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  • 特許-ラテックス組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ラテックス組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/04 20060101AFI20230808BHJP
   C08L 13/02 20060101ALI20230808BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20230808BHJP
   C08F 236/12 20060101ALI20230808BHJP
   B32B 25/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C08L9/04
C08L13/02
C08K5/05
C08F236/12
B32B25/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019564741
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000548
(87)【国際公開番号】W WO2019139087
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018003108
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健太郎
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-101196(JP,A)
【文献】特開2008-024897(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126660(WO,A1)
【文献】特開2017-160279(JP,A)
【文献】特開昭52-042543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02
C08K 5/00- 5/59
B32B 25/00-25/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および共役ジエン単量体単位を含有するニトリルゴムを含有するラテックス組成物であって、
前記ニトリルゴムにおける前記α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が、全単量体単位に対して、20~45重量%であり、
前記ニトリルゴムにおける前記共役ジエン単量体単位の含有割合が、全単量体単位に対して、52~80重量%であり、
前記ニトリルゴムの重量平均分子量が、50,000~100,000であり、
前記ラテックス組成物に含有される全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量が、前記全固形分の重量に対して、2~20重量%であるラテックス組成物。
【請求項2】
クミルアルコールの含有量が、前記ラテックス組成物に含有される全固形分の重量に対して、10~10,000重量ppmである請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項3】
前記ニトリルゴムにおける前記共役ジエン単量体単位の含有割合が、全単量体単位に対して、52~78重量%であり、
前記ニトリルゴムが、エチレン性不飽和酸単量体単位をさらに含有する請求項1または2に記載のラテックス組成物。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和酸単量体単位が、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体単位である請求項3に記載のラテックス組成物。
【請求項5】
繊維基材上にゴム層を形成するための請求項1~4のいずれかに記載のラテックス組成物。
【請求項6】
複数の繊維から構成される繊維基材と、請求項1~5のいずれかに記載のラテックス組成物から形成されるゴム層とが積層されてなる積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴムを含有するラテックス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場での製造作業、軽作業、工事作業、農作業等の様々な用途で、繊維製手袋をゴムや樹脂等により被覆することで、耐溶剤性、グリップ性、耐摩耗性等を向上させた保護手袋が作業用手袋として用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、少なくとも手首部に伸縮性糸が編み込まれ、該伸縮性糸上にゴムまたは樹脂を被覆させてなる保護手袋が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-111853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の手袋は、繰り返しの使用により、表面のゴム層が容易に摩耗してしまうという問題があった。耐摩耗性を改善するために、ゴム層の厚みを大きくすることも考えられるが、そうすると、クラックが発生しやすい上に、手袋の柔軟性が損なわれる問題があった。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、表面にクラックを有していないか、ほとんど有しておらず、柔軟性および耐摩耗性に優れる積層体を与えることのできるラテックス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ゴム層を形成するために用いるニトリルゴムのラテックス組成物について、特定の重量平均分子量を有するニトリルゴムを選択するとともに、ラテックス組成物に含有される全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量を特定の範囲に調整することによって、このようなラテックス組成物を用いて得られる積層体が、ゴム層のクラックの発生が抑制されており、優れた柔軟性および耐摩耗性を備えたものとなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および共役ジエン単量体単位を含有するニトリルゴムを含有するラテックス組成物であって、前記ニトリルゴムの重量平均分子量が、50,000~100,000であり、前記ラテックス組成物に含有される全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量が、前記全固形分の重量に対して、2~20重量%であるラテックス組成物が提供される。
【0009】
本発明のラテックス組成物において、クミルアルコールの含有量が、前記ラテックス組成物に含有される全固形分の重量に対して、10~10,000重量ppmであることが好ましい。
本発明のラテックス組成物において、前記ニトリルゴムが、エチレン性不飽和酸単量体単位をさらに含有することが好ましい。
本発明のラテックス組成物において、前記エチレン性不飽和酸単量体単位が、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体単位であることが好ましい。
本発明のラテックス組成物は、繊維基材上にゴム層を形成するためのものであることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、複数の繊維から構成される繊維基材と、上記のラテックス組成物から形成されるゴム層とが積層されてなる積層体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面にクラックを有していないか、ほとんど有しておらず、柔軟性および耐摩耗性に優れる積層体を与えることのできるラテックス組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、積層体の製造に用いる繊維基材の模式図、および積層体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のラテックス組成物は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および共役ジエン単量体単位を含有するニトリルゴムを含有する。
【0014】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、ニトリル基を有し、炭素数が、好ましくは3~18であるエチレン性不飽和化合物を用いることができる。このようなα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロゲン置換アクリロニトリルなどが挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
ニトリルゴムにおけるα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは10~45重量%、より好ましくは20~40重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることができる。
【0016】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエン及びイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。なお、これらの共役ジエン単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
共役ジエン単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは40~80重量%、より好ましくは52~78重量%である。共役ジエン単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることができる。
【0018】
また、ニトリルゴムは、エチレン性不飽和酸単量体単位をさらに含有してもよい。ニトリルゴムがエチレン性不飽和酸単量体単位をさらに含有することにより、ラテックス組成物の安定性が優れたものとなり、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることが可能となる。特に、ラテックス組成物が酸化亜鉛等の配合剤を含有する場合であっても、ラテックス組成物の安定性が十分なものとなる。
【0019】
エチレン性不飽和酸単量体単位を形成するエチレン性不飽和酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0020】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。
【0021】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0022】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸-3-クロロ-2-リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸-2-リン酸エチル、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸などが挙げられる。
【0023】
エチレン性不飽和酸単量体は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもでき、また、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
エチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは2~15重量%であり、より好ましくは5~15重量%であり、さらに好ましくは5~8重量%である。エチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることができる。
【0025】
上記のエチレン性不飽和酸単量体のなかでも、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体が好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0026】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは2~15重量%であり、より好ましくは5~15重量%であり、さらに好ましくは5~8重量%である。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることができる。
【0027】
また、ニトリルゴムは、上述したエチレン性不飽和ニトリル単量体単位、および共役ジエン単量体単位に加えて、さらに他の単量体単位を含有していてもよい。
【0028】
他の単量体単位を形成する他の単量体としては、共役ジエン単量体、およびエチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能な単量体であればよく、特に限定されないが、たとえば、以下の単量体が挙げられる。
【0029】
すなわち、他の単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、トリクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン単量体;メチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸アリル、酢酸メタリル、塩化アリル、塩化メタリル等の(メタ)アリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン;などを挙げることができ、これらの中でも、得られる積層体の強度をより高めることができるという観点より、芳香族ビニル単量体が好ましい。これらの他の単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ニトリルゴム中の他の単量体単位の含有割合は、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることができることから、全単量体単位に対して、好ましくは26重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは7重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。
【0031】
本発明のラテックス組成物中のニトリルゴムの重量平均分子量(Mw)は、50,000~100,000であり、より好ましくは55,000~95,000であり、さらに好ましくは60,000~90,000である。ニトリルゴムの重量平均分子量が小さすぎると、得られる積層体の耐摩耗性が劣り、一方、重量平均分子量が大きすぎると、クラックを十分に抑制できないとともに、得られる積層体の柔軟性が劣る。
【0032】
本発明のラテックス組成物中のニトリルゴムの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは1.5~4.0であり、より好ましくは2.0~3.0である。ニトリルゴムの比(Mw/Mn)を上記範囲にすることにより、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることができる。
【0033】
ニトリルゴムの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、例えば、テトラヒドロフランを展開溶媒とする、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定により、標準ポリスチレン換算値として、求めることができる。また、ニトリルゴムの重量平均分子量および比(Mw/Mn)を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば、重合反応時に用いる反応条件(例えば、連鎖移動剤の使用量など)を制御する方法などが挙げられる。
【0034】
本発明のラテックス組成物は、全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量が、前記全固形分の重量に対して、2~20重量%であり、好ましくは2~18重量%であり、より好ましくは2~15重量%である。ラテックス組成物がこのような重量でメタノール抽出分を含有することにより、クラックを有していないか、ほとんど有しておらず、柔軟性および耐摩耗性に優れる積層体を得ることが可能となる。
【0035】
ラテックス組成物に含有される全固形分には、ニトリルゴムに加えて、乳化剤等の固形分も含まれる。全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量は、後述する実施例に記載のメタノール抽出分の重量の測定と同様の方法で測定することができる。また、メタノール抽出分の重量を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば、重合反応の後期において、重合開始剤を添加する方法などが挙げられる。
【0036】
本発明のラテックス組成物は、クミルアルコールの含有量が、ラテックス組成物に含有される全固形分の重量に対して、好ましくは10~10,000重量ppmであり、より好ましくは100~5,000重量ppmであり、さらに好ましくは200~4,000重量ppmである。ラテックス組成物がこのような量でクミルアルコールを含有することにより、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることが可能となる。
【0037】
クミルアルコールの含有量は、後述する実施例に記載のクミルアルコール含有量の測定と同様の方法で測定することができる。また、クミルアルコールの含有量を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば、重合開始剤として、クメンハイドロパーオキシドを用いる方法などが挙げられる。
【0038】
本発明のラテックス組成物は、メチルエチルケトン不溶分含有量が、ラテックス組成物に含有される全固形分の重量に対して、好ましくは49~88重量%、より好ましくは53~88重量%、さらに好ましくは54~85重量%である。ラテックス組成物がこのような量でメチルエチルケトン不溶分を含有することにより、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることが可能となる。
【0039】
メチルエチルケトン不溶分含有量は、後述する実施例に記載のメチルエチルケトン不溶分含有量の測定と同様の方法で測定することができる。また、メチルエチルケトン不溶分含有量を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば、重合を開始させるために用いる重合開始剤として、無機過酸化物を用い、重合途中に添加する重合開始剤として、クメンハイドロパーオキサイドを用いる方法などが挙げられる。
【0040】
本発明のラテックス組成物は、ニトリルゴム以外の重合体を含有してもよい。このような重合体としては、天然ゴム;ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンを重合または共重合してなる共役ジエン系ゴム;等が挙げられる。共役ジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム等が挙げられる。
【0041】
本発明で用いるラテックス組成物としては、特に限定されず、たとえば上記の単量体を含有する単量体混合物を重合して得られるニトリルゴムのラテックスであればよく、前記単量体混合物を乳化重合して得られるラテックス、前記単量体混合物を溶液重合して得られるニトリルゴム溶液を転相乳化して得られるラテックス、などを用いることができる。
乳化重合して得られるラテックスを用いる場合には、乳化重合に用いる単量体混合物の組成を調節することにより、得られるニトリルゴムの組成を容易に調節することができるようになる。乳化重合の方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0042】
上記の単量体の混合物を乳化重合するには、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。これら重合副資材の添加方法は特に限定されず、初期一括添加法、分割添加法、連続添加法などいずれの方法でもよい。
【0043】
また、重合開始剤を用いて、単量体混合物の重合を開始させる工程と、重合途中にさらに重合開始剤を添加する工程と、を含むラテックス組成物の製造方法は、表面にクラックを有していないか、ほとんど有しておらず、柔軟性および耐摩耗性に優れる積層体を与えることのできるラテックス組成物を容易に製造できることから、好適な製造方法の1つである。
【0044】
重合途中に添加する重合開始剤の添加時期は、単量体混合物の重合転化率が60~98%の時点であることが好ましく、65~98%の時点であることがより好ましく、70~98%の時点であることがさらに好ましい。このように、重合開始剤の添加時期を調整することにより、全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量を適切に調整できる。重合開始剤の添加時期が早すぎると、得られる積層体の耐摩耗性に劣る傾向があり、重合開始剤の添加時期が遅すぎると、得られる積層体にクラックが生じやすく、柔軟性に劣る傾向がある。重合転化率は、重合に用いた単量体混合物の全重量から未反応の単量体混合物の重量を引いた値を、重合に用いた単量体混合物の全重量で除することにより求めることもできるし、あるいは、ニトリルゴム自体の重量を、重合に用いた単量体混合物の全重量で除することにより求めることもできる。
【0045】
重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル開始剤が好ましい。ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-α-クミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などが挙げられ、これらの中でも、無機過酸化物または有機過酸化物が好ましく、無機過酸化物がより好ましく、過硫酸塩が特に好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、硫酸第一鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラートなどの還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。更に、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどのキレート剤、炭酸ナトリウムや硫酸ナトリウムなどのビルダーを併用することもできる。これらの重合開始剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
重合開始剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1.5重量部以下である。
【0047】
上記のラテックス組成物の製造方法において、重合を開始させるために用いる重合開始剤と、重合途中に添加する重合開始剤とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。しかしながら、重合を開始させるために用いる重合開始剤および重合途中に添加する重合開始剤の一方、または両方が、油溶性重合開始剤であることが好ましい。さらに、全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量、および、メチルエチルケトン不溶分含有量を適切かつ容易に調整でき、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性に一層優れる積層体が得られるという観点からは、重合を開始させるために用いる重合開始剤として、水溶性重合開始剤を用い、重合途中に添加する重合開始剤として油溶性重合開始剤を用いることが好ましい。この場合において、水溶性重合開始剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.001~1.0重量部であり、油溶性重合開始剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01~0.5重量部であり、より好ましくは0.02~0.4重量部である。
【0048】
水溶性重合開始剤としては、上記の無機過酸化物が挙げられ、上記油溶性重合開始剤としては、上記の有機過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。これらの中でも、重合を開始させるために用いる重合開始剤として、無機過酸化物を用い、重合途中に添加する重合開始剤として、有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0049】
また、重合開始剤として、クメンハイドロパーオキサイドを用いると、ラテックス組成物のクミルアルコールの含有量を、上記した範囲に適切に調整でき、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性に一層優れる積層体が得られる。この観点から、重合を開始させるために用いる重合開始剤として、無機過酸化物を用い、重合途中に添加する重合開始剤として、クメンハイドロパーオキサイドを用いることが好ましい。この場合において、無機過酸化物の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.001~1.0重量部であり、クメンハイドロパーオキサイドの使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01~0.5重量部であり、より好ましくは0.02~0.4重量部である。クメンハイドロパーオキシドを用いる際には、重亜硫酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、硫酸第一鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラートなどの還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。
【0050】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好ましい。
乳化剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5~10重量部、より好ましくは1~8重量部である。
【0051】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、たとえば、α-メチルスチレンダイマー;t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物;などが挙げられ、これらの中でも、メルカプタン類が好ましく、t-ドデシルメルカプタンがより好ましい。これらの分子量調整剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
分子量調整剤の使用量は、その種類によって異なるが、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1~1.5重量部、より好ましくは0.2~1.0重量部である。
【0052】
乳化重合は、通常、水中で行なわれる。水の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは80~500重量部、より好ましくは100~200重量部である。
【0053】
乳化重合に際し、必要に応じて、上記以外の重合副資材をさらに用いてもよい。重合副資材としては、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等が挙げられ、これらの種類、使用量とも特に限定されない。
【0054】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。
また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0055】
乳化重合する際の重合温度は、特に限定されないが、通常、0~95℃であり、好ましくは5~70℃である。重合時間は、特に限定されないが、通常、5~40時間程度である。
【0056】
以上のように単量体を乳化重合し、所定の重合転化率に達した時点で、重合系を冷却したり、重合停止剤を添加したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する際の重合転化率は、通常、80重量%以上であり、好ましくは90重量%以上である。
【0057】
重合停止剤は、通常、乳化重合において使用されているものであれば、特に限定されないが、その具体例としては、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミンスルホン酸及びそのアルカリ金属塩等のヒドロキシルアミン化合物;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム;ハイドロキノン誘導体;カテコール誘導体;ヒドロキシジメチルベンゼンチオカルボン酸、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸等の芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸及びこれらのアルカリ金属塩等の芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸化合物;等が挙げられる。
重合停止剤の使用量は、特に限定されないが、通常、使用する全単量体100重量部に対して、0.05~2重量部である。
【0058】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整してもよい。
【0059】
ラテックス組成物を構成するニトリルゴムの粒子の体積平均粒子径は、通常、30~1000nm、好ましくは50~500nm、より好ましくは70~200nmである。ニトリルゴムの粒子の体積平均粒子径を上記範囲にすることにより、ラテックス組成物の粘度が適度なものとなってラテックス組成物の取扱性がより向上するとともに、ゴム層を成形する際の成形性が向上してより均質なゴム層を有する積層体が得られるようになる。
【0060】
ラテックス組成物の固形分濃度は、通常、20~65重量%であり、好ましくは30~60重量%、より好ましくは35~55重量%である。このラテックス組成物の固形分濃度を上記範囲にすることにより、ラテックスの輸送効率を向上させることができ、かつ、ラテックス組成物の粘度が適度なものとなってラテックス組成物の取扱性が向上する。
【0061】
ラテックス組成物のpHは、通常、5~13であり、好ましくは7~10、より好ましくは7.5~9である。ラテックス組成物のpHを上記範囲にすることにより、機械的安定性が向上してラテックス組成物の移送時における粗大凝集物の発生を抑制することができ、かつ、ラテックス組成物の粘度が適度なものとなってラテックス組成物の取扱性が向上する。
【0062】
さらに、本発明で用いるラテックス組成物には、架橋剤、架橋促進剤、および酸化亜鉛等を添加することができる。
【0063】
架橋剤としては、硫黄系架橋剤を用いることが好ましい。硫黄系架橋剤としては、特に限定されないが、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、N,N’-ジチオ-ビス(ヘキサヒドロ-2H-アゼノピン-2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2-(4’-モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらの架橋剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
硫黄系架橋剤の添加量は、ラテックス組成物中の全固形分100重量部に対して、好ましくは0.01~5重量部、より好ましくは0.05~3重量部、特に好ましくは0.1~2重量部である。硫黄系架橋剤の添加量を上記範囲にすることにより、クラックの発生を一層抑制でき、柔軟性および耐摩耗性により一層優れる積層体を得ることが可能となる。
【0065】
硫黄系架橋剤は、硫黄系架橋剤を溶媒に分散させた分散液として添加することが好ましい。分散液としてラテックス組成物に添加することにより、得られるゴム層におけるき裂、ピンホールの発生、および凝集物の付着等の欠陥が少ない積層体が得られる。
【0066】
硫黄系架橋剤の分散液の調製方法としては、特に限定されないが、硫黄系架橋剤に溶媒を添加し、ボールミルやビーズミルなどの湿式粉砕機で粉砕攪拌する方法が好ましい。
【0067】
硫黄系架橋剤として硫黄を使用する場合には、架橋促進剤(加硫促進剤)や、酸化亜鉛を併用することが好ましい。
【0068】
架橋促進剤(加硫促進剤)としては、特に限定されないが、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2-(2,4-ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2-(N,N-ジエチルチオ・カルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2-(2,6-ジメチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2-(4′-モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4-モルホリニル-2-ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3-ビス(2-ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられ、これらの中でも、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの架橋促進剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋促進剤の使用量は、ラテックス組成物中の全固形分100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。
【0069】
また、酸化亜鉛の使用量は、ラテックス組成物中の全固形分100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましく0.1~3重量部、さらに好ましくは0.5~2重量部である。
【0070】
ラテックス組成物として、架橋剤を添加したものを用いる場合には、ラテックス組成物として、予め熟成(前加硫ともいう。)させたものを用いてもよい。
【0071】
熟成させる際の温度条件は、特に限定されないが、好ましくは20~50℃である。また、熟成させる際の時間は、繊維基材とゴム層との剥離を防止する観点、得られる積層体の耐摩耗性を向上させる観点から、好ましくは4時間以上120時間以下、より好ましくは24時間以上72時間以下である。熟成時間を上記範囲にすることにより、得られる積層体において、ゴム層が繊維基材に適度に浸透することで、繊維基材とゴム層との剥離が防止され、得られる積層体の耐摩耗性が向上する。
【0072】
また、ラテックス組成物の粘度を所望の範囲とするために、ラテックス組成物には、粘度調整剤を添加することができる。粘度調整剤としては、特に限定されないが、カルボキシメチルセルロース系増粘剤、ポリカルボン酸系増粘剤および多糖類系増粘剤などが挙げられる。また、ラテックス組成物の粘度は、好ましくは500~8,000mPa・s、より好ましくは2,500~7,000mPa・sである。特に、ラテックス組成物を、たとえば、上述した架橋剤、架橋促進剤、酸化亜鉛、および粘度調整剤等が添加された状態で用いる場合には、このようなラテックス組成物の粘度を上記範囲とすることが好ましい。
【0073】
また、ラテックス組成物には、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなどの充填剤を添加してもよい。さらに、ラテックス組成物には、必要に応じて、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、湿潤剤、分散剤、顔料、染料、充填剤、補強剤、pH調整剤などの各種添加剤を所定量添加することもできる。
【0074】
架橋剤を添加したラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは25~55重量%、より好ましくは35~55重量%である。また、架橋剤を添加したラテックス組成物の表面張力は、好ましくは25~40mN/mである。
【0075】
本発明のラテックス組成物を用いて、繊維基材上にゴム層を形成して、繊維基材と、ゴム層と、を備える積層体を得ることができる。特に、複数の繊維から構成される繊維基材と、ラテックス組成物から形成されるゴム層とが積層されてなる積層体は、表面にクラックを有していないか、ほとんど有しておらず、柔軟性および耐摩耗性に優れることから、作業用手袋等の手袋として好適に用いることができる。すなわち、本発明のラテックス組成物は、繊維基材上にゴム層を形成するためのラテックス組成物であってよい。
【0076】
また、本発明のラテックス組成物を用いて、手袋を製造することができる。すなわち、本発明のラテックス組成物は、手袋用ラテックス組成物であってよく、作業用手袋用ラテックス組成物であってよい。さらに、手袋は、上記の積層体を備える手袋(保護手袋)であってよい。
【0077】
繊維基材としては、特に限定されず、繊維製のものであればよい。繊維基材を構成する繊維としては、綿、毛、麻、羊毛等の天然繊維、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ナイロン等の合成繊維などを素材として用いることができる。これらの中でも、ナイロンを用いることが好ましい。
【0078】
繊維基材を構成する繊維は、単繊維(上記の天然繊維や合成繊維などから取り出される一本一本)であってもよいし、複数の単繊維からなる撚糸であってもよく、織布であっても、不織布であってもよいが、撚糸であることが好ましい。
【0079】
繊維基材の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1~2.0mmである。繊維基材の線密度は、特に限定されないが、好ましくは50~500デニールである。繊維基材のゲージ数は、特に限定されないが、好ましくは7~18ゲージである。ここで、ゲージ数は、1インチの間にある編機の針の数をいう。
【0080】
上記の積層体において、ゴム層は、一部が、繊維の間に浸透した状態で繊維基材を被覆していることが好ましい。図1(A)および図1(B)は、それぞれ繊維基材および積層体の模式図であり、図1(A)は、繊維基材の断面図を示し、図1(B)は、図1(A)に示す繊維基材にゴム層が積層されてなる積層体の断面図を示す。図1(B)に示す積層体においては、ゴム層は、一部が、繊維基材を構成する繊維の間に浸透した状態で繊維基材を被覆している。図1(B)においては、積層体を構成するゴム層のうち、繊維基材の表面から繊維の隙間に浸透した部分を浸透ゴム層とし、また、ゴム層のうち、繊維基材の表面から繊維基材を被覆する部分を表面ゴム層として示している。なお、本発明においては、ゴム層を、適宜、浸透ゴム層および表面ゴム層からなるものとして説明するが、通常、これら浸透ゴム層および表面ゴム層は、一体として形成されることとなる。
【0081】
また、上記の積層体においては、浸透ゴム層の厚みtは、好ましくは50~600μm、より好ましくは100~550μm、さらに好ましくは200~500μmである。浸透ゴム層の厚みtを上記範囲とすることにより、得られる積層体を作業用手袋等の手袋(保護手袋)として用いた場合における耐久性がより向上する。
【0082】
さらに、上記の積層体においては、ゴム層のうち、繊維基材の表面を被覆する部分の厚み、すなわち、図1に示す表面ゴム層の厚みtは、好ましくは80~600μm、より好ましくは100~550μm、さらに好ましくは150~500μm、特に好ましくは200~500μmである。表面ゴム層の厚みtを上記範囲とすることにより、得られる積層体を作業用手袋等の手袋(保護手袋)として用いた場合における耐久性がより向上する。また、本発明のラテックス組成物を用いることによって、例えば、ゴム層の厚みを150μm以上、好ましくは200μm以上とした場合であっても、表面にクラックを有していないか、ほとんど有していないゴム層を備える積層体を得ることができる。
【0083】
また、ゴム層における浸透ゴム層と表面ゴム層との厚みの比率は、特に限定されないが、浸透ゴム層の厚みtに対する表面ゴム層の厚みtの比(t/t)で、好ましくは0.2~5、より好ましくは0.3~2である。浸透ゴム層と表面ゴム層との厚みの比率を上記範囲にすることにより、上記の積層体を作業用手袋として用いた場合に、耐久性および柔軟性を高度にバランスさせることができる。
【0084】
また、ゴム層の全体の厚み、すなわち、浸透ゴム層の厚みtおよび表面ゴム層の厚みtの合計は、特に限定されないが、好ましくは150μm以上である。
【0085】
上記の積層体は、たとえば、凝固剤溶液を繊維基材に付着させ、その後、凝固剤溶液を付着させた繊維基材にラテックス組成物を接触させてニトリルゴムを凝固させることで、繊維基材上にゴム層を形成する製造方法により得ることができる。また、繊維基材にラテックス組成物を付着させた後、繊維基材に付着したラテックス組成物に凝固剤溶液を接触させてニトリルゴムを凝固させることで、繊維基材上にゴム層を形成する製造方法により得ることができる。これらの製造方法においては、ゴム層は、繊維基材に一部が浸透した状態で、繊維基材を被覆するようにして形成される。ゴム層の形成は、繊維基材を、所望の形状の成形用型に被せた状態で、行うことができる。
【0086】
凝固剤溶液は、溶媒中に凝固剤を溶解または分散させてなるものである。
【0087】
凝固剤としては、ラテックス組成物中のニトリルゴムを凝固させることができるものであればよく、特に限定されず、金属塩などを用いることができる。金属塩を構成する金属種としては、特に限定されないが、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの1価の金属;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄、バリウム、ジルコニウム、銅などの2価の金属;アルミニウムなどの3価の金属;などが挙げられる。また、金属塩を構成する塩種としては、特に限定されないが、たとえば、硝酸、硫酸、酢酸などの有機酸;などが挙げられる。これらの中でも、金属種としては多価の金属が好ましく、2価の金属がより好ましく、カルシウムが特に好ましい。また、塩種としては、硝酸または塩素が好ましく、硝酸が特に好ましい。即ち、金属塩としては、多価金属塩が好ましく、2価金属の硝酸塩またはハロゲン化塩がより好ましい。
これらの金属塩の具体例としては、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸亜鉛等の硝酸塩;塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のハロゲン化金属塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛等の酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;等が挙げられ、これらの中でも、硝酸塩およびハロゲン化金属塩が好ましく、硝酸カルシウムおよび塩化カルシウムがより好ましく、硝酸カルシウムが特に好ましい。
これらの金属塩は、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0088】
また、凝固剤溶液には、上述した凝固剤に加えて、さらに有機酸を含有していてもよい。有機酸としては、特に限定されないが、カルボキシル基、スルホ基、ヒドロキシ基、チオール基の少なくとも一種類の基を有する有機酸が好ましい。具体的には、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸などが挙げられ、これらの中でも、酢酸が好ましい。
【0089】
凝固剤を溶解または分散させるための溶媒としては、特に限定されないが、水、もしくはメタノール、エタノール等のアルコール、またはこれらの混合物などを用いることができ、これらの中でも、水またはアルコールが好ましく、アルコールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0090】
凝固剤溶液中における凝固剤の濃度は、通常、0.2~50重量%、好ましくは0.2~10重量%、より好ましくは0.5~7.0重量%である。
【0091】
繊維基材に凝固剤溶液またはラテックス組成物を付着させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、繊維基材を、凝固剤溶液またはラテックス組成物に浸漬させる方法などが挙げられる。
【0092】
繊維基材を凝固剤溶液またはラテックス組成物に浸漬させる場合における浸漬時間は、特に限定されないが、好ましくは30~1秒間、より、好ましくは10~1秒間である。
【0093】
繊維基材に凝固剤溶液を付着させた場合には、付着させた後に乾燥を行うことで、凝固剤溶液に含まれている溶媒を除去することが好ましい。この際の乾燥温度は、特に限定されず、用いる溶媒に応じて選択すればよいが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~70℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは120分間~1秒間、より好ましくは60分間~5秒間である。
【0094】
また、繊維基材にラテックス組成物を付着させた後、ラテックス組成物を乾燥させることが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは180℃以下、より好ましくは10~170℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは1秒間~60分間、より好ましくは3秒間~30分間である。
【0095】
繊維基材にラテックス組成物を付着させた後、繊維基材に付着したラテックス組成物に凝固剤溶液を接触させる場合には、乾燥に引き続いて、繊維基材に付着させたラテックス組成物に、凝固剤溶液を接触させることで、ラテックス組成物中のニトリルゴムを凝固させて、ゴム層を形成する。この際においては、繊維基材に付着させたラテックス組成物に、凝固剤溶液を接触させて付着させた後、乾燥を行うことで、凝固剤溶液に含まれている溶媒を除去することが好ましい。この際の乾燥温度は、特に限定されず、用いる溶媒に応じて選択すればよいが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~70℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは600~1秒間、より好ましくは300~5秒間である。
【0096】
なお、繊維基材に凝固剤溶液またはラテックス組成物を付着させる際には、予め繊維基材を所望の形状の成形用型に被せた状態で、繊維基材を凝固剤溶液またはラテックス組成物に浸漬させることが好ましい。
【0097】
繊維基材を被せる成形用型としては、特に限定されないが、材質は磁器製、ガラス製、金属製、プラスチック製など種々のものを用いることができる。成形用型の形状は、最終製品の形状に合わせて、所望の形状とすればよい。たとえば、積層体を保護手袋として使用する場合には、繊維基材を被せる成形用型として、手首から指先までの形状を有する成形用型など、各種の手袋用の成形用型を用いることが好ましい。
【0098】
さらに、ラテックス組成物として、架橋剤を添加したものを用いる場合には、繊維基材に付着したラテックス組成物を加熱することにより、ラテックス組成物中のニトリルゴムを架橋させることが好ましい。
【0099】
架橋のための加熱温度は、好ましくは60~160℃、より好ましくは80~150℃である。加熱温度を上記範囲にすることにより、架橋反応に要する時間を短くして積層体の生産性を向上させることができるとともに、過剰な加熱によるニトリルゴムの酸化劣化を抑制して、得られる積層体の物性を向上させることができる。架橋のための加熱時間は、加熱温度に応じて適宜選択すればよいが、通常、5~120分である。
【0100】
なお、本発明の製造方法においては、繊維基材上にゴム層を形成した後、ゴム層を20~80℃の温水に0.5~60分程度浸漬することにより、ゴム層から水溶性不純物(乳化剤、水溶性高分子、凝固剤など)を除去しておくことが好ましい。ラテックス組成物として、架橋剤を添加したものを用いる場合には、このようなゴム層を温水に浸漬させる処理は、ゴム層のニトリルゴムを架橋させた後に行なってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、ゴム層のニトリルゴムを架橋させる前に行なうのが好ましい。
【0101】
また、繊維基材を成形用型に被せた状態でゴム層を形成した場合には、ゴム層が形成された繊維基材を、成形用型から脱着することによって、積層体を得ることができる。脱着方法としては、手で成形用型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。
【0102】
積層体を成形用型から脱着した後には、さらに60~120℃の温度で、10~120分の加熱処理(後架橋工程)を行ってもよい。また、積層体の内側および/または外側の表面に、塩素化処理やコーティング処理などによる表面処理層を形成してもよい。
【0103】
本発明によれば、ゴム層を形成するために用いるニトリルゴムのラテックス組成物として、特定の重量平均分子量を有するニトリルゴムを含み、ラテックス組成物に含有される全固形分からメタノールにより抽出される抽出分を特定量で含むものを用いることにより、クラックの発生が抑制されており、優れた柔軟性および耐摩耗性を備える積層体が得られる。そのため、得られる積層体は、作業用手袋、特に家庭用、農業用、漁業用および工業用等の保護手袋として好適に用いることができる。
【実施例
【0104】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0105】
固形分濃度
アルミ皿(重量:X1)に試料2gを精秤し(重量:X2)、これを105℃の熱風乾燥器内で2時間乾燥させた。次いで、デシケーター内で冷却した後、アルミ皿ごと重量を測定し(重量:X3)、下記の計算式にしたがって、固形分濃度を算出した。
固形分濃度(重量%)=(X3-X1)×100/X2
【0106】
1,3-ブタジエン単位の含有割合測定
1,3-ブタジエン単位の含有割合は、ニトリルゴムのヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
【0107】
アクリロニトリル単位の含有割合測定
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6384に従い、ケルダール法により、ニトリルゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
【0108】
メタクリル酸単位の含有割合測定
2mm角のニトリルゴム0.2gに、2-ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求め(単位:ephr)、求めたカルボキシル基のモル数をメタクリル酸単位の量に換算することにより、ニトリルゴムにおけるメタクリル酸単位の含有割合を算出した。
【0109】
メタノール抽出分の重量
ラテックス組成物に含まれる固形分を3mm角に細断し、6gを秤量して、50mlのメタノールに分散させ、次いで、ソックスレー抽出器を用いて65℃で6時間抽出した後にメタノールを濾別し、濾液からメタノールを蒸発除去させ、次いで真空乾燥することによりメタノール抽出分(固形分)を得た。そして、抽出前の固形分に対する、得られたメタノール抽出分の重量割合(単位は、重量%)を求め、これをメタノール抽出分の重量とした。
【0110】
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)
ニトリルゴムをテトラヒドロフランに溶解し、メンブレンフィルターを通した後、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、以下の条件で測定し、ニトリルゴムの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。なお、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は標準ポリスチレン換算である。
測定器:「Alliance 2695」(Waters社製)
カラム:商品名「Plgel Mini Mix-C GUARD」(Agilent Technologies社製)と、「Plgel Mini Mix-C」(Agilent Technologies社製)2本を直列に接続。
検出器:示差屈折計RI
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
【0111】
メチルエチルケトン(MEK)不溶分含有量
アンモニア水溶液でpHを8に調整した、固形分濃度30%のラテックス40gを枠付きガラス板(16cm×23cm)に流延し、23℃、相対湿度50%で5日間静置して厚み0.2~0.3mmのフィルムを得た。このフィルムを縦5mm、横5mmの大きさに細分して試料とする。試料約0.2gの重量(A)を精秤した後、80メッシュのステンレス金網製の篭に入れた状態でメチルエチルケトン(MEK)80ml入りのビーカに浸漬し、23℃で24時間置いてから取り出し、篭の中のMEK吸収状態の不溶分を23℃の室内に1時間置いてから105℃で1時間加熱し、乾燥状態の不溶分の重量(C)を測定した。MEK不溶分含有量を下記計算式により求めた。
MEK不溶分含有量=(C/A)×100(重量%)
【0112】
クミルアルコール含有量
下記の装置およびカラムを用いて、ガスクロマトグラフィー分析を行うことにより、ラテックス中のクミルアルコール量を求めた。クミルアルコール量はラテックス中の固形分量に対する割合で表示した(単位:重量ppm)。
装置:商品名「Agilent 6890」(Agilent Technologies社製)
カラム:商品名「DB-1701」(Agilent Technologies社製
検出器:FID
【0113】
浸透ゴム層の厚みt 、および表面ゴム層の厚みt
実施例および比較例で製造した手袋について、中指の先から12cmの掌部分のゴム層が積層された断面を、光学顕微鏡(キーエンス社製、VHX-200)を用いて観察することで、浸透ゴム層の厚みt、および表面ゴム層の厚みtを測定した。具体的な測定方法について図1を参照して説明すると、浸透ゴム層の厚みtは、繊維基材の表面から、浸透したゴムの最深部までの距離を、10カ所測定し、測定結果の数平均値を算出することにより求めた。また、表面ゴム層の厚みtは、繊維基材の表面から、ゴム層の表面までの距離を、10カ所測定し、測定結果の数平均値を算出することにより求めた。
【0114】
外観
実施例および比較例で製造した手袋の表面を観察し、下記の評価基準で評価した。
3:クラックが無い
2:クラックが多少ある
1:クラックが多量にある
【0115】
柔軟性
実施例および比較例で製造した手袋を10人にそれぞれ着用してもらい下記の評価基準で評価した。
5:柔らかい
4:普通
3:少し硬い
2:硬い
1:非常に硬い
【0116】
耐摩耗性
摩耗試験はEN388に記載の方法に則って、マーチンデール式摩耗試験機(STM633:SATRA社製)を用いて評価を実施した。具体的には、実施例および比較例で製造した手袋について、所定の加重をかけながら摩擦を繰り返し、破損までの摩擦回数を得た。破損に至るまでの摩擦回数に従い、レベル0からレベル4までのレベルに分けられ、レベルが高いほど耐摩耗性に優れる。
LEVEL 4:回転数8,000回転以上
LEVEL 3:回転数2,000回転以上、8,000回転未満
LEVEL 2:回転数500回転以上、2,000回転未満
LEVEL 1:回転数100回転以上、500回転未満
LEVEL 0:回転数100回転未満
【0117】
実施例1
ラテックス組成物の調製
撹拌機付きの耐圧重合反応器に、アクリロニトリル30.0部、メタクリル酸5.5部、分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン0.5部、脱イオン水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部を仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン64.5部を仕込んだ。次いで、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、系内温度を30~40℃に保持して重合反応を開始した。そして、重合添加率が90%になった時点で、クメンハイドロパーオキシド0.04部、硫酸第一鉄0.005部、およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート0.003部を添加し、重合転化率が97%になるまで重合反応を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止することで、ニトリルゴムのラテックス(A1)を得た。
【0118】
得られたラテックス(A1)のpHおよび固形分濃度を調整して、固形分濃度40重量%、pH8のラテックス組成物を得た。また、ニトリルゴムの各単量体単位の含有割合、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を、上述した方法により測定した。さらに、得られたラテックス組成物について、MEK不溶分含有量、メタノール抽出分の重量およびクミルアルコール含有量を上述した方法により測定した。結果を表1に示す。
【0119】
ラテックス組成物中のニトリルゴム100部に対して、それぞれ固形分換算で、コロイド硫黄(細井化学工業社製)1.0部、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製)1.0部、酸化亜鉛1.5部、二酸化チタン3.0部となるように、各配合剤の水分散液を調製し、ラテックス組成物に添加した。なお、各配合剤の水分散液の添加の際には、ラテックス組成物を撹拌した状態で、所定の量をゆっくり添加した。添加物が均一に混合された後に、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロースを添加してラテックス組成物の粘度を3,000mPa・sに調整した。
【0120】
凝固剤溶液の調製
凝固剤としての硝酸カルシウム1.0重量%をメタノールに溶解させてなるメタノール溶液を、凝固剤溶液として調製した。
【0121】
手袋の製造
まず、上記により得られたラテックス組成物に対して、温度30℃、48時間の条件で、熟成(前加硫ともいう。)を施した。次いで、手袋形状の繊維基材(材質:ナイロン、繊維基材の基材層平均厚みd:720μm、線密度:300デニール)を被せたセラミックス手袋型を、上記の凝固剤溶液に2秒間浸漬し、凝固剤溶液から引き上げた後、温度30℃、1分間の条件で乾燥させた。その後、セラミックス手袋型を、上記のラテックス組成物に2秒間浸漬し、ラテックス組成物から引き上げた後、温度30℃、30分間の条件で乾燥させ、次いで温度70℃、10分間の条件で乾燥させることで、繊維基材上にゴム層を形成した。その後、ゴム層を形成したセラミックス手袋型を、60℃の温水に90秒間浸漬して、ゴム層から水溶性の不純物を溶出させた後、温度30℃、10分間の条件で乾燥させ、さらに温度125℃、30分間の条件で熱処理を行う事で、ゴム層中のニトリルゴムに架橋処理を施した。次いで、ゴム層が形成された繊維基材をセラミックス手袋型から剥がすことで、手袋(積層体)を得た。得られた手袋(積層体)について、上述した方法に従い、浸透ゴム層の厚みtおよび表面ゴム層の厚みtを測定し、外観、柔軟性および耐摩耗性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
実施例2
ラテックス組成物の調製
撹拌機付きの耐圧重合反応器に、アクリロニトリル30.0部、メタクリル酸5.5部、分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン0.5部、脱イオン水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部を仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン64.5部を仕込んだ。次いで、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、系内温度を30~40℃に保持して重合反応を開始した。そして、重合添加率が90%になった時点で、クメンハイドロパーオキシド0.005部、硫酸第一鉄0.005部、およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート0.003部を添加し、重合転化率が97%になるまで重合反応を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止することで、ニトリルゴムのラテックス(A2)を得た。
【0123】
上記にて得られたニトリルゴムのラテックス(A2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0124】
実施例3
ラテックス組成物の調製
撹拌機付きの耐圧重合反応器に、アクリロニトリル30.0部、メタクリル酸5.5部、分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン0.5部、脱イオン水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部を仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン64.5部を仕込んだ。次いで、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、系内温度を30~40℃に保持して重合反応を開始した。そして、重合添加率が90%になった時点で、クメンハイドロパーオキシド0.1部、硫酸第一鉄0.005部、およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート0.003部を添加し、重合転化率が97%になるまで重合反応を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止することで、ニトリルゴムのラテックス(A3)を得た。
【0125】
上記にて得られたニトリルゴムのラテックス(A3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0126】
比較例1
ラテックス組成物の調製
耐圧重合反応器に、アクリロニトリル30.0部、メタクリル酸5.5部、分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン0.5部、脱イオン水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部を仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン64.5部を仕込んだ。次いで、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、系内温度を30~40℃に保持して重合反応を開始し、重合転化率が97%になるまで重合反応を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止することで、ニトリルゴムのラテックス(A4)を得た。
【0127】
上記にて得られたニトリルゴムのラテックス(A4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0128】
比較例2
ラテックス組成物の調製
撹拌機付きの耐圧重合反応器に、アクリロニトリル30.0部、メタクリル酸5.5部、分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン0.5部、脱イオン水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部を仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン64.5部を仕込んだ。次いで、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、系内温度を30~40℃に保持して重合反応を開始した。そして、重合添加率が90%になった時点で、クメンハイドロパーオキシド1.1部、硫酸第一鉄0.005部、およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート0.003部を添加し、重合転化率が97%になるまで重合反応を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止することで、ニトリルゴムのラテックス(A5)を得た。
【0129】
上記にて得られたニトリルゴムのラテックス(A5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0130】
比較例3
ラテックス組成物の調製
撹拌機付きの耐圧重合反応器に、アクリロニトリル26.0部、メタクリル酸18.0部、分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン0.5部、脱イオン水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部を仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン56.0部を仕込んだ。次いで、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、系内温度を30~40℃に保持して重合反応を開始した。そして、重合添加率が90%になった時点で、クメンハイドロパーオキシド0.02部、硫酸第一鉄0.005部、およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート0.003部を添加し、重合転化率が97%になるまで重合反応を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止することで、ニトリルゴムのラテックス(A6)を得た。
【0131】
上記にて得られたニトリルゴムのラテックス(A6)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
表1に示すように、50,000~100,000の重量平均分子量を有するニトリルゴムを含有し、かつ、ラテックス組成物に含有される全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量が、前記全固形分の重量に対して、2~20重量%であるラテックス組成物から得られた積層体は、クラックが観察されず、しかも、柔軟性および耐摩耗性に優れるものであった(実施例1~3)。
一方、100,000を超える重量平均分子量を有するニトリルゴムを含有するラテックス組成物から得られた積層体は、多数のクラックが生じているものであった(比較例1)。
ラテックス組成物に含有される全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量が、全固形分の重量に対して、2重量%未満であるラテックス組成物から得られた積層体は、多数のクラックが生じており、柔軟性に劣るものであった(比較例2)。
100,000を超える重量平均分子量を有し、ラテックス組成物に含有される全固形分からメタノールにより抽出される抽出分の重量が、全固形分の重量に対して、20重量%超であるラテックス組成物から得られた積層体は、柔軟性および耐摩耗性に劣るものであった(比較例3)。
図1