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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/06 20060101AFI20230808BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20230808BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20230808BHJP
   H01B 11/20 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H01B11/06
H01B7/18 D
H01B11/00 J
H01B11/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020075331
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2021174601
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘
(72)【発明者】
【氏名】南畝 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-16451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0118716(US,A1)
【文献】特開2011-34906(JP,A)
【文献】特開2017-139189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/06
H01B 7/18
H01B 11/00
H01B 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の導体と、
前記一対の導体を被覆している絶縁体と、
前記絶縁体の周囲を覆うように設けられたシールド層と、を備え、
前記絶縁体が、フッ素樹脂からなり、
前記絶縁体の表面粗さRaが1.9μm以上であり、
前記シールド層は、樹脂テープの一方の面に金属層を設けた金属テープを、前記絶縁体の周囲に螺旋状に巻き付けて構成されている、
差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体は、前記一対の導体を一括して被覆するように構成されている、
請求項1に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体が、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーからなる、
請求項1または2に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
伝送する差動信号の帯域をF(GHz)としたとき、
前記シールド層における前記金属テープの巻きピッチが、72/F(mm)未満である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
差動信号を伝送する差動信号伝送用ケーブルとして、一対の導体と、一対の導体を被覆している絶縁体と、絶縁体の周囲を覆うように設けられたシールド層と、を備えたものが知られている。高速信号伝送用の差動信号伝送用ケーブルとしては、絶縁体の周囲に金属テープを縦添え巻きしてシールド層を構成した差動信号伝送用ケーブルが一般に用いられている。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-162565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、機器間だけでなく、機器内の信号伝送にも差動信号伝送用ケーブルを用いたいという要求が出てきている。機器内の配線として用いる場合、高密度に実装可能であることが求められる。差動信号伝送用ケーブルを高密度に実装するためには、差動信号伝送用ケーブルを狭ピッチでハンダ付けする必要があり、高い耐熱性が要求される。例えば、差動信号伝送用ケーブルの絶縁体として、比較的融点の低いPE(ポリエチレン)等の樹脂を用いた場合、ハンダ付けの際の熱により絶縁体が変形し、伝送特性が劣化してしまうという問題が発生する。
【0006】
この問題を解決するため、比較的融点が高いフッ素系樹脂を絶縁体に使用することが考えられる。しかし、フッ素樹脂からなる絶縁体を押出成形する際に、押出速度を上げると、絶縁体表面にメルトフラクチャと呼ばれる表面荒れが発生してしまう。メルトフラクチャが発生した絶縁体の周囲に、金属テープを縦添え巻きしてシールド層を形成すると、絶縁体表面とシールド層との間に空隙が生じてしまい、モード変換量(Scd21、差動モードから同相モードへの変換量)が大きくなり、伝送特性が劣化してしまう。メルトフラクチャの発生を抑制するために、絶縁体の押出速度を抑えることも考えられるが、この場合、生産性が低下しコストが高くなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、モード変換量が小さく、高密度実装が可能な耐熱性を有し、かつ生産性が高い差動信号伝送用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、一対の導体と、前記一対の導体を被覆している絶縁体と、前記絶縁体の周囲を覆うように設けられたシールド層と、を備え、前記絶縁体が、フッ素樹脂からなり、前記絶縁体の表面粗さRaが1.9μm以上であり、前記シールド層は、樹脂テープの一方の面に金属層を設けた金属テープを、前記絶縁体の周囲に螺旋状に巻き付けて構成されている、差動信号伝送用ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モード変換量が小さく、高密度実装が可能な耐熱性を有し、かつ生産性が高い差動信号伝送用ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図及びその拡大図、(b)は斜視図である。
図2】絶縁体の押出成形時の線速と絶縁体の表面粗さとの関係を示すグラフ図である。
図3】金属テープの断面図である。
図4図1の差動信号伝送用ケーブルを用いた多対ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図及びその拡大図、(b)は斜視図である。図1(a),(b)に示すように、差動信号伝送用ケーブル1は、一対の導体2と、一対の導体2を被覆している絶縁体3と、絶縁体3の周囲を覆うように設けられたシールド層4と、シールド層4の周囲に巻き付けられた押さえ巻きテープ5と、を備えている。
【0013】
一対の導体2は、銅等からなる導体線であり、差動信号を伝送する。一対の導体2は、長手方向に垂直な断面形状が円形状となるようにそれぞれ形成されており、導体2間の距離が一定となるように平行に設けられている。本実施の形態では、外径165μmの銀メッキ軟銅線からなる導体2を用いた。また、一対の導体2の配置ピッチ(導体2の中心同士の距離)を355μmとした。
【0014】
本実施の形態では、絶縁体3は、一対の導体2を一括して被覆するように構成されている。すなわち、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1は、二芯一括被覆構造となっている。
【0015】
絶縁体3は、断面視で楕円形状、または長円形状(長さの等しい平行な2本の直線と両直線の端部同士を接続する半円状の円弧とからなる形状、角丸長方形状)に形成され、その長軸方向が導体2の配列方向と一致し、かつ、その長軸方向及び短軸方向の中心が、導体2の中心同士を接続する線分の中心点と一致するように形成されている。ここでは、絶縁体3を、長径1194μm、短径614μmの楕円形状に形成した。
【0016】
本実施の形態では、絶縁体3として、融点が高く耐熱性が高いフッ素樹脂からなるものを用いる。これにより、ハンダ付け等による実装時の熱によって絶縁体3の変形を抑制することが可能になり、差動信号伝送用ケーブル1を機器内配線として用いる場合に、高密度実装に耐える耐熱性を付与することが可能になる。
【0017】
ここでは、絶縁体3として、誘電正接が小さく、GHz帯での伝送損失が小さいFEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)からなるものを用いた。ただし、これに限らず、絶縁体3に用いるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシアルカン(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等を用いることができる。
【0018】
絶縁体3は、一対の導体2を一括して覆うように、押出成形により形成される。生産性を高めコストを抑えるために、絶縁体3を押出成形する際の線速(押出速度)は、できるだけ速くすることが求められる。特に、絶縁体3としてFEPを用いる場合、FEPは腐食性材料であるため、押出成形時の線速を例えば2m/min未満と遅くした場合には、製造コストが大きくなり、差動信号伝送用ケーブル1を低コストで製造することは困難となる。しかし、フッ素樹脂からなる絶縁体3を高速で押出成形すると、絶縁体3の表面には、メルトフラクチャと呼ばれる表面荒れ(微小な凹凸、図1(a)中の拡大図参照)が発生してしまう。この微小な凹凸の影響により、絶縁体3の表面とシールド層6の内面との間に空隙3aが生じ、当該空隙3aの影響により、差動から同相へのモード変換が発生しやすくなってしまう。
【0019】
本発明者らは、押出成形時の線速と、絶縁体3の表面粗さRa(算術平均粗さ)との関係を実験により確認した。実験では、押出成形時の線速を1.5m/min、2.0m/min、3.6m/min、7.5m/min、及び15m/minとして、各線速で作製した試料の表面粗さRaを3箇所で測定し、表面粗さRaの平均値を求めた。導体2としては34AWGの銀メッキ軟銅線を用い、絶縁体3としては、FEPからなるものを用いた。絶縁体3の押出寸法は、長径1.243mm、短径0.637mmとした。表面粗さRaの測定は、レーザ顕微鏡(Keyence VK-8500)にて、絶縁体3の長径方向における中央を測定することとし、長手方向の異なる位置で3箇所測定を行った。1箇所の測定長は260μmとし、測定箇所の間隔は1mmとした。結果を表1及び図2に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1及び図2に示すように、押出成形時の線速を早くするほど、絶縁体3の表面粗さRaは大きくなる。本実施の形態では、生産性を高めコストを抑えるために、2.0m/min以上の高速で押出成形を行うようにした。そのため、絶縁体3の表面粗さRaは1.9μm以上となってしまう。そのため、絶縁体3の表面とシールド層6の内面との間に空隙3aが生じることは避けられず、当該空隙3aの影響により、差動から同相へのモード変換が発生しやすい状態となっている。
【0022】
詳細は後述するが、このモード変換の影響を抑制するために、本実施の形態では、シールド層4を横巻きタイプとして同相損失を意図的に増大させることで、モード変換量(Scd21)を抑制している。なお、押出成形時の線速を速くし過ぎて表面粗さRaが大きくなりすぎると、絶縁体3の周囲へのシールド層4の巻き付けが難しくなるため、絶縁体3の表面粗さRaは30.0μm以下とするとよい。なお、絶縁体3の周囲にシールド層4(金属テープ41)を巻き付ける際には、導体2を被覆した絶縁体3を、絶縁体3の外形に沿った中空部を有する筒状の軸合わせ部材を通すことで中心軸の軸合わせをした後に、絶縁体3の周囲にシールド層4(金属テープ41)を巻き付けている。ここで、軸合わせ部材の中空部の大きさは、絶縁体3の表面粗さRaを考慮して大きめにする必要があるため、絶縁体3の表面粗さRaが大きくなりすぎる(30.0μmより大きくなる)と、導体2を被覆した絶縁体3の軸がぶれやすくなり、絶縁体3の周囲へのシールド層4(金属テープ41)の巻き付けが困難となってしまう。
【0023】
シールド層4は、絶縁体3の周囲に金属テープ41を螺旋状に巻き付けて構成されている。図3に示すように、金属テープ41は、樹脂テープ41aの一方の面に金属層41bを設けて構成されている。本実施の形態では、厚さ4μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる樹脂テープ41aの一方の面に、厚さ8μmの銅からなる金属層41bを設けた銅PETテープを金属テープ41として用いた。金属テープ41の幅は3.5mmとした。シールド層4は、金属層41bが内側(絶縁体3側)となるように、絶縁体3の周囲に螺旋状に巻き付けられる。また、シールド層4は、その幅方向の一部が重なり合うように重ね巻きされる。
【0024】
このように、本実施の形態では、シールド層4は、絶縁体3の周囲に金属テープ41を螺旋状に巻き付けた所謂横巻きタイプのシールド方式となっている。シールド層4を横巻きタイプのシールド方式とすることで、例えば特許文献1等に記載されるように、同相損失を大きくして同相成分の信号を大きく減衰させることが可能になる。その結果、終端に到達する同相成分の信号を小さくして、モード変換量(Scd21)を小さくすることが可能になる。また、シールド層4を横巻タイプのシールド方式とすることで、金属テープ41を縦添え巻きした縦添え巻きタイプのシールド方式のシールド層を用いた場合と比較して、金属テープ1と絶縁体3との密着性を高めて空隙3aを小さくすることも可能になる。つまり、シールド層4を横巻タイプのシールド方式とすることで、絶縁体3とシールド層4間の空隙3a自体を小さくでき、かつ、空隙3aが存在する場合であっても、同相成分を減衰させてモード変換量を小さくすることが可能になる。
【0025】
なお、縦添え巻きタイプのシールド方式のシールド層を用いた場合、同相損失が小さいために同相成分の信号が減衰されず、モード変換量(Scd21)は大きくなってしまう。また、差動損失については、シールド層4を横巻タイプとした場合と、縦添え巻きタイプとした場合の両タイプでほぼ同等となる。
【0026】
ところで、シールド層4を横巻きタイプのシールド方式とした場合、特定の周波数領域で、差動信号が大きく減衰してしまうサックアウトと呼称される現象が発生する。そのため、伝送する差動信号がサックアウトの影響を受けないように、差動信号が大きく減衰する周波数であるサックアウト周波数を調整する必要がある。
【0027】
サックアウト周波数Fs(GHz)は、シールド層4を構成する金属テープ41の巻きピッチP(mm)に反比例することを実験により見出しており、下式
Fs=72/P
の経験式で表される。よって、伝送する差動信号の帯域をF(GHz)としたとき、シールド層4における金属テープ41の巻きピッチP(mm)を、72/F未満とすることで、サックアウト周波数Fsを伝送する差動信号の帯域Fよりも大きくし、サックアウトの影響を抑制することが可能になる。なお、差動信号の帯域Fとサックアウト周波数Fsとが近いと、伝送損失が大きくなるおそれがあるため、サックアウト周波数Fsをできるだけ大きく調整し、差動信号の帯域Fから離すとよい。本実施の形態では、25Gbitでの伝送を想定し、金属テープ41の巻きピッチPを2.4mmに設定した。
【0028】
シールド層4の周囲には、押さえ巻きテープ5が螺旋状に巻き付けられている。押さえ巻きテープ5は、可撓性を有する帯状部材からなり、例えばPET等の可撓性を有する絶縁性の樹脂層と、接着剤を含む接着層とが積層された構造を有する。接着層は、着色層を兼ねていてもよい。
【0029】
押さえ巻きテープ5は、接着層が内側、樹脂層が外側となるように、シールド層4の周囲に螺旋状に巻き付けられる。押さえ巻きテープ5を設けることにより、シールド層4における金属テープ41の絶縁体3からの剥がれを抑制することができる。ここでは、厚さ4μmのPETからなる樹脂層の一方の面に、厚さ1.5μmの着色層及び厚さ1.5μmの接着層を設けた、幅6mmの押さえ巻きテープ5を用いた。
【0030】
次に、差動信号伝送用ケーブル1を用いた多対ケーブル10について説明する。図4は、差動信号伝送用ケーブル1を用いた多対ケーブル10の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。多対ケーブル10は、束ねられた複数の差動信号伝送用ケーブル1と、複数の差動信号伝送用ケーブル1の周囲に一括して巻き付けられたシールドテープ12と、シールドテープ12の周囲を被覆する編組線13と、編組線13を被覆するジャケット14と、を有する。複数の差動信号伝送用ケーブル1は、シールドテープ12及び編組線13によって一括してシールドされている。
【0031】
差動信号伝送用ケーブル1の本数は、図4に示す例では8本であるが、特に限定されるものではなく、例えば、2本、8本、24本等でもよい。図4に示す例では、多対ケーブル10の断面中央に2本の差動信号伝送用ケーブル1が配置され、介在11を介してその周囲に6本の差動信号伝送用ケーブル1がほぼ等間隔に配置されている。
【0032】
シールドテープ12、編組線13、及びジャケット14のそれぞれの材料としては、一般的なケーブルにおいて用いられる材料を使用することができる。介在11は、例えば、紙、糸、又は発泡体からなる。発泡体は、例えば、発泡ポリプロピレンや発泡エチレン等の発泡ポリオレフィンである。
【0033】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1では、絶縁体3がフッ素樹脂からなり、絶縁体3の表面粗さRaが1.9μm以上であり、シールド層4は、樹脂テープ41aの一方の面に金属層41bを設けた金属テープ41を、絶縁体3の周囲に螺旋状に巻き付けて構成されている。
【0034】
絶縁体として、比較的融点が高いFEP等のフッ素樹脂を用いることで、ハンダ付けの際に絶縁体3が変形してしまうことを抑制でき、例えば機器内での高密度実装が可能になる。また、差動信号伝送用ケーブル1では、メルトフラクチャによって絶縁体3の表面粗さRaが1.9μm以上となっていてもよく、例えば2.0m/min以上の高速で押出成形が可能であり、生産性が高く低コストに製造が可能である。さらに、シールド層4を横巻きタイプのシールド方式とすることで、メルトフラクチャの影響で絶縁体3とシールド層4間に空隙3aが生じた場合であっても、同相信号を減衰させてモード変換量(Scd21)を小さくすることが可能となり、良好な伝送特性を実現できる。
【0035】
このように、本実施の形態によれば、モード変換量が小さく、高密度実装が可能な耐熱性を有し、かつ生産性が高い差動信号伝送用ケーブル1を実現できる。
【0036】
なお、生産性をより向上すべく、表面粗さRaを3.0μm以上としてもよい。この場合、例えば4.0m/min以上の高速で押出成形が可能であり、より生産性を向上し低コストに差動信号伝送用ケーブル1を製造することが可能である。
【0037】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0038】
[1]一対の導体(2)と、前記一対の導体(2)を被覆している絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)の周囲を覆うように設けられたシールド層(4)と、を備え、前記絶縁体(3)が、フッ素樹脂からなり、前記絶縁体(3)の表面粗さRaが1.9μm以上であり、前記シールド層(4)は、樹脂テープ(41a)の一方の面に金属層(41b)を設けた金属テープ(41)を、前記絶縁体(3)の周囲に螺旋状に巻き付けて構成されている、差動信号伝送用ケーブル(1)。
【0039】
[2]前記絶縁体(3)は、前記一対の導体(2)を一括して被覆するように構成されている、[1]に記載の差動信号伝送用ケーブル(1)。
【0040】
[3]前記絶縁体(3)が、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーからなる、[1]または[2]に記載の差動信号伝送用ケーブル(1)。
【0041】
[4]伝送する差動信号の帯域をF(GHz)としたとき、前記シールド層(4)における前記金属テープ(41)の巻きピッチが、72/F(mm)未満である、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル(1)。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0043】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、一対の導体2を一括して被覆するように絶縁体3を形成する場合について説明したが、これに限らず、一対の導体2が個別に絶縁体3に覆われた構造となっていてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…差動信号伝送用ケーブル
2…導体
3…絶縁体
4…シールド層
41…金属テープ
41a…樹脂テープ
41b…金属層
5…押さえ巻きテープ
図1
図2
図3
図4