(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/86 20190101AFI20230808BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20230808BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20230808BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20230808BHJP
B29C 48/31 20190101ALI20230808BHJP
【FI】
B29C48/86
B29C48/08
B29C48/92
B29C48/88
B29C48/31
(21)【出願番号】P 2019177177
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻野 斗馬
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-275812(JP,A)
【文献】特表2020-520828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/86
B29C 48/08
B29C 48/92
B29C 48/88
B29C 48/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂をダイスのリップからフィルム状に押し出して樹脂フィルムを得る工程1を含み、
前記ダイスの出口温度T1が、(Tg+170)℃以上(Tg+200)℃以下であり、
前記樹脂フィルムの厚みdが30μm以下であり、
前記樹脂フィルムの厚みdに対する、前記ダイスのリップクリアランスCの比C/dが、下記式(1)を満た
し、
前記樹脂は結晶性を有する脂環式構造含有重合体を含む熱可塑性樹脂である、
樹脂フィルムの製造方法(ただし、Tgは前記樹脂のガラス転移温度(℃)である)。
7≦C/d≦12 (1)
【請求項2】
前記樹脂フィルムの面内方向の複屈折(Re/d)及び、前記樹脂フィルムの厚み方向の複屈折(Rth/d)が、それぞれ下記式(2)および(3)を満たす、請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
Re/d≦0.00010 (2)
0.00000≦Rth/d≦0.00030 (3)
【請求項3】
前記工程1が樹脂フィルムを引取装置で引き取る工程を含み、
前記樹脂フィルムの引取速度が21m/分以上である、請求項1または2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂における前記結晶性を有する脂環式構造含有重合体の割合が、70重量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムの製造方法の一つとして、溶融押出し法が知られている(例えば特許文献1を参照)。溶融押出し法では、一般に、溶融状態の樹脂をダイスからフィルム状に押し出して、押し出されたフィルム状の樹脂をキャストロール等で引き取ることにより樹脂フィルムを得る。
【0003】
特許文献1においては、非晶性の樹脂を用いて、溶融押出し法により樹脂フィルムを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非晶性の樹脂を用いて樹脂フィルムを製造する場合、樹脂をダイスから押し出すときの温度は、樹脂のガラス転移温度よりも100~150℃高い温度に設定しうる(特許文献1の段落[0049]を参照)。
【0006】
結晶性の樹脂は、一般的にガラス転移温度と融点との差が大きい。このような結晶性の樹脂を用いて樹脂フィルムを製造する場合、樹脂をダイスから押し出すときの温度を、非晶性の樹脂を用いた場合よりも高温(例えば樹脂のガラス転移温度よりも170℃以上高い温度)に設定することが好ましい。しかしながら、樹脂をダイスから押し出すときの温度が高いと、樹脂の劣化が進みやすくなり、樹脂の劣化が進むと、樹脂フィルムにおける異物が発生しやすくなる。
【0007】
また、樹脂をダイスから押し出すときの温度が高いと、押し出された樹脂を引き取る引取装置との温度差が大きくなるので、樹脂が急冷されやすくなり、これにより樹脂フィルムの複屈折が大きくなることがある。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みて創案されたものであって、異物発生を抑制し、かつ複屈折の小さい樹脂フィルムを製造できる、樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、樹脂をダイスのリップからフィルム状に押し出す工程を含む樹脂フィルムの製造方法において、ダイスの出口温度T1を所定範囲とし、樹脂フィルムの厚みdを30μm以下とし、樹脂フィルムの厚みdに対する、ダイスのリップクリアランスCの比C/dを所定範囲とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
〔1〕 樹脂をダイスのリップからフィルム状に押し出して樹脂フィルムを得る工程1を含み、
前記ダイスの出口温度T1が、(Tg+170)℃以上(Tg+200)℃以下であり、
前記樹脂フィルムの厚みdが30μm以下であり、
前記樹脂フィルムの厚みdに対する、前記ダイスのリップクリアランスCの比C/dが、下記式(1)を満たす、樹脂フィルムの製造方法(ただし、Tgは前記樹脂のガラス転移温度(℃)である)。
7≦C/d≦12 (1)
〔2〕 前記樹脂フィルムの面内方向の複屈折(Re/d)及び、前記樹脂フィルムの厚み方向の複屈折(Rth/d)が、それぞれ下記式(2)および(3)を満たす、〔1〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
Re/d≦0.00010 (2)
0.00000≦Rth/d≦0.00030 (3)
〔3〕 前記工程1が樹脂フィルムを引取装置で引き取る工程を含み、
前記樹脂フィルムの引取速度が21m/分以上である、〔1〕または〔2〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔4〕 前記樹脂は結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異物発生を抑制し、かつ、複屈折の小さい樹脂フィルムを製造できる、樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る実施形態1の樹脂フィルムの製造方法で用いる装置を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1の製造方法で用いる引取装置の周辺を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1の製造方法で用いるダイスのリップを模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、ダイスから押し出された樹脂フィルムの断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0014】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長尺のフィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0015】
以下の説明において、MD方向(machine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの流れ方向であり、TD方向(traverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、MD方向に垂直な方向である。また便宜上、長尺のフィルムの長手方向をフィルムのMD方向、幅方向をフィルムのTD方向と呼ぶ場合もある。
【0016】
以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。よって、フィルムの面内方向の複屈折Re/dは、(nx-ny)で表しうる。さらに、フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。よって、フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dは、[{(nx+ny)/2}-nz]で表しうる。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、フィルムの前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。別に断らない限り、前記のレターデーションの測定波長は590nmである。前記のレターデーションは、市販の位相差測定装置、例えばAxometric社製、「Axoscan」を用いて測定できる。
【0017】
[本発明の概要]
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、樹脂をダイスのリップからフィルム状に押し出して樹脂フィルムを得る工程1を含む。本発明において、ダイスの出口温度T1は、(Tg+170)℃以上(Tg+200)℃以下であり、樹脂フィルムの厚みdが30μm以下である。また樹脂フィルムの厚みdに対する、ダイスのリップクリアランスCの比C/dが、下記式(1)を満たす(ただし、Tgは前記樹脂のガラス転移温度(℃)である)。
7≦C/d≦12 (1)
【0018】
[実施形態1]
以下、本発明に係る実施形態1の樹脂フィルムの製造方法について
図1~
図4を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る実施形態1の樹脂フィルムの製造方法で用いる装置を模式的に示す側面図である。
図2は、実施形態1の製造方法で用いる引取装置の周辺を模式的に示す斜視図である。
図3は、実施形態1の製造方法で用いるダイスのリップを模式的に示す平面図である。
図4は、ダイスから押し出された樹脂フィルムの断面を模式的に示す断面図である。
【0019】
[本実施形態の樹脂フィルムの製造方法の概要]
本実施形態の製造方法においては、樹脂を、出口温度が所定温度に設定されたダイス110のリップ116から、ダイス110と対向する位置に設けられている引取装置(キャストロール120)の外周面121に、樹脂をフィルム状に押し出す。ダイス110から押し出されたフィルム状の樹脂を、A2方向に回転するキャストロール120で搬送すると、フィルム状の樹脂は、キャストロール120で搬送する間に冷却されて硬化し、樹脂フィルム10が得られる。樹脂フィルム10を、剥離ロール140によりキャストロール120から剥離した後、巻取装置160により巻き取るとフィルムロール30が得られる。
【0020】
[工程1]
本実施形態の樹脂フィルムの製造方法は、樹脂をダイス110のリップ116からフィルム状に押し出して樹脂フィルム10を得る工程1を含む。工程1は、ダイス110のリップ116からフィルム状に押し出して樹脂フィルム10を得る工程である。本実施形態において、工程1は、樹脂フィルム10を引取装置120で引き取る工程(工程1A)を含む。当該工程1Aは任意の工程である。
【0021】
工程1において、ダイスの出口温度T1は、(Tg+170)℃以上(Tg+200)℃以下であり(Tgは前記樹脂のガラス転移温度(℃)である)、樹脂フィルムの厚みdは30μm以下であり、樹脂フィルムの厚みdに対する、ダイスのリップクリアランスCの比C/dが、下記式(1)を満たす。
7≦C/d≦12 (1)
【0022】
ダイス110は、図示しない樹脂供給装置から、樹脂を、矢印A1で示すように供給されうるように設けられている。供給された樹脂は、
図1及び
図2に示すように、ダイス110のリップ116を通じてフィルム状に押し出される。
【0023】
ダイス110のリップ116は、
図1及び
図2に示すように、キャストロール120の外周面121と対向する位置に配置されている。本実施形態において、ダイス110のリップ116は、
図3に示すように、長方形状に開口した形状をなしている。リップ110の長手方向(図示左右方向)は、樹脂フィルムの幅方向に対応する。またリップクリアランスとは、リップ110の短手方向(
図3の上下方向)の長さに該当する。
図3に示すように、本実施形態において、リップ116のクリアランスC1は、その全域において同じに設定されている。このため、当該ダイス110から押し出された樹脂フィルム10の厚みdを、
図4に示すように、その幅方向(図示左右方向)において、同じ厚みにすることができる。
図4においては、樹脂フィルム10の幅方向の中央部分の厚みd1を示している。本実施形態ではリップのクリアランスCが全域において同じにしたリップを示したが、クリアランスの大きさは、一部において他の部分よりも小さいリップであってもよい。
【0024】
ダイス110の出口温度T1は、(Tg+170)℃以上(Tg+200)℃以下である。ダイスの出口温度T1は、好ましくは(Tg+175)℃以上、より好ましくは(Tg+180)℃以上であり、好ましくは(Tg+195)℃以下、より好ましくは(Tg+190)℃以下である。ダイスの出口温度T1を(Tg+170)℃以上とすることにより、樹脂として結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いた場合であっても、ダイスから押し出す際の流動性を十分なものとすることができ、出口温度を(Tg+200)℃以下とすることにより、樹脂の劣化を防止することができる。
【0025】
工程1において、樹脂フィルムの厚みdに対する、ダイスのリップクリアランスCの比(C/d)は、下記式(1)を満たす。C/dが式(1)を満たすことにより異物の発生を抑制し、且つ、樹脂フィルムの複屈折を小さくすることができる。
7≦C/d≦12 (1)
【0026】
式(1)を満たすことによる上記効果は、以下の知見に基づき見出されたものである。
本発明者は、厚みの小さい樹脂フィルムでは、樹脂フィルムの厚みdに対する、ダイスのリップクリアランスCの比(C/d)が大きい場合、フィルムのMD方向の配向が増加することに起因して、樹脂フィルムの複屈折が大きくなり、異物数が増加する傾向があるという知見を得た。このような知見に基づけば、C/dを小さくすることで、異物発生を抑制し、かつ複屈折の小さい樹脂フィルムが得られると考えられる。しかしながら、本発明者の検討により、C/dが小さすぎると、面内方向の複屈折が大きくなるとの知見が得られた。C/dが小さい場合にはフィルムのTD方向の配向が増加することに起因して、複屈折が大きくなると推測される。そこで、更なる検討を行ったところ、C/dが7以上12以下の場合には、C/dが7未満の場合よりも、面内方向の複屈折を小さくすることができるという新たな知見が得られた。式(1)を満たすことによる効果は、このような知見に基づくものである。
【0027】
本発明において、「異物」には、樹脂の劣化物以外に、フィッシュアイも含まれる、フィッシュアイとは、樹脂フィルム中で生じた異物によって、その樹脂フィルム表面に形成される突起のことをいう。
【0028】
異物の発生を抑制し、且つ、樹脂フィルムの複屈折を小さくする効果をより有効なものとするという観点から、樹脂フィルムの厚みdに対する、ダイスのリップクリアランスCの比(C/d)は、好ましくは、8以上、より好ましくは9以上であり、好ましくは11以下、より好ましくは10以下である。
【0029】
[工程1A]
工程1Aは、樹脂フィルム10を引取装置120で引き取る工程である。工程1Aは任意工程である。
【0030】
工程1Aにおいて、引取装置(キャストロール120)の外周面121は、ダイス110から押し出されたフィルム状の樹脂を受け取る。フィルム状の樹脂は、A2方向に回転するキャストロール120により搬送され、キャストロール120で搬送する間に冷却されて硬化し、樹脂フィルム10が得られる。
【0031】
キャストロール120は、図示しない駆動装置から与えられる駆動力によって、矢印A2で示す方向に回転しうるように設けられている。そのため、キャストロール120は、外周面121で受けた樹脂フィルム10を、当該キャストロール120の回転によって搬送しうる構成を有している。
【0032】
樹脂フィルムの引取速度は、キャストロール(引取装置)の回転速度を調整することにより調整し得る。樹脂フィルムの引取速度は、好ましくは、21m/分以上であり、好ましくは60m/分以下である。本発明ではC/dを所定範囲とするので樹脂フィルムの引取速度を大きくしても、複屈折率を小さくすることが可能である。
【0033】
本実施形態において、キャストロール120は、温度調整が可能に設けられている。そのため、キャストロール120は、外周面121で受けたフィルム状の樹脂を、所望の温度に冷却しうる構成を有している。本実施形態では、キャストロール120の温度は、フィルム状の樹脂がキャストロール120の外周面121で受けられてから剥離ロール140によって剥離されるまでの間に、樹脂フィルム10に含まれる樹脂のガラス転移温度未満に樹脂フィルム10を冷却できるように、設定しうる。
【0034】
また、本実施形態において、キャストロール120で受けとられたフィルム状の樹脂は、
図2に示すように、その端部11,12に配置された静電ピニング装置130(131及び132)により、キャストロール120の外周面121に密着させうるようになっている。フィルム状の樹脂を、キャストロール120に密着させる密着装置としては、エアノズル、タッチロール等を用いてもよい。
【0035】
本実施形態では、キャストロール120により冷却され硬化した樹脂フィルム10は、剥離ロール140により、キャストロール120から剥離される。これにより、樹脂フィルム10が得られる。キャストロール120から樹脂フィルム10を剥離する剥離ロール140は、キャストロール120と平行に、矢印A3で示す方向に回転しうるように設けられている。剥離ロール140による剥離により樹脂フィルム10が得られる。
【0036】
[巻取工程]
本実施形態の製造方法は、剥離ロールにより剥離された樹脂フィルム10を、巻取装置160により巻き取ってフィルムロール30を得る工程(巻取工程)を含む。巻取工程は任意の工程である。
【0037】
[他の工程]
本実施形態の製造方法は、上記以外の他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、剥離ロール140により剥離された後の樹脂フィルムの端部の領域を切り除く、トリミング工程、樹脂フィルムを延伸する延伸工程、樹脂フィルムの結晶化を行う工程等が挙げられる。これらの工程は、樹脂フィルム10を剥離ロール140により剥離する工程と、巻取工程との間に行ってもよいし、巻取工程の後に行ってもよい。
【0038】
[樹脂]
本実施形態の製造方法において用いる樹脂は、結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂であることが好ましい。以下、結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂を、「結晶性樹脂」ともいう。
ここで、「結晶性を有する重合体」とは、融点Mpを有する重合体をいう。「融点Mpを有する」とは、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができることをいう。以下の説明において、「結晶性を有する重合体」を、「結晶性重合体」ともいう。
【0039】
結晶性樹脂に含まれる、結晶性重合体としては、結晶性を有する脂環式構造含有重合体、及び、結晶性を有するポリスチレン系重合体(特開2011-118137号公報参照)が挙げられる。中でも、機械的強度、耐熱性、及び成形性に優れることから、結晶性を有する脂環式構造含有重合体が好ましい。
【0040】
脂環式構造含有重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体であって、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素添加物をいう。また、脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
脂環式構造含有重合体が有する脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0042】
脂環式構造含有重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。
また、脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0043】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、結晶性の脂環式構造含有重合体としては、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素添加物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素添加物等であって、結晶性を有するもの。
【0044】
具体的には、脂環式構造含有重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物であって結晶性を有するものがより好ましく、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0045】
前記のような結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、例えば、国際公開第2016/067893号に記載の方法により、製造しうる。
【0046】
結晶性重合体の融点Mpは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Mpを有する結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた樹脂フィルムを得ることができる。
【0047】
結晶性重合体のガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0048】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0049】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0050】
結晶性樹脂における結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、樹脂フィルムの耐熱性を効果的に高めることができる。
【0051】
結晶性樹脂に含まれる結晶性重合体は、樹脂フィルムを製造する前においては、結晶化していなくてもよい。しかし、樹脂フィルムを製造した後、または使用に供する態様のフィルムを製造した後においては、当該フィルムに含まれる結晶性重合体は、結晶化していることが好ましく、高い結晶化度を有することが好ましい。具体的な結晶化度の範囲は所望の性能に応じて適宜選択しうるが、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度を前記範囲の下限値以上にすることにより、樹脂フィルムに高い耐熱性や耐薬品性を付与することができる。樹脂フィルムに含まれる結晶性を有する重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0052】
結晶性樹脂は、結晶性を有する重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、酸化防止剤;光安定剤;ワックス;核剤;蛍光増白剤;紫外線吸収剤;無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、結晶性を有する重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0053】
[樹脂フィルムの物性値]
本発明において、樹脂フィルムの厚みdは、30μm以下である。樹脂フィルムの厚みdは、好ましくは28μm以下、より好ましくは25μm以下であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。樹脂フィルムの厚みdが30μm以下であることにより、樹脂フィルムを含む部材等の厚みを小さくすることができ、樹脂フィルムの厚みdが前記下限値以上であることにより、樹脂フィルムを適度な強度とすることができる。樹脂フィルムの厚みdは、例えば、接触式厚み計(ミツトヨ社製、製品名「デジマチック シックネスゲージ」)を用いて測定しうる。
【0054】
樹脂フィルムの面内方向の複屈折(Re/d)は、下記式(2)を満たすことが好ましい。Re/dは、好ましくは0.00010以下であり、より好ましくは0.00005以下である。Re/dが上記上限値以下であることにより、樹脂フィルムを加熱延伸した際の熱収縮率を小さくすることができる。
Re/d≦0.00010 (2)
【0055】
樹脂フィルムの厚み方向の複屈折(Rth/d)は、下記式(3)を満たすことが好ましい。Rth/dは、好ましくは0.00000以上であり、好ましくは0.00030以下、より好ましくは0.00025以下である。Rth/dが上記範囲内であることにより、樹脂フィルムを加熱延伸した際の熱収縮率を、小さくすることができる。
0.00000≦Rth/d≦0.00030 (3)
【0056】
樹脂フィルムの面内方向の複屈折(Re/d)は、樹脂フィルムの厚みdに対する、樹脂フィルムの面内方向のレターデーションReの比である。また樹脂フィルムの厚み方向の複屈折(Rth/d)は樹脂フィルムの厚みdに対する、樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRthの比である。したがって、樹脂フィルムの面内方向の複屈折(Re/d)及び樹脂フィルムの厚み方向の複屈折(Rth/d)は、樹脂フィルムの面内方向のレターデーションRe、樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRth、及び樹脂フィルムの厚みdの測定値から、算出することができる。
【0057】
[樹脂フィルムの用途]
本発明の製造方法で製造した樹脂フィルムは、レターデーションが発現しにくい用途のフィルムとして用いることが好ましい。より具体的な用途としては、例えば、液晶表示装置用の偏光板保護フィルム、有機EL表示装置用の保護フィルム、光学用複層フィルムの基材フィルム、タッチセンサーの基材フィルムなどとして、好適に用いられうる。
【0058】
樹脂フィルムが、結晶性樹脂からなるフィルムである場合、当該フィルムを構成する結晶性樹脂を結晶化することにより得られる結晶化フィルムは、耐熱性や耐薬品性が求められる用途に好適に用いられうる。
【0059】
[本実施形態の効果]
本実施形態の製造方法においては、樹脂フィルムの厚みdに対する、ダイスのリップクリアランスCの比C/dが、7以上12以下であるので、異物の発生を抑制し、且つ、樹脂フィルムの複屈折を小さくすることができる。その結果、本実施形態によれば、異物の発生を抑制し、且つ、樹脂フィルムの複屈折を小さくすることができる。
【0060】
さらに、本実施形態の製造方法においては、ダイスの出口温度T1が、(Tg+170)℃以上(Tg+200)℃以下であるので、樹脂として結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いた場合であっても、ダイスから押し出す際の流動性を十分なものとすることができ、かつ、樹脂の劣化を防止することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。以下において、「部」および「%」は特に断りのない限り、重量基準である。
【0062】
[評価方法]
[重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法]
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0063】
[ガラス転移温度Tg、融点Tm、結晶化温度Tcの測定方法]
窒素雰囲気下で320℃に加熱した樹脂を液体窒素で急冷し、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分で昇温して、その吸熱ピークの極小値もしくは発熱ピークの極大値より、試料のガラス転移温度Tg、融点Tmおよび結晶化温度Tcをそれぞれ求めた。
【0064】
[重合体の水素化率の測定方法]
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、145℃で、1H-NMR測定により測定した。
【0065】
[重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法]
オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果から、オルトジクロロベンゼン-d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0066】
[樹脂フィルムのRe/d及びRth/dの測定]
各例(実施例および比較例)で製造した樹脂フィルムを、波長590nmで位相差測定装置(Axometric社製 製品名「Axoscan」)を用いて測定することにより、各例の樹脂フィルムの面内方向のレターデーションReの絶対値及び厚み方向のレターデーションRthの絶対値を求めた。
各例の樹脂フィルムの厚みdを接触式厚み計(ミツトヨ社製 製品名「デジマチック シックネスゲージ」)を用いて測定した。
上述の測定値を用いて、面内方向の複屈折(Re/d)及び厚み方向の複屈折(Rth/d)を算出した。
【0067】
[樹脂フィルムの異物数の測定]
各例で製造した樹脂フィルムを面積が1m2となるように切り出してサンプルフィルムとした。当該サンプルを目盛り付きのルーペを用いて目視により観察し、凸部長辺が100μm以上の異物の数をカウントした。
【0068】
[樹脂フィルムの厚みに対するリップクリアランスの比(C/d)]
ダイスのリップクリアランスを、テーパーゲージを用いてダイスの幅方向に100mm間隔で測定し、その平均値を求めた。各例の樹脂フィルムの厚みを、接触式厚み計(ミツトヨ社製 製品名「デジマチック シックネスゲージ」)を用いて幅方向に100mm間隔で測定し、その平均値を求めた。リップクリアランス平均値と、フィルム厚みの平均値から、樹脂フィルムの厚みdに対するリップクリアランスCの比(C/d)を算出した。
【0069】
[延伸フィルムの熱収縮率の測定]
各例で製造した延伸フィルムから、MD方向150mm、TD方向50mmの長方形の試験片1と、MD方向50mm、TD方向150mmの長方形の試験片2と、を切り出した。各試験片の長辺方向に、間隔が100mmとなるようにマーキングを行い、加熱前の寸法を(株)ニコン製の万能投影機(V-12BDC)を用いて測定した。
次に、160℃に加熱したオーブンに各試験片を入れて10分間加熱したのち、各試験片を取り出して、加熱前の寸法の測定方法と同じ方法で加熱後の試験片の寸法を測定した。加熱前の寸法と加熱後の寸法から、MD方向の収縮率及びTD方向の収縮率を算出した。2つの試験片のMD方向の収縮率の平均値と、TD方向の収縮率の平均値との平均を算出して、延伸フィルムの熱収縮率とした。
【0070】
[製造例1]
内部を窒素置換した金属製耐圧反応容器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)のシクロヘキサン溶液(濃度70%)42.8部(ジシクロペンタジエンとして30部)、1-ヘキセン1.9部を加え、全容を53℃に加熱した。
一方、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解して得られた溶液に、ジエチルアルミニウムエトキシドのn-ヘキサン溶液(濃度19%)0.061部を加えて10分間攪拌し、触媒溶液を調製した。この触媒溶液を前記反応器内に添加し、53℃で4時間、開環重合反応を行い、ジシクロペンタジエンの開環重合体を含む溶液を得た。
【0071】
得られたジシクロペンタジエン開環重合体を含む溶液200部に、停止剤として、1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃で1時間攪拌し、重合反応を停止させた。その後、ハイドロタルサイト様化合物(製品名「キョーワード(登録商標)2000」、協和化学工業社製)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。濾過助剤(製品名「ラヂオライト(登録商標)#1500」昭和化学工業社製)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(製品名「TCP-HX」、ADVANTEC東洋社製)を用いて、吸着剤を濾別した。これにより精製処理後のジシクロペンタジエン開環重合体を含む溶液を得た。当該溶液の一部を用いて、ジシクロペンタジエン開環重合体の分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は28,100、数平均分子量(Mn)は8,750、分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0072】
精製処理後の、ジシクロペンタジエン開環重合体を含む溶液200部(重合体含有量30部)に、シクロヘキサン100部、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加し、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。反応液は、固形分が析出したスラリー液であった。
反応液を遠心分離することにより、固形分と溶液とを分離し、固形分を、60℃で24時間減圧乾燥し、ジシクロペンタジエン開環重合体水素化物28.5部を得た。
水素化反応における不飽和結合の水素化率は99%以上、ジシクロペンタジエン開環重合体水素化物のガラス転移温度は93℃、融点は262℃、結晶化温度は130℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0073】
[製造例2:樹脂ペレットの製造]
製造例1で得たジシクロペンタジエン開環重合体水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、製品名「イルガノックス(登録商標)1010」、BASFジャパン社製)0.8部を混合した後、混合物を二軸押出し機(TEM-37B、東芝機械社製)に投入し、熱溶融押出し成形によりストランド状の成形体を得た後、これをストランドカッターにて細断し、原料ペレットを得た。
二軸押出し機の運転条件を以下に示す。
・バレル設定温度:270~280℃
・ダイ設定温度:250℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
【0074】
[実施例1]
(1-1)樹脂フィルムの製造
製造例2で得た原料ペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機に供給した。ダイスのリップクリアランスCは、付属の調整ボルトで0.3mmとなるように調整した。フィルム成形機のダイスのリップから押し出されたフィルム状の樹脂を、キャストロールの外周面で受け、キャストロールで搬送される間に冷却し、硬化したフィルム状の樹脂をロールに巻き取ることにより長尺の樹脂フィルム(厚み25μm、幅1350mm)を得た。引取速度は25m/分であった。前記のフィルム成形機の運転条件を、以下に示す。
・バレル温度設定:280℃~290℃
・ダイス出口温度T1:275℃(ガラス転移温度Tg+182℃)
【0075】
得られた樹脂フィルムのRe/d、Rth/d及び異物数の測定を行った。
【0076】
(1-2)延伸フィルムの製造
(1-1)で製造した長尺の樹脂フィルム(厚み25μm)から、MD方向200mm、TD方向200mmの大きさの、フィルム(延伸前フィルム)を切り出した。延伸前フィルムをバッチ式二軸延伸装置(エトー社製)を用いて、TD方向に延伸温度130℃、延伸倍率1.3倍で延伸したのちクリップで4辺を保持したまま170℃で熱処理を行うことで延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムについて、熱収縮率の測定を行った。
【0077】
[実施例2]
(2-1)樹脂フィルムの製造
ダイスのリップクリアランスCを付属の調整ボルトで0.21mmとなるように調整したこと、樹脂フィルムの厚みdが30μmになるように、リップから押し出される樹脂の量を調整したこと、キャストロールの搬送速度を調整して引取速度を23m/分としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、樹脂フィルムを得た。当該樹脂フィルムの厚みは30μmであり、C/dは7であった。得られた樹脂フィルムのRe/d、Rth/d及び異物数の測定を行った。
【0078】
(2-2)延伸フィルムの製造
長尺の樹脂フィルムとして、(2-1)で製造した長尺の樹脂フィルムを用いたこと以外は、実施例1の(1-2)と同じ操作を行い、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの熱収縮率の測定を行った。
【0079】
[比較例1]
(C1-1)樹脂フィルムの製造
ダイスのリップクリアランスCを付属の調整ボルトで0.85mmとなるように調整したこと、キャストロールの搬送速度を調整して引取速度を20m/分としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、樹脂フィルムを得た。当該樹脂フィルムの厚みは25μmであり、C/dは34であった。得られた樹脂フィルムのRe/d、Rth/d及び異物数の測定を行った。
【0080】
(C1-2)延伸フィルムの製造
長尺の樹脂フィルムとして、(C1-1)で製造した長尺の樹脂フィルムを用いたこと以外は、実施例1の(1-2)と同じ操作を行い、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの熱収縮率の測定を行った。
【0081】
[比較例2]
(C2-1)樹脂フィルムの製造
ダイスのリップクリアランスCを付属の調整ボルトで0.45mmとなるように調整したこと、キャストロールの搬送速度を調整して引取速度を20m/分としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、樹脂フィルムを得た。当該樹脂フィルムの厚みは25μmであり、C/dは18であった。得られた樹脂フィルムのRe/d、Rth/d及び異物数の測定を行った。
【0082】
(C2-2)延伸フィルムの製造
長尺の樹脂フィルムとして、(C2-1)で製造した長尺の樹脂フィルムを用いたこと以外は、実施例1の(1-2)と同じ操作を行い、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの熱収縮率の測定を行った。
【0083】
[比較例3]
(C3-1)樹脂フィルムの製造
ダイスのリップクリアランスCを付属の調整ボルトで0.15mmとなるように調整したこと、樹脂フィルムの厚みdが30μmになるように、リップから押し出される樹脂の量を調整したこと、キャストロールの搬送速度を調整して引取速度を20m/分としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、樹脂フィルムを得た。当該樹脂フィルムの厚みは30μmであり、C/dは5であった。得られた樹脂フィルムのRe/d、Rth/d及び異物数の測定を行った。
【0084】
(C3-2)延伸フィルムの製造
長尺の樹脂フィルムとして、(C3-1)で製造した長尺の樹脂フィルムを用いたこと以外は、実施例1の(1-2)と同じ操作を行い、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの熱収縮率の測定を行った。
【0085】
[比較例4]
(C4-1)樹脂フィルムの製造
ダイスのリップクリアランスCを付属の調整ボルトで0.85mmとなるように調整したこと、キャストロールの搬送速度を調整して引取速度を7m/分としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、樹脂フィルムを得た。当該樹脂フィルムの厚みは25μmであり、C/dは34であった。得られた樹脂フィルムのRe/d、Rth/d及び異物数の測定を行った。
【0086】
(C4-2)延伸フィルムの製造
長尺の樹脂フィルムとして、(C4-1)で製造した長尺の樹脂フィルムを用いたこと以外は、実施例1の(1-2)と同じ操作を行い、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの熱収縮率の測定を行った。
【0087】
[比較例5]
(C5-1)樹脂フィルムの製造
ダイスのリップクリアランスCを付属の調整ボルトで0.42mmとなるように調整したこと、樹脂フィルムの厚みdが30μmになるように、リップから押し出される樹脂の量を調整したこと、キャストロールの搬送速度を調整して引取速度を20m/分としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、樹脂フィルムを得た。当該樹脂フィルムの厚みは30μmであり、C/dは5であった。得られた樹脂フィルムのRe/d、Rth/d及び異物数の測定を行った。
【0088】
(C5-2)延伸フィルムの製造
長尺の樹脂フィルムとして、(C5-1)で製造した長尺の樹脂フィルムを用いたこと以外は、実施例1の(1-2)と同じ操作を行い、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの熱収縮率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0089】
実施例及び比較例の評価結果とともに、ダイス出口温度T1、樹脂フィルムの厚みd、C/d、及び引取速度を表1に示す。
表1中、「延伸後熱収縮率」は「延伸フィルムの熱収縮率」を意味する。
【0090】
【0091】
表1に示す結果から、本発明の製造方法により得られた樹脂フィルムでは、異物数が少なく、Re/dおよびRth/dがともに小さいことがわかる。これより、本発明の樹脂フィルムの製造方法によれば、異物数の発生を抑制し、かつ複屈折が小さい樹脂フィルムを得ることができるということがわかる。
【符号の説明】
【0092】
10…樹脂フィルム
11,12…フィルムの端部
30…フィルムロール
100…樹脂フィルムの製造装置
110…ダイス
116…リップ
120…キャストロール(引取装置)
121…キャストロールの外周面
130…静電ピニング装置
131,132…静電ピニング装置
140…剥離ロール
160…巻取装置