に15,000~50,000が好ましい。Mnが15,000以上である場合、得られたフィルムの強度が高くなる。
【0036】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの炭素数6以上の長鎖分岐数が主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有する。0.15個未満であるとフィルムを製造する際に、溶融張力が小さくなり、成形安定性が低下するため、好ましくない。
【0037】
また、本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの割合が、エチレン系重合体(B)全体の40%未満であることが好ましい。分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの割合が、エチレン系重合体(B)全体の40%未満である場合、成形加工時の押出負荷が小さく、得られたフィルムの外観(表面肌)が良好である。
【0038】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、例えば、特開2012-126862号公報、特開2012-126863号公報、特開2012-158654号公報、特開2012-158656号公報、特開2013-28703号公報等に記載の方法により得ることができる。
[3]樹脂組成物
本発明に用いる樹脂組成物のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、エチレン系重合体(B)の配合割合は、(A)、(B)の合計100重量部中、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が45~95重量部、好ましくは50~90重量部、より好ましくは60~85重量部、エチレン系重合体(B)が5~55重量部、好ましくは10~50重量部、より好ましくは15~40重量部である。
【0039】
エチレン系重合体(B)が55重量部を超える場合は酸素バリア性が不足するため好ましくない。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、前述のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、エチレン系重合体(B)を、従来公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、V-ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合する方法、あるいはこのような方法で得られた混合物をさらに一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練した後、造粒することによって得ることができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、通常用いられる公知の添加剤、例えば酸化防止剤、中和剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、有機系あるいは無機系の顔料、紫外線吸収剤、分散剤等を適宜必要に応じて配合することができる。本発明に関わる樹脂組成物に上記の添加剤を配合する方法は特に制限されるものではないが、例えば、重合後のペレット造粒工程で直接添加する方法、また、予め高濃度のマスターバッチを作製し、これを成形時にドライブレンドする方法等が挙げられる。
【0042】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度の範囲内で、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、ポリ-1-ブテン等の他の熱可塑性樹脂を配合して用いることもできる。
[5]フィルム及び該フィルムをガスバリア層に用いたフィルム
本発明のフィルムは、上記樹脂組成物からなるものである。
【0043】
本発明のフィルムの厚みは特に限定されず、必要に応じて適宜決定することができるが、通常は3~5000μm、好ましくは5~2000μmであり、医療用ないし食品用フィルムとして用いる場合、その厚みは通常5~500μm、好ましくは10~300μmである。
【0044】
本発明のフィルムの製造方法は特に限定されないが、押出成形法、ブロー成形法、射出成型法、カレンダー成形法、プレス成形法、インフレーション成形法等が挙げられる。
本発明のフィルムの用途としては、医療関係全般に用いることができ、例えば輸液用フィルム、血液用フィルムが挙げられる。また、本発明の樹脂組成物製フィルムは、食品関係全般にも用いることができ、例えばレトルト容器用フィルム、シュリンクフィルムなどの食品用フィルムが挙げられる。
【0045】
本発明のフィルムは、ガスバリア層に用いることができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明の樹脂組成物は酸素ガスバリア性が高く、フィルムにした場合、高い透明性を維持させることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
A.樹脂
実施例、比較例に用いた樹脂の諸性質は下記の方法により評価した。
<分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)およびピークトップ分子量(Mp)は、GPCによって測定した。GPC装置(東ソー(株)製(商品名)HLC-8121GPC/HT)およびカラム(東ソー(株)製(商品名)TSKgel GMHhr-H(20)HT)を用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mlの濃度で調製し、0.3ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正した。なお、MwおよびMnは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0048】
<分子量分別>
分子量分別は、カラムとしてガラスビーズ充填カラム(直径:21mm、長さ:60cm)を用い、カラム温度を130℃に設定して、サンプル1gをキシレン30mLに溶解させたものを注入する。次に、キシレン/2-エトキシエタノールの比率が5/5のものを展開溶媒として用い、留出物を除去する。その後、キシレンを展開溶媒として用い、カラム中に残った成分を留出させ、ポリマー溶液を得る。得られたポリマー溶液に5倍量のメタノールを添加しポリマー分を沈殿させ、ろ過および乾燥することにより、Mnが10万以上である成分を回収した。
【0049】
<長鎖分岐>
長鎖分岐数は、日本電子(株)製JNM-GSX400型核磁気共鳴装置を用いて、13C-NMRによってヘキシル基以上の分岐数を測定した。溶媒はベンゼン-d6/オルトジクロロベンゼン(体積比30/70)である。主鎖メチレン炭素(化学シフト:30ppm)1,000個当たりの個数として、α-炭素(34.6ppm)およびβ-炭素(27.3ppm)のピークの平均値から求めた。
【0050】
<密度>
密度は、JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0051】
<MFR>
MFRは、JIS K6922-1に準拠して測定を行った。
【0052】
<溶融張力>
溶融張力の測定用試料は、サンプルに耐熱安定剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガノックス1010TM;1,500ppm、イルガフォス168TM;1,500ppm)を添加したものを、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで30分間混練したものを用いた。
【0053】
溶融張力の測定は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名キャピログラフ)に、長さが8mm,直径が2.095mmのダイスを流入角が90°になるように装着し測定した。温度を160℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比での引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。
【0054】
実施例、比較例では、下記の方法により製造した樹脂および市販品を用いた。
(1)エチレン-ビニルアルコール共重合体
下記市販品を用いた。
【0055】
(A)-1:(株)クラレ製 エバール(登録商標) F171B(製品名)([MFR(ISO1133 (190℃、2,160g))]=1.6g/10min、密度(ISO1183-3)=1.19×103kg/m3、エチレン含量=44mol%)
(A)-2:(株)クラレ製 エバール(登録商標) E171B(製品名)([MFR(ASTM ISO1133 (190℃、2,160g))]=1.7g/10min)、密度(ISO1183-3)=1.14×103kg/m3、エチレン含量=32mol%)
(2)エチレン系重合体
下記の製造方法で得られたもの又は市販品を用いた。
【0056】
(B)-1:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF-3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸18.8g及びジメチルヘキサコシルアミン(Me2N(C26H53)、常法によって合成)49.1g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより140gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を14μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2、4,7-トリメチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.0重量%)
[(B)-1の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を75mg(固形分9.0mg相当)加え、80℃に昇温後、1-ブテンを8.3g加え、分圧が0.85MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:850ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで58.5gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは4.0g/10分、密度は941kg/m3であった。また、数平均分子量は21,200、重量平均分子量は74,000であり、分子量41,500および217,100の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.18個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの14.8重量%であった。また、溶融張力は49mNであった。評価結果を表1に示す。
【0057】
(B)-2:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF-3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸17.5g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)49.4g(140mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより132gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7-トリメチルインデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.4重量%)。
[(B)-2の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を52mg(固形分6.4mg相当)加え、70℃に昇温後、1-ブテンを17.6g加え、分圧が0.80MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:590ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで61.8gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは1.6g/10分、密度は930kg/m3であった。また、数平均分子量は17,600、重量平均分子量は86,700であり、分子量30,500および155,300の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.27個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの20.1重量%であった。また、溶融張力は75mNであった。評価結果を表1に示す。
【0058】
(B)-3:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF-3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸15.0g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)42.4g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより122gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7-トリメチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:11.5重量%)。
[(B)-3の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を70mg(固形分8.4mg相当)加え、80℃に昇温後、1-ブテンを2.4g加え、分圧が0.90MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:720ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで63.0gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは11.5g/10分、密度は954kg/m3であった。また、数平均分子量は16,200、重量平均分子量は58,400であり、分子量28,200および181,000の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.16個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの6.8重量%であった。また、溶融張力は38mNであった。評価結果を表1に示す。
【0059】
(B)-4:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF-3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸20.0g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)56.5g(160mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより145gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に(1)で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7-トリメチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:11.2重量%)。
[(B)-4の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を74mg(固形分8.3mg相当)加え、65℃に昇温後、1-ブテンを17.5g加え、分圧が0.75MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:570ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで51.5gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは0.8g/10分、密度は928kg/m3であった。また、数平均分子量は17,900、重量平均分子量は99,300であり、分子量28,100および229,100の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.26個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの25.4重量%であった。また、溶融張力は90mNであった。評価結果を表1に示す。
【0060】
(B)-5:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF-3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸15.0g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)42.4g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより122gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7-トリメチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:11.5重量%)。
[(B)-5の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を90mg(固形分10.4mg相当)加え、65℃に昇温後、1-ブテンを17.5g加え、分圧が0.75MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:550ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで61.4gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは0.08g/10分、密度は926kg/m3であった。また、数平均分子量は21,900、重量平均分子量は127,000であり、分子量31,300および247,800の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.32個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの36.9重量%であった。また、溶融張力は140mNであった。評価結果を表1に示す。
【0061】
(B)-6:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF-3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸15.0g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)42.4g(120mmol)を添加し、45vに加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより122gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gをヘキサン165mLに懸濁させ、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド0.3485gおよびトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(1.18M)85mLを添加して60℃で3時間撹拌した。静置して室温まで冷却後に上澄み液を抜き取り、1%トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液200mLにて2回洗浄した。洗浄後の上澄み液を抜き出し、5%トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液にて全体を250mLとした。次いで、別途ジフェニルメチレン(1-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-tert-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド0.1165gのヘキサン10mL懸濁液に20%トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.71M)5mlを加えることにより調製した溶液を添加して、室温で6時間撹拌した。静置して上澄み液を除去、ヘキサン200mLにて2回洗浄後、ヘキサンを200mL加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.0重量%)。
[(B)-6の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を125mg(固形分15.0mg相当)加え、85℃に昇温後、1-ブテンを2.4g加え、分圧が0.90MPaになるようにエチレンを連続的に供給した。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで45.0gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは4.4g/10分であり、密度は951kg/m3であった。数平均分子量は9,100、重量平均分子量は77,100であり、分子量10,400および168,400の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.24個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの15.7重量%であった。また、溶融張力210mNであった。評価結果を表1に示す。
(S)-1:下記市販品を用いた。
【0062】
東ソー(株)製、(商品名)ペトロセン 219(MFR=3.0g/10分、密度=934kg/m3)(S)-1の基本特性評価結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
(3)高密度ポリエチレン
下記の製造方法で得られたもの又は市販品を用いた。
【0065】
(C)-1:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
脱イオン水4.8L、エタノール3.2Lの混合溶媒に、ジメチルベヘニルアミン;(C22H45)(CH3)2N 354gと37%塩酸83.3mLを加え、ジメチルベヘニルアミン塩酸塩溶液を調製した。この溶液に合成ヘクトライト1,000gを加え終夜撹拌し、得られた反応液をろ過した後、固体分を水で十分洗浄した。固体分を乾燥させたところ、1,180gの有機変性粘土を得た。赤外線水分計で測定した含液量は0.8%であった。次に、この有機変性粘土を粉砕し、平均粒径を6.0μmに調製した。
[重合触媒の調製]
5Lのフラスコに、[変性粘土の調製]の項で得た有機変性粘土450g、ヘキサン1.4kgを加え、その後トリイソブチルアルミニウムのヘキサン20重量%溶液1.78kg(1.8モル)、ビス(n-ブチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド7.32g(18ミリモル)を加え、60℃に加熱して1時間撹拌した。反応溶液を45℃に冷却し、2時間静置した後に傾斜法で上澄液を除去した。次に、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン1重量%溶液1.78kg(0.09モル)を添加し、45℃で30分間反応させた。反応溶液を45℃で2時間静置した後に傾斜法で上澄液を除去し、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン20重量%溶液0.45kg(0.45モル)を加え、ヘキサンで再希釈して全量を4.5Lとし重合触媒を調製した。
[(C)-1の製造]
内容量300Lの重合器に、ヘキサンを135kg/時、エチレンを20.0kg/時、ブテン-1を0.3kg/時、水素5NL/時および[重合触媒の調製]の項で得られた重合触媒を連続的に供給した。また、助触媒として液中のトリイソブチルアルミニウムの濃度を0.93ミリモル/kgヘキサンとなるように、それぞれ連続的に供給した。重合温度は85℃に制御した。得られた高密度ポリエチレン((C)-1)はMFR=1.0g/10分、密度952kg/m3であった。(C)-1の基本特性評価結果を表2に示す。
【0066】
(C)-2:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
(C)-1と同様の方法により変性粘土を調製した。
[重合触媒の調製]
(C)-1と同様の方法により重合触媒を調製した。
[(C)-2の製造]
内容量300Lの重合器に、ヘキサンを135kg/時、エチレンを20.0kg/時、ブテン-1を0.4kg/時、水素8NL/時および[重合触媒の調製]の項で得られた重合触媒を連続的に供給した。また、助触媒として液中のトリイソブチルアルミニウムの濃度を0.93ミリモル/kgヘキサンとなるように、それぞれ連続的に供給した。重合温度は85℃に制御した。得られた高密度ポリエチレン((C)-2)はMFR=3.0g/10分、密度945kg/m3であった。(C)-2の基本特性評価結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
(4)直鎖状低密度ポリエチレン
下記市販品を用いた。
【0069】
(Q)-1:東ソー(株)製 (商品名)ニポロン-Z HF213K(MFR=2.0g/10分、密度=905kg/m3)
実施例1乃至12、比較例1乃至13
表3,4に示す樹脂組成物を用いて、下記の方法でフィルムを製造し、評価した。
<シートの製造>
樹脂組成物に係るペレットを圧縮成形機 AWFA.50(神藤金属工業社製)にて、加熱温度200℃、加熱圧力100kgf/cm2、加熱時間10分にて加熱圧縮後、冷却温度30℃、冷却圧力100kgf/cm2、冷却時間4分で固化させて200μmの評価用シートを製造した。
<シートの評価>
実施例1乃至9、比較例1乃至9に用いたシートの諸性質は下記の方法により評価した。結果を表5に示す。
<酸素透過度>
上記試料シートを用いて、酸素透過度の評価を行った。試料シートの一部を切り取り、MOCON INC.製酸素透過率測定装置OX-TRAN 2/22 L型(検出限界値0.01cc/(m2・day・atm))を用いて65%RH、温度20℃の条件下で、JIS K 7126-2:2006(等圧法)に記載の方法に準じて測定した。ここで、「0.01ml・μm/(m2・day・atm)」とは、シート厚さ1μmに換算したときに、シート1m2のもとで、1日当たり0.01mlの酸素が透過することを表す。当該酸素透過度が、2000ml・μm/(m2・day・atm)以下の試料を酸素バリア性が良好と評価した。
【0070】
<透明性>
上記シートから、幅10mm×長さ50mmの試験片を切出し、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製 型式V-730)を用いて、純水中で波長450nmにおける光線透過率を測定した。当該光線透過率が70%以上の試料を透明性が高いと判断した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
実施例10乃至12、比較例10乃至12
表3,4に示す樹脂組成物を用いて、下記の方法でフィルムおよび医療容器を製造し、評価した。結果を表9及び10に示す。
<フィルムの作製>
三種五層共押出キャスト成形機((株)プラスチック工学研究所製)を用いて、中間層のシリンダー温度220℃、中外層および中内層のシリンダー温度220℃、外層および内層のシリンダー温度200℃、冷却ロール温度30℃、引取速度3m/分でフィルム幅205mm、フィルム厚み50μmの五層フィルムを製造した。なお、各層の厚みは外層/中外層/中間層/中内層/内層=10μm/10μm/10μm/10μm/10μmとした。このとき、中間層に本願発明に係る樹脂組成物、外層および内層に高密度ポリエチレンである東ソー(株)製 (商品名)ニポロン-P FY15(MFR=3.0g/10分、密度=952kg/m3)、中外層および中内層に無水マレイン酸グラフト化ポリエチレンであるアルケマ(株)製 (商品名)OREVAC OE825 ([MFR(ISO1133 (190℃、2,160g))]=3g/10min、密度(ISO1183)=1.19×103kg/m3)と直鎖状低密度ポリエチレンである東ソー(株)製 (商品名)ニポロン-Z HM300K(MFR=4.0g/10分、密度=900kg/m3)のブレンド物(ブレンド比率は、OE825/HM300K=20/80重量%とした)を使用した。
<フィルム特性の評価>
フィルム特性は下記の方法により評価した。
<酸素透過度>
上記五層フィルムを用いて、酸素透過度の評価を行った。それ以外の手順等については、前記と同様の手順等に基づき、評価を行った。
<透明性>
上記五層フィルムから、幅10mm×長さ50mmの試験片を切出し、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製 型式V-730)を用いて、純水中で波長450nmにおける光線透過率を測定した。92%を超える光線透過率が維持される場合を透明性が良好な容器の目安とした。
【0078】
【0079】