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特許7327479ジシアノスチリル基を有する複素環化合物を含むウェットエッチング可能なレジスト下層膜形成組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ジシアノスチリル基を有する複素環化合物を含むウェットエッチング可能なレジスト下層膜形成組成物
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/11 20060101AFI20230808BHJP
   G03F 7/40 20060101ALI20230808BHJP
   G03F 7/42 20060101ALI20230808BHJP
   G03F 7/26 20060101ALI20230808BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20230808BHJP
   C07D 251/34 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
G03F7/11 502
G03F7/40 521
G03F7/42
G03F7/26 511
G03F7/20 521
G03F7/20 501
C07D251/34 F CSP
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021526818
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023670
(87)【国際公開番号】W WO2020255984
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2019111915
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴文
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 勇樹
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-508377(JP,A)
【文献】特開2019-082682(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098338(WO,A1)
【文献】特開2009-204985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00-7/42
C07D 251/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシアノスチリル基を有する複素環化合物、及び溶剤を含み、前記ジシアノスチリル基を有する複素環化合物がアミド基を含む環状化合物である、レジスト下層膜形成組成物。
【請求項2】
前記ジシアノスチリル基を有する複素環化合物が、活性プロトン化合物と、エポキシ基を有する複素環化合物前駆体との反応生成物である、請求項1に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項3】
前記ジシアノスチリル基が、下記式(1):
【化25】

(式(1)中、Xはアルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表し、Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、nは0乃至4の整数を表し、*は複素環化合物への結合部分を示す)で表される、請求項1に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項4】
前記ジシアノスチリル基を有する複素環化合物が下記式(2)で表される、請求項1に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【化26】

[式(2)中、
Qは複素環化合物からm個の末端原子を取り去った基であり、
mは1乃至4の整数であり、
m個のAは、それぞれ独立に、直接結合、分岐又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至10のアルキレン基であり、アルキレン基中にエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を含んでもよく、
m個のBは、それぞれ独立に、直接結合、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
m個のR 乃至R は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、
m個のLは、それぞれ独立に、下記式(3)で表され、
【化27】

(式(3)中、Yはエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、
nは0乃至4の整数を表し、
n個のXは、それぞれ独立に、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表す)]
【請求項5】
前記複素環がトリアジントリオンである、請求項1乃至3何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項6】
前記式(2)におけるQがトリアジントリオンである、請求項4に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項7】
前記式(1)及び/又は式(3)におけるRが水素原子である、請求項3又は4に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項8】
前記式(3)におけるYがエーテル結合又はエステル結合で表される、請求項4に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項9】
前記式(2)におけるAが直接結合で表される、請求項4に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項10】
さらに架橋剤及び/又は架橋触媒を含む、請求項1乃至9何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項11】
表面に銅を含む基板上で用いられる、請求項1乃至10何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物からなる塗布膜から溶剤を除去して得たことを特徴とする、レジスト下層膜。
【請求項13】
表面に銅を含む基板上に形成された、請求項12に記載のレジスト下層膜。
【請求項14】
表面に銅を含む基板上に請求項1乃至11の何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物を塗布しベークしてレジスト下層膜を形成する工程、前記レジスト下層膜上にレジストを塗布しベークしてレジスト膜を形成する工程、前記レジスト下層膜と前記レジストで被覆された半導体基板を露光する工程、露光後の前記レジスト膜を現像し、パターニングする工程を含む、パターニングされた基板の製造方法。
【請求項15】
表面に銅を含む基板上に、請求項1乃至11の何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物からなるレジスト下層膜を形成する工程と、
前記レジスト下層膜の上にレジスト膜を形成する工程と、
レジスト膜に対する光又は電子線の照射とその後の現像によりレジストパターンを形成する工程、次いでレジストパターン間に露出したレジスト下層膜を除去する工程と、
形成された前記レジストパターン間に銅めっきを行う工程と、
レジストパターン及びその下に存在するレジスト下層膜を除去する工程と、
を含むことを特徴とする、半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記レジスト下層膜を除去する工程の少なくとも1つが、ウェット処理にて行われる、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
下記式(4)で表される、化合物。
【化28】

(式(4)中、A 乃至A は、それぞれ独立に、直接結合、置換されてもよい炭素原子数1乃至6のアルキレン基であり、
乃至B は、それぞれ独立に、直接結合、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
乃至R 12 は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、
乃至Z は、式(5):
【化29】

(式(5)中、
n個のXは、それぞれ独立に、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表し、
Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、
Yはエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
nは0乃至4の整数を表す。)
【請求項18】
エポキシ基を有する複素環化合物前駆体と、ジシアノスチリル基を有するプロトン化合物とを反応させる工程を含む、ジシアノスチリル基を有する複素環化合物の製造方法。
【請求項19】
エポキシ基を有する複素環化合物前駆体と、カルボニル基を有する活性プロトン化合物とを反応させて中間体を得る工程、及び当該中間体をシアノ化する工程を含む、ジシアノスチリル基を有する複素環化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト下層膜形成組成物、当該レジスト下層膜形成組成物から得られるレジスト下層膜、当該レジスト下層膜形成組成物を用いたパターニングされた基板の製造方法及び半導体装置の製造方法、並びにジシアノスチリル基を有する複素環化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造において、基板とその上に形成されるレジスト膜との間にレジスト下層膜を設け、所望の形状のレジストパターンを形成するリソグラフィープロセスは広く知られている。レジストパターンを形成した後にレジスト下層膜の除去と基板の加工を行うが、その工程としてはドライエッチングが主に用いられる。さらに、基板加工後に不要なレジストパターンや下地のレジスト下層膜を除去する工程においても、ドライエッチングが用いられるが、プロセス工程の簡略化や加工基板へのダメージ低減を目的として、薬液によるウェットエッチングが用いられる場合がある。
【0003】
特許文献1には、
a. 予め選択されたフェノール-もしくはカルボン酸-官能性染料と、2.0より大きく10未満であるエポキシ官能価を有するポリ(エポキシド)樹脂との染料-グラフト化ヒドロキシル-官能性オリゴマー反応生成物;該生成物は基底層のARC塗布に有効な光-吸収特性を有する;
b. メラミン、尿素、ベンゾグアナミンまたはグリコルリルから誘導されたアルキル化アミノプラスト架橋剤;
c. プロトン酸硬化触媒;および d. 低ないし中沸点アルコールを含む溶媒系;該溶媒系中、アルコールは総溶媒含量の少なくとも二十(20)重量%を占めおよびアルコールのモル比はアミノプラストの当量メチロール単位につき少なくとも4対1(4:1)である;
からなり、そして e. ポリ(エポキシド)分子から誘導されたエーテルもしくはエステル結合を有する、改良されたARC組成物であって;
該改良されたARCは、ARCsの熱硬化作用によってレジスト/ARC成分の相互混合をなくし、標的露光およびARC層厚において改善された光学濃度を提供し、ならびに高溶解度差を示す高分子量熱可塑性ARCバインダーの必要性をなくす、前記改良されたARC組成物
が開示されている。
しかしながら、10以上のエポキシ官能価を有するポリ(エポキシド)樹脂の開示はなく、複素環化合物を含むエポキシ化合物の開示もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平11-511194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レジスト下層膜上にレジストを塗布し、放射線(例えば、ArFエキシマレーザー光、KrFエキシマレーザー光、i線)を用いて露光、現像することで、所望のレジストパターンを得るため、レジスト下層膜にはレジスト溶剤によって剥離やダメージが生じないような良好なレジスト溶剤耐性が求められている。さらに、レジスト現像工程で主に用いられるレジスト現像液(アルカリ水溶液)に対しても、剥離やダメージが生じないような良好なレジスト現像液耐性が求められている。さらにレジスト下層膜は所望のレジストパターンを得るために、リソグラフィー工程で用いられる放射線に対して、下地基板からの反射を抑制し、定在波によるレジストパターンの悪化を抑制できるような反射防止性能が求められている。さらには、該レジスト下層膜をドライエッチングで除去する場合、下地基板にダメージが生じないように、ドライエッチングで速やかに除去できるようなエッチング速度の速い(高エッチングレート)レジスト下層膜が求められている。特に、レジスト下層膜を薬液によるウェットエッチングで除去する場合、レジスト下層膜にはウェットエッチング薬液に対して十分な溶解性を示し、基板から容易に除去できることが求められている。
【0006】
一方、レジスト及びレジスト下層膜を除去するためのウェットエッチング薬液としては、加工基板へのダメージを低減するために、有機溶剤が用いられる。さらに、レジスト及びレジスト下層膜の除去性を向上するために、塩基性の有機溶剤が用いられる。しかしながら、レジスト下層膜としては、主に有機溶剤であるレジスト溶剤やアルカリ水溶液であるレジスト現像液に良好な耐性を示しつつ、ウェットエッチング薬液のみに除去性、好ましくは溶解性を示すことは従来技術では限界があった。本発明の目的は、上記の課題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下を包含する。
[1] ジシアノスチリル基を有する複素環化合物、及び溶剤を含む、レジスト下層膜形成組成物。
[2] 前記ジシアノスチリル基を有する複素環化合物がアミド基を含む環状化合物である、[1]に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[3] 前記ジシアノスチリル基を有する複素環化合物が、活性プロトン化合物と、エポキシ基を有する複素環化合物前駆体との反応生成物である、[1]又は[2]に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[4] 前記ジシアノスチリル基が、下記式(1):
【化1】

(式(1)中、Xはアルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表し、Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、nは0乃至4の整数を表し、*は複素環化合物への結合部分を示す)で表される、[1]又は[2]に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[5] 前記ジシアノスチリル基を有する複素環化合物が下記式(2)で表される、[1]に記載のレジスト下層膜形成組成物。
【化2】

[式(2)中、
Qは複素環化合物からm個の末端原子を取り去った基であり、
mは1乃至4の整数であり、
m個のAは、それぞれ独立に、直接結合、分岐又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至10のアルキレン基であり、アルキレン基中にエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を含んでもよく、
m個のBは、それぞれ独立に、直接結合、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
m個のR乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、
m個のLは、それぞれ独立に、下記式(3)で表され、
【化3】

(式(3)中、Yはエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、
nは0乃至4の整数を表し、
n個のXは、それぞれ独立に、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表す)]
[6] 前記複素環がトリアジントリオンである、[1]乃至[4]何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[7] 前記式(2)におけるQがトリアジントリオンである、[5]に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[8] 前記式(1)及び/又は式(3)におけるRが水素原子である、[4]又は[5]に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[9] 前記式(3)におけるYがエーテル結合又はエステル結合で表される、[5]に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[10] 前記式(2)におけるAが直接結合で表される、[5]に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[11] さらに架橋剤及び/又は架橋触媒を含む、[1]乃至[10]何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[12] 表面に銅を含む基板上で用いられる、[1]乃至[11]何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物。
[13] [1]から[12]のいずれか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物からなる塗布膜から溶剤を除去して得たことを特徴とする、レジスト下層膜。
[14] 表面に銅を含む基板上に形成された、[13]に記載のレジスト下層膜。
[15] 表面に銅を含む基板上に[1]乃至[12]の何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物を塗布しベークしてレジスト下層膜を形成する工程、前記レジスト下層膜上にレジストを塗布しベークしてレジスト膜を形成する工程、前記レジスト下層膜と前記レジストで被覆された半導体基板を露光する工程、露光後の前記レジスト膜を現像し、パターニングする工程を含む、パターニングされた基板の製造方法。
[16] 表面に銅を含む基板上に、[1]乃至[12]の何れか1項に記載のレジスト下層膜形成組成物からなるレジスト下層膜を形成する工程と、
前記レジスト下層膜の上にレジスト膜を形成する工程と、
レジスト膜に対する光又は電子線の照射とその後の現像によりレジストパターンを形成する工程、次いでレジストパターン間に露出したレジスト下層膜を除去する工程と、
形成された前記レジストパターン間、好ましくはレジスト下層膜が除去されたレジストパターン間に銅めっきを行う工程と、
レジストパターン及びその下に存在するレジスト下層膜を除去する工程と、
を含むことを特徴とする、半導体装置の製造方法。
[17] 前記レジスト下層膜を除去する工程の少なくとも1つが、ウェット処理にて行われる、[16]に記載の製造方法。
[18] 下記式(4)で表される、化合物。
【化4】

(式(4)中、A乃至Aは、それぞれ独立に、直接結合、置換されてもよい炭素原子数1乃至6のアルキレン基であり、
乃至Bは、それぞれ独立に、直接結合、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
乃至R12は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、
乃至Zは、式(5):
【化5】

(式(5)中、
n個のXは、それぞれ独立に、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表し、
Yはエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、
nは0乃至4の整数を表す。)
[19] エポキシ基を有する複素環化合物前駆体と、ジシアノスチリル基を有するプロトン化合物とを反応させる工程を含む、ジシアノスチリル基を有する複素環化合物の製造方法。
[20] エポキシ基を有する複素環化合物前駆体と、カルボニル基を有する活性プロトン化合物とを反応させて中間体を得る工程、及び当該中間体をシアノ化する工程を含む、ジシアノスチリル基を有する複素環化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、主に有機溶剤であるレジスト溶剤やアルカリ水溶液であるレジスト現像液に良好な耐性を示しつつ、ウェットエッチング薬液のみに除去性、好ましくは溶解性を示すレジスト下層膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[レジスト下層膜形成組成物]
本発明に係るレジスト下層膜形成組成物は、ジシアノスチリル基を有する複素環化合物、及び溶剤を含む。
【0010】
[ジシアノスチリル基を有する複素環化合物]
本発明にいうジシアノスチリル基とは、下記式で表される基をいう。
【化6】

(式中、Xはアルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表し、Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、nは0乃至4の整数を表し、*は複素環化合物との結合部分を示す)
【0011】
本発明にいう複素環化合物は、有機化学において普通に用いられる用語である複素環化合物に包含されるものを意味し、特段の限定はない。例えば、フラン、チオフェン、ピロール、イミダゾール、ピラン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、インドール、プリン、キノリン、イソキノリン、クロメン、チアントレン、フェノチアジン、フェノキサジン、キサンテン、アクリジン、フェナジン、カルバゾール、ヒダントイン、トリアジン、シアヌル酸等が挙げられる。
【0012】
ジシアノスチリル基を有する複素環化合物は、アミド基を含む環状化合物であることが好ましい。また、ジシアノスチリル基を有する複素環化合物は、エポキシ基を有する複素環化合物前駆体とジシアノスチリル基を有する活性プロトン化合物との反応生成物、もしくはエポキシ基を有する複素環化合物前駆体とカルボニル基を有する活性プロトン化合物との反応中間体をシアノ化して得られる反応生成物であることが好ましい。
【0013】
本発明にいう活性プロトン化合物は、有機化学において普通に用いられる用語である活性プロトン化合物に包含されるものを意味し、特段の限定はない。
上記活性プロトン化合物としては、水酸基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物、チオール基を有する化合物、アミノ基を有する化合物及びイミド基を有する化合物が挙げられるが、水酸基またはカルボキシ基を有する化合物であることが好ましい。
【0014】
上記カルボニル基を有する活性プロトン化合物におけるカルボニル基としては、ホルミル基(アルデヒド基)及びケトン基が挙げられるが、ホルミル基であることが好ましい。
【0015】
好ましくは、ジシアノスチリル基は、下記式(1-1):
【化7】

(式(1-1)中、R乃至Rは、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、
Xはアルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基又はニトロ基を表し、
Yはエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、
nは0乃至4の整数を表し、**は複素環化合物前駆体への結合部分を示す)で表される。
【0016】
好ましくは、複素環はトリアジントリオンである。好ましくは、式(1-1)におけるRは水素原子である。好ましくは、式(1-1)におけるYはエーテル結合又はエステル結合で表される。
【0017】
好ましくは、ジシアノスチリル基を有する複素環化合物は下記式(2)で表される。
【化8】

[式(2)中、
Qは複素環化合物からm個の末端原子を取り去った基であり、
mは1乃至4の整数であり、
m個のAは、それぞれ独立に、直接結合、分岐又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至10のアルキレン基であり、アルキレン基中にエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を含んでもよく、
m個のBは、それぞれ独立に、直接結合、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
m個のR乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、
m個のLは、それぞれ独立に、下記式(3)で表され、
【化9】

(式(3)中、Yはエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、
nは0乃至4の整数を表し、
n個のXは、それぞれ独立に、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表す)]
【0018】
好ましくは、式(3)におけるQはトリアジントリオンである。好ましくは、式(3)におけるRは水素原子である。好ましくは、式(3)におけるYはエーテル結合又はエステル結合で表される。
【0019】
好ましくは、ジシアノスチリル基を有する複素環化合物は下記式(4)で表される。
【化10】

(式(4)中、A乃至A12は、それぞれ独立に、直接結合、置換されてもよい炭素原子数1乃至6のアルキレン基であり、
乃至Bは、それぞれ独立に、直接結合、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、
乃至Xは、式(5):
【化11】

(式(5)中、
n個のXは、それぞれ独立に、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を表し、
Yはエーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合を表し、
Rは水素原子、アルキル基又はアリーレン基を表し、
nは0乃至4の整数を表す。)
【0020】
上記アルキル基としては、置換基を有しても、有さなくてもよい直鎖または分岐を有するアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソノニル基、p-tert-ブチルシクロヘキシル基、n-デシル基、n-ドデシルノニル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基およびエイコシル基などが挙げられる。好ましくは炭素原子数1乃至20のアルキル基、より好ましくは炭素原子数1乃至12のアルキル基、更に好ましくは炭素原子数1乃至8のアルキル基、最も好ましくは炭素原子数1乃至4のアルキル基である。
【0021】
上記アルコキシ基としては、上記アルキル基に酸素原子が結合した基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等である。
上記アルコキシカルボニル基としては、上記アルキル基に酸素原子及びカルボニル基が結合した基が挙げられる。例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等である。
上記アルキレン基としては、上記アルキル基から更に水素原子を取り去った2価の基が挙げられる。例えば、メチレン基、エチレン基、1,3-プロピレン基、1,2-プロピレン基等である。
上記アリーレン基としては、フェニレン基、o-メチルフェニレン基、m-メチルフェニレン基、p-メチルフェニレン基、α-ナフチレン基、β-ナフチレン基、o-ビフェニリレン基、m-ビフェニリレン基、p-ビフェニリレン基、1-アントリレン基、2-アントリレン基、9-アントリレン基、1-フェナントリレン基、2-フェナントリレン基、3-フェナントリレン基、4-フェナントリレン基及び9-フェナントリレン基が挙げられる。好ましくは炭素原子数6乃至14のアリーレン基、より好ましくは炭素原子数6乃至10のアリーレン基である。
【0022】
ハロゲン原子とは、通常、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子をいう。
【0023】
本発明にいうエステル結合は、-COO-及び-OCO-を包含する。
【0024】
[ジシアノスチリル基を有する複素環化合物の調製]
上記ジシアノスチリル基を有する複素環化合物は、下記2つの方法によって得てもよい。
【0025】
(ジシアノスチリル基を有する複素環化合物の合成法1)
ジシアノスチリル基を有する活性プロトン化合物と、エポキシ基を有する複素環化合物前駆体とを、公知の任意の方法により反応させることにより得ることができる。
【0026】
ジシアノスチリル基を有する活性プロトン化合物は、カルボニル基を有する活性プロトン化合物をシアノ化することで得られる。合成スキームを例示すると下記の通りである。
【化12】
【0027】
ジシアノスチリル基を有する活性プロトン化合物とエポキシ基を有する複素環化合物前駆体と反応させる合成スキームを例示すると以下のとおりである。
【化13】
【0028】
(ジシアノスチリル基を有する複素環化合物の合成法2)
エポキシ基を有する複素環化合物前駆体と、カルボニル基を有する活性プロトン化合物とを反応させて中間体化合物を得る工程、及び当該中間体化合物を、例えば上記に示した方法でシアノ化(ジシアノ化)する工程を含む。合成スキームを例示すると以下のとおりである。
【化14】
【0029】
本願のエポキシ基を有する複素環化合物前駆体としては、例えば下記式(B-1)乃至(B-17)を例示することができるが、これらに限定されるわけではない。
【化15】
【0030】
本願でいうカルボニル基を有する活性プロトン化合物としては、例えば下記式(C-1)乃至(C-40)を例示することができるが、これらに限定されるわけではない。
【化16-1】

【化16-2】
【0031】
上記反応で用いられるエポキシ基を活性化させる触媒としては、例えばエチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイドのような第4級ホスホニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドのような第4級アンモニウム塩が挙げられる。その使用量は、通常、エポキシ基1当量に対して、0.001乃至1当量である。
【0032】
上記の反応は無溶媒でも行われるが、通常溶媒を用いて行われる。溶媒としては反応を阻害しないものであれば全て使用することができる。例えば1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類が挙げられる。
【0033】
反応温度は通常40℃乃至200℃である。反応時間は反応温度によって種々選択されるが、通常30分乃至50時間程度である。
【0034】
以上のようにして得られる化合物の重量平均分子量Mwは、通常200乃至3,000、又は500乃至2000である。
【0035】
[溶剤]
本発明に係るレジスト下層膜形成組成物の溶剤としては、上記ジシアノスチリル基を有する複素環化合物その他の成分を溶解できる溶剤であれば、特に制限なく使用することができる。特に、本発明に係るレジスト下層膜形成組成物は均一な溶液状態で用いられるものであるため、その塗布性能を考慮すると、リソグラフィー工程に一般的に使用される溶剤を併用することが推奨される。
【0036】
そのような溶剤としては、例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、メチルイソブチルカルビノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸アミル、ギ酸イソアミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸メチル、メトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メトキシプロピルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート、3-メチル-3-メトキシブチルブチレート、アセト酢酸メチル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、シクロヘキサノン、N、N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、4-メチル-2-ペンタノール、及びγ-ブチロラクトン等を挙げることができる。これらの溶剤は単独で、または二種以上の組み合わせで使用することができる。
【0037】
プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、乳酸ブチル、シクロヘキサノン等が好ましい。特にプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0038】
[架橋剤成分]
本発明のレジスト下層膜形成組成物は架橋剤成分を含むことができる。その架橋剤としては、メラミン系、置換尿素系、またはそれらのポリマー系等が挙げられる。好ましくは、少なくとも2個の架橋形成置換基を有する架橋剤であり、メトキシメチル化グリコールウリル(例えば、テトラメトキシメチルグリコールウリル)、ブトキシメチル化グリコールウリル、メトキシメチル化メラミン、ブトキシメチル化メラミン、メトキシメチル化ベンゾグワナミン、ブトキシメチル化ベンゾグワナミン、メトキシメチル化尿素、ブトキシメチル化尿素、またはメトキシメチル化チオ尿素等の化合物である。また、これらの化合物の縮合体も使用することができる。
【0039】
また、上記架橋剤としては分子内に芳香族環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環)を有する架橋形成置換基を含有する化合物を用いることができる。
【0040】
この化合物は下記式(6)の部分構造を有する化合物や、下記式(7)の繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーが挙げられる。
【化17】

上記R、R、R、及びRは水素原子又は炭素数1乃至10のアルキル基であり、na、nb、nc及びndは各々0乃至3の整数を表す。上記アルキル基は上述の例示を用いることができる。
【0041】
式(6)及び式(7)の化合物、ポリマー、オリゴマーは以下に例示される。
【化18】

【化19】
【0042】
上記化合物は旭有機材工業株式会社、本州化学工業株式会社の製品として入手することができる。例えば上記架橋剤の中で式(D-24)の化合物は旭有機材工業株式会社、商品名TM-BIP-Aとして入手することができる。
架橋剤の添加量は、使用する塗布溶媒、使用する下地基板、要求される溶液粘度、要求される膜形状などにより変動するが、全固形分に対して0.001乃至80質量%、好ましくは 0.01乃至50質量%、さらに好ましくは0.05乃至40質量%である。これら架橋剤は自己縮合による架橋反応を起こすこともあるが、本発明の上記反応生成物中に架橋性置換基が存在する場合は、それらの架橋性置換基と架橋反応を起こすことができる。
【0043】
[酸及び/又は酸発生剤]
本発明のレジスト下層膜形成組成物は酸及び/又は酸発生剤を含有することができる。
酸としては例えば、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸、ピリジニウムp-トルエンスルホン酸、ピリジニウムフェノールスルホン酸、サリチル酸、5-スルホサリチル酸、4-フェノールスルホン酸、カンファースルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、クエン酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、ナフタレンカルボン酸等が挙げられる。
酸は一種のみを使用することができ、または二種以上を組み合わせて使用することができる。配合量は全固形分に対して、通常0.0001乃至20質量%、好ましくは0.0005乃至10質量%、さらに好ましくは0.01乃至3質量%である。
【0044】
酸発生剤としては、熱酸発生剤や光酸発生剤が挙げられる。
熱酸発生剤としては、ピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸、ピリジニウムp-トルエンスルホン酸、ピリジニウムフェノールスルホン酸、2,4,4,6-テトラブロモシクロヘキサジエノン、ベンゾイントシレート、2-ニトロベンジルトシレート、その他有機スルホン酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0045】
光酸発生剤は、レジストの露光時に酸を生ずる。そのため、下層膜の酸性度の調整ができる。これは、下層膜の酸性度を上層のレジストとの酸性度に合わせるための一方法である。また、下層膜の酸性度の調整によって、上層に形成されるレジストのパターン形状の調整ができる。
本発明のレジスト下層膜形成組成物に含まれる光酸発生剤としては、オニウム塩化合物、スルホンイミド化合物、及びジスルホニルジアゾメタン化合物等が挙げられる。
【0046】
オニウム塩化合物としてはジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフエート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムノナフルオロノルマルブタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムパーフルオロノルマルオクタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムカンファースルホネート、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムカンファースルホネート及びビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート等のヨードニウム塩化合物、及びトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロノルマルブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムカンファースルホネート及びトリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート等のスルホニウム塩化合物等が挙げられる。
【0047】
スルホンイミド化合物としては、例えばN-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(ノナフルオロノルマルブタンスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(カンファースルホニルオキシ)スクシンイミド及びN-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ナフタルイミド等が挙げられる。
【0048】
ジスルホニルジアゾメタン化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p-トルエンスルホニル)ジアゾメタン、ビス(2,4-ジメチルベンゼンスルホニル)ジアゾメタン、及びメチルスルホニル-p-トルエンスルホニルジアゾメタン等が挙げられる。
【0049】
酸発生剤は一種のみを使用することができ、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
酸発生剤が使用される場合、その割合としては、レジスト下層膜形成組成物の固形分100質量部に対して、通常0.0001乃至20質量%、好ましくは0.0005乃至10質量%、さらに好ましくは0.01乃至3質量%である。
【0050】
[その他の成分]
本発明のレジスト下層膜形成組成物には、ピンホールやストレーション等の発生がなく、表面むらに対する塗布性をさらに向上させるために、界面活性剤を配合することができる。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、エフトップEF301、EF303、EF352(株式会社トーケムプロダクツ製、商品名)、メガファックF171、F173、R-40、R-40N、R-40LM(DIC株式会社製、商品名)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム株式会社製、商品名)、アサヒガードAG710、サーフロンS-382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子株式会社製、商品名)等のフッ素系界面活性剤、オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業株式会社製)等を挙げることができる。これらの界面活性剤の配合量は、レジスト下層膜材料の全固形分に対して通常2.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以下である。これらの界面活性剤は単独で使用してもよいし、また二種以上の組み合わせで使用することもできる。界面活性剤が使用される場合、その割合としては、レジスト下層膜形成組成物の固形分100質量部に対して0.0001乃至5質量部、または0.001乃至1質量部、または0.01乃至0.5質量部である。
【0051】
本発明のレジスト下層膜形成組成物には、吸光剤、レオロジー調整剤、接着補助剤などを添加することができる。レオロジー調整剤は、下層膜形成組成物の流動性を向上させるのに有効である。接着補助剤は、半導体基板またはレジストと下層膜の密着性を向上させるのに有効である。
【0052】
吸光剤としては例えば、「工業用色素の技術と市場」(CMC出版)や「染料便覧」(有機合成化学協会編)に記載の市販の吸光剤、例えば、C.I.Disperse Yellow 1,3,4,5,7,8,13,23,31,49,50,51,54,60,64,66,68,79,82,88,90,93,102,114及び124;C.I.Disperse Orange1,5,13,25,29,30,31,44,57,72及び73;C.I.Disperse Red 1,5,7,13,17,19,43,50,54,58,65,72,73,88,117,137,143,199及び210;C.I.Disperse Violet 43;C.I.Disperse Blue 96;C.I.Fluorescent Brightening Agent 112,135及び163;C.I.Solvent Orange2及び45;C.I.Solvent Red 1,3,8,23,24,25,27及び49;C.I.Pigment Green 10;C.I.Pigment Brown 2等を好適に用いることができる。上記吸光剤は通常、レジスト下層膜形成組成物の全固形分に対して10質量%以下、好ましくは5質量%以下の割合で配合される。
【0053】
レオロジー調整剤は、主にレジスト下層膜形成組成物の流動性を向上させ、特にベーキング工程において、レジスト下層膜の膜厚均一性の向上やホール内部へのレジスト下層膜形成組成物の充填性を高める目的で添加される。具体例としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ブチルイソデシルフタレート等のフタル酸誘導体、ジノルマルブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジイソオクチルアジペート、オクチルデシルアジペート等のアジピン酸誘導体、ジノルマルブチルマレート、ジエチルマレート、ジノニルマレート等のマレイン酸誘導体、メチルオレート、ブチルオレート、テトラヒドロフルフリルオレート等のオレイン酸誘導体、またはノルマルブチルステアレート、グリセリルステアレート等のステアリン酸誘導体を挙げることができる。これらのレオロジー調整剤は、レジスト下層膜形成組成物の全固形分に対して通常30質量%未満の割合で配合される。
【0054】
接着補助剤は、主に基板あるいはレジストとレジスト下層膜形成組成物の密着性を向上させ、特に現像においてレジストが剥離しないようにするための目的で添加される。具体例としては、トリメチルクロロシラン、ジメチルメチロールクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン等のクロロシラン類、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルメチロールエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン、N,N’-ビス(トリメチルシリル)ウレア、ジメチルトリメチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾール等のシラザン類、メチロールトリクロロシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン類、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、インダゾール、イミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、ウラゾール、チオウラシル、メルカプトイミダゾール、メルカプトピリミジン等の複素環式化合物や、1,1-ジメチルウレア、1,3-ジメチルウレア等の尿素、またはチオ尿素化合物を挙げることができる。これらの接着補助剤は、レジスト下層膜形成組成物の全固形分に対して通常5質量%未満、好ましくは2質量%未満の割合で配合される。
【0055】
本発明に係るレジスト下層膜形成組成物の固形分は通常0.1乃至70質量%、好ましくは0.1乃至60質量%とする。固形分はレジスト下層膜形成組成物から溶剤を除いた全成分の含有割合である。固形分中における上記反応生成物の割合は、1乃至100質量%、1乃至99.9質量%、50乃至99.9質量%、50乃至95質量%、50乃至90質量%の順で好ましい。
【0056】
レジスト下層膜形成組成物が均一な溶液状態であるかどうかを評価する尺度の一つは、特定のマイクロフィルターの通過性を観察することであるが、本発明に係るレジスト下層膜形成組成物は、孔径0.1μmのマイクロフィルターを通過し、均一な溶液状態を呈する。
【0057】
上記マイクロフィルター材質としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などのフッ素系樹脂、PE(ポリエチレン)、UPE(超高分子量ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PSF(ポリスルフォン)、PES(ポリエーテルスルホン)、ナイロンが挙げられるが、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製であることが好ましい。
【0058】
[基板]
本発明において、半導体装置の製造に使用される基板には、例えば、シリコンウエハー基板、シリコン/二酸化シリコン被覆基板、シリコンナイトライド基板、ガラス基板、ITO基板、ポリイミド基板、及び低誘電率材料(low-k材料)被覆基板等が包含される。
なお、最近は、半導体製造工程の三次元実装分野において、半導体チップ間の配線長短縮化による高速応答性、省電力化を目的にFOWLPプロセスが適用され始めている。半導体チップ間の配線を作成するRDL(再配線)工程では、配線部材として銅(Cu)が使用され、銅配線が微細化するにしたがい、反射防止膜(レジスト下層膜形成組成物)を適用する必要がある。本発明に係るレジスト下層膜形成組成物は、表面に銅を含む基板にも好適に適用することができる。
【0059】
[レジスト下層膜及び半導体装置の製造方法]
以下、本発明に係るレジスト下層膜形成組成物を用いたレジスト下層膜及び半導体装置の製造方法について説明する。
【0060】
上記した半導体装置の製造に使用される基板(例えば、表面に銅を含む基板)の上に、スピナー、コーター等の適当な塗布方法により本発明のレジスト下層膜形成組成物が塗布され、その後、焼成することによりレジスト下層膜が形成される。
焼成する条件としては、焼成温度80℃乃至400℃、焼成時間0.3乃至60分間の中から適宜、選択される。好ましくは、焼成温度150℃乃至350℃、焼成時間0.5乃至2分間である。ここで、形成される下層膜の膜厚としては、例えば、10乃至1000nmであり、または20乃至500nmであり、または30乃至400nmであり、または50乃至300nmである。
【0061】
また、本発明に係る有機レジスト下層膜上に無機レジスト下層膜(ハードマスク)を形成することもできる。例えば、WO2009/104552A1に記載のシリコン含有レジスト下層膜(無機レジスト下層膜)形成組成物をスピンコートで形成する方法の他、Si系の無機材料膜をCVD法などで形成することができる。
【0062】
次いでそのレジスト下層膜の上にレジスト膜、例えばフォトレジストの層が形成される。フォトレジストの層の形成は、レジスト下層膜形成組成物からなる塗布膜から溶剤を除去する周知の方法、すなわち、フォトレジスト組成物溶液の下層膜上への塗布及び焼成によって行なうことができる。フォトレジストの膜厚としては例えば50乃至10000nmであり、または100乃至2000nmである。
【0063】
レジスト下層膜の上に形成されるフォトレジストとしては露光に使用される光に感光するものであれば特に限定はない。ネガ型フォトレジスト及びポジ型フォトレジストのいずれも使用できる。ノボラック樹脂と1,2-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステルとからなるポジ型フォトレジスト、酸により分解してアルカリ溶解速度を上昇させる基を有するバインダーと光酸発生剤からなる化学増幅型フォトレジスト、酸により分解してフォトレジストのアルカリ溶解速度を上昇させる低分子化合物とアルカリ可溶性バインダーと光酸発生剤とからなる化学増幅型フォトレジスト、及び酸により分解してアルカリ溶解速度を上昇させる基を有するバインダーと酸により分解してフォトレジストのアルカリ溶解速度を上昇させる低分子化合物と光酸発生剤からなる化学増幅型フォトレジストなどがある。例えば、シプレー社製商品名APEX-E、住友化学工業株式会社製商品名PAR710、及び信越化学工業株式会社製商品名SEPR430等が挙げられる。また、例えば、Proc.SPIE,Vol.3999,330-334(2000)、Proc.SPIE,Vol.3999,357-364(2000)、やProc.SPIE,Vol.3999,365-374(2000)に記載されているような、含フッ素原子ポリマー系フォトレジストを挙げることができる。
【0064】
次に、光又は電子線の照射と現像によりレジストパターンを形成する。まず、所定のマスクを通して露光が行なわれる。露光には、近紫外線、遠紫外線、又は極端紫外線(例えば、EUV(波長13.5nm))等が用いられる。具体的には、i線(波長365nm)、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)及びFエキシマレーザー(波長157nm)等を使用することができる。これらの中でも、i線(波長365nm)が好ましい。露光後、必要に応じて露光後加熱(post exposure bake)を行なうこともできる。露光後加熱は、加熱温度70℃乃至150℃、加熱時間0.3乃至10分間から適宜、選択された条件で行われる。
【0065】
また、本発明ではレジストとしてフォトレジストに変えて電子線リソグラフィー用レジストを用いることができる。電子線レジストとしてはネガ型、ポジ型いずれも使用できる。酸発生剤と酸により分解してアルカリ溶解速度を変化させる基を有するバインダーからなる化学増幅型レジスト、アルカリ可溶性バインダーと酸発生剤と酸により分解してレジストのアルカリ溶解速度を変化させる低分子化合物からなる化学増幅型レジスト、酸発生剤と酸により分解してアルカリ溶解速度を変化させる基を有するバインダーと酸により分解してレジストのアルカリ溶解速度を変化させる低分子化合物からなる化学増幅型レジスト、電子線によって分解してアルカリ溶解速度を変化させる基を有するバインダーからなる非化学増幅型レジスト、電子線によって切断されアルカリ溶解速度を変化させる部位を有するバインダーからなる非化学増幅型レジストなどがある。これらの電子線レジストを用いた場合も照射源を電子線としてフォトレジストを用いた場合と同様にレジストパターンを形成することができる。
【0066】
次いで、現像液によって現像が行なわれる。これにより、例えばポジ型フォトレジストが使用された場合は、露光された部分のフォトレジストが除去され、フォトレジストのパターンが形成される。
現像液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、コリンなどの水酸化四級アンモニウムの水溶液、エタノールアミン、プロピルアミン、エチレンジアミンなどのアミン水溶液等のアルカリ性水溶液を例として挙げることができる。さらに、これらの現像液に界面活性剤などを加えることもできる。現像の条件としては、温度5乃至50℃、時間10乃至600秒から適宜選択される。
【0067】
本発明では基板上に有機下層膜(下層)を成膜した後、その上に無機下層膜(中間層)を成膜し、更にその上にフォトレジスト(上層)を被覆することができる。これによりフォトレジストのパターン幅が狭くなり、パターン倒れを防ぐためにフォトレジストを薄く被覆した場合でも、適切なエッチングガスを選択することにより基板の加工が可能になる。例えば、フォトレジストに対して十分に早いエッチング速度となるフッ素系ガスをエッチングガスとしてレジスト下層膜に加工が可能であり、また無機下層膜に対して十分に早いエッチング速度となるフッ素系ガスをエッチングガスとして基板の加工が可能であり、更に有機下層膜に対して十分に早いエッチング速度となる酸素系ガスをエッチングガスとして基板の加工を行うことができる。
【0068】
そして、このようにして形成されたフォトレジストのパターンを保護膜として無機下層膜の除去が行われ、次いでパターン化されたフォトレジスト及び無機下層膜からなる膜を保護膜として、有機下層膜の除去が行われる。最後に、パターン化された無機下層膜及び有機下層膜を保護膜として、半導体基板の加工が行なわれる。
【0069】
まず、フォトレジストが除去された部分の無機下層膜をドライエッチングによって取り除き、半導体基板を露出させる。無機下層膜のドライエッチングにはテトラフルオロメタン(CF)、パーフルオロシクロブタン(C)、パーフルオロプロパン(C)、トリフルオロメタン、一酸化炭素、アルゴン、酸素、窒素、六フッ化硫黄、ジフルオロメタン、三フッ化窒素及び三フッ化塩素、塩素、トリクロロボラン及びジクロロボラン等のガスを使用することができる。無機下層膜のドライエッチングにはハロゲン系ガスを使用することが好ましく、フッ素系ガスによることがより好ましい。フッ素系ガスとしては、例えば、テトラフルオロメタン(CF)、パーフルオロシクロブタン(C)、パーフルオロプロパン(C)、トリフルオロメタン、及びジフルオロメタン(CH)等が挙げられる。
【0070】
その後、パターン化されたフォトレジスト及び無機下層膜からなる膜を保護膜として有機下層膜の除去が行われる。
シリコン原子を多く含む無機下層膜は、酸素系ガスによるドライエッチングでは除去されにくいため、有機下層膜の除去はしばしば酸素系ガスによるドライエッチングによって行なわれる。
【0071】
最後に、半導体基板の加工が行なわれる。半導体基板の加工はフッ素系ガスによるドライエッチングによって行なわれることが好ましい。
フッ素系ガスとしては、例えば、テトラフルオロメタン(CF)、パーフルオロシクロブタン(C)、パーフルオロプロパン(C)、トリフルオロメタン、及びジフルオロメタン(CH)等が挙げられる。
【0072】
また、レジスト下層膜の上層には、フォトレジストの形成前に有機系の反射防止膜を形成することができる。そこで使用される反射防止膜組成物としては特に制限はなく、これまでリソグラフィープロセスにおいて慣用されているものの中から任意に選択して使用することができ、また、慣用されている方法、例えば、スピナー、コーターによる塗布及び焼成によって反射防止膜の形成を行なうことができる。
【0073】
レジスト下層膜形成組成物より形成されるレジスト下層膜は、また、リソグラフィープロセスにおいて使用される光の波長によっては、その光に対する吸収を有することがある。そして、そのような場合には、基板からの反射光を防止する効果を有する反射防止膜として機能することができる。さらに、本発明のレジスト下層膜形成組成物で形成された下層膜はハードマスクとしても機能し得るものである。本発明の下層膜は、基板とフォトレジストとの相互作用の防止するための層、フォトレジストに用いられる材料又はフォトレジストへの露光時に生成する物質の基板への悪作用を防ぐ機能とを有する層、加熱焼成時に基板から生成する物質の上層フォトレジストへの拡散を防ぐ機能を有する層、及び半導体基板誘電体層によるフォトレジスト層のポイズニング効果を減少させるためのバリア層等として使用することも可能である。
【0074】
また、レジスト下層膜形成組成物より形成される下層膜は、デュアルダマシンプロセスで用いられるビアホールが形成された基板に適用され、ホールを隙間なく充填することができる埋め込み材として使用できる。また、凹凸のある半導体基板の表面を平坦化するための平坦化材として使用することもできる。
【0075】
一方、プロセス工程の簡略化や基板ダメージ低減、コスト削減を目的にドライエッチング除去に代え、薬液を用いたウェットエッチング除去による手法も検討されている。しかしながら、従来のレジスト下層膜形成組成物からのレジスト下層膜は、元来、レジスト塗布時にレジストとのミキシングを抑制するため、溶剤耐性を有する硬化膜とする必要がある。また、レジストパターニング時には、レジストを解像するために現像液を用いる必要があるが、この現像液にも耐性が必要不可欠となる。したがって、硬化膜が、レジスト溶剤や現像液に不溶性でウェットエッチング液のみに可溶性を持たせることは、従来の技術では難しかった。しかし、本発明に係るレジスト下層膜形成組成物によれば、このようなウェットエッチング液でエッチング(除去)可能なレジスト下層膜を提供することができる。
【0076】
ウェットエッチング液としては、例えば、有機溶媒を含むことが好ましく、酸性化合物または塩基性化合物を含んでもよい。有機溶剤としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。酸性化合物としては、無機酸もしくは有機酸が挙げられ、無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられ、有機酸としては、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、サリチル酸、5-スルホサリチル酸、4-フェノールスルホン酸、カンファースルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、ナフタレンカルボン酸等が挙げられる。また、塩基性化合物としては、無機塩基もしくは有機塩基が挙げられ、無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、コリンなどの水酸化四級アンモニウム、エタノールアミン、プロピルアミン、ジエチルアミノエタノール、エチレンジアミンなどのアミンを挙げることができる。さらに、前記ウェットエッチング液は有機溶媒を一種のみを使用することができ、または二種以上を組み合わせて使用することができる。また、酸性化合物または塩基性化合物を一種のみを使用することができ、または二種以上を組み合わせて使用することができる。酸性化合物または塩基性化合物の配合量はウェットエッチング液に対して、0.01乃至20重量%であり、好ましくは0.1乃至5重量%であり、特に好ましくは、0.2乃至1重量%である。また、ウェットエッチング液として好ましくは、塩基性化合物を含む有機溶媒であり、特に好ましくはジメチルスルホキシドと水酸化テトラメチルアンモニウムを含む混合液である。
【0077】
なお、最近は、半導体製造工程の三次元実装分野において、FOWLP(Fan-Out Wafer Level Package)プロセスが適用され始めており、銅配線を形成するRDL(再配線)工程において、レジスト下層膜を適用することができる。
代表的なRDL工程においては、以下に説明されるがこの限りではない。まず、半導体チップ上に感光性絶縁膜を成膜させた後、光照射(露光)と現像によるパターニングを行うことで、半導体チップ電極部を開口させる。続いて、配線部材となる銅配線をめっき工程によって形成するための銅のシード層をスパッタリングによって成膜する。さらに、レジスト下層膜とフォトレジスト層を順に成膜した後、光照射と現像を行い、レジストのパターニングを行う。不要なレジスト下層膜はドライエッチングによって除去され、露出したレジストパターン間の銅シード層上に電解銅めっきを行い、第一の配線層となる銅配線を形成する。さらに、不要なレジスト及びレジスト下層膜及び銅シード層をドライエッチングまたはウェットエッチングまたはその両方によって除去する。さらに、形成した銅配線層を再び絶縁膜で被覆した後、銅シード層、レジスト下層膜、レジストの順で成膜し、レジストパターニング、レジスト下層膜除去、銅めっきを行うことにより、第二の銅配線層を形成する。この工程を繰り返して、目的の銅配線を形成させた後、電極取り出し用のバンプを形成させる。
本発明に係るレジスト下層膜形成組成物は、レジスト下層膜をウェットエッチングで除去することが可能であるため、このようなRDL工程におけるレジスト下層膜として、プロセス工程の簡略化や加工基板へのダメージ低減の観点から、特に好適に用いることができる。
【実施例
【0078】
次に実施例を挙げ本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
下記合成例で得られたポリマーの重量平均分子量の測定に用いた装置等を示す。
装置:東ソー株式会社製HLC-8320GPC
GPCカラム:Shodex〔登録商標〕・Asahipak〔登録商標〕(昭和電工(株))
カラム温度:40℃
流量:0.35mL/分
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
標準試料:ポリスチレン(東ソー株式会社)
【0080】
<合成例1>
トリアジン型エポキシ化合物(製品名:TEPIC、日産化学株式会社製、エポキシ官能価:10.03eq./kg)10.00g、4-ヒドロキシベンズアルデヒド12.25g、テトラブチルホスホニウムブロマイド0.85g、プロピレングリコールモノメチルエーテル53.90gを反応フラスコに加え、窒素雰囲気下、23時間加熱還流した。続いて、マロノニトリル6.63gをプロピレングリコールモノメチルエーテル15.46gに溶解させた溶液を系内に加え、さらに5時間加熱還流した。得られた反応生成物は式(A-1)に相当し、GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは800であった。
【0081】
【化20】
【0082】
<合成例2>
トリアジン型エポキシ化合物(製品名:TEPIC、日産化学株式会社製、エポキシ官能価:10.03eq./kg)9.00g、4-ヒドロキシベンズアルデヒド5.51g、テレフタルアルデヒド酸6.78g、テトラブチルホスホニウムブロマイド1.53g、プロピレングリコールモノメチルエーテル34.23gを反応フラスコに加え、窒素雰囲気下、23時間加熱還流した。続いて、マロノニトリル5.96gをプロピレングリコールモノメチルエーテル32.93gに溶解させた溶液を系内に加え、さらに4時間加熱還流した。得られた反応生成物は式(A-2)に相当し、GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは900であった。
【0083】
【化21】
【0084】
<比較合成例1>
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(製品名:DEN、ダウ・ケミカル社製、エポキシ官能価:5.55eq./kg)15.00g、4-ヒドロキシベンズアルデヒド10.17g、テトラブチルホスホニウムブロマイド1.41g、プロピレングリコールモノメチルエーテル39.87gを反応フラスコに加え、窒素雰囲気下、24時間加熱還流した。続いて、マロノニトリル5.50gをプロピレングリコールモノメチルエーテル34.99gに溶解させた溶液を系内に加え、さらに4時間加熱還流した。得られた反応生成物は式(A-3)に相当し、GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは2100であった。
【0085】
【化22】
【0086】
<比較合成例2>
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(製品名:DEN、ダウ・ケミカル社製、エポキシ官能価:5.55eq./kg)12.00g、4-ヒドロキシベンズアルデヒド4.07g、テレフタルアルデヒド酸5.00g、テトラブチルホスホニウムブロマイド1.13g、プロピレングリコールモノメチルエーテル33.30gを反応フラスコに加え、窒素雰囲気下、23時間加熱還流した。続いて、マロノニトリル4.40gをプロピレングリコールモノメチルエーテル28.77gに溶解させた溶液を系内に加え、さらに4時間加熱還流した。得られた反応生成物は式(A-4)に相当し、GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは2400であった。
【0087】
【化23】
【0088】
<比較合成例3>
シクロヘキサン型エポキシ樹脂(製品名:EHPE3150、ダイセル株式会社製、エポキシ官能価:5.99eq./kg)12.00g、4-ヒドロキシベンズアルデヒド4.39g、テレフタルアルデヒド酸5.40g、テトラブチルホスホニウムブロマイド1.22g、プロピレングリコールモノメチルエーテル34.50gを反応フラスコに加え、窒素雰囲気下、23時間加熱還流した。さらに、マロノニトリル4.75gをプロピレングリコールモノメチルエーテル30.25gに溶解させた溶液を系内に加え、続いて4時間加熱還流した。得られた反応生成物は式(A-5)に相当し、GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは5400であった。
【0089】
【化24】
【0090】
<実施例1>
前記式(A-1)に相当する反応生成物の溶液(固形分は25.8重量%)6.72gに、架橋剤としてテトラメトキシメチルグリコールウリル0.35g、架橋触媒としてピリジニウム-p-トルエンスルホナート0.02g、プロピレングリコールモノメチルエーテル14.54g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0091】
<実施例2>
前記式(A-2)に相当する反応生成物の溶液(固形分は23.9重量%)7.56gに、架橋剤としてテトラメトキシメチルグリコールウリル0.27g、架橋触媒としてピリジニウム-p-トルエンスルホナート0.02g、プロピレングリコールモノメチルエーテル13.78g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0092】
<実施例3>
前記式(A-2)に相当する反応生成物の溶液(固形分は23.9重量%)6.96gに、架橋剤として3,3’,5,5’-テトラキス(メトキシメチル)-4,4’-ジヒドロキシビフェニル(製品名:TMOM-BP、本州化学工業株式会社製)0.42g、架橋触媒としてピリジニウム-p-トルエンスルホナート0.02g、プロピレングリコールモノメチルエーテル14.23g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0093】
<実施例4>
前記式(A-2)に相当する反応生成物の溶液(固形分は23.9重量%)8.20gに、架橋触媒としてピリジニウム-トリフルオロメタンスルホナート0.14g、プロピレングリコールモノメチルエーテル13.29g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0094】
<比較例1>
前記式(A-3)に相当する反応生成物の溶液(固形分は22.9重量%)7.58gに、架橋剤としてテトラメトキシメチルグリコールウリル0.35g、架橋触媒としてピリジニウム-p-トルエンスルホナート0.02g、プロピレングリコールモノメチルエーテル13.69g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0095】
<比較例2>
前記式(A-4)に相当する反応生成物の溶液(固形分は22.7重量%)7.98gに、架橋剤としてテトラメトキシメチルグリコールウリル0.27g、架橋触媒としてピリジニウム-p-トルエンスルホナート0.02g、プロピレングリコールモノメチルエーテル13.36g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0096】
<比較例3>
前記式(A-4)に相当する反応生成物の溶液(固形分は22.7重量%)7.35gに、架橋剤として3,3’,5,5’-テトラキス(メトキシメチル)-4,4’-ジヒドロキシビフェニル(製品名:TMOM-BP、本州化学工業株式会社製)0.42g、架橋触媒としてピリジニウム-p-トルエンスルホナート0.02g、プロピレングリコールモノメチルエーテル13.85g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0097】
<比較例4>
前記式(A-4)に相当する反応生成物の溶液(固形分は22.7重量%)8.81gに、架橋触媒としてピリジニウム-トリフルオロメタンスルホナート0.10g、プロピレングリコールモノメチルエーテル12.72g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0098】
<比較例5>
前記式(A-5)に相当する反応生成物の溶液(固形分は22.3重量%)8.12gに、架橋剤としてテトラメトキシメチルグリコールウリル0.27g、架橋触媒としてピリジニウム-p-トルエンスルホナート0.02g、プロピレングリコールモノメチルエーテル13.22g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート8.37gを加え、レジスト下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0099】
〔光学定数の評価〕
光学定数の評価として、実施例1乃至実施例4で調製されたリソグラフィー用レジスト下層膜形成組成物を膜厚50nm程度となるように、スピンコーターにてシリコンウェハー上に塗布し、ホットプレート上で200℃、90秒間ベーク(焼成)した。得られたレジスト下層膜を分光エリプソメーター(VUV-VASE、J.A.Woolam製)を用い、波長193nm(ArFエキシマレーザー光波長)、248nm(KrFエキシマレーザー光波長)及び365nm(i線波長)におけるn値(屈折率)及びk値(減衰係数)を測定した。その結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
実施例1乃至実施例4では193nm、248nm及び365nmに適度なn値及びk値を有している。上記の結果から、実施例1乃至実施例4によって得られたレジスト下層膜形成組成物から得られた塗布膜は、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、i線等の放射線を用いたリソグラフィー工程において、好ましくないレジストパターンの要因となる下地基板からの反射(定在波)を抑制できる反射防止機能を有する。したがって、レジスト下層膜として有用である。
【0102】
[エッチング選択比の評価]
エッチング選択比の評価として、実施例1乃至実施例4及び比較例1乃至比較例5で調製されたリソグラフィー用レジスト下層膜形成組成物を、膜厚170nm程度となるように、スピンコーターにてシリコンウェハー上に塗布し、ホットプレート上で200℃、90秒間ベーク(焼成)した。得られた塗布膜を、ドライエッチング装置(製品名:RIE-10NR、サムコ株式会社製)を用い、CFガスによるドライエッチングを行うことで、レジスト下層膜のドライエッチング速度の比(ドライエッチング速度の選択比)を測定した。エッチング選択比の測定結果を表2に示す。尚、エッチング選択比が大きくなるほど、ドライエッチング速度が速いと言える。
【0103】
【表2】
【0104】
上記の結果から、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物は、比較例1及び比較例5のレジスト下層膜組成物と比較して、エッチング選択比が高いため、ドライエッチング速度が速いと言える。すなわち、レジスト下層膜のドライエッチング時のエッチング時間を短縮することが可能であり、レジスト下層膜をドライエッチングで除去する際に、レジスト膜厚が減少する好ましくない現象を抑制できる。さらに、ドライエッチング時間を短縮できることは、レジスト下層膜の下地基板に対して好ましくないエッチングダメージを低減することができるため、レジスト下層膜として特に有用である。
【0105】
[レジスト溶剤に対する除去性試験]
レジスト溶剤(有機溶剤)に対する除去性評価として、実施例1乃至実施例4で調製されたレジスト下層膜形成組成物を100nm膜厚の銅基板上に塗布し、200℃、90秒間加熱することで、膜厚170nmとなるようにレジスト下層膜を成膜した。次に、前記レジスト下層膜組成物を塗布した銅基板を、一般的なレジスト溶剤であるプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)またはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に室温で1分間浸漬し、浸漬後における塗布膜の除去性を目視にて観察した。その結果を表3に示す。尚、塗布膜が除去された場合は、レジスト溶剤(有機溶剤)に対する耐性を持たないものと判断し、除去されない場合は耐性を持つものと判断した。
【0106】
【表3】
【0107】
上記の結果から、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物において、銅基板上での塗布膜はPGME及びPGMEAに対して除去(剥離)されなかったことより、これら有機溶剤(レジスト溶剤)に対して良好な薬液耐性を有していると言える。すなわち、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物から得られた塗布膜は、レジスト溶剤による好ましくない剥離現象を抑制することができるため、レジスト下層膜として有用である。
【0108】
[レジスト現像液に対する除去性試験]
レジスト現像液(アルカリ水溶液)への除去性評価として、実施例1乃至実施例6で調製されたレジスト下層膜形成組成物を100nm膜厚の銅基板上に塗布し、200℃、90秒間加熱することで、膜厚170nmとなるようにレジスト下層膜を成膜した。次に、前記レジスト下層膜組成物を塗布した銅基板を、アルカリ水溶液である2.38重量%水酸化テトラメチルアンモニウム(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド:TMAH)水溶液(製品名:NMD-3、東京応化工業株式会社製)中に室温で1分間浸漬し、浸漬後における塗布膜の除去性を目視にて観察した。その結果を表4に示す。尚、塗布膜が除去された場合は、レジスト現像液(アルカリ水溶液)に対する耐性を持たないものと判断し、除去されなかった場合は耐性を持つものと判断した。
【0109】
【表4】
【0110】
上記の結果から、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物において、銅基板上での塗布膜はTMAH水溶液に対して除去(剥離)されなかったことより、レジスト現像液(アルカリ水溶液)に対して良好な薬液耐性を有していると言える。すなわち、実施例1乃至実施例6のレジスト下層膜組成物から得られた塗布膜は、レジスト現像液によって好ましくない剥離現象が起こらないため、アルカリ水溶液での現像工程を必要とするレジスト下層膜として有用である。
【0111】
[ウェットエッチング薬液への除去性試験]
ウェットエッチング薬液(塩基性有機溶剤)への除去性評価として、実施例1乃至実施例4及び比較例1、比較例3及び比較例5で調製されたレジスト下層膜形成組成物を100nm膜厚の銅基板上に塗布し、200℃、90秒間加熱することで、膜厚170nmとなるようにレジスト下層膜を成膜した。次に、前記レジスト下層膜組成物を塗布した銅基板を塩基性有機溶剤である0.5重量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のジメチルスルホキシド溶液中に50℃で5分間浸漬し、浸漬後における塗布膜の除去性を目視にて観察した。その結果を表5に示す。尚、塗布膜が除去された場合は、塩基性有機溶剤に対して良好な除去性(剥離性)を持つものと判断し、除去されない場合は良好な除去性(剥離性)を持たないものと判断した。
【0112】
【表5】
【0113】
上記の結果から、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物は、比較例1、比較例3及び比較例5のレジスト下層膜組成物と比較して、銅基板上での塗布膜はウェットエッチング薬液(塩基性有機溶剤)に対して十分な除去性が得られた。すなわち、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物から得られた塗布膜はウェットエッチング薬液に対して、良好な除去性(剥離性)を示すことができるため、レジスト下層膜をウェットエッチング薬液で除去する半導体製造工程において有用である。
【0114】
[ウェットエッチング薬液への溶解性試験]
ウェットエッチング薬液(塩基性有機溶剤)への溶解性評価として、実施例1乃至実施例4及び比較例1及至比較例5で調製されたレジスト下層膜形成組成物をシリコンウェハー基板上に塗布し、200℃、90秒間加熱することで、膜厚170nmとなるようにレジスト下層膜を成膜した。次に、成膜された前記レジスト下層膜を基板から剥離し、得られた塗布膜を塩基性有機溶剤である0.5重量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のジメチルスルホキシド溶液中に50℃で5分間浸漬し、浸漬後における塗布膜の溶解性を目視にて観察した。その結果を表6に示す。尚、塗布膜が溶解した場合は、ウェットエッチング薬液に対して良好な溶解性を持つものと判断し、溶解しなかった場合(不溶)は良好な溶解性を持たないものと判断した。
【0115】
【表6】
【0116】
上記の結果から、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物は、比較例1乃至比較例5のレジスト下層膜組成物と比較して、塗布膜はウェットエッチング薬液(塩基性有機溶剤)に対して十分な溶解性が得られた。すなわち、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物から得られた塗布膜はウェットエッチング薬液に対して良好な溶解性を示すため、レジスト下層膜をウェットエッチング薬液で除去する半導体製造工程において有用である。特に、実施例1乃至実施例4のレジスト下層膜組成物から得られる塗布膜は、ウェットエッチング薬液で除去できるだけでなく、十分な溶解性も示すことから、異物(ディフェクト)となる除去された膜(剥離膜)が薬液中に不均一に分散することによって生じる好ましくない薬液の汚染を防止することが可能であるため、レジスト下層膜としてより有用である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、主に有機溶剤であるレジスト溶剤やアルカリ水溶液であるレジスト現像液に良好な耐性を示しつつ、ウェットエッチング薬液のみに除去性、好ましくは溶解性を示すレジスト下層膜を提供することができる。