(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用スラリー組成物、非水系二次電池用電極および非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20230808BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230808BHJP
C08F 265/10 20060101ALI20230808BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08F265/10
C08L51/06
(21)【出願番号】P 2020500389
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2019003483
(87)【国際公開番号】W WO2019159706
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018027230
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祐作
(72)【発明者】
【氏名】園部 健矢
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154949(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008555(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163806(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/001848(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/056457(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02693532(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹重合体に対して枝重合体が結合した構造を有するグラフト共重合体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物であって、
前記幹重合体は、ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を
15質量%以上60質量%以下の割合で含み、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を
10質量%以上50質量%以下の割合で含み、(メタ)アクリルアミド単量体単位を
30質量%以上60質量%以下の割合で含み、
前記幹重合体は、重量平均分子量が1.0×10
6以上2.0×10
7以下であり、そして、
前記枝重合体は、水可溶性単量体単位を80質量%以上の割合で含み、前記水可溶性単量体単位を形成する水可溶性単量体が、アクリロニトリル、n-ブチルアクリレート、スチレン、エチルアクリレート、スチレンスルホン酸ナトリウム及びメタクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1つである、非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記幹重合体のガラス転移温度が-10℃以上150℃以下である、請求項1に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記幹重合体のガラス転移温度が90℃以上150℃以下である、請求項1に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項4】
前記グラフト共重合体のグラフト率が、0.5質量%以上200質量%以下である、請求項1~3の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記グラフト共重合体のグラフト率が、0.5質量%以上10質量%未満である、請求項1~3の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項6】
前記グラフト共重合体の電解液膨潤度が、1倍超2倍以下である、請求項1~5の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項7】
前記グラフト共重合体の温度20℃における溶解度が、1g/100g-H
2O以上である、請求項1~6の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項8】
更に粒子状重合体を含む、請求項7に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項9】
電極活物質と、請求項1~8の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物とを含む、非水系二次電池電極用スラリー組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の非水系二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成された電極合材層を備える、非水系二次電池用電極。
【請求項11】
前記電極合材層の単位面積当たりの質量が、10.0mg/cm
2以上である、請求項10に記載の非水系二次電池用電極。
【請求項12】
請求項10または11に記載の非水系二次電池用電極を備える、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用スラリー組成物、非水系二次電池用電極および非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。
【0003】
ここで、二次電池用の電極は、通常、電極合材層を備えている。そして、電極合材層は、例えば、電極活物質と、結着材としての役割を担う重合体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物などとを分散媒に分散させてなるスラリー状の組成物(非水系二次電池電極用スラリー組成物)を集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成される。
【0004】
そこで、近年では、二次電池の更なる性能向上を達成すべく、電極合材層の形成に用いられるバインダー組成物の改良が試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1には、平均重合度が300~3000で鹸化度が70~100モル%であるポリビニルアルコールに、(メタ)アクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフトしてなり、且つポリビニルアルコール量およびポリ(メタ)アクリロトリル量がそれぞれ所定の範囲内であるグラフト共重合体を含むバインダー組成物が、活物質や金属箔との結着性が良好であり、且つ耐還元性に優れるとの報告がされている。そして特許文献1によれば、このバインダー組成物を用いて負極を形成することで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来のバインダー組成物を用いて電極を作製すると、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制することができないという問題があった。そして、このようなバインダー組成物を用いて得られる電極では、二次電池のサイクル特性を十分に高めることができなかった。
したがって、上記従来のバインダー組成物には、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制しつつ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させるという点において、未だ改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制しつつ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用スラリー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、充放電の繰り返しに伴う膨れが抑制されており、且つ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る非水系二次電池用電極を提供することを目的とする。
そして、本発明は、優れたサイクル特性を有する非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を所定の範囲内の割合で含有し、且つ重量平均分子量が所定の範囲内である幹重合体に対し、所定の単量体単位を含む枝重合体が結合した構造を有するグラフト共重合体を含むバインダー組成物を使用すれば、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制して、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、幹重合体に対して枝重合体が結合した構造を有するグラフト共重合体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物であって、前記幹重合体は、ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を5質量%以上89質量%以下の割合で含み、重量平均分子量が1.0×106以上2.0×107以下であり、そして、前記枝重合体は、水可溶性単量体単位を含み、前記水可溶性単量体単位を形成する水可溶性単量体の温度20℃における溶解度が、0.01g/100g-H2O以上25g/100g-H2O以下である、ことを特徴とする。上述した所定のグラフト共重合体を含むバインダー組成物を用いれば、充放電の繰り返しに伴う膨れが抑制され、且つ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る電極を作製することができる。
なお、本発明において、重合体が「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
また、本発明において、重合体に含まれる各単量体単位の「割合(質量%)」は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
そして、本発明において、単量体の温度20℃における「溶解度」(g/100g-H2O)は、EPA法(EPA Chemical Fate testing Guideline CG-1500 Water Solubility)で測定することができる。
【0011】
ここで、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記幹重合体が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を1質量%以上50質量%以下の割合で含み、(メタ)アクリルアミド単量体単位を10質量%以上60質量%以下の割合で含む、ことが好ましい。グラフト共重合体の調製に用いる幹重合体が上述した組成を有すれば、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを一層抑制しつつ、サイクル特性を更に向上させることができる。また、バインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物の粘度安定性を向上させることができる。加えて、バインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物により電極を作製する際、プレス処理を行い厚みが低減された電極が、プレス処理後にその厚みを復元してしまうこと(即ち、電極のスプリングバック)を抑制することができる。更には、得られる電極において、電極合材層と集電体の密着性(即ち、電極のピール強度)を向上させることができる。その上、電極の柔軟性を高めつつ、電極上の金属析出を抑制することができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0012】
そして、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記幹重合体のガラス転移温度が-10℃以上150℃以下であることが好ましい。グラフト共重合体の調製に用いる幹重合体が、上述した範囲内のガラス転移温度を有すれば、得られる電極の柔軟性を高めると共に、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを一層抑制しつつ、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「ガラス転移温度」は、本明細書の実施例に記載した方法に従って測定することができる。
【0013】
また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記幹重合体のガラス転移温度が90℃以上150℃以下であることがより好ましい。グラフト共重合体の調製に用いる幹重合体が、上述した範囲内のガラス転移温度を有すれば、得られる電極の柔軟性を高めると共に、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れをより一層抑制しつつ、二次電池のサイクル特性を特に向上させることができる。
【0014】
ここで、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記グラフト共重合体のグラフト率が、0.5質量%以上200質量%以下であることが好ましい。グラフト率が上述の範囲内であるグラフト共重合体を用いれば、得られる電極の柔軟性およびピール強度を高めると共に、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。更には、グラフト共重合体中に占める枝重合体の割合が過度に高まることによるデメリットを防ぐことができる。
なお、本発明において、グラフト共重合体の「グラフト率」は、グラフト共重合により幹重合に対して結合した枝重合体の質量の比(枝重合体の質量/幹重合体の質量)を意味し、本明細書の実施例に記載した方法に従って測定することができる。
【0015】
そして、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記グラフト共重合体のグラフト率が、0.5質量%以上10質量%未満であることがより好ましい。グラフト率が上述の範囲内であるグラフト共重合体を用いれば、得られる電極の柔軟性およびピール強度を高めると共に、二次電池のサイクル特性を特に向上させることができる。
【0016】
また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記グラフト共重合体の電解液膨潤度が、1倍超2倍以下であることが好ましい。電解液膨潤度が上述の範囲内であるグラフト共重合体を用いれば、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、グラフト共重合体などの重合体の「電解液膨潤度」は、本明細書の実施例に記載した方法に従って測定することができる。
【0017】
ここで、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記グラフト共重合体の温度20℃における溶解度が、1g/100g-H2O以上であることが好ましい。水に対する溶解度(20℃)が1g/100g-H2O以上である(即ち、水溶性である)グラフト共重合体を用いれば、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを一層抑制しつつ、サイクル特性を更に向上させることができる。加えて、スラリー組成物の粘度安定性を高めることができる。また、電極上にリチウムなどの金属が析出するのを抑制することができ、更には二次電池のレート特性を向上させることができる。
なお、本発明において、グラフト共重合体などの重合体の「温度20℃における溶解度」(g/100g-H2O)は、本明細書の実施例に記載した方法に従って測定することができる。
【0018】
そして、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、更に粒子状重合体を含むことが好ましい。粒子状重合体を含むバインダー組成物を用いれば、電極のピール強度および柔軟性を高めて、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「粒子状重合体」とは、少なくともバインダー組成物中において粒子形状を有する重合体であり、通常は非水溶性の重合体である。また、粒子状重合体が有する粒子形状は、例えば、レーザー回折法によって確認することができる。
【0019】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、上述した何れかの非水系二次電池電極用バインダー組成物とを含むことを特徴とする。このように、上述した何れかのバインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて形成される電極は、充放電の繰り返しに伴う膨れが抑制されており、また二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0020】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用電極は、上述した非水系二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成された電極合材層を備えることを特徴とする。このように、上述したスラリー組成物から形成される電極合材層を備える電極は、充放電の繰り返しに伴う膨れが抑制されており、また二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0021】
ここで、本発明の非水系二次電池用電極は、前記電極合材層の単位面積当たりの質量が、10.0mg/cm2以上であってもよい。単位面積当たりの質量が10.0mg/cm2以上である電極合材層を形成した場合であっても、電極の柔軟性を確保することができる。
【0022】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、上述した何れかの非水系二次電池用電極を備えることを特徴とする。上述した何れかのスラリー組成物を用いて形成される電極を備える二次電池は、サイクル特性に優れる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制しつつ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、充放電の繰り返しに伴う膨れが抑制されており、且つ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る非水系二次電池用電極を提供することができる。
そして、本発明によれば、優れたサイクル特性を有する非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、非水系二次電池電極用スラリー組成物を調製する際に用いることができる。そして、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いて調製した非水系二次電池電極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池の電極(非水系二次電池用電極)が有する電極合材層を形成する際に用いることができる。更に、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物から形成した電極合材層を有する非水系二次電池用電極を用いたことを特徴とする。
【0025】
(非水系二次電池電極用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、幹重合体に対して枝重合体が結合した構造を有する所定のグラフト共重合体を含み、任意に、粒子状重合体(上述したグラフト共重合体に該当するものを除く)、溶媒、およびその他の成分を更に含んでいてもよい。
【0026】
<グラフト共重合体>
ここで、本発明のバインダー組成物に含まれるグラフト共重合体の幹部分を構成する幹重合体は、ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を5質量%以上89質量%以下の割合で含み、重量平均分子量が1.0×106以上2.0×107以下である。一方、同グラフト共重合体の枝部分を構成する枝重合体は、温度20℃における溶解度が0.01g/100g-H2O以上25g/100g-H2O以下である水可溶性単量体から形成される水可溶性単量体単位を含む。このような幹重合体と枝重合体とからなるグラフト共重合体を含む本発明のバインダー組成物を用いて電極を製造すれば、充放電による電極の膨れを抑制することができる。そして、当該電極を備える二次電池に、優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0027】
<<幹重合体>>
[幹重合体の組成]
幹重合体は、ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を所定範囲内の割合で含むと共に、ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位以外の単量体単位(その他の単量体単位)を含む。その他の単量体単位としては、特に限定されないが、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位や(メタ)アクリルアミド単量体単位が好適に挙げられる。
【0028】
―ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位―
ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を形成し得るヒドロキシル基含有ビニル単量体は、ヒドロキシル基(-OH)およびビニル基(-CH=CH2)又はイソプロペニル基(-C(CH3)=CH2)を有する化合物であれば特に制限されない。例えば、ヒドロキシル基含有ビニル単量体は、ヒドロキシル基およびビニル基又はイソプロペニル基を有し、且つ当該ビニル基又はイソプロペニル基が有するエチレン性不飽和結合(C=C)が分子中に1つである単官能化合物であることが好ましい。そして、ヒドロキシル基含有ビニル単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド(N-メチロールアクリルアミド)、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミドが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ここで、スラリー組成物の粘度安定性を確保し、また得られる電極のスプリングバックを抑制しつつピール強度を向上させる観点からは、ヒドロキシル基含有ビニル単量体としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、N-メチロールアクリルアミドおよびN-ヒドロキシエチルアクリルアミドが好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドがより好ましい。
【0030】
そして、幹重合体中に含まれるヒドロキシル基含有ビニル単量体の割合は、幹重合体が含む全単量体単位の合計を100質量%とした場合、5質量%以上89質量%以下であることが必要であり、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。幹重合体のヒドロキシル基含有ビニル単量体の含有割合が5質量%未満であると、電極のピール強度が低下して、サイクル特性が損なわれる。一方、幹重合体のヒドロキシル基含有ビニル単量体の含有割合が89質量%超であると、スラリー組成物の粘度が過度に高まるため、電極作製の際にスラリー組成物の固形分濃度を低下させる必要が生じる。このため、二次電池にサイクル特性などのセル特性を十分に発揮させ得る電極を効率良く製造することができない。また、電極上の金属析出を抑制することができない場合がある。
【0031】
―エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位―
本発明において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を形成し得るエチレン性不飽和カルボン酸単量体は、通常、カルボキシル基中のヒドロキシル基以外にヒドロキシル基(-OH)を有しない。
そして、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。なお、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ここで、エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
また、エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
また、エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
また、エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、ジアクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
そして、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、などが挙げられる。
【0033】
ここで、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、分子中にエチレン性不飽和結合(C=C)を1つ有する単官能エチレン性不飽和カルボン酸単量体が好ましい。また、重合性の観点からは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびエチレン性不飽和ジカルボン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸がより好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸が更に好ましい。更に、得られるグラフト共重合体の電解液中での過度な膨潤を抑制する観点からは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてはアクリル酸が一層好ましい。
【0034】
そして、幹重合体中に含まれるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合は、幹重合体が含む全単量体単位の合計を100質量%とした場合、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、26質量%以上であることが一層好ましく、30質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましく、35質量%以下であることが特に好ましい。幹重合体のエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合が1質量%以上であれば、電極のピール強度を向上させることができる。一方、幹重合体のエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合が50質量%以下であれば、電極のスプリングバックを抑制することができる。
【0035】
―(メタ)アクリルアミド単量体単位―
(メタ)アクリルアミド単量体単位は、アクリルアミドおよび/またはメタクリルアミドである(メタ)アクリルアミド単量体を用いて形成される。
【0036】
そして、幹重合体中に含まれる(メタ)アクリルアミド単量体単位の割合は、幹重合体が含む全単量体単位の合計を100質量%とした場合、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以上であることが一層好ましく、35質量%以上であることが特に好ましく、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。幹重合体の(メタ)アクリルアミド単量体単位の含有割合が10質量%以上であれば、スラリー組成物中における電極活物質の分散性を高めて、当該スラリー組成物の粘度安定性を向上させることができる。また、(メタ)アクリルアミド単量体単位の含有割合が10質量%以上であることで粘度安定性が確保されたスラリー組成物を用いれば、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを一層抑制しつつ、サイクル特性を更に向上させることができる。加えて、電極のピール強度および柔軟性を向上させることができる。また、電極上の金属析出を抑制することができる。一方、幹重合体の(メタ)アクリルアミド単量体単位の含有割合が60質量%以下であれば、スラリー組成物の粘度低下が抑制されて、当該スラリー組成物の粘度安定性を向上させることができる。
【0037】
[幹重合体の性状]
―重量平均分子量―
幹重合体は、重量平均分子量が、1.0×106以上2.0×107以下であることが必要であり、2.5×106以上であることが好ましく、5.0×106以上であることがより好ましく、1.8×107以下であることが好ましく、1.5×107以下であることがより好ましい。幹重合体の重量平均分子量が1.0×106未満であると、グラフト共重合体の強度が低下する。そのため、電極の充放電による電極の膨らみを抑制することができず、二次電池のサイクル特性が損なわれる。また、得られる電極のピール強度も低下する。一方、幹重合体の重量平均分子量が2.0×107超であると、スラリー組成物の粘度が過度に高まるため、電極作製の際にスラリー組成物の固形分濃度を低下させる必要が生じる。このため、二次電池にサイクル特性などのセル特性を十分に発揮させ得る電極を効率良く製造することができない。また、電極上の金属析出を抑制することができない場合がある。加えて、グラフト共重合体が過度に剛直となるため、電極の柔軟性が損なわれ、また電極のスプリングバックを抑制することができない。
【0038】
―ガラス転移温度―
幹重合体は、ガラス転移温度が、-10℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが特に好ましく、150℃以下であることが好ましく、145℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることが更に好ましい。幹重合体のガラス転移温度が-10℃以上であれば、グラフト共重合体の強度が高まる。そのため、充放電による電極の膨らみを一層抑制しつつ、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。一方、幹重合体のガラス転移温度が150℃以下であれば、電極の柔軟性を確保することができる。
【0039】
<<枝重合体>>
上述した幹重合体に結合する枝重合体は、水可溶性単量体単位を含むことを必要とし、任意に、水可溶性単量体単位以外の単量体単位(任意の単量体単位)を含んでいてもよい。そして、枝重合体に含まれる水可溶性単量体単位を形成する水可溶性単量体は、温度20℃における溶解度が、0.01g/100g-H2O以上25g/100g-H2O以下であることが必要である。このように、水に対する溶解度(20℃)が所定の範囲内である水可溶性単量体を重合して枝重合体を形成することで、得られるスラリー組成物、電極、および二次電池の諸特性を向上させることができる。
具体的には、枝重合体の調製に用いる水可溶性単量体は、水に対する溶解度(20℃)が0.01g/100g-H2O以上であり水中での重合性が確保されている単量体である。一方で、水可溶性単量体は、同溶解度が25g/100g-H2O以下であるため、グラフト共重合体中で枝重合体が過度な親水性を帯びず、当該グラフト共重合体が、疎水性である電極活物質表面を良好に被覆できると推察される。そして、グラフト共重合体が電極活物質表面を良好に被覆することにより、以下の効果が得られると考えられる。
(1)スラリー組成物中において電極活物質の分散性が高まることにより、スラリー組成物の粘度安定性が向上する。
(2)グラフト共重合体が枝重合体を介して電極活物質表面を被覆するため、電極活物質とグラフト共重合体の間に空間が確保されて、リチウムイオン等の電荷担体の伝導性が向上する。これにより、電極上の金属析出が抑制され、また二次電池のレート特性が向上する。
(3)電解液中において電極活物質同士が強固に密着すると共に電極活物質の集電体からの離脱が抑制される。これにより、充放電後の電極の膨らみを抑制することができ、また充放電後も電極中の導電パスが十分に維持されるため、二次電池のサイクル特性が向上する。
【0040】
[水可溶性単量体単位]
水可溶性単量体単位を形成し得る水可溶性単量体は、上述した水に対する溶解度(20℃)を有すると共に、他の単量体と共重合可能な基(エチレン性不飽和結合など)を有する化合物であれば特に限定されない。
水可溶性単量体としては、例えば、アクリロニトリル(7g/100g-H2O)、n-ブチルアクリレート(1.4g/100g-H2O)、スチレン(0.28g/100g-H2O)、エチルアクリレート(1.5g/100g-H2O)、スチレンスルホン酸ナトリウム(22.0g/100g-H2O)、メタクリロニトリル(2.57g/100g-H2O)、メタクリルアミド(19.9g/100g-H2O)が挙げられる。なお水可溶性単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを一層抑制すると共に電極のピール強度および柔軟性を高め、二次電池のサイクル特性を更に向上させる観点から、アクリロニトリル、n-ブチルアクリレートが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0041】
ここで、水可溶性単量体の、水に対する溶解度(20℃)は、上述した通り0.01g/100g-H2O以上25g/100g-H2O以下であることが必要であり、0.1g/100g-H2O以上であることが好ましく、1g/100g-H2O以上であることがより好ましく、3g/100g-H2O以上であることが更に好ましく、20g/100g-H2O以下であることが好ましく、15g/100g-H2O以下であることがより好ましく、10g/100g-H2O以下であることが更に好ましい。水可溶性単量体の水に対する溶解度(20℃)が0.01g/100g-H2O未満であると、水中での重合が困難となる。加えて、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制することができず、また電極のピール強度および柔軟性が低下する。そのため、二次電池のサイクル特性が損なわれる。一方、水可溶性単量体の水に対する溶解度(20℃)が25g/100g-H2O超であると、グラフト共重合体が電極活物質表面を良好に被覆することができない。そのため、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを抑制することができず、サイクル特性が損なわれる。加えて、スラリー組成物の粘度安定性が低下し、また、電極上の金属析出を抑制することができず、更には二次電池のレート特性が損なわれる。
【0042】
そして、枝重合体中に含まれる水可溶性単量体単位の割合は、枝重合体が含む全単量体単位の合計を100質量%とした場合、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であること(すなわち、枝重合体は、水可溶性単量体単位のみからなること)が最も好ましい。枝重合体の水可溶性単量体単位の含有割合が80質量%以上であれば、グラフト共重合体が電極活物質表面を十分良好に被覆することができる。そのため、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを一層抑制しつつ、サイクル特性を更に向上させることができる。加えて、スラリー組成物の粘度安定性を高めることができる。また、電極上の金属析出を抑制することができ、更には二次電池のレート特性を向上させることができる。
【0043】
[任意の単量体単位]
水可溶性単量体以外に、枝重合体の調製に用い得る単量体は、水可溶性単量体と共重合可能であれば特に限定されない。そして、枝重合体中に含まれる任意の単量体単位の割合は、枝重合体が含む全単量体単位の合計を100質量%とした場合、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0044】
<<グラフト共重合体の調製方法>>
上述した幹重合体に対して、上述した枝重合体が結合した構造を有するグラフト共重合体を調製する方法は特に限定されないが、例えば、以下の(1)および(2)の方法が挙げられる。
(1)少なくともヒドロキシル基含有ビニル単量体を含む幹重合体用単量体組成物を重合して幹重合体を調製し、次いで、得られた幹重合体に対して、少なくとも水可溶性単量体を含む枝重合体用単量体組成物をグラフト重合させる方法。
(2)少なくともヒドロキシル基含有ビニル単量体を含む幹重合体用単量体組成物を重合して幹重合体を調製し、次いで、得られた幹重合体に対して、別途調製した水可溶性単量体単位を含む枝重合体を結合させる方法。
【0045】
なお、単量体組成物(幹重合体用単量体組成物および枝重合体用単量体組成物)における全単量体中の各単量体の含有割合は、通常、所望の重合体(幹重合体および枝重合体)における各単量体の含有割合と同様にする。
また、幹重合体の調製手法、幹重合体に対して枝重合体用単量体組成物をグラフト重合する手法、枝重合体の調製手法、幹重合体に対して枝重合体を結合させる手法は、特に限定されず、既知の手法を用いることができる。例えば、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の重合促進剤や重合開始剤を使用することができる。また反応溶媒としては、水が好ましい。
【0046】
<<グラフト共重合体の性状>>
[グラフト率]
上述のようにして得られるグラフト共重合体のグラフト率は、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが更に好ましく、3.0質量%以上であることが特に好ましく、200質量%以下であることが好ましく、100質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であることが特に好ましく、10質量%未満であることが最も好ましい。グラフト共重合体のグラフト率が0.5質量%以上であれば、枝重合体の存在によりグラフト共重合体全体が可塑化することで電極の柔軟性が確保されると共に、当該電極のピール強度を向上させることができる。また、グラフト共重合体が電極活物質表面を十分良好に被覆することができるため、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを一層抑制しつつ、サイクル特性を更に向上させることができる。更には、電極上の金属の析出も抑制することができる。一方、グラフト共重合体のグラフト率が200質量%以下であれば、グラフト共重合体が電解液中で過度に膨潤することもなく、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを一層抑制しつつ、二次電池のサイクル特性を十分に確保することができる。また、グラフト共重合体のグラフト率が200質量%以下であれば、グラフト共重合体中に占める枝重合体の割合が過度に高まることによるデメリットを防ぐことができる。例えば、水可溶性単量体としてアクリロニトリルを用いて枝重合体を調製した場合、グラフト共重合体中に占める枝重合体の割合が過度に高まると、電極の柔軟性およびピール強度の低下や、電極のスプリングバックおよび電極上の金属析出を十分に抑制できないといったデメリットが考えられる。しかしながら、上述したようにグラフト率が200質量%以下であれば、これらのデメリットが過度に生じることもない。
【0047】
[電解液膨潤度]
また、グラフト共重合体の電解液膨潤度は、1倍超であることが好ましく、2倍以下であることが好ましく、1.5倍以下であることがより好ましく、1.3倍以下であることが更に好ましい。グラフト共重合体の電解液膨潤度が上述の範囲内であれば、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを一層抑制しつつ、二次電池のサイクル特性を十分に確保することができる。
なお、グラフト共重合体の電解液膨潤度は、幹重合体および枝重合体の調製に用いる単量体の種類や、グラフト率を変更することにより調整することができる。
【0048】
[水に対する溶解度(20℃)]
そして、グラフト共重合体は、温度20℃における溶解度が1g/100g-H2O以上であることが好ましい。換言すると、グラフト共重合体は水溶性であることが好ましい。グラフト共重合体の水に対する溶解度(20℃)が1g/100g-H2O以上であれば、グラフト共重合体が電極活物質表面を十分良好に被覆することができる。そのため、充放電の繰り返しに伴う電極の膨らみを一層抑制しつつ、サイクル特性を更に向上させることができる。加えて、スラリー組成物の粘度安定性を高めることができる。また、電極上の金属析出を抑制することができ、更には二次電池のレート特性を向上させることができる。
【0049】
<粒子状重合体>
本発明のバインダー組成物が任意に含み得る粒子状重合体は、上述した所定のグラフト共重合体とは異なる重合体である。そして、上述した通り、通常、粒子状重合体は非水溶性である。従って、通常、粒子状重合体は、溶媒または分散媒として水を含む水系のバインダー組成物および水系のスラリー組成物中では粒子形状を有している。また、粒子状重合体は、電極合材層中では、粒子形状を維持したまま存在していてもよく、任意の非粒子形状を有して存在していてもよい。
グラフト共重合体に加え、粒子状重合体を更に含むバインダー組成物を用いれば、電極のピール強度および柔軟性を高めて、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0050】
ここで、粒子状重合体は、カルボキシル基およびヒドロキシル基の少なくとも一方を有することが好ましい。また、粒子状重合体は、カルボキシル基とヒドロキシル基の双方を有することが好ましい。
【0051】
そして、粒子状重合体としては、特に限定されることなく、例えば、共役ジエン系重合体、アクリル系重合体、不飽和カルボン酸系重合体などの任意の重合体を用いることができる
【0052】
<<共役ジエン系重合体>>
ここで、共役ジエン系重合体とは、共役ジエン単量体単位を含む重合体である。共役ジエン系重合体の具体例としては、特に限定されることなく、スチレン-ブタジエン系共重合体(SBR)などの芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含む共重合体、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム、アクリルゴム(NBR)(アクリロニトリル単位およびブタジエン単位を含む共重合体)、並びに、それらの水素化物などが挙げられる。
そして、例えば、カルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有し、且つ芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含む共重合体は、芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体および脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体と、カルボキシル基含有単量体および/またはヒドロキシル基含有単量体とを任意の方法で重合して得ることができる。また、当該共重合体は、任意にその他の単量体を更に用いて調製してもよい。
【0053】
[芳香族ビニル単量体]
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、芳香族ビニル単量体としてはスチレンが好ましい。
【0054】
[脂肪族共役ジエン単量体]
脂肪族共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、脂肪族共役ジエン単量体としては1,3-ブタジエンが好ましい。
【0055】
[カルボキシル基含有単量体]
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、「グラフト共重合体」の項で上述した「エチレン性不飽和カルボン酸単量体」と同様の単量体を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、カルボキシル基含有単量体としては、イタコン酸が好ましい。
【0056】
[ヒドロキシル基含有単量体]
芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含む共重合体の調製に用いるヒドロキシル基含有単量体としては、例えば、「グラフト共重合体」の項で上述した「ヒドロキシル基含有ビニル単量体」と同様の単量体を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ヒドロキシル基含有単量体としては、2-ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
【0057】
[その他の単量体]
芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含む共重合体の調製に用いるその他の単量体としては、上述した単量体と共重合可能な単量体が挙げられる。具体的には、その他の単量体としては、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体等のフッ素含有単量体;アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の硫酸エステル基含有単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有単量体;アリルグリシジルエーテル、アリル(メタ)アクリレートなどの架橋性単量体(架橋可能な単量体);エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアミノ基含有単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β-不飽和ニトリル単量体;などが挙げられる。これらのその他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0058】
なお、芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含む共重合体などの共役ジエン系重合体の調製に(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いる場合は、当該(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合は、共役ジエン系重合体を構成し得る全単量体100質量%当たり50質量%未満である。
【0059】
<<アクリル系重合体>>
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。
そして、例えば、カルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有するアクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体と、カルボキシル基含有単量体および/またはヒドロキシル基含有単量体とを任意の方法で重合して得ることができる。また、当該アクリル系重合体は、任意にその他の単量体を更に用いて調製してもよい。
なお、アクリル系重合体は、通常、アクリル系重合体を構成し得る全単量体100質量%当たり(メタ)アクリル酸エステル単量体を50質量%以上含み、上述した共役ジエン系重合体とは異なる。
【0060】
[(メタ)アクリル酸エステル単量体]
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレー卜、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のオクチルアクリレート、等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のオクチルメタクリレート、等のメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、n-ブチルアクリレートが好ましい。
【0061】
[カルボキシル基含有単量体]
アクリル系重合体の調製に用いるカルボキシル基含有単量体としては、「グラフト共重合体」の項で上述した「エチレン性不飽和カルボン酸単量体」と同様の単量体を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、カルボキシル基含有単量体としては、メタクリル酸が好ましい。
【0062】
[ヒドロキシル基含有単量体]
アクリル系重合体の調製に用いるヒドロキシル基含有単量体としては、例えば、上述した「ヒドロキシル基含有ビニル単量体」と同様の単量体を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ヒドロキシル基含有単量体としては、N-メチロールアクリルアミドが好ましい。
【0063】
[その他の単量体]
アクリル系重合体の調製に用いるその他の単量体としては、上述した単量体と共重合可能な単量体が挙げられる。具体的には、その他の単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β-不飽和ニトリル単量体;アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の硫酸エステル基含有単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有単量体;アリルグリシジルエーテル、アリル(メタ)アクリレートなどの架橋性単量体(架橋可能な単量体);スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアミノ基含有単量体;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
<<不飽和カルボン酸系重合体>>
また、不飽和カルボン酸系重合体は、不飽和カルボン酸単量体単位を含む重合体である。ここで、不飽和カルボン酸単量体単位を形成し得る不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などを用いることができる。
【0065】
<<粒子状重合体の調製方法>>
粒子状重合体の重合方法は、特に限定されることなく、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。そして、重合に使用され得る重合溶媒、乳化剤、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤などは、一般的なものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とすることができる。
【0066】
<<粒子状重合体の含有量>>
そして、本発明のバインダー組成物が粒子状重合体を含む場合、グラフト共重合体および粒子状重合体の含有量比が以下の通りであることが好ましい。即ち、グラフト共重合体の含有量が、粒子状重合体100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが更に好ましく、20質量部以上であることが特に好ましく、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、120質量部以下であることが更に好ましい。バインダー組成物中のグラフト共重合体および粒子状重合体の含有量比が上記範囲内であれば、スラリー組成物および当該スラリー組成物を用いて得られる電極の生産性を確保することができる。
【0067】
<その他の成分>
また、本発明のバインダー組成物は、上述した成分の他に、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の任意のその他の成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知の成分、例えば国際公開第2012/115096号に記載の成分を使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0068】
なお、本発明のバインダー組成物は、上述したグラフト共重合体や粒子状重合体以外の重合体を含むことができる。具体的には、バインダー組成物は、上述したグラフト共重合体以外の水溶性重合体を含んでいてもよい。
ここで、水溶性重合体としては、天然系高分子、半合成系高分子、および合成系高分子が挙げられる。より具体的には、水溶性重合体としては、例えば、増粘多糖類、アルギン酸およびこれらの塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、でんぷんなどの天然系高分子;カルボキシメチルセルロースおよびこれらの塩などの、原料である天然系高分子を化学的処理することによって得られる半合成系高分子;ポリビニルピロリドン、架橋ポリアクリル酸および非架橋ポリアクリル酸といったポリアクリル酸などの合成系高分子;を挙げることができる。これらの中でも、スラリー組成物の粘度安定性を高める観点、スラリー組成物中で電極活物質等の成分を良好に分散させる観点、電極のピール強度を高める観点、電極上の金属析出を抑制する観点からは、水溶性重合体としては半合成系高分子、合成系高分子が好ましく、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ポリアクリル酸がより好ましい。
【0069】
<溶媒>
本発明のバインダー組成物の調製に使用できる溶媒としては、上述したグラフト共重合体、並びに任意に用いる粒子状重合体および水溶性重合体を溶解または分散可能な既知の溶媒を用いることができる。中でも、溶媒としては、水を用いることが好ましい。なお、バインダー組成物の溶媒の少なくとも一部は、特に限定されることなく、グラフト共重合体、粒子状重合体および/または水溶性重合体の調製に用いた重合溶媒とすることができる。
【0070】
<バインダー組成物の調製方法>
そして、本発明のバインダー組成物は、例えば、溶媒中で、グラフト共重合体、並びに、任意に用いる粒子状重合体およびその他の成分を、既知の方法で混合することにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分を混合することにより、バインダー組成物を調製することができる。
なお、グラフト共重合体、並びに任意に用いる粒子状重合体および水溶性重合体は、水系溶媒中で重合して調製した場合には、水溶液または水分散体の状態でそのまま混合し、溶媒として水を含むバインダー組成物を調製することができる。
また、例えば、グラフト共重合体と電極活物質とを混合した後、任意に用いる粒子状重合体および/または水溶性重合体を添加するなど、バインダー組成物の調製と、後述するスラリー組成物の調製とを同時に実施してもよい。
【0071】
(非水系二次電池電極用スラリー組成物)
本発明のスラリー組成物は、電極活物質と、上述したバインダー組成物とを含むことを特徴とする。また、本発明のスラリー組成物は、上記電極活物質およびバインダー組成物以外に、その他の成分を更に含んでいてもよい。上述したバインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて電極を形成すれば、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制しつつ、当該電極を備える二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
以下、本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物がリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物である場合について詳述するが、本発明は下記の一例に限定されない。
【0072】
<電極活物質(負極活物質)>
ここで、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。リチウムを吸蔵および放出し得る物質としては、例えば、炭素系負極活物質、非炭素系負極活物質、および、これらを組み合わせた活物質などが挙げられる。
【0073】
<<炭素系負極活物質>>
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0074】
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。なお、炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0075】
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。なお、熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
また、本発明においては、炭素系負極活物質として、その表面の少なくとも一部が非晶質炭素で被覆された天然黒鉛(非晶質コート天然黒鉛)を用いてもよい。
【0076】
<<非炭素系負極活物質>>
非炭素系負極活物質は、炭素質材料または黒鉛質材料のみからなる炭素系負極活物質を除く活物質であり、非炭素系負極活物質としては、例えば金属系負極活物質を挙げることができる。
【0077】
金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系負極活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。そして、これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0078】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
なお、リチウムイオン二次電池の高容量化の観点からは、シリコン系負極活物質としては、ケイ素を含む合金およびSiOxが好ましい。
【0079】
ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、チタン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含む合金組成物が挙げられる。また、ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、アルミニウムと、鉄などの遷移金属とを含み、さらにスズおよびイットリウム等の希土類元素を含む合金組成物も挙げられる。
【0080】
<分散媒>
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の分散媒としては、特に限定されることなく、既知の分散媒、例えば、水、n-メチルピロリドン等を用いることができる。中でも、分散媒としては、水を用いることが好ましい。
なお、スラリー組成物の分散媒の少なくとも一部は、特に限定されることなく、スラリー組成物の調製に使用したバインダー組成物が含有していた溶媒とすることができる。
【0081】
<その他の成分>
また、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上述した成分の他に、その他の成分を更に含有していてもよい。そして、スラリー組成物に含まれ得るその他の成分としては、例えば、導電材;上述したバインダー組成物に含まれ得るその他の成分と同様の成分;が挙げられる。
【0082】
<スラリー組成物の調製方法>
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上記各成分を分散媒に分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と分散媒とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。
ここで、分散媒としては、通常は水を用いるが、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを用いてもよい。
【0083】
なお、スラリー組成物中の上記各成分の割合は、適宜調整することができる。
例えば、スラリー組成物中の電極活物質とグラフト共重合体との存在比(電極活物質:グラフト共重合体)は、固形分換算で90:10~99.5:0.5であることが好ましく、95:5~99:1(質量比)であることがより好ましい。
【0084】
(非水系二次電池用電極)
本発明の電極は、上述した本発明のスラリー組成物を用いて形成された電極合材層を有し、通常は、電極合材層が集電体上に形成された構造を有している。そして、電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、所定のグラフト共重合体とが含まれている。なお、電極合材層中に含まれている電極活物質およびグラフト共重合体等の各成分は、上述したスラリー組成物中に含まれていたものであり、当該各成分の好適な存在比は、バインダー組成物中及び/又はスラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明の電極は、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて形成した電極合材層を有しているので、充放電の繰り返しに伴う膨れが抑制されており、また二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0085】
<集電体>
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料からなる集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0086】
<電極合材層>
電極合材層は、例えば、スラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥する工程(乾燥工程)とを経て形成される。
【0087】
<<塗布工程>>
スラリー組成物を、集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。また、塗布後乾燥前の集電体上のスラリー組成物膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
なお、本発明では、枝重合体の存在によりグラフト共重合体が可塑化しているためと推察されるが、スラリー組成物を、集電体上に比較的多量に(例えば、集電体上(片面に)形成される電極合材層(特には、負極合材層)単位面積当たりの質量が10.0mg/cm2以上となるように)塗布して電極合材層を形成した場合であっても、得られる電極の柔軟性が確保される。ここで、電極合材層の単位面積当たりの質量の上限は、特に限定されないが、通常16.0mg/cm2以下である。
【0088】
<<乾燥工程>>
集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを有する電極を得ることができる。
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極のピール強度を向上させることができる。
ここで、枝重合体の存在によりグラフト共重合体が可塑化しているためと推察されるが、電極合材層を所定のグラフト重合体を含む本発明のスラリー組成物から形成すると、当該電極合材層は加圧処理を施された後でもスプリングバックを発生し難い。従って、高密度な電極を作製することができる。
【0089】
(非水系二次電池)
本発明の二次電池は、上述した本発明の電極を備える。例えば、本発明の二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解液を備え、正極および負極の少なくとも一方が、上述した本発明の電極である。つまり、本発明の二次電池は、正極が本発明の電極であって負極が既知の負極であってもよく、負極が本発明の電極であって正極が既知の正極であってもよく、正極および負極のいずれもが本発明の電極であってもよい。
そして、本発明の二次電池は、本発明の電極を備えているので、優れたサイクル特性を有する。
なお、以下では、一例として非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0090】
<正極>
正極は、特に制限されることなく、上述した本発明の電極とすることができる。つまり、正極は、例えば、本発明のスラリー組成物から形成した正極合材層と、集電体とを有することができる。
また、正極に本発明の電極を用いない場合は、正極としては、既知の正極、例えば、金属の薄板よりなる正極、或いは、集電体と集電体上に形成された正極合材層とを有する正極を用いることができる。ここで、正極合材層は、通常、正極活物質、導電材および結着材を含有し、任意に増粘剤等のその他の成分を更に含有することができる。また、集電体としては、アルミニウム等の金属材料からなる薄膜を用いることができる。そして、正極活物質、導電材、結着材、集電体上への正極合材層の形成方法などは、例えば特開2013-145763号公報に記載の方法を用いることができる。
【0091】
<負極>
負極は、特に制限されることなく、上述した本発明の電極とすることができる。つまり、負極は、例えば、本発明のスラリー組成物から形成した負極合材層と、集電体とを有することができる。
また、負極に本発明の電極を用いない場合は、負極は、既知の負極であってもよい。そして、既知の負極としては、例えば特開2013-145763号公報に記載の負極を用いることができる。
【0092】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂を用いた微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を用いた微多孔膜、ポリオレフィン系の繊維を用いた織布または不織布、絶縁性物質よりなる粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極合材層の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂を用いた微多孔膜が好ましい。中でも、ポリプロピレンの樹脂からなる微多孔膜がより好ましい。
【0093】
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。また、溶媒には、既知の添加剤、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)やエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012-204303号公報に記載の化合物を用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導性が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導性を調節することができる。
【0094】
<組立工程>
そして、本発明の二次電池は、特に制限されることなく、既知の組立方法を用いて製造することができる。具体的には、本発明の二次電池は、例えば、上述で得られた負極と、正極と、セパレータとを必要に応じて電池形状に巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより、製造することができる。ここで、二次電池の内部圧力の上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。また、二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
なお、二次電池が備える正極、負極、およびセパレータ等の電池部材は、通常、セパレータの片側に正極が、セパレータの他方の片側に負極が接するように配置される。より具体的には、セパレータの片側に正極合材層が、セパレータの他方の片側に負極合材層が、それぞれセパレータと接するように配置される。
【実施例】
【0095】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、幹重合体の重量平均分子量およびガラス転移温度;グラフト共重合体の電解液膨潤度、水に対する溶解度(20℃)およびグラフト率;スラリー組成物の粘度安定性;負極のスプリングバック抑制、ピール強度、表面におけるリチウム析出抑制、膨らみ抑制および柔軟性;並びに、二次電池のサイクル特性;は、それぞれ以下の方法を使用して測定、評価した。
【0096】
<重量平均分子量>
幹重合体を含む水溶液を、下記の溶離液で0.05質量%に希釈し、測定試料を得た。得られた測定試料を、以下の条件のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析し、幹重合体の重量平均分子量を求めた。
・検出器:東ソー社製「HLC-8020」
・分離カラム:昭和電工社製「Shodex OHpak SB-G、Shodex OHpak SB-807HQ,SB-806M HQ」(温度40℃)
・溶離液:0.1mol/L トリス緩衝液(pH9、0.1M塩化カリウム添加)
・流速:0.5mL/分
・標準試料:標準プルラン
【0097】
<ガラス転移温度>
幹重合体を含む水溶液を、相対湿度50%、温度23℃~26℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み1±0.3mmに成膜した。成膜したフィルムを、温度60℃の真空乾燥機で10時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとし、JIS K7121に準拠して、測定温度-100℃~180℃、昇温速度5℃/分の条件下、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー社製、製品名「DSC6220SII」)を用いてガラス転移温度(℃)を測定した。
【0098】
<電解液膨潤度>
グラフト共重合体を含む水溶液50gを、スペクトラポア6透析膜(Spectrum Laboratories社製、分画分子量=8,000)を用い、未反応単量体およびグラフト重合の際に生じるホモポリマーなどの低分子量成分を除去した(透析)。透析後に得られた水溶液を、相対湿度50%、温度23℃~25℃の環境下で乾燥させて、厚み1±0.3mmに成膜した。成膜したフィルムを、温度60℃の真空乾燥機で10時間乾燥させた後、裁断してフィルム片とし、得られたフィルム片の質量W0を精秤した。次に、得られたフィルム片を、温度60℃の環境下で、電解液としての濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤:ビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)に3日間浸漬し、膨潤させた。その後、膨潤させたフィルム片を引き上げ、表面の電解液をキムワイプで拭いた後、膨潤後のフィルム片の質量W1を精秤した。そして、電解液膨潤度=W1/W0(倍)を算出した。
【0099】
<水に対する溶解度(20℃)>
グラフト共重合体の水に対する溶解度(20℃)は、以下の通りろ過により測定、評価した。具体的には、固形分換算で10±0.5gのグラフト共重合体をイオン交換水100gに添加し、温度20℃、pH7の環境下、ディスパー(回転数:2,000rpm)にて2時間混合した。次に、得られた混合物を400メッシュのスクリーンに通過させてろ過した。そして、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残った残渣を秤量し、添加したグラフト共重合体の質量から差し引くことにより、イオン交換水中に溶解したグラフト共重合体の質量(g)を、グラフト共重合体の水に対する溶解度(20℃)として算出した。
そして、グラフト共重合体の水に対する溶解度(20℃)が1g/100g-H2O以上である場合は溶解度が十分である(水溶性である。「A」評価)、1g/100g-H2O未満である場合は溶解度が不十分である(水溶性でない。「B」評価)として評価した。
【0100】
<グラフト率>
グラフト共重合体を含む水溶液50gを、スペクトラポア6透析膜(Spectrum Laboratories社製、分画分子量=8,000)を用い、未反応単量体およびグラフト重合の際に生じるホモポリマーなどの低分子量成分を除去した(透析)。グラフト重合のため系内に添加した単量体(水可溶性単量体)の量と、透析による水溶液の固形分減少率を元に、幹重合体にグラフト重合した単量体(水可溶性単量体)の量(すなわち、枝重合体の量)を求め、以下の式によりグラフト率(質量%)を算出した。
グラフト率(質量%)=グラフト重合した単量体(水可溶性単量体)の量(g)/幹重合体の量(g)×100
【0101】
<粘度安定性>
B型粘度計(東機産業社製、製品名「TVB-10」、回転数:60rpm)を用いて、得られたスラリー組成物の粘度η0を測定した。次に、粘度を測定したスラリー組成物を、プラネタリーミキサー(回転数:60rpm)を用いて24時間撹拌し、撹拌後のスラリー組成物の粘度η1を、上記と同様のB型粘度計(回転数:60rpm)を用いて測定した。そして、撹拌前後のスラリー組成物の粘度維持率Δη=η1/η0×100(%)を算出し、以下の基準にてスラリー組成物の粘度安定性を評価した。なお、粘度測定時の温度は25℃であった。粘度維持率Δηの値が100%に近いほど、スラリー組成物の粘度安定性が優れていることを示す。
A:粘度維持率Δηが90%以上110%以下
B:粘度維持率Δηが80%以上90%未満
C:粘度維持率Δηが70%以上80%未満
D:粘度維持率Δηが70%未満、または110%超
【0102】
<スプリングバック抑制>
負極のスプリングバックは、負極合材層密度に基づいて評価した。具体的には、まず、作製した負極原反の負極合材層側を温度25±3℃の環境下、線圧11t(トン)の条件でロールプレスし、負極合材層密度を1.70g/cm3に調整した。その後、温度25±3℃、相対湿度50±5%の環境下にて、当該負極を1週間放置した。そして、放置後の負極の負極合材層密度(g/cm3)を測定し、以下の基準で評価した。放置後の負極合材層密度が高いほど負極のスプリングバックが抑制されていることを示す。
A:放置後の負極合材層密度が1.65g/cm3以上
B:放置後の負極合材層密度が1.60g/cm3以上1.65g/cm3未満
C:放置後の負極合材層密度が1.50g/cm3以上1.60g/cm3未満
D:放置後の負極合材層密度が1.50g/cm3未満
【0103】
<ピール強度>
作製した負極を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とした。次に、負極合材層を有する面を下にして負極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力(N/m)を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。上記と同様の測定を3回行い、その平均値を求めて、以下の基準により評価した。応力の平均値が大きいほど、負極がピール強度に優れることを示す。
A:応力の平均値が2.5N/m以上
B:応力の平均値が2.0N/m以上2.5N/m未満
C:応力の平均値が1.5N/m以上2.0N/m未満
D:応力の平均値が1.5N/m未満
【0104】
<表面におけるリチウム析出抑制>
製造した二次電池を、温度-10℃の環境下、1Cの定電流で充電深度(SOC)100%まで満充電した。また、満充電した二次電池を解体して負極を取り出し、負極が有する負極合材層の表面状態を観察した。そして、負極合材層の表面に析出したリチウムの面積を測定し、負極上へのリチウム析出率=(析出したリチウムの面積/負極合材層の表面の面積)×100(%)を算出した。そして、以下の基準により評価した。リチウム析出率が低いほど、二次電池として良好であることを示す。
A:リチウム析出率が10%未満
B:リチウム析出率が10%以上20%未満
C:リチウム析出率が20%以上30%未満
D:リチウム析出率が30%以上
【0105】
<膨らみ抑制>
製造した二次電池を、電極が電解液に浸漬されている状態で、温度25℃の環境下で5時間静置した。次に、静置した二次電池を、温度25℃の環境下、レート0.2Cの定電流法にてセル電圧3.65Vまで充電した。その後、充電した二次電池に対して、温度60℃の環境下、12時間、エージング処理を行った。続けて、エージング処理を行った二次電池を、温度25℃の環境下、レート0.2Cの定電流法にてセル電圧3.00Vまで放電した。そして、放電処理を行った二次電池を解体し、負極全体の厚みから集電体の厚みを除いた値を、サイクル前の負極の厚み(d0)として測定した。
次に、再度二次電池を組み立て、組み立てられた二次電池に対し、温度25℃の環境下、セル電圧4.20V~3.00V、充放電レート1Cの条件にて充放電操作を50サイクル行った。最後に、50サイクル行った後の二次電池に対し、温度25℃の環境下、レート1Cにて充電を行った。そして、充電された状態の二次電池を解体して負極を取り出し、負極全体の厚みから集電体の厚みを除いた値を、サイクル後の負極の厚み(d1)として測定した。そして、サイクル前の負極の厚みd0に対する、サイクル後の負極の厚みd1の変化率を、サイクル後の負極の膨らみ={(d1-d0)/d0}×100(%)として求め、以下の基準により評価した。サイクル後の負極の膨らみが小さいほど、充放電サイクルを繰り返しても負極合材層が構造を保ち、二次電池が長寿命であることを示す。
A:サイクル後の負極の膨らみが25%未満
B:サイクル後の負極の膨らみが25%以上30%未満
C:サイクル後の負極の膨らみが30%以上35%未満
D:サイクル後の負極の膨らみが35%以上
【0106】
<柔軟性>
作製した負極を、負極合材層を内側にして円筒に巻き付け、巻き付けた後の負極合材層の割れ発生の有無により評価した。より具体的には、3.0mmφ、2.5mmφ、2.0mmφおよび1.5mmφの径を有する円筒を準備し、各負極を、径の大きい円筒から順に巻き付け、以下の基準により評価した。
A:1.5mmφの円筒で割れない。
B:2.0mmφの円筒で割れないが、1.5mmφの円筒で割れる。
C:2.5mmφの円筒で割れないが、2.0mmφの円筒で割れる。
D:3.0mmφの円筒で割れないが、2.5mmφの円筒で割れる。
【0107】
<サイクル特性>
作製した二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC-CV充電(上限セル電圧4.40V)を行い、0.2Cの定電流法にて3.00VまでCC放電を行なった。
その後、温度25℃の環境下、セル電圧4.40-3.00V、1.0Cの充放電レートにて充放電の操作を300サイクル行った。そして、1サイクル目の容量、すなわち初期放電容量X1、および、300サイクル目の放電容量X2を測定し、ΔC=(X2/X1)×100(%)で示される容量変化率を求め、以下の基準により評価した。この容量変化率ΔCの値が大きいほど、サイクル特性に優れていることを示す。
A:ΔCが80%以上である。
B:ΔCが75%以上80%未満である。
C:ΔCが70%以上75%未満である。
D:ΔCが70%未満である。
【0108】
(実施例1)
<グラフト共重合体の調製>
<<幹重合体の調製>>
セプタム付き1Lフラスコに、イオン交換水770部を投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてのアクリル酸35部と、(メタ)アクリルアミド単量体としてのアクリルアミド40部と、ヒドロキシル基含有ビニル単量体としてのN-ヒドロキシエチルアクリルアミド25部とを混合して、シリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合促進剤としてL-アスコルビン酸ナトリウムの1.0%水溶液6.5部(反応開始時の量)をシリンジで投入し、10分後に重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.0%水溶液12.5部(反応開始時の量)をシリンジでフラスコ内に追加した。反応開始1時間後に温度を55℃に昇温し、重合反応を進めた。2時間後、重合促進剤として亜硫酸水素ナトリウムの1.0%水溶液7.3部をシリンジで投入し、10分後に重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.0%水溶液9.4部をシリンジでフラスコ内に追加した。3時間後、重合促進剤として亜硫酸水素ナトリウムの1.0%水溶液7.3部をシリンジで投入し、10分後に重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.0%水溶液9.4部をシリンジでフラスコ内に追加した。4時間後、重合促進剤として亜硫酸水素ナトリウムの1.0%水溶液7.3部をシリンジで投入し、10分後に重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.0%水溶液9.4部をシリンジでフラスコ内に追加した。5時間後、重合促進剤として亜硫酸水素ナトリウムの1.0%水溶液7.3部をシリンジで投入し、10分後に重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.0%水溶液9.4部をシリンジでフラスコ内に追加した。6時間後、反応停止剤を添加し、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させた。その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整することにより、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、(メタ)アクリルアミド単量体単位およびヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を含む幹重合体を含有する水溶液を得た。そして、上述の方法に従って、得られた幹重合体の重量平均分子量およびガラス転移温度を評価した。結果を表1に示す。
なお、得られた幹重合体の組成は、幹重合体の重合に用いた全単量体に占める各単量体の比率(仕込み比率)と同じであった。
<<グラフト重合>>
セプタム付き3Lフラスコに、上述のようにして得られた幹重合体100部、イオン交換水948部を投入して、温度55℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、水可溶性単量体としてのアクリロニトリル12部をシリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合促進剤として亜硫酸水素ナトリウムの1.0%水溶液90.0部をシリンジで投入し、10分後に重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.0%水溶液120部をシリンジでフラスコ内に追加した。6時間後、反応停止剤を添加し、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させた。その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整することにより、幹重合体に対して、アクリロニトリル単位のみからなる枝重合体が結合した構造を有するグラフト共重合体を含む水溶液を得た。そして、上述の方法に従って、グラフト共重合体の電解液膨潤度、水に対する溶解度(20℃)およびグラフト率を評価した。結果を表1に示す。
【0109】
<粒子状重合体の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン65部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン35部、カルボキシル基含有単量体としてのイタコン酸2部、ヒドロキシル基含有単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレート1部、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、溶媒としてのイオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を投入し、十分に撹拌した後、温度55℃に加温して重合を開始した。単量体消費量が95.0%になった時点で冷却し、反応を停止した。こうして得られた重合体を含んだ水分散体に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後、温度30℃以下まで冷却することにより、カルボキシル基およびヒドロキシル基を有する粒子状重合体としてのスチレン-ブタジエン系共重合体を含む水分散液を得た。
【0110】
<バインダー組成物およびスラリー組成物の調製>
本実施例では、以下の通り、スラリー組成物の調製に先立ってバインダー組成物を予め調製することなく、グラフト共重合体および粒子状重合体を含有するバインダー組成物を含むスラリー組成物を調製した。即ち、バインダー組成物およびスラリー組成物を同一工程内で調製した。
即ち、プラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(理論容量:360mAh/g)98部と、上述で得られたグラフト共重合体を含む水溶液(固形分濃度:4.5%)を固形分相当で1部とを投入した。さらに、イオン交換水にて固形分濃度が60%となるように希釈し、その後、回転速度45rpmで60分混練した。その後、上述で得られた粒子状重合体を含む水分散液(固形分濃度:40%)を固形分相当で1部投入し、回転速度40rpmで40分混練した。そして、粘度が3500±500mPa・s(B型粘度計、25℃、60rpmで測定)となるようにイオン交換水を加えることにより、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を調製した。
そして、得られたリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を用いて、上述の方法に従って、スラリー組成物の粘度安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0111】
<リチウムイオン二次電池用負極の製造>
上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の表面に、塗付量(負極合材層の単位面積当たりの質量)が11.0mg/cm2となるように塗布した。その後、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物が塗布された銅箔を、400mm/分の速度で、温度80℃のオーブン内を2分間、さらに温度110℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、集電体上に負極合材層が形成された負極原反を得た。
そして、得られた負極原反を用いて、上述の方法に従って、負極のスプリングバックを評価した。結果を表1に示す。
次に、得られた負極原反をロールプレスして負極合材層密度が1.68~1.72g/cm3となるように調整した。さらに、真空条件下、温度105℃の環境下に4時間置くことにより、リチウムイオン二次電池用負極を得た。
そして、得られた負極を用いて、上述の方法に従って、負極のピール強度および柔軟性を評価した。結果を表1に示す。
【0112】
<リチウムイオン二次電池用正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのLiCoO2100部、導電材としてのアセチレンブラック2部(電気化学工業製、商品名「HS-100」)、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ化学製、商品名「KF-1100」)2部を添加し、さらに、分散媒としての2-メチルピリロドンを全固形分濃度が67%となるように加えて混合し、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を調製した。
続いて、得られたリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の上に、塗布量が26.0~27.0mg/cm2となるように塗布した。その後、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物が塗布されたアルミ箔を、0.5m/分の速度で温度60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、乾燥させた。その後、温度120℃にて2分間加熱処理して、正極原反を得た。
そして、得られた正極原反をロールプレス機にて正極合材層密度が3.40~3.50g/cm3となるようにプレスし、さらに、分散媒の除去を目的として、真空条件下、温度120℃の環境下に3時間置くことにより、正極を得た。
【0113】
<リチウムイオン二次電池の製造>
単層のポリプロピレン製セパレータ、上記の負極および正極を用いて、捲回セル(放電容量520mAh相当)を作製し、アルミ包材内に配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤:ビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を充填した。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、温度150℃のヒートシールをしてアルミ包材を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、得られたリチウムイオン二次電池を用いて、上述の方法に従って、負極の膨らみ抑制および表面におけるリチウム析出抑制、並びにサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
(実施例2)
幹重合体の調製に際し、L-アスコルビン酸ナトリウムの1.0%水溶液の反応開始時の量を6.5部から5.2部に変更し、過硫酸カリウムの2.0%水溶液の反応開始時の量を12.5部から10部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
(実施例3)
幹重合体の調製に際し、アクリル酸の量を30部、アクリルアミドの量を35部、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドの量を35部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
(実施例4)
幹重合体の調製に際し、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドを2-ヒドロキシエチルアクリレートに変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(実施例5)
幹重合体の調製に際し、L-アスコルビン酸ナトリウムの1.0%水溶液の反応開始時の量を6.5部から10部に変更し、過硫酸カリウムの2.0%水溶液の反応開始時の量を12.5部から20部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
(実施例6)
幹重合体の調製に際し、L-アスコルビン酸ナトリウムの1.0%水溶液の反応開始時の量を6.5部から4.0部に変更し、過硫酸カリウムの2.0%水溶液の反応開始時の量を12.5部から7.5部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
(実施例7)
幹重合体の調製に際し、アクリル酸の量を25部、アクリルアミドの量を30部、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドの量を45部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
(実施例8)
幹重合体の調製に際し、アクリル酸の量を3部、アクリルアミドの量を55部、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドの量を42部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(実施例9)
幹重合体の調製に際し、アクリル酸の量を70部、アクリルアミドの量を5部、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドの量を25部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例10)
グラフト重合によりグラフト共重合体を調製するに際し、アクリロニトリルの量を3.5部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
(実施例11)
グラフト重合によりグラフト共重合体を調製するに際し、アクリロニトリルの量を25部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
(実施例12)
グラフト重合によりグラフト共重合体を調製するに際し、アクリロニトリルの量を45部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0125】
(実施例13)
グラフト重合によりグラフト共重合体を調製するに際し、アクリロニトリルの量を300部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0126】
(実施例14)
グラフト重合によりグラフト共重合体を調製するに際し、アクリロニトリルをスチレンに変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0127】
(実施例15)
グラフト重合によりグラフト共重合体を調製するに際し、アクリロニトリルをn-ブチルアクリレートに変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0128】
(実施例16)
グラフト重合によりグラフト共重合体を調製するに際し、アクリロニトリル12部をスチレンスルホン酸ナトリウム20部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0129】
(実施例17)
スラリー組成物を調製するに際し、負極活物質としての人造黒鉛98部を、人造黒鉛(理論容量:360mAh/g)88.2部およびSiOx(理論容量:2300mAh/g)9.8部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0130】
(比較例1)
幹重合体の調製に際し、アクリル酸の量を46部、アクリルアミドの量を51部、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドの量を3部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0131】
(比較例2)
幹重合体の調製に際し、アクリル酸の量を2部、アクリルアミドの量を3部、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドの量を95部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0132】
(比較例3)
幹重合体の調製に際し、L-アスコルビン酸ナトリウムの1.0%水溶液の反応開始時の量を6.5部から20部に変更し、過硫酸カリウムの2.0%水溶液の反応開始時の量を12.5部から40部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0133】
(比較例4)
幹重合体に対して、グラフト重合を行わず、バインダー組成物およびスラリー組成物の調製に際し、グラフト共重合体に替えて幹重合体を用いた。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、電解液膨潤度および水に対する溶解度(20℃)の測定対象を幹重合体とし、更にはグラフト率を測定しなかった以外は、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0134】
(比較例5)
グラフト重合によりグラフト共重合体を調製するに際し、アクリロニトリル12部を2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(水に対する溶解度(20℃):100g/100g-H2O)50部に変更した。上記以外は、実施例1と同様にして、幹重合体、グラフト共重合体、粒子状重合体、バインダー組成物、スラリー組成物、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表2に示す。
【0135】
なお、以下に示す表1および2中、
「AA」は、アクリル酸単位を示し、
「AAm」は、アクリルアミド単位を示し、
「HEAAm」は、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド単位を示し、
「2-HEA」は、2-ヒドロキシエチルアクリレート単位を示し、
「AN」は、アクリロニトリル単位を示し、
「ST」は、スチレン単位を示し、
「BA」は、n-ブチルアクリレート単位を示し、
「NaSS」は、スチレンスルホン酸ナトリウム単位を示し、
「AMPS」は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸単位を示し、
「SBR」は、スチレン-ブタジエン系共重合体を示す。
【0136】
【0137】
【0138】
表1~2より、ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を所定の範囲内の割合で含み、且つ重量平均分子量が所定の範囲内である幹重合体に対して、所定の水可溶性単量体単位を含む枝重合体が結合した構造を有するグラフト共重合体を含むバインダー組成物を用いて負極を作製した実施例1~17では、充放電に伴う負極の膨らみを抑制しつつ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させうることが分かる。更に、実施例1~17では、スラリー組成物が粘度安定性に優れ、負極が優れたピール強度および柔軟性を備え、また負極のスプリングバックや表面でのリチウムの析出が十分に抑制されていることが分かる。
一方、グラフト共重合体を構成する幹重合体におけるヒドロキシル基含有ビニル単量体単位の含有割合が所定の値未満である比較例1では、充放電に伴う負極の膨らみを抑制できず、二次電池のサイクル特性が低下していることが分かる。更に、比較例1では、負極がピール強度および柔軟性に劣り、また負極のスプリングバックや表面でのリチウムの析出を十分に抑制できないことが分かる。
また、グラフト共重合体を構成する幹重合体におけるヒドロキシル基含有ビニル単量体単位の含有割合が所定の値超である比較例2では、充放電に伴う負極の膨らみを抑制できず、二次電池のサイクル特性が低下していることが分かる。更に、比較例2では、負極がピール強度に劣り、また負極表面でのリチウムの析出を十分に抑制できないことが分かる。
そして、グラフト共重合体を構成する幹重合体の重量平均分子量が所定の値未満である比較例3では、充放電に伴う負極の膨らみを抑制できず、二次電池のサイクル特性が低下していることが分かる。更に、比較例3では、負極がピール強度および柔軟性に劣り、また負極表面でのリチウムの析出を十分に抑制できないことが分かる。
加えて、グラフト共重合体に替えて、グラフト重合を実施していない幹重合体を用いた比較例4では、充放電に伴う負極の膨らみを抑制できず、二次電池のサイクル特性が低下していることが分かる。更に、比較例4では、スラリー組成物が粘度安定性に劣り、負極がピール強度および柔軟性に劣り、また負極のスプリングバックや表面でのリチウムの析出を十分に抑制できないことが分かる。
また、グラフト共重合体を調製する際に、水に対する溶解度(20℃)が所定の値超である水可溶性単量体をグラフト重合した比較例5では、充放電に伴う負極の膨らみを抑制できず、二次電池のサイクル特性が低下していることが分かる。更に、比較例5では、負極がピール強度および柔軟性に劣り、また負極のスプリングバックや表面でのリチウムの析出を十分に抑制できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明によれば、充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制しつつ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、充放電の繰り返しに伴う膨れが抑制されており、且つ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る非水系二次電池用電極を提供することができる。
そして、本発明によれば、優れたサイクル特性を有する非水系二次電池を提供することができる。